説明

磁気信号再生装置および磁気信号再生方法

【課題】セクタ単位やセクタ中のデータ単位でデータの信頼度を判定可能な、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法を提供する。
【解決手段】トラックTRの幅方向にずらして配置され、同一トラックの信号を同時に再生する2以上の再生素子REa、REbと、各再生信号を同期させて同一トラックのデータを各々に復元するデータ復元部と、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報La、Lbを各々に算出する信頼度情報算出部40a、40b、50と、を備える。これにより、所定長のビット列の信頼度情報を用いて、セクタ単位やセクタ中のデータ単位でデータの信頼度を判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁気信号再生装置では、トラックの中心に再生素子を配置するように位置決め制御されたヘッドを用いて、トラック上に記録されている信号が再生される。ここで、トラックの幅方向でヘッドの位置決め誤差が生じると、エッジノイズの影響や隣接トラックとの干渉が生じ、再生データの品質が低下してしまう。
【0003】
このため、一般に、位置決め誤差を吸収するために、再生幅(読取り幅)よりも広い記録幅(書込み幅)で、トラック上にデータが記録されている。また、素子寸法の誤差による位置決め誤差を吸収するために、素子寸法にトラック密度を適応させて再生装置を設計する手法が提案されている。また、隣接トラック間で生じる干渉を抑制するために、トラック間の境界に非磁性体を設けたディスクリートメディアが提案されている。
【0004】
また、下記特許文献1には、位置決め誤差の発生に伴う再生データの品質低下を抑制するための磁気ディスク装置が開示されている。この装置では、ヘッドに搭載した複数の再生素子で同一トラックの信号が同時に再生され、トラックから読出された誤り検出符号を用いて、データの誤りが判定される。そして、各再生系列で得られたデータのうち誤りのないデータが選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−143218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、通常、媒体の製造時にトラック密度が決定されているので、素子寸法にトラック密度を適応させて再生装置を設計することは困難となる。また、ディスクリートメディアでも、素子寸法の誤差やヘッド機構上の問題により位置決め誤差が生じると、エッジノイズの影響や隣接トラックとの干渉が生じる場合がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の装置では、誤り検出符号によりデータの誤りが判定されるので、誤り検出符号により判定可能な所定の記録単位でしか、データの信頼度を判定することができない。このため、所定の記録単位よりも小さなセクタ単位やセクタ中のデータ単位で位置決め誤差が変動しても、変動に追従して生じるデータの誤りを判定できないので、ヘッドの位置決め誤差に伴う再生データの品質低下を十分に抑制することができない。
【0008】
そこで、本発明は、セクタ単位やセクタ中のデータ単位でデータの信頼度を判定可能な、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある観点によれば、トラックの幅方向にずらして配置され、同一トラックの信号を同時に再生する2以上の再生素子と、各再生信号を同期させて同一トラックのデータを各々に復元するデータ復元部と、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報を各々に算出する信頼度情報算出部と、を備える磁気信号再生装置が提供される。
【0010】
かかる構成によれば、トラックの幅方向にずらして配置された2以上の再生素子で、同一トラックの信号が同時に再生され、各再生信号を同期させて同一トラックのデータが各々に復元され、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報が各々に算出される。これにより、所定長のビット列の信頼度情報を用いて、セクタ単位やセクタ中のデータ単位でデータの信頼度を判定することができる。
【0011】
上記各信頼度情報を比較し、各データのうち信頼度が高いデータを選択する選択部をさらに備えてもよい。
【0012】
上記各信頼度情報の比較結果を用いて、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従してデータの信頼度を比較してもよい。
【0013】
上記データ領域の走査中にサーボ制御情報として利用するために、ヘッドの位置決め誤差の推定値として各信頼度情報の差分を算出する減算部をさらに備えてもよい。
