説明

磁性インクジェットインク

【課題】MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を有する上、現状よりもさらに磁性体粒子の分散性、分散安定性に優れた磁性インクジェットインクを提供する。
【解決手段】水性分散媒中に、式(1):
【化1】


〔式中x、yは、x+y=1で、かつx/yが0.5以上、0.9以下の数を示す。〕
で表されるコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下である磁性体粒子を分散させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気インクで印刷された磁気情報を磁気ヘッドで読み取る、いわゆる磁気インク文字認識〔Magnetic Ink Character Recognition:MICR〕システムが普及している。
前記MICRシステムでは、専用の特殊なフォント形状(E−13Bフォント、CMC−7フォント等)の文字を磁気インクによって印刷し、印刷した文字を磁気ヘッドによって走査して磁気変化量を読み取ると、読み取った磁気変化量から導き出される磁気波形特性が文字毎に異なるため、前記磁気波形特性から各々の文字を認識、識別することができる。
【0003】
MICRシステムにおいて文字を印刷する際に、従来は磁性インクリボンとドットインパクトプリンタとを用いるのが一般的であった。しかしドットインパクトプリンタは騒音が大きく、また磁性インクリボンはインクの利用率が低いために印刷コストが高くつくという問題があった。
そこで騒音が小さく、しかも必要なときに必要な量のインクによって印刷できるため印刷コストを低く抑えることができるインクジェットプリンタを利用してMICRシステム用の文字を印刷するべく、それに適した磁性インクジェットインクの開発が進められている。
【0004】
磁性インクジェットインクは、一般に磁性体粒子を、好ましくは分散安定剤の存在下、水等の水性分散媒中に分散させて調製される。
磁性体粒子としては、式(4):
【0005】
【化1】

【0006】
〔式中、Mは2価の金属イオンを示す。〕
で表されるフェライトの粒子が挙げられる。
中でも特に、前記式(4)中のMがコバルト(Co)であるコバルトフェライトが、ソフトフェライトの中でも保磁力、および残留磁化が高いため、前記磁性体粒子の製造原料として広く用いられている。
【0007】
しかしコバルトフェライトからなる磁性体粒子は、前記のように保磁力、および残留磁化が高いため磁性インクジェットインク中で凝集し易い。そのため磁性体粒子を、凝集等を生じることなく水性分散媒中に良好に分散させるための高い分散性や、前記良好な分散をより長期間に亘って維持するための高い分散安定性を確保するのが難しい。
そして、例えば磁性インクジェットインクの貯蔵中に多数の磁性体粒子が凝集して大きな凝集粒子を生じた場合、前記凝集粒子が沈降して磁性インクジェットインクとしての機能が大きく低下したり失われたり、あるいは沈降は生じないまでも、前記凝集粒子がインクジェットプリンタのノズル内で目詰まりを生じる等して、印刷時に、前記ノズルからの、磁性インクジェットインクの吐出の安定性を低下させたりするという問題を生じる。
【0008】
そこで磁性体粒子の、水性分散媒中での分散性、分散安定性を向上するために、例えば特許文献1〜5等において、水溶性高分子等の様々な分散安定剤の使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−150085号公報
【特許文献2】特開2000−212498号公報
【特許文献3】特開2001−028308号公報
【特許文献4】特開2001−354883号公報
【特許文献5】特開2002−241133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、磁性インクジェットインクを市場において流通させるためには、前記特許文献1〜5等に記載された分散安定剤と磁性体粒子との組み合わせでは分散性、分散安定性の向上効果が未だ不十分であり、より一層良好な分散性、分散安定性を有する磁性インクジェットインクの開発が求められている。
本発明の目的は、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を有する上、現状よりもさらに磁性体粒子の分散性、分散安定性に優れた磁性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水性分散媒中に磁性体粒子を分散させた磁性インクジェットインクであって、前記磁性体粒子は、式(1):
【0012】
【化2】

