説明

磁性酸化物粒子と、これを利用した商品等の真贋判別システム

【課題】情報管理手段として有効に利用しうる磁気特性のみならず所定の光学特性をも備えた磁性酸化物粒子と、これを利用した商品等の真贋判別システムを提供する。
【解決手段】一般式:(A3-αα)B512〔式中、AはGa,Gd,Y,Ca,SrおよびBiからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、BはFe,Cr,Mn,Ni,CoおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種類の元素、又はCr,Mn,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種類の元素とAlとからなるものであり、XはNd,Yb,Tm,ErおよびHoからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、αは0.001<α<0.5を満たす数である〕であらわされる構成の磁性酸化物粒子とする。この磁性酸化物粒子を用いて印刷物等の真贋を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性と共に所定の発光特性を有する磁性酸化物粒子と、これを利用して商品等の真贋判別を行う真贋判別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クレジットカード、プリペイドカード、IDカードなどに代表されるセキュリティカードや、商品券、株券、小切手などに代表される紙媒体など、セキュリティ確保が必要な高付加価値商品が大量に流通している。これらの商品では、硬磁性材料や軟磁性材料などを用いた磁気機械認識方式のほか、複製を防止するホログラムや写真印刷などを用いた目視確認方式等により、セキュリティ確保、偽造防止対策を行っているものが多い(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−90265号公報
【特許文献2】特開2000−252120号公報
【特許文献3】特開2000−211924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記磁気機械認識方式はオーディオやビデオなどで広く普及した磁気技術の流用であり、材料ならびにハードが安くかつ大量に市場に流通していることもあって、模倣品や偽造品が出回りやすい状況となっている。また、上記目視確認方式を採用する商品においても、近年の複写機の精度向上や印刷技術の向上により同様の偽造品が作製されているにもかかわらず、基本的に目視という人間の眼に頼った方法で真贋を判定しているため、偽造品を見破ることが困難で、結果、不正使用されるケースが後を絶たないのが現状である。このような事情から、セキュリティ確保が必要とされる上記のような高付加価値商品において真贋判定をパスする多くの偽造品が出回るようになっており、大きな社会問題化している。
【0005】
その対策として、ICカードに識別情報等を記憶させておく方式や、微小な無線チップ(ICチップ)を埋め込んだ電子タグに識別情報等を記憶させておき電波により所定の読み取り器と交信することで当該識別情報等を読み取るRFID(Radio Frequency Identification)といった方式を採用し、これらと電子暗号技術とを組み合わせた偽造対策や、マイクロ文字などの現行複写機ではコピーが困難な技法による印刷対策が提案されており、一部では実際に利用されてもいる。
【0006】
しかしながら、紙媒体などの低コスト製品においては、上記のようなICカードやICチップを用いる方式はICチップ等のデバイスのコストが高いために採用しづらい。一方、マイクロ文字などを印刷する方式は、目視確認がしづらいために窓口での偽造判別等に利用しにくい。このように、従来におけるいずれの方式もセキュリティカードや紙媒体等の偽造防止策としては問題を抱えている。
【0007】
本発明は、広く普及した現行の磁気方式による情報管理のシステムを利用しつつ、あらたな機械認識により偽造や模造品を効果的に防止できるようにするため、本来の磁気特性のみならず情報管理手段として有効に利用しうる所定の光学特性をも備えた磁性酸化物粒子と、これを利用した商品等の真贋判別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の磁性酸化物粒子は、飽和磁化が0.5〜50A・m2 /kg(0.5〜50emu/g)の範囲にあり、波長250〜1500nm(250nm以上1500nm以下)の光で励起したときにピーク波長が750〜2000nm(750nm以上2000nm以下)の範囲にある光を発する構成としたものである。
