磁気記録媒体および磁気記録方法
【課題】高密度の磁気情報を記録することができ、磁気情報の誤記録を防止できる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体1は、基板2上に、磁気が印加される磁気層30を備え、磁気層30は、磁気層30の膜面に対する平行方向と比較して、磁気層30の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部3と、磁気層30の膜面に対する垂直方向と比較して、磁気層30の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部4とを備え、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、複数の磁気記録部3と、第一の応力付与部4とが交互に配置されるように形成されており、磁気記録部3および第1の応力付与部4の磁歪定数が正である。
【解決手段】磁気記録媒体1は、基板2上に、磁気が印加される磁気層30を備え、磁気層30は、磁気層30の膜面に対する平行方向と比較して、磁気層30の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部3と、磁気層30の膜面に対する垂直方向と比較して、磁気層30の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部4とを備え、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、複数の磁気記録部3と、第一の応力付与部4とが交互に配置されるように形成されており、磁気記録部3および第1の応力付与部4の磁歪定数が正である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された磁性体に磁気情報を記録する磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブロードバンド化やデジタル家電の普及により、ハードディスクへの容量増大に大きな期待が寄せられている。そして、磁気記録媒体と磁気ヘッド、双方の技術が互いに進歩することで、ハードディスクの大容量化、すなわち高記録密度化が支えられている。このうち、高記録密度化を狙った磁気記録媒体として、パターンドメディアが盛んに研究されている。
【0003】
パターンドメディアは、パターニングされた磁気ビットを非磁性体が囲む構成であって、1ビットが磁性ドット1つで構成されるため、熱揺らぎ現象に対する耐性が強く、上記熱揺らぎ現象による磁化情報の消滅という問題を解消する技術として期待されている。
【0004】
熱揺らぎ現象は、Ku・V/kT(Ku:磁気異方性エネルギー密度、V:記録ビット体積、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)という指標で表され、この値が小さい程影響が強くなるので、従来のハードディスクに用いられるグラニュラー媒体では、高密度記録媒体の記録ビットサイズの微小化、即ち、Vが小さくなることで熱揺らぎの影響が大きな問題となっている。
【0005】
一方、媒体への高密度の記録を行うための磁気記録ヘッドとして、単磁極ヘッドにトレーリングシールドを備えたトレーリングシールド型単磁極型ヘッドの研究が行われている。トレーリングシールド型単磁極ヘッドを紹介する文献として、非特許文献1のp57の最終行には、発生する記録磁界の一部が、このトレーリングシールドに吸収されることにより、磁界分布が急峻化し磁界勾配が増大することで、高密度記録が可能となることが記載されている。
【0006】
また、非特許文献2においても、トレーリングエッジからトラックダウン方向の距離に依存する単磁極ヘッドとトレーリングシールド型の単磁極ヘッドの記録磁界を示したグラフ(FIG.2)によると、トレーリングエッジからトラックダウン方向に離れるに従い、従来の単磁極ヘッドに比べてトレーリングシールド型の単磁極ヘッドの方が媒体に印加される垂直記録磁界が急峻に減少する結果が記載されている。
【0007】
特許文献1には、磁化情報を記録するための磁気記録層を熱膨張率が負である磁気異方性誘発補助層に積層したことを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体が開示されている(段落〔0008〕)。特許文献1によると、記録時にレーザ光照射した際には、磁気異方性誘発補助層により誘発された磁気異方性エネルギーにより、局所的に加熱された部分に、クロスライトの小さい記録磁区を磁気記録層に形成できるとしている(段落〔0044〕)。
【0008】
非特許文献3には、正の磁歪薄膜材料のTbFeの合金と、負の磁歪薄膜材料のSmFeの合金を組み合わせた磁歪型アクチュエータについての記載がある。
【非特許文献1】FUJITSU.58,1,p53−60(01,2007)
【非特許文献2】JOURNAL OF APPLIED PHYSICS99,08S304(2006)
【非特許文献3】精密工学会誌VOL.60,No.12,1994,p1699−1702
【特許文献1】特開2007−26511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1、2に記載されているような磁気記録ヘッドとしてトレーリングシールド型の単磁極ヘッドを用いることで、記録密度の向上が図られてはいるが、磁気記録ヘッドの飽和磁束密度の向上や、記録磁区の大きさに直接反映する磁気記録ヘッドの寸法縮小に限界が見えてきている。
【0010】
そのため、今後の磁気記録媒体の高記録密度化に伴い、隣接する磁区を誤記録することなく、保磁力の高い媒体に対して高密度の磁区を安定して記録することが一層困難になることが予想される。
【0011】
また、特許文献1においては、磁気異方性誘発補助層に熱膨張する材料を用いているために、熱源が必ず必要である。そのため、熱源を必要とする光(熱)アシスト磁気記録媒体以外の磁気記録媒体には用いることができない。
【0012】
そして、非特許文献3にはトレーリングシールド型のヘッドについて記載も示唆もされていない。
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、高密度の磁気情報を記録することができ、磁気情報の誤記録が防止できる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の磁気記録媒体は、基板上に、磁気が印加される磁気層を備えた磁気記録媒体において、上記磁気層は、上記磁気層の膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部と、上記磁気層の膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部とを備え、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、上記複数の磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが交互に配置されるように形成されており、上記磁気記録部および上記第一の応力付与部の磁歪定数が正であることを特徴とする。
【0015】
これによれば、上記磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、交互に隣接して配置されている。そして、膜面に対する平行方向の磁場成分と比較して、膜面に対する垂直方向の磁場成分が相対的に大きい磁気(垂直磁気)が上記磁気記録部に対して印加されることにより、上記磁気記録部に情報が磁気記録される。なお、磁気記録がされる上記磁気記録部に印加される上記垂直磁気は、情報が磁気記録される程度に膜面に対する垂直方向の磁場成分が強い磁気のことであり、膜面に対する平行方向の磁場成分を含んでいてもよい。
【0016】
ここで、上記磁気記録部のうち、上記垂直磁気情報が記録される磁気記録部を1番目の磁気記録部とする。また、上記第一の応力付与部を介して配置された次の磁気記録部であって、既に垂直磁気情報が記録された磁気記録部を2番目の磁気記録部とする。
【0017】
そして、上記第一の応力付与部のうち、上記1番目の磁気記録部と、上記2番目の磁気記録部とに挟まれて配置されている第一の応力付与部を1番目の第一の応力付与部とする。また、上記2番目の磁気記録部を介して配置された次の第一の応力付与部であって、上記2番目の磁気記録部と隣接して配置され、上記1番目の第一の応力付与部とともに上記2番目の磁気記録部を挟む位置に形成されている第一の応力付与部を2番目の第一の応力付与部とする。
【0018】
すなわち、上記2番目の磁気記録部に垂直磁気が印加された直後に、上記1番目の磁気記録部に垂直磁気が印加される。そして、1番目の磁気記録部に垂直磁気が印加されているとき、上記1番目の第一の応力付与部、上記2番目の磁気記録部、および、上記2番目の第一の応力付与部のそれぞれには、漏洩磁界が印加されることになる。ここで、漏洩磁界は、上記磁気記録部に磁気記録を行うための上記垂直磁気の周辺の磁界であり、上記垂直磁気と比較して、膜面に対する平行方向の磁場成分を多く含む。
【0019】
そして、上記1番目の第一の応力付与部には、上記1番目の磁気記録部との境界面付近より、上記2番目の磁気記録部との境界面付近の方が、膜面に対する平行方向の磁場成分が強い漏洩磁界が印加される。さらに、上記2番目の第一応力付与部には、上記1番目の第一の応力付与部に印加される漏洩磁界より、膜面に対する平行方向の磁場成分が強い漏洩磁界が印加される。
【0020】
ここで、上記第一の応力付与部は、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。さらに、上記第一の応力付与部の磁歪定数が正である。これにより、上記第一の応力付与部に、上記膜面に対する平行方向の磁場成分を含む磁界が印加されると、上記第一の応力付与部は、上記膜面に対する平行方向に伸長しようとする磁歪が発生する。
【0021】
従って、上記1番目の第一の応力付与部、および上記2番目の第一の応力付与部は、平行方向に伸長しようとする磁歪が発生するため、上記1番目の第一の応力付与部、および上記2番目の第一の応力付与部に挟まれた上記2番目の磁気記録部は、上記膜面に対する平行方向に圧縮する力が加えられる。
【0022】
さらに、上記磁気記録部は、膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。そして、磁気記録部の磁歪定数は正である。このため、上記2番目の磁気記録部に、上記1番目の第一の応力付与部、および上記2番目の第一の応力付与部から、上記膜面に対する平行方向に圧縮する力が加えられると、逆磁歪効果により、上記膜面に対する垂直方向の磁気異方性が向上することになる。これにより、垂直磁気異方性エネルギー密度が向上することになる。
【0023】
このため、上記1番目の磁気記録部に垂直磁気情報が記録される際に、上記2番目の磁気記録部に漏洩磁界が印加されたとしても、上記2番目の磁気記録部に記録済みの磁気情報へ影響が及ぶのを防止することができる。
【0024】
このため、高密度の磁気情報を記録することができ、磁気情報の誤記録が防止できる磁気記録媒体を提供することができる。
【0025】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記複数の磁気記録部のそれぞれは、互いに分離されているとともに、上記膜面に対する平行方向の断面は、閉じた領域として形成されていることが好ましい。
【0026】
上記構成により、上記複数の磁気記録部のそれぞれに記録された磁気情報が、他の磁気記録部に記録された磁気情報へ及ぼす影響を防止することができる。
【0027】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記複数の磁気記録部のそれぞれについて、磁気記録部内の膜厚方向には、第二の応力付与部が形成されており、上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、磁歪定数が負であることが好ましい。
【0028】
上記構成により、上記1番目の磁気記録部に垂直磁気情報を記録する際、上記2番目の磁気記録部の膜厚方向(膜面に対する垂直方向)に形成されている上記第二の応力付与部にも漏洩磁界が印加されることになる。
【0029】
ここで、上記磁気記録部内の膜厚方向に形成される上記第二の応力付与部は、上記磁気記録部の膜厚内に形成されていればよい。すなわち、上記第二の応力付与部は、上記磁気記録部の下部(上記基板が設けられている側の膜面部分)に形成されていてもよく、また、上記磁気記録部の上部(上記基板が設けられている側の膜面と対向する側の膜面部分)に形成されていてもよく、さらに、中層部(下部と上部との間の部分)に形成されていてもよい。
【0030】
上記構成によると、上記第二の応力付与部は、磁歪定数が負である。これにより、上記第二の応力付与部に上記膜面に対する平行方向の磁場成分を含む磁界が印加されると、上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する平行方向に圧縮しようとする磁歪が発生する。また、上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する垂直方向の側面は上記第一の応力付与部に囲まれて形成されている。このため、上記漏洩磁界が印加される上記第一の応力付与部から、上記膜面に対する垂直方向の側面に圧縮する力が加えられる。
【0031】
このように、上記構成によると、上記2番目の磁気記録部には、上記膜面に対する平行方向に圧縮する力が、さらに、強く加えられるため、逆磁歪効果により垂直磁気異方性がさらに向上し、上記隣接する磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。
【0032】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記磁気記録部と上記第一の応力付与部との間に非磁性体からなる非磁性部が形成されていることが好ましい。
【0033】
これによれば、上記磁気記録部と隣接する上記第一の応力付与部との間に生じる磁気的な結合が切れることになる。このため、上記磁気記録部の垂直磁気異方性により上記第一の応力付与部における平行方向の磁気異方性の成分が弱まることはない。これにより、磁気情報を印加する際における上記第一の応力付与部の膜面に対する平行方向の磁歪による応力が小さくなることがない。
【0034】
すなわち、安定して上記2番目の磁気記録部の垂直磁気異方性を逆磁歪効果により向上させることができるので、上記2番目の磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。さらには、上記磁気記録部と、隣接する上記第一の応力付与部との磁気的な結合が切れるので、上記第一の応力付与部の上記膜面に対する平行方向の磁気異方性に釣られて上記磁気記録部における磁化方向が垂直方向から傾くことを防ぎ、安定に磁気情報を記録できる。
【0035】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記複数の磁気記録部のそれぞれの間に形成され、かつ、上記第一の応力付与部の上部または下部に、上記非磁性部が形成されていることが好ましい。
【0036】
これによれば、上記非磁性部を形成しない場合に比べて、上記第一の応力付与部の厚みを薄くできる。ここで、上述したように、上記第一の応力付与部は、膜面に対する垂直方向と比較して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。このため、上記第一の応力付与部は、膜面に対する平行方向に磁化を持つ方がエネルギー的に安定となる。そして、上記第一の応力付与部の厚みを薄くすることにより、形状磁気異方性により、膜面に対する平行方向の磁気異方性を安定化させることが可能となる。
【0037】
このため、上記2番目の磁気記録部の垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、上記2番目の磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。さらには、非磁性部が形成された箇所では、磁気的な結合が切れるので、上記1番目の磁気記録部と、上記2番目の磁気記録部とに記録された磁気記録情報が、交換結合力によって、互いに転写されることを防止することができる。
【0038】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記磁気記録部、上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部の磁性体はともに、非晶質磁性体であることが好ましい。
【0039】
これによれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録ビット中での意図しない結晶方位の変化等によって、上記磁気記録媒体中の個々の上記磁気記録部や上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部の磁気特性分散を生じることなく、各上記磁気記録部、上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部がそれぞれ同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体を提供するのに好適である。
【0040】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記磁気記録部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0041】
これによれば、希土類金属と3d遷移金属の互いの磁化が反平行に揃うフェリ磁性体となり、室温において、絶対値の大きい正の磁歪定数を有する上記磁気記録部を得ることができる。このため、上記膜面に対する平行方向の応力が、上記磁気記録部に加わった際に発現する垂直磁気異方性エネルギー密度を大きくすることができる。
【0042】
また、上記磁気記録部の合金組成を調整して室温近傍に補償点を設定し、室温で高保磁力を得られるので、記録情報を安定に保持できるとともに、キュリー温度を比較的低く設定できるため、熱アシスト磁気記録に好適な上記磁気記録部を備えた磁気記録媒体を提供できる。また、Tb、Fe、Coの合金は高い垂直磁気異方性エネルギーを得られるので、本願の上記磁気記録媒体の上記磁気記録部として用いるのに好適である。このとき、上記磁気記録部に垂直磁気異方性の強いTb、Fe、Coの合金を用いることで、上記磁気記録部の膜面に対する垂直方向の磁化が、上記第一応力付与部および上記第二の応力付与部の膜面に対する平行方向の磁気異方性の影響を受けて傾くことを防ぐことができる。
【0043】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記第一の応力付与部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0044】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、正の磁歪定数を有する上記第一の応力付与部を得ることができる。また、上記第一の応力付与部の合金組成を調整することにより、膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に強くし、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定することができる。
【0045】
これにより、上記第一の応力付与部に膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、上記第一の応力付与部に隣接した上記磁気記録部に膜面に対する平行方向の圧縮応力が加わることで、上記第一の応力付与部に隣接した上記磁気記録部の垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、上記隣接する磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。
【0046】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記第二の応力付与部の磁性体はSmFeからなることが好ましい。
【0047】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、負の磁歪定数を有する上記第二の応力付与部を得ることができる。また、上記第二の応力付与部の合金組成を調整することにより、膜面に対する平行方向の磁気異方性を垂直方向に比べて相対的に強くし、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定することができる。
【0048】
これにより、上記第二の応力付与部に、膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、上記第二の応力付与部に隣接した上記磁気記録部に膜面に対する平行方向の圧縮応力が加わることで、上記第二の応力付与部に隣接した上記磁気記録部の垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、上記隣接する磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。
【0049】
本発明の磁気記録方法においては、上記磁気記録媒体の一部を局所加熱しながら外部磁界を印加することで磁気情報を記録することが好ましい。
【0050】
これによれば、磁気情報を記録する上記1番目の磁気記録部を中心部として、上記磁気記録媒体上に上記中心部を高温とした熱分布が発生することになる。これにより、上記1番目の磁気記録部の周囲に隣接する上記1番目の第一の応力付与部中において、上記1番目の磁気記録部と隣接する境界面付近では、高温に昇温されるので、磁性が減衰し、磁歪の発生が抑えられる。
【0051】
