説明

磁気ヘッドのトラッキング制御方法、サーボ信号検査方法、磁気テープドライブおよびサーボライタ

【課題】サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑える。
【解決手段】磁気テープMTの厚み方向において一方向に磁化した後側成分M2と一方向とは逆方向に磁化した前側成分M1とからなる磁気パターンMPを磁気テープMTの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が予め書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープMTに対する磁気ヘッドのトラッキング制御方法である。磁気ヘッドのトラッキング制御方法は、サーボ信号を読み取って、磁気パターンMPに対応した互いに逆極性の一対のピークP1,P2を有する単位波形Wを繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得工程と、取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形Wから、サーボ信号が書き込まれたときの磁気テープMTの走行方向における後側のピークP2を含む谷形の波形を選択する波形選択工程と、選択した波形に基づいて磁気ヘッドの位置を制御する位置制御工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドのトラッキング制御方法、サーボ信号検査方法、磁気テープドライブおよびサーボライタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気テープは、高記録密度化に伴ってデータトラックの幅が狭くなっている。この狭いデータトラックに精度よく磁気ヘッドを追従させるため、磁気テープには、予めデータトラックの基準位置を示すサーボ信号が書き込まれている。そして、磁気テープドライブでは、サーボ信号を読み取ることで、記録・再生の対象とするデータトラックと磁気ヘッドとの位置ずれ量を算出し、この位置ずれ量に基づいて磁気ヘッドをデータトラックに追従させるように制御している。
【0003】
このようなサーボ信号は、例えば、垂直磁気記録方式の磁気テープ(磁気テープに含まれる磁性体を磁気テープの厚み方向に磁化することで情報の記録を行う磁気テープ)においては、磁気テープの厚み方向の一方向に磁化した部分と、当該一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを、磁気テープの走行方向に所定間隔で書き込むことにより形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−20943号公報(図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、サーボ信号を書き込むサーボライタでは、磁気テープを走行させながら固定されたサーボ信号書込ヘッドによってサーボ信号を書き込むので、サーボ信号を精度よく書き込むために、磁気テープが走行方向や幅方向にぶれないよう、磁気テープを極めて高い位置精度で走行させている。しかしながら、現実には、サーボ信号書込ヘッドに出力されるパルス信号(記録電流)の通電時間が揺らいだり、磁気テープのテンションが変動したりすることなどで、磁気テープには不可避的に走行方向にぶれ(ゆらぎ)が生じる。
【0006】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑えることができる磁気ヘッドのトラッキング制御方法、サーボ信号検査方法、磁気テープドライブおよびサーボライタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と当該一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号を読み取ると、磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返す波形を得ることができる(図3参照)。そして、本願発明者等が鋭意研究を行った結果、前記した一対のピークのうち、サーボ信号を書き込んだときの磁気テープの走行方向における後側のピークは、前側のピークに比べて、読取時のピーク位置のばらつきが小さいことが見出された。これは、磁気テープに磁気記録が均一になされ、特にサーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響が小さいことを意味する。
【0008】
以上を踏まえ、前記した目的を達成するための本発明は、磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が予め書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープに対する磁気ヘッドのトラッキング制御方法であって、サーボ信号を読み取って、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得工程と、取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号が書き込まれたときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択工程と、選択した波形に基づいて前記磁気ヘッドの位置を制御する位置制御工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