【0009】
この磁性酸化物粒子は、単一の結晶構造を有し、一般式:(A3-αα)B512であらわされるものである。ここで、式中のAは、ガリウム(Ga),ガトリニウム(Gd),イットリウム(Y),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびビスマス(Bi )からなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、Bは、鉄(Fe),クロム(Cr),マンガン(Mn),ニッケル(Ni),コバルト(Co)およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の元素、又はCr,Mn,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種類の元素とAlとからなるものであり、Xは、ネオジム(Nd),イッテルビウム(Yb),ツリウム(Tm),エルビウム(Er)およびホルミウム(Ho)からなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、αは、0.001<α<0.5を満たす数である。
【0010】
本発明の磁性酸化物粒子は、後の実施例で述べるような磁性インク等への利用を考慮すると、その平均粒子サイズは、0.001〜10μmの範囲とするのが通常であるが、必ずしもこのような範囲に限定すべき必然性はなく、その利用形態等に応じてその都度最適な範囲を決定することができる。なお、本発明でいう磁性酸化物粒子の平均粒子サイズとは、透過型電子顕微鏡(TEM)にて任意の倍率で撮影した写真から各粒子のサイズを実測し、これにより得られた粒子200個の粒子サイズ測定値の平均値として求められるものである。
【0011】
また、本発明に係る商品等の真贋判別システムは、上記の磁性酸化物粒子を用いて商品等にあらかじめ記録された磁気情報および光学情報を読み取ることにより当該商品等の真贋を判別する真贋判別システムであって、前記商品等の磁気情報を読み取る読み取りヘッドと、前記読み取りヘッドの読み取り位置と同位置の前方もしくは後方に設けられて、前記商品等における磁性酸化物粒子の存在する記録部分に所定の励起光(波長250〜1500nmの励起光)を照射する発光素子(光源)と、前記励起光の照射により前記記録部分が発光したときに当該発光を検出する受光素子と、前記読み取りヘッドで読み取られた磁気情報と前記受光素子によって検出された光学情報とを照合することによって前記商品等の真贋を判定する判定手段とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁性酸化物粒子は、磁性と所定の発光特性(波長250〜1500nmの光で励起したときにピーク波長が750〜2000nmの範囲にある光を発する性質)とを有するから、これを例えば磁性インクに用いて商品等に識別情報等を印刷記録しておけば、現行の磁性材料を用いたシステムの基本的な構成を変更することなく、前記印刷記録部分の発光を検出・判別する手段を付加するだけで、偽造や模造品を判別・防止できるシステムの構築が可能となる。
【0013】
このようにして本発明の磁性酸化物粒子を利用して構築された本発明に係る真贋判別システムにおいては、磁性インクを用いて商品等に印刷記録された部分の磁化の有無による情報と、所定の励起光を照射したときの前記印刷記録部分からの発光の有無や発光パターンによる情報とに基づいて、当該商品が真正のものであるか偽造されたものであるかが機械的に判別される。したがって、従来の磁気機械認識方式に比べると商品等の偽造がされにくくなり、それだけセキュリティ性の高い判別システムとなる。また、目視に頼ることなく機械的に商品等の真贋が容易に判別できるので窓口での商品等の真贋判別に好適であり、しかも目視に頼らないので、従来の目視確認方式に比べると真贋の判別をより確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上述したように本発明の磁性酸化物粒子は、磁性と所定の発光特性とを有するから、現行の磁性材料を用いた情報システムに光学的判断による機械認識を付加したシステムを実現する場合の記録材料として利用することができる。
【0015】