一方、上記2番目の磁気記録部と上記1番目の第一の応力付与部との境界面付近では、熱分布により昇温される温度が小さい。このため、高温である上記中心部と接する上記1番目の第一の応力付与部の境界面付近に比べて、磁性が失われる量が小さいので、磁歪を発生させることができる。これにより、局所加熱を行わない場合に比べて、上記1番目の磁気記録部と上記2番目の磁気記録部とのそれぞれに加わる応力の差をより大きくできることにより、上記2番目の磁気記録部に対する誤記録を防止する効果をさらに大きくできる。
【発明の効果】
【0052】
以上のように、本発明に係る磁気記録媒体は、基板上に、磁気が印加される磁気層を備えた磁気記録媒体において、上記磁気層は、上記磁気層の膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部と、上記磁気層の膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部とを備え、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、上記複数の磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが交互に配置されるように形成されており、上記磁気記録部および上記第一の応力付与部の磁歪定数が正である。
【0053】
従って、高密度の磁気情報を記録することができ、磁気情報の誤記録が防止できる磁気記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1から図9(a)(b)に基づいて説明すると以下の通りである。
【0055】
まず、図1、図2を用い、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体1の構成について説明する。
【0056】
図2は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体1の構成を表す平面図である。図1は、図2に示すA−A’線矢視断面図である。
【0057】
図1に示すように、本実施の形態に係る磁気記録媒体1は、基板2上に磁気が印加される磁気層30を備えている。磁気層30は、磁気層30の膜面に対する平行方向と比較して、磁気層30の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される磁気記録部3と、磁気層30の膜面に対する垂直方向と比較して、磁気層30の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部4とを備えている。そして、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、複数の磁気記録部3と、第一の応力付与部4とが交互に配置されるように形成されている。また、磁気記録部3と第一の応力付与部4との磁歪定数は正である。なお、磁気記録部3と、第一の応力付与部4との材質については後述する。また、磁気記録部3に対して磁気情報を記録することを磁気記録と称する。
【0058】
ここで、複数の磁気記録部3のそれぞれに磁気情報が記録される方向、すなわち磁気記録方向は、図1の矢印に示すように、紙面左側方向である。
【0059】
図1に示すように、複数の磁気記録部3のそれぞれは、基板2の表面に沿って並置された領域として形成されている。そして、磁気記録部3は、図2に示すように、平面形状は、互いに分離されいるとともに閉じた領域として形成されている。また、図1、2に示すように、本実施の形態においては、磁気記録部3は、円柱形状となるように形成されている。そして、磁気記録部3の膜面に対する垂直方向の側面は、第1の応力付与部4に囲まれている。この複数の磁気記録部3のそれぞれが、磁気情報の記録の際の記録磁区である。これにより、ある磁気記録部3に磁気情報が記録されたとしても、隣接する磁気記録部3に記録された磁気情報へ影響を及ぼすことがない。
【0060】
また、図1に示すように、磁気層30と基板2との層間には軟磁性層5が形成されている。すなわち、基板2上に軟磁性層5が形成され、軟磁性層5上に、磁気記録部3と、第一の応力付与部4とが膜面と平行な方向に繰り返し交互に形成されている。そして、磁気記録媒体1は、磁気記録部3と第一の応力付与部4とに積層して、保護層6、および、必要に応じて潤滑層7が形成されるパターンドメディアである。
【0061】
基板2には、金属基板や酸化物基板、窒化物基板、樹脂製基板等を用いることができ、例えば、SiO2基板やガラス基板、ポリカーボネート基板を用いることができる。また、半導体基板を用いても良い。
【0062】
磁気記録部3は、膜面に対する平行よりも相対的に垂直方向に強い磁化容易軸を有し、かつ、磁歪定数が正である磁性材料からなる。
【0063】
第一の応力付与部4は、膜面に対する垂直方向よりも相対的に平行方向に強い磁化容易軸を有し、かつ、磁歪定数が正である磁性材料からなる。
【0064】
また、磁気記録部3と第一の応力付与部4との磁性体は非晶質磁性体であることが望ましい。これによれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録磁区中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体1中の個々の磁気記録部3や第一の応力付与部4の磁気特性分散を生じることなく、各磁気記録部3、第一の応力付与部4がそれぞれ同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体1を提供するのに好適である。
【0065】
ここで、第一の応力付与部4として、膜面に対する垂直方向よりも相対的に平行方向(適宜、面内方向またはトラック長さ方向と称する)に強い磁化容易軸を有する材料を用いることによって、磁気記録部3と、別の隣接する磁気記録部3との隙間を磁性体で埋めてあっても、ある一つの磁気記録部3に記録された垂直磁気情報が交換結合力によって隣接する別の磁気記録部3に転写されることを防ぐことができるため、磁気記録媒体1をパターンドメディアとして形成することができる。
【0066】
軟磁性層5は、磁気記録部3に外部磁界を印加して磁気記録を行う際に、膜面に垂直な方向の磁界を増強して磁気記録を補助するための層であり、SUL(soft under layer)とも称される層である。さらに、軟磁性層5は、裏打ち層とも称される。軟磁性層5は、例えばNiFe,NiFeTa,CoZrやこれらを主体とする軟磁性体を用いて形成される。軟磁性層5を形成する際には、磁気記録部3および第一の応力付与部4と、軟磁性層5との間に、更に非磁性層が形成されていても構わない。なお、軟磁性層5は、軟磁性層5が無くても磁気記録部3に所望の磁気情報が記録可能な場合には、必ずしも形成される必要は無い。
【0067】
保護層6は、磁気ヘッド等の外部からの物理的な接触から、磁性体から成る磁気記録部3および第一の応力付与部4を保護するための役割と、磁気記録部3および第一の応力付与部4の酸化劣化を防ぐ酸化防止層としての役割とを兼ねる。そして、保護層6は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜やAlN,SiN,CN等の窒化膜等を適用できる。
【0068】
潤滑層7は、磁気ヘッド等の外部からの物理的な接触によって磁気記録媒体1または磁気ヘッドが破損することを防ぐためのものであり、例えば、パーフルオロポリエーテルを骨格とする分子膜を使用することができる。
【0069】
次に、本実施形態の磁気記録媒体1が、磁気記録がなされる際に、隣接する磁区に対して誤記録を防ぐことができる理由について図3を用いて説明する。
【0070】
図3は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1と、磁気記録ヘッド40とを示し、磁気記録を行う際の磁界の様子を表す説明図である。なお、図3に示した磁気記録媒体1の概略図には、保護層6と潤滑層7を省略している。
【0071】
ここで、本実施の形態において、磁気記録媒体1に磁気記録を行うための磁気記録ヘッド40として、図3に示すような垂直磁気記録ヘッドを用いるものとする。
【0072】
磁気記録ヘッド40は、主磁極41とトレーリングシールド42とを備えている単磁極ヘッドである。また、図示はしないが、磁気記録ヘッド40は、磁気記録部3に記録を行う際に電流を流すためのコイルを含む。なお、以下の説明では、このような主磁極とトレーリングシールドとを含む垂直磁気ヘッドのことをトレーリングシールド型単磁極ヘッドと称する場合がある。
【0073】
主磁極41とトレーリングシールド42とは、互いに隣接して設けられている。そして、主磁極41から磁気記録部3および応力付与部4に磁場が印加される。そして、この印加された磁場の一部の磁束がトレーリングシールド42に吸収される。
【0074】
ここで、図3において、磁気記録方向はトレーリングシールド42が設けられている側から主磁極41が設けられている側への方向である。すなわち紙面左向き方向である。そして、この磁気記録は、磁気記録媒体1が磁気記録ヘッド40に対して相対的に移動することにより記録されていく。磁気記録媒体1が磁気記録ヘッド40に対して相対的に移動する方向(媒体移動方向)は主磁極41が設けられている側からトレーリングシールド42が設けられている側への方向である。すなわち、図3に示す矢印の方向であり、紙面右方向である。
【0075】
主磁極41から磁場を印加して、磁気記録部3に、膜面に対する垂直方向の磁気情報(垂直磁気情報)を記録する際、主磁極41付近の磁気記録部3では強い垂直磁場が印加される。
【0076】
図3に示す磁気記録部3a、磁気記録部3bはともに、磁気情報が記録されるトラックである。そして、主磁極41の磁場印加面に一番近くに位置し、磁気記録を行いたい磁気記録部3を磁気記録部3aとする。また、応力付与部4を介して配置された次の磁気記録部3であって、既に磁気情報が記録された磁気記録部3を磁気記録部3bとする。すなわち、磁気記録部3bは、応力付与部4を介して磁気記録部3aの隣に配置され、トレーリングシールド42が形成されている側に位置する磁気記録部3である。
【0077】
また、応力付与部4のうち、磁気記録部3aと、磁気記録部3bとに挟まれて配置されている応力付与部4を応力付与部4aとする。すなわち、第一の応力付与部4aは、主磁極41の磁場印加面に一番近くに位置する第一の応力付与部4である。そして、磁気記録部3bを介して配置された次の第一の応力付与部4であって、磁気記録部3bと隣接して配置され、第一の応力付与部4aとともに磁気記録部3bを挟む位置に形成されている第一の応力付与部4を第一の応力付与部4bとする。すなわち、応力付与部4bは、磁気記録部3bを介して応力付与部4aと隣に配置され、トレーリングシールド42が形成されている側に位置する応力付与部4である。
【0078】
ここで、トレーリングシールド型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40は、磁界分布を急峻化させ、磁界勾配を増大させるために、トレーリングシールド42と主磁極41とを備えて構成されており、トレーリングシールド42と主磁極41とのギャップ長を小さくしている。そのため、トレーリングシールド型単磁極ヘッドの場合では、トレーリングシールド42と主磁極41とのギャップ長が小さいので、磁束の一部が主磁極41から裏打ち層である軟磁性層5に届かずに、トレーリングシールド42に吸収されることが多くなる。
【0079】
そのため、トレーリングシールド型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40からは、膜面に対する垂直方向に、主磁極41付近の磁気記録部3aに磁場が印加されるだけではなく、膜面に対する平行方向の磁場成分を含んだ磁場が、主磁極41よりトレーリングシールド42の方向にずれた付近の磁気記録部3bに印加される。トレーリングシールド型単磁極ヘッドにおいて、面内方向に磁場成分が生じることは、非特許文献1にも記載されており、P.58、4行目には記録磁界が垂直方向から面内方向に傾くと記載されている。このようなトレーリングシールド型単磁極ヘッドからの磁束の様子を、磁気記録媒体1の膜面に対する垂直方向の断面について図3に模式的に示している。
【0080】
図3の主磁極41からの磁束が示すように、磁気記録部3aには、膜面に対する垂直方向の磁場成分が強い磁気である垂直磁気が印加される。これにより、磁気記録部3aに磁気記録がなされる。なお、磁気記録部3aに情報を磁気記録するために印加される上記垂直磁気は、情報が磁気記録される程度に、膜面に対して垂直方向の磁場成分が強い磁気のことであり、膜面に対する平行方向の磁場成分を含んでいてもよい。
【0081】
そして、磁気記録部3aより磁気記録方向、即ちトレーリングシールド42が位置する方向にずれた位置にある磁気記録部3bに対しては、磁気記録部3aと比較して、膜面に対する平行方向の磁場成分を多く含む磁界が印加される。また、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bに対しても、図3での主磁極41からの磁束が示すような、膜面に対する平行方向の成分を含んだ磁界が印加される。なお、このとき、磁気記録を行いたい磁気記録部3aと磁気記録部3bとの間に挟まれた第一の応力付与部4aについて、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界面付近の方が膜面に対する平行方向成分の漏洩磁界が強く印加される。そして、第一の応力付与部4a、4bは、相対的に、膜面に対する垂直方向よりも、平行方向に強い磁気異方性を有し、正の磁歪定数を有するので、膜面に対する平行方向の磁場成分を多く含む漏洩磁界が印加されることで膜面に対する平行方向に伸長しようとする磁歪が発生する。
【0082】
ここで、磁歪の発生について説明する。磁性体に対して外部磁界が加わっていない状態では、磁性体内部の磁化は、磁性体全体としての磁化方向を中心として、ある程度、分散している(磁性体の内部に歪みの分散を有する状態)。
【0083】
これに対して、外部から磁界を加えることで磁性体の内部の磁化方向が揃って(歪みの分散の緩和)磁性体全体として外形が変形する。
【0084】
つまり、膜面に対する平行な方向の磁気異方性を有する第一の応力付与部4a、4bに対して、膜面に対する平行な方向の成分を有した磁場が印加されることで、膜面に対する平行な方向に磁化が伸び、正の磁歪定数を有する第一の応力付与部4a、4bにおける材料の磁化がそれぞれ揃って大きくなることで、磁化方向に伸張の歪みが発生する。一方、負の磁歪定数を有する材料の場合は、磁化方向に縮小の歪みが発生する。
【0085】
また、特に、希土類元素は上記の歪が大きいため、このような元素を含む強磁性化合物は大きな磁歪を発現し、これに伴って磁気異方性が大きく変化する。
【0086】
上述した通り、第一の応力付与部4aについて、磁気記録部3aとの境界面付近よりもトレーリングシールド42が形成されている側に隣接する磁気記録部3bとの境界面付近の方が、膜面に対する平行方向成分の磁場成分を多く含む漏洩磁界が強く印加される。このため、第一の応力付与部4aでは、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界面付近の方が膜面に対する平行方向の磁歪が大きく発生する。
【0087】
これにより、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向、即ちトラック長さ方向の前方に位置する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bとの境界面で、矢印で示すように膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生する。そして、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの、膜面に対する垂直方向の磁気異方性(垂直磁気異方性)が逆磁歪効果により向上する。
【0088】
この逆磁歪効果の発現を詳細に述べると、膜面に対する平行方向の応力(面内応力)σが、逆磁歪効果によって磁性体の垂直磁気異方性を向上させるとき、誘発された垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuは次式(1)で表すことができる。
ΔKu=−3/2λσ・・・式(1)
ここで、λ、σを以下に示す。
λ:磁性体の磁歪定数
σ:磁性体にかかる面内応力 (圧縮応力:σ<0、伸長応力:σ>0)
本実施の形態の磁気記録媒体1では、上記磁歪定数λは磁気記録部3の正の磁歪定数であり、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向、すなわち、トラック長さ方向の前方に位置する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bそれぞれとの境界面で、矢印で示すように膜面に対する平行方向の圧縮応力σ(<0)が発生する。そしてこの場合、式(1)が示すように、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuが向上する。
【0089】
このように、磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuが向上することにより、磁気記録部3bに漏洩磁界が印加されたとしても、磁気記録部3bに記録されている磁気情報へ影響がおよぶことを防止することができる。
【0090】
なお、本実施の形態の磁気記録媒体1は、磁気記録部3の磁性体はGd、Ho、Tb、Dy、から選択される希土類金属とFe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0091】
これによれば、希土類金属と3d遷移金属の互いの磁化が反平行に揃うフェリ磁性体となり、室温において、絶対値の大きい正の磁歪定数を有する磁気記録部3を得ることができる。そのため、面内応力が磁気記録部3に加わった際に発現する垂直磁気異方性エネルギー密度の変化量を大きくすることができる。
【0092】
また、磁気記録部3の合金組成を調整して室温近傍に補償点を設定し、室温で高保磁力を得られるので、記録情報を安定に保持できるとともに、キュリー温度を比較的低く設定できるため、熱アシスト磁気記録に好適な磁気記録部3を備えた磁気記録媒体1を提供できる。さらに、Tb、Fe、Coの合金は高い垂直磁気異方性エネルギーを得られるので、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の磁気記録部3として用いるのに好適である。このとき、磁気記録部3に垂直磁気異方性の強いTb、Fe、Coの合金を用いることで、磁気記録部3の磁化が第一の応力付与部4による膜面に対する平行方向の磁気異方性の影響を受けて、膜面に対する垂直方向から傾くことを防ぐことができる。
【0093】
さらに、本実施の形態の磁気記録媒体1は、第一の応力付与部4の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属とFe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0094】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、正の磁歪定数を有する第一の応力付与部4を得ることができる。また、第一の応力付与部4の合金組成を調整して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に強くし、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく設定し、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定する。これにより、第一の応力付与部4に膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、第一の応力付与部4は、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、第一の応力付与部4に隣接した磁気記録部3bに膜面に対する平行方向の圧縮応力を加える。このため、第一の応力付与部4に隣接した磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上する。
【0095】
また、第一の応力付与部4の磁性材料として、例えば、TbFe、(TbDy)Feラーベス相ターフェノール合金、TbHoFeなどを用いることができる。この中で、Tb、Feの薄膜合金は正の磁歪定数が大きく、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の第一の応力付与部4として用いるのに好適である。TbFeの薄膜組成は、Tb量が45から50at%となるように形成することが望ましい。これは、非特許文献3に記載されているように、Tb量が20〜40%程度では垂直磁気異方性を有することになり、本実施の形態に係る第一の応力付与部4には適さないからである。また、Tb量が50%以上になると飽和磁歪の値が急減するので、第一の応力付与部4として用いるTbFe組成は、Tb量が45から50%となるように形成することが望ましい。
【0096】
さらに、希土類−遷移金属の合金からなる磁性体においては、逆磁歪効果により垂直磁気異方性エネルギー密度が向上すると、それに伴い保磁力が向上することが一般的に知られている。本実施の形態に係る磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度の向上に伴い、膜面に対する垂直方向に磁気記録部3bに対して磁場を印加した際における磁気記録部3bの保磁力Hcが向上するので、磁気記録部3bに対する垂直磁気記録の誤った記録を防止することが可能となる。
【0097】
次に、本実施形態に係る磁気記録媒体1の製造方法を、図4(a)(b)〜図6(a)(b)を用いて示せば以下の通りである。
【0098】
