説明

磁気ディスク装置、欠陥セクタの登録方法、およびフライング・ハイトの制御方法

【課題】磁気ディスクの表面に存在する微少起伏部を検出する。
【解決手段】磁気ディスクの記録面10aにある微少突起部19または微少陥没部20に記録されたデータを再生したときの再生信号は、平坦な記録面に記録されたデータに対する再生信号に対して位相または周波数が異なる。微少突起部では位相が進み、微少陥没部では位相が遅れる。この周波数の偏差値を計測することで微少起伏部を検出し欠陥登録する。本発明により、TAが発生しない程度の微小突起部を検出することができる。また、微小突起部や微小陥没部の状態に応じてフライング・ハイトを制御して信頼性の高い磁気ディスク装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクの記録面に存在する微少突起部や微少陥没部などの微少起伏部を検出する技術に関し、さらに詳細には再生信号の周波数または位相の偏差値に基づいて微小起伏部を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置では、磁気ヘッドが磁気ディスクの磁性層との間に極わずかの間隔を空けて浮上してデータの記録または再生を行う。磁気ヘッドと磁性層との間隔をフライング・ハイトという。記録密度を向上するには、フライング・ハイトをできるだけ低くして一定に保つ必要がある。そのためには、磁気ディスクの表面が平坦であることが望ましい。しかし、製造工程には時間的およびコスト的な制約があるため磁気ディスクの表面を完全に平坦な面に仕上げることは困難であり、実際には微小な突起部や陥没部が残ることは避けられない。
【0003】
近年、フライング・ハイトは10nm程度にまで小さくなってきており、微小起伏部が記録または再生動作に与える影響が大きくなってきている。再生ヘッドがGMR(巨大磁気抵抗効果)素子またはMR(磁気抵抗効果)素子を使用しているGMRヘッドまたはMRヘッドである場合には、再生ヘッドと微小突起部の衝突によりGMR素子またはMR素子の温度が上昇するいわゆるサーマル・アスペリティ(以後、TAという。)という現象でデータの再生ができなくなってしまう。微小陥没部においては、フライング・ハイトが実質的に高くなるため磁気ヘッドと磁性層との磁気的な結合度が弱まり十分な磁化ができなくなってしまう。
【0004】
また、磁気ヘッドの素子表面には、腐食を防止するため保護膜が形成されている。磁気ヘッドが磁気ディスク表面の微小突起部に衝突して保護膜が摩耗すると磁気ヘッドの素子が腐食しやすくなる。また、磁気ヘッドが微小突起部に衝突することにより磁気ディスク表面の潤滑保護膜が剥がれかかることにより微小突起部の高さが高くなったり、剥離した潤滑保護膜の断片が磁気ディスクの他の部位に付着して新たな微小突起部を形成したりすることがある。
【0005】
特許文献1には、MRヘッドが磁気ディスクの表面に衝突したとき再生信号に信号振幅(出力レベル)が急激に変動した信号波形が発生することが記載されている。特許文献2は、磁気ディスク装置の出荷前にMRヘッドを微小突起に衝突させてTAの発生を検知して、突起部の位置に関連するセクタを欠陥登録する技術を開示する。特許文献3は、ディスクの欠陥に伴う異常な再生信号が入力された場合でも、同期パルス信号の発振周波数が所定の値から大きく外れることを防止するPLL回路を開示する。PLL回路は、データ再生動作時に再生信号と同期パルス信号との位相誤差を検出してこの位相誤差を解消するように同期パルス信号の位相同期動作を実行する位相同期ループ回路と、同期パルス信号との周波数誤差を解消するための周波数引込み動作を実行する周波数引込みループ回路とを有する。
【0006】
特許文献4は、磁気ヘッドからの信号をカップリング・コンデンサを介すること無しに直結した増幅器で増幅することにより、磁気ディスクと磁気ヘッドとの間隔の変動をDC電位の変動として間隔検出回路で直接検出する技術を開示する。そして、同文献には検出した間隔に相当するDC電位を一定値に保つように、間隔制御回路で磁気ヘッドの高さ、すなわち磁気ディスクと磁気ヘッドとの間隔を制御することにより、一定の磁気的スペーシングを保つことができることが記載されている。
【特許文献1】特開平9−251727号公報
【特許文献2】特開平11−66709号公報
【特許文献3】特開平9−45009号公報
【特許文献4】特開平10−233070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、MRヘッドを実際に微小突起部に接触させてTAを発生させることにより、磁気ディスク表面の微小突起部を出荷前に検出していた。この方法では、MRヘッドに接触する高さの微小突起部を検出することは可能である。しかし、磁気ディスク装置の使用が開始されたあとでは、出荷前にはTAを発生させないほどの高さの低い微小突起部が核になり、ヘッド/スライダと磁気ディスク表面との接触により発生した粉塵や内部に残留していた粉塵などが徐々にこれに付着して成長しやがてTAをもたらす大きさになることがある。
【0008】
ユーザ・データが記録されたあとにMRヘッドと微少突起部が衝突してTAが発生すると、当該データ・セクタからはユーザ・データの再生ができなくなってしまう。また、衝突により磁気ディスクの表面から剥離した断片が磁気ディスクの他の部分に付着して新たな微少突起部の核になる可能性がある。さらに、磁気ヘッドが損傷する可能性もあるので衝突を回避するためには、出荷前にTAを発生しないような微小突起部であってもこれを検出して除去しておくことが望ましい。また、出荷後においては、微少突起部と磁気ヘッドとの衝突をできるだけ回避することが望ましい。
【0009】
さらに、データ・セクタが微少陥没部を含んでいても、出荷前のライト/リード試験で合格すればこれまでは、当該データ・セクタはそのまま使用されていた。微少陥没部ではフライング・ハイトが実質的に高くなるため、安定した記録、再生動作を行うためには、所定値以上の深さの場合には事前に当該データ・セクタを使用禁止にしておくことが望ましい。
【0010】
しかし、これまでの磁気ディスク装置では微少陥没部やTAを発生させないような高さの低い微少突起部を検出することは困難であった。また、磁気ディスク装置が出荷されてユーザ・データが記録されたあとに微少突起部が成長してTAを発生させるような事態を回避する有効な方法がなかった。
【0011】
