説明

磁気印刷物の測定方法及び測定装置

【課題】 磁気印刷物を製造する際に、印刷後の未乾燥又は乾燥状態の磁気印刷物を、印刷部分に損傷を与えることなく、非接触で磁気のチェックを行うことができる磁気印刷物の測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】 非接触で磁気のチェックを行うことができる磁気印刷物の測定装置であり、コイル型センサ部5と静電結合部材6の間に磁気印刷物14を配置して、非接触式により位相の変化を測定するもので、磁気印刷物14を搬送機構により搬送される過程において、コイル型センサ部5と静電結合部材6とが、搬送部(図示せず)を挟んで所定間隔をもって対向して配置され、発振部8から正弦波の交流信号をコイル型センサ部5の一次コイル10に出力し、一次コイル10が発生した交流磁界を二次コイル11が受信することによって、位相検出部9は、発振部8が発振した交流信号と、二次コイル11が検知した検知信号をもとに、位相の値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気印刷物の測定方法及び測定装置に関するものであり、特に、有価証券及び銀行券等の紙葉類の少なくとも一部に磁気特性を有する領域を設けた磁気印刷物について、非接触方式によって磁気特性を有する領域を測定するための測定方法及び測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気インキにより印刷された領域を有する有価証券及び銀行券等の磁気印刷物における真偽判別については、印刷された磁気インキのチェック(データ採取)として、リング型磁気ヘッド又はMRヘッド等を磁気印刷物に接触させてスキャンすることにより、磁束の変化を測定して印刷物の磁気インキのデータを採取し、真偽判別を行っていた。
【0003】
また、渦電流を用いて非接触で、かつ、非破壊により膜厚を測定する渦電流損失測定センサは、局所的な膜厚測定を可能とし、コイルから導電性膜に高周波磁界を励磁し、導電性膜に渦電流を励起させ、渦電流損失測定手段により、インピーダンスの変化、交流の振幅値の変化又は交流の位相の変化を測定して、導電性膜の膜厚を評価する膜厚測定装置(例えば、特許文献1参照。)がある。
【0004】
誘導渦電流を応用したセンサ自体は公知の技術であるが、これは、金属等の磁性体とセンサの距離が変わると発振の振幅や基準波形との位相ズレが変化したり、渦電流が変化したりすることを応用した変位センサとして利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−343205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リング型磁気ヘッド又はMRヘッドの磁気センサは、移動する磁気印刷物にバイアス磁束を印加し、磁気材料による磁束の変化を測定する方式であるため、コイル又は磁石が発する磁力線の届く距離のみが測定可能な範囲である。また、真偽判別を主目的としているため、スキャンして得たアナログ波形のデータを、複数段階の閾値によりデジタル化し(2値化、3値化、4値化・・)、得られた磁気パターン又は有無情報等と、あらかじめ記憶した真正のデータとを、何らかの演算を経て照合することで、真偽を判別するものであった。
【0007】
印刷機において磁気印刷物を印刷する場合、磁気印刷物が搬送される際に、紙のたるみ、空気による揺動又は機械振動等によって、少なくとも0.3mm程度以上の上下変動が生じることが考えられる。このため、磁気印刷物が上下動すると、リング型磁気ヘッド又はMRヘッド等の測定距離の範囲を超えてしまうおそれがある。また、リング型磁気ヘッド又はMRヘッド等に対して磁気印刷物の距離を接近させると、センサと印刷物が接触することで、印刷後の未乾燥な磁気印刷物に汚れ等の傷が発生するという問題があった。
【0008】
