説明

神経機能障害に及ぼす効果を評価するための細胞および方法

【課題】 本発明は、被験物質がアリルハイドロカーボン受容体を介して及ぼす神経毒性の有無を判定できるインビトロ培養系の構築に必要な細胞を提供することを目的とする。さらに、被験物質の神経毒性の有無を判定し得るマーカーを取得すること、神経機能障害のマーカーを取得すること、および被験物質が神経機能障害に及ぼす効果を判定することを目的とする。
【解決手段】 アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を有する受容体発現用核酸を導入して得られる神経芽細胞腫細胞であって、アリルハイドロカーボン受容体の基質を未添加の状態では突起の伸張はみられず、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加の状態で突起の伸長がみられる神経芽細胞腫細胞を提供する。また、このような細胞を使用して、被験物質の神経毒性の有無を判定する方法、被験物質の神経毒性の有無を判定するマーカーを取得する方法、神経機能障害のマーカーを取得する方法、および被験物質が神経機能障害に及ぼす効果を判定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を有する受容体発現用核酸を導入した神経芽細胞腫細胞に関する。また、該細胞を使用して、アリルハイドロカーボン受容体を介した被験物質の神経毒性の有無を判定する方法、被験物質の神経毒性を判定するマーカーを取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、注意欠陥多動性疾患(ADHD)あるいは学習障害(LD)のような神経障害が大きな社会問題となっている。米国では、18歳以下の子供の3〜5%がADHD患者であると推定されており(Diagnosis and Treatment of Attention Deficit Hyperactivity Disorder. NIH Consens Statement 1998 Nov 16-18; 16(2): 1-37.)、日本においても米国と同程度、すなわち18歳以下の子供の3〜5%がADHD患者とみつもられている。このため、これらの神経機能障害に有効な診断法および治療法の開発が急務である。
【0003】
現在、これらの神経障害の原因のひとつとして、内分泌攪乱物質類の神経毒性が疑われている。内分泌攪乱物質類は、生殖毒性、免疫毒性、および神経毒性などの多様な毒性を示し、その毒性の一部は、アリルハイドロカーボン受容体を介して発現することが知られている。アリルハイドロカーボン受容体は、多環芳香族炭化水素(PAH)が結合する受容体であり、bHLH-familyに属する転写因子である(非特許文献1)。これまでに、内分泌攪乱物質の免疫毒性や生殖毒性の一部がアリルハイドロカーボン受容体を介した経路で発現することが報告されている(非特許文献2)。脳組織においてアリルハイドロカーボン受容体の発現が検出されることから(非特許文献3)、アリルハイドロカーボン受容体が神経毒性に関与すると考えられている。また、神経機能発現、及び発達形成とアリルハイドロカーボン受容体による遺伝子発現との関連性も示唆されている。しかし、神経系におけるアリルハイドロカーボン受容体による転写活性化に基づく特徴的な遺伝子、すなわちマーカー遺伝子は、ほとんど同定されていない。そこで、神経機能障害に有効な診断法や治療法の開発にむけ、アリルハイドロカーボン受容体が神経の機能におよぼす影響を解析し、マーカー遺伝子を取得、解析するのに適したインビトロ培養系の構築が望まれている。
【0004】
このようなインビトロ培養系の構築にあたっては、適切な細胞を選択する必要がある。まず、細胞はアリルハイドロカーボン受容体を発現していなければならない。また、アリルハイドロカーボン受容体が神経の形成過程に作用すると考えられているため、神経分化前の未分化な神経に由来する細胞、たとえば神経芽細胞腫細胞を選択することが望ましい。
【0005】
さて、アリルハイドロカーボン受容体に関するインビトロ培養系については、これまでに多数の報告がある。アリルハイドロカーボン受容体を発現する細胞、たとえば、マウス肝臓由来のHepa-1細胞、ヒト肝臓由来のHepG2細胞(非特許文献4)、ヒト乳癌由来のMCF-7細胞(非特許文献5)などを使用したインビトロ培養系が構築されており、基礎研究から化学物質の毒性評価といった応用まで、広い分野で利用されている。また、アリルハイドロカーボン受容体を発現しない細胞に、外部からアリルハイドロカーボン受容体遺伝子を導入することによって同受容体を強制発現する細胞を作製し、インビトロ培養系を構築したという報告もある。ヒト白血球由来のJarkat細胞などが、この例にあたる(非特許文献6)。しかし、未分化な神経に由来する細胞を使用したインビトロ培養系は構築されておらず、アリルハイドロカーボン受容体が神経発達におよぼす影響を解析することは困難であった。
【0006】
一方、これまでに未分化な神経細胞が機能発現する際に発現が変動するマーカー遺伝子や蛋白質が多く単離されている。例えば、ドーパミン生合成に関与するTyrosine hydroxylase (非特許文献7)や、突起形成や伸展の際に細胞骨格分子の再構築に関わるCell division cycle42(非特許文献 8)、またシナプス形成に関わるTau(非特許文献9)である。これらの分子の発現を検出することにより、未分化な神経細胞の神経機能の発現の有無を判定することが可能となる。
【非特許文献1】Mark E. Hahn, Comparative Biochemistry and Physiology Part C 121 (1998):23-53
【非特許文献2】Frank JG et al., Drug Metabolism and Disposition (1998) 26: 1194-1198
【非特許文献3】Petersen SL. et al., J. Comp. Neurol. (2000) 427(3): 428-439
【非特許文献4】Pollenz RS. et al., Mol. Pharmacol. (1999) 56(6): 1127-1137
【非特許文献5】Wormke M. et al., Mol. Cell. Biol. (2003) 23(6): 1843-55
【非特許文献6】Ito T. et al., J. Biol. Chem. (2004) 279(24): 25204-25210
【非特許文献7】Bartolini G et al.,Anticancer Res. (2003) 23(2B): 1495-1499
【非特許文献8】Alleaume C et al., Exp Cell Res. (2004) 299(2):511-24.