【0013】
〔式中x、yは、x+y=1で、かつx/yが0.5以上、0.9以下の数を示す。〕
で表されるコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下であることを特徴とするものである。
発明者の検討によると、従来のコバルトフェライトにマンガン(Mn)を添加すると、磁性体粒子の保磁力、および残留磁化を低下させて水性分散媒中で凝集しにくくして、磁性体粒子の分散性、分散安定性をこれまでよりも向上することができる。
【0014】
しかし、前記x/yの範囲を超えて多量のマンガンを添加すると、特に残留磁化が大きく低下するため、MICRシステム用の磁性体粒子としての機能が不十分になり、磁性インクジェットインクに、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を付与することができない。
一方、前記範囲よりマンガンの添加量が少ない場合には、前記マンガンを添加することによる、磁性体粒子の保磁力、および残留磁化を低下させて水性分散媒中で凝集しにくくして、磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上する効果が得られない。
【0015】
また発明者の検討によると、磁性体粒子の保磁力、残留磁化、水性分散媒中での分散性、および分散安定性には、前記磁性体粒子の一次粒子の平均粒径Φも大きく係わっている。
すなわち平均粒径が前記範囲未満では、磁性体粒子の保磁力、および残留磁化が大きく低下するため、MICRシステム用の磁性体粒子としての機能が不十分になり、磁性インクジェットインクに、前記MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を付与することができない。
【0016】
また、平均粒径が前記範囲未満の微小な磁性体粒子は水性分散媒中で凝集しやいため、分散性、分散安定性を向上する効果も得られない。
一方、平均粒径が前記範囲を超える磁性体粒子は、保磁力、および残留磁化が高くなる分、水性分散媒中で凝集しやすいため、やはり分散性、分散安定性を向上する効果が得られない。
【0017】
これに対し、前記式(1)中のx、yをx+y=1で、かつx/yを0.5以上、0.9以下の範囲内としたコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下である磁性体粒子を用いることにより、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を有する上、現状よりもさらに磁性体粒子の分散性、分散安定性に優れた磁性インクジェットインクを提供することができる。
【0018】
前記磁性インクジェットインクは、さらに分散安定剤として、式(2):
【0019】
【化3】

【0020】
〔式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rはアミノ基または水酸基を示す。〕
で表されるジホスホン酸化合物と、式(3):
【0021】
【化4】

【0022】
〔式中、mは1〜3の数を示し、nは2〜6の数を示す。〕
で表されるアミン化合物との塩をも含んでいるのが好ましい。
前記特定の分散安定剤を配合することにより、磁性体粒子を、水性分散媒中でより一層凝集しにくくして、前記磁性体粒子の分散性、分散安定性をさらに向上することができる。
【0023】
また前記分散安定剤は、従来の水溶性高分子等に比べて低分子量であって、磁性インクジェットインクの粘度を上昇させたりするおそれがない。そのため、前記粘度を上昇させたり、インクジェットプリンタのノズル内で目詰まりを生じさせたりすることなしに、できるだけ多くの磁性体粒子を安定に分散させることができ、磁性インクジェットインクに、MICRシステム用の磁気インクとしてより一層良好な性能を付与することもできる。
【0024】
なお特許文献1の請求項1に規定された磁性固体粒子には、概念として、前記式(1)で表されるコバルトマンガンフェライトからなる磁性体粒子が含まれる。
しかし特許文献1において実際に効果を検証しているのは、従来同様のコバルトフェライト(実施例1、3)と、バリウムフェライト(実施例2)のみである。
特許文献1には、これら従来のフェライトに代えて、式(1)で表され、式中のx、yがx+y=1で、なおかつx/yが0.5以上、0.9以下の範囲を満足するコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下である磁性体粒子を選択的に用いることは一切記載されておらず、またかかる構成により、前述の特異的でかつ格別に顕著な効果が得られることについても一切記載されていない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を有する上、現状よりもさらに磁性体粒子の分散性、分散安定性に優れた磁性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、水性分散媒中に磁性体粒子を分散させた磁性インクジェットインクであって、前記磁性体粒子は、式(1):
【0027】
【化5】

