説明

磁気共鳴イメージング装置:Y式MR解析A法、Y式MR解析B法、Y式ガンマ補正画像、Y式ガンマ補正画像の反転像、Y式MRI解析、術後Y式MR解析A法、術前Y式MR解析A法、術前Y式MR解析B法、一部均一型、まだら型、術前Y式MR解析診断

【課題】MRI装置により生体を通常通り撮影すると、任意の領域に信号強度の類似する複数の組織像が混在する部位について、画像上、各々の組織を見分けることが難しいという点である。
【解決手段】
MRI装置により撮影された画像の任意の部分を切り取り、切取画像の輝度レベルの中央値と平均値を測定し、中央値を平均値で割算し、この値をaとし、aをモニターガンマで割算し、この値をbとし、切取画像を最明部分がハイライトになるように、最暗部位がダークネスになるように変換し、bをガンマ補正ダイアログに入力し、変換画像を作成し、白黒階調を反転し、グレースケールから、RGBカラーに変換し、色調補正バリエーションを選択し、中間色に対し、中レベル補正を順に、グリーン×1回、イエロー×2回、シアン×1回、ブルー×3回、レッド×5回、マゼンタ×2回により色調補正し、明るさを調節して、カラー補正された解析画像を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(MRI)装置で撮影される画像の特定の領域の画像を切り出し、切り出した画像を画像処理して診断用の画像を作成する。
【背景技術】
【0002】
MRIは公知のイメージング技術で、臨床的に病変部位の診断に応用されている。画像診断方法としては、超音波、レントゲン線による代替技術もあるが、超音波診断方法はガスに弱く、皮下脂肪の厚い体型では超音波の到達距離に限界があり、レントゲン線は被検対象部位のレントゲン吸収度を元に画像を作成しており、軟部組織の診断に対しては本質的に限界がある。
【0003】
MRIの出力画像は、NMR現象を利用して作成される。NMRは原子核が静磁場に置かれたときの、交番磁界の重畳に応答する物理現象を記述する用語である。磁場により原子核が励起される信号をとらえて、ラーモア周波数として知られる共鳴周波数が、原子核の置かれている静的磁場の強度により線形依存性を有することを利用して作成される空間的画像がMRIの出力画像である。
【0004】
従来のMRI装置で撮影される画像は、NMR励起パルスを入力信号とし、モニター上に線形出力された画像を、外部モニターないしフィルムなどに出力している。
【0005】
出力モニターには装置特有の特性があるため、入力信号レベルに対する出力信号レベルの調整を行い、安定した再現映像を作成する技術がある。これは、ガンマ補正と呼ばれ、モニターの出力特性に合わせて、同じ画像を出力するための技術として広く実用化している。
【0006】
MRI装置は、腫瘍・血管・ヘルニア・液体貯留などの診断に用いられている。
腫瘍の診断としては、腫瘍の存在診断、周辺臓器との位置関係の把握が可能である。T1強調画像(以下、T1WIと略す)は脂肪組織で高信号域を呈し、T2強調画像(以下、T2WIと略す)は水分で高信号域を呈する。肝血管腫であればT2WIにおいて、水と酸化ヘモグロビンは高信号なるため、血管腫の中で動脈血つまり酸化ヘモグロビンがとぐろをまいてなかなか出て行かないため、腫瘍自体がT2WIで高信号に描出される。とくに胸腺腫であれば、内部構造として、隔壁構造などの描出が見られることがある。
【0007】
胸腺腫は、白血球の一種であるリンパ球を分化・誘導する能力を持つ。本腫瘍は、腫瘍そのものである胸腺腫細胞と、種々の程度のリンパ球浸潤が混在している。内部に浸潤しているリンパ球には腫瘍性増殖能がない。ゆえに、本腫瘍において、真の腫瘍成分は、腫瘍性細胞である上皮性胸腺腫細胞である。
従来の報告では、胸腺腫の内部構造診断に関し、MRI検査結果が次のように報告されている。
