説明

磁気記録媒体、その製造方法および磁気記録再生装置

【課題】 垂直磁気記録層の粒径の微細化と垂直配向性を両立することで、高密度の情報の記録再生が可能な磁気記録媒体、その製造方法、および磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】 非磁性基板上に、少なくとも裏打ち層とシード層と下地層と垂直磁気記録膜を有する垂直磁気記録媒体において、前記シード層の少なくとも1層が、共有結合性材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、その製造方法、およびこの磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、可撓性ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られている。特にMRヘッド、およびPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇は激しさを増し、近年ではさらにGMRヘッド、TuMRヘッドなども導入され、著しい増加を続けている。
【0003】
このように、磁気記録媒体については今後更に高記録密度化を達成することが要求されており、そのために磁気記録層の高保磁力化と高信号対雑音比(S/N比)、高分解能を達成することが要求されている。これまで広く用いられてきた長手磁気記録方式においては、線記録密度が高まるにつれて、磁化の遷移領域の隣接する記録磁区同士がお互いの磁化を弱め合おうとする自己減磁作用が支配的になるため、それを避けるために磁気記録層を薄くして形状磁気異方性を高めてやる必要がある。
【0004】
その一方で、磁気記録層の膜厚を薄くしていくと、磁区を保つためのエネルギー障壁の大きさと熱エネルギーの大きさが同レベルに近づいてきて、記録された磁化量が温度の影響によって緩和される現象(熱揺らぎ現象)が無視できなくなり、これが線記録密度の限界を決めてしまうと言われている。
【0005】
このような中、長手磁気記録方式の線記録密度改良に答える技術として最近ではAFC(Anti-Ferromagnetic Coupling )媒体が提案され、長手磁気記録で問題となる熱磁気緩和の問題を回避しようという努力がなされている。
また、今後一層の面記録密度を実現するための有力な技術として注目されているのが垂直磁気記録技術である。従来の長手磁気記録方式が、媒体を面内方向へ磁化させるのに対し、垂直磁気記録方式では媒体面に垂直な方向に磁化させることを特徴とする。このことにより、長手磁気記録方式で高線記録密度を達成する妨げとなる自己減磁作用の影響を回避することができ、より高密度記録に適していると考えられている。また、一定の磁性層膜厚を保つことができるため、長手磁気記録で問題となっている熱磁気緩和の影響も比較的少ないと考えられている。
【0006】
垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上にシード層、下地層、磁気記録層、保護層の順に成膜されるのが一般的である。また、保護層まで成膜した上で、表面に潤滑層を塗布する場合が多い。また、多くの場合、裏打ち層とよばれる軟磁性膜がシード層の下に設けられる。下地層は磁気記録層の特性をより高める目的で形成される。またシード層は下地層、磁気記録層の結晶配向を整えると同時に磁性結晶の形状を制御する働きをすると言われている。
【0007】
優れた特性を有する垂直磁気記録媒体を製造するためには、磁気記録層の結晶構造が重要である。すなわち、垂直磁気記録媒体においては、多くの場合その磁気記録層の結晶構造はhcp構造(六方晶系の最密構造)をとるが、その(002)結晶面が基板面に対して平行であること、換言するならば、結晶c軸[002]軸が垂直な方向にできるだけ乱れなく配列していることが重要である。しかしながら、垂直磁気記録媒体は比較的厚い磁気記録層を使用できるという利点がある反面、媒体全体の積層薄膜の総膜厚が現行の長手磁気記録媒体に比べて厚くなりがちであり、そのために媒体積層の過程において結晶構造を乱す要因を内包しやすいという欠点があった。
【0008】
磁気記録層の結晶をできるだけ乱れなく配向させるため、垂直磁気記録媒体の下地層としては、従来磁気記録層と同様にhcp構造(面心系の立方構造)をとる、Ruが用いられてきた。Ruの(002)結晶面上に、磁気記録層の結晶がエピタキシャル成長するため、結晶配向の良い磁気記録媒体が得られる(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
