説明

硬化層形成方法および硬化層形成装置

【課題】ねじ部を有する小物部品を大量に一括して処理し、安定かつ均一な硬化層を形成することが可能な硬化層形成方法、およびこの方法に用いられる硬化層形成装置を提供する。
【解決手段】 真空チャンバ2内に備えられた金属製の回転容器3内にねじ部を有する小物部品を複数個収容して減圧した後、炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを供給して、このガス雰囲気中で回転容器3に陰極電圧を印加してプラズマ放電を行う一方、回転容器3を回転させながら、この回転容器3近傍に備えられたヒータ5を用いて回転容器内の温度を350℃から550℃の範囲内に加熱することにより、前記小物部品の表面に硬化層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ部を有する金属製の小物部品の表面に硬化層を形成する硬化層形成方法、およびこの方法に用いられる硬化層形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄鋼材料や各種合金などからなる被処理物の表面の硬化や耐食性を向上させることを目的として、種々の改質処理が行われている。
【0003】
これらの改質処理のうち、近年ではプラズマを媒体として利用するプラズマ浸炭処理やプラズマ窒化処理が、省資源や省エネルギーなどの観点から着目されている。
【0004】
一般的なプラズマ浸炭処理やプラズマ窒化処理では、減圧した処理ガス雰囲気中で、陰極電極上に載置した被処理物と、陽極との間に生じるグロー放電を利用している。
【0005】
ところで、小型の被処理物に対してプラズマ浸炭処理やプラズマ窒化処理を行う場合、効率を良くするためには、一度に大量の被処理物を処理する必要がある。
【0006】
しかし、複数個の被処理物に対して均質で安定的な処理を行うためには、被処理物の間隔を互いにあけた状態で陰極電極上に被処理物を載置する必要があり、被処理物を載置するための治具が必要となる。このため、被処理物を治具にセットするための手間がかかるといった問題が生じていた。また、一つ一つの被処理物をそれぞれの治具にセットしていたのでは、一度に大量の被処理物を処理することはできない。
【0007】
そこで、プラズマ放電を利用した表面改質処理を小型の被処理物に対して効率的に行う方法として、例えば特許文献1に記載の方法が提案されている。
【0008】
この特許文献1には、各種合金からなる超小な球状形状などの被処理物に対し安定かつ均一な窒化物表面層を形成させることを目的としたプラズマ窒化装置および窒化方法が記載されている。具体的には、ボールベアリングなどの超小な球状形状である被処理物を、1つの治具ベース上に複数個載置し、治具ベースを振動、或いは揺動させることにより、安定かつ均一な硬化層を形成しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−115422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した特許文献1に記載のプラズマ窒化装置および窒化方法では、ボールベアリングなどの超小な球状形状である被処理物を処理対象としている。しかし、このような球状形状ではなく、ねじ部を有する小物部品(例えば、ねじ、ボルト、ナットなど)を処理する場合にあっては、ねじ部のような高低差の大きい凹凸面を有する小物部品に均一な表面処理を行うこと自体が困難であるのに加えて、複数個の小物部品を1つの治具ベース上に載置すれば小物部品同士が重なり合うため、安定かつ均一な硬化層を形成することは極めて困難である。
【0011】
また、特許文献1に記載のプラズマ窒化装置および窒化方法では、縁部を備えた治具ベース上に被処理物をセットしているため、治具が影になって硬化層を形成することができないデッドゾーンが生じてしまい、安定かつ均一な硬化層を形成することは困難である。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み創案されたもので、ねじ部を有する小物部品を大量に一括して処理し、安定かつ均一な硬化層を形成することが可能な硬化層形成方法、およびこの方法に用いられる硬化層形成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ねじ部を有する金属製の小物部品の表面に、浸炭層および窒化層のうちの少なくともいずれか一つの硬化層を形成する方法であって、真空チャンバ内に備えられた金属製の回転容器内に前記小物部品を複数個収容して減圧した後、炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを供給して、このガス雰囲気中で前記回転容器に陰極電圧を印加してプラズマ放電を行う一方、前記回転容器を回転させながら、この回転容器近傍に備えられたヒータを用いて回転容器内の温度を350℃から550℃の範囲内に加熱することにより、前記小物部品の表面に硬化層を形成することを特徴とする。