藤本公則、他は、「胸腺腫のMRimaging CT、手術、病理所見との対比」(日本医学放射線学会雑誌52巻8号 Page1128-1138、1992年)において、MRIと組織学的所見を比較したところ、低信号の辺縁は腫瘍の線維性被膜に一致し、腫瘍内の線状及び/或いは網目状の低信号領域は胸腺腫を小葉に分割している線維性隔壁に一致したと報告した。また、MRIによるこれらの所見の描出はCTより優っていることを報告した。また、MRI及びCT所見と手術及び組織学的所見とを対比した場合、腫瘍の血管侵襲の検出能力について、MRIはCTと等しいのに対し、胸膜,或いは肺への侵襲の夫はMRIの方が少し優っていたと報告した。
遠藤正浩、他は、「胸腺腫のMRI診断に関する臨床的研究 病理所見との対比検討」(肺癌36巻1号 Page23-32、1996年)において、胸腺腫25例を対象とする検討において、(1)胸腺腫のMRI所見は病理所見を正確に反映し、MRI上の線状の隔壁構造は病理像では線維性隔壁に、結節像は腫瘍の分葉構造にそれぞれ対応し、胸腺腫に特徴的な所見であると考えられたたこと、(2)浸潤性胸腺腫は非浸潤性胸腺腫と比べて、MRI上辺縁は不整でやや大きく、頭尾方向へ進展する傾向が強く、結節像間の信号強度差を認める頻度が高く、鑑別に有用な所見と考えられたこと、特に結節像間の信号強度差が最も鑑別に有用な所見であったことを述べた。
本出願の出願人は、手術により摘出された胸腺腫のMRI検査を実施し、病理所見との対比を行い、MRIの撮影条件と、病理結果の対比を、平成13年(2001年) に第20回日本胸腺研究会(札幌)で発表した。その内容は、(1)摘出腫瘍の辺縁部位はT1強調画像(T1WI)で明瞭に描出される、(2)分葉、隔壁はT2強調画像(T2WI)で描出される、(3)出血はT1WIでは描出されにくく、T2WI低信号、プロトン強調画像でやや低信号で描出されることであった。
【0008】
従来のCTやMRI検査法においては、画像内の特定の領域の内部信号を円形に選択して画像情報を得ることができる。この選択領域を関心領域(ROI)と呼ぶ。CTであれば、選択部位のハンスフィールド値を測定して信号値を比較することで、当該領域のX線吸収度を測定可能で、MRIであれば信号強度の推移を測定できる。
たとえば、渡辺浩之、他は、「MRIによる脳神経活動の画像化 MR functional brain imaging」(脳と神経45巻10号 Page941-944、1993年)において、両視野の閃光刺激(PS)下にMRIを用いたT2強調MR画像を撮影し、大脳後頭葉視覚野における変化について検討し、鳥距溝を通る平面で、fast low-angle shot(FLASH)法にてT2強調画像を撮影し、両側後頭葉視覚野に設定した直径3.0cmの関心領域(ROI)内部の信号強度の推移を経時的に測定した結果を報告した。PS負荷後の差分画像で後頭葉視覚野の信号強度の上昇を認めた。同部に設定したROI内の信号強度がPSに推移して増減した。PSの結果、大脳後頭葉視覚野の神経細胞の興奮によって同部では血液量が増加するが、神経細胞での酸素-糖利用の不均衡が生じ、増加した血液(静脈血)中では酸化ヘモグロビンの量が増え、その結果,同部のT2信号値が延長し、T2強調画像を得ると神経活動の活発な部位が高信号領域として描出されたものと考えられたという。
従来の技術により、ある画像の特定領域をトレースし、選択することは画像ソフトを用いれば簡単に行える。MRI装置においては、ROIの設定作業を繰り返して選択領域の画像を再合成して立体構造を描出することが可能である。