また、特許文献1における渦電流損失測定センサを用いた膜厚測定装置は、高周波電流の電流値の変化、高周波電流の位相の変化又はインピーダンスの変化から膜厚を評価するものであり、これを用いて磁気印刷物を測定することも可能であるが、この装置を用いて有価証券及び銀行券等の磁気インキをチェックしようとする場合、磁気材料を樹脂に分散させて作製する磁気インキが導電体でないため、渦電流が励起しないことから、振幅は変化するが位相は変化しない。そのため、磁気インキを渦電流の振幅値のみで評価する場合、外乱ノイズが振幅値に混入した際に、振幅の波形にノイズが重畳されて測定値が正確でなくなる。つまり、渦電流損失測定センサを用いて磁気インキを精度良く測定するためには、位相値が大きく変化するような測定方法や装置が必要となる。
【0009】
以上、詳述したように、従来の磁気材料の測定は、磁性を測定するものであり、磁性を測定するときに位相をも検出するということはなく、渦電流センサを用いて磁気データのアナログ波形を採取することも困難であった。また、本発明のような位相の変化を測定するに際し、渦電流を応用することについては、前例が見当たらない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、有価証券や銀行券等の磁気印刷物を製造する際の品質管理として、印刷された磁気インキのチェック方法、つまり、アナログ波形のデータを採取することで磁気印刷物の正損を判断することであり、印刷後の未乾燥又は乾燥状態の磁気印刷物を印刷部分に損傷を与えることなく、非接触で磁気のチェックを行うことができる磁気印刷物の測定方法及び測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するために、本発明の磁性印刷物の測定装置は、基材上の少なくとも一部に磁気特性を有する領域を設けた磁気印刷物に対して、磁気特性を測定するための交流磁束を受信するコア、一次コイル及び二次コイルを有したコイル型センサ部と交流電流をコイル型センサ部の一次コイルに出力する発振部とを少なくとも備えた非接触式の磁気印刷物の測定装置であって、コイル型センサ部と一定の間隔を設けて対向して配置され、一次コイルの交流磁束を受け、表面に誘導電流及び誘導磁界を発生させる機能と、コイル型センサ部との間に静電結合を形成する機能とを併せ持つ静電結合部材と、発振部が出力した交流信号と二次コイルが検知した検知信号をもとに磁気印刷物による電流の位相値を演算する位相検出部とを更に備え、位相検出部で得られた位相値を磁気特性とすることを特徴とする磁気印刷物の測定装置である。
【0012】
また、本発明の磁性印刷物の測定装置におけるコイル型センサは、コアの上に一次コイルを巻装し、二次コイルは、一次コイルより大きな直径で少なくとも一部分が一次コイルを覆うように巻装された磁気印刷物の測定装置である。
【0013】
また、本発明の磁性印刷物の測定装置は、コイル型センサ部と静電結合部材とを少なくとも覆い、静電結合の調整状態が変動しないように取り囲んでシールドする静電シールド筺体を設けた磁気印刷物の測定装置である。
【0014】
また、本発明の磁気印刷物の測定方法は、基材上の少なくとも一部に磁気特性を有する領域を設けた磁気印刷物の測定方法であって、コイルに交流電流を流し、発生する交流磁界により誘導電流を発生させ、かつ、コイルとの間に静電結合を発生させる静電結合部材とを一定の間隔を設けて配置し、コイルと静電結合部材の間に静電結合を発生させ、その時の位相を基準とし、コイルと静電結合部材との間に磁気印刷物を挿入し、磁気印刷物の磁気特性を有する領域において、誘導電流が減衰したときの位相を測定し、基準とした位相と減衰したときの位相との差を磁気特性とすることを特徴とする磁気印刷物の測定方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、基材上の少なくとも一部に磁気特性を有する領域を設けた磁気印刷物の測定装置において、コイル型センサと一定の間隔を保った位置に静電結合部材を備えたことにより、コイル型センサ部と静電結合部材の間に印刷後の未乾燥又は乾燥状態の磁気印刷物を挿入した際に、位相の変化が大きく得られるようになり、印刷部分に傷を付けることなく、非接触式で、かつ、高い精度により磁気印刷物の磁気特性を有する領域に対してアナログ波形のデータを採取することができるようになったことにより、磁気印刷物の正損を容易に判断することができ、品質管理に有効となった。また、静電シールド筺体によって電界的なシールドを形成し、周囲の静電ノイズが阻害しないようにすることにより、安定して磁気印刷物を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】導電性膜に発生する誘導電流(渦電流)を説明した図である。
