説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】より短時間かつ簡易に流体の流速を計測することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、流体像データ収集手段および流体速度計測手段を備える。流体像データ収集手段は、3つ以上の異なる複数の反転時間TI1, TI2, TI3で反転回復パルスIR PULSE 1, IR PULSE 2, IR PULSE 3の印加を伴ってイメージングを行うことによって被検体から複数の反転時間TI1, TI2, TI3に対応する複数の流体像データを取得する。流体速度計測手段は、複数の流体像データの少なくとも1つについて設定された複数の位置におけるそれぞれの複数の反転時間に応じた信号強度の時間変化および複数の位置間における距離に基づいて流体の速度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR: nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に係り、特に、流体の流速を計測することが可能な磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
従来、磁気共鳴イメージングの分野において、血流の流速を計測する技術としてPS (phase shift法が一般的に用いられている。PS法はphase contrast MRA (magnetic resonance angiography) とも呼ばれるMRA撮像法の1つであり、スピンの位相情報から血流を画像化するものである(例えば特許文献1参照)。具体的には、傾斜磁場をbipolar gradientとして印加した場合、静止しているスピンの位相は傾斜磁場の印加前後において変化しないが血流内の動いているスピンの位相は傾斜磁場の印加前後においてシフトする。このスピンの位相シフトは、印加した傾斜磁場の強さと印加時間並びにスピンの速度に依存する。この関係を用いてスピンの位相情報から血流速度や血流方向を算出することができる。
【0004】
また、磁気共鳴イメージングの分野において、造影剤を用いずに選択的に血管像を描出することが可能な非造影MRA技術の1つとしてt-SLIP (Time-SLIP: Time Spatial Labeling Inversion Pulse)法が知られている。t-SLIP法では、t-SLIPシーケンスに従ってラベリング用のt-SLIPパルスが印加され、撮影領域に流入する血液がラベリングされる。すなわちt-SLIPシーケンスは、撮像断面に流入する血液にタグ付けを行うことによってタグ付けされた血液を選択的に描出或いは抑制するためのASL (arterial spin labeling)パルスの印加を伴う撮像シーケンスである。このt-SLIPシーケンスにより、反転時間(TI: inversion time)後に撮影断面に到達した血液のみの信号強度を選択的に強調または抑制することができる。そして、t-SLIPパルスを印加する空間的位置およびt-SLIPパルスの印加タイミングからイメージングまでの待ち時間に相当するTIを適切に設定することによって、様々な血管を選択的に描出または抑制することができる。さらに、t-SLIPパルスを印加する空間的位置を固定した場合において最適なTIを求める技術として、TIを徐々に変化させながらデータ収集を行うTI-prepと呼ばれるプレスキャンをt-SLIP法によるイメージングスキャンに先立って行う技術が考案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−165771号公報
【特許文献2】特開2003−70766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のPS法により流速を測定する場合には、関心領域(ROI: region of interest)を設定することにより、測定対象となる流体の位置を特定するという煩雑な作業が必要となる。特に、PS法は、信号の位相差を画像化する技術であることから信号の強度差を画像化する技術に比べて良好なコントラストの血管像を得ることができない。このため、PS法により得られた血管画像において、流速の計測対象となる血管を探すのが困難である場合が多いという問題がある。加えて、従来のPS法により流速を測定する場合には、撮像時間が長くなるという問題点がある。
【0007】
一方、t-SLIP法による撮像を行う場合には、撮像条件として血流の流速が必要となる。このため、t-SLIP法による撮像に先立って、血流等の流体の流速をより短時間かつ簡易に求める技術の開発が望まれる。
【0008】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、より短時間かつ簡易に流体の流速を計測することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、上述の目的を達成するために、3つ以上の異なる複数の反転時間で反転回復パルスの印加を伴ってイメージングを行うことによって被検体から前記複数の反転時間に対応する複数の流体像データを取得する流体像データ収集手段と、前記複数の流体像データの少なくとも1つについて設定された複数の位置におけるそれぞれの前記複数の反転時間に応じた信号強度の時間変化および前記複数の位置間における距離に基づいて流体の速度を求める流体速度計測手段とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置においては、より短時間かつ簡易に流体の流速を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示す撮像条件設定部において設定される血流の流速計測用のパルスシーケンスの一例を示す概念図。
