説明

磁気探傷装置

【課題】磁気探傷シートを使用して磁気探傷する磁気探傷装置において、磁気探傷シートの面積が拡大した場合にも、当該磁気探傷シートにかかる押圧力の状態を容易に把握することが可能で、且つ、装置の自動化が可能な磁気探傷装置を得る。
【解決手段】圧着体4と磁気探傷シートDとの間で、圧着体4の広がり方向の複数箇所に、第1圧力付与手段P1より圧力を作用させて磁気探傷シートDを被検査対象1に接触された状態において、被検査対象1側から圧着体4が受ける圧力を検出する圧力検出手段Seを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁束密度に対応したパターンを形成する感磁体を封入したシート状あるいは袋状で柔軟な磁気探傷シートに対して圧力付与手段から圧力を作用させて前記磁気探傷シートを被検査対象に接触させ、この接触状態において磁気発生機構で発生させた磁気を被検査対象に作用させることにより被検査対象から漏洩する磁束を磁気探傷シートの感磁体で捉え、この感磁体が作り出すパターンに基づいて被検査対象の探傷を行う磁気探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された磁気探傷装置に関連する技術として、2枚の透明シート(1a)、(1b)に多数の小室(2)(この小室(2)は図面からみて球形の小室と理解される)を有し、夫々の小室(2)に対して磁粉(3)を分散させた白色分散媒(4)を封入した磁化シート(本発明の磁気探傷シート)を構成し、断面「コ」の字状の永久磁石からなる磁化器(14)を有し、この磁化器(14)に対して圧縮コイルばね(15)(本発明の圧力付与手段)を取り付け、更に、この圧縮コイルばね(15)の下端に押し付け具(16)を取り付け、この押し付け具(16)で磁化シートを被探傷材に押し付けて密着させるものがある(例えば、特許文献1参照・番号は文献中のものを引用)。
さらに、本発明の発明者により、表面材(35)と裏面材(36)との周部を一体化したシート内に、スペーサ(37)を収納するとともに、その内部空間を移動自在に多数の感磁体(38)を封入して構成される磁気探傷シート(D)と、断面「コ」の字状の電磁石からなる磁界発生機構(A)とを備え、この磁界発生機構(A)に対して付勢機構(B)を取り付け、この付勢機構(B)により付勢される圧着体(4)と磁気探傷シート(D)との間に柔軟に変形自在で圧力伝達可能な押圧手段(C)を備えて、磁気探傷を行うものを、発明者らは提案している(例えば、特許文献2参照・番号は文献中のものを引用)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−90343号公報
【特許文献2】特許第4301990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に開示の技術は、特許文献1の技術において、余盛り部分のように突出した部位が存在する被検査対象に対して磁気探傷シートを密着されることができなかった問題を、磁気探傷シートと圧着体との間に柔軟な押圧部材を介挿することで解決するものである。
【0005】
しかしながら、この特許文献2の技術では、磁気発生機構Aの下側(被検査対象側)に、検査結果の観察域を有することから、この観察域が直接外部から目視で観察し難いという問題がある。一方、この観察域を磁気発生機構の下部を外して、磁気発生機構の側部に設けることが考えられる。この場合、磁気探傷シートの観察域を不可避的に広げることとなるが、このような比較的広面積の磁気探傷シートを採用した場合、検査時に実際に磁気探傷シートに適切且つ均等に押圧力が掛かっているかどうかの判断が難しく、操作者によっては、押圧力が充分・均等にかかっていない状態で検査を終えていたために、充分な検査が行えない場合が発生することが判明した。さらに、押圧状態の判断が難しいために、装置の自動化が困難となっていた。
【0006】
