説明

磁気記録媒体および情報記憶装置

【課題】更なる高記録密度化が可能な磁気記録媒体と、そのような磁気記録媒体を搭載した情報記憶装置とを得る。
【解決手段】ガラス製のディスク基板201と、軟磁性材料であるCo合金で形成された非晶質の軟磁性層202と、Ni合金製の下地層203と、Ru製の中間層204と、非磁性材料のCoCrからなる複数の非磁性粒子の相互間をCrが隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層205と、非磁性グラニュラ層205上に形成された、磁性材料のCoCrPtからなる複数の磁性粒子の相互間を非磁性材料のTiOが隔ててグラニュラ構造を成した記録層206と、ダイヤモンドライクカーボン(DCL)で形成された保護膜207とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、情報が磁気的に記録される磁気記録媒体と、そのような磁気記録媒体を搭載した情報記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの分野では、日常的に多量の情報が取り扱われるようになっており、このような多量の情報を記録再生する情報記憶装置の1つとして、ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が使用されている。HDDは記録容量が大きく情報へのアクセス速度が速いという特徴を持ち、ディスク状の磁気記録媒体、およびこの磁気記録媒体に情報を記録する磁気ヘッドを備えている。
【0003】
ここで、上記のような情報記憶装置に搭載される磁気記録媒体については、高記録密度化が常に求められている。一般に、磁気記録媒体における高記録密度化を阻む要因の1つに、いわゆる媒体ノイズがある。媒体ノイズは、磁気記録媒体において情報を担持している磁化の配向における乱れに起因して、情報再生時に得られる再生信号に表れるノイズである。情報記録の際には、この磁化配向の乱れに起因するノイズ(媒体ノイズ)に埋もれない十分なレベルの信号成分が得られる広さの領域に情報を記録する必要があるため、媒体ノイズが大きいほど情報の記録密度が低下してしまう。
【0004】
媒体ノイズの原因となる磁化配向の乱れを抑える方法の1つとして、磁気記録媒体において情報が記録される記録層の保磁力を高めることが挙げられる。記録層の保磁力は、その記録層を形成する磁性粒子を微細化して磁性粒子間の磁気的な相互作用を抑制することで高めることができる。このため、近年では、磁気記録媒体の高記録密度化の実現を目指して媒体ノイズを低減させるために、磁性粒子の微細化が盛んに試みられている。
【0005】
例えば、記録層を複数層からなる積層構造で形成することで磁性粒子の微細化を図るという技術や、磁性粒子どうしの間(粒界)に非磁性材料を偏析させることで複数の磁性粒子の相互間を隔ててグラニュラ構造を形成することで微細化を図るという技術が提案されている。しかしながら、このグラニュラ構造の記録層を形成する技術では、記録層において、その記録層の形成面との境界付近で磁性粒子どうしが部分的に繋がってしまい、記録層における磁性粒子どうしの分離が損なわれてしまう不具合がしばしば起きている。そこで、このような不具合を回避するために、このようなグラニュラ構造の記録層の下に、非磁性材料からなる複数の非磁性粒子の相互間を他の物質で隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層を設けるという技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
記録層を積層構造で形成する技術では、まず、第1層が、微細な磁性粒子が安定的に得られる土台として形成され、その第1層の上に、その微細な状態で磁性粒子が生長するように第2層以降の層が形成される。また、グラニュラ構造の記録層を形成する技術では、粒界への非磁性材料の偏析により、その非磁性材料の分だけ磁性材料が微細化されることとなる。
【0007】
ここで、グラニュラ構造で記録層を形成する技術は、単に磁性粒子が微細化されるだけでなく、複数の磁性粒子の相互間が非磁性材料によって隔てられて磁性粒子間における磁気的な相互作用が一層抑制されることから、保磁力を高めて媒体ノイズを抑制する効果が高く注目を集めている。
【0008】
さらに、非磁性グラニュラ層を設ける技術によれば、記録層の磁性粒子が、非磁性グラニュラ層において非磁性粒子どうしが充分に分離された状態にある表面での、その非磁性粒子の上に生長するので、記録層における磁性粒子どうしの分離を確実なものとすることができる。
【特許文献1】特開2006−309919号公報
【特許文献2】特開2006−268972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、近年では、磁気記録媒体に対する高記録密度化の要求は高まる一方であり、上記のような非磁性グラニュラ層を使った磁気記録媒体についても、磁性粒子の一層の微細化等による更なる高記録密度化が求められている。
【0010】
本件は、上記事情に鑑み、更なる高記録密度化が可能な磁気記録媒体と、そのような磁気記録媒体を搭載した情報記憶装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する磁気記録媒体の基本形態は、
非磁性材料からなる複数の非磁性粒子の相互間をCr酸化物が隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層と、
上記非磁性グラニュラ層上に形成された、磁性材料からなる複数の磁性粒子の相互間を非磁性材料が隔ててグラニュラ構造を成した磁性グラニュラ層とを備えたことを特徴とする。
【0012】
この磁気記録媒体の基本形態では、上記磁性グラニュラ層が、上記磁性粒子中の磁化を情報に応じた向きに配向させることで情報が記録される記録層として使われる。そして、この磁気記録媒体の基本形態では、上記非磁性グラニュラ層上に、上記磁性グラニュラ層が形成されることで、上記磁性粒子の分離と微細化とが行なわれている。これにより、記録層として使われる上記磁性グラニュラ層において磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が抑えられ、その結果、保磁力が高められて媒体ノイズが抑制されるので、高記録密度での情報記録が可能となっている。
