説明

磁場測定装置

【課題】測定すべき磁場方向以外の方向に存在する外乱磁場の影響を抑制して磁場を測定する。
【解決手段】磁場測定装置9は、照射部1、ガスセル2、計測部(偏光分離器3、受光部4、信号処理回路5)、追従機構7を具備する。ガスセル2は、内部に気体原子を封入する。追従機構7の調節部72は、検知部71が検知した外乱磁場方向と、変換部12を通ってガスセル2に照射される照射光に含まれる直線偏光の電場の振動方向とが合うように、変換部12を動かして調節する。計測部は、照射部1により照射され、気体原子を透過した照射光の偏光面の回転角度を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を利用した磁場測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光を利用した磁場測定装置は、心臓からの磁場(心磁)や脳からの磁場(脳磁)などの生体から発生する微小な磁場を測定するもので、医療画像診断装置などへの応用が期待されている。磁場の測定には、アルカリ金属原子などのガスを封入した素子を用いる。この素子にポンプ光を照射することで素子内の原子のエネルギーが磁場に応じて励起され、この素子を透過したプローブ光の偏光面は磁気光学効果により回転する。磁場測定装置は、この偏光面の回転角度を磁場情報として測定する。
これらの磁場測定装置の感度を向上させる研究が行われている。特許文献1には、検出信号強度を増大させることによって、より高感度な磁場検出を可能にする光ポンピング磁力計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−236599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された磁力計では、測定すべき磁場方向以外の方向に外乱となる磁場(以下、外乱磁場ともいう)が存在すると、感度が低下するという問題がある。また、外乱磁場の方向は予測できないことがあり、磁場の測定中に変動することもある。
【0005】
本発明は、測定すべき磁場方向以外の方向に存在する外乱磁場の影響を抑制するように、その外乱磁場に応じて磁場を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る磁場測定装置は、内部に気体原子が封入されたガスセルと、直線偏光を含む照射光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、決められた測定方向に沿って照射する照射部と、前記測定方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を検知する検知部と、前記検知部が検知した方向と前記直線偏光の電場の振動方向とが合うように、前記照射光を調節する調節部と、前記照射部により照射され、前記気体原子を透過した照射光の偏光面の回転角度を計測する計測部とを具備することを特徴とする。
この構成によれば、測定すべき磁場方向以外の方向に存在する外乱磁場の影響を抑制するように、その外乱磁場に応じて磁場を測定することができる。
【0007】
好ましくは、前記照射部は、前記照射光を光ファイバーによってガスセルに導くとよい。
この構成によれば、光ファイバーによって照射光をガスセルに導かない場合に比較して、照射部の大きさや配置についての制約を減らすことができる。
【0008】
また、本発明に係る磁場測定装置は、内部に気体原子が封入されたガスセルと、決められた測定方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を検知する検知部と、円偏光成分を含むポンプ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記測定方向に垂直な方向に沿って照射するポンプ光照射部と、直線偏光を含むプローブ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記測定方向、および前記ポンプ光が照射される方向の両方に垂直な方向に沿って照射するプローブ光照射部と、前記プローブ光照射部により照射され、前記気体原子を透過したプローブ光の偏光面の回転角度を計測する計測部と、前記検知部によって検知された方向に沿って前記ポンプ光が照射されるように、前記ポンプ光照射部、前記プローブ光照射部、および前記計測部の各位置を調整する調整部とを具備することを特徴とする。
この構成によれば、測定すべき磁場方向以外の方向に存在する外乱磁場の影響を抑制するように、その外乱磁場に応じて磁場を測定することができる。
【0009】
好ましくは、前記ポンプ光照射部は、前記ポンプ光を光ファイバーによってガスセルに導き、前記プローブ光照射部は、前記プローブ光を光ファイバーによってガスセルに導くとよい。