本発明の目的は、磁気探傷シートを使用して磁気探傷する磁気探傷装置において、磁気探傷シートの面積が拡大した場合にも、当該磁気探傷シートにかかる押圧力の状態を容易に把握することが可能で、且つ、装置の自動化が可能な磁気探傷装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、磁束密度に対応したパターンを形成する感磁体を封入したシート状あるいは袋状で柔軟な磁気探傷シートと、この磁気探傷シートに対して圧力を作用させることにより磁気探傷シートを被検査対象に接触させる圧力付与手段と、磁気発生機構とを備え、被検査対象に磁気探傷シートを接触させた状態において磁気発生機構で発生させた磁気を被検査対象に作用させることにより被検査対象から漏洩する磁束を磁気探傷シートの感磁体で捉え、この感磁体が作り出すパターンに基づいて被検査対象の探傷を行うよう構成されている磁気探傷装置に係る請求項1の磁気探傷装置の特徴、作用・効果は次の通りである。
〔特徴〕
前記圧力付与手段として、前記磁気発生機構の磁極が磁気により前記被検査対象に吸着する吸着力から付勢力を発生させる付勢機構を備え、透明な剛体である圧着体と透明で変形自在な押圧部材とを介して前記磁気探傷シートを被検査対象に押圧する第1圧力付与手段を備え、
前記圧着体と前記磁気探傷シートとの間で、前記圧着体の広がり方向の複数箇所に、前記第1圧力付与手段より圧力を作用させて前記磁気探傷シートを前記被検査対象に接触された状態において、前記被検査対象側から前記圧着体が受ける圧力を検出する圧力検出手段を設ける。
【0008】
〔作用・効果〕
この構成の磁気探傷装置では、第1圧力付与手段を設けることにより、圧着体、押圧部材を介して磁気探傷シートを被検査対象に押し当てて、凹凸のある被検査対象の表面の検査を良好に行える。この検査にあっては、磁気探傷シート内にスペーサを介在させることで、シート内での感磁体の自由な移動(漏れ磁束に従った移動)を良好に発生させることができる。
そして、さらに、この磁気探傷装置では、圧力検出手段を備えて、被検査対象と圧着体との間で発生している圧力を検出するため、この検出結果に基づいて、適切な圧力がかかった状態を確認して、信頼性の高い検査を行える。
さらに、例えば、この圧力検出手段が所定値以上の圧力を検出した状態でのみ、磁気探傷シートに現れる感磁体のパターンを写真撮影するように装置構成することで、容易に自動化を行うことができる。
【0009】
本発明の請求項2に係る磁気探傷装置の特徴、作用・効果は次の通りである。
〔特徴〕
前記磁気発生機構が、それぞれ一方の端部に磁極が形成される一対の並行ヨーク部と、前記一対の並行ヨーク部の他端を連結する連結ヨーク部とを備えたコの字のヨークを備え、
前記付勢機構からの付勢力を受ける透明な圧着体を、前記被検査対象に対して接近及び離間する方向に移動自在となるよう前記磁気発生機構に支持すると共に、この圧着体から前記磁気探傷シートに押圧力を伝達する押圧部材と、前記磁気探傷シートとを重ね合わせて支持してあり、
前記一対の磁極同士を結ぶ仮想直線に直交する方向で、前記圧着体、前記押圧部材及び前記磁気探傷シートが前記磁気発生機構の存在領域を超えて延出されていることにある。
【0010】
〔作用・効果〕
この構成の磁気探傷装置では、磁気発生機構をコの字型とするとともに、並行ヨーク部の一方の端部に磁極を形成し、この磁極を被検査対象の表面に吸着させて、磁気探傷を実行できる。さらに、本願の磁気探傷装置では、磁気探傷シートを付勢機構により被検査対象の表面に押圧して磁気探傷を行える。
このようにして、磁気探傷を行う場合に、圧着体及び押圧部材が磁気発生機構の存在領域を超えて、一対の磁極同士を結ぶ仮想直線に直交する方向に延出されているため、この延出領域を容易に観察見ることができ、非常に使用勝手がよい磁気探傷装置とすることができた。
【0011】
本発明の請求項3に係る磁気探傷装置の特徴、作用・効果は次の通りである。
〔特徴〕
前記第1圧力付与手段に対して、前記磁気発生機構の前記一対の磁極を結ぶ前記仮想直線の方向に並行に配設され、前記圧着体の非磁気発生機構側端に設けられる第2圧力付与手段を備えたことにある。
【0012】
〔作用・効果〕
第1圧力付与手段に対して、これと並行に第2圧力付与手段を設けることにより、第1圧力付与手段及び第2圧力付与手段の両方から圧着体、押圧部材及び磁気探傷シートを被検査対象の表面側に押付けて、シートの表面への密着度を高めて、磁気探傷を行える。
【0013】
本発明の請求項4に係る磁気探傷装置の特徴、作用・効果は次の通りである。
〔特徴〕
前記第1圧力付与手段を構成する前記磁気発生機構の前記連結ヨーク部が、操作者が把持可能な中間把持部として構成され、