【非特許文献9】Knops, J et al., J. Cell Biol. (1991) 114(24): 725-733
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、アリルハイドロカーボン受容体が神経の発達におよぼす影響を解析できるインビトロ培養系の構築に必要な細胞を提供することを目的とする。さらに、神経機能障害のマーカーを取得すること、および被験物質が神経機能障害に及ぼす効果を判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を組み込んだ受容体発現用核酸を神経芽細胞腫細胞に導入して、当該核酸を安定に染色体上に保持する細胞を作製することに成功した。さらに、作製した細胞の中から、アリルハイドロカーボン受容体の基質を未添加の状態で突起の伸長がみられず、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加の状態で突起の伸長がみられるような細胞を選択することに成功した。また、同時にマーカー遺伝子またはマーカー蛋白質の発現量の変化を測定することで神経機能障害に及ぼす効果を判定することが可能な細胞が存在することを見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいて完成されるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を有する受容体発現用核酸を導入して得られる神経芽細胞腫細胞であって、アリルハイドロカーボン受容体の基質を未添加の状態で突起の伸長がみられず、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加の状態で突起の伸長がみられる神経毒性評価用神経芽細胞腫細胞を提供する。
【0011】
また、本発明は、被験物質の、アリルハイドロカーボン受容体を介した神経機能障害に及ぼす効果を判定する方法であって、上記細胞と前記被験物質を接触させることと、該細胞の形状の変化を測定することとを含む方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、細胞の形状の変化が、細胞体の直径に対し二倍の長さをもつ突起を有する細胞の割合の増加である、上記方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、被験物質の、アリルハイドロカーボン受容体を介した神経機能障害に及ぼす効果を判定する方法であって、上記細胞と被験物質を接触させることと、細胞において、上記マーカー遺伝子または上記マーカー蛋白質の発現量の変化を測定することとを含む方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、マーカーが、TH遺伝子、Cdc42遺伝子、またはTau遺伝子、tau蛋白質またはTH蛋白質の発現量の変化である、上記方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、神経機能障害のマーカー遺伝子を取得する方法であって、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加した上記細胞と、アリルハイドロカーボン受容体の基質を未添加の上記細胞での遺伝子の発現量を比較することにより、両細胞間で発現量が異なる遺伝子を、アリルハイドロカーボン受容体を介した神経機能障害のマーカー遺伝子として取得することを特徴とする方法を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、神経機能障害のマーカー蛋白質を取得する方法であって、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加した上記細胞と、アリルハイドロカーボン受容体の基質を未添加の上記細胞での、蛋白質の発現量を比較することにより、両細胞間で発現量が異なる蛋白質をアリルハイドロカーボン受容体を介した神経機能障害のマーカー蛋白質として取得することを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上述のとおり、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を組み込んだ受容体発現用核酸が導入された神経芽細胞腫細胞では、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加することで、アリルハイドロカーボン受容体の転写活性が活性化され、かつその表現型の特徴として、神経突起形成が観察される細胞が存在することを見出した。
【0018】
本発明の細胞は、たとえば、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を組み込んだ受容体発現用核酸を導入し、この核酸が染色体上に挿入された安定な細胞を選択することによって作製することができる。本発明の細胞を作製するためには、神経芽細胞腫に由来する細胞(神経芽細胞腫細胞)を使用する。神経芽細胞腫細胞は、いずれの種に由来する細胞であってもよいが、たとえば、マウス神経芽細胞腫に由来するNeuro2a細胞などが好ましい。また、神経芽細胞腫細胞は、すでに株化されている細胞を使用してもよく、また、神経芽細胞腫から単離したものを使用することもできる。
