磁気記録媒体及び磁気記録再生装置
【課題】磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を容易に低減できる垂直記録型の磁気記録媒体及びこのような磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体16は、基板24と、軟磁性層26と、断熱層28と、配向層30と、記録層12と、を有し、これらの層がこの順で基板24の上に形成され、断熱層28の熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い。
【解決手段】磁気記録媒体16は、基板24と、軟磁性層26と、断熱層28と、配向層30と、記録層12と、を有し、これらの層がこの順で基板24の上に形成され、断熱層28の熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の印加及び加熱により磁気データが記録され、磁気データが磁気的に再生される磁気記録媒体及びこれを備えた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク等の磁気記録再生装置は、記録ヘッドや再生ヘッドの加工の微細化、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性粒子の微細化や材料の変更等の改良により著しい面記録密度の向上が図られている。一方、記録層を構成する磁性粒子の微細化に伴い熱揺らぎが生じやすくなるという問題がある。
【0003】
これに対し近年、基板と、軟磁性層と、記録層の配向性を高めるための配向層と、磁気記録媒体の表面に垂直な方向に記録層が磁化されるように配向された記録層と、を有し、これらの層がこの順で基板の上に形成された磁気記録媒体を備え、磁気記録媒体の表面に垂直な方向に記録層が磁化されるように構成された垂直記録型の磁気記録再生装置が普及しつつある。
【0004】
更に、従来よりも磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい材料で構成された記録層を有する磁気記録媒体と、加熱ヘッドと、記録ヘッドと、を備え、加熱ヘッドが光ビームの照射等により記録層を部分的に加熱して保磁力を一時的に低減し、被加熱部に記録ヘッドが記録磁界を印加して磁気データの記録を行うように構成された熱アシスト型の磁気記録再生装置が提案されている。
【0005】
熱アシスト型の磁気記録再生装置に垂直記録型の磁気記録媒体を採用することで相乗的な面記録密度の向上が期待される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2008−34004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、加熱ヘッドが光ビームの照射等により記録層を加熱しても記録ヘッドが発する記録磁界で磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を充分に低減できないことがあった。特に垂直記録型の磁気記録媒体を採用した場合、磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を充分に低減しにくいことがわかった。
【0008】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を容易に低減できる垂直記録型の磁気記録媒体及びこのような磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層の熱伝導率よりも低い断熱層を軟磁性層と配向層との間に形成することにより、上記目標を達成したものである。
【0010】
発明者らは、本発明に想到する過程において上記のように垂直記録型の磁気記録媒体を採用した場合、特に磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を充分に低減しにくいことに気づき、その原因について鋭意検討した。この結果、垂直記録型の磁気記録媒体は、記録層の下に軟磁性層を備え、軟磁性層は金属が主成分である材料で構成されているため熱伝導率が高く、更に軟磁性層は記録層よりも著しく厚く、記録層の被加熱部に付与された熱が軟磁性層に吸収されやすいため、記録層の被加熱部の温度が充分に上昇しないために保磁力が充分に低減されないと推察した。
【0011】
これに対し、熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層の熱伝導率よりも低い断熱層を軟磁性層と配向層との間に形成することにより、記録層の被加熱部から軟磁性層への熱伝導を抑制し、記録層の被加熱部の温度を充分に上昇させることができる。
【0012】
即ち、次のような本発明により、上記課題の解決を図ることができる。
【0013】
(1)基板と、軟磁性層と、断熱層と、配向層と、記録層と、を含み、これらの層が前記基板の上にこの順で形成され、前記断熱層の熱伝導率が前記配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、前記軟磁性層の熱伝導率よりも低いことを特徴とする磁気記録媒体。
【0014】
(2)(1)において、前記配向層は金属が主成分である材料で構成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0015】
(3)(1)又は(2)において、前記記録層が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素が前記凹凸パターンの凸部で形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0016】
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体と、前記記録層を加熱するための加熱ヘッドと、前記記録層に記録磁界を印加するための記録ヘッドと、前記記録層の再生磁界を検知するための再生ヘッドと、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【0017】
尚、本出願において「記録層が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素が凹凸パターンの凸部で形成された磁気記録媒体」とは、所定のパターンで多数の記録要素に分割された記録層を備える磁気記録媒体の他、凹部が厚さ方向の途中まで形成され基板側の面が連続した記録層を備える磁気記録媒体、凹凸パターンの基板や下層の表面に倣って形成された連続した記録層を備える磁気記録媒体、凹凸パターンの基板や下層の凸部の上面及び凹部の底面に分割されて形成されて凸部の上面に形成された部分が記録要素を構成する記録層を備える磁気記録媒体も含む意義で用いることとする。
【0018】
又、本出願において「磁気記録媒体」という用語は、ハードディスクの他、フロッピー(登録商標)ディスク等の他の磁気記録媒体も含む意義で用いることとする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を容易に低減できる垂直記録型の磁気記録媒体及びこのような磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1〜4に示されるように、本発明の第1実施形態に係る磁気記録再生装置10は、記録層12が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素12Aが凹凸パターンの凸部で形成された垂直記録型の磁気記録媒体16と、記録要素12Aを加熱して記録要素12Aの保磁力を低減するための加熱ヘッド18と、記録要素12Aに記録磁界を印加するための記録ヘッド20と、記録要素12Aの再生磁界を検知するための再生ヘッド22と、を備えている。
【0022】
磁気記録媒体16は、略円板状体のパターンドメディアであり、図示しないモータにより駆動されて図1等に示される周方向DCの矢印の向きに回転するようになっている。
【0023】
磁気記録媒体16は、基板24と、軟磁性層26と、断熱層28と、配向層30と、記録層12と、を有し、これらの層がこの順で基板24の上に形成され、断熱層28の熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い。又、断熱層28の熱伝導率は、記録層12の熱伝導率よりも低い。又、記録要素12Aの間の凹部は記録層12よりも熱伝導率が低い充填材32で充填されている。又、記録要素12A及び充填材32の上には、保護層34、潤滑層36がこの順で形成されている。
【0024】
記録層12は、厚さが5〜30nmである。記録層12の材料としては例えば垂直磁気異方性エネルギーが1×106erg/cc以上の材料を用いることができる。記録層12の具体的な材料としては、CoCrPt合金等のCoCr系合金、CoPt系合金、FePt系合金、これらの積層体、Co/Pd多層膜、Co/Pt多層膜等を挙げることができる。記録層12の熱伝導率は、例えば10〜120W/m・Kである。