【図4】図3に示すIRパルスの印加に伴うスピンの縦磁化の変化を示す図。
【図5】図2に示す撮像条件設定部において血流の流速とともに適切なTIを決定するために設定されるパルスシーケンスの一例およびTIの決定方法を説明する概念図。
【図6】図2に示す血流像作成部により生成された、複数の異なるTIに対応する血流像データの一例を示す図。
【図7】図2に示す計測位置設定部により血流像上において設定された計測位置の一例を示す図。
【図8】図7に示す血流像上における2つの計測位置A, Bにおける信号強度の時間変化をプロットした図。
【図9】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により被検体の血流像を撮像して血流の流速を計測する際の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0014】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24を備えている。
【0015】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0016】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0017】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0018】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0019】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0020】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0021】
RFコイル24は、送信器29および/または受信器30と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0022】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0023】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0024】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0025】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0026】
尚、ECG信号の代わりに脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。
【0027】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0028】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0029】
コンピュータ32は、プログラムにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、画像再構成部43、画像データベース44、血流像作成部45、計測位置設定部46および流速計測部47として機能する。
【0030】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部42に与える機能を有する。特に、撮像条件設定部40は、血流等の流体の流速を求めるために、少なくとも3つの複数の異なるTIでそれぞれ反転回復(IR: inversion recovery)パルスの印加を伴って血流像データ等の流体像データを取得するためのパルスシーケンスを設定する機能を備えている。以下、血流像データを取得する場合ついて説明するが、他の流体像データを取得する場合でも同様である。
【0031】
図3は、図2に示す撮像条件設定部40において設定される血流の流速計測用のパルスシーケンスの一例を示す概念図である。
【0032】
図3において横軸は時間を示す。図3に示すように例えば、第1のIRパルスの印加からTI1経過後に血流像データの収集用のイメージングシーケンスが設定され、続いて第2のIRパルスの印加からTI1と異なるTI2経過後に血流像データの収集用のイメージングシーケンスが設定される。さらに続いて第3のIRパルスの印加からTI1およびTI2と異なるTI3経過後に血流像データの収集用のイメージングシーケンスが設定される。図3の例では、互にTIが異なるIRパルスの印加を伴う3つのイメージングシーケンスが設定された場合が示されているが、互にTIが異なるIRパルスの印加を伴う4つ以上のイメージングシーケンスを設定しても良い。
【0033】
図4は、図3に示すIRパルスの印加に伴うスピンの縦磁化の変化を示す図である。
【0034】
図4において横軸は時間を、縦軸はスピンの縦磁化Mzを示す。図4に示すように180°IRパルスを印加すると、z軸方向における縦磁化成分Mzが反転する。その後、縦緩和(T1)緩和により縦磁化Mzが回復する。このT1緩和による回復過程においてイメージングシーケンスの90°RF励起パルスを印加してエコー信号を収集すると、縦磁化Mzの反転状態からの回復の速度はT1のみに依存するためT1強調画像データを得ることができる。そして、180°IRパルスから90°RF励起パルスまでのTIを調節することによってT1強度度を変えてコントラストを制御することができる。