【0013】
また、上記目的を達成する情報記憶装置の基本形態は、
非磁性材料からなる複数の非磁性粒子の相互間をCr酸化物が隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層と、
上記非磁性グラニュラ層上に形成された、磁性材料からなる複数の磁性粒子の相互間を非磁性材料が隔ててグラニュラ構造を成した磁性グラニュラ層とを備えた磁気記録媒体;および、
上記磁気記録媒体の非磁性グラニュラ層に対して情報記録を実行するヘッド
を備えたことを特徴とする。
【0014】
この情報記憶装置の基本形態によれば、更なる高記録密度化が可能な、上述の磁気記録媒体の基本形態が搭載されていることから、更に大容量での情報の記録が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上、説明したように、本件によれば、更なる高記録密度化が可能な磁気記録媒体と、そのような磁気記録媒体を搭載した情報記憶装置とを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、上記で基本形態について説明した磁気記録媒体および情報記憶装置の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、基本形態について説明した情報記憶装置の一例であるハードディスク装置(HDD)を示す図である。
【0018】
この図1に示すHDD10のハウジング101には、回転軸102に装着されて回転する磁気ディスク200と、磁気ディスク200に対して情報記録と情報再生とを行なう磁気ヘッド103を先端に保持したヘッドジンバルアセンブリ104と、このヘッドジンバルアセンブリ104が固着されてアーム軸105を中心に磁気ディスク200の表面に沿って移動するキャリッジアーム106とキャリッジアーム106を駆動するアームアクチュエータ107とが収納されている。ここで、磁気ディスク200が、上述の磁気記録媒体および情報記憶装置の基本形態における磁気記録媒体の一例に相当し、磁気ヘッド103が、その基本形態におけるヘッドの一例に相当する。
【0019】
磁気ディスク200への情報の記録および磁気ディスク200に記録された情報の再生に当たっては、アームアクチュエータ107によってキャリッジアーム106が駆動されて、磁気ヘッド103が、回転する磁気ディスク200上の所望のトラックに位置決めされる。そして、この磁気ヘッド103は、磁気ディスク200の回転に伴って、磁気ディスク200の各トラックをなぞって複数の情報を順次に記録する。
【0020】
ここで、本実施形態では、磁気ディスク200のディスク面に対して垂直な方向の磁化によって情報が記録される垂直磁気記録方式が採用されている。このため、磁気ディスク200は、ディスク面に対して垂直な方向を磁化容易軸とした後述の記録層を有している。そして、情報は、磁化が磁気ディスク200の表面側を向いた状態と、裏面側を向いた状態との2状態を利用して記録層に記録される。
【0021】
情報の記録時には、このように磁気ディスク200に近接した磁気ヘッドに電気的な記録信号が入力され、磁気ヘッド103により、その記録信号に応じた極性の磁界が磁気ディスク200に印加される。そして、記録層中の磁化が、磁気ディスク200の表面側と裏面側のうちの、その印加された磁界の極性に応じた側を向くことで情報が記録される。また、情報の再生時には、磁気ヘッド103によって、記録層中の磁化が発する微小磁界が検出され、情報が、その微小磁界の極性に応じた電気的な再生信号として取り出される。
【0022】
図2は、図1に示す磁気ディスク200の断面を模式的に示す図である。
【0023】
この図2に示すように、磁気ディスク200は、ガラス製のディスク基板201、軟磁性材料であるCo合金で形成された非晶質の軟磁性層202、Ni合金製の下地層203、Ru製の中間層204、複数の非磁性粒子の相互間を粒界に偏析したCrで隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層205、強磁性材料であるCoCrPtからなる複数の磁性粒子の相互間を粒界に偏析したTiOで隔ててグラニュラ構造を成した3層構造の記録層206、および、ダイヤモンドライクカーボン(DCL)で形成された保護膜207が、この順番で積層されたものである。ここで、上記の非磁性グラニュラ層205が、上述の基本形態における非磁性グラニュラ層の一例に相当し、記録層206が、その基本形態における磁性グラニュラ層の一例に相当する。
【0024】
ここで、上述の基本形態に対し、
「上記磁性グラニュラ層は、上記磁性粒子が、CoCr、CoCrPt、CoCrPtCu、CoCrPtB、およびCoCrPtBCuのうちから選択された1種以上の合金で形成されたものであり、上記非磁性材料が、Si、Ti、Cr、Ta、Zr、W、およびNbのうちから選択された1種以上の材料を含有する、酸化物またはチッ化物である」という応用形態は好適である。
【0025】
CoCrやCoCrPt等の上記合金は良好な磁性材料であり、SiOやTiO等は良好な非磁性材料であり、これらを組み合わせることで、上記のようなグラニュラ構造を簡単に実現することができる。磁性材料がCoCrPtで非磁性材料がTiOである本実施形態の記録層206は、この応用形態における磁性グラニュラ層の一例にも相当する。
【0026】
上記の軟磁性層202は、情報記録時に上記の磁気ヘッド103が印加した磁界に係る磁力線が磁気ヘッド103へと戻っていくときの磁路としての役割を果たすものであり、上記のディスク基板201の表面に形成されている。
【0027】
次に、下地層203、中間層204、および非磁性グラニュラ層205の前に、まず、記録層206について説明する。
【0028】
