説明

磁気ディスク用アルミニウム合金基板の打抜きプレス用金型、磁気ディスクアルミニウム合金基板及びその製造方法

【課題】 アルミニウム合金素条をドーナツ状に打抜く時に、パンチとダイスにより合金基板の剪断加工において発生したダレ幅を600μm以下抑える。
【解決手段】 アルミニウム合金素条をドーナツ状に打抜くためのダイス、パンチ及びストリッパを備えたプレス用金型であって、前記ドーナツ状の外縁を打ち抜くためのダイスの刃先角度が15°より大きく、45°より小さいことを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の打抜きプレス用金型、この金型を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、更に、外縁ダレ幅が600μm以下の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板、及びこれをアルミニウム合金素条から打抜くための打抜きプレス用金型に関し、特に、基板外縁における端面ダレが少ない磁気ディスク用アルミニウム合金基板の打抜きプレス用金型、並びに、この金型を使用して打抜いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク用基板(以下単に「基板」と言う。)のプッシュバック方式の場合には、打抜きプレス用金型は、図1でその概略を示すように、アルミニウム合金素条1をドーナツ状に打抜くために上下に対抗配置された下型2と上型3とから構成されている。
下型2は外周のダイス20と中央のホールパンチ21とを備え、上型3はダイス20とホールパンチ21との間に降下するように配置されたパンチ30と、その外周へダイス20と相対するように配置されたストリッパ31とを備えている。なお、図1ではパンチ30と相対する下型2のノックアウトは省略されている。
【0003】
基板は以下のように製造される。
下型2と上型3の間にアルミニウム合金素条1を矢印方向に供給し、ダイス20とストリッパ31によりアルミニウム合金素条1を挟んで保持し、パンチ30を所定の圧力でダイス20とホールパンチ21の間に先端部が突入するように降下させ、ダイス20とパンチ30により外縁が規定され、ホールパンチ21とパンチ30により内縁が規定されたドーナツ状の基板を打抜く。
製品基板よりやや大きな寸法に打抜かれた基板は、打抜による歪みを除くため加圧焼鈍を行った後、サブストレート加工(内外周部の研削、表面研削)⇒めっき加工⇒研磨加工による仕上げの工程を経て製品基板とされる。
【0004】
パンチ30の外形とダイス20の内径との差及びパンチ30の内径とホールパンチ21の外径との差(打抜上必要なクリアランス)により、図5で示すように、基板10には打抜き加工時に上面外縁部にバリ10bが形成され、下面外縁部にダレ(端面ダレ)10aが形成される。バリ及び端面ダレは内縁部にも形成される。基板10の半径方向のダレ10aの大きさwはダレ幅である。打抜き時の外径側のクリアランスは、内径側のクリアランスより設計上大きくする必要があり、外縁部の端面ダレの方が内縁部のそれよりも大きくなるので、加工上外縁部の端面ダレが問題となる。
即ち、定寸法下で製品基板の記憶密度の向上と記憶領域の拡大を図るには、基板10は製品基板の寸法に見合うサブストレート11(図5)の加工において研削により除去されるダレ幅wの部分を考慮する必要がある。したがって、基板の端面ダレが大きければ大きいほど、サブストレート加工時の研削代を大きく設計する必要があり、研削時間の長時間化と研削量の増大により製造コストが上昇する。近時は記憶密度の向上によって基板の厚肉化、例えば厚み1.3mm前後から1.8mm強に、が要請されており、アルミニウム合金素条が厚いほど端面ダレが大きくなる傾向がある。
このような端面ダレを小さくするために、例えば、後記特許文献1等から、基板の外縁を打抜くためのダイスの打抜き面に、刃先に連続して外周方向に、傾斜角度0.1〜15°の傾斜部を形成することが提案されている。
しかしながら、ダイスの刃先連続して外周方向へ、0.1〜15°の角度範囲内で、下り傾斜する傾斜部を形成すると、基盤外縁部のダレ幅をある程度小さくすることは出来るが、600μm以下に抑えることができず、限界があることが、本発明者らによって確認された。
また、クリアランスを小さくして端面ダレを改善することはできるが、金型の寿命に悪影響を与えるので量産性に適さない。
【特許文献1】特開2003−22371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、まず基板外縁部の端面ダレ幅を一層小さくすることができる打抜きプレス用金型を提供することにあり、そして、この打抜きプレス用金型を使用して端面ダレが小さく、サブストレート加工時の研削代が少なく、生産性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金基板、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルミニウム合金素条をドーナツ状に打抜くためのダイス、パンチ及びストリッパを備えたプレス用金型であって、前記ドーナツ状の外縁を打抜くためのダイスの刃先角度が15°より大きく、45°より小さいことを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の打抜きプレス用金型を提供する。
