説明

硬化性樹脂組成物

【課題】良好な貯蔵安定性が得られ、かつ硬化に際して水を必要としない硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1):
【化1】


(ここで、Xは、脂肪族、脂環族又は芳香族の任意の炭化水素である)
で示される官能基を複数含有する多官能チオールエステル化合物と、チオール基と反応可能な官能基を複数有する化合物と、塩基とを含有する硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料、接着剤等の種々の用途において使用される硬化性樹脂組成物は、1つの組成物からなる一液型のものと、2つの成分を別個に製造、保管し、使用直前に混合して使用する二液型のものとに分けられる。一液型の硬化性樹脂組成物は、使用直前で混合する工程が不要であるという利点を有するが、硬化性と貯蔵安定性との両立が常に課題となる。
【0003】
一方、−SHで表されるチオール基は、種々の官能基との高い反応性を有しているため、硬化性樹脂組成物の硬化官能基として使用することができる官能基である。しかし、高反応性であるため、貯蔵安定性を得ることができず、一液型の硬化性樹脂組成物に適用することができないという問題があった。
【0004】
特許文献1には、硬化剤として使用できるチオール化合物が記載されている。特許文献1は、チオールエステル化したチオール化合物を開示している。チオールエステル基は、水との加水分解反応によって、チオール基を生成する(化学式(2)参照)。
【0005】
【化2】

【0006】
特許文献1によれば、硬化性樹脂組成物に用いることができるチオール化合物を得ることができる。当該チオール化合物を用い、硬化時にチオールエステル基を加水分解させ、チオール基を生成することができれば、樹脂膜の硬化性と、硬化性樹脂組成物における一液安定性とを両立させることができると考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のチオール化合物を硬化性樹脂組成物に用いた場合、使用時に水を添加しなければならないため、上述した一液型の利点を得ることができない。また、特許文献1に記載のチオール化合物を硬化性樹脂組成物に用いた場合、水の添加が必須となるため、溶剤系の硬化性樹脂組成物に適用できないという問題がある。
【特許文献1】特開2005−75746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、良好な貯蔵安定性が得られ、かつ硬化に際して水を必要としない硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式(1):
【0010】
【化3】

【0011】
(ここで、Xは、脂肪族、脂環族又は芳香族の任意の炭化水素である)
で示される官能基を複数含有する多官能チオールエステル化合物と、チオール基と反応可能な官能基を複数有する化合物と、塩基とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
【0012】
上記多官能チオールエステル化合物は、複数のエポキシ基を有する化合物とチオカルボン酸との反応により得られるものであることが好ましい。
上記チオール基と反応可能な官能基は、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、及び不飽和結合からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明は、上記硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする硬化性塗料組成物でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の硬化性樹脂組成物は、良好な貯蔵安定性が得られ、かつ硬化に際して水を必要としないものである。また、水性塗料に用いた場合は、VOCを低減することができるものである。このため、塗料、接着剤等の種々の用途において好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、上記一般式(3)で示される多官能チオールエステル化合物を硬化性樹脂組成物に使用するものである。
【0015】
【化4】

【0016】
ここで、Xは、脂肪族、脂環族又は芳香族の任意の炭化水素であり、Yは、脂肪族、脂環族若しくは芳香族の任意の炭化水素、エポキシ樹脂残基、アクリル樹脂残基、又は、ポリエステル樹脂残基である。
上記多官能チオールエステル化合物は、下記一般式(1)で示されるチオールエステル基を複数含有する。
【0017】
【化5】

【0018】
ここで、Xは、脂肪族、脂環族又は芳香族の任意の炭化水素である。
本発明は、比較的安定性の高いチオールエステル基を有する化合物を硬化性樹脂組成物に配合し、熱によって反応性が高いチオール基を再生することにより、硬化反応を進行させることができるものである。
【0019】
上記チオールエステル基は加水分解によって上記化学式(2)の反応を生じることが知られていた。本発明者らは、上記チオールエステル基を塩基存在下で加熱すると、上記化学式(2)の反応とは完全に異なる下記化学式(4)で示す転移反応を生じることによって、チオール基を生じることを見出すことによって、本発明を完成するに至った。
