磁気共鳴イメージング装置
【課題】EPI撮影において、ストリークアーチファクトや画像歪みの無い安定した画像を得る。
【解決手段】位相エンコード傾斜パルスを印加せず、最短TE撮像で計測した前計測エコーを、近傍スライス間にて合成した後、奇数エコーと偶数エコーに分離する。奇数エコー間の前計測データに対し、エコートレイン方向の位相変化を滑らかに接続するために、位相変化を求めるための基準エコーから指定したエコー数分を対象に、周波数方向の位相変化を直線でフィッティングを行なう(242)。このフィッティング結果を用いて、エコートレイン方向に位相変化を累積していき、その結果を補正後の奇数エコーとする(243)。奇数エコーと偶数エコー間の差分についても、同様の周波数方向フィッティングおよびエコートレイン方向の位相累積を行ない、補正後の奇数エコー間のデータの位相を加算し、これを補正後の偶数エコーとする。これらの補正後の奇数エコー、偶数エコーを用いて、本計測データのkx方向のピーク位置を中心に移動させる(220)。
【解決手段】位相エンコード傾斜パルスを印加せず、最短TE撮像で計測した前計測エコーを、近傍スライス間にて合成した後、奇数エコーと偶数エコーに分離する。奇数エコー間の前計測データに対し、エコートレイン方向の位相変化を滑らかに接続するために、位相変化を求めるための基準エコーから指定したエコー数分を対象に、周波数方向の位相変化を直線でフィッティングを行なう(242)。このフィッティング結果を用いて、エコートレイン方向に位相変化を累積していき、その結果を補正後の奇数エコーとする(243)。奇数エコーと偶数エコー間の差分についても、同様の周波数方向フィッティングおよびエコートレイン方向の位相累積を行ない、補正後の奇数エコー間のデータの位相を加算し、これを補正後の偶数エコーとする。これらの補正後の奇数エコー、偶数エコーを用いて、本計測データのkx方向のピーク位置を中心に移動させる(220)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を映像化する磁気共鳴イメージング(MRI)装置に関し、特にマルチエコーパルスシーケンスを用いた撮像において、エコー信号の局所的な位相変化により生じるストリークアーチファクトを効果的に抑制することを可能としたMRI装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置による撮像手法として、1回或いは数回のRF照射で1枚の画像再構成に必要なエコー信号を取得するシングルショット或いはマルチショットのエコープレナーイメージング(EPI)法などのマルチエコー撮像法がある。マルチエコー撮像では、周波数エンコード傾斜磁場を反転しながら時系列的に複数のエコー信号を取得するので、計測空間(k空間)では、偶数番目に取得したエコー(以下、偶数エコーという)と奇数番目に取得したエコー(以下、奇数エコーという)とは、周波数方向の向きが逆向きに配置される。通常、各エコーをサンプリングして時系列データとする場合、サンプリング時間はその中央とエコーのピークとが一致するように決められているが、静磁場の局所的な不均一や傾斜磁場の不完全性等があると、サンプリング時間の中央とエコーのピークが不一致となる。その場合、偶数エコーと奇数エコーではエコーのピークが計測空間における周波数エンコード0の軸(ky軸)を中心として反対側の位置となる。
【0003】
このような偶数エコーと奇数エコーのピークずれは、N/2アーチファクトと呼ばれるアーチファクトの原因となる。
【0004】
偶数エコーと奇数エコーのピークずれは、本来、ky軸を中心として対称に現れるはずであるが、計測空間における位相エンコード方向に位相変化が発生する場合、即ち、エコートレイン(1回の励起内で連続して計測される複数のエコー)内で傾斜磁場の渦電流などにより位相差が異なる場合がある。また、位相エンコード方向のオフセットが最適に調整されていない場合、補正用エコー信号を一次元フーリエ変換した補正用データの位相にノイズ的な変化が混入することがある。このような補正用データを用いて補正した画像には、ストリークアーチファクトが生じる。さらに補正用データの位相に2次的な変化が混入しているために、補正後の画像に歪みが生じる場合もある。
【0005】
このような位相エンコード方向の位相変化や2次的に混入する位相ノイズも含めてN/2アーチファクト補正を行なうための手法が提案されている(特許文献1)。この方法では、本計測エコーに対応する数の前計測エコーを得て、時間的に隣接する前計測エコーについてそれぞれ位相変化(位相差)を算出し、本計測エコーの位相エンコード方向の位相変化を反映した補正用位相マップを作成する。この際、位相差の精度を高めるために、位相差の平均化を行う。
【0006】
このような補正用位相マップを用いて本計測エコーを補正することにより、N/2アーチファクトを高精度で除去することができる。
【特許文献1】特開2001−112735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された手法を用いることにより、位相エンコード方向の位相誤差を含むN/2アーチファクトについても高精度で除去可能になったが、この方法では、時間的に隣接する前計測エコー間すなわち奇数エコーと偶数エコーとの間の位相差を求めているが、奇数エコー間または偶数エコー間の位相差の変化は考慮されていない。そのため、位相エンコード方向のオフセットが時間的に変動する場合の位相変化によって発生する画像歪みに関しては、精度良い補正を行なうことができない。
【0008】
また補正用データに2次的に混入する位相ノイズについては平均化処理を行っているが、周波数エンコード方向の位置の信号強度が低くなる場合には、その位置の位相情報を十分に得られていないため、精度のよい位相ノイズ除去ができないことになる。このため奇数エコーと偶数エコー間の位相差の変化を補正する場合においても、十分にピーク位置ずれを補正することができない。このような前計測データを使用して、そのままエコーピーク位置の補正を行なうと、その周波数位置においてストリークアーチファクトが発生する。
【0009】
そこで本発明は、位相エンコード方向のオフセットに時間変動がある場合にも精度よくN/2アーチファクトを抑制すること、また補正用データの中に周波数エンコード方向の特定の位置の信号強度が低いエコー信号が混在した場合にも、高精度にストリークアーチファクトを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のMRI装置は、位相エンコード傾斜パルスを印加せず計測した前計測データを用いて本計測エコーを補正するに際し、前計測エコーを奇数番目に取得したエコー(奇数エコー)と、偶数番目に取得したエコー(偶数エコー)に分離し、奇数エコー間、偶数エコー間および奇数エコーと偶数エコー間の位相差分について、周波数方向の位相変化を直線でフィッティングし、フィッティング結果を用いてエコートレイン方向に位相変化を累積し、エコートレイン方向の位相変化を滑らかに接続する。こうして補正された前計測データを用いて、本計測エコーから対応する前計測データの位相を減算することにより、本計測エコーのkx方向のピーク位置を中心に移動させる。
【0011】
即ち本発明のMRI装置は、静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記静磁場発生手段が発生する静磁場中に置かれた被検体に高周波パルスを照射する高周波パルス照射手段と、周波数方向および位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加する傾斜磁場印加手段と、前記被検体から発生するエコー信号を検出する受信手段と、前記エコー信号を処理し、画像を作成する信号処理手段と、1回の高周波パルス照射後に複数の傾斜磁場パルスを印加して複数のエコー信号を取得するマルチエコーパルスシーケンスを備え、前記マルチエコーパルスシーケンスに従い高周波パルス照射手段、傾斜磁場印加手段、受信手段および信号処理手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、画像取得のための本計測と、位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加しない以外は前記本計測と同じパルスシーケンスを用いた前計測とを行ない、前記信号処理手段は、前記前計測で取得した複数のエコーからなる前計測データを用いて前記本計測で取得した本計測エコーを補正する補正手段を備え、前記補正手段は、前記前計測データを奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーに分離し、奇数番目に取得したエコー間、偶数番目に取得したエコー間および奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーの間のそれぞれについて位相差分を算出し、前記位相差分を周波数方向にフィッティングした後、エコートレイン方向に累積して、前記前計測データを補正する前計測データ補正手段を備え、補正後の前計測データを用いて、前記本計測エコーを補正することを特徴とする。
