説明

磁気インピーダンス素子及びその製造方法

【課題】薄膜磁性体の端部に生じる磁区構造の乱れを抑えることによって、更なる性能の向上を可能とした磁気インピーダンス素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板2上に短冊状の薄膜磁性体3が形成され、この薄膜磁性体3に高周波電流を流したときに、薄膜磁性体3のインピーダンスが外部磁界の印加に応じて変化する磁気インピーダンス素子1であって、薄膜磁性体3の端部は、非磁性基板2の面内において長辺と直交する方向に対して短辺が所定の角度で傾斜した形状を有し、薄膜磁性体3の端部が傾斜する方向と、薄膜磁性体3の磁化容易軸方向とがほぼ一致している。これにより、薄膜磁性体3の端部に乱れの少ない均一な磁区構造を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁性体の磁気インピーダンス効果を利用した磁気インピーダンス素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密機器や情報通信機器の急速な発達に伴い、小型で高感度な磁気センサの要求が高まっている。その中でも磁気インピーダンス効果を利用した磁気インピーダンス素子は、小型で高感度且つ低コストで製造できることから、従来の磁気センサに代わる磁気検出素子として開発が急速に進んでいる。
【0003】
しかしながら、磁気インピーダンス素子は、素子の動作点であるバイアス磁界が大きいと、素子を駆動する消費電力の増加を引き起こすため、そのバイアス磁界の低減が求められている。このバイアス磁界を低減させる方法としては、例えば下記特許文献1がある。この特許文献1では、薄膜磁性体の磁区構造により発現する磁壁が通電方向に対してなす角度の小角側を20度以上70度以下とすることにより、バイアス磁界を低減できるとした磁気インピーダンス素子が提案されている。
【特許文献1】特開2003−130932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インピーダンス素子としては、従来より短冊状の薄膜磁性体を並列に並べ、その各々の端部を非磁性体により直列に接続したものがある。このような磁気インピーダンス素子では、薄膜磁性体の成膜後に、この薄膜磁性体を磁場中で熱処理することにより、薄膜磁性体に対して磁気異方性が付与される。
【0005】
ここで、薄膜磁性体の磁化容易軸が磁気検出方向と垂直な方向に対して所定の角度をなすためには、この薄膜磁性体に対して所定の方向から磁場を印加して熱処理を行う必要がある。しかしながら、従来のインピーダンス素子では、薄膜磁性体に磁気異方性を付与した際に、薄膜磁性体の端部に磁区構造の乱れが生じてしまい、それが特性に悪影響を及ぼすことがあった。
【0006】
例えば図5に示すように、磁気インピーダンス素子で用いられている短冊状の素子パターン100に対しては、磁場を斜め方向から印加して熱処理を行うと、この素子パターン100の端部100aに、図6の囲み部分Xに示すような磁区構造の乱れが生じることが確認されている。これは、磁場を斜め方向から印加した場合に、素子パターン100の幅方向の側面から薄膜磁性体に進入した磁力線が、磁力線が密な方向に引き寄せられるためと考えられる。なお、図5及び図6中において、Dは磁区を表し、Wは磁壁を表す。
【0007】
磁気インピーダンス素子では、このような磁区構造の乱れが薄膜磁性体100の端部100aに生じると、薄膜磁性体100の磁気異方性の方向が一定方向でなくなるため、外部磁界が印加されたときに、この部分での透磁率の変化に乱れが生じて、ノイズが発生したり、インダクタンスが不規則に変化することで、検出出力にヒステリシスが発生したりする。