ROIについては、一人の患者の病変部を、ROIの設定作業を繰り返すことで、ROI同士を比較することは行われている。しかし、腫瘍部位にROIを設定し、ROI設定値を元に、定量的に他の患者とMR信号強度を比較検討することは実施されていない。したがって、MRI画像における特定部位を、放射線科医の読影により診断する定性的診断は行われている者の、MRI画像における特定領域を任意の形状に切り抜き、切り抜いた部位のMR信号強度を比較検討することについても実施されていない。
【0009】
従来のMRI検査法では、本腫瘍内の腫瘍成分である上皮性腫瘍細胞と、非腫瘍成分であるリンパ球成分を診断する方法はない。その理由は、隣接臓器の肺内の空気含有に伴う気相のNMR信号強度や、心臓大血管の血液による液相のNMR信号強度に比べると、腫瘍成分と非腫瘍成分から構成される胸腺腫のNMR信号強度はどちらも細胞のNMR信号であるため、ほとんど変わらないためである。
【0010】
隣接臓器のNMR信号の影響を受けずに検討するためには、摘出された胸腺腫のMRI検査が必要である。従来の報告は以下の通りである。
摘出された胸腺腫のMRI検査結果について、本申請の出願人は、平成14年(2002年) 2月、第21回日本胸腺研究会において次のように報告した。(1)1992年から1996年までの前期はToshiba社製MRT200/FX(n=7)、1997年より2000年までの後期はPhilips社製Gyro Scanを用いてT1強調画像(T1WI)、T2強調画像(T2WI)、プロトン強調画像(PR)を撮影した(n=8)。(2)MRI出力画像を8ビットグレースケール(256段階)でスキャンした。(3)スキャンした画像を、PDFファイル化し、ヒストグラムダイアログで腫瘍の総ピクセル数をカウントし、ピクセルの輝度レベルの平均値(以下Avと略す)と、中央値、標準偏差を測定した。その結果、胸腺腫はT2WIにおいて特徴的な隔壁構造などを明瞭としていたが、グレースケールにおけるピクセル輝度に有意な差はなかった。T1WIではリンパ球成分が多いほど輝度レベルが高く、上皮細胞成分が増えるに従って輝度レベルが低下した。また、後期にくらべ前期のMRI装置の方が、T1WIの輝度レベルの差がより明瞭であった。
【0011】
すなわち、胸腺腫はT2WIにおいて分葉、隔壁といった内部構造が明瞭に描出できるが、T2WI画像における腫瘍そのもののピクセルの輝度レベルと腫瘍組織型との間にNMR信号強度の統計学的有意な差はないため、摘出腫瘍を、たとえT2WI条件で検査を実施しても胸腺腫の組織診断は困難であることがこの報告により示された。
【0012】
一方で、内部構造の描出には適さないT1WI条件での撮影は、非腫瘍成分が多いほど信号強度が高いことが発見されたものの、使用したMRI装置により輝度レベルの差があり、摘出腫瘍を、たとえT1WI条件で撮影しても、使用したMRI装置が異なれば診断ができないことがこの報告により示された。
【0013】
従来の技術では、胸腺腫の疑われる腫瘍が存在すると、組織学的診断のために、外科的摘除ないし針生検が実施される。ただし、本腫瘍は、肺、心臓大血管といった重要臓器に隣接し、たとえ針生検を実施する場合でも、重要臓器損傷の危険を伴う。ゆえに、頻回に実施可能な検査ではない。また、外科的治療単独では充分な治療効果がないときや、外科的治療ができない場合は、化学療法や放射線療法が実施されるが、血球細胞の分化速度は数日単位であるため、胸腺腫に含まれる非腫瘍成分であるリンパ球は、これらの治療の副作用を極めて受けやすい。一方で、腫瘍細胞である胸腺腫細胞は、分裂速度が年単位である。従来の技術による治療効果の判定は、胸部CT検査や胸部MRI検査による腫瘍径の測定により行われるが、化学療法や放射線療法の治療効果を腫瘍径で測定しても、治療によって腫瘍細胞成分に抗ガン剤療法や放射線療法が効果を発揮していたのか、単に副作用で非腫瘍細胞成分が減少して見かけ上小さくなっただけなのかが分かっていないのが問題である。そのうえ、いったん手術を行えば、胸腔内が強固に癒着し、元来、大血管が間近に存在して生検そのものが技術的に難しい状態であるのに更に侵襲的検査を行うことが技術的に難しくなり、いったん放射線療法を行えば、放射線照射部位は放射性炎症を来たし、いったん化学療法を行えば抵抗力や体力が低下して侵襲的検査に耐え難くなる。腫瘍を持っている患者自身から考えれば、腫瘍が増大したのでなく小さくなっているのに、危険の大きい生検検査を受けたくない。ゆえに治療効果判定検査は患者死亡時に剖検に協力が得られた場合に限られる。
