説明

磁気記録媒体の製造方法と磁気記録媒体および磁気記録再生装置

【課題】磁性層のパターン形状を精度よく形成できる、歩留まりの高い磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板1の上に磁性層2を形成した後、前記磁性層2に部分的にイオンを注入することによって、この磁性層2のイオンを注入した箇所8の磁気特性を改質して磁気的に分離された磁性記録パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁性層2の上に繰り返し使用可能なマスク材10を前記磁性層2から間隔を保持したまま配置した後、前記マスク材10の上からイオン照射を行い、このマスク材10の表面に形成された前記磁性パターンMPに対応した凹凸パターンの凹部10aを通して、その下にある前記磁性層2に部分的にイオンを注入することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置(HDD)等に用いられる磁気記録媒体の製造方法および磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、MRヘッドやPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇は更に激しさを増し、近年ではGMRヘッドやTMRヘッドなども導入されて、1年に約1.5倍ものペースで増加を続けている。
【0003】
これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されている。このため、磁性層の高保磁力化、高信号対雑音比(SNR)、および高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0004】
最新の磁気記録装置においては、トラック密度は110kTPIにまで達している。しかしながら、トラック密度を上げていくにつれ、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合うことで、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じ易くなっている。このことはそのままビット・エラー・レートの悪化につながってしまうため、記録密度の向上に対して障害となっている。
【0005】
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかし、その一方で、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなるため、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じてしまいやすい。
【0006】
また、トラック密度を上げていくと、それに伴いトラック間距離は互いに近づく。そのため、磁気記録装置では極めて高精度のトラックサーボ技術が要求されると同時に、記録を幅広く実行し、再生は記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。これにより隣接トラックからの影響を最小限に抑えることが可能となるが、その反面、再生出力を十分得ることが困難となる。そのため、十分なSNRを確保することが難しくなるという問題がある。
【0007】
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術は、一般にディスクリートトラック法と呼ばれており、それによって製造された磁気記録媒体のことをディスクリートトラック媒体と呼んでいる。また、同一トラック内のデータ領域を更に分割した、いわゆるパターンドメディアを製造しようとする試みもある。
【0008】
ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板に磁性層を形成して、物理的に分離した磁気記録トラックおよびサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている。また、このようなディスクリートトラック型磁気記録媒体の製造方法としては、基板上に成膜した連続な磁性層を、ナノインプリント法を用いて磁気記録トラックパターンやビットパターンに加工する方法が提案されている。
ナノインプリント法は、転写すべき凹凸パターンの形成されたモールドを、被転写材に押し付け、光を照射あるいは熱を与えながら被転写材を硬化させることによって、凹凸パターンを被転写材に転写する方法である(特許文献1参照)。
【0009】
ディスクリートトラック媒体の製造方法には、何層かの連続薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後に薄膜を加工してトラックを形成する方法と、予め基板表面に直接、或いはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法がある(特許文献2,3参照)。
【0010】
このうち前者の方法は、磁気層加工型と呼ばれるものである。しかしながら、この方法の場合は、媒体形成後に表面に対する物理的な加工が実施されるために、媒体が製造工程において汚染されやすく、かつ製造工程が非常に複雑となるといった欠点がある。一方、後者の方法は、エンボス加工型と呼ばれるものであるが、この方法の場合、製造工程中に媒体が汚染されにくいものの、基板に形成された凹凸形状がその上に成膜された膜にも引き継がれることになる。そのため、媒体上を浮上しながら記録再生を行う記録再生ヘッドの浮上姿勢や、浮上高さが安定しなくなるといった問題がある。
【0011】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、予め形成した磁性層に窒素、酸素等のイオンを注入し、または、レーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させて形成する方法が開示されている(特許文献4〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-164692号公報
