説明

磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】高記録密度の磁気記録媒体を製造すること課題とする。
【解決手段】磁気記録層3の上に形成された記録補助層4に、非磁性部8を所定のパターンで形成するため、磁性部7とその直下の磁気記録層3を記録単位とする磁気記録媒体を実現できる。非磁性部8を、イオン注入による非磁性化により形成するため、高記録密度の磁気記録媒体を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などに搭載される磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径垂直磁気記録媒体にして、1枚あたり160GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり250Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式の垂直磁気記録媒体が提案されている。垂直磁気記録方式は、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内記録方式に比べて熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
垂直磁気記録方式に用いる磁気記録媒体としては、高い熱安定性と良好な記録特性を示すことから、CoCrPt−SiO垂直磁気記録媒体が提案されている(例えば非特許文献1)。これは磁気記録層において柱状に連続して成長した磁性粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造を構成し、磁性粒子の微細化と保磁力Hcの向上をあわせて図るグラニュラー型磁気記録媒体である。非磁性の粒界(磁性粒子間の非磁性部分)には酸化物を用いることが知られており、例えばSiO,Cr,TiO,TiO,Taのいずれか1つを用いることが提案されている(例えば特許文献1)。しかし、粒界に含有させることができる酸化物には上限があり、微細化や孤立化の向上にも限界がある。
【0005】
一方、さらに面記録密度を向上させるために、磁性層を成膜した後に、イオン注入することにより非磁性の領域を形成する方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【非特許文献1】T.Oikawa et. al., IEEE Trans. Magn, vol.38, 1976−1978(2002)
【特許文献1】特開2006−024346号公報
【特許文献2】特開2007−226862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、イオン注入により磁性体からなる磁気記録層に非磁性部を形成する場合、照射されたイオンが磁気記録層内で分散し、所望の部分のみを非磁性化するのが困難であるという課題があった。通常、注入深さと同程度の幅にイオンが分布する。特許文献2においては、20nmの深さにイオンを注入して半径数10nm程度分散してしまう。磁性層の厚さが通常20nm前後であることを考慮すると、磁性層に例えば数10nm幅の非磁性化部を形成するのは困難である。
【0007】
また、近年では、磁性層の上に、当該磁性層の磁性粒子同士を交換結合するための交換結合層を設けたメディアも提案されているが、この場合には、さらに、メディアの際表層の部分から磁性層までの距離が遠くなり、磁性層にイオンが到達するまでにイオンビームの幅がさらに広がってしまうという問題もある。この場合には、本来磁性を残しておきたい領域にまでイオンが照射されてしまい、磁気特性が悪化し、磁気記録媒体として使用できないという問題もある。本発明は、イオン注入により非磁性部を形成する方法を用いて、高記録密度のディスクリート型磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者らは、磁性層からなる磁気記録層の上に、磁性層に比較して薄い磁性膜である記録補助層を形成し、当該記録補助層のトラック領域間に相当する部分にイオン注入することにより非磁性部を形成することで、ディスクリート型磁気記録媒体を製造することを考えた。
【0009】
つまり、本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性基板と、磁化容易軸が前記非磁性基板の基板面に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜である磁気記録層と、前記磁気記録層の上に直接形成された磁性を有する記録補助層とを具備し、前記記録補助層は、磁性を有する磁性部と非磁性化された非磁性部とを有するとともに、前記磁性部がトラック領域に対応する場所に存在し、前記非磁性部はトラック領域間に対応する場所に存在することを特徴とする。
【0010】
上記本発明に係る磁気記録媒体において、記録補助層の膜厚が、磁気記録層の膜厚より薄い場合が好適である。さらには、記録補助層の前記磁性部が、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜であると良い。
【0011】
上記本発明に係る磁気記録媒体において、記録補助層の上に保護層が形成されており、磁気記録媒体の表面から記録補助層のうち表面に最も近い位置までの距離が7nm以下であると好適である。
【0012】
また、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上に、磁化容易軸が前記非磁性基板の基板面に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜である磁気記録層を形成する工程と、前記磁気記録層の上に磁性体からなる記録補助層を形成する工程と、前記記録補助層のトラック領域間に対応する部分にイオン注入することにより、前記トラック領域間に対応する部分を非磁性化する工程とを有することを特徴とする。
【0013】
上記本発明に係る磁気記録媒体の製造方法において、記録補助層の膜厚が、磁気記録層の膜厚より薄い場合が好適である。さらには、記録補助層は、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜であっても良い。
【0014】
