説明

磁気記録媒体の製造方法及び製造装置

【課題】ウェット・オン・ドライ方式により、上層の磁性層を50nm以下の薄層に形成する場合において、高配向性を実現し、高い角形比を有する磁気記録媒体を作製する。
【解決手段】磁性塗料の塗布を行うダイ(塗布装置)101から、磁場配向処理を行う配向装置Cまでの到達時間を0.05秒以下とし、かつ配向処理における磁場強度を0.8T以上1.6T未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて薄層の磁性層(記録層)を有する、高密度型磁気記録媒体の製造方法とこれに用いる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル記録等により、情報量の飛躍的な増大化が進行しており、磁気記録媒体の分野においては、更なる高密度化、短波長記録化へ向かうことが予想されている。
これに伴い、特に高感度型の再生用磁気ヘッド(MRヘッドやGMRヘッド)を具備するシステムに適用される磁気記録媒体においては、短波長出力、及び電磁変換特性(C/N特性)を向上させるために、磁気特性を改善し、かつスペーシングロスやモジュレーションノイズの低減化を図るために、磁性層の薄層化、及び表面の平滑化が行われてきた。
このような薄層の記録層を有する磁気記録媒体として、支持体上に下層非磁性層と、磁性層(記録層)とが積層された構成のものが開発、商品化されている。
【0003】
上記のような、いわゆる薄層重層型の磁気記録媒体の各層の成膜方法として、例えば、非磁性支持体上に塗布された下層非記録層が湿潤状態にあるうちに磁性分散液を同時または逐次に塗布する、いわゆるウェット・オン・ウェット方式が知られている。
この成膜方式は、生産性やコストの面から優れているが、下層非磁性層と上層磁性層の塗布液の粘弾性特性が近似していないと重層塗布が良好に実施できず、最終的に塗布欠陥や磁性層表面状態の劣化を招来し、特に薄層型の磁性層を成膜する場合において、表面性の劣化が著しくなるという問題を有している。
また、下層非磁性層が湿潤状態において上層を塗布するので、層間の界面の乱れによる塗布欠陥が不可避的に生じてしまうという課題があり、このような塗布欠陥は、ノイズ発生の原因となり、電磁変化特性の劣化を招来し、特に、薄層の磁性層を形成する上での課題となっていた。
【0004】
一方、他の重層塗布方式として、支持体上に下層非磁性層を塗布した後、乾燥処理とカレンダー処理を行って表面を平滑化し、さらに電子線照射による硬化処理を施した後に、磁性層を形成するという方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
この方法は、上述したウェット・オン・ウェット方式と異なり、下層非磁性層に乾燥処理を施した後に磁性塗料を塗布するので、下層非磁性層と磁性層との層間の界面の乱れによる塗布欠陥が生じにくく、特に極めて磁性層を薄層に形成する超高密度型の磁気記録媒体において、磁性層に微小ピンホールが現われ難いという利点を有している。
【0005】
しかしながら、上記いわゆるウェット・オン・ドライ方式により上層の磁性層を、例えば50nm以下もの薄層に形成する場合、成膜工程中、磁性層は、下層の非磁性層からの溶剤の提供が受けられないため、磁性層の乾燥速度は極めて速くなり、その後工程において、磁場配向処理を行う際に、磁性粉の配向度が上がらず、良好な電磁変換特性を得られなくなってしまうという問題が生じた。
【0006】
このような問題を解決するためには、磁性層の乾燥速度を緩やかにし、磁性塗料が湿潤状態のうちに配向処理を行うことが必要である。
従来においては、磁性塗料の溶剤による希釈量を増やす方法(例えば、特許文献3参照。)、磁性塗料の溶剤成分に沸点の高い材料を選定する方法、下層非磁性層表面に電子線照射硬化して下層の溶剤吸収度を低減化させる方法(例えば、特許文献4参照。)、磁性層の溶剤量と乾燥条件について条件を設ける方法(例えば、特許文献5参照。)が提案されていた。
【0007】
【特許文献1】特開2000−207732号公報
【特許文献2】特開2001−84553号公報
【特許文献3】特開2003−340348号公報
【特許文献4】特開2002−367159号公報
【特許文献5】特開平9−282655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3のように有機溶剤によって磁性塗料の希釈量を高くすると、必然的に分散性が不安定になり、また、特許文献4のように溶剤の種類を限定すると、磁性層そのものの磁気特性が制約されてしまったり、塗布性が悪化したりする等の問題が生じた。