【0012】
本発明のMRI装置において、好適には、前計測データの取得は、高周波パルス照射後からエコー取得までの時間を最短に設定した最短TE撮像条件で行なう、複数のスライスのうち近傍のスライスで得られた前計測エコーを合成するなどにより、前計測データの信号強度を高める。また補正手段は、信号値が予め設定した閾値以上のエコーのみを用いて周波数方向フィッティングを行ない、その後の位相累積の精度を高める。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMRI装置によれば、前計測データに対し、奇数エコーと偶数エコーに分けて、周波数方向のフィッティングとエコートレイン方向の位相累積を行なうことにより、前計測データに含まれる位相誤差が補正結果に与える影響を排除し、アーチファクトを高精度に低減した画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明のMRI装置の好ましい実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用するMRI装置の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、静磁場発生系11、傾斜磁場発生系12、送信系13、受信系14、シーケンサ15、再構成演算部(信号処理系)16、制御系17および表示部(ディスプレイ)18を備え、また図示しない操作部を備えている。
【0015】
静磁場発生系11は、永久磁石・常電導磁石または超電導磁石のいずれかからなり、被検体10が置かれる空間に均一な静磁場を発生させる。静磁場の方向は、通常、被検体10の体軸方向または被検体10の体軸と直交する方向である。
【0016】
傾斜磁場発生系12は、X、Y、Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル121と、これらの各々のコイルを磁化させる傾斜磁場電源122とからなり、シーケンサ15からの命令に従って傾斜磁場電源122の各々のコイルを磁化させることによりX、Y、Zの3軸方向の傾斜磁場Gs、Gp、Gfを被検体10に印加する。この傾斜磁場の加え方により、被検体10の撮影断面が設定される。
【0017】
送信系13は、高周波発振器131、変調器132、高周波増幅器133及び高周波照射コイル134とからなり、傾斜磁場発生系12で設定された被検体10の断面を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせるために、高周波発振器131から出力されたRFパルスを高周波増幅器133で増幅した後に、被検体10に近接して設置された高周波照射コイル134に供給して被検体10に照射する。
【0018】
受信系14は、高周波受信コイル141、受信回路142及びアナログ/ディジタル(以下「A/D」という)変換器143からなり、送信系13の高周波照射コイル134から照射された電磁波による被検体10の原子核の核磁気共鳴によるNMR信号であるエコー信号を、被検体10に近接して配置された高周波受信コイル141で検出し、受信回路142を介してA/D変換器143に入力し、ディジタル信号に変換して、さらにシーケンサ15からの命令によるタイミングでサンプリングされたデータ(以下「サンプリングデータ」という)として、再構成演算部16に送る。
【0019】
制御系17は、シーケンサ15に指令を送り、シーケンサに設定された所定のパルスシーケンスに従い、上述した傾斜磁場発生系12、送信系13および受信系14を制御するとともに、再構成演算部16の動作を制御する。
再構成演算部16は、サンプリングデータにフーリエ変換などの各種演算を行なうとともに、後述する位相変化や補正用データの算出、補正用データを用いた補正などを行なう。再構成演算部16で再構成された画像は、表示部(ディスプレイ)18に表示される。
【0020】
次に上記構成におけるMRI装置の動作を説明する。図2に、動作の手順を示す。
【0021】
本実施の形態のMRI装置は、画像化するエコー信号を計測する本計測(ステップ210)として、マルチエコー撮像によるパルスシーケンスを実行し、本計測によって得られたエコー信号(本計測エコー)20を、本計測とは別に実行された前計測(ステップ230)によって得られたエコー信号(前計測エコー)30を用いて補正し(ステップ220)、画像化する(ステップ225)。本計測エコー20の補正は、本計測エコー20および前計測エコー30をそれぞれ周波数方向にフーリエ変換(ステップ215、235)し、x−kyデータとし、差分することにより行なう。
【0022】
前計測エコー30を補正用データとして補正に供するに際し、奇数エコー31と偶数エコー32に分けて、それぞれの差分(位相差分)を周波数方向フィッティングし、エコートレイン方向に位相累積する(ステップ240、250)ことにより、前計測エコーに2次的に混入する位相ノイズを除去するとともに時間変動を含む位相変化を反映した補正用データを得る。なお補正用データを取得するための計測を「前計測」と称しているが、前計測を実行するタイミングは本計測の前後いずれであってもよい。
【0023】
以下、図2に示す各ステップの詳細を説明する。
<ステップ210、230>
本計測(ステップ210)及び前計測(ステップ230)では、シングルショット又はマルチショットEPIシーケンスにより、1回の励起で複数のエコー信号を計測する。図3及び図4に、本計測および前計測で用いられるパルスシーケンスの一例を示す。これらパルスシーケンスは公知のGrE系EPIシーケンスであり、簡単に説明する。
【0024】
まず検知する磁化を含む被検体にRFパルス301を照射すると同時にスライスを選択する傾斜磁場パルス302を印加し、画像化するスライスを選択する。次いで周波数エンコード傾斜磁場のオフセットを与えるパルス304を印加した後、連続して反転する周波数エンコード傾斜磁場パルス306を印加し、反転する周波数エンコード傾斜磁場306の各周期内でエコー信号120、130が時系列的に発生するので、これを時間範囲307の間おのおのサンプリングし時系列データを得る。反転する周波数エンコード傾斜磁場306の強度、印加タイミング、時間範囲307は、本計測シーケンスと前計測と同じである。しかし、図3に示す本計測シーケンスでは、各エコー信号120に位相エンコードするための傾斜磁場パルス303、305が印加されるのに対し、図4に示す前計測シーケンスでは、位相エンコードは用いない。
【0025】
シングルショットシーケンスの場合には、図示する繰り返し単位308を1回で、マルチショットシーケンスであれば、繰り返し単位308を複数回繰り返して、それぞれk空間全体を埋めるデータを取得する。1回の繰り返し単位で取得する複数のエコーをエコートレインと言い、奇数番目に取得されるエコーを奇数エコー、偶数番目に取得されるエコーを偶数エコーという。
【0026】
通常、このような計測をスライス傾斜磁場302を異ならせて行い、複数のスライスのデータを取得する。スライス数は特に限定されるものではないが、本実施の形態では、少なくとも前計測において、複数のスライスのデータを取得することが望ましい。複数のスライスのデータを利用することにより、より精度の高い補正用データを作成することができる。
【0027】
また前計測は、RFパルス301から信号強度が最大となるエコー信号(最大エコーという)を計測までの時間(T)が最短となるようにエコー時間を設定する。最大エコーは、SE系EPIシーケンスの場合TE(エコー時間)に発生するエコーであり、GE系EPIシーケンスの場合は第1エコーである。一般にEPIシーケンスでは、図5に示すように、RFパルス照射後に時間が経過するほどT2またはT2*減衰により信号強度が低下するが、最大エコーが得られるまでの時間(501)を最短にすることにより、通常のTE設定時間(502)で計測した場合に得られるエコー504に比べて、最短のTEに設定した前計測では、高い信号強度でエコー503を取得することができる。
【0028】
<周波数方向フーリエ変換ステップ215、235>
本計測および前計測で得られたエコー信号20、30をそれぞれ周波数方向にフーリエ変換し、x−kyデータとする。これは、計測空間におけるエコー信号のピークのずれは、フーリエ変換後の空間(x−ky空間)での位相変化に対応するので、位相補正によってデータを補正するためである。
【0029】
ここで、本計測エコーに含まれる誤差について、図6〜図8を参照して説明する。
