説明

硬度を向上させるための溶接の熱収縮の制御方法

向上した靭性を有する金属上塗を形成するための方法を提供する。金属上塗は、溶接、金属被覆、または類似の塗布であってもよい。その方法は、金属合金を形成するガラスを基板に適用することを含み、その金属合金は、溶融または半溶融状態にある。金属合金上塗と基板との界面では、その基板金属は、少なくとも部分的に溶融状態にあり、その合金と結合して冶金結合を形成する。その金属合金が冷却されると、かなり比較的高程度の熱収縮を経る。その基板と合金との冶金結合は、その基板との界面で合金の収縮を抑制する。これは、金属合金上塗の圧縮応力の誘因をもたらす。この引き起こされた圧縮応力は、上塗のクラックの形成、および/または、上塗のあらゆるクラックの影響の緩和を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接型の上塗の特性及び性能を改善する強靭化機構に関する。溶接型の上塗の硬度は、冷却中に溶接上塗の熱収縮を制御することによって改善される。本発明の硬度を増加した溶接型の上塗は、金属部品の修正や修理と同様に、表面硬化、耐磨耗/上塗プレートを含む多くの用途で利用される。
【背景技術】
【0002】
しばしば、一般的な材料では、硬度と靭性との間には逆相関がある。一般的に、材料の硬度が上昇すれば、必ずしも比例はしないけれども、その材料の靭性には相当する低下が生じるだろう。この逆相関の理由は、その転位運動のメカニズムが一般的な材料の硬度と靭性の両方に重要な影響をもたらすためである。欠陥が材料に導入されると、その欠陥は転位を妨げ、それによってその材料が降伏することを妨げる。このメカニズムは、その材料を硬くしたり強靭にしたりする。通常、材料から欠陥を取り除くことによって、転位はかなりの延性を生じて、それらのすべり面やすべり方向に自由に移動することができる。一般的な見地から、クラック先端の前部の応力集中は、応力集中要因を減少させ、それによってクラックの成長を防止することになるクラック先端を丸くする塑性領域を生成するので、クラックに対する抵抗(すなわち、靭性)は、材料の延性によって決定されるであろう。
【0003】
熱溶射被覆産業は成熟産業であり、高性能被覆の適用によって部品の寿命を劇的に改善するために用いられている一方で、熱溶射被覆手法が十分に磨耗性の問題を解決することができていない多くの軍事的や産業上の用途がある。問題のある用途は、しばしば、被覆された部品に対する大きな負荷、高い応力点負荷、強い衝撃、ガウジングなどを必要としている。さらに、熱溶射は、部品の修正や修理のためなどの限られた場合に使用される一方で、溶接技術は広く必要とされるものだろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、金属被覆における硬度と靭性の最も効率的なバランスを提供することを目的とし、既知の用途において、両方のパラメータは、磨耗及び衝撃型の両方の現象に対する部品の寿命を改善するために最適化される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1形態において、本発明は、熱膨張係数Xを有する金属基板を用意し、熱膨張係数Yを有する金属合金を用意し、Y>Xであり、合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、前記合金/基板界面で前記合金を固定しながら、前記合金を収縮し、それによって前記金属合金内に圧縮残留応力を生成する、金属上塗の形成方法である。
【0006】
第2形態において、本発明は、熱膨張係数Xを有する金属基板を用意し、熱膨張係数Yを有する金属合金を用意し、Y>Xであり、前記金属合金は降伏強度Zを有し、合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、前記合金/基板界面で前記合金を固定しながら、前記合金を収縮し、それによって前記金属合金内に圧縮残留応力を発現し、前記圧縮応力は前記降伏応力Zを超えない、金属上塗の形成方法である。
【0007】
第3形態において、本発明は、熱膨張係数Xを有する金属基板を用意し、熱膨張係数Yを有する金属合金を用意し、Y>Xであり、前記金属合金は降伏強度Zを有し、合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、前記合金/基板界面で前記合金を固定しながら、前記合金を収縮し、それによって前記金属合金内に圧縮残留応力を生成し、前記圧縮応力は前記降伏応力Zを超えず、前記金属合金は約850kg/mmより大きい硬度を有する、金属上塗の形成方法である。
