説明

磁気カップリングポンプ及びこれを備えているポンプユニット

【課題】密閉型の羽根車と、羽根車を回転軸線回りに回転可能且つ回転軸線が延びる軸線方向に移動可能に覆うケーシングと、を備えている磁気カップリングポンプにおいて、スラストバランスが一時的にくずれて、羽根車とケーシングとが接触しても、羽根車の回転数低下を抑える。
【解決手段】軸線方向Daで互いに対向する羽根車10の面24,53とケーシング60の面66,86との少なくとも一方の面の少なくとも一部には、軸線方向Daに対して垂直な径方向Drに向うに連れて次第に両面間の間隔が変わるよう、テーパ面24,55が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従動磁石が設けられている密閉型の羽根車が、ケーシング外に配置されている駆動磁石の回転により、このケーシング内で回転する磁気カップリングポンプ、及びこれを備えているポンプユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気カップリングポンプとしては、例えば、以下の特許文献1に開示されているものがある。
【0003】
この磁気カップリングポンプは、密閉型の羽根車と、この羽根車を回転軸線回りに回転可能で且つ軸線方向に移動可能に覆うケーシングと、を備えている。羽根車は、回転軸線を中心とした円柱状の軸部を有し、この軸部内には永久磁石で形成された従動磁石が設けられている。羽根車は、ケーシング外に従動磁石と対向配置されて磁気結合する駆動磁石の回転により、内部の従動磁石と一体回転する。
【0004】
ケーシングの内面の一部は、回転軸線を中心として円筒状に形成された内周面を成し、羽根車の外面の一部は、ケーシングの内周面に対向し、回転軸線を中心として円筒状に形成された外周面を成している。ケーシングの内周面と羽根車の外周面との間には隙間があり、それぞれの周面が動圧軸受面を成している。
【0005】
また、ケーシングの内面の他の一部は、回転軸線に対して垂直な径方向に広がる垂直内面を成し、羽根車の外面の他の一部は、ケーシングの垂直内面に軸線方向に間隔をあけて平行に対向する垂直外面を成している。
【0006】
すなわち、この磁気カップリングポンプは、ケーシング内面と羽根車外面とが非接触状態でケーシング内を羽根車が回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−197736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の磁気カップリングポンプでは、外部からの衝撃や運転変更等で羽根車に想定以上のスラスト力がかかり、スラストバランスがくずれて、軸線方向で互いに対向する羽根車の外面とケーシングの内面とが互い接触する場合がある。このような場合、当該磁気カップリングポンプでは、接触した両面間にかかる陰圧で接触部分の吸付き力が発生して、両面が比較的長時間にわたって接触し続けてしまう。このため、当該磁気カップリングポンプでは、羽根車とケーシングとの接触で、羽根車の回転数が比較的長時間にわたって低下することがある、という問題点がある。
【0009】
そこで、本発明は、スラストバランスが一時的にくずれても、羽根車の回転数低下を抑えることができる磁気カップリングポンプ、及びこれを備えているポンプユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するための発明に係る磁気カップリングポンプは、
密閉型の羽根車と、該羽根車を回転軸線回りに回転可能且つ該回転軸線が延びる軸線方向に移動可能に覆うケーシングと、を備え、前記羽根車は、前記回転軸線を中心とした円柱状の軸部を有し、該軸部内には永久磁石で形成された従動磁石が設けられ、該軸部の外周側で且つ前記ケーシング外に前記従動磁石と対向配置されて磁気結合する駆動磁石の前記回転軸線回りの回転により、前記羽根車が該従動磁石と一体回転する磁気カップリングポンプにおいて、前記軸線方向で互いに対向する前記羽根車の面と前記ケーシングの面との少なくとも一方の面の少なくとも一部には、該軸線方向に対して垂直な径方向に向うに連れて次第に両面間の間隔が変わるよう、テーパ面が形成されていることを特徴とする。
【0011】
当該磁気カップリングポンプでは、外部からの衝撃や運転変更等で、羽根車に想定以上の軸線方向の力であるスラスト力がかかり、スラストバランスが崩れて、軸線方向で互いに対向する羽根車の部分とケーシングの部分とが仮に互いに接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができる上に、接触した両面間にかかる陰圧を小さくすることができる。このため、当該磁気カップリングポンプでは、羽根車とケーシングとが仮に接触しても、接触時間を短くすることができ、接触による羽根車の回転数低下を最小限に抑えることができる上に、ケーシングと羽根車相互間の接触部分での損傷を最小限に抑えることができる。さらに、ケーシングと羽根車相互間の接触部分での固着を防ぐことができる。
【0012】
また、当該磁気カップリングポンプでは、ケーシング内で羽根車を回転させるために、ケーシングを貫通する回転軸が不用になる。このため、当該磁気カップリングポンプでは、ケーシング内からの液体の漏れを無くすことができる上に、回転軸がケーシングを貫通する部分での液体に含まれる粒の損傷を防ぐことができる。
【0013】
さらに、当該磁気カップリングポンプでは、駆動磁石の内側に、羽根車の軸部が配置され、この軸部内に従動磁石が設けられているので、駆動磁石の外側に従動磁石を配置するよりも、羽根車の軸部の外径を小さくすることができる。よって、当該磁気カップリングポンプによれば、羽根車の小型化及び軽量化を図ることができると共に、羽根車の回転に関する慣性力を小さくすることができる。
【0014】
また、当該磁気カップリングポンプによれば、羽根車の軸部の外径を小さくすることができるため、この軸部の周速度を抑えることができる。よって、当該磁気カップリングポンプによれば、軸部の外周面とケーシングの内周面との間を流れる液体に作用するせん断ひずみを小さくすることができ、液体に含まれている粒の損傷を抑えることができる。
【0015】
