説明

磁気検出素子

【課題】 再生出力の大きいGMR型磁気検出素子を提供する
【解決手段】第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の材料にCoMn(Ge1−xSn)合金を用い、さらにGe元素とSn元素の組成比率を調節することで、第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の格子定数を調整している。これにより、フリー磁性層や固定磁性層のスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Ge1−xSn)合金が非磁性材料層に拡散しにくくなり、フリー磁性層又は固定磁性層と非磁性材料層の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化方向が一方向に固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成されたフリー磁性層を有する磁気検出素子に係り、特に、再生出力を大きくすることのできる磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は従来における磁気検出素子(スピンバルブ型薄膜素子)を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した部分断面図である。
【0003】
図8に示す符号1はTaからなる下地層であり、下地層1の上にNiFeCrなどからなるシード層2が形成されている。
【0004】
シード層2の上には、反強磁性層3、固定磁性層4、非磁性材料層5、フリー磁性層6、保護層7が順次積層された多層膜Tが形成されている。
【0005】
フリー磁性層6、固定磁性層4はCoMnGeなどのホイスラー合金、非磁性材料層5はCu、反強磁性層3はPtMn、保護層7はTaによって形成されている。
【0006】
反強磁性層3と固定磁性層4との界面で交換結合磁界が発生し、前記固定磁性層4の磁化はハイト方向(図示Y方向)に固定される。
【0007】
フリー磁性層6の両側にはCoPtなどの硬磁性材料からなるハードバイアス層8が形成され、ハードバイアス層8の上下及び端部は絶縁層9によって絶縁されている。ハードバイアス層8からの縦バイアス磁界によりフリー磁性層6の磁化は、トラック幅方向(図示X方向)に揃えられる。多層膜Tの上下には電極層10,10が形成されている。
【0008】
図8に示される磁気検出素子に、外部磁界が印加されると、フリー磁性層の磁化方向が固定磁性層の磁化方向に対して相対的に変動して、多層膜の抵抗値が変化する。一定の電流値のセンス電流が流れている場合には、この抵抗値の変化を電圧変化として検出することにより、外部磁界を検知する。
【0009】
ホイスラー合金からなる固定磁性層を有する磁気検出素子は、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2003−309305号公報(第8頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
CoMnGe合金やCoMnSi合金などのホイスラー合金からなるフリー磁性層6や固定磁性層4は体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向しているものである。また、Cuからなる非磁性材料層5は面心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{111}面が優先配向しているものである。
【0011】
従来は、フリー磁性層6、固定磁性層4と非磁性材料層5の結晶構造が異なっており、しかも、互いの格子定数に大きな差があったため、フリー磁性層6と非磁性材料層5の格子整合あるいは固定磁性層4と非磁性材料層5の格子整合性が低くなっていた。このため、フリー磁性層6や固定磁性層5の内部にL21型の結晶構造をとれない不規則相が生成するなどの格子欠陥が発生し、フリー磁性層6や固定磁性層5のスピン依存バルク散乱係数βが低下していた。また、ホイスラー合金と非磁性材料層5の界面で拡散するという現象が発生しやすく、フリー磁性層6又は固定磁性層4と非磁性材料層5の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが低下していた。
【0012】
フリー磁性層6や固定磁性層5のスピン依存バルク散乱係数βの低下、フリー磁性層6又は固定磁性層4と非磁性材料層5の界面におけるスピン依存界面散乱係数γの低下は、磁気検出素子の再生出力の低下を引き起こす。
【0013】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、フリー磁性層や固定磁性層の材料を改良することにより、再生出力の増大を図ることのできる磁気検出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、磁化方向が一方向に固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成されたフリー磁性層が設けられた多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記非磁性材料層はCuによって形成されて面心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{111}面が優先配向しており、前記固定磁性層と前記フリー磁性層のいずれか一方あるいは両方はCoMn(Ge1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.2≦x≦0.8)を有し、前記CoMn(Ge1−xSn)合金層は体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向していることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の材料にCoMn(Ge1−xSn)合金を用い、さらにGe元素とSn元素の組成比率を調節することで、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の格子定数を調整している。これにより、前記非磁性材料層と前記フリー磁性層の格子整合性または前記非磁性材料層と前記固定磁性層の格子整合性が向上し、フリー磁性層や固定磁性層がL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層や固定磁性層のスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Ge1−xSn)合金が非磁性材料層に拡散しにくくなり、フリー磁性層又は固定磁性層と非磁性材料層の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