【非特許文献1】「胸腺腫のMRimaging CT、手術、病理所見との対比」(日本医学放射線学会雑誌52巻8号 Page1128-1138、1992年)
【非特許文献2】「胸腺腫のMRI診断に関する臨床的研究 病理所見との対比検討」(肺癌36巻1号 Page23-32、1996年
【非特許文献3】平成13年(2001年) に第20回日本胸腺研究会(札幌)抄録
【非特許文献4】「MRIによる脳神経活動の画像化 MR functional brain imaging」(脳と神経45巻10号 Page941-944、1993年)
【非特許文献5】平成14年(2002年) 2月、第21回日本胸腺研究会抄録
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする問題点は、MRI装置により生体を通常通り撮影すると、任意の領域に信号強度の類似する複数の組織像が混在する部位については、画像上、各々の組織を見分けることが難しいという問題点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、次の手順により構成される。まず、MRI装置により撮影された被験者のNMR信号から構成されるグレースケールの線形出力の画像について、画像ソフトにより任意の部分のみ選択して切り取る。
【0016】
画像処理ソフトにより切り取られた画像(以下、切取画像とよぶ)の輝度レベルについてヒストグラム分布表示をする。
【0017】
切取画像のヒストグラム分布表示を行い、輝度レベルの中央値(m)と平均値(Av)を測定する(この技法をY式MR解析A法と呼ぶ)。
【0018】
Y式MR解析A法により測定された輝度レベルの中央値を平均値で割算し、いわゆるファイルガンマを測定し、この値をaとする(a=m/Av)。aをモニターガンマ(g)で割算し、この値をbとする(b=a/g)。
【0019】
切取画像をグレースケールで表示し、レベル補正ウィンドウを開く。レベル補正ウィンドウを利用して、切取画像の画素の最も明るい部分がハイライトになるように、かつ、切取画像の画素の最も暗い部位がダークネスになるように変換する。Y式MR解析A法により測定され、計算されたbをガンマ補正ダイアログに入力し、ガンマ変換する(この変換画像をY式ガンマ補正画像と呼ぶ)。
【0020】
Y式ガンマ補正画像の白黒階調を反転する。この画像を以下、Y式ガンマ補正画像の反転像と称する。
【0021】
Y式ガンマ補正画像の反転像を、グレースケールから、RGBカラーに変換する。こうしてできた画像を、カラー変換されたY式ガンマ補正画像の反転像と称する。
【0022】
カラー変換されたY式ガンマ補正画像の反転像に対して、色調補正のバリエーションを選択し、中間色に対して、中レベル補正を順に、グリーン×1回、イエロー×2回、シアン×1回、ブルー×3回、レッド×5回、マゼンタ×2回により色調補正する。最後に明るさを調節して、カラー補正された解析画像を作成する(この技法をY式MR解析B法とよぶ)。
【発明の効果】
【0023】
従来のMRI画像は、放射線読影医師の主観的技量により、任意の部位のNMR信号強度について、定性的に高信号域・低信号域と読影しているが、Y式MR解析A法を実施すれば、読影者の主観によらない定量的な評価が可能となる。生体内における当該部位のNMR信号強度と、生体から取り出した後の当該部位のMRI信号強度を定量的に比較できる。