【0028】
〔式中x、yは、x+y=1で、かつx/yが0.5以上、0.9以下の数を示す。〕
で表されるコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下であることを特徴とするものである。
〈磁性体粒子〉
磁性体粒子としては、前記式(1)で表され、式中のx、yがx+y=1で、なおかつx/yが0.5以上、0.9以下の範囲を満足するコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下である磁性体粒子が選択的に使用される。
【0029】
本発明において式(1)中のx/yが0.5以上に限定されるのは、前記範囲未満ではマンガンの添加量が少なく、前記マンガンを添加することによる、磁性体粒子の保磁力、および残留磁化を低下させて水性分散媒中で凝集しにくくして、磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上する効果が得られないためである。
一方、x/yが0.9以下に限定されるのは、前記範囲を超える場合には、特に残留磁化が大きく低下するため、MICRシステム用の磁性体粒子としての機能が不十分になり、磁性インクジェットインクに、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を付与できないためである。
【0030】
また磁性体粒子の一次粒子の平均粒径Φが20nm以上に限定されるのは、前記範囲未満では、保磁力、および残留磁化が大きく低下して、MICRシステム用の磁性体粒子としての機能が不十分になり、磁性インクジェットインクに、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を付与できないためである。
また、平均粒径が前記範囲未満の微小な磁性体粒子は水性分散媒中で凝集しやすいため、分散性、分散安定性を向上する効果も得られないためである。
【0031】
一方、平均粒径が40nm以下に限定されるのは、前記範囲を超える大きな磁性体粒子は保磁力、および残留磁化が高くなる分、水性分散媒中で凝集しやすいため、やはり分散性、分散安定性を向上する効果が得られないためである。
これに対し、前記式(1)中のx、yをx+y=1で、かつx/yを0.5以上、0.9以下の範囲内としたコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下である磁性体粒子を用いることにより、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を有する上、現状よりもさらに磁性体粒子の分散性、分散安定性に優れた磁性インクジェットインクを提供することができる。
【0032】
なおこれらの効果をより一層向上することを考慮すると、x/yは、前記範囲内でも0.6以上であるのが好ましく、0.8以下であるのが好ましい。また一次粒子の平均粒径Φは、前記範囲内でも23nm以上であるのが好ましく、35nm以下であるのが好ましい。
前記一次粒子の平均粒径Φを、本発明では、透過型顕微鏡(TEM)を用いて撮影した写真中に写された個々の磁性体粒子の粒径の平均値でもって表すこととする。
【0033】
前記磁性体粒子は、磁気特性を示す保磁力が15.5kA/m(≒195Oe)以上、32kA/m(≒402Oe)以下であるのが好ましく、単位質量あたりの残留磁化が10A・m/kg(=10emu/g)以上、35A・m/kg(=35emu/g)以下であるのが好ましい。
保磁力が前記範囲未満では、読み取りのために磁化させても極めて短時間で前記磁化が大きく低下してしまうため、磁気ヘッドによって磁気変化量を良好に読み取ることができないおそれがある。
【0034】
また保磁力が前記範囲を超える場合には、読み取り時に飽和磁化まで磁化させるために要するエネルギーが増加するため、読み取りのエネルギー効率が低下するおそれがある。また、水性分散媒中での磁性体粒子の分散性、分散安定性が低下するおそれもある。
また残留磁化が前記範囲未満では、磁気ヘッドによって磁気変化量を良好に読み取ることができなおそれがある。
【0035】
さらに残留磁化が前記範囲を超える場合には、水性分散媒中での磁性体粒子の分散性、分散安定性が低下するおそれがある。
なお本発明では、前記保磁力、および単位質量あたりの残留磁化を、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した値でもって表すこととする。
磁性体粒子は、実質的に球形であるのが好ましい。磁性体粒子を実質的に球形とすることで、水性分散媒に対する分散性をさらに向上することができる。また流動性を向上して、インクジェットプリンタのノズル内で目詰まりを生じさせにくくすることもできる。
【0036】
「実質的に球形」とは、磁性体粒子の透過型顕微鏡写真を撮影し、その中から任意に抽出した所定個数のサンプル粒子の映像について、個別に長径hと短径hとを実測して比h/hを求めるとともに、前記比h/hの、全サンプル粒子での平均値を求めた際に、前記平均値が1/1〜3/1、好ましくは1/1〜2/1の範囲内にある状態を指す。かかる規定による実質的に球形の粒子には、本来の球形のものの他、回転楕円体、多面体、不定形の粒状体等をも含みうる。
【0037】
また磁性体粒子は、さらに下記(a)〜(c)等の条件を満足していることが好ましい。
(a) 粒度分布がシャープであること。
(b) 複数の粒子間の焼結がないこと。
(c) 温度や時間に依存して磁気特性が変動しないこと。
磁性体粒子は、例えばコバルト、マンガン、および鉄の水溶性の塩(塩化物等)を所定の比率で含む水溶液(原料水溶液)と、所定の濃度に調整した水酸化ナトリウム水溶液とを用意し、前記水酸化ナトリウム水溶液をかく拌しながら原料水溶液を加え、さらに所定の温度で一定時間かく拌して反応させることで、反応液(水溶液)中に析出させて合成することができる。
【0038】
コバルト、マンガン、および鉄の比率を前記範囲内にするには、前記反応に用いる3種の塩の量比を調整すればよい。また磁性体粒子の一次粒子の平均粒径Φを前記範囲内にするには前記反応の条件、すなわちかく拌速度、温度、時間等を調整すればよい。
合成した磁性体粒子は、反応液中から単離し、十分に洗浄して反応副生物(食塩等)を除去したのち、磁性インクジェットインクの製造に使用するのが好ましい。
【0039】
磁性インクジェットインクへの、磁性体粒子の配合割合は任意に設定できるが、特にMICRシステムにおいて記録する磁気情報の磁気量をこれまでよりも増加させることを考慮すると、前記磁性インクジェットインクの総量の15質量%以上、特に20質量%以上であるのが好ましい。
本発明によれば、前記特定の磁性体粒子を選択的に使用することで、かかる多量の磁性体粒子を水性分散媒中に分散性、分散安定性よく良好に分散させることができる。
【0040】
ただし磁性体粒子の配合割合が多すぎる場合には、磁性インクジェットインクの粘度が高くなりすぎて、インクジェットプリンタのノズル内で目詰まりを生じやすくなるおそれがある。そのため磁性体粒子の配合割合は、前記範囲内でも磁性インクジェットインクの総量の40質量%以下、特に35質量%以下であるのが好ましい。
磁性体粒子としては、式(1)中のx、y、および一次粒子の平均粒径Φが前記範囲内で異なる2種以上を併用してもよい。
【0041】
〈分散安定剤〉
本発明の磁性インクジェットインクには、分散安定剤を配合しても良い。
前記分散安定剤としては、特許文献1〜5等に記載された水溶性高分子等の種々の分散安定剤がいずれも使用可能である。
中でも、式(2):
【0042】
【化6】

