説明

磁気記録媒体の表面処理方法及び磁気記録媒体の表面処理装置

【課題】研削砥石の交換時期を管理することで磁気記録媒体に磁性層側の表面平滑度を所要の平滑度に制御することができる磁気記録媒体の表面処理方法及び磁気記録媒体の表面処理装置を得る。
【解決手段】磁気テープの表面処理装置10では、長尺状の磁気テープ11が巻き掛けられたダイヤモンドホイール12の研削面12Aに磁気テープ11の磁性層側の表面を摺接させることで、該磁気テープ11の磁性面の表面処理を行いながら、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスを連続的又は断続的に測定する。磁気テープ11の表面処理に伴う走行距離の増加に対しテンションロスが上昇トレンドから下降トレンドに転じた後には、ダイヤモンドホイール12を交換して磁気テープ11の磁性面の表面処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状の磁気記録媒体の磁性層側の表面を処理するための磁気記録媒体の表面処理方法及び磁気記録媒体の表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル記録用のメタルテープを、該テープの張力によりダイヤモンドホイールに密着させ、テープを所定速度で走行させる一方、ダイヤモンドホイールをテープの走行方向と逆方向に回転させて、テープの表面を処理する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、ダイヤモンドホイールのダイヤモンド層の表面粗度を0.2μm<Ra<1.5μmに管理するようになっている。
【特許文献1】特開平5−62174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の如き従来の技術では、連続的に使用されるダイヤモンドホイールの交換時期を管理することができず、この点に改善の余地がある。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、研削砥石の交換時期を管理することで磁気記録媒体磁性層側の表面平滑度を所要の平滑度に制御することができる磁気記録媒体の表面処理方法及び磁気記録媒体の表面処理装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係る磁気記録媒体の表面処理方法は、長尺状の磁気記録媒体が巻き掛けられた研削砥石の外周面に、前記磁気記録媒体の磁性層側の表面を摺接させることで、該磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行いながら、前記磁気記録媒体と前記研削砥石との摺接による前記磁気記録媒体のテンションロスを連続的又は断続的に測定し、前記磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離の増加に対し前記テンションロスが減少し始めた後に、前記研削砥石を交換して磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行う。
【0006】
請求項1記載の磁気記録媒体の表面処理方法では、研削砥石によって磁気記録媒体の磁性層側の表面処理行いながら、該研削砥石と磁気記録媒体との摺接に伴い生じるテンションロスを連続的又は断続的に測定する。このテンションロスは、通常、磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離に応じて徐々に増加する。ここで、本磁気記録媒体の表面処理方法では、例えば目詰まり等に起因して研削砥石の研削能力が劣化した場合にテンションロスが減少に転じるとの知見に基づいて、テンションロスが減少に転じた後に研削砥石を交換する。これにより、劣化した研削砥石を用いることで所要の表面処理が得られないとの不良を生じることが抑制され、交換した研削砥石によって所要の表面平滑度を確保することができる。
【0007】
このように、請求項1記載の磁気記録媒体の表面処理方法では、磁気記録媒体の表面処理工程中に監視可能なテンションロスによって研削砥石の交換時期を管理することで、磁気記録媒体の磁性層側の表面平滑度を所要の平滑度に制御することができる。
【0008】