上記本発明に磁気記録媒体の製造方法において、記録補助層および磁気記録層のうち、前記記録補助層のみにイオンが注入されていると好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る磁気記録媒体では、記録補助層における非磁性部の存在により、磁性部とその直下の磁気記録層を情報の記録単位とすることができ、隣同士の記録単位を分離することができる。
【0016】
また、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法では、非磁性部を、磁気記録層ではなく、磁気記録層よりも膜厚の薄い記録補助層にイオン注入することにより形成するので、注入されたイオンの膜内での分散が少なく、所望のパターンで非磁性部を形成することができ、高記録密度の磁気記録媒体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。図1は、本発明に係る磁気記録媒体の一部の断面構造を示す図である。図1に示すように本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性基板1の上に、付着層等からなる中間層2、磁性体からなる磁気記録層3、記録補助層4、媒体保護層5及び潤滑層6が積層されている断面構造を有し、記録補助層4には、磁性を有する磁性部7と、非磁性化されている非磁性部8とがある。
【0018】
非磁性基板1は、ソーダガラス等のガラス基板や、Al−Mg合金等のAl合金基板を用いることができる。
【0019】
中間層2としては、例えば、非磁性基板と上層との付着性を向上させるための付着層を形成する。さらに、垂直磁気記録方式の場合は、付着層の上に、記録時の書き込み磁界を補助すると共に磁気記録層における磁化の方向をより強固に垂直な方向に固定するための軟磁性層及び、磁気記録層の配向性や粒径を制御する配向制御層を形成する。
【0020】
付着層としては、Ti合金を用いることができ、軟磁性層としては、Fe、Ni、Co等の軟磁性材料からなる材料を用いることができる。配向制御層としては、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有する材料が好ましく、特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金が好ましい。
【0021】
磁気記録層3としては、磁化容易軸が非磁性基板に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜を用いることができる。この磁気記録層は主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。
【0022】
例えば、CoCrPt合金や、CoCrPtに例えばSiOなどの酸化物がグラニュラー構造を形成する材料を利用することができる。
【0023】
記録補助層4は、磁性を有する磁性部7と、非磁性化されている非磁性部8とを有し、磁性部7は、例えばCoCrPtTa等の面内方向に磁気的に連続した層であっても良いし、CoCrPtB合金等の高い垂直磁気異方性を有する層でも良い。
【0024】
媒体保護層5は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録層を防護するための保護層である。一般に、カーボン等からなり、CVD法やスパッタ法により成膜することができる。CVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録層を防護することができる。潤滑層6には、パーフロロポリエーテル、フッ素化アルコール又はフッ素化カルボン酸等の潤滑剤を、例えばディップコート法等により成膜することができる。
【0025】
このような構成の磁気記録媒体は、記録補助層4の非磁性部8の存在により、磁性部7及びその直下の磁気記録層3を情報の記録単位とすることができ、隣同士の記録単位を分離することができる。例えばトラック領域の幅となる磁性部7の幅を120nm、トラック領域間の幅となる非磁性部の幅を60nmの幅にすることで、高密度のディスクリート型磁気記録媒体が実現できる。さらに、トラック領域間に相当する領域のみならず、ビット間に相当する領域の記録補助層4を非磁性化することにより、ビットパターンドメディアを構成することもできる。
【0026】
なお、磁気記録装置において、磁気記録媒体に記録又は再生する際に、磁気ヘッドと記録補助層4との距離は近い方がよく、磁気記録媒体の表面である媒体保護層5の表面から記録補助層4の表面の最も近い位置までの距離は7nm以下にすると好適である。
【0027】
上記の磁気記録媒体を製造するには、例えば、非磁性基板1上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて、中間層2から記録補助層4まで順次成膜し、媒体保護層5はCVD法により成膜することができる。
【0028】
その後、イオン注入器を用いて、媒体保護膜5の上から記録補助層4のうち非磁性化したい部分のみにAr等のイオンを注入することにより非磁性化して、非磁性部8を形成する。例えば、記録補助層4のうち非磁性化したい部分のみにイオンが照射されるように設計・作製したマスクを介してイオン注入することができる。
【0029】
注入するイオンはAr、Si、In、B、P、C、Fなどが利用できるが、その種類または混合などは特に限定されない。注入し磁性を消失させられるものであれば何でもよい。イオン注入の強度は、記録補助層4に主にイオンが注入される様に調整する。マスクの材料には石英、ソーダライムガラス、Siウェハーなどイオンを遮蔽し所定のパターンを形成できる材料であれば何でもよい。
【0030】
イオン注入により、記録補助層4に非磁性部8と磁性部7を形成した後に、潤滑層6として、例えばパーフロロポリエーテルをディップコート法により形成する。
【0031】
[実施例]
以下、本発明に係る磁気記録媒体の実施例について、磁気記録層3に垂直磁化膜を用いた例で説明する。まず、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法について、図2を用いて説明する。図2は、本発明に係る磁気記録媒体の製造過程における断面の一部を示す図である。
【0032】
まず、非磁性基板1としては、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作製した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性基板1を得た。
【0033】