【0016】
なお、CoMn(Ge1−xSn)合金とは、Coの組成比がMnの組成比の2倍であると同時にGeとSnの組成比の和の2倍であり、Mnの組成比とGeとSnの組成比の和が等しいものである。
【0017】
本発明では、前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.025Å以下であることが好ましい。また、前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記固定磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.025Å以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、磁化方向が一方向に固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成されたフリー磁性層が設けられた多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記非磁性材料層はCuによって形成されて面心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{111}面が優先配向しており、前記固定磁性層と前記フリー磁性層のいずれか一方あるいは両方はCoMn(Si1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.3≦x≦0.9)を有し、前記CoMn(Si1−xSn)合金層は体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向していることを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の材料にCoMn(Si1−xSn)合金を用い、さらにSi元素とSn元素の組成比率を調節することで、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の格子定数を調整している。これにより、前記非磁性材料層と前記フリー磁性層の格子整合性または前記非磁性材料層と前記固定磁性層の格子整合性が向上し、フリー磁性層や固定磁性層がL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層や固定磁性層のスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Si1−xSn)合金が非磁性材料層に拡散しにくくなり、フリー磁性層又は固定磁性層と非磁性材料層の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
【0020】
なお、CoMn(Si1−xSn)合金とは、Coの組成比がMnの組成比の2倍であると同時にSiとSnの組成比の和の2倍であり、Mnの組成比とSiとSnの組成比の和が等しいものである。
【0021】
また、本発明では、前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.032Å以下であることが好ましい。また、前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記固定磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.032Å以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の磁気検出素子は、例えば、前記固定磁性層が前記フリー磁性層の上側に設けられているトップスピンバルブ型のCPP−GMR型磁気検出素子である。
【0023】
あるいは、前記固定磁性層が前記フリー磁性層の下側に設けられているボトムスピンバルブ型のCPP−GMR型磁気検出素子である。
【0024】
または、前記フリー磁性層の下に前記非磁性材料層及び前記固定磁性層が設けられ、前記フリー磁性層の上に他の非磁性材料層及び他の固定磁性層が設けられているデュアルスピンバルブ型のCPP−GMR型磁気検出素子である。
【0025】
例えば、前記固定磁性層に反強磁性層が重ねられていることによって前記固定磁性層の磁化方向が固定される。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の材料にCoMn(Ge1−xSn)合金を用い、さらにGe元素とSn元素の組成比率を調節することで、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の格子定数を調整している。
【0027】
または、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の材料にCoMn(Si1−xSn)合金を用い、さらにSi元素とSn元素の組成比率を調節することで、前記固定磁性層や前記フリー磁性層の格子定数を調整している。
【0028】
これにより、前記非磁性材料層と前記フリー磁性層の格子整合性または前記非磁性材料層と前記固定磁性層の格子整合性が向上し、フリー磁性層や固定磁性層がL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層や固定磁性層のスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Ge1−xSn)合金やCoMn(Si1−xSn)合金が非磁性材料層に拡散しにくくなり、フリー磁性層又は固定磁性層と非磁性材料層の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1及び図2は、本発明の実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の全体構造を記録媒体との対向面側から見た断面図である。なお、図1及び図2ではX方向に延びる素子の中央部分のみを破断して示している。