【0024】
従来のMRI画像により、腫瘍の局在部位の診断は可能であるが、腫瘍の内部を構成する生きた細胞の組織像を視覚的に認識することは困難であった。しかし、たとえば胸腺腫症例に対して、MRI検査を実施し、MRI検査により撮影されたT2WIを利用してY式MR解析B法を実施すれば、腫瘍部位のリンパ球優位部位は赤紫に、上皮性腫瘍細胞成分は薄ピンク色に色分けることができる。一般に、病理診断に用いられるHematoxylin-Eosin染色においては、細胞の細胞質は薄ピンク色に、細胞の核は赤紫色に染色される。顕微鏡で観察すると、腫瘍上皮細胞に比べ細胞質の少ないリンパ球は赤紫色の占める部位が多く、リンパ球より細胞質の多い上皮性腫瘍細胞は薄ピンク色に観察される。ゆえに、Y式MR解析B法により作成される画像は、病理学的組織像のマクロ所見に類似しているため、切除をしなくても内部組織を推定することができる。
【0025】
摘出されていない手術前の胸腺腫症例に対して、T2WIについて、Y式MR解析B法を実施すると、腫瘍の周辺臓器へ浸潤の評価が可能となる。周辺臓器への浸潤は、腫瘍の上皮性腫瘍細胞成分であるので、浸潤のある部位は、薄ピンク色に表示され、リンパ球成分は赤紫から紫色に表示できるようになる。
【0026】
摘出されていない手術前の胸腺腫症例に対して、T2WIについて、Y式MR解析B法を実施し、薄ピンク色の部位が周辺臓器に接していると評価された場合は、浸潤を予測することができる。また、Y式MR解析B法において薄ピンク色の部位が周辺臓器に近く、術前から浸潤が疑われているのなら、外科医はあえて剥離困難な手術をして患者に不幸な結果を招く危険性を回避することができる。Y式MR解析B法において剥離が困難と予測されても、救命のために切除しなければならないなら、手術の麻酔管理を担う麻酔科は、Y式MR解析B法の情報を元に、あらかじめ輸血用血液を準備し、より安全な術中管理を果たすことができる。
【0027】
摘出されていない手術前の胸腺腫症例に対して、T1WIについて、Y式MR解析A法を実施すれば、定量的にT1WIを画像診断分類することが可能となり、T2WIについてY式MR解析B法を実施すれば、腫瘍内部の組織学的所見のマクロ像に類似する画像診断分類することが可能となる。Y式MR解析A法ならびにY式MR解析B法は、それぞれを偽陽性が生じるものの、両者を組み合わせにより、総合的診断体系の構築できる(この診断アルゴリズムをY式MRI解析と称す)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の最良の形態は、MRI装置の画像端末に画像処理ソフトを導入したうえで、まず、スピンエコー法で通常のMRI画像を撮影し、ついで出力モニターの撮影画像を検査者が観察して解析を加える目標部位を設定し、Y式MR解析A法、Y式MR解析B法を実施するシステムである。選択的には、MRI装置により撮影した画像を、フィルムに出力し、フィルムの画像を、画像処理ソフトの導入されたコンピュータに接続したフィルムスキャナーによりスキャンし、スキャン画像を検査者が観察して解析を加える目標部位を設定し画像処理するシステムである。
【実施例1】
【0029】
図1は、摘出後の腫瘍に対してMRI検査を実施し、撮影されたT1WIにおける腫瘍部位の256段階色のグレースケールにおいてY式MR解析A法を実施し(以下、術後Y式MR解析A法と略す)、腫瘍画像を構成している画素の輝度レベルの分布を測定した手順である。なお、以下に示す実施例は、すべてにおいて、研究目的の検査を行うことについて、患者の承諾をえたうえで実施した。
【0030】
【表1】

リンパ=リンパ球優位型胸腺腫、混合=混合型胸腺腫、上皮=上皮性腫瘍細胞優位型胸腺腫の略。