次に、得られた非磁性基板1上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて、中間層2から記録補助層4まで順次成膜した。中間層2としては、付着層としてCrTi合金を10nm成膜し、次いで軟磁性層としてFeCoTaZr合金を50nm成膜してその間にRuを挟んだいわゆるAFC−SUL構造とした。次いで配向制御層としてRuを25nm成膜した。続いて、磁気記録層3としてCoCrPt−SiOを13nm成膜し、記録補助層4としてCoCrPtBを8nm成膜した。
【0034】
その後、真空を保ったまま、媒体保護層5としてカーボンをCVD法により、5nm成膜した。
【0035】
続いて、記録補助層4に非磁性部を形成するためにイオン注入を行った。イオン注入は、市販のイオン注入器を用いて、Arイオンをドーズ量が1×1015(イオン/cm2)となる条件で注入した。その際マスク9として、石英ガラスに、非磁性化する部分である非磁性部の幅が60nmで、磁性部7の幅が120nmになるようなパターンを形成したものを用いた。
【0036】
最後に、潤滑層6としてパーフロロポリエーテルをディップコート法により1nm成膜した。
【0037】
上記のように製造した磁気記録媒体について、潤滑層6を除去した後、媒体保護膜5の上から、磁気力間顕微鏡により磁気特性を測定したところ、磁性部7に相当する部分と非磁性部8に相当する部分とでは磁気特性に差があり、磁性部7における磁性が非磁性部8より強い磁性を有することがわかった。
【0038】
さらに、媒体保護膜5を除去した後に、記録補助層4表面において、平面TEM(透過型電子顕微鏡)のスポットにおける電子線回折を観察したところ、磁性部7と非磁性部8とでは結晶構造が異なることがわかった。
【0039】
次に、記録補助層4を除去した後に、磁気記録層3表面において、平面TEM(透過型電子顕微鏡)のスポットにおける電子線回折を観察したところ、磁気記録層3においては、構造が一様であることがわかった。
【0040】
以上のことから、本発明に係る磁気記録媒体は、磁性部7及びその直下の磁気記録層3を一つの記録単位とした磁気記録媒体となっていることを確認した。
【0041】
以上のように、本発明に係る磁気記録媒体では、記録補助層4に非磁性部8を設けることにより、磁性部7とその直下の磁気記録層3を記録単位とすることができ、隣同士の記録単位を分離することができる。
【0042】
また、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法では、非磁性部8を、磁気記録層3よりも膜厚の薄い記録補助層4にイオン注入することにより形成するので、注入されたイオンの膜内での分散が少なく、所望のパターンで非磁性部を形成することができ、高記録密度の磁気記録媒体を製造することができる。例えば、トラック領域間に相当する記録補助層4を非磁性化することによりディスクリート型記録媒体を製造することができ、トラック領域間及びビット間に相当する記録補助層4を非磁性化することによりビットパターンドメディアを製造することができる。
【0043】
また、上記実施の形態における材料、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の断面構造を示す図。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の製造工程を説明するための図。
【符号の説明】
【0045】
1 非磁性基板
2 中間層
3 磁気記録層
4 記録補助層
5 媒体保護層
6 潤滑層
7 磁性部
8 非磁性部
9 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板と、磁化容易軸が前記非磁性基板の基板面に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜である磁気記録層と、前記磁気記録層の上に直接形成された磁性を有する記録補助層とを具備し、
前記記録補助層は、磁性を有する磁性部と非磁性化された非磁性部とを有するとともに、前記磁性部がトラック領域に対応する場所に存在し、前記非磁性部はトラック領域間に対応する場所に存在することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記記録補助層の膜厚が、前記磁気記録層の膜厚より薄い請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記記録補助層の上に保護層が形成されており、磁気記録媒体の表面から記録補助層のうち表面に最も近い位置までの距離が7nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記記録補助層の前記磁性部が、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜である請求項1、2又は3記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
非磁性基板上に、磁化容易軸が前記非磁性基板の基板面に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜である磁気記録層を形成する工程と、前記磁気記録層の上に磁性体からなる記録補助層を形成する工程と、前記記録補助層のトラック領域間に対応する部分にイオン注入することにより、前記トラック領域間に対応する部分を非磁性化する工程とを有する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記記録補助層の膜厚が、前記磁気記録層の膜厚より薄い請求項5記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記記録補助層が、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して実質的に垂直に配向した垂直磁化膜である請求項5又は6記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記記録補助層および前記磁気記録層のうち、前記記録補助層のみにイオンが注入されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−223949(P2009−223949A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67027(P2008−67027)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】