【0035】
従って、異なるTIでIRパルスを印加して複数の血流像データを収集すると、TIに応じて異なるコントラストの血流像データを得ることができる。加えて、血流像データを撮影する場合には、TIに応じて血液の到達位置も変わることとなる。
【0036】
イメージングシーケンスは血管像データを収集することが可能なシーケンスであれば任意のシーケンスとすることができる。但し、各イメージングシーケンスの実行によって得られる血流像データ間におけるコントラスト条件の違いがTIのみとなるように各イメージングシーケンスを同種のシーケンスとすることが望ましい。イメージングシーケンスは3次元(3D: three dimensional)シーケンスとすることができるが、収集された血流像データ自体が直接診断用に用いられず詳細な空間情報が不要であるような場合には、撮影時間の短縮化の観点から2次元(2D: two dimensional)シーケンスとしても良い。
【0037】
血流像データを収集するためのイメージングシーケンスとしては、造影剤を被検体Pに注入してT1強調画像データを得る造影MRAに用いられるFE (field echo)シーケンスの他、造影剤を用いない非造影MRA用のシーケンスが挙げられる。
【0038】
非造影MRA技術としては、ECG(electro cardiogram)同期を行って心臓から拍出された速い流速の血流を捕捉することにより良好に血管を描出する(Fresh Blood Imaging)法が知られている。FBI法では、FSE (fast spin echo)シーケンスやハーフフーリエ法を利用したFASE (fast asymmetric spin echo)シーケンス等のSE (spin echo)系のシーケンスにより横緩和(T2)強調画像データとして血流像データが取得される。T2強調画像データについても上述した縦磁化の緩和と同様な横磁化の緩和を利用してコントラストの制御を行うことができる。尚、FBI法によるシーケンスをイメージングシーケンスとする場合には、ECGユニット38により取得されたECG信号を同期信号として利用することができる。
【0039】
そして、図3に示すような血流の流速計測用のパルスシーケンスを実行して血流像データを生成すると異なるTIに対応して血液の到達距離が異なる複数の血流像データが得られる。さらに、TIおよび血液の到達距離が異なる複数の血流像データに基づいて血流の流速を求めることができる。血流の流速の求め方については後述する。
【0040】
また、撮像条件設定部40では、後述するように異なるTIに対応する複数の血流像データに基づいて算出された血流の流速を用いて更なる撮影を行う場合には、続いて実行されるスキャン用のシーケンスも設定される。この場合、血流の流速計測用のパルスシーケンスは、続いて実行されるスキャンの撮影条件を決定するためのプレスキャン用のシーケンスとしても機能することになる。
【0041】
血流の流速を撮影条件として用いるスキャンとしては、上述したt-SLIPシーケンスが挙げられる。従って、血流の流速計測用のシーケンスをt-SLIPシーケンスによるスキャンのプレスキャン用のシーケンスとして用いることができる。この場合、血流の流速計測用のシーケンスを2Dシーケンスとすることが撮影時間短縮化の観点から望ましい場合が多い。尚、t-SLIPシーケンスにおいて印加されるt-SLIPパルスは必要に応じてECG信号のR波から一定の遅延時間(delay time)経過後に印加され、心電同期下において撮像が行われる。
【0042】
t-SLIPパルスは、領域非選択インバージョンパルスや領域選択インバージョンパルスで構成される。領域非選択インバージョンパルスはON/OFFの切換が可能である。つまり、t-SLIPパルスは、領域選択インバージョンパルスを少なくとも含み、領域選択インバージョンパルスのみで構成される場合や領域選択インバージョンパルスおよび領域非選択インバージョンパルスの双方で構成される場合がある。
【0043】
領域選択インバージョンパルスは、撮影断面と独立に任意に設定することが可能である。この領域選択インバージョンパルスで撮影領域に流入する血液をラベリングすると、TI後に血液が到達した部分の信号強度が高くなる。尚、領域非選択インバージョンパルスをOFFにすると、TI後に血液が到達した部分の信号強度が低くなる。このため血液の移動方向や距離を把握することができる。
【0044】
また、t-SLIPシーケンスによる撮影を行う場合には、血流の流速の他、適切なTIも必要となる。従って、図3に示すような血流の流速計測用のパルスシーケンスにおいて異なるTIの数を十分に増やして変更幅を小さくすれば、多数のTIごとの血流像データを得ることができる。このため、コントラストが良好な血流像データを選択することにより、適切なTIを決定することができる。すなわち、血流の流速計測用のパルスシーケンスにおいて異なるTIの数を十分に増やして変更幅を小さくすれば、血流の流速のみならず適切なTIもt-SLIPシーケンスによるスキャンの撮影条件として求めることができる。
【0045】
図5は、図2に示す撮像条件設定部40において血流の流速とともに適切なTIを決定するために設定されるパルスシーケンスの一例およびTIの決定方法を説明する概念図である。
【0046】
図5(a)に示すように、例えば異なるN通りのTI (TI1, TI2, …, TIN)でそれぞれIRパルスの印加を伴う2D FASEシーケンスが血流の流速計測用のパルスシーケンスとして設定される。図5(a)に示すような血流の流速計測用のパルスシーケンスに従ってスキャンを行うと、図5(b)に示すようなTIに応じた異なるコントラストのN個の血流像データI(TI1), I(TI2), …, I(TIN)が得られる。