【図2】本発明の原理である、磁気インキの位相値を評価する方法を示す図である。
【図3】コイル型センサ部を用いた非接触式の磁気印刷物測定装置を示す図である。
【図4】2次コイルの適切な位置を求めるために、3次元電磁界解析ソフトにより計算を行った解析結果を示す。
【図5】本発明のコイル型センサ部の構成を示す。
【図6】コイル型センサ部と静電結合部材の距離に対する検知レベルの関係を示す。
【図7】実施例を説明する図である。
【図8】実施例による測定方法と測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる発明を実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている技術の範疇であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0018】
本発明において、磁気印刷物の磁気特性を有する領域を形成するものとして、磁性材料を用いた磁気インキによる印刷により形成した磁気印刷物を用いて説明するが、これに限定されず、磁性材料を塗布して得られる塗膜等により形成しても良い。
【0019】
通常、磁気印刷物の磁気インキの透磁率の変化を評価する場合、リング型磁気ヘッド又はMRヘッドを磁気印刷物に接触させてスキャンすることにより、透磁率による磁束の変化を直接的に測定するが、本発明は、コイル型センサに高周波電流を流して高周波磁界を発生させ、この磁界内に静電結合する材料(以下「静電結合部材」という。)を置き、電磁誘導作用により静電結合部材に渦電流を流し、コイル型センサが静電結合部材の交流振幅及び位相を測定した状態を基準にして、磁気特性を有する領域において、誘導磁界が減衰したときの位相の変化から、間接的に透磁率の変化を評価するものである。
【0020】
次に、本発明の基本となっている公知技術の誘導電流の原理を説明し、さらに、本発明が、公知技術である誘導電流の理論に、静電結合の理論を複合させて、印刷物の磁気インキの測定を可能とする発明の原理を説明する。
【0021】
図1は、従来公知の技術として、導電性膜に発生する誘導電流(渦電流)を説明した図である。図1(a)は、単純なコイルの模式図を示したもので、コア材1には、高い比透磁率のフェライト材料を用い、フェライトの上の全面に巻線2を巻いたものである。このコイルに交流電流を流して交流磁界を発生させ、ここに導電性膜3を接近させると、図1(b)に示すように、電磁誘導により渦電流4が励起されて誘導電流が流れる。
【0022】
本発明の磁気印刷物の測定方法及び測定装置は、磁気印刷物における磁気インキのチェック、すなわち、スキャンにより得られるアナログ波形のデータを採取することである。それによって、印刷機等の搬送機構により搬送される過程において、印刷後の未乾燥又は乾燥状態の磁気印刷物を、印刷部分に損傷を与えることなく、非接触で磁気のアナログ波形のデータを採取することができるものである。
【0023】
本発明は、品質管理を目的としたアナログ波形のデータの採取である。これに対し、従来公知によるアナログ波形のデータは、機械読取による真偽判別に用いられるものであるので、本発明の場合のように、アナログ波形の生のデータのみでは、機械読取に利用することができないため、得られたアナログ波形のデータを基に、閾値によってデジタル化(2値化、3値化、4値化・・)し、あらかじめ記憶した真正のデジタルデータと比較照合して、自動化によりリジェクトするものである。
【0024】
図2は、従来公知の誘導電流の原理と本発明の磁気インキを評価する原理を表す概略図と断面図である。図2(a)は、従来公知の誘導電流の原理を示しており、図2(b)は、本発明の原理として、従来公知の誘導電流に静電結合の理論を複合させた発明の原理を示している。図2(a)及び(b)を用いて、本発明における静電結合部材6が、静電結合の機能と誘導電流発生の機能を併せもつことを説明する。ここで、図2(b)に示す静電結合部材は、見た目上、図1の導電性膜と同様であるが、誘導電流の原理及び静電結合の機能を併せ持つ部材である。