そこで本発明の目的は、磁気ディスク表面に形成された微小起伏部を検出することができる磁気ディスク装置を提供することにある。さらに本発明の目的は、微小起伏部を検出して安定した記録再生動作をすることができる磁気ディスク装置を提供することにある。さらに本発明の目的は、磁気ディスク装置において周波数または位相の偏差値を計測して微小起伏部を検出して欠陥セクタの登録をしたり、フライング・ハイトの制御をしたりする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の原理は、磁気ディスクの表面に存在する微小突起部や微小陥没部に記録されたデータを再生した再生信号の基準信号に対する周波数または位相のずれに相当する偏差値を利用して検出する点にある。本発明の第1の態様では、再生信号の基準信号に対する偏差値を計測して、欠陥セクタを登録する技術を提供する。偏差値は再生信号の周波数および位相またはそのいずれか一方について計測する。記録ヘッドが一定のフライング・ハイトになるようにヘッド/スライダが浮上しているときは、微小突起部ではフライング・ハイトが実質的に低くなるため記録された信号の周波数は平坦部より高くなり、微小陥没部ではフライング・ハイトが実質的に高くなるため記録された信号の周波数は平坦部より低くなる。いいかえると微小突起部では平坦部に比べて記録信号の位相が進み、微小陥没部では平坦部に比べて記録信号の位相が遅れる。
【0013】
微小突起部はその時点でTAを発生させていないとしても、将来的にTAの原因となる可能性があり、微小陥没部は安定した記録再生動作の障害になる可能性があるので、本発明においてはこれらを含むデータ・セクタをアドレス・テーブルに登録して管理する。アドレス・テーブルは、出荷前は論理ブロック・アドレスをスキップするための一次欠陥マップ(PDM)とし、出荷後は代替セクタに論理ブロック・アドレスを割り当てるための再配置欠陥マップ(RDM)とすることができる。本発明によれば、微少突起部をPDMに登録することにより、データを記録したあとに微小突起部が成長してTAが発生し、データが喪失してしまうような事態を防ぐことができる。また、微少突起部をRDMに登録することにより、TAが発生する可能性のあるデータ・セクタを使用しないようにして、記録データの喪失を防ぐことができる。
【0014】
また、本発明においては周波数や位相の偏差値は磁気ヘッドと磁気ディスクとが非接触状態でも計測することができるので、微小突起部との接触に伴う磁気ヘッドの損傷や磁気ディスク表面の剥離を防ぐことができる。ただし、本発明の範囲においては、偏差値を測定する間に磁気ヘッドと磁気ディスクとが接触する場合があってもよい。
PDMやRDMには、偏差に起因して登録されたデータ・セクタ以外のデータ・セクタも登録されている。本発明では、アドレス・テーブルを偏差値に起因して登録したデータ・セクタだけを登録する専用の制御テーブルとすることができる。制御テーブルを利用することで、微少起伏部を含むデータ・セクタに対してフライング・ハイトの制御や記録電流の制御を容易に行うことができるようになる。
【0015】
偏差値の計測は、リード・クロックが再生信号に対して同期はずれを起こすときに行っても、また、同期している間に行ってもよい。偏差値を計測するために、再生信号の複数のクロックを発生の順番にグループ化してグループに含まれる各クロックの周波数や位相に関する平均値や中央値などの代表値と基準信号を比較するようにすると、一層正確な判断をすることができる。
【0016】
本発明の他の態様では、計測した偏差値に基づいてフライング・ハイトや記録電流を制御して安定した記録再生動作をすることができる磁気ディスク装置を提供する。偏差値の計測は、リード・クロックが再生信号に同期して正常な再生動作をしている間に行う。また、再生ヘッドと磁気ディスクとが非接触状態のときにも偏差値に基づいて、微小起伏部を検出することができる。周波数の偏差値は、再生信号の周波数が基準周波数より高いときに微小突起部の存在を示し、再生信号の周波数が基準周波数より低いときに微小陥没部の存在を示す。また、偏差値の絶対値は、微小突起部の高さまたは微小陥没部の深さを示す。
【0017】
よって、磁気ディスク装置に設けられたフライング・ハイト制御機構は、偏差値を利用して微小突起部や微小陥没部においてもフライング・ハイトが平坦部と同じような値になるように制御することができる。フライング・ハイト制御機構は、ヘッド/スライダに形成されたペルチェ素子やヒータを含んで構成することができる。また、フライング・ハイト制御機構は、サスペンション・アセンブリやヘッド/スライダの姿勢を変化させる圧電素子を含んで構成してもよい。偏差値が所定値を超えたデータ・セクタのアドレスをアドレス・テーブルに登録すると、アドレスが既知のデータ・セクタに対してフライング・ハイトを制御することができるので制御が容易になる。
【0018】
基準信号は、ライト・クロックの周波数とすることができる。また基準信号としては、複数のデータ・セクタの再生信号に関する平均値や中央値などの代表値を選択することができる。本発明による微少突起部や微少陥没部を検出する方法は、垂直磁気記録方式の磁気ディスク装置に対しても適用することができる。また、本発明にかかる磁気ディスク装置は、非接触で微小突起部や微小陥没部を検出することができる。とくにTA発生前の微小突起部を検出してTAを未然に防止することができるので、再生ヘッドがMRヘッドやGMRヘッドの場合にはとくに有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、磁気ディスクの表面に形成された微小起伏部を検出することができる磁気ディスク装置を提供することができた。さらに本発明により、微小起伏部を検出して安定した記録再生動作をすることができる磁気ディスク装置を提供することができた。さらに本発明により、磁気ディスク装置において周波数や位相の偏差値を計測して微小起伏部を検出し、欠陥セクタの登録をしたりフライング・ハイトの制御をしたりする方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[微小起伏部を検出する原理]
図1(A)は、矢印A方向に回転する磁気ディスク10の記録面10a上をヘッド/スライダ11が浮上している様子を示す側面図である。磁気ディスク10は内部に磁性層が形成された面内磁気記録媒体であるが、本発明は垂直磁気記録媒体に適用することも可能である。ヘッド/スライダ11は、空気軸受面11aが、回転する磁気ディスク10の表面に発生した気流から浮力を受けて記録面10aに対してわずかの間隔を空けて浮上している。ヘッド/スライダ11の内部には、トレイリング・エッジ側面11b寄りに記録用の薄膜磁性層で形成された記録ヘッド15とGMR素子で形成された再生ヘッド13が埋め込まれている。
【0021】