請求項2記載の発明に係る磁気記録媒体の表面処理方法は、長尺状の磁気記録媒体が巻き掛けられた研削砥石の外周面に、前記磁気記録媒体の磁性層側の表面を摺接させることで、該磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行いながら、前記磁気記録媒体と前記研削砥石との摺接抵抗に応じて変化する物理量を測定し、前記磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離の増加に対し前記摺接抵抗が減少する方向に前記物理量が変化し始めた後に、前記研削砥石を交換して磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行う。
【0009】
請求項2記載の磁気記録媒体の表面処理方法では、研削砥石によって磁気記録媒体の磁性層側の表面処理行いながら、該研削砥石と磁気記録媒体との摺接に伴う摺接抵抗に対応する物理量を連続的又は断続的に測定する。この摺接抵抗は、通常、磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離に応じて徐々に増加する。ここで、本磁気記録媒体の表面処理方法では、例えば目詰まり等に起因して研削砥石の研削能力が劣化した場合に研削砥石と磁気記録媒体との摺接抵抗が減少に転じるとの知見に基づいて、摺接抵抗が減少に転じたことに対応する測定物理量の変化が観測された後に研削砥石を交換する。これにより、劣化した研削砥石を用いることで所要の表面処理が得られない不良を生じることが抑制され、交換した研削砥石によって所要の表面平滑度を確保することができる。
【0010】
このように、請求項2記載の磁気記録媒体の表面処理方法では、磁気記録媒体の表面処理工程中に監視可能な物理量によって研削砥石の交換時期を管理することで、磁気記録媒体の磁性層側の表面平滑度を所要の平滑度に制御することができる。
【0011】
請求項3記載の発明に係る磁気記録媒体の表面処理装置は、外周に巻き掛けられた長尺状の磁気記録媒体の磁性層側の表面を処理する研削砥石と、前記研削砥石との摺接に伴う前記磁気記録媒体のテンションロスを連続的又は断続的に測定するテンションロス測定手段と、前記磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離の増加に対し前記テンションロスが減少し始めた場合に、前記研削砥石の交換時期であることを報知するための報知手段を作動させる制御手段と、を備えている。
【0012】
請求項3記載の磁気記録媒体の表面処理装置では、研削砥石による軸記録媒体の磁性層側の表面処理工程中に、テンションロス測定手段によって研削砥石前後でのテンションロスが連続的又は断続的に測定される。このテンションロスは、通常、磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離に応じて徐々に増加する。制御手段は、磁気記録媒体の走行距離の増加に対しテンションロスが減少に転じたことを検出すると、その後、報知手段を作動させる。すなわち、本磁気記録媒体の表面処理装置では、例えば目詰まり等に起因して研削砥石の研削能力が劣化した場合にテンションロスが減少に転じるとの知見に基づいて、テンションロスが減少に転じた後に研削砥石の交換磁気であることを報知させる。
【0013】
これにより、研削砥石の交換が促され、劣化した研削砥石を用いることで所要の表面処理が得られない不良を生じることが抑制され、交換した研削砥石によって所要の表面平滑度を確保することができる。
【0014】
このように、請求項3記載の磁気記録媒体の表面処理装置では、磁気記録媒体の表面処理工程中に監視可能なテンションロスによって研削砥石の交換時期を管理することで、磁気記録媒体の磁性層側の表面平滑度を所要の平滑度に制御することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明に係る磁気記録媒体の表面処理方法及び磁気記録媒体の表面処理装置は、研削砥石の交換時期を管理することで磁気記録媒体の磁性層側の表面平滑度を所要の平滑度に制御することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体の表面処理方法が適用された磁気テープの表面処理装置10及びその使用方法について、図1〜図4に基づいて説明する。
【0017】
図1には、磁気テープの表面処理装置10の概略全体構成が模式的な側面図にて示されている。この図に示される如く、磁気テープの表面処理装置10は、磁気記録媒体としての磁気テープ(原反)11の表面を処理するようになっている。磁気テープ11は、図示しないテープ送り機構によって所定方向(図1の矢印A方向)に走行されるようになっている。
【0018】
そして、磁気テープの表面処理装置10は、磁気テープ11の磁性面を平滑化するための研削砥石としてのダイヤモンドホイール12を備えている。ダイヤモンドホイール12は、略円筒面とされた外周面が、ダイヤモンドの微粒子を接着剤等のバインダで保持した研削面12Aとされている。このダイヤモンドホイール12には、磁気テープ11の磁性面が接触されるように、該磁気テープ11が巻き掛けられている。