既に述べたように、本計測エコーには、エコーのピーク位置がサンプリング時間307の中心と一致しない場合、k空間において奇数エコーのピーク位置と、偶数エコーのピーク位置がk空間中央に対し、それぞれ逆方向にずれる。この様子を図6に示す。図6(a)に示すk空間600において、中央点線が周波数エンコード0の軸610であり、上から順に奇数エコー、偶数エコーが配置されている。奇数エコーのピーク621、622・・・は軸610に対し右側にずれ、偶数エコーのピーク631、632・・・は軸610に対し左側にずれている。このような本計測エコーをそのまま画像再構成した場合には、図6(b)に示すようなN/2アーチファクトとなる。
【0030】
また、位相エンコード方向のオフセットに誤差がある場合、図7(a)に示すように、エコー番号が大きくなるほど(すなわちエコートレインが進むほど)エコーのピークの軸610からのずれが大きくなる。これは図7(b)に示すように、周波数エンコード傾斜磁場パルス(点線)701に位相エンコード方向のオフセット誤差702が存在する場合、エコーのピーク位置は正方向と負方向でオフセット誤差に相当する分703だけそれぞれ逆にずれるためである。すなわち、正負の周波数エンコード量に偏りが生じ、その結果、エコートレインが進むほどにキャンセルできない周波数エンコード量が蓄積されていくため、計測空間中央からピークが離れていく。
【0031】
上述の周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差と、位相エンコード方向のオフセット誤差が組み合わさると、図8(a)に示すように、エコートレイン間でピーク位置が変化するため、x−ky空間では同じ周波数位置でも、エコートレインの位置によって位相が乱れたものになり、そのまま画像再構成を行なうと、図8(b)に示すように、画像歪みやN/2アーチファクトが発生する。
【0032】
上述した本計測エコーに含まれる誤差は、補正ステップで本計測データのピーク位置を中心に移動させることにより補正される。
【0033】
<補正ステップ>
補正は、(1)本計測データの周波数方向のピーク位置は、前計測データのピーク位置と等しい位置に現われること、および(2)計測空間におけるエコー信号のピークずれは、フーリエ変換後の空間(x−ky空間)での位相変化に対応することを利用し、x−ky空間において本計測データから前計測データの位相を減算することにより行なう(図2:ステップ220)。
【0034】
しかし、前計測データの周波数位置の信号強度が低く、位相乱れが発生している場合、そのデータを使用して補正を行なうと、その周波数位置においてN/2アーチファクトが発生してしまう。そこで、本実施の形態では、x−ky補正処理(ステップ220)を行なう前に、前計測データの周波数位置における位相乱れを補正する(ステップ236、240、250)。
【0035】
<<信号合成ステップ236>>
本ステップでは、前計測データの信号強度を高めるために、周波数方向にフーリエ変換した後の前計測エコー信号30について、近傍スライスの信号を合成する。これは近傍スライス間で撮像対象の物性による位相変化が少ないことを利用したものである。
【0036】
合成するスライス数(合成枚数)は、特に限定されないが、例えば5枚程度とする。全スライスの1枚目や最終枚目など、近傍するスライスが合成枚数に対し不足する場合は、不足分をそのままにして合成処理を行なう。図9に合成枚数が5枚の場合について、信号合成に用いるスライスの組み合わせを示す。図示するように、合成対象のスライスが1枚目の場合、1枚目〜3枚目を用い、合成対象のスライスが最終枚目(図では8枚目)の場合、6枚目〜8枚目を用いて合成を行う。
【0037】
ただし各スライス間ではRFパルスとスライス選択磁場による位相差があり、そのまま近傍スライス間で合成することはできないため、近傍マルチスライス間で位相差を除去した後、信号の合成を行なう。具体的には、合成対象となるスライスの基準エコーと、それに合成される各スライスの基準エコーとで位相差分し、その結果を各スライスの全エコーに位相差分する。基準エコーとしては信号値が最大であるエコーが用いられる。最短TEの計測条件にて撮像したスライスzの前計測データをS(x,B,z)としたとき、式(1)および(2)の計算を行なうことにより、マルチスライス合成後の前計測データS'(x,ky,z)を算出する(ステップ236)。
【0038】
【数1】
式中、SDif(x,B,z,i)は合成対象のスライスzと近傍の各スライスi間の基準エコーB(B番目のエコー)における位相差、nは合成するスライス枚数である。合成後の信号値については、合成枚数nで信号値を割ることにより、近傍の各スライスとの信号値との間で整合を取る。
【0039】
こうして、近傍スライス合成した後の前計測データを、奇数エコー31と偶数エコー32に分離し、それぞれについて以下説明する周波数フィッティング及びエコートレイン方向位相累積を行う。
【0040】
<<ステップ241〜243>>
ステップ241〜243の処理は、前計測データについて周波数位置での位相乱れを補正するために行なわれる。これらの処理は奇数エコー間、偶数エコー間についてそれぞれ行なわれる。ただし奇数エコー間と偶数エコー間の各々で補正を行なった場合、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差(本来のN/2アーチファクトの原因)は補正されずに残ってしまうことになるので、奇数エコーと偶数エコーのいずれか一方(図示する例では偶数エコー32)について、他方(奇数エコー31)と位相差分し(ステップ251)、差分データ33に対し同様の処理を行う。以下、奇数エコーの場合を例にしてステップ241〜243の詳細を説明する。
【0041】
ステップ241〜243では、奇数エコー間の位相差分データについて、周波数方向の位相変化を直線でフィッティングし(ステップ242)、さらにフィッティング結果を用いて位相変化をエコートレイン方向に累積する(ステップ243)。また周波数方向フィッティングに先立ち、それに用いるエコーに対し閾値処理を行なう(ステップ241)。周波数方向フィッティングのステップ242は、次のエコートレイン方向の位相累積(ステップ243)において、周波数位置における位相乱れがエコートレイン方向への位相累積の基準となる基準エコーに発生する場合に位相累積の補正精度が低くなるため、位相累積に先立って行なう必要がある。
【0042】
周波数方向のフィッティング(ステップ242)は、奇数エコー間または偶数エコー間の位相変化に対して周波数方向の位相変化を滑らかにするためのものである。このうち、基準エコーBから所定数(m個)のエコー分のデータを用いて、最小二乗法により直線フィッティングする。この際、信号強度が低い信号を周波数方向フィッティングに用いないようにするため、最大信号強度から設定した比率以下の信号を除外する(ステップ241)。除外のための閾値Thは次式(3)により設定する。
【数2】
式中、フィッティング対象のエコーにおける最大信号強度をMaxSig、閾値設定のパラメータをThRatioとする。
【0043】
奇数エコー間または偶数エコー間の位相差分を取った場合、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差はキャンセルされるので、位相エンコード方向のオフセット誤差のみが残り、その位相変化は周波数方向に直線となる。図10に、エコー信号のピークの計測空間中央からのずれと位相変化との関係を示す。図示するように、エコー信号711のピークが計測空間の中央710にあるときには、エコーを一次元フーリエ変換した空間での位相の変化は、直線721で示すように0であるが、エコー信号712のピークが中央710からずれたときには(ずれ量703)、このエコー信号を一次元フーリエ変換した空間では、位相は一次関数的に直線722で示すように変化する。ステップ242の周波数方向フィッティングでは、奇数エコー間の位相差分をこの直線722にフィッティングして位相変化の傾きと切片を計算する。具体的には、前述したように、基準エコーBから複数エコー分(m個)のデータを用いて、最小2乗法を使用する。具体的な計算方法は次式(4)のようになる。
【0044】
【数3】
式(4)中、DifOは奇数エコー間における位相変化、a、bは最小2乗法により求めた傾きと切片の平均(m個の平均)である。
【0045】
次いで、上記式(4)で求めた傾きと切片を平均化したものを、エコトレイン方向すなわち位相エンコード方向に累積し、エコートレイン方向における周波数位置の位相乱れを補正する。図11に位相累積の様子を示す。図11は、前計測エコー(奇数エコーおよび偶数エコー)の計測空間におけるピーク位置を示しており、図11(a)に示すように、前計測エコーには位相乱れ1101によりピーク位置がずれているエコーが存在する。位相累積ステップ243では、周波数フィッティングステップ242で信号強度の大きいエコーの位相を使用して算出した位相変化(DifO)を用いて、エコートレイン方向に位相を累積していき(1102、1103)、信号強度の小さいエコーの位相情報を補完する。これにより位相乱れ1101が補正される。具体的な計算方法は次式(5)のようになる。
【0046】
【数4】