この構成によれば、光ファイバーによってポンプ光およびプローブ光をガスセルに導かない場合に比較して、ポンプ光照射部およびプローブ光照射部の大きさや配置についての制約を減らすことができる。
【0010】
また、本発明に係る磁場測定装置は、内部に気体原子が封入されたガスセルと、磁場が最も強い方向を検知方向として検知する検知部と、直線偏光を含む照射光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記検知部によって検知された検知方向に垂直な方向である測定方向に沿って照射する照射部と、前記照射部により照射され、前記気体原子を透過した照射光の偏光面の回転角度を計測する計測部と前記検知方向と前記直線偏光の電場の振動方向とが合うように、前記照射光を調節するとともに、前記ガスセル、前記照射部、および前記計測部の位置を調整する調整部とを具備することを特徴とする。
この構成によれば、外乱磁場に応じてその影響を受け難い方向を測定すべき磁場方向と定め、その磁場を測定することができる。
【0011】
また、本発明に係る磁場測定装置は、内部に気体原子が封入されたガスセルと、磁場が最も強い方向を検知方向として検知する検知部と、円偏光成分を含むポンプ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して照射するポンプ光照射部と、直線偏光を含むプローブ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記ポンプ光が照射される方向に垂直な方向に沿って照射するプローブ光照射部と、前記プローブ光照射部により照射され、前記気体原子を透過したプローブ光の偏光面の回転角度を計測する計測部と、前記検知部によって検知された検知方向に沿って前記ポンプ光が照射されるように、前記ポンプ光照射部、前記プローブ光照射部、および前記計測部の各位置を調整する調整部とを具備することを特徴とする。
この構成によれば、外乱磁場に応じてその影響を受け難い方向を測定すべき磁場方向と定め、その磁場を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る磁場測定装置の全体構成を示す図である。
【図2】磁気シールドの外観を示す図である。
【図3】ワンビーム方式の測定装置により磁場を測定する原理を説明するための図である。
【図4】第1実施形態に係る磁場測定装置の特徴を有していない測定装置による磁場の測定を説明するための図である。
【図5】第1実施形態に係る磁場測定装置による磁場の測定を説明するための図である。
【図6】第2実施形態に係る磁場測定装置の全体構成を示す図である。
【図7】外乱磁場方向に沿ってポンプ光が照射されるように、ポンプ光照射部などの位置が調整させられる様子を示した図である。
【図8】ツービーム方式の測定装置により磁場を測定する原理を説明するための図である。
【図9】第2実施形態に係る磁化ベクトルの軌跡を説明する図である。
【図10】第2実施形態に係る磁場測定装置の特徴を有していない測定装置による磁場の測定を説明するための図である。
【図11】第2実施形態に係る磁場測定装置による磁場の測定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1実施形態
1−1.構成
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁場測定装置9の全体構成を示す図である。磁場測定装置9は、ポンプ光の照射をプローブ光の照射によって兼ねる、いわゆるワンビーム方式の測定装置である。照射部1は、光源11と変換部12とを備える。光源11は、後述するガスセル2に封入された原子の超微細構造準位の遷移に対応した周波数のレーザーを発生させるレーザー発生装置である。変換部12は偏光板などを備え、光源11が発生させたレーザーを所定方向の直線偏光成分を有する照射光に変換する。光源11により発生し変換部12により変換された照射光は、例えば光ファイバーなどにより導かれてガスセル2に照射される。なお、上述の照射光は、光ファイバーなどを介さずに直接、照射部1などから照射されてもよいが、光ファイバーなどにより照射光を導くことにより、照射部1の大きさや配置などの制約が少なくなる。
【0014】
ガスセル2は、カリウム(K)やセシウム(Cs)などのアルカリ金属原子が封入されたガラス製のセル(素子)である。ガスセル2は、照射部1から照射された上述の照射光を透過させる。ガスセル2を透過した上述の照射光は、光ファイバーなどにより偏光分離器3に導かれる。なお、ガスセル2の材質はガラスに限られず、照射光を透過する材質であれば、樹脂などであってもよい。また、ガスセル2を透過した上述の照射光は、光ファイバーなどを介さずに直接、照射部1などから照射されてもよい。