ここで、前記磁気カップリングポンプにおいて、前記ケーシングには、吐出口が形成されていると共に、前記回転軸線の延長線上に吸込口が形成され、前記羽根車は、前記回転軸線を中心として周方向に複数設けられた羽根と、複数の該羽根の前記吸込口側である前側を覆う前シュラウドと、複数の該羽根の前記吸込口とは反対側の後側を覆う後シュラウドと、を有し、前記前シュラウドは、前記回転軸線を中心として円筒状を成し、前記軸線方向の前側が前記吸込口と対向する羽根車入口を成す入口筒部と、該入口筒部の後端に設けられ、複数の前記羽根の前側を覆う前側板部と、を有し、前記後シュラウドは、複数の前記羽根の後側を覆う後側板部と、該後側板部の後端に設けられている前記軸部と、を有し、前記羽根車の前記前側板部と前記後側板部との間であって、前記径方向の外縁が羽根車出口を成し、前記前側板部の前側の前面には、前記回転軸線から遠ざかる外側に向うに連れて次第に後側に傾斜した、前記テーパ面としての前側板テーパ面が形成され、前記後側板部の後側の後面には、前記回転軸線から遠ざかる外側に向うに連れて次第に前側に傾斜した、前記テーパ面としての後側板テーパ面が形成されていてもよい。
【0016】
当該磁気カップリングポンプでは、外部からの衝撃等で、羽根車に想定以上の軸線方向の前向き力であるスラスト力がかかり、スラストバランスが崩れて、羽根車の前側板部の前面と、軸線方向で対向するケーシングの部分とが仮に接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができる。
【0017】
また、当該磁気カップリングポンプでは、外部からの衝撃等で、羽根車に想定以上の軸線方向の後向き力であるスラスト力がかかり、スラストバランスが崩れて、羽根車の後側板部の後面と、軸線方向で対向するケーシングの部分とが仮に接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができる。
【0018】
また、前記磁気カップリングポンプにおいて、前記入口筒部の前端部には、該入口筒部の外周面側から前記回転軸線に近づく内側に向うに連れて後側に傾斜した、前記テーパ面としての入口テーパ面が形成されていてもよい。
【0019】
当該磁気カップリングポンプでは、外部からの衝撃等で、羽根車に想定以上の軸線方向の前向き力であるスラスト力がかかり、スラストバランスが崩れて、羽根車で最も前側に位置する入口筒部の前端部と、軸線方向で対向するケーシングの部分とが仮に接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができる。
【0020】
また、前記磁気カップリングポンプにおいて、前記入口筒部の前記外周面と前記入口テーパ面の境界部には、前記回転軸線を含む断面の形状が前側に向って凸の円弧形状を成し、該外周面及び該入口テーパ面と連続する円弧面が形成され、前記円弧面の弧半径は、搬送する液体中に含まれる粒の平均半径よりも大きくてもよい。
【0021】
吸込口からケーシング内に吸い込まれた液体の一部は、羽根車で最も前側に位置している入口筒部の前端に接触する。当該磁気カップリングポンプでは、この入口筒部の前端には、前側に向って凸になっている円弧面が形成されている。しかも、この円弧面の弧半径は、搬送する液体中に含まれる粒の平均半径よりも大きい。このため、当該磁気カップリングポンプでは、入口筒部の前端に液体が接触しても、液体中の粒の損傷を防ぐことができる。なお、ここでの粒の平均半径とは、粒の寸法で最も長い部分の寸法の半分の平均値のことである。
【0022】
また、前記磁気カップリングポンプにおいて、前記入口筒部の内径のうち最小内径は、前記ケーシングの前記吸込口の内径以上であってもよい。
【0023】
当該磁気カップリングポンプでは、ケーシングの吸込口から羽根車内に液体が流れ込む過程での圧力損失を抑えることができ、ポンプ性能を高めることができる。
【0024】
また、前記磁気カップリングポンプにおいて、前記軸部には、前記軸線方向に前記回転軸線上を貫通し、該軸部の後側の後端面と前記ケーシングとの間と、前記前側板部と前記後側板部との間の空間とを連通させる貫通孔が形成され、前記軸部の前記後端面には、前記回転軸線に近づく内側に向うに連れて次第に前側に傾斜した、前記テーパ面としての軸テーパ面が形成されていてもよい。
【0025】
当該磁気カップリングポンプでは、外部からの衝撃等で、羽根車に想定以上の軸線方向の後向き力であるスラスト力がかかり、スラストバランスが崩れて、羽根車の軸部の後端面と、軸線方向で対向するケーシングの部分とが仮に接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができる。
【0026】
また、前記磁気カップリングポンプにおいて、前記ケーシングには、前記回転軸線を中心として円筒状の面であって、前記軸部の外周面と間隔を開けて対向する内周面が形成され、該内周面が該軸部に対する動圧軸受面を成してもよい。
【0027】
当該磁気カップリングポンプでは、ケーシングの動圧軸受面により、羽根車の入口筒部を非接触で回転可能に支持することができる。
【0028】
また、磁気カップリングポンプにおいて、前記ケーシングには、前記回転軸線を中心として円筒状の面であって、前記軸部の外周面と間隔を開けて対向する内周面が形成され、該内周面が該軸部に対する動圧軸受面を成してもよい。
【0029】
当該磁気カップリングポンプでは、ケーシングの動圧軸受面により、羽根車の軸部を非接触で回転可能に支持することができる。さらに、当該磁気カップリングポンプでは、羽根車の入口筒部と軸部の二箇所が、ケーシングにより、径方向に非接触で回転可能に支持される、言い換えると、羽根車が径方向に非接触で回転可能に両持ち支持される。よって、当該磁気カップリングポンプでは、回転軸線に垂直な軸回りのモーメントが発生しても、羽根車を安定支持することができる。
【0030】
上記問題点を解決するための発明に係る磁気カップリングポンプユニットは、
前記磁気カップリングポンプと、回転する出力軸を有するモータと、前記モータの出力軸に固定されている前記駆動磁石と、前記モータ及び前記駆動磁石を覆い、前記モータの前記出力軸の延長線上に前記磁気カップリングポンプの前記回転軸線が位置するよう、該磁気カップリングポンプが着脱可能に取り付けられる駆動装置ケーシングと、を備えていることを特徴とする。
【0031】
当該磁気カップリングポンプユニットでは、磁気カップリングポンプを使用した後、この磁気カップリングポンプを廃棄又は洗浄する場合でも、この磁気カップリングポンプの駆動に用いたポンプ駆動装置を他の磁気カップリングポンプのポンプ駆動装置として利用することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、外部からの衝撃や運転変更等で、羽根車に想定以上の軸線方向の力であるスラスト力がかかり、スラストバランスが崩れて、軸線方向で互いに対向する羽根車の部分とケーシングの部分とが互いに接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができ上に、接触した両面間にかかる陰圧を小さくすることができる。このため、本発明では、羽根車とケーシングとが仮に接触しても、接触時間を短くすることができる、言い換えると、短時間のうち羽根車が元の位置に戻ることができる。