式(5)のP’(x,2×i+1)は、位相累積後の(2×i+1)番目の前計測エコーの位相変化であり、奇数エコーおよび偶数エコーをまとめて表現したものである。
【0047】
このように奇数エコー間の前計測データに対してステップ241からステップ243までの処理を行なうことにより、周波数位置での位相乱れを補正することができる。
【0048】
偶数エコー間の前計測データについては、前述したように、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分後のデータに対して、ステップ241からステップ243までの処理を同様に行なうことで、周波数位置での位相乱れの補正と同時に、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差が補正される。
【0049】
<<ステップ252>>
補正ステップの最後において、ステップ241〜243で補正された偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データに対し、ステップ241〜243で補正された奇数エコー間の位相変化を加える(ステップ252)。具体的には次式(6)、(7)の計算を行なう。
【数5】
式(6)中、DifOEは偶数エコーと奇数エコーとの間における位相変化、O(x,Bo)およびE(x,Be)はそれぞれ奇数エコーにおける基準エコーの位相、偶数エコーにおける基準エコーの位相であり、[O(x,Bo)-E(x,Be)]は、基準エコーに対する位相差分結果を表す。c、dは周波数方向フィッティングによって求めた係数と切片であり、奇数エコーの位相差分に対するフィッティング結果と偶数エコーの位相差分に対するフィッティング結果とを加算したものと同等である。また式(7)におけるP'(x,ky)は位相累積後の前計測データの位相変化である。
【0050】
これにより、ステップ241からステップ243までの処理を偶数エコー間に行なったことと同等になるため、これを前計測データの偶数エコーとする。
【0051】
このように前計測データの補正処理240、250で補正した前計測データを使用し、本計測エコー20の位相を補正する(ステップ220)。図12に示すように、本計測データ(a)から前計測データ(b)の位相を減算することにより、計測空間全体として、各エコーのピークの中心が揃うことになる(c)。最後に、補正後の本計測データ(c)を位相方向にフーリエ変換して画像再構成を行う(ステップ225)。以上の処理により作成した画像40ではN/2アーチファクトが大幅に低減される。
【0052】
本実施の形態によれば、前計測データに対し周波数方向フィッティングを行なうことにより、前計測データに含まれる位相乱れに起因するストリークアーチファクトを大幅に低減することができる。特に前計測データの取得を最短TE撮像とする、近傍スライス間で信号合成を行なう等の信号強度を高める処理を加えることによって、上記ストリークアーチファクトをなくすことができる。
【0053】
本実施の形態による効果を、ファントムを用いた撮像で確認した結果を図13及び図14に示す。図13はストリークアーチファクトが抑制された画像例、図14は歪みが抑制された画像例である。図中、(a)は補正をしない場合、(b)はステップ220のx−ky補正のみを行なった場合、(c)は本実施の形態による補正を行なった場合をそれぞれ示す。
【0054】
図13について(a)と(b)を比較すると、補正無しの画像で発生していたN/2アーチファクトはx−ky補正により大幅に低減していることがわかるが、(b)の画像ではストリークアーチファクトがまだ残っている。(c)の画像では、本実施の形態の処理を行なうことによって、完全にアーチファクトがなくなったことがわかる。
図14についても、x−ky補正のみでは補正されないアーチファクトが大幅に低減していることがわかる。
【0055】
以上、本発明の実施形態を説明した。この実施形態では、奇数エコー間データ、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データのそれぞれに対してフィッティング、位相累積を行ない、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データに奇数エコー間データの位相を加算して、補正後の偶数エコーとしているが、偶数エコー間のデータ、奇数エコーと偶数エコー間の位相差分データのそれぞれに対してフィッティング、位相累積を行ない、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データに偶数エコー間データの位相を加算して、補正後の奇数エコーとしてもよい。またシーケンスについてもマルチショットのみならず、ワンショット型のシーケンスや、3D計測等に本発明の処理を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明を適用するMRI装置の全体構成を示すブロック図
【図2】MRI装置の動作の一実施形態を示すフロー図
【図3】本計測で用いられるパルスシーケンスの一例を示す図
【図4】前計測で用いられるパルスシーケンスの一例を示す図
【図5】前計測における最短TE撮像条件を説明する図
【図6】N/2アーチファクトを説明する図
【図7】位相エンコード方向のオフセット誤差を説明する図
【図8】周波数エンコード傾斜磁場パルスとサンプリング時間とのずれ及び位相エンコード方向のオフセット誤差が組み合わさったときのアーチファクトを説明する図
【図9】信号合成ステップを説明する図
【図10】周波数方向の位相変化のフィッティングを説明する図
【図11】エコートレイン方向の位相累積を説明する図
【図12】前計測データを用いた本計測データの補正を説明する図
【図13】本発明の実施の形態を適用した画像例を示す図
【図14】本発明の実施の形態を適用した画像例を示す図
【符号の説明】
【0057】
11・・・静磁場発生系、12・・・傾斜磁場発生系、13・・・送信系、14・・・受信系、15・・・シーケンサ、16・・・再構成演算部(信号処理系)、17・・・制御系、18・・・表示部(ディスプレイ)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を映像化する磁気共鳴イメージング(MRI)装置に関し、特にマルチエコーパルスシーケンスを用いた撮像において、エコー信号の局所的な位相変化により生じるストリークアーチファクトを効果的に抑制することを可能としたMRI装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置による撮像手法として、1回或いは数回のRF照射で1枚の画像再構成に必要なエコー信号を取得するシングルショット或いはマルチショットのエコープレナーイメージング(EPI)法などのマルチエコー撮像法がある。マルチエコー撮像では、周波数エンコード傾斜磁場を反転しながら時系列的に複数のエコー信号を取得するので、計測空間(k空間)では、偶数番目に取得したエコー(以下、偶数エコーという)と奇数番目に取得したエコー(以下、奇数エコーという)とは、周波数方向の向きが逆向きに配置される。通常、各エコーをサンプリングして時系列データとする場合、サンプリング時間はその中央とエコーのピークとが一致するように決められているが、静磁場の局所的な不均一や傾斜磁場の不完全性等があると、サンプリング時間の中央とエコーのピークが不一致となる。その場合、偶数エコーと奇数エコーではエコーのピークが計測空間における周波数エンコード0の軸(ky軸)を中心として反対側の位置となる。
【0003】
このような偶数エコーと奇数エコーのピークずれは、N/2アーチファクトと呼ばれるアーチファクトの原因となる。
【0004】
偶数エコーと奇数エコーのピークずれは、本来、ky軸を中心として対称に現れるはずであるが、計測空間における位相エンコード方向に位相変化が発生する場合、即ち、エコートレイン(1回の励起内で連続して計測される複数のエコー)内で傾斜磁場の渦電流などにより位相差が異なる場合がある。また、位相エンコード方向のオフセットが最適に調整されていない場合、補正用エコー信号を一次元フーリエ変換した補正用データの位相にノイズ的な変化が混入することがある。このような補正用データを用いて補正した画像には、ストリークアーチファクトが生じる。さらに補正用データの位相に2次的な変化が混入しているために、補正後の画像に歪みが生じる場合もある。
【0005】
このような位相エンコード方向の位相変化や2次的に混入する位相ノイズも含めてN/2アーチファクト補正を行なうための手法が提案されている(特許文献1)。この方法では、本計測エコーに対応する数の前計測エコーを得て、時間的に隣接する前計測エコーについてそれぞれ位相変化(位相差)を算出し、本計測エコーの位相エンコード方向の位相変化を反映した補正用位相マップを作成する。この際、位相差の精度を高めるために、位相差の平均化を行う。
【0006】