【0019】
このダイヤモンドホイール12は、磁気テープ11の巻き掛け部分において矢印Aとは逆向きとなる矢印B方向に回転駆動されるようになっている。したがって、磁気テープの表面処理装置10では、矢印A方向に走行する磁気テープ11と矢印B方向に回転するダイヤモンドホイール12の研削面12Aとが摺接されることで、磁気テープ11の磁性面の構成成分の余剰分が削り取られ、該磁気テープ11の磁性面が平滑化されるようになっている。
【0020】
この実施形態では、ダイヤモンドホイール12は、研削面12Aの直径が略70mmとされている。また、ダイヤモンドホイール12は、研削面12A(を構成するダイヤモンド)の粒度を800〜2000番程度とすることができるが、この実施形態では研削面12Aの粒度が1200番とされている。
【0021】
また、磁気テープの表面処理装置10は、ダイヤモンドホイール12に対する磁気テープ11の走行方向の上流側に設けられたテンションピックアップローラ14と、ダイヤモンドホイール12に対する磁気テープ11の走行方向の下流側に設けられたテンションピックアップローラ16とを備えている。テンションピックアップローラ14、16には、それぞれ磁気テープ11の磁性面とは反対側の層が接触するように該磁気テープ11が巻き掛けられている。
【0022】
テンションピックアップローラ14、16の回転軸14A、16Aにおける磁気テープ11の巻き掛け側とは反対側(この実施形態では下側)には、テンションロス測定手段としてのロードセル(歪ゲージ)18、20が配設されている。上記の如く配置されたロードセル18、20は、それぞれテンションピックアップローラ14、16に巻き掛けられた磁気テープ11に作用するテンション(張力)に応じた信号を出力するようになっている。したがって、磁気テープの表面処理装置10では、ロードセル18からの信号とロードセル20からの信号との差分に基づいて、ダイヤモンドホイール12でのテンションロス(磁気テープ11の走行抵抗)を検知可能な構成とされている。
【0023】
さらに、磁気テープの表面処理装置10は、磁気テープ11の走行中にダイヤモンドホイール12でのテンションロスを監視するための制御手段としてのテンションロス監視装置22、及び所定の場合にダイヤモンドホイール12の交換時期であることを運転員に報知するための報知手段としてのホイール交換時期報知装置24を備えている。
【0024】
テンションロス監視装置22は、ロードセル18、20のそれぞれに電気的に接続されており、これらロードセル18、20からの信号(を適宜処理したもの)を差分することで、ダイヤモンドホイール12での表面処理に伴うテンションロスを検知(算出)するようになっている。この実施形態では、テンションロス監視装置22は、所定のサンプリングタイム毎に(実質的に連続的又は断続的に)ロードセル18、20からの信号を読み込む設定とされている。
【0025】
そして、テンションロス監視装置22は、算出したテンションロスの変化のトレンドが上昇(増加)傾向から下降(減少)傾向に転じたか否かを監視するようになっている。テンションロスの変化のトレンドが上昇傾向から下降傾向に転じたことの判断は、例えばテンションロスのピーク値に対し所定量又は所定割合よりも低い値が検知されることを条件としても良く、また例えば、連続する複数のサンプリングタイムの検出値の平均値が、それ以前の連続する複数のサンプリングタイムの検出値の平均値を下回ることを条件としても良い。
【0026】
ホイール交換時期報知装置24は、テンションロス監視装置22に電気的に接続され、該テンションロス監視装置22によって作動を制御されるようになっている。テンションロス監視装置22は、テンションロスの変化のトレンドが上昇傾向から下降傾向に転じたと判断した場合に、ホイール交換時期報知装置24が運転員に対しダイヤモンドホイール12の交換時期であることを報知するように、該ホイール交換時期報知装置24を制御する構成とされている。
【0027】
ホイール交換時期報知装置24によるダイヤモンドホイール12の交換時期の報知は、例えば、磁気テープの表面処理装置10を含む磁気テープ11の製造工程をモニタするためのモニタ装置に特定の文字や図形等を表示させるものであっても良く、特定の音を発生するものであっても良く、表示灯を点灯又は点滅させるものであっても良い。
【0028】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0029】
