説明

磁気層構造体を備えるデバイスを製造する方法

磁気層構造体を備えるデバイスを製造する方法であって、−前記磁気層構造体(2)を形成するステップと、−前記磁気層構造体を電流で加熱するステップと
を有し、前記電流が、前記層構造体から前記層構造体の環境(4)への熱伝達特性はほとんどもたらされないような期間を有するパルス(3)になるので、前記電流パルスの前後で前記環境の温度はほぼ同じになる方法が開示されている。熱は層構造体においてかなり消費される。それ故に本方法は、隣接するデバイスのような環境を妨害することなく、磁気抵抗デバイスの磁気又は電気的特性を最適化するため、層構造体における物理プロセスの選択を可能にする。本方法は、有利なことに、ホイートストンブリッジ構成体(16)において構成される異なる磁気抵抗デバイス(12,13,14,15)のバイアス層(5,7)において異なる磁化方向(9,10)をセットするために、又は前記ホイートストンブリッジの出力特性におけるオフセットを低減するために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気層構造体を備えるデバイスを製造する方法であって、
−前記磁気層構造体を形成するステップと、
−前記磁気層構造体を電流で加熱するステップと
を有する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際特許出願第WO 00/02006号公報は、磁気検出(センス)デバイス(magnetic sensing device)の磁気多重層(多層)(磁気マルチレイヤ(magnetic multilayer))においてバイアス層(bias layer)の磁化方向(magnetization direction)をセットする方法を開示している。バイアス層は、少なくとも一つのバイアス層と、少なくとも一つの磁束伝導層(flux conducting layer)と、前記層の間に構成されると共にそれらを反強磁性で接続する少なくとも一つの接続層とから構成される擬似反強磁性(AFF)システム(組織体)(artificial antiferromagnetic system)の部分になる。当該方法において、前記検出デバイスを加熱するために前記検出デバイスの間に電流が加えられる。例えば、温度がバイアス層のブロッキング(阻止)温度(blocking temperature)よりも上まで上昇させられる。加熱の間、磁場(magnetic field)は、セットされるべきバイアス層の磁化方向で加えられる(もたらされる)。所定の期間の後、磁場はスイッチオフされる。それから、前記温度は初期温度に戻され、バイアス層の磁化方向は凍結される。
【0003】
磁気検出デバイスの間に加えられる電流によって生成される熱が環境を加熱し、長い距離に渡って拡散されることに問題はある。磁気検出デバイスの近くにもたらされているデバイスは乱され、特に加えられた磁場が存在する状態において、隣接するデバイスの出力特性は変えられ得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、加熱が磁気層構造体の内部にほぼ集中(局在化)させられる、冒頭の段落に記載の種類のデバイスを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による目的は、電流パルスの前後で前記環境の温度がほぼ同じになるように層構造体から層構造体の環境への大きな熱伝達特性(トランスファ)(heat transfer)はもたらされない期間(duration)を有するパルスに前記電流がなることにより達成される。
【0006】
磁気層構造体は、電流パルスを受ける。電流パルスの期間は、層構造体の環境へのかなり大きな熱伝達特性がもたらされ得る時間規模(スケール)よりも短くなる。層構造体の環境は、例えば上に層構造体がもたらされる基板、空気、電気的絶縁層、又は隣接するデバイスになり得る。電流パルスの短い期間のために、層構造体と層構造体の環境との間に熱平衡(thermal equilibrium)はもたらされ得ない。それ故に、電流パルスに関連する熱は、ほぼ層構造体の内部で消費される。パルスが終了させられた後、熱は層構造体の環境に渡って急速に分散され、環境の中ぐらい程度(適度)の(なだらかな)温度増加(moderate temperature increase)のみがもたらされる。
【0007】
デバイスの磁気層構造体の電気的又は磁気的特性が、付近の温度を変化させることなく、例えば、隣接する電子デバイス又は磁気デバイスを妨害することなく、選択的に変えられ得ることは主な利点になる。
【0008】
国際特許出願第WO 00/79298号公報は、磁気的特性を備える検出システムを製造する方法を開示している。当該システムは、平衡構成体(balancing configuration)、例えばホイートストンブリッジ(Wheatstone bridge)構成体における磁気デバイスのセットを含んでおり、基本的に前記デバイスの各々は、それらの間に非磁性物質(non-magnetic material)の少なくとも一つの分離層(separation layer)を備える少なくとも一つの第一の強磁性層(ferromagnetic layer)及び第二の強磁性層を含む層の構造体を有しており、前記構造体は、少なくとも一つの磁気抵抗効果(magnetoresistance effect)を有している。当該方法は、前記システムの少なくとも一部分に渡って外部磁場がもたらされる間に、前記セットのデバイスの少なくとも一つを含むシステムの部分を加熱するステップを有しており、前記部分は前記少なくとも一つのデバイスを含んでいる。前記加熱ステップは、前記デバイスへの、若しくは前記デバイスを通じた電子ビーム若しくはイオンビームからのパルス、レーザーパルス、又は電流パルスをもたらすことによって実現され得る。
【0009】
知られている方法の不利点は、かなり長い距離に渡ってなおも大きな熱の拡散がもたらされており、温度が、システムのデバイスの一つの少なくとも全寸法(ディメンション)に渡って上昇させられることにある。デバイスは((数)百μm2のオーダで)かなり大きくなり、温度はデバイスの全寸法に渡って達成されるため、一つのデバイス内の集中させられた加熱は実現され得ない。少なくとも一つのデバイスを加熱することによって、デバイスの環境も加熱される。環境の温度における上昇のために、外部磁場がもたらされるとき、システムの隣接するデバイスの磁気抵抗出力特性は変化させられる。それ故に、知られている方法で、磁気積層(磁気層スタック(magnetic layer-stack))の内部に集中加熱を実現することは不可能である。
【0010】
磁気層構造体から前記環境への熱伝達特性は、熱伝導(heat conduction)に支配される(従う)。磁気層構造体は通常、基板上に設けられるメタル層のスタックを有している。メタル層のスタックの熱容量(heat capacity)は通常、基板の固体物質の熱容量と同じオーダの大きさになるが、空気のようなガスの熱容量はかなりより小さくなる。磁気層構造体が電流パルスを受けるとき、熱前線(ヒートフロント(heat front))は基板に向かって非常に急速に移動する。磁気層構造体の体積と比較して基板のかなり大きな体積のために、層構造体において生成される熱は基板の全体積に渡って急速に分散される。通常、一旦熱が、層構造体の体積の2倍になる体積に分散させられると、当該熱は2のファクタで(2分の1に)降下させられる。