【0030】
このシングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子は、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。なお、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向はZ方向であり、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向はY方向である。
【0031】
図1の最も下に形成されているのはTa,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素などの非磁性材料で形成された下地層11である。この下地層11の上に、シード層12、反強磁性層13、固定磁性層14、非磁性材料層15、フリー磁性層16、保護層17からなる多層膜T1がスパッタ法又は蒸着法などの薄膜形成工程によって成膜されている。図1に示される磁気検出素子は、フリー磁性層16の下に反強磁性層13が設けられているいわゆるボトムスピンバルブ型のGMR型磁気検出素子である。
【0032】
シード層12は、NiFeCrまたはCrによって形成される。シード層12をNiFeCrによって形成すると、シード層12は、面心立方(fcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものになる。また、シード層12をCrによって形成すると、シード層12は、体心立方(bcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{110}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものになる。
【0033】
なお、下地層11は非晶質に近い構造を有するが、この下地層11は形成されなくともよい。
【0034】
前記シード層12の上に形成された反強磁性層13は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0035】
反強磁性層13は、面心立方(fcc)構造を有するもの、または、面心正方(fct)構造を有するものになる。
【0036】
これら白金族元素を用いたX−Mn合金は、耐食性に優れ、またブロッキング温度も高く、さらに交換結合磁界(Hex)を大きくできるなど反強磁性材料として優れた特性を有している。特に白金族元素のうちPtを用いることが好ましく、例えば二元系で形成されたPtMn合金やIrMn合金を使用することができる。
【0037】
また本発明では、前記反強磁性層13は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0038】
なお前記元素X′には、元素XとMnとで構成される空間格子の隙間に侵入し、または元素XとMnとで構成される結晶格子の格子点の一部と置換する元素を用いることが好ましい。ここで固溶体とは、広い範囲にわたって、均一に成分が混ざり合った固体のことを指している。
【0039】
侵入型固溶体あるいは置換型固溶体とすることで、前記X−Mn合金膜の格子定数に比べて、前記X−Mn−X′合金の格子定数を大きくすることができる。これによって反強磁性層13の格子定数と固定磁性層14の格子定数との差を広げることができ、前記反強磁性層13と固定磁性層14との界面構造を非整合状態にしやすくできる。ここで非整合状態とは、前記反強磁性層13と固定磁性層14との界面で前記反強磁性層13を構成する原子と前記固定磁性層14を構成する原子とが一対一に対応しない状態である。
【0040】
また特に置換型で固溶する元素X′を使用する場合は、前記元素X′の組成比が大きくなりすぎると、反強磁性としての特性が低下し、固定磁性層14との界面で発生する交換結合磁界が小さくなってしまう。特に本発明では、侵入型で固溶し、不活性ガスの希ガス元素(Ne,Ar,Kr,Xeのうち1種または2種以上)を元素X′として使用することが好ましいとしている。希ガス元素は不活性ガスなので、希ガス元素が、膜中に含有されても、反強磁性特性に大きく影響を与えることがなく、さらに、Arなどは、スパッタガスとして従来からスパッタ装置内に導入されるガスであり、ガス圧を適正に調節するのみで、容易に、膜中にArを侵入させることができる。
【0041】
なお、元素X′にガス系の元素を使用した場合には、膜中に多量の元素X′を含有することは困難であるが、希ガスの場合においては、膜中に微量侵入させるだけで、熱処理によって発生する交換結合磁界を、飛躍的に大きくできる。
【0042】
なお本発明では、好ましい前記元素X′の組成範囲は、原子%(原子%)で0.2から10であり、より好ましくは、原子%で、0.5から5である。また本発明では前記元素XはPtであることが好ましく、よってPt−Mn−X′合金を使用することが好ましい。
【0043】
また本発明では、反強磁性層13の元素Xあるいは元素X+X′の原子%を45(原子%)以上で60(原子%)以下に設定することが好ましい。より好ましくは49(原子%)以上で56.5(原子%)以下である。これによって成膜段階において、固定磁性層14との界面が非整合状態にされ、しかも前記反強磁性層13は熱処理によって適切な規則変態を起すものと推測される。
【0044】
固定磁性層14は、第1固定磁性層14a、非磁性中間層14b、第2固定磁性層14cからなる多層膜構造である。前記反強磁性層13との界面での交換結合磁界及び非磁性中間層14bを介した反強磁性的交換結合磁界(RKKY的相互作用)により前記第1固定磁性層14aと第2固定磁性層14cの磁化方向は互いに反平行状態にされる。これは、いわゆる人工フェリ磁性結合状態と呼ばれ、この構成により固定磁性層14の磁化を安定した状態にでき、また前記固定磁性層14と反強磁性層13との界面で発生する交換結合磁界を見かけ上大きくすることができる。
【0045】
ただし前記固定磁性層14は第2固定磁性層14cのみから構成され人工フェリ磁性結合状態になっていない状態でもよい。
【0046】
なお前記第1固定磁性層14aは例えば15〜35Å程度で形成され、非磁性中間層14bは8Å〜10Å程度で形成され、第2固定磁性層14cは20〜50Å程度で形成される。
【0047】