【0033】
よって、本発明によれば、羽根車とケーシングとが仮に接触しても、接触による羽根車の回転数低下を最小限に抑えることができる上に、ケーシングと羽根車相互間の接触部分の損傷を最小限に抑えることができる。さらに、本発明によれば、ケーシングと羽根車相互間の接触部分での固着を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る一実施形態における磁気カップリングポンプユニットの平面図である。
【図2】図1におけるII矢視図である。
【図3】図1におけるIII−III線断面図である。
【図4】本発明に係る一実施形態における磁気カップリングポンプの断面図である。
【図5】本発明に係る一実施形態における磁気カップリングポンプの要部断面図である。
【図6】本発明に係る一実施形態における磁気カップリングポンプユニットの断面を模式的に描いた模式図である。
【図7】本発明に係る一実施形態における磁気カップリングポンプの断面を模式的に描いた模式図(羽根車に前向きのスラスト力がくわわったときの状態)である。
【図8】本発明に係る一実施形態における磁気カップリングポンプの断面を模式的に描いた模式図(羽根車に後向きのスラスト力がくわわったときの状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る磁気カップリングポンプユニットの実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
本実施形態の磁気カップリングポンプユニットは、図1〜図3に示すように、液体を搬送する磁気カップリングポンプ100と、この磁気カップリングポンプ100を駆動させるポンプ駆動装置200と、を備えている。
【0037】
磁気カップリングポンプ100は、ゼリー状の粒(例えば、平均半径3〜4μm程度)又はマイクロカプセル(例えば、平均半径1〜50μm程度)を含む液体を搬送するために用いられる。但し、以上のようなゼリー状の粒やマイクロカプセル等を含んでいない液体を搬送するために当該磁気カップリングポンプ100を用いてもよい。
【0038】
この磁気カップリングポンプ100は、図4に示すように、密閉型の羽根車10と、この羽根車10を回転軸線A回りに回転可能に覆うポンプケーシング60と、を備えている。
【0039】
ポンプケーシング60には、液体を吐出するための吐出口(図1及び図2参照)7が形成されていると共に、回転軸線Aの延長線上に液体を吸い込むための吸込口6が形成されている。なお、以下では、回転軸線Aが延びている軸線方向Daで、ポンプケーシング60の吸込口6側を前側、その反対側を後側とする。また、回転軸線Aに垂直な方向の径方向Drで、回転軸線Aに近づく向き側を内側、回転軸線Aから遠ざかる向き側を外側とする。
【0040】
羽根車10は、回転軸線Aを中心として周方向に複数設けられた羽根11と、複数の羽根11の前側を覆う前シュラウド20と、複数の羽根11の後側を覆う後シュラウド40と、を有している。この羽根車10は、以上のように、複数の羽根11の前後が前シュラウド20及び後シュラウド40により覆われることにより、密閉型の羽根車を成している。複数の羽根11、前シュラウド20、後シュラウド40は、互いに接合されている。
【0041】
前シュラウド20は、回転軸線Aを中心として円筒状を成し、軸線方向Daの前側の開口がポンプケーシング60の吸込口6と対向する羽根車入口12を成す入口筒部21と、入口筒部21の後端に設けられ、複数の羽根11の前側を覆う前側板部31と、を有している。また、後シュラウド40は、複数の羽根11の後側を覆う後側板部41と、後側板部41に後端に設けられ、回転軸線Aを中心として円柱状の軸部51と、を有している。
【0042】
前シュラウド20の前側板部31及び後シュラウド40の後側板部41は、軸線方向Daから見た形状がいずれも回転軸線Aを中心とした円形である。前側板部31と後側板部41とは、軸線方向Daに離れており、これら前側板部31と後側板部41との間に複数の羽根11が固定されている。前側板部31と後側板部41との間であって径方向Drの外縁は、羽根車出口13を成している。入口筒部21内、及び前側板部31と後側板部41との間であって複数の羽根11の相互間は、羽根車内流路Prを形成している。
【0043】
後シュラウド40の軸部51には、軸線方向Daに回転軸線A上を貫通し、軸部51の後端面53とポンプケーシング60との間と羽根車内流路Prとを連通させる貫通孔56が形成されている。この軸部51には、その外周面52と貫通孔56の内周面との間の位置に、永久磁石で形成された複数の従動磁石19が埋め込まれている。
【0044】
羽根車10における入口筒部21の前端部には、図5に示すように、入口筒部21の外周面22側から内側に向うに連れて後側に傾斜した入口テーパ面24が形成されている。この入口筒部21の外周面22と入口テーパ面24の境界部には、回転軸線Aを含む断面での形状が前側に向って凸となる円弧形状を成し、外周面22及び入口テーパ面24と連続する円弧面23が形成されている。この円弧面23の弧半径は、このポンプにより搬送される液体中のゼリー状の粒の平均半径(3〜4μm)又はマイクロカプセルの平均半径(1〜50μm程度)よりも大きい0.2〜0.3mmである。なお、ここでのゼリー状の粒やマイクロカプセルの平均半径とは、これらの寸法で最も長い部分の寸法の半分の平均値のことである。
【0045】
図4及び図6に示すように、羽根車10における前側板部31の前面32の外側には、外側に向うに連れて次第に後側に傾斜した前側板テーパ面33が形成されている。また、後側板部41の後面42の外側には、外側に向うに連れて次第に前側に傾斜した後側板テーパ面43が形成されている。また、軸部51の後端面53の内側には、内側に向うに連れて次第に前側に傾斜した軸テーパ面55が形成されている。この軸部51の外周面52と軸テーパ面55の境界部には、回転軸線Aを含む断面の形状が後側に向って凸となる円弧形状を成し、外周面52及び軸テーパ面55と連続する円弧面54が形成されている。軸テーパ面55は、軸部51における貫通孔56の内周面と連続している。
【0046】
ポンプケーシング60は、羽根車10の前シュラウド20を覆うポンプ前ケーシング61と、羽根車10の後シュラウド40を覆うポンプ後ケーシング81とを有している。
【0047】
ポンプ前ケーシング61は、吸込ホースが接続される略円筒状の吸込ホース接続管部62と、吸込ホース接続管部62の後端から後側に向って次第に内径が拡径されている拡径管部65と、拡径管部65の後端に設けられ前シュラウド20の入口筒部21の外周面22と間隔を開けて対向する内周面68が形成されている前軸受形成部67と、前軸受形成部67の後端に設けられ前シュラウド20の前側板部31を覆う前ケーシング本体部71と、を有している。