【0011】
それ故に、電流パルスの後の基板の温度は、電流パルス前の温度とほぼ同じに保持される。
【0012】
有利な方法において、電流パルスは、層構造体における物理プロセスを選択するために使用される。このような物理プロセスは、(原子の)拡散、インタフェース部における構成(組成)の変化、抵抗における変化、対秩序(pair ordering)の方向(容易軸方向(方位)(easy axis orientation))若しくは強さの変化、磁化方向の変化、構造若しくは相(アモルファス/結晶/結晶方向)の変化、応力(ストレス(stress))若しくは歪力(strain)の変化、又は表面の近くの(若しくはインタフェース部の近くの)ドーパントの濃度の変化になり得る。
【0013】
一方のある状態から他方のある状態への物理プロセスの遷移(移行(transition))は、これらの状態の間の一つ又は複数のエネルギ障壁(バリヤ)(energy barrier)の存在に依存する。このようなエネルギ障壁は活性化エネルギ(activation energy)とも称される。このような遷移のための時定数は、一つ又は複数のエネルギ障壁高さと、関連するプロセスの全熱エネルギとの間の比率に依存する。通常、当該時定数τは例えば
τ=τ・exp(Ebarrier/kT) のようなアレニウスの式に似た等式で表され得る。ここで、τは、(例えば反転(逆の)試行頻度(reversed attempt frequency)に等しくなり得る)考慮されるプロセスの種類のためのある固定時定数であり、Ebarrierはエネルギ障壁であり、kTは考慮されたプロセスの全熱エネルギである。それ故に、時定数τは温度Tに依存する。短い加熱パルスの場合、達成された温度Tは、加熱の期間(パルス期間)及び加熱の強度(パルス振幅)に依存し、t(T) → t (T(tpulse,Apulse))がもたらされる。ここで、tpはパルス期間であり、Apulseはパルス振幅である。状態の集団(群)(population)又は占有度(occupation)は、いくつのプロセスが、一つ又は複数のエネルギ障壁を乗り越え得るかに依存する。集団は、物理プロセスの時定数tと許容された時間tとの間の比率に依存している。時間依存集団は通常、exp(-t/t)又はexp(-t/t (T(tpulse,Apulse)))のようなポアッソン分布(Poisson-distribution)によって記述される。パルスの後の温度は急速に降下するため、tはtpulseにほぼ等しくなる。
【0014】
従って、磁気多重層の1スタック内で、固有(真性)物質パラメータt0 及び/又はEbarrierが、多重層スタックの他の層の固有物質パラメータと十分に異なっている場合、直立(直角)パルス時間(right pulse time)及びパルス振幅を使用することによってある磁気層において物理プロセスを選択することが可能である。
【0015】
有利な方法において、電流パルスのより高い振幅及びより短いパルス時間を使用することによってプロセスの間の選択性は向上させられ得る。
【0016】
一連の異なるパルスは、有利なことに、異なる物理プロセスを選択するように加えられ得る。層構造体からそれの環境にあまり熱伝達特性はもたらされないことを保証するようにパルス期間及び振幅が選択されるとき、積層の熱容量及び体積並びに(基板のような)環境が考慮されなければならない。
【0017】
有利な実施例において、前記デバイスは、例えば自動車のアプリケーションのための磁気検出デバイス、磁気記録部、スマートカード(smartcard)、バイオセンサ(bio-sensor)、若しくは例えばモバイル電話において使用される3Dコンパス(3D compass)として、又はデータストレージ(記憶)システム(data storage system)におけるMRAMのような磁気メモリデバイスとして使用される磁気抵抗デバイスになり得る。
【0018】
磁気層構造体は、例えば少なくとも一つの反強磁性バイアス層を有し得る。当該バイアス層は層構造体において擬似(人工)反強磁性(artificial antiferromagnet (AAF))の部分になり得る。
【0019】
バイアス層の磁化方向をセットするための有利な方法において、磁場が短いパルスの間に加えられ、当該磁場は、バイアス層の温度がネール(

)温度よりも下まで低下させられた後にスイッチオフされる。当該ネール温度は、当該温度より上で、磁気秩序(magnetic ordering)が反強磁性体(antiferromagnet(AF))において消滅するクリティカル(臨界)温度である。クリティカル温度は、下から接近させられるため、部分格子(サブ格子(sublattice))磁化は連続的にゼロ(zero)まで降下する。AF層の粒子(グレイン(grain))内の磁気モーメント(magnetic moment)は秩序付けられるネール温度より下までバイアス層が冷却された後、磁場をスイッチオフすることは重要である。好ましくは、磁場はブロッキング温度より下でスイッチオフされる。ブロッキング温度は通常、ネール温度よりも低くなり、全ての粒子の集合体(アンサンブル(ensemble))の平均磁化がほぼゼロになる温度として規定される。磁化の回転(ローテーション(rotation))も、一つ又は複数のエネルギ障壁を含む物理プロセスであるため、ブロッキング温度は、当該温度が測定される時間スケール(規模)に依存することは明らかである。考慮された時間スケールが減少するとき、ブロッキング温度は増大する。
【0020】
デバイスは、いくつかの磁気抵抗デバイスを有する磁気システムの製造において使用され得る。磁気システムは、多くの磁気抵抗デバイスを有する記憶システム又は磁気検出システムになり得る。
【0021】
好ましくは、少なくとも四つの磁気抵抗デバイスがホイートストンブリッジ構成体で構成されると共に形成される。ホイートストンブリッジ構成体における磁気抵抗デバイスの出力特性は、別個の磁気抵抗デバイスの磁気抵抗特性よりも温度効果に対する感度が低い。磁気抵抗効果がGMR又はTMR効果に基づくとき、磁場が測定され得るための最大感度を得るために、少なくとも四つの磁気抵抗デバイスのうちの二つの磁化は逆方向にセットされる。同様のプロセスがAMR効果に対して使用され得る。好ましくは、当該方法において、磁気積層の単一の堆積がホイートストンブリッジ構成体で異なる磁気抵抗デバイスに対してもたらされる。最初のステップにおいて、バイアス層の磁化方向は十分な磁場における堆積の間にセットされる。バイアス層は好ましくは、約10乃至100
kA/mの外部磁場において適度な(中程度の)温度で不可逆になる、前記外部磁場の方向に対応する磁化方向を有する。
【0022】
