説明

磁気ディスク装置

【課題】磁気ヘッドが磁気記憶媒体に接触した際に発生する電荷の移動を抑制することで、電荷の移動に伴う、磁気ヘッドの浮上特性の悪化や放電による磁気ヘッドの劣化を防止すること。
【解決手段】磁気ヘッド100及び磁気記憶媒体200の表面を元素組成が同一のコーティング層の材料で覆うことで、磁気ヘッド100が磁気記憶媒体200に接触した際に発生する電荷の移動を抑制することができ、磁気ヘッド100の浮上特性の悪化や、放電による磁気ヘッド100の劣化を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ディスク装置に関し、特に、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの表面は、元素組成が同一のコーティング層の材料で覆われていることを特徴とする磁気ディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置における記憶媒体の高記録密度化に伴い、磁気スペーシング(磁気ヘッドと磁気記憶媒体との隙間)の狭小化が進んでいる。この狭小化された磁気スペーシングを一定に保つため、磁気ヘッドの浮上量のばらつきを補正するDFH(Dynamic Flying Height)と呼ばれる浮上量制御技術が、磁気ディスク装置に適用されている。
【0003】
このDFHを磁気ディスク装置に用いることで、リード/ライト処理時における磁気スペーシングの最小距離を5nm(単位:ナノメートル)程度まで狭小化できるようになった。
【0004】
このように、磁気ヘッドは、記憶媒体面上からナノメートル単位の隙間を浮上しているため、原子レベルでの平滑さが要求され、わずかな塵や埃といった微細な不純物等が磁気ヘッドに付着したり、磁気ヘッド自体の特性が少しでも失われたりすると、磁気ヘッドの浮上安定性が大きく崩れてしまう。
【0005】
したがって、磁気ヘッドが安定して浮上するための技術として、例えば、磁気ヘッドの表面にフッ素系の処理を行い、表面に空気中の不純物が付着するのを防止する技術(例えば、特許文献1参照)、耐久性に優れ、かつ磁気ヘッドの安定した浮上を可能にするような表面処理を記憶媒体に行う技術(例えば、特許文献2参照)、磁気ヘッドの腐食を未然に防止するための技術(例えば、特許文献3参照)等が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−12377号公報
【特許文献2】特開2006−318607号公報
【特許文献3】特開2001−344708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の技術では、磁気ヘッドが記憶媒体に接触した際に発生する電荷が、磁気ヘッドと記憶媒体との間を移動することで、磁気ヘッドや記憶媒体に対して悪影響を及ぼしてしまうという問題があった。
【0008】
例えば、磁気ヘッドと記憶媒体との間を電荷が移動することで、磁気ヘッドと記憶媒体との間に電荷の差が生じ、静電力が働くことになる。静電力は、磁気スペーシングに働いているファンデルワールス力よりも大きい力を有しているため、磁気ヘッドを記憶媒体側へ静電的に引き付け、その結果、磁気ヘッドの浮上特性を乱してしまう。
【0009】
また、磁気ヘッド内部にある磁気抵抗効果素子(MR(Magnetic Resistance)素子)は、小型化・高感度化が進み、電荷の影響を受け易くなっていることから、磁気ヘッドと記憶媒体との間で電荷の移動が発生し、その電荷の移動に起因する電流が、所定のスレッシュホールドの値を超え、瞬間的にMR素子に放電されると、磁気ヘッドの特性が劣化してしまう。
【0010】
特に近年においては、抵抗効果が高いTuMR(Tunneling Magnetic Resistance)素子が用いられており、TuMR素子中には絶縁層が形成されていることから、上述の影響が強くなる。
【0011】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、磁気ヘッドと記憶媒体の接触により発生する電荷の移動を抑制することによって、磁気ヘッドの浮上特性の悪化や、放電による磁気ヘッドの劣化を防止することができる磁気ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この磁気ディスク装置は、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの表面を元素組成が同一のコーティング層の材料で覆われていることを要件とする。
【発明の効果】
【0013】
この磁気ディスク装置によれば、磁気ヘッド及び磁気記憶媒体の表面を元素組成が同一のコーティング層の材料で覆うことにより、磁気ヘッドが、磁気記憶媒体に接触した際に発生する電荷の移動を抑制し、電荷の移動に伴う磁気ヘッドの浮上特性の悪化や放電による磁気ヘッドの劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る磁気ディスク装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
