説明

神経向性薬として利用可能なハイドロキシル化された長鎖をもつトコフェノール誘導体

【課題】神経幹細胞の細胞成分を変化させ、分化過程にある神経膠細胞及びニューロンの分化及びその後の生存力を促進させ、及び稀突起神経膠細胞前駆細胞の成熟稀突起神経膠細胞への分化を促進させる単離化合物あるいは合成化合物、特に化学式(1)で表される化合物を提供する。さらに、例えば小神経膠及び/または星状細胞の活性化を減ずることにより、及び/または反応性神経膠症を減ずることにより、神経系に悪影響を与える疾病の炎症性成分を減少させることができる化合物を提供する。さらに、これら化合物の製造方法、及び神経系に悪影響を与える疾病の予防及び治癒を目的とした医薬組成物製造へのこれら化合物の使用方法を提供する。
【解決手段】化学式(1)で表される化合物を製造し、及び医薬組成物の有効成分として使用する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単離あるいは合成化合物、特に神経系細胞の細胞成分を変化させる(ニューロン/神経膠細胞比を変化させる)ことができ、分化及び分化過程にあるニューロン及び神経膠細胞のその後の生存力を促進させ、さらに稀突起神経膠細胞前駆細胞の成熟稀突起神経膠細胞への分化を促進させることができる化学式(1)で表される化合物に関する。また、本発明に係る化合物によって、特に小神経膠細胞及び/または星状細胞の活性化を減じ、及び/または反応性神経膠症を減ずることにより、神経系に悪影響を及ぼす疾病の炎症性成分を減じることも可能である。本発明はさらに、これら化合物を含む組成物、これら化合物の製造方法、さらにこれら化合物の神経系に悪影響を及ぼす疾病の予防あるいは治療を目的とする医薬組成物製剤への利用にも関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)は、神経細胞として特徴付けられる2種の細胞集合体、すなわちニューロンと神経膠細胞として分類される他のすべての細胞種から構成される。成人における主要な神経膠細胞種は星状細胞及び稀突起神経膠細胞である。これらの細胞は胎児段階を通して産生され、さらに出産後から成人に至るまで脳の一定部分において産生され続ける。
ニューロン、星状細胞及び稀突起神経膠細胞は、理論的に無制限な増殖能をもち、かつ神経管中に位置している共通の前駆体としての多型潜在性細胞から生ずる。これら前駆体は、自己再生性、無限の増殖能及び細胞自体が由来する組織を形成する細胞種の産生能をもつという幹細胞の定義基準を満たすことから、神経幹細胞と考えることが可能である。
【0003】
過度特殊化細胞であるニューロンは支持組織中及び神経膠環境中において発達する。中心神経膠は中枢神経系に由来する神経膠細胞から成り、末梢神経膠は末梢神経系に由来する神経膠細胞から成る。より正確に言えば、末梢神経膠は星状細胞(大神経膠細胞)、稀突起神経膠細胞(稀突起神経膠)及び小神経膠細胞から成る。末梢神経膠は中心神経膠の稀突起神経膠細胞に相当するシュワン細胞から成る。
星状細胞は血液脳関門(BHE)の構成成分である。これら星状細胞は中枢代謝調節に関与し、毛細血管周囲を包む突起(偽足)を用いて毛細血管とニューロン間の界面(栄養的役割)として機能する。これら星状細胞は神経伝達物質の奪還に与る他、グリアフィラメント(細胞骨格構成成分)生成による治癒にも関与している。
小神経膠細胞は胎児期に中枢神経系へ侵入する骨髄系に由来した神経膠細胞である。小神経膠は、高分子の排除、アポプトシスあるいはネクロシスにおける細胞食作用、病原体の認知及び排除、さらには免疫反応調節に特殊化した細胞である。
稀突起神経膠細胞によって中枢神経系における軸索の髄鞘形成が与えられる。稀突起神経膠細胞は多種に亘る前駆体に由来する。これら稀突起神経膠細胞はすべて神経管に沿った極めて限定的な脳室帯中において生成される。成人の場合、稀突起神経膠細胞は脳実質組織全体に分散されているが、特に白室のクラスター中に多く存在する。
【0004】
稀突起神経膠細胞によって合成される髄鞘は、軸索周囲を包む膜付随タンパク質である。この髄鞘には二つの機能、すなわち電気絶縁体として作用する機能と神経衝撃伝達速度の増大を可能とする機能がある。この髄鞘が破壊されると、スローダウン、さらには運動不能、情報神経伝達の撹乱、また神経障害の誘発がひき起こされる。ミエリンの欠乏あるいは不足状態では脱髄疾患あるいは髄鞘形成不全疾患がひき起こされる。これら疾患の最も一般的かつ最も荒廃した状態が多発性硬化症(MS)である。
【0005】
多発性硬化症は炎症性あるいは免疫性要素を伴う脱髄に結び付いた若年成人の神経性疾患である。最近の治療法では炎症症状に関しては比較的良好な結果が得られている。しかしながら、脱髄に対しては全く効果がなく、永続的かつ累積的ハンディキャップがひき起こされる。先に考察した場合とは異なり、この疾病の初期段階においても稀突起神経膠細胞には新たなミエリンの産生能(リミエリネーション)が保持されていることが立証されている。他方、慢性段階においては、このようなリミエリネーション能は完全に消失されると考えられる。大多数の患者について見ると、MSはまず「再発緩和型」で進行し、その後に「進行型」となる。稀突起神経膠細胞及びその前駆体は初期段階の炎症現象下においても生存可能であると考えられるが、それらの細胞数及び有効性は慢性段階において大きく減じられる。現在まで二つの治療可能性、すなわち稀突起神経膠細胞前駆体(移植組織)の移植、または生存している稀突起神経膠細胞及び内因性稀突起神経膠細胞前駆体に対する化学物質によるミエリネーションの刺激が検討されている。
【0006】
前記移植に関しては、先行技術においては、脱髄領域を最大量まで修復するため、成人稀突起神経膠細胞よりもミエリン産生能及び遊走能が大きいことが示唆される稀突起神経膠細胞(僅かに分化した若い細胞)の前駆体の使用が考慮されている。稀突起神経膠細胞の理想源は極めて若いヒト神経組織(胎児組織)であるが、かかる組織には倫理的及び実施上の問題がある。また、これら組織の遊走特性についても未知である。大多数の患者においては多数の病変があり、それらの個々について個別に移植を行うことは考えられないことである。さらに、これら稀突起神経膠細胞がそれ自体で遊走できるか否か、あるいは特定の化学的要因の介入が必要とされるかについても未知であり、また前記細胞の寿命についても未知である。
【0007】
また、前記で神経向性因子として確認された種々のペプチド物質については先行技術(神経向性因子研究における最近の進展と臨床的連関、L.Shen,A.Figurov及びB.Luu、Journal of Molecular Medicine、1997年、Vol.75,637−644頁)に記載がある。これら物質は脳に特異的な成長因子である。これら物質は神経細胞を種々の攻撃から、特に活性化された小神経膠細胞から遊離されて脳炎症の原因と成る物質から、保護し、さらに神経系の機能不全によってひき起こされる種々疾病から神経細胞を保護する。通常、これら神経向性因子によって神経細胞の生存力が増強され、また神経細胞の分化に好ましい影響、すなわち完全な成長が与えられ、またそれら神経細胞の使用が可能となる。
【0008】