【0008】
他の形態において、本発明は、金属基板を用意し、金属合金を用意し、合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、200MPam1/2より大きい破壊靭性と5GPaより大きい硬度を有する前記合金を形成するために前記合金を冷却する、金属上塗の形成方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、改善された靭性を有する基板に金属上塗を提供する方法である。その方法は、冷却後にその金属材料内に圧縮応力(圧縮残留応力)を生成させるメカニズムを含む。収縮によって生じた圧縮残留応力は、クラックが形成されることを防止し、また形成されるクラックの先端を閉じるように作用する。金属上塗内のクラックを防止したり、緩和したりすることによって、クラック先端に発生した応力集中要因を劇的に減少させることができる。
【0010】
溶接上塗という用語は、少なくとも部分的に溶融状態にある基板に適用される金属材料を意味する。さらに、溶接上塗という用語は、金属材料と基板との間に少なくとも部分的な冶金結合(metallurgical bonds)がある、金属材料と基板との間の溶解界面を意図する。冶金結合は、金属材料と基板との間に金属型の化学結合を形成する化学結合作用を含む。
【0011】
したがって、溶接上塗は、溶接法に適用される金属材料に限定されないが、溶融あるいは半溶融金属が基板上に溶射される熱溶射金属被覆と、溶解被覆が加熱されて基板と融合することを引き起こす溶解被覆とを含む。溶融または半溶融状態の金属材料が基板と少なくとも部分的に融合し、それによって基板と冶金結合を形成する様々な他の被覆のタイプや方法が理解されるであろう。
【0012】
同様に、溶接材料は、本発明に一致する、上記で予想された方式が適用され、および/または、基板やベースと共に冶金結合を形成することに適用されるあらゆる金属材料を参考にできることは理解されるべきである。一般的に、これらの金属材料は、ガラス形成金属合金として分類されるであろう。特に、相応しい金属ガラスは、合金を形成する鉄基ガラスであろう。これらの相応しい合金は、高い硬度と降伏強度を示し、速い冷却速度でガラスを形成する能力を有するだろう。しかしながら、凝固中においてガラス形成領域が失われている場合があるので、実際のガラス形成は先天的ではないが、高いレベルの過冷却は達成される。この過冷却は、ナノスケール構造に対する急速な転移を補助する大きな推進力を提供することができる。例示した組成は、十分に高いガラス形成能と十分に高い熱膨張とを有するあらゆるベース金属を含む。
【0013】
本発明は、ガラス形成合金がいつ溶接されるのか、通常の鋼基板に比較してそれらが冷却中に大きな収縮を経験するのかを認識することができる。溶接中において、溶接材料とベース金属と間には複雑な混合が生じ、完全に、あるいは、少なくとも部分的な冶金結合は液状溶融物から形成され、その後、冷却中が維持される。溶接材料は冷却されると、それはあらゆる方向において収縮するが、ベース金属との親密な接触や冶金結合によって少なくとも1つの方向ではそれは抑制される。さらに、溶接堆積物が冷却されると、それはベース金属や基板よりかなり収縮し、そしてさらに、高い圧縮残留応力を有する状態に凝固する。この好ましい残留応力は、溶接材料中にクラックが形成されたり、および/または、伝播されたりすることを妨げる。さらに、増加して保持たれたこれらの圧縮応力は、溶接材料中におけるクラックの形成を阻止し、それによって溶接材料の靭性が増加する。
【0014】
ここに開示された残留応力の発達は、一般的な金属で同程度に発生することは観測されない。通常の溶接材料が凝固するとき、溶接材料と基板との間の熱膨張係数に大きな差異がある場合は、大きな局在化された応力が生じるだろう。もし、これらの局在化された応力が溶接材料の降伏強度を超える場合は、その残留応力を取り除いたり和らげたりするように動作するその材料の塑性流動が発生するだろう。もし、その溶接材料の可塑性や破断伸びが局在化された領域で勝った場合、クラック形成が起こるだろう。
【0015】