その後、前記ホイートストンブリッジにおける四つの磁気抵抗デバイスのうちの二つは、(非常に)短い電流パルスを受ける。当該電流パルスのために、選択された二つの磁気抵抗デバイスはある温度まで加熱させられる。当該温度が十分に高い場合、同時に強い磁場が加えられる場合、バイアス方向は変化させられ得る。場が存在する状態での冷却の間、磁化方向は反強磁性物質において凍結(フローズンイン(frozen in))される。最初のステップ(すなわち、磁場における成長)は省略されることも可能である。その場合、磁場を反転させると共に、他の二つのブリッジデバイスを通じて電流パルスを送ることによって、後者の二つの構成要素におけるバイアス方向は反転させられる。このように、全機能搭載(フルファンクション)のホイートストンブリッジ構成体は省略され得る。(例えば堆積中に起こり得る)磁化方向におけるばらつき(変動)は、ホイートストンブリッジにおけるオフセットばらつきをもたらし、この方法において大いに防止され得る。
【0023】
ホイートストンブリッジにおいて磁気抵抗デバイスの出力特性におけるオフセットを補償するために、電流パルスを使用することは非常に有利となる。電流パルスは単一の磁気抵抗デバイスの抵抗値をトリミング(調整)するために使用され得る。
【0024】
ホイートストンブリッジにおける各々の磁気抵抗デバイスの抵抗は、他の磁気抵抗デバイスを乱すことなく選択的に変化させられ得る。トリミングのために通常必要になる特別のトリミング抵抗が省略され得るため、抵抗を調整(チューニング)するための電流パルスの使用は特に有用となる。他の主な利点は、磁気抵抗デバイスのパッケージング後にオフセット補償がもたらされ得ることにある。パッケージングプロセスの間の抵抗値における変化はその後補償され得る。その結果値は、低減されたオフセットになる。
【0025】
層構造体の層の混合(インタミキシング(intermixing))のために、電流パルスは磁気抵抗デバイスの抵抗値を増大させ得る。磁気抵抗層構造体から欠陥(defect)をアニールでなくす(アニールアウトする)ために、抵抗値を低減することも可能である。それ故に抵抗値は、より高い値又はより低い値に不可逆的に変化され得る。
【0026】
ホイートストンブリッジ構成体の有利な実施例において、同じバイアス方向を有するブリッジの磁気抵抗素子は、例えば曲折(メアンダ)構造(meander structure)で非常に近くに集められるが、逆(反対)のバイアス方向を得る磁気抵抗素子の他の対は、他の集められた対からある距離において曲折構造で非常に近くに集められる。利点は、電流パルスによる加熱が、互いに非常に近くに位置される曲折素子においてほとんど同じになることにある。電流パルスは、同じコンタクト(接触)パッド(contact pad)を使用することによって同時に加えられ得る。この構成体は、有利なことに、磁場若しくは温度勾配(gradient)において粒子を測定するためにも使用され得るか、又は例えば流量計(フローメータ(flowmeter))としても使用され得る。
【0027】
本発明のこれら及び他の特徴及び利点は、本発明の動作原理を例示によって示す添付図面に関して、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。本記載は、本発明の範囲を限定することなく例によってのみもたらされる。以下に引用される参照番号は添付図面を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
磁気層構造体2を備えるデバイス1を製造する方法において、層構造体の近くに、又は層構造体を通って短い電流パルス3が加えられる。
【0029】
図1は、スパッタ堆積によって形成される磁気多重層構造体2を示す。GMR多重層スタックは基板21(例えばガラス、シリコン酸化物層を備えるSiのような半導体物質、又はAl2O3のようなセラミック物質)の上に堆積される。必要ならば、結晶学的な組織構造体又は一つ若しくは複数の後続層の粒子の大きさを緩和するためのバッファ層が基板上にもたらされる。バッファ層は、Taの第一の下位層(サブレイヤ(sublayer))22(例えば3.5nm厚)と、NiFeの第二の下位層23(例えば2nm厚)とを有していてもよい。バッファ層上において、(例えば10nm Ir19Mn81の)IrMn交換バイアス層24が堆積される。バイアス層の上に、第一のCo90Fe10層25(例えば4.5nm厚)と、Ru層26(例えば0.8nm厚)と、第二のCo90Fe10層27(例えば4.0nm厚)とを有する擬似反強磁性(AAF)スタックがもたらされる。AAFスタック上に、非磁気スペーサ(spacer)層28が堆積される。スペーサ層28は、銅(Cu)型物質になり得る。銅型によって、銅(例えば2.2nm厚の銅)又は更なるメタル、特に銀(Ag)との銅のアロイ(合金)が意味される。スペーサ層の上に、Ni80Fe20層30(例えば9nm厚)を保持するCo90Fe10の層29(例えば1.2nm厚)がもたらされる。保護層31(例えば10nm Ta)が層組織(系)をカバーする。
【0030】
交換バイアス物質6(IrMn)は以下AF1と称される。層の並び(シーケンス)部4.5 CoFe/ 0.8 Ru/ 4.0 CoFeは擬似反強磁性体(AFF)と称される。Co90Fe10の層29及びNi80Fe20層30は以下ともに自由層(free layer)と称される。
【0031】
また、上記の磁気層構造体(3.5 Ta/2.0 NiFe/10.0 IrMn/4.5 CoFe/0.8 Ru/4.0 CoFe/2.2 Cu/1.2 CoFe/9.0 NiFe/10.0 Ta)は反転され得る。
【0032】
代わりに、好適なTMR多重層スタックは、5.0 Ta/30.0 Cu/3.5 Ta/2.0 又は 3.0 NiFe/10.0 IrMn/4.0 CoFe/0.8 Al酸化物/5.0 NiFe/10.0 Taになり得る。
【0033】
本方法の有利な実施例において、短い電流パルス3が、図1のGMR多重層構造体を通じて加えられる。このことは、磁気多重層スタックの間に短い電圧パルスを加えることによって行われ、それによって、電流パルスが誘導される。ある期間及び振幅の電圧パルスを加えることによって、磁気多重層スタックは加熱される。これは、‘電流パルスアニーリング’と称される。電流パルスの期間及び振幅は、多重層スタックの内部のある温度に対応する。スタックのある程度の導電性及びスタックのすぐ近くのある程度の導電性が、本方法を適用するために必要とされる。
【0034】
上記のTMRスタックにおいて、電流パルスは、酸化物を損傷させ得るので、層構造体を通じて送られ得ない。その場合、電流パルスは、TMRスタックの近くに位置される導電体を通じて送られ得る。導電体トラックは例えば基板上に位置されることが可能であり、薄いシリコン酸化物層によって層スタックから分離されることが可能である。
【0035】
実験によれば、約1000Vの電圧での静電放電(破壊)(ESD)事象における約100乃至250nsの非常に短いパルスが、MR多重層スタックの抵抗値Rのかなりの変化をもたらすことはなく、磁気抵抗効果ΔR/Rの変化をもたらすこともないことが示されており、当該パルスはブロッキング温度(約290℃)より上までデバイスを加熱することが示されている。
【0036】
40msのパルス期間及び160Vの電圧は、結果としてほぼ10nm厚のIrMnのブロッキング温度、すなわち約290℃の温度をもたらす。
【0037】
図2は、温度の関数としての多重層スタックの計算された平方(スクエア)抵抗(square resistance)を示す。図2における曲線形状を説明するために、多重層スタックのいくつかの重要な物質パラメータが表1に一覧表示されている。
【表1】

【0038】