【0014】
上記ヘッドの位置決め誤差の推定値を用いて、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従してサーボ制御を行ってもよい。
【0015】
上記連続して算出される信頼度情報を平滑化し、信頼度情報の算出結果に対するノイズの影響を抑制するノイズ抑制部をさらに備えてもよい。
【0016】
N個の再生素子を搭載したヘッドをさらに備え、上記ヘッドは、トラックの幅をTW、各再生素子の再生幅をRWとした場合に、TW>RW>TW/Nの関係を満たすように構成されてもよい。
【0017】
また、本発明の別の観点によれば、トラックの幅方向にずらして配置された2以上の再生素子で、同一トラックの信号を同時に再生するステップと、各再生信号を同期させて同一トラックのデータを各々に復元するステップと、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報を各々に算出するステップと、を含む磁気信号再生方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、セクタ単位やセクタ中のデータ単位でデータの信頼度を判定可能な、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気信号再生装置のヘッドを従来のヘッドと対比して示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気信号再生装置の全体構成を示す図である。
【図3】離散化された再生信号のサンプル値列を示す図である。
【図4】図2に示した再生チャネルの部分詳細図である。
【図5A】従来の磁気信号再生方法における、記録幅と再生幅の相対位置の変動状況と再生信号の関係を示す図(1/2)である。
【図5B】従来の磁気信号再生方法における、記録幅と再生幅の相対位置の変動状況と再生信号の関係を示す図(2/2)である。
【図6】本発明の実施形態に係る磁気信号再生方法における、記録幅と再生幅の相対位置の変動状況と再生信号の関係を示す図である。
【図7】図2に示した再生チャネルとサーボ制御機構の部分詳細図である。
【図8】再生素子のオフセット状況を示す図である。
【図9】再生素子のオフセット率と信頼度情報の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
[1.磁気信号再生装置の構成]
まず、図1〜図3を参照しながら、本発明の実施形態に係る磁気信号再生装置について説明する。
【0022】
図1には、本発明の実施形態に係るヘッド10が従来のヘッド1と対比して示されている。図1に示すように、ヘッド1;10は、磁気シールドと電極からなる複合体2;12同士の間に配置された磁気抵抗(MR)素子等の再生素子RE;REa、REbを有する。ここで、再生素子RE;REa、REbは、記録素子による記録幅WW(書込み幅;トラック幅TWに相当)よりも小さな再生幅RW;RWa、RWb(読取り幅)を有する。なお、図1では、記録素子の表示が省略されている。
【0023】
従来のヘッド1では、一般に、再生素子REによりトラックTRに記録されている信号が再生される。一方、本発明の実施形態に係るヘッド10では、トラックTRの幅方向にずらして配置された2以上の再生素子REa、REb、…によりトラックTRに記録されている信号が同時に再生される。以下では、説明の便宜上、ヘッド10が2の再生素子REa、REbを搭載している場合について説明する。
【0024】
ヘッド10には、互いに信号干渉が生じない程度の距離LでトラックTRの長さ方向に離間して、絶縁層13を介した再生素子REa、REbが配置されている。各再生素子REa、REbは、一端が記録幅WWの縁と重なる程度に延在し、他端が記録幅WWの中心を超えるが、記録幅WWの縁との間に隙間Δ´を有するように配置される。ここで、N個の再生素子を搭載したヘッド10は、トラックTRの幅TW、各再生素子REa、REbの再生幅RWa、RWb(=RW)とした場合に、TW>RWa、RWb>TW/Nの関係を満たすように構成される。
【0025】
ここで、面記録密度1Tbpsiのディスクへの適用を想定すると、トラックピッチが50nm程度、記録幅WW40nm、再生幅RW30nm程度となる。そして、従来のヘッド1では、記録幅WWの中心にヘッド1の中央部(再生素子REの中央部に相当)を重ねた場合、再生素子REの片側での記録幅WWと再生幅RWの差Δが5nmとなり、3σ=5nm程度の位置決め誤差しか許容されないことになる。
【0026】
一方、本発明の実施形態に係るヘッド10では、再生素子REa、REbの再生幅RWa、RWbを30nm程度とすると、記録幅WWの中心にヘッド10の中央部(再生素子REa、REb間の中間点に相当)を重ねた場合、再生素子REa、REbの片側での記録幅WWと再生幅RWa、RWbの差Δ´が10nmとなり、3σ=10nm程度、つまり従来のヘッド1の2倍の位置決め誤差が許容されることになる。