本発明に関連して、本願発明者は新規化合物の幹細胞に対する影響について調べた(幹細胞−臨床的応用と展望、M.Brehm,T.Zeus及びB.E.Strauer、Herz、2002年、Vol.27,611−620頁)。実際、最近の発見によって生物医学における重大な発展が認識されている。これらの幹細胞は再生医薬として知られる医薬の新分野にとって不可欠な手段であると考えることができる。(再生医薬のための幹細胞、組織及び器官処理技術の進歩、J.Ringe,C.Kaps,G.R.Burmester及びM.Sittinger、2002年、VOL.89,338−351頁)、(損傷中枢神経系の再生、P.J.Horner及びF.H.Gage、Nature、2000年、Vol.407,963−970頁)。かかる医薬には、年齢関連疾病及び変性神経障害(老化及び老化過程における疾病の標的としてのヒト幹細胞、Medical Hypotheses、2003年、Vol.60,N3,439447)の治療、及び神経系の外傷性疾患への有効な応用が見出されるであろう。
【0009】
神経幹細胞によってCNSに3種の主要な細胞が生成される機構は未だ知られていない。しかしながら、これら細胞の生成は連続した段階を経て進行し、これら段階において神経幹細胞の発達可能性は漸進的に制限を受けることは知られている。徐々に可能性が制限された中間前駆体が生成され、これら前駆体は高度に分化された細胞となる。当初、幹細胞は未発達起源のものである。従って、それらは本質的に胎児及び乳児中に存在する。これら幹細胞は殆ど無限に増殖可能である。これら幹細胞は神経向性因子によって成熟した異なるタイプの機能性細胞へと変換される(幹細胞をニューロン及び星状細胞それぞれへ分化させるニューロン及び星状細胞分泌因子、M.Y.Chang,H.Son,Y.S.Lee,及びS.H.Lee、Molecular and Cellular Neuroscience,2003年、Vol.23,N3,414−426頁)。つい最近、幹細胞がより発達した器官中、特に脳中(哺乳類における成人性神経組織発生及び中枢神経系神経幹細胞、Ph.Taupin及びF.H.Gage,Journal of Neuroscience Research、2002年、Vol.69,745−749頁)及び成人脊髄中にも存在することが見出されている。従って、種々の成長因子の作用下において、神経幹細胞、すなわち脳中に存在する幹細胞をニューロン、星状細胞あるいは稀突起神経膠細胞、すなわち基本的タイプの神経細胞へ変換させることが可能である。
【0010】
しかしながら、前記星状細胞の分子サイズ及び物理化学的特性に起因して、前記タンパク質成長因子が種々の生物的障壁、特に脳血液関門を越えることはできない。そのため、前記成長因子の十分量が脳中へ入り込んで何らかの有利な効果を与えることはできない。さらに、それら成長因子の生物学的利用能は極めて乏しく、従ってそれらの有効性及び用途には制限がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は新規化合物の使用から構成される、移植の有利な代替方法を提供することを目的とする。これら新規化合物は脳血液関門を越えることができ、また神経幹細胞の細胞成分を変化させ(ニューロン/神経膠細胞の比を変化させ)、及び稀突起神経膠細胞前駆体の稀突起神経膠細胞への分化を促進させることによって内因性リミエリネーションを促進させることが可能である。事実、本発明には、まず脳中へ十分量入り込んで所望の生物効果を促進させ、次いで一定の神経向性因子の作用をまねて作用することができる小さな疎水性分子について記載している。これらの模倣分子は脳中の原位置において神経幹細胞を分化された神経細胞へと変換させることができ、また稀突起神経膠細胞前駆体を稀突起神経膠細胞へと変換させることができる。それゆえ、本代替方法によれば手術の介入は全く必要とされない。
実際、幹細胞が変性神経障害の治療に用いられる場合、幹細胞は稀突起神経膠細胞前駆体が導入されるのと全く同様に外科手術によって脳中へ導入される(発達過程にある中枢神経系における神経幹細胞:移植を介した細胞治療に関して、C.N.Svendsen及びM.A.Caldwell、Progress in Brain Research、2000年、Vol.127,13−34頁)。だから、本願発明者は神経幹細胞の細胞成分を生体内、生体外、あるいは試験管内で変化させ、すなわち神経幹細胞の選択に影響を与えてその選択をニューロン経路あるいは神経膠経路へと向けさせる(ニューロン/神経膠細胞比の変化)ことができる化合物を開発及び合成した。さらに、これら化合物によって分化及び分化過程にあるニューロン及び神経膠細胞の生存力を助長することが可能である。より具体的には、本発明に従った化合物はニューロンの生存力及び神経突起の成長を助長する。本発明に従った化合物は同時に稀突起神経膠細胞前駆細胞の稀突起神経膠細胞への分化を助長させることができる。さらに本発明に従った化合物は神経系に悪影響を与える疾病において炎症性成分を減少させることも可能である。特には、これら化合物は小神経膠及び/または星状細胞の活性化を減ずることも可能である。さらには、これら化合物は星状細胞の細胞骨格の一定化合物の発現を変化させることにより、反応性神経膠症、すなわち神経膠損傷を減ずることも可能である。
【0012】
従って、本発明の第一の態様は、生体内、試験管内、あるいは生体外において神経幹細胞の成分変化及び/または稀突起神経膠細胞前駆体の稀突起神経膠細胞への分化をひき起こし、また小神経膠細胞の活性化、及び/または星状細胞及び/または反応性神経膠症の活性化を抑制する単離化合物あるいは合成化合物に関する。
【0013】
好ましくは、本発明は生体内、試験管内、あるいは生体外において神経幹細胞の成分変化及び/または稀突起神経膠細胞前駆体の稀突起神経膠細胞への分化をひき起こし、及び/または小神経膠細胞の活性化及び/または、星状細胞及び/または反応性神経膠症の活性化を抑制する単離化合物あるいは合成化合物に関する。本発明はさらに、非ステロイド系抗炎症性化合物(NSAID)として小神経膠細胞の活性化を変化、好ましくは抑制するための前記化合物の生体内における使用に関する。但し、この非ステロイド系抗炎症性化合物は、本発明に従った化合物あるいは組成物とは異なって脳血液関門を越えることはできない。
【0014】
本発明に従った化合物は、特に多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、クロイツフェルト・ヤコブ病等の神経変性疾患あるいは脱髄疾患/髄鞘形成不全の治療剤として、さらには血管痴呆、筋萎縮性側索硬化症、乳児脊髄筋萎縮症及び脳血管偶発症候と結び付いた神経障害の治療剤として優れる。本発明はさらに、前記化合物の製剤方法及び前記化合物を含む医薬組成物にも関する。
【0015】
本発明は、特定の態様として、トコフェノール系環で置換された長鎖炭化水素アルコール類及びそれら類縁化合物に関する。これら化合物はトコフェノール脂肪アルコール類(TFA)と称される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に従った化合物には好ましくは長鎖ω−アルカノール及びトコフェノール型環が含まれる。適度な大きさの鎖長と適切に選ばれた置換基をもつかかる化合物により、神経幹細胞中の細胞成分を変化させて分化、ニューロン生存力及び神経成長を促進させ、さらに稀突起神経膠細胞の分化及び生存力を促進させることが可能である。先述したように、本発明化合物により神経系に悪影響を与える疾病において生ずる炎症成分を減少させることも可能である。より具体的には、本発明化合物により小神経膠の活性化及び星状細胞の活性化を減じあるいは抑制することが可能である。またこれら化合物によって、より詳細には星状細胞の細胞骨格の一定化合物の発現を変化させることにより反応性神経膠を減ずることも可能である。小神経膠細胞の活性化の発現及び神経幹細胞の成熟稀突起神経膠細胞への変換は、多発性硬化症等の神経変性疾患あるいは脱髄/髄鞘形成不全疾患の治療にとって不可欠な特徴である。
【0017】
従って、本発明の特定の態様は下記化学式(1):
【化1】