上述したように、本実施形態では、垂直磁気記録方式が採用されている。このため、記録層206では、CoCrPtの磁性粒子における磁化容易軸がディスク面に対して垂直な方向を向くように、この磁性粒子が、六方最密充填構造でC軸が記録層206の厚さ方向を向いた結晶構造を持つように形成されている。また、この記録層206では、各磁性粒子は、このような結晶構造を持ちこの記録層206の厚み方向に成長した柱状の粒子である。そして、それら柱状の磁性粒子の周りに非磁性材料であるTiOが偏析したグラニュラ構造となっている。これにより、この記録層206では、柱状の磁性粒子それぞれが、ディスク面に対して垂直な方向を磁化容易軸とした強い磁気異方性を持つこととなっている。また、この記録層206では、上記のグラニュラ構造により、柱状の磁性粒子どうしが非磁性材料であるTiOによって分離されている。その結果、各磁性粒子が微細化され、磁性粒子間における磁気的な相互作用が良好に抑制されることとなる。
【0029】
ここで、記録層206における上記の柱状の磁性粒子は、基本的には、中間層204を形成し六方最密充填構造を有するRuの結晶構造に応じてCoCrPtの結晶をエピタキシャル生長させることで実現される。即ち、中間層204は、記録層206の磁性粒子における結晶構造を制御する役割を果たす。そのため、この中間層204では、Ruの結晶が、六方最密充填構造でC軸がこの中間層204の厚さ方向に向いた結晶構造を持つように形成される。しかし、上述したように軟磁性層202が非晶質であるために、この軟磁性層202の上に、中間層204を直に形成すると、六方最密充填構造のC軸を厚さ方向に向かせることが困難となってしまう。
【0030】
本実施形態では、中間層204と軟磁性層202との間に形成される下地層203が、中間層204中の六方最密充填構造のC軸を厚さ方向に向かせるという、中間層204における結晶の配向を制御する役割を果たしている。そのため、下地層203は、面心立方格子構造を有するNi合金で形成されている。
【0031】
面心立方格子構造の結晶構造を有する膜は表面が[1,1,1]面となり易く、その[1,1,1]面上には、六方最密充填構造が、C軸をその[1,1,1]面に対して垂直な方向を向けて生長しやすい。このため、本実施形態では、非晶質の軟磁性層202の上に、まず、面心立方格子構造の下地層203を形成し、その下地層203の上に中間層204を形成することで、中間層204におけるRuの上記のような結晶構造が実現されている。
【0032】
上述したように、記録層206では、グラニュラ構造によって磁性粒子がTiOによって良好に分離されることで、各磁性粒子が微細化され、かつ、磁性粒子間の磁気的な相互作用が抑制されている。ここで、仮に、この記録層206を、上記の中間層204の上に直に形成したとすると、この中間層206は、グラニュラ構造を有していないことから、記録層206における中間層206との境界付近において、磁性粒子どうしが部分的に繋がってしまう可能性が高い。
【0033】
そこで、本実施形態では、中間層204と記録層206との間に、上記の非磁性グラニュラ層205が形成されている。
【0034】
この非磁性グラニュラ層205は、上述したように記録層206に磁気的な影響を及ぼす心配のない非磁性材料からなる複数の非磁性粒子が粒界に偏析したCrで隔てられたグラニュラ構造を有している。また、本実施形態では、Crの含有量を「30at%」から「50at%」までの間に調整することで非磁性となったCoCrで上記の非磁性粒子が形成されている。さらに、本実施形態では、Crを良好に偏析させるために、非磁性グラニュラ層205におけるCrの含有量が「12mol%」以下に調整されている。
【0035】
この非磁性グラニュラ層205の非磁性粒子を形成するCoCrの結晶は、六方最密充填構造を有している。このため、非磁性グラニュラ層205の形成時には、CoCrの結晶が、中間層204のRuの結晶の上にエピタキシャル成長する。また、その際には、CoCrの結晶は、Ruの結晶構造に追随して、六方最密充填構造のC軸がこの非磁性グラニュラ層205の厚さ方向を向いて生長する。その結果、CoCrの非磁性粒子は、この非磁性グラニュラ層205の厚み方向に積まれた柱状の粒子となり、その柱状の非磁性粒子の周りに、Crが偏析してグラニュラ構造が形作られる。
【0036】
そして、この非磁性グラニュラ層205の上層に記録層206が形成されると、その形成時には、記録層206の磁性粒子を形成するCoCrPtの結晶は、非磁性グラニュラ層205における上記の柱状の非磁性粒子の上にエピタキシャル成長する。また、そのときには、CoCrPtの結晶は、上記の非磁性粒子を形成するCoCrの結晶構造に追随し、即ち、そのCoCrの結晶構造の元となった中間層204のRuの結晶構造に追随して、六方最密充填構造のC軸が記録層206の厚さ方向を向いて生長する。その結果、CoCrPtの非磁性粒子が、記録層206の厚み方向に積まれた柱状の粒子となり、その柱状の非磁性粒子の周りにTiOが偏析してグラニュラ構造が形作られる。ここで、グラニュラ構造を持たない中間層204の上に形成された非磁性グラニュラ層205では、中間層204との境界付近において非磁性粒子どうしが部分的に繋がってしまう可能性が高い。しかしながら、このような繋がりは、グラニュラ構造を持たない中間層204との境界付近においてのみ生じ、各非磁性粒子の記録層206の形成面に現れている部分では非磁性粒子どうしは十分に分離される。そして、記録層206における磁性粒子は、この形成面に現れている非磁性粒子の上に生長するので、記録層206における磁性粒子どうしの分離性が向上することとなる。
【0037】
このことは、上述の基本形態に対し、
「上記磁性グラニュラ層は、上記磁性粒子が、上記非磁性グラニュラ層における上記非磁性粒子の上に生長したものである」という応用形態が好適であることを示している。
【0038】
本実施形態の記録層206は、この応用形態における磁性グラニュラ層の一例にも相当する。
【0039】
また、本実施形態では、上述したように非磁性グラニュラ層205の非磁性粒子は、その非磁性グラニュラ層205の厚さ方向にC軸が向いた六方最密充填構造の結晶構造を有した、非磁性のCoCrで形成されている。これにより、記録層206の磁性粒子における、上述の垂直磁気記録方式に適した六方最密充填構造の結晶構造が簡単に実現されることとなる。
【0040】
このことは、上述の基本形態に対し、
「上記非磁性グラニュラ層は、上記非磁性粒子として、六方最密充填構造でC軸がその非磁性グラニュラ層の厚さ方向を向いた結晶構造を有する非磁性粒子を有したものである」という応用形態や、