最初に、本実施例1に係る磁気ディスク装置の概要及び特徴について説明する。本実施例1に係る磁気ディスク装置は、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの表面を覆っているコーティング層の材料が、同一の元素組成である。また、リード/ライト処理を行う際の磁気スペーシングの最小距離は、0nmよりも大きく3nm以下程度である。
【0016】
磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの表面を同一のコーティング層の材料で覆うことで、両コーティング層の材料(磁気記憶媒体及び磁気ヘッドのコーティング層の材料)を構成する分子間の電気陰性度に差はなくなり、電子受容性/供与性の違いによる電子授受を起こりにくくし、電荷の移動を抑制する。
【0017】
また、磁気スペーシングの最小距離を0nmよりも大きく3nm以下程度とすることで、磁気ヘッド及び磁気記憶媒体のコーティング層の材料を構成する両分子間におけるファンデルワールス力が有効に働き、磁気ヘッドの浮上安定性を維持することが可能となる。
【0018】
一方、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの表面を覆っているコーティング層の材料の膜厚(コーティング層の材料の厚さ)の総和は2nm以下で、磁気ヘッド側の膜厚は磁気記憶媒体側の膜厚以下であるものとする。
【0019】
これは、コーティング層の膜厚の総和が厚い場合、磁気ヘッド側に磁気記憶媒体側のコーティング層の材料が必要以上に付着すると、磁気ヘッドの浮上特性が劣化することから、磁気ヘッド側はより薄い膜厚で覆うものとする。
【0020】
したがって、本発明では、膜厚をより薄くするために、コーティング層の材料に含まれる分子同士が上下に重ならないような構造で敷詰められる。その結果、分子1層あたり(例えば、分子の直径に相当)の膜厚は1nm以下になり、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの表面におけるコーティング層の材料の膜厚の総和は2nm以下となる。
【0021】
通常、磁気記憶媒体の表面を覆うコーティング層の材料の一例として、フッ素系化合物が使用される。フッ素系化合物は、磁気記憶媒体の表面自由エネルギーを下げ、広い面積を薄く覆うことができ、かつ不純物の吸着を抑えることを可能とする。
【0022】
表面自由エネルギーは、物質を引き付けるエネルギーであることから、表面自由エネルギーが低い場合、その表面に不純物等を引き付けない。例えば、フッ素コートされたフライパンは、水や油をはじく例からも、フッ素系化合物は、表面の活性を下げ、空気中の汚染物質、塵、埃等を引き付けない。
【0023】
フッ素系化合物の例としては、潤滑剤として一般に知られているパーフロロポリエーテルが挙げられる。このパーフロロポリエーテルの分子末端基が、水酸基などの極性基をもっていると不純物を引き寄せてしまうため、本実施例では、パーフロロポリエーテルの分子末端基に、水酸基などの極性基を持たせないものとする。
【0024】
したがって、パーフロロポリエーテルの分子末端基に、‐CF(フッ化炭素)や‐CH(炭化水素)を用い、また、パーフロロポリエーテルの分子主鎖の分解を抑えるために、モノマ単位に‐CFO‐を持たせないものとする。
【0025】
一方、磁気記憶媒体の表面自由エネルギーをできる限り下げる必要があることから、コーティング層の材料を全てC‐F結合からなるフッ素系物質で構成してしまうと、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの保護膜であるDLC(Diamond Like Carbon)上に、コーティング層の材料を効果的に吸着させることができず、従来では、一例として、コーティング層の材料に酸素を混ぜ、酸素原子が持つ極性を利用することで、コーティング層の材料をDLCに吸着させていた。
【0026】
しかし、酸素原子の極性を利用した吸着では、磁気ヘッドの浮上特性を維持するための必要な強さの吸着力を有しておらず、低ボンド率での吸着となっている。尚、本実施例におけるボンド率とは、コーティング層の材料のDLCに対する吸着力の強さを示し、ボンド率が高ければ、コーティング層の材料のDLCに対する吸着力は強いものとする。
【0027】
このボンド率が低い場合、磁気記憶媒体側のコーティング層の材料が蒸発してしまい、磁気ヘッド側への移着や、この移着したコーティング層の材料のドロップにより、電荷の蓄積や移動が磁気記憶媒体や磁気ヘッドに発生し易くなってしまう。
【0028】