このような磁気ヘッドのトラッキング制御方法によれば、サーボ信号を読み取って取得した波形のうち、読取時のピーク位置のばらつきが小さい方のピークを含む波形を選択して、磁気ヘッドの位置制御に用いることで、トラッキング制御に対する、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑えることができる。これにより、トラッキング制御の高精度化・安定化が可能となる。
【0010】
ここで、本発明における垂直磁気記録方式の磁気テープは、磁気テープの厚み方向に磁化した成分(磁性体の極の厚み方向に向いた成分)の角形比(以下、本明細書において「垂直SQ」という。)が0.5以上であることが望ましい。なお、上記した垂直SQの値は、反磁界補正後の数値である。
【0011】
また、前記した目的を達成するための本発明は、磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープのサーボ信号の品質を評価するサーボ信号検査方法であって、サーボ信号を読み取って、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得工程と、取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号を書き込んだときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択工程と、選択した波形に基づいてサーボ信号の品質を評価する信号検査工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
このようなサーボ信号検査方法によれば、サーボ信号を読み取って取得した波形のうち、読取時のピーク位置のばらつきが小さい方のピークを含む波形を選択して、サーボ信号の品質評価に用いることで、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑えて品質評価をすることができる。これにより、サーボ信号の評価をより正確に行うことが可能となる。
【0013】
また、前記した目的を達成するための本発明は、磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が予め書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープに対し、情報の記録および/または再生を行う磁気テープドライブであって、磁気テープに対して情報の記録および/または再生を行う第1素子とサーボ信号を読み取る第2素子を有する磁気ヘッドと、前記第2素子が読み取ったサーボ信号から、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得部と、取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号が書き込まれたときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択部と、選択した波形に基づいて前記磁気ヘッドの位置を制御する位置制御部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
このような構成の磁気テープドライブによれば、前記した磁気ヘッドのトラッキング制御方法を実行できるので、トラッキング制御に対する、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑えることができ、トラッキング制御を高精度かつ安定して実行することが可能となる。
【0015】
また、前記した目的を達成するための本発明は、磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号を垂直磁気記録方式の磁気テープに書き込むサーボライタであって、磁気テープにサーボ信号を書き込む書込ヘッドと、前記書込ヘッドにパルス信号を出力する信号出力部と、磁気テープの走行方向における前記書込ヘッドの下流側に設けられてサーボ信号を読み取る読取ヘッドと、前記読取ヘッドが読み取ったサーボ信号から、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得部と、取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号を書き込んだときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択部と、選択した波形に基づいてサーボ信号の品質を評価する信号検査部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
このような構成のサーボライタによれば、前記したサーボ信号検査方法を実行できるので、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑えて品質評価をすることができ、サーボ信号の評価をより正確に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サーボ信号を読み取って取得した波形のうち、読取時のピーク位置のばらつきが小さい方のピークを含む波形を選択して、トラッキング制御または品質評価に用いるので、当該制御や評価において、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】サーボライタの構成を示す図である。