式中、R、R、R及びRは同一あるいは異なっていてもよい水素原子、ヒドロキシ基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルコキシ基、または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)カルボキシル基を表し、
は水素原子または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基を表し、
mは0〜2の整数、好ましくは1または2を表し、及び
nは8〜25の整数、好ましくは8〜20の整数、さらに好ましくは8〜16または8〜14の整数を表す、で表される化合物に関する。
【0018】
前記化学式(1)の化合物は従って5、6または7員環(m=0,1,2)へ融合された芳香環、すなわちベンゾフラン、ベンゾピランまたはそれらのより高級な同族体から成っている。この化合物は好ましくはベンゾピランであり、mは好ましくは1である。
【0019】
前記化学式(1)で表される化合物には、置換基Rをもつ炭素原子がR,S配置をもつか、あるいは混合物(好ましくはラセミ体)である化合物が含まれる。
【0020】
本発明においては、用語「アルキル」は1〜6個の炭素原子をもつ直鎖あるいは枝分かれ鎖の炭化水素基、すなわちメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル等を表わす。R、R、R及びRの少なくとも一つがアルキル基である場合、該アルキル基は好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基またはt−ブチル基である。
【0021】
前記アルキル基は−O−結合(エーテル結合)を介して分子残基と結合しているアルキル基に相当する。(C〜C)基は特に好ましくはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、またはt−ブトキシ基である。
【0022】
前記カルボキシル基は−OCO−アルキル基に相当する基であり、ここでアルキルは前記と同様のアルキルである。かかるカルボキシル基としてはアセタート、プロピオネート、ブチレート、ペンタノエートまたはヘキサノエート等を挙げることができる。
【0023】
本発明の特定の態様では、前記化学式(1)で表される化合物は、芳香環上の置換基R、R、R及び/またはRの少なくとも一つ、好ましくは一つだけがヒドロキシル基、アルコキシ基、またはカルボキシル基である化合物に相当する。
【0024】
本発明の別の特定の態様では、Rは水素原子、またはR,S配置をもつか、あるいは混合物(好ましくはラセミ体)であるアルキル基、好ましくはメチル基を表す。
【0025】
従って前記化学式(1)で表される化合物の側鎖は、nが8〜25、好ましくは8〜20、さらに好ましくは8〜16または8〜14の整数であるω−アルカノールに相当する。nが10、11、12、13、14、15または16である前記化学式(1)で表される化合物は本発明において特に有効な化合物である。特に好ましい化合物は、少なくとも12個かつ多くても18個の炭素原子をもつ側鎖を有する化合物、すなわちTFA−12、TFA−14、TFA−15、TFA−16及びTFA−18である。以下において述べる方法に従って合成可能である、R、R、R及びRがメトキシ基またはアセタート基であり、かつそれらの側鎖に前記と同数の炭素原子が含まれる他の化合物も同様に有効である。
【0026】
従って、本発明は一態様として、生体内、試験管内あるいは生体外において神経幹細胞の細胞成分を変化させて生体内、試験管内あるいは生体外における神経幹細胞及び/または稀突起神経膠細胞前駆体細胞の稀突起神経膠細胞への分化及び前記稀突起神経膠細胞の生存力を促進させ、あるいは他方において神経幹細胞のニューロンへの分化及び前記ニューロンの生存力を促進させ、あるいは小神経膠細胞の活性化、及び/または星状細胞及び/または反応性神経膠の活性化をさらに変化、好ましくは抑制することができる、少なくとも1種の単離化合物あるいは合成化合物を有効成分として含みかつ医薬的に許容可能なキャリアを用いた医薬組成物に関する。本発明による好ましい医薬組成物には、有効成分として、神経幹細胞の細胞成分を変化させ、かつ稀突起神経膠細胞前駆細胞の稀突起神経膠細胞への分化、及び/または小神経膠細胞及び/または星状細胞の活性化の変化、好ましくは抑制、あるいは減少をひき起こすことができ、及び/または反応性神経膠を変化、好ましくは抑制できる少なくとも1種の単離化合物あるいは合成化合物が医薬的に許容可能なキャリアと共に含まれる。
【0027】
本発明は、別の一態様として、有効成分として前記化学式(1)で表される化合物の少なくとも1種を医薬的に許容可能なキャリアまたは賦形剤と共に含む医薬組成物に関する。
【0028】
どのような投薬経路によっても、本発明に従った好ましい医薬組成物はその活性成分の保護及び最適な同化が有利に為される形態で提供される。
【0029】
本発明に従った化合物または組成物は種々経路かつ種々形態で投薬可能である。すなわち、前記化合物または組成物は、経口、吸入あるいは例えば静脈、筋肉、皮下、経皮、動脈注射等により全身方式で投薬可能であるが、特に好ましい投薬法は静脈、筋肉及び皮下注射、経口及び吸入投薬法である。
注射用として用いる場合、前記化合物は一般的には注射器を用いて、あるいは潅流によって注入可能な液状懸濁液の形態に製剤される。その際、前記化合物は医薬用途に適合しかつ当業者に公知である塩水、生理的塩類溶液、等張液、緩衝液等中に溶解される。そのために、前記化合物へ分散剤、可溶化剤、安定剤、保存剤等から選択される1種または数種の薬剤または媒体を含ませることが可能である。液剤または注射剤中に使用可能な主要な薬剤あるいは媒体としては、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、乳糖、植物油、アラビアゴム等がある。
前記化合物を、薬物放出を確実に持続的及び/または遅効的にするガレヌス製剤あるいは手段を用いて、ゲル、油剤、錠剤、坐剤、粉剤、ゲルカプセル、カプセル。エアゾール等の形態として投薬することも可能である。セルロース、炭酸塩エステルあるいは澱粉等の薬剤をこの種の製剤に用いると有利である。
【0030】
とりわけ、本発明に従った化合物は10−5〜10−12M、好ましくは10−6〜10−8M、さらに好ましくは10−5〜10−8Mの濃度において小神経膠及び星状細胞の活性化を変化させることが可能である。同じ好ましい濃度条件において、これら化合物は稀突起神経膠細胞前駆体を成熟稀突起神経膠細胞へと変換させる。このような条件下において、本発明に従った化合物はニューロンの分化及び生存力を促進させることも可能である。
【0031】
本願発明者は本発明化合物の上記濃度における活性について示したが、投与速度及び/または注射量は、当業者により患者、病状、投薬経路等との関連において適合させることが可能である。さらに必要な場合、反復注射を行うことも可能である。また、慢性疾患の治療には遅効性あるいは持続性放出製剤を用いることも有利である。
【0032】
さらに本発明は、神経系へ悪影響を与える疾病の予防及び治療を目的とする、中枢神経系の稀突起神経膠細胞あるいは他の細胞、及び/または神経系の炎症を改変させる医薬組成物製剤への本発明化合物の使用に関する。このような疾病の主要なものは、変性神経障害、特に脱髄疾患あるいは髄鞘形成不全、さらにはアルツハイマー病である。
【0033】
本発明に関し、用語「治療」は、単独で、あるいは他剤あるいは他の治療法と組合せて用いられる予防治療及び治癒治療の双方を意味すると理解されたい。
また治療は、慢性疾患に対する治療と急性疾患に対する治療の双方を含めた治療である。
【0034】
それゆえ、前記TFA化合物を神経変性疾患及び脱髄疾患、特に多発性硬化症の治療に医薬成分として用いることが可能である。
【0035】
本発明の別の態様は、生体内における神経幹細胞の細胞成分の変化、ニューロン及び稀突起神経膠細胞の分化及び生存力の促進、及び小神経膠細胞及び星状細胞、さらには反応性神経膠症の変化をひき起こす本発明に従った化合物あるいは組成物の使用に関する。
【0036】
本発明の別の態様は、前述したような幹細胞あるいは稀突起神経膠細胞前駆細胞の生体外における治療への本発明に従った化合物あるいは組成物の使用に関する。特に、この治療法は前記細胞の成分及び/または分化の誘導から構成されている。
【0037】
本発明はさらに、稀突起神経膠細胞あるいはそれらの活性及び/または神経系の炎症を変化させる神経系疾患の予防及び治癒のための治療方法に関する。この治療方法は、前記疾患を患いあるいは疾患が進行するおそれのある患者への本発明に従った化合物あるいは組成物、例えば前記式(1)で表される化合物の有効薬量の投薬、さらには前記生体外治療が為された幹細胞あるいは稀突起神経膠細胞前駆細胞の投与から構成される。
【0038】
本発明に従った化合物によって治療可能な疾病は、特に多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、クロイツフェルト・ヤコブ病である。治療可能な他の疾病としては、血管痴呆、筋萎縮性側索硬化症、乳児脊髄筋萎縮症がある。同様に、脳血管偶発症候から起こる病変及び神経系のあらゆる他の病変も本発明化合物及び組成物によって治療可能である。
【0039】
本発明化合物は、当業者に公知の化学反応を用い、以下に述べる前記化学式(1)で表される化合物の製造方法に基づいて市販の化学品から製造可能である。
【0040】
前記化学式(1)で表される化合物は、以下に述べる工程、すなわちワインレブアミドの生成、付加−脱離、グリニャール付加(マグネシウム付加)及びZnCl及びHClを触媒とするカップリング反応から成る製造方法を用いることにより特に生成可能である。
【0041】
前記化学式(1)で表される化合物は、例えば下記された特定の反応式に従って製造可能である。
【化2】