ヘッド/スライダ11には、記録ヘッド15と再生ヘッド13のフライング・ハイトを調整するためのペルチェ素子12が設けられている。ペルチェ素子を用いたフライング・ハイトの制御方法は特開2003−297029号公報に記載されているように周知である。記録ヘッド15には、磁性層を磁化するための磁界を発生するライト・ギャップが形成され、再生ヘッド13には、磁性層が放出する磁束を検出するリード・ギャップが形成されている。ライト・ギャップとリード・ギャップは、ヘッド/スライダ1の空気軸受面11aから露出している。記録ヘッド15は、コイル15aと磁極15bで構成されている。コイル15aに記録電流を流すと磁極15bの端部に相当するライト・ギャップに信号磁界が発生して磁束17が放出され、磁性層を通過する磁束17が磁性層を所定の長さだけ磁化して磁区(ドメイン)を形成する。磁気ディスク装置は、磁区の磁化方向をコイル15aに流す電流の方向を変えることで変化させて、磁気ディスク10に情報を記録する。
【0022】
再生ヘッド13は、絶縁層、シールド層、GMR膜、および磁区制御膜などで構成されている。GMR膜の両端にはヘッド/スライダ11のパッドを通じて外部からバイアス電流またはセンス電流が供給される。GMR膜の抵抗値は、磁性層から放出された信号磁界の影響を受けて変化するので、再生ヘッド13はその抵抗値の変化をバイアス電流に対する電圧の変化として検出することにより、磁気ディスク10に記録されている情報を読み出すことができる。
【0023】
磁気ディスク10はガラス基板の表面に磁性層が積層され、さらに磁性層の表面に保護潤滑膜が塗布されている。ガラス基板の表面はラッピング加工で厚さが整えられ、さらに鏡面研磨工程で平坦にされるが、製造コストや製造時間の観点から完全に平坦にすることが困難なため微小突起部や微小陥没部がわずかに残る。したがって、基板の上に積層される磁性層や保護潤滑膜にも基板の形状が転写されて微小突起部や微小陥没部が形成される。図1(A)において、磁気ディスクの記録面10aには微小突起部19および微小陥没部20が形成されている。なお、図1(A)では、説明を容易にするために縮尺を正確に記載していない。
【0024】
磁気ディスク10が矢印A方向に回転を続けると微小突起部19が再生ヘッド13に衝突し、その摩擦熱でGMR膜の抵抗値が変化して再生信号のレベルが変化しTAが発生する。また、微小突起部19の表面が剥がれて磁気ディスク表面の他の部位に付着し、新たな微少突起部に成長する恐れもある。記録ヘッド15が微小陥没部20にデータを記録しようとするときは、フライング・ハイトが高いために磁性層を十分に磁化できず、再生ヘッド13は十分な大きさの信号磁界を生成することができない場合がある。
【0025】
図1(B)は、記録ヘッド15で微小突起部19および微小陥没部20にデータを記録したときに磁区が形成される様子を説明する図である。図1(B)において、磁気ディスク10は一定の回転速度で回転して、記録ヘッド15が一定のフライング・ハイトを維持するようにヘッド/スライダ11が浮上しており、記録ヘッド15には一定周波数のライト・クロックから生成された記録電流が流れているものとする。そして、ライト・ギャップからは記録電流に対応した磁束17a、17b、17c、17dが放出されている。磁束17a〜17dは、ライト・クロックの連続する1ビットごとの信号に対応する磁束である。
【0026】
図1(B)においては、磁束17a〜17dが磁気ディスクに記録する情報の位置を示すために、磁気ディスクの回転を停止させ、記録ヘッド15が磁気ディスク10の回転速度で矢印Aと反対方向に進んでいるように示してある。磁束17a〜17dは磁気ディスクの記録面10aの内部に積層された磁性層に入り込んでこれを磁化して磁区を形成する。記録面19aは、微小突起部19の登り勾配の位置を示し、記録面20aは微小陥没部20の下り勾配の位置を示す。
【0027】
突起部19の位置ではガラス基板の形状に応じて磁性層および保護潤滑膜が隆起しており、陥没部20の位置ではガラス基板の形状に応じて磁性層および保護潤滑膜が陥没している。ライト・クロックの周波数が一定で、磁気ディスク10の回転速度が一定であるため、磁束17a〜17dは等間隔で並んでいる。磁束17aは磁性層に矢印で示す方向の磁区23aを形成する。磁束17bは磁区23aとは反対方向に磁化された磁区23bを形成する。先に形成された磁区23aの後端部は、後から書き込まれる磁束17bの先端部で上書きされて、両者の磁界の方向が異なるために相互の境界には磁化反転位置が形成される。
【0028】
ライト・ギャップから放出される磁束17a〜17dは、側面からみたときに閉曲線を描いており、先端が狭くなっている。平坦な記録面10aに対して磁性層と記録ヘッド15との間隔であるフライング・ハイトが一定であれば、磁区23a〜磁区23dの長さは等間隔になる。この例ではライト・クロックのパターンを”1010”と交互に反転するように選択しているので、磁区23a〜磁区23dの境界には磁化反転位置が形成されている。磁気ディスク装置では、各磁区の磁化反転位置により再生信号のクロック(再生クロック)の周波数が画定される。したがって、一定の回転速度で回転する磁気ディスク10の磁区23a〜磁区23dの情報を再生ヘッド13が再生するときは、再生信号の周波数は一定になる。
【0029】
微小突起部19および微小陥没部20の大きさがヘッド/スライダ11の大きさに比べて十分に小さい場合は、微小突起部19または微小陥没部20が空気軸受面11aの下に到達しても、それにより記録ヘッド15の高さ方向の位置が変化することはない。したがって、記録ヘッド15が微小突起部19の登り勾配の位置にある記録面19aに記録するときのフライング・ハイトは、記録面10aのときのフライング・ハイトより低くなるので、磁束17a〜17dが磁性層を通過する位置は記録面10aの磁性層に対する位置より深くなるため、磁区23a〜磁区23dより短い磁区25a〜磁区25dが形成される。磁区25a〜磁区25dは、記録面19aが記録面10aに対して位置が高くなるほど(図では矢印Aと反対方向に進むほど)短くなる。
【0030】
逆に、記録ヘッド15が陥没部20の下り勾配の位置にある記録面20aに記録するときのフライング・ハイトは、記録面10aのときのフライング・ハイトより高くなるので、磁束17a〜17dが磁性層を通過する位置は記録面10aの磁性層に対する位置より浅くなり、磁区23a〜磁区23dより長い磁区27a〜磁区27dを形成する。磁区27a〜磁区27dは、記録面20aが記録面10aに対して位置が低くなるほど(図では矢印Aと反対方向に進むほど)長くなる。
【0031】