【特許文献2】特開2004-178793号公報
【特許文献3】特開2004-178794号公報
【特許文献4】特開平5-205257号公報
【特許文献5】特開2006-209952号公報
【特許文献6】特開2006-309841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、磁気記録媒体の表面上で磁気ヘッドを安定した状態で浮上走行させるためには、磁気記録媒体の表面における高い平滑性が求められている。例えば、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する、いわゆるディスクリートトラックメディアやパターンドメディアにおいては、以下のような製造工程が採用されている。磁性層の表面にマスク層を設け、そのマスク層を磁気記録パターンに合わせてパターニングする。そして、そのマスク層を用いて磁性層を物理的に加工し、またはイオン注入を行うことにより、磁性層に磁気記録パターンを形成する方法が知られている。この製造方法について、図1(a)〜(g)を用いて以下に説明する。
【0014】
このような製造方法の具体的な工程は例えば、図1(a)に示す非磁性基板101上に磁性層102を形成する工程(工程a)と、図1(b)に示す磁性層102上にマスク層103を形成する工程(工程b)と、図1(c)に示すマスク層103上にレジスト層104を形成する工程(工程c)と、図1(d)に示すスタンプ105によりレジスト層104にレジスト凹部108を形成し、レジスト層104を磁気記録パターンに対応した形状にパターニングする工程(工程d)と、図1(e)に示す磁気記録パターンに対応する領域のレジスト層104およびマスク層103を除去して磁性層102を露出する工程(工程e)と、図1(f)に示す磁性層102の露出した領域107にイオン注入を行いその箇所の磁気特性を改質して磁気的に分離した磁気記録パターンを形成する工程(工程f)と、図1(g)に示すレジスト層104およびマスク層103を除去する工程(工程g)と、から概略構成されている。
【0015】
上記の工程cでマスク層103を設ける理由は、工程fにおいてイオン注入を行う際、レジスト層104のみでは注入イオンの遮蔽性に乏しいためである。また、工程dではフォトリソグラフィーが用いられる場合がある。また、工程eおよび工程gでのレジスト層104およびマスク層103の加工および除去は、ドライエッチングにより行われる場合がある。
【0016】
以上のように、パターンドメディアの製造は多くの工程によって行われる。そのため、それらの工程が複雑になるほどパターンが不鮮明となりやすいという問題が生じていた。
すなわち、上記の工程においては、フォトリソグラフィーやナノインプリントに用いる原盤のパターンが最も鮮明で、これを転写した工程dのパターンは原盤のパターンよりも鮮明度が低下する。また、その次の工程eでもマスク層103を除去する際にパターンのエッジ部分が丸くなることによりパターンの鮮明度が低下する。そして、そのパターンを用いて工程Fで磁性層102のパターニングを行うことにより、パターンの鮮明度がさらに低下することとなる。
【0017】
本願発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、簡便な方法で磁性層102に鮮明な磁気記録パターンを形成できる磁気記録媒体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本願発明者らは鋭意検討した結果、本願発明に到達した。すなわち本発明は以下に関する。
〔1〕 非磁性基板の上に磁性層を形成した後、前記磁性層に部分的にイオンを注入することによって、この磁性層のイオンを注入した箇所の磁気特性を改質して磁気的に分離された磁性記録パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法であって、繰り返し使用可能なマスク材を前記磁性層から間隔を保持したまま前記磁性層の上に配置した後、前記マスク材の上からイオン照射を行い、このマスク材の表面に形成された前記磁性パターンに対応した凹凸パターンの凹部を通して、その下にある前記磁性層に部分的にイオンを注入することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
〔2〕 前記マスク材は石英からなり、その凹部における厚みが20〜50nmの範囲であり、かつ、その凸部における厚みが80nm〜500nmの範囲であることを特徴とする〔1〕に記載の磁気記録媒体の製造方法。
〔3〕 前記イオン照射を行う工程において、前記磁性層と前記マスク材との間の間隔を1μm以下とすることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の磁気記録媒体の製造方法。
〔4〕 前記イオンが、窒素、酸素、ヘリウム、ネオンからなる群から選ばれる何れか1種以上を含むことを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
〔5〕 前記マスク材を除去した後に、前記磁性層上に保護層を形成する工程を有することを特徴とする〔1〕乃至〔4〕のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