【0027】
また、本発明の実施形態に係るヘッド10では、2以上の再生素子REa、REb、…の再生幅RWa、RWb、…が記録幅WW内に収まるように配置される。このため、再生幅RWa、RWb、…が記録幅WWを超えて配置される場合に比して、エッジノイズの影響や隣接トラックとの干渉を抑制することができる。
【0028】
図2には、本発明の実施形態に係る磁気信号再生装置の全体構成が示されている。図2に示すように、磁気信号再生装置は、図1に示した2の再生素子REa、REbを搭載したヘッド10、プリアンプ20、および再生チャネル30を含んで構成される。なお、図2では、本発明の実施形態に係る磁気信号再生方法に直接的に関係しない構成の表示が省略されている。
【0029】
ヘッド10では、同一トラックTRの信号が2の再生素子REa、REbにより各々に再生されてプリアンプ20に供給され、プリアンプ20では、再生信号が増幅器AMP21a、21bにより各々に増幅されて再生チャネル30に供給される。
【0030】
再生チャネル30では、再生信号が可変増幅器VGA31a、31bにより所定の値まで各々に増幅される。ここで、VGA31a、31bは、オートゲイン制御回路AGC32a、32bを伴うループ回路を構成しており、再生素子REa、REb間の感度差およびAMP21a、21b間の増幅率差がある場合でも、互いの出力振幅を所定の値に揃えることができる。ついで、再生信号に対して連続時間(CT)フィルタCTF33a、33bにより高域ノイズの抑制および信号特性の粗調整が各々に行われ、AD変換器ADC34a、34bにより各々に離散化され、有限インパルス応答(FIR)フィルタFIR35a、35bにより信号特性の微調整が各々に行われる。
【0031】
図3には、離散化された再生信号のサンプル値列が示されている。図3に示すように、再生素子REaの再生信号SSaと再生素子REbの再生信号SSbの間の遅延時間dは、再生素子REa、REb間の距離L(図1参照)と、ヘッド10に対するディスクの相対速度Vの比L/Vとして表されるが、データのビット周期Tの整数倍とはならない。
【0032】
しかし、ADC34a、34bでは、タイミングリカバリ回路TRC36a、36bにより所定のタイミングでサンプリングが行われるように、離散化クロックを用いてサンプリング位相が制御される。このため、遅延時間d=nT+φとみなすことができる。ここで、nがサンプル値の遅延ビット数であり、φが再生素子REa、REb間の位相差である。そして、遅延時間dは、TRC36a、36bの処理により吸収される。これにより、プリアンプ21および再生チャネル30での処理により、各再生素子REa、REbの再生信号を同期させて同一トラックTRのデータが各々に復元される。
【0033】
さらに、FIR35a、35bから供給される各データについて、各データに含まれる所定長のビット列(例えば数十ビット長のビット列)の信頼度情報La、Lbが検出器前段DTDF40a、40bにより各々に算出され、検出器後段DTDB50に供給される。ビット列の信頼度情報La、Lbは、式1に示すように、記録ビットが“1”である確率と“0”である確率の対数比、つまり対数尤度比(Log−Likelihood Ratio:LLR)として表される。
【0034】
【数1】

【0035】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る磁気信号再生方法によれば、各再生素子REa、REbの再生信号を同期させて同一トラックTRのデータが各々に復元され、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報La、Lbが各々に算出される。これにより、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従して、データの信頼度を判定することができる。
【0036】
[2.データ選択処理への適用]
つぎに、図4〜図6を参照しながら、前述した信頼度情報La、Lbをデータ選択処理に適用する場合について説明する。
【0037】
図4には、図2に示した再生チャネル30の部分的な詳細が示されている。なお、図4では、以下で説明するデータ選択処理に直接的に関係しない構成の表示が省略されている。
【0038】
図4に示すように、DTDF40a、40bでは、FIR35a、35bから供給されるデータが事後確率(APP)復号器APPDec41a、41bに各々に入力され、軟出力ビタビィアルゴリズム(SOVA)等を用いて、“0”および“1”の事後確率が算出される。ついで、事後確率の算出結果が低密度パリティ検査(LDPC)復号器LDPCDec42a、42bに各々に入力され、LDPC符号の規則性に関する信頼度情報La、Lbが算出される。これにより、DTDF40a、40bでは、所定長のビット列について、式1で表される信頼度情報La、Lbが算出される。