【0043】
〔式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rはアミノ基または水酸基を示す。〕
で表されるジホスホン酸化合物のアンモニウム塩(無機塩)、あるいは前記ジホスホン酸化合物と、有機のアミン化合物との塩が好ましく、特に前記ジホスホン酸化合物と、式(3):
【0044】
【化7】

【0045】
〔式中、mは1〜3の数を示し、nは2〜6の数を示す。〕
で表されるアミン化合物との塩、すなわちジホスホン酸アミン塩が好適に使用される。
ジホスホン酸アミン塩のもとになる、式(2)で表されるジホスホン酸化合物としては、例えば前記式中のRがメチル基、Rが水酸基である、式(5):
【0046】
【化8】

【0047】
で表されるヒドロキシエチレンジホスホン酸が挙げられる。
また式(3)で表されるアミン化合物としては、例えば前記式中のmが1、nが4である、式(6):
【0048】
【化9】

【0049】
で表される2−アミノ−1−メチル−1−プロパノール〔別名:2−ヒドロキシ−1−メチルプロピルアミン〕や、式中のmが2、nが4である、式(7):
【0050】
【化10】

【0051】
で表されるN,N−ジ(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミン等が挙げられる。
ジホスホン酸アミン塩は、前記式(2)で表されるジホスホン酸化合物中のリン原子(P)に直接に結合した水酸基と、式(3)で表されるアミン化合物中のアミノ基とが反応して生成される塩である。
ジホスホン酸アミン塩は、例えば冷却下、式(2)のジホスホン酸化合物の水溶液をかく拌しながら式(3)のアミン化合物を所定量滴下する等して合成することができる。
【0052】
合成したジホスホン酸アミン塩は、反応液中から一旦単離したのち磁性インクジェットインクの製造に使用してもよいが、前記反応液(水溶液)を出発原料として磁性インクジェットインクを製造するのが、製造工程数を少なくして前記磁性インクジェットインクの生産性を向上する上で好ましい。
ジホスホン酸アミン塩としては、式(2)のジホスホン酸化合物と式(3)のアミン化合物との、モル比1:1〜1:4の任意の塩がいずれも使用可能である。またジホスホン酸アミン塩としては、前記モル比の異なる2種以上の塩の混合物を用いることもできる。
【0053】
モル比を調整するには、前記反応に用いる2種の化合物の量比を調整すればよい。
磁性インクジェットインクへのジホスホン酸アミン塩の配合割合は、質量比で、磁性体粒子の1/60倍以上であるのが好ましく、1/10倍以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、ジホスホン酸アミン塩を分散安定剤として配合することによる、磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
【0054】
また前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、過剰のジホスホン酸アミン塩によって却って磁性体粒子の分散性、分散安定性が阻害されて、前記分散性、分散安定性が低下するおそれがある。
〈水性分散媒〉
水性分散媒としては水が好適に使用されるほか、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いることもできる。
【0055】
前記水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等の炭素数1〜4の1価のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールエーテル類;プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の2〜3価のアルコール類;ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0056】
〈その他の成分〉
本発明の磁性インクジェットインクには、さらに上記以外の他の成分を配合してもよい。
(有機酸塩のエチレンオキシド付加物)
磁性インクジェットインクに有機酸塩のエチレンオキシド付加物を配合すると、前記ジホスホン酸アミン塩による分散安定剤としての機能を補助して、磁性体粒子の分散性、分散安定性をさらに向上することができる。
【0057】
有機酸塩のエチレンオキシド付加物としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、D−リンゴ酸、L−リンゴ酸等の種々のモノ〜トリカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、もしくはアンモニウム塩に、さらにエチレンオキシドを付加させた化合物が挙げられる。
特に磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上する効果の点では、式(8):
【0058】
【化11】