また、従来公知のウェット・オン・ドライ方式における、下層表面に電子線照射により硬化処理を行って溶剤吸収度を低減化させる場合においては、硬化時間が非常に短いため、条件の制御が実用上困難であり、磁性塗料塗布後、カレンダー処理を行うと、層構成が劣化してしまう等の問題を有していた。
更には、特許文献5の技術においても磁性層の溶剤量や溶剤種が限定されてしまい、製造条件や磁性層の磁気特性そのものがかなり制約されてしまうという問題を有している。
【0009】
そこで本発明においては、50nm以下もの極めて薄層の磁性層を有する磁気記録媒体の作製に関し、ピンホールの発生を抑制し、かつ高配向性を確保し、高い角形比を実現可能とする製造方法、及びこれに用いる製造装置を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、支持体上に下層非磁性層と膜厚50nm以下の磁性層とが積層形成されている磁気記録媒体を製造する方法に係るものであり、前記支持体上に、少なくとも結合剤樹脂と非磁性顔料とを含有する非磁性塗料を塗布し、乾燥処理を施し、下層非磁性層を形成する工程と、前記下層非磁性層上に、少なくとも結合剤樹脂と、磁性粉末とを含有する磁性塗料を塗布する工程と、配向装置で磁場配向処理を行う工程とを有するものとし、特に、磁性塗料の塗布から磁場配向処理までの到達時間を0.05秒以下にし、磁場配向処理における磁場強度を0.8T以上1.6T未満とし、最終的に得られる磁気記録媒体の角形比を85%以上とするものである。
【0011】
また、本発明の磁気記録媒体の製造装置は、連続して走行する長尺状の被処理体に対して、膜厚50nm以下の磁性層の塗布工程を行う塗布装置と、前記磁性層に対する磁場配向処理を行う配向装置とを具備するものとし、前記被処理体が、前記塗布装置から前記配向装置まで到達する時間が0.05秒以内になるようにされており、配向装置の磁場強度は0.8T以上1.6T未満であるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウェット・オン・ドライ方式により積層形成された下層非磁性層と磁性層との界面におけるゆらぎが抑制され、かつ薄層磁性層のピンホールの発生が効果的に低減化できた。
また、高配向度化が実現でき、高い角形比を有する超薄型の高密度型磁気記録媒体が得られた。
更には、磁性塗料の希釈量や溶剤種類に関して制限されることなく、分散性についても最終的に目的とする磁気特性に応じて適正な条件を選択できるので、電磁変換特性の劣化を回避でき、製造条件の自由度を高く保つことができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照して説明するが、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、図1に示すような構成を有する、長尺状の支持体1に下層非磁性層2と膜厚50nm以下の磁性層3とが積層形成されている磁気記録媒体10を製造する方法、及びこれに用いる製造装置に関するものである。
【0015】
先ず、磁気記録媒体の製造方法について、一例として図2のような構成の製造装置100を示して説明する。
この装置100は、連続走行する長尺状の支持体(被処理体)1に対し、所定の塗布液を塗布するエクストルージョン型の塗布手段を具備しており、支持体(被処理体)1の走行方向(図中、矢印方向)に、精密ギアポンプ104により制御され、下層非磁性層用の塗料、及び磁性層形成用の塗料とを塗布するダイ101と、磁性塗料が塗布された後に磁場配向を行う配向装置102と、乾燥処理を行う乾燥装置103とが設けられている。
【0016】
長尺状の支持体(被処理体)1を連続的に走行させ、塗布装置のダイ101で下層非磁性層用の塗料を塗布し、乾燥装置103で乾燥処理が行い、下層非磁性層2を形成し、巻き取りを行う。
続いて、下層非磁性層2が形成された後の被処理体を再度、連続的に走行させ、塗布装置のダイ101で磁性塗料を塗布し、その後、所定の配向装置104において磁場配向を行い、続いて乾燥装置105で乾燥処理を施し、巻き取りを行い、所定の次工程に送り込み、最終的に目的とする磁気記録媒体10を得る。
【0017】
本発明においては、特に、磁性層3の膜厚を50nm以下とする極めて高密度記録型の磁気記録媒体を、いわゆるウェット・オン・ドライ方式により作製するものであるから、磁性塗料が未乾燥のうちに、磁場配向を行うことが重要である。
かかる点に鑑み、本発明においては、磁性塗料の塗布から磁場配向処理までの到達時間を0.05秒以下に特定することとした。更に、磁場配向処理における磁場強度を0.8T以上1.6T未満とした。
【0018】
上記のように、磁性塗料の塗布から磁場配向処理までの到達時間を、0.05秒以下のような短時間とするためには、磁性塗料の塗布を行うダイ101と、配向装置102との距離を狭め、これらを近接して設けた構成とすることが有効な手段である。