表1は、様々な物質の抵抗率(レジスティビティ(resistivity))及び温度係数をまとめている。温度係数は、10nmのかなり厚い層に対して測定されている。抵抗率は膜(フィルム(film))の厚さに依存しているので、特に10nmより下の膜厚に対して膜厚が減少させられると抵抗率は増大する。膜厚が減少させられる場合、より高い抵抗をもたらす、インタフェース部における散乱効果はより重要になる。GMR多重層スタックの全厚さは通常、40nmよりも大きくなる。
【0039】
表1において、抵抗率は層厚さから独立していることが仮定されている。
【0040】
非線形な特性を示すIrMnを除いて、ほとんどの物質は一定の温度係数を示す。20℃と80℃との間で、温度係数は3000ppm/Kになるが、より高い温度において温度係数は減少する。
【0041】
この特定の実施例において、電流パルスが100msよりも短い期間を有しているとき、多重層構造体から多重層構造体の環境へのかなり大きな熱伝達特性はもたらされず、電圧パルスの振幅は約160Vになっている。電流パルスの前後の基板の温度はほぼ同じになっている。近くの磁気抵抗デバイスの出力特性への影響は観測されない。
【0042】
デバイスの製造方法の用途は、例えば、自動車の用途のための磁気検出システム、磁気記録部、バイオセンサ、モバイル電話における3Dコンパス、MRAMのようなデータストレージシステム、IC、磁気スタック、電気スタック等多岐に渡る。
【0043】
電流アニールプロセスは、多重層スタックにおいてバイアス層5の磁化方向9をセットするために数百ミリ秒又はそれよりも速い時間スケールで電流パルスを使用する。正確なプロセスが図3に記載されている。時点
【数1】

において、強い磁場が所望の方向(破線)に加えられる。t2において、磁気層構造体のブロッキング温度(実線)よりも上にまでデバイスを加熱するのに十分なほど高い電流パルス3が磁気層構造体に加えられる。t3において電流はスイッチオフされる。電流パルスの期間は、数百ミリ秒の範囲(レンジ)又はそれよりも速い範囲(t3-t2< 100 ms)内にもたらされるべきである。電流パルスはブロッキング温度よりも上にまでバイアス層5を加熱し、バイアス層5の磁化方向9は、加えられた磁場の方向で(リ)セットされる。前記温度が破線で示されている。磁気多重層構造体は冷却させられる一方で、磁場がなおももたらされていることは非常に重要である。t4において磁場はスイッチオフされ得る。
【0044】
電流パルスの期間は当該プロセスに重要な役割を果たす。図4aにおいて、二つの隣接(近接)するデバイスの磁気抵抗曲線が示されている(曲線1及び2)。デバイスの間の距離は300μmである。図4bは、反転された場が存在する状態においてたった一つのデバイスのバイアス方向(曲線1)が2秒の電流パルスによってわざと反転させられた後の二つのデバイスの出力曲線を示す。他のデバイスのバイアス方向が回転させられていることも明らかである。図4cにおいて、前記一つのデバイスのバイアス方向(曲線1)が140msの電圧パルスによってわざと反転させられている。非常に短い電流パルスを使用することによって、個々のデバイスの磁化方向を、当該デバイスの隣接デバイスのバイアス方向に影響を及ぼすことなく(曲線2は変化させられない)、反転させることは可能である。デバイスがたった100μmしか離れていないときでさえ、当該パルシング(pulsing)技術はなおも働いている。ずっとより速い電流パルスが使用される場合、隣接するデバイスの間の距離は更に低減させられ得る。
【0045】
GMRセンサ(検出器)において使用されるもののような物質の多重層スタック又は物質の抵抗は、スタックが加熱されるとき変化させられる。当該抵抗率における変化は、部分的に可逆的であり、部分的に不可逆的になる。
【0046】
抵抗率における不可逆変化は、抵抗が減少することを意味する負性(ネガティブ(negative))になり得る。例えばこのことは通常、物質における欠陥のアニーリングによってもたらされる。欠陥は、伝導電子に対して捕獲中心(トラッピングセンタ(trapping center))になり、物質の抵抗率に影響を及ぼすであろう。
【0047】
前記不可逆変化は、抵抗が増加することを意味する正性(ポジティブ(positive))にもなり得る。このような効果は通常、物質の混合をもたらす拡散効果によって引き起こされる。温度に依存して抵抗変化は小さくもなり、又は大きくもなることが可能であり、このことは抵抗が、好適な温度を使用することによって永続(恒久)的に変化させられ得ることを意味する。
【0048】
図5は、抵抗の間に加えられる電圧パルスの高さの関数としての、図1のGMR多重層スタックの抵抗における変化を示す。この場合、パルス時間は40ミリ秒になっている。160Vパルス高さにおいてバイアス層の回転は完了させられており、このことは、前記温度が、通常の測定時間を使用してVSMによって決定されるように約290℃である交換バイアス物質IrMnのブロッキング温度に近いことを示す。パルス高さを増大させることによって、抵抗を通じる電流はより高くなり、抵抗の温度は増加する。増加させられた温度は、相互拡散(interdiffusion)の効果を高める。200Vにおいて、抵抗はほぼ2%で増大させられている。
【0049】
先行する例において、二つのプロセス、すなわち磁化回転及び拡散はデバイスにおいて展開する。他の用途の場合、当該プロセスをそれらの活性化エネルギにおける差を使用することによって分離することが必要である。このことは以下に記載されるであろう。図6は、反強磁性物質AFと接触している強磁性(FM)物質を含む構成体のためのAF物質における磁化方向の関数としての全エネルギを概略的に示している。AF物質は、絶縁分離された粒子を含む多結晶であることが仮定される。加えられた場がない場合に、AF及びFM層における磁化は同じ方向にもたらされ、AF粒子における磁化方向は粒子の異方(性)軸(anisotropy axis)に沿っていることが仮定される。すなわち、磁化は磁気モーメントn1(T,t)の集団を備えるエネルギ最小の状態にもたらされる。この場合、強い磁場が逆方向に加えられる場合、FM層における磁気モーメントは場に応答すると共に場の方向に向けられるであろう。同時に当該磁気モーメントは交換バイアス結合体を介してAF粒子における磁気モーメントを反転させようとするであろう。AF粒子における磁気モーメントは既にエネルギ最小状態にもたらされているため、当該磁気モーメントは逆方向に向かってすぐに回転しないであろう。逆方向もエネルギ最小状態であるが、十分な熱エネルギが加えられない限り磁気モーメントによって乗り越えられ得ない両方のエネルギ最小状態はエネルギ障壁ΔEによって分離される。それ故に熱エネルギkBTとエネルギ障壁ΔEとの間の比率は、AF粒子における磁化のスイッチング特性にとって重要になり、磁化全体が温度の関数になるであろう。熱の揺らぎ(変動)の統計的な振舞いのために、磁気モーメントがエネルギ障壁を通過するかどうかは時間及び温度の問題になるであろう。それ故に、磁化全体は時間及び温度の関数にもなるであろう。電流パルスアニール技術を使用することによって、時間及び温度は、所望の磁化方向を実現するために制御され得る。
【0050】
図7は、一定の温度において異なるエネルギ障壁を備える異なる物理プロセスを概略的に示す。プロセスの間の選択は、変化するパルス期間及び振幅の電流パルスを選択することによって得られる。
