説明

磁気浮上制御装置

【課題】質量の大きな物体の非接触支持が可能な磁気浮上制御装置を提供する。
【解決手段】浮上体30に対向する磁極から浮上体を磁気浮上させる磁束を発生する支持力発生用永久磁石21と、支持力発生用永久磁石21の浮上体30に対向する側で、前記磁極と同一の磁極が互いに向き合い、反対の磁極が向き合わないように配置された複数の磁力制御用永久磁石13、14と、磁力制御用永久磁石13、14の向き合う磁極の間隔を、浮上体に作用する磁力を強めるときには狭くし、弱めるときには拡げるように磁力制御用永久磁石を動かすアクチュエータ15、16とを備える。磁力制御用永久磁石の間隔を狭くすると、浮上体に達する支持力発生用永久磁石の磁束が集中し、浮上体に作用する磁力が強くなる。逆に、磁力制御用永久磁石の間隔を広くすると、磁束の集中が緩和され、浮上体に作用する磁力が弱くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上する物体に作用する磁力を制御可能にした磁気浮上制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気浮上は、磁石の吸引力や反発力を利用して物体を空中に浮かす技術であり、磁石の吸引力を利用して物体を上から吊り上げる方式と、反発力を利用して物体を下から支える方式とが存在する。いずれの方式でも、浮上体は非接触状態に保たれる。
この磁気浮上は、鉄道車両の浮上、軸受やポンプの回転部分の支持、被加工物を非接触状態で移送する搬送装置やステージ装置、測定対象物を非接触状態で保持する風洞試験装置など、多くの分野で使用されている。
浮上体を磁石の吸引力で非接触保持する方式では、浮上体の重力と吸引力とがバランスするように、浮上体に作用する磁力を制御して、浮上体の落下や、浮上体と磁石との衝突を防ぐ必要がある。反発力を利用して浮上体を下から非接触支持する方式では、浮上体の落下や磁石との衝突の危険性は少ないが、浮上体の浮上高さを調節する場合には、浮上体に作用する磁力の制御が必要になる。
【0003】
本発明者等は、磁気浮上体に作用する磁力が制御可能な磁気浮上制御装置を下記非特許文献1で提案している。
この装置は、図7に示すように、強磁性体から成る浮上体30を吊り下げるため、吸引力を発生する支持力発生用永久磁石21と、支持力発生用永久磁石21に還流する磁束の磁気回路を構成する継鉄22と、継鉄22の開口側に配置された強磁性体板23、24と、強磁性体板23、24間の間隔を制御するために強磁性体板23、24の位置を移動するアクチュエータ25、26とを備えている。
なお、図7では、支持力発生用永久磁石21のS極側とN極側とを、色を違えて示している。
【0004】
この装置では、アクチュエータ25、26を駆動して強磁性体板23、24間の間隔を拡げたり狭めたりする。
支持力発生用永久磁石21の浮上体30に対向する磁極から発生した磁束(点線の矢印で示す。)の一部は、強磁性体板23、24の間隙を通って浮上体30に達し、残りの磁束は、強磁性体板23、24を経由して継鉄22に進入し、支持力発生用永久磁石21の異極に還流する。
図7(a)に示すように、強磁性体板23、24間の間隔が拡がると、継鉄22に進入する磁束が減少し、浮上体30に達する磁束が増加する。そのため、浮上体30に作用する吸引力31が大きくなる。
一方、図7(b)に示すように、強磁性体板23、24間の間隔が狭まると、継鉄22に進入する磁束が増加し、浮上体30に達する磁束が減少する。そのため、浮上体30に作用する吸引力31が小さくなる。
【0005】
図8は、この装置の強磁性体板23、24間の間隔を変えて吸引力の変化を測定した結果について示している。この測定では、支持力発生用永久磁石21として直径50mm、厚さ10mmの円柱型のネオジューム磁石を使用し、浮上体30として質量1.0kg、直径63.5mmのSS400製の鉄球を使用し、強磁性体板23、24としてSS400製の板を使用した。また、図10に示すように、強磁性体板23(24)の先端から浮上体30の中心を通る垂線までの距離をW(mm)、支持力発生用永久磁石21から浮上体30までの距離をG(mm)として、Gを12.5mm、14.0mm、15.5mm及び17.0mmの4段階に変えたときの、各段階でのW(横軸)と吸引力(N)(縦軸)との関係を示している。
