説明

磁気記録媒体、その作製方法、及び磁気ディスク装置

【課題】高い記録密度を実現する媒体作製方法、記録媒体、磁気ディスク装置を提供する。
【解決手段】基板5上に磁性層1を形成し(a)、磁性層1上にナノ粒子膜16を形成する(b)。その後、ナノ粒子膜をマスクにして磁性層を切削加工し(c)、ナノ粒子膜を除去して人工的な微細磁性粒子2を形成し(d)、人工グラニュラ磁気記録媒体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置(ハードディスクドライブ)等に用いられる磁気記録媒体、及びその記録媒体の作製方法、ならびにこの記録媒体を用いた磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置を大容量化するには、磁気記録媒体に記録する情報の記録密度を高めればよい。面内磁気記録、垂直磁気記録を問わず、高記録密度化のための必須技術のひとつは、スパッタで作製する磁気記録媒体の磁性粒子の小径化である。粒径を小さくすることで、磁気記録媒体の磁化遷移(N極とS極の境界)の不揃い(図1(a)参照)から発生するノイズを小さくすることができる。
【0003】
ところが、1平方メートルあたり100T(テラ)ビット程度以上の面記録密度で記録再生しようとすると、磁性粒子の小径化、すなわち磁性粒子の体積が小さくなるのに伴い、熱揺らぎ(粒子の磁化が熱で反転させられる現象)による記録磁化の減衰(熱減磁)が深刻な問題となってくる。ノイズ低減のために磁性粒子の径を小さくすると、この現象はいっそう顕著になる。
【0004】
また、この粒径は、実際はバラツキ(分散)を持った値となる。このバラツキを粒径分散という。粒径分散が大きいと、粒径の大きな粒子から小さな粒子までを含むことになる(図1(a)参照)が、小さな粒子は熱揺らぎによる熱減磁が生じやすい。すなわち、粒径分散の値を小さく抑えることも高記録密度化の必須技術である。特開2002−25030号公報には、スパッタで作製する垂直磁気記録グラニュラ媒体について、粒径分散を小さくする方法が提案されている。
【0005】
また、単に結晶工学的な見地から、磁性結晶粒子の粒径や粒径分散のみを小さくすれば良いわけではない。実効的には磁気工学的な見地から、磁区そのものが微細化されなければならない。すなわち、磁性結晶粒子間には磁気的な交換相互作用が働くため、結晶粒径ほど磁区が微細化しないという問題である。ただし、この磁気的な交換相互作用は、小さければ小さいほど良いというわけではなく、記録分解能特性や熱減磁特性の観点から、ある適当な値をとることが必要である。
【0006】
垂直磁気記録媒体材料は、膜面垂直方向に強い磁気異方性をもつ材料が必要であり、Coを主成分とするhcp−CoCr合金で、c軸(磁化容易軸)が膜面に垂直を向く構造が、特開昭57−109127号公報、日本応用磁気学会誌、9巻2号、57〜60頁(1985年)、あるいはIEEE Trans., MAG-24, No.6, pp.2706-2708 (1988)等に示されている。しかし、スパッタで作製されるCoCr合金系多元合金垂直磁化膜のCrの偏析が不十分なため、磁性粒子間の磁気的な交換相互作用が大きく、磁区が微細化せずに媒体雑音が大きいという問題がある。これに対して,CoCr系多元合金にOやSiOなどの酸素や酸化物を主成分とする材料を更に添加する試みや、(Co/Pt)n,(Co/Pd)n人工格子膜にOやSiOなどの酸素や酸化物を添加する提案がなされている。
【0007】
また、磁気記録媒体の特徴を現す物性パラメータのひとつに異方性磁界Hkがあるが、これもまた、媒体材料の組成が、ナノサイズオーダ(磁性粒子のサイズ)では不均一であることに起因して、バラツキ(分散)を持った値となっている。Hk分散を小さく抑えることも高記録密度化のための重要課題である。
【0008】
以上の背景技術は、1記録ビットが多数の磁性粒子から構成されるグラニュラ媒体についてであった。これに対し、1記録ビットが1つの磁性粒子(ドット)で構成されるパターン媒体(ドット媒体)について図1(b)を用いて説明する。パターン媒体は1つの磁性粒子が占める体積が大きいため、熱減磁を抑えるために一軸異方性定数(Ku)の値が大きい材料を記録膜に用いる必要がなく、上記連続媒体(グラニュラ媒体)と比較して小さい磁界強度で記録が可能である。また、ビット遷移領域での磁化状態の不揃いに起因するノイズがないという利点もある。このためパターン媒体は、面内記録より高密度記録が可能な垂直記録と組み合わせることで、将来の高密度磁気記録媒体として有望視されている。垂直磁化膜を有する高記録密度媒体として、記録磁性膜を構成する磁性粒子の1つ1つに独立に情報を記録するパターン媒体技術(特開2001−267213号公報、特開2001−332421号公報)が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−25030号公報