【0019】
以下、本発明の神経芽細胞腫細胞について、その作製方法と共に説明する。
【0020】
たとえば、以下の手順によって、本発明の細胞を作製することができる。
【0021】
神経芽細胞腫細胞へのアリルハイドロカーボン受容体遺伝子の導入
(a)アリルハイドロカーボン受容体遺伝子の調整
アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を調製する。アリルハイドロカーボン受容体遺伝子は、その塩基配列が明らかになっているので、たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して単離することができる。PCRの鋳型として使用できる核酸には、たとえば任意の細胞から抽出したRNAから合成したcDNA、または市販のcDNAなどを使用すればよい。また、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子は、いずれの種に由来する遺伝子であってもよく、たとえばラット、ヒトもしくはマウスなどの哺乳類由来、またはゼブラフィッシュもしくはメダカなどの魚類由来、またはニワトリなどの鳥類由来のいずれであってもよい。好ましくは、哺乳類、特にヒト由来の遺伝子である。アリルハイドロカーボン受容体遺伝子は、天然に存在する遺伝子のままであってもよい。また、アリルハイドロカーボン受容体蛋白質の機能を変化させない限りにおいては、人為的に一部を改変した遺伝子であってもよい。たとえば、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子の1つまたは数個の塩基が、欠失、付加、または置換されたものが含まれる。また、たとえば翻訳開始コドンまえの塩基配列をコザック配列に変更したものなどが含まれる。
【0022】
(b)受容体発現用核酸の調整
次いで、上記アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を発現用核酸に組み込む。発現用核酸とてしては、適切な微生物内で機能する複製起点および薬剤耐性遺伝子などを有するプラスミドがあげられる。発現用核酸には、少なくとも1種類以上の薬剤耐性遺伝子は組み込まれていることが好ましい。たとえば、微生物内での発現用核酸の維持に必要な薬剤耐性遺伝子および核酸が導入された細胞の選択に必要な薬剤耐性遺伝子の2種類の薬剤耐性遺伝子をもつ発現用核酸などがあげられる。薬剤耐性遺伝子には、たとえばゼオシン耐性遺伝子およびハイグロマイシン耐性遺伝子などがあげられる。このようなプラスミドは、市販のものを使用することができる。
【0023】
たとえば、上記のような特徴を有する発現用核酸に、(a)で調整したアリルハイドロカーボン受容体遺伝子を発現可能な形態でプロモーターの下流に組み込んで受容体発現用核酸を構築する。プロモーターには、たとえばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、およびシミアンウイルス(SV40)の初期あるいは後期プロモーターなどの構成的な発現を指揮するプロモーターを使用することができる。または、テトラサイクリン応答性プロモーターなどの誘導性プロモーターを使用してもよい。プロモーターは、発現用核酸にあらかじめ組み込まれていてもよく、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子の挿入後に適切な位置に組み込んでもよい。
【0024】
アリルハイドロカーボン受容体遺伝子は、天然に存在する形態で発現するように発現用核酸に組み込んでもよいし、またはタグが付加された融合蛋白質として発現するように組み込んでもよい。このようなタグが付加された蛋白質によれば、蛋白質の単離または検出を容易にすることができる。付加されるタグとしては、ヒスチジンタグおよびV5タグなどがあげられる。
【0025】
構築した受容体発現用核酸は、少なくともアリルハイドロカーボン受容体遺伝子部分のシーケンシングをおこない、遺伝子に変異が導入されていないことを確認することが望ましい。
【0026】
(c)発現用核酸の神経芽細胞腫細胞への導入
次いで、上記(b)で作製した受容体発現用核酸を神経芽細胞腫細胞に導入する。たとえば、まず細胞を培養容器に播き、10%牛胎児血清を含むダルベッコ・ハムF12等比混合培地(DF1:1)でインキュベートする。このように培養した細胞に上記受容体発現用核酸を導入する。細胞への受容体発現用核酸の導入法としては、たとえばリポフェクタミン法、エレクトロポレーション法、DEAE-デキストラン法、リン酸カルシウム法などの当業者に既知のいずれの方法を使用して行うこともできる。たとえば、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を使用することもでき、市販のマニュアルに従って、導入する受容体発現用核酸の量、リポフェクタミン2000の量、および細胞数などをあらかじめ決定しておくことが好ましい。細胞に導入する受容体発現用核酸は、適当な制限酵素で消化して直鎖状にしてから導入してもよい。
【0027】