表1は、胸腺腫症例を対象として、術後Y式MR解析A法を実施し、その測定結果と、摘出標本の病理診断により確定した病理診断(以下、確定病理診断と略す)の結果を対比した一覧表、および一元配置分散分析による解析結果である。術後Y式MR解析A法における腫瘍画素輝度レベルの平均値は、病理学的にリンパ球優位型であったときは83.53(n=6)、混合型であったときは72.83(n=3)、上皮性腫瘍細胞優位型であったときは63.16(n=8)と、有意差はなかった (p=0.446)。この実施により、本出願者が以前行った研究報告が、誤りであったことが証明された。
【0031】
【表2】

【0032】
表2は、胸腺腫症例を対象として、術後Y式MR解析A法における腫瘍画素輝度レベルの平均値の測定結果を、撮影に使用したMRI装置により分類して、摘出病理診断結果と、一元配置分散分析により比較検討したものである。Toshiba社製MRT200/FXでは、リンパ球優位型94.78(n=2)、混合型72.83(n=3)、上皮性腫瘍細胞優位型80.11(n=2)と、有意差がなかった(p=0.875)。Philips社製Gyro Scanでは、リンパ球優位型85.00(n=3)、混合型は症例無し、上皮性腫瘍細胞優位型57.51(n=6)と、有意差をみとめた(p=0.031)。
【0033】
【表3】

【0034】
表3は、胸腺腫症例を対象として、手術前にMRI検査を実施して撮影されたT1WIにおける腫瘍部位のY式MR解析A法(以下、術前Y式MR解析A法と略す)の256段階色のグレースケールにおける測定結果腫瘍画素輝度レベルの平均値と、確定病理診断結果を一元配置分散分析により比較したものである。確定病理診断結果がリンパ球優位型であった場合の術前Y式MR解析A法による画素輝度レベルは平均58.83(n=5)、混合型は平均75.98(n=4)、上皮性腫瘍細胞優位型は平均85.01(n=8)であった。術前Y式MR解析A法の測定結果は、MRI撮影に使用したMRI装置の機種を問わずに有意差を示した(p=0.001)。
【0035】
【表4】

【0036】
表4は、胸腺腫を対象とした場合に、術前Y式MR解析A法における腫瘍の画素輝度レベルの平均値が、65未満(暗)をリンパ球優位型、65-80(中)を混合型、80以上(明)を上皮性腫瘍細胞優位型と判定し、術前Y式MR解析A法による術前診断を実施したときの、確定病理診断結果との対比を示したものである。
術前Y式MR解析A法による術前診断においてリンパ球優位型と判定した場合の正診率は100%(4/4)、術前Y式MR解析A法による術前診断において混合型と診断した場合の正診率は50%(3/6)、術前Y式MR解析A法による術前診断において上皮性腫瘍細胞優位型と診断した場合の正診率は86%(6/7)だった。術前Y式MR解析A法に基づく術前診断の正診率は全体として76.5%(13/17)だった。
【0037】
【表5】

【0038】
表5は、胸腺腫症例を対象として、術後Y式MR解析A法を実施し、撮影されたT1WIにおける腫瘍部位のY式MR解析A法の結果と、手術前にMRI検査を実施し撮影されたT1WIにおける腫瘍部位のY式MR解析A法の結果の一覧表と、重回帰分析による回帰統計量と、F検定結果、分散分析表、である。また、式1は、胸腺腫を対象として、摘出後の腫瘍に対してMRI検査を実施し、撮影されたT1WIにおける腫瘍部位のY式MR解析A法の結果をcとし、手術前にMRI検査を実施し撮影されたT1WIにおける腫瘍部位のY式MR解析A法の結果をdとしたときに、手術前の腫瘍部位のY式MR解析A法の結果を基に、摘出後の腫瘍のY式MR解析A法の結果を推計する計算式である。
cとdに相関関係がないことが証明された(p=0.425)。
【0039】