【特許文献2】特開昭57−109127号公報
【特許文献3】特開2001−267213号公報
【特許文献4】特開2001−332421号公報
【非特許文献1】日本応用磁気学会誌、9巻2号、57〜60頁(1985年)
【非特許文献2】IEEE Trans., MAG-24, No.6, pp.2706-2708 (1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、このパターン媒体(ドット媒体)を用いて磁気ディスク装置を構成しようとすると、磁気ディスク装置内で多岐にわたって新規技術を開発する必要がある。特に大きな課題は、ライトシンクロが必須なことと、極端に狭トラックの記録ヘッドならびに再生ヘッドが必須なことである。ライトシンクロとは、パタニングされた磁性粒子(ドット)の位置と記録ヘッドの位置を一致させる技術であり、記録ヘッドが磁性粒子の直上に位置するタイミングで記録ヘッドを励磁するものである。次に、極めて狭トラックの記録ヘッドならびに再生ヘッドを要する件であるが、図1(b)に示すように、パターン媒体ではビットアスペクトレシオBAR(1記録ビットのビット長とトラック幅との比)が概ね1となるため(即ち、高記録密度を達成するために、トラックの高密度化を重点的に行う)、図1(a)に示すようなBARが4程度の記録に比べて、かなりの狭トラックの記録ヘッドならびに再生ヘッドが必須となる。1Tbit/inch2をBAR=1で達成しようとすると、ビット長もトラック幅も共に25nm以下としなくてはならない。
【0011】
上記のように、従来のスパッタにより作製したグラニュラ媒体(連続薄膜)は、磁性粒子の小径化及び粒径分散の低減及びHk分散の低減がいずれも困難で、かつ耐熱減磁性との両立も困難なうえ、さらに交換相互作用の制御性が悪い等の問題がある。また、これらスパッタで作製された磁気記録媒体の問題点がパターン媒体(ドット媒体)によって仮に解決されたとしても、ライトシンクロや超狭トラックヘッド等の新規課題が山積であるため、従来との技術整合性が悪く、高記録密度の磁気ディスク装置を簡便に提供することはできない。
【0012】
本発明の目的は、平均粒径が1nm以上10nm以下、粒径分散が10%以下、交換相互作用を適正に制御可能とし、1平方メートルあたり100T(テラ)ビット程度以上の高記録密度が可能な磁気記録媒体、及び記録媒体作製方法、ならびにこの記録媒体を用いた超高記録密度磁気ディスク装置を、従来との技術整合性良く簡便に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の磁気記録媒体は、図1(c)に模式的に示すように、ナノ粒子薄膜をマスクとしたパタニングにより人工的に作製された磁性粒子を含み、複数の磁性粒子に1記録ビットを記録するグラニュラ磁気記録層を有する。この磁気記録媒体は、記録磁性層の上部にナノ粒子薄膜を形成し、ナノ粒子薄膜をマスクとしてナノ粒子薄膜下部の記録磁性層を微細形状に加工して製造される。また、その後、ナノ粒子薄膜を除去する工程、さらに加工された磁性粒子の凹凸形状を埋める工程を加えても良い。
【発明の効果】
【0014】
従来のスパッタによって作製したグラニュラ磁気記録媒体に比し、本発明のナノ粒子をエッチングマスクとしてパタニングした人工的な磁性粒子を備えたグラニュラ磁気記録媒体は、粒径、粒径分散、Hk分散、耐熱減性、交換相互作用の制御性などの特性を大幅に向上させることが容易に可能となり、1平方メートルあたり100T(テラ)ビット程度以上の超高記録密度が可能となる。また、パターン媒体と比し、本発明の人工的にパタニングしたグラニュラ磁気記録媒体は、従来の磁気ディスク装置技術との技術整合性が良く簡便に超高記録密度磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図2を用いて、本発明による、ナノ粒子膜をマスクとした微細磁性粒子作製方法を説明する。