一定の回転速度で回転する磁気ディスク10の磁区25a〜磁区25dの情報を再生ヘッド13が再生するときの再生信号の位相は、磁区23a〜磁区23dの再生信号よりも進み、かつ、記録面19aの記録面10aに対する位置が高くなるほど位相の進みが大きくなる。位相は周波数に関する完全時間積分の関係にあり、周波数は位相に関して時間微分の関係にあるので、微小突起部では平坦部に比べてその高さが高いほど再生信号の周波数が高くなる。
【0032】
一定の回転速度で回転する磁気ディスク10の磁区27a〜磁区27dの情報を再生ヘッド13が再生するときの再生信号の位相は、磁区23a〜磁区23dの再生信号の位相よりも遅れ、かつ、記録面20aの記録面10aに対する位置が低くなるほど位相の遅れが大きくなる。いいかたを変えると、記録面20aの記録面10aに対する位置が低くなるほど再生クロックの周波数が低くなる。本発明ではこの特徴を利用して、再生信号の位相または周波数を連続的に計測して基準信号と比較し、位相の偏差値または周波数の偏差値の大きさで微小突起部19の高さまたは微小陥没部20の深さを検出する。また一方向への偏差が継続している時間で微小突起部19または微小陥没部20の円周方向の長さを検出する。
【0033】
図2は、微少突起部および微少陥没部の磁区の磁化反転位置をシミュレーションで求めた結果を示す図である。図2には、平坦な記録面10b、微小突起部19の記録面19b、および微小陥没部20の記録面20bにおける磁化反転位置が△印で示されている。記録面10b、19b、20bに対するデータの書き込み条件または磁化反転位置の形成条件としては、磁気ディスクの回転速度を一定にし、ヘッド/スライダのフライング・ハイトとライト・クロックの周波数を同一に設定している。図2において、記録面10bの磁化反転位置と記録面19b、20bの磁化反転位置との関係は、微少突起部19および微少陥没部20に対して円周方向に隣接する位置が平坦な記録面になっており、微小突起部19または微小陥没部20の位置まで平坦な記録面がつづいたと仮定したときに記録面10bのような磁化反転位置になることを意味している。
【0034】
平坦な記録面10bにおける磁化反転位置はすべて等間隔になっている。微小突起部の記録面19bにおける磁化反転位置は、平坦な記録面10bのそれに比べて全体的に位相が進んでいる。矢印Bで示す登り勾配においては、高さが高くなるにしたがって位相の進み方が大きくなり、矢印Cで示す下り勾配においては、高さが低くなるにしたがって、位相の進み方が小さくなっている。微小陥没部の記録面20aにおける磁化反転位置は、平坦な記録面10aのそれに比べて全体的に位相が遅れている。矢印Dで示す下り勾配においては、高さが低くなるにしたがって位相の遅れ方が大きくなり、矢印Eで示す登り勾配においては、高さが高くなるにしたがって、位相の遅れ方が小さくなっている。
【0035】
図2では、再生クロックを発生の順番に連続する3個のクロックからなるグループG1〜G4とG5〜G8に分けてクロック・グループを構成し、各クロック・グループに含まれる再生クロックの周波数の平均値を計算している。平均値に代えて中央値やその他の代表値を使用することもできる。クロック・グループを構成するクロックの数は、適宜選択することができる。また、平坦な記録面10bから再生した再生クロックの平均周波数を基準周波数として設定する。磁気ディスクの記録面は、大部分が平坦な面になっていると考えることができるので、複数のデータ・セクタを再生した再生信号の周波数の平均値を基準周波数に設定することができる。基準周波数はライト・クロックの周波数に設定することもできる。この場合、磁気ディスク装置がゾーン・ビット・レコーディング方式を採用する場合は、半径方向に設定されたゾーンごとにライト・クロックが設定されるので、ゾーンごとに基準周波数が設定されることになる。
【0036】
そして、各クロック・グループの平均周波数と基準周波数を比較して周波数の偏差値を計算することにより、微小突起部19または微小陥没部20の存在と大きさを検出する。データ・セクタには、512バイトのユーザ・データにCRCやECCなどの付加情報を加えると、1個あたり700バイト(5600ビット)程度の情報が記録される。クロック・グループを10個の再生クロックで構成すると、1つのデータ・セクタの長さに対して1/560の分解能で微小突起部19または微小陥没部20の存在を特定することができるようになる。
【0037】
[磁気ディスク装置]
図3は、磁気ディスク10のフォーマット構造を示す図である。磁気ディスク10は、データ面サーボ方式を採用する磁気ディスク装置に適用されるフォーマット構造になっている。図3(A)に示すように磁気ディスク10には、放射状に半径方向に延びた複数のサーボ・セクタ31が書き込まれている。図3(B)に示すようにサーボ・セクタ31a、31bの間にはデータ領域33が配置されて中に複数のデータ・セクタが定義されている。他のサーボ・セクタとデータ領域もほぼ同様の配置関係になっている。
【0038】
磁気ヘッドを通過するデータ・トラックの速度は外周側ほど速い。単位長さ当たりの記録ビット数を外周側と内周側とでできるだけ均一にして記憶容量を増大させるために磁気ディスク10は半径方向において4つのゾーン34、35、36、37に分割されている。各ゾーン内ではデータ領域33に同一周波数のライト・クロックでデータ・セクタの情報が書き込まれるが、外周側のゾーンほどライト・クロックの周波数を高くしてデータ・セクタの数が多くなるようにしている。これをゾーン・ビット・レコーディング方式という。磁気ディスク10の最外周トラック近辺には、ユーザには開放しないでシステムだけが使用するシステム領域38が定義されている。
【0039】
図4を参照して本発明の実施の形態にかかる磁気ディスク装置100の概略構成を説明する。図4では、磁気ディスク装置の周知の要素は簡略化または省略して記載している。中央制御回路101は、プロセッサやメモリで構成されホスト装置とのデータ通信や磁気ディスク10に対するデータの記録および再生のために磁気ディスク装置100の全体を制御する。中央制御回路101は、サーボ・ゲート・パルス(SGパルス)、リード・ゲート・パルス(RGパルス)、およびライト・ゲート・パルス(WGパルス)を生成してリード/ライト・チャネルやサーボ制御回路135などに送る。SGパルス、RGパルス、およびWGパルスはそれぞれ、再生にかかるサーボ・セクタ、再生にかかるデータ・セクタ、および記録にかかるデータ・セクタに対する再生または記録動作のタイミングを決定する信号である。
【0040】