高い圧縮残留応力を形成することができることに加えて、本発明は、凝固に際してそのような残留応力を保持するガラス形成合金の独特の能力を利用する。この1つの側面は、この種の材料に見られる高い降伏強度である。例えば、合金を形成する鉄基ガラスにおいて測定される降伏強度は、室温で3000MPa程度の高さであり、700℃で1800MPa程度の高さであるに違いない。ちなみに、超高強度鋼(Ultra High Strength Steels)は、通常、1380〜1520MPaの範囲の室温降伏強度を有することに留意されたい。700℃において上記の合金は、室温状態における超高強度鋼と呼ばれるものより高い降伏強度を示す。鉄基ガラスの高い降伏強度は、高い圧縮残留応力が溶接堆積物中で維持されることの理解を支持するが、その応力はその溶接材料の降伏強度を超えず、すなわち、その応力はその材料の弾性領域で作用する。これらの結論、上塗および溶接などを利用することによって、塑性変形とクラック現象は共に避けることができ、高い圧縮残留応力が維持される。
【0016】
本発明によれば、金属ガラスは、例えば溶接部または熱溶射被覆として基板上に堆積されるだろう。そのような技術を用いて、その金属ガラスは、溶融あるいは半溶融状態で堆積される。堆積されている金属ガラスの加熱および/または追加的な処理条件は、基板の表面の少なくとも一部を溶融あるいは半溶融状態に達成することを引き起こすだろう。望ましくは、堆積されている金属ガラスは、少なくとも部分的に基板と融合し、金属ガラスと基板との間に冶金結合を形成する。金属ガラスは、適用された溶融または半溶融状態から冷却されると、比較的高い熱収縮を経験する。参照した金属ガラスの熱膨張は、ベース基板材料より高い熱膨張係数を有し、好ましくは、少なくとも15.0%高いということが重要な点である。その基板と金属ガラスとの間の冶金結合は、その接合部分に沿った金属ガラスの収縮を制限する。結果として、高い圧縮応力が金属ガラス中に生じる。その総合的作用は、そのメカニズムは異なるけれども、ショットピニングや鍛造用ハンマーにいくらか近似しているかもしれない。
【0017】
上記に暗示した通り、本発明は、溶接手法やガラス形成合金と基板との間の冶金結合の形成を含む同様の手法に用いることができる。相応しい手法として、プラズマアーク溶接(Plasma Transferred Arc Welding)、金属不活性ガス溶接(Metal Inert Gas Welding)、レーザー溶接(Laser Engineered Net Shape)、シールド金属アーク溶接(Shielded Metal Arc Welding)、粉末溶接(powder Welding)、ガスタングステンアーク溶接(Gas Tungsten Arc Welding)を含んでもよい。これらの例示の手法は、粉体原料、フレキシブルワイヤー原料、単線原料を利用してもよい。しかしながら、使用される原料の形態または具体的な手法は、本発明の側面を限定するものではない。
【0018】
したがって、ここで、本発明は、溶接上塗の硬度の改善に相応しい。その点で、溶接上塗の硬度が、そのミクロ構造スケール、合金元素の過飽和のレベル、結晶粒界すべり及び結晶粒界転移に抵抗する特定の結晶粒組の抵抗を含む様々な要素に依存しているということは、何の意味も無い。
【0019】
(実施例)
4つの試験合金は、一般的な合金技術を用いて表1に記載された組成を有するように用意された。その金属合金は、1/16’’(インチ)の直径を有する芯線として提供された。その種々の合金の芯線は、金属不活性ガス溶接装置を用いて、98%Ar−2%Oからなる溶接シールドガスを用いて32V、250Aで処理され、様々な平らなカーボンや合金鋼基板上に堆積された表面硬化堆積物を与えた。
【0020】
【表1】

【0021】
第1試験として、合金Bと合金Cを用いて得られた溶接物の硬度がロックウェル硬度試験(Rockwell C hardness testing)を用いて決定された。合金Bと合金Cの電線原料(wire stock)を用いて得られた溶接物は、それぞれRc=62、Rc=65という予想外に高い硬度を有することが分かった。さらに合金Cと合金Dは、ビッカース硬度を決定するために試験された。合金Bと合金Cのロックウェル硬度と同様に、合金Cと合金Dから形成された溶接堆積物のビッカース硬度は、予想外に高いことが明らかになり、それぞれ950kg/mmと1100kg/mmの値を示した。
【0022】