上記構成の磁気テープの表面処理装置10では、テープ送り機構によって磁気テープ11が矢印A方向に走行されている状態で、ダイヤモンドホイール12を矢印B方向に回転させる。これにより、ダイヤモンドホイール12の研削面12Aと磁気テープ11の磁性面とが摺接し、研削面12A(のダイヤモンド粒)によって、磁気テープ11の磁性面が研削され、平滑化される。
【0030】
ところで、磁気テープの表面処理装置10では、磁気テープ11の磁性面を研削する距離が増すのに伴って、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスが徐々に増加する。この点を補足すると、図3(A)に模式的に示される如く、ダイヤモンドホイール12の研削面12Aは、多数のダイヤモンド粒12Bがバインダ12Cから突出して構成されている。この研削面12Aの使用すなわち11の磁性面の研削に伴い、多数のダイヤモンド粒12Bが潰れる(磁気テープ11の磁性面とダイヤモンド粒12Bとの接触が面接触から点接触に変化する)いわゆる目潰れが徐々に進行し、磁気テープ11とダイヤモンドホイール12との接触面積が徐々に増大してテンションロスが研削距離と共に増加するトレンドを示す。
【0031】
磁気テープの表面処理装置10では、以上の磁気テープ11の平滑化(表面処理)工程を実行しながら、テンションロス監視装置22は、テンションピックアップローラ14のロードセル18、テンションピックアップローラ16のテンションロス監視装置22からの信号に基づいて、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスを監視している。すなわち、テンションロス監視装置22は、テンションロスの変化のトレンドが上昇傾向から下降傾向に転じたか否かを判断している。
【0032】
そして、テンションロス監視装置22は、テンションロスの変化のトレンドが上昇傾向から下降傾向に転じたと判断した場合、ホイール交換時期報知装置24がダイヤモンドホイール12の交換時期であることを報知するように、該ホイール交換時期報知装置24を制御する(作動させる)。すると、ダイヤモンドホイール12の交換時期であることを知得した運転員は、ダイヤモンドホイール12を新品又は再生品と交換し、上記した磁気テープ11の磁性面の平滑化工程を再開する。
【0033】
ここで、磁気テープの表面処理装置10では、磁気テープ11の磁性面の平滑化工程を行いながら、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスを連続的又は断続的に(所定のサンプリングタイム毎に)監視しているため、装置を運転しながらダイヤモンドホイール12の交換時期を管理することができる。以下、この点について補足する。
【0034】
図2には、研削距離(ダイヤモンドホイール12により研削した磁気テープ11の長さ)に対する、テンションロス、及び摩耗値との関係(実験結果)が示されている。摩耗値は、平滑化後の磁気テープ11の磁性面にて図4(A)に示すテストピースPの角部Cを所定回数だけ擦った場合における図4(B)に示す角が取れた摩耗面Saの幅W(μm)で規定(詳細は、ECMA−319規格参照)。される。したがって、摩耗値が小さいほど磁気テープ11の磁性面が平滑であること、すなわちダイヤモンドホイール12の研削能力が高いことが判る。このため、図2から摩耗値は、研削距離の増加に伴い徐々に増加し、所定の研削距離を越えると急激に悪化することが判る。
【0035】
また、この図2からテンションロスのトレンドは、所定の研削距離でピークを有し、研削距離の増加に伴い上昇するトレンドから、研削距離の増加に伴い下降するトレンドに転じることが判る。そして、テンションロスのピークは、摩耗値が急激に悪化する研削距離よりも短い研削距離で生じることが判る。なお、テンションロスのトレンドがピークを有するのは、研削距離の増加に伴って、研削面12Aの目潰れだけでなく、図3(B)に示される如く多数のダイヤモンド粒12B間には磁気テープ11の磁性層を構成するカーボン、研磨剤、磁性体、バインダの粉等の異物Fによる目詰まりが生じ、このように研削面12Aに目詰まりが生じた場合には、研削面12Aと磁気テープ11との間に巻き込まれる同伴エア層が徐々に増加してテンションロス(磁気テープ11とダイヤモンドホイール12との摩擦損失)が低減するためであると考えられる。
【0036】
