説明

磁歪材料及びその製造方法

【課題】 磁化を減少させる因子を極力排除し、磁歪特性や透磁率に優れた磁歪材料を提供する。
【解決手段】 多結晶構造を有するとともに、RT(ただし、Rは1種類以上の希土類元素であり、Tは1種類以上の遷移金属元素である。)で表される主相及び前記主相よりも希土類元素の比率が高い希土類リッチ相を有する磁歪材料である。主相と希土類リッチ相の合計組成をRTとしたときに、1.98≦x≦2.00である。粉末冶金法により多結晶構造の磁歪材料を製造するに際し、所定期間真空下で焼結を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば粉末冶金法による形成され多結晶構造を有する磁歪材料及びその製造方法に関するものであり、特に、結晶粒子の3重点に濃集される希土類リッチ相を低減させることで特性の向上を図った新規な磁歪材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、Tb−Dy−Fe系金属間化合物等からなる磁歪材料(いわゆる超磁歪材料)は、従来のフェライト系磁歪材料等に比べて高い磁歪特性を有することから、近年、その需要は益々拡大する傾向にある。具体的な用途としては、リニアアクチュエータ、振動子、圧力トルクセンサ、振動センサ、ジャイロセンサ等である。リニアアクチュエータや振動子等に用いた場合、磁歪素子は、付与する磁界の変化に伴い寸法が変化し、駆動力を発生する。圧力トルクセンサ、振動センサ、ジャイロセンサ等に用いた場合、磁歪素子は、外部から加わる力の変化に伴い透磁率が変化し、これをセンシングすることで圧力、トルク、振動等が検出される。
【0003】
このような磁歪材料の製造法としては、単結晶育成法が有効であることが従来から知られているが、単結晶育成法は極めて生産性が低く、形状の自由度も大幅に制限されるという欠点がある。そこで、単結晶育成法の欠点を改善し、低コストな製造を可能とするために、粉末冶金法による磁歪材料の製造が検討されている。粉末冶金法においては、基本的には、原料合金粉末を秤量及び混合し、所定の形状に加圧成形し、得られた成形体について焼結を行い、必要に応じて後加工処理を施すことにより磁歪材料が焼結体として製造される。
【0004】
ところで、前述の粉末冶金法により製造される磁歪材料(焼結体)は、RT(ただし、Rは1種類以上の希土類元素であり、Tは1種類以上の遷移金属元素である。)で表される組成を有するラーベス型金属間化合物を主相とするものであり、多結晶構造を有する。そして、このような粉末冶金法により形成される磁歪材料においては、合金組成や製造条件等により、前記主相の他に様々な異相が析出することが知られている。例えば、RTで表される相や、原料中の不純物によって形成される相、酸化物相、炭化物相等が異相として析出する。
【0005】
これら異相の中で、例えばRTで表される相(RFe相等)が存在すると、前記ラーベス型金属間化合物の磁歪特性に影響を及ぼす。そこで、異相の析出を抑えることことが要望されており、例えば合金組成をコントロールすることで前記異相の析出を抑え、磁歪特性を向上することが試みられている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0006】
特許文献1記載の発明は、本願出願人及び発明者により提案されたものであり、Rで表される希土類金属を合金組成上増やした系において、異相の析出をコントロールすることで、優れた磁歪特性を実現し、製品間の特性のバラツキを抑えるようにしている。具体的には、特許文献1記載の磁歪材料は、粉末冶金法によって製造される式1:RT(ここで、Rは1種類以上の希土類金属、TはFe、Ni、Coの群から選択される少なくとも1種類の金属であり、wは原子比を表し、1.50≦w≦2.30である。)で表される磁歪材料であって、その構造は、RT主相と、Rを主成分とする相を含む1種以上の異相とからなり、Rを主成分とする相とRT主相との比([R]/[RT])が、0<[R]/[RT]≦0.45の範囲にある磁歪材料である。
【特許文献1】特開2003−171747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1にも記載されるように、粉末冶金法により焼結される多結晶構造の磁歪材料においては、焼結過程で収縮させるために希土類リッチ相が必要であり、これにより磁歪特性が向上する。これらの希土類リッチ相は、粒界を形成するとともに、結晶粒子の3重点に濃集され、粒界及び3重点の希土類リッチ相は、焼結過程で結晶を成長させ、且つ収縮による高密度化に寄与する。