前記第2圧力付与手段が、前記圧着体の前記仮想直線方向の両端部を連結されるとともに、圧着体上の空間に設けられる把持部を備えたことにある。
【0014】
〔作用・効果〕
この構成を採用することにより、第2圧力付与手段の把持部を操作者が把持した状態で、第2圧力付与手段側を押圧操作することで、圧着体、押圧部材及び磁気探傷シートを被検査対象の表面側に押付けて、シートの表面への密着度を高めて、磁気探傷を行える。
【0015】
本発明の請求項5に係る磁気探傷装置の特徴、作用・効果は次の通りである。
〔特徴〕
前記磁気探傷シートが、前記仮想直線に直交する前記圧着体の延長方向の全幅に渡って配設され、
前記磁気探傷シートの内部を前記複数の感磁体移動ゾーンに仕切る仕切りが、前記仮想直線の方向に前記磁気探傷シートの内部を仕切る構成で、前記第1圧力付与手段及び前記第2圧力付与手段に対して、前記仮想直線に直交す方向における前記第1圧力付与手段及び前記第2圧力付与手段の中間部位が、単一の感磁体移動ゾーンとして構成され、
前記圧着体と前記磁気探傷シートとの間で、前記単一の感磁体移動ゾーン周りの複数箇所に、前記圧力検出手段を設ける。
【0016】
〔作用・効果〕
第1圧力付与手段及び第2圧力付与手段を備え、それら両者に渡って、圧着体、押圧部材及び磁気探傷シートを備える構成にあっては、磁気探傷シートが比較的大面積のものとなるため、このシート内に仕切りを設けて、感磁体が移動可能なゾーンである感磁体移動ゾーンのゾーン分けを行って、感磁体の偏りを吸収する。そして、このような偏りの吸収とともに、第1圧力付与手段と第2圧力付与手段との中間領域を、検査における観察対象領域とできる。即ち、被検査対象側を上側から見られる構成とする。このような構成を採用した構成において、圧着体と磁気探傷シートとの間で、単一の感磁体移動ゾーン周りの複数箇所に、圧力検出手段を設けることで、このゾーン全体にわたって、適切な圧力がかかっており、さらに、それが均等化されているか、否かを判断して、信頼性の高い磁気探傷を行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態の磁気探傷装置の斜視図
【図2】実施の形態の磁気探傷装置の分解斜視図
【図3】実施の形態の磁気探傷装置の一部切り欠き側面図
【図4】実施の形態の磁気探傷装置の探傷時における一部切り欠き側面図
【図5】実施の形態の磁気探傷装置の上面視図
【図6】実施の形態の磁気探傷装置の制御系を示すブロック回路図
【図7】実施形態の磁気探傷シートの上面斜視図
【図8】実施の形態の磁気探傷シートの縦断面図及び横断面図
【図9】別実施形態の磁気探傷シートの上面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図4に示すように、本発明に掛かる磁気探傷装置100は、磁気発生機構Aと、この磁気発生機構Aにより発生された磁束の乱れを検出するための磁気探傷シートDとを備えて構成されており、さらに、磁気探傷シートDの被検査対象表面への密着度を上げるために、磁気探傷シートDに対して圧力を付与する圧力付与手段Pを備えている。
【0019】
本実施形態で示す磁気探傷装置100には、前記圧力付与手段Pとして、第1圧力付与手段P1と第2圧力付与手段P2が備えられている。
前記第1圧力付与手段P1は、磁気発生装置Aにより発生する磁束の有する吸着力を利用して、磁気探傷シートDを被検査対象1に押圧する。一方、前記第2圧力付与手段P2は、操作者が押圧することにより、同じく磁気探傷シートDを被検査対象1に押圧する。
【0020】
磁気探傷装置100は、被検査対象表面側から、磁気探傷シートD、押圧部材C及び圧着体4を配設して使用するように構成されており、この圧着体4の被検査対象側への付勢が、前記第1圧力付与手段P1では、前記吸着力が付勢機構Bを介して圧着体4に伝達され、前記第2圧力付与手段P2では、操作者が押圧操作することで、圧着体4に、押圧力がそのまま伝達される。
【0021】
検査に際しては、被検査対象1に磁気探傷シートDを接触させた状態で、磁気発生機構Aに通電して、磁気発生機構Aから発生させた磁気を被検査対象1に作用させ、被検査対象1から磁束の乱れである漏洩する磁束を磁気探傷シートDの感磁体(磁粉38:図8参照)で捉え、この感磁体が作り出すパターンに基づいて被検査対象1の探傷を行うことができる。