下地層の下に位置するシード層に求められる特性としては、下地層の結晶配向を向上させることにある。そのため、従来シード層としては、基板面に対して平行な面が平らになるようにアモルファス材料が用いられてきた(例えば、特許文献2参照。)。また、fcc構造の(111)結晶面上にhcp構造の(002)結晶面が優先配向するため、シード層として、fcc結晶材料も用いられてきた(例えば、特許文献3参照。)。
【0010】
記録再生特性の向上のため、シード層に求められるもう一つの特性として、粒径の微細化があるが、アモルファス材料のシード層では、粒径がバラつき、分布が大きくなる。また、fcc結晶材料のシード層では、粒径制御が困難である。このように、アモルファス材やfcc結晶材料のシード層では、記録再生特性に優れた垂直磁気記録媒体を得るには不十分であり、結晶配向と粒径の微細化を両立し、この問題を解決し、かつ、安易に製造が可能な垂直磁気記録媒体が要望されていた。
【特許文献1】特開2001−6158号公報
【特許文献2】特開2004−70980号公報
【特許文献3】特開2003−77122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、垂直磁気記録層の粒径の微細化と垂直配向性向上を両立することで、高密度の情報の記録再生が可能な磁気記録媒体、その製造方法、および磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は以下に掲げた、
(1)非磁性基板上に、少なくとも裏打ち層とシード層と下地層と垂直磁気記録膜を有する垂直磁気記録媒体において、前記シード層の少なくとも1層が、共有結合性材料であることを特徴とする磁気記録媒体、
(2)前記シード層の少なくとも1層が、六方晶の結晶構造を有する窒化物を主成分とすることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体、
(3)前記シード層の少なくとも1層が、六方晶ウルツァイト型の結晶構造を有するAlNを主成分とすることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体、
(4)前記シード層の平均結晶粒径が、3(nm)以上12(nm)以下であることを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の磁気記録媒体、
(5)前記シード層の膜厚が0.1(nm)以上40(nm)以下であることを特徴とする(1)乃至(4)の何れか1項に記載の磁気記録媒体、
(6)前記裏打ち層が、軟磁性のアモルファス構造であることを特徴とする(1)乃至(5)の何れか1項に記載の磁気記録媒体、
(7)前記裏打ち層と共有結合性材料のシード層の間に、fcc構造を有する材料を挿入することを特徴とする請求項(1)乃至(6)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体、
(8)前記下地層の少なくとも1層が、fccまたはhcpの結晶構造を有することを特徴とする(1)乃至(7)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体、
(9)前記非磁性基板が、シード層の成膜前に加熱処理されたものであることを特徴とする(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体、
(10)前記垂直磁気記録膜の少なくとも1層が酸化物磁性膜であることを特徴とする(1)乃至(9)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体、
【0013】
(11)非磁性基板上に、少なくとの裏打ち層とシード層と下地層と垂直磁気記録膜を有する垂直磁気記録媒体を形成することからなる磁気記録媒体の製造方法において、前記シード層の少なくとも1層が、共有結合性材料からなることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法、
(12)磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、磁気記録媒体が、(1)乃至(10)の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置、