【図2】サーボ信号書き込みの説明図である。
【図3】サーボ信号読み取りの説明図(a)と、サーボ信号を読み取ったときの読取信号(b)である。
【図4】磁気テープの走行方向のゆらぎの影響の説明図(a)〜(c)である。
【図5】磁気テープドライブの構成を示す図である。
【図6】磁気テープおよび磁気ヘッドの平面図である。
【図7】サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
次に、本発明の第1実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。この第1実施形態では、実施形態に係るサーボライタの構成とサーボ信号の検査方法について説明する。なお、以下の説明では、磁気テープの走行方向(磁気テープの長手方向)を単に「走行方向」といい、磁気テープの厚み方向を単に「厚み方向」というものとする。
【0020】
図1に示すように、サーボライタ1Aは、サーボ信号を磁気テープMTに書き込む装置であり、ベース10上に、磁気テープ搬送装置20と、書込ヘッド30と、読取ヘッド40と、制御装置50とを主に備えて構成されている。
【0021】
ここで、実施形態に係る磁気テープMTについて簡単に説明する。
図2に示すように、磁気テープMTは、主に、ベースフィルムBと、ベースフィルムB上に形成された磁性層Mとを備えて構成されている。この磁気テープMTは、磁性層Mに含まれる磁性体(磁気双極子)を厚み方向(図2の上下方向)に磁化することで、サーボ信号やデータ(情報)の書き込みが行われる垂直磁気記録方式の記録媒体であり、垂直SQが0.5以上であることが望ましい。
【0022】
ベースフィルムBは、磁性層Mを支持するための支持体であり、一例としてポリエチレンテレフタレート(PET)などからなっている。
【0023】
磁性層Mは、磁性体の粉末やバインダーなどを混合した磁性塗料をベースフィルムB上に塗布し、乾燥させることで形成されている。この磁性層Mは、サーボ信号(サーボパターンSP)が書き込まれる領域となるサーボバンドSBと、データが記録される領域となるデータバンドDBとを有している(図6参照)。磁性層Mは、サーボ信号やデータを書き込む前の状態においては、交流消磁などにより、全体として磁気的に無配向な状態(磁化されていない状態)となっている。
【0024】
なお、本発明において、磁性層Mを構成する磁性体やバインダーの種類は、垂直磁気記録方式に適する限り特に限定されない。また、磁性層Mは、カーボンブラックや公知の研磨剤、潤滑剤などを含んでいてもよい。さらに、磁気テープMTは、公知の非磁性層やバックコート層などを有するものであってもよい。
【0025】
図1に戻り、磁気テープ搬送装置20は、サーボ信号を書き込む前の磁気テープMTを巻回した巻出しリール21と、サーボ信号を書き込んだ後の磁気テープMTを巻き取る巻取りリール22と、巻出しリール21から供給された磁気テープMTを巻取りリール22まで案内する複数のガイドローラ23およびテープガイド24とを主に備えて構成されている。巻出しリール21は、巻出しモータ21Aによって回転駆動し、巻取りリール22は、巻取りモータ22Aによって回転駆動するように構成されている。
【0026】
書込ヘッド30は、磁気テープMTにサーボ信号を書き込むための磁気ヘッドであり、サーボバンドSB(サーボ信号が書き込まれた後にサーボバンドSBとなる領域)(図6参照)の位置に対応してサーボ信号書込素子SWが配置されている。
【0027】
図2に示すように、サーボ信号書込素子SWは、走行方向に開いた磁気ギャップGを有する公知の素子である。このサーボ信号書込素子SWは、信号出力部51から単極性のパルス信号が出力されることで磁気ギャップGから漏れ磁束(破線参照)を生じ、磁性層Mに対し厚み方向において一方向に磁化した部分(後側成分M2)と一方向とは逆方向に磁化した部分(前側成分M1)とからなる磁気パターンMPを形成する。
【0028】
さらに述べると、サーボ信号書込素子SWでは、磁気ギャップGを形成するコア(符号省略)のエッジEL,ETのうち、走行方向上流側のリーディングエッジELで生じる磁場により磁性層Mを長手方向の一方向(図2の下方向)に磁化し、走行方向下流側のトレーリングエッジETで生じる磁場により磁性層Mを一方向とは逆方向(図2の上方向)に磁化している。言い換えると、磁気パターンMPを構成する成分M1,M2のうち、前側成分M1はトレーリングエッジETで生じる磁場によって書き込まれ、後側成分M2はリーディングエッジELで生じる磁場によって書き込まれる。
【0029】
サーボライタ1Aでは、書込ヘッド30に対し信号出力部51から適宜なタイミングでパルス信号が出力されることにより、走行する磁気テープMTに対して、磁気パターンMPを走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号(サーボパターンSP)が書き込まれる。本発明において、サーボパターンSPの形状は特に限定されないが、本明細書においては、一例として、非平行な1組のストライプ状(略ハ字状)のパターンを走行方向に所定間隔で繰り返す形状とする(図6参照)。
【0030】