【0047】
そしてユーザは、異なるコントラストのN個の血流像データI(TI1), I(TI2), …, I(TIN)のうち最も良好なコントラストの血流像データI(TIopt)を目視により選択し、選択情報を入力装置33の操作によって撮像条件設定部40に入力することができる。そうすると、撮像条件設定部40は、後述する血流像作成部45から選択された血流像データI(TIopt)に対応する適切なTIoptを取得することができる。但し、ユーザの目視によらず撮像条件設定部40における画像処理によって最も良好なコントラストの血流像データI(TIopt)を選択するようにしても良い。
【0048】
一方、異なるコントラストおよび血液の到達距離のN個の血流像データI(TI1), I(TI2), …, I(TIN)に基づいて後述する方法で血流の流速Vが求められる。
【0049】
そして、撮像条件設定部40では、適切なTIoptおよび血流の流速Vを用いた3D t-SLIPシーケンスが撮影条件として設定され、設定された3D t-SLIPシーケンスに従ってスキャンを行うことができる。
【0050】
このように、血流の流速計測用のパルスシーケンスを適切なTIを決定するためのシーケンスとして利用することもできる。
【0051】
一方、コンピュータ32のシーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33からのスキャン開始指示情報を受けた場合に、撮影条件設定部40からパルスシーケンスを含む撮影条件をシーケンスコントローラ31に与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部41は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能を有する。このため、k空間データベース42には、受信器30において生成された各生データがk空間データとして保存され、k空間データベース42に形成されたk空間にk空間データが配置される。
【0052】
画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより実空間データである被検体Pの画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース44に書き込む機能を有する。このため、画像データベース44には、画像再構成部43において再構成された画像データが保存される。
【0053】
血流像作成部45は、画像データベース44から必要な画像データを読み込んで、差分処理等の画像処理や最大値投影(MIP: Maximum Intensity Projection)処理等の表示処理を行うことによって2Dまたは3D血流像データおよび表示用の2D血流像データを生成する機能と、生成した2D血流像データを表示装置34に与えることによって表示装置34に血流像を表示させる機能とを有する。従って、血流像作成部45では、上述した複数の異なるTIに応じたコントラストで血液の到達距離が異なる複数の血流像データが生成されることとなる。
【0054】
図6は、図2に示す血流像作成部45により生成された、複数の異なるTIに対応する血流像データの一例を示す図である。
【0055】
図6(a)、(b)、(c)に示すように、着目する血管の上流血管を含む領域をIRパルスによるタグ付け(ラベリング)領域として設定し、少なくとも3つの異なるTIで得られたエコー信号に基づいてそれぞれ血流像データを生成すると、IRパルスの影響を受けてタグ付けされた血液の到達位置がTIごとに異なる少なくとも3つの複数の血流像データを得ることができる。例えば、t-SLIPシーケンスによって領域選択インバージョンパルスを上流血管を含むタグ付け領域に印加し、かつ領域非選択インバージョンパルスを印加すると、ホワイトブラッドの血流像データを得ることができる。すなわち、短いTIに対応する血流像データでは、図6(a)に示すようにタグ付け領域からの血液の到達距離が短く、中程度のTIに対応する血流像データでは、図6(b)に示すようにタグ付け領域からの血液の到達距離も中程度である。また、長いTIに対応する血流像データでは、図6(c)に示すようにタグ付け領域からの血液の到達距離も長くなる。
【0056】
計測位置設定部46は、マウス等の入力装置33からの位置指定情報に基づいて、表示装置34に表示された複数の血流像の血管上において複数の空間的位置を計測位置として設定する機能と、設定した複数の計測位置情報を流速計測部47に与える機能とを有する。複数の計測位置として2点が設定された場合には計測位置情報を2点を結ぶ線分情報とすることが可能であり、3点以上の点が設定された場合には計測位置情報を各点を結んで得られる折れ線情報とすることも可能である。
【0057】
尚、計測位置を設定するために参照する血流像は、十分に血液が到達した長いTIに対応する血流像とすることが計測位置の設定容易化の観点から望ましいが、任意の血流像を計測位置の設定用に用いることができる。また、少なくとも1つの血流像において血液が到達している位置であれば任意の点を計測位置として設定することができる。
【0058】
図7は、図2に示す計測位置設定部46により血流像上において設定された計測位置の一例を示す図である。
【0059】
図7に示すように、マウス等の入力装置33の操作によって、例えば1つの中間点で折れ曲る開始点Aから終点Bまでの折れ線として計測位置情報を作成することができる。
【0060】
流速計測部47は、計測位置設定部46から取得した血管上の計測位置間における距離および各計測位置におけるTIに応じた信号の強度変化を示すグラフに基づいて血液の経路上における流速を算出する機能と、算出した血液の流速を表示装置34に表示させる機能とを有する。