【0039】
なお、APPDec41a、41bが1以上設けられてもよい。また、LDPC符号の符号長が長く、位置誤差の影響を受けた信号が位置誤差の影響を受けていない信号の信頼度に悪影響を及ぼす可能性がある場合、LDPCDec42a、42bが省略されてもよい。一方、LDPC符号の符号長が短く、LDPC復号により信頼度の向上を図ることができる場合、LDPCDec42a、42bが1以上設けられてもよい。
【0040】
DTDB50では、信頼度情報La、Lbの絶対値|La|、|Lb|が算出され(51a、51b)、ゲインkを乗算され(52a、52b)、積算回路(53a、54a、53b、54b)を伴うループフィルタにより平滑化される。これにより、信頼度情報La、Lbの算出結果に対するノイズの影響を抑制することができる。つまり、ループフィルタがノイズ抑制部として機能する。ここで、ヘッド10の位置決め誤差は、ヘッド機構の揺らぎに起因して生じるので、ゲインkの調整により信頼度情報La、Lbの算出結果を揺らぎに追従させることができる。なお、ループフィルタによる平滑化に代えて、移動平均による平滑化が行われてもよい。
【0041】
ついで、平滑化された2の信頼度情報|La|、|Lb|が比較器CMP55に供給され、同一トラックTRの2のデータについてデータの信頼度が比較され、比較結果が選択器SEL56に供給される。SEL56では、同一トラックTRの2のデータとともに比較結果が供給され、比較結果に基づき相対的に高い信頼度情報|La|、|Lb|を伴うデータが選択される。そして、SEL56の後段に配された複数段のAPPDec57−1、57−2およびLDPCDec58−1、58−2により、選択されたデータの反復デコード処理が行われ、最終的に判定器59により“0”/“1”の判定が行われる。
【0042】
図5A、5Bには、従来の磁気信号再生方法における、記録幅WWと再生幅RWの相対位置の変動状況と再生信号の関係が示されている。図6には、本発明の実施形態に係る磁気信号再生方法における、記録幅WWと再生幅RWa、RWbの相対位置の変動状況と再生信号の関係が示されている。
【0043】
図5Aに示すように、位置決め誤差が生じていない場合、ヘッド1の走行方向で記録幅WWと再生幅RWの相対位置がトラックTRの幅方向に変動せず、再生幅RWが記録幅WWに重なっている。このため、再生信号には、振幅Aの低下やエッジノイズの影響が殆ど現れていない。
【0044】
また、図5Bに示すように、位置決め誤差が生じている場合、ヘッド1の走行方向で記録幅WWと再生幅RWの相対位置がトラックTRの幅方向に変動し、一部のセクタ(DS)で再生幅RWが記録幅WWに重なっていない。このため、再生信号には、振幅Aの低下やエッジノイズの影響が現れており、信号ノイズ比の低下に伴う検出データのエラーが生じてしまう。
【0045】
一方、図6に示すように、本発明の実施形態に係る磁気信号再生方法において位置決め誤差が生じている場合も、ヘッド10の走行方向で各再生素子REa、REbの記録幅WWと再生幅RWa、RWbの相対位置がトラックTRの幅方向に変動し、一部のセクタ(DS)で再生幅RWa、RWbが記録幅WWに重なっていない。このため、各再生素子REa、REbの再生信号には、振幅Aの低下やエッジノイズの影響が現れている。
【0046】
しかし、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報La、Lbを算出することで、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従して、データの信頼度を比較判定することができる。そして、高い信頼度情報を伴うデータを選択することで、信号ノイズ比の低下に伴う検出データのエラーを抑制することができる。
【0047】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る磁気信号再生方法をデータ選択処理に適用すれば、各再生素子REa、REbの再生信号を同期させて同一トラックTRのデータが各々に復元され、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報La、Lbが各々に算出される。これにより、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従して、高い信頼度情報La、Lbを伴うデータを選択することで、位置決め誤差に伴う再生データの品質低下を抑制することができる。
【0048】