式中、R、R、R、R、R及びnは前記と同様であり、Rはベンジル基またはt−ブチルジメチルシリル基を表す。
【0042】
より具体的には、化学式(1)で表される化合物(I)は以下の工程を経て製造される。まずトリメチルアルミニウムの存在下で化合物(1)をジメチルヒドロキシルアミンと反応させて化合物(2)が与えられ、次いで化合物(2)のアルコール官能基が保護されて化合物(3)が与えられ、化合物(3)へ有機リチウム化合物が求核付加されて化合物(4)が与えられ、ビニルマグネシウムの存在下で化合物(4)から化合物(5)が与えられ、次いで亜鉛及び塩酸の存在下で化合物(5)と化合物(6)との反応が行われて化合物(7)が与えられ、最後に化合物(7)のアルコール官能基の脱保護が行われることにより化学式(1)で表される化合物(I)が与えられる。
【0043】
さらに具体的に言えば、R、R、R、Rがメチル基、Rがヒドロキシル基、m=1、n=13である化合物(I)は下記により製造可能である。すなわち、オキサシクロヘプタデカン−2−オンをトリメチルアルミニウムの存在下、0℃、大気圧下でジメチルヒドロキシルアミンと反応させてN−メトキシ−N−メチル−16−ヒドロキシヘキサデカンアミドを得る。次いでこの化合物のヒドロキシ官能基を−78℃において水素化ナトリウム及びベンジルブロマイドの存在下で保護する。次いで生じたN−メトキシ−N−メチル−16−ベンジルオキシヘキサデカンアミドを−78℃、大気圧下においてメチルリチウム処理して17−ベンジルオキシヘプタデカン−2−オンを得る。得られたこの化合物をビニルマグネシウムと反応させて18−ベンジルオキシ−3−メチルオクタデク−1−エン−3−オールを得、次いでこの化合物をトリメチルヒドロキノンの存在下で塩化亜鉛及び濃塩酸と反応させて2−(15−ベンジルオキシペンタデシル)−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールを得る。得られたこの化合物をパラジウムの存在下木炭上で接触水素化することにより2−(15−ヒドロキシペンタデシル)−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールを得る。
【0044】
本発明はさらに、前記された方法のいずれか一つあるいは他の方法が含まれた処理において用いることが意図された処理器具及び器具一式に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下に記載した非限定的実施例を理解することにより、本発明の他の観点及び利点がさらに明らかにされる。
【実施例】
【0046】
A.化学式(1)で表される化合物の製造
1)N−メトキシ−N−メチル−16−ヒドロキシヘキサデカンアミドの製造
ジメチルヒドロキシルアミン(17.687mmol;3等量、MW=97.55)1.78gをアルゴン下において蒸留されかつ−78℃まで冷却されたCHCl10mL中に溶解する。2MのAlMe・ヘキサン溶液(17.687mmol;3等量;分子量=72.09)8.8mLを−78℃において滴下により加え、得られた反応混合液を室温下で30分間撹拌した。次いでこの混合液を0℃まで冷却し、蒸留CHCl5mL中に溶解されたオキサシクロヘプタデカン−2−オン(5.895mmol;1等量;分子量=254.42)1.55gをこの混合液中へ滴下によって加えた。次いで前記反応混合物を撹拌しながら室温下に置いた。薄層クロマトグラフィーによる分析を行って1時間30分後に反応が完了していることを確認した。この反応混合液へ−78℃まで冷却されたEtO/MeOH混合液(混合比2:1)60mLを滴下によって加えてからセライトを用いて濾過した。NaHCO飽和水溶液100mLを加え、得られた水性層をエーテルで抽出した。得られた有機層を集めて硫酸マグネシウム上で乾燥させ、次いで減圧下で蒸留して5.262mmol及び収量89%に相当するN−メトキシ−N−メチル−16−ヒドロキシヘキサデカンアミド1.66gを得た。上記方法により得られたアミド化合物はさらに精製することなく後続処理において用いられた。
=0.1、溶離剤:30%酢酸エチル・ヘキサン溶液