「上記非磁性グラニュラ層は、上記非磁性粒子がCoCrで形成されたものである」という応用形態が好適であることを示している。
【0041】
本実施形態の非磁性グラニュラ層205は、これらの応用形態における非磁性グラニュラ層の一例にも相当する。
【0042】
また、本実施形態では、上述したように非磁性グラニュラ層205が、Ruからなり、六方最密充填構造でC軸が厚さ方向を向いた結晶構造を有する中間層204の上に形成されている。これにより、記録層206の磁性粒子における、上記の結晶構造を実現させるための非磁性グラニュラ層205における非磁性粒子の上記のような六方最密充填構造が簡単に実現されることとなる。
【0043】
このことは、上述の基本形態に対し、
「非磁性材料からなる中間層を備え、
上記非磁性グラニュラ層が、上記中間層上に形成されたものである」という応用形態が好適であり、さらに、この応用形態に対し、
「上記中間層が、六方最密充填構造でC軸がその中間層の厚さ方向を向いた結晶構造を有する非磁性材料を含むものである」という応用形態がさらに好適であることを示している。
【0044】
本実施形態の中間層204は、これらの応用形態における中間層の一例に相当し、非磁性グラニュラ層205は、これらの応用形態における非磁性グラニュラ層の一例にも相当する。
【0045】
また、上記の中間層を備えたタイプの応用形態に対し、
「上記中間層が、RuあるいはRuX合金(XはCo、Cr、W、またはRe)を含むものである」という応用形態はさらに好適である。
【0046】
Ruや上記のRuX合金は、非磁性であって六方最密充填構造を有していることから、上記中間層を良好に形成することができる。Ruで形成された本実施形態の中間層204は、この応用形態における中間層の一例にも相当する。
【0047】
また、本実施形態の中間層206は、[1,1,1]面が表面を成すように非晶質の軟磁性層202上で形成させることができる面心立方格子構造の結晶構造を有する下地層203の上に形成されている。上述したように[1,1,1]面上では、六方最密充填構造は、C軸がその[1,1,1]面に対して垂直な向きを向くように形成されるので、上記のような望ましい結晶構造を有する中間層204を実現することができる。
【0048】
このことは、上述の中間層を備えたタイプの応用形態に対し、
「軟磁性材料からなる軟磁性裏打ち層と、
上記軟磁性裏打ち層上に形成された、面心立方格子構造の結晶構造を有する非磁性材料からなる、[1,1,1]面が表面をなす下地層とを備え、
上記中間層が、上記下地層上に形成されたものである」という応用形態がさらに好適であることを示している。
【0049】
次に、非磁性グラニュラ層によって記録層における磁性粒子どうしの分離性が向上し、その結果、磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が抑制されて磁気ディスクにおける媒体ノイズが低減されることについて実例を示して説明する。
【0050】
図3は、磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が抑制されて磁気ディスクにおける媒体ノイズが低減される様子を示す図である。
【0051】
この図3には、非磁性グラニュラ層を持たず中間層の上に記録層が直に形成された磁気ディスクである第1サンプルと、非磁性グラニュラ層が形成された磁気ディスクである第2サンプルとのそれぞれについて、媒体ノイズと上記の相互作用とを示すグラフG1が示されている。
【0052】
尚、この図3の例では、第2サンプルの非磁性グラニュラ層における非磁性粒子の粒界に偏析させる材料として、本実施形態ではCrが使われているのに対し、従来、グラニュラ構造において粒界に偏析させる材料としてTiOと同様に使われることの多いSiOが使われている。また、この非磁性グラニュラ層における非磁性粒子は、Crの含有量が「40at%」以下となっているCoCrであり、この非磁性グラニュラ層におけるSiOの含有量は「8mol%」以下となっている。さらに、第2サンプルの非磁性グラニュラ層は膜厚が「4nm」となっている。
【0053】
また、第1サンプルと第2サンプルの、上記の非磁性グラニュラ層以外の構造は、図2に示す本実施形態の磁気ディスク200と同等な構造となっている。
【0054】
このグラフG1では、まず、媒体ノイズの大きさが、再生信号におけるエラーレートを示すVTM2L(Viterbi Trellis Margin 2L)という指標で表わされている。さらに、このグラフG1では、記録トラックの拡散状態を示す実効トラック幅によって、磁性粒子どうしの磁気的な相互作用の大きさが示されている。
【0055】
VTM2Lは、再生時に磁気ヘッドから出力される信号から記録情報を復号する復号方法の1つであるビタビ復号法において、復号結果がどの程度不確かなものとなっているかを表わすことで再生信号におけるエラーレートを示すものである。再生時には、磁気ヘッドから、各々が1ビットの情報に対応している信号値の配列からなる再生信号が出力される。ビタビ復号法は、まず、所定ビット数の信号値配列毎に、その信号値配列が表しているであろう情報配列の候補が2種類用意される。そして、信号配列を構成する各ビットの信号値と、情報配列の候補を構成する各ビットの情報との差の2乗和(メトリック値)が算出され、メトリック値が小さい候補が、その信号配列が表わしている情報配列として選択される。ここで、上記のVTM2Lは、磁気ディスクにおいて100セクタに亘る約40万ビットの記録情報が磁気ヘッドで再生されたときの再生信号を上記の所定ビット数の信号配列に分割したときの複数の信号配列のうち、上記の2種類の候補間におけるメトリック値の差が所定の閾値を下回った信号値配列の数である。2種類の候補間におけるメトリック値の差が所定の閾値を下回るということは、媒体ノイズが大きく信号配列が歪んでおりいずれの候補が正しいか選択し難いほど不確かなものとなっていることを示している。つまり、VTM2Lの値が大きいほど、再生信号の歪みが大きく媒体ノイズが大きいことを意味する。
【0056】