まず、第1工程として、図2(a)に示すように基板5上に磁気記録を行う磁性層1を形成する。基板5と磁性層1の間に軟磁性層4、中間層3などを形成してもよい。第2工程として、図2(b)に示すように磁性層1の上にナノ粒子15から成るナノ粒子膜16を形成する。第3工程として、図2(c)に示すように、ナノ粒子膜16をマスクとし、符号17で示されるガス又はイオンで磁性層1を切削加工する。このとき、磁性層1において符号18で示される部分はナノ粒子15でマスクされているため、切削を受けない。符号19で示される部分は上にナノ粒子が存在しない領域のため切削される。その後、ナノ粒子膜を除去すると、図2(d)に示すように、微細磁性粒子2が得られる。さらにその後、図2(e)に示すように、加工された磁性粒子の凹凸形状を埋めて平坦化するためのSiO2スパッタ工程ならびにCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシュ)平坦化工程を備えても良い。また、図2(f)に示すように、その記録媒体の上に保護膜を形成して、潤滑剤を塗布する工程を備えることも有効である。
【0016】
なお、図2(c)では、ナノ粒子膜16をマスクとし、符号17で示されるガス又はイオンで磁性層1を切削加工した。すなわち、磁性層1の直上に直接にナノ粒子膜16を配置しているが、何もこれに限るわけではない。記録磁性層1とナノ粒子薄膜16の間に、さらに少なくともひとつ以上の、磁性層1とは別の材料の薄膜(ハードマスク)を形成する工程を追加することも可能である。すなわち、まず、ナノ粒子膜16をマスクとして、このハードマスクをエッチングし、ナノ粒子の形状をハードマスクに転写する。次いで、このハードマスクをマスクとして磁性膜1をエッチングし、最終的にナノ粒子膜の形状が転写された微細磁性粒子を得る技法も可能である。この技法は、ナノ粒子の直径に比し、微細加工しようとする磁性膜1の膜厚が極めて厚い場合に適用すると効果がある。
【0017】
このとき、基板上に形成される磁性層として、Fe,Co,Ni,Mn,Sm,Nd,Pt,Pd,Crのうち少なくとも1種類の元素を含む材料を使用することが可能である。また、これらの元素の金属間化合物、2元合金、3元合金、アモルファス、酸化物を組成とする磁性層を使用することも可能である。具体的な例として、磁気記録に用いられるCo膜、CoPt膜、FePt膜、CoCrPt膜、CoとPdの多層膜、FeとPtの多層膜、FePtとPtの多層膜などが使用可能である。将来の高記録密度化に備えて、一軸異方性定数(Ku)が大きいFePt,FePd,CoPt,CoPdを使用することも可能である。あるいはFePt,FePd,CoPt,CoPdに第3元素を加えた3元合金の磁性層も使用可能である。第3元素としてはCu,Ag,Au,Ru,Rh,Ir,Pb,Bi,Bの使用が可能である。これら以外の第3元素の使用も可能である。またこれらの膜を主体とし、他の元素、成分を添加した複合膜も使用可能である。その他に、CoPtを主成分とし、Si酸化物を主成分とする材料を添加したグラニュラ膜も使用可能である。光磁気記録に使用されるTbFeCo合金膜、及びこれに他の成分を添加した膜も使用可能である。ここに記載の無い組成を持つ磁性層も使用可能である。基板上に形成される磁気記録用の磁性層は、面内磁気記録用、垂直磁気記録用、光磁気記録用のいずれの記録方式に使用する磁性層でも使用可能である。
【0018】
磁性層上の所望の部分に形成されるナノ粒子膜は、Au,Pt,Pd,Si,Alのうち少なくとも1種類の元素を含むナノ粒子からなる膜を使用することが可能である。ナノ粒子の組成として、これらの元素の金属間化合物、2元合金、3元合金も使用可能である。ナノ粒子を構成する材料は、切削加工される磁性層を構成する材料よりも切削されにくい材料を選択することが重要である。これによって、ナノ粒子膜は磁性層の切削加工の際に良好なマスクとなることが可能である。ここに記載の無い組成を持つナノ粒子も使用可能である。
【0019】
ナノ粒子膜の作製方法として、Langmuir-Blodgett(LB)法、回転塗布法を用いることが可能である。これら2つの方法により、磁性層全面にナノ粒子膜を形成することができる。これら以外の方法も使用可能である。LB法、回転塗布法は、加工される磁性層上に直接マスクとなるナノ粒子膜を形成するため、量産の際の高スループット化が可能であり、低価格で記録媒体を生産することができる。