【0061】
図8は、図7に示す血流像上における2つの計測位置A, Bにおける信号強度の時間変化をプロットした図である。
【0062】
図8において横軸は時間を、縦軸は各計測位置A, Bにおける信号強度を示す。図8に示すように、2つの計測位置A, Bではそれぞれ血液の到達時間が異なることからT1緩和によって異なる信号強度の変化を呈する。例えば短いTI1でIRパルスを印加して得られた血流像上の計測位置Aでは血液が到達しており信号が得られるが計測位置Bにはまだ血液が到達していないため信号強度がゼロとなっている。
【0063】
また、T1緩和の影響により、長さが中間程度のTI2でIRパルスを印加して得られた血流像上の計測位置Aでは、短いTI1でIRパルスを印加して得られた血流像上の計測位置Aにおいて得られる信号の強度よりも大きい強度の信号が得られる。一方、長さが中間程度のTI2でIRパルスを印加して得られた血流像上の計測位置Bでは、血液が到達しているため信号が得られる。
【0064】
さらに、長いTI3でIRパルスを印加して得られた血流像上の各計測位置A, Bでは他の血流像上の各計測位置A, Bにおいて発生する信号の強度よりもより大きい強度の信号が発生する。
【0065】
つまり、図8に示すように、異なる計測位置A, Bでは、血液の到達時間が異なるため、信号強度の時間変化を示すプロット間において時間差Δtが生じる。この時間差Δtは、計測位置Aにおける信号強度の時間変化を表すデータと、計測位置Bにおける信号強度の時間変化を表すデータとの間における相互相関をとることにより求めることができる。
【0066】
尚、計測位置Aにおける信号強度の時間変化を表すデータと、計測位置Bにおける信号強度の時間変化を表すデータとは重ならない。このため、相互相関によって時間差Δtを求めるためには同一の計測位置において少なくとも3つの異なる強度の信号を収集することが必要となる。これが、3つの異なるTIを設定することが必要となる理由である。また、一部の計測位置において信号強度がゼロとなっていても、他の計測位置において信号が得られていれば相互相関により時間差Δtを求めることができる。
【0067】
一方、計測位置A, B間における距離Δlは、3D血流像データから幾何学的に求めることができる。例えば距離Δlは、簡易に表示用の2D血流像上において測定してもよい。そうすると、血流の流速vは式(1)により計算することができる。
[数1]
v=Δl/Δt (1)
【0068】
すなわち、計測位置A, B間における信号強度変化の時間差Δtは、一定の流速を有する血流が計測位置A, B間を移動するために必要な時間に相当すると考えられる。従って、計測位置A, B間における距離Δlを計測位置A, B間における信号強度変化の時間差Δtで除することにより血管の走行方向における血流の平均流速vを算出することができる。そして、このように流速計測部47において算出された血流の流速vは、表示装置34に表示させることができる。
【0069】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0070】
図9は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体Pの血流像を撮像して血流の流速を計測する際の手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0071】
まずステップS1において、撮影条件設定部40において、少なくとも3つの異なるTIでIRパルスの印加を伴うパルスシーケンスが撮影条件として設定される。
【0072】
次にステップS2において、設定された撮影条件に従ってデータ収集が行われる。
【0073】
そのために、予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0074】
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41に被検体Pの診断部位における血流像の収集指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮影条件設定部40からシーケンスを取得してシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部41から受けたパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0075】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0076】
次に、ステップS3において、画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを生成する。生成された画像データは画像データベース44に書き込まれて保存される。
【0077】
次に、ステップS4において、血流像作成部45は、画像データベース44から画像データを読み込んで、必要な画像処理を行うことによって2Dまたは3Dの血流像データおよび表示用の血流像データを生成する。生成した血流像データは表示装置34に与えられ、表示装置34には血流像が表示される。この結果、表示装置34には、少なくとも3つの異なるTIにそれぞれ対応するコントラストの血流像が表示される。
【0078】
次に、ステップS5において、ユーザは表示装置34に表示された複数の血流像を参照し、マウス等の入力装置33を操作することによって位置指定情報を計測位置設定部46に入力する。そして、少なくとも1枚の血流像の血管上において信号値がゼロとなっていないような複数の空間的位置を血流の流速の計測位置として設定する。設定された複数の計測位置情報は、折れ線情報や点群情報として流速計測部47に与えられる。