以上説明した新たな知見に基づいて、磁気テープの表面処理装置10(に適用された磁気記録媒体の表面処置方法)では、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスのトレンドに基づいて、該ダイヤモンドホイール12の研削能力(の劣化傾向)を正確に予測することができる。そして、磁気テープの表面処理装置10では、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスが上昇トレンドから下降トレンドに転じた後に、ダイヤモンドホイール12を交換するため、研削能力が劣化したダイヤモンドホイール12によって磁気テープ11を研削することによる不良の発生を防止又は著しく効果的に抑制することができる。すなわち、磁気テープの表面処理装置10では、良好な研削能力を有するダイヤモンドホイール12による平滑化処理の実行、換言すれば、磁気テープ11の良好な平滑性(摩耗値)が担保される。図2の例では、磁気テープ11の磁性面の平滑度を摩耗値40以下に管理(制御)することができる。すなわち、磁気テープの表面処理装置10では、磁気テープ11の表面製品質を保証することができる。
【0037】
なお、単にテンションロスを単発的に計測する比較例では、図5に示す如くピーク前後でテンションロスと摩耗値とが異なる関係を示すため、ダイヤモンドホイール12の研削能力を予測することはできない。また、研削面12Aの表面粗度(Ra)を確認し、この表面粗度から経験的に研削面12Aの研削能力が確保されるものとして得た研削距離だけダイヤモンドホイール12を使用する比較例も考えられるが、図6に示される如く、表面疎度を非常に狭い範囲(Raで0.6〜0.7)で管理した場合においても、例えば磁気テープ11の物性のばらつきに起因して表面粗度に対する摩耗値のばらつきが大きくなり、研削面12Aの表面粗度によって磁気テープ11の磁性面の摩耗値を有効には管理し難い。
【0038】
これらの比較例に対して、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスのトレンドは、少なくとも実用的な範囲内では磁気テープ11の物性のばらつきの影響を受けず、上記の如くピークを有する(上昇トレンドから下降トレンドに転ずる)ことが確かめられている。このため、磁気テープの表面処理装置10では、上記の通りテンションロスのトレンドを監視することで、ダイヤモンドホイール12の研削能力を正確に予測することができ、該テンションロスが下降トレンドに転じた後にダイヤモンドホイール12を交換することで、磁気テープ11の磁性面の平滑度(摩耗値)を有効に管理することができる。逆に、ダイヤモンドホイール12の研削能力が所要の能力を維持している場合に該ダイヤモンドホイール12を交換してしまうことが防止又は抑制され、ダイヤモンドホイール12の新品調達又は際研磨コストの低減に寄与する。
【0039】
また、磁気テープの表面処理装置10では、テンションロスが下降トレンドに転じるとテンションロス監視装置22がホイール交換時期報知装置24によってダイヤモンドホイール12の交換時期であることを報知させる。このため、ダイヤモンドホイール12の新品又は再生品への交換が促され、本発明に係る磁気記録媒体の表面処置方法の実効性が担保される。ダイヤモンドホイール12の再生品とは、例えば、図3(B)に示される如く目詰まりした研削面12Aを、想像線にて示す新研削面12Aまで比較的柔らかい砥石で再研磨し、多数のダイヤモンド粒12Bを目立てしたものをいう。
【0040】
なお、上記した実施形態では、テンションロスのトレンドを監視することでダイヤモンドホイール12の研削能力を予測する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、磁気テープ11とダイヤモンドホイール12との摺接抵抗に応じて変化する物理量の変化トレンドを監視することでダイヤモンドホイール12の研削能力を予測する構成としても良い。このような物理量として、例えば、研削面12Aにおける磁気テープ11の巻き掛け側と反対側の部分に同伴エア層の形成可能に摺接される摺接体に作用するトルク(摩擦力)等を挙げることができる。また、ダイヤモンドホイール12の回転負荷(軸トルク)を測定し、一定テンションで搬送される磁気テープから受けるダイヤモンドホイール12の負荷変動に基づいて、同伴エアの変化すなわちダイヤモンドホイール12の研削能力を検知(予測)することも可能である。
【0041】
また、上記した実施形態では、ダイヤモンドホイール12でのテンションロスが下降トレンドに転じた場合に、その旨をホイール交換時期報知装置24が報知する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ホイール交換時期報知装置24の作動に代えて、又はホイール交換時期報知装置24の作動と共に、ダイヤモンドホイール12(すなわち磁気テープの表面処理装置10)を強制的に停止したり、ダイヤモンドホイール12を自動的に新品又は再生品に交換する構成としても良い。さらに、本実施形態に係る磁気テープの表面処理方法は、ホイール交換時期報知装置24にてダイヤモンドホイール12の交換次期を報知する技術には限られず、運転員によるテンションロスのトレンドの目視での確認によってダイヤモンドホイール12を交換するようにしても良い。