【0020】
ナノ粒子膜を構成するナノ粒子として、粒子の形状が略球形で且つ直径1nm以上10nm以下の範囲にある任意且つある固有の直径を持ち、且つ粒子の粒径分散が10%以下であり、このナノ粒子が略規則的に単層配列したナノ粒子膜を用いることが望ましい。直径が1nm以上10nm以下である略球形のナノ粒子は作成が容易であり、人工グラニュラ媒体を作製するための磁性膜の微細加工に適したサイズである。粒径分散が10%以下であるナノ粒子を用いると、ナノ粒子膜の均一性が保たれ、その後の切削加工で得られる磁性粒子の寸法制御が容易となる。
【0021】
上述のようにして得られた磁性層上に存在するナノ粒子膜は、磁性層を切削加工する際のマスクとして使用する。このとき、切削方法として、イオンミリング、FIB、又はRIEを用いることが可能である。FIB法では主としてGaイオンを用いて切削加工を行う。Ga以外のイオンも使用可能である。切削加工法としてRIEを用いた場合、磁性層のエッチングガスは塩素に代表されるハロゲン、COやCO2とNH3を主成分とした混合ガスが主に用いられる。これら以外のエッチングガスも使用可能である。
【0022】
上記のように、ナノ粒子膜をマスクにして切削加工で磁性層上に形成された微細な磁性粒子はナノ粒子の形状を反映した形となる。球状のナノ粒子を用いた場合、切削加工後の磁性層は、円筒形の磁性粒子となる。FIBやRIEの条件を最適化すれば、球状のナノ粒子の直径と、磁性層上に形成された略円筒型で凸型の磁性粒子の直径をほぼ等しくすることが可能である。直径が1nm以上10nm以下の球状ナノ粒子は化学合成による作成が容易である。
【0023】
このように、ナノ粒子膜をエッチングマスクとして切削加工された粒径1nm以上10nm以下の微細磁性粒子は、複数(2個以上)の磁性粒子をもって1記録ビットを構成する記録媒体として使用することが可能である。このとき記録方式として、面内磁気記録、垂直磁気記録、光又は熱アシスト磁気記録が使用可能である。
【0024】
ここでは金属ナノ粒子について述べたが、シリカ(SiO2)やアルミナ(Al23)等の酸化物、ポリスチレン等の有機物を成分とするナノ粒子等も同様にして適用することができる。
【0025】
シリカ、アルミナ、ポリスチレン等の酸化物、有機物を成分とするナノ粒子として、市販品のナノ粒子を適用することが可能である。ナノテクノロジーの進歩により、これらの酸化物、有機物のナノ粒子は、研磨材料や充填材料として様々な粒径がコロイド溶液として市販されている。これらの市販品のうち、直径10nm以下で分散が10%以下のものをマスク用ナノ粒子として用いることが可能である。ナノ粒子膜の作製方法としては、金属ナノ粒子の場合と同様、LB膜法や回転塗布法を用いることが可能である。製膜条件を最適化することにより、シリカ、アルミナ、ポリスチレン等の酸化物、有機物から成るナノ粒子がほぼ規則的に配列した単層膜を得ることができる。
以下に、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
まず初めに、マスク材料となるナノ粒子を作製した。ナノ粒子の製造方法は数種類知られているが、粒径分散が10%以下である粒径の揃ったナノ粒子を得るためには、以下に述べる化学合成法が最適である。有機溶媒あるいは水を含む無機溶媒中で、原料となる金属イオンを還元して得られた金属原子、又は金属原子の周りに配位した有機化合物を除去することによって得られる金属原子を核成長させて、任意の粒径を持つ金属ナノ粒子を得る。原料となる金属イオンや金属原子は単一元素でも複数元素であってもよい。複数の場合は合金ナノ粒子が得られる。直径100nm以下の範囲における粒径の制御は、配位子と呼ばれ金属ナノ粒子の周囲を取り囲む有機化合物の構造、複数の配位子の組み合わせ、原料に対する配位子の仕込み量、合成プロセス中の配位子添加のタイミング等の要因を最適化することによって行うことが可能である。また、配位子となる有機化合物の構造、配位子の組み合わせ等の要因を最適化することで、所望の形状のナノ粒子を得ることが可能である。化学合成で得られる最も一般的なナノ粒子の形状は球形、あるいは正多面体構造である。2種類以上の配位子を組み合わせることによって、紡錘型のナノ粒子を合成することも可能である。
【0027】