【0048】
吸込ホース接続管部62の前端は開口しており、この開口がポンプケーシング60の吸込口6を成している。この吸込口6の内径diは、羽根車10の目玉径deと同じである。なお、羽根車10の目玉径deとは、本実施形態において、軸線方向Daに内径が変化している羽根車10の入口筒部21の内径のうちで最も小さい内径である。このように、本実施形態では、ポンプケーシング60の吸込口6の内径diと羽根車10の目玉径deとを同じにするため、ポンプケーシング60で羽根車10の入口筒部21よりも前側の位置に拡径管部65を設けて、軸線方向Daで羽根車10の入口筒部21と同じ位置のポンプケーシング60の前軸受形成部67の内径を吸込口6の径diよりも大きくしている。
【0049】
前ケーシング本体部71は、前軸受形成部67の後端から外側に広がり、前シュラウド20の前側板部31の前面32と軸線方向Daに間隔をあけて対向する平板リング状の前面対向部72と、回転軸線Aを中心として略円筒状を成し、前面対向部72の外周縁から後側に延びる前本体筒部75と、を有している。前面対向部72の内面73の内側には、内側に向うに連れて次第に前側に傾斜した前ケース本体テーパ面74が形成されている。前本体筒部75の内周面76の回転軸線Aに対して垂直な断面での形状は、ボリュート形状を成している。この前本体筒部75の内周面76は、前シュラウド20の前側板部31の外周縁と間隔をあけて対向している。
【0050】
ポンプ後ケーシング81は、前ケーシング本体部71の後端に設けられ後シュラウド40の後側板部41を覆う後ケーシング本体部91と、後ケーシング本体部91に設けられ後シュラウド40の軸部51の外周面52と間隔をあけて対向する内周面83が形成されている後軸受形成部82と、後軸受形成部82の後端に設けられ後シュラウド40の軸部51と軸線方向Daに間隔をあけて対向する平板円形の後壁板部85と、を有している。
【0051】
後ケーシング本体部91は、回転軸線Aを中心として略円筒状を成し、前ケーシング本体部71の後端から後側に延びる後本体筒部92と、後本体筒部92の後端から内側に広がり、後シュラウド40の後側板部41の後面42と軸線方向Daに間隔をあけて対向する平板リング状の後面対向部95と、を有している。この後面対向部95の内縁に、ここから後方に延在するよう後軸受形成部82が設けられている。
【0052】
ポンプケーシング60は、図1及び図2に示すように、吐出ホースが接続される略円筒状の吐出ホース接続管部9を有している。略円筒状の吐出ホース接続管部9の軸Adは、回転軸線Aに対して垂直な面に平行である。また、この吐出ホース接続管部9は、その軸Adを通る平面で前後方向に二分割されており、一方が接続管前割部78として、ポンプ前ケーシング61の前本体筒部75に設けられており、他方が接続管後割部98として、ポンプ後ケーシング81の後本体筒部92に設けられている。この吐出ホース接続管部9の外側端は開口しており、この開口がポンプケーシング60の吐出口7を成している。
【0053】
ポンプ前ケーシング61及びポンプ後ケーシング81は、それぞれ、樹脂による一体成形品である。ポンプ前ケーシング61とポンプ後ケーシング81とは、接着剤により接合されている。
【0054】
ポンプ駆動装置200は、図3及び図6に示すように、回転する出力軸211を有するモータ210と、有底円筒状を成すカップ220と、カップ220の内周側に固定されている複数の駆動磁石219と、モータ210及びカップ220を覆う駆動装置ケーシング230と、駆動装置ケーシング230に装着された磁気カップリングポンプ100の装着を維持するためのロック部材250と、を備えている。
【0055】
カップ220は、例えば、強磁性材であるSS400等の炭素鋼で形成され、複数の駆動磁石219のヨークとしての役目を担っている。このカップ220は、円筒状のカップ円筒部221と、このカップ円筒部221の一方の開口を塞ぐ平板円形のモータ接続部225とを有している。モータ接続部225上であって、カップ円筒部221の軸の延長線上には、モータ210の出力軸211が固定されている。カップ円筒部221の内周側には、前述したように複数の駆動磁石219が固定されている。この駆動磁石219は、永久磁石であり、例えば、Nd(ネオジウム)磁石である。
【0056】
カップ円筒部221の内径は、ポンプ後ケーシング81の後軸受形成部82の外径よりも大きい。また、カップ円筒部221の軸から各駆動磁石219の内面までの半径方向の距離の2倍の長さ(以下、磁石配列径とする)は、ポンプ後ケーシング81の後軸受形成部82の外径よりも大きい。
【0057】
駆動装置ケーシング230は、有底円筒状のケーシング本体231と、ケーシング本体231の開口を塞ぐキャップ241と、を有している。
【0058】
ケーシング本体231は、例えば、常磁性材であるAl(アルミニウム)合金で形成されている。ケーシング本体231は、内径がカップ220の外径及びモータ210の外径よりも大きい円筒状のケーシング円筒部232と、ケーシング円筒部232の一方の開口を塞ぐ平板円形のケーシング底部235と、を有している。
【0059】
モータ210は、このケーシング本体231内に入れられ、ケーシング底部235にネジ等で固定されている。ケーシング円筒部232の外周の一部は、径方向Drに凹凸形状を成し、凸部が放熱フィン233を形成している。また、ケーシング円筒部232の他の一部には、モータ210の電源ケーブルを通すための電源ケーブル板234を構成している。
【0060】
キャップ241は、例えば、エンジニアリングプラスチック等の樹脂で形成されている。このキャップ241は、有底円筒状を成しポンプ後ケーシング81の後軸受形成部82及び後壁板部85が内側に嵌まり込むポンプ嵌合部242と、有底円筒状のポンプ嵌合部242の開口縁から外側に広がり平板リング状を成すポンプ受け部244と、ポンプ受け部244の外周縁に形成されケーシング本体231の開口縁部と係合する係合部246と、を有している。
【0061】
有底円筒状のポンプ嵌合部242の内径は、ポンプケーシング60の後軸受形成部82の外径と実質的に同じである。よって、キャップ241のポンプ嵌合部242内に、ポンプケーシング60の後軸受形成部82を嵌めることができる。また、このポンプ嵌合部242は、その外径がカップ円筒部221の内径及び前述の磁石配列径よりも小さく、有底円筒状のカップ220内に、このカップ220に固定されている駆動磁石219と非接触状態で入り込んでいる。
【0062】
次に、以上で説明した磁気カップリングポンプユニットの動作について説明する。
【0063】
磁気カップリングポンプユニットを使用する際には、まず、磁気カップリングポンプ100の吸込ホース接続管部62に吸込ホースを接続すると共に、吐出ホース接続管部9に吐出ホースを接続する。