【0079】
次に、ステップS6において、流速計測部47は、計測位置設定部46から取得した血管上の計測位置間における距離および各計測位置におけるTIに応じた信号の強度変化を示すグラフに基づいて血液の流速を算出する。血管上の計測位置間における距離は、血流像データから幾何学的に求めることができる。また、各計測位置における、異なるTIに応じた信号強度の時間変化を示す複数のプロット間の相互相関をとることにより複数のプロット間における時間差が求められる。そして、求めた時間差で血管上の計測位置間における距離を除算することにより血液の平均的な流速を算出することができる。
【0080】
このようにして算出された血液の流速は、表示装置34に表示される。このため、ユーザは、流体の流速を確認することができる。
【0081】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、少なくとも3つの異なるTIでPIパルスの印加を伴うパルスシーケンスに従ってMRAイメージングを行い、得られた血流像データ上において設定された複数の計測位置におけるTIに応じた信号強度の時間変化データ間の時間差と計測位置間における距離とから血流の流速を求めるようにしたものである。つまり、異なるTIに応じて変化する血流信号の抽出状態の差異に基づいて血流の流速を測定することができる。
【0082】
このため磁気共鳴イメージング装置20によれば、血流等の流体の流速をより短時間かつ簡易に求めて表示することができる。
【符号の説明】
【0083】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
38 ECGユニット
40 撮像条件設定部
41 シーケンスコントローラ制御部
42 k空間データベース
43 画像再構成部
44 画像データベース
45 血流像作成部
46 計測位置設定部
47 流速計測部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上の異なる複数の反転時間で反転回復パルスの印加を伴ってイメージングを行うことによって被検体から前記複数の反転時間に対応する複数の流体像データを取得する流体像データ収集手段と、
前記複数の流体像データの少なくとも1つについて設定された複数の位置におけるそれぞれの前記複数の反転時間に応じた信号強度の時間変化および前記複数の位置間における距離に基づいて流体の速度を求める流体速度計測手段と、
を有する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記流体像データ収集手段は、前記複数の流体像データとして複数の血流像データを取得するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記流体像データ収集手段は、spin echo系のシーケンスにより前記複数の流体像データとして複数の非造影血流像データを取得するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記流体像データ収集手段は、field echo系のシーケンスにより前記複数の流体像データとして複数の造影血流像データを取得するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記複数の反転時間に対応する複数の流体像データに基づいて所望の反転時間を設定する設定手段と、
前記所望の反転時間を撮影条件として反転回復法によるイメージングを行うことにより画像データを取得するイメージング手段と、
をさらに備える請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記複数の反転時間に対応する複数の流体像データに基づいて所望の反転時間を設定する設定手段と、
前記所望の反転時間を撮影条件としてTime Spatial Labeling Inversion Pulseシーケンスに従ってイメージングを行うことにより画像データを取得するイメージング手段と、
をさらに備える請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記流体の速度を撮影条件としてTime Spatial Labeling Inversion Pulseシーケンスに従ってイメージングを行うことにより画像データを取得するイメージング手段をさらに備える請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記流体速度計測手段は、前記流体の経路上における平均速度を求めるように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記流体像データ収集手段は、着目する血管の上流血管を含む領域に領域選択反転回復パルスを印加して血流のタグ付けを行うことにより複数の血流像データを取得するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記流体像データ収集手段は、複数の2次元の流体像データを取得するように構成される請求項5乃至7のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−22813(P2010−22813A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95090(P2009−95090)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】