【0025】
図2(a)は、コイル型センサ部5から発生する交流の磁束が導電性膜3に当たった際に、電磁誘導により誘導電流を励起し(一般に、渦電流4と呼ぶ。)、さらに、この誘導電流がもとになり、再び誘導磁界が励起された状態を示している。
【0026】
図2(b)は、本発明のコイル型センサ部5と静電結合部材6によって、磁気インキ7を評価する原理を示している。図2(b)は、図2(a)の原理により、再励起した誘導磁界の発生した部分に磁気インキ7で印刷された印刷物を挿入することにより、磁気インキ7が誘導磁界を減衰している状態を示している。つまり、本発明では、コイル型センサ部5が直接、磁気インキ7を測定するのではなく、コイルと静電結合部材との間に静電結合を構成しておき、磁気インキ7を挿入した際の位相の変化を測定する。
【0027】
図3は、本発明を実施するための第1の実施の形態に係る測定装置の一例であり、例えば、磁気印刷物等の紙葉類の印刷に適用する磁気インキの位相を、非接触で検知するコイル型センサ部5を用いた非接触式の磁気印刷物の測定装置として構成されている。
【0028】
本実施の形態における磁気印刷物の測定装置は、コア、一次コイル10及び二次コイル11を有したコイル型センサ部5を備え、発振部8、位相検出部9及び静電結合部材6から構成される。被検知印刷物としては、例えば、磁気インキで印刷された有価証券及び銀行券等の紙葉類であり、搬送装置により搬送されるか、又はコイル型センサの下に静止して配置する。
【0029】
コイル型センサ部5のコア1の材料は、透磁率及び飽和磁束密度が大きく、かつ、保磁力が小さい必要がある。材料としては、フェライト(例えば、初透磁率580、飽和磁束密度4450、保磁力0.01)、センダスト(例えば、初透磁率60、飽和磁束密度11000、保磁力0.02)、パーマロイ(例えば、初透磁率40、飽和磁束密度8000、保磁力0.01)を用いることが好ましい。
一次コイル10は、コア1の上に巻き、一次コイルの巻線2は、一次コイル10に印加する周波数及び出力レベルにおいて、静電結合部材6の上に誘導電流(渦電流)を発生させることができるような、線の太さ、巻数、巻き幅及び直径の巻線とする。二次コイル11は、一次コイル10より大きな直径で巻き、二次コイルの巻線2は、静電結合部材6の上に発生する誘導電流(渦電流)の振幅と位相の変化を検知することができるような太さ、巻数、巻き幅及び直径の巻線とする。また、二次コイル11の巻き幅は、一次コイル10より短いことが好ましい。なお、コア1と一次コイル10の間に誘電体の層を配置しても良い。
【0030】
一例として、発振部の周波数は、誘導電流を発生しやすい周波数であれば良く、好ましくは数十kHz〜数百kHzの正弦波の交流信号が良い。
【0031】
位相検出部9は、デジタルロックインアンプ16等を用い、発振部8が発振した交流信号と、二次コイル11が検知した検知信号をもとに、位相の値を演算する。
静電結合部材6は、厚さ0.25mmのアルミの板を用いた。
【0032】
静電結合部材6は、一次コイル10の交流磁束を受けて、表面に誘導電流、誘導磁界を発生させる機能と、コイル型センサ部5と静電結合部材6の間に静電結合を形成する機能を併せもつことにより、磁気印刷物14に交流磁束を印加した際の、磁気印刷物14による位相の変化を高精度に得られるようにした。磁気印刷物14により位相が変化するように設定する要点は、最初に、周波数、一次コイルと二次コイルの線の太さ、巻数、巻き幅及び直径の条件を選定し、次に、静電容量結合を形成することができるように、静電結合部材6とコイル型センサ部5の間の距離及び静電結合部材6の寸法を適宜設計する必要がある。また、静電結合部材6の材料は、銅、銀、金又はクロム等、種々の材料が取り得るが、材料によって、静電結合部材6とコイル型センサ部5の距離が異なる。また、材料によって磁気印刷物14による位相値の変化する量も異なる。
【0033】
次に、図3を用いて、コイル型センサ部5と静電結合部材6の対向間隔内に磁気インキで印刷された磁気印刷物14を配置して、非接触式により位相の変化を測定する実施の形態として、搬送機構により搬送する場合を説明する。
【0034】