その結果、磁気インピーダンス素子の特性に悪影響を及ぼすといった問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、薄膜磁性体の端部に生じる磁区構造の乱れを抑えることによって、更なる性能の向上を可能とした磁気インピーダンス素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る磁気インピーダンス素子は、基板上に短冊状の薄膜磁性体が形成され、前記薄膜磁性体に高周波電流を流したときに、前記薄膜磁性体のインピーダンスが外部磁界の印加に応じて変化する磁気インピーダンス素子であって、前記薄膜磁性体の端部は、前記基板の面内において長辺と直交する方向に対して短辺が所定の角度で傾斜した形状を有し、前記薄膜磁性体の端部が傾斜する方向と、前記薄膜磁性体の磁化容易軸方向とがほぼ一致していることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る磁気インピーダンス素子は、請求項1において、前記基板上に前記薄膜磁性体が並列に複数配置され、それぞれの隣り合う端部同士が互い違いに非磁性体により電気的に接続されることによって、前記複数の薄膜磁性体が前記非磁性体を介して直列に接続されたつづら折り形状を有することを特徴とする。
本発明の請求項3に係る磁気インピーダンス素子の製造方法は、基板上に短冊状の薄膜磁性体が形成され、前記薄膜磁性体に高周波電流を流したときに、前記薄膜磁性体のインピーダンスが外部磁界の印加に応じて変化する磁気インピーダンス素子の製造方法であって、前記薄膜磁性体の端部を、前記基板の面内において長辺と直交する方向に対して短辺が所定の角度で傾斜した形状とし、前記薄膜磁性体に対して前記端部が傾斜する方向とほぼ一致する方向から磁場を印加して熱処理を行うことを特徴とする。
本発明の請求項4に係る磁気インピーダンス素子の製造方法は、請求項3において、前記基板上に前記薄膜磁性体を成膜した後に、前記薄膜磁性体の端部を前記形状にパターニングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係る磁気インピーダンス素子では、薄膜磁性体の端部が傾斜する方向と、薄膜磁性体の磁化容易軸方向とを一致させることで、この薄膜磁性体の端部に磁区構造の乱れが生じるのを抑えることができる。これにより、薄膜磁性体に均一な磁区構造が形成されることから、磁気インピーダンス素子の性能を向上させることができる。
また、本発明に係る磁気インピーダンス素子では、複数の薄膜磁性体が非磁性体を介して直列に接続されたつづら折り形状とすることで、更なる特性の向上を図ることができる。
また、本発明に係る磁気インピーダンス素子の製造方法では、薄膜磁性体の端部が傾斜する方向と、薄膜磁性体に対する磁場印加方向とを一致させることで、薄膜磁性体の端部が傾斜する方向とほぼ一致した方向の磁気異方性を薄膜磁性体に対して付与することができる。これにより、薄膜磁性体の端部に乱れの少ない均一な磁区構造を形成することができ、性能を向上させた磁気インピーダンス素子を得ることができる。
また、本発明では、基板の面内において薄膜磁性体の磁化容易軸方向が磁気検出方向と垂直な方向に対して所定の角度となるように薄膜磁性体に磁気異方性を付与することで、バイアス磁界を下げることができる。これにより、磁気インピーダンス素子の更なる低消費電力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した磁気インピーダンス素子及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0012】
(磁気インピーダンス素子)
先ず、本発明を適用した磁気インピーダンス素子について説明する。
図1は、本発明を適用した磁気インピーダンス素子1の一例を示す平面図である。
本発明を適用した磁気インピーダンス素子1は、非磁性基板2上に短冊状の薄膜磁性体3が形成され、この薄膜磁性体3に高周波電流を流したときに、薄膜磁性体3のインピーダンスが外部磁界の印加に応じて変化する、いわゆる磁気インピーダンス効果を利用して、外部磁界の検出を高感度に行うものである。
【0013】
具体的に、この磁気インピーダンス素子1は、図1に示すように、非磁性基板2上に並列に配置された複数の薄膜磁性体3を有している。また、複数の薄膜磁性体3は、それぞれの隣り合う端部3a同士が互い違いに非磁性体4によって電気的に接続されている。これにより、磁気インピーダンス素子1は、複数の薄膜磁性体3が非磁性体4を介して直列に接続されたつづら折り(メアンダ)形状を有している。また、磁気インピーダンス素子1の両端部には、高周波電源10と接続するための一対の電極5,5が設けられている。