【0025】
記録層12の凸部である記録要素12Aはデータ領域においてトラック14が周方向DCに微細な間隔で分割された形状で形成されている。即ち、記録要素12Aは各トラック14において周方向DCに複数並設されており、図1及び4はこれを示している。各記録要素12Aは1つの記録ビットに相当する(1つの記録要素12Aに1つの記録ビットが記録される)。尚、図2に示されるように、記録要素12Aはデータ領域においてトラック幅方向DTWにも微細な間隔で分割されている。又、記録層12はサーボ領域では所定のサーボ情報等のパターンに相当する凹凸パターンで形成されている(図示省略)。
【0026】
基板24は、中心孔を有する略円板形状である。基板24の材料としてはガラス、Al、Al2O3等を用いることができる。
【0027】
軟磁性層26は、厚さが20〜300nmである。軟磁性層26の材料としてはFe合金、Co合金等を用いることができる。軟磁性層26の熱伝導率は、例えば30〜100W/m・Kである。
【0028】
断熱層28は、厚さが2〜40nmである。断熱層28の熱伝導率は0.1〜10W/m・Kであることが好ましい。又、断熱層28の熱伝導率は、配向層30の熱伝導率や軟磁性層26の熱伝導率の1/10以下であることが好ましい。又、断熱層28の熱伝導率は、配向層30の熱伝導率の1/100以下であることが更に好ましい。断熱層28の材料としてはSiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物等の非磁性の材料を用いることができる。尚、本出願において「非磁性の材料」とは、強磁性材料ではなく、反強磁性材料でもない材料という意味で用いることとする。
【0029】
配向層30は、記録層12の下面に接している。配向層30の厚さは2〜40nmである。配向層30はRu等の金属又は金属が主成分である材料で構成されていることが好ましい。Ru以外の配向層30の材料としては、RuとTaの積層体、CoCr合金、Ti等の金属やMgO等の非磁性の材料を用いることができる。配向層30の熱伝導率は、例えば30〜150W/m・Kである。尚、本第1実施形態では、記録要素12Aを分割する凹部は、配向層30の厚さ方向の途中の位置まで形成されている。
【0030】
充填材32としては、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物、C(炭素)、Si、Ge、CuやCrのような非磁性の金属、樹脂材料等を用いることができる。充填材32の熱伝導率は、例えば0.1〜110W/m・Kである。
【0031】
保護層34は、厚さが1〜5nmである。保護層34の材料としてはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)を用いることができる。
【0032】
潤滑層36は、厚さが1〜2nmである。潤滑層36の材料としてはPFPE(パーフロロポリエーテル)を用いることができる。
【0033】
加熱ヘッド18は、磁気記録媒体16の上面に近接して配置され、磁気記録媒体16に近接場光を照射することにより磁気記録媒体16を部分的に加熱するように構成されている。加熱ヘッド18は具体的には図2及び3に示されるように、光源ユニット18Aと、導波路層18Bと、対向金属層18Cと、近接場光ギャップ部18Dと、を備えている。光源ユニット18Aは、レーザーダイオード等を備え、発した光を導波路層18Bの上端部(磁気記録媒体16と反対側の端部)に出射するようになっている。導波路層18Bは磁気記録媒体16の周方向DCの厚さがトラック幅方向DTWの幅よりも薄い薄膜状の部材であり、上端の幅よりも磁気記録媒体16側の下端の幅が細い形状である。導波路層18Bの材料としてはSiO2、Al2O3、Ta2O5、Nb2O5、TiO、TiO2等の誘電体を用いることができる。対向金属層18Cは、導波路層18Bにおけるトラック幅方向DTWの両側に沿って一対設置されている。対向金属層18Cの材料としてはAu、Pd、Pt、Rh、Ir等の金属、又はこれらの金属の合金、又はこれらの金属や合金にAlやCuが添加された導電体を用いることができる。近接場光ギャップ部18Dは、導波路層18Bの下端に設置されている。近接場光ギャップ部18Dの材料としては導波路層18Bの材料と同じ材料を用いることができる。近接場光ギャップ部18Dのトラック幅方向DTWの幅は10〜300nmである。近接場光ギャップ部18Dの周方向DCの長さは10〜200nmである。又、近接場光ギャップ部18Dの磁気記録媒体の厚さ方向の厚さは10〜500nmである。図2中の近接場光ギャップ部18Dの下の複数の矢印は加熱ヘッド18が近接場光ギャップ部18Dから記録要素12Aに照射する光を模式的に示したものである。
【0034】
記録ヘッド20も磁気記録媒体16の上面に近接しており、加熱ヘッド18における磁気記録媒体16の送り方向(図1及び3において周方向DCの矢印で示される方向)の側の近傍に配置されている。記録ヘッド20は、単磁極ヘッドを有し磁気記録媒体16の表面に対して垂直な方向の記録磁界を記録要素12Aに印加するように構成されている。図1中の記録ヘッド20の下の複数の矢印は記録ヘッド20が単磁極ヘッドから記録要素12Aに印加する記録磁界を模式的に示したものである。尚、記録ヘッド20は補助磁極、電磁コイル等も備えているが、補助磁極、電磁コイル等については図示及び説明を省略する。
【0035】
再生ヘッド22も磁気記録媒体16の上面に近接しており、記録ヘッド20における磁気記録媒体16の送り方向と反対側(図1及び3において周方向DCの矢印で示される方向と反対側)の近傍に配置されている。
【0036】
次に、磁気記録再生装置10の作用について説明する。図1等に示される周方向DCの矢印の向きに磁気記録媒体16を駆動しつつ、磁気記録媒体16のサーボ領域に記録されたサーボ情報等に基いて記録目標の記録要素12Aに対して加熱ヘッド18が光を照射すると、磁気記録媒体16における光が照射された部分が加熱されて温度が上昇する。記録層12は合金等の熱伝導率が高い材料で構成されているので記録目標の記録要素12Aは効率良く加熱される。又、配向層30と軟磁性層26との間には熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い断熱層28が形成されているので、記録層12の被加熱部から軟磁性層26への熱伝導は抑制される。従って、記録層12の被加熱部は効率良く加熱され記録目標の記録要素12Aの保磁力が充分に低減される。又、記録要素12Aの間の凹部には記録要素12Aよりも熱伝導率が低い充填材32が充填されているので、記録目標の記録要素12Aの隣の他の記録要素12Aへの伝熱も抑制される。
【0037】
この加熱された記録要素12Aに対して、記録ヘッド20が記録磁界を印加すると、記録要素12Aが磁化され又は磁化の向きが反転される。これにより、記録目標の記録要素12Aに磁気データが記録される。
【0038】
又、図1等に示される周方向DCの矢印の向きに磁気記録媒体16を駆動しつつ、再生ヘッド22が、各記録磁界12Aの再生磁界を検知することにより磁気データが再生される。磁気記録再生装置10は、記録目標の記録要素12Aに確実に磁気データが記録されるので、確実な磁気データの再生が可能である。
【0039】
このように磁気記録再生装置10は、記録層12の下に熱伝導率が高い軟磁性層26や配向層30が形成されていても、軟磁性層26と配向層30との間にこれらよりも熱伝導率が低い断熱層28が形成されているので、磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい記録層12の被加熱部を充分に加熱してその保磁力を磁化又は磁化反転できるレベルまで容易に低減できる。従って、記録目標の記録要素12Aに磁気データを確実に記録し、再生することが可能である。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前記第1実施形態に係る磁気記録媒体16は記録要素12Aがデータ領域においてトラック14が周方向DCに微細な間隔で分割された形状で形成されたパターンドメディアであるのに対し、図5〜7に示されるように本第2実施形態に係る磁気記録媒体40は、記録層42の凸部である記録要素42Aがデータ領域においてトラック幅方向DTWに微細な間隔で分割されてトラック14の形状で形成されたディスクリートトラックメディアであることを特徴としている。尚、記録層42の厚さや材料は前記記録層12の厚さ、材料と同じである。
【0041】
他の構成については前記第1実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜4と同一符号を用いることとして説明を適宜省略する。
【0042】
ディスクリートトラックメディアである磁気記録媒体40の場合も、パターンドメディアである磁気記録媒体16の場合と同様に、記録層42の下に熱伝導率が高い軟磁性層26や配向層30が形成されていても、軟磁性層26と配向層30との間にこれらよりも熱伝導率が低い断熱層28が形成されているので、磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい記録層42の被加熱部を充分に加熱してその保磁力を磁化又は磁化反転できるレベルまで容易に低減できる。従って、記録要素42Aにおける記録目標の部位に磁気データを確実に記録し、再生することが可能である。