また、ダイス、パンチ及びストリッパを備えたプレス用金型によりアルミニウム合金素条を打抜き、ドーナツ状の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造する過程において、前記ドーナツ状の外縁を打抜くためのダイスの刃先角度が15°を超えて45°より小さく、打抜きにより、先端の曲率半径が25μmの触針を用いて印加荷重30mN、走査速度0.05mm/sの条件で測定した、前記ドーナツ状の外縁端面の平均ダレ幅が600μm以下の基板を製造することを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法を提供する。
更に、ダイス、パンチ及びストリッパを備えたプレス用金型によりアルミニウム合金素条をドーナツ状に打抜いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板において、先端の曲率半径が25μmの触針を用い、印加荷重30mN、走査速度0.05mm/sの条件で測定した外周端面の平均ダレ幅が600μm以下であることを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供する。
また、刃先角度が15°を超えて45°より小さく形成される金型ダイスより外縁を打抜かれたものであることを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係わる磁気ディスク用アルミニウム合金基板の打抜きプレス用金型によれば、ダイスの刃先角度が15°を超えて45°より小さい角度となっているので、アルミニウム合金素条をドーナツ状に打抜き時に、パンチ30とダイス20とよる基板の剪断加工時の加工性、換言すれば、切れ味が改善され、その結果として端面ダレ幅が小さな基板を得ることが出来る。
【0008】
また、本発明に係わる磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法によれば、アルミニウム合金素条をドーナツ状に打抜く過程において、打抜き時に基板端面ダレの形成が抑制されダレ幅が小さくなる。
【0009】
更に、本発明に係わる磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、ダレ幅を小さく抑えることにより、サブストレート加工時の研削代を減少することができ、生産性の向上と共に経済効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図面を参照しながら、本発明に係わる打抜きプレス用金型、及びこの金型を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法の最良実施形態を説明する。
図1は本発明に係わる打抜きプレス用金型の第1実施形態を示す断面概略図、図2は図1の金型のC部の拡大断面図、図3は図2の金型を用いて素条を打抜く時の部分拡大断面図である。
金型の基本構造は前述したので、特徴を有するダイスの具体的形態について以下説明する。
上型3と相対に位置される下型2のダイス20には、その打抜き面(ストリッパ31と相対する面)の内縁側の刃先部20aに15°よりも大きく、45°よりも小さい刃先角度θ20bを有している。刃先の外周面(外周壁)は垂直である。
下型2と上型3の材質には、冷間金型用の合金工具鋼(SKD)、高速度工具鋼(SKH)その他の通常使用される金型材料が使用される。
【0011】
図3を参照しながら、最良実施形態の金型の作用とアルミニウム合金基板の製造方法の実施形態について説明する。
下型2と上型3の間にはアルミニウム合金素条1が間歇的に供給される。供給されたアルミニウム合金素条1をダイス20とストリッパ31で挟んで固定し、パンチ30を所定の圧力で降下させて打抜いた後元のレベルに上昇させ、打抜かれた基板10をノックアウト22などにより金型外にノックアウトする。
【0012】
図3に示す上記打抜の過程においては、アルミニウム合金素条1のスケルトン12のダイス20との接触する内縁部に、まず、ダイス20の刃先20aが打抜き圧力によりストリッパ31の方向に鋭くめり込み、ダイス20とパンチ30による剪断加工により、基板の外縁が形成され、また、下型の内縁用パンチ21とパンチ30による剪断加工により基板の内縁が形成される。このようにして、所定外径と内径のドーナツ状円形基板が打抜かれる。
【0013】
本発明においては、ダイス20の内縁側に刃先20aの刃先角度θ20bが15°よりも大きく、45°よりも小さくなっている。これにより、パンチ30とダイス20による基板外縁の剪断加工において、打抜の圧力はパンチ20の刃先20aに集中して、加工性、換言すれば、切れ味が改善された。その結果、ダレの形成が抑えられ、従来に比べてダレの小さい磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得ることができた。
実験によれば、刃先角度θ20bが15°以下の場合、刃先20aの鋭さが足らず、ダレの発生に顕著な改善効果が得られない。一方、刃先角度θ20bが45°以上の場合、これ以上刃先20aを鋭くしても、ダレの発生に大きな改善は見られない。さらに,金型の寿命が短くなり(刃先のチッピングが生じ易くなる為)量産上適さなくなるとともに,金型作製費用も高くなる。従って,外縁用ダイスの刃先角度θ20bは15°〜45°とする。
【0014】