【0014】
なお、図1に示すように、各薄膜磁性体3と非磁性体4及び一対の電極5,5との接続部分は、薄膜磁性体3のパターン上に非磁性体4及び一対の電極5,5が部分的に重なった配置となっている。また、磁気インピーダンス素子10の両端部に接続される一対の電極5,5の配置については、図1に示すような配置に限らず、任意に変更することができる。
【0015】
図2は、薄膜磁性体3の形状を示す模式図であり、図3は、図2に示す薄膜磁性体3の端部3aを拡大した模式図である。なお、図2及び図3中において、Dは磁区を表し、Wは磁壁を表す。
薄膜磁性体3の端部3aは、図2及び図3に示すように、非磁性基板2の面内において長辺と直交する方向に対して短辺が所定の角度θで傾斜した形状を有している。本発明を適用した磁気インピーダンス素子1では、この薄膜磁性体3の端部3aが傾斜する方向と、薄膜磁性体3の磁化容易軸方向Sとがほぼ一致するように、薄膜磁性体3に対して磁気異方性が付与されている。すなわち、薄膜磁性体3は、この薄膜磁性体3の端部3aが傾斜する方向とほぼ一致した方向に一軸異方性を有している。
【0016】
この磁気インピーダンス素子1では、薄膜磁性体3の端部3aが傾斜する方向と、薄膜磁性体3の磁化容易軸方向Sとを一致させることで、薄膜磁性体3の幅方向の側面からの磁力線の進入がなくなり、薄膜磁性体3の内部における磁力線の密度が均一となる。
したがって、この磁気インピーダンス素子では、薄膜磁性体3の端部3aを磁化容易軸方向Sとほぼ一致した方向に斜めカットされた形状とすることで、薄膜磁性体3に磁気異方性を付与した際に、この薄膜磁性体3の端部3aに磁区構造の乱れが生じるのを抑えることができる。
これにより、薄膜磁性体3に均一な磁区構造が形成されることから、この磁気インピーダンス素子1の性能を向上させることができる。
また、この磁気インピーダンス素子1では、複数の薄膜磁性体3が非磁性体4を介して直列に接続されたつづら折り形状とすることで、更なる特性の向上を図ることができる。
【0017】
(磁気インピーダンス素子の製造方法)
次に、本発明を適用した磁気インピーダンス素子の製造方法について説明する。
図4は、図2に示す薄膜磁性体3に対する磁場印加方向Mを説明するための模式図である。
本発明を適用した磁気インピーダンス素子1の製造方法は、図4に示すように、上述した薄膜磁性体3の端部3aが傾斜する方向とほぼ一致する方向から磁場を印加して熱処理を行う。すなわち、本発明では、上述した薄膜磁性体3の端部3aが傾斜する方向と、薄膜磁性体3に対する磁場印加方向Mとを一致させることで、上述した薄膜磁性体3の磁化容易軸方向Sと、薄膜磁性体3の端部3aが傾斜する方向とが一致した方向となる。これにより、薄膜磁性体3の端部3aに乱れの少ない均一な磁区構造を形成することができる。
【0018】
具体的に、上述した磁気インピーダンス素子1を製造する際は、先ず、非磁性基板2上に短冊状の薄膜磁性体3を複数並べて形成する。非磁性基板2には、例えばSi等の非磁性材料からなるものを用いることできる。薄膜磁性体3には、例えばCoNbZr等の軟磁性材料を用いることができる。この薄膜磁性体3は、例えばスパッタリング法等により非磁性基板2上に成膜することができる。
【0019】
次に、非磁性基板2上に形成された薄膜磁性体3の端部3aを、例えばリフトオフや、ミリング等のエッチング方法を用いて、前記所定の角度θで斜めカットされた形状にパターニングする。この角度θは、20゜〜70゜とすることが好ましい。
【0020】
次に、薄膜磁性体3の端部3aが斜めカットされた方向とほぼ一致する方向から磁場を印加して熱処理を行う。これにより、薄膜磁性体3の端部3aが傾斜する方向とほぼ一致した方向の磁気異方性を薄膜磁性体3に対して付与することができ、この薄膜磁性体3の端部3aに乱れの少ない均一な磁区構造を形成することができる。
【0021】