【0015】
偏光分離器3は、ガスセル2を透過した上述の照射光を偏光方向に基づいて分離する。具体的には、偏光分離器3は、変換部12により変換される前の照射光に含まれる上述の直線偏光成分と同じ向きの直線偏光成分を透過させ、この直線偏光成分の偏光方向に垂直な方向の偏光成分を有する光を反射させる。
【0016】
受光部4は、透過光受光素子41と反射光受光素子42とを有する。偏光分離器3を透過した透過光は、透過光受光素子41により受光され、偏光分離器3を反射した反射光は、反射光受光素子42により受光される。透過光受光素子41および反射光受光素子42は、いずれも受光した光の量に応じた信号を発生し、信号処理回路5に供給する。信号処理回路5は、透過光受光素子41および反射光受光素子42にから上述の信号をそれぞれ受け取る。そして、信号処理回路5は、受け取った各信号に基づいて、照射部1により照射された照射光に含まれる直線偏光成分がガスセル2を透過して回転した回転量、すなわち、偏光面の回転角度を計測する。偏光分離器3、受光部4、および信号処理回路5は、照射部1により照射され、気体原子を透過した照射光の偏光面の回転角度を計測する計測部として機能する。磁場測定装置9は、この計測部が計測した回転角度によって、ガスセル2の内部における決められた方向の磁場を測定する。この方向を「測定方向」という。表示装置6は、液晶などを使用したディスプレイ装置であり、信号処理回路5により計測された偏光面の回転角度を表示する。
【0017】
追従機構7は、外乱磁場を検知する検知部71と、検知部71による検知結果に応じて変換部12を動かす調節部72とを有する。検知部71は、フラックスゲート方式や磁気抵抗効果方式、磁気インピーダンス方式などを利用した磁気センサーなどである。また、検知部71は、上述した照射部1、ガスセル2、偏光分離器3、受光部4、信号処理回路5などと同様な構成を別途備えた光ポンピング式の磁気センサーなどであってもよい。検知部71は、磁場測定装置9により測定される測定方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を、外乱磁場の方向(以下、外乱磁場方向という)として検知する。
【0018】
調節部72は、検知部71が検知した外乱磁場方向と、変換部12を通ってガスセル2に照射される照射光に含まれる直線偏光の電場の振動方向とが合うように、変換部12を動かして調節する。この変換部12は、光源11から照射されるレーザーに対して垂直に配置された偏光板などを備えており、この偏光板はレーザーに対する向きを保ったまま、この偏光板を通過する直線偏光成分の偏光面が外乱磁場方向に沿うように調節部72によって回転させられる。なお、図1に表された磁場測定装置9の各構成の位置は、それらの実際の配置を示すものではない。
【0019】
図2は、照射部1、ガスセル2、および検知部71の外観を示す図である。以下、図において、磁場測定装置9の各構成の配置を説明するため、各構成が配置される空間をxyz右手系座標空間として表す。また、図に示す座標記号のうち、内側が白い円の中に黒い円を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表している。また、内側が白い円の中に交差する2本の線分を描いた記号は、紙面手前側から奥側に向かう矢印を表している。空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を−x方向という。同様に、y、z成分についても、y軸方向、+y方向、−y方向、z軸方向、+z方向、−z方向を定義する。
【0020】
なお、以下の説明において、或る方向が或る軸に沿っているとは、その「或る方向」がその「或る軸」と完全に平行である場合を含むが、これに限定されず、同様の効果を生じさせるのであれば、平行と見なすことができる場合も含む。平行と見なすことができる場合とは、例えば両者の成す角が±2度の範囲に入っているといった場合である。
【0021】
図2に示すように、照射部1からガスセル2に向けて光を照射する方向は+x方向である。したがって、磁場測定装置9により測定されるガスセル2内の磁場の測定方向は+x方向である。そして、検知部71は、測定方向である+x方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を外乱磁場方向として検知する。したがって、外乱磁場方向は、yz平面に沿った方向であって、x軸方向の成分を有さない。
【0022】
この磁場測定装置9は、検知部71により検知された外乱磁場方向と、照射部1により照射される照射光に含まれる直線偏光の電場の振動方向とが合うように、変換部12が調節される点に特徴を有する。
【0023】
1−2.動作
