説明

硬化性歯科用組成物

【課題】 水を含有する構成であっても保存安定性に優れた硬化性歯科用組成物を提供する。
【解決手段】 a)水20〜80重量%,b)酸反応性フィラー50〜80重量%,c)水溶性増粘材1〜30重量%から成るペースト状の第一成分と、d)α−β不飽和モノカルボン酸またはα−β不飽和ジカルボン酸の重合体を15〜100重量%含む第二成分とから構成される歯科用組成物とする。このとき、第一成分に更に、酸基を有さない(メタ)アクリレートを1〜50重量%含み、第一成分及び/または第二成分に重合開始剤を0.01〜5重量%含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用補綴物の合着,窩洞または根管用の充填材等に用いられる硬化性歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸反応性フィラーとα−β不飽和カルボン酸重合体とを反応させ硬化させる歯科用組成物には水が含有されているものがある(例えば、特許文献1〜3参照。)。そのような材料は保存期間中に水の蒸発により変質が起こってしまうことがあるので、それを避けるために容器の本体と蓋の接合部を改良して密閉性を高めたり、容器自体に通気性の低い材質を選択したりする等の工夫が必要であった。しかし、このような方法はコストがかかり容器の値段が上がってしまう問題がある。また、容器の密閉性を高めると、(メタ)アクリレート化合物を併用した硬化性歯科用組成物の場合には、(メタ)アクリレート化合物は酸素の供給が遮断されると保存期間中にゲル化してしまうという問題があった。従って、特に、水と(メタ)アクリレート化合物が共存する組成においては保存安定性を確保することが非常に困難であった。
【0003】
【特許文献1】特開平11−228327号公報
【特許文献2】特開2007−091607号公報
【特許文献3】特開2007−091689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は水を含有する硬化性歯科用組成物において、保存安定性に優れた硬化性歯科用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、a)水20〜80重量%,b)酸反応性フィラー50〜80重量%,c)水溶性増粘材1〜30重量%から成るペースト状の第一成分と、d)α−β不飽和モノカルボン酸またはα−β不飽和ジカルボン酸の重合体を15〜100重量%含む第二成分とから構成される硬化性歯科用組成物とすれば前記の課題を解決できることを見出し本発明を完成した。また、本発明に係る硬化性歯科用組成物は、第一成分に酸基を有さない(メタ)アクリレートを1〜50重量%含み、第一成分及び/または第二成分に重合開始剤を0.01〜5重量%含んでいると硬化後の強度を向上させることができ、第二成分が更に水及び/または(メタ)アクリレートを10〜85重量%含むペースト状であると第一成分と第二成分の混合操作が行いやすくなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る硬化性歯科用組成物は水を含有する構成でありながら高価な密封性の高い容器を用いなくても保存安定性が高い優れた硬化性歯科用組成物であり、特に水とメタ(アクリレート)化合物を共存していても優れた保存安定性を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る硬化性歯科用組成物は酸反応性フィラーとα−β不飽和カルボン酸重合体とを反応させ硬化させる構成であるため、第一成分に水を20〜80重量%含む。20重量%未満では硬化反応が不十分となり、80重量%を超えると硬化体が脆くなる。
【0008】
本発明に使用する酸反応性フィラーは従来から歯科用セメントで用いられている酸反応性フィラーが使用可能であり、例えば歯科用グラスアイオノマーセメントに用いるフルオロアルミノシリケートガラス粉末や歯科用セメント用の金属酸化物粉末等がある。フルオロアルミノシリケートガラス粉末は、主要成分としてAl3+、Si4+、F、O2−を含み、更にSr2+及び/またはCa2+を含むアルミノシリケートガラス粉末が好ましく、特に主要成分の割合がガラスの総重量に対してAl3+:10〜21重量%、Si4+:9〜21重量%、F:1〜20重量%、Sr2+とCa2+の合計:10〜34重量%であることが望ましい。ポリ酸と反応し得る酸化物粉末はアルコキシシランによって表面を修飾されていてもよい。
【0009】
酸反応性フィラーは第一成分中に50〜80重量%含まれている。50重量%未満では硬化性歯科用組成物に十分な強度やX線造影性を与えることができず、80重量%を超えると水分が少なくなり保存性が低下する。
【0010】
水溶性増粘材は保湿のために配合される。水溶性増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム,デンプン,デンプングリコール酸ナトリウム,デンプンリン酸エステルナトリウム,メチルセルロース,ポリアクリル酸ナトリウム,アルギン酸,アルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステル,カゼイン,カゼインナトリウム,ポリエチレングリコール,エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,グルテン,ローカストビーンガム,ゼラチン等が挙げることができる。中でもカルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましい。これらの水溶性の増粘材は2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
