説明

磁気駆動される高速空気弁

高速空気弁は、入口及び出口を備えた空洞部を囲むハウジングを有する。永久磁化された接極子は空洞部内に配置される。永久磁化された接極子は第1開放位置と第2閉鎖位置との間で移動する。コイル及び磁芯の組立体はハウジング内において接極子の近くに配置される。コイルを横切って印加された第1電圧が、磁芯内に誘導される第1極性を有する磁場をもたらし、このことによって接極子は磁芯の方に向かって引き付けられて出口から離れる。コイルを横切って印加された第2電圧が、磁芯内に誘導される反対の第2極性を有する磁場をもたらし、このことによって接極子が磁芯から離れて出口の方に向かって反発される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年8月19日に出願された米国仮特許出願第61/235162号の優先権の利益を主張し、この出願内容は参照によって本明細書の一部を構成する。
【0002】
本発明は、高速の硝子体茎切除術用プローブで使用される、磁化された接極子(armature)を備えた高速弁に関する。
【背景技術】
【0003】
硝子体網膜手術は、視力を修復し、保ち且つ高めるべく行われる様々な外科手術を含む。硝子体網膜手術は、眼の後部の多くの深刻な疾患を処理するのに適切である。硝子体網膜手術は、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、糖尿病性硝子体出血、黄斑円孔、網膜剥離、網膜上膜、CMV網膜炎、及び他の多くの眼疾患のような疾患を処理する。
【0004】
硝子体は、眼の中央を満たす通常透明なゲル状の物質である。硝子体は眼の容積の約2/3を占め且つ生前にその形状が与えられる。眼の後部に影響する所定の問題は硝子体茎切除術又は硝子体の外科的除去を必要としうる。
【0005】
硝子体茎切除術は、眼から血及び破片を取り除くように行われて、瘢痕組織を除去し又は網膜における牽引を軽減することができる。血、炎症細胞、破片、及び瘢痕組織は光が眼を通るときに網膜への光を遮り、このことによって視力障害がもたらされる。硝子体はその通常の位置から網膜を引っ張り又は牽引している場合にも除去される。硝子体茎切除術を必要とする最も一般的な眼の疾患のいくつかは、網膜剥離又は網膜出血のような糖尿病性網膜症からの合併症、黄斑円孔、網膜剥離、網膜前膜線維症、眼内出血(硝子体出血)、損傷、感染症、及び眼の既往手術に関する所定の問題を含む。
【0006】
網膜の外科医は、顕微鏡と、眼の後部の鮮明な画像を提供すべく設計された特殊レンズとで硝子体茎切除術を行う。長さがたった数ミリメートルのいくつかの微小な切開創が強膜上に作られる。網膜の外科医は、眼の内部を照明すべく切開創を通して光ファイバー光源のような顕微外科器具を挿入し、手術中に眼の形状を維持すべく灌流ラインを挿入し、且つ硝子体を切断して除去するための器具を挿入する。
【0007】
硝子体茎切除術では、外科医は三つの別個の器具のために眼内に三つの微小な切開創を作り出す。これら切開創は眼の毛様体扁平部において設置され、眼の毛様体扁平部は虹彩の直後であるが網膜の前方に配置される。これら切開創を通る器具は、ライトパイプ、灌流ポート、及び硝子体茎切除術用切断装置又は硝子体茎切除術用プローブを含む。ライトパイプは、眼内において使用される極微の高輝度フラッシュライトの均等物である。灌流ポートは、眼内の流体を取り替えるのに必要とされ、眼内において適切な圧力を維持する。硝子体茎切除術用プローブ又は硝子体茎切除術用切断装置は、制御された方法において硝子体ゲルを除去すべく極微の振動カッターを用いて微小なギロチンのように働く。このことによって、硝子体の除去の間、網膜における顕著な牽引が妨げられる。
【0008】