図3は、いわゆるワンビーム方式の測定装置により磁場を測定する原理を説明するための図である。ワンビーム方式の測定装置において、ガスセルに封入された気体原子に直線偏光が照射されると、気体原子が光ポンピングされ、エネルギーが変化した際に生じる磁気モーメントの確率分布は、球形の原点対称な分布から変化する。例えば、超微細構造準位F→F´=F−1のエネルギー遷移のときにおいて、気体原子の磁気モーメントの確率分布はその直線偏光の振動の向きに沿って伸びる領域R1に応じた形状となる。この確率分布をアライメントという。すなわち、図3(a)に示すように、例えば電場の振動方向が+y方向に平行な矢印D0方向に沿っている直線偏光を、+x方向に向けて照射すると、この直線偏光が透過する気体原子には、y軸方向に沿った領域R1に分布するアライメントが生じる。気体原子を透過すると、線形二色性により直線偏光の偏光面は回転する。図3(b)には、−x方向に直線偏光の電場の振動方向を見たときの偏光面の回転角度αが示されている。この回転角度αが、+x方向の磁場の強さと相関があるため、この回転角度αを計測することにより、ガスセル2の内部におけるx軸方向の磁場の強さが測定される。つまり、ワンビーム方式において、測定方向を示す矢印DM方向は、光を照射する方向(図3では+x方向)となる。
【0024】
ここで、本発明に係る磁場測定装置9の上述した特徴を説明するために、この特徴を有していない測定装置の動作を説明する。図4は、磁場測定装置9の特徴を有していない測定装置による磁場の測定を説明するための図である。この測定装置は、磁場測定装置9と共通の構成を備えているが、変換部12が調節されないため、照射光に含まれる直線偏光の電場の振動方向と、外乱磁場方向とが合わない。例えば、この測定装置において外乱磁場方向である矢印DE方向は図4に示す+y方向である。また、測定方向である矢印DM方向が+x方向であるため、直線偏光成分を有する照射光は+x方向に向けて照射される。照射される直線偏光は、その電場の振動方向が、外乱磁場方向(+y方向)に合わないようになっている。具体的には、上記の振動方向は、図4に示す矢印D0方向であり、これはz軸方向に平行である。したがって、ガスセル中の気体原子には、図4(a)に破線で示した領域Raにアライメントが発生する。このアライメントは、z軸を中心としてほぼ回転対称の形状であり、z軸方向に沿って伸びている。
【0025】
ガスセル中の気体原子に発生した上述のアライメントは、外乱磁場方向に沿った外乱磁場を受けると、その外乱磁場方向に伸びる軸を中心に回転する。すなわち、アライメントは回転し、図4(a)に実線で示す領域Rbに応じた姿勢となる。図4(b)には、+y方向に向かって見たアライメントが示されている。このように、本来、領域Raに発生していたアライメントは、+y方向の外乱磁場に影響され、矢印D4方向に回転し、領域Rbに応じた姿勢となる。
【0026】
図4(c)には、気体原子を透過した照射光を受光する側、すなわち、+x方向の側から、気体原子の存在する側、すなわち、−x方向の側を見たときのアライメントが示されている。−x方向に向かって見て、外乱磁場による回転後のアライメントの形状を示す領域Rbは、回転前のアライメントの形状を示す領域Raに比べて長さが短くなっている。すなわち、領域Raのz軸方向の長さは、L0であるのに対し、領域Rbのz軸方向の長さは、L0よりも短いL1である。したがって、この測定装置において、気体原子を透過した照射光を受光する側から見たアライメントは、外乱磁場に影響されて小さくなる。その結果、この測定装置の感度は、外乱磁場の影響によって低下する。
【0027】
一方、図5は、本発明に係る磁場測定装置9による磁場の測定を説明するための図である。磁場測定装置9は、照射光に含まれる直線偏光の電場の振動方向と、外乱磁場方向とが合うように調節部72によって変換部12が調節される。測定方向である矢印DM方向が+x方向であるため、直線偏光成分を含む照射光は+x方向に向けて照射される。照射される直線偏光は、その電場の振動方向が図5に示す矢印D0方向である。この矢印D0方向は、外乱磁場方向である矢印DE方向(+y方向)に合うようになっている。したがって、ガスセル中の気体原子には、図5(a)に示した領域R1にアライメントが発生する。このアライメントは、y軸を中心としてほぼ回転対称の形状であり、y軸方向に沿って伸びている。なお、このアライメントはx軸を中心にラーマ回転しており、そのため、回転対称はy軸からずれている。しかし、その変位は外乱磁場の大きさに比較して僅かであるため、このアライメントは、y軸を中心としてほぼ回転対称の形状と見なせる。
【0028】