【0020】
【化6】

【0021】
すなわち、チオールエステル基は加水分解によって−SH基が生じることは公知であるが、塩基存在下において加熱によって−SH基が生じることは知られていなかった。上記反応が生じることにより、水が存在しない条件でも加熱によって、樹脂を硬化させることができる。更に、上記チオールエステル基は室温では塩基存在下であっても反応しないから、安定な一液型の組成物を得ることができる。また、硬化反応時に遊離の一塩基酸を生じないことから、このような一塩基酸の副生による不利益を生じることもない。
【0022】
本発明において使用する多官能チオールエステル化合物は、上記一般式(1)で示される官能基を複数含有するものである。上記多官能チオールエステル化合物は、例えば、複数個のエポキシ基を有するエポキシ化合物に、チオカルボン酸を反応させてチオールエステル化を行うことにより得ることができる。なお、本明細書における「化合物」には、高分子のものも含まれる。
【0023】
上記少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物としては特に限定されないが、例えば、多価アルコールのポリグリシジルエーテルを挙げることができる。上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の2価アルコール;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上のアルコールを挙げることができる。なお、上記多価アルコールが3価以上である場合には、少なくとも2個の水酸基がグリシジルエーテル化されていればよく、水酸基が残存していてもよい。上記多価アルコールのポリグリシジルエーテルの中で、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0024】
少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物は、エポキシ樹脂であってもよく、このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ノボラック型エポキシ樹脂、イソシアヌル酸エポキシ樹脂、テレフタル酸エポキシ樹脂等が挙げられる。また、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物は、エポキシ基を有するアクリル樹脂であってもよく、この場合、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するアクリルモノマーを、当業者によく知られた方法で単独重合又は共重合させることにより、上記エポキシ基を有するアクリル樹脂が得られる。上記エポキシ基を有するアクリル樹脂は、そのエポキシ当量を調節しやすいので有用である。
【0025】
少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物がエポキシ樹脂又はアクリル樹脂である場合、エポキシ基1個あたりの分子量を示すエポキシ当量は、150〜15,000であるものが好ましい。150未満のものはその入手が困難であり、15,000を超えると導入されるチオール基の量が十分でない。
【0026】
チオカルボン酸は、R−C(=O)SHで表される化合物である。Rは、脂肪族、脂環族、芳香族の任意の炭化水素基であってよいが、なかでも、芳香族であることが好ましい。また、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜12の炭素数を有する炭化水素基である。具体的なものとして、チオ酢酸、チオ安息香酸等が挙げられる。加熱時の転移反応の反応性の点から上記チオカルボン酸として、チオ安息香酸を用いることが好ましい。
【0027】
上記チオールエステル化工程において、上記エポキシ化合物が有するエポキシ基のモル量と上記チオカルボン酸が有するチオカルボキシル基のモル量との比率は、20/80〜45/55に設定されることが好ましい。下限値の更に好ましい値は、40/60である。上記比率が20/80未満であると、残存するチオカルボン酸の量が多いため効率的でなく、45/55を超えると反応を終了させるのに時間がかかる他、官能基濃度が高い場合には、エポキシ基が開環して生じた2級OHと未反応のエポキシ基とが反応することにより、ゲル化してしまうおそれがある。
【0028】
上記チオールエステル化工程では、系内でエポキシ基の量よりもチオカルボキシル基の量が過剰となるように滴下条件等を設定することが好ましい。また、上記チオールエステル化工程における反応温度は、用いる原材料が分解しない限り、特に限定されないが、例えば、40〜200℃で行うことができる。更に好ましい反応温度は60〜110℃である。反応には、カルボン酸とエポキシ基との反応に用いられる触媒を使用することもできる。なお、上記チオールエステル化工程には、通常、溶媒は必要ないが、用いるのであれば、エポキシ基及びチオカルボキシル基と反応しないものが選択される。
【0029】