NMR H(300MHz,CDCl)δ:1.24(sブロード,22H,H−4〜H−14);1.52−1.63(m,4H,H−3及びH−15);2.39(t,2H,J=7.7Hz,H−2);3.16(s,3H,H−I’);3.61−3.66(m,5H,H−16及びH−2’)

NMR 13C(75MHz,CDCl)δ:24.6(CH,C−14);25.7(CH,C−3),29.4−29.6(10×CH,C−4〜C−13);31.9(CH,C−2);32.0(CH,C−1’);32.8(CH,C−15);61.16(CH,C−2’);63.0(CH,C−16)
【0047】
2)N−メトキシ−N−メチル−16−ベンジルオキシヘキサデカンアミドの製造
N−メトキシ−N−メチル−16−ヒドロキシヘキサデカンアミド3.27g(10.364mmol;1等量;分子量=315.49)を蒸留THF40mL中へ撹拌しながら溶解させた。ヘキサン中で洗浄された60%NaH・油溶液0.83g(20.729mmol;2当量;分子量=24)を加えて、得られた溶液を還流(75℃)下で30分間加熱した。BnBr1.48mL(12.437mmol;1.2当量;分子量=171.04)を加え、得られた溶液を還流下で加熱した。薄層クロマトグラフィーによる分析を行って24時間後に反応が完了していることを確認した。NHCl飽和水溶液100mLを加えて、得られた水性層をエーテルで抽出した。得られた有機層を集めて硫酸マグネシウム上で乾燥させ、次いで減圧下で蒸留して黄色の残渣を得た。前記残渣についてシリカカラム上でクロマトグラフ(5×15cm、溶離液:30%酢酸エチル・ヘキサン溶液)を行った。これにより、7.198mmol及び収量69.4%に相当する全量で2.92gのN−メトキシ−N−メチル−16−ベンジルオキシヘキサデカンアミドが得られた。
=0.5、溶離液:30%酢酸エチル・ヘキサン溶液