現行の磁性材料としては、保磁力を有するγ酸化鉄、Feメタル、Baフェライトなどが知られており、軟磁性材料としては、Co粒子、CoNi粒子などが知られている。これらの磁性材料の多くは、遷移元素を主成分としており、可視領域から赤外領域の光を概ね吸収する。そのような中、たとえば鉄ガーネット系酸化物粒子などの、母材色が黒色系でない材料は、赤外領域の吸収が少ない場合がある。本発明は、そのような点に着目し、所定の光で励起したときに赤外光を発光する性質を有する磁性酸化物粒子を実現したものである。以下では、本発明に係る磁性酸化物粒子の一具体例として、基本的にはガーネット型フェライトの結晶構造を有する鉄ガーネット系酸化物粒子(鉄イットリウム酸化物)を利用して作製した磁性酸化物粒子について説明する。
【0016】
鉄イットリウム酸化物粒子は、前記特許文献2や特許文献3に記載されている通り、黄色あるいは黄緑色を母材色とする磁性粒子である。この粒子は、軟磁性の特性を示し、「〜40A・m2 /kg(〜40emu/g)」の飽和磁化、すなわち40A・m2 /kg(40emu/g)以下の飽和磁化を有することが知られている。この粒子の可視−赤外領域での光の吸収スペクトルを図1に示す(図中の縦軸は相対な大きさを示している)。図1を見ると、波長が700nm以上では光の透過が大きくなっており、その分だけ相対的に光の吸収が少なくなっていることがわかる。また、鉄イットリウム酸化物中のイットリウムは、蛍光材料の元素として前記特許文献1に記載されているような形で、各種希土類元素と置換できる。
【0017】
そこで、鉄イットリウム酸化物の結晶構造が崩れない程度に鉄イットリウム酸化物中のイットリウムの一部を各種希土類元素で置換した各種粒子を作製し、これらに赤外光をカットしたハロゲンランプによる光を照射してその赤外領域の発光を調べた。その結果、前記イットリウムの一部を、Nd、Yb、Ho、Tm、Erのうちの少なくとも一種の元素で置換したものについて発光が確認された。これらの発光のピーク位置は波長750〜2000nmにある。
【0018】
このように、本発明の磁性酸化物粒子は、例えば鉄イットリウム酸化物の結晶構造が崩れない程度に当該酸化物中のイットリウムの一部を所定の希土類元素で置換することによって得られるものである。この場合の希土類元素の添加量は、鉄イットリウム酸化物の飽和磁化量に影響を及ぼすため、発光強度を確保できる範囲内で少なくするほうが良い。また、発光強度や発光位置の制御のため、鉄の一部をクロム、ニッケル、コバルトなどの遷移元素に置換することも可能である。さらに、発光強度や発光位置の制御のため、Nd,Yb,Ho,Tm,Er以外の希土類元素を添加しても良い。
【0019】
鉄イットリウム酸化物の結晶構造は、前記特許文献3に記載の材料と同一で、単一相であることが好ましい。複合相化した場合、ピーク波長750〜2000nmの光を発する磁性酸化物粒子以外の非発光物を含有することがあり、その場合に磁性ならびに発光の効率を低下させる要因となるからである。
【0020】
本発明の磁性酸化物粒子の平均粒子サイズは、当該粒子の適用製品への加工性を考えると、0.001〜10μmが好ましい。なお、本発明の磁性酸化物粒子の適用製品としては、インクジェットプリンタ用のインク(IJPインク)やオフセットインクなど各種印刷インク、バイオや医療用途の磁性ビーズなどが上げられる。また、粒子サイズの制御は製造方法により行われ、固相反応(フラックス法、メカニカルアロイ法など)、液相反応(共沈法、水熱法、錯体法など)、気相法(蒸発法など)など周知の方法により行われる。
【0021】
本発明の磁性酸化物粒子を利用した商品等の真贋判別システムとしては、商品等に記録された磁気情報を読み取るための読み取りヘッド(例えば磁性薄膜ヘッドや磁性リングヘッドなど)を装備した磁気読み取り装置において、前記読み取りヘッドの読み取り位置と同位置の前方もしくは後方に、磁性酸化物粒子の存在する記録部分(本発明の磁性酸化物粒子を含む磁性インキや磁性塗料等を用いて商品等上に記録された部分)に所定の励起光を照射するための発光素子(光源)と、前記記録部分からの発光を観測するための受光素子とを設け、商品等に記録された磁気情報を前記読み取りヘッドで読み取る一方、発光素子からの光照射により発光する前記記録部分の光学情報を受光素子を介して読み取り、このようにして読み取られた磁気情報と光学情報の両方を読み取り照合することによって商品の真贋を判定する判定手段(例えばCPU、マイクロコンピュータなど)とを備えた構成のものなどが考えられる。
【0022】
基準磁気情報と光学情報との照合による真贋判別の具体的方法、すなわち判定手段における真贋判定方法については、例えば(イ)両者が同一であったときに真と判断する、(ロ)予め定められた規則で磁気情報と光学情報とが配列されているときに真と判断する、(ハ)磁気情報と光学情報とが重なりあっているときに真とする、というように、照合パターンを複合的に決めることができる。
