説明

磁性光硬化樹脂およびそれを用いて作成した磁性立体構造物

【課題】磁性微粒子を光硬化樹脂に添加するとともにその磁性粒子の凝集及び沈殿を防ぐために,同時に増粘剤を添加し攪拌することで、磁性微粒子を均一分散させた光硬化樹脂の提供。
【解決手段】光硬化樹脂に磁性微粒子および増粘剤を添加、攪拌することにより、従来手法では凝集してしまう磁性微粒子を樹脂内で均一分散する。こうしてできた磁性光硬化樹脂を光造形法によって硬化・積層させることで、従来技術では実現不可能な複雑な磁性立体構造物を作成する。また新たな磁気駆動アクチュエータやセンサが実現可能でありこの成果は現在急成長しているマイクロデバイス分野や医療など様々な分野での革新的技術となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性光硬化樹脂およびその磁性光硬化樹脂を用いて作成した磁性立体構造物に関するものである。
本発明は、磁性微粒子を光硬化樹脂に添加するとともにその磁性粒子の凝集及び沈殿を防ぐために,同時に増粘剤を添加し攪拌することで、磁性微粒子を均一分散させた光硬化樹脂を得んとするものである。また、前記光硬化樹脂を硬化・積層させて作成した磁性立体構造物を提案せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂を用いた光造形装置及び光造形法についてはこれまで種々の技術が提案されている(特許文献1〜特許文献4)。
【特許文献1】特開平8-150662
【特許文献2】特開平6-170954
【特許文献3】特開2000-33652
【特許文献4】特開平8-118480
【0003】
特許文献1に記載されている光造形装置は、
イ)光硬化樹脂に混ぜられた微粒子の分散状態を保つために、振動機構・脱泡機構・冷却機構を含んだ光造形装置
ロ)微粒子を振動によって攪拌子しながら立体構造物を作製する光造形法
を特徴としている。
【0004】
そして特許文献1に記載されているものは、本発明と以下の点で相違している。
イ)文献1の対象とする微粒子混合光硬化樹脂は“光硬化樹脂+微粒子”であるのに対し、本発明による微粒子混合光硬化樹脂は“光硬化樹脂+微粒子+増粘剤”から成る。
ロ)文献1は装置に攪拌機構を追加し、造形工程中に微粒子の攪拌を行うことで均一分散を実現している。これに対し、本発明は増粘剤混合により光硬化樹脂を高粘度化(流動性を悪く)することで微粒子の凝集・沈殿を抑制し、均一分散を実現する。この樹脂は攪拌を継続的に行わなくても、均一分散を長時間維持可能である。
ハ)ロ)の理由より、光造形工程時の攪拌工程を必要としないため、装置を簡略化することができる。
【0005】
特許文献2に記載されている光造形装置は、
イ)補強を目的とした微粒子を混合した光硬化樹脂および光造形法
ロ)補強材を光硬化樹脂内で均一分散させるための手法として
(1)光硬化樹脂に磁性物体を混ぜて,光造形過程中に磁性物体を外部磁場により運動させ,補強材を均一分散させる。
(2)光硬化樹脂に増粘剤を混ぜて高粘度化させることで、補強材の沈下を防ぎ、均一分散させる。
を特徴としている。
【0006】
そして特許文献2に記載されているものは、本発明と以下の点で相違する。
イ)文献2で対象としている微粒子は補強を目的としており、ガラス繊維などの磁性を持たない微粒子である。これに対し、本発明は磁性を持った微粒子を用いる.