受容体発現用核酸を細胞に導入した後、約1日〜2日間インキュベートする。細胞を培養容器からはがし、新しい培養容器に継代する。継代から1日から2日後に、受容体発現用核酸に組み込まれた薬剤耐性遺伝子に応じて、適切な薬剤を使用して細胞株のスクリーニングを開始する。スクリーニングのための薬剤濃度は、使用する細胞種に応じて適切な濃度を予備実験によりあらかじめ決定しておく。一般に、80〜95%の細胞が死滅する濃度がスクリーニング時の薬剤濃度として適当である。週に1〜2回の割合で適切な濃度の薬剤を含む培地に交換しながら、受容体発現用核酸が導入された細胞株に由来する薬剤耐性コロニーが適当な大きさになるまで培養を続ける。この間に、受容体発現用核酸が染色体に組み込まれ、かつ受容体発現用核酸を安定に保持する細胞のみが増殖されるため、受容体発現用核酸を含む細胞が得られる。
【0028】
(d)細胞の選択
次いで、上記(c)で得られた細胞から、以下の(1)〜(3)全ての条件をみたす細胞株を選択する。選択の順序は任意であり、どの選択を先におこなってもよい。
【0029】
(1) 上記(c)で得られた細胞のなかから、受容体発現用核酸を安定に保持する細胞を選択する。細胞が受容体発現用核酸を安定に保持することを確認するためには、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子が細胞のゲノムに組み込まれていることを確認できればよい。たとえば、サザンハイブリダイゼーションなどの公知のDNA検出方法で検出する方法、導入した受容体発現用核酸上のアリルハイドロカーボン受容体遺伝子から転写されたmRNAをノーザンハイブリダイゼーションもしくは逆転写PCRなど公知のRNA検出法で検出する方法、または導入した受容体発現用核酸から翻訳されたアリルハイドロカーボン受容体蛋白質をアリルハイドロカーボン受容体蛋白質に特異的な抗体によるウエスタンブロッティングなどの公知の蛋白質検出法で検出する方法などを利用して行うことができる。また、タグ配列が付加された形態でアリルハイドロカーボン受容体蛋白質が発現していれば、タグ配列に特異的な抗体を使用したウエスタンブロッティングなどの方法を利用して確認してもよい。そして、この確認でアリルハイドロカーボン受容体遺伝子が検出された細胞を選択する。
【0030】
(2) 上記(c)で得られた細胞のなかから、アリルハイドロカーボン受容体蛋白質が機能している細胞を選択する。選択の指標には、アリルハイドロカーボン受容体の活性化を介して遺伝子の発現が誘導されることが公知である遺伝子をマーカーとして使用する。たとえばシトクロム1A1、グルクロンサン抱合酵素1A6、またはグルタチオン-S-転移酵素などの遺伝子を使用する。たとえば、10%牛胎児血清を含むDF1:1培地などの通常の培地中において、選択をおこなう細胞を1〜5日間培養した後、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加した10%牛胎児血清を含むDF1:1培地などの通常の培地中において、1週間培養した後、該細胞からRNAを抽出し、ノーザンハイブリダイゼーションおよび逆転写PCRなどの公知のRNA検出法によって上記マーカー遺伝子の発現を検出する。あるいは、マーカー遺伝子から翻訳された蛋白質を、ウエスタンブロッティング法など公知の蛋白質検出法で検出する。そして、この確認でマーカー遺伝子の発現が誘導された細胞を選択する。
【0031】
(3) 上記(c)で得られた細胞株のなかから、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加することで神経突起の伸展が観察される細胞を選択する。選択をおこなう細胞と、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加していない受容体発現用核酸を導入した神経芽細胞腫細胞を、10%牛胎児血清を含むDF1:1培地などの通常の培地中において1〜3週間培養した後、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加した細胞が神経突起を伸展する形状の変化を両細胞間で比較する。細胞株の形状の変化を指標とする場合には、細胞から伸長する突起の数、突起の長さ、および突起を伸長している細胞の数などを比較する。なかでも、被験物質を接触させた全細胞に対して、細胞体の直径に対し二倍の長さをもつ突起を有する細胞の割合の増加を比較することが好ましい。そして、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加した受容体発現用核酸を導入した細胞とアリルハイドロカーボン受容体の基質を未添加の受容体発現核酸を導入した細胞とを比較して、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加した細胞で突起を伸長している細胞を選択する。単一細胞群において、全ての細胞が神経突起を有している必要はないが、神経突起を伸長している細胞が多い方が好ましい(図3右写真)。
【0032】