【0051】
異なる曲線の垂直軸は、例えば角度、抵抗、結晶状態のような異なる特性を表す。位置及び曲線形状は、使用される温度及び物質に依存している。
【0052】
上記の選択電流パルスアニール処理の間に行われる(局所的な)プロセスは、(原子の)拡散、インタフェース部における構成の変化、対秩序の方向(容易軸方向)若しくは強さの変化、磁化方向の変化、構造若しくは相(アモルファス/結晶/結晶方向)の変化、応力若しくは歪力の変化、又は表面の近くの(若しくはインタフェース部の近くの)ドーパントの濃度の変化になり得る。
【0053】
図7における概略的な曲線の例は、
1. 磁化の回転(例えばAF物質1)
2. 磁化の回転(例えばAF物質2)
3. 小さな原子置換(変位)(atom-displacement)による特性(例えば容易軸の回転)
4. 大きな原子置換(変位)による特性(例えば抵抗)
5. 相変化遷移(例えばアモルファス結晶物質1)
6. 相変化遷移(例えばアモルファス結晶物質2)
7. (例えばドーパント又は物質の変化による)絶縁分離状態から(半)導体状態への遷移になる。
【0054】
通常原子置換は当該プロセスに含まれないため、磁化方向の回転は非常に速く起こり得る。
【0055】
NiFe(パーマロイ(Permalloy))膜の異方性の緩和は、対秩序がパーマロイ膜における異方性の主な要因になるため、原子対の再配向(reorientation)を含む。これは小さな原子置換を含むため、通常、当該再配向は磁化の回転よりも遅いプロセスになる。対再配向は、空格子点濃度(vacancy concentration)に直接関連している。これらのプロセスが行われるために必要な時間は、t = to exp EA/kBTによって近似される。自由層における対秩序のための活性化エネルギは、固定層(pinned layer)における磁化方向を変化させるための活性化エネルギ(1eV)よりも高くなり(
【数2】

)、
【数3】

となるが、
【数4】

となる(文献:L.Baril氏, D.Mauri氏, J.McCord氏, S.Gider氏, 及びT.Lin氏による“スピン値における自由層異方性の熱緩和(Thermal relaxation of the free layer anisotropy in spin valves)”(ジャーナル応用物理第89巻第2号、2001年1月15日、1320乃至1324頁(J.Appl.Physics, Vol.89, No.2, 15 January 2001, p.1320-1324))。
【0056】
これらの値に基づいて、異方軸は、温度T=800Kで600ナノ秒間、ほぼ完全に回転させられる。比較のために室温T=300Kで、これは2.5年かかる。
【0057】
磁化の回転は最も速いプロセスの一つであり、ナノ秒領域(レンジ)における非常に短いパルス期間で既にもたらされ得るが、拡散プロセスはより遅いプロセスになる。CDレコーディング(記録)のための相変化物質のような例外は存在するが、例えばアモルファスから結晶相へのほとんどの物質の相変化に対して、より大きな電力が必要とされ、そのためパルス期間は通常、ずっとより長くなる。
【0058】
図8は、時間が、二つの異なる効果を分離するために使用され得ることを示す。この場合、抵抗にほとんど影響を及ぼさないパルス時間が選択される一方(曲線4)、当該パルス時間は、AF物質1における磁化の方向を完全に変化させる(曲線1)。
【0059】
異なる曲線の垂直軸は、ここでも例えば角度、抵抗、結晶状態のような異なる特性を表す。
【0060】
例のように、図9は、選択電流パルスアニーリングの方法が有利に適用され得る、異なるブロッキング温度を備える二つの交換バイアス物質5及び7を有する多重層構造体を示す。電流加熱パルスに対して適切な時間及び振幅を選択することによって、スタックにおける一つの交換バイアス層は選択的に変化させられ得る。
【0061】
図9の実施例において、多重層構造体は、更なるスタック32、33、及び34、すなわちx nm Ta/ 4.0 nm CoFe/ 10.0 nm X-Mn/ 10.0 nm Taを備えるGMRスタック3.5 nm Ta/ 2.0 nm NiFe/ 10.0 nm IrMn/ 4.5 nm CoFe/ 0.8 nm Ru/ 4.0 nm CoFe/ 3.0 nm Cu/ 1.2 nm CoFe/ 9.0 nm NiFeを有している。この場合、第一の交換バイアス層5(AF1)はIrMnであり、第二の交換バイアス層7(AF2)はX-Mn(Xは例えばPt又はNiとなる)である。
【0062】
交換バイアスする強さ及び方向の特性は、広い範囲(レンジ)のパルス時間に渡って図10a及び10bに示されている。
【0063】
デバイスの温度は375℃で固定されており、加えられた磁場は逆方向で最初のバイアス方向にセットされる。時間及び温度の影響のために、バイアス方向は0度から180度に変化する。図10aは、IrMn(実線)AF物質とPtMn(破線)AF物質との両方のためのパルス時間の関数としての、正規化された交換バイアスの強さ(normalized exchange
bias strength)を示す。曲線における窪み(ディップ(dip))は、磁化が方向を変えるパルス時間を示す。図10bは交換バイアス方向を示す。1秒よりも長いパルス時間において、IrMn(実線)における交換バイアス場9はほぼ完全に(すなわち、強さだけでなく方向も)変化させられ得る一方、PtMn(破線)の交換バイアス場10はほとんど影響されないことが理解され得る。従って、加熱パルスに対して適切な時間及び温度を選択することによって、スタックにおける一つの交換バイアス層は選択的に変化させられ得る。
【0064】
例において、選択は、以下の物理原理に基づいている。
【0065】
交換バイアス膜は、自身のいわゆるブロッキング温度TBによって特徴付けられる。前記膜の温度がブロッキング温度を超える場合、AF物質における磁化の方向は、加えられた場の方向に容易に変えられ得る(分かりやすくすると、AF物質における磁化方向は、AF物質に交換結合(exchange-coupled)される強磁性層における磁化方向を介して変えられるということである)。かなり異なるブロッキング温度(TB,1及びTB,2)を備える二つの異なる交換バイアス物質を使用することによって、一方の物質の磁化方向は、場が存在する状態で前記物質が(前記物質のブロッキング温度TB,1よりも上まで)加熱されるときに変化させられ得るが、同時に他方の物質は、同じ温度(前記物質のブロッキング温度TB,2よりも下)及び磁場で影響を受けることがない。このように、一つの要素内で二つの異なる交換バイアス方向が独立に実現され得る。
【0066】
図10cにおいて、交換バイアス強さが、異なる温度に対して示されている。
【0067】
短いパルス時間を使用する他の利点が、二つのプロセスの間の選択度は、電流パルスのより高い振幅(温度)及びより短いパルス時間を使用することによって高められ得ることにあることをこの図は明確に示している。
【0068】