図4(a)は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の製造過程を表し、基板2上に軟磁性層5、第一の応力付与部4、およびレジスト8が積層されている断面図を表し、図4(b)は、図4(a)におけるレジスト8がパターニングされた場合の断面図を表す。
【0099】
図5(a)は、図4(a)における磁気記録媒体1の第一の応力付与部4がパターニングされた場合を表す断面図であり、図5(b)は、図5(a)において磁気記録部3を形成した場合の断面図を表す。
【0100】
図6(a)は、図5(b)に示す磁気記録媒体1のレジスト8を取り除いた場合の断面図を表し、図6(b)は図6(a)の磁気記録媒体1に保護層6と、潤滑層7とを形成した場合の断面図を表す。
【0101】
まず、図4(a)に示すように、基板2上に、例えば膜厚100nmから400nm程度からなる軟磁性層5と、膜厚10nmから100nm程度からなる第一の応力付与部4に積層して、膜厚100nmから400nm程度のレジスト8の膜を形成する。この後、電子線リソグラフィや光リソグラフィを用いて、図2で示した磁気記録部3と第一の応力付与部4に相当する微細パターンを露光する。そして、その後、露光されたレジスト8を取り除く現像を行い、図4(b)に示すように、第一の応力付与部4上にレジスト8の島を形成する。
【0102】
次に、図5(a)に示すように、レジスト8の成膜過程で作製した第一の応力付与部4に相当する箇所の微細パターンをマスクとして、例えばRIE(Reactive Ion Etching)を用いて、第一の応力付与部4を加工し、凹状の溝を形成する。この際、第一の応力付与部4とレジスト8のエッチングレートの違いにより、第一の応力付与部4上にレジスト8が残っている部分は加工されず、第一の応力付与部4上にレジスト8が残っていない部分がエッチングされる。上記RIEを行う際、用いるガスとしては、第一の応力付与部4を構成する磁性体を高レートでエッチング可能なメタノールガスやCOを含むガスが望ましい。ただし、上記ガス種に限るものではなく、第一の応力付与部4がエッチングできるものであれば他のガスを用いても構わない。また、RIEの代わりに、Arイオンミリングを用いてもよい。このとき、軟磁性層5の最表面が現れる深さまでエッチングを行う。
【0103】
次に、図5(b)に示すように、磁気記録部3を軟磁性層5上に形成する。この際、磁気記録部3の膜厚を第一の応力付与部4と同じ膜厚にする。なお、図示はしないが、磁気記録部3を形成後に、磁気記録部3の酸化を防止するための非磁性膜を、例えば膜厚1nmから10nm程度で形成することが望ましい。
【0104】
次に、図6(a)に示すように、第一の応力付与部4上に残るレジスト8を、剥離液を用いて取り除くことで、同時にレジスト上に積層している磁気記録部3も取り除かれる。これにより、磁気記録部3および第一の応力付与部4の表面に凹凸の無い形状を得ることができる。
【0105】
最後に、図6(b)に示すように、磁気記録部3と第一の応力付与部4との酸化防止のための保護層6と、磁気記録ヘッド40の安定浮上のための潤滑層7を形成する。
以上の工程により、本実施形態の磁気記録媒体1が完成する。
【0106】
(実施例1)
次に、第1の実施形態に示した磁気記録媒体1について作製した実施例を以下に示す。
【0107】
まず、SiO2からなる基板2上にNiFeからなる軟磁性層5を厚さ150nmとなるようにスパッタ成膜し、軟磁性層5上にTb46Fe54からなる第一の応力付与部4を80nmとなるようにスパッタ成膜する。ここで、第一の応力付与部4として用いるTb46Fe54の磁気特性は、相対的に、膜面に対する垂直方向よりも平行方向に強い磁気異方性を有し、膜面に対する平行方向に磁場を印加した際の保磁力は100Oe程度であった。この際、スパッタ成膜に使用したスパッタ装置は、ターゲットと基板ホルダとが対向し基板ホルダが自公転する方式のスパッタ装置を用いた。さらに、電子線用のレジスト8を厚さ300nm塗布した後、電子線リソグラフィによりレジスト8を露光、現像した。
【0108】
続いて、RIE(Reactive Ion Etching)を用いて、CF4ガスにて第一の応力付与部4を加工し、図5(a)に示すように第一の応力付与部4およびレジスト8の凹凸形状を形成した。
【0109】
次に、TbFeCoからなる磁気記録部3を、レジスト8上および第一の応力付与部4・4間であり軟磁性層5上に膜厚80nmでスパッタ成膜し(図5(b))、レジスト8を剥離した(図6(a))。ここで、磁気記録部3として用いるTbFeCoは補償温度が室温以下にあるようなTMリッチ組成で作製した。磁気記録部3の磁気特性は、相対的に、膜面に対する平行方向よりも垂直方向に強い磁気異方性を有し、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際の室温における保磁力Hcは6kOeであり、キュリー温度Tcは290℃であった。また、Kuは7.0×106 [erg/cm3]であった。
【0110】
最後に、保護層6としてAlNを2nm、DLC(Diamond like Carbon)を2nmそれぞれ成膜した後、潤滑層7を塗布し磁気記録媒体1を完成した(図6(b))。このとき、磁気記録部3の径は60nm、第一の応力付与部4の最小幅は40nmであった。
【0111】
ここで、本実施例の磁気記録媒体1の磁化情報記録時における、逆磁歪効果によって誘起される磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuを、式(1)を用いて計算した。なお、式(1)における面内応力σは次式(2)で表すことができる。
σ=Eε・・・式(2)
ここで、E、εを以下に示す。
E:ヤング率
ε:歪み
なお、計算の際には、磁気記録部3の径を60nm、第一の応力付与部4の最小幅を40nmとした。また、特許文献1より、磁気記録部3に用いたTbFeCoの磁歪定数を1000×10−6とし、ヤング率Eを7×1011[dyn/cm2]とした。さらに、非特許文献3の図1より、第一の応力付与部4に用いたTbFeの磁歪定数を200×10−6として計算を行った。
【0112】
上記各定数を式(1)に当てはめてΔKuを算出したところ、ΔKu=2.8×105[erg/cm3]となった。このことは、膜面に対する平行方向の磁界が磁気記録媒体1に印加されたときに、第一の応力付与部4によって磁気記録部3に応力が働き、磁気記録部3の垂直磁気異方性エネルギー密度が2.8×105[erg/cm3]程度大きくなることを示している。
【0113】
次に、磁気記録媒体1と比較例1とを用いて、それぞれに同一のトレーリング型単磁極ヘッドである図3に示した磁気記録ヘッド40を用いて磁気記録を行った後、MFMを用いて磁区の磁化反転の観察を行った。
【0114】
図7に示すのは、比較例である磁気記録媒体21の構成を表す断面図である。磁気記録媒体21は、図7に示すように、磁気記録媒体1の第一の応力付与部4に代えて、非磁性体からなる非磁性部9が形成されている。
【0115】
ここで、磁気記録を行う磁気記録ヘッド40のサイズは、主磁極41のトラック長さ方向の幅が100nm、主磁極41のトラック幅方向幅が100nm、主磁極41とトレーリングシールド42とのギャップ長が50nmのものを用いた。本実施例では記録を行う際に磁気記録ヘッド40のコイルに流す電流は、45mAとした。
【0116】
次に、図8(a)(b)を用い、本実施例に係る磁気記録媒体1と比較例1に係る磁気記録媒体21に対しての磁気記録の方法を説明する。
【0117】
図8(a)は、本実施例に係る磁気記録媒体1と比較例に係る磁気記録媒体21との概略図を示し、磁気記録部3の磁化の向きが同一方向である場合を表す断面図であり、図8(b)は、図8(a)における磁気記録部3の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。なお、図8の磁気記録媒体1と磁気記録媒体21とでは、基板2、軟磁性層5、保護層6、潤滑層7を省略している。また、媒体移動方向は矢印が示すとおり、紙面右向きである。磁気記録部3、3d、3c中の矢印は記録された磁区の磁化方向を示している。
【0118】
まず、図8(a)で示すように、実施例1の磁気記録媒体1および比較例1の磁気記録媒体21の、全ての磁気記録部3の磁化の向きを同一方向上向きにした。次に、図8(b)に示すように、実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とのそれぞれにおいて、一つの磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した。磁場印加後、実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とのそれぞれの、磁場を印加した磁気記録部3dをMFM観察したところ、実施例1の磁気記録媒体1では磁気記録部3dに対応していると考えられる60nm径の1つの磁気記録部3が磁化反転している様子が観察された。一方、比較例1の磁気記録媒体21では、磁気記録部3dと磁気記録部3cに対応していると考えられる60nm径の2つの磁気記録部3が磁化反転している様子が観察された。
【0119】
このように、実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とにおいて、同様の記録方法を用いて磁気記録を行っても、異なった磁化反転の様子が観察される理由を、図8(a)(b)を用いて説明する。
【0120】
実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とにおいて、磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した場合を考える。この際、図8(a)に示すように、実施例1では磁気記録部3dのみ下向きに磁気記録がなされる。一方、磁気記録媒体21では、磁気記録部3dに下向きの磁気記録がなされるとともに、磁気記録ヘッド40からの漏洩磁界により、磁気記録部3dの磁気記録方向、即ちトレーリングシールド42の方向にある隣の磁気記録部3cに対しても磁気記録がなされていたと考えられる。
【0121】
すなわち、本実施例の磁気記録媒体1は、磁場を印加して磁気記録部3eに、膜面に対する垂直方向の磁気(垂直磁気情報)を記録する際、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が第一の応力付与部4に印加される。そして、磁気記録媒体1の第一の応力付与部4で、膜面に対する平行方向の磁歪が発生し、磁気記録を行いたい磁気記録部3dよりトラック長さ方向の前方に位置する磁気記録部3cの膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生することになる。これにより、第一の応力付与部4に挟まれた磁気記録部3cの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3cに対する誤記録を防止できた。
【0122】
これに対し、比較例1の磁気記録媒体21は、磁気記録部3dと隣接する磁気記録部3cの垂直磁気異方性を向上させるための第一の応力付与部4が備わっていないので、磁気記録部3cの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上することが無く、磁気記録部3cに対する誤記録を防止することができなかった。
【0123】
また、本実施形態に係る磁気記録媒体1は、図9(a)(b)に示す構成であってもよい。図9(a)は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の変形例を表し、磁気記録部3と第一の応力付与部4との間に非磁性部9が形成されている磁気記録媒体50の構成を表す断面図であり、図9(b)は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の変形例を表し、複数の磁気記録部3の隙間を占め、かつ、第一の応力付与部4の膜厚方向に、非磁性部9が形成されている磁気記録媒体55の構成を表す断面図である。
【0124】
図9(a)に示すように、磁気記録媒体50は、磁気記録部3と第一の応力付与部4との間に非磁性体からなる非磁性部9が形成されている。
【0125】
これによれば、磁気記録部3と隣接する第一の応力付与部4の磁気的な結合が切れるので、磁気記録部3の垂直磁化により第一の応力付与部4における平行方向の磁化成分が弱まることはない。また、磁場印加時における第一の応力付与部4の膜面に対する平行方向の磁歪が小さくなることがない。すなわち、安定して磁気記録部3bの垂直磁気異方性を逆磁歪効果により向上させることができるので、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。さらには、磁気記録部3と隣接する第一の応力付与部4の磁気的な結合が切れるので、第一の応力付与部4の面内方向の磁気異方性に釣られて磁気記録部3における磁化方向が垂直方向から傾くことを防ぎ、記録磁区を安定に保持できる。すなわち、安定に磁気記録を行うことができる。
【0126】
また、本実施形態において、図9(b)に示すように、磁気記録媒体55の第一の応力付与部4は、磁気記録部3と比較して、膜面に対する垂直方向の長さ(高さ)が短く形成されている。そして、第一の応力付与部4の上には非磁性部9が形成されている。第一の応力付与部4および非磁性部9を合わせた高さと、磁気記録部3の高さとが同じになるように形成されている。すなわち、非磁性部9は、複数の磁気記録部3の隙間を占め、かつ、第一の応力付与部4の膜厚方向に形成されている。
【0127】
これによれば、図1に示した非磁性部9を形成しない磁気記録媒体1に比べて、第一の応力付与部4の厚みを薄くできる。ここで、上述したように、第一の応力付与部4は、膜面に対する垂直方向と比較して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。このため、第一の応力付与部4は、膜面に対する平行方向に磁化を持つ方がエネルギー的に安定となる。そして、第一の応力付与部4の厚みを薄くすることにより、形状磁気異方性により、膜面に対する平行方向の磁気異方性を安定化させることが可能となる。
【0128】
このため、第一の応力付与部4に挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。さらには、非磁性部9が形成された箇所では、磁気記録部3と、磁気記録部3と隣接する別の磁気記録部3の磁気的な結合が切れるので、ある一つの磁気記録部3に記録された垂直磁気情報が交換結合力によって、隣接する磁気記録部3に転写されることを防げる。
【0129】
なお、図9(b)では第一の応力付与部4と非磁性部9が、基板2側から見て第一の応力付与部4、非磁性部9の順に形成されているが、第一の応力付与部4と非磁性部9が入れ替わって形成されていても構わない。
【0130】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の第2の実施の形態について図10〜図13を用い説明する。なお、第1実施形態と同一の部材については同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0131】
図10は、本実施の形態に係る磁気記録媒体11の構成の断面図である。
【0132】
実施の形態1と実施の形態2とでは、磁気記録部3の下層に、磁歪定数が負である第二の応力付与部10を設けたことが異なる。
【0133】
本発明の第2の実施形態に係る磁気記録媒体11は、図10に示すように、複数の磁気記録部3のそれぞれについて、磁気記録部3の膜厚方向には、第二の応力付与部10が形成されている。ここで、磁気記録部3の膜厚方向に形成される第二の応力付与部10は、磁気記録部3の膜厚内に形成されていればよい。すなわち、第二の応力付与部10は、磁気記録部3の下部(基板2が設けられている側の膜面部分)に形成されていてもよく、また、磁気記録部3の上部(基板2が設けられている側の膜面と対向する側の膜面部分)に形成されていてもよく、さらに、中層部(下部と上部との間の部分)に形成されていてもよい。本実施の形態においては、第二の応力付与部10は、磁気記録部3内の下部に形成されている。すなわち、第二の応力付与部10は、磁気記録部3と軟磁性層5との間の層に形成されている。そして、磁気記録部3および軟磁性層5の高さ方向の厚みと、第一の応力付与部4の高さ方向の厚みとは同じとなるように形成されている。また、第2の応力付与部は、膜面に対する垂直方向の側面を第1の応力付与部に囲まれている。
【0134】
なお、磁気記録部3aの下層に形成されている第二の応力付与部10を第二の応力付与部10aとする。また、磁気記録部3bの下層に形成されている第二の応力付与部10を第二の応力付与部10bとする。
【0135】
第二の応力付与部10は、膜面に対する垂直方向よりも、相対的に平行方向に強い磁化容易軸を有し、かつ、磁歪定数が負である磁性材料からなる。なお、第二の応力付与部10の磁性体は、非晶質磁性体であることが望ましい。これによれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録磁区中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体11中の個々の第二の応力付与部10の磁気特性の分散を生じることがない。このため、各第二の応力付与部10のそれぞれが同等の磁気特性を示すことになり、安定な性能の磁気記録媒体11を提供するのに好適である。なお、図10では、基板2側から見て、第二の応力付与部10上に磁気記録部3が形成された順となっているが、第二の応力付与部10と磁気記録部3との積層順が入れ替わって形成されていても構わない。
【0136】
ここで、本実施の形態の磁気記録媒体11に磁気記録が行われる際に、隣接する磁区に対して誤記録を防ぐことができる理由について図11を用いて説明する。
【0137】
図11は、本実施の形態に係る磁気記録媒体11と、磁気記録ヘッド40とを示し、磁気情報を記録する際の磁界の様子を表す説明図である。なお、図11に示した磁気記録媒体11の概略図には、保護層6と潤滑層7を省略している。
【0138】
図11に示すように、本実施の形態における磁気記録媒体11は、基板2上に、磁気情報が記録される磁気層31を備えた磁気記録媒体11において、磁気層31は、膜面に対する垂直方向の磁気異方性が、面内方向に比べて相対的に大きい磁性体からなる複数の磁気記録部3と、磁気記録部3の隙間を占める膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部4とから形成されている。そして、磁気記録部3は互いに分離されていると共に、膜面に対して平行方向の断面は、閉じた領域であり、かつ基板2の表面に沿って並置された領域として形成されている。さらには、磁気記録部3と第一の応力付与部4とは磁歪定数が正である。これらの構成については、磁気記録媒体1と同様である。
【0139】
さらに、磁気記録媒体11は、第一の応力付与部4に隙間を占められ、かつ、複数の磁気記録部3の膜厚方向に磁歪定数が負である第二の応力付与部10が形成されている構成である。第二の応力付与部10は、磁気記録部3の下部に形成されている。
【0140】
ここで、磁気記録媒体11に情報を記録する磁気記録ヘッドとして、図3に示した磁気記録ヘッド40を用いるものとする。すなわち、本実施の形態においても、磁気記録ヘッド40として、主磁極41とトレーリングシールド42とを設けた垂直磁気記録ヘッドを用いる。図11においても、図3と同様に、垂直磁気記録ヘッドのトレーリングシールド型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40による磁束の様子を、磁気記録媒体11の膜面に対する垂直方向の断面について模式的に示している。
【0141】
図11に示すように、主磁極41から磁場を印加して磁気記録部3に垂直磁気情報を記録する際、主磁極41付近の磁気記録部3aでは強い垂直磁場が印加される。
【0142】
これより、磁気記録部3aよりも主磁極41より媒体移動方向、すなわちトレーリングシールド42の方向にずれた位置にある磁気記録部3bに対しては、垂直方向の磁界だけでなく、図11での主磁極41からの磁束が示すような、膜面に対する平行方向と垂直方向の成分を含んだ磁界が印加される。また、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bと、磁気記録部3bの下層であって膜厚方向に形成されている第二の応力付与部10bに対しては、図11での主磁極41からの磁束が示すような、膜面に対する平行方向の成分を含んだ磁界が印加される。
【0143】
なお、このとき、磁気記録を行いたい磁気記録部3aと磁気記録部3bとの間に挟まれた第一の応力付与部4aについて、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界付近の方が膜面に対する平行方向の成分の漏洩磁界が強く印加される。
【0144】
そして、第一の応力付与部4a、4bは膜面に対する垂直方向に比べて相対的に面内方向に強い磁気異方性を有し、正の磁歪定数を有するので、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が印加されることで、膜面に対する平行方向に伸長しようとする磁歪が発生する。上述した通り、第一の応力付与部4aについては、磁気記録部3aとの境界付近よりも磁気記録部3bとの境界付近の方が膜面に対する平行方向成分の漏洩磁界が強く印加されるので、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界面付近の方が膜面に対する平行方向の磁歪が大きく発生する。
【0145】
これにより、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bとの界面で、矢印で示すように膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生する。
【0146】
さらに、上述した通り、膜面に対する平行方向の成分を有した漏洩磁界が第一の応力付与部4に印加されると同時に、第二の応力付与部10bにも膜面に対する平行方向の成分を有した漏洩磁界が印加される。