また、本実施例に係る磁気ディスク装置は、DFH(Dynamic Flying Height)機構を有している。このDFHは、磁気ヘッドの浮上量のばらつきを出荷前に補正する手段である。
【0029】
具体的には、磁気ヘッド内部のヒータを通電することで、ヘッド素子部を膨張させる。その膨張したヘッド素子部を磁気記憶媒体に接触させることで振動が発生し、その結果、磁気ディスク装置のリード波形が乱れることから接触を検知することができる。
【0030】
そして、接触振動を検知した後、ヒータの通電を止めて、ヘッド素子部の熱膨張部を元に戻すことで、熱膨張部分を磁気スペーシングとすることができ、磁気ヘッドの浮上のばらつきを調整する。
【0031】
したがって、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドの表面に不純物が付着していると、接触振動が検知しにくくなるため、コーティング層の材料に不純物等を吸着させない必要がある。
【0032】
以上のように、表面自由エネルギーをできる限り下げると共に、ボンド率を高め、またDFHの接触時における接触振動を検知し易くするためには、DLCの吸着に必要がない酸化やコーティング層の材料に対する不純物の吸着を抑制する環境下で、磁気ヘッド及び磁気記憶媒体が作成される必要がある。
【0033】
したがって、製造装置(図示省略)が、低酸素の環境を実現する不活性ガス雰囲気、または真空中で磁気ヘッド及び磁気記憶媒体に対して放射線照射し、磁気ヘッド及び磁気記憶媒体を作成する。放射線の種類としては、紫外線、遠紫外線、真空紫外線、極端紫外線、X線、電子線などが例として挙げられる。
【0034】
放射線を磁気ヘッドや磁気記憶媒体に照射すると、コーティング層の材料とDLCを構成する分子から励起された光電子が放出され、両者の分子は、フリーラジカルとなる。
【0035】
そして、フリーラジカルの状態にある分子が、もとの安定した状態に戻る時、共有結合を形成する。その結果、コーティング層の材料を共有結合によりDLCへ吸着させることが可能となり、高ボンド率で吸着することになる。
【0036】
したがって、コーティング層の材料やDLCから、より多くの光電子を出すような波長の照射が磁気記憶媒体及び磁気ヘッドに必要となり、光電子をより多く放出させることができる波長185nmまたは172nmの輝線を照射することで、コーティング層の材料をDLCに吸着させるものとする。
【0037】
尚、本実施例においては、コーティング層の材料とDLCの分子を効率よくフリーラジカルの状態にする波長172nmの輝線を多く放射し、他の波長の放射が少ないXe(キセノン)エキシマランプを、磁気ヘッド及び磁気記憶媒体に全面照射する。
【0038】
このように、磁気ヘッド及び磁気記憶媒体の表面を、元素組成が同一のコーティング層の材料で覆うことで、磁気ヘッドが記憶媒体に接触した際に発生する電荷の移動を抑制し、電荷の移動に伴う浮上特性の悪化や放電による磁気ヘッドの劣化を防止することができる。
【0039】
次に、上述した磁気ヘッド、磁気記憶媒体を備えた磁気ディスク装置を、図1及び図2を用いて説明する。図1は、実施例1に係る磁気ディスク装置の例を示す図である。図1に示すように、磁気ディスク装置10は、特に本発明に密接に関連するものとして、磁気ヘッド100と磁気記憶媒体200を有する。
【0040】
次に、磁気ヘッド100と磁気記憶媒体200との関係について説明する。図2は、磁気ヘッドと磁気記憶媒体との関係を示す断面図(磁気ディスク装置10を垂直な方向で切断した図)である。
【0041】
図2に示すように、磁気ヘッド100は、磁気記憶媒体200の表面上を微少量(0nmよりも大きく3nm以下)浮上し、移動しており、磁気記憶媒体200に対して磁気データの読み書きを行う手段である。そして、コーティング膜100aと、ヘッド用DLC100bと、ヘッド基板100cと、DFH制御部100dと、ヘッド素子部100eとを有する。
【0042】
コーティング膜100aは、磁気ヘッド100の表面を覆っているコーティング層の材料で、磁気記憶媒体200との摩擦を低減する。そのコーティング層の材料の一例として、フッ素系化合物(例えば、パーフロロポリエーテル)が挙げられる。
【0043】
ヘッド用DLC100bは、磁気ヘッド100の保護膜として働く。ヘッド用DLC100bの材料としては、薄膜化が可能でsp3性炭素を豊富に含むテトラヘドラルアモルファスカーボン(以下ta:Cとする)が挙げられる。このsp3性炭素とは、単結合からなる炭素で、導電性がなく摩擦等に強いことから、磁気ヘッドの保護膜の材料に適している。
【0044】
ヘッド基板100cは、磁気ヘッド100の主要部分であり、ウェファ状態から短冊状に切り出されたバー状のものをいい、磁気記憶媒体200の表面上を浮上し、移動している。
【0045】