硝子体茎切除術用プローブは空気圧で作動せしめられる。非常に高い切断率を実現すべく、高速弁が使用される。高速パルスバルブ又は高速ジェットバルブが、非常に早い空気パルスを供給するように設計される。これらは高速な部品選別(part sorting)のために使用されることが多い。いくつかのジェットバルブは、空気流を制御すべく平らなプレートの接極子を利用する。このプレートは、電圧が印加されなくなると、空気圧によってシール面に対して保持され、このことによって空気流が止められる。このプレートは、電圧が印加されると、シール面から迅速に(ミリ秒未満)離れ、空気が流れるようになる。プレートは、再び電圧が印加されなくなると、シール面に対して接極子を押し付けるべく空気圧に依存して単純に解放され、空気流が止められる。生じる問題は、閉鎖動作中の接極子の移動が予測不可能であることである。閉鎖力を提供する空気の差動力(differential force)のみでは、接極子プレートは、シール面上にもたれて空気流を止める前に飛び回るであろう。閉鎖時間におけるこの変動は、部品選別の用途では許容されるが、一貫した閉鎖時間を必要とする眼の手術のような用途について適切ではない。本発明は、改良された高速弁についてである。
【発明の概要】
【0009】
本発明の原理と合致した一つの実施形態では、本発明は高速空気弁である。弁は、入口及び出口を備えた空洞部を囲むハウジングを有する。永久磁化された接極子が空洞部内に配置される。永久磁化された接極子は第1開放位置と第2閉鎖位置との間で移動する。コイル及び磁芯の組立体がハウジング内において接極子の近くに配置される。コイルを横切って印加された第1電圧が、磁芯内に誘導される第1極性を有する磁場をもたらし、このことによって接極子は磁芯の方に向かって引き付けられて出口から離れる。コイルを横切って印加された第2電圧が、磁芯内に誘導される反対の第2極性を有する磁場をもたらし、このことによって接極子が磁芯から離れて出口の方に向かって反発される。
【0010】
本発明の原理と合致した一つの実施形態では、本発明は高速空気弁である。弁は、入口及び出口を備えた空洞部を囲むハウジングを有する。強磁性接極子が空洞部内に配置される。接極子は第1開放位置と第2閉鎖位置との間で移動する。第1コイル及び第1磁芯の組立体がハウジング内において接極子の近くに配置される。第2コイル及び第2磁芯の組立体がハウジング内において接極子の近くに且つ第1コイル及び磁芯の組立体の反対側に配置される。第1コイルを横切って印加された第1電圧が、第1磁芯内に誘導される磁場をもたらし、このことによって接極子が前第1磁芯の方に向かって引き付けられて出口から離れ、第2コイルを横切って印加された第2電圧が、第2磁芯内に誘導される極性を有する磁場をもたらし、このことによって接極子が第2磁芯及び出口の方に向かって引き付けられる。
【0011】
上記の一般的な記述及び以下の詳細な記述の両方が、模範的なものであり且つ単なる説明のためのものであり、特許請求の範囲に記載されたような本発明の更なる説明を提供することが意図されていることが理解されるべきである。以下の記述及び本発明の実施例が本発明の追加の利点及び目的を説明し且つ提案する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、本発明の原理に係る開放位置における高速弁の断面図である。
【図1B】図1Bは、本発明の原理に係る閉鎖位置における高速弁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に取り込まれて本明細書の一部を構成する添付の図面が、本発明のいくつかの実施形態を示し、説明と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
以下、本発明の模範的な実施形態が詳細に参照され、その例が添付の図面において示される。可能な限り、同一の又は同様の部品を参照するのに同一の参照番号が全図面を通して使用される。
【0014】
図1Aは、本発明の原理に係る開放位置における高速弁の断面図である。図1Bは、本発明の原理に係る閉鎖位置における高速弁の断面図である。図1A及び図1Bでは、高速弁100は、ハウジング110、磁芯120、コイル130、接極子140、入口150、及び出口160を含む。接極子140は、図示されるように上下に移動して出口160を開放し又は閉鎖する。図1Aの開放位置では、空気は入口150を通って出口160から外に流れる。図1Bの閉鎖位置では、空気は出口160から出ることができない。
【0015】