紙の表面に磁気インキ7で印刷された磁気印刷物14を、搬送機構により搬送する過程において、コイル型センサ部5と静電結合部材6とが、搬送部(図示せず)を挟んで所定の間隔をもって対向して配置される。コイル型センサ部5と静電結合部材6の対向間隔内は、コイル型センサ部5の一次コイル10が発生した交流磁界によって、静電結合部材6に渦電流4が分布しており、磁気印刷物14が搬送されてくると、対向間隔内では、磁気インキ7が誘導磁界を減衰する。つまり、コイル型センサ部5により直接に磁気インキ7を測定するのでなく、コイル型センサ部5が静電結合部材6の交流振幅及び位相を測定した状態を基準にして、磁気インキ7が誘導磁界を減衰した際の位相の変化を測定して、間接的に磁気インキ7の透磁率の変化とする。なお、人為的に位相の変化の値を読み取って、あらかじめ決めた基準値と照合することにより、磁気印刷物の品質を検査することも可能である。
【0035】
以上のように構成された測定装置によれば、コイル型センサ部5と静電結合部材6を一定の対向間隔に保っているため、対向間隔内における磁気印刷物の磁気インキを、非接触で検知することが可能となる。
【0036】
図4は、コイル型センサ部5の二次コイル11の適切な位置を求めるために、3次元電磁界解析ソフト(EM-Studio)により計算を行った解析結果を示す。
図4(a)は、コイル型センサ部5の寸法等の設計値を3次元電磁界解析ソフトにモデリングとして入力した際の図である。変化させるパラメータは、二次コイル11の位置と金属板12を移動した際の位置である。二次コイル11の位置は、face8(最上部)からface1(最下部)までの間を変化させた。金属板12とコイル型センサ部5の距離を0.1mmに固定し、金属板12を磁束方向と直交する方向に移動させながら順次演算を行い、解析を行った。図4(b)は、位相値の解析結果を示している。図4(b)の結果から金属板12の移動において、位相値が最も大きかった二次コイル11の位置は、金属板12に最も近いface1であった。
【0037】
図4の解析結果から、本実施の形態におけるコイル型センサ部5の構造を、図5のように、コア1の上に一次コイル10を巻装し、一次コイル10の下部に、一次コイルを覆うように二次コイル11を巻装し、周囲をシールド材13で囲う構造とした。二次コイルは、一次コイルを一部分覆っていれば良く、一次コイルのないところに巻装しても良い。
シールド材13は、周囲に近接する物体の静電容量によって、コイル型センサ部5と静電結合部材6の間に形成した静電結合の調整状態が変動しないように取り囲んでシールドするものである。
【0038】
図6を用いて、コイル型センサ部5と静電結合部材6の間の静電結合について説明する。図6(a)は、3次元電磁界解析ソフト(EM-Studio)により計算を行った際の、モデリングを示している。図6(b)は、コイル型センサ部5と静電結合部材6の距離Lを変化させて、位相値を解析した結果を示している。その結果、図6(b)のグラフを見ると、距離Lが0.02mmのときにカーブの形状が突出していることから、この距離が、コイル型センサ部5と静電結合部材6によって静電結合を形成するための距離の条件である。この解析結果から、静電結合部材6の機能は、誘導電流(渦電流)を発生させる機能のみでなく、静電結合を形成する機能もあることが分かり、静電結合の機能を用いることで導電性の低い磁性材料も精度良く測定することができる可能性がある。
【0039】
さらに、本発明の測定方法及び測定装置は、磁気を測定する方法や測定装置を目的として制限されるものではなく、少なくとも1種類の磁性材料を適切なデザインで印刷することによって、真偽判別方法としても用いることができる。
【0040】
次に、本発明の第2の実施の形態における測定装置について説明する。図7に示すように、本実施の形態2における測定装置は、図3に示した測定装置に、更に演算結果表示部15、筺体17を追加して構成される。第1の実施の形態の測定装置と同一の部分には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0041】
図7の測定装置は、コイル型センサ部5、静電結合部材6、発振部8、位相検出部9及び演算結果表示部15より構成される。コイル型センサ部5は、周囲をシールド材13で囲い、コイル型センサ部5と静電結合部材6の周囲を筺体17で囲った。