ロ)文献2も磁性物体を混ぜている。
また、磁性物体を混ぜる目的が異なる。文献2では磁性物体は光造形中に不規則運動させることを前提とし、補強材を攪拌することを目的としているが、本発明は磁性微粒子を造形中に運動させず、完成した立体構造物自体に磁性を持たせることを目的としている。
ハ)文献2も微粒子の分散を目的として増粘剤を使用しているが、その材料の構成は“光硬化樹脂+補強材+増粘剤”である。本発明は“光硬化樹脂+磁性微粒子+増粘剤”という構成からなり対象とする微粒子が異なる。
【0007】
特許文献3に記載されている光造形法は、
イ)磁性微粒子を混ぜた光硬化樹脂
ロ)光硬化樹脂に磁場を印加するための装置を設けた光造形装置
ハ)磁性微粒子を混ぜた光硬化樹脂に磁場を印加して微粒子を配向させた後に、露光硬化させる光造形手法
を特徴としている。
【0008】
そして特許文献3に記載されているものは、本発明と以下の点で相違する。
イ)文献3の材料の構成は“光硬化樹脂+磁性微粒子”である。これに対し、本発明の材料構成は“光硬化樹脂+磁性微粒子+増粘剤”である。
ロ)文献3は光造形時に磁場を印加するが,本発明においては光造形時に磁場を印加しない(ただし、磁場を印加しての造形も可能である)。
ハ)磁性微粒子を添加する目的が異なる。文献3は光硬化樹脂のはじきを改善するために磁性微粒子を混ぜているが、本発明は完成した立体構造物を磁性アクチュエータやセンサなどに応用するために磁性微粒子を混ぜている。したがって、混ぜる量も異なり、文献3は同明細書中の実施例〔0015〕項より“10wt%以上の磁性微粒子の混合は好ましくない”と指摘しているが、本発明は完成した構造物の磁性特性を高めるために高い混合率を求める。実際に我々は50wt%の磁性微粒子を混合させている。
【0009】
特許文献4に記載されている光造形法は、
イ)微粒子を混合させた光硬化樹脂を用いた光造形法
ロ)微粒子が磁性体から成り、平滑化の際に磁場を印加する光造形法
ハ)電気レオロジー効果を有する粉体から成り、光照射の際に電場を印加する光造形法
ニ)光照射によって溶媒に不溶になるシートを用いる光造形法
ホ)前記物質のための光造形装置
を特徴としている。
【0010】
そして特許文献4に記載されているものは、本発明と以下の点で相違する。
イ)文献4の材料の構成は“光硬化樹脂+微粒子”である。これに対し、本発明の材料構成は“光硬化樹脂+磁性微粒子+増粘剤”である。
ロ)文献4は光造形時に磁場を印加するが、本発明においては光造形時に磁場を印加しない。(ただし、磁場を印加しての造形も可能である。)
ハ)磁性微粒子を添加する目的が異なる。文献4は光硬化樹脂に粉体を混ぜ剛性を増加させることで、作製時にサポートの形成を不要とすることを目的としているが、本発明は完成した立体構造物を磁性アクチュエータやセンサなどに応用するために磁性微粒子を混ぜている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
磁気駆動マイクロアクチュエータはエネルギー供給の配線なしで駆動が可能であり、エネルギー供給源を外部に配置することができるため、閉空間での遠隔駆動が可能である。この特長はマイクロ流体デバイス内での流体制御や人体内での駆動を目的としたアクチュエータとして有効であり、今までに様々な磁気駆動マイクロアクチュエータが開発されている。
磁性材料の微細加工は電気メッキ、ポリマー材料のスクリーンプリントやモールディングなどがあるが、これらは作製可能な構造が基本的に2次元的な構造に制約される。
一方で、磁性マイクロ部品を組み立てて立体マイクロマシンを作製した例はあるが、この方法は高度な技術を要するため、構造が小型化・複雑化するにつれて作製が困難になる。
光造形法はラピッドプロトタイピングを基とした微細加工法であり、複雑な立体マイクロ構造物を容易にかつ短時間に作製可能とする。しかしその反面、使用可能な材料が光で固まるポリマー材料に限定されるため、材料の選択性に問題があった。近年ではこの問題を克服すべく、光造形法に適用可能な機能性光硬化樹脂が開発されている。しかし、磁性構造を立体的に作製可能な材料は未だ存在しない。
【0012】
また、
1.従来の磁性構造物の作製方法である型成形は、作製可能な形状を制限し、複雑な任意立体形状を持った磁性構造物を作製することはできない。
2.光造形はCADのデータを基に任意立体形状を短時間に作製可能とする技術であるが、従来の光硬化樹脂は主成分が有機材料であるため、作製された構造物は強磁性を示さない。したがって,従来技術では磁性構造物を作製することができない。
3.磁性微粒子を添加した光硬化樹脂に関する特許は上述したように存在するが、流動性の高い光硬化樹脂に磁性微粒子を添加しただけでは、微粒子の凝集および沈殿が生じる。これが作製構造物の質の低下につながる。
等の問題もある。