【0147】
上述したように、第二の応力付与部10bは膜面に対する垂直方向に比べて相対的に面内方向に強い磁気異方性を有し、負の磁歪定数を有するので、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が印加されることで、膜面に対する平行方向に収縮しようとする磁歪が発生する。
【0148】
この際、第二の応力付与部10bの膜厚方向に形成している磁気記録部3bは、第二の応力付与部10bと密接に積層しているため、第二の応力付与部10bの磁歪による収縮に引きずられて、矢印で示すような膜面に対する平行方向の圧縮応力が磁気記録部3bに働く。
【0149】
このように、第一の応力付与部4、第二の応力付与部10に膜面に対する平行方向の磁歪が発生する。そして、磁気記録を行いたい磁気記録部3aより媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3bに対して、膜面に対する平行方向の圧縮応力が、実施形態1に係る磁気記録媒体1と比べてさらに強く発生することになる。このため、磁気記録媒体11では磁気記録媒体1より、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果によりさらに向上する。
【0150】
さらに、磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度の向上に伴い、磁気記録部3bの膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力Hcが向上するので、磁気記録部3bに対する垂直磁気記録の誤った記録を防止することが可能となる。
【0151】
なお、本実施の形態の磁気記録媒体11は、第二の応力付与部10の磁性体はSmFeからなることが好ましい。
【0152】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、負の磁歪定数を有する第二の応力付与部10を得ることができる。また、第二の応力付与部10の合金組成を調整して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に強くする。これにより、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定することになる。
【0153】
このため、第二の応力付与部10bに膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、第二の応力付与部10bに隣接した磁気記録部3bに膜面に対する平行方向の圧縮応力が加わることで、第二の応力付与部10bに隣接した磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。
【0154】
ここで、SmFeの薄膜組成は、Sm量が30から40at%となるように形成することが望ましい。これは、非特許文献3に記載されているように、SmFe薄膜は組成によらず面内磁化膜になるが、Sm量が30〜40at%において磁歪定数の絶対値が最大となるからである。
【0155】
本実施形態の製造方法は、第1実施形態で示した電子線リソグラフィや光リソグラフィを用いた製造方法と同じ製造方法を用いる。異なることは、第1実施形態の磁気記録媒体1の作製工程において、磁気記録部3のみを形成する代わりに、第二の応力付与部10と磁気記録部3とを膜厚方向に形成することだけが異なる。
【0156】
(実施例2)
次に、第2の実施形態に示した磁気記録媒体11について作製した実施例を以下に示す。
【0157】
まず、SiO2からなる基板2上にNiFeからなる軟磁性層5を厚さ150nmとなるようにスパッタ成膜し、軟磁性層5上にTb46Fe54からなる第一の応力付与部4を80nmとなるようにスパッタ成膜する。ここで、第一の応力付与部4に用いるTb46Fe54の磁気特性は実施例1と同様である。さらに、電子線用のレジスト8を厚さ300nmとなるように塗布した後、電子線リソグラフィによりレジスト8を露光、現像した。
【0158】
続いてRIE(Reactive Ion Etching)を用いて、CF4ガスにて第一の応力付与部4を加工し、凹凸形状を形成した。このとき形成した凹凸の形状は、凸部の最小幅が40nm、第一の応力付与部の凹部溝深さが80nm、凹部の径が60nmであった。
【0159】
続いて、Sm40Fe60からなる第二の応力付与部10を20nm、TbFeCoからなる磁気記録部3を膜厚60nmでスパッタ成膜し、レジスト8を剥離した。ここで、第二の応力付与部10として用いるSm40Fe60の磁気特性は、膜面に対する垂直方向よりも相対的に面内方向に強い磁気異方性を有し、面内方向に磁場を印加した際の保磁力は100Oe程度であった。なお、磁気記録部3に用いるTbFeCoの磁気特性については実施例1と同様である。
【0160】
最後に、保護層6としてAlNを2nm、DLC(Diamond like Carbon)を2nmそれぞれ成膜した後、潤滑層7を塗布し磁気記録媒体11を完成した。
【0161】
ここで、実施例1と同様に、本実施例の磁気記録媒体11の磁気情報記録時における、逆磁歪効果によって誘起される磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuを、式(1)を用いて計算する。なお、計算の際には、非特許文献3より第二の応力付与部10に用いるSmFeの磁歪定数を−300×10−6とし、それ以外の値は実施例1と同じとして計算を行った。
【0162】
上記各定数を式(1)に当てはめてΔKuを算出したところ、ΔKu=6.0×105[erg/cm3]となった。このことは、面内磁界が磁気記録媒体11に印加されたときに、第一の応力付与部4と第二の応力付与部10によって磁気記録部3に応力が働き、磁気記録部3の垂直磁気異方性エネルギー密度が6.0×105[erg/cm3]程度大きくなることを示している。
【0163】
また、実施例1の磁気記録媒体1における逆磁歪効果での誘起垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuと比較すると、本実施例の磁気記録媒体11における逆磁歪効果での誘起垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuは約2倍の大きさになる。このため、磁気記録部3bの膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力Hcが、実施例1の磁気記録媒体1より向上するので、磁気記録部3bに対する垂直磁気情報の誤った記録を防止することが可能となる。
【0164】
次に、実施例1と同様の方法で、実施例2の磁気記録媒体11と、実施例1の磁気記録媒体1を用いて、それぞれ同一のトレーリング型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40を用いて磁気記録を行った後、MFMを用いて磁区の磁化反転の観察を行った。
【0165】
磁気記録を行う磁気記録ヘッド40のサイズは、実施例1と同様に、主磁極41のトラック長さ方向の幅が100nm、主磁極41のトラック幅方向の幅が100nm、主磁極41とトレーリングシールド42とのギャップ長が50nmのものを用いた。なお、磁気記録を行う際に主磁極41のコイルに流す電流は、実施例1よりも大きい55mAとした。
【0166】
磁気記録の方法を、図12(a)(b)を用いて説明する。
【0167】
図12(a)は、本実施例に係る磁気記録媒体11と、実施例1に係る磁気記録媒体1との概略を示し、磁気記録部3の磁化の向きが同一の方向である場合を表す断面図であり、図12(b)は、図12(a)における磁気記録部3の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。なお、図12(a)(b)では、基板2、軟磁性層5、保護層6、潤滑層7を省略している。また、磁気記録方向は矢印が示すとおり、紙面右向きである。
【0168】
まず、図12(a)で示すように、実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1との、全ての磁気記録部3の磁化の向きを同一方向上向きにした。なお、磁気記録部3中の矢印は記録された磁区の磁化方向を示している。
【0169】
次に、実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1とのそれぞれにおいて、磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した。磁場印加後、磁気記録媒体11と磁気記録媒体1とのそれぞれの、磁場を印加した磁気記録部3dをMFM観察したところ、磁気記録媒体1では磁気記録部3cと隣接する磁気記録部3dに対応すると考えられる径60nmの二つの磁気記録部3が磁化反転している様子が観察された。一方、磁気記録媒体11では、磁気記録部3dに対応していると考えられる60nm径の一つの磁気記録部3のみ磁化反転している様子が観察された。
【0170】
このように、実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1とにおいて、同様の記録方法を用いて記録を行っても、異なった磁化反転の様子が観察される理由を、図12を用いて詳細に説明する。
【0171】
実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1とにおいて、磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した場合を考える。この際、図12(b)に示すように、磁気記録媒体11では磁気記録部3dのみ下向きに磁気記録がなされる。一方、磁気記録媒体1では、磁気記録部3dに下向きの磁気記録がなされるとともに、磁気記録ヘッド40からの漏洩磁界により、磁気記録部3dの媒体移動方向、すなわちトレーリングシールド42の方向にある隣の磁気記録部3cに対しても磁気記録がなされていたと考えられる。
【0172】
すなわち、本実施例の磁気記録媒体11は、磁場を印加して磁気記録部3に垂直磁気情報を記録する際、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が第一の応力付与部4と第二の応力付与部10に印加される。そして、第一の応力付与部4と第二の応力付与部10とに膜面に対する平行方向の磁歪が発生し、磁気記録を行いたい磁気記録部3dより媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3cの膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生することになる。これにより、第一の応力付与部4に挟まれた磁気記録部3cの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3cに対する誤記録を防止できた。
【0173】
これに対し、実施例1の磁気記録媒体1は、磁気記録部3cの垂直磁気異方性は向上するが、本実施例では磁気記録ヘッド40のコイルに流す電流を大きくしたことで、印加磁界の大きさが磁気記録部3cの保磁力を超えたために、誤記録を防止することができなかった。
【0174】
なお、本実施形態に係る磁気記録媒体1は、図13に示す構成であってもよい。図13は、本実施の形態に係る磁気記録媒体11の変形例を表し、第一の応力付与部4の上層に非磁性部9が形成されている磁気記録媒体の構成を表す断面図である。
【0175】
磁気記録媒体60と、磁気記録媒体11とでは、第一の応力付与部4の上層に非磁性部9が形成されている点で異なる。他の点においては、磁気記録媒体60は、磁気記録媒体11と同様の構成であるため説明を省略する。
【0176】
図13に示すように磁気記録媒体60には、複数の磁気記録部3のそれぞれの間に形成され、かつ、第一の応力付与部4内の上部に、非磁性部9が形成されている。すなわち、非磁性部9は、第一の応力付与部4の膜厚方向であって、第一の応力付与部4の上層に非磁性部9が形成されている。そして、第一の応力付与部4および非磁性部9を合わせた高さ方向の厚みと、磁気記録部3および第二の応力付与部10を合わせた高さ方向の厚みとは同じとなるように形成されている。
【0177】
これによれば、非磁性部9を形成しない磁気記録媒体1に比べて、第一の応力付与部4の高さ方向の厚みを薄くできる。ここで、上述したように、第一の応力付与部4は、膜面に対する垂直方向と比較して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。このため、第一の応力付与部4は、膜面に対する平行方向に磁化を持つ方がエネルギー的に安定となる。そして、上記第一の応力付与部の厚みを薄くすることにより、形状磁気異方性により、膜面に対する平行方向の磁気異方性を安定化させることが可能となる。このため、膜面に対する垂直方向の側面を第一の応力付与部4に周囲を囲まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。
【0178】
さらには、非磁性部9が形成された箇所では、磁気記録部3と、磁気記録部3と隣接する別の磁気記録部3(例えば磁気記録部3aおよび隣接する磁気記録部3b)の磁気的な結合が切れるので、ある一つの磁気記録部3に記録された垂直磁気情報が交換結合力によって隣接する磁気記録部3に転写されることを防ぐことができる。
【0179】
なお、本実施形態において、図13に示すように、第一の応力付与部4の膜面に対する垂直方向に非磁性部9が形成され、第一の応力付与部4の膜厚が第二の応力付与部10の膜厚よりも大きい構成であってもよい。
【0180】
これによれば、第二の応力付与部10からの圧縮応力が磁気記録部3bに効果的に加わり、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。
【0181】
なお、図13では第一の応力付与部4と非磁性部9とが、基板2側から見て第一の応力付与部4、非磁性部9の順に形成されているが、第一の応力付与部4と非磁性部9とが入れ替わって形成されていても構わない。
【0182】
また、本発明の実施形態1と実施形態2とに関する磁気記録媒体1、11およびその変形例である磁気記録媒体21、50、60のそれぞれは、その一部を局所加熱しながら外部磁界を印加することで磁気情報を記録する、すなわち光(熱)アシスト磁気記録方式に適用してもよい。
【0183】
これによれば、例えば、磁気記録媒体1上に、磁気情報を記録したい磁気記録部3aを中心部とし、この中心部を高温とした熱分布が発生することになる。そして、磁気記録部3aの両隣に隣接する応力付与部4a中の磁気記録部3aに隣接する境界面付近では高温に昇温されるので磁性が減衰し、磁歪の発生が極力抑えられる。一方、磁気記録部3aに隣接する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bそれぞれとの境界面付近では、熱分布により昇温される温度が小さい。このため、高温部の応力付与部4aと磁気記録部3aとの境界面付近に比べて、磁性が失われる量が小さいので、磁歪を発生させることができる。従って、加熱を行わない場合に比べて、磁気記録をしたい磁気記録部3aと、隣接する磁気記録部3bとに加わる応力の差をより大きくできることにより、磁気記録部3bに対する誤記録を防止する効果をさらに大きくできる。
【0184】
なお、本発明の実施形態1、実施形態2においては、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3bについて誤記録防止の効果を説明したが、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対してトラック幅方向に位置する第一の応力付与部4と、トラック幅方向に位置する隣接磁気記録部の膜厚方向に形成された第二の応力付与部10に対しても、面内方向成分を含んだ漏洩磁界が印加される。このため、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対してトラック幅方向に位置する隣接磁気記録部に対する誤記録についても防止する効果が得られる。
【0185】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明によると、膜面に対する垂直方向の磁気異方性を向上させて磁気情報を記録することができるため、高密度に磁気情報を記録する磁気記録媒体に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の構成を表し、図2に示すA−A’線矢視断面図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の構成を表す平面図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体と、磁気記録ヘッドとを示し、磁気記録を行う際の磁界の様子を表す説明図である。
【図4】図4(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の製造過程を表すものであり、基板上に軟磁性層、第1の応力付与部、およびレジストが積層されている断面図を表し、図4(b)は、図4(a)におけるレジストがパターニングされた場合の断面図を表す。
【図5】図5(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の製造過程を表すものであり、図4(a)における磁性記録媒体の第1の応力浮力がパターニングされた場合を表す断面図であり、図5(b)は、図5(a)において磁気記録部を形成した場合の断面図を表す。
【図6】図6(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の製造過程を表すものであり、図5(b)に示す磁性記録媒体のレジストを取り除いた場合の断面図を表し、図6(b)は図6(a)の磁性記録媒体に保護層と、潤滑層とを形成した場合の断面図を表す。
【図7】図7に示すのは、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の比較例である磁気記録媒体の構成を表す断面図である。
【図8】図8(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体と、図7の比較例の磁気記録媒体との概略図を示し、磁気記録部の磁化の向きが同一方向である場合を表す断面図であり、図8(b)は、図8(a)における磁化記録部の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。
【図9】図9(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の変形例を表し、磁気記録部と第1の応力付与部との間に非磁性部が形成されている構成を表す断面図であり、図9(b)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の変形例を表し、第一の応力付与部の上層に、非磁性部が形成されている構成を表す断面図である。
【図10】図10は、本発明の磁気記録媒体の第2の実施の形態に係る構成を表す断面図である。
【図11】図11は、本発明の第2の実施の形態に係る磁気記録媒体と、磁気記録ヘッドとの断面を示し、情報を記録する際の磁界の様子を表す説明図である。
【図12】図12(a)は、本発明の第2の実施例に係る磁気記録媒体と、第1の実施例に係る磁気記録媒体との概略構成を示し、磁気記録部の磁化の向きが同一の方向である場合を表す断面図であり、図12(b)は、図12(a)における磁化記録部の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。
【図13】図13は、本発明の第2の実施例に係る磁気記録媒体の変形例の構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0188】
1 磁気記録媒体
2 基板
3 磁気記録部
4 第一の応力付与部
5 軟磁性層
6 保護層
7 潤滑層
8 レジスト
9 非磁性部
10 第二の応力付与部
11 磁気記録媒体
21 磁気記録媒体
30 磁気層
31 磁気層
40 磁気記録ヘッド
41 主磁極
42 トレーリングシールド
50 磁気記録媒体
55 磁気記録媒体
60 磁気記録媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された磁性体に磁気情報を記録する磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブロードバンド化やデジタル家電の普及により、ハードディスクへの容量増大に大きな期待が寄せられている。そして、磁気記録媒体と磁気ヘッド、双方の技術が互いに進歩することで、ハードディスクの大容量化、すなわち高記録密度化が支えられている。このうち、高記録密度化を狙った磁気記録媒体として、パターンドメディアが盛んに研究されている。
【0003】
パターンドメディアは、パターニングされた磁気ビットを非磁性体が囲む構成であって、1ビットが磁性ドット1つで構成されるため、熱揺らぎ現象に対する耐性が強く、上記熱揺らぎ現象による磁化情報の消滅という問題を解消する技術として期待されている。
【0004】
熱揺らぎ現象は、Ku・V/kT(Ku:磁気異方性エネルギー密度、V:記録ビット体積、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)という指標で表され、この値が小さい程影響が強くなるので、従来のハードディスクに用いられるグラニュラー媒体では、高密度記録媒体の記録ビットサイズの微小化、即ち、Vが小さくなることで熱揺らぎの影響が大きな問題となっている。
【0005】
一方、媒体への高密度の記録を行うための磁気記録ヘッドとして、単磁極ヘッドにトレーリングシールドを備えたトレーリングシールド型単磁極型ヘッドの研究が行われている。トレーリングシールド型単磁極ヘッドを紹介する文献として、非特許文献1のp57の最終行には、発生する記録磁界の一部が、このトレーリングシールドに吸収されることにより、磁界分布が急峻化し磁界勾配が増大することで、高密度記録が可能となることが記載されている。