ガスセル2内の気体原子に発生した上述のアライメントは、外乱磁場方向に沿った外乱磁場を受けると、その外乱磁場方向に伸びる軸を中心に回転する。すなわち、アライメントは図5(a)に示す矢印D5方向に回転する。図5(b)には、+y方向に向かって見たアライメントが示されている。上述したとおり、領域R1に発生したアライメントは、y軸を中心としてほぼ回転対称の形状であり、y軸方向に沿って伸びているので、y軸を中心とする弧の軌跡に沿った矢印D5方向に回転しても、その形状はほとんど変化しない。したがって、図5(c)に示すように、−x方向に向かって見て、アライメントの形状の長さは、外乱磁場によって回転する前後でほとんど変わらない。すなわち、回転前のアライメントの長さL0は、回転後のアライメントの長さL1とほぼ同じである。したがって、この磁場測定装置9の感度は、外乱磁場に影響され難い。
【0029】
なお、上述した第1実施形態において、外乱磁場方向は、測定方向の成分を有さないとしたが、外乱磁場方向が測定方向の成分を有していてもよい。この場合、例えば、この外乱磁場方向が測定方向の成分を有さないように、測定方向そのものを変えてもよい。この場合、磁場測定装置9の照射部1および計測部などを動かすとともに、磁場測定装置9によって測定される物体(例えば、測定対象である人体など)を動かせばよい。
【0030】
2.第2実施形態
2−1.構成
図6は、本発明の第2実施形態に係る磁場測定装置9Aの全体構成を示す図である。磁場測定装置9Aは、ポンプ光の照射装置とプローブ光の照射装置とを分離した、いわゆるツービーム方式の測定装置である。磁場測定装置9Aは、照射部1に代えてプローブ光照射部1Aを具備している点と、追従機構7Aを具備している点と、ポンプ光照射部8を具備している点が、第1実施形態の磁場測定装置9と異なり、他の構成は共通している。なお、図6に表された磁場測定装置9Aの各構成の位置は、それらの実際の配置を示すものではない。
以下、磁場測定装置9Aについて、主に磁場測定装置9と異なる点を説明する。
【0031】
プローブ光照射部1Aは、光源11Aおよび変換部12Aを備える。光源11Aは光源11であってもよく、変換部12Aは変換部12であってもよいが、プローブ光照射部1Aによって照射されるプローブ光の波長は、不必要なポンピングを避けるためにガスセル2に封入された気体原子の共鳴周波数から離れていることが望ましい。また、プローブ光に含まれる成分は、全成分に占める直線偏光の割合が高いほど望ましい。ただし、プローブ光は、直線偏光成分を有していれば、他の偏光成分を含有していてもよい。光源11Aにより発生し変換部12Aにより変換されたプローブ光は、例えば光ファイバーなどにより導かれてガスセル2に照射される。なお、プローブ光は、光ファイバーなどを介さずに直接、ガスセル2に照射されてもよい。
【0032】
ポンプ光照射部8は、光源81および変換部82を備える。光源81は、ガスセル2に封入された原子の超微細構造準位の遷移に対応した周波数のレーザーを発生させるレーザー発生装置である。すなわち、光源81は、ガスセル2に封入された気体原子を励起できる波長に同調するレーザーを発生する。変換部82は、円偏光フィルターなどを備え、光源81が発生させたレーザーを、円偏光成分を有するポンプ光に変換する。光源81により発生し変換部82により変換されたポンプ光は、例えば光ファイバーなどにより導かれてガスセル2に照射される。ポンプ光は、プローブ光とガスセル2の内部で交差するように照射される。なお、ポンプ光は、光ファイバーなどを介さずに直接、ガスセル2に照射されてもよい。
【0033】
追従機構7Aは、外乱磁場を検知する検知部71Aと、検知部71Aによる検知結果に応じて、プローブ光照射部1Aから照射されるプローブ光の照射方向、ポンプ光照射部8から照射されるポンプ光の照射方向、偏光分離器3および受光部4の受光の方向が決定されるように、プローブ光照射部1A、ポンプ光照射部8、偏光分離器3および受光部4の位置を調整する調整部72Aとを有する。
【0034】
検知部71Aは、磁場測定装置9Aにより測定される測定方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を、外乱磁場方向として検知する。この検知部71Aは、検知部71と共通する構成であってもよい。
【0035】
調整部72Aは、検知部71Aが検知した外乱磁場方向に沿ってポンプ光が照射されるように、プローブ光照射部1A、ポンプ光照射部8、偏光分離器3および受光部4のそれぞれの位置を調整する。図7は、この調整の様子を示した図である。図7においてプローブ光照射部1Aによるプローブ光の照射方向は+x方向であり、ポンプ光照射部8によるポンプ光の照射方向は+y方向である。
【0036】