の各発明を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、垂直磁性層の結晶構造、特にhcp構造の結晶c軸が基板面に対して極めて角度分散の小さい状態で配向し、かつ、垂直磁性層を構成する結晶粒の粒径が均一で、平均粒径が極めて微細な高記録密度特性に優れた垂直磁気記録媒体を供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の内容を具体的に説明する。
本発明の垂直磁気記録媒体10は、図1に示すように、非磁性基板1上に少なくとも軟磁性裏打ち層2、直上の膜の結晶配向性を制御するシード層3及び下地層4、磁化容易軸(結晶c軸)が基板に対し主に垂直に配向した垂直磁性層5、保護層6を有する垂直磁気記録媒体である。
また、本発明のシード層は、今後のさらなる記録密度の向上が期待されるECC媒体や、ディスクリートトラックメデイア、パターンメディアのような新しい構成の垂直記録媒体においても適用可能である。
【0016】
本発明の磁気記録媒体に使用される非磁性基板としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、アモルファスガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、サファイア、石英、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。中でもAl合金基板や結晶化ガラス、アモルファスガラス等のガラス製基板が用いられることが多い。ガラス基板の場合、ミラーポリッシュ基板やRa<1Åのような低Ra基板などが好ましい。軽度であれば、テクスチャが入っていても構わない。
磁気ディスクの製造工程においては、まず基板の洗浄・乾燥が行われるのが通常であり、本発明においても各層の密着性を確保する見地からもその形成前に洗浄、乾燥を行うことが望ましい。洗浄については、水洗浄だけでなく、エッチング(逆スパッタ)による洗浄も含まれる。また、基板サイズも特に限定しない。
基板はシード層の成膜前に加熱することが好ましい。加熱温度は300℃くらいまでである。これにより、結晶配向性が向上する。
【0017】
次に、垂直磁気記録媒体の各層について説明する。
軟磁性裏打ち層は多くの垂直磁気記録媒体に設けられている。媒体に信号を記録する際、ヘッドからの記録磁界を導き、磁気記録層に対して記録磁界の垂直成分を効率よく印加する働きをする。材料としてはFeCo系合金、CoZrNb系合金、CoTaZr系合金などいわゆる軟磁気特性を有する材料ならば使用することができる。軟磁性層は、アモルファス構造であることが特に好ましい。アモルファス構造とすることで、表面粗さ:Raが大きくなることを防ぎ、ヘッドの浮上量を低減することが可能となり、さらなる高記録密度化が可能となるためである。また、これら軟磁性層単層の場合だけでなく、2層の間にRuなどの極薄い非磁性薄膜をはさみ、軟磁性層間にAFCを持たせたものも多く用いられるようになっている。裏打ち層の総膜厚は20nm〜120nm程度であるが、記録再生特性とOW(Over Write)特性とのバランスにより適宜決定される。
【0018】
本発明のシード層は、下地層とその直上の磁気記録層を効率よく垂直配向させるために共有結合性材料を用いる。
【0019】
共有結合材料は、容易に金属合金と比較して、同等以上の結晶配向性の高い薄膜を成膜することができる。シード層が六方晶または、面心結晶構造をとることで、fccまたはhcp構造とる下地層は効率よく結晶配向できる。特にhcp構造をとるRuやRe合金を下地層として用いた場合、結晶c軸[002]軸が効率よく垂直配向する。
共有結合材料のシード層の平均結晶粒径は3〜12nmが一般に用いられる。
共有結合材料シード層の膜厚としては、0.1〜40nmの範囲で用いるのがよく、この中で六方晶構造をとる場合、3〜20nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、3〜10nmの範囲内である。
【0020】
本発明によれば、六方晶を有する共有結合性材料をシード層に用いることで、金属合金性結晶をシード層に用いた媒体に対して、Δθ50の大きさが同等かより小さい垂直磁気記録媒体を作製することができる。