NMR H(300MHz,CDCl)δ:1.25(sブロード、22H,H−4〜H−14);1.56−1.65(m,4H,H−3及びH−15);2.40(t,2H,J=7.6Hz,H−2);3.17(s,3H,H−1”);3.46(m,2H,J=6.6Hz,H−16);3.67(s,3H,H−2”);4.50(s,2H,H−17);7.24−7.34(m,5H,H−2’〜H−6’)

NMR 13C(75MHz,CDCl)δ:24.6(CH2,C−15);26.2(CH.C−3);29.3−29.7(10×CH.C−4〜C−14);31.9(CH,C−2);32.1(CH,C−1”);61.2(CH,C−2”);70.5(CH,C−16);72.8(Ph−CH,C−17);127.4(Ph,C−4’);127.6(Ph,C−2’及びC−6’);128.3(Ph,C−3’及びC−5’);138.7(Ph,C−1’)
【0048】
3)17−ベンジルオキシヘプタデカン−2−オンの製造
N−メトキシ−N−メチル−16−ベンジルオキシヘキサデカンアミド0.5g(1.232mmol;1当量、分子量=405.62)をアルゴン下で蒸留しかつ−78℃まで冷却したTHF8mL中に溶解した。得られた溶液へ1.5MのMeLi・エーテル溶液2.46mL(3.698mmol,3当量、分子量=21.95)を−78℃において滴下によって加えた。薄層クロマトグラフィーによる分析の結果、瞬時に反応が起こっていることが確認された。この溶液へNHCl飽和水溶液100mLを加え、得られた水性層をエーテルで抽出した。得られた有機層を集めて硫酸マグネシウム上で乾燥させ、次いで減圧下で蒸留して黄色の残渣を得た。この残渣についてシリカカラム上でのクロマトグラフを行った(5×15cm、溶離液:15%酢酸エチル・ヘキサン溶液)。これにより、0.941mmol及び収量76.3%に相当する全量で0.34gの17−ベンジルオキシヘキサデカン−2−オンが得られた。
=0.6、溶離液:30%酢酸エチル・ヘキサン溶液

NMR H(300MHz,CDCl)δ:1.26(s,ブロード、22H,H−5〜H−15);1.55−1.65(m,4H,H−4及びH−16);2.14(s,3H,H−1);2.42(t,2H,J=7.5Hz,H−3);3.47(t,2H,J=6.6Hz,H−17);4.51(s,2H,H−18);7.25−7.36(m,5H,H−2’〜H−6’)

NMR 13C(75MHz,CDCl)δ:23.9(CH,C−4);26.2−29.8(13×CH,C−1,C−5〜C−16);43.8(CH,C−3);70.5(CH,C−17);72.8(Ph−CH,C−18);127.4(Ph,C−4’);127.6(Ph,C−2’及びC−6’);128.3(Ph,C−3’及びC−5’);138.7(Ph,C−1’);209.4(C=O)
【0049】
4)18−ベンジルオキシ−3−メチルオクタデク−1−エン−3−オールの製造
17−ベンジルオキシヘプタデカン−2−オン0.33g(0.915mmol;1当量、分子量=360.6)を蒸留THF10mL中に撹拌しながら溶解してから0℃まで冷却した。この溶液へ1Mビニルマグネシウムブロマイド・THF溶液2.75mL(2.745mmol;3当量、分子量=g/mol)を0℃下で滴下によって加えた。得られた反応混合液を室温下において撹拌し続けた。薄層クロマトグラフ分析を行って3時間後反応が完了していることを確認した。NHCl飽和水溶液100mLを加え、得られた水性層をエーテルで抽出した。得られた有機層を集めて硫酸マグネシウム上で乾燥させ、次いで減圧下で蒸留して黄色の残渣を得た。この残渣についてシリカカラム上でクロマトグラフ分析を行った(4×15cm、溶離液:20%酢酸エチル・ヘキサン溶液)。これにより、0.812mmol及び収量88.7%に相当する全量で0.31gの18−ベンジルオキシ−3−メチルオクタデク−1−エン−3−オールが得られた。
=0.7、溶離液:30%酢酸エチル・ヘキサン溶液

NMR H(300MHz,CDCl)δ:1.26(s,3H,H−3a);1.27(sブロード、24H,H−5〜H−16);1.54−1.64(m,4H,H−4及びH−17);3.47(t,2H,J=6.6Hz,H−18);4.51(s,2H,H−19);5.04(dd,1H,J1a−1b=1.2Hz,J1a−2=10.6Hz,H1a):5.20(dd.1H,J1b−1a=1.2Hz,J1b−2=17.3Hz,H1b);5.91(dd,1H,J2−1a=10.6Hz,J2−1b=17.3Hz,H1b);7.26−7.35(m,5H,H−2’〜H−6’)

NMR 13C(75MHz,CDCl)δ:23.9(CH,C−5);26.2(CH,C−6);27.7(CH,C−3a);29.5−30.0(11×CH,C−7〜C−17);42.4(CH,C−4);70.5(CH,C−18);72.8(Ph−CH,C−19);73.3(C第4級、C−3);111.4(CH,C−1);127.4(Ph,C−4’);127.6(Ph,C−2’及びC−6’);128.3(Ph,C−3’及びC−5’);138.7(Ph,C−1’);145.3(CH,C−2)
【0050】
5)2−(15−ベンジルオキシペンタデシル)−2,5,7,8−テトラメチル−クロマン−6−オールの製造
トリメチルヒドロキノン0.11g(0.728mmol;1当量、分子量=152.19)を酢酸エチル3mL中に溶解した。この溶液へZnCl0.08g(0.728mmol;0.8当量、分子量=136.29)、次いで濃塩酸0.01mL(0.145mmol;0.2当量、分子量=36.46)を加えた。室温下に5分間置いた後、酢酸エチル4mL中に溶解された18−ベンジルオキシ−3−メチルオクタデク−1−エン−3−オール0.28g(0.728mmol;1当量、分子量=388.33)を滴下によって加えた。薄層クロマトグラフ分析により48時間後に反応が完了していることが確認された。NaHCO飽和水溶液100mLを加え、得られた水性層をエーテルで抽出した。得られた有機層を集めて硫酸マグネシウム上で乾燥させ、その後に減圧下で蒸留して赤色の残渣を得た。この残渣についてシリカカラム上でクロマトグラフを行い(4×15cm、溶離液:15%酢酸エチル・ヘキサン溶液)、0.554mmol及び収量76%に相当する全量で0.29gの2−(15−ベンジルオキシペンタデシル)−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールを得た。
=0.74、溶離液:30%酢酸エチル・ヘキサン溶液