本明細書において、上記手順によって得られた神経芽細胞腫細胞は、以下被験物質神経毒性応答型細胞とよぶ。被験物質神経毒性応答型細胞は、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加することでアリルハイドロカーボン受容体を介した転写制御が活性化する細胞である。すなわち、被験物質添加条件下において、アリルハイドロカーボン受容体を介した転写制御が活性化された状態にある。したがって、被験物質未添加の細胞と比較することで、被験物質を添加した細胞において被験物質によって活性化される遺伝子または蛋白質について解析することが可能となる(図2)。したがって、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加することで活性化された被験物質神経毒性応答型細胞を解析することにより、神経機能障害に関与するマーカー遺伝子またはマーカー蛋白質のとなる遺伝子を取得することが可能となる。ここで、神経機能障害は、たとえば注意欠陥多動性疾患または学習障害、認知障害、パーキンソン症などが含まれる。
【0033】
以下、被験物質がアリルハイドロカーボン受容体を介した神経機能障害に及ぼす影響を判定するための方法について説明する。
【0034】
(e)被験物質の神経毒性の有無を判定するスクリーニング
まず、被験物質と被験物質神経毒性応答型細胞を接触させる。接触は、たとえば被験物質を添加した培地と添加しない培地において、被験物質神経毒性応答型細胞を培養することによって行うことができる。これらの培地で適当な期間培養を続けたのち、細胞の比較をおこなう。比較は、形状の変化を指標として行うことができる。また、神経機能の発現、突起伸展、シナプス形成などのマーカーとなる遺伝子もしくは蛋白質の発現の変化を指標に行うこともできる。
【0035】
たとえば、細胞の形状の変化としては、細胞骨格の構造変化などがあげられる。より具体的には、たとえば細胞株の形状の変化は、細胞から伸長する突起の数、突起の長さ、突起を伸長している細胞の数などを比較することができる。なかでも、被験物質を接触させた全細胞に対して、細胞体の直径に対し二倍の長さをもつ突起を有する細胞の割合を指標とすることが好ましい。このとき、たとえば被験物質を添加した培地で培養した被験物質神経毒性応答型細胞において、被験物質を添加しない培地で培養した被験物質神経毒性応答型細胞と比較して、突起を伸長している細胞数が増大したならば、被検物質はアリルハイドロカーボン受容体を介した転写制御を亢進する効果、すなわち神経機能障害の亢進効果を有すると判定される。上記形態の変化は、顕微鏡観察などの当業者に既知のいずれの方法を使用して行ってもよい。
【0036】
また、アリルハイドロカーボン受容体活性化のマーカーとなるシトクロム1A1遺伝子もしくはTH遺伝子やCdc42遺伝子など神経マーカー遺伝子の発現の変化が挙げられる。また蛋白質の発現の変化としては、TH蛋白質やTau蛋白質などの変化が挙げられる。このとき、たとえば被験物質を添加した培地で培養した被験物質神経毒性応答型細胞において、被験物質を添加しない培地で培養した被験物質神経毒性応答型細胞と比較して、TH遺伝子、及びCdc42遺伝子の発現量が増大したならば、被験物質はアリルハイドロカーボン受容体を介した転写制御が活性化された効果、すなわち神経機能障害の亢進効果を有すると判定される。一方、逆に上記遺伝子の発現が減少したならば被験物質がアリルハイドロカーボン受容体を介した転写制御を抑制する効果、すなわち神経機能障害の抑制効果を有するものと判定される。同様に、神経機能障害のマーカー蛋白質を使用して、被験物質の神経毒性の有無を判定するスクリーニングをすることもできる。上記発現量の変化は、上述したものなどの当業者に既知の方法によって行うことができる。
【0037】
本発明の方法を使用すれば、内分泌攪乱物質による毒性の影響、たとえば神経機能障害を亢進する物質を容易にスクリーニングすることができる。
【0038】
以下、上記の手順によって選択した細胞を使用した、神経機能障害のマーカー遺伝子またはマーカー蛋白質を取得する方法について説明する。
【0039】
本方法には、上記の手順によって選択した被験物質神経毒性応答型細胞を使用する。たとえば、寄託番号(番号が付与されたときに補正します)を使用することができる。また、上記のとおり、これらの細胞は、ダイオキシンなどのアリルハイドロカーボン受容体と結合能を持つ物質の存在下において、アリルハイドロカーボン受容体を介した転写制御が活性化された状態の細胞である。
【0040】
(f)神経毒性マーカー遺伝子の取得
まず、ダイオキシンなどのアリルハイドロカーボン受容体と結合能を持つ物質、例えばPAHや2,3,7,8-TCDD等を曝露したアリルハイドロカーボン受容体発現用核酸を導入した細胞と、内分泌攪乱化学物質を非曝露の同種細胞の双方から、それぞれRNAを抽出する。次いで、RNAの発現量を比較できる任意の方法により、これらのRNAの両者間で発現量が異なる遺伝子を探索する。発現量に差を有するRNAの探索は、当業者に既知のいずれの手段を使用してもよい。たとえばサブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、およびDNAチップなどを使用することができる。
【0041】
このとき、内分泌攪乱物質化学物質に曝露した被験物質毒性応答型細胞にのみで発現量が高いRNA、または発現量が低いもしくは発現していないRNAにより、神経毒性マーカー遺伝子として取得することができる。このように取得された遺伝子は、アリルハイドロカーボン受容体からの転写活性化に基づく遺伝子発現に関連したアリルハイドロカーボン受容体を介した内分泌攪乱化学物質による神経機能障害に関与していると考えられる。アリルハイドロカーボン受容体の基質に曝露された被験物質神経毒性応答型細胞のみで発現量が高いRNAとしては、たとえばTH遺伝子、Cdc42遺伝子、及びTau遺伝子を得ることができる。