第1固定磁性層14aはCoFe、NiFeなどの強磁性材料で形成されている。また非磁性中間層14bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成される。
【0048】
第2固定磁性層14cは、第2固定磁性層14cは本実施の形態の磁気検出素子の特徴部分であるので後に詳しく説明する。
【0049】
前記固定磁性層14の上に形成された非磁性材料層15は、Cuで形成されている。Cuで形成された非磁性材料層15は、面心立方(fcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向している。{111}面が優先配向とは{111}面として表される等価な結晶面のいずれかと膜面平行方向がなす角度が鋭角であることをいう。
【0050】
さらにフリー磁性層16が形成されている。フリー磁性層16は本実施の形態の磁気検出素子の特徴部分であるので後に詳しく説明する。
【0051】
図1に示す実施形態では、フリー磁性層16の両側にハードバイアス層18,18が形成されている。前記ハードバイアス層18,18からの縦バイアス磁界によってフリー磁性層16の磁化はトラック幅方向(図示X方向)に揃えられる。ハードバイアス層18,18は、例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成されている。
【0052】
ハードバイアス層18,18の上下及び端部は、アルミナなどからなる絶縁層19,19によって絶縁されている。
【0053】
多層膜T1の上下には、電極層20,20が設けられており、多層膜T1を構成する各層の膜面に対して垂直方向にセンス電流が流されるCPP(Current Perpendicular to the plane)−GMR型の磁気検出素子となっている。
【0054】
電極層20,20はα−Ta、Au、Cr、Cu(銅)、Rh、Ir、RuやW(タングステン)などで形成されている。
【0055】
図1に示すスピンバルブ型薄膜素子では、下地層11から保護層17を積層後、熱処理を施し、これによって前記反強磁性層13と固定磁性層14との界面に交換結合磁界を発生させる。このとき磁場を図示Y方向と平行な方向に向けることで、前記固定磁性層14の磁化は図示Y方向と平行な方向に向けられ固定される。なお図1に示す実施形態では前記固定磁性層14は積層フェリ構造であるため、第1固定磁性層14aが例えば図示Y方向に磁化されると、第2固定磁性層14c及び磁性層23は図示Y方向と逆方向に磁化される。
【0056】
図1に示された磁気検出素子は、固定磁性層とフリー磁性層の磁化が直交関係にある。記録媒体からの洩れ磁界が磁気検出素子の図示Y方向に侵入し、フリー磁性層の磁化が感度良く変動し、この磁化方向の変動と、固定磁性層の固定磁化方向との関係で電気抵抗が変化し、この電気抵抗値の変化に基づく電圧変化または電流変化により、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0057】
本実施の形態の磁気検出素子の特徴部分について述べる。
非磁性材料層15はCuによって形成されて面心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{111}面が優先配向しており、第2固定磁性層14cとフリー磁性層16のいずれか一方あるいは両方は、CoMn(Ge1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.2≦x≦0.8)である。CoMn(Ge1−xSn)合金層である第2固定磁性層14cとフリー磁性層16は、体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向している。
【0058】
第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の材料にCoMn(Ge1−xSn)合金を用い、さらにGe元素とSn元素の組成比率を調節することで、第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の格子定数を調整している。これにより、非磁性材料層15とフリー磁性層16の格子整合性または非磁性材料層15と第2固定磁性層14cの格子整合性が向上し、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cがL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cのスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Ge1−xSn)合金が非磁性材料層15に拡散しにくくなり、フリー磁性層16又は第2固定磁性層14cと非磁性材料層15の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
【0059】
なお、CoMn(Ge1−xSn)合金とは、Coの組成比がMnの組成比の2倍であると同時にGeとSnの組成比の和の2倍であり、Mnの組成比とGeとSnの組成比の和が等しいものである。
【0060】
フリー磁性層16がCoMn(Ge1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1とフリー磁性層16の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.025Å以下であることが好ましい。また、第2固定磁性層14cがCoMn(Ge1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1と第2固定磁性層14cの膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.025Å以下であることが好ましい。
【0061】
あるいは、第2固定磁性層14cとフリー磁性層16のいずれか一方あるいは両方がCoMn(Si1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.3≦x≦0.9)であってもよい。CoMn(Si1−xSn)合金層は体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向している。
【0062】