【0021】
共有結合性材料は、金属材料に対する濡れ性が悪いため、金属材料を用いている裏打ち層上の自身の結晶粒径を制御できる。これにより、下地層がシード層上でエピタキシャル成長している場合は、下地層の粒系も制御することができる。
また、下地層がシード層上でエピタキシャル成長しない場合においても、シード層と下地層間の濡れ性が悪いため、下地層の粒径を制御できる
【0022】
裏打層とシード層の間にfcc構造の材料を挿入することができる。その材料としてはNi−Ta、Ni−V、Ni−Nb、Ni−W、Ni−Fe、Ni−Mnなどであり、その厚さは5nm程度である。
本発明の下地層としては、磁気記録層と同じhcp構造か、hcp構造の(002)結晶面が配向し易いfcc構造の(111)結晶面配向している材料が好ましい。
hcp構造を有する化合物としてはRuやRe、またはそれらの合金材料どが挙げられ、fcc構造を有す化合物としてはPtやPd、またはそれらの合金材料などが挙げられる。
本発明の下地層の平均結晶粒径は、6nm〜20nmの範囲内とするのが好ましい。より好ましくは、6nm〜8nmの範囲内である。平均結晶粒径は平面TEM画像を使って測定できる。下地層の膜厚は5〜30nm程度が適する。
【0023】
磁気記録層の結晶配向は、下地層の配向によりほぼ決定されるため、この下地層の配向制御は垂直磁気記録媒体の製造上極めて重要である。また、同様に下地層の結晶粒の平均粒径を微細にコントロールすることができれば、その上に連続的に成膜される磁気記録層の結晶粒径もその形状を引き継ぎ易く、磁気記録層の結晶粒も微細になることが多い。そして、磁気記録層の結晶粒径が微細であればあるほど信号と雑音との強度比:SNRは大きくとることができると言われている。
【0024】
垂直磁気記録媒体において、磁気記録層の結晶c軸[002]軸が基板に対して垂直な方向に、できるだけ乱れなく配列しているかを評価する方法としてロッキングカーブの半値幅を用いることができる。まず基板上に成膜した膜をX線回折装置にかけ、基板面に対して平行な結晶面を分析する。X線の入射角を走査することで、結晶面に対応する回折ピークが観測される。Co系合金を磁性層として用いた場合、hcp構造のc軸[002]方向が基板面に垂直になるような配向をするので、(002)面に対応するピークを観測することになる。次にこの(002)面を回折するブラッグ角を維持したまま光学系を基板面に対してスイングさせる。このときに光学系を傾けた角度に対して(002)面の回折強度をプロットすると、スイング角0°を中心とした回折強度曲線を描くことができる。これをロッキングカーブと呼んでいる。このとき(002)面が基板面に対して極めてよく平行にそろっている場合は鋭い形状のロッキングカーブが得られるが、逆に(002)面の向きが広く分散しているとブロードなカーブが得られる。そこでロッキングカーブの半値幅Δθ50を垂直磁気記録媒体の結晶配向の良否の指標として用いることが多い。
【0025】
磁気記録層は文字通り、実際に信号の記録がなされる層である。材料としてはCoCr、CoCrPt、CoCrPt−O、CoCrPt−SiO2、CoCrPt−Cr23、CoCrPt−TiO2、CoCrPt−ZrO2、CoCrPt−Nb25、CoCrPt−Ta25、CoCrPt−TiO2などのCo系合金薄膜が使用されることが多い。特に、酸化物磁性層を用いる場合は、酸化物が磁性Co結晶粒の周りを取り囲んでグラニュラ構造をとることで、Co結晶粒同士の磁気的相互作用が弱まりノイズが減少する。最終的にはこの層の結晶構造、磁気的性質が記録再生特性を決定する。
【0026】
磁気記録層がグラニュラ構造をとるため、中間層の成膜ガス圧を高くして表面の凹凸をつけることが好ましい。酸化物磁性層の酸化物が、中間層表面の凹の部分に集まることにより、グラニュラ構造になる。ただし、ガス圧を上げることで中間層の結晶配向性が悪化し、また表面粗さが大きくなりすぎる恐れがあるため、成膜ガス圧を調整することで、結晶配向性を維持したまま、酸化物により磁性結晶が孤立したノイズの少ない磁気記録媒体を作ることが可能になる。
【0027】
以上の各層の成膜には通常DCマグネトロンスパッタリング法またはRFスパッタリング法が用いられる。RFバイアス、DCバイアス、パルスDC、パルスDCバイアス、O2ガス、H2Oガス導入、N2ガスを用いることも可能である。そのときのスパッタリングガス圧力は各層ごとに特性が最適になるように適宜決定されるが、一般に0.1〜30(Pa)程度の範囲にコントロールされる。媒体の性能を見ながら調整される。