その合金の硬度は、その試験合金の溶接堆積物を用いて耐磨耗加工が施されているその基板に直接的な衝撃を与えることができるハンマー、または、ハンマーと彫刻刀(チゼル)を用いて実験的に測定された。通常、表1に示されている組成を有する合金は、インゴット形状において非常に低い硬度を有することが以前に観測されている。例えば、ボールビーンハンマーによる1回の中程度の打撃は、しばしば、そのインゴットにクラックを生じさせるであろう。アーク溶解によって形成された合金Aのインゴットにおいて、試験前(左側)とボールピーンハンマーの一回の中程度の打撃を受けた試験後(右側)のそのような典型的な結果が図1に示されている。予想される結果に反して、試験合金の溶接堆積物は、非常に高い硬度を示す。実験評価では、その試験合金の溶接堆積物の表面硬化被覆に対する繰り返しのハンマー打撃によっては、溶接堆積物に如何なる観察可能なクラックも生じなかった。さらに、ハンマーと彫刻刀を用いた繰り返しの打撃(50回を越す)は、その溶接物から除去される1gにも満たない極微量の材料をもたらした。試験中に、その溶接材料への打撃の結果として、4つの異なる鋼の彫刻刀が丸くなり、それから、彫刻刀を研ぐことと丸くなることを繰り返した。
【0023】
ハンマーと彫刻刀の試験に加えて、注目すべきことであるが、合金Cの溶接堆積物の試料断面は、Palmqvist法を用いて硬度試験を行った。Palmqvist試験中、圧入荷重は、初期値として2kgに設定され、そして、その後に90kgまで増加された。最大試験荷重である90kgまで増加させたにも関わらず、その溶接堆積物にはクラックが観察されなかった。その合金溶接物にはクラックが観察されなかったので、Palmqvist法を用いて硬度の測定数値を得ることは可能ではない。しかしながら、光学顕微鏡の解像度(10−6m)以下である10−7mから10−8mのオーダーの平均放射クラック長を仮定することによって、破壊靱性に対する最低値を推定するためにPalmqvist法を用いることは可能であろう。この仮定を用いると、合金Cの溶接堆積物の破壊靱性の予想される最低値は22〜70MPam1/2であろう。
【0024】
比較として、関連文献である、例えばD.K.Shetty,I.G.Wright,P.N.Mincer,A.H.Clauer,J.Mater.Sci.20,1873,(1985)は、焼結されたタングステン炭化物が、約2.5Kgのオーダーの非常に小さな圧入荷重でPalmqvist試験中にクラックが生じ始めることを明らかにしている。また、その文献は、90Kg荷重を加えた場合の焼結されたタングステン炭化物における予想される平均放射クラック長が約1000ミクロンであると推定できることを示している。破壊靱性を測定するためのPalmqvist法は、表面硬化された溶接物や焼結された炭化物の業界で構築され、硬度を測定するためのその業界標準であることに留意されたい。以前の研究に基づくと、Palmqvist靭性は、正確にはプレインストレイン破壊靱性(KIC)と相互に関連する。例えば、D.K.Shetty,I.G.Wright,P.N.Mincer,A.H.Clauer,J.Mater.Sci.20,1873,(1985)、及び、G.R.Anstis,P.Chantikui,B.R.Lawn,D.B.Marshall,J.Am Ceram.Soc.64,533,(1981)を参照されたい。
【0025】
図4を参照すると、鉄合金、アルミニウム合金、ニッケル合金、炭化物、窒化物および酸化物を含む種々の合金における硬度に対する靭性が示されている。示されているように、硬度と靭性との間には一般的な逆相関が見られる。プロット上で、合金Cの溶接物(DARとして示す)が、靭性と硬度の新規な組み合わせを有する新しい材料形態をとることが見られる。図4に見られるように、合金Cは、他に類を見ないほど高い破壊靱性を示すだけではなく、その高い破壊靱性は相当する硬度の減少なしに達成される。以下の表2から表10は、表形式で図4のデータを提供している。
【0026】
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【0027】
その試験合金のさらなる試験は、合金Bの示差熱重量分析(DSC)を含む。そのDSC分析は、その合金が少なくとも少量のガラスを含むことを示した。そのガラスフラクションの存在は、その試験組成の合金における金属ガラス転移の温度である約615℃におけるピークによって示された。合金Cと合金Dは共に、合金Bに比べて高いガラス形成能を有するように設計された。
【0028】