【0014】
なお、本発明における炭素ガス、窒素ガスの用語には、炭素を含むガス、窒素を含むガスが含まれるものとする。
【0015】
この発明によれば、回転容器内にねじ部を有する小物部品を複数個収容し、プラズマ雰囲気中でこの回転容器を回転させながら表面硬化処理を行っているので、回転容器の内部で小物部品が攪拌される。したがって、回転容器がプラズマ雰囲気中で回転し、小物部品が攪拌されることにより、小物部品の近傍における処理ガスの流れやプラズマシースの分布が変化するので、小物部品の表面に均一な厚さの硬化層を形成することができる。
【0016】
また、回転容器に小物部品を収容しているので、小物物品を載置するための治具が不要であり、治具による影が生じることがないので、小物部品の表面に安定かつ均一な硬化層を形成することができる。
【0017】
さらに、回転容器に複数の小物部品を収容して処理できるので、大量の小物部品を一括して処理することが可能である。したがって、コストを低減することが可能である。
【0018】
さらにまた、回転容器近傍に備えられたヒータを用いて加熱しているので、プラズマ放電による加熱と、ヒータによる加熱を併用して回転容器内の温度を上昇させることができる。したがって、所定温度に昇温させるために要する時間を短縮することができる。
【0019】
ここで、前記小物部品は、オーステナイト系ステンレス鋼で形成されていても良い。
【0020】
オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性、靭性に優れているが、柔らかいために凝着磨耗を発生しやすく、耐磨耗性に劣るという欠点がある。一方、従来の高温(550℃を超える温度)での浸炭、窒化処理では、ステンレス鋼の耐食性が著しく低下するといった問題があった。そこで、本発明では350℃から550℃の低温で処理することにより、耐食性を損なうことなく、硬化層を形成して表面を硬くすることにより、靭性を担保しつつ耐摩耗性を強化した小物部品を提供することが可能になる。
【0021】
なお、処理温度の下限値を350℃としているのは、次の理由による。すなわち、処理温度が350℃を下回ると、窒素或いは炭素の拡散速度が低くなることから、実用的な厚さの硬化層を得るためには、非常に長時間の窒化或いは浸炭処理が必要となる。このように処理に長時間を要すると、コストが嵩み、実用的ではない。
【0022】
また、前記小物部品が、頭部と、頭部に連設されたねじ部と、ねじ部に連設されたねじ先とを具備するドリリングタッピンねじであって、前記頭部の座面に、中心から外方に向かって高さおよび幅が漸減し、かつ、ねじ込み方向に向かって90度のブレーキ面を有する複数本のブレーキングリブが周方向に間隔をおいて形成されているドリリングタッピンねじであっても良く、このように複雑な形状のねじであっても安定かつ均一な硬化層を形成することが可能で、大量の小物部品を一括して処理することができる。
【0023】
また、上記ドリリングタッピンねじは、ブレーキングリブを備えることから軸力が安定しており、ねじの耐力を最大限に使用することができる。したがって、作業性を低下させることなく頭飛び、ねじ部の破断、空転などを確実に防止して被締結材を締め付けることができるので、このようなドリリングタッピンねじに硬化層を形成することにより、耐食性、耐摩耗性に優れ、かつ高靭性による衝撃吸収能力を備えるねじを低コストで提供することができる。
【0024】
このように、このドリリングタッピンねじを、木造建築物における耐震補強金具を締結するために用いた場合、耐食性、耐摩耗性に優れているので施工性能に優れ、かつ靭性による衝撃吸収力を備えているので、地震等の衝撃にも耐えることができる。
【0025】
本発明は、上記した硬化層形成方法に使用される装置であって、炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを導入する真空チャンバ内に、小物部品を複数個収容可能な金属製の回転容器が備えられ、前記回転容器に陰極電圧を印加するプラズマDC電源と、前記回転容器の近傍に設けられたヒータと、前記回転容器を回転駆動する駆動装置と、真空チャンバ内に前記ガスを供給するガス供給装置とを有することを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、金属製の回転容器に小物部品を複数個収容して、この回転容器を回転させて小物部品を攪拌しながら放電プラズマ中で浸炭処理および窒化処理の少なくともいずれか一方の処理を行うことが可能である。
【0027】
したがって、小物部品の表面に安定かつ均一な硬化層を形成することが可能で、大量の小物部品を一括して処理することができ、プラズマ浸炭またはプラズマ窒化処理、若しくは双方の処理に要するコストを大幅に低減することができる。