【0028】
保護層はヘッドと媒体との接触によるダメージから媒体を保護するためのものであり、カーボン膜、SiO2膜などが用いられるが、多くの場合はカーボン膜が用いられる。膜の形成にはスパッタリング法、プラズマCVD法などが用いられるが、近年ではプラズマCVD法が用いられることが多い。マグネトロンプラズマCVD法も可能である。膜厚は1nm〜10nm程度であり、好ましくは2〜6nm程度、さらに好ましくは2〜4nmである。
【0029】
図2は、上記垂直磁気記録媒体を用いた垂直磁気記録再生装置の一例を示すものである。図2に示す磁気記録再生装置は、図1に示す構成の磁気記録媒体10と、磁気記録媒体10を回転駆動させる媒体駆動部11と、磁気記録媒体10に情報を記録再生する磁気ヘッド12と、この磁気ヘッド12を磁気記録媒体10に対して相対運動させるヘッド駆動部13と、記録再生信号処理系14とを備えて構成されている。
記録再生信号処理系14は、外部から入力されたデ−タを処理して記録信号を磁気ヘッド12に送り、磁気ヘッド12からの再生信号を処理してデ−タを外部に送ることができるようになっている。
【0030】
本発明の磁気記録再生装置に用いる磁気ヘッド12には、再生素子として異方性磁気抵抗効果(AMR)を利用したMR(Magneto Resistance)素子だけでなく、巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子、トンネル効果を利用したTuMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
(実施例1、比較例1)
HD用ガラス基板をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10-5(Pa)以下に真空排気した。
次に、この基板上にスパッタリング法を用いて軟磁性裏打ち層CoNbZrを50nm、ガス圧0.6(Pa)のAr雰囲気中で成膜した。
【0032】
シード層として共有結合性材料であるAlNを用いるため、AlをN2ガス反応性スパッタリング法により成膜した。Arに対するN2ガス流量の割合は、0%,10%,20%,30%,40%,50%とした(比較例1−1〜3、実施例1−1〜3)。Ar+N2のガス圧は、0.6(Pa)とした。N2ガスの流量を増やすとAlの膜堆積速度が低下するため、各Ar+N2流量での膜堆積速度を調べておき、膜厚が5nmとなるように調節した。なお、今回は反応性スパッタリング法を用いてAlNを成膜したが、AlNターゲットを用いることも可能である。
【0033】
またAlN自体の結晶配向を確認するため、ガスの割合や放電パワーはそのままで20nm成膜した(比較例1−4〜6、実施例1−4〜6)。
下地層〜磁気記録層〜保護層については、比較例1−1〜3、実施例1−1〜3のみに成膜した。比較例1−4〜6、実施例1−4〜6については、X線回折装置によりAlNの結晶配向性を確認する際に、下地層や磁気記録層の回折の影響を除外するため成膜しなかった。
下地層は、hcp結晶構造をとるRuを20nm、ガス圧12(Pa)のAr雰囲気中で成膜した。
【0034】
次いで、それらの試料の表面に磁気記録層としてCo−Cr−Pt−SiO2、保護層としてC膜を成膜して磁気記録媒体とした。
得られた垂直磁気記録媒体(比較例1−1〜3、実施例1−1〜3)について、潤滑剤を塗布し、米国GUZIK社製リードライトアナライザ1632及びスピンスタンドS1701MPを用いて、記録再生特性の評価を行った。その後、Kerr測定装置により静磁気特性の評価をおこなった。また、磁気記録層のCo系合金の結晶配向性を調べるため、X線回折装置により磁性層のロッキングカーブの測定をおこなった。
それぞれの測定から、高信号雑音比:SNR、保磁力:Hc、Δθ50の結果を表1に一覧表にして示した。いずれのパラメータも垂直磁気記録媒体の性能を評価する場合に広く使われる指標である。
AlのN2ガスの影響を見るため、比較例1−4〜6、実施例1−4〜6についてX線回折測定をおこない、回折ピーク角度とピーク強度を表2に示した。また、N2ガス:0%,30%,50%(比較例1−4,実施例1−4,6)について、X線回折強度曲線(2θ:30〜45度)を図3に示した。
【0035】