【0008】
しかしながら、本発明者らがさらなる検討を進めた結果、前記粒界及び3重点の希土類リッチ相は、過剰に存在すると磁歪特性を低下させる要因となり、他方で結晶粒子の磁化に抗するため透磁率の低下の要因にもなることがわかってきた。磁歪材料においては、前記透磁率の低下は大きな問題であり、性能確保のためには、磁歪特性のみならず透磁率の向上も必要である。
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、磁化を減少させる因子を極力排除することで、磁歪特性や透磁率に優れた磁歪材料を提供することを目的とし、さらには、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の目的を達成するために、長期に亘り鋭意研究を重ねてきた。その結果、例えば粒界や3重点に濃集した希土類リッチ相を真空にて蒸発させることにより低減させることができ、このことにより磁化過程で内部応力となり、結果として磁化を減少させる因子である希土類リッチ相の量が少なくなり、磁歪率が向上するとの知見を得るに至った。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の磁歪材料は、多結晶構造を有するとともに、RT(ただし、Rは1種類以上の希土類元素であり、Tは1種類以上の遷移金属元素である。)で表される主相及び前記主相よりも希土類元素の比率が高い希土類リッチ相を有する磁歪材料であって、前記主相と希土類リッチ相の合計組成をRTとしたときに、1.98≦x≦2.00であることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、RTで表される主相と希土類リッチ相の合計組成RTを所定の範囲に規定しているが、この合計組成RTは、希土類リッチ相の前記粒界や3重点における存在量の指標となるものである。前記合計組成RTにおいて、xの値が小さければ希土類リッチ相が多く存在することを意味する。xの値が2.00の場合が理想状態であり、希土類リッチ相が前記粒界や3重点に全く存在しない状態である。
【0013】
本発明では、前記合計組成RTにおいて、xの値を1.98≦x≦2.00としているが、これは前記粒界や3重点の希土類リッチ相を極力排除し、焼結後、粒界や3重点に濃集した希土類リッチ相を必要最小限に抑えることを意味し、これにより、希土類リッチ相の存在により問題となる磁歪特性の低下や透磁率の低下が解消される。希土類リッチ相を前記のような低いレベルに抑えた焼結体は、これまで実現された例はなく、例えば特許文献1においても検討されていない。
【0014】
前記合計組成RTにおいて、xの値を1.98≦x≦2.00とするには、すなわち希土類リッチ相を排除するには、例えば粒界や3重点に濃集した希土類リッチ相を真空にて蒸発させればよい。これを規定したのが本発明の磁歪材料の製造方法である。本発明の磁歪材料の製造方法は、粉末冶金法により多結晶構造の磁歪材料を製造するに際し、所定期間真空下で焼結を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁化を減少させる因子である希土類リッチ相を粒界や3重点から排除しているので、磁歪特性や透磁率に優れた磁歪材料を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した磁歪材料及びその製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
先ず、粉末冶金法により製造される磁歪材料について説明する。粉末冶金法では、磁歪材料は、例えば一般式RT(ここで、Rは1種類以上の希土類元素、Tは1種類以上の遷移金属元素であり、yは1<y<2.1である。)で示される組成の合金粉末を焼結することによって得られる。
【0018】
前記一般式において、Rは、Yを含むランタノイド系列、アクチノイド系列の希土類元素から選択される1種以上を表している。これらの中で、Rとしては、特にNd、Pr、Sm、Tb、Dy、Ho等の希土類元素が好ましく、Tb、Dyがより一層好ましく、これらを混合して用いることができる。一方、Tは、1種以上の遷移金属元素を表している。これらの中で、Tとしては、特に、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Mo等の遷移金属が好ましく、これらを混合して用いることができる。