【0019】
例えば、配向装置102に関して、図2中の破線A内の構成において、図3の拡大概略図に示すように、対の構成の永久磁石Mag.1を被処理体を両側から挟むように配置したり、小型の永久磁石Mag.2をダイ101に極めて近接した位置に配置したりする構成が挙げられる。
また、図4に示すように、ダイ101に近接した位置にソレノイドコイルCを配置することも有効である。
両者を比較すると、磁性粉末の配向方向に対して反対方向の磁場の発生しないソレノイドコイルCが、磁場配向を行うものとしてより好適である。
【0020】
また、図3、及び図4に示すように、対の構成の永久磁石Mag.1や、小型の永久磁石Mag.2やソレノイドコイルCを、ダイ101に近接して設ける場合、ダイリップが着磁すると、磁性層の不良塗布を生じてしまうので、ダイリップは非磁性の材料により構成されていることが好ましい。
【0021】
具体的に、図4に示すように、磁性塗料の塗布を行うダイ101に近接して、配向装置として、磁場強度1.0Tで磁場長が500mmのソレノイドコイルCを配置し、連続走行する被処理体の走行速度を、100、150、200、150、300m/minの5段階に変化させて、ダイ101から配向装置に到るまでの時間を制御して、配向処理を行った後の磁性層の角形比を測定した。
測定結果を図5に示す。
図5から明らかなように、磁性塗料の塗布から磁場配向処理までの到達時間を、0.05秒以下にすると、最終的に得られる磁性層において、85%以上の高い角形比が実現できることが確かめられた。
【0022】
次に、本発明により作製する磁気記録媒体の構成について説明する。
支持体1は、従来公知のテープ型の磁気記録媒体の基体として使用されるものをいずれも適用できる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等のプラスチック等が挙げられる。
【0023】
下層非磁性層2は、少なくとも結合剤樹脂、非磁性顔料、及び各種添加剤を、有機溶剤を用いて混合、調製した塗料を塗布し、これに乾燥処理を施すことによって形成される。
非磁性顔料としては、従来、磁性層の下層として形成する非磁性層用の無機微粒子粉末をいずれも使用可能である。
例えば、アルミナ、酸化鉄、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、ゲータイト、窒化珪素、チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデン等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、あるいは組合せて用いてもよい。形状は、針状、球状、板状、サイコロ状のいずれでもよい。
また、最終的に得られる磁気記録媒体に適用する高感度型磁気ヘッド(MRヘッドやGMRヘッド)の静電破壊を抑制するため、導電剤を添加することが好ましい。導電剤は公知のものいずれも使用可能であり、たとえば、カーボンブラックや導電性酸化チタン等が挙げられる。
【0024】
下層非磁性層2を構成する結合剤樹脂としては、従来公知のバインダー樹脂がいずれも適用可能である。
例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体、熱可塑性ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフッ化ビニル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、尿素−ホルムアルデヒト樹脂またはこれらの混合物等が挙げられる。
特に、柔軟性を付与するとされているポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等と剛性を付与するとされているセルロース誘導体、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が好ましい。これらは、イソシアネート化合物を架橋剤としてより耐久性を向上させたりしても良い。
【0025】
塗料調整用の有機溶剤としては、従来公知の溶剤をいずれも適用可能である。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸グリコールモノエチルエステル等のエステル系溶剤、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロロヒドリン、ジクロロベンゼン等の有機塩素化合物系溶剤が挙げられる。
【0026】
磁性層3は、少なくとも磁性粉末と結合剤樹脂とを、有機溶剤を用いて、混合、調製した塗料を、精密ギアポンプ130により制御してダイ110に供給し、これにより塗布することによって形成される。