【0028】
上記硬化層形成装置において、前記回転容器は、多数孔板からなる円周面を有する円筒体であっても良い。この場合、回転容器の円周面が多数孔板で形成されているので、円周面の多数孔を介して処理ガスが供給される。したがって、回転容器の内外にプラズマ雰囲気が発生するので、小物部品の表面に安定かつ均一な硬化層を形成することができる。
【0029】
また、小物部品の大きさや形状に応じて孔の形状や大きさを設定して、回転容器の設計をすることが可能である。
【0030】
さらに、回転容器が円筒体で形成されているので、円筒体の円周面を水平面とした横置き状態で、円筒中心軸(両側面の円中心を貫通する軸)回りに回転させると、回転容器内に収容した小物部品が好適に攪拌されるので、安定かつ均一な硬化層を小物部品の表面に効率良く形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ねじ部を有する小物部品の表面に安定かつ均一な硬化層を形成することが可能で、大量の小物部品を一括して処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る硬化層形成装置の概要を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るドリリングタッピンねじを示す正面図である。
【図3】図2のドリリングタッピンねじの頭部の拡大図である。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】図4のB−B線端面図である。
【図6】ねじの締め付け試験結果を示す図である。
【図7】ねじの締め付け試験結果を示す図である。
【図8】ねじの締め付け試験結果を示す図である。
【図9】ねじの耐震性能試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係るねじ部を有する小物部品の表面に硬化層を形成する硬化層形成方法、およびこの方法に用いられる硬化層形成装置の実施の形態について説明する。
【0034】
本実施形態に係る硬化層を形成する方法は、ねじ部を有する金属製小物部品の表面に、浸炭層および窒化層のうちの少なくともいずれか一つの硬化層を形成する方法であって、真空チャンバ2内に備えられた金属製の回転容器3内に小物部品を複数個収容して減圧した後、炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを供給して、このガス雰囲気中で回転容器3に陰極電圧を印加してプラズマ放電を行う一方、回転容器3を回転させながら、この回転容器3近傍に備えられたヒータ5を用いて回転容器内の温度を350℃から550℃の範囲内に加熱し、小物部品の表面に硬化層を形成するものである。
【0035】
なお、炭素ガスには、炭素ガスを含むガスが含まれており、例えば、CH22Arであってもよい。また、窒素ガスには窒素ガスを含むガスが含まれており、例えば、N22であってもよい。
【0036】
また、真空チャンバ内の処理圧力は、133Paから2660Paの範囲内、印加電圧は、300Vから800Vの範囲内に設定される。
【0037】
−硬化層形成装置−
まず、この方法に用いられる硬化層形成装置について図面を参照しながら説明する。
【0038】
硬化層形成装置1は、図1に示すように、炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを導入する真空チャンバ2内に、小物部品を複数個収容可能な金属製の回転容器3(バレル容器)が備えられ、この回転容器3に陰極電圧を印加するプラズマDC電源4と、回転容器3の近傍に設けられたヒータ5と、回転容器3を回転駆動するモータ(駆動装置)6、および真空チャンバ2内に前記ガスを供給するガス供給装置7を有している。
【0039】
真空チャンバ2は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼で形成されており、放電による余分な不純物のスパッタを防止するように図られている。
【0040】
回転容器3は、多数孔板(パンチングメタル)からなる円周面を有するステンレス製の円筒体で形成され、内部に多数(2000個ないし3000個程度)の小物部品を収容可能に構成されている。
【0041】
このように、回転容器3の円周面が多数孔板で形成されているので、円周面の多数孔を介して処理ガスが供給される。したがって、回転容器3の内外にプラズマ雰囲気が発生するので、小物部品の表面に安定かつ均一な硬化層を形成することができる。
【0042】
また、小物部品の大きさや形状に応じて孔の形状や大きさを設定して、回転容器3の設計をすることが可能である。
【0043】
さらに、回転容器3の円周面を形成している多数孔板を着脱自在に構成してもよい。この場合、小物部品に応じた多数孔板を数種類用意しておき、被処理物に応じて付け替えたり、多数孔板が劣化したときに取り替えることが可能になる。