【0042】
本発明の方法を使用すれば、神経芽細胞腫細胞を被験物質に暴露することで、容易にマーカー遺伝子を取得することができる。
【0043】
(g)神経毒性マーカー蛋白質の取得
神経機能障害マーカー遺伝子の場合と同様に、内分泌攪乱化学物質を曝露したアリルハイドロカーボン受容体発現用核酸を導入した細胞と、内分泌攪乱化学物質を非曝露の同種細胞の双方から、それぞれ蛋白質を抽出する。次いで、蛋白質の発現量を比較できる任意の方法により、両者間で発現量が異なる蛋白質を探索する。蛋白質の発現量を比較する方法は、当業者に既知のいずれの手段を使用してもよく、たとえば二次元電気泳動法、プロテインチップなどを使用することができる。
【0044】
このとき、アリルハイドロカーボン受容体の基質に曝露された被験物質神経毒性応答型細胞のみで発現量が高い蛋白質、または発現量が低いもしくは発現していない蛋白質を、神経機能障害マーカー蛋白質として取得することができる。このように取得された蛋白質は、アリルハイドロカーボン受容体の活性化により何らかの影響を受けて、アリルハイドロカーボン受容体を介した内分泌攪乱化学物質による神経機能障害に関与していると考えられる。アリルハイドロカーボン受容体の基質に曝露された被験物質神経毒性応答型細胞のみで発現量が高い蛋白質としては、たとえばTH蛋白質、Tau蛋白質を得ることができる。
【0045】
本発明の方法を使用すれば、神経芽細胞腫細胞を被験物質に暴露することで、容易にマーカー蛋白質を取得することができる。
【0046】
また、上記マーカーおよび被検物質神経毒性応答型細胞を使用することにより、アリルハイドロカーボン受容体を介した神経毒性発現状態を知ることが可能である。
【実施例1】
【0047】
アリルハイドロカーボン受容体遺伝子の調製
ラット脳からRNeasyキット(キアゲン社製)を使用して全RNAを抽出した。抽出したRNAをオリゴ(dT)プライマーを使用して逆転写する。次いで、これを鋳型に、Pyrobest DNAポリメラーゼを使用して、変性:94℃ 1分、アニーリング:55℃ 1分、伸長:72℃ 4分を1サイクルとする25サイクルのPCR反応をおこない、ラットアリルハイドロカーボン受容体遺伝子のコーディング領域を増幅した。プライマーには、フォワードプライマー:5’- CCCAAgCTTACCATGAgCAgCggCgCCAACATCA、リバースプライマー:5’-CCgCTCgAgAggAATCCgCTgggTgTgATATCAgを使用した。フォワードプライマーの5’末端にHindIII認識配列を付加し、リバースプライマーの5’末端にXhoI認識配列を付加した。さらに、リバースプライマーは、アリルハイドロカーボン受容体蛋白質がV5エピトープとヒスチジンタグが付加された融合蛋白質として発現するように設計した。
【実施例2】
【0048】
アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を組み込んだ受容体発現用核酸の調製
発現用核酸には、pcDNA4/V5-His B(インビトロジェン社製)を使用した。このpcDNA4/V5-His Bは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列とV5エピトープ配列との間にマルチクローニングサイト(MCS)が配置されている。MCS内の適当な制限酵素部に所望の遺伝子をコードする配列を組み込むことにより、CMVプロモーターの制御下で目的とする蛋白質を過剰発現させることができる。
【0049】
また、組み込む遺伝子のコーディング配列の3’末端を適切に変更することにより、V5エピトープとヒスチジンタグを目的蛋白質のC末端に付加することが可能である。まず、この発現用核酸を実施例1で増幅したラットアリルハイドロカーボン受容体遺伝子のコーディング領域を制限酵素HindIIIとXhoIで消化する。同様にHindIIIとXhoIでpcDNA4/V5-His Bを消化した。次いで、pcDNA4/V5-His Bとラットアリルハイドロカーボン受容体遺伝子のコーディング領域を連結することにより、発現用核酸pcDNA4-rAhRを作製した(図1)。pcDNA4-rAhRを大腸菌TOP10(インビトロジェン社製)に導入して増幅および維持した。
【0050】
作製したpcDNA4-rAhRにおいて、ラットアリルハイドロカーボン受容体遺伝子のコーディング領域をシーケンシングして該領域に変異が導入されていないことを確認した。シーケンシングのためのプライマーには、T7プライマーおよびBGHリバースプライマーを使用した。
【実施例3】
【0051】
アリルハイドロカーボン受容体発現用核酸pcDNA4-rAhRを導入した神経芽細胞腫由来Neuro2aの作製