変調回路103は、中央制御回路101から送られたユーザ・データを記録媒体に記録するのに適したRLL(Run Length Limited)コードに変換する。パラレル/シリアル変換器105は、変調回路103から送られたRLLコードを直並列変換する。NRZ−NRZI変換回路107は、ユーザ・データの形式であるNRZ方式の信号を磁気ディスクに対する記録に適したNRZI(Non-Return to Zero Inverse)方式の信号に変換する。記録補償回路109は、磁化反転位置のずれ時間に相当するNLTS(Non Linear Transition Shift)を補償するために、記録電流を流すタイミングをずらす回路である。記録補償回路109は、周波数シンセサイザ131から受け取ったライト・クロックのタイミングでユーザ・データを記録するための記録電流をヘッド・アンプ111のライト・ドライバに送る。
【0041】
ヘッド/スライダ11には、加熱・冷却のためのペルチェ素子12が形成されている。ペルチェ素子は、記録ヘッド15および再生ヘッド13の温度を変化させて、それらの熱膨張を利用することによりフライング・ハイトを調整する周知の素子である。また、フライング・ハイトを調整する加熱素子としては、特開2003−168274号公報に記載されているような電気式のヒータを採用することもできる。
【0042】
ヘッド・アンプ111は、記録ヘッド15(図1)に記録電流を流してデータ・セクタの記録を行う。ヘッド・アンプ111はさらにリード・アンプを備えており再生ヘッド13(図1)が再生した信号を増幅する。ヘッド・アンプ111には、ヘッド/スライダ11に形成されたペルチェ素子12に加える直流電圧の極性を変化させて冷却または加熱作用を起こさせるためのペルチェ素子制御回路112が組み込まれている。ヘッド・アンプ111には、フライング・ハイトに応じて記録電流の大きさを制御する記録電流制御回路114が組み込まれている。変調回路103、パラレル/シリアル変換器105、NRZ−NRZI変換回路107、記録補償回路109、およびヘッド・アンプ111をライト・チャネルということにする。記録ヘッド15は、データ・セクタにユーザ・データおよびこれに付加されるエラー訂正コード(ECC)、エラー検出コード(CRC)およびプリアンブルなどを記録する磁界を形成する。
【0043】
再生ヘッド13は、サーボ・セクタおよびデータ・セクタの再生を行う。可変利得増幅器115と自動利得制御部116は、ヘッド・アンプ111から受け取ったユーザ・データやサーボ・データの再生信号の振幅を一定にする。波形等価回路117は、高域ゲインをプログラマブルに変更できるローパス・フィルタを備え、再生信号に混入しているノイズを除去して波形を等価する。等価とは、再生信号の波形を想定したPR(Partial Response)のクラスに合わせる信号処理をいう。A/D変換器119は、微分回路、フィルタ、および比較回路などを備え、アナログの再生信号からディジタルの再生信号を生成する。A/D変換器119はディジタル再生信号を生成するタイミングを、タイミング調整回路129から供給されるリード・クロックにより獲得する。
【0044】
FIR(Finite Impulse Response)フィルタ121は直列接続された複数の遅延演算子を備えたディジタル・フィルタで、タップの値を設定して復号しやすい信号を生成する。ビタビ復号器123は、FIRフィルタ121で処理された信号をPRML(Partial Response Maximum Likelihood)回路を使って処理しRLLコードとして出力する。復調回路125は、RLLコードをユーザ・データ形式のNRZ符号列のデータに変換する。シリアル/パラレル変換器127は、NRZ符号列を並列データに変換して中央制御回路101に送る。
【0045】
ヘッド・アンプ111、可変利得増幅器115と自動利得制御部116、波形等価回路117、A/D変換器119、FIRフィルタ121、ビタビ復号器123、復調回路125、およびシリアル/パラレル変換器127をリード・チャネルということにする。また、ライト・チャネルとリード・チャネルを合わせてリード/ライト・チャネルということにする。リード/ライト・チャネルは中央制御回路101が生成するRGパルスとWGパルスに応じて動作する。
【0046】
タイミング調整回路129は、位相・周波数同期発振器(PLL:Phase Locked Loop)回路を内部に備え、ビタビ復号器123の出力信号に対して周波数シンセサイザ131から供給されたデータ・クロックを同期させたリード・クロックを生成する。タイミング調整回路129は、リード・クロックをA/D変換器119およびリード/チャネルのその他のディジタル回路に供給し、データ領域33に記録されたユーザ・データを再生したアナログ信号をA/D変換器119がディジタル化するタイミングを制御する。
【0047】
サーボ制御回路135は、中央制御回路101から供給されるSGパルスに応じて動作する。サーボ制御回路135は、A/D変換器119から受け取ったサーボ・データのバースト・パターンを再生して中央制御回路101に送る。サーボ制御回路135はまたFIRフィルタ117から受け取ったサーボ・データのアドレス・マークを再生して、SGパルス、RGパルス、WGパルスを生成するためのタイミング信号を中央制御回路101に供給する。ドライバ回路139は、スピンドル・モータやボイス・コイルに供給する電流を生成するドライバで構成され、中央制御回路101からのディジタル制御信号に応じた電流をスピンドル・モータやボイス・コイルに供給する。
【0048】
周波数シンセサイザ131は、位相比較器、ローパス・フィルタ、電圧制御発振器(VCO)、および分周器で構成され、中央制御回路101からの制御信号に応じてゾーン34〜37に対応した周波数のデータ・クロックをタイミング調整回路129および記録補償回路109に出力する。固定周波数発振器133は水晶発振器で構成され、周波数シンセサイザ131に単一の周波数を供給する。
【0049】
起伏検出回路137は、図5に示すように、基準周波数記憶部151、周波数偏差計測部153、欠陥セクタ判定部155、フライング・ハイト制御部157、および同期監視部159で構成されている。基準周波数記憶部151は、周波数の偏差を計測するための基準周波数を記憶するメモリで、ゾーンごとに選択した複数のデータ・セクタから再生した再生クロックの平均周波数を記憶する。基準周波数記憶部151は、磁気ディスク10のゾーン34〜37ごとに設定されたライト・クロックの周波数を記憶するようにしてもよい。基準周波数は中央制御回路101が生成して基準周波数記憶部151に送る。
【0050】
周波数偏差計測部153は、ビタビ復号器123から送られた再生信号の周波数を計測して、10個程度のパルス・グループごとに平均周波数を計算する。そして平均周波数と基準周波数とを比較して周波数の偏差値を計算する。欠陥セクタ判定部155は、磁気ディスク装置100が再生モードで動作している間、周波数偏差計測部153から周波数の偏差値を受け取り、周波数の偏差値が所定の閾値を超えたときに、当該パルス・グループが検出されたデータ・セクタには、突起部または陥没部があるために欠陥セクタであると判定して、中央制御回路101に通知する。