【0022】
本発明の磁気探傷装置100を使用することにより、鉄を代表とする磁性体である被検査対象1の検査を行うことができる。具体的には、図1、図3に示すように、鉄板材の溶接箇所の余盛り部分1Aや、鉄製の配管の曲面部分の欠陥(クラック等の傷)の検査を行う際に、作業者が磁気探傷装置100を両手で操作して、磁気探傷を行うことができる。尚、この余盛り部分1Aとしては、例えば、幅10mm程度で、被検査対象1から4mm程度の盛り上がり高さを有した一般的な形態のものが検査対象となる。ここで、1Cは、余盛り部分1Aに存在する欠陥を示している。
【0023】
以下、本発明の磁気探傷装置100の各箇所についてさらに詳細に説明する。
〔磁気発生機構〕
磁気発生機構Aは、ハンドマグナ(被検査対象の磁化装置)を応用したものであり、このハンドマグナに、これまで説明してきた圧着体4、押圧部材Cを支持するとともに、被検査対象側に付勢する付勢機構Bを設けている。
【0024】
さらに具体的には、図6に示すように、磁気発生機構Aは、磁性体からなるヨーク2aを備えた本体部2を有している。ヨーク2aは、それぞれ一方の端部(被検査対象に接触される側の端部)に磁極3が形成される一対の並行ヨーク部2bと、この一対の並行ヨーク部2bの他端(被検査対象から離間した側の端部)を連結する連結ヨーク部2cとを備えたコの字状に形成されている。
さらに、この本体部2には、連結ヨーク部2cに巻回されるコイル5、及びこのコイル5に給電するためのケーブル7を備えて構成されている。
【0025】
磁性体で成るヨーク2に対して銅合金等の良導体のコイル5を巻回することにより、本体部2は電磁石として機能する。さらに、本体部2にはコイル5に対して電源部6からの電流を供給するケーブル7が備えられ、電源スイッチ8と発光ダイオード(発光体の一例)で成る照明機構9を備えている。
【0026】
同図には発光ダイオードで成る照明機構9を示しているが、照明機構9として蛍光灯やハロゲンランプを用いることが可能であり、又、例えば、電源部6やこの近傍に配置した光源からの光線を磁気発生機構Aの部位まで導く光ファイバーで照明機構を構成することも可能である。そして、照明機構として光ファイバーを用いた場合には、磁気発生機構Aの近傍にランプ類を備えずに済み、電力ケーブルを形成しなくて済むので、装置の大型化を抑制できる。
【0027】
又、前記電源スイッチ8は作業者が本体部2を握って操作する際に指先で押し操作できる位置に配置されている。照明機構9は、光線を前記圧着板4を通過させて前記磁気探傷シートDを照明する位置に配置されている。この実施例で、この照明機構9による照明領域は、図5に示す磁気探傷装置100を上方から見た上方視で、第1圧力付与手段P1と第2圧力付与手段P2との中間と概略されている。
【0028】
前記電源部6は商用電源からの電流の周波数を高めて(180Hz程度・240Hzが上限)コイル5に供給するようインバータ回路(図示せず)を備えると共に、電源スイッチ8を操作することによりコイル5に対して交流電流を供給し、この交流電流の供給と同時に照明機構9に対して電流を供給するよう機能する。このように電流の周波数を高める理由は、磁性体に対して交番磁界が作用する場合には、周波数が高いほど表面近くに磁界が強く作用することが知られており(表皮効果)、この現象を利用して被検査対象1の表面近くの欠陥を発見しやすくするためである。
【0029】
電源部6は、商用電源の周波数で商用電源の周波数から前述した240Hzの範囲内の周波数の電流を供給するものであれば、実用上の不都合は無く、供給する電圧は500V以下であることが望ましい。
【0030】
〔第1圧力付与手段〕
前記一対の並行ヨーク部2bの基端側(被検査対象1から離間した側)に、透明なアクリル樹脂製の支持体20を配置すると共に、この支持体20を金属製のブラケット21と、係合機構22とにより係合固定している。この支持体20に対して付勢機構Bを介して前記一対の並行ヨーク部2bの先端側(被検査対象に接触する側)に透明なアクリル樹脂製で板状となる圧着体4(剛体となっている)を配置し、この圧着体4の下面側に透明で柔軟に変形する押圧部材Cと、磁気探傷シートDとを重ね合わせ状態で支持している。尚、支持体20は金属で形成することも可能であるが、金属を用いた場合には、磁気発生機構Aで発生する交流磁界の作用により金属内に誘導電流が発生して発熱することもあり、本実施形態では、この発熱を回避し、しかも、軽量化と視認性を向上させるために透明なアクリル樹脂を使用している。