【0043】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。前記第1及び第2実施形態に係る磁気記録媒体16、40は、記録層12、42が凹凸パターンで形成され記録要素12A、42Aがデータ領域において1つの記録ビットに相当する形状又はトラック14の形状で形成されたパターンドメディア又はディスクリートトラックメディアであるのに対し、図8及び9に示されるように本第3実施形態に係る磁気記録媒体50は、記録層52が一様な厚さの連続膜であることを特徴としている。尚、記録層52の厚さ、材料は前記記録層12、42の厚さ、材料と同じである。
【0044】
他の構成については前記第1及び第2実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜7と同一符号を用いることとして説明を適宜省略する。
【0045】
記録層52が一様な厚さの連続膜である磁気記録媒体50の場合も、パターンドメディアやディスクリートトラックメディアである磁気記録媒体16、40の場合と同様に、記録層52の下に熱伝導率が高い軟磁性層26や配向層30が形成されていても、軟磁性層26と配向層30との間にこれらよりも熱伝導率が低い断熱層28が形成されているので、磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい記録層52の被加熱部を充分に加熱してその保磁力を磁化又は磁化反転できるレベルまで容易に低減できる。従って、記録層52における記録目標の部位に磁気データを確実に記録し、再生することが可能である。
【0046】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。前記第1及び第2実施形態に係る磁気記録媒体16、40は、記録層12、42と保護層34とが接しているのに対し、図10に示されるように本第4実施形態に係る磁気記録媒体60は、記録層12と保護層34との間に記録層12よりも熱伝導率が高い熱伝導層62が形成されたことを特徴としている。熱伝導層62は、記録要素12Aの上に限定して形成されている。即ち、熱伝導層62は、記録要素12Aと凹凸の位置が同じパターンで形成され、隣り合う熱伝導層62の間には充填材32が充填されている。熱伝導層62の材料としては例えばAl等を用いることができる。
【0047】
他の構成については前記第1及び第2実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜7と同一符号を用いることとして説明を省略する。
【0048】
前記第1及び第2実施形態と同様に本第4実施形態でも、軟磁性層26と配向層30との間に熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い断熱層28が形成されているので、記録層12の被加熱部から軟磁性層26への熱伝導が抑制される。従って、記録層12における所定の記録目標の部位を効率良く加熱することができる。
【0049】
又、記録要素12Aの上に記録要素12Aよりも熱伝導率が高い熱伝導層62が形成されているので、記録要素12Aの温度分布のばらつきを抑制することができる。
【0050】
尚、図10は、前記第1実施形態と同様のパターンドメディアの記録要素12Aの上に熱伝導層62が形成された例を示しているが、前記第2実施形態のようなディスクリートトラックメディアの記録要素42Aの上に熱伝導層を形成した場合も同様に、記録要素42Aの温度分布のばらつきを抑制することができる。
【0051】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
【0052】
前記第1、第2及び第4実施形態において、記録要素12A、42Aの間の凹部は配向層30の厚さ方向の途中の位置まで形成されているが、図11に示されるように、本第5実施形態に係る磁気記録媒体70は、記録要素12Aの間の凹部が断熱層28の厚さ方向の途中の位置まで形成されており、凹部で配向層30が完全に分割されていることを特徴としている。尚、記録要素12Aの間の凹部が配向層30と断熱層28との境界まで形成された構成としてもよい。凹部を充填する充填材32の熱伝導率は、配向層30の熱伝導率よりも低いことが好ましい。又、充填材32の熱伝導率は、軟磁性層26の熱伝導率よりも低いことが好ましい。
【0053】
他の構成については前記第1、第2及び第4実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜7及び10と同一符号を用いることとして説明を省略する。
【0054】
本第5実施形態では、凹部で配向層30が完全に分割されているので、配向層30における記録目標の記録要素12Aの真下の部分から配向層30の他の部分への熱伝導が抑制される。従って、記録目標の記録要素12Aを一層効率良く加熱できる。
【0055】
尚、図11は、前記第1実施形態と同様のパターンドメディアの例を示しているが、前記第2実施形態のようなディスクリートトラックメディアの記録要素42Aの場合も同様に、凹部で配向層30を完全に分割することで配向層30における記録目標の記録要素42Aの真下の部分から配向層30の他の部分への熱伝導が抑制され、記録目標の記録要素42Aを一層効率良く加熱できる。
【0056】
尚、前記第1、第4及び第5実施形態において、パターンドメディアの場合の記録要素12Aの形状として略長方形が例示されているが、記録要素の形状は略楕円形等の略長方形以外の形状としてもよい。
【0057】
又、前記第1〜第5実施形態において、断熱層28の材料としてSiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物等の非磁性の材料が例示されているが、熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い材料であれば断熱層28の材料として他の材料を用いてもよい。
【0058】
又、前記第1〜第5実施形態において、配向層30の材料としてRu、RuとTaの積層体、CoCr合金、Ti等の金属やMgO等の非磁性の材料が例示されているが、記録層12、42、52の配向性を高める効果を有する材料であれば配向層30の材料として他の材料を用いてもよい。
【0059】
又、前記第1〜第5実施形態において、充填材32として、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物、C(炭素)、Si、Ge、CuやCrのような非磁性の金属、樹脂材料等の材料が例示されているが、記録層12よりも熱伝導率が低い非磁性材であれば、充填材32の材料も特に限定されない。
【0060】
又、前記第1、第2及び第4実施形態において、記録要素12A、42Aの間の凹部が配向層30の厚さ方向の途中の位置まで形成されており、前記第5実施形態においては記録要素12Aの間の凹部が断熱層28の厚さ方向の途中の位置、又は配向層30と断熱層28との境界まで形成されているが、断熱層28と軟磁性層26との境界や、更に軟磁性層26の厚さ方向の途中の位置まで凹部を形成してもよい。又、記録層12、42の下面の位置まで凹部を形成してもよい。又、記録層12、42の厚さ方向の途中の位置まで凹部を形成してもよい。尚、この場合、記録層は基板側の面が連続した連続膜である。又、記録層は、凹凸パターンの基板や軟磁性層や配向層等の下層の表面に倣って形成された凹凸パターンの連続膜でもよい。又、記録層は、凹凸パターンの基板や軟磁性層や配向層等の下層の凸部の上面及び凹部の底面に分割されて形成されて凸部の上面に形成された部分が記録要素である構成でもよい。
【0061】
又、前記第1、第2、第4及び第5実施形態において、記録要素12A、42Aの間の凹部を充填材32で充填することにより、表面の凹凸を抑制してヘッド浮上高さを安定させつつ記録対象の記録要素12A、42Aの隣の他の記録要素12A、42Aへの伝熱を抑制しているが、凹部を充填材32で充填することなく充分安定したヘッド浮上高さが得られる場合には、凹部は空隙部としてもよい。
【0062】
又、前記第1〜第5実施形態において、加熱ヘッド18は、近接場光を利用して記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱するように構成されているが、記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱できれば、例えば、加熱ヘッドは、レーザ光源と磁気記録媒体16、40、50、60、70の上面に近接して配置された対物レンズとを有し、対物レンズでレーザ光を絞って磁気記録媒体16、40、50、60、70に照射して記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱する構成としてもよい。又、電子ビームを照射することにより記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱する構成としてもよい。