【0006】
また、非特許文献2においても、トレーリングエッジからトラックダウン方向の距離に依存する単磁極ヘッドとトレーリングシールド型の単磁極ヘッドの記録磁界を示したグラフ(FIG.2)によると、トレーリングエッジからトラックダウン方向に離れるに従い、従来の単磁極ヘッドに比べてトレーリングシールド型の単磁極ヘッドの方が媒体に印加される垂直記録磁界が急峻に減少する結果が記載されている。
【0007】
特許文献1には、磁化情報を記録するための磁気記録層を熱膨張率が負である磁気異方性誘発補助層に積層したことを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体が開示されている(段落〔0008〕)。特許文献1によると、記録時にレーザ光照射した際には、磁気異方性誘発補助層により誘発された磁気異方性エネルギーにより、局所的に加熱された部分に、クロスライトの小さい記録磁区を磁気記録層に形成できるとしている(段落〔0044〕)。
【0008】
非特許文献3には、正の磁歪薄膜材料のTbFeの合金と、負の磁歪薄膜材料のSmFeの合金を組み合わせた磁歪型アクチュエータについての記載がある。
【非特許文献1】FUJITSU.58,1,p53−60(01,2007)
【非特許文献2】JOURNAL OF APPLIED PHYSICS99,08S304(2006)
【非特許文献3】精密工学会誌VOL.60,No.12,1994,p1699−1702
【特許文献1】特開2007−26511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1、2に記載されているような磁気記録ヘッドとしてトレーリングシールド型の単磁極ヘッドを用いることで、記録密度の向上が図られてはいるが、磁気記録ヘッドの飽和磁束密度の向上や、記録磁区の大きさに直接反映する磁気記録ヘッドの寸法縮小に限界が見えてきている。
【0010】
そのため、今後の磁気記録媒体の高記録密度化に伴い、隣接する磁区を誤記録することなく、保磁力の高い媒体に対して高密度の磁区を安定して記録することが一層困難になることが予想される。
【0011】
また、特許文献1においては、磁気異方性誘発補助層に熱膨張する材料を用いているために、熱源が必ず必要である。そのため、熱源を必要とする光(熱)アシスト磁気記録媒体以外の磁気記録媒体には用いることができない。
【0012】
そして、非特許文献3にはトレーリングシールド型のヘッドについて記載も示唆もされていない。
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、高密度の磁気情報を記録することができ、磁気情報の誤記録が防止できる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の磁気記録媒体は、基板上に、磁気が印加される磁気層を備えた磁気記録媒体において、上記磁気層は、上記磁気層の膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部と、上記磁気層の膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部とを備え、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、上記複数の磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが交互に配置されるように形成されており、上記磁気記録部および上記第一の応力付与部の磁歪定数が正であることを特徴とする。
【0015】
これによれば、上記磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、交互に隣接して配置されている。そして、膜面に対する平行方向の磁場成分と比較して、膜面に対する垂直方向の磁場成分が相対的に大きい磁気(垂直磁気)が上記磁気記録部に対して印加されることにより、上記磁気記録部に情報が磁気記録される。なお、磁気記録がされる上記磁気記録部に印加される上記垂直磁気は、情報が磁気記録される程度に膜面に対する垂直方向の磁場成分が強い磁気のことであり、膜面に対する平行方向の磁場成分を含んでいてもよい。
【0016】
ここで、上記磁気記録部のうち、上記垂直磁気情報が記録される磁気記録部を1番目の磁気記録部とする。また、上記第一の応力付与部を介して配置された次の磁気記録部であって、既に垂直磁気情報が記録された磁気記録部を2番目の磁気記録部とする。
【0017】
そして、上記第一の応力付与部のうち、上記1番目の磁気記録部と、上記2番目の磁気記録部とに挟まれて配置されている第一の応力付与部を1番目の第一の応力付与部とする。また、上記2番目の磁気記録部を介して配置された次の第一の応力付与部であって、上記2番目の磁気記録部と隣接して配置され、上記1番目の第一の応力付与部とともに上記2番目の磁気記録部を挟む位置に形成されている第一の応力付与部を2番目の第一の応力付与部とする。
【0018】
すなわち、上記2番目の磁気記録部に垂直磁気が印加された直後に、上記1番目の磁気記録部に垂直磁気が印加される。そして、1番目の磁気記録部に垂直磁気が印加されているとき、上記1番目の第一の応力付与部、上記2番目の磁気記録部、および、上記2番目の第一の応力付与部のそれぞれには、漏洩磁界が印加されることになる。ここで、漏洩磁界は、上記磁気記録部に磁気記録を行うための上記垂直磁気の周辺の磁界であり、上記垂直磁気と比較して、膜面に対する平行方向の磁場成分を多く含む。
【0019】
そして、上記1番目の第一の応力付与部には、上記1番目の磁気記録部との境界面付近より、上記2番目の磁気記録部との境界面付近の方が、膜面に対する平行方向の磁場成分が強い漏洩磁界が印加される。さらに、上記2番目の第一応力付与部には、上記1番目の第一の応力付与部に印加される漏洩磁界より、膜面に対する平行方向の磁場成分が強い漏洩磁界が印加される。
【0020】
ここで、上記第一の応力付与部は、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。さらに、上記第一の応力付与部の磁歪定数が正である。これにより、上記第一の応力付与部に、上記膜面に対する平行方向の磁場成分を含む磁界が印加されると、上記第一の応力付与部は、上記膜面に対する平行方向に伸長しようとする磁歪が発生する。
【0021】
従って、上記1番目の第一の応力付与部、および上記2番目の第一の応力付与部は、平行方向に伸長しようとする磁歪が発生するため、上記1番目の第一の応力付与部、および上記2番目の第一の応力付与部に挟まれた上記2番目の磁気記録部は、上記膜面に対する平行方向に圧縮する力が加えられる。
【0022】
さらに、上記磁気記録部は、膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。そして、磁気記録部の磁歪定数は正である。このため、上記2番目の磁気記録部に、上記1番目の第一の応力付与部、および上記2番目の第一の応力付与部から、上記膜面に対する平行方向に圧縮する力が加えられると、逆磁歪効果により、上記膜面に対する垂直方向の磁気異方性が向上することになる。これにより、垂直磁気異方性エネルギー密度が向上することになる。
【0023】
このため、上記1番目の磁気記録部に垂直磁気情報が記録される際に、上記2番目の磁気記録部に漏洩磁界が印加されたとしても、上記2番目の磁気記録部に記録済みの磁気情報へ影響が及ぶのを防止することができる。
【0024】
このため、高密度の磁気情報を記録することができ、磁気情報の誤記録が防止できる磁気記録媒体を提供することができる。
【0025】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記複数の磁気記録部のそれぞれは、互いに分離されているとともに、上記膜面に対する平行方向の断面は、閉じた領域として形成されていることが好ましい。
【0026】
上記構成により、上記複数の磁気記録部のそれぞれに記録された磁気情報が、他の磁気記録部に記録された磁気情報へ及ぼす影響を防止することができる。
【0027】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記複数の磁気記録部のそれぞれについて、磁気記録部内の膜厚方向には、第二の応力付与部が形成されており、上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、磁歪定数が負であることが好ましい。
【0028】
上記構成により、上記1番目の磁気記録部に垂直磁気情報を記録する際、上記2番目の磁気記録部の膜厚方向(膜面に対する垂直方向)に形成されている上記第二の応力付与部にも漏洩磁界が印加されることになる。
【0029】
ここで、上記磁気記録部内の膜厚方向に形成される上記第二の応力付与部は、上記磁気記録部の膜厚内に形成されていればよい。すなわち、上記第二の応力付与部は、上記磁気記録部の下部(上記基板が設けられている側の膜面部分)に形成されていてもよく、また、上記磁気記録部の上部(上記基板が設けられている側の膜面と対向する側の膜面部分)に形成されていてもよく、さらに、中層部(下部と上部との間の部分)に形成されていてもよい。
【0030】
上記構成によると、上記第二の応力付与部は、磁歪定数が負である。これにより、上記第二の応力付与部に上記膜面に対する平行方向の磁場成分を含む磁界が印加されると、上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する平行方向に圧縮しようとする磁歪が発生する。また、上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する垂直方向の側面は上記第一の応力付与部に囲まれて形成されている。このため、上記漏洩磁界が印加される上記第一の応力付与部から、上記膜面に対する垂直方向の側面に圧縮する力が加えられる。
【0031】
このように、上記構成によると、上記2番目の磁気記録部には、上記膜面に対する平行方向に圧縮する力が、さらに、強く加えられるため、逆磁歪効果により垂直磁気異方性がさらに向上し、上記隣接する磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。
【0032】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記磁気記録部と上記第一の応力付与部との間に非磁性体からなる非磁性部が形成されていることが好ましい。
【0033】
これによれば、上記磁気記録部と隣接する上記第一の応力付与部との間に生じる磁気的な結合が切れることになる。このため、上記磁気記録部の垂直磁気異方性により上記第一の応力付与部における平行方向の磁気異方性の成分が弱まることはない。これにより、磁気情報を印加する際における上記第一の応力付与部の膜面に対する平行方向の磁歪による応力が小さくなることがない。
【0034】
すなわち、安定して上記2番目の磁気記録部の垂直磁気異方性を逆磁歪効果により向上させることができるので、上記2番目の磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。さらには、上記磁気記録部と、隣接する上記第一の応力付与部との磁気的な結合が切れるので、上記第一の応力付与部の上記膜面に対する平行方向の磁気異方性に釣られて上記磁気記録部における磁化方向が垂直方向から傾くことを防ぎ、安定に磁気情報を記録できる。
【0035】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記複数の磁気記録部のそれぞれの間に形成され、かつ、上記第一の応力付与部の上部または下部に、上記非磁性部が形成されていることが好ましい。
【0036】
これによれば、上記非磁性部を形成しない場合に比べて、上記第一の応力付与部の厚みを薄くできる。ここで、上述したように、上記第一の応力付与部は、膜面に対する垂直方向と比較して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。このため、上記第一の応力付与部は、膜面に対する平行方向に磁化を持つ方がエネルギー的に安定となる。そして、上記第一の応力付与部の厚みを薄くすることにより、形状磁気異方性により、膜面に対する平行方向の磁気異方性を安定化させることが可能となる。
【0037】
このため、上記2番目の磁気記録部の垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、上記2番目の磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。さらには、非磁性部が形成された箇所では、磁気的な結合が切れるので、上記1番目の磁気記録部と、上記2番目の磁気記録部とに記録された磁気記録情報が、交換結合力によって、互いに転写されることを防止することができる。
【0038】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記磁気記録部、上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部の磁性体はともに、非晶質磁性体であることが好ましい。
【0039】
これによれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録ビット中での意図しない結晶方位の変化等によって、上記磁気記録媒体中の個々の上記磁気記録部や上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部の磁気特性分散を生じることなく、各上記磁気記録部、上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部がそれぞれ同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体を提供するのに好適である。
【0040】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記磁気記録部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0041】
これによれば、希土類金属と3d遷移金属の互いの磁化が反平行に揃うフェリ磁性体となり、室温において、絶対値の大きい正の磁歪定数を有する上記磁気記録部を得ることができる。このため、上記膜面に対する平行方向の応力が、上記磁気記録部に加わった際に発現する垂直磁気異方性エネルギー密度を大きくすることができる。
【0042】
また、上記磁気記録部の合金組成を調整して室温近傍に補償点を設定し、室温で高保磁力を得られるので、記録情報を安定に保持できるとともに、キュリー温度を比較的低く設定できるため、熱アシスト磁気記録に好適な上記磁気記録部を備えた磁気記録媒体を提供できる。また、Tb、Fe、Coの合金は高い垂直磁気異方性エネルギーを得られるので、本願の上記磁気記録媒体の上記磁気記録部として用いるのに好適である。このとき、上記磁気記録部に垂直磁気異方性の強いTb、Fe、Coの合金を用いることで、上記磁気記録部の膜面に対する垂直方向の磁化が、上記第一応力付与部および上記第二の応力付与部の膜面に対する平行方向の磁気異方性の影響を受けて傾くことを防ぐことができる。
【0043】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記第一の応力付与部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0044】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、正の磁歪定数を有する上記第一の応力付与部を得ることができる。また、上記第一の応力付与部の合金組成を調整することにより、膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に強くし、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定することができる。
【0045】
これにより、上記第一の応力付与部に膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、上記第一の応力付与部に隣接した上記磁気記録部に膜面に対する平行方向の圧縮応力が加わることで、上記第一の応力付与部に隣接した上記磁気記録部の垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、上記隣接する磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。
【0046】
本発明の磁気記録媒体においては、さらに、上記第二の応力付与部の磁性体はSmFeからなることが好ましい。
【0047】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、負の磁歪定数を有する上記第二の応力付与部を得ることができる。また、上記第二の応力付与部の合金組成を調整することにより、膜面に対する平行方向の磁気異方性を垂直方向に比べて相対的に強くし、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定することができる。
【0048】
これにより、上記第二の応力付与部に、膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、上記第二の応力付与部に隣接した上記磁気記録部に膜面に対する平行方向の圧縮応力が加わることで、上記第二の応力付与部に隣接した上記磁気記録部の垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、上記隣接する磁気記録部に対する誤記録を防止することができる。
【0049】
本発明の磁気記録方法においては、上記磁気記録媒体の一部を局所加熱しながら外部磁界を印加することで磁気情報を記録することが好ましい。
【0050】
これによれば、磁気情報を記録する上記1番目の磁気記録部を中心部として、上記磁気記録媒体上に上記中心部を高温とした熱分布が発生することになる。これにより、上記1番目の磁気記録部の周囲に隣接する上記1番目の第一の応力付与部中において、上記1番目の磁気記録部と隣接する境界面付近では、高温に昇温されるので、磁性が減衰し、磁歪の発生が抑えられる。
【0051】
一方、上記2番目の磁気記録部と上記1番目の第一の応力付与部との境界面付近では、熱分布により昇温される温度が小さい。このため、高温である上記中心部と接する上記1番目の第一の応力付与部の境界面付近に比べて、磁性が失われる量が小さいので、磁歪を発生させることができる。これにより、局所加熱を行わない場合に比べて、上記1番目の磁気記録部と上記2番目の磁気記録部とのそれぞれに加わる応力の差をより大きくできることにより、上記2番目の磁気記録部に対する誤記録を防止する効果をさらに大きくできる。
【発明の効果】
【0052】
以上のように、本発明に係る磁気記録媒体は、基板上に、磁気が印加される磁気層を備えた磁気記録媒体において、上記磁気層は、上記磁気層の膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部と、上記磁気層の膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部とを備え、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、上記複数の磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが交互に配置されるように形成されており、上記磁気記録部および上記第一の応力付与部の磁歪定数が正である。
【0053】
従って、高密度の磁気情報を記録することができ、磁気情報の誤記録が防止できる磁気記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1から図9(a)(b)に基づいて説明すると以下の通りである。
【0055】
まず、図1、図2を用い、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体1の構成について説明する。
【0056】
図2は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体1の構成を表す平面図である。図1は、図2に示すA−A’線矢視断面図である。
【0057】
図1に示すように、本実施の形態に係る磁気記録媒体1は、基板2上に磁気が印加される磁気層30を備えている。磁気層30は、磁気層30の膜面に対する平行方向と比較して、磁気層30の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される磁気記録部3と、磁気層30の膜面に対する垂直方向と比較して、磁気層30の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部4とを備えている。そして、少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、複数の磁気記録部3と、第一の応力付与部4とが交互に配置されるように形成されている。また、磁気記録部3と第一の応力付与部4との磁歪定数は正である。なお、磁気記録部3と、第一の応力付与部4との材質については後述する。また、磁気記録部3に対して磁気情報を記録することを磁気記録と称する。
【0058】
ここで、複数の磁気記録部3のそれぞれに磁気情報が記録される方向、すなわち磁気記録方向は、図1の矢印に示すように、紙面左側方向である。
【0059】
図1に示すように、複数の磁気記録部3のそれぞれは、基板2の表面に沿って並置された領域として形成されている。そして、磁気記録部3は、図2に示すように、平面形状は、互いに分離されいるとともに閉じた領域として形成されている。また、図1、2に示すように、本実施の形態においては、磁気記録部3は、円柱形状となるように形成されている。そして、磁気記録部3の膜面に対する垂直方向の側面は、第1の応力付与部4に囲まれている。この複数の磁気記録部3のそれぞれが、磁気情報の記録の際の記録磁区である。これにより、ある磁気記録部3に磁気情報が記録されたとしても、隣接する磁気記録部3に記録された磁気情報へ影響を及ぼすことがない。