【0064】
次に、ポンプケーシング60の後軸受形成部82を駆動装置ケーシング230のキャップ241のポンプ嵌合部242内に嵌め込んで、磁気カップリングポンプ100をポンプ駆動装置200に取り付ける。この際、ポンプケーシング60の後面対向部95とキャップ241のポンプ受け部244とが接する。次に、ロック部材250により、ポンプケーシング60を駆動装置ケーシング230に固定する。
【0065】
磁気カップリングポンプユニットは、この状態で、磁気カップリングポンプ100の軸部51内に埋め込まれている従動磁石19と、ポンプ駆動装置200のカップ220に固定されている駆動磁石219とが、径方向Drで対向し、両磁石が磁気結合している。また、モータ210の出力軸211は、動圧軸受ポンプ100の回転軸線Aの延長線上に位置している。
【0066】
なお、以上では、吸込ホースや吐出ホースの接続後に、磁気カップリングポンプ100をポンプ駆動装置200に取り付けているが、磁気カップリングポンプ100の取付後に、吸込ホースや吐出ホースの接続を行ってもよい。
【0067】
次に、ポンプ駆動装置200のモータ210に電力を供給して、このモータ210の出力軸211を回転させ、この出力軸211に固定されているカップ220及びカップ220に固定されている複数の駆動磁石219を回転させる。ポンプ駆動装置200の駆動磁石219が回転すると、この駆動磁石219と磁気結合している磁気カップリングポンプ100の従動磁石19も、駆動磁石219の回転に伴って、回転軸線A回りに回転する。磁気カップリングポンプ100の従動磁石19は、羽根車10の軸部51内に埋め込まれている。このため、ポンプ駆動装置200の駆動磁石219が回転すると、この従動磁石19と共に羽根車10は、ポンプケーシング60内で回転軸線A回りに回転する。
【0068】
以上のように、本実施形態では、複数の駆動磁石219の内側に、羽根車10の軸部51を配置し、この軸部51内に従動磁石19を埋め込んだので、駆動磁石の外側に従動磁石を配置するよりも、羽根車10の軸部51の外径を小さくすることができる。よって、本実施形態によれば、羽根車10の小型化及び軽量化を図ることができると共に、羽根車10の回転に関する慣性力を小さくすることができる。
【0069】
ポンプケーシング60内で羽根車10が回転し始めると、図6に示すように、ポンプケーシング60の吸込口6からポンプケーシング60内に液体が吸い込まれる。ポンプケーシング60内に吸い込まれた液体は、羽根車入口12から羽根車10内の羽根車内流路Prに入る。
【0070】
ポンプケーシング60内に吸い込まれた液体の一部は、羽根車10中で最も前側に位置している入口筒部21の前端に接触する。この入口筒部21の前端には、図5を用いて前述したように、前側に向って凸になっている円弧面23が形成されている。しかも、この円弧面23の弧半径は、搬送する液体中に含まれているゼリー状の粒の平均半径(3〜4μm)又はマイクロカプセルの平均半径(1〜50μm程度)よりも大きい0.2〜0.3mmである。このため、本実施形態では、入口筒部21の前端に液体中のゼリー状の粒等が接触しても、ゼリー状の粒等を傷付けることはない。
【0071】
また、本実施形態では、前述したように、ポンプケーシング60の吸込口6の内径diと羽根車10の目玉径deとが同じである。このため、本実施形態では、ポンプケーシング60の吸込口6から羽根車内流路Pr内に液体が流れ込む過程での圧力損失を抑えることができ、ポンプ性能を高めることができる。なお、本実施形態では、ポンプケーシング60の吸込口6の内径diと羽根車10の目玉径deとが同じであるが、羽根車10の目玉径deがポンプケーシング60の吸込口6の内径di以上であれば、以上と同様の効果を得ることができる。
【0072】
羽根車内流路Pr内に入った液体は、回転する複数の羽根11から遠心力を受けて、羽根車出口13から流出した後、ポンプケーシング60の吐出口7から吐出する。
【0073】
羽根車出口13から流出した液体の一部は、図6及び図7に示すように、ポンプ前ケーシング61の前面対向部72の内面73と前シュラウド20の前側板部31の前面32との間から、ポンプ前ケーシング61の前軸受形成部67の内周面68と前シュラウド20の入口筒部21の外周面22との間を経て、ポンプ前ケーシング61の拡径管部65内に戻る。そして、再び、羽根車入口12から羽根車内流路Prに入る。
【0074】
また、羽根車出口13から流出した液体の他の一部は、図6及び図8に示すように、ポンプ後ケーシング81の後面対向部95の内面96と後シュラウド40の後側板部41の後面42との間から、ポンプ後ケーシング81の後軸受形成部82の内周面83と後シュラウド40の軸部51の外周面52との間、ポンプ後ケーシング81の後壁板部85の内面86と後シュラウド40の軸部51の後端面53との間、さらに、後シュラウド40の貫通孔56を経て、羽根車内流路Prに戻る。
【0075】
ポンプ前ケーシング61の前軸受形成部67の内周面68の母線と前シュラウド20の入口筒部21の外周面22の母線とは、互いに平行である。言い換えると、前軸受形成部67の内周面68と入口筒部21の外周面22との間隔は、軸線方向Daにおいて一定である。また、ポンプ前ケーシング61の前軸受形成部67の内周面68、及び前シュラウド20の入口筒部21の外周面22の回転軸線Aに対して垂直な断面形状は、いずれも円である。このため、前軸受形成部67の内周面68と入口筒部21の外周面22とは、それぞれ、動圧ラジアル軸受面を成し、両面68,22間を流れる液体が潤滑流体として機能する。よって、羽根車10は、羽根車10の入口筒部21の部分がポンプケーシング60により、径方向Drに非接触で回転可能に支持される。なお、羽根車10の回転開始時等、羽根車10の回転数が低いときには、前軸受形成部67の内周面68の一部と入口筒部21の外周面22の一部とは、互いに接触しており、羽根車10の回転数が所定回転数以上になると、両面68,22間に働く流体の動圧により、前軸受形成部67の内周面68に対して入口筒部21が浮上して、前述したように、羽根車10の入口筒部21がポンプケーシング60により非接触で回転可能に支持される。
【0076】