【0044】
なお、回転容器3には、小物部品を出し入れするための開口と、この開口を開閉するための蓋部が設けられている。
【0045】
プラズマDC電源4は、プラズマ発生用として印加される電源であって、例えば300Vから800Vの範囲内の電圧が印加されるように設定される。また、回転容器3に陰極電圧を印加し、真空チャンバ2に陽極電圧を印加している。
【0046】
ヒータ5は、例えばシーズヒータで構成されており、回転容器3の外側近傍に備えられている。このように回転容器3の近傍にヒータ5を備えることにより、プラズマ放電による加熱と、ヒータ5による加熱を併用して回転容器3内の温度を上昇させることができる。したがって、所定温度に昇温させるために要する時間を短縮することができる。
【0047】
回転容器3内の温度計測については、例えばサーモカップルを回転容器3内に挿入して行っている。また、シーケンサーを用いて、高精度な昇温制御を行う加熱制御装置51を備えている。
【0048】
モータ6は、回転容器3を円筒体の円周面を水平面とした横置き状態で、円筒中心軸(両側面の円中心を貫通する軸)回りに回転させるための駆動手段として用いられるものである。
【0049】
ガス供給装置7は、真空チャンバ2内に炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを導入するためのものであり、高品位なバルブが用いられている。また、優れた表面処理層の均一性および製品間の品質の均一性を担保するために、高品位なマスフローコントローラーを使用してガス流量の制御を行っている。
【0050】
さらに、プラズマ放電中の圧力を制御するために、ガスの種類やプラズマの影響を受けない真空測定子(キャパシタンス・マノメーター)を採用し、この真空測定子の信号に基づいて真空チャンバ2内の圧力を制御する圧力調整装置71を備えている。
【0051】
−被処理物(小物部品)−
本実施の形態で用いられる被処理物としての小物部品について詳細に説明する。
【0052】
小物部品は、図2に示すように、頭部82と、頭部82に連設されたねじ部83と、ねじ部83に連設されたねじ先84とを具備するドリリングタッピンねじ8であって、頭部82の座面に、中心から外方に向かって高さおよび幅が漸減し、かつ、ねじ込み方向に向かって90度のブレーキ面を有する複数本のブレーキングリブ81が周方向に間隔をおいて形成されている。
【0053】
頭部82には、ドリリングタッピンねじ8をねじ込む回転トルクを加える図示しないドライバビットが係合する係合穴82aがねじ部83と頭部82の中心線上に形成されている。
【0054】
一方、頭部82の座面は、通常のねじ部品の傾斜角である180度よりも若干小さな傾斜角、具体的には、中心から外周に向かって170度の傾斜面に形成されており、後述するように、少量の削り屑を外方に向かって送り出すことができる。また、頭部82の座面には、周方向に90度の間隔をおいて4本のブレーキングリブ81が形成されている。各ブレーキンブリブ81は、ねじ込み方向に向かってほぼ90度のブレーキ面を有するとともに、戻り方向に135度の傾斜面を有しており、さらに、頭部82の中心から外方に向かって高さおよび幅が漸減するように設定されている。具体的には、ブレーキングリブ81の垂直面と傾斜面とによって形成される稜線は、中心から外周に向かって155度の傾斜角を形成するように設定されている。
【0055】
ねじ部83は、一定ピッチのねじ山を有している。ここで、ねじ山のリード角は、小さい場合よりも大きい方がブレーキ効果が大きくなり、好ましい。
【0056】
ねじ先84は、鋼板などの被締結材に穴あけと、締め付けを同時に行うもので、ドリルビットと同様に、一定の掬い角および逃げ面が形成されている。
【0057】
このように構成されたドリリングタッピンねじ8を電動ドライバーなどを用いて被締結材にねじ込むことにより、ねじ部83のリード角によって軸力が発生し、1回の締め付け操作により、穴開け作業、ねじ立て作業、締め付け作業を併せて行うことができる。
【0058】
ところで、ドリリングタッピンねじ8の締め付けの際、被締結材に頭部82の座面が接触すると、リード角による軸力によって頭部82の座面に設けたブレーキングリブ81が被締結材に食い込み、ブレーキ効果が発生する。このため、余分の締め付けトルクを遮断して回転を停止させることができ、大きな回転トルクが負荷されても、適正な締め付けトルクを越えて回転することを防止できる。
【0059】
この場合、ブレーキングリブ81は、中心から外方に向かって高さおよび幅が漸減することから、ねじ込みの際、頭部82の座面が接触してからブレーキ(抵抗)が徐々に増大する結果、急激な停止を伴うことがなく、締め付けのコントロールが容易となる。
【0060】