DFH制御部100dは、磁気ディスク装置10の出荷前に磁気ヘッド100の浮上量のばらつきを補正する手段である。具体的には、DFH制御部100dの内部に含まれるヒータ(図示省略)を通電することで、磁気ヘッド素子部100eを熱膨張させて(図2の点線部参照)、磁気記憶媒体200に接触させる。
【0046】
ヘッド素子部100eを磁気記憶媒体200に接触させ、振動を生じさせることでリード波形が乱れ、その接触を検知した際に、ヒータを元に戻す。結果として、熱膨張した領域(図2の点線部参照)が磁気スペーシングとなり、磁気ヘッド100の浮上のばらつきを抑えることができるものとする。
【0047】
磁気記憶媒体200は、情報を記録する磁性体を規則的に並べることで高記録密度化を実現する磁気記憶媒体である。そして、基板201と、媒体用DLC202と、コーティング膜203とを有する。
【0048】
基板201は、磁性体を塗布したディスクで、情報を記録し、保持する手段である。基板201の表層に相当する磁性膜は、トラック間またはビット間の磁気的干渉を抑えた形状であり、絶縁体201aや磁性体201bが配置されている。絶縁体201aの一例としては、SiOやアルミナ等が挙げられる。
【0049】
媒体用DLC202は、磁気記憶媒体200の保護膜として働き、代表的な材料の例としては、薄膜化が可能でsp3性炭素を豊富に含むta:Cが挙げられる。
【0050】
コーティング膜203は、媒体用DLC202の上に堆積されており、磁気ヘッド100との摩擦を低減する。そして、このコーティング膜203における材料の元素組成は、磁気ヘッド100の表面を覆っているコーティング膜100aと同一である。
【0051】
したがって、磁気ヘッド100の表面を覆っているコーティング膜100aと、磁気記憶媒体200の表面を覆っているコーティング膜203は、元素組成が同一の材料である。
【0052】
尚、これまで磁気ヘッド及び磁気記憶媒体の表面を元素組成が同一のコーティング層の材料で覆われている場合について説明したが、さらに、元素組成の比率が同一のコーティング層の材料で覆うことで、磁気ヘッドと磁気記憶媒体間との電荷の移動をより少なくすることができ、電荷の移動に伴う浮上特性の悪化や放電による磁気ヘッドの劣化をより効果的に防止することができる。
【0053】
[成膜方法について]
次に、図1、2で示した磁気ヘッド100及び磁気記憶媒体200の成膜プロセスについて説明する。図3は、実施例1に係る成膜プロセスを説明するための図である。
【0054】
まず、図3に示すように、SiOで磁性膜が隔離された垂直記録用のディスクリートトラック媒体(DTM)の基板を作成する(ステップ100)。
【0055】
次に、フィルタードカソーディックアーク法により、ステップ100で作成したDTM基板の上にta:Cを保護膜として堆積させる(ステップ200)。
【0056】
次に、分子末端基に‐CF、主鎖に‐CFCFO‐を繰り返し単位とするパーフロロポリエーテルをステップ200で堆積した保護膜の上に0.9nmの厚さで塗布する(ステップ300)。尚、厚さ0.9nmとしたのは、膜厚を構成するパーフロロポリエーテルの分子が、上下に重ならないような形状で敷き詰められるためである。
【0057】
次に、ステップ300で塗布したパーフロロポリエーテルをta:C上に固着させるため、窒素中で波長172nmの輝線を有するXeエキシマ光を、磁気記憶媒体200に全面照射し、パーフロロポリエーテルをta:C上に固着させる(ステップ400)。
【0058】
一方、磁気ヘッド100についてもヘッド基板100cをウェファ状態から短冊状に切り出し、切り出されたヘッド基板100cの切断部を磨き、この切断部に対してステップ200で示したフィルタードカソーディックアーク法により、ta:Cを保護膜として堆積させる。
【0059】
そして、磁気記憶媒体200の表面に塗布した同一のパーフロロポリエーテルを、0.7nmの厚さで磁気ヘッド100に塗布し、ステップ400と同様の処理にて、パーフロロポリエーテルをta:C上に固着させる。
【0060】
尚、磁気ヘッド100の表面に厚さ0.7nmでパーフロロポリエーテルを塗布することで、磁気記憶媒体200に塗布されたコーティング層の材料との膜厚の総和は、1.6nmとなる。
【0061】
したがって、磁気ヘッド100の浮上特性の劣化を防止することができる膜厚の総和(2.0nm以下)で、パーフロロポリエーテルを磁気ヘッド100及び磁気記憶媒体200の表面に塗布したことになる。
【0062】
上述した成膜方法にて作成した磁気ヘッド100と磁気記憶媒体200を用いて磁気ディスク装置10を作成する。磁気ディスク装置10のDFH制御部100dにより、ヘッド素子部100eを突き出し、磁気記憶媒体200にタッチダウンさせ、磁気ヘッド100を2nm相当、後退させた。その状態(リード/ライト処理を行う際の磁気スペーシングの最小距離が2nm)で、48時間、磁気ヘッド100を浮上させ、リード/ライトを繰り返した。
【0063】