ここで、親指、人差し指、中指をそれぞれ直角に曲げた右手により表される右手系において、ポンプ光の照射方向を親指の向きに、プローブ光の照射方向を人差し指の方向にそれぞれ合わせると、ツービーム方式の測定装置では、中指の方向の磁場が測定される。つまりここで測定方向は、図7に示したように矢印DM方向(−z方向)であり、ポンプ光は上記の測定方向に垂直な方向である+y方向に照射され、プローブ光は、上記の測定方向(−z方向)、およびポンプ光が照射される方向(+y方向)の両方に垂直な+x方向に照射される。
【0037】
そして検知部71Aは、測定方向である−z方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を外乱磁場方向として検知する。したがって、外乱磁場方向は、xy平面に沿った方向であって、z軸方向の成分を有さない。
【0038】
このとき、図示しない調整部72Aにより、ガスセル2、光源11A、変換部12A、光源81、変換部82、偏光分離器3、透過光受光素子41および反射光受光素子42は、矢印D7方向に沿って回転する。その結果、ポンプ光照射部8によるポンプ光の照射方向は回転させられ、検知部71Aが検知した外乱磁場方向に近づく。矢印D7方向は、z軸を中心とした回転の方向であり、xy平面に沿っている。つまり、この矢印D7方向は、矢印DM方向(−z方向)に垂直なxy平面に沿った方向である。
【0039】
なお、光ファイバーなどにより導かれてポンプ光やプローブ光がガスセル2に照射されたり、ガスセル2を透過したプローブ光が光ファイバーなどにより導かれて偏光分離器3に受光されたりする場合、これらの光ファイバーは、プローブ光照射部1A、ポンプ光照射部8、偏光分離器3に含まれる。この場合、調整部72Aは、これらの光ファイバーのうちガスセル2に向いている部分の位置や方向・姿勢などを調整してもよい。要するに、調整部72Aは、検知部71Aによって検知された外乱磁場方向に沿ってポンプ光が照射されるように、磁場測定装置9Aに含まれる構成の位置を調整して、ポンプ光の照射方向、プローブ光の照射方向、およびプローブ光の受光方向を調整すればよい。
【0040】
この磁場測定装置9Aは、検知部71Aが検知した外乱磁場方向に沿ってポンプ光が照射されるように、ポンプ光の照射方向、プローブ光の照射方向、およびプローブ光の受光方向が調整される点に特徴を有する。
【0041】
2−2.動作
図8は、いわゆるツービーム方式の測定装置により磁場を測定する原理を説明するための図である。ツービーム方式の測定装置において、ガスセルに封入された気体原子にポンプ光が照射されると、気体原子が光ポンピングされ、エネルギーが変化した際に生じる磁気モーメントの確率分布は、そのポンプ光の入射方向に沿って伸びる領域R2に応じた形状となる。この確率分布をオリエンテーションという。そして、オリエンテーションが形成されることにより生じる磁化の向きを表すベクトル(以下、磁化ベクトルMという)は、オリエンテーションの向きとなる。この場合、ポンプ光の照射方向が磁化ベクトルMの方向となる。
【0042】
図8に示すように、例えば矢印D8方向の円偏光成分を有するポンプ光を矢印Dp方向(+y方向)に向けて照射すると、このポンプ光が透過する気体原子には、+y方向に伸びる領域R2に分布するオリエンテーションが形成され、+y方向の磁化ベクトルMが生じる。そして、電場の振動方向が矢印D0方向に沿っている直線偏光成分を有するプローブ光を矢印Dr方向(+x方向)に向けて照射すると、矢印Dp方向(+y方向)、および矢印Dr方向(+x方向)にそれぞれ垂直な矢印DM方向(−z方向)を中心にオリエンテーションがラーマ回転する。これにより、磁化ベクトルMはz軸を中心に回転するが、このとき以下の2つの現象が生じる
【0043】
[現象a]オリエンテーション(磁化ベクトルM)をポンプ光の方向に戻そうとする現象。
[現象b]オリエンテーションを光ポンピング前の球状の原点対称に緩和させる現象。
これにより磁化ベクトルMは、xy平面上において渦巻き状の軌跡を描く。図9は、磁化ベクトルMの軌跡を説明する図である。例えば、図8に示した構成において、磁化ベクトルMは、矢印DM方向(−z方向)に見たxy平面上において図9(a)に示す軌跡TMを描く。そして、上述したプローブ光の偏光面は、ファラデー効果によりオリエンテーションを透過して回転する。したがって、この偏光面の回転角度を計測することにより、ガスセル2の内部における矢印DM方向(−z方向)の磁束密度が求まる。
【0044】
例えば、磁化ベクトルMが図9(a)に示す軌跡TMを描くとき、+x方向の磁化の期待値<MX>は、特定の値として現れる。横軸に磁束密度Bを、縦軸に磁化の期待値<MX>をそれぞれ表すと、図9(b)に示すような出力波形が得られる。この波形における原点近傍の線形的に変化している部分(図中ΔBの範囲)の出力を読み取ることによって測定すべき磁束密度Bがわかる。
なお、磁化の期待値<MX>と磁束密度Bとの関係式は以下のようになる。
【0045】