このような補正用位相マップを用いて本計測エコーを補正することにより、N/2アーチファクトを高精度で除去することができる。
【特許文献1】特開2001−112735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された手法を用いることにより、位相エンコード方向の位相誤差を含むN/2アーチファクトについても高精度で除去可能になったが、この方法では、時間的に隣接する前計測エコー間すなわち奇数エコーと偶数エコーとの間の位相差を求めているが、奇数エコー間または偶数エコー間の位相差の変化は考慮されていない。そのため、位相エンコード方向のオフセットが時間的に変動する場合の位相変化によって発生する画像歪みに関しては、精度良い補正を行なうことができない。
【0008】
また補正用データに2次的に混入する位相ノイズについては平均化処理を行っているが、周波数エンコード方向の位置の信号強度が低くなる場合には、その位置の位相情報を十分に得られていないため、精度のよい位相ノイズ除去ができないことになる。このため奇数エコーと偶数エコー間の位相差の変化を補正する場合においても、十分にピーク位置ずれを補正することができない。このような前計測データを使用して、そのままエコーピーク位置の補正を行なうと、その周波数位置においてストリークアーチファクトが発生する。
【0009】
そこで本発明は、位相エンコード方向のオフセットに時間変動がある場合にも精度よくN/2アーチファクトを抑制すること、また補正用データの中に周波数エンコード方向の特定の位置の信号強度が低いエコー信号が混在した場合にも、高精度にストリークアーチファクトを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のMRI装置は、位相エンコード傾斜パルスを印加せず計測した前計測データを用いて本計測エコーを補正するに際し、前計測エコーを奇数番目に取得したエコー(奇数エコー)と、偶数番目に取得したエコー(偶数エコー)に分離し、奇数エコー間、偶数エコー間および奇数エコーと偶数エコー間の位相差分について、周波数方向の位相変化を直線でフィッティングし、フィッティング結果を用いてエコートレイン方向に位相変化を累積し、エコートレイン方向の位相変化を滑らかに接続する。こうして補正された前計測データを用いて、本計測エコーから対応する前計測データの位相を減算することにより、本計測エコーのkx方向のピーク位置を中心に移動させる。
【0011】
即ち本発明のMRI装置は、静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記静磁場発生手段が発生する静磁場中に置かれた被検体に高周波パルスを照射する高周波パルス照射手段と、周波数方向および位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加する傾斜磁場印加手段と、前記被検体から発生するエコー信号を検出する受信手段と、前記エコー信号を処理し、画像を作成する信号処理手段と、1回の高周波パルス照射後に複数の傾斜磁場パルスを印加して複数のエコー信号を取得するマルチエコーパルスシーケンスを備え、前記マルチエコーパルスシーケンスに従い高周波パルス照射手段、傾斜磁場印加手段、受信手段および信号処理手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、画像取得のための本計測と、位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加しない以外は前記本計測と同じパルスシーケンスを用いた前計測とを行ない、前記信号処理手段は、前記前計測で取得した複数のエコーからなる前計測データを用いて前記本計測で取得した本計測エコーを補正する補正手段を備え、前記補正手段は、前記前計測データを奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーに分離し、奇数番目に取得したエコー間、偶数番目に取得したエコー間および奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーの間のそれぞれについて位相差分を算出し、前記位相差分を周波数方向にフィッティングした後、エコートレイン方向に累積して、前記前計測データを補正する前計測データ補正手段を備え、補正後の前計測データを用いて、前記本計測エコーを補正することを特徴とする。
【0012】
本発明のMRI装置において、好適には、前計測データの取得は、高周波パルス照射後からエコー取得までの時間を最短に設定した最短TE撮像条件で行なう、複数のスライスのうち近傍のスライスで得られた前計測エコーを合成するなどにより、前計測データの信号強度を高める。また補正手段は、信号値が予め設定した閾値以上のエコーのみを用いて周波数方向フィッティングを行ない、その後の位相累積の精度を高める。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMRI装置によれば、前計測データに対し、奇数エコーと偶数エコーに分けて、周波数方向のフィッティングとエコートレイン方向の位相累積を行なうことにより、前計測データに含まれる位相誤差が補正結果に与える影響を排除し、アーチファクトを高精度に低減した画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明のMRI装置の好ましい実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用するMRI装置の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、静磁場発生系11、傾斜磁場発生系12、送信系13、受信系14、シーケンサ15、再構成演算部(信号処理系)16、制御系17および表示部(ディスプレイ)18を備え、また図示しない操作部を備えている。
【0015】
静磁場発生系11は、永久磁石・常電導磁石または超電導磁石のいずれかからなり、被検体10が置かれる空間に均一な静磁場を発生させる。静磁場の方向は、通常、被検体10の体軸方向または被検体10の体軸と直交する方向である。
【0016】
傾斜磁場発生系12は、X、Y、Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル121と、これらの各々のコイルを磁化させる傾斜磁場電源122とからなり、シーケンサ15からの命令に従って傾斜磁場電源122の各々のコイルを磁化させることによりX、Y、Zの3軸方向の傾斜磁場Gs、Gp、Gfを被検体10に印加する。この傾斜磁場の加え方により、被検体10の撮影断面が設定される。
【0017】
送信系13は、高周波発振器131、変調器132、高周波増幅器133及び高周波照射コイル134とからなり、傾斜磁場発生系12で設定された被検体10の断面を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせるために、高周波発振器131から出力されたRFパルスを高周波増幅器133で増幅した後に、被検体10に近接して設置された高周波照射コイル134に供給して被検体10に照射する。
【0018】
受信系14は、高周波受信コイル141、受信回路142及びアナログ/ディジタル(以下「A/D」という)変換器143からなり、送信系13の高周波照射コイル134から照射された電磁波による被検体10の原子核の核磁気共鳴によるNMR信号であるエコー信号を、被検体10に近接して配置された高周波受信コイル141で検出し、受信回路142を介してA/D変換器143に入力し、ディジタル信号に変換して、さらにシーケンサ15からの命令によるタイミングでサンプリングされたデータ(以下「サンプリングデータ」という)として、再構成演算部16に送る。
【0019】
制御系17は、シーケンサ15に指令を送り、シーケンサに設定された所定のパルスシーケンスに従い、上述した傾斜磁場発生系12、送信系13および受信系14を制御するとともに、再構成演算部16の動作を制御する。
再構成演算部16は、サンプリングデータにフーリエ変換などの各種演算を行なうとともに、後述する位相変化や補正用データの算出、補正用データを用いた補正などを行なう。再構成演算部16で再構成された画像は、表示部(ディスプレイ)18に表示される。
【0020】
次に上記構成におけるMRI装置の動作を説明する。図2に、動作の手順を示す。
【0021】
本実施の形態のMRI装置は、画像化するエコー信号を計測する本計測(ステップ210)として、マルチエコー撮像によるパルスシーケンスを実行し、本計測によって得られたエコー信号(本計測エコー)20を、本計測とは別に実行された前計測(ステップ230)によって得られたエコー信号(前計測エコー)30を用いて補正し(ステップ220)、画像化する(ステップ225)。本計測エコー20の補正は、本計測エコー20および前計測エコー30をそれぞれ周波数方向にフーリエ変換(ステップ215、235)し、x−kyデータとし、差分することにより行なう。