【0023】
磁気情報を読み取るための読み取りヘッドとしては、現状の磁気記録システムにおいて使用されている例えば磁性薄膜ヘッドや磁性リングヘッドなどの磁気ヘッドを用いることができ、光を照射するための発光素子(光源)には、例えばハロゲンランプやLED、レーザなどを用いることができる。また、前記受光素子としては、例えば、Si、InGaAs、Geなどの半導体ダイオードやCCD(電荷結合素子)などを用いることができる。
【0024】
[実施例]
まず、本発明の磁性酸化物粒子の実施例およひ比較例について説明する。
【実施例1】
【0025】
2000ccの水に、硝酸イットリウム(0.08モル)、硝酸イッテルビウム(0.005モル)、硝酸ネオジム(0.015モル)および硝酸鉄(0.1785モル)を溶解したのち、硝酸ビスマス(0.007モル)を溶解した12Nの硝酸溶液100ccと混合した。この硝酸塩水溶液を、3.415モルの水酸化ナトリウムを2000ccの水に溶解した水溶液に、撹拌しながら約30分かけて滴下し、イットリウム、イッテルビウム、ネオジム、ビスマスおよび鉄の共沈物を生成させた。この共沈物を中性付近になるまで水洗したのち、ろ過して共沈物を取り出した。この共沈物を別の容器に入れ、これに融剤として臭化カリウム(0.857モル)と水(500cc)とを加え、臭化カリウムが水に溶解するまで撹拌混合し、共沈物が臭化カリウム水溶液中に均一に分散した懸濁液を得た。
【0026】
つぎに、この懸濁液をバットに取り出し、90℃で乾燥して水を除去し、共沈物と臭化カリウムとの均一混合物を得た。この混合物を乳鉢で軽く解砕したのち、プレス成形した。ついで、この成形物をルツボに入れ、850℃で2時間加熱処理することにより、臭化カリウム中に(イットリウム、イッテルビウム、ネオジム)ビスマス鉄ガーネット酸化物粒子を析出させた。最後に、この加熱処理物を水洗して、臭化カリウムを溶解除去し、表1に示す平均粒子サイズ0.5μmの磁性酸化物粒子〔(Y0.8 Yb0.05Nd0.15Bi0.073 Fe512〕を得た。図2に、この磁性酸化物粒子の発光スペクトルを示し、図5に当該粒子の走査型顕微鏡(SEM)写真(倍率:2万倍)を示す。
【実施例2】
【0027】
23 (31.6g)、Tm23 (3.88g)、Fe23 (39.9g)およびLiF(3.9g)を十分に混合して、アルミナルツボに移した後、1300℃で2時間大気中で焼成した。焼成後、フラックス剤を除去するために濃度1Nの塩酸で洗浄し、水洗した。その後、90℃で24時間乾燥し、表1に示す平均粒子サイズ2.0μmの磁性酸化物粒子〔(Y0.98Tm0.073 Fe512〕を得た。図3に、この磁性酸化物粒子の発光スペクトルを示し、図7に当該粒子のX線回折図を示す。なお、図7には、後述する比較例1で得られた粒子のX線回折図も併せて示してある。
【実施例3】
【0028】
2,000ccの水に、硝酸イットリウム(0.09モル)、硝酸ホロミウム(0.01モル)および硝酸鉄(0.1785モル)を溶解したのち、硝酸ビスマス(0.007モル)を溶解した12Nの硝酸溶液(100cc)と混合した。この硝酸塩水溶液(100g)に尿素(5g)を添加し、180℃でオートクレーブ処理を行い、懸濁液を得た。
【0029】
つぎに、この懸濁液をイオン交換水にて洗浄し、バットに取り出し、90℃で乾燥して水を除去した。ついで、この成形物をルツボに入れ、650℃で2時間加熱処理することにより、表1に示す平均粒子サイズ0.010μmの磁性酸化物粒子〔(Y0.9 Ho0.1 Bi0.073 Fe512〕を得た。図4に、この磁性酸化物粒子の発光スペクトルを示し、図6に当該粒子の透過型顕微鏡(TEM)写真(倍率:20万倍)を示す。
【実施例4】
【0030】
23 (22.6g)、Gd23 (14.5g)、Er23 (3.85g)、Fe23 (39.9g)およびLiF(3.9g)を十分に混合し、アルミナルツボに移した後、1500℃で2時間大気中で焼成した。焼成後、フラックス剤を除去するために濃度1Nの塩酸で洗浄し、水洗した。その後、90℃で24時間乾燥し、表1に示す平均粒子サイズ5.0μmの磁性酸化物粒子〔(Y0.66Gd0.27Er0.073 Fe512〕を得た。
【0031】
[比較例1]
上記実施例2において、Y23 の配合量を31.6gから33.9gに変更し、Er23 (3.85g)を除いた以外は、同一の条件にて図1に示す比較例1の粒子〔(Y0.73Gd0.273 Fe512〕を製造した。図7に、当該粒子のX線回折図を示す。
【0032】
〔特性評価〕