読取ヘッド40は、サーボ信号を読み取るための磁気ヘッド(MRヘッド)であり、走行方向における書込ヘッド30の下流側に設けられている。この読取ヘッド40には、図3(a)に示すように、サーボバンドSB(図6参照)の位置に対応してサーボ信号読取素子SRが配置されている。サーボ信号読取素子SRは、MR素子であり、磁気テープMTの面から垂直方向(厚み方向)に出る磁束を検知する。
【0031】
図1に示すように、制御装置50は、サーボライタ1Aの動作を制御する装置であり、本発明に関連する機能部として、信号出力部51と、波形取得部52と、波形選択部53と、信号検査部54とを主に備えている。
【0032】
信号出力部51は、書込ヘッド30に磁気パターンMP(サーボ信号)を書き込むためのパルス信号(記録電流)を出力する。
【0033】
波形取得部52は、読取ヘッド40(サーボ信号読取素子SR)が読み取ったサーボ信号(アナログの電気信号)からサーボ信号の波形(以下、本明細書において「読取信号」という。)を取得する。なお、必要に応じて、デジタル信号に変換する処理などを実行してもよい。
【0034】
図3(b)に示すように、読取信号は、磁気パターンMPに対応した互いに逆極性(正および負)の一対のピークP1,P2を有する単位波形Wを繰り返す波形である。単位波形Wは、サーボ信号読取素子SRにより、先に読み取られた前側成分M1に対応する正のピークP1を含む山形の波形(山形部W1)と、後に読み取られた後側成分M2に対応する負のピークP2を含む谷形の波形(谷形部W2)とから構成されている。
【0035】
波形選択部53は、波形取得部52が取得した読取信号を構成する各単位波形Wから特定の波形部分を選択する。より詳細に、波形選択部53は、各単位波形Wから、書込ヘッド30(サーボ信号書込素子SW)でサーボ信号(磁気パターンMP)を書き込んだときの走行方向における後側の部分(後側成分M2)に対応するピークP2を含む谷形の波形(谷形部W2)を選択する。
【0036】
具体的に、本実施形態のサーボライタ1Aでは、後側成分M2に対応するピークP2が負側に現れるように規定されている(サーボ信号が書き込まれている)ので、予め設定された谷形の基準波形とマッチングさせてピークP2の位置を決定(検出)することで、各単位波形Wから谷形部W2を選択している。なお、後側成分M2は、前記したとおり、リーディングエッジELによって書き込まれている。
【0037】
本発明において、ピーク位置の検出とピーク(波形)の選択は、いずれを先に行ってもよい。すなわち、前記したように本実施形態では、パターンマッチングによりピークP2の位置の検出とピークP2(谷形部W2)の選択とを同時に行ったが、これに限定されず、単位波形の一対のピーク位置を検出した後、一方のピーク(波形)を選択してもよいし、これとは逆に、単位波形から一方のピークを含む波形を選択した後に、その選択した波形のピーク位置を検出(特定)してもよい。
【0038】
信号検査部54は、選択した波形(谷形部W2)に基づいてサーボ信号の品質を評価する。なお、本発明において、具体的な評価の手法は特に限定されず、広く公知の方法を採用することができる。詳細な説明は省略するが、例えば、信号検査部54は、ピークP2間の間隔から品質評価値としてのPES(Position Error Signal)を算出するように構成することができる。
【0039】
ここで、サーボライタ1Aにおける、書込ヘッド30でサーボ信号が書き込まれた磁気テープMTのサーボ信号の品質を評価する方法(サーボ信号検査方法)について、まとめて説明する。
【0040】
まず、読取ヘッド40が走行する磁気テープMTのサーボ信号を読み取って情報を波形取得部52に出力し、波形取得部52は、出力された情報に基づき、図3(b)に示す読取信号を取得する(波形取得工程)。
【0041】
次に、波形選択部53は、波形取得部52が取得した読取信号を構成する各単位波形Wから、谷形部W2を選択する(波形選択工程)。
【0042】
そして、信号検査部54は、波形選択部53が選択した谷形部W2に基づいて、例えば、PESの値を算出して出力する(信号検査工程)。
【0043】
本願発明者等は、リーディングエッジELで書き込まれた後側成分M2に対応する谷形部W2のピークP2間の間隔のばらつきが、トレーリングエッジETで書き込まれた前側成分M1に対応する山形部W1のピークP1間の間隔のばらつきよりも小さいことを見出した。
【0044】
すなわち、図4(a),(b)に示すように、例えば、書込時のパルス信号の通電時間が延びるなどして、磁気テープMTの走行方向にゆらぎが生じた場合、トレーリングエッジETで書き込まれた前側成分M1は走行方向に長くなることがある。そうすると、図4(c)に示すように、サーボ信号を読み取って得られる読取信号は、一部の単位波形(通電時間が延びたときに書き込まれた単位波形)の山形部W1のパルス幅が広がることになるので、山形部W1のピーク位置が走行方向にばらつき(不明瞭となり)、結果として、ピークP1間の間隔もばらつくこととなる。
【0045】
一方、リーディングエッジELで書き込まれた後側成分M2は、磁気テープMTの走行方向にゆらぎが生じても、下流側にあるトレーリングエッジETで厚み方向の逆方向に磁化されることで、いわば前側成分M1に書き換えられるので、後側成分M2が走行方向に長くなることはない。これにより、後側成分M2の走行方向における長さは略一定となり、サーボ信号を読み取って得られる読取信号の谷形部W2は、パルス幅の安定した波形となる。その結果、谷形部W2のピーク位置のばらつきは小さくなり、ピークP2間の間隔のばらつきは、ピークP1間の間隔のばらつきよりも小さくなる。言い換えると、ピークP2を含む波形(谷形部W2)は、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響が小さい。