【0063】
又、前記第1〜第5実施形態において、軟磁性層26が基板24に接して形成されているが、軟磁性層26の下の層に他の層を形成してもよい。例えば、軟磁性層26の下に反強磁性層や下地層を形成してもよい。又、各層が複数の層で構成されていてもよい。
【0064】
又、前記第1〜第5実施形態において、磁気記録媒体16、40、50、60、70は基板24の片面に記録層12、42、52が形成された片面記録式であるが、基板の両面に記録層が形成された両面記録式の磁気記録媒体についても本発明を適用可能である。この場合、加熱ヘッド、記録ヘッド及び再生ヘッドを磁気記録媒体の両側に設置すればよい。
【0065】
[シミュレーション例]
前記第3実施形態と同様の一様な厚さの連続膜の記録層52を有する磁気記録媒体50を備える磁気記録再生装置10の3種類のシミュレーションモデルA、B及びCを作成した。これらシミュレーションモデルA、B及びCは、断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さが相互に異なる。尚、断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さの合計値は、シミュレーションモデルA、B及びCのいずれも20nmで等しい。又、シミュレーションモデルA、B及びCは、断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さ以外の構成は等しい。尚、シミュレーションモデルA、B及びCでは磁気記録媒体50の保護層34及び潤滑層36は省略されている。又、加熱ヘッドから磁気記録媒体50にはレーザ光が照射されるものとした。
【0066】
又、シミュレーションモデルA、B及びCに対し、磁気記録媒体50から断熱層28を省略した構成のシミュレーションモデルDを作成した。尚、シミュレーションモデルDの配向層30の厚さは20nmであり、シミュレーションモデルA、B及びCの断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さの合計値と等しい。断熱層28及び配向層30以外の構成についてはシミュレーションモデルDはシミュレーションモデルA、B及びCと等しい。
【0067】
又、シミュレーションモデルA、B及びCに対し、磁気記録媒体50から配向層30を省略した構成のシミュレーションモデルEを作成した。尚、シミュレーションモデルEの断熱層28の厚さは20nmであり、シミュレーションモデルA、B及びCの断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さの合計値と等しい。断熱層28及び配向層30以外の構成についてはシミュレーションモデルEはシミュレーションモデルA、B及びCと等しい。
【0068】
シミュレーションモデルA、B、C、D及びEの磁気記録媒体の具体的な構成を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
又、加熱ヘッドが磁気記録媒体50に照射するレーザ光に関する条件を以下のように設定した。
【0071】
レーザ光の波長:600nm
レーザ光のスポット径:600nm
レーザ光のパワー:10mW
磁気記録媒体の表面における反射率:70%
【0072】
加熱ヘッドが照射するレーザ光のパワー10mWの70%が磁気記録媒体の表面において反射されるため、磁気記録媒体に付与されるレーザ光の実効的なパワーは3mWである。
【0073】
又、上記のスポット径は記録層52の表面におけるスポット径である。尚、このスポット径は、図12に例示されるような、レーザ光が照射される部位の中心からの位置とレーザ光のパワーとの関係を示すガウシアン分布によるエネルギー分布において、ピークパワーを1として、レーザ光のパワーが1/e2に減衰する位置の直径である。
【0074】
又、磁気記録媒体50において加熱ヘッドからレーザ光が照射される被加熱部の周方向DCの線速度は7.5m/sに設定した。尚、この線速度7.5m/sは例えば磁気記録媒体が回転速度3600rpmで回転している場合の中心から半径が20mmの部位の線速度に相当する。
【0075】
又、シミュレーションモデルにはランベルトの法則を適用した。具体的には、強度がI0で波長がλ0の光が、消衰係数がκの媒質内をdの距離を進んだ場合の光の強度Iは次式で与えられる。
【0076】
I=I0exp(−4πκd/λ0)
【0077】
記録層52、配向層30及び軟磁性層26の消衰係数は近似的に4に設定した。又、断熱層28、基板24の消衰係数は近似的に0に設定した。又、各層の境界面における反射率は0とみなした。即ち、磁気記録媒体内における各層の境界面における反射は無視した。
【0078】
以上の条件でシミュレーションを実行し、記録層52の被加熱部の昇温率(%)を算出した。尚、この昇温率は、各シミュレーションモデルにおける記録層52の被加熱部の温度の上昇量をΔT(K)、断熱層が形成されていないシミュレーションモデルDにおける記録層52の被加熱部の温度の上昇量をΔTD(K)、として次式で与えられる。
【0079】
昇温率(%)=100×(ΔT−ΔTD)/ΔTD
【0080】
算出結果を図13に示す。図13に示されるように、断熱層28の厚さが厚い程、記録層52の被加熱部の昇温率が増加することがわかった。例えば、断熱層28の厚さが15nmのシミュレーションモデルCは昇温率が約100%であり、断熱層が形成されていないシミュレーションモデルDに対し記録層52の被加熱部の温度の上昇量が約2倍であった。尚、配向層が形成されておらず断熱層28の厚さが20nmのシミュレーションモデルEは昇温率が更に高かったが、記録層を好適に配向させるために実際には配向層が必要である。軟磁性層26と配向層30との間に断熱層28を形成することで、記録層を好適に配向できると共に記録層52の被加熱部の温度を著しく高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、磁界の印加及び加熱により磁気記録媒体に磁気データを記録し、磁気データを磁気記録媒体から磁気的に再生する磁気記録再生装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図2】図1におけるII−II線に沿う磁気記録媒体のトラック幅方向に沿う側断面図
【図3】図1におけるIII−III線に沿う磁気記録媒体側から見た加熱ヘッド、記録ヘッド及び再生ヘッドの平面図
【図4】図1におけるIV−IV線に沿う記録ヘッド側から見た磁気記録媒体の平面図
【図5】本発明の第2実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図6】図5におけるVI−VI線に沿う磁気記録媒体のトラック幅方向に沿う側断面図
【図7】図5におけるVII−VII線に沿う記録ヘッド側から見た磁気記録媒体の平面図
【図8】本発明の第3実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体のトラック幅方向に沿う側断面図
【図9】図8におけるIX−IX線に沿う記録ヘッド側から見た磁気記録媒体の平面図
【図10】本発明の第4実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図11】本発明の第5実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図12】シミュレーション例に係るレーザ光のスポット径の定義を示すエネルギー分布のグラフ
【図13】同シミュレーション例における断熱層の厚さと記録層の昇温率との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0083】
10…磁気記録再生装置
12、42、52…記録層
12A、42A…記録要素
14…トラック
16、40、50、60、70…磁気記録媒体
18…加熱ヘッド
20…記録ヘッド
22…再生ヘッド
24…基板
26…軟磁性層
28…断熱層
30…配向層
32…充填材
34…保護層
36…潤滑層
62…熱伝導層
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の印加及び加熱により磁気データが記録され、磁気データが磁気的に再生される磁気記録媒体及びこれを備えた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク等の磁気記録再生装置は、記録ヘッドや再生ヘッドの加工の微細化、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性粒子の微細化や材料の変更等の改良により著しい面記録密度の向上が図られている。一方、記録層を構成する磁性粒子の微細化に伴い熱揺らぎが生じやすくなるという問題がある。
【0003】