IrMn及びPtMnに対するブロッキング温度は、VSM測定によって測定されている。その結果は図11にもたらされている。当該図は、温度の関数としての、垂直軸上の交換バイアス場を示す。IrMn(実線)及びPtMn(破線)は、異なるブロッキング温度を有しており、PtMnはより高いブロッキング温度を有していることが明確に理解され得る。当該図における破線は、AF層における実常用対数(ログ(log))の粗粒子/微粒子大きさ分布(realistic log-normal grain/particle-size distribution)を仮定してAF物質の特性をシミュレートする計算からもたらされる。AF物質の異方性定数及びネール温度は、測定されたデータから抽出されている。
【0069】
様々な期間及び振幅(又は特定の期間及び振幅の一つの短電流パルス若しくは超短電流パルス)の一連の短パルス及び超短(電流及び将来的にはレーザ)パルスを利用して、スタックにおける異なるプロセス及び異なる位置でのスタックにおけるプロセスが選択的に影響を受け得る。他のいかなる方法でも最適化され得ない当該方法でスタックの特性を最適化することが可能である。磁場及び/又は電場、機械的な応力、並びにガス流量(フロー)等が‘電流パルスアニール’処理の間に加えられ得る。
【0070】
電流パルス方法は、有利なことに、磁気特性の検出システム11におけるデバイスのような磁気デバイスを製造するために使用され得る。磁気センサは、特に自動車産業における全種類の用途に対して広く使用されている。ABSブレーキシステムにおける用途及び自動車用途における回転速度測定に対して、センサはAMR(異方性性抵抗(Anisotropic Magneto Resistance))効果に基づき得る。例えばGMR(巨大磁気抵抗(Giant Magneto Resistance))、NOL(ナノ酸化物層(Nano-Oxide Layer))を備えるGMR、又はTMR(トンネル磁気抵抗(Tunnel Magneto Resistance))さえも使用する、より感度の高いセンサに対する進行中の関心が存在する。このようなセンサに対する通常の要求仕様は、より高い温度(通常200℃)、低オフセット電圧、低オフセット電圧ドリフト、低雑音、及び低ヒステリシスにおける延長(長時間)動作に対する高い温度安定性を含んでいる。
【0071】
ほとんどの磁気センサは、磁性物質から構成されると共に四つの端子によって互いに接続される四つの抵抗12,13,14, 及び15から構成されるホイートストンブリッジ構成体16に基づいている(図11参照)。磁性物質は通常、AMR, GMR, 又はTMR端子から構成される。四つの端子は入力部及び出力部をブリッジにもたらす。温度独立特性のためにホイートストンブリッジが通常使用され、このような構成体の使用によって少なくともセンサの温度依存特性は非常に低減される。ブリッジは二つの端子(例えば図11における端子A及びD)によって電圧源又は電流源に接続される。
【0072】
有利な実施例において磁気デバイスは、回転速度検出のためのGMRセンサになる。センサレイアウトは、0.3 mm2よりも小さな活性領域を備える完全な(フル)ホイートストンブリッジ構成体になる。当該構成体は、図1に記載されるように交換バイアス擬似強磁性体(AAF)を備えるスピン値から構成される。この構成体は少なくとも200 kA/mの場まで安定であり、170℃を超える動作温度に耐えることが可能であり、これにより当該構成体は自動車用途に適したものとなる。
【0073】
全てのデバイスは単一の堆積プロセスを使用して堆積される。ブリッジの二つのデバイスの磁化方向は、GMRセンサから最大出力を得るために180度回転させられなければならない(図13a参照)。ホイートストンブリッジデバイスは、GMRストライプから構成される。矢印9及び10はデバイスの所望の磁化方向を示す。実線矢印9は堆積後の磁化方向を示し、破線10は二つのブリッジデバイスの所望の磁化方向を示す。二つのブリッジデバイスの磁化方向10は、個々のデバイス13及び14がブロッキング温度の上までアニールされ、デバイスの磁化方向をセットするために強い磁場が使用される電流パルスアニールプロセスを介して実現され得る。このプロセスは、隣接するデバイスの磁化方向に影響を及ぼすことなく実行され得る。約50μmのデバイスの間の短い距離を考慮する場合、このファクタはずっとより重要になる。
【0074】
図13bは、単一の堆積センサに適用される電流パルスアニールプロセスの結果を示す。個々のデバイスは短電流パルス(100ms、100mA)によって加熱されており、2500Oeの外部磁場は、ハーフブリッジのバイアス方向をセットするために使用されている。出力曲線は、センサの個々のハーフブリッジ(例えば同じ磁化方向を備えるデバイス)を表す。堆積後、両方のハーフブリッジは非常に似た出力特性(白抜き記号)を示す。電流パルスアニールプロセスを使用して、ハーフブリッジの磁化方向は逆方向(黒塗り記号)にセットされている。個々のハーフブリッジの磁化方向がセットされた後、両方のハーフブリッジは同じ最大GMR効果を示すと共に逆特性を有するという事実により、一つのハーフブリッジの磁化方向は、隣接するデバイスの磁化方向に影響を及ぼすことなく回転されていることが示される。
【0075】
最適化された単一の堆積GMR回転速度センサのブリッジ出力が図14aに示されている。センサの活性領域は約0.25mm2になる。センサは、10乃至18 (mV/V)/(kA/m)間の高い感度及び小さな場における0.1 kA/mよりも小さなヒステリシスを示す。より大きな場において、センサ出力は、30 kA/mの場まで一定のままである。活性目標ホイール(active target wheel)に対するGMR速度センサの測定により、信頼度の高い出力信号及び通常使用されているAMRセンサと比較して20%よりも大きな最大エアギャップ(air gap)における増大がもたらされる。
【0076】
この電流パルスアニールプロセスは、単一の堆積プロセスでオンチップGMR角度センサを生成するためにも使用され得る。これにより結果としてセンササイズにおけるかなりの低減及びセンサの精度における改善がもたらされる。
【0077】
GMR回転速度センサの高性能特性は、高感度、小さな場における低ヒステリシス、及び大きな場における一定の出力変調の固有の組み合わせに寄与させられ得る。
【0078】
図11のブリッジにおける四つの抵抗が全て、同じ抵抗値を有するとき、ホイートストンブリッジに電力をもたらすために使用されていない二つの端子(例えば端子B及びC)の間で測定される電圧になる出力電圧は、ブリッジに加えられるゼロ磁場(Happ)においてゼロになる。Happ=0におけるゼロ出力電圧はほとんどの用途に対して所望される。この場合、オフセット電圧はゼロになるといわれる。(例えば加えられた磁場によってもたらされる)抵抗の値における小さな変化はブリッジを不安定性にさせ、これにより、非ゼロ磁場において非ゼロ出力電圧(non-zero output voltage)がもたらされる。それ故に、設計からホイートストンブリッジは抵抗のばらつき(変動)に対して非常に感度が高くなる。しかしながら、これらの小さな抵抗ばらつきは磁気センサの製造方法によってももたらされ得る。製造環境において、四つの抵抗を、抵抗値が正確に同じになるようにすることは実際上ほとんど不可能である。ブリッジは抵抗における小さなずれ(deviation)に感度が高いことは既に言及されているため、出力電圧はHapp=0において非ゼロになるであろう。この非ゼロ出力電圧はブリッジのオフセットと称される。