本発明者等は複雑な磁性立体構造物を作製するために、光造形に適用可能な磁性光硬化樹脂を新たに開発した。この磁性光硬化樹脂は通常の光硬化樹脂に磁性微粒子と増粘剤を添加して調合されたものであり、この樹脂により、磁性と光硬化性を両立した材料を実現することができた。
そして、この材料の硬化特性及び磁化特性を評価した。さらに、この材料を実際に光造形法で硬化させることで、らせん構造やシロッコファンなど複雑な立体マイクロ構造が作製可能であることを実証した。これらの構造物はすべて、強磁性を有しており、本発明によれば新概念の磁気デバイスの実現を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため、本発明が採用した技術解決手段は、
光硬化樹脂に所定量の磁性微粒子及び所定量の増粘材を混入し攪拌して構成したことを特徴とする磁性光硬化樹脂である。
また、前記光硬化樹脂は、エポキシ系樹脂であることを特徴とする磁性光硬化樹脂である。
また、前記磁性微粒子は、フェライト微粒子であることを特徴とする磁性光硬化樹脂である。
また、増粘剤はヒュームドシリカ、炭酸カルシウムのいずれかであることを特徴とする磁性光硬化樹脂である。
また、前記に記載の磁性光硬化樹脂を使用し、光造形方法により作成したことを特徴とする磁性立体構造物である。
また、前記光造形方法に使用する光源としては、UV(紫外線)レーザであることを特徴とする磁性立体構造物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏することができる。
1.本発明は従来技術よりもさらに複雑な任意立体形状を持った磁性立体構造物を実現可能とする。
2.前記の利点は新たな磁気駆動アクチュエータやセンサを実現可能とする。この成果は現在急成長しているマイクロデバイス分野や医療など様々な分野での革新的技術となる。3.ラピッドプロトタイピング技術を基としているので、CADによる形状の設計から実際の磁性構造物の作製までの時間短縮につながる。また、CAEと連携させることで,数値解析で得られた最適形状の作製を容易とし、磁性デバイスの開発期間の短縮に繋がる。したがって、産業面においても非常に有用な発明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る発明は、
光硬化樹脂に磁性微粒子および増粘剤を添加、攪拌することにより、従来手法では凝集してしまう磁性微粒子を樹脂内で均一分散することができる光硬化樹脂を提供する。また、この材料を光造形法によって硬化・積層させることで、従来技術では実現不可能な複雑な磁性立体構造物を作成することを可能にする。
【実施例】
【0016】
以下本発明に係る実施例を図面を参照して説明すると、図1(a)(b)は光硬化樹脂内での磁性微粒子の分散性を示す写真、図2(a)(b)は増粘剤を添加した光硬化樹脂内での磁性微粒子の分散性を示す写真である。
【0017】
光硬化樹脂の主成分はポリマーであるので、強磁性を示さない。磁性と光硬化性を両立した磁性光硬化樹脂は通常の光硬化性樹脂に磁性微粒子を添加することにより実現される。従来からSU−8に磁性微粒子を添加することによる感光性磁性材料はすでに開発されているが、SU−8は溶剤を使用しているため光造形法に適用することはできない。
【0018】
本発明者等はポリマーマトリックスとして無溶媒の光硬化樹脂を使用し,この樹脂に磁性材料を添加した。しかし、ただ単に磁性微粒子を光硬化樹脂に添加しただけでは磁性微粒子が凝集してしまう。図1は、光硬化樹脂SCR770(ディーメック)に平均粒子径1.3μmのフェライト微粒子FA−700(戸田工業)を10wt%添加し、ARE250(シンキー)で10分間攪拌した後、ガラス基板に滴下し光学顕微鏡で分散の様子を観察した結果である。図1からも明らかなように、攪拌直後(図1(a)参照)から凝集しはじめ、1時間後には完全に鎖状に凝集してしまった(図1(b)参照)。これは磁性微粒子自体が持つ磁力により、微粒子が相互に引きあうために起こる。このような不均一な凝集は作製精度や歩留まりの低下、アクチュエータの性能の悪化につながるため、好ましくない。また,磁性微粒子は光硬化樹脂よりも比重が高いため、時間が経つにつれて重力により微粒子が沈殿してしまう。従来例としてセラミックや金属微粒子の分散剤として界面活性剤を用いたものがあるが、磁性微粒子においては磁力の引力に打ち勝つだけの効果は得られない。
【0019】
そこで、本発明ではこの凝集を克服するために、光硬化樹脂に磁性微粒子と一緒に増粘剤を添加した。この光硬化樹脂の粘度の増加により、微粒子は大きな粘性抵抗を受ける。この粘性抵抗は磁力による引力の抗力となるため、磁性微粒子の凝集を抑制する役割を果たす。しかも、光硬化樹脂は増粘剤を混ぜると塑性流体性を示すため,分散状態を長期間維持することもできる.