表1より、N2ガス流量を増やしていくことで、SNR,保磁力ともに上昇し、N2=30%(実施例1−1)においてピークを迎える。また、表2と図3より、比較例1−4において、Alのfcc(111)結晶面配向を示す38.5度付近に現われていた回折ピークが、N2ガス流量を増やしていくと、AlNの六方晶ウルツァイト型(002)結晶面配向を示す36度付近の回折ピークが現われ、N2=30%(実施例1−4)において強度が最大になる。つまり、N2ガス流量を増やすことで、シード層がfcc結晶構造のAlから、六方晶ウルツァイト型構造のAlNに変化し、N2=30%においてAlNの結晶配向性がピークを迎えたことに伴い、磁気記録層の結晶配向性が向上し、SNR、保磁力が改善したと言える。
【0036】
(実施例2、比較例2)
実施例1−1と同様に、ガラス基板に軟磁性層を成膜する。シード層として、AlNをAr+N2:ガス圧0.6(Pa)(N2=30%)において反応性スパッタリング法により成膜した。膜厚は、それぞれ、5.0,7.5,10.0nmとした(実施例2−1〜3)。その上に下地層,磁気記録層,保護層を実施例1と同様に成膜した。比較例としては、シード層の部分に、fcc結晶構造をとるCu(比較例2−1〜3)、hcp構造をとるTi(比較例2−4〜6)、bcc構造をとるCr(比較例2−7〜9)、アモルファス構造をとるNi40Nb(比較例2−10〜12)をAr:ガス圧0.6(Pa)でそれぞれ5.0,7.5,10.0nm成膜した。またシード層なし(比較例2−13)も加えた。
それぞれのサンプルについて、記録再生特性、静磁気特性、磁気記録層の配向性の評価をおこない、結果を表3にまとめて示した。
【0037】
表3より、シード層としてAlNが、SNR、保磁力、結晶配向性すべてにおいて他のシード層を上回っていることが分かる。Crシード層の場合のΔθ50が測定不能というのは、Crのbcc(110)結晶面上に、下地層であるRuのhcp(002)結晶面が配向しにくいためである。それにより、記録層の配向も悪化し、SNR、保磁力ともに低い値になっている。
シード層による結晶粒径の違いを確認するため、AlN、Cu、Ti、Ni40Nbシード層の膜厚10nmのサンプル(実施例2−3、比較例2−3,6,12)について、平面TEMにより磁気記録層の粒径観察をおこなった。TEM画像から、磁気記録層の平均粒径と粒径分散を求め、結果を表4に示した。
【0038】
AlNをシード層として用いることで、他のシード層を用いるよりも磁気記録層の粒径が微細化することが分った。Cuシード層の場合、粒径が大きくなるため、結晶配向性がよくてもSNRが低いものと思われる。また、アモルファスのNi40Nbシード層の場合、平均粒径は比較的小さいものの粒径分散が大きいためSNRが低いと思われる。つまり、共有結合性結晶であるAlNシード層では、下地層、磁気記録層の結晶配向性を向上しつつ、下地層の濡れ性が悪いことで結晶粒径制御が可能であることを示している。
【0039】
(実施例3)
ガラス基板に軟磁性裏打ち層CoNbZrを50nm、ガス圧0.6(Pa)のAr雰囲気中で成膜後、シード層の成膜前に基板を加熱した。その後シード層として、AlNをAr+N2:ガス圧0.6(Pa)(N2=30%)において反応性スパッタリング法により10.0nm成膜した。加熱時間はそれぞれ0、3、6、9秒とした(実施例3−1〜4)。その上に下地層,磁気記録層,保護層を実施例1と同様に成膜した。それぞれのサンプルについて、磁気記録層の配向性の評価をおこない、結果を表5にまとめて示した。
【0040】
表5より、加熱時間を延ばすごとに磁気記録層の配向が改善されることが確認された。加熱によりAlN自体の配向が改善されるためと思われる。
【0041】
(実施例4、比較例4)
ガラス基板に軟磁性裏打ち層CoNbZrを50nm、ガス圧0.6(Pa)のAr雰囲気中で成膜後、fcc構造を有するNi10Nbを成膜した。膜厚は、0、3、6nmとした(実施例4−1〜3)。比較例としてアモルファス材料であるNi40Nbを3、6nm成膜した(比較例4−1、2)。その後シード層として、AlNをAr+N2:ガス圧0.6(Pa)(N2=成膜した30%)において反応性スパッタリング法により10.0nm成膜した。その上に下地層,磁気記録層,保護層を実施例1と同様に成膜した。それぞれのサンプルについて、記録再生特性、静磁気特性、磁気記録層の配向性の評価をおこない、結果を表6にまとめて示した。
【0042】