チオールエステル化の終了は、エポキシ基の消失やチオールエステル化の進行度合いについて、一般的分析手法により測定を行い、この結果に基づいて反応終了を判断することができる。例えば、エポキシ基の消失は、エポキシ基の量を滴定により測定することで確認することができる。この場合、例えば、滴定により測定されたエポキシ基の量が反応開始前のエポキシ量の5%以下となった時点で反応終了と判断する。一方、チオールエステル化については、IRスペクトルにおける1660〜1690cm−1のピークの増加が飽和した状態をもって反応が終了したものと判断することができる。なお、反応時間は通常、30分〜5時間程度である。
【0030】
チオールエステル化が終了してから、得られた反応生成物を精製しても良いが、精製は必須ではない。
【0031】
上記チオール基と反応可能な官能基を複数有する化合物としては、例えば、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、不飽和結合等の官能基を有する化合物を挙げることができる。これらの官能基は、チオール基との反応性が良好であるから、速やかに反応が進行し、かつチオールエステル基とは反応性を有さないため、一液型の組成物として安定的に保存することができる。上記チオール基と反応可能な官能基含有化合物は、上記官能基のうち、二種以上をあわせて2個以上有する化合物であってもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0032】
上記エポキシ基を有する化合物は、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物であり、上記で説明した多官能チオールエステル化合物の製造に使用するエポキシ樹脂と同様のものを用いることができる。
【0033】
上記オキサゾリン基を含有する化合物としては、2個以上の2−オキサゾリン基を有する化合物が好ましく、例えば、ジカルボン酸等のポリカルボン酸、ジニトリルやトリニトリル等のポリニトリル化合物とエタノールアミン類との反応で得られるオキサゾリン化合物(a)、及び、オキサゾリン基含有重合体(b)を挙げることができる。こられのうちの1種又は2種以上を用いることができる。本発明における2−オキサゾリン基は、式(5)で表されるものである。
【0034】
【化7】

【0035】
(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン、アルキル、アラルキル、フェニル又は置換フェニル基である。)すなわち、本発明における2−オキサゾリン基は、水素の1又は2以上が置換された誘導体であってもよい。
【0036】
上記オキサゾリン化合物(a)としては、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられ、いずれか1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いることもできる。
【0037】
上記オキサゾリン基含有重合体(b)としては、付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて使用するその他の重合性単量体からなる単量体組成物を重合してなるものを挙げることができる。付加重合性オキサゾリンは、式(6)で表されるものである。
【0038】
【化8】

【0039】
(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン、アルキル、アラルキル、フェニル又は置換フェニル基であり、Rは、付加重合性不飽和結合を持つ非環状有機基である。)
【0040】
上記付加重合性オキサゾリンの例としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの群から選ばれる1種の化合物を単独、又は、2種以上を併用して使用することができる。上記化合物のなかでも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。オキサゾリン基含有化合物として、上記オキサゾリン基含有重合体(b)を用いる場合に含まれる上記付加重合性オキサゾリンの使用量は特に限定されないが、オキサゾリン基含有重合体(b)中、1質量%以上であることが好ましい。1質量%未満では硬化の程度が不充分となり、耐久性、耐水性等が損なわれる傾向にある。
【0041】
上記その他の重合性単量体としては特に限定されず、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−n、i及びt−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−n、i及びt−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類等を挙げることができる。
【0042】
上記オキサゾリン基を複数有する化合物は、オキサゾリン基を、1分子中に平均2〜50個有することが好ましい。
【0043】
上記カルボジイミド基を有する化合物としては特に限定されないが、−N=C=N−で表されるカルボジイミド基を1分子中に2個以上有するものが好ましく、反応効率を考慮すれば、実質的には1分子中に20個以下であることが好ましい。
【0044】