アリルハイドロカーボン受容体発現用核酸pcDNA4-rAhRのNeuro2aへの導入には、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を使用した。Neuro2aを24ウェルプレートにおいて80%コンフルエント(2×105細胞)で継代し、DF培地で一晩培養した。2μlのリポフェクタミン2000を50μlのOpti-MEM培地(ギブコ社製)と混合し、室温で15分間静置した。その後、0.8μgの実施例2で作製した受容体発現用核酸pcDNA4-rAhRを含むOpti-MEM培地50μlとよく混ぜ合わせた。pcDNA4-rAhRは、MunIで消化して直鎖状にした後に使用した。リポフェクタミン2000と受容体発現用核酸の混合液を室温で20分間静置して、24ウェルプレートにおいてあらかじめ培養しておいたNeuro2aに加えて穏やかに混合した。24時間培養した後、Neuro2aを新鮮なDF培地で1/50希釈して6ウェルプレートに植え継ぎ、さらに培養を続けた。24時間後、ゼオシン(インビトロジェン社製)を300μg/mlの濃度で培地に添加し、pcDNA4-rAhRが導入された細胞の選択を開始した。以降は、3〜4日ごとに300μg/mlでゼオシンを含む新鮮な培地に交換して培養を継続した。2週間後、クローニングリング(イワキ社製)を使用して、76種のゼオシン耐性細胞のコロニーを得た。これらの細胞を、受容体発現用核酸pcDNA4-rAhRを安定に保持する細胞株として選択した。
【実施例4】
【0052】
2,3,7,8-TCDD曝露条件下で突起伸展が観察される細胞株の選択
実施例3で得た76種の細胞株を、DF1:1培地で、3〜5日間培養をおこない、各細胞株において細胞の形状を観察した。観察は倒立顕微鏡下でおこない、突起伸長が見られない細胞株を選択した。このとき、親株である神経芽細胞腫由来Neuro2aを同じ条件下で培養し、同様の観察をおこなったが、突起を伸長する細胞はほとんど観察されなかった。
【0053】
さらに、選択した細胞株を10nMの2,3,7,8-TCDDを添加したDF1:1培地で1〜3週間培養を行った。細胞の形状の観察により、特に突起を伸長する細胞の割合が高かった2つの細胞株を選択した(図2)。
【実施例5】
【0054】
2,3,7,8-TCDD曝露条件下で突起伸展が観察される細胞株のマーカー遺伝子の発現
これら2つの細胞から、RNeasyキット(キアゲン社製)を使用して全RNAを抽出した。抽出したRNAは、オリゴ(dT)プライマーを使用して逆転写した。次いで、これを鋳型に、ExTaqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を使用して、変性:94℃ 30秒、アニーリング:55℃ 30秒、伸長:72℃ 30秒を1サイクルとする25サイクルのPCR反応をおこなった。次いで、アリルハイドロカーボン受容体から転写されたmRNAを増幅した。PCRのプライマーには、フォワードプライマー: 5’- CCgTCCATCCTggAAATTCgAACC、リバースプライマー:5’-CCTTCTTCATCCgTTAgCggTCTCを使用した。この結果、選択した2つの細胞株のいずれにおいてもアリルハイドロカーボン受容体遺伝子の発現が検出された。また、Neuro2aについても、同様の実験をおこなったが、アリルハイドロカーボン受容体遺伝子の発現は検出できなかった。
【0055】
また、これらの細胞株をそれぞれDF1:1培地中で1晩培養した後、一方に30nM 2,3,7,8-TCDDを添加した。もう一方には添加せずに培養を続け、24時間後に細胞から全RNAを抽出した。全RNAの抽出にはRNeasyキットを使用した。抽出したRNAをオリゴ(dT)プライマーを使用して逆転写した。次いでこれを鋳型に、ExTaqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を使用して、変性:94℃ 30秒、アニーリング:55℃ 30秒、伸長:72℃ 30秒を1サイクルとする25サイクルのPCR反応をおこなってシトクロム1A1遺伝子の発現を確認した。シトクロム1A1遺伝子は、リガンドの結合により活性化されたアリルハイドロカーボン受容体が、DNA上のXRE(Xenobiotic Responsive Elemant)へ結合することによって発現が誘導される遺伝子の一つである。PCRのプライマーには、フォワードプライマー:5’-CCCACAgCACCACAAgAgATA、リバースプライマー:5’-AAgTAggAggCACAATgTCを使用した。この結果、選択した2つの細胞株のいずれにおいても、2,3,7,8-TCDDの添加によってシトクロム1A1遺伝子の発現が増加していた。また、Neuro2aについても同様の実験をおこなったが、2,3,7,8-TCDDによるシトクロム1A1(CYP1A1)遺伝子の発現量の増加は観察されなかった。
【0056】
また、選択した2つの細胞株を10nMの2,3,7,8-TCDDを添加したDF1:1培地で1週間培養した後、全RNAをRNeasyキットで抽出し、逆転写反応をおこなってcDNAを合成した。これを鋳型に、ExTaq(タカラバイオ社製)を使用して、変性:94℃ 30秒、アニーリング:60℃ 30秒、伸長:72℃ 30秒を1サイクルとする25サイクルのPCR反応をおこなってTH遺伝子の発現をまた、変性:94℃ 30秒、アニーリング:58℃ 30秒、伸長:72℃ 30秒を1サイクルとする25サイクルのPCR反応をおこなってCdc42遺伝子、及びTau遺伝子の発現を確認した。PCRのためのプライマーには、TH遺伝子においては、フォワードプライマー:5’-CCACggTgTACTggTTCACTリバースプライマー:5’-ggCATAgTTCCTgAgCTTgT、を使用し、Cdc42遺伝子のおいては、フォワードプライマー:5’-gATACTgCAgggCAAgAgg リバースプライマー:5’-CAggCACCCACTTTTCTTTCを、Tau遺伝子においてはフォワードプライマー:5’-TCCggAgAACgAAgCggCTACAgCリバースプライマー:5’-TgCTgAggTgCCgTggAgATgTgTを使用した。この結果、選択した2つの細胞株では、いずれの細胞株においても2,3,7,8-TCDD未添加の被験物質神経毒性応答型細胞に比べて、TH遺伝子、Cdc42遺伝子、及びTau遺伝子の発現量が増加していた(図3)。