上記で検討された実験例は、MIG溶接積層された合金が、高程度の靭性と高レベルの硬度とを有する本発明に一致することを示した。出願時において、この靭性は、その材料が積層される基板よりも、溶接積層物材料の異なる熱膨張に関連すると信じられている。この理論は、20〜1000℃の温度範囲で測定される合金を形成する選択された鉄基ガラスの熱膨張の試験に基づいている。熱膨張の試験は、膨張計(Theta Industries Dilamatic II dilatometer)を用いて高速酸素溶射によって得られた合金の試験片で実施された。実験的に決定された温度に対する合金の熱膨張は、図2に示されている。このプロットで、それぞれの合金で見られるスロープの減少は、図3に示すようにガラスが結晶化する際に生じる体積減少の結果を立証することに留意されたい。それぞれの合金におけるスロープの減少の開始点は、それぞれの合金におけるガラス結晶化温度に相当することに留意されたい。
【0029】
図3を参照すると、溶接された試験片と試験の前に完全に結晶化された試験片との両方における温度に対する合金Aの熱膨張のプロットが示されている。このプロットからは、完全に結晶化された試験片はガラスを有しないので、その試験片が温度の上昇に伴って膨張の減少を経なかったことが見られる。
【0030】
上述の実験に基づくと、合金鋼を形成するガラスが比較的高い熱膨張を示すことが分かった。いくつかの市販の合金鋼と比較されたその実験合金における熱膨張係数の試験結果は、表11に羅列されている。合金を形成するこれらの特定の鉄基ガラスは、William D.Callister,Jr.,Materials Science and Engineering,John Wiley & Sons, New York,1994に報告されているような多くの一般の鉄基合金より非常に高い熱膨張係数を有することが見られる。
【0031】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】合金Aのアーク溶接インゴットの写真であり、図中の左は、ボールピーンハンマーを用いて中程度の衝撃を与える前の写真であり、図中の右は、ボールピーンハンマーを用いて中程度の衝撃を与えた後の写真である。
【図2】合金A,B,C,Dの高速酸素試験片における熱膨張を示すプロットである。
【図3】合金Aの試験片を1000℃まで加熱した際の熱膨張を示すプロットであり、溶接試料と完全に結晶化した試料の両方を示すプロットである。
【図4】例示した鉄合金、アルミニウム合金、ニッケル合金、炭化物、窒化物、酸化物において、公知の結果と比較した合金Cの硬度/靭性を示す硬度対靭性をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張係数Xを有する金属基板を用意し、
熱膨張係数Yを有する金属合金を用意し、Y>Xであり、
合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、
前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、
前記合金/基板界面で前記合金を固定しながら、前記合金を収縮し、それによって前記金属合金内に圧縮残留応力を生成する、金属上塗の形成方法。
【請求項2】
前記合金は、Fe、Cr、Mo、W、B、C、Si及びMnの混合物からなる、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項3】
Feは50.0wt%を超えて含まれる、請求項2に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項4】
Fe、Cr、Mo及びWは、少なくとも前記混合物の90wt%を含む、請求項に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項5】
Fe及びCrは、少なくとも前記混合物の90wt%を含み、Crは約1.0wt%存在し、Moは約1.0〜2.0wt%存在する、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項6】
Fe及びCrは、少なくとも前記混合物の90wt%を含み、Crは約1.0wt%存在し、Moは約1.0〜2.0wt%存在し、Wは約3.0〜4.0wt%存在し、Bは約1.0〜2.0wt%存在し、Cは約0.1〜1.0wt%存在し、Siは0.1〜1.0wt%存在し、Mnは0.1〜1.0wt%存在する、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項7】