【0022】
前計測エコー30を補正用データとして補正に供するに際し、奇数エコー31と偶数エコー32に分けて、それぞれの差分(位相差分)を周波数方向フィッティングし、エコートレイン方向に位相累積する(ステップ240、250)ことにより、前計測エコーに2次的に混入する位相ノイズを除去するとともに時間変動を含む位相変化を反映した補正用データを得る。なお補正用データを取得するための計測を「前計測」と称しているが、前計測を実行するタイミングは本計測の前後いずれであってもよい。
【0023】
以下、図2に示す各ステップの詳細を説明する。
<ステップ210、230>
本計測(ステップ210)及び前計測(ステップ230)では、シングルショット又はマルチショットEPIシーケンスにより、1回の励起で複数のエコー信号を計測する。図3及び図4に、本計測および前計測で用いられるパルスシーケンスの一例を示す。これらパルスシーケンスは公知のGrE系EPIシーケンスであり、簡単に説明する。
【0024】
まず検知する磁化を含む被検体にRFパルス301を照射すると同時にスライスを選択する傾斜磁場パルス302を印加し、画像化するスライスを選択する。次いで周波数エンコード傾斜磁場のオフセットを与えるパルス304を印加した後、連続して反転する周波数エンコード傾斜磁場パルス306を印加し、反転する周波数エンコード傾斜磁場306の各周期内でエコー信号120、130が時系列的に発生するので、これを時間範囲307の間おのおのサンプリングし時系列データを得る。反転する周波数エンコード傾斜磁場306の強度、印加タイミング、時間範囲307は、本計測シーケンスと前計測と同じである。しかし、図3に示す本計測シーケンスでは、各エコー信号120に位相エンコードするための傾斜磁場パルス303、305が印加されるのに対し、図4に示す前計測シーケンスでは、位相エンコードは用いない。
【0025】
シングルショットシーケンスの場合には、図示する繰り返し単位308を1回で、マルチショットシーケンスであれば、繰り返し単位308を複数回繰り返して、それぞれk空間全体を埋めるデータを取得する。1回の繰り返し単位で取得する複数のエコーをエコートレインと言い、奇数番目に取得されるエコーを奇数エコー、偶数番目に取得されるエコーを偶数エコーという。
【0026】
通常、このような計測をスライス傾斜磁場302を異ならせて行い、複数のスライスのデータを取得する。スライス数は特に限定されるものではないが、本実施の形態では、少なくとも前計測において、複数のスライスのデータを取得することが望ましい。複数のスライスのデータを利用することにより、より精度の高い補正用データを作成することができる。
【0027】
また前計測は、RFパルス301から信号強度が最大となるエコー信号(最大エコーという)を計測までの時間(T)が最短となるようにエコー時間を設定する。最大エコーは、SE系EPIシーケンスの場合TE(エコー時間)に発生するエコーであり、GE系EPIシーケンスの場合は第1エコーである。一般にEPIシーケンスでは、図5に示すように、RFパルス照射後に時間が経過するほどT2またはT2*減衰により信号強度が低下するが、最大エコーが得られるまでの時間(501)を最短にすることにより、通常のTE設定時間(502)で計測した場合に得られるエコー504に比べて、最短のTEに設定した前計測では、高い信号強度でエコー503を取得することができる。
【0028】
<周波数方向フーリエ変換ステップ215、235>
本計測および前計測で得られたエコー信号20、30をそれぞれ周波数方向にフーリエ変換し、x−kyデータとする。これは、計測空間におけるエコー信号のピークのずれは、フーリエ変換後の空間(x−ky空間)での位相変化に対応するので、位相補正によってデータを補正するためである。
【0029】
ここで、本計測エコーに含まれる誤差について、図6〜図8を参照して説明する。
既に述べたように、本計測エコーには、エコーのピーク位置がサンプリング時間307の中心と一致しない場合、k空間において奇数エコーのピーク位置と、偶数エコーのピーク位置がk空間中央に対し、それぞれ逆方向にずれる。この様子を図6に示す。図6(a)に示すk空間600において、中央点線が周波数エンコード0の軸610であり、上から順に奇数エコー、偶数エコーが配置されている。奇数エコーのピーク621、622・・・は軸610に対し右側にずれ、偶数エコーのピーク631、632・・・は軸610に対し左側にずれている。このような本計測エコーをそのまま画像再構成した場合には、図6(b)に示すようなN/2アーチファクトとなる。
【0030】
また、位相エンコード方向のオフセットに誤差がある場合、図7(a)に示すように、エコー番号が大きくなるほど(すなわちエコートレインが進むほど)エコーのピークの軸610からのずれが大きくなる。これは図7(b)に示すように、周波数エンコード傾斜磁場パルス(点線)701に位相エンコード方向のオフセット誤差702が存在する場合、エコーのピーク位置は正方向と負方向でオフセット誤差に相当する分703だけそれぞれ逆にずれるためである。すなわち、正負の周波数エンコード量に偏りが生じ、その結果、エコートレインが進むほどにキャンセルできない周波数エンコード量が蓄積されていくため、計測空間中央からピークが離れていく。
【0031】
上述の周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差と、位相エンコード方向のオフセット誤差が組み合わさると、図8(a)に示すように、エコートレイン間でピーク位置が変化するため、x−ky空間では同じ周波数位置でも、エコートレインの位置によって位相が乱れたものになり、そのまま画像再構成を行なうと、図8(b)に示すように、画像歪みやN/2アーチファクトが発生する。
【0032】
上述した本計測エコーに含まれる誤差は、補正ステップで本計測データのピーク位置を中心に移動させることにより補正される。
【0033】
<補正ステップ>
補正は、(1)本計測データの周波数方向のピーク位置は、前計測データのピーク位置と等しい位置に現われること、および(2)計測空間におけるエコー信号のピークずれは、フーリエ変換後の空間(x−ky空間)での位相変化に対応することを利用し、x−ky空間において本計測データから前計測データの位相を減算することにより行なう(図2:ステップ220)。
【0034】
しかし、前計測データの周波数位置の信号強度が低く、位相乱れが発生している場合、そのデータを使用して補正を行なうと、その周波数位置においてN/2アーチファクトが発生してしまう。そこで、本実施の形態では、x−ky補正処理(ステップ220)を行なう前に、前計測データの周波数位置における位相乱れを補正する(ステップ236、240、250)。
【0035】
<<信号合成ステップ236>>
本ステップでは、前計測データの信号強度を高めるために、周波数方向にフーリエ変換した後の前計測エコー信号30について、近傍スライスの信号を合成する。これは近傍スライス間で撮像対象の物性による位相変化が少ないことを利用したものである。
【0036】
合成するスライス数(合成枚数)は、特に限定されないが、例えば5枚程度とする。全スライスの1枚目や最終枚目など、近傍するスライスが合成枚数に対し不足する場合は、不足分をそのままにして合成処理を行なう。図9に合成枚数が5枚の場合について、信号合成に用いるスライスの組み合わせを示す。図示するように、合成対象のスライスが1枚目の場合、1枚目〜3枚目を用い、合成対象のスライスが最終枚目(図では8枚目)の場合、6枚目〜8枚目を用いて合成を行う。
【0037】
ただし各スライス間ではRFパルスとスライス選択磁場による位相差があり、そのまま近傍スライス間で合成することはできないため、近傍マルチスライス間で位相差を除去した後、信号の合成を行なう。具体的には、合成対象となるスライスの基準エコーと、それに合成される各スライスの基準エコーとで位相差分し、その結果を各スライスの全エコーに位相差分する。基準エコーとしては信号値が最大であるエコーが用いられる。最短TEの計測条件にて撮像したスライスzの前計測データをS(x,B,z)としたとき、式(1)および(2)の計算を行なうことにより、マルチスライス合成後の前計測データS'(x,ky,z)を算出する(ステップ236)。
【0038】
【数1】
式中、SDif(x,B,z,i)は合成対象のスライスzと近傍の各スライスi間の基準エコーB(B番目のエコー)における位相差、nは合成するスライス枚数である。合成後の信号値については、合成枚数nで信号値を割ることにより、近傍の各スライスとの信号値との間で整合を取る。
【0039】
こうして、近傍スライス合成した後の前計測データを、奇数エコー31と偶数エコー32に分離し、それぞれについて以下説明する周波数フィッティング及びエコートレイン方向位相累積を行う。
【0040】
<<ステップ241〜243>>