【0079】
図14bは、GMRセンサのオフセットドリフトを、商用利用可能なAMRセンサのオフセットドリフトと比較している。単一の堆積GMRセンサのオフセットドリフトは約1 (μV/V)/Kであり、当該オフセットドリフトは、回転速度センサのために使用される通常利用可能なAMRセンサのオフセットドリフトよりもほぼ3倍優れている。
【0080】
当該非ゼロオフセット電圧に対して校正(補正)するために、完全なデバイスがウエハレベル上で完了させられた後、トリミングプロシージャがしばしば使用される。各々のホイートストンブリッジは、各々ブリッジの一つの対角にもたらされる二つのトリミング可能な抵抗を備えている。レーザとのメタル接続部を切断(カット)することによって、当該調整(トリミング)抵抗の値は変化させられることが可能であり、最終的に、Happ=0におけるブリッジの出力電圧はゼロに調整され得る。デバイスはレーザトリミングデバイスに接続可能にならなければならないため、当該プロシージャはウエハレベルでのみ適用され得る。一度センサがパッケージされると、例えばパッケージングの間の熱処理のために出力電圧におけるオフセットはもはや校正され得ない。
【0081】
電流パルス方法は、‘電流パルスアニーリング’技術によってホイートストンブリッジ構成体のオフセット電圧を低減するために適用され得る。
【0082】
本方法は、現在AMRセンサの製造の間に使用されているレーザトリミングプロシージャを置換し得ると共に、パッケージされたセンサに対して適用可能であるという利点を有している。トリミングプロシージャは、パッケージングラインの最後における最終処理として適用可能であるため、パッケージングの間にもたらされ得る出力電圧における追加のシフトも校正され得る。
【0083】
電流パルスによる記載のトリミング方法は二つの現象に基づいている。
【0084】
第一の現象は、GMRセンサにおいて使用されているもののような物質の多重層スタック又は物質の抵抗率が、スタックは加熱されるときに変化するという事実にある。当該変化は部分的に可逆的であり、部分的に不可逆的になる。
【0085】
抵抗率における不可逆変化は、抵抗が減少することを意味する負性になり得る。例えばこのことは通常、物質における欠陥のアニーリングによってもたらされる。欠陥は、導通電子に対して捕獲中心になり、物質の抵抗率に影響を及ぼすであろう。
【0086】
前記不可逆変化は、抵抗が増加することを意味する正性にもなり得る。このような効果は通常、物質の混合をもたらす拡散効果によって引き起こされる。温度に依存して抵抗変化は小さくもなり、又は大きくもなることが可能であり、このことは抵抗が、好適な温度を使用することによって永続的に変化させられ得ることを意味する。
【0087】
第二の現象は、ブリッジにおけるオフセット電圧のシフトが抵抗における小さな変化によってのみもたらされるという事実に基づいている。例えばオフセット電圧のシフトは通常、抵抗における1%の変化毎に約5mV/Vになる。(これらの抵抗の製造における拡散のために)実際オフセット電圧のシフトは-10mV/Vと+10mV/Vとの間にもたらされるため、抵抗の一つにおけるほんの
【数5】

だけのばらつきが、当該シフトを補償するのに十分である。このような抵抗におけるばらつきは、抵抗を加熱することよって容易に実現され得る。
【0088】
図5は、抵抗の間に加えられる電圧パルスの高さの関数としての、GMR多重層スタックの抵抗における変化を示す。パルス時間は40ミリ秒となっている。160Vパルス高さにおいてバイアス層の回転は完了させられており、このことは、前記温度が、約290℃になる交換バイアス物質IrMnのブロッキング温度に近いことを示す。パルス高さを増大させることによって、抵抗を通じる電流はより高くなり、抵抗の温度は増加する。増加させられた温度は、相互拡散の効果を高める。200Vにおいて、抵抗はほぼ2%で増大している。
【0089】
図15は、完全なホイートストンブリッジの二つの出力曲線を示す。第一の出力曲線は、全てのブリッジデバイス(抵抗)が、40msの間の160Vのパルス高さを備えるパルスによって‘電流アニール’ されているブリッジに関する(破線)。第二の出力曲線(実線)は、一方の対角上のデバイスが、40msの間に160Vパルスでアニール されているが、他方の対角上のデバイスは、40msの間に200Vパルスでアニール されているホイートストンブリッジを示す。この場合、約7乃至8mVのオフセット電圧におけるシフトが、当該電流アニーリング方法によって実現され得ることは明らかに理解される。相互拡散の効果にもかかわらず、センサの磁気特性における変化は観測されない。
【0090】
オフセット電圧の提案された方法は、電流アニーリングによってバイアス方向をセットする上記の方法と組み合わされ得る。用途に依存して、トリミングは磁場において行われなければならないし、行われなくてもよい。本方法は、オフセット電圧に関してパッケージされた製品の最終的な特性を改善する方法を同時にもたらす一方で、製造において使用されるレーザトリミングプロシージャを削除する。
【0091】
特定のデバイスの加熱が、隣接するデバイスに拡散するときに問題は生じる。
【0092】
その場合、隣接するデバイスの固定された層の方向は変化させられてもよい。ブリッジのデバイスが互いに曲折している場合、当該問題はずっとより悪化する。このレイアウトを使用するホイートストンブリッジは図16に示されている。このようなレイアウトの利点は、層膜厚及び特性における小さな変化によってもたらされるオフセット電圧ドリフトの低減にある。更に、当該レイアウトは磁場勾配の効果を低減する。異なる線(ライン)パターン(実線及び破線)は、固定された層に対する異なる方向を示す。
【0093】
当該問題を解決するために、有利な実施例において、ホイートストンブリッジがわずかに異なる態様で構成されるので、等しい特性を備える(すなわち同じ固定層方向を有する)二つの曲折部は、図17に記載されているように集められる。このように、同じ特性を備えるブリッジデバイスが集められるが、異なる特性を備える(すなわち逆の固定層方向を有する)ブリッジデバイスは互いから分離させられる。新たなレイアウト(図17)における等しい特性を備えるセンサデバイスの加熱が、異なる特性を備えるセンサデバイスに影響を与える可能性は、元のレイアウト(図16)におけるデバイスよりも少ない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】磁気層構造体を通した概略的な断面図を示す。
【図2】温度の関数としての磁気多重層スタックの抵抗を示す。
【図3】バイアス方向をセットするために磁場と共に短い電流パルスを加える方法を概略的に示す。
【図4a】開始状態の期間を有する電流パルスで反転磁場においてアニールした後の磁気抵抗曲線を示す。
【図4b】2秒の電流パルスの後の期間を有する電流パルスで反転磁場においてアニールした後の磁気抵抗曲線を示す。
【図4c】図4aにおける位置と同じ開始位置を使用する140msの電流パルスの後の期間を有する電流パルスで反転磁場においてアニールした後の磁気抵抗曲線を示す。
【図5】異なる振幅を有する電流パルスで40msの間、電流アニールした後の抵抗の変化を示す。