より具体的には、両末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基にアルコール又はアミンを付加したものが好ましい。上記両末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミド化合物の製造方法としては、当業者に周知の方法である有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0045】
上記有機ジイソシアネートとしては特に限定されず、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、これらの混合物を挙げることができ、また、多価イソシアネートを用いてもよい。上記縮合反応には、通常、カルボジイミド化触媒が用いられる。
【0046】
上記不飽和結合を有する化合物としては、例えば、ポリヒドロキシ化合物と(メタ)アクリル酸とのエステルを挙げることができる。
【0047】
上記ポリヒドロキシ化合物と(メタ)アクリル酸とのエステルとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ぺンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンを挙げることができる。
【0048】
上記不飽和結合を複数個有する化合物として、多価アルコールのエチレンオキシドあるいはプロピレンオキシド付加物の(メタ)アクリレートや、エポキシ基を複数個有する化合物と(メタ)アクリル酸の反応生成物、イソシアネート化合物と末端に水酸基を有するポリエステルと水酸基含有(メタ)アクリレートから得られるウレタン(メタ)アクリレート、ジイソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレートから得られるウレタン(メタ)アクリレートを用いることもできる。
【0049】
上記不飽和結合を複数個有する化合物は、カルボキシル基を複数個有する樹脂に、グリシジル(メタ)アクリレートを反応させたものであってもよい。カルボキシル基を複数個有する樹脂は、例えば、アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂を挙げることができる。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸をアクリル共重合して得られるアクリル樹脂であり、ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとから得られるカルボキシル基を複数個有する樹脂である。
【0050】
また、不飽和結合を複数個有する化合物は、エポキシ基を複数個有する樹脂に、(メタ)アクリル酸を反応させたものであってもよい。エポキシ基を複数個有する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を挙げることができる。エポキシ樹脂は、前述したものと同様のものを用いることができる。アクリル樹脂は、グリシジル(メタ)アクリレートをアクリル共重合して得られるアクリル樹脂である。上記不飽和結合を有する化合物は、不飽和ポリエステル、ポリブタジエンであってもよい。
【0051】
硬化は分子同士が化学結合することによってみかけの分子量が増加することにより起こるため、2つの成分の間で反応が起こる場合、分子量が大きいものほど、硬化しやすい。そのため、チオールエステル基を有するもの又はチオール基と反応する官能基を有するものが、比較的分子量の高い樹脂であることが好ましい。低分子量の化合物同士の場合には、官能基の数を両方ともに多くすることによって、硬化系を構築することができる。硬化に用いられる材料が樹脂であるとき、例えば、アクリル樹脂である場合の分子量は1,000〜100,000、ポリエステル樹脂である場合の分子量は1,000〜100,000、エポキシ樹脂である場合の分子量は300〜1,000であってよい。
【0052】
その際の官能基当量として、アクリル樹脂である場合100〜1,000、ポリエステル樹脂である場合100〜1,000、エポキシ樹脂である場合100〜1,000であってよい。
【0053】
上記チオールエステル基とチオール基と反応する官能基のモル比は、0.5〜2に設定することができる。
【0054】
本発明において使用する塩基は、上記チオールエステル基の転移反応によるチオール基の生成を促進する成分であり、3級アミンや、4級アンモニウム塩、3級フォスフィンのような有機塩基や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムのような無機塩基を使用することができる。これらの化合物の二種以上を併用するものであってもよい。
【0055】
上記3級アミンとしては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ベンジルジメチルアミン、N−アミノエチルピペラジン等のアミン類、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等が挙げられる。
【0056】
また、上記4級アンモニウム塩としては、下記AとBの組み合わせからなる塩が挙げられる。
〔A〕テトラブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、テトラヘキサデシルアンモニウム、トリエチルヘキシルアンモニウム、2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリン)、メチルトリオクチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、2−クロルエチルトリメチルアンモニウム、メチルピリジニウム