実効トラック幅は、磁気ヘッドから見たときに、磁気ディスク上に情報が記録されていると認識できるトラックの幅であり、磁気ディスクに形成されたトラックからの情報の再生を、磁気ヘッドをトラックの幅方向にずらしながら行ない、再生可能なずれの範囲を測定することで得られる。この実効トラック幅が広いということは、情報の記録時に磁化の配向が周辺に広く拡散しまっており、そのような拡散を引き起こす磁性粒子間の磁気的な相互作用が大きいことを意味する。
【0057】
図3に示すグラフG1では、横軸に実効トラック幅Wcwがとられ、縦軸にVTM2Lがとられている。そして、このグラフG1上には、非磁性グラニュラ層を持たない上記の第1サンプルと、非磁性グラニュラ層が形成された第2サンプルとの双方について、磁気ディスク上の複数のトラックそれぞれについて情報の再生が行われたときの、各トラックの実行トラック幅Wcwと、そのトラックからの再生信号についてのVTM2Lとに対応する点がプロットされている。この図3のグラフG1では、第1サンプルのプロット点SMP1が四角印で示されており、第2サンプルのプロット点SMP2が白丸印で示されている。
【0058】
ここで、VTM2Lが小さく実効トラック幅が狭いほど、媒体ノイズが小さく磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が小さいことを意味している。つまり、図3に示すグラフG1では、左下隅に向かうほど媒体ノイズが小さく磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が小さく、逆に、右上隅に向かうほど媒体ノイズが大きく磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が大きい。この図3のグラフG1では、第2サンプルのプロット点SMP2が、第1サンプルのプロット点SMP1よりも、右下隅寄りにプロットされていることから、非磁性グラニュラ層が形成された第2サンプルの方が、非磁性グラニュラ層を持たない第1サンプルよりも、磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が抑制されて媒体ノイズが低減されていることが分かる。
【0059】
次に、上述の非磁性グラニュラ層205についてさらに詳細に説明する。
【0060】
図2に示す本実施形態の磁気ディスク200では、上述の非磁性グラニュラ層205において、粒界に偏析させる材料として、一般に磁性グラニュラ層の粒界に偏析させる材料として知られているSiOやTiO等ではなく、Cr酸化物であるCrが使われている。
【0061】
従来、Crは、磁性粒子として使われることが多いCoCrPt等の合金との親和性が高いため、SiOやTiO等に比べて、磁性粒子どうしの磁気的な分離性が低く、磁性グラニュラ層に用いても磁性粒子どうしの磁気的な相互作用や媒体ノイズの低減にはあまり効果がないことから、従来、グラニュラ構造を有する記録層においてほとんど使われていない。また、記録層へ磁気的な悪影響を及ぼす恐れがある等の懸念から、Crは、非磁性グラニュラ層における非磁性粒子の粒界に偏析させる材料としてもほとんど使われていない。ところが、このCrを、非磁性グラニュラ層における非磁性粒子の粒界に偏析させる材料として用いると、非磁性グラニュラ層の上に形成される記録層での磁性粒子どうしの磁気的な相互作用や媒体ノイズの低減に大きな効果があることを、以下のような実験により本件の開発者は見出した。
【0062】
この実験では、非磁性グラニュラ層において従来どおりSiOを用いた磁気ディスクである第3サンプルと、非磁性グラニュラ層において、本実施形態の磁気ディスク200と同様にCrを用いた磁気ディスクである第4サンプルとが用意された。そして、各サンプルについて、上述の図3の例と同様に、媒体ノイズの大きさを示すVTM2Lと、磁気的な相互作用の大きさを示す実行トラック幅とが求められ、さらに、各サンプルについて、保磁力と、磁性粒子の大きさを間接的に示す記録層のM−Hループの傾きが求められた。
【0063】
図4は、第3サンプルおよび第4サンプルのVTM2Lと実効トラック幅とを示すグラフであり、図5は、第3サンプルおよび第4サンプルにおける記録層の保磁力を示すグラフであり、図6は、第3サンプルおよび第4サンプルにおける記録層のM−Hループの傾きを示すグラフである。
【0064】
尚、これら図4から図6までの例では、第3サンプルおよび第4サンプルの双方共に非磁性グラニュラ層の非磁性粒子は、Crの含有量が「40at%」以下となっているCoCrである。そして、第3サンプルの非磁性グラニュラ層におけるSiOの含有量は「8mol%」以下であり、第4サンプルの非磁性グラニュラ層におけるCrの含有量も「8mol%」以下である。
【0065】
また、ここでの例では、第3サンプルおよび第4サンプルとして、各々、非磁性グラニュラ層の膜厚が「0nm」から「4.0nm」までの間の様々な値となる複数のサンプルが用意される。そして、図4の例では、これら互いに膜厚が異なる複数の第3サンプルと複数の第4サンプルとのうち、膜厚が「2.5nm」の第3サンプルと第4サンプルとが使われて上記のVTM2Lおよび実効トラック幅が求められ。また、図5および図6の例では、全ての第3サンプルと全ての第4サンプルとが使われて保磁力とM−Hループの傾きが求められる。
【0066】
また、第3サンプルと第4サンプルの、上記の非磁性グラニュラ層以外の構造は、図2に示す本実施形態の磁気ディスク200と同等な構造となっている。
【0067】
図4のグラフG2は、図3のグラフG1と同様に、横軸に実効トラック幅Wcwがとられ、縦軸にVTM2Lがとられている。そして、このグラフG2上には、非磁性グラニュラ層にSiOを用いた第3サンプルと、本実施形態の磁気ディスク200と同様に、非磁性グラニュラ層にCrを用いた第4サンプルとの双方について、各トラックの実行トラック幅Wcwと、各トラックからの再生信号についてのVTM2Lとに対応する点がプロットされている。このグラフG2には、白丸印で示される第3サンプルのプロット点を近似的に結ぶラインSMP3_1と、四角印で示される第4サンプルのプロット点を近似的に結ぶラインSMP4_1とが示されている。
【0068】