これに対し近年、基板と、軟磁性層と、記録層の配向性を高めるための配向層と、磁気記録媒体の表面に垂直な方向に記録層が磁化されるように配向された記録層と、を有し、これらの層がこの順で基板の上に形成された磁気記録媒体を備え、磁気記録媒体の表面に垂直な方向に記録層が磁化されるように構成された垂直記録型の磁気記録再生装置が普及しつつある。
【0004】
更に、従来よりも磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい材料で構成された記録層を有する磁気記録媒体と、加熱ヘッドと、記録ヘッドと、を備え、加熱ヘッドが光ビームの照射等により記録層を部分的に加熱して保磁力を一時的に低減し、被加熱部に記録ヘッドが記録磁界を印加して磁気データの記録を行うように構成された熱アシスト型の磁気記録再生装置が提案されている。
【0005】
熱アシスト型の磁気記録再生装置に垂直記録型の磁気記録媒体を採用することで相乗的な面記録密度の向上が期待される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2008−34004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、加熱ヘッドが光ビームの照射等により記録層を加熱しても記録ヘッドが発する記録磁界で磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を充分に低減できないことがあった。特に垂直記録型の磁気記録媒体を採用した場合、磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を充分に低減しにくいことがわかった。
【0008】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を容易に低減できる垂直記録型の磁気記録媒体及びこのような磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層の熱伝導率よりも低い断熱層を軟磁性層と配向層との間に形成することにより、上記目標を達成したものである。
【0010】
発明者らは、本発明に想到する過程において上記のように垂直記録型の磁気記録媒体を採用した場合、特に磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を充分に低減しにくいことに気づき、その原因について鋭意検討した。この結果、垂直記録型の磁気記録媒体は、記録層の下に軟磁性層を備え、軟磁性層は金属が主成分である材料で構成されているため熱伝導率が高く、更に軟磁性層は記録層よりも著しく厚く、記録層の被加熱部に付与された熱が軟磁性層に吸収されやすいため、記録層の被加熱部の温度が充分に上昇しないために保磁力が充分に低減されないと推察した。
【0011】
これに対し、熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層の熱伝導率よりも低い断熱層を軟磁性層と配向層との間に形成することにより、記録層の被加熱部から軟磁性層への熱伝導を抑制し、記録層の被加熱部の温度を充分に上昇させることができる。
【0012】
即ち、次のような本発明により、上記課題の解決を図ることができる。
【0013】
(1)基板と、軟磁性層と、断熱層と、配向層と、記録層と、を含み、これらの層が前記基板の上にこの順で形成され、前記断熱層の熱伝導率が前記配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、前記軟磁性層の熱伝導率よりも低いことを特徴とする磁気記録媒体。
【0014】
(2)(1)において、前記配向層は金属が主成分である材料で構成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0015】
(3)(1)又は(2)において、前記記録層が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素が前記凹凸パターンの凸部で形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0016】
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体と、前記記録層を加熱するための加熱ヘッドと、前記記録層に記録磁界を印加するための記録ヘッドと、前記記録層の再生磁界を検知するための再生ヘッドと、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【0017】
尚、本出願において「記録層が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素が凹凸パターンの凸部で形成された磁気記録媒体」とは、所定のパターンで多数の記録要素に分割された記録層を備える磁気記録媒体の他、凹部が厚さ方向の途中まで形成され基板側の面が連続した記録層を備える磁気記録媒体、凹凸パターンの基板や下層の表面に倣って形成された連続した記録層を備える磁気記録媒体、凹凸パターンの基板や下層の凸部の上面及び凹部の底面に分割されて形成されて凸部の上面に形成された部分が記録要素を構成する記録層を備える磁気記録媒体も含む意義で用いることとする。
【0018】
又、本出願において「磁気記録媒体」という用語は、ハードディスクの他、フロッピー(登録商標)ディスク等の他の磁気記録媒体も含む意義で用いることとする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁化又は磁化反転できるレベルまで記録層の被加熱部の保磁力を容易に低減できる垂直記録型の磁気記録媒体及びこのような磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1〜4に示されるように、本発明の第1実施形態に係る磁気記録再生装置10は、記録層12が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素12Aが凹凸パターンの凸部で形成された垂直記録型の磁気記録媒体16と、記録要素12Aを加熱して記録要素12Aの保磁力を低減するための加熱ヘッド18と、記録要素12Aに記録磁界を印加するための記録ヘッド20と、記録要素12Aの再生磁界を検知するための再生ヘッド22と、を備えている。
【0022】
磁気記録媒体16は、略円板状体のパターンドメディアであり、図示しないモータにより駆動されて図1等に示される周方向DCの矢印の向きに回転するようになっている。
【0023】
磁気記録媒体16は、基板24と、軟磁性層26と、断熱層28と、配向層30と、記録層12と、を有し、これらの層がこの順で基板24の上に形成され、断熱層28の熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い。又、断熱層28の熱伝導率は、記録層12の熱伝導率よりも低い。又、記録要素12Aの間の凹部は記録層12よりも熱伝導率が低い充填材32で充填されている。又、記録要素12A及び充填材32の上には、保護層34、潤滑層36がこの順で形成されている。
【0024】
記録層12は、厚さが5〜30nmである。記録層12の材料としては例えば垂直磁気異方性エネルギーが1×106erg/cc以上の材料を用いることができる。記録層12の具体的な材料としては、CoCrPt合金等のCoCr系合金、CoPt系合金、FePt系合金、これらの積層体、Co/Pd多層膜、Co/Pt多層膜等を挙げることができる。記録層12の熱伝導率は、例えば10〜120W/m・Kである。
【0025】
記録層12の凸部である記録要素12Aはデータ領域においてトラック14が周方向DCに微細な間隔で分割された形状で形成されている。即ち、記録要素12Aは各トラック14において周方向DCに複数並設されており、図1及び4はこれを示している。各記録要素12Aは1つの記録ビットに相当する(1つの記録要素12Aに1つの記録ビットが記録される)。尚、図2に示されるように、記録要素12Aはデータ領域においてトラック幅方向DTWにも微細な間隔で分割されている。又、記録層12はサーボ領域では所定のサーボ情報等のパターンに相当する凹凸パターンで形成されている(図示省略)。
【0026】
基板24は、中心孔を有する略円板形状である。基板24の材料としてはガラス、Al、Al2O3等を用いることができる。
【0027】
軟磁性層26は、厚さが20〜300nmである。軟磁性層26の材料としてはFe合金、Co合金等を用いることができる。軟磁性層26の熱伝導率は、例えば30〜100W/m・Kである。
【0028】
断熱層28は、厚さが2〜40nmである。断熱層28の熱伝導率は0.1〜10W/m・Kであることが好ましい。又、断熱層28の熱伝導率は、配向層30の熱伝導率や軟磁性層26の熱伝導率の1/10以下であることが好ましい。又、断熱層28の熱伝導率は、配向層30の熱伝導率の1/100以下であることが更に好ましい。断熱層28の材料としてはSiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物等の非磁性の材料を用いることができる。尚、本出願において「非磁性の材料」とは、強磁性材料ではなく、反強磁性材料でもない材料という意味で用いることとする。