【0031】
圧着体4は前記並列ヨーク部2bの長手方向(図1、図2では上下方向:Z)に沿って移動自在となるよう付勢機構Bに支持され、図3に示すように非使用状態では、一対の磁極3とを結ぶ仮想直線L1と、磁気探傷シートDの底面との間に距離Sを設定している。
【0032】
尚、第1圧力付与手段P1は、磁気発生機構Aにより発生する磁気吸着力を付勢機構Bを介して圧着体4に伝達する構成となっているため、磁気発生機構Aと付勢機構Bとの両方で、本願に係る第1圧力付与手段P1が構成されている。
さらに、この磁気発生機構Aは、先に説明したように、概略「コ」の字状のヨーク2aを備えることにより、連結ヨーク部2cを操作者が把持可能とされていることから、本発明にいう中間把持部を構成している。
【0033】
付勢機構Bは、支持体20に形成した4つ貫通孔pと、圧着体4に形成した4つの貫通孔pとに挿通する挿通ボルト25と、夫々の挿通ボルト25に外嵌した圧縮コイルバネ26とを備えて成り、図3に示す非使用状態においては4本の挿通ボルト25によって圧着体4を吊り下げ状態で支持する形態となる。尚、この付勢機構Bでは圧縮コイルバネ26に限らず、弾性的に変形することにより付勢力を得るゴム、あるいは、ガス圧を利用するガススプリングも使用できる。
【0034】
この実施形態に係る磁気探傷装置100では、後述するように、圧着体4は、前記仮想直線L1に直交する方向(図1及び図2の左上方向:X)に延設されており、この圧着体4の延設端に第2圧力付与手段P2を備えることで、第1圧力付与手段P1及び第2圧力付与手段P2から、圧着体4、押圧部材C及び磁気探傷シートDを被検査対象1側へ確実に押圧して、良好に検査を行える。
【0035】
〔第2圧力付与手段〕
図1〜図3に示すように、この第2圧力付与手段P2は、磁気発生機構Aにおいて設定される仮想直線L1に直交する方向Xに延設される圧着体4の端部(磁気発生機構Aの位置とは反対側の端部)に設けられる機構であり、第1圧力付与手段P1に対して、仮想直線L1の方向に並行に配設されている。
さらに具体的には、圧着体4の仮想直線の延設方向Yの両側に設けられ、被検査対象1に対して反対側に立設される一対の概略三角形状の支持側板45と、これら一対の支持側板45間に渡って架け渡される把持部46とを備えている。したがって、この第2圧力付与手段P2は、前記圧着体4の前記仮想直線方向の両端部に連結されるとともに、圧着体4上の空間に設けられる把持部46を備えた構成とされている。
【0036】
〔押圧部材〕
押圧部材Cは、柔軟で透明な樹脂フィルムとして0.1〜0.5mm程度のフィルム厚のポリエチレンフィルムやポリビニルフィルムを袋状に成型したバッグ30に対して、ポリビニルアルコールと硼砂とを混合して成る透明なゲル状(スライム状)物質31(水でも良い)、又は、例えば、ポリエチレンとスチレンを共重合させた網状物質を油でゲル化したものを封入したもの、あるいは、バック30を使用せずに前記ゲル化したものを直接貼り付けものであり、全体として透明で柔軟に変形し得るよう構成され、磁気探傷シートDが変形した状態にあっても、圧着体4から作用する圧力を均一な圧力で磁気探傷シートDに作用させるよう機能する。図示する例では、押圧部材Cは、圧着体4の下方位置で第1圧力付与手段P1の位置から第2圧力付与手段P2の位置まで延設されている。
【0037】
〔磁気探傷シート〕
磁気探傷シートDは、図7、図8に示すように、柔軟で透明な樹脂フィルムで成る上面側の表面材35と、柔軟な樹脂フィルムで成る下面側の裏面材36とを重ね合わせ、夫々の素材同士の間に繊維をメッシュ状に配置して成るスペーサ37を介在させることで20〜30μm程度の隙間dと成る空間を形成した柔軟なシート状に成形しており、この空間に対して磁性体で0.1μm程度以上で、前記隙間の値(20〜30μm程度)より充分に小さい粒径となる粒子状の磁粉38(感磁体の一例)と、分散媒として水や灯油等の流動物質f(気体であっても良い)とを封入し、表面材35と裏面材36との外周部を熱溶着の技術や接着剤を用いて接合した密封構造を有している。
【0038】