【0042】
演算結果表示部15は、二次コイル11による検知電圧信号及び参照信号として発振部8による正弦波の入力をもとにした演算結果を表示する。デジタルロックインアンプ16(NF回路ブロック社製 LI5640型)を用い、これに内蔵された演算機能を利用した。
【0043】
筺体17は、周囲に近接する物体の静電容量によって、コイル型センサ部5と静電結合部材6の間に形成した静電結合の調整状態が変動しないように取り囲んでシールドするものである。
【実施例1】
【0044】
本発明の第2の実施の形態における測定装置である図7を用いて、本発明の磁気印刷物の磁気インキを非接触で検知が可能となる測定方法の実施例を説明する。
【0045】
コイル型センサ部5は、図5に示す構造とし、コア1の材料は、フェライトを用いた。発振部8の信号は、周波数100kHzの正弦波とした。
【0046】
静電結合部材6は、寸法20×20mm、厚さ0.5mmのアルミ板とした。コイル型センサ部5との相対的な距離を1mmにして、印刷機にコイル型センサ部5及び静電結合部材6を搭載した場合に、磁気印刷物14が上下に変動しても接触しない距離とした。
ここで、静電結合部材6とコイル型センサ部5との相対的な距離が、3次元電磁界ソフトの結果では、距離0.02mm(図6)であったのに対して、本実施例の装置では、距離を1mmとした。この理由は、コイル型センサ部5の外周に設けたシールド材13の寸法を26×34×24に、板厚を1mmに、材質を真鍮製としたことから、シールド材の厚さと静電結合部材の間に静電容量が発生したため、3次元電磁界ソフトの距離0.02mmにはならず、距離1mmになった可能性がある。このように、本発明の測定装置を作製する場合は、静電結合部材6とコイル型センサ部5と間の静電容量に影響を与える諸々の条件に注意して設計する必要がある。
【0047】
位相検出部9及び演算結果表示部15は、デジタルロックインアンプ16(NF回路ブロック社製 LI5640型)を用い、これに内蔵された演算機能を利用した。デジタルロックインアンプ16への入力は、入力信号として二次コイル11による検知電圧信号と、参照信号として発振部8による正弦波をそれぞれ入力し、これらをもとにして演算した結果をデジタルロックインアンプ16の前面パネルにあるデジタル表示器に表示し(演算結果を表示する)、この値を読み取って位相値の測定を行った。
【0048】
測定用の磁気印刷物14に用いる磁気材料は、磁性酸化鉄と軟磁性ステンレス粉の2種類を選定した。これらの材料は、一例であり、磁気材料であればどのような材料でも良い。また、磁気インキの塗膜が板のように厚い場合は、コイルセンサの発した交流磁界がこれに遮蔽されて、静電結合板まで届かないため、測定が困難となる。そのため、実施する場合は、オフセット印刷や凹版印刷による厚さの程度である必要がある。
【0049】
磁性酸化鉄の粉末での特性は、飽和磁束密度が56emu/g程度で、保磁力が134e程度であり、軟磁性ステンレス粉の粉末での特性は、飽和磁束密度が128emu/g程度で、保磁力が44e程度である。この2種類の磁性材料をワニス等(詳細は、省略する。)に配合して、公知のインキ作製方法に基づいて、それぞれ磁性インキを作製した(以下、磁性酸化鉄を用いたインキを「酸化鉄インキ」、ステンレス粉を用いたインキを「ステンレス粉インキ」という。)。インキ中の磁性材料の割合は、酸化鉄インキ及びステンレス粉インキの両方において5weight%とした。これら2種類の磁気インキ7を用いて、オフセット印刷方式により、上質紙に、面積40mm×40mm、膜厚約1.0μmでベタ印刷を行い、測定用の磁気印刷物14とした。
【0050】
図8は、図7の装置を用いて酸化鉄インキの磁気印刷物、ステンレス粉インキの磁気印刷物及び基準レベルとして印刷していない紙を測定した結果を示す。各々のグラフの縦軸は、デジタルロックインアンプ16が演算結果表示部15に表示した位相値deg°を示している。
【0051】
図8(a)は、従来公知の方法の例として、コイル型センサ部5で磁気印刷物14を直接測定した状態を示し、図8(b)は、本発明のコイル型センサ部5と静電結合部材6により磁気印刷物14を間接的に測定した状態を示している。図8(c)及び図8(b)は、それぞれ図8(a)及び図8(b)の方式により位相を測定した際の結果を示している。