【0060】
また、図1に示すように、磁気層30と基板2との層間には軟磁性層5が形成されている。すなわち、基板2上に軟磁性層5が形成され、軟磁性層5上に、磁気記録部3と、第一の応力付与部4とが膜面と平行な方向に繰り返し交互に形成されている。そして、磁気記録媒体1は、磁気記録部3と第一の応力付与部4とに積層して、保護層6、および、必要に応じて潤滑層7が形成されるパターンドメディアである。
【0061】
基板2には、金属基板や酸化物基板、窒化物基板、樹脂製基板等を用いることができ、例えば、SiO2基板やガラス基板、ポリカーボネート基板を用いることができる。また、半導体基板を用いても良い。
【0062】
磁気記録部3は、膜面に対する平行よりも相対的に垂直方向に強い磁化容易軸を有し、かつ、磁歪定数が正である磁性材料からなる。
【0063】
第一の応力付与部4は、膜面に対する垂直方向よりも相対的に平行方向に強い磁化容易軸を有し、かつ、磁歪定数が正である磁性材料からなる。
【0064】
また、磁気記録部3と第一の応力付与部4との磁性体は非晶質磁性体であることが望ましい。これによれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録磁区中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体1中の個々の磁気記録部3や第一の応力付与部4の磁気特性分散を生じることなく、各磁気記録部3、第一の応力付与部4がそれぞれ同等の磁気特性を示すことから、安定な性能の磁気記録媒体1を提供するのに好適である。
【0065】
ここで、第一の応力付与部4として、膜面に対する垂直方向よりも相対的に平行方向(適宜、面内方向またはトラック長さ方向と称する)に強い磁化容易軸を有する材料を用いることによって、磁気記録部3と、別の隣接する磁気記録部3との隙間を磁性体で埋めてあっても、ある一つの磁気記録部3に記録された垂直磁気情報が交換結合力によって隣接する別の磁気記録部3に転写されることを防ぐことができるため、磁気記録媒体1をパターンドメディアとして形成することができる。
【0066】
軟磁性層5は、磁気記録部3に外部磁界を印加して磁気記録を行う際に、膜面に垂直な方向の磁界を増強して磁気記録を補助するための層であり、SUL(soft under layer)とも称される層である。さらに、軟磁性層5は、裏打ち層とも称される。軟磁性層5は、例えばNiFe,NiFeTa,CoZrやこれらを主体とする軟磁性体を用いて形成される。軟磁性層5を形成する際には、磁気記録部3および第一の応力付与部4と、軟磁性層5との間に、更に非磁性層が形成されていても構わない。なお、軟磁性層5は、軟磁性層5が無くても磁気記録部3に所望の磁気情報が記録可能な場合には、必ずしも形成される必要は無い。
【0067】
保護層6は、磁気ヘッド等の外部からの物理的な接触から、磁性体から成る磁気記録部3および第一の応力付与部4を保護するための役割と、磁気記録部3および第一の応力付与部4の酸化劣化を防ぐ酸化防止層としての役割とを兼ねる。そして、保護層6は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜やAlN,SiN,CN等の窒化膜等を適用できる。
【0068】
潤滑層7は、磁気ヘッド等の外部からの物理的な接触によって磁気記録媒体1または磁気ヘッドが破損することを防ぐためのものであり、例えば、パーフルオロポリエーテルを骨格とする分子膜を使用することができる。
【0069】
次に、本実施形態の磁気記録媒体1が、磁気記録がなされる際に、隣接する磁区に対して誤記録を防ぐことができる理由について図3を用いて説明する。
【0070】
図3は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1と、磁気記録ヘッド40とを示し、磁気記録を行う際の磁界の様子を表す説明図である。なお、図3に示した磁気記録媒体1の概略図には、保護層6と潤滑層7を省略している。
【0071】
ここで、本実施の形態において、磁気記録媒体1に磁気記録を行うための磁気記録ヘッド40として、図3に示すような垂直磁気記録ヘッドを用いるものとする。
【0072】
磁気記録ヘッド40は、主磁極41とトレーリングシールド42とを備えている単磁極ヘッドである。また、図示はしないが、磁気記録ヘッド40は、磁気記録部3に記録を行う際に電流を流すためのコイルを含む。なお、以下の説明では、このような主磁極とトレーリングシールドとを含む垂直磁気ヘッドのことをトレーリングシールド型単磁極ヘッドと称する場合がある。
【0073】
主磁極41とトレーリングシールド42とは、互いに隣接して設けられている。そして、主磁極41から磁気記録部3および応力付与部4に磁場が印加される。そして、この印加された磁場の一部の磁束がトレーリングシールド42に吸収される。
【0074】
ここで、図3において、磁気記録方向はトレーリングシールド42が設けられている側から主磁極41が設けられている側への方向である。すなわち紙面左向き方向である。そして、この磁気記録は、磁気記録媒体1が磁気記録ヘッド40に対して相対的に移動することにより記録されていく。磁気記録媒体1が磁気記録ヘッド40に対して相対的に移動する方向(媒体移動方向)は主磁極41が設けられている側からトレーリングシールド42が設けられている側への方向である。すなわち、図3に示す矢印の方向であり、紙面右方向である。
【0075】
主磁極41から磁場を印加して、磁気記録部3に、膜面に対する垂直方向の磁気情報(垂直磁気情報)を記録する際、主磁極41付近の磁気記録部3では強い垂直磁場が印加される。
【0076】
図3に示す磁気記録部3a、磁気記録部3bはともに、磁気情報が記録されるトラックである。そして、主磁極41の磁場印加面に一番近くに位置し、磁気記録を行いたい磁気記録部3を磁気記録部3aとする。また、応力付与部4を介して配置された次の磁気記録部3であって、既に磁気情報が記録された磁気記録部3を磁気記録部3bとする。すなわち、磁気記録部3bは、応力付与部4を介して磁気記録部3aの隣に配置され、トレーリングシールド42が形成されている側に位置する磁気記録部3である。
【0077】
また、応力付与部4のうち、磁気記録部3aと、磁気記録部3bとに挟まれて配置されている応力付与部4を応力付与部4aとする。すなわち、第一の応力付与部4aは、主磁極41の磁場印加面に一番近くに位置する第一の応力付与部4である。そして、磁気記録部3bを介して配置された次の第一の応力付与部4であって、磁気記録部3bと隣接して配置され、第一の応力付与部4aとともに磁気記録部3bを挟む位置に形成されている第一の応力付与部4を第一の応力付与部4bとする。すなわち、応力付与部4bは、磁気記録部3bを介して応力付与部4aと隣に配置され、トレーリングシールド42が形成されている側に位置する応力付与部4である。
【0078】
ここで、トレーリングシールド型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40は、磁界分布を急峻化させ、磁界勾配を増大させるために、トレーリングシールド42と主磁極41とを備えて構成されており、トレーリングシールド42と主磁極41とのギャップ長を小さくしている。そのため、トレーリングシールド型単磁極ヘッドの場合では、トレーリングシールド42と主磁極41とのギャップ長が小さいので、磁束の一部が主磁極41から裏打ち層である軟磁性層5に届かずに、トレーリングシールド42に吸収されることが多くなる。
【0079】
そのため、トレーリングシールド型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40からは、膜面に対する垂直方向に、主磁極41付近の磁気記録部3aに磁場が印加されるだけではなく、膜面に対する平行方向の磁場成分を含んだ磁場が、主磁極41よりトレーリングシールド42の方向にずれた付近の磁気記録部3bに印加される。トレーリングシールド型単磁極ヘッドにおいて、面内方向に磁場成分が生じることは、非特許文献1にも記載されており、P.58、4行目には記録磁界が垂直方向から面内方向に傾くと記載されている。このようなトレーリングシールド型単磁極ヘッドからの磁束の様子を、磁気記録媒体1の膜面に対する垂直方向の断面について図3に模式的に示している。
【0080】
図3の主磁極41からの磁束が示すように、磁気記録部3aには、膜面に対する垂直方向の磁場成分が強い磁気である垂直磁気が印加される。これにより、磁気記録部3aに磁気記録がなされる。なお、磁気記録部3aに情報を磁気記録するために印加される上記垂直磁気は、情報が磁気記録される程度に、膜面に対して垂直方向の磁場成分が強い磁気のことであり、膜面に対する平行方向の磁場成分を含んでいてもよい。
【0081】
そして、磁気記録部3aより磁気記録方向、即ちトレーリングシールド42が位置する方向にずれた位置にある磁気記録部3bに対しては、磁気記録部3aと比較して、膜面に対する平行方向の磁場成分を多く含む磁界が印加される。また、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bに対しても、図3での主磁極41からの磁束が示すような、膜面に対する平行方向の成分を含んだ磁界が印加される。なお、このとき、磁気記録を行いたい磁気記録部3aと磁気記録部3bとの間に挟まれた第一の応力付与部4aについて、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界面付近の方が膜面に対する平行方向成分の漏洩磁界が強く印加される。そして、第一の応力付与部4a、4bは、相対的に、膜面に対する垂直方向よりも、平行方向に強い磁気異方性を有し、正の磁歪定数を有するので、膜面に対する平行方向の磁場成分を多く含む漏洩磁界が印加されることで膜面に対する平行方向に伸長しようとする磁歪が発生する。
【0082】
ここで、磁歪の発生について説明する。磁性体に対して外部磁界が加わっていない状態では、磁性体内部の磁化は、磁性体全体としての磁化方向を中心として、ある程度、分散している(磁性体の内部に歪みの分散を有する状態)。
【0083】
これに対して、外部から磁界を加えることで磁性体の内部の磁化方向が揃って(歪みの分散の緩和)磁性体全体として外形が変形する。
【0084】
つまり、膜面に対する平行な方向の磁気異方性を有する第一の応力付与部4a、4bに対して、膜面に対する平行な方向の成分を有した磁場が印加されることで、膜面に対する平行な方向に磁化が伸び、正の磁歪定数を有する第一の応力付与部4a、4bにおける材料の磁化がそれぞれ揃って大きくなることで、磁化方向に伸張の歪みが発生する。一方、負の磁歪定数を有する材料の場合は、磁化方向に縮小の歪みが発生する。
【0085】
また、特に、希土類元素は上記の歪が大きいため、このような元素を含む強磁性化合物は大きな磁歪を発現し、これに伴って磁気異方性が大きく変化する。
【0086】
上述した通り、第一の応力付与部4aについて、磁気記録部3aとの境界面付近よりもトレーリングシールド42が形成されている側に隣接する磁気記録部3bとの境界面付近の方が、膜面に対する平行方向成分の磁場成分を多く含む漏洩磁界が強く印加される。このため、第一の応力付与部4aでは、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界面付近の方が膜面に対する平行方向の磁歪が大きく発生する。
【0087】
これにより、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向、即ちトラック長さ方向の前方に位置する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bとの境界面で、矢印で示すように膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生する。そして、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの、膜面に対する垂直方向の磁気異方性(垂直磁気異方性)が逆磁歪効果により向上する。
【0088】
この逆磁歪効果の発現を詳細に述べると、膜面に対する平行方向の応力(面内応力)σが、逆磁歪効果によって磁性体の垂直磁気異方性を向上させるとき、誘発された垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuは次式(1)で表すことができる。
ΔKu=−3/2λσ・・・式(1)
ここで、λ、σを以下に示す。
λ:磁性体の磁歪定数
σ:磁性体にかかる面内応力 (圧縮応力:σ<0、伸長応力:σ>0)
本実施の形態の磁気記録媒体1では、上記磁歪定数λは磁気記録部3の正の磁歪定数であり、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向、すなわち、トラック長さ方向の前方に位置する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bそれぞれとの境界面で、矢印で示すように膜面に対する平行方向の圧縮応力σ(<0)が発生する。そしてこの場合、式(1)が示すように、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuが向上する。
【0089】
このように、磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuが向上することにより、磁気記録部3bに漏洩磁界が印加されたとしても、磁気記録部3bに記録されている磁気情報へ影響がおよぶことを防止することができる。
【0090】
なお、本実施の形態の磁気記録媒体1は、磁気記録部3の磁性体はGd、Ho、Tb、Dy、から選択される希土類金属とFe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0091】
これによれば、希土類金属と3d遷移金属の互いの磁化が反平行に揃うフェリ磁性体となり、室温において、絶対値の大きい正の磁歪定数を有する磁気記録部3を得ることができる。そのため、面内応力が磁気記録部3に加わった際に発現する垂直磁気異方性エネルギー密度の変化量を大きくすることができる。
【0092】
また、磁気記録部3の合金組成を調整して室温近傍に補償点を設定し、室温で高保磁力を得られるので、記録情報を安定に保持できるとともに、キュリー温度を比較的低く設定できるため、熱アシスト磁気記録に好適な磁気記録部3を備えた磁気記録媒体1を提供できる。さらに、Tb、Fe、Coの合金は高い垂直磁気異方性エネルギーを得られるので、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の磁気記録部3として用いるのに好適である。このとき、磁気記録部3に垂直磁気異方性の強いTb、Fe、Coの合金を用いることで、磁気記録部3の磁化が第一の応力付与部4による膜面に対する平行方向の磁気異方性の影響を受けて、膜面に対する垂直方向から傾くことを防ぐことができる。
【0093】
さらに、本実施の形態の磁気記録媒体1は、第一の応力付与部4の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属とFe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることが好ましい。
【0094】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、正の磁歪定数を有する第一の応力付与部4を得ることができる。また、第一の応力付与部4の合金組成を調整して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に強くし、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく設定し、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定する。これにより、第一の応力付与部4に膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、第一の応力付与部4は、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、第一の応力付与部4に隣接した磁気記録部3bに膜面に対する平行方向の圧縮応力を加える。このため、第一の応力付与部4に隣接した磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上する。
【0095】
また、第一の応力付与部4の磁性材料として、例えば、TbFe、(TbDy)Feラーベス相ターフェノール合金、TbHoFeなどを用いることができる。この中で、Tb、Feの薄膜合金は正の磁歪定数が大きく、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の第一の応力付与部4として用いるのに好適である。TbFeの薄膜組成は、Tb量が45から50at%となるように形成することが望ましい。これは、非特許文献3に記載されているように、Tb量が20〜40%程度では垂直磁気異方性を有することになり、本実施の形態に係る第一の応力付与部4には適さないからである。また、Tb量が50%以上になると飽和磁歪の値が急減するので、第一の応力付与部4として用いるTbFe組成は、Tb量が45から50%となるように形成することが望ましい。
【0096】
さらに、希土類−遷移金属の合金からなる磁性体においては、逆磁歪効果により垂直磁気異方性エネルギー密度が向上すると、それに伴い保磁力が向上することが一般的に知られている。本実施の形態に係る磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度の向上に伴い、膜面に対する垂直方向に磁気記録部3bに対して磁場を印加した際における磁気記録部3bの保磁力Hcが向上するので、磁気記録部3bに対する垂直磁気記録の誤った記録を防止することが可能となる。
【0097】
次に、本実施形態に係る磁気記録媒体1の製造方法を、図4(a)(b)〜図6(a)(b)を用いて示せば以下の通りである。
【0098】
図4(a)は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の製造過程を表し、基板2上に軟磁性層5、第一の応力付与部4、およびレジスト8が積層されている断面図を表し、図4(b)は、図4(a)におけるレジスト8がパターニングされた場合の断面図を表す。
【0099】
図5(a)は、図4(a)における磁気記録媒体1の第一の応力付与部4がパターニングされた場合を表す断面図であり、図5(b)は、図5(a)において磁気記録部3を形成した場合の断面図を表す。
【0100】
図6(a)は、図5(b)に示す磁気記録媒体1のレジスト8を取り除いた場合の断面図を表し、図6(b)は図6(a)の磁気記録媒体1に保護層6と、潤滑層7とを形成した場合の断面図を表す。
【0101】
まず、図4(a)に示すように、基板2上に、例えば膜厚100nmから400nm程度からなる軟磁性層5と、膜厚10nmから100nm程度からなる第一の応力付与部4に積層して、膜厚100nmから400nm程度のレジスト8の膜を形成する。この後、電子線リソグラフィや光リソグラフィを用いて、図2で示した磁気記録部3と第一の応力付与部4に相当する微細パターンを露光する。そして、その後、露光されたレジスト8を取り除く現像を行い、図4(b)に示すように、第一の応力付与部4上にレジスト8の島を形成する。
【0102】
次に、図5(a)に示すように、レジスト8の成膜過程で作製した第一の応力付与部4に相当する箇所の微細パターンをマスクとして、例えばRIE(Reactive Ion Etching)を用いて、第一の応力付与部4を加工し、凹状の溝を形成する。この際、第一の応力付与部4とレジスト8のエッチングレートの違いにより、第一の応力付与部4上にレジスト8が残っている部分は加工されず、第一の応力付与部4上にレジスト8が残っていない部分がエッチングされる。上記RIEを行う際、用いるガスとしては、第一の応力付与部4を構成する磁性体を高レートでエッチング可能なメタノールガスやCOを含むガスが望ましい。ただし、上記ガス種に限るものではなく、第一の応力付与部4がエッチングできるものであれば他のガスを用いても構わない。また、RIEの代わりに、Arイオンミリングを用いてもよい。このとき、軟磁性層5の最表面が現れる深さまでエッチングを行う。
【0103】
次に、図5(b)に示すように、磁気記録部3を軟磁性層5上に形成する。この際、磁気記録部3の膜厚を第一の応力付与部4と同じ膜厚にする。なお、図示はしないが、磁気記録部3を形成後に、磁気記録部3の酸化を防止するための非磁性膜を、例えば膜厚1nmから10nm程度で形成することが望ましい。
【0104】
次に、図6(a)に示すように、第一の応力付与部4上に残るレジスト8を、剥離液を用いて取り除くことで、同時にレジスト上に積層している磁気記録部3も取り除かれる。これにより、磁気記録部3および第一の応力付与部4の表面に凹凸の無い形状を得ることができる。
【0105】
最後に、図6(b)に示すように、磁気記録部3と第一の応力付与部4との酸化防止のための保護層6と、磁気記録ヘッド40の安定浮上のための潤滑層7を形成する。
以上の工程により、本実施形態の磁気記録媒体1が完成する。
【0106】
(実施例1)
次に、第1の実施形態に示した磁気記録媒体1について作製した実施例を以下に示す。
【0107】
まず、SiO2からなる基板2上にNiFeからなる軟磁性層5を厚さ150nmとなるようにスパッタ成膜し、軟磁性層5上にTb46Fe54からなる第一の応力付与部4を80nmとなるようにスパッタ成膜する。ここで、第一の応力付与部4として用いるTb46Fe54の磁気特性は、相対的に、膜面に対する垂直方向よりも平行方向に強い磁気異方性を有し、膜面に対する平行方向に磁場を印加した際の保磁力は100Oe程度であった。この際、スパッタ成膜に使用したスパッタ装置は、ターゲットと基板ホルダとが対向し基板ホルダが自公転する方式のスパッタ装置を用いた。さらに、電子線用のレジスト8を厚さ300nm塗布した後、電子線リソグラフィによりレジスト8を露光、現像した。