【0019】
RTで表される合金のうち、y=2であるRTラーベス型金属間化合物は、キュリー温度が高く、磁歪値が大きいため、磁歪素子に適する。ここで、yが1以下では、焼結後の熱処理でRT相が析出して磁歪値が低下する。また、yが2.1以上では、RT相又はRT相が多くなり、磁歪値が低下する。RT相を多くするために、yは1<y<2.1の範囲が好ましい。
【0020】
Rは、2種以上の希土類元素を混合してもよく、特に、TbとDyを混合して用いることが好ましい。具体的には、TbDy(1−a)で表される合金で、aは0.27<a≦0.50の範囲にあることが一層好ましい。これにより、(TbDy(1−a))Tなる合金で、飽和磁歪定数が大きく、大きな磁歪値が得られる。ここで、aが0.27以下では室温以下では十分な磁歪値を示さず、逆に0.50を越えると室温付近では十分な磁歪値を示さない。
【0021】
Tは、特にFeが好ましく、FeはTb、Dyと(Tb、Dy)Fe金属間化合物を形成して、大きな磁歪値を有し磁歪特性の高い焼結体が得られる。このときに、Feの一部をCo、Niで置換してもよいが、Coは磁気異方性を大きくするものの、透磁率を低くし、また、Niはキュリー温度を下げ、結果として常温・高磁場での磁歪値を低下させる。したがって、Feは70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0022】
前述の組成を有する合金粉末を焼結して得られる磁歪材料は、前記RTを主相とする多結晶構造を有し、各結晶粒界や3重点に希土類リッチ相が濃集した構造を有する。このような構造を採る多結晶磁歪材料においては、前記希土類リッチ相は、焼結過程で結晶を成長させるとともに、収縮による高密度化を促進し、磁歪素子の焼結において不可欠なものであるが、粒界や3重点等に過剰に存在すると、磁歪特性や透磁率を低下する要因となる。
【0023】
そこで、本発明においては、前記粒界や3重点に存在する希土類リッチ相を必要最小限に抑え、前記特性の低下を回避することとする。この場合、前記希土類リッチ相の存在量は、例えば焼結体の断面を観察し、画像処理すること等によっても把握することは可能であるが、必ずしも主相と希土類リッチ相、その他の異相等を明確に判別することができず、正確に数値化して前記希土類リッチ相の存在量の指標とすることは難しい。そこで、本発明においては、磁歪材料における金属部分の組成を前記指標として利用する。
【0024】
すなわち、前記磁歪材料において、RT相等の異相の生成を抑えるために希土類リッチな組成の合金粉末を用いて焼結すると、酸化物を除く金属部分は、基本的にはRTで表される主相と、前記希土類リッチ相とから構成される。ここで、磁歪材料の金属部分の組成をRTと表すと、当該組成RTは、前記主相と希土類リッチ相とを合わせた合計組成を表すことになる。そして、前記合計組成RTにおいて、xの値が2.00の場合、前記希土類リッチ相が全く存在しない理想状態ということになる。一方、xの値が2.00よりも小さい場合には、希土類リッチ相が存在することになり、数値が小さいほど希土類リッチ相の量が多いことになる。
【0025】
そこで、本発明においては、前記合計組成RTにおけるxの値を、1.98≦x≦2.00と規定し、磁歪材料の磁歪特性や透磁率の低下を最小限に抑えるようにする。前記規定は、粒界や3重点に存在する希土類リッチ相の量を極力少なくすることを意味し、xの値を1.98以上とすることで、磁化を減少させる因子(希土類リッチ相)の影響を抑えることができる。
【0026】
以上の説明においては、酸化物について考慮していないが、実際の磁歪材料を考えた場合には、酸化物として含まれる希土類元素も併せて考慮する必要がある。希土類リッチ相において、過剰に含まれる希土類元素は、酸化され易い性質を有することから、製造過程で微量に存在する酸素と反応し、RT主相が酸化されるのを防ぐという機能を発揮し、したがって粉末冶金法により作製される磁歪材料(焼結体)は、希土類元素が酸素と反応した酸化物を含むのが一般的である。
【0027】
前記酸化物を考慮する場合、主相と希土類リッチ相とを合わせた合計組成RTについては前記の通りの組成範囲とする必要があり、さらに主相と希土類リッチ相、酸化物状態の希土類元素とを合わせた合計組成RTにおけるzの値を適正に設定することが好ましい。
【0028】