【0029】
配向層30は、記録層12の下面に接している。配向層30の厚さは2〜40nmである。配向層30はRu等の金属又は金属が主成分である材料で構成されていることが好ましい。Ru以外の配向層30の材料としては、RuとTaの積層体、CoCr合金、Ti等の金属やMgO等の非磁性の材料を用いることができる。配向層30の熱伝導率は、例えば30〜150W/m・Kである。尚、本第1実施形態では、記録要素12Aを分割する凹部は、配向層30の厚さ方向の途中の位置まで形成されている。
【0030】
充填材32としては、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物、C(炭素)、Si、Ge、CuやCrのような非磁性の金属、樹脂材料等を用いることができる。充填材32の熱伝導率は、例えば0.1〜110W/m・Kである。
【0031】
保護層34は、厚さが1〜5nmである。保護層34の材料としてはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)を用いることができる。
【0032】
潤滑層36は、厚さが1〜2nmである。潤滑層36の材料としてはPFPE(パーフロロポリエーテル)を用いることができる。
【0033】
加熱ヘッド18は、磁気記録媒体16の上面に近接して配置され、磁気記録媒体16に近接場光を照射することにより磁気記録媒体16を部分的に加熱するように構成されている。加熱ヘッド18は具体的には図2及び3に示されるように、光源ユニット18Aと、導波路層18Bと、対向金属層18Cと、近接場光ギャップ部18Dと、を備えている。光源ユニット18Aは、レーザーダイオード等を備え、発した光を導波路層18Bの上端部(磁気記録媒体16と反対側の端部)に出射するようになっている。導波路層18Bは磁気記録媒体16の周方向DCの厚さがトラック幅方向DTWの幅よりも薄い薄膜状の部材であり、上端の幅よりも磁気記録媒体16側の下端の幅が細い形状である。導波路層18Bの材料としてはSiO2、Al2O3、Ta2O5、Nb2O5、TiO、TiO2等の誘電体を用いることができる。対向金属層18Cは、導波路層18Bにおけるトラック幅方向DTWの両側に沿って一対設置されている。対向金属層18Cの材料としてはAu、Pd、Pt、Rh、Ir等の金属、又はこれらの金属の合金、又はこれらの金属や合金にAlやCuが添加された導電体を用いることができる。近接場光ギャップ部18Dは、導波路層18Bの下端に設置されている。近接場光ギャップ部18Dの材料としては導波路層18Bの材料と同じ材料を用いることができる。近接場光ギャップ部18Dのトラック幅方向DTWの幅は10〜300nmである。近接場光ギャップ部18Dの周方向DCの長さは10〜200nmである。又、近接場光ギャップ部18Dの磁気記録媒体の厚さ方向の厚さは10〜500nmである。図2中の近接場光ギャップ部18Dの下の複数の矢印は加熱ヘッド18が近接場光ギャップ部18Dから記録要素12Aに照射する光を模式的に示したものである。
【0034】
記録ヘッド20も磁気記録媒体16の上面に近接しており、加熱ヘッド18における磁気記録媒体16の送り方向(図1及び3において周方向DCの矢印で示される方向)の側の近傍に配置されている。記録ヘッド20は、単磁極ヘッドを有し磁気記録媒体16の表面に対して垂直な方向の記録磁界を記録要素12Aに印加するように構成されている。図1中の記録ヘッド20の下の複数の矢印は記録ヘッド20が単磁極ヘッドから記録要素12Aに印加する記録磁界を模式的に示したものである。尚、記録ヘッド20は補助磁極、電磁コイル等も備えているが、補助磁極、電磁コイル等については図示及び説明を省略する。
【0035】
再生ヘッド22も磁気記録媒体16の上面に近接しており、記録ヘッド20における磁気記録媒体16の送り方向と反対側(図1及び3において周方向DCの矢印で示される方向と反対側)の近傍に配置されている。
【0036】
次に、磁気記録再生装置10の作用について説明する。図1等に示される周方向DCの矢印の向きに磁気記録媒体16を駆動しつつ、磁気記録媒体16のサーボ領域に記録されたサーボ情報等に基いて記録目標の記録要素12Aに対して加熱ヘッド18が光を照射すると、磁気記録媒体16における光が照射された部分が加熱されて温度が上昇する。記録層12は合金等の熱伝導率が高い材料で構成されているので記録目標の記録要素12Aは効率良く加熱される。又、配向層30と軟磁性層26との間には熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い断熱層28が形成されているので、記録層12の被加熱部から軟磁性層26への熱伝導は抑制される。従って、記録層12の被加熱部は効率良く加熱され記録目標の記録要素12Aの保磁力が充分に低減される。又、記録要素12Aの間の凹部には記録要素12Aよりも熱伝導率が低い充填材32が充填されているので、記録目標の記録要素12Aの隣の他の記録要素12Aへの伝熱も抑制される。
【0037】
この加熱された記録要素12Aに対して、記録ヘッド20が記録磁界を印加すると、記録要素12Aが磁化され又は磁化の向きが反転される。これにより、記録目標の記録要素12Aに磁気データが記録される。
【0038】
又、図1等に示される周方向DCの矢印の向きに磁気記録媒体16を駆動しつつ、再生ヘッド22が、各記録磁界12Aの再生磁界を検知することにより磁気データが再生される。磁気記録再生装置10は、記録目標の記録要素12Aに確実に磁気データが記録されるので、確実な磁気データの再生が可能である。
【0039】
このように磁気記録再生装置10は、記録層12の下に熱伝導率が高い軟磁性層26や配向層30が形成されていても、軟磁性層26と配向層30との間にこれらよりも熱伝導率が低い断熱層28が形成されているので、磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい記録層12の被加熱部を充分に加熱してその保磁力を磁化又は磁化反転できるレベルまで容易に低減できる。従って、記録目標の記録要素12Aに磁気データを確実に記録し、再生することが可能である。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前記第1実施形態に係る磁気記録媒体16は記録要素12Aがデータ領域においてトラック14が周方向DCに微細な間隔で分割された形状で形成されたパターンドメディアであるのに対し、図5〜7に示されるように本第2実施形態に係る磁気記録媒体40は、記録層42の凸部である記録要素42Aがデータ領域においてトラック幅方向DTWに微細な間隔で分割されてトラック14の形状で形成されたディスクリートトラックメディアであることを特徴としている。尚、記録層42の厚さや材料は前記記録層12の厚さ、材料と同じである。
【0041】
他の構成については前記第1実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜4と同一符号を用いることとして説明を適宜省略する。
【0042】
ディスクリートトラックメディアである磁気記録媒体40の場合も、パターンドメディアである磁気記録媒体16の場合と同様に、記録層42の下に熱伝導率が高い軟磁性層26や配向層30が形成されていても、軟磁性層26と配向層30との間にこれらよりも熱伝導率が低い断熱層28が形成されているので、磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい記録層42の被加熱部を充分に加熱してその保磁力を磁化又は磁化反転できるレベルまで容易に低減できる。従って、記録要素42Aにおける記録目標の部位に磁気データを確実に記録し、再生することが可能である。
【0043】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。前記第1及び第2実施形態に係る磁気記録媒体16、40は、記録層12、42が凹凸パターンで形成され記録要素12A、42Aがデータ領域において1つの記録ビットに相当する形状又はトラック14の形状で形成されたパターンドメディア又はディスクリートトラックメディアであるのに対し、図8及び9に示されるように本第3実施形態に係る磁気記録媒体50は、記録層52が一様な厚さの連続膜であることを特徴としている。尚、記録層52の厚さ、材料は前記記録層12、42の厚さ、材料と同じである。
【0044】
他の構成については前記第1及び第2実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜7と同一符号を用いることとして説明を適宜省略する。
【0045】
記録層52が一様な厚さの連続膜である磁気記録媒体50の場合も、パターンドメディアやディスクリートトラックメディアである磁気記録媒体16、40の場合と同様に、記録層52の下に熱伝導率が高い軟磁性層26や配向層30が形成されていても、軟磁性層26と配向層30との間にこれらよりも熱伝導率が低い断熱層28が形成されているので、磁気異方性エネルギーが大きく保磁力が大きい記録層52の被加熱部を充分に加熱してその保磁力を磁化又は磁化反転できるレベルまで容易に低減できる。従って、記録層52における記録目標の部位に磁気データを確実に記録し、再生することが可能である。