【0020】
図2はSCR770にFA−700を10wt%、増粘剤アエロジルを5wt%添加して攪拌し、図1と同様に分散状態を観察したときの結果である。図2(a)(b)に示すように1時間後も攪拌直後と同等の分散状態を維持していることが確認できる。このように、増粘剤を添加し、光硬化樹脂の粘度を増加させることにより、磁気引力による磁性微粒子の凝集を押さえることに成功した。この結果として、光造形に適用可能な磁性微粒子の分散性を得ることができた。この分散状態は10日間以上持続することも確認されている.また、磁性微粒子の自重による沈降もほとんど起こらないため、長期間保存も可能であり安定性の高い樹脂を開発できた.
【0021】
光硬化樹脂の硬化特性は,硬化幅及び硬化深度の2つがある。こられはそれぞれ光造形法における水平方向及び鉛直方向の分解能を示し、これが光造形法の加工性を決定する。したがって、光造形法においてこれらの値を把握することは重要である。磁性光硬化樹脂は,その内部の磁性微粒子の影響により、硬化特性とは異なることが想像できる。そこで、我々は磁性光硬化樹脂の硬化特性を評価するために、硬化幅・深度測定実験を行った。
【0022】
実施例として、波長325nmのUVレーザーを焦点距離100mmの集光レンズで磁性光硬化樹脂上に集光する。この集光点はガルバノスキャナで操作され、磁性光硬化樹脂を平面的に硬化する。垂直方向にはスキージで磁性光硬化樹脂を積層する。この硬化と積層を繰り返すことで立体構造物を作製する。
【0023】
次に硬化特性測定用試料の作製方法を示す。
まず、図3(a)において、下面に樹脂滴を含んだカバーガラス2を装置ベースプレート上に設置した。そして、カバーガラス上部からレーザービーム1を走査して、磁性光硬化樹脂を格子状に硬化させた(図3(a))。樹脂はSCR770に増粘剤5wt%と磁性微粒子0〜50wt%混ぜた磁性光硬化樹脂をそれぞれ用いた。レーザーパワーは0.6mw、スキャンスピードは50mm/sであった。硬化後、サンプルをエタノールに浸し、超音波洗浄器で未硬化の樹脂を取り除いた。その後、エタノールを十分乾燥させ、格子の線の硬化幅及び硬化深度を測定した。硬化幅の測定には光学顕微鏡を、硬化深度の測定には共焦点レーザー顕微鏡を用いた。
【0024】
図3(b)(c)は磁性微粒子含有率と硬化幅及び硬化深度の関係を示した図である。硬化幅は含有率が増加するにつれて僅かに大きくなった。これは磁性微粒子により、微粒子の大きさの分だけ粗さが増加したためである。これに対し、硬化深度は含有率が増加するにつれて、劇的に減少した。磁性微粒子を50wt%混ぜた樹脂では,微粒子を混ぜないときより1/5も浅くなっていることが確認できた。この理由は磁性微粒子が障害物となって、レーザー光の樹脂深部への進行を妨げているからである。微粒子の含有率が増加するにつれて、レーザー光を遮る面積が大きくなり、より表面近くで光を遮る確率が増加するため、硬化深度が浅くなる。つまり、微粒子の添加量を多くすることにより、垂直方向の分解能を向上させることができる。
【0025】
さらに発明者等は磁性光硬化樹脂の磁化特性を測定した。SCR770に増粘剤5wt%及び磁性微粒子10〜50wt%混ぜた磁性光硬化樹脂を用いて公知の光造形装置で1mm3 の立方体を作製した.そして、VSMでそれぞれの磁化特性を測定した。図4は各添加量の磁性光硬化樹脂の磁化特性である。磁性微粒子の含有率が増加するにつれて残留磁束密度は増加し、含有率に対してほぼ比例して増加していることが確認できた。磁性微粒子を50wt%混ぜたとき,最大エネルギー積は0.23kJ/m3 であった。図4より、磁性微粒子の含有率を多くしたほうが高性能な磁気駆動アクチュエータを作製することができる。しかし、その反面図3で示されるように磁性微粒子の含有率は加工面にも影響を及ぼすため,実際には求める形状や必要な性能を考慮して材料を選定することが望ましい。
【0026】
試作例
本発明者等はこの磁性光硬化樹脂を用いて3次元CADで設計した形状データを基に立体磁性構造物を作製することに成功した。図5は実際に本発明に係る光造形法によって作製された構造物である。
図5(a)は直径500μm、長さ2mm、ピッチ1mmのらせん構造、図5(b)は外径500μm、高さ250μmのファンである。図5(c)はφ1mm、高さ700μmのシロッコファンであり、ファンの羽根の厚さは50μmである。図5(d)はカブト虫状のマイクロ彫刻である。
図5(a)(c)はSCR770に磁性微粒子50wt%、増粘剤5wt%混ぜた磁性光硬化樹脂で、図5(b)(d)は磁性微粒子を30wt%混ぜた磁性光硬化樹脂で作製した。造形条件は図5(a)(c)ではレーザーパワー0.6mw、走査速度50mm/s、積層間隔7μm、図5(b)ではレーザーパワー0.3mw、走査速度20mm/s、積層間隔10μm、図5(d)ではレーザーパワー0.6mw、走査速度20mm/s、積層間隔10μmで作製した.これらの構造物はすべて、30分以内に作製された。このように高アスペクト比な形状や蓋状構造、3次元曲面、オーバーハング構造など複雑な立体構造物を容易にかつ短時間に作製可能である。このような形状はLIGAプロセスでもマイクロアセンブリングによっても実現し得ない形状であり、我々が開発した磁性光硬化樹脂によって初めて実現可能な磁性構造物である。これらすべての構造物は任意方向に着磁可能であり、硬磁性アクチュエータとして利用することが可能である。