水溶性の増粘材は第一成分中に1〜30重量%配合される。1重量%未満では水溶性増粘材による保湿の効果が得られず、30重量%を超えると硬化性歯科用組成物の物性が低下する。
【0012】
本発明に係る硬化性歯科用組成物は、第二成分として先の酸反応性フィラーと反応し硬化する成分としてα-β不飽和モノカルボン酸またはα-β不飽和ジカルボン酸の重合体を5〜100重量%含む。5重量%未満では硬化性歯科用組成物の歯質接着性が低下する。α-β不飽和モノカルボン酸またはα-β不飽和ジカルボン酸の重合体は、例えばアクリル酸,メタクリル酸,2−クロロアクリル酸,アコニット酸,メサコン酸,マレイン酸,イタコン酸,フマール酸,グルタコン酸,シトラコン酸等の単独重合体或いは共重合体のことである。これ等共重合体はα-β不飽和カルボン酸同士の共重合体であってもよく、α-β不飽和カルボン酸と共重合可能な成分との共重合体でもよい。共重合体の場合にはα-β不飽和カルボン酸の割合は50%以上であることが好ましい。共重合可能な成分とは、例えばアクリルアミド,アクリロニトリル,メタクリル酸エステル,アクリル酸塩類,塩化ビニル,塩化アリル,酢酸ビニルがある。これ等のα−β不飽和カルボン酸の重合体の中で、特に好ましいものとしてはアクリル酸またはマレイン酸の単独重合体または共重合体であり重量平均分子量は5,000〜40,000である。5,000未満の重量平均分子量を有する重合体を使用した場合は硬化物の強度が低くなる。また、歯質への接着力も低下する。40,000を超える重量平均分子量を有する重合体を使用した場合は、セメント組成物の練和時の稠度が堅過ぎて練和が難しくなる。従って、本発明で使用されるα-β不飽和カルボン酸重合体の平均分子量は5,000〜40,000の範囲が好ましい。
【0013】
本発明に係る硬化性歯科用組成物は、第一成分に更に、酸基を有さない(メタ)アクリレートを1〜50重量%含み、第一成分及び/または第二成分に重合開始剤を0.01〜5重量%含む硬化性歯科用組成物であってもよい。この場合には硬化性歯科用組成物の硬化後の強度を高めることができ、更に重合反応を併用することによりこの硬化性歯科用組成物の硬化のタイミングを自由に設定することが可能となる。酸基を有さない(メタ)アクリレートの配合量は1重量%未満では(メタ)アクリレートを配合する効果が無く、50重量%を超えると酸反応性フィラーとα−β不飽和カルボン酸重合体との反応によって生じる硬化体の歯質への接着性が低下してしまう。
【0014】
本発明での酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物は、酸基を有さない、アクリレートまたはメタクリレートの各種のモノマー,オリゴマー,プレポリマーを意味している。本発明で使用する(メタ)アクリレート化合物として具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらのモノマーあるいはオリゴマーあるいはプレポリマーが好適に使用できる。また、ウレタン結合を持つ(メタ)アクリレートとして、ジ−2−(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5−トリス[1,3−ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}−2−プロポキシカルボニルアミノヘキサン]−1,3,5−(1H,3H,5H)トリアジン−2,4,6−トリオン、2,2−ビス−4−(3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−フェニルプロパン等があり、その他2,2’−ジ(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと2−オキシパノンとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
本発明に係る硬化性歯科用組成物に(メタ)アクリレート化合物を使用する場合には、第一成分か第二成分の少なくと一方に(メタ)アクリレート化合物の重合を開始させるための重合開始剤を併用する必要がある。重合開始剤としては従来から(メタ)アクリレート化合物の重合に用いられている重合開始剤が制限無く使用できる。重合開始剤の配合量は第一成分及び/または第二成分中に0.01〜5重量%が好ましい。0.01重量%未満では(メタ)アクリレート化合物の重合反応が十分に起こり難く、5重量%を超えると重合が早すぎて操作時間が短くなってしまう。
【0016】