【実施例6】
【0057】
2,3,7,8-TCDD曝露条件下で突起伸展が観察される細胞株のマーカー蛋白質の発現
また選択した2つの細胞株を10nMの2,3,7,8-TCDDを添加したDF1:1培地で3週間培養した後、蛋白質を抽出し、神経突起マーカー蛋白質であるTau蛋白質抗体、及びTH蛋白質抗体を用いたウエスタンブロットを行い、Tau蛋白質、及びTH蛋白質の発現量を確認した。この結果、選択した2つの細胞株では、いずれの細胞株においても2,3,7,8-TCDD未添加の被験物質神経毒性応答型細胞に比べて、Tau蛋白質、及びTH蛋白質の発現量が増加していた。(図4)
ここで選択した2つの細胞株を、被験物質の神経毒性の有無を判定することが可能な細胞株として、特許生物受託センターに受託した(受領番号FERM ABP-10341および受領番号FERM ABP-10342)。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を組み込んだ受容体発現用核酸の構築図
【図2】本発明の被験物質神経毒性応答型細胞の表現型、及び2,3,7,8-TCDDを添加することで神経突起を伸展した被験物質神経毒性応答型細胞の表現型の顕微鏡写真
【図3】TH遺伝子、Cdc42遺伝子、Tau遺伝子の発現量の変化を示す電気泳動写真。
【図4】本発明の被験物質神経毒性応答型細胞に2,3,7,8-TCDDを添加した状態と、未添加な状態におけるそれぞれのTau蛋白質、及びTH蛋白質の発現量を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルハイドロカーボン受容体遺伝子を有する受容体発現用核酸を導入して得られる神経芽細胞腫細胞であって、アリルハイドロカーボン受容体の基質を未添加の状態で突起の伸長がみられず、アリルハイドロカーボン受容体の基質を添加の状態で突起の伸長がみられる神経芽細胞腫細胞。
【請求項2】
前記神経芽細胞腫細胞がマウス由来のNeuro2a細胞である、請求項1記載の細胞。
【請求項3】
前記細胞が、受領番号FERM ABP-10341の細胞またはこの細胞に由来する変異株である、請求項1に記載の細胞。
【請求項4】
前記細胞が、受領番号FERM ABP-10342の細胞またはこの細胞に由来する変異株である、請求項1に記載の細胞。
【請求項5】
被験物質のアリルハイドロカーボン受容体を介した神経毒性の有無を判定する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞と被験物質を接触させることと、前記細胞の形状の変化を測定することとを含む方法。
【請求項6】
前記細胞の形状の変化が、被験物質を接触させた全細胞に対して、細胞体の直径に対し二倍の長さをもつ突起を有する細胞の割合の増加である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
被験物質のアリルハイドロカーボン受容体を介して神経毒性の有無を判定する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞と被験物質を接触させることと、前記細胞におけるアリルハイドロカーボン受容体活性化のマーカー遺伝子またはマーカー蛋白質の発現量の変化を測定することと、を含む方法。
【請求項8】
前記マーカー遺伝子またはマーカー蛋白質が、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)遺伝子、Tau遺伝子、もしくはCdc42遺伝子、またはTau蛋白質もしくはTH蛋白質の発現量の変化である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
神経機能障害のマーカー遺伝子を取得する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞に被験物質を添加した細胞と未添加の細胞との間で、遺伝子の発現量を比較することにより、両細胞間で発現量が異なる遺伝子をアリルハイドロカーボン受容体を介した神経機能障害のマーカー遺伝子として取得することを特徴とする方法。
【請求項10】
神経機能障害のマーカー蛋白質を取得する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞に被験物質を添加した細胞と未添加の細胞との間で、蛋白質の発現量を比較することにより、両細胞間で発現量が異なる蛋白質をアリルハイドロカーボン受容体を介した神経機能障害のマーカー蛋白質として取得することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−325551(P2006−325551A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157528(P2005−157528)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】