NMR H(300MHz,CDCl)δ:1.22(s,3H,H−2a);1.25(sブロード,24H,H−2’〜H−13’);1.51−1.66(m,4H,H−1’及びH−14’);1.70−1.86(m,2H,H−3);2.11(s,6H,H−5a,H−7a);2.16(s,3H,H−8a);2.6(t,2H,J=6.8Hz,H−4);3.46(t,2H,J=6.6Hz,H−15’);4.18(s,1H,フェノキシ);4.50(s,2H,H−16’);7.27−7.35(m,5H,H−2”〜H−6”)

NMR 13C(75MHz,CDCl)δ:11.3(CH,C−5a);11.8(CH,C−7a);12.2(CH,C−8a);20.7(CH,C−4);23.6(CH,C−2’);23.8(CH,C−2a);26.2(CH,C−3’);29.5−30.0(11×CH,C−4’〜C−14’);31.5(CH,C−3);39.5(CH,C−1’);70.5(CH,C−15’);72.8(Ph−CH,C−16’);74.5(C第4級,C−2);117.3(Ph,C−5);118.4(Ph,C−6);121.0(Ph,C−8);122.6(Ph,C−7);127.6(Ph,C−2”及びC−6”);128.3(Ph,C−3”及びC−5”);138.7(Ph,C−1”);144.5(Ph,C−4a);145.6(Ph,C−8b)
【0051】
6)2−(15−ヒドロキシペンタデシル)−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールの製造
2−(15−ヒドロキシペンタデシル)−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オール0.16g(0.312mmol;1当量、分子量=522.52)をエタノール8mL中に溶解した。この溶液へアルゴン下でPd/C(5%)(20重量%)を加え、次いでアルゴンを水素で置き換えた。全部で3サイクルの真空−Hを行った。薄層クロマトグラフ分析により4時間後に水素化が完了していることが確認された。得られた溶液をセライトを通して濾過し、次いで減圧下で蒸留して白色の残渣を得た。この残渣についてシリカカラム上でクロマトグフを行った(3×15cm、溶離液:40%酢酸エチル・ヘキサン溶液)。これにより、0.3mmol及び収量96.4%に相当する全量で0.13gの2−(15−ヒドロキシペンタデシル)−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールを得た。
=0.56、溶離液:30%酢酸エチル・ヘキサン溶液

NMR H(300MHz,CDCl)δ:1.22(s,3H,H−2a);1.25(sブロード,24H,H−2’〜H−13’);1.51−1.61(m,4H,H−1’及びH−14’);1.70−1.86(m,2H,H−3);2.11(s,6H,H−5a,H−7a);2.16(s,3H,H−8a);2.6(t,2H,J=6.8Hz,H−4);3.64(t,2H,J=6.6Hz,H−15’);4.24(s,1H,フェノキシ)

NMR 13C(75MHz,CDCl)δ:11.3(CH,C−5a);11.8(CH,C−7a);12.2(CH,C−8a);20.7(CH,C−4);23.6(CH,C−2’);23.8(CH,C−2a);26.2(CH,C−3’);29.5−30.0(11×CH,C−4’〜C−14’);31.5(CH,C−3);39.5(CH,C−1’);70.5(CH,C−15’);72.8(Ph−CH,C−16’);74.5(C第4級、C−2);117.3(Ph,C−5);118.4(Ph,C−6);121.0(Ph,C−8);122.6(Ph,C−7);144.5(Ph,C−4a);145.6(Ph,C−8b)
【0052】
がメチル基あるいは酢酸基(nは13、及びmは1)であり、R、R、R及びRが前記と同じ、特にメチル基である化合物が前記と同じ方法で合成されている。R、RまたはRがヒドロキシ基、メトキシ基または酢酸基であり、他の置換基が前記に同じであって特にメチル基である他の化合物も合成されている。
【0053】
B.TFA(R、R、R及びRがメチル基であり、Rがヒドロキシ基であるトコフェノール脂肪アルコール類)による小神経膠活性化の阻害
これら分子の亜硝酸エステル類放出能及び活性化小神経膠中の腫瘍壊死因子阻害能に関する試験を実施した。また他の試験においてMHCIIの発現についても検討を行った。
【0054】
1.亜硝酸エステル類放出の測定
II型NO−シンターゼ(NOSII)活性は文献においてしばしば分析が行われる小神経膠活性のパラメータである。この酵素は炎症活性化条件において酸化窒素ラジカルを合成する酵素である。活性化が24〜48時間行われると、この酵素が大量に発現される。この酵素の生成物であるNOは培基中で急速に分解して亜硝酸エステルとなる。比色定量分析(グリース法)により、NOレベルも同じ傾向を辿ることが示されている。
本願発明者は試験を実施し、LPS0.01μg/mlで処理された小神経膠細胞培養中におけるNO濃度を、TFA−10、TFA−12、TFA−14、TFA−16及びビタミンEそれぞれの10−5、10−6及び10−7Mの各濃度の存在下で活性化24時間後及び48時間後に測定を行った。
異なる3試験において得られた結果は、脂肪アルコールであるTFA−10、TFA−12、TFA−14、TFA−16が濃度10−5Mにおいて小神経膠による亜硝酸エステル類の生成を対照値に対して50%まで減少させることを示している。これらのアルコールの活性は濃度依存的であり、濃度とともにその活性は減少する。TFA−12、TFA−14及びTFA−16は濃度10−5MにおいてTFA−10より高い活性をもつと考えられる。
これらの結果は、本発明に従った前記脂肪アルコール類がLPSによって活性化された小神経膠細胞による亜硝酸エステル類の生成を減少させることができることを示している。また前記結果より、TFA−10(鎖長が最も短い)がこれらトコフェノール系脂肪アルコールの中で最も活性が低いことから、これら脂肪アルコール類の鎖長とそれらの活性には相関があることも示される。
【0055】
2.TNF−α放出の測定
TNF−αの発現は文献においてしばしば分析される小神経膠活性のパラメータとなる。不活性化された小神経膠細胞はこのサイトカインを発現しない。LPSによって24時間活性化を行うことにより、ELISAテストで検出可能なTNF−α発現レベルの高い増加が引き起こされる。
発明者による試験において、10−5、10−6及び10−7Mの各濃度に調製されたTFA−10、TFA−12、TFA−14、TFA−16及びビタミンEそれぞれの存在下で、LPS0.01μg/ml処理された培養小神経膠細胞中のTNF−α濃度の測定を活性化24時間後に行った。
TNF−αに関して個別に行われたそれぞれの試験結果から、トコフェノール系脂肪アルコールであるTFA−12、TFA−14及びTFA−16が濃度10−5Mにおいて前記細胞中におけるTNF−α生成を対照に対して30〜40%まで減少させることが示された。これら脂肪アルコール類の活性は濃度依存的であり、濃度とともに前記活性は減少した。ビタミンEと同様に、TFA−10には前記活性は認められなかった。
これらのTNF−αに関する予備試験結果から亜硝酸エステル類の生成に関する試験において得られた結果が確認された。
従って、これら結果からトコフェノール系脂肪アルコール類の鎖長と活性間に相関があることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で表される化合物:
【化1】