第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の材料にCoMn(Si1−xSn)合金を用い、さらにSi元素とSn元素の組成比率を調節することで、第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の格子定数を調整できる。これにより、非磁性材料層15とフリー磁性層16の格子整合性または非磁性材料層15と第2固定磁性層14cの格子整合性が向上し、、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cがL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cのスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Si1−xSn)合金が非磁性材料層15に拡散しにくくなり、フリー磁性層16又は第2固定磁性層14cと非磁性材料層15の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
【0063】
なお、CoMn(Si1−xSn)合金とは、Coの組成比がMnの組成比の2倍であると同時にSiとSnの組成比の和の2倍であり、Mnの組成比とSiとSnの組成比の和が等しいものである。
【0064】
フリー磁性層16がCoMn(Si1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1とフリー磁性層16の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.032Å以下であることが好ましい。また、第2固定磁性層14cがCoMn(Si1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1と第2固定磁性層14cの膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.032Å以下であることが好ましい。
【0065】
図4は、体心立方格子(bcc)構造の結晶格子を、(001)面に垂直な方向から見た平面図である。本発明のように体心立方格子構造の結晶構造を有するフリー磁性層あるいは固定磁性層が膜面平行方向に{110}面配向していると、膜面垂直方向の格子面間隔dvと膜面平行方向の格子面間隔dpは等しくなる。
【0066】
図5は面心立方格子(fcc)構造の結晶格子を、(110)面に垂直な方向から見た平面図である。本発明のように面心立方格子構造の結晶構造を有する非磁性材料層が膜面平行方向に{111}面配向していると、膜面垂直方向の格子面間隔dvと膜面平行方向の格子面間隔dpは完全に同じではないがほぼ等しくなる。
【0067】
従って、非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1とフリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値を小さくすると、非磁性材料層とフリー磁性層の膜面平行方向の格子面間隔の差も小さくなって非磁性材料層とフリー磁性層の格子整合性が向上する。
【0068】
同様に、非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と固定磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値を小さくすると、非磁性材料層と固定磁性層の膜面平行方向の格子面間隔の差も小さくなって非磁性材料層と固定磁性層の格子整合性が向上する。
【0069】
また、本発明は、磁化方向が一方向に固定される固定磁性層と、固定磁性層に非磁性材料層を介して形成されたフリー磁性層が設けられた多層膜を有し、多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
本発明は第2固定磁性層14cとフリー磁性層16のいずれか一方あるいは両方がCoMn(Si1−xSn)合金層またはCoMn(Ge1−xSn)合金層を有するものである。すなわち、第2固定磁性層14cとフリー磁性層16が、CoMn(Si1−xSn)合金層またはCoMn(Ge1−xSn)合金層とCoFe層やNiFe層などの積層体であってもよい。あるいは、第2固定磁性層14cとフリー磁性層16のうち、いずれか一方がCoMn(Si1−xSn)合金層またはCoMn(Ge1−xSn)合金層を有し、他方はCoFe層やNiFe層であってもよい。
【0070】
図2は本発明におけるデュアルスピンバルブ型磁気検出素子の構造を示す部分断面図である。
【0071】
図2に示すように、下から下地層11、シード層12、反強磁性層13、固定磁性層14、非磁性材料層15、およびフリー磁性層16が連続して積層されている。さらにフリー磁性層16の上には、非磁性材料層15、固定磁性層14、反強磁性層13、および保護層17が連続して積層されて多層膜T2が形成されている。
【0072】
また、フリー磁性層16の両側にはハードバイアス層18,18が積層されている。ハードバイアス層18,18は、アルミナなどからなる絶縁層19,19によって絶縁されている。
【0073】
多層膜T2の上下には、電極層20,20が設けられており、多層膜T2を構成する各層の膜面に対して垂直方向にセンス電流が流されるCPP(Current Perpendicular to the plane)−GMR型の磁気検出素子となっている。
【0074】
なお、図2において、図1と同じ符号が付けられた層は同じ材料で形成されている。
図2に示すスピンバルブ型薄膜素子では、下地層11から保護層17を積層後、熱処理を施し、これによって前記反強磁性層13と固定磁性層14との界面に交換結合磁界を発生させる。このとき磁場を図示Y方向と平行な方向に向けることで、前記固定磁性層14の磁化は図示Y方向と平行な方向に向けられ固定される。図2に示された磁気検出素子は、固定磁性層とフリー磁性層の磁化が直交関係にある。記録媒体からの洩れ磁界が磁気検出素子の図示Y方向に侵入し、フリー磁性層の磁化が感度良く変動し、この磁化方向の変動と、固定磁性層の固定磁化方向との関係で電気抵抗が変化し、この電気抵抗値の変化に基づく電圧変化または電流変化により、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0075】