【0046】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。前記第1及び第2実施形態に係る磁気記録媒体16、40は、記録層12、42と保護層34とが接しているのに対し、図10に示されるように本第4実施形態に係る磁気記録媒体60は、記録層12と保護層34との間に記録層12よりも熱伝導率が高い熱伝導層62が形成されたことを特徴としている。熱伝導層62は、記録要素12Aの上に限定して形成されている。即ち、熱伝導層62は、記録要素12Aと凹凸の位置が同じパターンで形成され、隣り合う熱伝導層62の間には充填材32が充填されている。熱伝導層62の材料としては例えばAl等を用いることができる。
【0047】
他の構成については前記第1及び第2実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜7と同一符号を用いることとして説明を省略する。
【0048】
前記第1及び第2実施形態と同様に本第4実施形態でも、軟磁性層26と配向層30との間に熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い断熱層28が形成されているので、記録層12の被加熱部から軟磁性層26への熱伝導が抑制される。従って、記録層12における所定の記録目標の部位を効率良く加熱することができる。
【0049】
又、記録要素12Aの上に記録要素12Aよりも熱伝導率が高い熱伝導層62が形成されているので、記録要素12Aの温度分布のばらつきを抑制することができる。
【0050】
尚、図10は、前記第1実施形態と同様のパターンドメディアの記録要素12Aの上に熱伝導層62が形成された例を示しているが、前記第2実施形態のようなディスクリートトラックメディアの記録要素42Aの上に熱伝導層を形成した場合も同様に、記録要素42Aの温度分布のばらつきを抑制することができる。
【0051】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
【0052】
前記第1、第2及び第4実施形態において、記録要素12A、42Aの間の凹部は配向層30の厚さ方向の途中の位置まで形成されているが、図11に示されるように、本第5実施形態に係る磁気記録媒体70は、記録要素12Aの間の凹部が断熱層28の厚さ方向の途中の位置まで形成されており、凹部で配向層30が完全に分割されていることを特徴としている。尚、記録要素12Aの間の凹部が配向層30と断熱層28との境界まで形成された構成としてもよい。凹部を充填する充填材32の熱伝導率は、配向層30の熱伝導率よりも低いことが好ましい。又、充填材32の熱伝導率は、軟磁性層26の熱伝導率よりも低いことが好ましい。
【0053】
他の構成については前記第1、第2及び第4実施形態と同様であるので同様の構成については図1〜7及び10と同一符号を用いることとして説明を省略する。
【0054】
本第5実施形態では、凹部で配向層30が完全に分割されているので、配向層30における記録目標の記録要素12Aの真下の部分から配向層30の他の部分への熱伝導が抑制される。従って、記録目標の記録要素12Aを一層効率良く加熱できる。
【0055】
尚、図11は、前記第1実施形態と同様のパターンドメディアの例を示しているが、前記第2実施形態のようなディスクリートトラックメディアの記録要素42Aの場合も同様に、凹部で配向層30を完全に分割することで配向層30における記録目標の記録要素42Aの真下の部分から配向層30の他の部分への熱伝導が抑制され、記録目標の記録要素42Aを一層効率良く加熱できる。
【0056】
尚、前記第1、第4及び第5実施形態において、パターンドメディアの場合の記録要素12Aの形状として略長方形が例示されているが、記録要素の形状は略楕円形等の略長方形以外の形状としてもよい。
【0057】
又、前記第1〜第5実施形態において、断熱層28の材料としてSiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物等の非磁性の材料が例示されているが、熱伝導率が配向層30の熱伝導率よりも低く、且つ、軟磁性層26の熱伝導率よりも低い材料であれば断熱層28の材料として他の材料を用いてもよい。
【0058】
又、前記第1〜第5実施形態において、配向層30の材料としてRu、RuとTaの積層体、CoCr合金、Ti等の金属やMgO等の非磁性の材料が例示されているが、記録層12、42、52の配向性を高める効果を有する材料であれば配向層30の材料として他の材料を用いてもよい。
【0059】
又、前記第1〜第5実施形態において、充填材32として、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物、C(炭素)、Si、Ge、CuやCrのような非磁性の金属、樹脂材料等の材料が例示されているが、記録層12よりも熱伝導率が低い非磁性材であれば、充填材32の材料も特に限定されない。
【0060】
又、前記第1、第2及び第4実施形態において、記録要素12A、42Aの間の凹部が配向層30の厚さ方向の途中の位置まで形成されており、前記第5実施形態においては記録要素12Aの間の凹部が断熱層28の厚さ方向の途中の位置、又は配向層30と断熱層28との境界まで形成されているが、断熱層28と軟磁性層26との境界や、更に軟磁性層26の厚さ方向の途中の位置まで凹部を形成してもよい。又、記録層12、42の下面の位置まで凹部を形成してもよい。又、記録層12、42の厚さ方向の途中の位置まで凹部を形成してもよい。尚、この場合、記録層は基板側の面が連続した連続膜である。又、記録層は、凹凸パターンの基板や軟磁性層や配向層等の下層の表面に倣って形成された凹凸パターンの連続膜でもよい。又、記録層は、凹凸パターンの基板や軟磁性層や配向層等の下層の凸部の上面及び凹部の底面に分割されて形成されて凸部の上面に形成された部分が記録要素である構成でもよい。
【0061】
又、前記第1、第2、第4及び第5実施形態において、記録要素12A、42Aの間の凹部を充填材32で充填することにより、表面の凹凸を抑制してヘッド浮上高さを安定させつつ記録対象の記録要素12A、42Aの隣の他の記録要素12A、42Aへの伝熱を抑制しているが、凹部を充填材32で充填することなく充分安定したヘッド浮上高さが得られる場合には、凹部は空隙部としてもよい。
【0062】
又、前記第1〜第5実施形態において、加熱ヘッド18は、近接場光を利用して記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱するように構成されているが、記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱できれば、例えば、加熱ヘッドは、レーザ光源と磁気記録媒体16、40、50、60、70の上面に近接して配置された対物レンズとを有し、対物レンズでレーザ光を絞って磁気記録媒体16、40、50、60、70に照射して記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱する構成としてもよい。又、電子ビームを照射することにより記録層12、42、52の記録目標の部位を加熱する構成としてもよい。
【0063】
又、前記第1〜第5実施形態において、軟磁性層26が基板24に接して形成されているが、軟磁性層26の下の層に他の層を形成してもよい。例えば、軟磁性層26の下に反強磁性層や下地層を形成してもよい。又、各層が複数の層で構成されていてもよい。
【0064】
又、前記第1〜第5実施形態において、磁気記録媒体16、40、50、60、70は基板24の片面に記録層12、42、52が形成された片面記録式であるが、基板の両面に記録層が形成された両面記録式の磁気記録媒体についても本発明を適用可能である。この場合、加熱ヘッド、記録ヘッド及び再生ヘッドを磁気記録媒体の両側に設置すればよい。
【0065】
[シミュレーション例]
前記第3実施形態と同様の一様な厚さの連続膜の記録層52を有する磁気記録媒体50を備える磁気記録再生装置10の3種類のシミュレーションモデルA、B及びCを作成した。これらシミュレーションモデルA、B及びCは、断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さが相互に異なる。尚、断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さの合計値は、シミュレーションモデルA、B及びCのいずれも20nmで等しい。又、シミュレーションモデルA、B及びCは、断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さ以外の構成は等しい。尚、シミュレーションモデルA、B及びCでは磁気記録媒体50の保護層34及び潤滑層36は省略されている。又、加熱ヘッドから磁気記録媒体50にはレーザ光が照射されるものとした。
【0066】