上記のような化学合成で得られたナノ粒子の溶液を遠心分離機にかけ、特定の直径(つまり特定の重量)を持ったナノ粒子だけを重さによって選別することにより、ナノ粒子の粒径分散を10%以下にすることが可能である。ナノ粒子を取り囲む配位子の分子構造は、ナノ粒子膜を形成した際のナノ粒子間隔を決める重要な要因となる。即ち、ナノ粒子の間隔は出来上がった磁気記録媒体の磁性粒間に相当し、交換相互作用の制御に関わる。分子量が大きく長鎖構造を持つ配位子を使用すると、ナノ粒子膜中において粒子と粒子の間隔は広くなり、逆に炭素数の少ない低分子量の配位子を使用すると、ナノ粒子膜中の粒子間隔は狭くなる。CoやFeのナノ粒子によく用いられるオレイン酸を配位子とした場合、ナノ粒子の間隔は2〜4nmとなることが知られている。オレイン酸よりも低分子量のヘキサン酸を配位子とした場合は、ナノ粒子の間隔は1〜2nmと短くなる。
【0028】
ナノ粒子の間隔の制御、すなわち磁性粒間の制御は、磁気記録媒体の交換相互作用の制御に関わることは以上に述べた。磁気記録媒体では、記録分解能特性や熱減磁特性の観点から、交換相互作用はある適当な値をとることが必要である。
【0029】
次に、上述の化学合成方法を用いて、Auナノ粒子を作製した。Auをナノ粒子の素材として選択した理由は、磁性層の切削加工用マスクとして十分な切削加工耐性を持つためである。実際の合成方法を以下に述べる。有機溶媒中でAuイオンを還元し、Auナノ粒子のコロイド溶液を得た。この溶液を遠心分離機にかけ、サイズ分別を行って粒径分散10%、金属核の直径5nmであるAuナノ粒子のコロイド溶液を得た。このときAuのナノ粒子は、長さ4nmの有機化合物であるドデカンチオール(CH3−(CH211−SH)で被覆され、アルコール溶媒中にコロイドとして分散した状態であった。
【0030】
次に、図5(a)に示すように、ガラス製の基板5上に軟磁性層4、中間層3、磁気記録層となる磁性層1をこの順序でスパッタ法を用いて積層した。軟磁性層はCoが主成分で膜厚は100nm、中間層はRuを主成分とし膜厚は20nm、磁気記録層は垂直異方性のあるCoCrPt膜(膜厚20nm)を使用した。磁性層の上に、上記Auナノ粒子のコロイド溶液を滴下し回転塗布した後、60℃で10分間プリベークし、塗布溶媒を完全に蒸発させた。回転塗布法は、ナノ粒子を被覆する化合物の分子量並びに分子構造を選択し、コロイド溶液の濃度を調節し、回転条件を最適化することで、最充填され実質的に規則的な配列を持つナノ粒子からなる膜を磁性層上全面にわたって形成することが可能である。本実施例では、長さ4nmのドデカンチオールで被覆された直径5nmのAuナノ粒子のコロイド溶液を用い、回転塗布条件を最適化して、Auナノ粒子が略規則的に1層配置されたナノ粒子膜を得ることができた。本実施例で使用したAuナノ粒子の配位子は、自己組織化性の高いドデカンチオールである。このため回転塗布を行っても、回転塗布後の粒子の配列は図5(e)のように、基板上から見たとき略規則的な六方格子状となった。その結果、図5(b)に示すようにAuナノ粒子38がほぼ規則的に配列した単層膜39を磁性層上の全面に形成することができた。
【0031】
次に、図5(c)に示すように、上記ナノ粒子膜をマスクとし、磁性層1のCoCrPt膜をCOとNH3の混合ガスを用いて異方性ドライエッチング(RIE)(符号17)した。本実施例で用いたエッチングマスクはAuナノ粒子膜であるため、従来のレジストマスクよりもドライエッチング耐性が高く、エッチング中の磨耗が少ない。このため、RIEによってマスクパターンを正確に磁性層に転写することが可能である。本実施例において、Auナノ粒子38で覆われた領域18はエッチングされず、ナノ粒子がない領域19はエッチングガスにより切削された。これによって図5(d)に示すように、基板上の磁性層1に粒径dが5nm、粒間sが3nmである良好な微細パターンを作製することができた。
【0032】
この基板に対し、試料振動型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、垂直保磁力6000Oe、保磁力角型比Sが0.85、残留磁化が150emu/ccである良好な磁気特性を示す磁化曲線が得られた。上記のパタニングによって良好な磁気特性を示す人工グラニュラ垂直磁気記録媒体を作製することができた。
【0033】