〔6〕 請求項〔1〕〜〔5〕の何れか1項に記載の方法によって製造される磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させるヘッド移動手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号の再生を行うための記録再生信号処理手段とを具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁気記録パターンの原盤となるマスク材により、磁性層のパターニングを直接行う。そのため、鮮明な磁気記録パターンを有する磁気記録媒体を製造することができる。これにより磁気記録パターンを高密度化することが可能となり、高記録密度の磁気記録再生装置を提供する。
また、本発明によれば、その製造工程においてマスク層やレジスト層の形成工程や加工工程を伴わないため、従来の製造方法と比べて製造工程を著しく簡略化することが可能となる。また、本発明のマスク材は複数の磁気記録媒体の製造に繰り返し使用することができる。そのため、磁気記録媒体の製造コストを著しく低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の磁気記録媒体の製造方法を示す模式図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の製造方法を示す模式図である。
【図3】本発明の磁気記録再生装置の一例であるハードディスクドライブを示した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
まず、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法について図2を用いて説明する。
本発明は、磁気的に分離された磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、例えば図2(a)〜図2(d)に示すように、非磁性基板1上に磁性層2を形成する工程(工程a)と、磁性層2上に磁気記録パターンMPに対応した形状にパターニングされたマスク材10を、磁性層2から間隔を保持したまま磁性層2の上に配置する工程(工程b)と、マスク材10の上からイオン照射を行い、磁性層2に磁気記録パターンMPを形成する工程(工程c)と、磁性層2上に保護層9を形成する工程(工程d)と、保護層9の上に図示しない潤滑層を形成する図示しない工程(工程e)と、から概略構成されている。以下、それぞれの工程について、図2(a)〜図2(d)を用いて詳細を説明する。
【0023】
<工程a>
まず、図2(a)に示すように、非磁性基板1上に磁性層2を形成する。
まず始めに、非磁性基板1を準備する。本実施形態においては、非磁性基板1としてAlを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。また、その中でもAl合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板またはシリコン基板を用いることが好ましい。また、それら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましく、中でも0.1nm以下であることが特に好ましい。
【0024】
次いで、非磁性基板1上を覆うように、例えばスパッタ法を用いて、Coを主成分とする合金の薄膜からなる磁性層2を形成する。
このとき、磁性層2の厚さは、3nm以上20nm以下で形成することが好ましく、5nm以上15nm以下で形成することがさらに好ましい。
磁性層2は、再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の膜厚が必要である。また、記録再生特性を表す諸パラメーターは、出力の上昇とともに劣化するのが通例である。よって、磁性層2は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて十分なヘッド出入力が得られるように、最適な膜厚で形成する必要がある。
【0025】
この磁性層2の構成としては、面内磁性層でも垂直磁性層でも、どちらで形成してもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層とすることが好ましい。また、磁気記録媒体を面内磁気記録媒体用として用いる場合は、磁性層2を非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層からなる積層構造で形成してもよい。
【0026】
また、磁気記録媒体を垂直磁気記録媒体用として用いる場合は、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる裏打ち層と、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの配向制御膜と、必要によりRu等の中間膜、および60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金を積層したものを、磁性層2として利用することがきる。
【0027】
<工程b>
工程bはさらに、マスク材10準備工程と、マスク材10を、磁性層2から間隔を保持したまま磁性層2の上に配置する工程とから構成されている。なお、このマスク材10は、複数の磁気記録媒体の製造に繰り返し使用されるものである。
【0028】
(マスク材10準備工程)
まず始めに、図2(b)に示すように、例えば石英からなるマスク材10を準備する。マスク材10の材料としては、他にNi、Ti、V、Nb、Mo、Ta、W等の金属を用いることができるが、石英を用いることが特に望ましい。これは、後述するイオン注入工程(工程c)において、マスク材10にイオンを照射する際に、イオンが凹部10aを透過する必要があるためである。
【0029】
また、マスク材10の材料としては、金属はイオンの透過性が十分に得られず不適当となる場合がある。また、マスク材10の材料として金属を使用する場合は、イオンを透過させるためには凹部10aの膜厚を薄くする必要がある。そのため、マスク材10の耐久性が低下してしまい、繰り返しの使用には不適当となる場合がある。