ステップ241〜243の処理は、前計測データについて周波数位置での位相乱れを補正するために行なわれる。これらの処理は奇数エコー間、偶数エコー間についてそれぞれ行なわれる。ただし奇数エコー間と偶数エコー間の各々で補正を行なった場合、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差(本来のN/2アーチファクトの原因)は補正されずに残ってしまうことになるので、奇数エコーと偶数エコーのいずれか一方(図示する例では偶数エコー32)について、他方(奇数エコー31)と位相差分し(ステップ251)、差分データ33に対し同様の処理を行う。以下、奇数エコーの場合を例にしてステップ241〜243の詳細を説明する。
【0041】
ステップ241〜243では、奇数エコー間の位相差分データについて、周波数方向の位相変化を直線でフィッティングし(ステップ242)、さらにフィッティング結果を用いて位相変化をエコートレイン方向に累積する(ステップ243)。また周波数方向フィッティングに先立ち、それに用いるエコーに対し閾値処理を行なう(ステップ241)。周波数方向フィッティングのステップ242は、次のエコートレイン方向の位相累積(ステップ243)において、周波数位置における位相乱れがエコートレイン方向への位相累積の基準となる基準エコーに発生する場合に位相累積の補正精度が低くなるため、位相累積に先立って行なう必要がある。
【0042】
周波数方向のフィッティング(ステップ242)は、奇数エコー間または偶数エコー間の位相変化に対して周波数方向の位相変化を滑らかにするためのものである。このうち、基準エコーBから所定数(m個)のエコー分のデータを用いて、最小二乗法により直線フィッティングする。この際、信号強度が低い信号を周波数方向フィッティングに用いないようにするため、最大信号強度から設定した比率以下の信号を除外する(ステップ241)。除外のための閾値Thは次式(3)により設定する。
【数2】
式中、フィッティング対象のエコーにおける最大信号強度をMaxSig、閾値設定のパラメータをThRatioとする。
【0043】
奇数エコー間または偶数エコー間の位相差分を取った場合、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差はキャンセルされるので、位相エンコード方向のオフセット誤差のみが残り、その位相変化は周波数方向に直線となる。図10に、エコー信号のピークの計測空間中央からのずれと位相変化との関係を示す。図示するように、エコー信号711のピークが計測空間の中央710にあるときには、エコーを一次元フーリエ変換した空間での位相の変化は、直線721で示すように0であるが、エコー信号712のピークが中央710からずれたときには(ずれ量703)、このエコー信号を一次元フーリエ変換した空間では、位相は一次関数的に直線722で示すように変化する。ステップ242の周波数方向フィッティングでは、奇数エコー間の位相差分をこの直線722にフィッティングして位相変化の傾きと切片を計算する。具体的には、前述したように、基準エコーBから複数エコー分(m個)のデータを用いて、最小2乗法を使用する。具体的な計算方法は次式(4)のようになる。
【0044】
【数3】
式(4)中、DifOは奇数エコー間における位相変化、a、bは最小2乗法により求めた傾きと切片の平均(m個の平均)である。
【0045】
次いで、上記式(4)で求めた傾きと切片を平均化したものを、エコトレイン方向すなわち位相エンコード方向に累積し、エコートレイン方向における周波数位置の位相乱れを補正する。図11に位相累積の様子を示す。図11は、前計測エコー(奇数エコーおよび偶数エコー)の計測空間におけるピーク位置を示しており、図11(a)に示すように、前計測エコーには位相乱れ1101によりピーク位置がずれているエコーが存在する。位相累積ステップ243では、周波数フィッティングステップ242で信号強度の大きいエコーの位相を使用して算出した位相変化(DifO)を用いて、エコートレイン方向に位相を累積していき(1102、1103)、信号強度の小さいエコーの位相情報を補完する。これにより位相乱れ1101が補正される。具体的な計算方法は次式(5)のようになる。
【0046】
【数4】
式(5)のP’(x,2×i+1)は、位相累積後の(2×i+1)番目の前計測エコーの位相変化であり、奇数エコーおよび偶数エコーをまとめて表現したものである。
【0047】
このように奇数エコー間の前計測データに対してステップ241からステップ243までの処理を行なうことにより、周波数位置での位相乱れを補正することができる。
【0048】
偶数エコー間の前計測データについては、前述したように、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分後のデータに対して、ステップ241からステップ243までの処理を同様に行なうことで、周波数位置での位相乱れの補正と同時に、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差が補正される。
【0049】
<<ステップ252>>
補正ステップの最後において、ステップ241〜243で補正された偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データに対し、ステップ241〜243で補正された奇数エコー間の位相変化を加える(ステップ252)。具体的には次式(6)、(7)の計算を行なう。
【数5】
式(6)中、DifOEは偶数エコーと奇数エコーとの間における位相変化、O(x,Bo)およびE(x,Be)はそれぞれ奇数エコーにおける基準エコーの位相、偶数エコーにおける基準エコーの位相であり、[O(x,Bo)-E(x,Be)]は、基準エコーに対する位相差分結果を表す。c、dは周波数方向フィッティングによって求めた係数と切片であり、奇数エコーの位相差分に対するフィッティング結果と偶数エコーの位相差分に対するフィッティング結果とを加算したものと同等である。また式(7)におけるP'(x,ky)は位相累積後の前計測データの位相変化である。
【0050】
これにより、ステップ241からステップ243までの処理を偶数エコー間に行なったことと同等になるため、これを前計測データの偶数エコーとする。
【0051】
このように前計測データの補正処理240、250で補正した前計測データを使用し、本計測エコー20の位相を補正する(ステップ220)。図12に示すように、本計測データ(a)から前計測データ(b)の位相を減算することにより、計測空間全体として、各エコーのピークの中心が揃うことになる(c)。最後に、補正後の本計測データ(c)を位相方向にフーリエ変換して画像再構成を行う(ステップ225)。以上の処理により作成した画像40ではN/2アーチファクトが大幅に低減される。
【0052】
本実施の形態によれば、前計測データに対し周波数方向フィッティングを行なうことにより、前計測データに含まれる位相乱れに起因するストリークアーチファクトを大幅に低減することができる。特に前計測データの取得を最短TE撮像とする、近傍スライス間で信号合成を行なう等の信号強度を高める処理を加えることによって、上記ストリークアーチファクトをなくすことができる。
【0053】
本実施の形態による効果を、ファントムを用いた撮像で確認した結果を図13及び図14に示す。図13はストリークアーチファクトが抑制された画像例、図14は歪みが抑制された画像例である。図中、(a)は補正をしない場合、(b)はステップ220のx−ky補正のみを行なった場合、(c)は本実施の形態による補正を行なった場合をそれぞれ示す。
【0054】
図13について(a)と(b)を比較すると、補正無しの画像で発生していたN/2アーチファクトはx−ky補正により大幅に低減していることがわかるが、(b)の画像ではストリークアーチファクトがまだ残っている。(c)の画像では、本実施の形態の処理を行なうことによって、完全にアーチファクトがなくなったことがわかる。
図14についても、x−ky補正のみでは補正されないアーチファクトが大幅に低減していることがわかる。
【0055】
以上、本発明の実施形態を説明した。この実施形態では、奇数エコー間データ、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データのそれぞれに対してフィッティング、位相累積を行ない、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データに奇数エコー間データの位相を加算して、補正後の偶数エコーとしているが、偶数エコー間のデータ、奇数エコーと偶数エコー間の位相差分データのそれぞれに対してフィッティング、位相累積を行ない、偶数エコーと奇数エコー間の位相差分データに偶数エコー間データの位相を加算して、補正後の奇数エコーとしてもよい。またシーケンスについてもマルチショットのみならず、ワンショット型のシーケンスや、3D計測等に本発明の処理を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明を適用するMRI装置の全体構成を示すブロック図