具体的に説明すると、表面材35と裏面材36とのフィルム厚が0.02〜0.5mm程度のものが使用されており、容器の表面材35は透明であることが必須であるが、多少の着色したものを使用しても良く、裏面材36は透明である必要は無く、着色した樹脂を用いることも可能である。この表面材35と裏面材36としてポリエチレンやポリビニルやPET(polyethylene terephthalate)樹脂の使用が可能であり、又、裏面材36として樹脂フィルムに代えて軟磁性のオーステイトステンレス鋼の箔を使用することも可能である。更に、前記磁粉38の材料として、鉄やニッケルばかりで無く、マグネタイト、ガンマ・ヘクタイトの使用が可能である。
【0039】
又、スペーサ37として、前記隙間dと等しい粒径の粒子状のものを表面材35と裏面材36との間に分散させる形態で用いることや、表面材35と裏面材36との間に亘って前記隙間dを形成し得る複数の柱状の部材を用いることも考えられる。
【0040】
そして、圧着体4に対して押圧部材Cと磁気探傷シートDを支持する際には、圧着体4の底面側に押圧部材Cと磁気探傷シートDとを重ね合わせ、この磁気探傷シートDの一対の端部を、それぞれ圧着体4の上面まで引き込み、この磁気探傷シートDに対して適度の張力を作用させた状態で、この磁気探傷シートDの端部を固定板40で圧着し、ビス41で固定している。図示する例では、
圧着体4は、第1圧力付与手段P1の位置から第2圧力付与手段P2の位置まで延設されており、磁気探傷シートDの延設方向Xの両端がそれぞれ、圧着体4の上面に引き込まれて固定されている。
【0041】
さらに、この磁気探傷シートDは、本願独特の構成が採用されている。
図5、図7に示すように、磁気探傷シートDの内部には、磁気探傷シートDの表面材35と裏面材36との間にスペーサ37が介在され、感磁体38の移動が可能な複数の感磁体移動ゾーンD1,D2,D3に仕切られ、感磁体移動ゾーンD1,D2,D3に渡る感磁体38の移動が阻止されている。
【0042】
この仕切り構成に関してさらに詳細に説明すると、磁気探傷シートDの内部を複数の感磁体移動ゾーンD1,D2,D3に仕切る仕切り39が、磁気発生機構Aの磁極3を結ぶ直線として定義される仮想直線L1の方向Yに磁気探傷シートDの内部を仕切るように構成されており、さらに具体的には、図5からも判明するように、前記第1圧力付与手段P1及び前記第2圧力付与手段P2に対して、前記仮想直線に直交す方向における前記第1圧力付与手段P1及び前記第2圧力付与手段P2の中間部位が、単一の感磁体移動ゾーンD2となるようにゾーン分割がされている。この仕切り39は、各仕切り39の位置で、上記表面材35と裏面材36とを融着させることでゾーン化を図っている。
【0043】
このように構成することで、被検査対象1の検査において主な視認観察ゾーンとなる第1圧力付与手段P1と第2圧力付与手段P2との中間ゾーンを単一の感磁体移動ゾーンD2として構成することで良好に磁気探傷を行える。
【0044】
さらに、図5に示すように、前記圧着体4と前記磁気探傷シートDとの間(図示する例では、圧着体4の下側で押圧部材Cとの間)に、前記単一の感磁体移動ゾーンD2周りの複数箇所に、前記圧力付与手段P1,P2より圧力を作用させて磁気探傷シートDを前記被検査対象1に接触された状態において、被検査対象1側から前記圧着体4が受ける圧力を検出する圧力検出手段Seを設けている。
この圧力検出手段Seは、圧電素子等の感圧素子とこの感圧素子が感圧する状態で発生する電力により発光する発光素子とを備えて構成されており、一定値以上の圧力が圧力検出手段Seの位置で発生している状態で発光するように構成されている。図5には、前記単一の感磁体移動ゾーンD2の四辺端位置に圧力検出手段Seを配置していることにより、このゾーンD2周りで均等に所定の押圧状態を実現できている状態で、圧力検出手段Seが均等に光り、良好な押圧状態が実現できていることが確認できるように構成されている。
【0045】
この磁気探傷装置100では、被検査対象1として、石油等を貯留するタンク類を構成する鋼板の溶接箇所、あるいは、橋梁等を構成する鋼板の溶接箇所を想定しており、これらの部位の探傷を行う場合には以下のように作業が行われる。例えば、溶接箇所の余盛り1Aの部位の探傷を行う場合には、図3に示すように、余盛り1Aの部位を跨ぐ位置に磁極3を配置し、かつ、探傷を行うべき部位を覆う位置に磁気探傷シートDを配置した状態で、電源スイッチ8を操作することにより、電源部6からの電流がコイル5に供給されることになり、このコイル5が磁気を発生させて磁極3が被検査対象1に吸着する。
