説明

神経再生促進剤、および該促進剤を含む機能性食品

【課題】
事故や各種疾患で傷害された神経繊維の再生を促進する経口摂取可能な組成物を提供する。
【解決手段】
ピロロキノリンキノン類またはその塩を含む組成物からなる服用剤や機能性食品を用いることによって、傷害された神経繊維の再生を促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン類またはその塩を含むことを特徴とする、傷害された神経繊維の再生促進剤、および該促進剤を含有する機能性食品に関する。このような傷害された神経繊維の再生促進作用を有する組成物は、外傷、虚血性疾患、糖尿病や高尿酸血症等の代謝性疾患、感染症、腫瘍、自己免疫性疾患、筋萎縮性軸索硬化症等の運動ニューロン病、または加齢などによって引き起こされる神経繊維損傷に伴う合併症状を、治癒、寛解させる上で、極めて有用な手段となる。
【化1】


(ただし、R,R,Rは同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ベンジル基、プロパギル基またはアルコキシカルボニルアルキル基を示す。)
【背景技術】
【0002】
事故や疾病によって神経繊維に破壊や変性が生じると、それが感覚神経に起こったものであれば、異常感覚の感知、疼痛、感覚の減退等の感覚障害をもたらす。また、運動神経に起こったものであれば、四肢の動作を始めとする身体各所の筋肉運動に障害をもたらす。また、それが自律神経系に起こったものであれば、これら神経の支配下にある諸器官の機能に変化をもたらし、発汗機能、体温調節機能、消化管機能等に異常を来すことになる。このように、神経繊維の破壊や変性は、生活者に肉体的、精神的な負担を強いる多様な症状を引き起こすが、傷害された神経繊維の再生を促進し機能回復を速める、いわゆる原因療法的な治療法あるいは予防法は確立しておらず、消炎、鎮痛、血流改善等による対症療法で対応しているのが現状である。そのため、近年、このような神経繊維の再生促進活性を有する物質を見出すべく多くの研究がなされているが、未だ実用化される段階には至った物はない。
我々もピロロキノリンキノン類またはその塩にNGF(神経成長因子)の産生促進作用があることを見出し報告したが(例えば、特許文献1参照)、経口的に投与することによって副作用もなく有意に神経繊維の再生を促進できることについて触れるには至っていない。
【0003】
【特許文献1】特開平6−211660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、事故や各種の疾患で傷害された神経繊維の再生促進作用を有する経口摂取可能な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、天然物、食品含有成分の中から傷害された神経繊維の再生に役立つ経口摂取可能な物質を見出すべく研究を重ねた結果、ピロロキノリンキノン類およびその塩が、副作用を示すことなく神経繊維の再生を著しく促進することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の(1)〜(4)に示す、一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン類またはその塩を含むことを特徴とする、傷害された神経繊維の再生促進剤、および該促進剤を含有する機能性食品に関する。
(1)一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン類またはその塩を含むことを特徴とする、神経繊維の再生促進剤。
【化2】