それに対し、薄膜化した石英はイオンを透過させることが可能で、かつ、その透過性が高い。また、湿式エッチングや乾式エッチングにより微細加工が可能であるため、磁気記録パターンMPを凹凸パターン(凹部10aおよび凸部10b)として形成しやすい。そのため、石英はマスク材10の材料として特に適している。
【0030】
このマスク材10の表面には、磁気記録パターンMPが凹凸パターン(凹部10aおよび凸部10b)として構成されている。このマスク材10の磁気記録パターンMPは、孔部のみにより構成することは現実的には困難であり、凹凸パターンにより構成する必要がある。
【0031】
すなわち、本実施形態の磁気記録パターンMPは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置されたいわゆるビットパターンドメディアや、磁気記録パターンがトラック状に配置されたディスクリートトラックメディアや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。そのため、磁気記録パターンMPは微細かつ複雑なものであり、孔部のみにより構成することは困難である。よって本実施形態のマスク材10は孔部を有さず、その表面に形成された凹凸パターンにより磁気記録パターンMPを構成する。
【0032】
また、マスク材10の凹部10aの厚さdは20〜50nmの範囲内、凸部10bの厚さeは80nm〜500nmの範囲内とすることが好ましい。
凹部10aの厚さdを20〜50nmの範囲内とすることにより、後述するイオン注入工程(工程c)において、イオンは凹部10aを透過することができる。そのため、マスク材10の凹部10aを介して、イオンを磁性層2に注入することが可能となる。
【0033】
特に、後述するイオン注入工程(工程c)において、注入イオンとして窒素、酸素、ヘリウム、ネオン等の原子半径の小さな物質を用いる場合は、凹部10aの厚さdを20〜50nmの範囲内とすることが特に好ましい。凹部10aの厚さdをこの範囲内とすることにより、これらのイオンは高い効率で凹部10aを透過する。そのため、磁性層2に効果的にイオン注入を行うことができ、鮮明な磁気記録パターンMPを形成することが可能となる。
【0034】
それに対し、凹部10aの厚さdが20nmより薄くなると、イオン注入によるダメージで凹部10aが破損しやすくなる。また、マスク材10の耐久性が低下するため、マスク材10の繰り返し使用回数が低下してしまう。
また、凹部10aの厚さdが50nmより厚くなると、凹部10aでのイオンの透過性が低下するため、磁性層2のパターニングが困難となる。また、凹部10a内でイオンが散乱されやすくなるため、磁性層2へ転写された磁気記録パターンMPが不鮮明となる。
【0035】
また、マスク材10の凸部10bの厚さeは、その耐久性からはなるべく厚くした方が良いが、現実にはその加工性から80nm〜500nmの範囲内とすることが好ましい。凸部10bが500nmよりも厚くなると、凹部10aの加工時間が長くなる。それにより、マスク材10の凹凸パターンが不鮮明となりやすく、かつ、生産性が低下する等の問題が生じてしまう。
【0036】
(磁性層2上にマスク材10を配置する工程)
次いで、図2(b)に示すように、凹凸パターンを上に向けたマスク材10を、磁性層2から間隔を保持したまま磁性層2の上に配置する。
このとき、磁性層2とマスク材10は接触しないように間隔を保持し、また、その間隔は1μm以下の距離とすることが好ましい。また、この間隔は小さければ小さいほど好ましい。このとき、磁性層2とマスク材10の距離が1μmより大きくなると、磁性層2への転写パターンが不鮮明となる。また、磁性層2とマスク材10が接触すると、磁性層2やマスク材10が損傷してしまい、かつ、マスク材10に磁性膜2等が付着してしまう。そのため、マスク材10が繰り返し使用できなくなり、好ましくない。
【0037】
<工程c>
次いで、図2(c)に示すように、磁性層2上にマスク材10を配置したまま、マスク材10の上からイオン照射を行う。これにより、イオンは凹部10aを透過し、磁性層2の凹部10a下の部分に注入される。これにより、磁性層2の凹部10a下の部分に、非磁性化領域8が形成される。このとき、凸部10bはイオンが透過しない厚さで形成されているため、磁性層2の凸部10b下の部分は改質されない。
本実施形態における磁性層2の改質とは、磁性層2の一部を非磁性化して磁性層2を磁気的に分離する方法に限られず、保磁力や残留磁化等を部分的に下げる方法や、磁性層2の結晶構造の改変を行っても良い。たとえば、磁性層2を部分的に非晶質化することにより、磁気記録トラックおよびサーボ信号パターン部を磁気的に分離する箇所を形成することができる。
【0038】
磁性層2の非晶質化は、磁性層2の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列とすることにより行う。長距離秩序を持たない不規則な原子配列とは具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態を示す。このような不規則な原子配列の確認は、X線回折または電子線回折などの分析手法により行うことができる。このような分析により、結晶面を表すピークが認められず、かつ、ハローのみが認められる場合は、原子配列は不規則な状態となっている。
【0039】
また、本実施形態の磁性層2の改質においては、非磁性化領域8の磁化量を磁性層2の75%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがさらに好ましい。また、保磁力については磁性層2の50%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
これにより、凹部10a下の磁性層2表面に非磁性化領域8が形成され、磁性層2表面は非磁性化領域8により磁気的に分離された構成となる。