【0046】
このように磁極3が被検査対象1に吸着した場合には、第1圧力付与手段P1側では、図4に示すように一対の磁極3とを結ぶ仮想直線L1と、磁気探傷シートDの底面との間に前記距離S(図3を参照)に相当するだけ磁極3が圧着体4に対して相対移動することになるので、付勢機構Bの圧縮コイルバネ26を圧縮して、この圧縮コイルバネ26からの付勢力を圧着体4に作用させ、更に、この圧着体4からの押圧力を押圧部材Cから磁気探傷シートDに作用させ、この磁気探傷シートDを被検査対象1に密着させるものとなる。
【0047】
一方、第2圧力付与手段P2側では、操作者が押圧することで、この押圧力を、圧着体4に作用させ、更に、この圧着体4からの押圧力を押圧部材Cから磁気探傷シートDに作用させ、この磁気探傷シートDを被検査対象1に密着させるものとなる。
そして、押圧力のかかり具合は、先に説明した圧力検出手段の発光状態により確認することができる。
【0048】
この密着状態では、溶接部分において余盛り1Aが存在しても、その余盛り1Aの部分に沿う形状に磁気探傷シートDが変形し、この変形に従うように押圧部材Cが変形して、圧着体4から圧力を均一の圧力として磁気探傷シートDに作用させる形態となるので、磁気探傷シートCの底面(裏面材36の外面)の全面が被検査対象1の上面に対して隙間なく密着するものとなる。そして、このように磁気探傷シートDが被検査対象1に密着した状態で一対の磁極3と被検査対象1との間で磁気回路が形成されることになるので、夫々の磁極3同士を結ぶ方向に磁力線が形成され、余盛り1Aの部位に欠陥1Cが存在する場合には、その欠陥1Cの部分で磁束が漏洩して磁気探傷シートDの磁粉38に作用する結果、この漏洩した磁束の方向に沿って磁粉38が列を成すパターンを作り出し、欠陥1Cを視覚的に把握できるものとなる。
なお、磁気発生機構Aの磁極3の向かう方向を、例えば、図1のように、被検査対象1の被検査面に対して直交する姿勢に設定すれば、強い磁気を作用させて感度の高い検査を行うことが可能となるため、より鮮明な磁粉38のパターンを得ることができる。
【0049】
従って、柔軟なシート状に形成された磁気探傷シートDと、柔軟に変形自在であるが圧力を伝え得るよう構成された押圧部材Cと、殆ど変形しない圧着体4とを一体化して、磁気発生機構Aに対して付勢機構Bからの付勢力を作用させ得る状態で支持しているので、被検査対象1の検査を行う場合に、作業者が磁気探傷シートDを人為的にセットする操作を行わずに済み、作業性を向上させるものとなり、しかも、探傷を行う際には電源スイッチ8を操作するだけで磁力によって磁極3を被検査対象1に吸着させ、この吸着により付勢機構Bからの付勢力を圧着体4に作用させ、この圧着体4と被検査対象1との間に押圧部材Cと磁気探傷シートDとを挟み込む形態にして、被検査対象1に対して磁気探傷シートDを隙間無く密着させて、高感度で高い精度の検査を行える。
【0050】
この磁気探傷装置は比較的小型で扱いやすく構成されているので、縦壁状となる被検査対象や、天井壁状のものでも楽に作業を行えるものとなっている。特に、磁気発生機構Aに対して照明機器9を備えたので、夜間や照明が存在しない屋内でも、磁気探傷シートDの感磁体が作り出すパターンを明瞭に観察できるものにしている。
【0051】
〔別実施の形態〕
本発明は上記実施の形態以外に、例えば、以下のように構成することも可能である(この別実施の形態では前記実施の形態と同じ機能を有するものには、実施の形態と共通の番号、符号を付している)。
【0052】
(イ) 上記の実施の形態においては、磁気探傷シートに設ける仕切りを、磁極の配設方向である仮想直線L1の方向に、且つ、上面視で、第1圧力付与手段P1と第2圧力付与手段P2の間に形成されるゾーンを単一のゾーンとするように構成したが、仕切りは、ゾーン内における感磁体の移動を許容する程度において、任意の方向、大きさで設けてもよい。図9には、全体を6ゾーンに分けた例を示した。ただし、各ゾーン内にメッシュ状のスペーサを収納する必要があるため、検査対象とする傷の大きさに等しいか、それより大きくしておくことが好ましい。