式中、R、R、R及びRは、同一あるいはそれぞれ異なって、水素原子、ヒドロキシ基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)カルボキシル基、
は水素原子または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、
mは1または2の整数、及び
nは8〜20の整数を表す。
【請求項2】
nが8〜16の整数であることを特徴とする請求項1項記載の化合物。
【請求項3】
nが8、10、12、13、14または16のいずれかの整数であることを特徴とする請求項2項記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物がTFA12、TFA14、TFA15、TFA16及びTFA18から選択される化合物であることを特徴とする請求項1項記載の化合物。
【請求項5】
が水素原子またはメチル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
置換基Rをもつ炭素原子がRまたはS配置をもち、あるいは混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
芳香環上の置換基R、R、R及びRの少なくとも1つ、好ましくは1つのみがヒドロキシ基、アルコキシ基、またはカルボキシル基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の化学式(1)で表される化合物。
【請求項8】
前記直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基がメチル基、エチル基、イソプロピル基、またはt−ブチル基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の化学式(1)で表される化合物。
【請求項9】
前記直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基がメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、またはt−ブトキシ基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の化学式(1)で表される化合物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種を医薬的に許容可能なキャリアと共に含んで成る医薬組成物。
【請求項11】
医薬的に許容可能なキャリアと伴に、神経幹細胞の成分の変化及び稀突起神経膠細胞中の稀突起神経膠細胞前駆体である細胞の分化を刺激し、及び/または小神経膠細胞の活性化及び/または、星状細胞及び/または反応性神経膠の活性化を発現させる下記化学式(1):
【化1】

式中、R、R、R及びRは、同一あるいはそれぞれ異なって、水素原子、ヒドロキシ基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルコキシ基、または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)カルボキシル基、
は水素原子または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、
mは1または2の整数、及び
nは8〜20の整数を表す、で表される化合物の少なくとも1種を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項12】
神経系の稀突起神経膠細胞あるいは他の細胞、及び/または神経系の炎症を変化させる神経系疾病の予防または治療を目的とする医薬組成物製剤への下記化学式(1):
【化1】

式中、R、R、R及びRは、同一あるいはそれぞれ異なって、水素原子、ヒドロキシ基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルコキシ基、または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)カルボキシル基、
は水素原子または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、
mは1または2の整数、及び
nは8〜20の整数を表す、で表される化合物の少なくとも1種の使用。
【請求項13】
変性神経障害の予防または治療を目的とする医薬組成物製剤への下記化学式(1):
【化1】

式中、R、R、R及びRは、同一あるいはそれぞれ異なって、水素原子、ヒドロキシ基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルコキシ基、または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)カルボキシル基、
は水素原子または直鎖あるいは枝分かれ鎖の(C〜C)アルキル基、
mは1または2の整数、及び
nは8〜20の整数を表す、で表される化合物の少なくとも1種の使用。
【請求項14】
前記医薬組成物が脱髄疾患あるいは髄鞘形成不全の予防または治療を目的とすることを特徴とする請求項13項記載の使用。
【請求項15】
前記医薬組成物によって、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、脳血管偶発症候、あるいは神経系を損傷させる他の疾患が予防あるいは治療されることを特徴とする請求項13または14に記載の使用。
【請求項16】
神経幹細胞の細胞成分を生体内あるいは試験管内で変化させて分化過程にあるニューロン及び神経膠細胞の分化及び生存力を促進させ、稀突起神経膠細胞前駆細胞の稀突起神経膠細胞への分化を促進させ、及び/または小神経膠の活性化、及び/または星状細胞及び/または反応性神経膠症の活性化を減ずることを目的とする医薬組成物製剤への請求項1〜9のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種の使用。
【請求項17】
下記反応式:
【化2】

式中、R、R、R、R、R及びnは請求項2項と同様であり、及び
はベンジル基またはt−ブチルジメチルシリル基を表す、で表される反応段階を含んで構成される、請求項1〜9のいずれかに記載の化学式(1)で表される化合物の製造方法。


【公表番号】特表2007−506714(P2007−506714A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527448(P2006−527448)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002424
【国際公開番号】WO2005/030748
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(594197850)ユニヴェルシテ ルイ パスツール (3)
【出願人】(506071047)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィック (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(506071058)ユニヴェルシテ ドュ ルクセンブルグ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DU LUXEMBOURG
【Fターム(参考)】