この図4のグラフG2では、図3のグラフG1と同様に、左下隅に向かうほど媒体ノイズが小さく磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が小さく、逆に、右上隅に向かうほど媒体ノイズが大きく磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が大きい。この図4のグラフG2では、第4サンプルに対応したラインSMP4_1の方が、第3サンプルに対応するラインSMP3_1よりも左下隅側に位置していることから、非磁性グラニュラ層にCrを用いた第4サンプルの方が、非磁性グラニュラ層にSiOを用いた第3サンプルよりも、磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が抑制されて媒体ノイズが低減されていることが分かる。
【0069】
また、図5のグラフG3では、横軸に非磁性グラニュラ層の膜厚がとられ、縦軸に保磁力がとられている。そして、このグラフG3上には、互いに膜厚が異なる複数の第3サンプルと、互いに膜厚が異なる複数の第4サンプルとの双方について、各膜厚に対応する保磁力を表わす点がプロットされている。そして、このグラフG3では、白丸印で示される第3サンプルのプロット点を近似的に結ぶラインSMP3_2と、四角印で示される第4サンプルのプロット点を近似的に結ぶラインSMP4_2とが示されている。
【0070】
この図5のグラフG3から、「0.5nm」から「4.0nm」までの全範囲において、非磁性グラニュラ層にCrを用いた第4サンプルの方が、非磁性グラニュラ層にSiOを用いた第3サンプルよりも、保磁力が高くなっており、「2.5nm」の膜厚において両者間の保持力の差が、およそ「200Oe」となっていることが分かる。
【0071】
また、図6のグラフG4では、横軸に非磁性グラニュラ層の膜厚がとられ、縦軸にM−Hループの傾きがとられている。そして、このグラフG3上には、互いに膜厚が異なる複数の第3サンプルと、互いに膜厚が異なる複数の第4サンプルとの双方について、各膜厚に対応する保磁力を表わす点がプロットされている。そして、白丸印で示される第3サンプルのプロット点を近似的に結ぶラインSMP3_2と、四角印で示される第4サンプルのプロット点を近似的に結ぶラインSMP4_2とが示されている。
【0072】
一般に、磁性体全体の磁化の大きさは、磁界中で、その磁性体を形成する磁性粒子中の磁化が各々その磁界に応じた向きに配向することで変化するが、その磁性粒子の大きさが小さいほど、単位体積当たりの磁性粒子の数が多くなることから配向し難くなる。その結果、磁性粒子の大きさが小さいほど、磁性体のM−Hループの傾きが小さくなる。
【0073】
つまり、図6のグラフG4において、M−Hループの傾きが小さいほど、記録層のグラニュラ構造において磁性粒子の分離性が良く微細化されていることとなる。図6のグラフG4では、非磁性グラニュラ層の膜厚が「2.0nm」以上、かつ、「3.0nm」以下の範囲において、M−Hループの傾きが小さくなっており、この範囲において磁性粒子の分離性が良く微細化が高いことが分かる。
【0074】
このことは、上述の基本形態や各応用形態に対し、
「上記非磁性グラニュラ層は、厚みが2.0nm以上、かつ、3.0nm以下である」という応用形態が好適であることを示している。
【0075】
以上、図4から図6までを参照して説明したように、Crを、非磁性グラニュラ層における非磁性粒子の粒界に偏析させる材料として用いると、非磁性グラニュラ層の上に形成される記録層での磁性粒子どうしの磁気的な相互作用や媒体ノイズの低減等に大きな効果がある。また、このような効果は、非磁性グラニュラ層に従来通りSiOを用いた場合と比較すると、非磁性グラニュラ層の膜厚が「2.0nm」以上、かつ、「3.0nm」以下のときが磁性粒子の分離性が良く微細化が高いことから好適であり、さらに、この膜厚がおよそ「2.5nm」のときに保磁力が最大となる。
【0076】
そこで、図2に示す本実施形態の磁気ディスク200では、非磁性グラニュラ層205の膜厚が約「2.5nm」となっている。
【0077】
また、上述したように、本実施形態では、この非磁性グラニュラ層205が、Crの含有量を「30at%」から「50at%」までの間に調整することで非磁性となった、六方最密充填構造の結晶構造を有するCoCrの非磁性粒子を備えている。
【0078】
本件の開発者は、非磁性グラニュラ層のCoCrにおけるCrの含有量が、上記の範囲内であれば同等な効果が得られることを以下の実験によって確認している。また、上述したように、六方最密充填構造の結晶構造は、面心立方格子構造の結晶構造の上にも生長するが、六方最密充填構造の結晶構造を有する磁性粒子を備えた記録層は、本実施形態の磁気ディスク200のように、六方最密充填構造の結晶構造を有する非磁性粒子を備えた非磁性グラニュラ層の上に形成した方が好ましく、本件の開発者は、この点についても実験によって確認している。
【0079】
この実験では、非磁性グラニュラ層のCpCrにおけるCrの含有量が「30at%」から「50at%」までの間で互いに異なる第5サンプルおよび第6サンプルと、非磁性グラニュラ層における非磁性粒子の結晶構造が面心立方格子構造となっている第7サンプルとが用意された。そして、各サンプルについて、上述の図3の例と同様に、媒体ノイズの大きさを示すVTM2Lと、磁気的な相互作用の大きさを示す実行トラック幅とが求められた。
【0080】
図7は、第5サンプル、第6サンプル、および第7サンプルのVTM2Lと実効トラック幅とを示すグラフである。
【0081】
尚、この図7の例では、第5サンプルの非磁性グラニュラ層の非磁性粒子は、Crの含有量が「40at%」となっているCoCrであり、第6サンプルの非磁性グラニュラ層の非磁性粒子は、Crの含有量が「30at%」となっているCoCrである。また、これら2種類のサンプルではいずれも、非磁性グラニュラ層におけるCrの含有量が「4.5mol%」である。
【0082】
また、第7サンプルは、非磁性グラニュラ層の非磁性粒子として、面心立方格子構造を有するNiWが使われている。
【0083】
また、これら3種類のサンプルにおける非磁性グラニュラ層の膜厚はいずれも「2.5nm」であり、さらに、これら3種類のサンプルにおける非磁性グラニュラ層以外の構造は、いずれも図2に示す本実施形態の磁気ディスク200と同等な構造となっている。
【0084】