本実施の形態でも、非磁性材料層15はCuによって形成されて面心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{111}面が優先配向しており、第2固定磁性層14cとフリー磁性層16のいずれか一方あるいは両方は、CoMn(Ge1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.2≦x≦0.8)である。CoMn(Ge1−xSn)合金層である第2固定磁性層14cとフリー磁性層16は、体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向している。
【0076】
第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の材料にCoMn(Ge1−xSn)合金を用い、さらにGe元素とSn元素の組成比率を調節することで、第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の格子定数を調整している。これにより、非磁性材料層15とフリー磁性層16の格子整合性または非磁性材料層15と第2固定磁性層14cの格子整合性が向上し、、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cがL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cのスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Ge1−xSn)合金が非磁性材料層15に拡散しにくくなり、フリー磁性層16又は第2固定磁性層14cと非磁性材料層15の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
【0077】
なお、CoMn(Ge1−xSn)合金とは、Coの組成比がMnの組成比の2倍であると同時にGeとSnの組成比の和の2倍であり、Mnの組成比とGeとSnの組成比の和が等しいものである。
【0078】
フリー磁性層16がCoMn(Ge1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1とフリー磁性層16の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.025Å以下であることが好ましい。また、第2固定磁性層14cがCoMn(Ge1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1と第2固定磁性層14cの膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.025Å以下であることが好ましい。
【0079】
あるいは、第2固定磁性層14cとフリー磁性層16のいずれか一方あるいは両方がCoMn(Si1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.3≦x≦0.9)であってもよい。CoMn(Si1−xSn)合金層は体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向している。
【0080】
第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の材料にCoMn(Si1−xSn)合金を用い、さらにSi元素とSn元素の組成比率を調節することで、第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の格子定数を調整できる。これにより、非磁性材料層15とフリー磁性層16の格子整合性または非磁性材料層15と第2固定磁性層14cの格子整合性が向上し、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cがL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cのスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Si1−xSn)合金が非磁性材料層15に拡散しにくくなり、フリー磁性層16又は第2固定磁性層14cと非磁性材料層15の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
【0081】
なお、CoMn(Si1−xSn)合金とは、Coの組成比がMnの組成比の2倍であると同時にSiとSnの組成比の和の2倍であり、Mnの組成比とSiとSnの組成比の和が等しいものである。
【0082】
フリー磁性層16がCoMn(Si1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1とフリー磁性層16の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.032Å以下であることが好ましい。また、第2固定磁性層14cがCoMn(Si1−xSn)合金層であり、非磁性材料層15がCuで形成されるときには、非磁性材料層15の膜面垂直方向の格子面間隔d1と第2固定磁性層14cの膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.032Å以下であることが好ましい。
【0083】
図3は本発明におけるトップスピンバルブ型磁気検出素子の構造を示す部分断面図である。
【0084】
図3に示すように、下から下地層11、シード層12、フリー磁性層16、非磁性材料層15、固定磁性層14、反強磁性層13および保護層17が連続して積層されて多層膜T3が形成されている。
【0085】
また、フリー磁性層16の両側にはハードバイアス層18,18が積層されている。ハードバイアス層18,18は、アルミナなどからなる絶縁層19,19によって絶縁されている。
【0086】
多層膜T3の上下には、電極層20,20が設けられており、多層膜T5を構成する各層の膜面に対して垂直方向にセンス電流が流されるCPP(Current Perpendicular to the plane)−GMR型の磁気検出素子となっている。
【0087】
なお、図3において、図1と同じ符号が付けられた層は同じ材料で形成されている。
図3に示すスピンバルブ型薄膜素子では、下地層11から保護層17を積層後、熱処理を施し、これによって前記反強磁性層13と固定磁性層14との界面に交換結合磁界を発生させる。このとき磁場を図示Y方向と平行な方向に向けることで、前記固定磁性層14の磁化は図示Y方向と平行な方向に向けられ固定される。