以上の実施例1〜4および比較例1で得られた各粒子について下記の特性評価を行った。なお、各特性評価で使用した測定装置および測定条件は下記の通りである。
【0033】
『磁気特性』
・測定装置:東英工業社製「磁気特性測定装置VSM−5」
※測定条件:東英工業社製プラスチックセルに資料を詰め、外部磁場5kGで測定した。
【0034】
『結晶性』
・測定装置:リガク社製「X線回折装置RINT2000」
※測定条件:リガク社製ガラスサンプル板に試料を詰め、電圧50kV、電流100mAで測定した。
【0035】
『発光特性』
・測定装置:日本分光社製「分光計CT−50型+センサーInGaAs」
※測定条件:リガク製ガラスサンプル板に試料を詰め、100Wハロゲンランプの光(波長:500〜1500nm)を照射し、スキャン速度60nm/分で測定した。
【0036】
『粒子サイズ』
・測定装置:日立製作所社製透過型電子顕微鏡「TEM8000」
※測定条件:上記装置で任意の倍率で撮影した顕微鏡写真より200個を抽出し、これらの粒径測定値の平均をとって粒子サイズとした。なお、各粒子についてはその最長部分をもって粒径とした。
【0037】
表1に、上記実施例1〜4およひ比較例1で得られた各粒子の組成と、これらの粒子についての上記測定の結果をまとめて示す。
【0038】
【表1】

【0039】
上記の結果から明らかなように、実施例1〜4に係る磁性酸化物粒子は、比較例1に係る粒子と同一の結晶性ならびに磁性を有することがわかる。また、上記ハロゲンランプの光を照射したときに、波長750〜2000nmの範囲において、比較例1に係る粒子は発光性を示さなかったのに対し、実施例1〜4に係る磁性酸化物粒子は複数のピーク波長をもった光を発することもわかる。
【0040】
次に、本発明に係る磁性酸化物粒子を利用した商品等の真贋判別システムの実施例について説明する。
【実施例5】
【0041】
上記実施例2で作製した磁性酸化物粒子〔(Y0.98Tm0.073 Fe512であらわされるツリウム含有鉄イットリウム酸化物粒子〕を含有させた下記組成物(i)をボールミルにより充分に混練分散させた後、多官能性ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製、コロネートL(商標名))を5重量部加えて磁性塗料(磁性インク)を調製した。
【0042】
組成物(i):
・ツリウム含有鉄イットリウム酸化物粒子(磁性酸化物粒子) 70重量部
・ポリウレタン樹脂(大日本インキ化学工業社製T−5250) 15重量部
・シクロヘキサノン 75重量部
・トルエン 75重量部
【0043】
次いで、上記磁性塗料を用いて所定のパターンを印刷形成してなる印刷物(本発明でいう「商品等」の一具体例)を作製した。すなわち、図8に示すごとく、スリットの入ったアプリケータ(図示せず)を使用して、厚さ30μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フイルムからなる基材10上に、厚み10μmで、上記磁性塗料をパターン塗布し、乾燥することにより、基材10上に所定の印刷パターン部分11を有する印刷物12を得た。
【0044】
このようにして得られた印刷物12を一定の速度で一方向に移動させ、その状態で本発明に係る真贋判別システムにより、印刷物12の印刷パターン部分11における磁気情報と光学情報とを読み取って、それらを照合することで真贋判定することを行った。
【0045】
この場合に使用した本発明に係る真贋判別システム1は、図8に示したように、印刷物12の印刷パターン部分11の磁気情報を読み取る磁気ヘッド(読み取りヘッド)2と、印刷物12の印刷パターン部分11に所定の励起光を照射する発光素子(光源)3と、印刷物12の印刷パターン部分11からの光学情報を検出する受光素子4と、磁気ヘッド2で読み取られた磁気情報と受光素子4によって検出された光学情報とを照合することによって印刷物12の真贋を判定する判定手段(この例では、そのような判定プログラムが組み込まれたマイクロコンピュータ)5とを備えた構成である。ここで、発光素子3は、この実施例では、波長600〜700nmの励起光を照射するLED(発光ダイオード)で構成され、磁気ヘッド2の読み取り位置よりもわずかに後方(図8中の印刷物12の移動方向に向かって後方、つまり図中の右方)の位置に配置されている。
【0046】