コイル130を横切る第1電圧によって、図1Aの磁芯120において示される極性が生成される。コイル130を横切る反対の第2電圧によって、図1Bの磁芯120において示される極性が生成される。一般的に知られているように、コイル130を横切る電圧(又はコイル130を通る電流)によって、磁芯120内に磁場が生成される。コイル130を横切る正の電圧を印加することによって第1磁気極性が生成され、コイル130を横切る負の電圧を印加することによって反対の第2極性が生成される。例えば、コイル130を横切る正の電圧は、図1Aにおいて示される極性を生成し、コイル130を横切る負の電圧は、図1Bにおいて示される極性を生成する。
【0016】
従来の高速弁では、接極子140は強磁性材料から作られる。斯かる場合、コイル130に電圧が印加されて磁場が磁芯120内に誘導されると、接極子140は磁芯120に引き付けられる。コイル130に電圧が印加されなくなると、接極子140は、もはや磁芯120に引き付けられることなく、空気圧の補助で出口160を閉鎖することが許容される。背景技術の項目において議論されたように、このことによって接極子ががたつくようになり、不正確な閉鎖時間がもたらされる。
【0017】
本発明では、接極子140は永久磁化される。この場合、第1電圧が図1Aにおいて示されるようにコイル130を横切って印加されると、接極子140は磁芯120に引き付けられて(上方に移動して)、弁100は開放位置の状態になる。反対の電圧がコイル130を横切って印加されると、接極子140は、図1Bにおいて示されるように磁芯120内に誘導された磁力によって反発される。このように、この磁力の反発は接極子140を下方に押しやり、このことによって出口160は閉塞されて、弁100はオフになる。
【0018】
接極子140を磁化することはいくつかの利点を有する。第一に、開放時間および閉鎖時間がより急速になりうる。接極子140が、磁芯120内に誘導された磁場に引き付けられ又は磁場によって反発されるので、磁力は接極子140を非常に高速に動かす。第二に、弁は、非常に迅速であり且つ信頼性の高い態様において閉鎖されうる。反発磁力を使用することによって、接極子140が非常に迅速な態様において下方に進んで出口160を閉塞することが確実なものとなる。
【0019】
本発明の別の実施形態では、第2コイル及び第2磁芯(図示せず)がコイル130及び磁芯120の反対側に配置されうる。この態様では、接極子140は永久磁化される必要がない。代わりに、電圧がコイル130と第2コイル(図示せず)との間で交互に印加されうる。この態様では、二つの異なる磁芯及びコイルの組立体が、交互に磁力を生成して開放位置と閉鎖位置との間で接極子140を動かすのに使用されうる。例えば、コイル130を横切って印加された電圧は磁芯120内に磁場をもたらし、接極子140は磁芯120の方に向かって引かれる。その際に第2コイルを横切る電圧は存在しない。このことは弁の開放をもたらす。その直後に、電圧はコイル130から取り除かれて第2コイル(図示せず)を横切って印加され、磁場が第2磁芯(図示せず)内に発生せしめられる。このことによって、接極子140が第2磁芯(図示せず)の方向に引かれるようになるので、弁は閉鎖位置の状態になる。斯かる構成では、接極子は磁化されず単に強磁性材料から作られる。
【0020】
弁100の他の形態も考えられる。例えば、弁100は一つの入口及び二つの出口を有してもよい。第2出口(図示せず)は第1出口160の反対側に配置されうる。この態様では、弁100は3/2方弁の態様において作動することができる。この作動は、接極子が磁力の使用で開放位置又は閉鎖位置において保持されることができるので、磁化された接極子140を用いて又は二つの磁芯及び二つのコイルの組立体と(強磁性接極子と)を用いてのみ可能である。
【0021】