【0051】
フライング・ハイト制御部157は、周波数偏差計測部153から周波数の偏差値を受け取って、偏差値に応じてフライング・ハイトを変更するための制御信号をペルチェ素子制御回路112に送る。具体的にはフライング・ハイト制御部157はパルス・グループの周波数が高くなって偏差値がプラス方向にシフトする場合には、ペルチェ素子12に冷却作用を発揮させる制御信号をペルチェ素子制御回路112に送る。この場合、偏差値が大きいほど冷却作用が増大する制御信号を送る。フライング・ハイト制御部157はパルス・グループの周波数が低くなって偏差値がマイナス方向にシフトする場合には、ペルチェ素子12に発熱作用を発揮させる制御信号をペルチェ素子制御回路112に送る。この場合、パルス・グループの偏差値が大きいほど発熱作用が増大する制御信号を送る。フライング・ハイト制御部157は、微小起伏部の存在に応じて記録電流の制御ができるように制御信号を記録電流制御回路114にも送る。
【0052】
同期監視部159は、磁気ディスク装置100が再生動作をしている間、周波数偏差計測部153から周波数の偏差値を受け取って、タイミング調整回路129の同期状態を監視する。再生信号の基準周波数に対する周波数の偏差が大きくなると、タイミング調整回路129は再生信号に同期したリード・クロックを生成することができなくなって同期はずれを起こすので、偏差値が所定値を超えたときは再生動作を停止させるための信号を中央制御回路101に送る。
【0053】
[欠陥セクタの登録(出荷前)]
上述の磁気ディスク装置100において、出荷前に再生信号の周波数の偏差値を計測して磁気ディスク表面の微少起伏部を検出し欠陥セクタを登録する方法を説明する。微少突起部は、出荷後に成長してTAの原因になる可能性がある。ユーザ・データを記録したデータ・セクタにTAが発生すると当該データを再生することができなくなるので、微少突起部の大きさがある程度を越えたときはTAが発生する前であっても欠陥セクタと認定して欠陥登録しておくことが望ましい。ここで、微少突起部の大きさは、高さと円周方向の長さを考慮して決定することができる。
【0054】
出荷前のデータ・セクタの欠陥登録は、欠陥セクタの判定方法を除いて周知のライト/リード試験で行うことができる。欠陥登録を行うためのプログラムは、磁気ディスク10のシステム領域38に記憶され、中央制御回路101で実行される。ライト/リード試験では最初に、すべてのデータ・セクタに試験データが記録され、つづいて、順番に試験データが再生される。このとき、ECCのシンボル数を小さくしたり、エラー・リカバリ・プロシジャ(ERP)の機能を停止したりして、再生エラーが発生しやすい条件を設定する。中央制御回路101は、同一のデータ・セクタから試験データを複数回再生して、所定回数を超えた再生エラーが発生したデータ・セクタを不良セクタと認定して一次欠陥マップ(PDM)に登録する。
【0055】
これまでのライト/リード試験では、磁気ディスクの表面に微少突起部19や微少陥没部20が存在していても、試験データの再生ができる場合は欠陥セクタとして認定しない。本実施の形態では、リード・チャネルが再生動作をしている間(リード・クロックが再生クロックに同期している間)に起伏検出回路137の周波数偏差計測部153が再生信号に設定したパルス・グループの平均周波数と基準周波数との偏差値を計測して、欠陥セクタ判定部155に送る。欠陥セクタ判定部155は、偏差値が所定の値を超えたときは、当該データ・セクタを欠陥セクタと認定して、中央制御回路101に当該データ・セクタの絶対ブロック・アドレス(ABA)を通知する。
【0056】
中央制御回路101は、ABAが通知されたデータ・セクタを再生エラーが発生しない場合でも欠陥セクタと認定して図6(A)に示すようなPDMに登録する。図6(A)では、6個のデータ・セクタについてABAが登録されている。中央制御回路101は、物理的な配置の順番に並んだデータ・セクタに対して、PDMにアドレスが登録されたデータ・セクタをスキップしながら、順番に論理ブロック・アドレス(LBA)を割り当てる。その結果、出荷前の段階ではLBAが磁気ディスクの回転の順番およびシーク動作の順番に並ぶため、ホスト装置が連続する番号のLBAを指定してデータの記録または再生をするときに、磁気ディスク装置100には必要以上の回転待ち時間やシーク時間が発生することがないようになっている。
【0057】
本実施の形態では、再生ヘッド13と微少突起部が接触しない場合でも微少突起部19を検出することができるので、記録データの信頼性を一層向上することができる。また、微少陥没部20もその大きさに応じて同様に欠陥セクタとして認定されてPDMに登録される。微小陥没部20はTA発生の原因になることはないが、微小陥没部20の位置では、記録ヘッド15および再生ヘッド13のフライング・ハイトが高くなるので、磁性層に対する磁気的結合度が弱まるため、所定値以上の大きさの微小陥没部20を含むデータ・セクタは欠陥セクタとして認定しておいた方が信頼性向上の上で望ましい。
【0058】
PDMは、磁気ディスク10のシステム領域38に記憶され、磁気ディスクの電源が投入されたときに中央制御回路101に読み出される。また、欠陥登録するデータ・セクタのアドレスには、実際に周波数の偏差値の測定結果に基づいて欠陥が認定されたデータ・セクタだけでなくその周辺に配置されたデータ・セクタも含むようにしてもよい。また、実際にTAが発生したときも再生信号の周波数は基準信号の周波数に対して偏差値が大きくなるので、磁気ヘッドと磁気ディスクが接触したときも本実施の形態にかかる方法で欠陥セクタの登録をすることができる。なお、PDMには、磁性層の欠陥などのような周波数の偏差値以外の事象に起因して欠陥登録されたセクタのアドレスも登録される。
【0059】
[欠陥セクタの登録(出荷後)]
つぎに、工場から出荷されてユーザに使用されている磁気ディスク装置100において、周波数の偏差値を計測して磁気ディスク表面の微少起伏部を検出し欠陥セクタを登録する方法を説明する。磁気ディスク装置100は、一般に磁気ディスク10に記録されたユーザ・データを正常に再生できないときは、ECCとERPを実行してエラーを回復しているが、エラーが回復できなかったり、エラーの程度が重大であったりした場合は当該データ・セクタを欠陥セクタと認定し、そのLBAを再配置欠陥マップ(RDM)に登録する。
【0060】