【0006】
図8から明らかなように、吸引力は、強磁性体板23、24の間隔(2×W)が拡がるに連れて増加している。
従って、アクチュエータ25、26を制御して強磁性体板23、24の間隔を変えることで、浮上体30に作用する吸引力を変化させることができる。
この磁気浮上制御装置では、強磁性体板23、24の運動方向が吸引力を生み出す磁束の方向と直交しているので、強磁性体板23、24を駆動するアクチュエータ25、26は、浮上体30の重量を支持する力を発生する必要がない。そのため、発生力の小さなアクチュエータ25、26を用いて、質量の大きな浮上体の非接触支持を制御することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】水野毅他:「磁路制御形磁気浮上の提案と実験」,日本AEM学会誌vol.4,No.3,pp346-352,(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図7に示す磁気浮上制御装置では、支持力発生用永久磁石21から発生した磁束の一部が強磁性体板23、24で遮蔽されるため、浮上体30に届く磁束が減少し、非接触支持できる物体の質量が制限される。強力な支持力発生用永久磁石を使用して非接触支持可能な物体の質量を上げるのでは、コストが嵩むことになる。
【0009】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、従来に比べて質量の大きな物体の非接触支持が可能な磁気浮上制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、磁気浮上した浮上体に作用する磁力を制御できる磁気浮上制御装置であって、浮上体に対向する磁極から浮上体を磁気浮上させる磁束を発生する支持力発生用永久磁石と、支持力発生用永久磁石の浮上体に対向する側で、前記磁極と同一の磁極が互いに向き合い、反対の磁極が向き合わないように配置された複数の磁力制御用永久磁石と、磁力制御用永久磁石の向き合う磁極の間隔を、浮上体に作用する磁力を強めるときには狭くし、浮上体に作用する磁力を弱めるときには拡げるように磁力制御用永久磁石を動かすアクチュエータと、を備えることを特徴とする。
この装置では、磁力制御用永久磁石の間隔を狭くすると、浮上体に達する支持力発生用永久磁石の磁束が集中し、浮上体に作用する磁力が強くなる。逆に、磁力制御用永久磁石の間隔を広くすると、磁束の集中が緩和され、浮上体に作用する磁力が弱くなる。
【0011】
また、本発明の磁気浮上制御装置では、支持力発生用永久磁石が、浮上体に対向する側を除き、継鉄で囲まれている。
支持力発生用永久磁石を囲む継鉄により、支持力発生用永久磁石から発生する磁束の拡散を防ぐことができる。
【0012】
また、本発明の磁気浮上制御装置では、磁力制御用永久磁石を一対設け、この磁力制御用永久磁石のそれぞれにアクチュエータを設けるようにしても良い。
アクチュエータを制御して一対の磁力制御用永久磁石の間隔を変え、浮上体に作用する磁力を調整する。
【0013】
また、本発明の磁気浮上制御装置は、浮上体を、支持力発生用永久磁石から発生する磁力で吊り下げる磁気浮上装置に好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気浮上制御装置では、支持力発生用永久磁石で発生する磁束の多くが、遮られずに浮上体に届くため、浮上体に作用する磁力が強くなり、従来の装置に比べて重い物体の磁気浮上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気浮上制御装置を示す図
【図2】図1の装置の磁力制御用永久磁石の間隔と吸引力との関係を示す図
【図3】図1の装置の磁束線分布を示す図
【図4】図1の装置を用いた風洞試験装置を示す図
【図5】3枚の磁力制御用永久磁石を有する磁気浮上制御装置を示す図
【図6】図5の磁力制御用永久磁石の配置図
【図7】従来の磁気浮上制御装置を示す図