図7のグラフG5は、図3のグラフG1と同様に、横軸に実効トラック幅Wcwがとられ、縦軸にVTM2Lがとられている。そして、このグラフG5上には、第5サンプル、第6サンプル、および第7サンプルそれぞれついて、実行トラック幅WcwとVTM2Lとに対応する点がプロットされている。この図7のグラフG5では、第5サンプルのプロット点SMP5が菱形印で示されており、第6サンプルのプロット点SMP6が白丸印で示されており、第7サンプルのプロット点SMP7が三角印で示されている。
【0085】
まず、この図7のグラフG5では、第5サンプルのプロット点SMP5と第6サンプルのプロット点SMP6とは、互いにほぼ同等な位置にあることから、Crの含有量が「30at%」から「50at%」までの間では、磁性粒子どうしの磁気的な相互作用の抑制や媒体ノイズの低減についてほぼ同等な効果が得られることが分かる。
【0086】
また、この図7のグラフG5では、非磁性グラニュラ層の非磁性粒子の結晶構造が面心立方格子構造となっている第7サンプルのプロット点SMP7が、非磁性グラニュラ層の非磁性粒子の結晶構造が六方最密充填構造となっている他のサンプルのプロット点に比べて、右上隅側に位置している。このことから、非磁性グラニュラ層の非磁性粒子の結晶構造は、記録層の磁性粒子の結晶構造と同じ六方最密充填構造となっている方が、磁性粒子どうしの磁気的な相互作用の抑制や媒体ノイズの低減について高い効果が得られることが分かる。
【0087】
図2に示す本実施形態の磁気ディスク200は、このような実験結果を受けて、上述したように、Crの含有量を「30at%」から「50at%」までの間に調整することで非磁性となった、六方最密充填構造の結晶構造を有するCoCrの非磁性粒子を有する非磁性グラニュラ層205を備えている。
【0088】
尚、上記では、上述の基本形態における非磁性グラニュラ層の一例として、実施形態ではCrの含有量について「12mol%」以下のいずれかの値に特定せず、実験例として「8mol%」以下の例と「4.5mol%」の例とを示したが、この基本形態における非磁性グラニュラ層はこれらの実験例に限るものではなく、例えば、Crの含有量が「12mol%」以下であって上記例以外の含有量となったものであっても良い。
【0089】
また、上記では、上述の基本形態における非磁性グラニュラ層の一例として、実施形態では非磁性粒子におけるCrの含有量について「30at%」から「50at%」までの間のいずれかの値に特定せず、実験例として、Crの含有量が「40at%」以下の例と「30at%」の例と「40at%」の例とを示したが、この基本形態における非磁性グラニュラ層はこれらの実験例に限るものではなく、例えば、Crの含有量が「30at%」から「50at%」までの間であって上記例以外の含有量となったものであっても良い。
【0090】
また、上記では、上述の基本形態における非磁性グラニュラ層の一例として、膜厚が約「2.5nm」の非磁性グラニュラ層205を例示したが、この基本形態における非磁性グラニュラ層はこれに限るものではなく、例えば、膜厚がこの「2.5nm」以外の膜厚となったものであっても良い。
【0091】
また、上記では、上述の基本形態における磁性グラニュラ層の一例として、磁性粒子がCoCrPtで形成され、粒界にTiOが偏析した記録層206を例示したが、この基本形態における磁性グラニュラ層はこれに限るものではなく、例えば、磁性粒子がCoCr、CoCrPtCu、CoCrPtB、およびCoCrPtBCuのうちから選択された1種以上の合金で形成され、粒界にSi、Ti、Cr、Ta、Zr、W、およびNbのうちから選択された1種以上の材料を含有する、酸化物またはチッ化物が偏析したものであっても良い。
【0092】
また、上記では、上述の応用形態における中間層の一例として、Ruで形成された中間層204を例示したが、この応用形態における中間層はこれに限るものではなく、例えば、RuX合金(XはCo、Cr、W、またはRe)を含むものであっても良い。
【0093】
以下、上述した基本形態を含む種々の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0094】
(付記1)
非磁性材料からなる複数の非磁性粒子の相互間をCr酸化物が隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層と、
前記非磁性グラニュラ層上に形成された、磁性材料からなる複数の磁性粒子の相互間を非磁性材料が隔ててグラニュラ構造を成した磁性グラニュラ層とを備えたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0095】
(付記2)
前記磁性グラニュラ層は、前記磁性粒子が、前記非磁性グラニュラ層における前記非磁性粒子の上に生長したものであることを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体。
【0096】
(付記3)
前記非磁性グラニュラ層は、前記非磁性粒子として、六方最密充填構造でC軸が該非磁性グラニュラ層の厚さ方向を向いた結晶構造を有する非磁性粒子を有したものであることを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体。
【0097】
(付記4)
非磁性材料からなる中間層を備え、
前記非磁性グラニュラ層が、前記中間層上に形成されたものであることを特徴とする付記1又は2記載の磁気記録媒体。
【0098】
(付記5)
前記中間層が、六方最密充填構造でC軸が該中間層の厚さ方向を向いた結晶構造を有する非磁性材料を含むものであることを特徴とする付記3記載の磁気記録媒体。
【0099】
(付記6)
前記中間層が、RuあるいはRuX合金(XはCo、Cr、W、またはRe)を含むものであることを特徴とする付記3又は4記載の磁気記録媒体。
【0100】
(付記7)
軟磁性材料からなる軟磁性裏打ち層と、
前記軟磁性裏打ち層上に形成された、面心立方格子構造の結晶構造を有する非磁性材料からなる、[1,1,1]面が表面をなす下地層とを備え、
前記中間層が、前記下地層上に形成されたものであることを特徴とする付記3から5のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【0101】