本実施例で作製した人工グラニュラ垂直磁気記録媒体に対し、炭素が主成分の保護膜をつけ、フッ素系潤滑剤を塗布した。この媒体と、垂直磁気記録用薄膜単磁極記録ヘッド及びGMR素子を用いた再生ヘッド(記録再生分離型ヘッド)と、を組み合わせて、スピンスタンド(記録再生特性評価設備)による評価を行った。
【0034】
さまざまなナノ粒子膜を作製して(すなわち、ナノ粒子の大きさと、粒子間の距離(粒間)をさまざまに作製して)、人工グラニュラ磁気記録媒体を作製し、これについて上記の記録分解能特性を評価して、人工グラニュラ磁気記録媒体の磁性粒子の粒径と粒間の最適値を評価した。この結果を図3に示す。記録分解能は次式で表される。
記録分解能=(高線記録密度再生出力)/(孤立再生出力)
【0035】
ここでは、高線記録密度を800kFCI(Flux Changes per a Inch)の記録パタンとし、孤立を5kFCIとした。記録分解能は、粒子面積/粒間面積=3/7〜5/5の範囲において、7%の値が得られ(図3では規格化した記録分解能で表している。)、それ以外の粒子面積/粒間面積では記録分解能特性の劣化が観られ、粒子面積と粒間面積の比が、粒子面積/粒間面積=3/7〜5/5の範囲にある記録媒体において、上記の記録分解能特性が最も優れていることが明らかになった。
【0036】
また、粒子面積や粒子間隔を制御する代わりに、パタニングされた磁性粒子の上層、もしくは下層、もしくは上下層の位置に、パタニングされた磁性粒子に比べて透磁率の高い材料を形成する(図4参照)ことで交換相互作用の大きさを制御することが可能となり、記録媒体の保磁力Hcを低減することが可能となり、すなわち必要な記録ヘッド磁界を低減することができる。この材料にはパーマロイ等の軟磁性膜を用いればよい。軟磁性膜は何もパーマロイに拘ることは無く、微細にパタニングした磁性粒子よりも透磁率の高い材料を使用すればよい。ここでは、10nmの膜厚のパーマロイを用いたときに、1000Oeの媒体保持力Hcの低下の効果を確認することができた。
【0037】
次に、図7に略示した磁気ディスク装置を組立てた。図7において、符号44は記録媒体を回転駆動させるスピンドルモータ、45は人工グラニュラ記録媒体である磁気ディスク、46は再生部分と記録部分を持つ磁気ヘッド、47はヘッドを保持するサスペンション、49は磁気ヘッドを位置決めするボイスコイルモータをそれぞれ示す。また符号51は記録再生回路、50は位置決め回路、52はインターフェース制御回路をそれぞれ示す。この磁気ディクス装置を用いて記録再生実験を行い、再生出力を調べた結果、記録密度が800kfciのときpeek to peekで約1mVの出力を得ることができた。また、耐磨耗性は、従来のスパッタ蒸着媒体と同様のレベルであることがわかった。
【0038】
[実施例2]
実施例1で使用したスピンコート法の代わりにLangmuir-Blodgett(LB)法で磁性層の上にAuナノ粒子単層膜を磁性層上の全面に形成した。本実施例においても、実施例1と同様に長さ4nmのドデカンチオールで被覆された直径5nmのAuナノ粒子のコロイド溶液を用いた。
【0039】
以下に、LB法によるナノ粒子膜の形成について述べる。LB膜は、金属ナノ粒子のコロイド溶液をトラフ上の清浄な水面に少量ずつ滴下し、水面上にナノ粒子の単層膜をつくり、可動バリアー板を動かして水面上に浮かぶ単層膜をゆっくり静かに圧縮して形成する。まず、LB膜製造装置のトラフ(水槽)の底部や縁部、可動バリアー板をアセトンで洗浄した。トラフにイオン交換水を満たして表面張力で盛り上がっている水面の高さをトラフの淵から約0.5mmになるよう低く揃えた。次に、表面圧力計と可動バリアー板を所定の位置にセットした。マイクロシリンジ中のナノ粒子コロイド溶液を水面上の異なる場所に1滴ずつ静かに滴下し、ナノ粒子を水面上に展開した。滴下するAuコロイド溶液の濃度は約1μmol/l、展開量は展開面積600cm2に対し約1000μlとした。ナノ粒子を水面上に展開した後、展開溶媒が完全に蒸発するまで30分放置した。次に、圧縮速度7.2cm2/分で可動バリアー板を動かし、表面圧をモニターしながら水面上に形成されたナノ粒子単層膜を圧縮した。表面圧が10〜20mN/mで圧縮を止めた結果、最密充填され略規則的な配列を持つAuナノ粒子単層膜を得ることができた。LB法で形成されたAuナノ粒子単層膜は、表面疎水化処理を行ったガラス基板又はSi基板に水平付着法で転写した。表面疎水化処理剤は、ステアリン酸鉄(III)又はエポキシ化ブタジエンを用いた。基板上に転写したAuナノ粒子単層膜はクリーンベンチ内に静置して水分を自然乾燥させた。