図2は、胸腺腫症例を対象として、まず、手術前にMRI検査を実施し、MRI検査により描出された腫瘍画像をサンプルとしてY式MR解析B法を実施した技法(以下、術前Y式MR解析B法と略す)の第一段階を示したものである。グレースケールで撮影されたT2WI画像に占める腫瘍部位を、医師が読影し、腫瘍部位を診断した。腫瘍部位を、画像処理ソフトの「なげなわツール」を用いて選択し、選択された部位をコピーした。ファイルを新規作成し、背景色を透明と設定した状態で、コピーしておいた腫瘍画像を貼り付けた。Y式MR解析A法として、ヒストグラムウィンドウを立ち上げて、画素の輝度レベルの平均値、中央値を測定した。画素の輝度レベルの中央値を平均値で割り算し、腫瘤画像のファイルガンマを算出した。腫瘤画像のファイルガンマをモニターガンマで割算し、ガンマ補正ダイアログに入力すべき数値を算出した。
図3は、術前Y式MR解析B法の第二段階を示したものである。まず、レベル補正ウィンドウを起動した。レベル補正ウィンドウに表示されるヒストグラムグラフは、たとえ同じ腫瘍の画像であっても、ヒストグラムウィンドウのグラフと若干異なっていた。レベル補正ウィンドウにおいて、ハイライトとダークネスをそれぞれ調節し、画像の最も明るい部分がハイライトに、画像の最も暗い部分がダークネスになるように調節した。提示例では、元の腫瘍画像における最も明るい部位が108、最も暗い部位が16であった。第一段階で算出されたガンマ補正ダイアログに入力すべき数値を、ガンマ補正ダイアログに入力し、Y式ガンマ補正画像を作成した。
図4は、術前Y式MR解析B法の第三段階を示したものである。まず、第二段階で作成されたY式ガンマ補正画像を反転した。反転画像をグレースケールからRGBカラーモードに変更した。色調補正ツールからバリエーションウィンドウを表示し、中間色の色調補正を加え、腫瘍画像におけるリンパ球部位が赤紫色になり、上皮性腫瘍成分が淡ピンク色となるように明るさを調節した。
図5は、術前Y式MR解析B法により作成された画像である。術前Y式MR解析B法により作成された画像は、薄ピンク色の画素が融合して一部で均一に広がっていたタイプか、薄ピンク色の画素が内部に丸く散在していたタイプのいずれかであった。
図6は、薄ピンク色の画素が融合していた画像を、一部均一型partly uniform typeと名付け、薄ピンク色の画素が内部に丸く散在していた画像をまだら型speckled typeと名付けて分類したものである。一部均一型(n=7)は、全例上皮性腫瘍細胞優位型と診断された。まだら型(n=10)は、リンパ球優位型5例、混合型4例、上皮性腫瘍細胞優位型1例だった。
【0040】
【表6】

【0041】
表6は、胸腺腫症例を対象として実施した術前Y式MR解析B法の画像において、一部均一型と診断したものを上皮性腫瘍細胞優位型と判定し、まだら型をリンパ球優位型と判定したときの、病理組織学的診断結果との対比である。一部均一型の正診率は100%(7/7)、まだら型の正診率は50%(5/10)だった。この診断基準であれば、手術前の胸腺腫症例のT2WIに対する術前Y式MR解析B法の正診率は71%(12/17)だった。
【0042】
図7は、胸腺腫症例を対象として実施した、術前Y式MR解析A法ならびに術前Y式MR解析B法を組み合わせた、術前診断アルゴリズムである。
この術前診断アルゴリズムにおいては、まず、術前Y式MR解析B法にて、視覚的に腫瘍をまだら型と一部均一型に分類し、つづいて、術前Y式MR解析A法にて、65未満を暗(リンパ球優位型)、65-80を中(混合型)、80以上を明(上皮性腫瘍細胞優位型)とし、まだら型で暗をリンパ球優位型、まだら型で中を混合型、まだら型で明を上皮性腫瘍細胞優位型と診断した。また、一部均一型で中および明を上皮性腫瘍細胞優位型と診断した。診断アルゴリズムを術前Y式MR解析診断と以下称す。
術前Y式MR解析診断にてリンパ球優位型と判定されたもの(n=4)は、確定病理診断の結果もリンパ球優位型で正診率は100%(4/4)だった。