本発明に係る硬化性歯科用組成物には、α−β不飽和モノカルボン酸またはα−β不飽和ジカルボン酸の重合体と水の存在下で反応しないフィラーを含んでいてもよい。このフィラー成分により硬化体の強度が向上する。フィラーとしては無水ケイ酸,バリウムガラス,アルミナガラス,カリウムガラス,フルオロアルミノシリケートガラス等のガラス類、合成ゼオライト,リン酸カルシウム,長石,ヒュームドシリカ,ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム,炭酸マグネシウム,含水ケイ酸,含水ケイ酸カルシウム,含水ケイ酸アルミニウム,石英等の粉末がある。これらのフィラーは(メタ)アクリレート化合物と結合させるために、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,ビニルトリクロロシラン,ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリアセトキシシラン,ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等のシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。また、前記のフィラーを予めモノマーやオリゴマーと混合して硬化させた後、粉砕して作製した有機無機複合フィラーも使用することができる。これらのフィラーは単独または2種以上を混合して使用することができる。中でも、無水ケイ酸、含水ケイ酸、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウムは、長期間保存した場合でも重合前の液成分がゲル化を防ぐことができる。
【0017】
なお、本発明に係る硬化性歯科用組成物には必要に応じて通常用いられる蛍光剤,抗菌剤,顔料等を適宜配合することもできる。
【実施例】
【0018】
表2〜4に示した配合(重量%)によって第一成分及び第二成分を作製し、保存安定性の試験を実施した。
【0019】
表中の記号の意味はそれぞれ以下の通り。
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
UDMA:ジ-2-メタアクリロキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
HEMA:2−ヒドロキシメタクリレート
【0020】
CMCNa:カルボキシメチルセルロースナトリウム
PANa:ポリアクリル酸ナトリウム(分子量:5,000〜20,000)
PG:ポリエチレングリコール(分子量:5,000〜100,000)
【0021】
アエロジル:ヒュームドシリカ(商品名 R812,日本アエロジル社製)
【0022】
BHT:ブチルヒドロキシトルエン
p−DE:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
CQ:カンファーキノン
【0023】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末の配合を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIについては、原料を十分混合し1200℃の高温電気炉中で5時間保持しガラスを溶融させた。溶融後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させた後の粉末をフルオロアルミノシリケートガラス粉末とした。フルオロアルミノシリケートガラス粉末IIについては、1100℃で溶融した以外はフルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIと同様の操作で作製した。
【0026】
『保存試験(安定性)』
各実施例及び比較例の第1成分を押出具の容器(商品名 ジーシーフジルーティングS カートリッジ:ジーシー社製)に充填して容器ごと重量を測定した。容器を50℃の恒温状態で保管し12週間後に再度重量を測定した。12週間で3重量%以上重量が減った場合を不可(×)、減量が3重量%未満の場合を可(○)として評価し、結果を表2〜4に示した。
【0027】
『保存試験(押し出し性の確認)』
各実施例及び比較例の第1成分を押出具の容器(商品名 ジーシーフジルーティングS カートリッジ:ジーシー社製)に充填し50℃の恒温状態で12週間保管した。保管後に専用押出具(商品名 ジーシーCDディスペンサーII:ジーシー社製)に容器を装着し第一成分を押し出した。問題なく押し出せた場合を可(○)、押し出せなかった場合を不可(×)として評価し、結果を表2〜4に示した。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)水20〜80重量%,b)酸反応性フィラー50〜80重量%,c)水溶性増粘材1〜30重量%から成るペースト状の第一成分と、d)α−β不飽和モノカルボン酸またはα−β不飽和ジカルボン酸の重合体を15〜100重量%含む第二成分とから構成される歯科用組成物。
【請求項2】
第一成分に更に、酸基を有さない(メタ)アクリレートを1〜50重量%含み、第一成分及び/または第二成分に重合開始剤を0.01〜5重量%含む請求項1に記載の歯科用性組成物。
【請求項3】
第二成分が、水及び/または(メタ)アクリレートを10〜85重量%含むペースト状である請求項1または2に記載の歯科用組成物。

【公開番号】特開2010−229078(P2010−229078A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78330(P2009−78330)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】