【0040】
上記のようにLB法で形成したAuナノ粒子単層膜をマスクに、実施例1と同様にして磁性層をCOとNH3の混合ガスを用いて異方性ドライエッチングした。これによって図5(d)と同様に、基板上の全面にわたって粒径dが5nm、粒間sが3nmである良好な人工グラニュラ磁気記録媒体を作製することができた。
【0041】
実施例1と同様に、上記方法により微細パターンが形成された基板に対し、試料振動型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、垂直保磁力6000Oe、保磁力角型比Sが0.85、残留磁化が150emu/ccである良好な磁気特性を示す磁化曲線が得られた。上記のパタニングによって良好な磁気特性を示す人工グラニュラ垂直磁気記録媒体を作製することができた。
【0042】
本実施例で作製した人工グラニュラ垂直磁気記録媒体に対し、実施例1と同様に保護膜とフッ素系潤滑剤を塗布して、評価用の人工グラニュラ垂直記録媒体とした。この媒体と、垂直磁気記録用薄膜単磁極記録ヘッドとGMR素子からなる再生ヘッドから成る記録再生分離型ヘッドを組み合わせ、図7に略示した磁気ディスク装置を組立て、出力を調べた。その結果、記録密度が800kfciのときpeek to peekで約1mVの出力を得ることができた。また耐磨耗性は、従来のスパッタ蒸着媒体と同様のレベルであることがわかった。
【0043】
[実施例3]
CoとPdの多層膜(以下、Co/Pd多層膜と略す)を磁性層として、図6に示した工程で磁性層に微細磁性粒子を作製した。図6(a)に示したように第1の工程として、基板5の上にCoを主成分とする軟磁性層4、Ru,Taを主成分とする中間層3、垂直磁気記録用の磁性層(Co/Pd多層膜)1を順に形成した。図6(b)のように第2の工程として、磁性層1の上に全面にわたってAuナノ粒子膜39を形成した。このとき用いたナノ粒子はオレイン酸とオレイルアミンで被覆された直径3nmの球状Au粒子38である。図6(c)のように第3の工程として、Auナノ粒子層をマスクとし、符号17で示されるCOとNH3の混合ガスでCo/Pd多層膜をRIE加工した。Auナノ粒子38で覆われた領域18はエッチングされず、ナノ粒子がない領域19はガスにより切削された。この結果、図6(d)に示したように、Co/Pd多層膜1中において、粒径dが3nm、粒間sが2nmの良好な人工グラニュラ磁気記録媒体を作製することができた。
【0044】
実施例1と同様に、上記方法により微細パターンが形成された基板に対し、試料振動型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、垂直保磁力6000Oe、保磁力角型比Sが0.85、残留磁化が150emu/ccである良好な磁気特性を示す磁化曲線が得られた。上記のパタニングによって良好な磁気特性を示す人工グラニュラ垂直磁気記録媒体を作製することができた。
【0045】
本実施例で作製した人工グラニュラ垂直磁気記録媒体に対し、実施例1と同様に保護膜とフッ素系潤滑剤を塗布して、評価用の人工グラニュラ垂直記録媒体とした。この媒体と、垂直磁気記録用薄膜単磁極記録ヘッドとGMR素子からなる再生ヘッドから成る記録再生分離型ヘッドを組み合わせ、図7に略示した磁気ディスク装置を組立て、出力を調べた。その結果、記録密度が800kfciのときpeek to peekで約1mVの出力を得ることができた。また耐磨耗性は、従来のスパッタ蒸着媒体と同様のレベルであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】1記録ビットを1磁性粒子で構成するパターン媒体、スパッタ薄膜媒体、パタニングした微細磁性粒子を有す人工グラニュラ磁気記録媒体の違いを説明する概略図。
【図2】微細磁性粒子を有す人工グラニュラ磁気記録媒体の作製方法を示す概略図。
【図3】最適な粒子面積/粒間面積を示す実験データを説明する概略図。
【図4】パタニングした磁性粒子の交換相互作用を調整する方法を説明する概略図。
【図5】実施例1及び2を示す概略図。
【図6】実施例3を示す概略図。
【図7】本発明による磁気ディスク装置を示す概略図。
【符号の説明】
【0047】
1 磁性層
2 磁性層をパタニング加工して形成された微細磁性粒子
3 中間層
4 軟磁性層
5 基板