一方、通常のCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)カーボンの上に、一般に市販されている潤滑剤で、末端基に極性の高い水酸基を有する潤滑剤を用いた垂直記録用のディスクリートトラック媒体(磁気記憶媒体60)と、その表面にta:Cのみを配し、DFH機構を有する磁気ヘッド50を用いて磁気ディスク装置(概観図省略)を作成した。
【0064】
そして、磁気ディスク装置10に行った操作と同様に、DFHでヘッド素子部を突き出して記憶媒体にタッチダウンさせ、磁気ヘッド50を2nm、相当後退させた。その状態(リード/ライト処理を行う際の磁気スペーシングの最小距離が2nm)で、48時間、磁気ヘッド50を浮上させ、リード/ライトを繰り返した。
【0065】
その結果、磁気ディスク装置10の動作は、問題がなかった。一方、磁気ヘッド50と磁気記憶媒体60を有する磁気ディスク装置にはエラーが多発した。そして、磁気ディスク装置をそれぞれ分解して、磁気記憶媒体の表面と磁気ヘッドの浮上面を観察したところ、磁気ヘッド50と磁気記憶媒体60とに接触した痕が観察された。
【0066】
具体的に図4を用いて説明する。図4は、本実施例1に係る磁気ディスク装置の優位性を説明するための図である。図4に示すように、従来の磁気ヘッド50及び磁気記憶媒体60を備えた磁気ディスク装置では、磁気ヘッド50と磁気記憶媒体60の接触による電荷の移動(電気陰性度の差による電子の授受)が発生する。
【0067】
また、潤滑剤が低ボンド率で吸着しているため、潤滑剤の蒸発による磁気ヘッド側への移着及びドロップによる電荷の蓄積や移動が発生し易くなり、磁気ヘッドの浮上特性が失われ、磁気ヘッドのリード/ライトエラーや、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドに傷が発生してしまう。
【0068】
一方、磁気ディスク装置10の表面は、元素組成が同一のコーティング層の材料で覆われているため、接触による電荷の移動を抑制することができる。
【0069】
また、パーフロロポリエーテルが、DLCに高ボンド率で吸着しているため、パーフロロポリエーテルの磁気ヘッド側への移着及びドロップによる電荷の蓄積や移動を抑制し、磁気ヘッドの浮上特性が失われ、磁気ヘッドのリード/ライトエラーや、磁気記憶媒体及び磁気ヘッドに傷が発生することを抑制することができる。
【0070】
このように、本実施例1に係る磁気ディスク装置は、磁気ヘッド100及び磁気記憶媒体200の表面を元素組成が同一のコーティング層の材料で覆うことで、磁気ヘッド100が磁気記憶媒体200に接触した際に発生する電荷の移動を抑制し、磁気ヘッド100の浮上特性の悪化や、放電による磁気ヘッド100の劣化を防止することができる。
【0071】
尚、本実施例においては、磁気記憶媒体は、垂直記録用のディスクリートトラック媒体を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、他の記憶媒体及びディスク装置、例えば、ハードディスク装置に使用されるパターンドメディア、ビットパターンドメディアなど、どのような磁気記憶媒体であってもよい。また、本発明に係る磁気ディスク装置には、このような磁気記憶媒体を使用する全ての磁気ディスク装置が含まれる。
【0072】
上記の実施例1を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0073】
(付記1)磁気記憶媒体と磁気ヘッドとを備えた磁気ディスク装置であって、
前記磁気記憶媒体及び前記磁気ヘッドの表面は、元素組成が同一のコーティング層の材料で覆われていることを特徴とする磁気ディスク装置。
【0074】
(付記2)前記コーティング層の材料の元素組成比が同一であることを特徴とする付記1に記載の磁気ディスク装置。
【0075】
(付記3)前記磁気ヘッド内部に含まれる熱膨張体を通電して膨張させることによって、当該磁気ヘッドの前記磁気記憶媒体からの浮上量を調整する調整手段を有し、前記調整手段は、当該磁気ヘッドの浮上量を所定値に調整することを特徴とする付記1または2に記載の磁気ディスク装置。
【0076】
(付記4)前記調整手段は、前記所定値を0nmよりも大きく3nm以下に調整することを特徴とする付記3に記載の磁気ディスク装置。
【0077】
(付記5)前記コーティング層の材料の膜厚の総和が2nm以下であること、および前記磁気ヘッド側の膜厚が前記磁気記憶媒体側の膜厚以下であることを特徴とする付記1〜4のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【0078】
(付記6)前記コーティング層の材料は、フッ素系化合物であることを特徴とする付記1〜5のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【0079】