又、シミュレーションモデルA、B及びCに対し、磁気記録媒体50から断熱層28を省略した構成のシミュレーションモデルDを作成した。尚、シミュレーションモデルDの配向層30の厚さは20nmであり、シミュレーションモデルA、B及びCの断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さの合計値と等しい。断熱層28及び配向層30以外の構成についてはシミュレーションモデルDはシミュレーションモデルA、B及びCと等しい。
【0067】
又、シミュレーションモデルA、B及びCに対し、磁気記録媒体50から配向層30を省略した構成のシミュレーションモデルEを作成した。尚、シミュレーションモデルEの断熱層28の厚さは20nmであり、シミュレーションモデルA、B及びCの断熱層28の厚さ及び配向層30の厚さの合計値と等しい。断熱層28及び配向層30以外の構成についてはシミュレーションモデルEはシミュレーションモデルA、B及びCと等しい。
【0068】
シミュレーションモデルA、B、C、D及びEの磁気記録媒体の具体的な構成を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
又、加熱ヘッドが磁気記録媒体50に照射するレーザ光に関する条件を以下のように設定した。
【0071】
レーザ光の波長:600nm
レーザ光のスポット径:600nm
レーザ光のパワー:10mW
磁気記録媒体の表面における反射率:70%
【0072】
加熱ヘッドが照射するレーザ光のパワー10mWの70%が磁気記録媒体の表面において反射されるため、磁気記録媒体に付与されるレーザ光の実効的なパワーは3mWである。
【0073】
又、上記のスポット径は記録層52の表面におけるスポット径である。尚、このスポット径は、図12に例示されるような、レーザ光が照射される部位の中心からの位置とレーザ光のパワーとの関係を示すガウシアン分布によるエネルギー分布において、ピークパワーを1として、レーザ光のパワーが1/e2に減衰する位置の直径である。
【0074】
又、磁気記録媒体50において加熱ヘッドからレーザ光が照射される被加熱部の周方向DCの線速度は7.5m/sに設定した。尚、この線速度7.5m/sは例えば磁気記録媒体が回転速度3600rpmで回転している場合の中心から半径が20mmの部位の線速度に相当する。
【0075】
又、シミュレーションモデルにはランベルトの法則を適用した。具体的には、強度がI0で波長がλ0の光が、消衰係数がκの媒質内をdの距離を進んだ場合の光の強度Iは次式で与えられる。
【0076】
I=I0exp(−4πκd/λ0)
【0077】
記録層52、配向層30及び軟磁性層26の消衰係数は近似的に4に設定した。又、断熱層28、基板24の消衰係数は近似的に0に設定した。又、各層の境界面における反射率は0とみなした。即ち、磁気記録媒体内における各層の境界面における反射は無視した。
【0078】
以上の条件でシミュレーションを実行し、記録層52の被加熱部の昇温率(%)を算出した。尚、この昇温率は、各シミュレーションモデルにおける記録層52の被加熱部の温度の上昇量をΔT(K)、断熱層が形成されていないシミュレーションモデルDにおける記録層52の被加熱部の温度の上昇量をΔTD(K)、として次式で与えられる。
【0079】
昇温率(%)=100×(ΔT−ΔTD)/ΔTD
【0080】
算出結果を図13に示す。図13に示されるように、断熱層28の厚さが厚い程、記録層52の被加熱部の昇温率が増加することがわかった。例えば、断熱層28の厚さが15nmのシミュレーションモデルCは昇温率が約100%であり、断熱層が形成されていないシミュレーションモデルDに対し記録層52の被加熱部の温度の上昇量が約2倍であった。尚、配向層が形成されておらず断熱層28の厚さが20nmのシミュレーションモデルEは昇温率が更に高かったが、記録層を好適に配向させるために実際には配向層が必要である。軟磁性層26と配向層30との間に断熱層28を形成することで、記録層を好適に配向できると共に記録層52の被加熱部の温度を著しく高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、磁界の印加及び加熱により磁気記録媒体に磁気データを記録し、磁気データを磁気記録媒体から磁気的に再生する磁気記録再生装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図2】図1におけるII−II線に沿う磁気記録媒体のトラック幅方向に沿う側断面図
【図3】図1におけるIII−III線に沿う磁気記録媒体側から見た加熱ヘッド、記録ヘッド及び再生ヘッドの平面図
【図4】図1におけるIV−IV線に沿う記録ヘッド側から見た磁気記録媒体の平面図
【図5】本発明の第2実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図6】図5におけるVI−VI線に沿う磁気記録媒体のトラック幅方向に沿う側断面図
【図7】図5におけるVII−VII線に沿う記録ヘッド側から見た磁気記録媒体の平面図
【図8】本発明の第3実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体のトラック幅方向に沿う側断面図
【図9】図8におけるIX−IX線に沿う記録ヘッド側から見た磁気記録媒体の平面図
【図10】本発明の第4実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図11】本発明の第5実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す磁気記録媒体の周方向に沿う側断面図
【図12】シミュレーション例に係るレーザ光のスポット径の定義を示すエネルギー分布のグラフ
【図13】同シミュレーション例における断熱層の厚さと記録層の昇温率との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0083】
10…磁気記録再生装置
12、42、52…記録層
12A、42A…記録要素
14…トラック
16、40、50、60、70…磁気記録媒体
18…加熱ヘッド
20…記録ヘッド
22…再生ヘッド
24…基板
26…軟磁性層
28…断熱層
30…配向層
32…充填材
34…保護層
36…潤滑層
62…熱伝導層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、軟磁性層と、断熱層と、配向層と、記録層と、を含み、これらの層が前記基板の上にこの順で形成され、前記断熱層の熱伝導率が前記配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、前記軟磁性層の熱伝導率よりも低いことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1において、
前記配向層は金属が主成分である材料で構成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記記録層が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素が前記凹凸パターンの凸部で形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気記録媒体と、前記記録層を加熱するための加熱ヘッドと、前記記録層に記録磁界を印加するための記録ヘッドと、前記記録層の再生磁界を検知するための再生ヘッドと、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項1】
基板と、軟磁性層と、断熱層と、配向層と、記録層と、を含み、これらの層が前記基板の上にこの順で形成され、前記断熱層の熱伝導率が前記配向層の熱伝導率よりも低く、且つ、前記軟磁性層の熱伝導率よりも低いことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1において、
前記配向層は金属が主成分である材料で構成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記記録層が凹凸パターンで形成されて磁気データを記録するための記録要素が前記凹凸パターンの凸部で形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気記録媒体と、前記記録層を加熱するための加熱ヘッドと、前記記録層に記録磁界を印加するための記録ヘッドと、前記記録層の再生磁界を検知するための再生ヘッドと、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−223940(P2009−223940A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66307(P2008−66307)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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