ここで、Γgは緩和速度であり、緩和時間Tの逆数で与えられる。そして緩和時間Tは、縦緩和時間T1および横緩和時間T2により、1/T=1/T1+1/T2で表される。また、ラーモア角周波数をωL[rad/s]とし、磁気回転比をγ[rad/sT]とし、磁束密度をB[T]とすると、ωL=γBが成り立つ。磁化Mは、磁気モーメントの単位体積あたりの総和であるから比例定数Cは原子密度nに比例するパラメータと考える。
【0046】
ここで、本発明に係る磁場測定装置9Aの上述した特徴を説明するために、この特徴を有していない測定装置の動作を説明する。図10は、磁場測定装置9Aの特徴を有していない測定装置による磁場の測定を説明するための図である。この測定装置は、磁場測定装置9Aと共通の構成を備えているが、ポンプ光の入射方向である矢印Dp方向が、外乱磁場方向に合うようにポンプ光照射部8などの位置が調整されない。例えば、この測定装置において外乱磁場方向である矢印DE方向は図10に示す+y方向に沿っているが、円偏光成分を有するポンプ光は−x方向に向けて照射されている。つまり、照射されるポンプ光の入射方向である矢印Dp方向(−x方向)は、外乱磁場方向(+y方向)に合わないようになっている。したがって、ガスセル中の気体原子には、図10(a)に破線で示した領域Rcにオリエンテーションが発生する。このオリエンテーションは、x軸を中心としてほぼ回転対称の形状であり、−x方向に沿って伸びている。なお、ポンプ光が矢印Dp方向(−x方向)に照射され、プローブ光が矢印Dr方向(+y方向)に照射されているため、測定方向は、矢印DM方向(−z方向)となっている。
【0047】
ガスセル中の気体原子に発生した上述のオリエンテーションは、外乱磁場方向に沿った外乱磁場を受けると、その外乱磁場方向に伸びる軸を中心に回転する。すなわち、オリエンテーションは回転し、図10(a)に実線で示す領域Rdに応じた姿勢となる。図10(b)には、+y方向に向かって見たオリエンテーションが示されている。このように、本来、破線で示す領域Rcに発生していたオリエンテーションは、+y方向の外乱磁場に影響され、矢印D10方向に回転し、領域Rdに応じた姿勢となる。
【0048】
ここで、図10に示す例では、矢印DM方向(−z方向)の磁束密度を測定するために、矢印Dr方向(+y方向)に向けてプローブ光を照射する。すなわち、ガスセルの−y方向からプローブ光が照射され、ガスセルの+y方向に透過したプローブ光の偏光面の回転角度が計測部(偏光分離器3、受光部4、信号処理回路5)によって計測される。図10(b)に示したように、+y方向に沿って見るとオリエンテーションはy軸方向に沿った外乱磁場を受け、領域Rcから領域Rdに回転しているので、磁化ベクトルMも−z方向に回転している。そのため、磁化ベクトルMは上述した図9(a)と異なる軌跡を描くこととなり、磁化の期待値も異なる値となるため、出力波形は外乱磁場の影響が加味された波形となる。したがって、この場合の測定は、外乱磁場に影響を受け易い。
【0049】
一方、図11は、本発明に係る磁場測定装置9Aによる磁場の測定を説明するための図である。磁場測定装置9Aにおいて外乱磁場方向は、図11に示すy軸方向に沿っており、円偏光成分を有するポンプ光は+y方向に向けて照射される。つまり、ポンプ光の入射方向である矢印Dp方向(+y方向)は、外乱磁場方向である矢印DE方向(+y方向)に合うようになっている。したがって、ガスセル中の気体原子には、図11(a)に示した領域R2にオリエンテーションが発生する。このオリエンテーションは、y軸を中心としてほぼ回転対称の形状であり、y軸方向に沿って伸びている。なお、ここでは、矢印Dr方向(+x方向)に向けてプローブ光が照射され、矢印DM方向(−z方向)の磁場が測定される。
【0050】
ガスセル2内の気体原子に発生した上述のオリエンテーションは、外乱磁場方向に沿った外乱磁場を受けると、その外乱磁場方向に伸びる軸を中心に回転する。すなわち、オリエンテーションは図11(a)に示す矢印D9方向に回転する。図11(b)には、+y方向に向かって見たオリエンテーションが示されている。上述したとおり、領域R2に発生したオリエンテーションは、y軸を中心としてほぼ回転対称の形状であり、y軸方向に沿って伸びているので、y軸を中心とする弧の軌跡に沿った矢印D11方向に回転しても、その形状はほとんど変化しない。したがって、図11(c)に示すように、矢印DM方向(−z方向)に見たxy平面上において、オリエンテーションの形成によって生じる磁化ベクトルMの方向は、外乱磁場によってオリエンテーションが回転する前後で変わらない。したがって、この場合、直線偏光成分を有するプローブ光を矢印Dr方向(+x方向)に向けて照射すると、磁化ベクトルMは図9(a)に示したような軌跡を描き、磁束密度が求まる。すなわち、この磁場測定装置9Aの感度は、外乱磁場に影響され難い。