前記金属合金は、おおよそ65.9wt%のFe、25.3wt%のCr、1.0wt%のMo、1.8wt%のW、3.5wt%のB、1.2wt%のC、0.5wt%のSi、0.8wt%のMnの組成を有する、請求項2に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項8】
前記金属合金は、64.9wt%のFe、26.0wt%のCr、1.0wt%のMo、1.4wt%のW、3.6wt%のB、1.2wt%のC、1.0wt%のSi、0.8wt%のMnの組成を有する、請求項2に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項9】
前記金属合金は、68.0wt%のFe、23.2wt%のCr、1.2wt%のMo、1.5wt%のW、3.6wt%のB、0.9wt%のC、0.7wt%のSi、0.8wt%のMnの組成を有する、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項10】
前記金属合金を付ける段階は、溶接を含む、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項11】
前記金属合金を付ける段階は、熱溶射被覆を含む、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項12】
前記金属合金は、ベース基板の熱膨張係数より15%大きい熱膨張係数を有する、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項13】
前記鉄基合金は、12〜17ppm/℃の範囲の熱膨張係数を有する、請求項1に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項14】
熱膨張係数Xを有する金属基板を用意し、
熱膨張係数Yを有する金属合金を用意し、Y>Xであり、前記金属合金は降伏強度Zを有し、
合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、
前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、
前記合金/基板界面で前記合金を固定しながら、前記合金を収縮し、それによって前記金属合金内に圧縮残留応力を生成し、前記圧縮応力は前記降伏応力Zを超えない、金属上塗の形成方法。
【請求項15】
前記圧縮降伏強度は、室温で約1520MPaより大きい、請求項14に記載の金属上塗の形成方法。
【請求項16】
熱膨張係数Xを有する金属基板を用意し、
熱膨張係数Yを有する金属合金を用意し、Y>Xであり、前記金属合金は降伏強度Zを有し、
合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、
前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、
前記合金/基板界面で前記合金を固定しながら、前記合金を収縮し、それによって前記金属合金内に圧縮残留応力を生成し、前記圧縮応力は前記降伏応力Zを超えず、前記金属合金は約850kg/mmより大きい硬度を有する、金属上塗の形成方法。
【請求項17】
金属基板を用意し、
金属合金を用意し、
合金/基板界面を形成するために、前記金属合金を溶融して前記金属合金を前記金属基板に付け、
前記合金/基板界面における前記金属合金と前記基板との間に冶金結合を形成し、
200MPam1/2より大きい破壊靭性と5GPaより大きい硬度を有する前記合金を形成するために前記合金を冷却する、金属上塗の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−522874(P2006−522874A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509583(P2006−509583)
【出願日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/010035
【国際公開番号】WO2004/090288
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505307611)ザ・ナノスティール・カンパニー (19)
【Fターム(参考)】