特に、上記データ選択処理では、セクタ長に比して位置決め誤差の変動周期が短く、同一セクタ内で信頼度情報|La|、|Lb|の逆転が頻繁に生じる場合、顕著な効果が期待される。つまり、現在主流である512バイト長のセクタに比して、今後普及が見込まれる4Kバイト長のセクタでは、同一セクタ内で信頼度情報|La|、|Lb|の逆転がより頻繁に生じることが予想される。このような場合、セクタ単位で信頼度を判定しても再生データの品質低下を十分に抑制できないが、上記データ選択処理によれば、所定長のビット列単位で信頼度を判定するので、再生データの品質低下を十分に抑制することができる。
【0049】
[3.サーボ制御処理への適用]
つぎに、図7〜図9を参照しながら、前述した信頼度情報をサーボ制御処理に適用する場合について説明する。
【0050】
一般に、サーボ制御機構では、位置決め誤差信号(PES)がサーボロジック71に入力され、サーボロジック71の演算結果に基づき、サーボコントローラ72によりヘッド駆動モータVCM73が制御されている。なお、PESは、トラックTR上に設けられたサーボ領域(サーボセクタSS)から読出されたサーボデータに基づき生成される。このため、位置決め誤差の検出および制御は、サーボ領域でのみ行われることになる。
【0051】
図7には、図2に示した再生チャネル30およびサーボ制御機構の部分的な詳細が示されている。なお、図7では、以下で説明するサーボ制御処理に直接的に関係しない構成の表示が省略されている。
【0052】
図7に示すように、DTDB50では、信頼度情報La、Lbの絶対値|La|、|Lb|が算出され(51a、51b)、ゲインkを乗算され(52a、52b)、積算回路(53a、54a、53b、54b)を伴うループフィルタにより平滑化される。これにより、信頼度情報La、Lbの算出結果に対するノイズの影響を抑制することができる。ついで、平滑化された2の信頼度情報|La|、|Lb|の差分|La|−|Lb|が減算器60により算出されてサーボロジック71に入力される。
【0053】
サーボロジック71では、データ領域(データセクタDS)において、後述するように、減算器60から入力される信頼度情報の差分|La|−|Lb|を用いて、位置決め誤差の検出および制御が行われる。これにより、サーボ領域のみならずデータ領域でも、位置決め誤差を検出および制御することができる。
【0054】
図8には、再生素子REa、REbのオフセット(位置ずれ)状況が示されている。なお、オフセット率は、記録幅WWに対する比率として示されている。オフセット率−20%では、再生素子REaの一端が記録幅WWの縁と交差し、再生素子REbの中心が記録幅WWの中央部に位置している。同様に、オフセット率+20%では、再生素子REbの一端が記録幅WWの縁と交差し、再生素子REaの中心が記録幅WWの中央部に位置している。オフセット率0%では、再生素子REa、REbの一端が記録幅WWの縁に重なっている。ここで、一般に、記録素子のエッジ部での記録に起因して、記録幅WWの縁には、エッジノイズENが存在している。
【0055】
図9には、再生素子REa、REbのオフセット率と、平滑化された各再生素子REa、REbの信頼度情報|La|、|Lb|の関係が示されている。グラフG1に示すように、オフセット率−20%では、再生素子REbの中心が記録幅WWの中央部に位置し、エッジノイズENの影響が小さいので、再生素子REbの信頼度情報|Lb|が最大となる。同様に、オフセット率+20%では、再生素子REaの信頼度情報|La|が最大となる。オフセット率0%では、再生素子REa、REbともにエッジノイズENの影響を受けるので、信頼度情報|La|、|Lb|が幾分低下してしまう。
【0056】
オフセット率±20%の範囲では、再生素子REaの信頼度情報|La|は、オフセット率の増加とともに増加し、再生素子REbの信頼度情報|Lb|は、オフセット率の増加とともに減少する。そして、グラフG2に示すように、再生素子REa、REbの信頼度情報の差分|La|−|Lb|は、オフセット率の増加にほぼ比例して増加する。このため、信頼度情報の差分|La|−|Lb|からオフセット率の推定が可能となり、オフセット率の推定値を利用してヘッド10のサーボ制御を行うことができる。
【0057】
ここで、記録幅WWよりも再生幅RWa、RWbを小さくするほど、再生素子REa、REbのオフセット率を広い範囲で推定することができる。また、各再生素子REa、REbの中心が記録幅WWの中央部に位置する場合に算出される信頼度情報|La|、|Lb|を予め測定しておき、測定値に基づき規格化することで、再生素子REa、REb間の寸法差や感度差を吸収することができる。
【0058】
ここで、記録幅WWについては、オフセット率を変化させながらデータの誤り率を計測し、誤り率が最低となる位置を記録幅WWの中央部とみなしてもよい。または、オフセット率を変化させながら信頼度情報|La|、|Lb|を計測し、各信頼度が最高となる位置の中間位置を記録幅WWの中央部とみなしてもよい。