以上により、磁性層2には、マスク材10の凹凸パターン(凹部10aおよび凸部10b)に対応した磁気記録パターンMPが形成される。こののち、磁性層2上からマスク材10を除去する。
【0041】
ここで、磁気記録パターンMPは、磁気記録媒体を表面側から見た場合、磁性層2が非磁性化領域8により磁気的に分離された状態を示す。すなわち、磁性層2が表面側から見て磁性化領域8により分離されていれば、磁性層2の底部において分離されていなくとも、本願発明の目的を達成することが可能である。そのため、本実施形態においては、磁性層2の表面が非磁性化領域8により分断されているものを磁気記録パターンMPとする。
これにより、磁性層2は上から磁気記録パターンMPと、図示しない中間層および軟磁性層が形成された構成となる。
【0042】
<工程d>
次いで、図2(d)に示すように、磁性層2上を覆うように保護層9を形成する。保護層9の形成は、一般的にはDiamond Like Carbonの薄膜をP−CVDなどを用いて成膜するが、その方法はこれに限られず、特に限定されない。
保護層9としては、炭素(C)、水素化炭素(HxC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO2、Zr23、TiNなど、通常用いられる保護層材料を用いることができる。また、保護層9は二層以上の層から構成されていてもよい。
【0043】
また、保護層9は10nm未満の膜厚で形成する必要がある。保護層9の膜厚が10nmを越えると、後述する磁気記録再生装置のヘッドと磁性層2との距離が大きくなり、出入力信号が十分な強さで得られなくなるためである。
【0044】
本実施形態においては、保護層9の形成は、非磁性化領域8を形成した後に行うことが好ましい。磁性層2へのイオン注入は保護層9の上から行うことも可能であるが、その場合には注入イオンが保護層9により散乱されるため、磁気記録パターンMPの鮮明度が低下する。また、イオン注入により保護層9がダメージを受け、磁気記録媒体の保護層9としての機能を果たさなくなる場合がある。
【0045】
<工程e>
こののち、保護層9上を覆うように図示しない潤滑層を1〜4nmの厚さで形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0046】
本実施形態の製造方法によれば、マスク材10により磁性層2のパターニングを直接行うため、鮮明な磁気記録パターンMPを形成することができる。これにより磁気記録パターンMPを高密度化することが可能となり、また、ディスクリートトラック型磁気記録媒体に磁気記録を行う際の書きにじみを防ぐことができる。そのため、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態の製造方法においては、従来の製造方法のようにマスク層やレジスト層の形成工程や加工工程を伴わない。そのため、従来の製造方法と比べて製造工程を著しく簡略化することができる。また、本発明のマスク材10は複数の磁気記録媒体の製造に繰り返し使用することができる。そのため、磁気記録媒体の製造コストを著しく低減することが可能となる。
【0048】
次に、本発明の磁気記録再生装置の構成を図3に示す。本発明の磁気記録再生装置は、上述の本発明の磁気記録媒体30と、上記磁気記録媒体を記録方向に回転駆動する回転駆動部31と、上記磁気記録媒体30に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド32と、磁気ヘッド32を上記磁気記録媒体30の径方向に移動させるヘッド駆動部33と、磁気ヘッド32への信号入力と磁気ヘッド32からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段とを行うための記録再生信号系34と、を具備したものである。
【0049】
この磁気記録再生装置では、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体30を用いることにより、この磁気記録媒体30に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度を得ることが可能である。すなわち、上記磁気記録媒体30を用いることで記録密度の高い磁気記録再生装置を構成することが可能となる。また、上記磁気記録媒体30の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0050】
さらに上述の磁気ヘッド32の再生部をGMRヘッドあるいはTuMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録装置を実現することができる。またこの磁気ヘッド32の浮上量を0.005μm〜0.020μmと、従来のものより低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録装置を提供することができる。
【0051】
さらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なSNRが得られる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0053】
(実施例)
まず、HD用ガラス基板(非磁性基板1)をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10-5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板はLi2Si25、Al23−K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)は2オングストローム(単位:Å、0.2nm)である。
【0054】