これまでの磁気ディスク装置では、微少突起部19が存在してもTAが発生しない限り当該データ・セクタが欠陥登録されることはなかった。したがって、ユーザ・データが記録されたデータ・セクタに存在する微少突起部が成長してTAが発生し、当該データの再生が不可能になることがある。本実施の形態では、リード・チャネルが再生動作をしている間に起伏検出回路137の周波数偏差計測部153が、再生信号に設定したパルス・グループの平均周波数と基準周波数との偏差値を計測して欠陥セクタ判定部155に送る。欠陥セクタ判定部155は、周波数の偏差値が所定の値を超えたときは、当該データ・セクタを欠陥セクタと認定して、中央制御回路101にそのデータ・セクタのLBAを通知する。
【0061】
中央制御回路101は、ERPを実行することによりデータを再生できるデータ・セクタであっても、欠陥セクタ判定部155からLBAが通知されたデータ・セクタを欠陥セクタと認定して図6(B)に示すようなRDMに登録する。RDMは、欠陥セクタと代替セクタを関連づけるマッピング・テーブルであり、図6(B)では6個の欠陥セクタに対して代替セクタが割り当てられている。RDMに登録されたデータ・セクタに対してホスト装置からライト・コマンドが送られると、中央制御回路101はRDMを参照して代替セクタにユーザ・データを記録する。また、RDMに登録されたデータ・セクタに対してリード・コマンドが送られると、代替セクタから読み出す。
【0062】
本実施の形態では、TAが発生する前にTAを発生させる可能性の高い微少突起部を登録して使用しないようにするため、記録データの信頼性を一層向上することができる。RDMは、磁気ディスク10のシステム領域38に記憶され、磁気ディスク装置100の電源が投入されたときに中央制御回路101に読み出されてライト・コマンドまたはリード・コマンドを実行するときにプロセッサにより参照される。なお、RDMにはPDMと同様に、磁性層の欠陥などのような周波数の偏差値以外の事象に起因して欠陥登録されたセクタのアドレスも登録される。
【0063】
[フライング・ハイトの制御]
つぎに、再生信号の周波数の偏差値を計測してフライング・ハイトを制御する方法を説明する。ペルチェ素子制御回路112はペルチェ素子12に印加するDC電圧の極性および大きさを制御して冷却作用または加熱作用を発揮させることができる。ユーザ・データの再生時に、周波数偏差計測部153が計測したパルス・グループの平均周波数の基準周波数に対する偏差値に基づいて、フライング・ハイト制御部157は制御信号を生成する。制御信号は、微小突起部に対してはペルチェ素子12が冷却作用を発揮するものとし、微小陥没部に対しては発熱作用を発揮するものとする。
【0064】
また、偏差値はその絶対値で微少突起部の高さや微少陥没部の深さを代表することができるので、制御信号は偏差値の絶対値に応じて冷却作用または発熱作用の強度を調整することができるものとする。この結果、再生ヘッド13が微少突起部の上を通過するときは冷却されてフライング・ハイトが高くなる方向に移動し、再生ヘッド13が微少陥没部の上を通過するときは加熱されてフライング・ハイトが低くなる方向に移動するように制御される。フライング・ハイトは、ペルチェ素子12の冷却または加熱の程度を調整することで、微少突起部または微少陥没部の表面においても、平坦部の表面と同様の値に近づくように制御される。この結果、微少陥没部に対しては、磁気的結合度を維持して安定して磁化することができ、微少突起部に対しては不意にTAが発生するような事態を回避することができるようになる。
【0065】
フライング・ハイトの制御は、上述のように再生動作の間に周波数の偏差値を監視しながら行ってもよいが、図6(C)に示すような制御テーブルに周波数の偏差値が所定の値を超えたデータ・セクタのLBAとフライング・ハイトの操作量を登録して、中央制御回路101が制御テーブルを参照して行うようにしてもよい。フライング・ハイトを制御するデータ・セクタのLBAが既知である場合には、フライング・ハイト制御機構の応答速度の条件が緩和されるため有利になる。図6(C)には、周波数の偏差値が所定値を超えた6個のデータ・セクタのLBAとそれに対する操作量が登録されている。操作量の符号は、プラスが微少突起部を示し、マイナスが微少陥没部を示している。また、操作量の絶対値は、フライング・ハイトの調整量を示している。
【0066】
フライング・ハイトの制御は、ペルチェ素子やヒータを使用する方法だけでなく、ヘッド/スライダの姿勢やサスペンションの姿勢をピエゾ素子で機械的に変化させるような方法であってもよい。なお、制御テーブルはRDMと兼用することもできる。その場合、周波数の偏差値に基づいて検出された欠陥セクタを、他の原因で登録された欠陥セクタから識別できるようなフラグをRDMに設定して操作量とともに登録する。
【0067】
[記録電流の制御]
周波数の偏差値に基づく微小起伏部の検出を利用した他の形態として記録電流の制御がある。ヘッド・アンプ111には、記録ヘッド15に流す記録電流の大きさを制御するための記録電流制御回路114が設けられている。周波数偏差計測部153から受け取った周波数の偏差値に基づいて、フライング・ハイト制御部157が微少陥没部の存在を認識したときペルチェ素子制御回路112にフライング・ハイトを変更するための制御信号を送ることに代えて、あるいはそれと同時に、記録電流制御回路114に対して記録電流を増大するための制御信号を送る。その結果、記録ヘッド13の温度が上昇してフライング・ハイトが下がるとともに、記録電流が大きくなるため微少陥没部の磁区も確実に磁化することができる。
【0068】
[記録動作の制御]
周波数の偏差値を計測した他の利用形態として再生動作の制御がある。再生動作中に基準周波数に対する再生信号の周波数の偏差値が大きくなって、タイミング調整回路129の同期保持範囲を超える場合がある。タイミング調整回路129が、再生信号に同期したリード・クロックを生成することができなくなって同期がはずれると、同期が回復するまでに再生したデータ・セクタの再生信号に連続的にエラーが発生する。
【0069】
データ・セクタに連続的なエラーが発生すると、磁気ディスク装置はエラーの回復ができなかったり、エラーの回復に長い時間を費やしたりするので、これを防止する必要がある。タイミング調整回路129のPLLが同期状態から同期はずれの状態に移行する過程では、再生信号の周波数がVCOの自走周波数から徐々に離れてゆく。本実施の形態では、再生中に周波数偏差計測部153が周波数の偏差値を検出して同期監視部159に送る。同期監視部159は連続的に周波数の偏差値を監視して、偏差値が大きくなって同期がはずれる状態に近くなったときに中央制御回路101に再生動作を中止させる信号を送る。信号を受け取った中央制御回路101は、リード・チャネルの再生動作を停止させる。