【図6】二つの集団n1(T,t)及びn2(T,t)並びにそれら各々のエネルギ障壁ΔE及びΔEを備える概略的なエネルギ図を示す。
【図7】変化するパルス期間及び振幅を備える電流パルスを選ぶことによって選択され得る同じ温度において異なるエネルギ障壁を備える異なる物理プロセスを概略的に示す。y軸は任意の単位になる。
【図8】あるパルス時間及び振幅が、異なるエネルギ障壁を備える二つの異なるプロセスを分離するために使用され得ることを示す。y軸は任意の単位になる。
【図9】第一の交換バイアス層及び第二の交換バイアス層を有する磁気多重層構造体を通した概略的な模式断面図を示す。
【図10a】交換バイアス強さの特性を示す。
【図10b】広範囲のパルス時間に渡る方向の特性を示す。
【図10c】異なる温度に対する交換バイアス強さの特性を示す。
【図11】(約20分ポイント毎の時間測定)IrMn及びPtMnの相対的な交換バイアス場を示す。実線:測定値であり、破線:計算値である。
【図12】ホイートストンブリッジの概略的な模式図を示す。
【図13a】GMRストライプから構成されるホイートストンブリッジデバイスを示す。矢印はデバイスの所望の磁化方向を示す。実線の矢印は、堆積後の交換バイアス層の磁化方向を示し、破線の矢印は、電流パルスアニールプロセスの後の交換バイアス層の磁化方向を示す。
【図13b】堆積後(白抜き記号)及び電流アニールプロセス後(黒塗り記号)の単一の堆積センサの二つのハーフブリッジの出力特性を示し、デバイスは短い電流パルス(100ms、100mA)によって加熱されており、外部磁場はバイアス方向をリセットするために使用されている。
【図14a】回転速度検出のために最適化される単一の堆積GMRセンサの出力特性を示す。
【図14b】GMRのオフセットドリフトとAMRセンサとの間の比較を示す。適合のために使用されるデータは、AMRに対して3(μV/V)/Kであり、GMRセンサに対して1(μV/V)/Kである。
【図15】オフセット電圧を低減させるために電流パルスアニーリングが適用されるホイートストンブリッジ構成体を示す。
【図16】曲折形状の磁気抵抗デバイスを備えるホイートストンブリッジ構成体を示す。
【図17】同じバイアス方向を有する磁気抵抗デバイスが集められ、逆のバイアス方向を有する磁気抵抗デバイスがある距離で構成されると共に集められる本発明のホイートストンブリッジ構成体の実施例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気層構造体を備えるデバイスを製造する方法であって、
−前記磁気層構造体を形成するステップと、
−前記磁気層構造体を電流で加熱するステップと
を有し、前記電流が、前記層構造体から前記層構造体の環境への熱伝達特性はほとんどもたらされないような期間を有するパルスになり、それによって、前記電流パルスの前後の前記環境の温度はほぼ同じになる方法。
【請求項2】
前記熱は熱伝導によって伝達される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電流パルスは、前記層構造体における物理プロセスを選択するために使用され、前記パルスの期間及び振幅は、当該物理プロセスの活性化エネルギに適合させられる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記物理プロセスの選択は、前記パルスの振幅を増大させると共に前記パルス期間を減少させることによって改善される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記層構造体から当該層構造体の環境にほとんど熱伝達特性がもたらされることなしに一連の電流パルスが加えられる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記デバイスは磁気抵抗デバイスである請求項1乃至5に記載の方法。
【請求項7】
前記デバイスは検出デバイスである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記磁気層構造体は少なくとも一つのバイアス層を有し、磁場が前記短いパルスの間に加えられ、前記磁場は、前記バイアス層の温度がネール又はキューリ温度よりも下まで低下させられた後にスイッチオフされる請求項1乃至7に記載の方法。
【請求項9】
前記磁気層構造体は、第一のブロッキング温度を備える第一の反強磁性物質を有する第一のバイアス層と、第二の異なるブロッキング温度を有する第二のバイアス層とを有し、まず、前記より高いブロッキング温度を有する前記物質の磁化方向がセットされ、その後、前記より低いブロッキング温度を有する前記物質の磁化方向がセットされる請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記電流パルスの期間は100msよりも短くなる請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記デバイスは、いくつかの磁気抵抗デバイスを有する磁気システムの製造において使用される請求項8、9、又は10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも四つの磁気抵抗デバイスが形成され、ホイートストンブリッジ構成体で構成される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電流パルスは、局所加熱を通じて前記ブリッジデバイスの少なくとも一つの抵抗を不可逆的に変化させることによってオフセット補償のために加えられる請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記バイアス層において同じ磁化方向を有する前記一方のブリッジデバイスは集められるが、異なる磁化方向を有する前記他方のブリッジデバイスは、前記一方のブリッジデバイスの集まりから空間的に分離させられるように集められる請求項12に記載のホイートストンブリッジ。
【請求項15】
前記集められたブリッジデバイスは、はさまれた曲折形状を有する請求項14に記載のホイートストンブリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図11】
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【図12】
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【図13b】
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【図14b】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2006−527497(P2006−527497A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516630(P2006−516630)
【出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【国際出願番号】PCT/IB2004/050811
【国際公開番号】WO2004/109725
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】