図1は、磁歪材料における酸素含有量と合計組成RTにおけるzの値の関係を示すものである。例えば、主相と希土類リッチ相とを合わせた合計組成RTにおいてx=2.00である場合、酸化物として存在する希土類元素の量が増えていくと、前記合計組成RTにおけるzの値は次第に小さくなる。
【0029】
図1において、線Aは、前記合計組成RTにおけるxの値が2.00である場合の酸素含有量と前記zの値の関係を示すものであり、線Bは、前記合計組成RTにおけるxの値が1.98である場合の酸素含有量と前記zの値の関係を示すものである。前記主相と希土類リッチ相とを合わせた合計組成RTにおけるxの値の規定によれば、前記線Aと線Bで挟まれた領域が本発明の組成範囲ということになる。
【0030】
酸素含有量については、工程能力等の関係で、1000ppm程度が下限であり、これ以上酸素含有量を少なくすることは、現実的には難しい。したがって、この酸素含有量1000ppmのラインと前記線Aとが交わる点が前記酸化物状態の希土類元素を合わせた合計組成RTにおけるzの値の上限ということになり、ここではz≦1.96ということになる。
【0031】
以上のように、主相と希土類リッチ相とを合わせた合計組成RTにおけるxの値、さらには主相と希土類リッチ相、酸化物状態の希土類元素とを合わせた合計組成RTにおけるzの値を前記範囲内に設定することにより、磁歪特性や透磁率に優れた磁歪材料を実現することができる。
【0032】
ここで、特に、前記合計組成RTにおけるxの値を1.98以上とするには、粒界及び3重点に濃集している希土類リッチ相を蒸発等により除去する必要があり、したがって、磁歪材料を粉末冶金法により作製する際に、真空下で行う等の工夫を要する。以下、本発明の磁歪材料の製造方法について説明する。
【0033】
磁歪材料の粉末冶金法による製造においては、例えば、3種類の原料A,B,Cをそれぞれ前処理した後、秤量、混合及び粉砕処理、成形、焼結等の工程を経て最終的な製品とされる。
【0034】
ここで、原料の一部である原料Aは、所定組成で構成されたTb−Dy−Fe系合金を所定条件で熱処理(アニール)を行った後、粉砕処理をする。原料BとしてDyFeなる組成を有する合金を水素吸蔵処理後、粉砕処理をする。原料Cとして、Feを水素ガス雰囲気中で酸素を除去する還元処理を行う。
【0035】
これら合金粉末の一部は、水素吸蔵処理されることが好ましい。合金粉末に水素を吸蔵させることにより、歪みが生じ、その内部応力によって割れが生ずる。このために、混合された合金粉末は、成形体を形成する時に圧力を受け、内部で粉砕されて細かくなり、焼結したときに緻密な高密度焼結体を得ることができる。さらに、Tb、Dy等の希土類元素は酸化されやすいために、わずかな酸素があっても表面に融点の高い酸化膜を形成して焼結の進行を抑制するが、水素を吸蔵することで、酸化され難くなるという利点もある。
【0036】
次に、前述の原料A、原料B及び原料Cを所定量秤量して粉砕・混合処理し、これを磁場中で成形して成形体を作製する。このとき、昇華性有機化合物等を成形助剤として用い、効率的な成形を可能とするようにしてもよい。
【0037】
前記により成形された成形体を焼結炉内に入れ、所定の条件で熱処理し、焼結を行うことにより、焼結体を作製する。焼結は、成形体を焼結炉に入れた後に所定温度まで昇温する昇温過程、所定の温度(安定温度)をほぼ一定に保持する過程、及び降温過程を経ることにより行われる。
【0038】
前記焼結は、先ず最初の段階において、水素雰囲気中で加熱を行うことが好ましい。水素雰囲気中で焼結を行うことで、焼結密度を向上することができる。勿論、前記水素雰囲気とすることは必須ではなく、必要に応じて水素導入を行えばよい。
【0039】
本発明において重要なのは、前記焼結時に、一定期間、例えば焼結の到達温度に到達後、一定の時間、真空下で焼結を行うことである。なお、ここで真空とは、例えば減圧により圧力10−2Torr以下とすることを言うものとする。これにより、粒界や3重点に濃集する希土類リッチ相が蒸発し、前記主相と希土類リッチ相とを合わせた合計組成RTにおけるxの値を所定の範囲内に収めることができ、磁歪特性や透磁率に優れた磁歪材料を得ることができる。
【0040】
例えば図1において、線Aと線Bの間の組成に対応した原料組成で焼結体の製造を行うと、異相の生成等の問題が生ずるため、これまで希土類リッチな組成(例えば、図1中の線Cで示す組成)で焼結体の製造を行っている。本発明方法では、原料組成として例えば前記線C上の組成を採用し、例えば点Dで示す組成として焼結を進めるとともに、焼結の到達温度に到達後、一定の時間、真空下で焼結を行う。これにより、希土類リッチ相を蒸発させ、図1中矢印で示すように点Eまで組成をシフトさせて、最終的に得られる焼結体の組成を、本発明で規定する範囲(線Aと線Bの間の領域)内に収める。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0042】