(付記7)前記フッ素系化合物は、パーフロロポリエーテルを含むことを特徴とする付記6に記載の磁気ディスク装置。
【0080】
(付記8)前記パーフロロポリエーテルは、末端に極性基を持たないで、‐CF基または‐CH基を有するパーフロロポリエーテルのいずれかで、モノマ単位に‐CFO‐を有さないことを特徴とする付記7に記載の磁気ディスク装置。
【0081】
(付記9)不活性ガス雰囲気または真空中の環境下で、波長185nmまたは172nmの輝線を複数有する放射線が照射されることにより、前記磁気記憶媒体または前記磁気ヘッドの保護膜に前記コーティング層の材料が吸着されていることを特徴とする付記1〜8のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【0082】
(付記10)前記磁気記憶媒体が、ディスクリートトラック媒体またはビットパターン媒体であることを特徴とする付記1〜9のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【0083】
(付記11)前記磁気記憶媒体の磁性パターンの間が、絶縁体で埋められていることを特徴とする付記1〜10のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1に係る磁気ディスク装置の例を示す図である。
【図2】磁気ヘッドと磁気記憶媒体との関係を示す断面図である。
【図3】実施例1に係る成膜プロセスを説明するための図である。
【図4】実施例1に係る磁気ディスク装置の優位性を説明するための図である。
【符号の説明】
【0085】
10 磁気ディスク装置
50、100 磁気ヘッド
60、200 磁気記憶媒体
100a、203 コーティング膜
100b ヘッド用DLC
100c ヘッド基板
100d DFH制御部
100e ヘッド素子部
201 基板
201a 絶縁体
201b 磁性体
202 媒体用DLC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記憶媒体と磁気ヘッドとを備えた磁気ディスク装置であって、
前記磁気記憶媒体及び前記磁気ヘッドの表面は、元素組成が同一のコーティング層の材料で覆われていることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記コーティング層の材料の元素組成比が同一であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記磁気ヘッド内部に含まれる熱膨張体を通電して膨張させることによって、当該磁気ヘッドの前記磁気記憶媒体からの浮上量を調整する調整手段を有し、前記調整手段は、当該磁気ヘッドの浮上量を所定値に調整することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記調整手段は、前記所定値を0nmよりも大きく3nm以下に調整することを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記コーティング層の材料の膜厚の総和が2nm以下であること、および前記磁気ヘッド側の膜厚が前記磁気記憶媒体側の膜厚以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記コーティング層の材料は、フッ素系化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】
前記フッ素系化合物は、パーフロロポリエーテルを含むことを特徴とする請求項6に記載の磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記パーフロロポリエーテルは、末端に極性基を持たないで、‐CF基または‐CH基を有するパーフロロポリエーテルのいずれかで、モノマ単位に‐CFO‐を有さないことを特徴とする請求項7に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
不活性ガス雰囲気または真空中の環境下で、波長185nmまたは172nmの輝線を複数有する放射線が照射されることにより、前記磁気記憶媒体または前記磁気ヘッドの保護膜に前記コーティング層の材料が吸着されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
前記磁気記憶媒体が、ディスクリートトラック媒体またはビットパターン媒体であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−67299(P2010−67299A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231232(P2008−231232)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】