【0059】
〔式中M、M、およびMは同一または異なってナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、アンモニウム基、または水素を示す。ただしM、M、およびMは同時に水素でない。pは1〜28の数を示す。〕
で表されるクエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等のクエン酸のアルカリ金属塩のエチレンオキシド付加物、およびクエン酸アンモニウムのエチレンオキシド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0060】
なお式中のpが28を超える化合物は磁性インクジェットインクの粘度を上昇させるとともに流動性を低下させたり、水溶性が低下して磁性インクジェットインク中に析出したりして、前記磁性インクジェットインクの吐出の安定性を低下させるおそれがある。
前記式(8)で表される化合物の具体例としては、式中のM〜Mがいずれもナトリウムで、かつpが6である、式(9):
【0061】
【化12】

【0062】
で表される化合物が挙げられる。
前記化合物の配合割合は、磁性インクジェットインクの総量の0.01質量%以上、特に0.05質量%以上であるのが好ましく、5質量%以下、特に3質量%以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、前記化合物を配合することによる、先に説明した磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上する効果が不十分になるおそれがある。また前記範囲を超える場合には、インクジェットプリンタのノズル内で目詰まりを生じやすくなるおそれがある。
【0063】
(ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)
磁性インクジェットインクに式(10):
【0064】
【化13】

【0065】
〔式中、qは3〜28の数を示す。〕
で表されるポリオキシエチレンフェニルエーテル、および式(11):
【0066】
【化14】

【0067】
〔式中、Rは炭素数8〜10のアルキル基、rは3〜28の数を示す。〕
で表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれた少なくとも1種を配合すると、先に説明した有機酸塩のエチレンオキシド付加物の機能を補助する働きをさせて、磁性体粒子の分散性、分散安定性をさらに向上できる。
前記のうち式(10)で表されるポリオキシエチレンフェニルエーテルにおいて、式中のqが3〜28であるのが好ましいのは、qが前記範囲を外れる化合物では、有機酸塩のエチレンオキシド付加物の機能を補助する効果が不十分になるおそれがあるためである。
【0068】
また、特にqが28を超える化合物は磁性インクジェットインクの粘度を上昇させるとともに流動性を低下させたり、自身の水溶性が低下して前記磁性インクジェットインク中に析出したりして、前記磁性インクジェットインクの吐出の安定性を低下させるおそれもある。
前記式(10)のポリオキシエチレンフェニルエーテルの具体例としては、qが6である、式(12):
【0069】
【化15】

【0070】
で表される化合物が挙げられる。
また式(11)で表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルにおいて、式中のrが3〜28で、かつRのアルキル基の炭素数が8〜10であるのが好ましいのは、rが前記範囲を外れる化合物や、Rのアルキル基の炭素数が前記範囲を外れる化合物では、いずれも有機酸塩のエチレンオキシド付加物の機能を補助する効果が不十分になるおそれがあるためである。
【0071】
また、特にrが28を超える化合物や、Rのアルキル基の炭素数が10を超える化合物は磁性インクジェットインクの粘度を上昇させるとともに流動性を低下させたり、自身の水溶性が低下して磁性インクジェットインク中に析出したりして、前記磁性インクジェットインクの吐出の安定性を低下させるおそれもある。
前記式(11)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの具体例としては、rが25でRのアルキル基の炭素数が8である、式(13):
【0072】
【化16】