また、ポンプ後ケーシング81の後軸受形成部82の内周面83の母線と後シュラウド40の軸部51の外周面52の母線とは、互いに平行である。言い換えると、後軸受形成部82の内周面83と軸部51の外周面52との間隔は、軸線方向Daにおいて一定である。また、ポンプ後ケーシング81の後軸受形成部82の内周面83、及び後シュラウド40の軸部51の外周面52の回転軸線Aに垂直な断面形状は、いずれも円である。このため、後軸受形成部82の内周面83と軸部51の外周面52とは、それぞれ、動圧ラジアル軸受面を成し、両面83,52間を流れる液体が潤滑流体として機能する。よって、羽根車10は、羽根車10の軸部51の部分がポンプケーシング60により、径方向Drに非接触で回転可能に支持される。なお、羽根車10の軸部51も、入口筒部21と同様、羽根車10の回転数が低いときには、後軸受形成部82の内周面83の一部と軸部51の外周面52の一部とは、互いに接触しており、羽根車10の回転数が所定回転数以上になると、両面83,52間に働く流体の動圧により、後軸受形成部82の内周面83に対して軸部51が浮上して、羽根車10の軸部51がポンプケーシング60により非接触で回転可能に支持される。
【0077】
以上のように、本実施形態では、羽根車10の入口筒部21及び軸部51の二箇所が、ポンプケーシング60により、径方向Drに非接触で回転可能に支持される、言い換えると、羽根車10が径方向Drに非接触で回転可能に両持ち支持される。しかも、羽根車10は、その重心位置を基準にして前側と後側の二箇所で支持される。よって、本実施形態によれば、回転軸線Aに垂直な軸回りのモーメントが発生しても、羽根車10を安定支持することができる。
【0078】
また、本実施形態では、前述したように、羽根車10の軸部51の外径を小さくすることができるため、この軸部51の周速度を抑えることができる。よって、本実施形態によれば、軸部51の外周面52とポンプ後ケーシング81の後軸受形成部82の内周面83との間を流れる液体に作用するせん断ひずみを小さくすることができ、この液体中に含まれるゼリー状の粒等の損傷を抑えることができる。
【0079】
本実施形態では、ポンプケーシング60に対する羽根車10の軸線方向Daの位置は、羽根車10内の従動磁石19とポンプ駆動装置200の駆動磁石219との間の磁気結合力により、保持されている。磁気結合力により保持されている羽根車10の軸線方向Daの位置は、軸線方向Daで互いに対向する羽根車10の面とポンプケーシング60の面とが互いに接触しない位置である。すなわち、本実施形態では、羽根車10は、軸線方向Daに関しても、非接触で回転可能に支持されている。
【0080】
ところで、外部からの衝撃や運転変更等で、羽根車10に想定以上の軸線方向Daの力、つまりスラスト力がかかって、軸線方向Daで互いに対向する羽根車10の面とポンプケーシング60の面とが互いに接触してしまうことがある。
【0081】
本実施形態では、軸線方向Daで互いに対向する羽根車10の面とポンプケーシング60の面の少なくとも一方の面には、軸線方向Daに対して垂直な径方向Drに向うに連れて次第に両面間の間隔が変わるよう、テーパ面が形成されている。このため、羽根車10にスラスト力がかかって、軸線方向Daで互いに対向する羽根車10の部分とポンプケーシング60の部分とが互いに接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができる。
【0082】
羽根車10の面とポンプケーシング60の面とが互いに面接触した場合、接触する領域が大きいほど、接触部分にかかる陰圧による接触部分の吸付き力が大きくなり、スラスト力が無くなっても、比較的長時間にわたって接触部分は接触し続けてしまう。本実施形態では、前述したように、羽根車10の一部とポンプケーシング60の一部とが互いに接触しても、面接触する領域が小さく又は無いため、接触部分にかかる陰圧による接触部分の吸付き力を小さくすることができ、スラスト力が無くなりスラストバランスがとれれば、短時間で両部分は離間する、言い換えると、短時間のうち羽根車10が元の位置に戻る。
【0083】
すなわち、本実施形態では、外部からの衝撃等で、羽根車10に想定以上のスラスト力がかかって、軸線方向Daで互いに対向する羽根車10の一部とポンプケーシング60の一部とが互いに接触しても、面接触する領域が小さく又は無い上に、接触した両面間にかかる陰圧を小さくすることができる。
【0084】
具体的に、本実施形態では、図7に示すように、羽根車10の前側板部31の前面32と、ポンプケーシング60の前面対向部72の内面73とが、軸線方向Daで対向する。前側板部31の前面32の外側には前側板テーパ面33が形成され、前面対向部72の内面73の内側には前ケース本体テーパ面74が形成されている。このため、本実施形態では、仮に、羽根車10に前向きのスラスト力がかかり、羽根車10の前側板部31の前面32とポンプケーシング60の前面対向部72の内面73とが接触しても、接触面積を小さくすることができる。
【0085】
また、本実施形態では、羽根車10の入口筒部21の前端部に形成されている円弧面23及び入口テーパ面24と、ポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66とが、軸線方向Daで対向する。羽根車10の入口テーパ面24は、内側に向うに連れて後側に傾斜しており、ポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66は、内側に向うにつれて前側に傾斜している。このため、本実施形態では、仮に、羽根車10に前向きのスラスト力がかかっても、両面は面接触し得ない。また、本実施形態では、入口テーパ面24よりも前側に位置している円弧面23、言い換えると、羽根車10で最も前側に位置している円弧面23とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66との間の軸線方向Daにおける最小間隔が、羽根車10の入口テーパ面24とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66との間の軸線方向Daにおける最小間隔より小さい。このため、羽根車10に前向きのスラスト力がかかって、この羽根車10が前側に移動しても、羽根車10の入口テーパ面24とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66とは接触しない。
【0086】
さらに、本実施形態では、羽根車10の円弧面23とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66とが仮に接触しても、この接触は面接触ではなく線接触であるため、接触面積が極めて小さくなる。但し、本実施形態では、スラストバランスがとれている際、羽根車10の入口筒部21の円弧面23とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66との間の軸線方向Daにおける最小間隔が、羽根車10の前側板部31の前面32とポンプケーシング60の前面対向部72の内面73との間の軸線方向Daにおける最小間隔よりも大きいため、羽根車10に前向きのスラスト力がかかって、この羽根車10が前側に移動しても、羽根車10の前側板部31の前面32とポンプケーシング60の前面対向部72の内面73とが先に接触し、羽根車10の入口筒部21の円弧面23とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66とが接触することはない。このように、本実施形態では、羽根車10に前向きのスラスト力がかかって、この羽根車10が前側に移動しても、羽根車10の入口筒部21の円弧面23及び入口テーパ面24とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66とが接触しないが、両面のうち、一方の面がテーパ面を成しているため、両面が近接した際に両面間に作用する陰圧を小さくすることができる。