【0046】
本実施形態においては、読取信号(各単位波形W)のうち、ピークP2を含む波形(谷形部W2)を選択して、サーボ信号の品質評価に用いているので、サーボ信号を書き込んだときの磁気テープMTの走行方向のゆらぎの影響を抑えて品質評価値を算出する(品質評価をする)ことが可能となっている。その結果、本実施形態のサーボライタ1Aおよびサーボ信号検査方法によれば、書き込まれたサーボ信号の品質の評価(検査)をより正確に行うことが可能となっている。
【0047】
なお、本実施形態では、サーボライタ1Aがサーボ信号の品質評価値を算出する(品質を評価する)ための構成を備えていたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明は、公知のサーボライタによってサーボ信号が書き込まれた磁気テープを検査する検査装置などに適用してもよい。この場合、検査装置を、例えば、後側のピークが負の信号出力となるようにサーボ信号が書き込まれた磁気テープ専用としておき、予め設定された谷形の基準波形とマッチングさせることで、波形を選択することができる。また、磁気テープの一部(サーボバンドなど)や、磁気テープカートリッジのICメモリなどに、一対の単位波形のうちどちらが後側のピークを含む波形かを識別するための識別子を予め書き込むなどしておき、この識別子(情報)を読み取ることで波形を選択することができる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、実施形態に係る磁気テープドライブの構成と磁気ヘッドのトラッキング制御方法について説明する。なお、本実施形態では、前記した第1実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付して、その詳細な説明を省略することとする。
【0049】
図5に示すように、磁気テープドライブ1Bは、磁気パターンMP(図2参照)を走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が予め書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープMTに対し、データの記録および再生を行う装置であり、ベース10上に、磁気テープ搬送装置20と、制御装置50と、磁気ヘッド60と、アクチュエータ70とを主に備えて構成されている。
【0050】
磁気テープ搬送装置20は、一対のリール21,22と、磁気テープMTを案内する複数のガイドローラ23とを主に備え、リール21はモータ21Aによって回転駆動し、リール22はモータ22Aによって回転駆動するように構成されている。本実施形態のリール21,22およびモータ21A,22Aは、正逆回転可能に構成されており、磁気テープMTを、リール21から供給してリール22で巻き取る方向(図5に矢印で示す方向)と、リール22から供給してリール21で巻き取る方向とに搬送可能となっている。
【0051】
磁気ヘッド60は、磁気テープMTの幅方向全体にわたって、磁気テープMT(磁性層M)に摺接する大きさに形成されている。図6に示すように、磁気ヘッド60の磁気テープMTと摺接(対面)する面には、第1素子の一例としてのデータ記録素子DWおよびデータ再生素子DRと、第2素子の一例としてのサーボ信号読取素子SRとが、データバンドDBやサーボバンドSBに位置に対応して配置されている。
【0052】
データ記録素子DWは、磁気テープMTのデータバンドDBに対してデータの記録を行う公知の素子であり、データ再生素子DRは、磁気テープMTのデータバンドDBに記録されたデータの再生(読み取り)を行う公知の素子である。
【0053】
サーボ信号読取素子SRは、サーボ信号を読み取る素子(MR素子)であり、サーボバンドSBの位置に対応して配置されている。
【0054】
アクチュエータ70は、磁気ヘッド60を磁気テープMTの幅方向(図6の上下方向(以下、単に「幅方向」という。))に移動させる装置であり、例えば、圧電素子などを用いることができる。
【0055】
制御装置50は、磁気テープドライブ1Bの動作を制御する装置であり、図5に示すように、本発明に関連する機能部として、波形取得部52と、波形選択部53と、位置制御部55とを主に備えている。
【0056】
波形取得部52は、サーボ信号読取素子SRが読み取ったサーボ信号(サーボパターンSP)から、図3(b)に示したような、読取信号を取得する。
波形選択部53は、波形取得部52が取得した読取信号を構成する各単位波形Wから、サーボ信号が書き込まれたときの走行方向における後側の部分(後側成分M2)に対応するピークP2を含む波形(谷形部W2)を選択する。
【0057】
位置制御部55は、選択した波形(谷形部W2)に基づいて磁気ヘッド60の幅方向の位置を制御する。なお、本発明において、具体的な磁気ヘッド60の位置制御の手法は特に限定されず、広く公知の方法を採用することができる。例えば、位置制御部55は、まず、図6に示す一対のパターンSP1の間隔(ピークP2の間隔)Xと、一対のパターンSP1の左側のパターンと次の一対のパターンSP2の左側のパターンの間隔(ピークP2の間隔)Yとの比を算出し、この比と予め設定された基準値から、磁気ヘッド60(サーボ信号読取素子SR)の幅方向におけるずれ量を演算する。そして、位置制御部55は、演算したずれ量に基づき、アクチュエータ70を駆動して磁気ヘッド60を幅方向に移動させることで、磁気ヘッド60の位置を修正(制御)する。