〔B〕サリチレート、マレエート、フタレート、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、メタンスルホネート、p−トルエンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート、トリフレート、ナイトレート、サルフェート、メトサルフェート、ホスフェート、ジ−t−ブチルホスフェート
【0057】
また、上記3級フォスフィンとしては、トリ−n−ブチルフォスフィン、トリ−n−オクチルフォスフィン、トリシクロヘキシルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、トリベンジルフォスフィン、トリ−o−トリルフォスフィン、トリ−m−トリルフォスフィン、トリ−p−トリルフォスフィン、トリス−(4−メトキシフェニル)フォスフィン、ジフェニルシクロヘキシルフォスフィン、p−スチリルジフェニルフォスフィン、1,2−ビス(ジフェニルフォスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルフォスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルフォスフィノ)ブタン等が挙げられる。
【0058】
また、その他の塩として、テトラブチルホスホニウムブロマイドのような4級ホスホニウム塩、及びトリメチルスルホニウムアイオダイドのような3級スルホニウム塩、ナトリウムエトキサイド、カリウムメトキサイド、t−ブトキシカリウムヘキサメチルフォスフォリックトリアミド、ピリジンナトリウムメトキサイド等が挙げられる。
【0059】
上記塩基は、多官能チオールエステル化合物に対して0.1〜10質量%の割合で添加することが好ましい。
【0060】
本発明の硬化性樹脂組成物は、好ましくは加熱により硬化させることができる。加熱によって、チオール基の形成及び塗膜の硬化を促進することができる。硬化温度は、塩基の種類や樹脂組成物の形態等により、適宜設定することができる。例えば、上記硬化温度は、溶剤系塗料の場合は、室温〜220℃であり、80〜160℃であることが好ましく、水系塗料の場合は、60〜220℃であり、80〜160℃であることが好ましい。
【0061】
また、硬化性樹脂組成物は、必要に応じてチオール基及びチオール基と反応可能な官能基の反応に用いられる触媒を含んでいてもよい。
【0062】
本発明の硬化性樹脂組成物は、溶剤を含んでいてもよい。上記溶剤は、チオール基及びチオール基と反応可能な官能基と反応しない有機溶剤が選択される。溶剤の量は、固形分濃度が、20〜60質量%になるように調整することができる。また、本発明の硬化性樹脂組成物は、水中に樹脂が分散した水分散型樹脂であってもよい。
【0063】
本発明の硬化性樹脂組成物は、塗料組成物において好適に使用することができる。このような塗料組成物も本発明の一つである。本発明の塗料組成物は、溶剤系塗料、水性塗料、粉体塗料等の任意の形態であってよい。水性塗料として用いた場合は、貯蔵安定性に加え、更にVOCを低減することができる。また、一液型塗料、二液型塗料のいずれの形態とすることもできるが、特に一液型塗料とした場合に、本発明の効果が最大限に発揮される。また、本発明の硬化性樹脂組成物は、接着剤としても好適に適用することができる。
【0064】
なお、チオールエステル基と水とが接触した場合、背景技術の項で説明したように、加水分解反応が起こる(化学式(2))。しかしながら、本発明に係る硬化性樹脂組成物を一液型の水性塗料に適用した場合、塗料を加熱しない状態ではチオールエステル基と水との加水分解反応は起きないため、塗料を安定的な状態で保存することができる。常温で加水分解反応が起こらない理由は以下のように推察される。
本発明に係る硬化性樹脂組成物を一液型の水性塗料に適用した場合、疎水性のチオールエステル基は水性樹脂に内包された状態で塗料中に存在すると考えられる。したがって、チオールエステル基を水と接触させずに、つまり加水分解反応を起こすことなく塗料を安定的な状態に保つことができる。この塗料を加熱すると、水が蒸発し、水性樹脂粒子同士が溶融することによって、内包されていたチオールエステル基が樹脂粒子の外に存在していた親水性の塩基と接触し、転移反応を起こす。このとき、加熱によって大部分の水は蒸発しているため、加水分解反応を起こすことなく転移反応のみを進行させることができる。
【0065】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
(実施例)
製造例1
チオールエステル基含有エポキシ樹脂の製造