【0087】
以上のように、本実施形態では、羽根車10に前向きのスラスト力がかかって、この羽根車10が前側に移動して、羽根車10の前側板部31の前面32とポンプケーシング60の前面対向部72の内面73とが接触しても、接触面積を小さくすることができ、接触部分に作用する陰圧を小さくすることができる上に、その際、羽根車10の入口筒部21の円弧面23及び入口テーパ面24とポンプケーシング60の拡径管部65の内周面66とが近接(非接触)しても、両面間に作用する陰圧を小さくすることができる。よって、本実施形態では、前述したように、短時間のうち羽根車10が元の位置に戻ることができる。
【0088】
また、本実施形態では、図8に示すように、羽根車10の軸部51の後端面53と、ポンプケーシング60の後壁板部85の内面86とが、軸線方向Daで対向する。本実施形態では、ポンプケーシング60の後壁板部85の内面86が回転軸線Aに対して垂直な平面であるものの、羽根車10の軸部51の後端面53には、円弧面54及び軸テーパ面55が形成されている。このため、本実施形態では、仮に、羽根車10に後向きのスラスト力がかかっても、羽根車10の軸部51の後端面53とポンプケーシング60の後壁板部85の内面86とは、面接触せず、線接触することになる。
【0089】
また、本実施形態では、羽根車10の後側板部41の後面42と、ポンプケーシング60の後面対向部95の内面とが、軸線方向Daで対向する。本実施形態では、ポンプケーシング60の後面対向部95の内面96は回転軸線Aに対して垂直な方向に広がる平面であるものの、羽根車10の後側板部41の後面42の外側には後側板テーパ面43が形成されている。このため、本実施形態では、羽根車10に後向きのスラスト力がかかり、羽根車10の後側板部41の後面42とポンプケーシング60の後面対向部95の内面96とが仮に接触しても、接触面積を小さくすることができる。但し、本実施形態では、羽根車10に後向きのスラスト力がかかっても、羽根車10の後側板部41の後面42とポンプケーシング60の後面対向部95の内面96とが接触することはない。これは、本実施形態において、スラストバランスがとれている際、羽根車10の後側板部41の後面42とポンプケーシング60の後面対向部95の内面96との間の軸線方向Daにおける最小間隔が、羽根車10の軸部51の後端面53とポンプケーシング60の後壁板部85の内面86との間の軸線方向Daにおける最小間隔より大きく、羽根車10に後向きのスラスト力がかかって際には、羽根車10の軸部51の後端面53とポンプケーシング60の後壁板部85の内面86とが接触してしまうからである。
【0090】
本実施形態では、前述したように、羽根車10の前側板テーパ面33は内側に向うに連れて前側に傾斜し、ポンプケーシング60の前ケース本体テーパ面74も内側に向うに連れて前側に傾斜している。このため、本実施形態では、羽根車10の前側板部31の前面32とポンプケーシング60の前面対向部72の内面73との間の流路は、この流路内の物質を内側に向わせつつも前側へ導き易い形状になっている。よって、本実施形態では、この流路内に気泡が混入していきても、極めてスムーズに、この気泡をこの流路外の拡径管部65内に排出することができる。なお、この流路外に排出されて、拡径管部65内に至った気泡は、羽根車内流路Prを通って、ほとんどが吐出口7から磁気カップリングポンプ100外へ排出される。
【0091】
また、本実施形態では、羽根車10の後側板テーパ面43は内側に向うに連れて後側に傾斜している。このため、本実施形態では、羽根車10の後側板部41の前面42とポンプケーシング60の後面対向部95の内面96との間の流路は、この流路内の物質を内側に向わせつつも後側へ導き易い形状になっている。よって、本実施形態では、この流路内に気泡が混入していきても、極めてスムーズに、この気泡をこの流路外の軸部51とポンプ後ケーシング81との間の流路に排出することができる。
【0092】
さらに、本実施形態では、羽根車10の軸テーパ面55は、内側に向うに連れて前側に傾斜している。このため、本実施形態では、羽根車10の軸部51の後端面53とポンプケーシング60の後壁板部85の内面86との間の流路は、この流路内の物質を内側へ向かわせつつも前側へ導き易い形状になっている。よって、本実施形態では、この流路内に気泡が混入していきても、極めてスムーズに、この気泡をこの流路外の貫通孔56内に排出することができる。なお、この流路外に排出された気泡は、軸部51の貫通孔56を経て、羽根車内流路Prに流れ込み、ほとんどが吐出口7から磁気カップリングポンプ100外へ排出される。
【0093】
以上、本実施形態では、前述したように、外部からの衝撃や運転変更等で、羽根車10に想定以上の軸線方向Daの力であるスラスト力がかかって、軸線方向Daで互いに対向する羽根車10の部分とポンプケーシング60の部分とが互いに接触しても、面接触する領域を小さくする、又は線接触となり面接触する領域を無くすことができ、接触した両面間にかかる陰圧を小さくすることができる。このため、本実施形態では、羽根車10とポンプケーシング60とが仮に接触しても、接触時間を短くすることができ、言い換えると、短時間のうち羽根車10が元の位置に戻ることができ、接触による羽根車10の回転数低下を最小限に抑えることができる。さらに、本実施形態では、羽根車10とポンプケーシング60と相互間の接触部分の損傷や液体中に含まれているゼリー状の粒等の損傷を最小限に抑えることができると共に、羽根車10とポンプケーシング60と相互間の接触部分での固着を防ぐことができる。
【0094】
また、本実施形態では、ポンプケーシング60と羽根車10との間の流路は、ポンプケーシング60と羽根車10とのいずれかに形成されたテーパ面により、この流路間に入り込んだ気泡を排出し易い形状になっているため、この流路内での気泡の滞留を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0095】