【0058】
最後に、磁気テープドライブ1Bにおける、サーボ信号が予め書き込まれた磁気テープMTに対する磁気ヘッド60のトラッキング制御方法について、まとめて説明する。
【0059】
まず、磁気ヘッド60(サーボ信号読取素子SR)が走行する磁気テープMTのサーボ信号を読み取って情報を波形取得部52に出力し、波形取得部52は、出力された情報に基づき、図3(b)に示す読取信号を取得する(波形取得工程)。
【0060】
次に、波形選択部53は、波形取得部52が取得した読取信号を構成する各単位波形Wから、谷形部W2を選択する(波形選択工程)。
【0061】
そして、位置制御部55は、波形選択部53が選択した谷形部W2に基づいて、磁気ヘッド60の幅方向に位置を制御する(位置制御工程)。これにより、記録時にはデータバンドDBに対して正確にデータ記録素子DWを位置させることができ、再生時にはデータバンドDBに対して正確にデータ再生素子DRを位置させることができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態においては、読取信号(各単位波形W)のうち、ピーク間の間隔のばらつきが小さいピークP2を含む波形(谷形部W2)を選択して、磁気ヘッド60の位置制御に用いているので、トラッキング制御に対する、サーボ信号が書き込まれたときの磁気テープMTの走行方向のゆらぎの影響を抑えることが可能となっている。その結果、本実施形態の磁気テープドライブ1Bおよび磁気ヘッド60のトラッキング制御方法によれば、磁気ヘッド60の位置を高精度かつ安定して制御することが可能となっている。
【0063】
なお、本実施形態では、磁気テープドライブ1Bは、磁気テープMTに対してデータの記録および再生を行うことができる構成であったが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、磁気テープドライブは、磁気テープに対してデータの記録のみを行う構成であってもよいし、磁気テープに対してデータの再生のみを行う構成であってもよい。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。具体的な構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0065】
前記実施形態では、磁気テープMT(磁性層M)が、サーボ信号を書き込む前の状態において、磁化されていない状態であったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、磁気テープは、サーボ信号を書き込む前の状態において、磁気テープの長手方向の一方向に磁化されていてもよい。
【0066】
前記実施形態では、磁気テープMTにサーボ信号書込素子SWで磁気パターンMPを書き込む際に、磁性層Mを、リーディングエッジELで生じる磁場により図2の下方向に磁化し、トレーリングエッジETで生じる磁場により図2の上方向に磁化した例を示したが、各エッジで磁化する向きは逆であってもよい。
【0067】
前記実施形態では、磁気パターンMPの前側成分M1に対応する波形が正(山形の波形)として現れ、後側成分M2に対応する波形が負(谷形の波形)として現れる読取信号を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、読取信号は、前側成分M1に対応する波形が負(谷形の波形)として現れ、後側成分M2に対応する波形が正(山形の波形)として現れるものであってもよい。この場合は、波形選択工程(波形選択部)において山形の波形が選択される。
【0068】
前記実施形態では、サーボ信号の評価(品質評価値の算出)や磁気ヘッド60の位置制御において、ピークP2の間隔を算出する例を示したが、「ピーク」は、波形の極大値または極小値に限定されるものではない。例えば、波形選択工程(波形選択部)で選択した谷形の波形(または山形の波形)のうち、予め定めた基準波形と最も相関が高いタイミングを検出してピークとしてもよい。
【実施例】
【0069】
次に、リーディングエッジELで書き込まれた後側成分M2に対応する谷形部W2のピークP2間の間隔のばらつきが、トレーリングエッジETで書き込まれた前側成分M1に対応する山形部W1のピークP1間の間隔のばらつきよりも小さいことを確認した実施例について説明する。
【0070】
(実験方法)
垂直磁気記録方式の磁気テープに対し、磁気ギャップ1μmの書込ヘッドを備えたサーボライタを用いて、LTO規格に準じたサーボパターンを書き込んだ。
書込時のパルス信号の通電時間 31ns,63ns,104ns,130ns
【0071】
サーボパターン書込後、書込ヘッドの下流側に設けられたベリファイヘッド(読取ヘッド)で、磁気パターンの最小間隔(5μm)となる位置を読み取り、得られた読取信号のピーク間隔を測定した。読取信号を構成する単位波形からのピークの検出は、100MHzで出力値をデジタル値としてサンプリングした後、変極点を算出し、その変極点の近傍点から2次曲線近似によりピーク位置を特定して行った。
【0072】