【0073】
で表される化合物が挙げられる。
なお式(11)の化合物には、Rのアルキル基が、フェニル基上の、ポリオキシエチレン基からみてo位、m位およびp位に結合した3種の化合物があるが、本発明ではいずれの化合物を用いることもできる。また前記3種の化合物のうち2種以上の混合物を用いることもできる。
【0074】
式(10)のポリオキシエチレンフェニルエーテルおよび/または式(11)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの配合割合は、磁性インクジェットインクの総量の0.02質量%以上、特に0.1質量%以上であるのが好ましく、7質量%以下、特に5質量%以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、これらの化合物を配合することによる、先に説明した有機酸塩のエチレンオキシド付加物の機能を補助する補助効果が不十分になるおそれがある。
【0075】
また前記範囲を超える場合には、インクジェットプリンタのノズル内で目詰まりを生じやすくなるおそれがある。
なお配合割合は、式(10)(11)の化合物をいずれか単独で使用する場合は前記化合物単独での配合割合であり、2種以上を併用する場合は、併用する化合物の合計の配合割合である。
【0076】
式(10)(11)の化合物は、それぞれ補助効果のメカニズムが異なっていると考えられるため、両者を併用するのが好ましい。
特に式(12)の化合物と式(13)の化合物との併用系が、補助効果の点で好ましい。
(その他の添加剤)
本発明の磁性インクジェットインクには、さらに消泡剤、顔料等の着色剤、界面活性剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防かび剤、殺生剤等の各種添加剤を、任意の割合で配合してもよい。
【0077】
〈その他〉
本発明の磁性インクジェットインクを製造するには、例えば水性分散媒中に、分散安定剤を所定の濃度となるように溶解した溶液を調製する。
分散安定剤としてジホスホン酸アミン塩を用いる場合は、先に説明した合成工程で得られる、前記ジホスホン酸アミン塩を含む反応液を出発原料として用い、さらに必要に応じて水性分散媒を加える等して前記溶液を調製するのが、製造工程数を少なくして磁性インクジェットインクの生産性を向上する上で好ましい。
【0078】
次に前記溶液に、式(1)で表されるコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下である磁性体粒子、および必要に応じて消泡剤等を加えて、例えばペイントシェーカー等を用いて所定時間混合することで、前記磁性体粒子を分散させて液状の水性磁性分散体を調製する。
次いで前記水性磁性分散体に、先に説明した有機酸塩のエチレンオキシド付加物その他の各種成分を加えて混合した後、必要に応じてろ過する等して、分散粒径が過大な磁性体粒子の凝集体等を除去することで、本発明の磁性インクジェットインクが製造される。
【0079】
前記本発明の磁性インクジェットインクは、各種方式のインクジェットプリンタに使用することができる。
すなわちサーマル方式〔サーマルジェット(登録商標)方式、バブルジェット(登録商標)方式〕、ピエゾ方式等のオンデマンド型のインクジェットプリンタや、あるいはコンティニュアス型のインクジェットプリンタ等に使用して、MICRシステム用の文字等を印刷することできる。
【実施例】
【0080】
下記の磁性体粒子の合成、磁性インクジェットインクの調製、および評価試験を、特記した以外は23±1℃の室温環境下で実施した。
〈磁性体粒子(i)の合成〉
二塩化コバルト六水和物(CoCl・6HO)128.9g、二塩化マンガン四水和物(MnCl・4HO)7716g、および塩化第二鉄六水和物(FeCl・6HO)559gを750mlの超純水に溶解して原料水溶液を調製した。
【0081】
また、水酸化ナトリウム(NaOH)320gを750mlの超純水に溶解して水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
前記水酸化ナトリウムを5rpmでかく拌しながら前記原料水溶液を一気に加え、その後室温で10分間かく拌した後、かく拌を続けながら90℃に昇温してさらにかく拌を続けた。
【0082】
1時間経過後、反応液を室温まで冷却するとともにかく拌を停止して析出した磁性体粒子を単離し、超純水で十分に洗浄したのち乾燥させて磁性体粒子を得た。
前記磁性体粒子は、式(1)で表され、前記3種の塩の量比から推定されるx、yがx+y=1で、なおかつx/yが0.6であるコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが26nm、保磁力が22.3kA/m、残留磁化が24A・m/kgであった。
【0083】
〈磁性体粒子(ii)〜(x)の合成〉
原料水溶液に加える二塩化コバルト六水和物(CoCl・6HO)、二塩化マンガン四水和物(MnCl・4HO)、および塩化第二鉄六水和物(FeCl・6HO)の量比を調整するとともに、反応の条件、すなわちかく拌速度、温度、時間等を調整したこと以外は前記磁性体粒子(i)の合成と同様にして、式(1)中のx、yがx+y=1で、なおかつx/yが表1に示す値であるとともに、一次粒子の平均粒径Φ、保磁力、および残留磁化が表1に示す値である磁性体粒子を合成した。
【0084】
【表1】

【0085】
〈ジホスホン酸アミン塩(I)の合成〉
ジホスホン酸化合物としての前記式(5)で表されるヒドロキシエチレンジホスホン酸を純水に溶解した30質量%水溶液を水冷下でかく拌しながら、アミン化合物としての前記式(6)で表される2−アミノ−1−メチル−プロパノールを滴下したのち、さらに純水で希釈して、分散安定剤としてのジホスホン酸アミン塩(I)の30質量%水溶液を調製した。ヒドロキシエチレンジホスホン酸と2−アミノ−1−メチル−プロパノールのモル比は1:1.2に設定した。
【0086】
〈ジホスホン酸アミン塩(II)の合成〉
ジホスホン酸化合物としての前記式(5)で表されるヒドロキシエチレンジホスホン酸を純水に溶解した30質量%水溶液を水冷下でかく拌しながら、アミン化合物としての前記式(7)で表されるN,N−ジ(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミンを滴下したのち、さらに純水で希釈して、分散安定剤としてのジホスホン酸アミン塩(II)の30質量%水溶液を調製した。ヒドロキシエチレンジホスホン酸とN,N−ジ(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミンのモル比は1:2に設定した。
【0087】
〈実施例1〉
(水性磁性分散体の調製)
先に合成したジホスホン酸アミン塩(I)の30質量%水溶液8質量部に、消泡剤〔ビイクへミー(BYK−Chemie)社製のBYK(登録商標)025〕0.1質量部、および純水51.9質量部を加えて混合した。
【0088】
次いで前記混合液に、先に合成した磁性体粒子(i)40質量部を加え、ジルコニアビーズとともにペイントシェーカーに入れて5時間混合して水性磁性分散体を調製した。各成分の配合割合を下記表2に記す。
【0089】
【表2】