【0088】
図3に示す磁気検出素子も、第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の材料にCoMn(Si1−xSn)合金やCoMn(Ge1−xSn)合金を用い、第2固定磁性層14cやフリー磁性層16の格子定数を調整できる。これにより、非磁性材料層15とフリー磁性層16の格子整合性または非磁性材料層15と第2固定磁性層14cの格子整合性が向上し、、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cがL21型の結晶構造をとりやすくなり、フリー磁性層16や第2固定磁性層14cのスピン依存バルク散乱係数βが向上する。また、CoMn(Ge1−xSn)合金やCoMn(Si1−xSn)合金が非磁性材料層15に拡散しにくくなり、フリー磁性層16又は第2固定磁性層14cと非磁性材料層15の界面におけるスピン依存界面散乱係数γが向上する。従って、磁気検出素子の再生出力を大きくすることができる。
ることができる。
【実施例1】
【0089】
以下に示す膜構成の磁気検出素子を形成し、フリー磁性層を形成するCoMn(Ge1−xSn)合金の組成比率xを0から1の間で変化させたときの磁気検出素子の素子面積Aと抵抗変化量ΔRの積ΔRAを測定した。
【0090】
基板/下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(50Å)/反強磁性層IrMn(70Å)/第1固定磁性層Co70Fe30/非磁性中間層Ru(9.1Å)/第2固定磁性層(Co60Fe40(10Å)/CoMn(Ge1−xSn)合金(40Å))/非磁性材料層Cu(43Å)/フリー磁性層(CoMn(Ge1−xSn)合金(80Å))/非磁性材料層Cu(43Å)/第2固定磁性層(CoMn(Ge1−xSn)合金(40Å)/Co60Fe40(10Å)/非磁性中間層Ru(9.1Å)/第1固定磁性層Co60Fe40)/反強磁性層IrMn(70Å)/保護層Ta(200Å)
【0091】
また、CoMn(Ge1−xSn)合金の組成比率xを0から1の間で変化させたときのフリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔も調べた。
【0092】
結果を図6に示す。図6の横軸はフリー磁性層のCoMn(Ge1−xSn)合金の組成比率xを示し、左側の縦軸はフリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔を示し、右側の縦軸は磁気検出素子の素子面積Aと抵抗変化量ΔRの積ΔRAを示している。
【0093】
図6からフリー磁性層を形成するCoMn(Ge1−xSn)合金の組成比率xが0.2以上0.8以下の範囲のとき、磁気検出素子のΔRAが10.0mΩμm以上になることがわかる。
【0094】
また、CoMn(Ge1−xSn)合金の組成比率xが大きくなると、すなわち、Snの比率が大きくなると、フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔も大きくなる。非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔は2.083Å〜2.088Åである。
【0095】
フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔と、Cuからなる非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔が等しくなった時に、磁気検出素子のΔRAが最大値をとっている。
【0096】
また、前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔と前記フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔の差の絶対値が0.025Å以下のとき、磁気検出素子のΔRAが10.0mΩμm以上になっている。
【0097】
また、前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔と前記フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔の差の絶対値が0.015Å以下のとき、磁気検出素子のΔRAが10.5mΩμm以上になっている。
【実施例2】
【0098】
以下に示す膜構成の磁気検出素子を形成し、フリー磁性層を形成するCoMn(Si1−xSn)合金の組成比率xを0から1の間で変化させたときの磁気検出素子の素子面積Aと抵抗変化量ΔRの積ΔRAを測定した。
【0099】
基板/下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(50Å)/反強磁性層IrMn(70Å)/第1固定磁性層Co70Fe30/非磁性中間層Ru(9.1Å)/第2固定磁性層(Co60Fe40(10Å)/CoMn(Si1−xSn)合金(40Å))/非磁性材料層Cu(43Å)/フリー磁性層(CoMn(Si1−xSn)合金(80Å))/非磁性材料層Cu(43Å)/第2固定磁性層(CoMn(Si1−xSn)合金(40Å)/Co60Fe40(10Å)/非磁性中間層Ru(9.1Å)/第1固定磁性層Co60Fe40)/反強磁性層IrMn(70Å)/保護層Ta(200Å)
【0100】
また、CoMn(Si1−xSn)合金の組成比率xを0から1の間で変化させたときのフリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔も調べた。
【0101】
結果を図7に示す。図7の横軸はフリー磁性層のCoMn(Si1−xSn)合金の組成比率xを示し、左側の縦軸はフリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔を示し、右側の縦軸は磁気検出素子の素子面積Aと抵抗変化量ΔRの積ΔRAを示している。
【0102】
図7からフリー磁性層を形成するCoMn(Si1−xSn)合金の組成比率xが0.3以上0.9以下の範囲のとき、磁気検出素子のΔRAが9.0mΩμm以上になることがわかる。
【0103】