表6より、fcc構造を有するNi10NbとAlNの2層化にすることでさらなる配向改善が見られ、SNRと静磁気特性も改善している。一方、アモルファス材料のNi40NbとAlNの2層化では、配向の改善は見られず、SNRや静磁気特性も改善しない。六方晶のAlNは、アモルファスの裏打ち層上よりもfcc結晶上の方が配向し易いためと思われる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の磁気記録媒体は、垂直磁性層の結晶構造、特にhcp構造の結晶c軸が基板面に対して極めて角度分散の小さい状態で配向し、かつ、垂直磁性層を構成する結晶粒の粒径が均一で、平均粒径が極めて微細な高記録密度特性に優れた垂直磁気記録媒体であり、磁気ディスク装置、可撓性ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の垂直磁気記録媒体の断面構造を示す図である。
【図2】本発明の垂直磁気記録再生装置の構造を示す図である。
【図3】本発明のシード層のX線回折の強度曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・・・非磁性基板
2・・・・・軟磁性裏打ち層
3・・・・・シード層
4・・・・・下地層
5・・・・・垂直磁性層
6・・・・・保護層
10・・・・磁気記録媒体
11・・・・媒体駆動部
12・・・・磁気ヘッド
13・・・・ヘッド駆動部
14・・・・記録再生信号系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、少なくとも裏打ち層とシード層と下地層と垂直磁気記録膜を有する垂直磁気記録媒体において、前記シード層の少なくとも1層が、共有結合性材料であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記シード層の少なくとも1層が、六方晶の結晶構造を有する窒化物を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記シード層の少なくとも1層が、六方晶ウルツァイト型の結晶構造を有するAlNを主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記シード層の平均結晶粒径が、3(nm)以上12(nm)以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記シード層の膜厚が0.1(nm)以上40(nm)以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記裏打ち層が、軟磁性のアモルファス構造であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記裏打ち層と共有結合性材料のシード層の間に、fcc構造を有する材料を挿入することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記下地層の少なくとも1層が、fccまたはhcpの結晶構造を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記非磁性基板が、シード層の成膜前に加熱処理されたものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記垂直磁気記録膜の少なくとも1層が酸化物磁性膜であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
非磁性基板上に、少なくとの裏打ち層とシード層と下地層と垂直磁気記録膜を有する垂直磁気記録媒体を形成することからなる磁気記録媒体の製造方法において、前記シード層の少なくとも1層が、共有結合性材料からなることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、磁気記録媒体が、請求項1乃至10の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−305466(P2008−305466A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149900(P2007−149900)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】