【0052】
図8(c)の従来公知の測定方法の結果において、ステンレス粉インキ(位相−0.02deg°)は、紙(位相−0,04deg°)に対して僅かながら差別化が可能と考えられる。これは、ステンレス粉が金属系の材料であるため、誘導電流が多少発生しやすいためである。一方、酸化鉄インキ(位相−0.04deg°)は、紙(位相−0.04deg°)に対して差別化が困難であった。この理由は、酸化鉄インキが酸化物であるため、誘導電流が発生し難いためである。
【0053】
図8(d)は、本発明の測定方法を用いた結果であり、ステンレス粉インキ(位相1.29deg°)は、紙(位相0.02deg°)に対して明確に差別化が可能であった。これは、ステンレス粉が金属系の材料であるため、誘導電流が発生しやすく、かつ、図2(b)に示したように、コイル型センサ部5と静電結合部材6の間に静電結合が構成され、ステンレス粉インキが静電結合部材6から発生した誘導磁界を減衰されることで、位相が大きく変化したものである。一方、酸化鉄インキ(位相0.23deg°)は、紙(位相0.02deg°)に対して明確に差別化が可能であった。この理由は、誘導電流は発生し難いものの、コイル型センサ部5と静電結合部材6の間に静電結合が構成され、酸化鉄インキによって静電結合部材6から発生した誘導磁界が減衰されることで、位相が変化したものである。
【符号の説明】
【0054】
1 コア
2 巻線
3 導電性膜
4 渦電流
5 コイル型センサ部
6 静電結合部材
7 磁気インキ
8 発振部
9 位相検知部
10 一次コイル
11 二次コイル
12 金属板
13 シールド材
14 磁気印刷物
15 演算結果表示部
16 デジタルロックインアンプ
17 筺体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に磁気特性を有する領域を設けた磁気印刷物に対して、前記磁気特性を測定するための交流磁束を受信するコア、一次コイル及び二次コイルを有したコイル型センサ部と交流電流をコイル型センサ部の一次コイルに出力する発振部とを少なくとも備えた非接触式の磁気印刷物の測定装置であって、
前記コイル型センサ部と一定の間隔を設けて対向して配置し、前記一次コイルの交流磁束を受け、表面に誘導電流及び誘導磁界を発生させる機能と、前記コイル型センサ部との間に静電結合を形成する機能とを併せ持つ静電結合部材と、
前記発振部が出力した交流信号と前記二次コイルが検知した検知信号をもとに磁気印刷物による電流の位相値を演算する位相検出部とを更に備え、
前記位相検出部で得られた前記位相値を前記磁気特性とすることを特徴とする磁気印刷物の測定装置。
【請求項2】
前記コイル型センサ部は、前記コアの上に前記一次コイルを巻装し、前記二次コイルは前記一次コイルの少なくとも一部分を覆うように巻装された請求項1記載の磁気印刷物の測定装置。
【請求項3】
前記コイル型センサ部と前記静電結合部材とを少なくとも覆い、静電結合の調整状態が変動しないように取り囲んでシールドする静電シールド筺体を設けた請求項1又は2記載の磁気印刷物の測定装置。
【請求項4】
基材上の少なくとも一部に磁気特性を有する領域を設けた磁気印刷物の測定方法であって、
コイルに交流電流を流し、発生する交流磁界により誘導電流を発生させ、かつ、前記コイルとの間に静電結合を発生させる静電結合部材とを一定の間隔を設けて配置し、前記コイルと前記静電結合部材の間に静電結合を発生させ、そのときの位相を基準とし、
前記コイルと前記静電結合部材との間に前記磁気印刷物を挿入し、
前記磁気印刷物の磁気特性を有する領域において、前記誘導電流が減衰したときの位相を測定し、
前記基準とした位相と前記減衰したときの位相との差を前記磁気特性とすることを特徴とする磁気印刷物の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−128500(P2012−128500A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277072(P2010−277072)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】