6:吸込口、7:吐出口、9:吐出ホース接続管部、10:羽根車、11:羽根、12:羽根車入口、13:羽根車出口、19:従動磁石、20:前シュラウド、21:入口筒部、22:(入口筒部の)外周面、23:円弧面、24:入口テーパ面、31:前側板部、32:前面、33:前側板テーパ面、40:後シュラウド、41:後側板部、42:後面、43:後側板テーパ面、51:軸部、52:(軸部の)外周面、53:(軸部の)後端面、54:円弧面、55:軸テーパ面、56:貫通孔、60:ポンプケーシング、61:ポンプ前ケーシング、62:吸込ホース接続管部、65:拡径管部、66:(拡径管部の)内周面、67:前軸受形成部、68:(前軸受形成部の)内周面、71:前ケーシング本体部、72:前面対向部、73:(前面対向部の)内面、75:前本体筒部、
81:ポンプ後ケーシング、82:後軸受形成部、83:(後軸受形成部の)内周面、85:後壁板部、91:後ケーシング本体部、92:後本体筒部、95:後面対向部、96:(後面対向部の)内面、100:磁気カップリングポンプ、200:ポンプ駆動装置、210:モータ、211:出力軸、219:駆動磁石、220:カップ、230:駆動装置ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉型の羽根車と、該羽根車を回転軸線回りに回転可能且つ該回転軸線が延びる軸線方向に移動可能に覆うケーシングと、を備え、前記羽根車は、前記回転軸線を中心とした円柱状の軸部を有し、該軸部内には永久磁石で形成された従動磁石が設けられ、該軸部の外周側で且つ前記ケーシング外に前記従動磁石と対向配置されて磁気結合する駆動磁石の前記回転軸線回りの回転により、前記羽根車が該従動磁石と一体回転する磁気カップリングポンプにおいて、
前記軸線方向で互いに対向する前記羽根車の面と前記ケーシングの面との少なくとも一方の面の少なくとも一部には、該軸線方向に対して垂直な径方向に向うに連れて次第に両面間の間隔が変わるよう、テーパ面が形成されている、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気カップリングポンプにおいて、
前記ケーシングには、吐出口が形成されていると共に、前記回転軸線の延長線上に吸込口が形成され、
前記羽根車は、前記回転軸線を中心として周方向に複数設けられた羽根と、複数の該羽根の前記吸込口側である前側を覆う前シュラウドと、複数の該羽根の前記吸込口とは反対側の後側を覆う後シュラウドと、を有し、
前記前シュラウドは、前記回転軸線を中心として円筒状を成し、前記軸線方向の前側が前記吸込口と対向する羽根車入口を成す入口筒部と、該入口筒部の後端に設けられ、複数の前記羽根の前側を覆う前側板部と、を有し、
前記後シュラウドは、複数の前記羽根の後側を覆う後側板部と、該後側板部の後端に設けられている前記軸部と、を有し、
前記羽根車の前記前側板部と前記後側板部との間であって、前記径方向の外縁が羽根車出口を成し、
前記前側板部の前側の前面には、前記回転軸線から遠ざかる外側に向うに連れて次第に後側に傾斜した、前記テーパ面としての前側板テーパ面が形成され、
前記後側板部の後側の後面には、前記回転軸線から遠ざかる外側に向うに連れて次第に前側に傾斜した、前記テーパ面としての後側板テーパ面が形成されている、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気カップリングポンプにおいて、
前記入口筒部の前端部には、該入口筒部の外周面側から前記回転軸線に近づく内側に向うに連れて後側に傾斜した、前記テーパ面としての入口テーパ面が形成されている、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気カップリングポンプにおいて、
前記入口筒部の前記外周面と前記入口テーパ面の境界部には、前記回転軸線を含む断面の形状が前側に向って凸の円弧形状を成し、該外周面及び該入口テーパ面と連続する円弧面が形成され、
前記円弧面の弧半径は、搬送する液体中に含まれる粒の平均半径よりも大きい、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の磁気カップリングポンプにおいて、
前記入口筒部の内径のうち最小内径は、前記ケーシングの前記吸込口の内径以上である、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載の磁気カップリングポンプにおいて、
前記軸部には、前記軸線方向に前記回転軸線上を貫通し、該軸部の後側の後端面と前記ケーシングとの間と、前記前側板部と前記後側板部との間の空間と、を連通させる貫通孔が形成され、
前記軸部の前記後端面には、前記回転軸線に近づく内側に向うに連れて次第に前側に傾斜した、前記テーパ面としての軸テーパ面が形成されている、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか一項に記載の磁気カップリングポンプにおいて、
前記ケーシングには、前記回転軸線を中心として円筒状の面であって、前記軸部の外周面と間隔を開けて対向する内周面が形成され、該内周面が該軸部に対する動圧軸受面を成す、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項8】
請求項2から7のいずれか一項に記載の磁気カップリングポンプにおいて、
前記ケーシングには、前記回転軸線を中心として円筒状の面であって、前記入口筒部の外周面と間隔を開けて対向する内周面が形成され、該内周面が該入口筒部に対する動圧軸受面を成す、
ことを特徴とする磁気カップリングポンプ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の磁気カップリングポンプと、
回転する出力軸を有するモータと、
前記モータの出力軸に固定されている前記駆動磁石と、
前記モータ及び前記駆動磁石を覆い、前記モータの前記出力軸の延長線上に前記磁気カップリングポンプの前記回転軸線が位置するよう、該磁気カップリングポンプが着脱可能に取り付けられる駆動装置ケーシングと、
を備えていることを特徴とする磁気カップリングポンプユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64327(P2013−64327A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201850(P2011−201850)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【特許番号】特許第4875783号(P4875783)
【特許公報発行日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】