次に、このガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として層厚600ÅのFeCoB、中間層として層厚100ÅのRu、磁性層2として層厚150Åの70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金の薄膜と、を順に積層した。この状態を図2(a)に示す。
【0055】
次いで、図2(b)に示すように、石英からなるマスク材10を、磁性層2上から約80nmの間隔を保ったまま保持した。このマスク材10の表面には、トラックピッチが100nm、トラック幅が50nmの凸パターンが形成されており、また、凸部10bの厚さeは120nm、凹部10aの厚さは40nmであった。
【0056】
次いで、図2(c)に示すように、このマスク材10を介し、磁性層2表面にイオン注入を行った。このときのイオンは、窒素ガス40sccm、水素ガス20sccm、ネオン20sccmの混合ガスを用いて発生させた。イオンの量は、5.5×1015原子/cm、イオンの押し出し電圧を+1500V、加速電圧を−1500Vとし、注入時間を60秒、注入深さを80Åとした。この後、磁性層2上からマスク材10を除去した。
【0057】
次に、図2(d)に示すように、P−CVD法により、磁性層2の表面にC(カーボン)からなる平均層厚4nmの保護層9を形成した。次いで、保護層9の上に図示しない潤滑材を塗布して磁気記録媒体の積層構造を作製した。
【0058】
以上の方法で製造した磁気記録媒体について、磁化量、保磁力量、電磁変換特性(SNRおよび3T−squash)、ヘッド浮上高さ(グライドアバランチ)を測定した。ここで、電磁変換特性の評価はスピンスタンドにより行った。また、評価用のヘッドとしては、記録には垂直記録ヘッド、読み込みにはTuMRヘッドを用い、750kFCIの信号を記録したときのSNR値および3T−squashを測定した。
【0059】
この測定の結果、磁気記録媒体のSNRは14.2dB、3T−squashは93%であり、RW特性に優れ、また、ヘッド浮上特性も安定していた。すなわち、磁気記録媒体表面の平滑性は高いものであり、また、磁性層2のトラック間の非磁性部による分離特性も優れていたことが確認できた。
また上記の磁気記録媒体の製造を同一の石英マスク材を用いて8000枚行ったが、8000枚目の磁気記録媒体のSNRは14.0dB、3T−squashは89%であり許容範囲内であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の磁気記録媒体は鮮明な磁気記録パターンを有するため、優れた磁気記録パターン分離性能を有している。そのため、隣接パターン間の信号干渉の影響を受けず、優れた高記録密度特性を有するものとなる。また、少ない工程で磁気記録媒体を製造できるため、その生産性も高い。そのため、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0061】
1…非磁性基板、2…磁性層、8…非磁性化領域、9…保護層、10…マスク材、10a…凹部、10b…凸部、31…回転駆動部、32…磁気ヘッド、33…ヘッド駆動部、34…記録再生信号系、30…磁気記録媒体、d…凹部の厚さ、凸部の厚さ…e、MP…磁気記録パターン、101…非磁性基板、102…磁性層、103…マスク層、104…レジスト層、105…スタンプ、108…レジスト凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板の上に磁性層を形成した後、前記磁性層に部分的にイオンを注入することによって、この磁性層のイオンを注入した箇所の磁気特性を改質して磁気的に分離された磁性記録パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法であって、
繰り返し使用可能なマスク材を前記磁性層から間隔を保持したまま前記磁性層の上に配置した後、前記マスク材の上からイオン照射を行い、このマスク材の表面に形成された前記磁性パターンに対応した凹凸パターンの凹部を通して、その下にある前記磁性層に部分的にイオンを注入することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記マスク材は石英からなり、その凹部における厚みが20〜50nmの範囲であり、かつ、その凸部における厚みが80nm〜500nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記イオン照射を行う工程において、前記磁性層と前記マスク材との間の間隔を1μm以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記イオンが、窒素、酸素、ヘリウム、ネオンからなる群から選ばれる何れか1種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記マスク材を除去した後に、前記磁性層上に保護層を形成する工程を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の方法によって製造される磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、
記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させるヘッド移動手段と、
磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号の再生を行うための記録再生信号処理手段とを具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−146108(P2011−146108A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8020(P2010−8020)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】