【図8】図7の装置の強磁性体板の間隔と吸引力との関係を示す図
【図9】図7の装置の磁束線分布を示す図
【図10】測定試験での変更箇所を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気浮上制御装置を示している。
この装置は、強磁性体から成る浮上体30を吊り下げるため、吸引力を発生する支持力発生用永久磁石21と、支持力発生用永久磁石21の下面を除く周囲を囲む継鉄22と、支持力発生用永久磁石21から発生する磁束を集中させるために継鉄22の開口側に配置された一対の磁力制御用永久磁石13、14と、磁力制御用永久磁石13、14の間隔を制御するために磁力制御用永久磁石13、14の位置を移動するアクチュエータ15、16とを備えている。
【0017】
なお、図1では、支持力発生用永久磁石21及び磁力制御用永久磁石13、14のS極側とN極側とを、色を違えて示しており、この装置では、支持力発生用永久磁石21の浮上体30に対向する磁極と、磁力制御用永久磁石13、14同士の対向する磁極とが、それぞれ同一磁極となるように設定されている。
【0018】
支持力発生用永久磁石21を囲む継鉄22は、支持力発生用永久磁石21の浮上体30に対向する磁極から発生した磁束が、散乱して磁力制御用永久磁石13、14の異極に流れるのを防いでいる。
そのため、支持力発生用永久磁石21の浮上体30に対向する磁極から発生した磁束は、点線の矢印で示すように、磁力制御用永久磁石13、14の同一磁極から反発を受けながら、磁力制御用永久磁石13、14の間隙を通り抜けて浮上体30に達する。また、その一部は、浮上体30から磁力制御用永久磁石13、14の異極側に達する。
アクチュエータ15、16の駆動で磁力制御用永久磁石13、14の間隔が狭まると、磁力制御用永久磁石13、14の間隙を通り抜ける磁束が集中し、磁束集中した磁束が浮上体30に達する。逆に、アクチュエータ15、16の駆動で磁力制御用永久磁石13、14の間隔が拡がると、磁束集中が緩和された磁束が浮上体30に達する。
そのため、磁力制御用永久磁石13、14の間隔を狭めると、浮上体30に作用する吸引力32が強まり、磁力制御用永久磁石13、14の間隔を拡げると、浮上体30に作用する吸引力32が弱まる。
【0019】
図2は、この装置の磁力制御用永久磁石13、14の間隔を変えて吸引力の変化を測定した結果について示している。この測定では、図8の測定と同様に、支持力発生用永久磁石21として直径50mm、厚さ10mmの円柱型のネオジューム磁石を使用し、浮上体30として質量1.0kg、直径63.5mmのSS400製の鉄球を使用した。また、磁力制御用永久磁石13、14には、表面磁束密度190[mT]のフェライト磁石を使用した。
図2では、図10に示すように、磁力制御用永久磁石13(14)の先端から浮上体30の中心を通る垂線までの距離をW(mm)、支持力発生用永久磁石21から浮上体30までの距離をG(mm)として、Gを12.5mm、14.0mm、15.5mm及び17.0mmの4段階に変えたときの、各段階でのW(横軸)と吸引力(N)(縦軸)との関係を示している。
【0020】
図2から明らかなように、吸引力は、磁力制御用永久磁石13、14の間隔(2×W)が狭い程、強く、間隔が拡がるに連れて減少している。
この特性は、図7の装置(従来例)の特性(図8)と逆であり、従来の装置では、強磁性体板23、24の間隔を拡げると、吸引力が増加するが、本発明の装置では、磁力制御用永久磁石13、14の間隔を拡げると、吸引力が減少する。
また、図2と図8とを比較して明らかなように、本発明の装置と従来の装置とでは、吸引力の大きさが大きく異なっており、本発明の装置の方が凡そ3倍程度高い。
【0021】
この吸引力の大きさの違いは、磁束線の分布を磁場解析ソフトで有限要素解析した結果でも裏付けられている。図9は、従来の装置の磁束線の分布であり、支持力発生用永久磁石から延びる磁束線の大部分は強磁性体板を通り、浮上体に作用する磁束線は少ない。
これに対し、図3は、本発明の装置の磁束線分布を示しており、磁束線が浮上体方向に延び、浮上体上部では磁束密度が高くなっている。それ故、吸引力も増加すると推定できる。
【0022】