【0051】
なお、上述した第2実施形態において、外乱磁場方向は、測定方向の成分を有さないとしたが、外乱磁場方向が測定方向の成分を有していてもよい。この場合、この外乱磁場方向が測定方向の成分を有さないように、測定される物体の位置も調整して、測定方向そのものを変えてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…照射部、1A…プローブ光照射部、11,11A…光源、12,12A…変換部、2…ガスセル、3…偏光分離器、4…受光部、41…透過光受光素子、42…反射光受光素子、5…信号処理回路、6…表示装置、7,7A…追従機構、71,71A…検知部、72…調節部、72A…調整部、8…ポンプ光照射部、81…光源、82…変換部、9…磁場測定装置(第1実施形態)、9A…磁場測定装置(第2実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気体原子が封入されたガスセルと、
直線偏光を含む照射光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、決められた測定方向に沿って照射する照射部と、
前記測定方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を検知する検知部と、
前記検知部が検知した方向と前記直線偏光の電場の振動方向とが合うように、前記照射光を調節する調節部と、
前記照射部により照射され、前記気体原子を透過した照射光の偏光面の回転角度を計測する計測部と
を具備することを特徴とする磁場測定装置。
【請求項2】
前記照射部は、前記照射光を光ファイバーによってガスセルに導く
ことを特徴とする請求項1に記載の磁場測定装置。
【請求項3】
内部に気体原子が封入されたガスセルと、
決められた測定方向に垂直な方向の中から磁場が最も強い方向を検知する検知部と、
円偏光成分を含むポンプ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記測定方向に垂直な方向に沿って照射するポンプ光照射部と、
直線偏光を含むプローブ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記測定方向、および前記ポンプ光が照射される方向の両方に垂直な方向に沿って照射するプローブ光照射部と、
前記プローブ光照射部により照射され、前記気体原子を透過したプローブ光の偏光面の回転角度を計測する計測部と、
前記検知部によって検知された方向に沿って前記ポンプ光が照射されるように、前記ポンプ光照射部、前記プローブ光照射部、および前記計測部の各位置を調整する調整部と
を具備することを特徴とする磁場測定装置。
【請求項4】
前記ポンプ光照射部は、前記ポンプ光を光ファイバーによってガスセルに導き、
前記プローブ光照射部は、前記プローブ光を光ファイバーによってガスセルに導く
ことを特徴とする請求項3に記載の磁場測定装置。
【請求項5】
内部に気体原子が封入されたガスセルと、
磁場が最も強い方向を検知方向として検知する検知部と、
直線偏光を含む照射光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記検知部によって検知された検知検知方向に垂直な方向である測定方向に沿って照射する照射部と、
前記照射部により照射され、前記気体原子を透過した照射光の偏光面の回転角度を計測する計測部と
前記検知方向と前記直線偏光の電場の振動方向とが合うように、前記照射光を調節するとともに、前記ガスセル、前記照射部、および前記計測部の位置を調整する調整部と
を具備することを特徴とする磁場測定装置。
【請求項6】
内部に気体原子が封入されたガスセルと、
磁場が最も強い方向を検知方向として検知する検知部と、
円偏光成分を含むポンプ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して照射するポンプ光照射部と、
直線偏光を含むプローブ光を、前記ガスセルに封入された気体原子に対して、前記ポンプ光が照射される方向に垂直な方向に沿って照射するプローブ光照射部と、
前記プローブ光照射部により照射され、前記気体原子を透過したプローブ光の偏光面の回転角度を計測する計測部と、
前記検知部によって検知された検知方向に沿って前記ポンプ光が照射されるように、前記ポンプ光照射部、前記プローブ光照射部、および前記計測部の各位置を調整する調整部と
を具備することを特徴とする磁場測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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