【0070】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明における微少突起部および微少陥没部を検出する原理を説明する図である。
【図2】微少突起部と微少陥没部における磁化反転位置のシミュレーション結果を説明する図である。
【図3】磁気ディスクのフォーマット構造を説明する図である。
【図4】磁気ディスク装置の概略ブロック図である。
【図5】起伏検出回路の概略ブロック図である。
【図6】PDM、RDM、制御テーブルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
10a、10b、19a、19b、20a、20b…記録面
11…ヘッド/スライダ
12…ペルチェ素子
13…再生ヘッド
15…記録ヘッド
17、17a、17b、17c、17d…磁束
19…微小突起部
20…微小陥没部









【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク装置において磁気ディスクの欠陥セクタを登録する方法であって、
基準信号を提供するステップと、
前記磁気ディスクにデータ・セクタを記録するステップと、
前記データ・セクタを再生して再生信号を生成するステップと、
前記再生信号と前記基準信号とを比較し周波数および位相またはそのいずれか一方の偏差値を計測するステップと、
所定値以上の前記偏差値が計測されたデータ・セクタのアドレスをアドレス・テーブルに登録するステップと
を有する欠陥セクタの登録方法。
【請求項2】
前記アドレスが絶対ブロック・アドレスで、前記アドレス・テーブルが一次欠陥マップ(PDM)である請求項1記載の欠陥セクタの登録方法。
【請求項3】
前記アドレスが論理ブロック・アドレスで、前記アドレス・テーブルが再配置欠陥マップ(RDM)である請求項1記載の欠陥セクタの登録方法。
【請求項4】
前記アドレス・テーブルが、登録されたアドレスのデータ・セクタに対するフライング・ハイト制御をするための制御テーブルである請求項1記載の欠陥セクタの登録方法。
【請求項5】
前記偏差値を計測している間、前記再生信号を生成するためのリード・クロックが前記再生信号に同期している請求項1記載の欠陥セクタの登録方法。
【請求項6】
前記偏差値を計測するステップが、前記再生信号の複数のクロックを発生の順番にグループ化して該グループを代表する再生信号と前記基準信号とを比較するステップを含む請求項1記載の欠陥セクタの登録方法。
【請求項7】
データ・セクタが記録された磁気ディスクと、
前記磁気ディスクに記録された磁気信号を検出する再生ヘッドと、
前記再生ヘッドが検出した磁気信号から再生信号を生成するリード・チャネルと、
前記リード・チャネルに前記再生信号に同期したリード・クロックを供給するタイミング調整回路と、
前記リード・クロックが前記再生信号に同期している間に前記再生信号と基準信号とを比較して周波数および位相またはそのいずれか一方の偏差値を計測する起伏検出回路と
を有する磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記起伏検出回路から偏差値を受け取って動作するフライング・ハイト制御機構を有する請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
前記フライング・ハイト制御機構は、前記再生信号の周波数が前記基準信号の周波数より高いときフライング・ハイトを高くする方向に動作する請求項8記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
前記フライング・ハイト制御機構は、前記再生信号の周波数が前記基準信号の周波数より低いときフライング・ハイトを低くする方向に動作する請求項8記載の磁気ディスク装置。
【請求項11】
前記リード・チャネルは、前記偏差値が所定値を超えたとき再生動作を停止する請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項12】
前記偏差値に応じて記録電流の大きさを制御する記録電流制御機構を有する請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項13】
前記偏差値が所定値を超えたデータ・セクタのアドレスを登録するアドレス・テーブルを有する請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項14】
前記アドレス・テーブルに登録されたデータ・セクタに対するフライング・ハイトを制御するフライング・ハイト制御機構を有する請求項13記載の磁気ディスク装置。
【請求項15】
前記再生信号が、前記再生ヘッドと前記磁気ディスクが非接触の状態のときに生成されている請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項16】
前記基準信号が複数のデータ・セクタから再生した再生信号の代表値である請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項17】
前記磁気ディスク装置が垂直磁気記録方式を採用する請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項18】
前記再生ヘッドがMR素子またはGMR素子を含む請求項7記載の磁気ディスク装置。
【請求項19】
磁気ディスク装置においてフライング・ハイトを制御する方法であって、
前記磁気ディスクにデータ・セクタを記録するステップと、
前記データ・セクタを再生して再生信号を生成するステップと、
前記再生信号と基準信号とを比較し周波数および位相またはそのいずれか一方の偏差値を計測するステップと、
所定値以上の偏差値が検出されたデータ・セクタに対するフライング・ハイトを制御するステップと
を有するフライング・ハイトの制御方法。
【請求項20】
所定値以上の偏差値が検出されたデータ・セクタをアドレス・テーブルに登録するステップを含み、前記フライング・ハイトを制御するステップが前記アドレス・テーブルに登録されたアドレスに基づいてフライング・ハイトを制御するステップを含む請求項19記載のフライング・ハイトの制御方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−157198(P2007−157198A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347558(P2005−347558)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】