15 ナノ粒子
16 ナノ粒子膜
17 切削加工に用いるガス、イオン
18 ナノ粒子でマスクされた部分
19 ナノ粒子でマスクされない部分
38 Auナノ粒子
39 Auナノ粒子からなる単層膜
44 スピンドルモータ
45 人工グラニュラ記録媒体(磁気ディスク)
46 磁気ヘッド
47 サスペンション
49 ボイスコイルモータ
50 位置決め回路
51 記録再生回路
52 インターフェース制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録磁性層の上部にナノ粒子薄膜を形成し、前記ナノ粒子薄膜をマスクとしてナノ粒子薄膜下部の前記記録磁性層を微細形状に加工して作製された、人工的にパタニングされた磁性粒子を有し、複数個の磁性粒子を以って1記録ビットを構成する磁気記録媒体であって、
前記磁性粒子の粒径が1nm以上10nm以下、粒径分散が10%以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、パタニングされた磁性粒子は、Fe又はFeを主成分とする材料、あるいはCo又はCoを主成分とする材料から成る磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、パタニングされた磁性粒子はFe又はFeを主成分とする材料あるいはCo又はCoを主成分とする材料の薄膜と、Pt又はPtを主成分とする材料あるいはPd又はPdを主成分とする材料の薄膜との多層周期構造を有する磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、粒子面積と粒間面積の比が、粒子面積/粒間面積=3/7〜5/5の範囲にあることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、パタニングされた磁性粒子の上層及び/又は下層に、前記磁性粒子に比べて透磁率の高い材料からなる層が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
人工的にパタニングされた磁性粒子を有し、複数個の磁性粒子を以って1記録ビットを構成する磁気記録媒体の作製方法であって、
記録磁性層の上部にナノ粒子薄膜を形成する工程と、
前記ナノ粒子薄膜をマスクとしてナノ粒子薄膜下部の前記記録磁性層を微細形状に加工する工程とを含むことを特徴とする磁気記録媒体作製方法。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気記録媒体作製方法において、前記記録磁性層と前記ナノ粒子薄膜の間に少なくともひとつの薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体作製方法。
【請求項8】
請求項6に記載の磁気記録媒体作製方法において、前記ナノ粒子薄膜はAu,Pt,Pd,ポリスチレン,シリカ(SiO2),アルミナ(Al23)のうち少なくとも1種類の材料を含むナノ粒子からなる薄膜であり、粒子の形状は略球形であり、粒子の直径は1nm以上10nm以下のある固定値であり、粒子の粒径分散は10%以下である、ナノ粒子が略規則的に1層配列したナノ粒子薄膜であることを特徴とする磁気記録媒体作製方法。
【請求項9】
記録磁性層を有する磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を駆動する駆動部と、前記磁気記録媒体に対して記録及び再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへ記録信号を出力する手段と、前記磁気ヘッドからの出力信号を再生する手段とを含む磁気ディスク装置において、
前記磁気記録媒体は、人工的にパタニングされた2個以上の磁性粒子を以って1記録ビットを構成する磁気記録媒体であり、前記磁性粒子は粒径が1nm以上10nm以下、粒径分散が10%以下であることを特徴とする磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−149155(P2007−149155A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338388(P2005−338388)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】