窒素導入管、攪拌機、温度調節器及び冷却管を備えた反応容器にクレゾールノボラック樹脂(東都化成工業製 YDCN−703)308部及びメチルイソブチルケトン132部を仕込み、80℃まで昇温した。系には窒素を流通させた。温度が安定した後にチオ安息香酸197部及びメチルイソブチルケトン84.4部の混合溶液を30分かけて等速で滴下した。滴下中は系から発生する熱を適宜取り除き、80℃を保持した。滴下終了後80℃を保持したまま撹拌を続け、エポキシ基濃度が0になった時点で系を冷却することで、固形分濃度70%、固形分チオールエステル基濃度2.9mmol/gのチオールエステル基含有樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液について、滴定による生成物のチオール濃度が0であり、IRスペクトルにおいて1660cm−1のピークが観測された。
【0067】
製造例2
チオールエステル基含有アクリル樹脂の製造
窒素導入管、攪拌機、温度調節器及び冷却管及を備えた反応容器にメチルイソブチルケトン358部を仕込み、120℃まで昇温した。系には窒素を流通させた。温度が安定した後にグリシジルメタクリレート143部、メチルメタクリレート145部、及びn−ブチルメタクリレート145部の混合溶液及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート9.96部及びメチルイソブチルケトン39.8部の混合溶液を各々同時に3時間かけて等速で滴下した。このとき系から発生する熱を適宜取り除き、120℃を保持した。滴下終了後120℃を保持したまま30分撹拌を続け、更に、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2.66部及びメチルイソブチルケトン34.6部の混合溶液を30分かけて等速で滴下した。滴下終了後120℃を保持したまま2時間撹拌を続けたのち、系を80℃に冷却し、チオ安息香酸133部及びチルイソブチルケトン133部の混合溶液を30分かけて等速で滴下した。滴下中は系から発生する熱を適宜取り除き、80℃を保持した。エポキシ濃度が0になるまで撹拌することで、固形分50%、固形分チオールエステル基濃度1.5mmol/gのチオールエステル基含有アクリル樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液について、滴定による生成物のチオール濃度が0であり、IRスペクトルにおいて1660cm−1のピークが観測された。
【0068】
製造例3
メタクリル基含有樹脂の製造
窒素導入管、攪拌機、温度調節器及び冷却管及を備えた反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテル537部及びメチルイソブチルケトン451部を仕込み、120℃まで昇温した。系には窒素を流通させた。温度が安定した後にメタクリル酸239部、2−ヒドロシキエチルメタクリレート266部、メチルメタクリレート62.0部、及びn−ブチルメタクリレート507部の混合溶液及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート24.7部を各々同時に3時間かけて等速で滴下した。このとき系から発生する熱を適宜取り除き、120℃を保持した。滴下終了後120℃を保持したまま30分撹拌を続け、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート6.44部及びメチルイソブチルケトン85.9部の混合溶液を30分かけて等速で滴下した。滴下終了後120℃を保持したまま2時間撹拌を続けたのち、窒素導入管を乾燥空気導入管に付け換え、グリシジルメタクリレート314部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド1.57部及びハイドロキノン0.738部を加え、120℃でエポキシ濃度が0になるまで撹拌することで、固形分65%、固形分メタクリル基濃度1.5mmol/g、固形分酸価40のメタクリル基含有アクリル樹脂溶液を得た。
【0069】
製造例4
カルボジイミド基含有樹脂の製造
窒素導入管、攪拌機、温度調節器、及び冷却管を備えた反応容器にイソシアネート基含有ポリカルボジイミド樹脂溶液(日清紡製 カルボジライトV −01)250部及びn−ブチルアルコール21.6部を仕込み、120℃まで昇温した。系には窒素を流通させ、イソシアネート基濃度が0になるまで、120℃を保持・撹拌することで、固形分濃度72%のカルボジイミド基含有樹脂溶液を得た。
【0070】
製造例5
チオールエステル基及びメタクリル基を含有する水性樹脂溶液の製造
窒素導入管、攪拌機、温度調節器、冷却管、デカンター、及び減圧装置を備えた反応容器に製造例1で合成したチオールエステル基含有樹脂91.4部、製造例3で合成したメタクリル基含有樹脂254部、及びジメチルエタノールアミン3.57部を仕込み、60℃まで昇温、その後1時間保持し、更にイオン交換水を363部添加し、減圧下でメチルイソブチルケトン、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを留去することで、固形分濃度37%のチオールエステル基及びメタクリル基を含有する水性樹脂溶液を得た。
【0071】
実施例1
チオールエステル基及びメタクリル基を含有する水性硬化性樹脂組成物の調製
製造例5で作成したチオールエステル基及びメタクリル基を含有する水性樹脂溶液200部にテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.37部を添加し、1時間ディスパーにて攪拌混合することで、チオールエステル基及びメタクリル基を含有する水性硬化性樹脂組成物を得た。