そして、この真贋判別システム1においては、印刷物12を図8中の左方に一定の速度で移動させて、その印刷パターン部分11の磁気情報をまず磁気ヘッド2で読み取り、次いで同じ印刷パターン部分11に発光素子3からの励起光を照射して当該印刷パターン部分11の光学情報(発光情報)を受光素子4によって読み取り、これらの読み取られた磁気情報および光学情報を判定手段5で照合することによって、印刷物12の真贋判定を行うようになっている。この場合、磁気ヘッド2よって読み取られる光学情報は、例えば、図8中の(a)で示した磁性応答信号パターンとして得られ、受光素子4によって読み取られる光学情報は、同じく図8中の(b)で示した発光応答信号パターンとして得られる。
【0047】
このような図8に示した真贋判別システム1によれば、例えば、同図の中段に示したように(a)の磁性応答信号パターンと(b)の発光応答信号パターンの両パターン(波形パターン)とが一致した場合に、判定手段5は印刷物12を「真」と判定し、同図の下段に示したように(a)と(b)の両パターンが一致しなかった場合に、判定手段5は印刷物12を「偽」と判定することができる。したがって、例えば、目視だけでは真正のものと判断されてしまう印刷物や、あるいは機械的に読み取られた磁気情報からは真正品と判断されてしまう印刷物であっても、図8の下段に示したように(a)の磁性応答信号パターンと(b)の発光応答信号パターンの両パターンが一致しない場合は真正品ではないと判断されることになる。こうして、磁気情報以外に光学情報(発光情報)による機械認識が可能な商品等の真贋判別システム、すなわち従来の磁気機械認識方式や目視確認方式に比べて真贋判別をより確実かつ厳密に行えるセキュリティ性の高い商品等の真贋判別システムを実現することができる。
【0048】
図9に、同様の方法にて印刷パターンを変更した他の印刷例として、パターン例1とパターン例2の2つの例を示す。図9中の各磁気ヘッド2等の各素子については、図8におけるものと同様のものは図8における符号と同様の符号を付してその説明を省略する(ただし、印刷パターン部分11の構成は下記のように図8におけるものと異なっている)。
【0049】
図9中のパターン例1は、印刷物12を構成する基材10上に、発光を示さない通常の磁性材料と、非磁性材料(ダミー材料)と、磁性および発光特性を有する本発明の磁性酸化物粒子とを、同図に示したように各材料ごと離散的に設けた印刷パターン部分11としたものである。この場合、真正品であれば、例えば、磁気ヘッド2によってパターン例1の(a)で示したような磁性応答信号パターンが検出され、受光素子4によって同パターン例1の(b)で示したような発光応答信号パターンが検出される。したがって、磁気ヘッド2および受光素子4によって検出されたパターンが、これらの(a)および(b)以外のパターンである場合には、印刷物12を偽(真正品でない)と判定することができる。
【0050】
また、図9中のパターン例2は、印刷物12を構成する基材11上に、発光を示さない通常の磁性材料と、非磁性材料(ダミー材料)と、磁性および発光特性を有する本発明の磁性酸化物粒子とを、同図に示したように各印刷部分ごとに重畳的にあるいは隣接させて設けた印刷パターンとしたものである。この場合、真正品であれば、例えば、磁気ヘッド2によってパターン例2の(a)で示したような磁性応答信号パターンが検出され、受光素子4によって同パターン例2の(b)で示したような発光応答信号パターンが検出される。したがって、磁気ヘッド2および受光素子4によって検出されたパターンが、これらの(a)および(b)以外のパターンである場合には、印刷物12を「偽(真正品でない)」と判定することができる。このパターン例2では、(a)の磁性応答パターンと(b)の発光応答パターンは、図8に示したものやパターン例1に比べてより複雑なものとなるため、それだけ偽造も困難になるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】鉄イットリウム酸化物の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた磁性酸化物粒子に励起光(波長250〜1500nm)を照射して発光させたときの当該粒子の発光スペクトルを示す図である。
【図3】実施例2で得られた磁性酸化物粒子に励起光(波長250〜1500nm)を照射して発光させたときの当該粒子の発光スペクトルを示す図である。
【図4】実施例3で得られた磁性酸化物粒子に励起光(波長250〜1500nm)を照射して発光させたときの当該粒子の発光スペクトルを示す図である。
【図5】実施例1で得られた磁性酸化物粒子のSEM写真(倍率:2万倍)を示す図である。
【図6】実施例3で得られた磁性酸化物粒子のTEM写真(倍率:20万倍)を示す図である。
【図7】実施例2で得られた磁性酸化物粒子のX線回折図(X線回折スペクトル)を、比較例1で得られた粒子のX線回折図(X線回折スペクトル)とともに示す図である。