【0090】
(磁性インクジェットインクの調製)
純水24質量部に、有機酸塩のエチレンオキシド付加物としての前記式(9)で表される化合物0.5質量部、ポリオキシエチレンフェニルエーテルとしての前記式(12)で表される化合物2質量部、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしての前記式(13)で表される化合物0.5質量部、グリセリン10質量部、およびジエチレングリコール3質量部を加えて混合し、次いで前記水性磁性分散体60質量部を加えてさらに30分間混合したのち5μmのメンブランフィルタを用いてろ過して磁性インクジェットインクを調製した。各成分の配合割合を下記表3に記す。
【0091】
【表3】

【0092】
磁性体粒子の含有割合は、磁性インクジェットインクの総量の20質量%であった。またジホスホン酸アミン塩の含有割合は、質量比で磁性体粒子の1/16.7倍であった。
〈実施例2〜8、比較例1〜4〉
磁性体粒子(i)に代えて、後述する表4、表5に示すように、先に合成した磁性体粒子(ii)〜(xii)のいずれか1種を同量配合したこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製し、磁性インクジェットインクを調製した。
【0093】
〈実施例9〉
ジホスホン酸アミン塩(I)の水溶液に代えて、先に合成したジホスホン酸アミン塩(II)の30質量%水溶液を同量配合したこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製し、磁性インクジェットインクを調製した。
〈実施例10〉
ジホスホン酸アミン塩(I)の水溶液に代えて、ヒドロキシエチレンジホスホン酸のアンモニウム塩(ジホスホン酸アンモニウム塩)の30質量%水溶液を同量配合したこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製し、磁性インクジェットインクを調製した。
【0094】
〈実施例11〉
有機酸塩のエチレンオキシド付加物としての前記式(9)で表される化合物、ポリオキシエチレンフェニルエーテルとしての前記式(12)で表される化合物、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしての前記式(13)で表される化合物をいずれも配合せず、かつ純水の量を27質量部としたこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製し、磁性インクジェットインクを調製した。
【0095】
〈比較例5〉
(水性磁性分散体の調製)
分散安定剤としては、スチレンとアクリル酸とを含む水溶性共重合体(水溶性高分子(a))の水系溶液〔BASFジャパン(株)製のジョンクリル(登録商標)62J、不揮発分:34質量%、粘度:2500cps、pH:8.3、酸価:200、ガラス転移点:85℃、重量平均分子量:8500〕を用いた。
【0096】
また磁性体粒子としては、一次粒子の平均粒径Φが25nm、保磁力が73.2kA/m、残留磁化が52A・m/kgであるコバルトフェライトの粒子を用いた。
前記磁性体粒子の水懸濁液〔磁性体粒子の濃度:220g/l〕100質量部に、前記分散安定剤5質量部、およびポリエチレンオキサイドと芳香族とを含む両親媒性化合物〔三洋化成工業(株)製のノニポール(登録商標)400〕4質量部を加え、ジルコニアビーズとともにサンドミルに入れて2時間混合して水性磁性分散体を調製した。
【0097】
(磁性インクジェットインクの調製)
前記水性磁性分散体100質量部をかく拌しながらジエチレングリコール12質量部、トリメチロールプロパン6質量部、およびイオン交換水42質量部を30分間かけて滴下して磁性インクジェットインクを調製した。
この比較例5は、特許文献2の実施例1を再現したものである。
【0098】
〈比較例6〉
分散安定剤として、スチレンおよびアクリル酸の組成比が80:20、分子量:10000、ガラス転移点:99℃の共重合体(水溶性高分子(b))5質量部を配合したこと以外は比較例5と同様にして水性磁性分散体を調製し、磁性インクジェットインクを調製した。
【0099】
この比較例6は、特許文献3の実施例1を再現したものである。
〈比較例7〉
分散安定剤としてのオレイン酸ナトリウム1質量部、磁性体粒子としての、一次粒子の平均粒径Φが25nm、保磁力が73.2kA/m、残留磁化が52A・m/kgであるコバルトフェライトの粒子5質量部、および純水19質量部を、ジルコニアビーズとともにペイントシェーカーに入れて2時間混合して磁性インクジェットインクを調製した。
【0100】
この比較例8は、特許文献5の実施例1を再現したものである。
〈比較例8〉
磁性体粒子として、一次粒子の平均粒径Φが25nm、保磁力が73.2kA/m、残留磁化が52A・m/kgであるコバルトフェライトの粒子を同量配合したこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製し、磁性インクジェットインクを調製した。
【0101】
〈分散安定性評価〉
実施例、比較例で調製直後の磁性インクジェットインクを60℃に加熱して1週間静置する加速テストを実施した後、分離の有無を観察した。また製造直後と加速テスト実施後の磁性インクジェットインクの粘度を、東機産業(株)製のRE215形粘度計を用いて測定した。そして下記の基準で磁性インクジェットインクの分散安定性を評価した。
【0102】
◎:分離は見られなかった。また製造直後と加速テスト実施後の粘度の変化率は±7%未満であった。分散安定性極めて良好。
○:粘度の変化率は±7%以上、±10%以下であり、分離も見られなかった。分散安定性良好。
△:粘度の変化率は±10%を超えていたものの、分離は見られなかった。分散安定性通常。
【0103】
×:分離が見られた。
〈MICR特性評価〉
実施例、比較例で調製した磁性インクジェットインクを、ピエゾ方式のオンデマンド型のインクジェットプリンタ〔セイコーエプソン(株)製のWORKFORCE(登録商標)40〕のインクカートリッジに充てんし、前記インクジェットプリンタに装着した状態で、普通紙上にE−13Bフォントの文字を印刷した。そして印刷した文字を、RDM社製の読取装置「MICR Verifire」を用いて読み取った際の信号強度を求め、下記の基準でMICR特性を評価した。
【0104】
◎:信号強度80%以上。MICR特性極めて良好。
○:信号強度50%以上、80%未満。MICR特性良好。
×:信号強度50%未満。MICR特性不良。
以上の結果を表4〜表7に示す。
【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【0107】
【表6】