【0059】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る磁気信号再生方法をサーボ制御処理に適用すれば、各再生素子REa、REbの再生信号を同期させて同一トラックTRのデータが各々に復元され、各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報La、Lbが各々に算出される。これにより、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従して、オフセット率の推定値に基づきサーボ制御を行うことで、位置決め誤差に伴う再生データの品質低下を抑制することができる。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
例えば、上記説明では、本発明に係る磁気信号再生方法をディスク記録再生装置に適用する場合について説明した。しかし、本発明に係る磁気信号再生方法は、テープ記録再生装置、磁気記録再生装置と光記録再生装置の組合せに適用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1、10 ヘッド
20 プリアンプ
21a、21b 増幅器(AMP)
30 再生チャネル
31a、31b 可変増幅器(VGA)
32a、32b オートゲイン制御回路(AGC)
33a、33b 連続時間フィルタ(CTF)
34a、34b AD変換器(ADC)
35a、35b FIRフィルタ(FIR)
36a、36b タイミングリカバリ回路(TRC)
40a、40b 検出器前段(DTDF)
41a、41b、57−1、57−2 APP復号器(APPDec)
42a、42b、58−1、58−2 LDPC復号器(LDPCDec)
50 検出器後段(DTDB)
55 比較器(CMP)
59 選択器(SEL)
60 減算器
71 サーボロジック
72 サーボコントローラ
73 ヘッド駆動モータ(VCM)
RE、REa、REb 再生素子
La、Lb 信頼度情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラックの幅方向にずらして配置され、同一トラックの信号を同時に再生する2以上の再生素子と、
前記各再生信号を同期させて前記同一トラックのデータを各々に復元するデータ復元部と、
前記各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報を各々に算出する信頼度情報算出部と、
を備える磁気信号再生装置。
【請求項2】
前記各信頼度情報を比較し、前記各データのうち信頼度が高いデータを選択する選択部をさらに備える、請求項1に記載の磁気信号再生装置。
【請求項3】
前記各信頼度情報の比較結果を用いて、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従して前記データの信頼度を比較する、請求項2に記載の磁気信号再生装置。
【請求項4】
データ領域の走査中にサーボ制御情報として利用するために、前記ヘッドの位置決め誤差の推定値として前記各信頼度情報の差分を算出する減算部をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気信号再生装置。
【請求項5】
前記ヘッドの位置決め誤差の推定値を用いて、セクタ単位やセクタ中のデータ単位で変動する位置決め誤差に追従してサーボ制御を行う、請求項4に記載の磁気信号再生装置。
【請求項6】
連続して算出される前記信頼度情報を平滑化し、前記信頼度情報の算出結果に対するノイズの影響を抑制するノイズ抑制部をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気信号再生装置。
【請求項7】
N個の再生素子を搭載したヘッドをさらに備え、
前記ヘッドは、トラックの幅をTW、前記各再生素子の再生幅をRWとした場合に、TW>RW>TW/Nの関係を満たすように構成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気信号再生装置。
【請求項8】
トラックの幅方向にずらして配置された2以上の再生素子で、同一トラックの信号を同時に再生するステップと、
前記各再生信号を同期させて前記同一トラックのデータを各々に復元するステップと、
前記各データに含まれる所定長のビット列の信頼度情報を各々に算出するステップと、
を含む磁気信号再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−138562(P2011−138562A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295939(P2009−295939)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】