【0027】
以上のべたように、本発明者等はは磁性と光硬化性を両立した新たなコンポジット材料である“磁性光硬化樹脂”の開発に成功した。そして、光硬化性と磁性の両方を有していることを実験的に確認した。上記実施例では磁性粒子としてフェライトのみを添加しているが,当然ながら希土類や軟磁性体の微粒子も適用可能である。したがって、要求される磁化特性に合わせて微粒子を選定することができる。最終的に、この材料を光造形法に適用し、従来技術では作り得ない複雑な立体磁性構造体が作製可能であることを実証した。この成果により新概念のマイクロデバイスの実現が期待できる。
【0028】
以上実施例をあげて本発明について説明したが、本発明は上記実施例に限定されることはない。さらに増粘剤としては、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウムを使用することができる。
【0029】
また本発明に係る磁性立体構造物を作製するための光造形方法は上記実施例に限定されることはない。硬化方法として、1.光子吸収を用いた硬化方法、多光子吸収を用いた硬化方法を用いることができる。また露光方法はレーザー走査方式、面露光方式を用いることができる。さらに造形方法は自由液面方式、規制液面方式、内部硬化方式を用いることができる。
また、本発明に係る磁性立体構造物を作製するための光造形装置は実施例に限定されることはない。光源としては、固体レーザー、気体レーザー、半導体レーザー、紫外線ランプ等を使用することができる。光源の波長は使用する光硬化樹脂に合わせて選択することができる。露光機器としては、レーザー走査方法の場合はガルバノスキャナ、自動ステージ等を使用でき、面露光方法の場合は液晶ディスプレイ、空間光変調器、デジタルミラーアレイ等を使用できる。
また本発明はその精神また主要な特徴から逸脱することなく、他の色々な形で実施することができる。そのため前述の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。更に特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、磁性光硬化樹脂を用いて磁性立体構造物を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)(b)は光硬化樹脂内での磁性微粒子の分散性を示す写真である。
【図2】(a)(b)は増粘剤を添加した光硬化樹脂内での磁性微粒子の分散性を示す写真である。
【図3】磁性硬化装置の説明図および磁性光硬化樹脂の硬化特性を示す図である。
【図4】磁性光硬化樹脂の磁化特性を示す図である。
【図5】光造形法で作成された立体構造物を示す写真である。
【符号の説明】
【0032】
1 レーザービーム
2 カバーグラス
3 スペーサ
4 硬化樹脂
5 未硬化樹脂



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化樹脂に所定量の磁性微粒子及び所定量の増粘材を混入し攪拌して構成したことを特徴とする磁性光硬化樹脂。
【請求項2】
前記光硬化樹脂は、エポキシ系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の磁性光硬化樹脂。
【請求項3】
前記磁性微粒子は、フェライト微粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁性光硬化樹脂。
【請求項4】
増粘剤はヒュームドシリカ、炭酸カルシウムのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁性光硬化樹脂。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の磁性光硬化樹脂を使用し、光造形方法により作成したことを特徴とする磁性立体構造物。
【請求項6】
前記請求項5の光造形方法に使用する光源としては、UV(紫外線)レーザであることを特徴とする請求項5に記載の磁性立体構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−150441(P2010−150441A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331710(P2008−331710)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】