磁性粉末としては、従来塗布型の磁気記録媒体用に適用されている強磁性粒子をいずれも適用可能である。
例えば、強磁性酸化鉄粒子、強磁性二酸化クロム、強磁性バリウムフェライト、強磁性合金粉末、強磁性白金鉄、強磁性窒化鉄等が挙げられる。
【0027】
磁性層3形成用の結合剤としては、塗布型の磁気記録媒体に適用されるバインダーであれば、いずれも適用することができる。具体的には、上述した下層非磁性層形成用の結合剤樹脂をいずれも適用できる。
【0028】
また、磁性塗料調製用の有機溶剤としては、従来、塗料調製用の溶剤として用いられているものをいずれも適用可能であり、上述した下層非磁性層形成用の有機溶剤をいずれも適用できる。
【0029】
本発明において磁性層3の膜厚は特に50nm以下とする。本発明は極めて高密度記録型の磁気記録媒体を作製することを目的とするものであり、高感度型の再生用磁気ヘッド(MRヘッド、GMRヘッド)を用いて信号再生をする場合、磁性層の膜厚が50nmを超えると、再生ヘッドの諸元(MR素子の飽和磁束密度、膜厚、及びSAL(Soft-Adjacent-Layer)膜の飽和磁束密度、膜厚等)の条件によっては飽和してしまい、電磁変換特性(C/N)が劣化するためである。
【実施例】
【0030】
〔実験例1〜25〕
下記に述べるように、具体的にサンプル磁気テープを作製し、それぞれの角形比を測定した。
(支持体)
膜厚4.5μmの、帝人(株)社製のネオテックス(登録商標)フィルムを使用した。
(下層非磁性層)
第1の無機粒子:α−酸化鉄
(長軸長50nm、BET値87m2/g):100重量部
第2の無機粒子:カーボンブラック:24重量部
(粒径20nm、DBP吸油量120ml/100g)
第1の結合剤:塩化ビニル系共重合体(平均重合度300):9重量部
第2の結合剤:ポリエステル系ポリウレタン樹脂:9重量部
(量平均分子量41200、Tg40℃)
潤滑剤:ブチルステアレート:2重量部
:ステアリン酸:1重量部
有機溶剤:メチルエチルケトン:20重量部
:トルエン:20重量部
:シクロヘキサノン:10重量部
上記材料を混練処理し、さらに溶剤で固形分30wt%に希釈した後、サンドミル分散し、下層非磁性層用の分散液とした。
その後、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製硬化剤(コロネートL))を、3重量部添加し、下層非磁性層用の塗料を調製した。
この塗料を上記支持体上に乾燥膜厚1.0μmとなるように塗布し、乾燥処理を施し、下層非磁性層2を形成した。
(磁性層)
強磁性粉末:Fe−Co系針状磁性粉:100重量部
(長軸長60nm、短軸長16nm、保磁力213kA/m、磁化量127Am/kg)
第1の結合剤:塩化ビニル系共重合体(平均重合度300):9重量部
第2の結合剤:ポリエステル系ポリウレタン樹脂:9重量部
(量平均分子量41200、Tg40℃)
潤滑剤:ステアリン酸:1重量部
:ステアリン酸ブチル:2重量部
溶剤:メチルエチルケトン:20重量部
:トルエン:20重量部
:シクロヘキサノン:10重量部
上記材料をニーダーで混練処理し、さらにメチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノンで、固形分15wt%に希釈した後、サンドミル分散し上層記録層用分散液とした。
その後、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製硬化剤「コロネートL」)を4重量部添加し、攪拌して磁性層形成用の塗料を調整した。
上記磁性塗料を、下層非磁性層を成膜した支持体(被処理体)に、乾燥膜厚30nmとなるように塗布した。
ここで、塗料の塗布速度を200〜300m/minの範囲で変化させ、ダイから配向装置までの距離を200mmとして、塗布用のダイ101から配向装置102に到達するまでの時間を制御した。
被処理体の走行速度が速いほど、配向装置に到達する時間が短くなるが、走行速度が速すぎると、膜形成が困難になるため、塗布速度の上限は300m/minとした。
配向装置としては、図4に示したように、ソレノイドコイルをダイ101に近接して設けることとし、配向磁場の強度は0.8T〜1.6Tの範囲で調節した。
上記条件で磁性層の配向処理を行い、続いて乾燥処理を行い、その後、所定の磁気記録媒体の製造工程を経ることにより、目的とするサンプル磁気テープを得た。
【0031】
サンプル磁気テープに対し、磁性層の角形比を、東英工業製VSM−P7を用いて測定した。
【0032】
下記表1に、サンプル磁気テープ(実験例1〜25)の作製条件(磁性塗料の塗布速度(走行速度)、ダイと配向装置との距離、ダイから配向装置までの到達時間、印加した磁場強度)と、最終的に得られた磁気テープの磁性層の角形比の測定結果を示した。