図4は、本発明の磁気浮上制御装置を用いた回転球体50の風洞試験装置を示している。磁気浮上制御装置は、風洞試験装置の上方に配置されており、支持力発生用永久磁石21の両側に磁力制御用永久磁石13、14を駆動するアクチュエータ15、16が配置されている。この風洞試験装置では、電磁石のコイル61、62への給電を制御して、回転球体50の前後・左右方向の位置が調整される。また、変位検出手段70が回転球体50の上下方向(z方向)の変位を検出すると、制御手段(不図示)がアクチュエータ15、16を制御して磁力制御用永久磁石13、14の間隙を変え、回転球体50に作用する支持力発生用永久磁石21の吸引力を調整して、その変位を解消する。
【0023】
ここでは、一対の磁力制御用永久磁石を用いて浮上体への吸引力を制御する場合について説明したが、図5及び図6に示すように、磁力制御用永久磁石103、104、105の数は、3枚でも、それ以上でも良い。この場合、図6に示すWを変えて浮上体30への吸引力を制御する。磁力制御用永久磁石の枚数が増えると、吸引力の変化量が大きくなり、図2の特性の傾きが増加する。
なお、ここでは、浮上体を磁石の吸引力で吊り下げる場合について説明したが、磁気反発力を利用して浮上体を下から非接触支持する装置にも、本発明を適用することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の磁気浮上制御装置は、浮上体に作用する磁力を、発生力の小さなアクチュエータで制御することが可能であり、磁気浮上を使用する鉄道車両、軸受、ポンプ、搬送装置、ステージ装置、風洞試験装置など、広い分野で、利用することができる。
【符号の説明】
【0025】
13 磁力制御用永久磁石
14 磁力制御用永久磁石
15 アクチュエータ
16 アクチュエータ
21 支持力発生用永久磁石
22 継鉄
23 強磁性体板
24 強磁性体板
25 アクチュエータ
26 アクチュエータ
30 浮上体
31 吸引力
32 吸引力
50 回転球体
61 コイル
62 コイル
70 変位検出手段
103 磁力制御用永久磁石
104 磁力制御用永久磁石
105 磁力制御用永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気浮上した浮上体に作用する磁力を制御できる磁気浮上制御装置であって、
前記浮上体に対向する磁極から該浮上体を磁気浮上させる磁束を発生する支持力発生用永久磁石と、
前記支持力発生用永久磁石の前記浮上体に対向する側で、前記磁極と同一の磁極が互いに向き合い、反対の磁極が向き合わないように配置された複数の磁力制御用永久磁石と、
前記磁力制御用永久磁石の向き合う前記磁極の間隔を、前記浮上体に作用する磁力を強めるときには狭くし、前記浮上体に作用する磁力を弱めるときには拡げるように前記磁力制御用永久磁石を動かすアクチュエータと、
を備えることを特徴とする磁気浮上制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気浮上制御装置であって、前記支持力発生用永久磁石が、前記浮上体に対向する側を除き、継鉄で囲まれていることを特徴とする磁気浮上制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気浮上制御装置であって、前記磁力制御用永久磁石の一対を備え、前記アクチュエータが、前記磁力制御用永久磁石のそれぞれに設けられていることを特徴とする磁気浮上制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の磁気浮上制御装置であって、前記浮上体が、前記支持力発生用永久磁石から発生する磁力によって吊り下げられることを特徴とする磁気浮上制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−193017(P2012−193017A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57968(P2011−57968)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】