また、頭部82の座面が、180度よりも若干小さな傾斜角の傾斜面に形成されていることにより、頭部82の座面が被締結材に接触してブレーキ効果を発生させる際、ブレーキングリブ81が被締結材に食い込むことによって発生する少量の削り屑を頭部82の傾斜された座面に沿って外方に送り出すことができる。このため、発生した削り屑が頭部82の座面と被締結材の表面との間に介在することがなく、頭部82の座面を被締結材の表面に確実に着座させることができる。
【0061】
以上説明したように本実施形態のドリリングタッピンねじ8は構成されているので、作業性を低下させることなく頭飛び、ねじ部の破断、空転などを確実に防止して被締結材を締め付けることができる。
【0062】
なお、小物部品としては上記したドリリングタッピンねじ8に限定されるものではなく、例えば通常用いられるタッピンねじやボルトであっても良い。
【0063】
−プラズマ浸炭・窒化処理を行ったドリリングタッピンねじ−
次に、本実施の形態による硬化層形成方法によりプラズマ浸炭・窒化処理を行ったドリリングタッピンねじについて説明する。
【0064】
上記したようにこのドリリングタッピンねじ8は、頭部82の座面にプレーキングリブ81を設けることにより、頭部82とねじ部83との間の軸力(締め付け力)を適正に調整し、適正な締め付けを行うことが可能である。
【0065】
このドリリングタッピンねじ8は、オーステナイト系ステンレス鋼で形成されており、本実施形態に係るプラズマ浸炭・窒化処理を行うことにより硬化層を形成する。
【0066】
本実施形態では、350℃ないし550℃という低温のもとでプラズマ浸炭・窒化処理を行っているため、S相と呼ばれる高い硬度と耐食性を備えた硬化層が形成されるので、オーステナイト系ステンレス鋼の優れた耐食性を維持したままで、表面が硬化される。このように、表面に硬化層が形成されるが、芯部組織はオーステナイト系ステンレス鋼の持つ靭性が担保されているので、靭性、耐摩耗性および耐食性に優れたドリリングタッピンねじ8とすることができる。
【0067】
また、回転容器3に多数のドリリングタッピンねじ8を収容し、プラズマ雰囲気中でこの回転容器3を回転させながら表面硬化処理を行っているので、回転容器3の内部でドリリングタッピンねじ8が攪拌される。したがって、ドリリングタッピンねじ8の近傍における処理ガスの流れやプラズマシースの分布が攪拌されることにより変化するため、ドリリングタッピンねじ8の表面に均一な厚さの硬化層を形成することができる。
【0068】
さらに、ドリリングタッピンねじ8の頭部82の十字リセスの縁部にまで硬化層が形成されるので、ねじを締め付ける際の作業性が向上する。
【0069】
さらにまた、上記ドリリングタッピンねじ8は、ブレーキングリブ81を備えることから軸力が安定しており、ねじの耐力を最大限に使用することができる。したがって、作業性を低下させることなく頭飛び、ねじ部の破断、空転などを確実に防止して被締結材を締め付けることができるので、このようなドリリングタッピンねじ8に硬化層を形成することにより、耐食性、耐摩耗性に優れ、かつ高靭性による衝撃吸収能力を備えるねじを低コストで提供することができる。
【0070】
このように、このドリリングタッピンねじ8を、木造建築物における耐震補強金具を締結するために用いた場合、耐食性、耐摩耗性に優れているので施工性能に優れ、かつ靭性による衝撃吸収力を備えているので、地震等の衝撃にも耐えることができる。
【0071】
−プラズマ浸炭・窒化処理を行ったドリリングタッピンねじの性能試験−
次に、表面硬化処理を行ったドリリングタッピンねじ8のねじ込み試験、および耐震性能を評価するための試験とその結果について説明する。
【0072】
ねじ込み試験は、インパクトドライバーによる締め付け試験を、次の(1)〜(3)の試料(ねじ)についてそれぞれ行った。
【0073】
(1)SWCH18A炭素鋼の一般熱処理(浸炭焼入れ)ブレーキングリブ無しのタッピンねじ
(2)SUSXM7オーステナイト系ステンレス鋼のブレーキングリブを有する未処理ねじ(ドリリングタッピンねじ)
(3)SUSXM7オーステナイト系ステンレス鋼のブレーキングリブを有するプラズマ浸炭処理ねじ(ドリリングタッピンねじ)(プラズマ浸炭処理は、475℃で6時間処理を行ったもの)
【0074】
試料(1)のタッピンねじの結果を図6に示している。この試料(1)のタッピングねじは、ブレーキングリブが無いため、ねじの締め付けに際してブレーキがかからない。したがって、トルクがピークに達した時点でねじの頭飛びの発生が確認される。
【0075】
試料(2)のドリリングタッピンねじの結果を図7に示している。この試料(2)のドリリングタッピンねじは、浸炭或いは窒化処理をしていないので、試料(1)のタッピンねじと比較すればある程度のブレーキ効果が見受けられるものの、トルクがピークに達した時点でねじの頭飛びの発生が確認される。
【0076】
試料(3)のドリリングタッピンねじの結果を図8に示している。この試料(3)のドリリングタッピンねじは、本発明に係るプラズマ浸炭処理をしているので、好適なブレーキ効果が見受けられ、トルクがピークに達した後も安定した軸力を維持しており、頭飛びの発生は確認されない。