【0108】
【表7】

【0109】
表7の比較例5〜8の結果より、従来の、コバルトフェライトからなる磁性体粒子を用いた場合は、分散安定剤と組み合わせても、前記磁性体粒子の良好な分散安定性を確保できないことが判った。
これに対し表4、表5の実施例1〜11の結果より、式(1)で表されるコバルトマンガンフェライトからなる磁性体粒子を用いることにより、前記磁性体粒子の分散安定性をこれまでよりも向上できることが判った。
【0110】
ただし表4〜表6の実施例1〜11、比較例1〜4の結果より、前記分散安定性の向上効果を得るとともに、磁性インクジェットインクに、MICRシステム用の磁気インクとして十分な性能を付与するためには、前記式(1)中のx/yが0.5以上、0.9以下で、かつ一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下である必要があることが判った。
【0111】
また表4、表5の実施例1〜8の結果より、前記式(1)中のx/yは、前記範囲内でも0.6以上、0.8以下で、かつ一次粒子の平均粒径Φは、前記範囲内でも23nm以上、35nm以下であるのが好ましいことが判った。
また表4、表5の実施例1、9、10の結果より、前記コバルトマンガンフェライトからなる磁性体粒子と組み合わせる分散安定剤としては、式(2)で表されるジホスホン酸化合物の、無機または有機の塩が好ましく、特にジホスホン酸化合物と有機のアミン化合物との塩が好ましいことが判った。
【0112】
さらに表4、表5の実施例2、11の結果より、有機酸塩のエチレンオキシド付加物としての前記式(9)で表される化合物、ポリオキシエチレンフェニルエーテルとしての前記式(12)で表される化合物、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしての前記式(13)で表される化合物を配合することにより、前記ジホスホン酸アミン塩による分散安定剤としての機能を補助して、磁性体粒子の分散性、分散安定性をさらに向上できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒中に磁性体粒子を分散させた磁性インクジェットインクであって、前記磁性体粒子は、式(1):
【化1】

〔式中x、yは、x+y=1で、かつx/yが0.5以上、0.9以下の数を示す。〕
で表されるコバルトマンガンフェライトからなり、一次粒子の平均粒径Φが20nm以上、40nm以下であることを特徴とする磁性インクジェットインク。
【請求項2】
さらに分散安定剤として、式(2):
【化2】

〔式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rはアミノ基または水酸基を示す。〕
で表されるジホスホン酸化合物と、式(3):
【化3】

〔式中、mは1〜3の数を示し、nは2〜6の数を示す。〕
で表されるアミン化合物との塩をも含んでいる請求項1に記載の磁性インクジェットインク。

【公開番号】特開2012−233053(P2012−233053A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101643(P2011−101643)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(306029349)ゼネラル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】