ピーク間隔の測定は、ピークP1間の間隔の測定と、ピークP2間の間隔の測定とをそれぞれについて行った。そして、測定した間隔と基準間隔(5μm)との差(測定した間隔の基準間隔からのずれ)の分布の標準偏差を算出し、これを書込時のパルス信号の通電時間ごとにプロットした。その結果が図7である。
【0073】
(結果)
図7から、○で示すピークP2間の間隔のばらつきは、●で示すピークP1間の間隔のばらつきよりも小さいことが確認できる。本実施例(実験)における書込時のパルス信号の通電時間の変更は、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎに相当するものであるが、間隔のばらつきが小さいピークP2(リーディングエッジELで書き込まれた後側成分M2)は、ゆらぎの影響が小さいといえる。したがって、サーボ信号の検査や磁気ヘッドのトラッキング制御に、ピークP2を含む波形を用いることで、サーボ信号書込時の磁気テープの走行方向のゆらぎの影響を抑えることができる。
【符号の説明】
【0074】
1A サーボライタ
1B 磁気テープドライブ
30 書込ヘッド
40 読取ヘッド
51 信号出力部
52 波形取得部
53 波形選択部
54 信号検査部
55 位置制御部
60 磁気ヘッド
DR データ再生素子
DW データ記録素子
M1 前側成分
M2 後側成分
MP 磁気パターン
MT 磁気テープ
P2 ピーク
SP サーボパターン
SR サーボ信号読取素子
W 単位波形
W2 谷形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が予め書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープに対する磁気ヘッドのトラッキング制御方法であって、
サーボ信号を読み取って、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得工程と、
取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号が書き込まれたときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択工程と、
選択した波形に基づいて前記磁気ヘッドの位置を制御する位置制御工程と、を有することを特徴とする磁気ヘッドのトラッキング制御方法。
【請求項2】
磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープのサーボ信号の品質を評価するサーボ信号検査方法であって、
サーボ信号を読み取って、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得工程と、
取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号を書き込んだときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択工程と、
選択した波形に基づいてサーボ信号の品質を評価する信号検査工程と、を有することを特徴とするサーボ信号検査方法。
【請求項3】
磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号が予め書き込まれた垂直磁気記録方式の磁気テープに対し、情報の記録および/または再生を行う磁気テープドライブであって、
磁気テープに対して情報の記録および/または再生を行う第1素子とサーボ信号を読み取る第2素子を有する磁気ヘッドと、
前記第2素子が読み取ったサーボ信号から、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得部と、
取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号が書き込まれたときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択部と、
選択した波形に基づいて前記磁気ヘッドの位置を制御する位置制御部と、を備えることを特徴とする磁気テープドライブ。
【請求項4】
磁気テープの厚み方向において一方向に磁化した部分と前記一方向とは逆方向に磁化した部分とからなる磁気パターンを磁気テープの走行方向に所定間隔で繰り返すサーボ信号を垂直磁気記録方式の磁気テープに書き込むサーボライタであって、
磁気テープにサーボ信号を書き込む書込ヘッドと、
前記書込ヘッドにパルス信号を出力する信号出力部と、
磁気テープの走行方向における前記書込ヘッドの下流側に設けられてサーボ信号を読み取る読取ヘッドと、
前記読取ヘッドが読み取ったサーボ信号から、前記磁気パターンに対応した互いに逆極性の一対のピークを有する単位波形を繰り返すサーボ信号の波形を取得する波形取得部と、
取得したサーボ信号の波形を構成する各単位波形から、サーボ信号を書き込んだときの磁気テープの走行方向における後側のピークを含む山形または谷形の波形を選択する波形選択部と、
選択した波形に基づいてサーボ信号の品質を評価する信号検査部と、を備えることを特徴とするサーボライタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−53941(P2012−53941A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194452(P2010−194452)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】