【0077】
耐震試験は、16本のねじを耐震補強金具と木材を締結するために用いて、0.1mm/secの引張速度のもとで実験を行った。この結果得られた荷重・変位曲線を図9に示す。
【0078】
この図9中、実線は、上記試料(3)のSUSXM7オーステナイト系ステンレス鋼のプラズマ浸炭処理したドリリングタッピンねじの実験結果値を示し、破線は、SUS410マルテンサイト系ステンレス鋼の一般熱処理(窒化処理)したブレーキングリブ無しのタッピンねじの実験結果値を示し、一点鎖線は、上記試料(1)のSWCH18A炭素鋼の一般熱処理(浸炭焼入れ)したブレーキングリブ無しのタッピンねじの実験結果値を示したものである。
【0079】
この実験結果から、以下のことが検証される。すなわち、実線で示した本発明に係るプラズマ浸炭処理をしたドリリングタッピンねじを用いると、靭性を有するので大きな変位にも耐えることができ、地震等の大きな衝撃に対しても相当の耐力を備えている。これに対して他のタッピンねじにあっては、応力がかかると頭飛びが発生し、地震等の大きな衝撃に耐えることはできない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る硬化層形成方法および装置は、ねじ部を有する小物部品の表面に安定かつ均一な硬化層を形成することが可能で、大量の小物部品を一括して処理することができる点で有益である。
【符号の説明】
【0081】
1 硬化層形成装置
2 真空チャンバ
3 回転容器
4 プラズマDC電源
5 ヒータ
6 モータ(駆動装置)
7 ガス供給装置
8 ドリリングタッピンねじ(小物部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部を有する金属製の小物部品の表面に、浸炭層および窒化層のうちの少なくともいずれか一つの硬化層を形成する方法であって、
真空チャンバ内に備えられた金属製の回転容器内に前記小物部品を複数個収容して減圧した後、炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを供給して、このガス雰囲気中で前記回転容器に陰極電圧を印加してプラズマ放電を行う一方、前記回転容器を回転させながら、この回転容器近傍に備えられたヒータを用いて回転容器内の温度を350℃から550℃の範囲内に加熱することにより、前記小物部品の表面に硬化層を形成することを特徴とする硬化層形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の硬化層形成方法において、
前記小物部品は、オーステナイト系ステンレス鋼で形成されていることを特徴とする硬化層形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硬化層形成方法において、
前記小物部品は、頭部と、頭部に連設されたねじ部と、ねじ部に連設されたねじ先とを具備するドリリングタッピンねじであって、前記頭部の座面に、中心から外方に向かって高さおよび幅が漸減し、かつ、ねじ込み方向に向かって90度のブレーキ面を有する複数本のブレーキングリブが周方向に間隔をおいて形成されているドリリングタッピンねじであることを特徴とする硬化層形成方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の硬化層形成方法に使用される装置であって、
炭素ガスおよび窒素ガスのうちの少なくともいずれか一方のガスを導入する真空チャンバ内に、小物部品を複数個収容可能な金属製の回転容器が備えられ、
前記回転容器に陰極電圧を印加するプラズマDC電源と、前記回転容器の近傍に設けられたヒータと、前記回転容器を回転駆動する駆動装置と、前記真空チャンバ内に前記ガスを供給するガス供給装置とを有することを特徴とする硬化層形成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化層形成装置において、
前記回転容器は、多数孔板からなる円周面を有する円筒体であることを特徴とする硬化層形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−77364(P2012−77364A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225858(P2010−225858)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391040962)平田ネジ株式会社 (4)
【出願人】(509083108)国友熱工株式会社 (2)
【出願人】(509294999)カインド・ヒート・テクノロジー株式会社 (1)
【出願人】(510266099)株式会社東亜精機工作所 (1)
【Fターム(参考)】