【0108】
続いて、RIE(Reactive Ion Etching)を用いて、CF4ガスにて第一の応力付与部4を加工し、図5(a)に示すように第一の応力付与部4およびレジスト8の凹凸形状を形成した。
【0109】
次に、TbFeCoからなる磁気記録部3を、レジスト8上および第一の応力付与部4・4間であり軟磁性層5上に膜厚80nmでスパッタ成膜し(図5(b))、レジスト8を剥離した(図6(a))。ここで、磁気記録部3として用いるTbFeCoは補償温度が室温以下にあるようなTMリッチ組成で作製した。磁気記録部3の磁気特性は、相対的に、膜面に対する平行方向よりも垂直方向に強い磁気異方性を有し、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際の室温における保磁力Hcは6kOeであり、キュリー温度Tcは290℃であった。また、Kuは7.0×106 [erg/cm3]であった。
【0110】
最後に、保護層6としてAlNを2nm、DLC(Diamond like Carbon)を2nmそれぞれ成膜した後、潤滑層7を塗布し磁気記録媒体1を完成した(図6(b))。このとき、磁気記録部3の径は60nm、第一の応力付与部4の最小幅は40nmであった。
【0111】
ここで、本実施例の磁気記録媒体1の磁化情報記録時における、逆磁歪効果によって誘起される磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuを、式(1)を用いて計算した。なお、式(1)における面内応力σは次式(2)で表すことができる。
σ=Eε・・・式(2)
ここで、E、εを以下に示す。
E:ヤング率
ε:歪み
なお、計算の際には、磁気記録部3の径を60nm、第一の応力付与部4の最小幅を40nmとした。また、特許文献1より、磁気記録部3に用いたTbFeCoの磁歪定数を1000×10−6とし、ヤング率Eを7×1011[dyn/cm2]とした。さらに、非特許文献3の図1より、第一の応力付与部4に用いたTbFeの磁歪定数を200×10−6として計算を行った。
【0112】
上記各定数を式(1)に当てはめてΔKuを算出したところ、ΔKu=2.8×105[erg/cm3]となった。このことは、膜面に対する平行方向の磁界が磁気記録媒体1に印加されたときに、第一の応力付与部4によって磁気記録部3に応力が働き、磁気記録部3の垂直磁気異方性エネルギー密度が2.8×105[erg/cm3]程度大きくなることを示している。
【0113】
次に、磁気記録媒体1と比較例1とを用いて、それぞれに同一のトレーリング型単磁極ヘッドである図3に示した磁気記録ヘッド40を用いて磁気記録を行った後、MFMを用いて磁区の磁化反転の観察を行った。
【0114】
図7に示すのは、比較例である磁気記録媒体21の構成を表す断面図である。磁気記録媒体21は、図7に示すように、磁気記録媒体1の第一の応力付与部4に代えて、非磁性体からなる非磁性部9が形成されている。
【0115】
ここで、磁気記録を行う磁気記録ヘッド40のサイズは、主磁極41のトラック長さ方向の幅が100nm、主磁極41のトラック幅方向幅が100nm、主磁極41とトレーリングシールド42とのギャップ長が50nmのものを用いた。本実施例では記録を行う際に磁気記録ヘッド40のコイルに流す電流は、45mAとした。
【0116】
次に、図8(a)(b)を用い、本実施例に係る磁気記録媒体1と比較例1に係る磁気記録媒体21に対しての磁気記録の方法を説明する。
【0117】
図8(a)は、本実施例に係る磁気記録媒体1と比較例に係る磁気記録媒体21との概略図を示し、磁気記録部3の磁化の向きが同一方向である場合を表す断面図であり、図8(b)は、図8(a)における磁気記録部3の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。なお、図8の磁気記録媒体1と磁気記録媒体21とでは、基板2、軟磁性層5、保護層6、潤滑層7を省略している。また、媒体移動方向は矢印が示すとおり、紙面右向きである。磁気記録部3、3d、3c中の矢印は記録された磁区の磁化方向を示している。
【0118】
まず、図8(a)で示すように、実施例1の磁気記録媒体1および比較例1の磁気記録媒体21の、全ての磁気記録部3の磁化の向きを同一方向上向きにした。次に、図8(b)に示すように、実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とのそれぞれにおいて、一つの磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した。磁場印加後、実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とのそれぞれの、磁場を印加した磁気記録部3dをMFM観察したところ、実施例1の磁気記録媒体1では磁気記録部3dに対応していると考えられる60nm径の1つの磁気記録部3が磁化反転している様子が観察された。一方、比較例1の磁気記録媒体21では、磁気記録部3dと磁気記録部3cに対応していると考えられる60nm径の2つの磁気記録部3が磁化反転している様子が観察された。
【0119】
このように、実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とにおいて、同様の記録方法を用いて磁気記録を行っても、異なった磁化反転の様子が観察される理由を、図8(a)(b)を用いて説明する。
【0120】
実施例1の磁気記録媒体1と比較例1の磁気記録媒体21とにおいて、磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した場合を考える。この際、図8(a)に示すように、実施例1では磁気記録部3dのみ下向きに磁気記録がなされる。一方、磁気記録媒体21では、磁気記録部3dに下向きの磁気記録がなされるとともに、磁気記録ヘッド40からの漏洩磁界により、磁気記録部3dの磁気記録方向、即ちトレーリングシールド42の方向にある隣の磁気記録部3cに対しても磁気記録がなされていたと考えられる。
【0121】
すなわち、本実施例の磁気記録媒体1は、磁場を印加して磁気記録部3eに、膜面に対する垂直方向の磁気(垂直磁気情報)を記録する際、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が第一の応力付与部4に印加される。そして、磁気記録媒体1の第一の応力付与部4で、膜面に対する平行方向の磁歪が発生し、磁気記録を行いたい磁気記録部3dよりトラック長さ方向の前方に位置する磁気記録部3cの膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生することになる。これにより、第一の応力付与部4に挟まれた磁気記録部3cの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3cに対する誤記録を防止できた。
【0122】
これに対し、比較例1の磁気記録媒体21は、磁気記録部3dと隣接する磁気記録部3cの垂直磁気異方性を向上させるための第一の応力付与部4が備わっていないので、磁気記録部3cの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上することが無く、磁気記録部3cに対する誤記録を防止することができなかった。
【0123】
また、本実施形態に係る磁気記録媒体1は、図9(a)(b)に示す構成であってもよい。図9(a)は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の変形例を表し、磁気記録部3と第一の応力付与部4との間に非磁性部9が形成されている磁気記録媒体50の構成を表す断面図であり、図9(b)は、本実施の形態に係る磁気記録媒体1の変形例を表し、複数の磁気記録部3の隙間を占め、かつ、第一の応力付与部4の膜厚方向に、非磁性部9が形成されている磁気記録媒体55の構成を表す断面図である。
【0124】
図9(a)に示すように、磁気記録媒体50は、磁気記録部3と第一の応力付与部4との間に非磁性体からなる非磁性部9が形成されている。
【0125】
これによれば、磁気記録部3と隣接する第一の応力付与部4の磁気的な結合が切れるので、磁気記録部3の垂直磁化により第一の応力付与部4における平行方向の磁化成分が弱まることはない。また、磁場印加時における第一の応力付与部4の膜面に対する平行方向の磁歪が小さくなることがない。すなわち、安定して磁気記録部3bの垂直磁気異方性を逆磁歪効果により向上させることができるので、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。さらには、磁気記録部3と隣接する第一の応力付与部4の磁気的な結合が切れるので、第一の応力付与部4の面内方向の磁気異方性に釣られて磁気記録部3における磁化方向が垂直方向から傾くことを防ぎ、記録磁区を安定に保持できる。すなわち、安定に磁気記録を行うことができる。
【0126】
また、本実施形態において、図9(b)に示すように、磁気記録媒体55の第一の応力付与部4は、磁気記録部3と比較して、膜面に対する垂直方向の長さ(高さ)が短く形成されている。そして、第一の応力付与部4の上には非磁性部9が形成されている。第一の応力付与部4および非磁性部9を合わせた高さと、磁気記録部3の高さとが同じになるように形成されている。すなわち、非磁性部9は、複数の磁気記録部3の隙間を占め、かつ、第一の応力付与部4の膜厚方向に形成されている。
【0127】
これによれば、図1に示した非磁性部9を形成しない磁気記録媒体1に比べて、第一の応力付与部4の厚みを薄くできる。ここで、上述したように、第一の応力付与部4は、膜面に対する垂直方向と比較して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。このため、第一の応力付与部4は、膜面に対する平行方向に磁化を持つ方がエネルギー的に安定となる。そして、第一の応力付与部4の厚みを薄くすることにより、形状磁気異方性により、膜面に対する平行方向の磁気異方性を安定化させることが可能となる。
【0128】
このため、第一の応力付与部4に挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。さらには、非磁性部9が形成された箇所では、磁気記録部3と、磁気記録部3と隣接する別の磁気記録部3の磁気的な結合が切れるので、ある一つの磁気記録部3に記録された垂直磁気情報が交換結合力によって、隣接する磁気記録部3に転写されることを防げる。
【0129】
なお、図9(b)では第一の応力付与部4と非磁性部9が、基板2側から見て第一の応力付与部4、非磁性部9の順に形成されているが、第一の応力付与部4と非磁性部9が入れ替わって形成されていても構わない。
【0130】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の第2の実施の形態について図10〜図13を用い説明する。なお、第1実施形態と同一の部材については同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0131】
図10は、本実施の形態に係る磁気記録媒体11の構成の断面図である。
【0132】
実施の形態1と実施の形態2とでは、磁気記録部3の下層に、磁歪定数が負である第二の応力付与部10を設けたことが異なる。
【0133】
本発明の第2の実施形態に係る磁気記録媒体11は、図10に示すように、複数の磁気記録部3のそれぞれについて、磁気記録部3の膜厚方向には、第二の応力付与部10が形成されている。ここで、磁気記録部3の膜厚方向に形成される第二の応力付与部10は、磁気記録部3の膜厚内に形成されていればよい。すなわち、第二の応力付与部10は、磁気記録部3の下部(基板2が設けられている側の膜面部分)に形成されていてもよく、また、磁気記録部3の上部(基板2が設けられている側の膜面と対向する側の膜面部分)に形成されていてもよく、さらに、中層部(下部と上部との間の部分)に形成されていてもよい。本実施の形態においては、第二の応力付与部10は、磁気記録部3内の下部に形成されている。すなわち、第二の応力付与部10は、磁気記録部3と軟磁性層5との間の層に形成されている。そして、磁気記録部3および軟磁性層5の高さ方向の厚みと、第一の応力付与部4の高さ方向の厚みとは同じとなるように形成されている。また、第2の応力付与部は、膜面に対する垂直方向の側面を第1の応力付与部に囲まれている。
【0134】
なお、磁気記録部3aの下層に形成されている第二の応力付与部10を第二の応力付与部10aとする。また、磁気記録部3bの下層に形成されている第二の応力付与部10を第二の応力付与部10bとする。
【0135】
第二の応力付与部10は、膜面に対する垂直方向よりも、相対的に平行方向に強い磁化容易軸を有し、かつ、磁歪定数が負である磁性材料からなる。なお、第二の応力付与部10の磁性体は、非晶質磁性体であることが望ましい。これによれば、結晶質の金属材料を磁性体に用いる場合に比べて、格子欠損や記録磁区中での意図しない結晶方位の変化等によって、磁気記録媒体11中の個々の第二の応力付与部10の磁気特性の分散を生じることがない。このため、各第二の応力付与部10のそれぞれが同等の磁気特性を示すことになり、安定な性能の磁気記録媒体11を提供するのに好適である。なお、図10では、基板2側から見て、第二の応力付与部10上に磁気記録部3が形成された順となっているが、第二の応力付与部10と磁気記録部3との積層順が入れ替わって形成されていても構わない。
【0136】
ここで、本実施の形態の磁気記録媒体11に磁気記録が行われる際に、隣接する磁区に対して誤記録を防ぐことができる理由について図11を用いて説明する。
【0137】
図11は、本実施の形態に係る磁気記録媒体11と、磁気記録ヘッド40とを示し、磁気情報を記録する際の磁界の様子を表す説明図である。なお、図11に示した磁気記録媒体11の概略図には、保護層6と潤滑層7を省略している。
【0138】
図11に示すように、本実施の形態における磁気記録媒体11は、基板2上に、磁気情報が記録される磁気層31を備えた磁気記録媒体11において、磁気層31は、膜面に対する垂直方向の磁気異方性が、面内方向に比べて相対的に大きい磁性体からなる複数の磁気記録部3と、磁気記録部3の隙間を占める膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部4とから形成されている。そして、磁気記録部3は互いに分離されていると共に、膜面に対して平行方向の断面は、閉じた領域であり、かつ基板2の表面に沿って並置された領域として形成されている。さらには、磁気記録部3と第一の応力付与部4とは磁歪定数が正である。これらの構成については、磁気記録媒体1と同様である。
【0139】
さらに、磁気記録媒体11は、第一の応力付与部4に隙間を占められ、かつ、複数の磁気記録部3の膜厚方向に磁歪定数が負である第二の応力付与部10が形成されている構成である。第二の応力付与部10は、磁気記録部3の下部に形成されている。
【0140】
ここで、磁気記録媒体11に情報を記録する磁気記録ヘッドとして、図3に示した磁気記録ヘッド40を用いるものとする。すなわち、本実施の形態においても、磁気記録ヘッド40として、主磁極41とトレーリングシールド42とを設けた垂直磁気記録ヘッドを用いる。図11においても、図3と同様に、垂直磁気記録ヘッドのトレーリングシールド型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40による磁束の様子を、磁気記録媒体11の膜面に対する垂直方向の断面について模式的に示している。
【0141】
図11に示すように、主磁極41から磁場を印加して磁気記録部3に垂直磁気情報を記録する際、主磁極41付近の磁気記録部3aでは強い垂直磁場が印加される。
【0142】
これより、磁気記録部3aよりも主磁極41より媒体移動方向、すなわちトレーリングシールド42の方向にずれた位置にある磁気記録部3bに対しては、垂直方向の磁界だけでなく、図11での主磁極41からの磁束が示すような、膜面に対する平行方向と垂直方向の成分を含んだ磁界が印加される。また、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bと、磁気記録部3bの下層であって膜厚方向に形成されている第二の応力付与部10bに対しては、図11での主磁極41からの磁束が示すような、膜面に対する平行方向の成分を含んだ磁界が印加される。
【0143】
なお、このとき、磁気記録を行いたい磁気記録部3aと磁気記録部3bとの間に挟まれた第一の応力付与部4aについて、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界付近の方が膜面に対する平行方向の成分の漏洩磁界が強く印加される。
【0144】
そして、第一の応力付与部4a、4bは膜面に対する垂直方向に比べて相対的に面内方向に強い磁気異方性を有し、正の磁歪定数を有するので、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が印加されることで、膜面に対する平行方向に伸長しようとする磁歪が発生する。上述した通り、第一の応力付与部4aについては、磁気記録部3aとの境界付近よりも磁気記録部3bとの境界付近の方が膜面に対する平行方向成分の漏洩磁界が強く印加されるので、磁気記録部3aとの境界面付近よりも磁気記録部3bとの境界面付近の方が膜面に対する平行方向の磁歪が大きく発生する。
【0145】
これにより、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bとの界面で、矢印で示すように膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生する。
【0146】
さらに、上述した通り、膜面に対する平行方向の成分を有した漏洩磁界が第一の応力付与部4に印加されると同時に、第二の応力付与部10bにも膜面に対する平行方向の成分を有した漏洩磁界が印加される。
【0147】
上述したように、第二の応力付与部10bは膜面に対する垂直方向に比べて相対的に面内方向に強い磁気異方性を有し、負の磁歪定数を有するので、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が印加されることで、膜面に対する平行方向に収縮しようとする磁歪が発生する。
【0148】
この際、第二の応力付与部10bの膜厚方向に形成している磁気記録部3bは、第二の応力付与部10bと密接に積層しているため、第二の応力付与部10bの磁歪による収縮に引きずられて、矢印で示すような膜面に対する平行方向の圧縮応力が磁気記録部3bに働く。
【0149】
このように、第一の応力付与部4、第二の応力付与部10に膜面に対する平行方向の磁歪が発生する。そして、磁気記録を行いたい磁気記録部3aより媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3bに対して、膜面に対する平行方向の圧縮応力が、実施形態1に係る磁気記録媒体1と比べてさらに強く発生することになる。このため、磁気記録媒体11では磁気記録媒体1より、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果によりさらに向上する。
【0150】
さらに、磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度の向上に伴い、磁気記録部3bの膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力Hcが向上するので、磁気記録部3bに対する垂直磁気記録の誤った記録を防止することが可能となる。
【0151】
なお、本実施の形態の磁気記録媒体11は、第二の応力付与部10の磁性体はSmFeからなることが好ましい。
【0152】
これによれば、室温において、絶対値が大きく、負の磁歪定数を有する第二の応力付与部10を得ることができる。また、第二の応力付与部10の合金組成を調整して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が垂直方向に比べて相対的に強くする。これにより、膜面に対する平行方向の磁場を印加した際における保磁力を小さく、かつ、膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力を大きく設定することになる。
【0153】
このため、第二の応力付与部10bに膜面に対する平行方向成分を有した磁場が印加された際、膜面に対する平行方向の磁歪を発生させて、第二の応力付与部10bに隣接した磁気記録部3bに膜面に対する平行方向の圧縮応力が加わることで、第二の応力付与部10bに隣接した磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。
【0154】
ここで、SmFeの薄膜組成は、Sm量が30から40at%となるように形成することが望ましい。これは、非特許文献3に記載されているように、SmFe薄膜は組成によらず面内磁化膜になるが、Sm量が30〜40at%において磁歪定数の絶対値が最大となるからである。
【0155】
本実施形態の製造方法は、第1実施形態で示した電子線リソグラフィや光リソグラフィを用いた製造方法と同じ製造方法を用いる。異なることは、第1実施形態の磁気記録媒体1の作製工程において、磁気記録部3のみを形成する代わりに、第二の応力付与部10と磁気記録部3とを膜厚方向に形成することだけが異なる。
【0156】
(実施例2)
次に、第2の実施形態に示した磁気記録媒体11について作製した実施例を以下に示す。
【0157】
まず、SiO2からなる基板2上にNiFeからなる軟磁性層5を厚さ150nmとなるようにスパッタ成膜し、軟磁性層5上にTb46Fe54からなる第一の応力付与部4を80nmとなるようにスパッタ成膜する。ここで、第一の応力付与部4に用いるTb46Fe54の磁気特性は実施例1と同様である。さらに、電子線用のレジスト8を厚さ300nmとなるように塗布した後、電子線リソグラフィによりレジスト8を露光、現像した。