(付記8)
前記非磁性グラニュラ層は、厚みが2.0nm以上、かつ、3.0nm以下であることを特徴とする付記1から6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【0102】
(付記9)
前記非磁性グラニュラ層は、前記非磁性粒子がCoCrで形成されたものであることを特徴とする付記1から7のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【0103】
(付記10)
前記磁性グラニュラ層は、前記磁性粒子が、CoCr、CoCrPt、CoCrPtCu、CoCrPtB、およびCoCrPtBCuのうちから選択された1種以上の合金で形成されたものであり、前記非磁性材料が、Si、Ti、Cr、Ta、Zr、W、およびNbのうちから選択された1種以上の材料を含有する、酸化物またはチッ化物であることを特徴とする付記1から8のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【0104】
(付記11)
非磁性材料からなる複数の非磁性粒子の相互間をCr酸化物が隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層と、
前記非磁性グラニュラ層上に形成された、磁性材料からなる複数の磁性粒子の相互間を非磁性材料が隔ててグラニュラ構造を成した磁性グラニュラ層とを備えた磁気記録媒体;および、
前記磁気記録媒体の非磁性グラニュラ層に対して情報記録を実行するヘッド
を備えたことを特徴とする情報記憶装置。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】基本形態について説明した情報記憶装置の一例であるハードディスク装置(HDD)を示す図である。
【図2】図1に示す磁気ディスク200の断面を模式的に示す図である。
【図3】磁性粒子どうしの磁気的な相互作用が抑制されて磁気ディスクにおける媒体ノイズが低減される様子を示す図である。
【図4】第3サンプルおよび第4サンプルのVTM2Lと実効トラック幅とを示すグラフである。
【図5】第3サンプルおよび第4サンプルにおける記録層の保磁力を示すグラフである。
【図6】第3サンプルおよび第4サンプルにおける記録層のM−Hループの傾きを示すグラフである。
【図7】第5サンプル、第6サンプル、および第7サンプルのVTM2Lと実効トラック幅とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0106】
10 HDD
101 ハウジング
102 回転軸
103 磁気ヘッド
104 ヘッドジンバルアセンブリ
105 アーム軸
106 キャリッジアーム
107 アームアクチュエータ
200 磁気ディスク
201 ディスク基板
202 軟磁性層
203 下地層
204 中間層
205 非磁性グラニュラ層
206 記録層
207 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性材料からなる複数の非磁性粒子の相互間をCr酸化物が隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層と、
前記非磁性グラニュラ層上に形成された、磁性材料からなる複数の磁性粒子の相互間を非磁性材料が隔ててグラニュラ構造を成した磁性グラニュラ層とを備えたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非磁性グラニュラ層は、前記非磁性粒子として、六方最密充填構造でC軸が該非磁性グラニュラ層の厚さ方向を向いた結晶構造を有する非磁性粒子を有したものであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性材料からなる中間層を備え、
前記非磁性グラニュラ層が、前記中間層上に形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記中間層が、六方最密充填構造でC軸が該中間層の厚さ方向を向いた結晶構造を有する非磁性材料からなるものであることを特徴とする請求項3記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
軟磁性材料からなる軟磁性裏打ち層と、
前記軟磁性裏打ち層上に形成された、面心立方格子構造の結晶構造を有する非磁性材料からなる、[1,1,1]面が表面をなす下地層とを備え、
前記中間層が、前記下地層上に形成されたものであることを特徴とする請求項3または請求項4のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記非磁性グラニュラ層は、前記非磁性粒子がCoCrで形成されたものであることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性グラニュラ層は、前記磁性粒子が、CoCr、CoCrPt、CoCrPtCu、CoCrPtB、およびCoCrPtBCuのうちから選択された1種以上の合金で形成されたものであり、前記非磁性材料が、Si、Ti、Cr、Ta、Zr、W、およびNbのうちから選択された1種以上の材料を含有する、酸化物またはチッ化物であることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
非磁性材料からなる複数の非磁性粒子の相互間をCr酸化物が隔ててグラニュラ構造を成した非磁性グラニュラ層と、
前記非磁性グラニュラ層上に形成された、磁性材料からなる複数の磁性粒子の相互間を非磁性材料が隔ててグラニュラ構造を成した磁性グラニュラ層とを備えた磁気記録媒体;および、
前記磁気記録媒体の非磁性グラニュラ層に対して情報記録を実行するヘッド
を備えたことを特徴とする情報記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−20854(P2010−20854A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181798(P2008−181798)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】