【0033】
【表1】

【0034】
上記表1に示す実験例4、5、9、10、14、15、18〜20の結果から、ダイ(塗布装置)から配向装置までの到達時間が0.05秒未満となるようにすれば、配向装置のソレノイドコイルの磁場強度が0.8T以上1.6T未満とした広い範囲において、膜厚50nmもの薄層の磁性層を形成する場合においても、充分に配向効果が得られて、高配向度が確保され、85%以上の高い角形比が実現できた。
【0035】
一方、ダイ(塗布装置)から配向装置までの到達時間が0.05秒以上となると、本発明のように、いわゆるウェット・オン・ドライ方式によって極めて薄層の磁性層を形成する場合、塗布膜の乾燥が起きてしまい、磁性粉末の充分な配向を行うことができず、85%以上の角形比が得られなかった。
また、配向装置の磁場強度を1.6T以上とすると、ソレノイドコイルの発熱や、配向装置の磁場の影響により、磁性層の塗布破綻が生じてしまった。
【0036】
上述したことから明らかなように、膜厚50nm以下の磁性層を有する磁気記録媒体を製造する場合において、磁性塗料の塗布から磁場配向処理までの到達時間が0.05秒以下となるようにし、磁場配向処理における磁場強度を0.8T以上1.6T未満としたことにより、85%以上の角形比が実現でき、優れた電磁変換特性を有する高記録密度型の磁気記録媒体が作製できた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明方法において作製する磁気記録媒体の一例の概略断面図を示す。
【図2】本発明方法に係る磁気記録媒体の製造装置の一例の概略構成図を示す。
【図3】磁気記録媒体の製造装置の要部の概略構成図を示す。
【図4】磁気記録媒体の製造装置の要部の他の一例の概略構成図を示す。
【図5】配向装置への到達時間と角形比との関係を示す。
【符号の説明】
【0038】
1……支持体、2……下層非磁性層、3……磁性層、10……磁気記録媒体、100……製造装置、101……ダイ(塗布装置)、102……配向装置、103……乾燥装置、104……精密ギアポンプ、Mag.1,Mag.2……永久磁石、C……ソレノイドコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、下層非磁性層と、膜厚50nm以下の磁性層とが積層形成されている磁気記録媒体の製造方法であって、
前記支持体上に、少なくとも結合剤樹脂と非磁性粒子とを含有する非磁性塗料を塗布し、乾燥処理を施し、下層非磁性層を形成する工程と、
前記下層非磁性層上に、少なくとも結合剤樹脂と磁性粉末とを含有する磁性塗料を塗布する工程と、
配向装置で磁場配向処理を行う工程とを有し、
前記磁性塗料の塗布から、前記磁場配向処理までの到達時間が0.05秒以下であり、
前記磁場配向処理における磁場強度が0.8T以上1.6T未満であり、
最終的に得られる磁気記録媒体の角形比を85%以上とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁場配向処理において、ソレノイドコイルを適用することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
最終的に得られる磁気記録媒体が、信号再生用磁気ヘッドとして、磁気抵抗効果型ヘッド(MRヘッド)、若しくは巨大磁気抵抗効果型ヘッド(GMRヘッド)を適用するものであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
連続して走行する長尺状の被処理体に対して、膜厚50nm以下の磁性層の塗布工程を行う塗布装置と、
前記磁性層に対する磁場配向処理を行う配向装置とを具備する磁気記録媒体の製造装置であって、
前記被処理体が、前記塗布装置から前記配向装置まで到達する時間が0.05秒以内になされており、
前記配向装置の磁場強度が0.8T以上1.6T未満であることを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【請求項5】
前記配向装置が、ソレノイドコイルを具備していることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体の製造装置。
【請求項6】
前記塗布装置のダイが、非磁性材料によりなるものであることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−331575(P2006−331575A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155607(P2005−155607)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】