【図2】MRI装置の動作の一実施形態を示すフロー図
【図3】本計測で用いられるパルスシーケンスの一例を示す図
【図4】前計測で用いられるパルスシーケンスの一例を示す図
【図5】前計測における最短TE撮像条件を説明する図
【図6】N/2アーチファクトを説明する図
【図7】位相エンコード方向のオフセット誤差を説明する図
【図8】周波数エンコード傾斜磁場パルスとサンプリング時間とのずれ及び位相エンコード方向のオフセット誤差が組み合わさったときのアーチファクトを説明する図
【図9】信号合成ステップを説明する図
【図10】周波数方向の位相変化のフィッティングを説明する図
【図11】エコートレイン方向の位相累積を説明する図
【図12】前計測データを用いた本計測データの補正を説明する図
【図13】本発明の実施の形態を適用した画像例を示す図
【図14】本発明の実施の形態を適用した画像例を示す図
【符号の説明】
【0057】
11・・・静磁場発生系、12・・・傾斜磁場発生系、13・・・送信系、14・・・受信系、15・・・シーケンサ、16・・・再構成演算部(信号処理系)、17・・・制御系、18・・・表示部(ディスプレイ)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記静磁場発生手段が発生する静磁場中に置かれた被検体に高周波パルスを照射する高周波パルス照射手段と、周波数方向および位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加する傾斜磁場印加手段と、前記被検体から発生するエコー信号を検出する受信手段と、前記エコー信号を処理し、画像を作成する信号処理手段と、1回の高周波パルス照射後に複数の傾斜磁場パルスを印加して複数のエコー信号を取得するマルチエコーパルスシーケンスを備え、前記マルチエコーパルスシーケンスに従い高周波パルス照射手段、傾斜磁場印加手段、受信手段および信号処理手段を制御する制御手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御手段は、画像取得のための本計測と、位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加しない以外は前記本計測と同じパルスシーケンスを用いた前計測とを行ない、
前記信号処理手段は、前記前計測で取得した複数のエコーからなる前計測データを用いて前記本計測で取得した本計測エコーを補正する補正手段を備え、
前記補正手段は、前記前計測データを奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーに分離し、奇数番目に取得したエコー間、偶数番目に取得したエコー間および奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーの間のそれぞれについて位相差分を算出し、前記位相差分を周波数方向にフィッティングした後、エコートレイン方向に累積して、前記前計測データを補正する前計測データ補正手段を備え、
補正後の前計測データを用いて、前記本計測エコーを補正することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記補正手段は、エコー信号を周波数方向にフーリエ変換し、x−ky空間データを作成するフーリエ変換手段を有し、
前記位相差分の算出、フィッティング、累積および本計測エコーの補正を前記x−ky空間データについて行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記制御手段は、複数のスライスについて、前記前計測エコーを計測し、
前記前計測エコー補正手段は、前記複数のスライスのうち近傍のスライスで得られた前計測エコーを合成した後、位相差分を行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記前計測エコー補正手段は、前記前計測データのうち、信号値が予め設定した閾値以上のエコーのみを用いて周波数方向フィッティングを行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記制御手段は、前記前計測において、高周波パルス照射後からエコー取得までの時間を最短に設定し、前計測データを取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記補正手段は、計測空間上に時系列に配置される本計測エコー信号を対応する前記位相変化の情報に基づいて、偶数番目取得の本計測エコー信号の位相から偶数番目取得の前計測エコー信号の位相を減算し、奇数番目取得の本計測エコー信号の位相から奇数番目取得の前計測エコー信号の位相を減算する処理を実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項1】
静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記静磁場発生手段が発生する静磁場中に置かれた被検体に高周波パルスを照射する高周波パルス照射手段と、周波数方向および位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加する傾斜磁場印加手段と、前記被検体から発生するエコー信号を検出する受信手段と、前記エコー信号を処理し、画像を作成する信号処理手段と、1回の高周波パルス照射後に複数の傾斜磁場パルスを印加して複数のエコー信号を取得するマルチエコーパルスシーケンスを備え、前記マルチエコーパルスシーケンスに従い高周波パルス照射手段、傾斜磁場印加手段、受信手段および信号処理手段を制御する制御手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御手段は、画像取得のための本計測と、位相エンコード方向の傾斜磁場パルスを印加しない以外は前記本計測と同じパルスシーケンスを用いた前計測とを行ない、
前記信号処理手段は、前記前計測で取得した複数のエコーからなる前計測データを用いて前記本計測で取得した本計測エコーを補正する補正手段を備え、
前記補正手段は、前記前計測データを奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーに分離し、奇数番目に取得したエコー間、偶数番目に取得したエコー間および奇数番目に取得したエコーと偶数番目に取得したエコーの間のそれぞれについて位相差分を算出し、前記位相差分を周波数方向にフィッティングした後、エコートレイン方向に累積して、前記前計測データを補正する前計測データ補正手段を備え、
補正後の前計測データを用いて、前記本計測エコーを補正することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記補正手段は、エコー信号を周波数方向にフーリエ変換し、x−ky空間データを作成するフーリエ変換手段を有し、
前記位相差分の算出、フィッティング、累積および本計測エコーの補正を前記x−ky空間データについて行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記制御手段は、複数のスライスについて、前記前計測エコーを計測し、
前記前計測エコー補正手段は、前記複数のスライスのうち近傍のスライスで得られた前計測エコーを合成した後、位相差分を行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記前計測エコー補正手段は、前記前計測データのうち、信号値が予め設定した閾値以上のエコーのみを用いて周波数方向フィッティングを行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記制御手段は、前記前計測において、高周波パルス照射後からエコー取得までの時間を最短に設定し、前計測データを取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記補正手段は、計測空間上に時系列に配置される本計測エコー信号を対応する前記位相変化の情報に基づいて、偶数番目取得の本計測エコー信号の位相から偶数番目取得の前計測エコー信号の位相を減算し、奇数番目取得の本計測エコー信号の位相から奇数番目取得の前計測エコー信号の位相を減算する処理を実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−273530(P2009−273530A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125384(P2008−125384)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
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