次に、複数の薄膜磁性体3の隣り合う端部同士を互い違いに非磁性体4により電気的に接続するため、非磁性基板2上に非磁性体4を形成する。この非磁性体4には、例えばAl等を用いることができる。この非磁性体4は、例えばスパッタリング法等により非磁性基板2上に成膜することができる。最後に、非磁性基板2上に、例えばAl等からなる電極5を形成することによって、上述した磁気インピーダンス素子1を得ることができる。
【0022】
本発明では、非磁性基板2上に形成された薄膜磁性体3の端部3aを所定の方向に斜めカットされた形状にパターニングし、この薄膜磁性体3に対して端部3aの斜めカット方向とほぼ一致する方向から磁場を印加して熱処理を行うことで、薄膜磁性体3の端部3aに乱れの少ない均一な磁区構造を形成することができる。これにより、性能を向上させた磁気インピーダンス素子1を得ることができる。
【0023】
また、本発明では、非磁性基板2の面内において薄膜磁性体3の磁化容易軸方向Sが磁気検出方向Hexと垂直な方向に対して所定の角度θとなるように薄膜磁性体3に磁気異方性を付与することで、バイアス磁界を下げることができる。これにより、磁気インピーダンス素子1の更なる低消費電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明を適用した磁気インピーダンス素子の一例を示す平面図である。
【図2】図2は、薄膜磁性体の形状を示す模式図である。
【図3】図3は、図2に示す薄膜磁性体の端部を拡大した模式図である。
【図4】図4は、図2に示す薄膜磁性体に対する磁場印加方向を説明するための模式図である。
【図5】図5は、従来の薄膜磁性体の形状を示す模式図である。
【図6】図6は、図5に示す薄膜磁性体の端部を拡大した模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1…磁気インピーダンス素子 2…基板 3…薄膜磁性体 3a…端部 4…非磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に短冊状の薄膜磁性体が形成され、前記薄膜磁性体に高周波電流を流したときに、前記薄膜磁性体のインピーダンスが外部磁界の印加に応じて変化する磁気インピーダンス素子であって、
前記薄膜磁性体の端部は、前記基板の面内において長辺と直交する方向に対して短辺が所定の角度で傾斜した形状を有し、
前記薄膜磁性体の端部が傾斜する方向と、前記薄膜磁性体の磁化容易軸方向とがほぼ一致していることを特徴とする磁気インピーダンス素子。
【請求項2】
前記基板上に前記薄膜磁性体が並列に複数配置され、それぞれの隣り合う端部同士が互い違いに非磁性体により電気的に接続されることによって、前記複数の薄膜磁性体が前記非磁性体を介して直列に接続されたつづら折り形状を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気インピーダンス素子。
【請求項3】
基板上に短冊状の薄膜磁性体が形成され、前記薄膜磁性体に高周波電流を流したときに、前記薄膜磁性体のインピーダンスが外部磁界の印加に応じて変化する磁気インピーダンス素子の製造方法であって、
前記薄膜磁性体の端部を、前記基板の面内において長辺と直交する方向に対して短辺が所定の角度で傾斜した形状とし、
前記薄膜磁性体に対して前記端部が傾斜する方向とほぼ一致する方向から磁場を印加して熱処理を行うことを特徴とする磁気インピーダンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記基板上に前記薄膜磁性体を成膜した後に、前記薄膜磁性体の端部を前記形状にパターニングすることを特徴とする請求項3に記載の磁気インピーダンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−165682(P2007−165682A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361545(P2005−361545)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】