(ロ) 上記の実施の形態においては、圧力検出手段を、上面視で、第1圧力付与手段P1と第2圧力付与手段P2の間に形成されるゾーンの周部、四隅に配置する構成を示したが、その個数、位置を問うものではなく、さらに、圧着体4の四隅に対応した位置に設けてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 被検査対象
3 磁極
4 圧着体
6 電源部
11 照明機構
38 感磁体
39 仕切り
A 磁気発生機構
B 付勢機構
C 押圧部材
D 磁気探傷シート
P 圧力付与手段
P1 第1圧力付与手段
P2 第2圧力付与手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束密度に対応したパターンを形成する感磁体を封入したシート状あるいは袋状で柔軟な磁気探傷シートと、この磁気探傷シートに対して圧力を作用させることにより磁気探傷シートを被検査対象に接触させる圧力付与手段と、磁気発生機構とを備え、被検査対象に磁気探傷シートを接触させた状態において磁気発生機構で発生させた磁気を被検査対象に作用させることにより被検査対象から漏洩する磁束を磁気探傷シートの感磁体で捉え、この感磁体が作り出すパターンに基づいて被検査対象の探傷を行うよう構成されている磁気探傷装置であって、
前記圧力付与手段として、前記磁気発生機構の磁極が磁気により前記被検査対象に吸着する吸着力から付勢力を発生させる付勢機構を備え、透明な剛体である圧着体と透明で変形自在な押圧部材とを介して前記磁気探傷シートを被検査対象に押圧する第1圧力付与手段を備え、
前記圧着体と前記磁気探傷シートとの間で、前記圧着体の広がり方向の複数箇所に、前記第1圧力付与手段より圧力を作用させて前記磁気探傷シートを前記被検査対象に接触された状態において、前記被検査対象側から前記圧着体が受ける圧力を検出する圧力検出手段を設けた磁気探傷装置。
【請求項2】
前記磁気発生機構が、それぞれ一方の端部に磁極が形成される一対の並行ヨーク部と、前記一対の並行ヨーク部の他端を連結する連結ヨーク部とを備えたコの字のヨークを備え、
前記付勢機構からの付勢力を受ける透明な圧着体を、前記被検査対象に対して接近及び離間する方向に移動自在となるよう前記磁気発生機構に支持すると共に、この圧着体から前記磁気探傷シートに押圧力を伝達する押圧部材と、前記磁気探傷シートとを重ね合わせて支持してあり、
前記一対の磁極同士を結ぶ仮想直線に直交する方向で、前記圧着体、前記押圧部材及び前記磁気探傷シートが前記磁気発生機構の存在領域を超えて延出されている請求項1記載の磁気探傷装置。
【請求項3】
前記第1圧力付与手段に対して、
前記磁気発生機構の前記一対の磁極を結ぶ前記仮想直線の方向に並行に配設され、前記圧着体の非磁気発生機構側端に設けられる第2圧力付与手段を備えた請求項2記載の磁気探傷装置。
【請求項4】
前記第1圧力付与手段を構成する前記磁気発生機構の前記連結ヨーク部が、操作者が把持可能な中間把持部として構成され、
前記第2圧力付与手段が、前記圧着体の前記仮想直線方向の両端部を連結されるとともに、圧着体上の空間に設けられる把持部を備えた請求項3記載の磁気探傷装置。
【請求項5】
前記磁気探傷シートが、前記仮想直線に直交する前記圧着体の延長方向の全幅に渡って配設され、
前記磁気探傷シートの内部を前記複数の感磁体移動ゾーンに仕切る仕切りが、前記仮想直線の方向に前記磁気探傷シートの内部を仕切る構成で、
前記第1圧力付与手段及び前記第2圧力付与手段に対して、前記仮想直線に直交す方向における前記第1圧力付与手段及び前記第2圧力付与手段の中間部位が、単一の感磁体移動ゾーンとして構成され、
前記圧着体と前記磁気探傷シートとの間で、前記単一の感磁体移動ゾーン周りの複数箇所に、前記圧力検出手段を設けた請求項4記載の磁気探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−107046(P2011−107046A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264263(P2009−264263)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】