【0072】
実施例2
チオールエステル基及び不飽和結合(アクリル基)を含有する硬化性樹脂組成物の調製
製造例2で作成したチオールエステル基を含有するアクリル樹脂溶液200部にジペンタエリスリトールポリアクリレート(日本化薬製 KAYARAD DPHA)17.4部、及びテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.59部を添加し、1時間ディスパーにて攪拌混合することで、チオールエステル基及びアクリル基を含有する硬化性樹脂組成物を得た。
【0073】
実施例3
チオールエステル基及び不飽和結合(マレイル基)を含有する硬化性樹脂組成物の調製
製造例1で作成したチオールエステル基を含有するエポキシ樹脂溶液284部に不飽和ポリエステル(昭和高分子製 リゴラック6500A−1)200部及びテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.14部を添加し、1時間ディスパーにて攪拌混合することで、チオールエステル基及びマレイル基を含有する硬化性樹脂組成物を得た。
【0074】
実施例4
チオールエステル基及びオキサゾリン基を含有する硬化性樹脂組成物の調製
製造例1で作成したチオールエステル基を含有するエポキシ樹脂溶液113部に1,3−ビス(4,5−ジヒドロ−2−オキサゾリル)ベンゼン25.0部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.510部、メタノール52.2部を添加し、1時間ディスパーにて攪拌混合することで、チオールエステル基及びオキサゾリン基を含有する硬化性樹脂組成物を得た。
【0075】
実施例5
チオールエステル基及びカルボジイミド基を含有する硬化性樹脂組成物の調製
製造例1で作成したチオールエステル基を含有する樹脂溶液50.1部に製造例4で合成したカルボジイミド基含有樹脂51.7部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.609部を添加し、1時間ディスパーにて攪拌混合することで、チオールエステル基及びカルボジイミド基を含有する硬化性樹脂組成物を得た。
【0076】
実施例6
チオールエステル基及びエポキシ基を含有する硬化性樹脂組成物の調製
製造例1で作成したチオールエステル基を含有する樹脂溶液120部にペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製 デナコールEX−411)40.0部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.882部を添加し、1時間ディスパーにて攪拌混合することで、チオールエステル基及びエポキシ基を含有する硬化性樹脂組成物を得た。
【0077】
(アセトン不溶分率の評価)
実施例1〜6で得られた硬化性樹脂組成物を、脱脂したブリキ板(JIS G3303(SPTE))に乾燥膜厚が30ミクロンになるようにアプリケーターを用いて塗装し、80℃で3分予備乾燥を行った後、150℃で30分間焼付けを行い、塗板を作成した。この塗板をアセトン蒸気で6時間抽出し、アセトン不溶分率を測定した。
【0078】
その結果、実施例1に係る硬化性樹脂組成物のアセトン不溶分率は91%、実施例2に係る硬化性樹脂組成物のアセトン不溶分率は95%、実施例3に係る硬化性樹脂組成物のアセトン不溶分率は95%、実施例4に係る硬化性樹脂組成物のアセトン不溶分率は92%、実施例5に係る硬化性樹脂組成物のアセトン不溶分率は80%、実施例6に係る硬化性樹脂組成物のアセトン不溶分率は84%であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の硬化性樹脂組成物は、塗料、接着剤等の種々の用途において使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(ここで、Xは、脂肪族、脂環族又は芳香族の任意の炭化水素である)
で示される官能基を複数含有する多官能チオールエステル化合物と、
チオール基と反応可能な官能基を複数有する化合物と、
塩基とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記多官能チオールエステル化合物は、複数のエポキシ基を有する化合物とチオカルボン酸との反応により得られるものである請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記チオール基と反応可能な官能基は、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、及び不飽和結合からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする硬化性塗料組成物。

【公開番号】特開2007−270047(P2007−270047A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99871(P2006−99871)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発 革新的水性塗料の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】