【0042】
さらに、上記した実施形態では、研削砥石としてダイヤモンドホイール12を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、他の砥粒を用いて構成された研削砥石を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気テープの表面処理装置の概略全体構成を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気テープの表面処理装置における研削距離とテンションロス及び摩耗値との関係を示す線図である。
【図3】本発明の実施形態に係る磁気テープの表面処理装置を構成するダイヤモンドホイール12の表面側断面を拡大して示す図であって、(A)は新品のときの断面図、(B)は目詰まりしたときの断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る磁気テープの表面処理装置により平滑化される磁気テープの平滑度に対応する摩耗量を説明するための図であって、(A)は摩耗量の測定原理を示す斜視図、(B)は摩耗量の測定ポイントを示す正面図である。
【図5】テンションロス自体と摩耗量との関係を示す図である。
【図6】ダイヤモンドホイールの研削面の表面粗度と摩耗量との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 磁気テープの表面処理装置(磁気記録媒体の表面処理装置、方法)
11 磁気テープ(磁気記録媒体)
12 ダイヤモンドホイール(研削砥石)
14 テンションピックアップローラ(テンションロス測定手段)
18・20 ロードセル(テンションロス測定手段)
22 テンションロス監視装置(制御手段)
24 ホイール交換時期報知装置(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の磁気記録媒体が巻き掛けられた研削砥石の外周面に、前記磁気記録媒体の磁性層側の表面を摺接させることで、該磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行いながら、前記磁気記録媒体と前記研削砥石との摺接による前記磁気記録媒体のテンションロスを連続的又は断続的に測定し、
前記磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離の増加に対し前記テンションロスが減少し始めた後に、前記研削砥石を交換して磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行う、磁気記録媒体の表面処理方法。
【請求項2】
長尺状の磁気記録媒体が巻き掛けられた研削砥石の外周面に、前記磁気記録媒体の磁性層側の表面を摺接させることで、該磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行いながら、前記磁気記録媒体と前記研削砥石との摺接抵抗に応じて変化する物理量を測定し、
前記磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離の増加に対し前記摺接抵抗が減少する方向に前記物理量が変化し始めた後に、前記研削砥石を交換して磁気記録媒体の磁性層側の表面処理を行う、磁気記録媒体の表面処理方法。
【請求項3】
外周に巻き掛けられた長尺状の磁気記録媒体の磁性層側の表面を処理する研削砥石と、
前記研削砥石との摺接に伴う前記磁気記録媒体のテンションロスを連続的又は断続的に測定するテンションロス測定手段と、
前記磁気記録媒体の表面処理に伴う走行距離の増加に対し前記テンションロスが減少し始めた場合に、前記研削砥石の交換時期であることを報知するための報知手段を作動させる制御手段と、
を備えた磁気記録媒体の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−79952(P2010−79952A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244132(P2008−244132)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】