(ただし、R,R,Rは同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ベンジル基、プロパギル基またはアルコキシカルボニルアルキル基を示す。)
(2)(1)に記載の神経繊維の再生促進剤を含有する、機能性食品。
(3)一般式(1)で示されるピロロキノリン類またはその塩の一日当たりの経口摂取量が0.05〜5mg/kg体重の範囲となるように設計された、(1)に記載の神経繊維の再生促進剤。
(4)一般式(1)で示されるピロロキノリン類またはその塩の一日当たりの経口摂取量が0.05〜5mg/kg体重の範囲となるように設計された、(2)に記載の機能性食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明の、傷害された神経繊維の再生促進剤、および該促進剤を含有する機能性食品を用いることによって、経口摂取により副作用を伴うことなく、外傷や各種疾患によって引き起こされた神経繊維の損傷を、早期回復させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、ピロロキノリンキノン類またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする神経繊維の再生促進剤、および該促進剤を含有する機能性食品に関する。
ピロロキノリンキノンは、1979年メタノール資化性菌のメタノール脱水酵素の補酵素として見出され、細菌類以外にも、大豆、ソラ豆、ピーマン、ジャガイモ、パセリ、ホーレンソウ等の食用植物や、酢、茶、ココア、納豆、豆腐等の加工食品からも検出されている。
ピロロキノリンキノン類またはその塩は、有機化学的合成法(例えば、JACS、第103巻、5599〜5600頁(1981))および発酵法(例えば、特開平1-218597号公報)などにより製造することが可能である。なお、ピロロキノリンキノン類の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0008】
従来ピロロキノリンキノン類またはその塩は経口投与では吸収されにくいとの推定から、静脈投与、腹腔内投与で活性評価がなされて来たがそのような経路で投与した場合、急性的な尿排泄の異常を伴う副作用が出やすいと言う問題を伴ったため、有効量を投与することができず、従って十分な効果を発揮させることができなかった。
【0009】
しかしながら、本発明らは、その問題の解決法を見出すべくさらに検討を続けた結果、ピロロキノリンキノン類またはその塩を含ませた組成物を経口的に摂取させることにより、低摂取量で神経繊維の再生を促進させることが可能であり、しかも、静脈投与、腹内投与で認められた急性的な副作用が、高摂取量でも出現しないことを見出した。
【0010】
ピロロキノリンキノン類またはその塩は、単独でも、他の素材と組み合わせても使用できる。組み合わせ可能な素材としては、ビタミンB群、ビタミンCおよびビタミンE等のビタミン類、アミノ酸類、アスタキサンチン、α-カロテン、β-カロテン等のカロテノイド類、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等のω3脂肪酸類、アラキドン酸等のω6脂肪酸類などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
また、本発明において、ピロロキノリンキノン類またはその塩を含む神経繊維の再生促進剤は、医薬品または機能性食品の形で市場に供することができる。即ち、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等の形態、あるいは、日常食する飲食物、栄養補強食、各種病院食等の形態で提供可能である。なお、調製の際に使用される添加剤としては、液剤としては水、果糖、ブドウ糖等の糖類、落下生油、大豆油、オリーブ油等の油類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類を用いることができる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの固形剤の賦型剤としては乳糖、ショ糖、マンニット等の糖類、滑沢剤としてはカオリン、タルク、ステアリン酸マグネシウム等、崩壊剤としてデンプン、アルギン酸ナトリウム、結合剤としてポリビニルアルコール、セルロース、ゼラチン等、界面活性剤としては脂肪酸エステル等、可塑剤としてグリセリン等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
また、本発明における神経繊維の再生促進剤を含む組成物は、ピロロキノリンキノン類またはその塩が、1日当たり0.05〜5mg/kg体重、好ましくは0.1〜1mg/kg体重の範囲で経口的に摂取できるように製品設計されていることが、効果および経済性の面で望ましい。
【実施例】
【0013】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれら例により限定されるものではない。
実施例1
【0014】
7週齢のSDラット20匹を5匹ずつ4群に分け、坐骨神経切断手術を施し、週5日、2週間、ゾンデを用いて蒸留水に溶解したピロロキノリンキノン二ナトリウムを、各群0.05mg/kg/day、0.5mg/kg/day、5mg/kg/dayずつ経口投与した。対照群には同様に蒸留水を投与した。投与期間終了後、解剖して坐骨神経を取り出し、ホルマリン固定後、パラフィン切片を作製した。切片を鍍銀染色し、顕微鏡で再生神経部を観察し、再生神経繊維本数を測定した。その結果を表1に示す。平均再生神経繊維本数はピロロキノリンキノン二ナトリウム投与群で有意に多く、投与群の中でも0.5mg/kg/day投与群で最も多い結果であった。本化合物は1〜100倍にわたる広い投与量で有意な効果を示し、かつ、最大投与量においても副作用は認められなかった。
【0015】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるピロロキノリンキノン類またはその塩を含むことを特徴とする、神経繊維の再生促進剤。
【化1】


(ただし、R,R,Rは同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ベンジル基、プロパギル基またはアルコキシカルボニルアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の神経繊維の再生促進剤を含有する、機能性食品。
【請求項3】
一般式(1)で示されるピロロキノリン類またはその塩の一日当たりの経口摂取量が0.05〜5mg/kg体重の範囲となるように設計された、請求項1に記載の神経繊維の再生促進剤。
【請求項4】
一般式(1)で示されるピロロキノリン類またはその塩の一日当たりの経口摂取量が0.05〜5mg/kg体重の範囲となるように設計された、請求項2に記載の機能性食品。

【公開番号】特開2007−230912(P2007−230912A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55093(P2006−55093)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】