【0158】
続いてRIE(Reactive Ion Etching)を用いて、CF4ガスにて第一の応力付与部4を加工し、凹凸形状を形成した。このとき形成した凹凸の形状は、凸部の最小幅が40nm、第一の応力付与部の凹部溝深さが80nm、凹部の径が60nmであった。
【0159】
続いて、Sm40Fe60からなる第二の応力付与部10を20nm、TbFeCoからなる磁気記録部3を膜厚60nmでスパッタ成膜し、レジスト8を剥離した。ここで、第二の応力付与部10として用いるSm40Fe60の磁気特性は、膜面に対する垂直方向よりも相対的に面内方向に強い磁気異方性を有し、面内方向に磁場を印加した際の保磁力は100Oe程度であった。なお、磁気記録部3に用いるTbFeCoの磁気特性については実施例1と同様である。
【0160】
最後に、保護層6としてAlNを2nm、DLC(Diamond like Carbon)を2nmそれぞれ成膜した後、潤滑層7を塗布し磁気記録媒体11を完成した。
【0161】
ここで、実施例1と同様に、本実施例の磁気記録媒体11の磁気情報記録時における、逆磁歪効果によって誘起される磁気記録部3bの垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuを、式(1)を用いて計算する。なお、計算の際には、非特許文献3より第二の応力付与部10に用いるSmFeの磁歪定数を−300×10−6とし、それ以外の値は実施例1と同じとして計算を行った。
【0162】
上記各定数を式(1)に当てはめてΔKuを算出したところ、ΔKu=6.0×105[erg/cm3]となった。このことは、面内磁界が磁気記録媒体11に印加されたときに、第一の応力付与部4と第二の応力付与部10によって磁気記録部3に応力が働き、磁気記録部3の垂直磁気異方性エネルギー密度が6.0×105[erg/cm3]程度大きくなることを示している。
【0163】
また、実施例1の磁気記録媒体1における逆磁歪効果での誘起垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuと比較すると、本実施例の磁気記録媒体11における逆磁歪効果での誘起垂直磁気異方性エネルギー密度ΔKuは約2倍の大きさになる。このため、磁気記録部3bの膜面に対する垂直方向に磁場を印加した際における保磁力Hcが、実施例1の磁気記録媒体1より向上するので、磁気記録部3bに対する垂直磁気情報の誤った記録を防止することが可能となる。
【0164】
次に、実施例1と同様の方法で、実施例2の磁気記録媒体11と、実施例1の磁気記録媒体1を用いて、それぞれ同一のトレーリング型単磁極ヘッドである磁気記録ヘッド40を用いて磁気記録を行った後、MFMを用いて磁区の磁化反転の観察を行った。
【0165】
磁気記録を行う磁気記録ヘッド40のサイズは、実施例1と同様に、主磁極41のトラック長さ方向の幅が100nm、主磁極41のトラック幅方向の幅が100nm、主磁極41とトレーリングシールド42とのギャップ長が50nmのものを用いた。なお、磁気記録を行う際に主磁極41のコイルに流す電流は、実施例1よりも大きい55mAとした。
【0166】
磁気記録の方法を、図12(a)(b)を用いて説明する。
【0167】
図12(a)は、本実施例に係る磁気記録媒体11と、実施例1に係る磁気記録媒体1との概略を示し、磁気記録部3の磁化の向きが同一の方向である場合を表す断面図であり、図12(b)は、図12(a)における磁気記録部3の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。なお、図12(a)(b)では、基板2、軟磁性層5、保護層6、潤滑層7を省略している。また、磁気記録方向は矢印が示すとおり、紙面右向きである。
【0168】
まず、図12(a)で示すように、実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1との、全ての磁気記録部3の磁化の向きを同一方向上向きにした。なお、磁気記録部3中の矢印は記録された磁区の磁化方向を示している。
【0169】
次に、実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1とのそれぞれにおいて、磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した。磁場印加後、磁気記録媒体11と磁気記録媒体1とのそれぞれの、磁場を印加した磁気記録部3dをMFM観察したところ、磁気記録媒体1では磁気記録部3cと隣接する磁気記録部3dに対応すると考えられる径60nmの二つの磁気記録部3が磁化反転している様子が観察された。一方、磁気記録媒体11では、磁気記録部3dに対応していると考えられる60nm径の一つの磁気記録部3のみ磁化反転している様子が観察された。
【0170】
このように、実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1とにおいて、同様の記録方法を用いて記録を行っても、異なった磁化反転の様子が観察される理由を、図12を用いて詳細に説明する。
【0171】
実施例2の磁気記録媒体11と実施例1の磁気記録媒体1とにおいて、磁気記録部3dにのみ下向きのパルス磁場を印加した場合を考える。この際、図12(b)に示すように、磁気記録媒体11では磁気記録部3dのみ下向きに磁気記録がなされる。一方、磁気記録媒体1では、磁気記録部3dに下向きの磁気記録がなされるとともに、磁気記録ヘッド40からの漏洩磁界により、磁気記録部3dの媒体移動方向、すなわちトレーリングシールド42の方向にある隣の磁気記録部3cに対しても磁気記録がなされていたと考えられる。
【0172】
すなわち、本実施例の磁気記録媒体11は、磁場を印加して磁気記録部3に垂直磁気情報を記録する際、膜面に対する平行方向成分を有した漏洩磁界が第一の応力付与部4と第二の応力付与部10に印加される。そして、第一の応力付与部4と第二の応力付与部10とに膜面に対する平行方向の磁歪が発生し、磁気記録を行いたい磁気記録部3dより媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3cの膜面に対する平行方向の圧縮応力が発生することになる。これにより、第一の応力付与部4に挟まれた磁気記録部3cの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3cに対する誤記録を防止できた。
【0173】
これに対し、実施例1の磁気記録媒体1は、磁気記録部3cの垂直磁気異方性は向上するが、本実施例では磁気記録ヘッド40のコイルに流す電流を大きくしたことで、印加磁界の大きさが磁気記録部3cの保磁力を超えたために、誤記録を防止することができなかった。
【0174】
なお、本実施形態に係る磁気記録媒体1は、図13に示す構成であってもよい。図13は、本実施の形態に係る磁気記録媒体11の変形例を表し、第一の応力付与部4の上層に非磁性部9が形成されている磁気記録媒体の構成を表す断面図である。
【0175】
磁気記録媒体60と、磁気記録媒体11とでは、第一の応力付与部4の上層に非磁性部9が形成されている点で異なる。他の点においては、磁気記録媒体60は、磁気記録媒体11と同様の構成であるため説明を省略する。
【0176】
図13に示すように磁気記録媒体60には、複数の磁気記録部3のそれぞれの間に形成され、かつ、第一の応力付与部4内の上部に、非磁性部9が形成されている。すなわち、非磁性部9は、第一の応力付与部4の膜厚方向であって、第一の応力付与部4の上層に非磁性部9が形成されている。そして、第一の応力付与部4および非磁性部9を合わせた高さ方向の厚みと、磁気記録部3および第二の応力付与部10を合わせた高さ方向の厚みとは同じとなるように形成されている。
【0177】
これによれば、非磁性部9を形成しない磁気記録媒体1に比べて、第一の応力付与部4の高さ方向の厚みを薄くできる。ここで、上述したように、第一の応力付与部4は、膜面に対する垂直方向と比較して、膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる。このため、第一の応力付与部4は、膜面に対する平行方向に磁化を持つ方がエネルギー的に安定となる。そして、上記第一の応力付与部の厚みを薄くすることにより、形状磁気異方性により、膜面に対する平行方向の磁気異方性を安定化させることが可能となる。このため、膜面に対する垂直方向の側面を第一の応力付与部4に周囲を囲まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。
【0178】
さらには、非磁性部9が形成された箇所では、磁気記録部3と、磁気記録部3と隣接する別の磁気記録部3(例えば磁気記録部3aおよび隣接する磁気記録部3b)の磁気的な結合が切れるので、ある一つの磁気記録部3に記録された垂直磁気情報が交換結合力によって隣接する磁気記録部3に転写されることを防ぐことができる。
【0179】
なお、本実施形態において、図13に示すように、第一の応力付与部4の膜面に対する垂直方向に非磁性部9が形成され、第一の応力付与部4の膜厚が第二の応力付与部10の膜厚よりも大きい構成であってもよい。
【0180】
これによれば、第二の応力付与部10からの圧縮応力が磁気記録部3bに効果的に加わり、第一の応力付与部4a、4bに挟まれた磁気記録部3bの垂直磁気異方性が逆磁歪効果により向上し、磁気記録部3bに対する誤記録を防止することができる。
【0181】
なお、図13では第一の応力付与部4と非磁性部9とが、基板2側から見て第一の応力付与部4、非磁性部9の順に形成されているが、第一の応力付与部4と非磁性部9とが入れ替わって形成されていても構わない。
【0182】
また、本発明の実施形態1と実施形態2とに関する磁気記録媒体1、11およびその変形例である磁気記録媒体21、50、60のそれぞれは、その一部を局所加熱しながら外部磁界を印加することで磁気情報を記録する、すなわち光(熱)アシスト磁気記録方式に適用してもよい。
【0183】
これによれば、例えば、磁気記録媒体1上に、磁気情報を記録したい磁気記録部3aを中心部とし、この中心部を高温とした熱分布が発生することになる。そして、磁気記録部3aの両隣に隣接する応力付与部4a中の磁気記録部3aに隣接する境界面付近では高温に昇温されるので磁性が減衰し、磁歪の発生が極力抑えられる。一方、磁気記録部3aに隣接する磁気記録部3bと、磁気記録部3bを挟む第一の応力付与部4a、4bそれぞれとの境界面付近では、熱分布により昇温される温度が小さい。このため、高温部の応力付与部4aと磁気記録部3aとの境界面付近に比べて、磁性が失われる量が小さいので、磁歪を発生させることができる。従って、加熱を行わない場合に比べて、磁気記録をしたい磁気記録部3aと、隣接する磁気記録部3bとに加わる応力の差をより大きくできることにより、磁気記録部3bに対する誤記録を防止する効果をさらに大きくできる。
【0184】
なお、本発明の実施形態1、実施形態2においては、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対して媒体移動方向の前方に位置する磁気記録部3bについて誤記録防止の効果を説明したが、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対してトラック幅方向に位置する第一の応力付与部4と、トラック幅方向に位置する隣接磁気記録部の膜厚方向に形成された第二の応力付与部10に対しても、面内方向成分を含んだ漏洩磁界が印加される。このため、磁気記録を行いたい磁気記録部3aに対してトラック幅方向に位置する隣接磁気記録部に対する誤記録についても防止する効果が得られる。
【0185】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明によると、膜面に対する垂直方向の磁気異方性を向上させて磁気情報を記録することができるため、高密度に磁気情報を記録する磁気記録媒体に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の構成を表し、図2に示すA−A’線矢視断面図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の構成を表す平面図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体と、磁気記録ヘッドとを示し、磁気記録を行う際の磁界の様子を表す説明図である。
【図4】図4(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の製造過程を表すものであり、基板上に軟磁性層、第1の応力付与部、およびレジストが積層されている断面図を表し、図4(b)は、図4(a)におけるレジストがパターニングされた場合の断面図を表す。
【図5】図5(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の製造過程を表すものであり、図4(a)における磁性記録媒体の第1の応力浮力がパターニングされた場合を表す断面図であり、図5(b)は、図5(a)において磁気記録部を形成した場合の断面図を表す。
【図6】図6(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の製造過程を表すものであり、図5(b)に示す磁性記録媒体のレジストを取り除いた場合の断面図を表し、図6(b)は図6(a)の磁性記録媒体に保護層と、潤滑層とを形成した場合の断面図を表す。
【図7】図7に示すのは、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の比較例である磁気記録媒体の構成を表す断面図である。
【図8】図8(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体と、図7の比較例の磁気記録媒体との概略図を示し、磁気記録部の磁化の向きが同一方向である場合を表す断面図であり、図8(b)は、図8(a)における磁化記録部の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。
【図9】図9(a)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の変形例を表し、磁気記録部と第1の応力付与部との間に非磁性部が形成されている構成を表す断面図であり、図9(b)は、本発明の実施の一形態に係る磁気記録媒体の変形例を表し、第一の応力付与部の上層に、非磁性部が形成されている構成を表す断面図である。
【図10】図10は、本発明の磁気記録媒体の第2の実施の形態に係る構成を表す断面図である。
【図11】図11は、本発明の第2の実施の形態に係る磁気記録媒体と、磁気記録ヘッドとの断面を示し、情報を記録する際の磁界の様子を表す説明図である。
【図12】図12(a)は、本発明の第2の実施例に係る磁気記録媒体と、第1の実施例に係る磁気記録媒体との概略構成を示し、磁気記録部の磁化の向きが同一の方向である場合を表す断面図であり、図12(b)は、図12(a)における磁化記録部の磁化の向きが異なる場合を表す断面図である。
【図13】図13は、本発明の第2の実施例に係る磁気記録媒体の変形例の構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0188】
1 磁気記録媒体
2 基板
3 磁気記録部
4 第一の応力付与部
5 軟磁性層
6 保護層
7 潤滑層
8 レジスト
9 非磁性部
10 第二の応力付与部
11 磁気記録媒体
21 磁気記録媒体
30 磁気層
31 磁気層
40 磁気記録ヘッド
41 主磁極
42 トレーリングシールド
50 磁気記録媒体
55 磁気記録媒体
60 磁気記録媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、磁気が印加される磁気層を備えた磁気記録媒体において、
上記磁気層は、上記磁気層の膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部と、
上記磁気層の膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部とを備え、
少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、上記複数の磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが交互に配置されるように形成されており、
上記磁気記録部および上記第一の応力付与部の磁歪定数が正であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
上記複数の磁気記録部のそれぞれは、互いに分離されているとともに、上記膜面に対する平行方向の断面は、閉じた領域として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記複数の磁気記録部のそれぞれについて、磁気記録部内の膜厚方向には、第二の応力付与部が形成されており、
上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、磁歪定数が負であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記磁気記録部と上記第一の応力付与部との間に非磁性体からなる非磁性部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
上記複数の磁気記録部のそれぞれの間に形成され、かつ、上記第一の応力付与部内の上部または下部に、上記非磁性部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
上記磁気記録部、上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部の磁性体はともに、非晶質磁性体であることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
上記磁気記録部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
上記第一の応力付与部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
上記第二の応力付与部の磁性体はSmFeからなることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の一部を局所加熱しながら外部磁界を印加することで磁気情報を記録することを特徴とする磁気記録方法。
【請求項1】
基板上に、磁気が印加される磁気層を備えた磁気記録媒体において、
上記磁気層は、上記磁気層の膜面に対する平行方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する垂直方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、上記印加される磁気により情報が記録される複数の磁気記録部と、
上記磁気層の膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなる第一の応力付与部とを備え、
少なくとも、情報が記録されるトラックに沿って、上記複数の磁気記録部と、上記第一の応力付与部とが交互に配置されるように形成されており、
上記磁気記録部および上記第一の応力付与部の磁歪定数が正であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
上記複数の磁気記録部のそれぞれは、互いに分離されているとともに、上記膜面に対する平行方向の断面は、閉じた領域として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記複数の磁気記録部のそれぞれについて、磁気記録部内の膜厚方向には、第二の応力付与部が形成されており、
上記第二の応力付与部は、上記膜面に対する垂直方向と比較して、上記磁気層の膜面に対する平行方向の磁気異方性が相対的に大きい磁性体からなり、磁歪定数が負であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記磁気記録部と上記第一の応力付与部との間に非磁性体からなる非磁性部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
上記複数の磁気記録部のそれぞれの間に形成され、かつ、上記第一の応力付与部内の上部または下部に、上記非磁性部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
上記磁気記録部、上記第一の応力付与部および上記第二の応力付与部の磁性体はともに、非晶質磁性体であることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
上記磁気記録部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
上記第一の応力付与部の磁性体はGd、Ho、Tb、Dyから選択される少なくとも一つの希土類金属と、Fe、Coから選択される少なくとも一つの3d遷移金属とを含んで成ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
上記第二の応力付与部の磁性体はSmFeからなることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の一部を局所加熱しながら外部磁界を印加することで磁気情報を記録することを特徴とする磁気記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−163840(P2009−163840A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2156(P2008−2156)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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