同じ発想が、他の弁の閉鎖性能を改善するのにも使用されうる。閉鎖された弁を引き且つ弁を開放状態に保持する磁力の追加が、弁性能を改善するのに使用されうる。例えば、スパイダーバルブでは、リーフスプリングが閉鎖位置(通常閉鎖されたスパイダーバルブ)に弁の接極子を保持する。ソレノイドに電圧が印可されると、接極子は開放状態に強いられる。ソレノイドに電圧が印可されなくなると、リーフスプリングは接極子を閉鎖位置に持っていく。スパイダーバルブの設計は、ソレノイドによって適用される力によって乗り越えられうるスプリング力を生成するバネ定数を有するリーフスプリングを必要とする。言い換えれば、スプリングは一方の方向(この場合、閉鎖方向)において接極子に力を適用し、ソレノイドは反対の方向において(弁を開放すべく)接極子に力を適用する。(第2磁芯及び第2コイル又は磁化された接極子を用いた)追加の磁力が、より迅速に且つより信頼性高く弁を閉鎖すべくスプリング力を補うのに使用されうる。
【0022】
本発明の弁100は、硝子体茎切除術用プローブ(図示せず)を駆動するのに使用されうる。硝子体茎切除術用プローブは空気圧で作動するので、弁の開放時間及び閉鎖時間が早ければ早いほどプローブは早く作動することができる。典型的な硝子体茎切除術用プローブは、第2チューブ内に同軸に配設された第1チューブを有する。第1チューブは非常に高い速度(切断率)で第2チューブの内側を上下に移動する。第1チューブの遠位端部は、硝子体を切断する切断ブレードを有する。本発明の高速弁によって、内側チューブが非常に高速で往復運動することが可能となり、非常に高い切断率がもたらされる。
【0023】
本発明が、改良された高速空気弁を提供することが上記から理解されるであろう。空気弁の接極子は、弁が迅速に且つ信頼性高く閉鎖されうるように、永久磁化される。本発明は本明細書において例によって示され、様々な修正が当業者によってなされうる。
【0024】
明細書と明細書において開示された本発明の実施例とを考慮すると本発明の他の実施形態が当業者にとって明らかであるだろう。明細書及び例は単なる模範例として見なされ、本発明の真の範囲及び思想は以下の特許請求の範囲によって示されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口及び出口を備えた空洞部を有するハウジングと、
前記空洞部内に配置された永久磁化された接極子であって、第1開放位置と第2閉鎖位置との間で移動する永久磁化された接極子と、
前記ハウジング内において前記接極子の近くに配置されたコイル及び磁芯の組立体と
を具備する、高速空気弁であって、
前記コイルを横切って印加された第1電圧が、前記磁芯内に誘導される第1極性を有する磁場をもたらし、このことによって前記接極子が前記磁芯の方に向かって引き付けられて前記出口から離れ、前記コイルを横切って印加された第2電圧が、前記磁芯内に誘導される反対の第2極性を有する磁場をもたらし、このことによって前記接極子が前記磁芯から離れて前記出口の方に向かって反発される、高速空気弁。
【請求項2】
入口及び出口を備えた空洞部を有するハウジングと、
前記空洞部内に配置された強磁性接極子であって、第1開放位置と第2閉鎖位置との間で移動する強磁性接極子と、
前記ハウジング内において前記接極子の近くに配置された第1コイル及び第1磁芯の組立体と、
前記ハウジング内において前記接極子の近くに且つ前記第1コイル及び第1磁芯の組立体の反対側に配置された第2コイル及び第2磁芯の組立体と
を具備する、高速空気弁であって、
前記第1コイルを横切って印加された第1電圧が、前記第1磁芯内に誘導される磁場をもたらし、このことによって前記接極子が前記第1磁芯の方に向かって引き付けられて前記出口から離れ、前記第2コイルを横切って印加された第2電圧が、前記第2磁芯内に誘導される極性を有する磁場をもたらし、このことによって前記接極子が前記第2磁芯及び前記出口の方に向かって引き付けられる、高速空気弁。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2013−502546(P2013−502546A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525669(P2012−525669)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/045901
【国際公開番号】WO2011/022487
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】