また、CoMn(Si1−xSn)合金の組成比率xが大きくなると、すなわち、Snの比率が大きくなると、フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔も大きくなる。フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔と、Cuからなる非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔が等しくなった時に、磁気検出素子のΔRAが最大値をとっている。
【0104】
また、前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔と前記フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔の差の絶対値が0.032Å以下のとき、磁気検出素子のΔRAが9.0mΩμm以上になっている。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図2】本発明の第2実施形態の磁気検出素子(デュアルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図3】本発明の第3実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図4】体心立方格子構造の結晶格子を、(001)面に垂直な方向から見た平面図、
【図5】面心立方格子構造の結晶格子を、(110)面に垂直な方向から見た平面図、
【図6】フリー磁性層を形成するCoMn(Ge1−xSn)合金の組成比率xを0から1の間で変化させたときの磁気検出素子の素子面積Aと抵抗変化量ΔRの積ΔRAを示すグラフ、
【図7】フリー磁性層を形成するCoMn(Si1−xSn)合金の組成比率xを0から1の間で変化させたときの磁気検出素子の素子面積Aと抵抗変化量ΔRの積ΔRAを示すグラフ、
【図8】従来の磁気検出素子の断面図、
【符号の説明】
【0106】
11 下地層
12 シード層
13 反強磁性層
14 固定磁性層
15 非磁性材料層
16 フリー磁性層
17 保護層
18 ハードバイアス層
19 絶縁層
20 電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が一方向に固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成されたフリー磁性層が設けられた多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記非磁性材料層はCuによって形成されて面心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{111}面が優先配向しており、前記固定磁性層と前記フリー磁性層のいずれか一方あるいは両方はCoMn(Ge1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.2≦x≦0.8)を有し、前記CoMn(Ge1−xSn)合金層は、体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向していることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項2】
前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.025Å以下である請求項1記載の磁気検出素子。
【請求項3】
前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記固定磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.025Å以下である請求項1または2記載の磁気検出素子。
【請求項4】
磁化方向が一方向に固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成されたフリー磁性層が設けられた多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記非磁性材料層はCuによって形成されて面心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{111}面が優先配向しており、前記固定磁性層と前記フリー磁性層のいずれか一方あるいは両方はCoMn(Si1−xSn)合金層(xは組成比率で、0.3≦x≦0.9)を有し、前記CoMn(Si1−xSn)合金層は体心立方格子構造の結晶構造を有して膜面平行方向に{110}面が優先配向していることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項5】
前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記フリー磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d2の差の絶対値が0.032Å以下である請求項4記載の磁気検出素子。
【請求項6】
前記非磁性材料層の膜面垂直方向の格子面間隔d1と前記固定磁性層の膜面垂直方向の格子面間隔d3の差の絶対値が0.032Å以下である請求項4または5記載の磁気検出素子。
【請求項7】
前記固定磁性層が前記フリー磁性層の上側に設けられている請求項1ないし6のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項8】
前記固定磁性層が前記フリー磁性層の下側に設けられている請求項1ないし6のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項9】
前記フリー磁性層の下に前記非磁性材料層及び前記固定磁性層が設けられ、前記フリー磁性層の上にも非磁性材料層及び固定磁性層が設けられている請求項1ないし6のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項10】
前記固定磁性層に反強磁性層が重ねられている請求項7ないし9のいずれかに記載の磁気検出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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