【図8】実施例5において、本発明に係る商品等の真贋判別システムを説明するために使用したもので、当該システムの基本的な構成と、真贋判別の対象となる印刷物(商品等)における印刷パターンと、当該システムによって検出される磁気情報(磁性応答信号パターン)および光学情報(発光応答信号パターン)のパターン例とを併記した説明図である。
【図9】図8に示したものとは異なる他の2つの印刷パターン(パターン例1およびパターン例2)を、これらにそれぞれ対応する信号パターンの例とともに示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 真贋判別システスム
2 読み取りヘッド(磁気ヘッド)
3 発光素子(光源)
4 受光素子
5 判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和磁化が0.5〜50A・m2 /kg(0.5〜50emu/g)の範囲にあり、波長250〜1500nmの光で励起したときにピーク波長が750〜2000nmの範囲にある光を発することを特徴とする磁性酸化物粒子。
【請求項2】
一般式:(A3-αα)B512〔式中、AはGa,Gd,Y,Ca,SrおよびBiからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、BはFe,Cr,Mn,Ni,CoおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種類の元素、又はCr,Mn,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種類の元素とAlとからなるものであり、XはNd,Yb,Tm,ErおよびHoからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、αは0.001<α<0.5を満たす数である〕であらわされる、請求項1記載の磁性酸化物粒子。
【請求項3】
平均粒子サイズが0.001〜10μmであり、結晶構造が単一である、請求項1または2記載の磁性酸化物粒子。
【請求項4】
(Y0.8 Yb0.05Nd0.15Bi0.073 Fe512、(Y0.98Tm0.073 Fe512、(Y0.9 Ho0.1 Bi0.073 Fe512、または(Y0.66Gd0.27Er0.073 Fe512のいずれかの化学式であらわされる、請求項1または請求項2または請求項3に記載の磁性酸化物粒子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された磁性酸化物粒子を用いて商品等にあらかじめ記録された磁気情報および光学情報を読み取ることにより当該商品等の真贋を判別する真贋判別システムであって、
前記商品等の磁気情報を読み取る読み取りヘッドと、
前記読み取りヘッドの読み取り位置と同位置の前方もしくは後方に設けられて、前記商品等における磁性酸化物粒子の存在する記録部分に、波長250〜1500nmの励起光を照射する発光素子と、
前記励起光の照射により前記記録部分が発光したときに当該発光を検出する受光素子と、
前記読み取りヘッドで読み取られた磁気情報と前記受光素子によって検出された光学情報とを照合することによって前記商品等の真贋を判定する判定手段とが備えられていることを特徴とする商品等の真贋判別システム。
【請求項6】
判定手段は、前記読み取りヘッドで読み取られた磁気情報と前記受光素子によって検出された光学情報とを照合し、両者が同一であったときに真と判定する、請求項5記載の商品等の真贋判別システム。
【請求項7】
判定手段は、前記読み取りヘッドで読み取られた磁気情報と前記受光素子によって検出された光学情報とを照合し、あらかじめ定められた規則で前記磁気情報と前記光学情報とが配列されているときに真と判定する、請求項5記載の商品等の真贋判別システム。
【請求項8】
判定手段は、前記読み取りヘッドで読み取られた磁気情報と前記受光素子によって検出された光学情報とを照合し、前記磁気情報と前記光学情報とが重なりあっているときに真と判定する、請求項5記載の商品等の真贋判別システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−234910(P2007−234910A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55539(P2006−55539)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】