図4はダイス20の打抜き面全面が平坦である金型を使用した打抜き状態を比較例的に示した拡大断面図であるが、ダイス20の打抜き面が平坦であると、同図で示すように、打抜き時にパンチ30とダイス20による基板10側の外縁の剪断加工において、打抜の圧力はダイス20の打抜き面全面に分散され小さくなるため、端面ダレ10aの形成は抑制されずに大きくなる。
【実施例】
【0015】
前記実施形態の金型であって、ダイス20における刃先20aの刃先角度θ20bを15°〜45°の範囲内で変化させた各実施例のダイス、並びに図4に示すダイス20の打抜き面が平坦である形態の比較例のダイスを試作し、3.5インチサイズ用のアルミニウム合金基板を打抜き、それらの基板の端面ダレのサイズ(幅)を測定した。測定の結果を表1に示す。
また、各ダイスについて金型寿命の評価を行った。金型寿命の評価は、図4の形態のダイスを使用した金型の通常の打抜き回数(500万回)を基準として基準以上を○、基準未満を×と表示した。
【0016】
金型寸法,素条,打抜条件やダレの測定方法等の条件は次のとおりである。
金型材質
冷間金型用合金工具鋼(SKD),高速度工具鋼(SKH)
金型寸法
ダイス内径:96.0mm
パンチ外径:95.7mm
ノックアウト外径:95.7mm
ストリッパ内径:96.4mm
アルミニウム合金素条
材質:JIS5086
板厚:1.292mm
打抜条件
プッシュバック方式による連続打抜
200tプレス
ダレ測定方法
測定器:輪郭形状測定器(フォームコーダ EF−12),株式会社小坂研究所
触針先端の曲率半径:25μm
印加荷重:30mN
走査速度:0.05mm/s
ダレ幅w:図5のように、水平姿勢の基板裏面にダレ幅の二倍以上の距離間隔で基準点A,Bを設定し、基準点A,Bを結んだ外周方向への延長線を水平基準線とし、基板外周縁の突端であるダレ深さ開始点から下方ヘの垂直な延長線を垂直基準線とする。基板下面の水平基準線から離れ始めるダレ幅開始点から両基準線の交点までをダレ幅wとした。表1におけるダレ幅wの数値は、基板50枚につき各1箇所(ブランク周方向でダレが最大の箇所)でそれぞれダレ幅とダレ深さとを測定した測定値の平均値である。
【0017】
【表1】

【0018】
表1で示された結果により、金型材質がSKDの場合においても、SKHの場合においても、本発明に関わる実施例によるダレ幅は比較例のダレ幅よりも小さく、かつ両者間に十分な有意差を示した。しかし、刃先角度45°の場合、ダレ幅の小さい結果を得たものの、金型の寿命が短かった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明はプッシュバック方式の金型の他、ダイスを使用する他の方式の打抜きプレス用金型ダイスにも実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例の打抜きプレス用金型の概略を示す断面図である。
【図2】図1の金型C部の拡大断面図である。
【図3】第1実施形態の金型により素条を打抜いている状態を示す部分拡大断面図である。
【図4】ダイスの打抜き面全面が平坦である金型を使用した打抜き状態を示す部分拡大断面図である。
【図5】打抜かれた基板の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 アルミニウム合金素条
10 基板
10a ダレ
10b バリ
11 サブストレート
12 スケルトン
2 下型
20 ダイス
20a 刃先
20b 刃先角度θ
21 ホールパンチ
22 ノックアウト
3 上型
30 パンチ
31 ストリッパ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金素条をドーナツ状に打抜くためのダイス、パンチ及びストリッパを備えたプレス用金型であって、前記ドーナツ状の外縁を打ち抜くためのダイスの刃先角度が15°より大きく、45°より小さいことを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の打抜きプレス用金型。
【請求項2】
ダイス、パンチ及びストリッパを備えたプレス用金型によりアルミニウム合金素条を打抜きドーナツ状の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造する過程において、前記ドーナツ状の外縁を打ち抜くためのダイスの刃先角度が15°を超えて45°より小さく、打抜きにより、前記ドーナツ状の外縁端面の平均ダレ幅が600μm以下の基板を製造することを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項3】
ダイス、パンチ及びストリッパを備えたプレス用金型によりアルミニウム合金素条をドーナツ状に打ち抜いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板において、外周端面の平均ダレ幅が600μm以下であることを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項4】
刃先角度が15°を超えて45°より小さく形成される金型ダイスより外縁を打ち抜かれたものであることを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−272398(P2006−272398A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95808(P2005−95808)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】