術前Y式MR解析診断にて混合型と判定されたもの(n=4)は、確定病理診断の結果、3例が混合型、1例がリンパ球優位型で正診率は75%(4/4)だった。
術前Y式MR解析診断にて上皮性腫瘍細胞優位型と判定されたものは、まだら型において明と判定された2例のうち、1例が混合型であった他は、全て上皮性腫瘍細胞優位型であった。正診率は89%(8/9)だった。
術前Y式MR解析診断の正診率は88.2%(15/17)だった。
【0043】
図8は、胸腺腫を対象とした術前Y式MR診断結果と、病理学的に確定した上皮性腫瘍細胞に対するWHO分類の診断結果である。術前Y式MR診断においてリンパ球優位型のときは、100%がWHO分類B1型、混合型のときは50%がWHO分類AB型、上皮性腫瘍細胞優位型のときは78%がB2以上の悪性度を呈し、術前Y式MR診断結果は、腫瘍細胞の悪性度の推定に役立つと考えられた。以上のように、本発明の利点は自明である。
[式1] c=94.64−0.32×d
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】Y式MR解析A法。摘出された腫瘤をMR装置の磁気コイル内へ留置した。緩和時間(TR)540msec、エコー時間(TE)17msecの条件において、スピンエコー法で撮影し、T1強調画像(T1WI)をMRI装置のモニター上に表示した。T1WIにおける腫瘤成分の映像信号のみを切り抜いて、画素の輝度レベルについて、ヒストグラムダイアログボックスを用いて測定した。
【図2】Y式MR解析B法の第1課程。Y式MR解析A法により測定した腫瘍画素の輝度レベルの平均値と中央値をもとにファイルガンマを算出し、ファイルガンマとモニターガンマから、ガンマ補正ダイアログにおける補正値を算出した課程を示した。
【図3】Y式MR解析B法の第2課程。ガンマ補正ダイアログボックスに補正値を入力してY式ガンマ補正画像を作成し、Y式ガンマ補正画像の反転像を作成した過程を示した。
【図4】Y式MR解析B法の第3課程。Y式ガンマ補正画像の反転像を、画像処理ソフトの色調補正「バリエーション」を用いて着色し、Y式MR解析B法の解析処理した画像を完成させた。
【図5】胸腺腫を対象とした術前Y式MR解析B法の解析画像。
【図6】胸腺腫を対象とした術前Y式MR解析B法の解析画像の分類。視覚的に、一部均一型とまだら型に分類された。
【図7】胸腺腫を対象とした術前Y式MR診断と確定病理診断の結果。術前Y式MR解析B法の結果を基に、術前Y式MR解析A法と組み合わせ、リンパ球優位型、混合型、上皮性腫瘍細胞優位型の3型に分類した。*=1例はリンパ球優位型であった。#=1例は混合型であった。
【図8】胸腺腫を対象とした術前Y式MR診断と上皮性腫瘍細胞に対するWHO分類の結果。術前Y式MR診断と上皮性腫瘍細胞のWHO分類の推定に有用だった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴(以下、MRと略す)装置の出力画像において、任意の領域を選択し、選択領域の画素の輝度レベルの平均値・中央値・標準偏差を測定し、選択領域の測定値を元に、選択領域の画素を構成する信号レベルの中央値を平均値に補正して補正画像を作成し、作成画像をカラー変換して、着色画像を作成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−136587(P2006−136587A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329957(P2004−329957)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(304054644)
【Fターム(参考)】