<実施例>
Tb0.4Dy0.6Fe1.93合金を1150℃でアニールし、ブラウンミルを用いて粉砕し、A原料とした。また、DyFe合金に150℃で1時間、水素を吸蔵させ、水素吸蔵粉砕を行った後、2mmのメッシュを通してB原料とした。さらに、粒径5μmのFe粉を水素還元し、C原料とした。前記A原料、B原料、及びC原料を所定の割合で配合し、アトマイザーで粉砕して原料合金粉末を得た。この原料合金粉末を8t/cmの圧力で成形し、焼結を行った。
【0043】
焼結は、図2に示す温度プロファイルのうち、真空プロファイルにしたがって行った。すなわち、Ar雰囲気として昇温を開始し、950に到達した時点で水素を35%導入した。さらに昇温を続け、焼結の到達温度1200℃に到達した時点で炉内を真空にした。この状態を180分間維持した後、Ar雰囲気に切り換え、さらに3時間温度を維持し、降温した。
【0044】
<比較例>
原料合金粉末の作製方法は、先の実施例と同様である。この原料合金粉末を8t/cmの圧力で成形し、焼結を行った。焼結は、図2に示す温度プロファイルのうち、標準プロファイルにしたがって行った。すなわち、Ar雰囲気として昇温を開始し、950に到達した時点で水素を35%導入した。さらに昇温を続け、焼結の到達温度1200℃に到達した後、35分経過した時点でAr雰囲気に切り換え、さらに3時間温度を維持し、降温した。
【0045】
<評価>
以上の実施例、比較例で作製した磁歪材料について、先ず、その断面を観察した。図3は、比較例で作製された磁歪材料の電子顕微鏡写真である。粒界や3重点に希土類リッチ相が白く観察される。一方、図4は、実施例で作製された磁歪材料の電子顕微鏡写真である。実施例で作製された磁歪材料では、前記比較例の磁歪材料で観察された希土類リッチ相はほとんど見られない。
【0046】
次に、各磁歪材料について組成分析を行い、前記合計組成RTにおけるxの値、合計組成RTにおけるzの値を求めた。また、各磁歪材料について密度及び磁歪特性[磁歪量λ0.4(ppm)及び磁歪量λ1.0(ppm)]を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
この表1から明らかな通り、実施例において磁歪特性が大幅に改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】酸素含有量とRTにおけるzの値の関係を示す特性図である。
【図2】焼結時の温度プロファイルの例(標準プロファイル及び真空プロファイル)を示す図である。
【図3】比較例で作製した磁歪材料の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例で作製した磁歪材料の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶構造を有するとともに、RT(ただし、Rは1種類以上の希土類元素であり、Tは1種類以上の遷移金属元素である。)で表される主相及び前記主相よりも希土類元素の比率が高い希土類リッチ相を有する磁歪材料であって、
前記主相と希土類リッチ相の合計組成をRTとしたときに、1.98≦x≦2.00であることを特徴とする磁歪材料。
【請求項2】
前記主相、希土類リッチ相、及び酸化物状態の希土類元素の合計組成をRTとしたときに、z≦1.96であることを特徴とする請求項1記載の磁歪材料。
【請求項3】
前記主相は、TbDy(1−y)Fe(ただし、0.27≦y≦0.50である。)合金からなることを特徴とする請求項1または2記載の磁歪材料。
【請求項4】
粉末冶金法により多結晶構造の磁歪材料を製造するに際し、所定期間真空下で焼結を行うことを特徴とする磁歪材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−84853(P2007−84853A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272381(P2005−272381)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】