説明

神経発生を増大させるための組成物および方法

【課題】神経発生を増大させるための組成物および方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、神経発生を促進する方法に関し、この方法は、細胞内cAMP上昇剤および細胞内Ca2+上昇剤と、神経組織とを接触させることによる。神経発生を促進するための新規な薬剤が開示される。これらの薬剤は、細胞内cAMPを増大させるための新規薬剤を含む。本発明の1つの実施形態は、中枢神経系障害の少なくとも1つの症状を示す患者の神経組織において神経発生を調整するための方法に関する。この障害は、例えば、神経変性障害、虚血性障害、神経性外傷、および学習障害および記憶障害であり得る。この方法において、1つ以上の神経発生調整剤が、患者に投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、米国出願番号60/427,912(2002年11月20日出願)に対する優先権の利益を主張する。米国出願番号60/427,912の開示内容は、本明細書によって、その全体が、参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、神経発生を調整するインビトロでの方法およびインビボでの方法に関する。cAMP、Ca2+の細胞内レベルを増大させるため、および神経発生を調整するための新規薬剤もまた、提供される。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
1960年代において実施された研究により、成体哺乳動物脳において、新たなニューロンが産生されたとの初めての指摘が提供された(AltmanおよびDas,1965,1967)。しかし、哺乳動物神経発生が胚形成および周生期に制限されるとの定説を論駁するには、もう30年を費やし、そして洗練された技術手順の開発を要した(概説については、以下を参照のこと:Mommaら,2000;KuhnおよびSvendsen,1999)。神経幹細胞(NSC)は、哺乳動物CNSにおける新規なニューロンのための供給源である。NSCは、側脳室の内壁となる上衣層および/または脳室下帯(subventricular zone)(SVZ)内(Doetschら,1999;Johanssonら,1999b)、および海馬を形成する歯状回中(Gageら,1998)に位置する。近年の研究により、成体CNS内にNSCのいくつかのさらなる位置がある可能性が明らかになっている(Palmerら,1999)。NSCの非対称の分裂は、迅速に分裂する前駆体(または前駆細胞)の集団を生成する一方、それらの出発数を維持する(Johanssonら,1999b)。これら前駆細胞は、分化および位置づけの両方に関して、それらの増殖およびそれらの運命の度合いを規定する範囲のキューに対して応答する。
【0004】
成体における脳室系のNSCは、神経管の内壁となる胚性脳室帯幹細胞の対応物であるようである。これらの胚性細胞の子孫は、移動して、分化したニューロンおよび神経膠としてCNSを形成する(Jacobson,1991)。NSCは、成体側脳室壁(LVW)中に存続し、吻側移動流を嗅球に移動するニューロン前駆体を生成する。そこで、それらは、顆粒細胞および糸球体周囲ニューロン(periglomerular neuron)に分化する(LoisおよびAlvarez−Buylla,1993)。実質ニューロン死が嗅球中で生じ、失われたニューロンの連続的な置換の必要を生じ、これは、LVWに由来する移動前駆体によって満足される(Bieblら,2000)。さらに、他の脳領域から失われたニューロンが、LVW由来の前駆体によって置換され得、これら前駆体は、適切なニューロン突起および正確な標的細胞型とのシナプスを有する、その失われたニューロンの表現型に分化するとの指摘がある(Snyderら,1997;Magaviら,2000)。
【0005】
NSC増殖および分化の調節に関与する外シグナルを同定するためのインビトロ培養技術が、確立されている(Johanssonら,1999b;Johanssonら,1999a)。マイトジェンEGFおよび塩基性FGFは、脳室壁および海馬から単離された神経前駆体の細胞培養拡大を可能にする(McKay,1997;Johanssonら,1999a)。これらの分裂前駆体は、未分化状態でとどまり、そしてニューロスフィア(neurospheres)として知られる細胞の大きなクローンになる。マイトジェンの除去および血清の添加の際に、これら前駆体は、ニューロン、星状細胞、および希突起神経膠細胞に分化し、これらは、脳の3つの細胞系統である(Doetschら,1999;Johanssonら,1999b)。形成される各細胞型の割合を変化するように、特定の増殖因子が添加され得る。例えば、CNTFは、神経前駆体を星状細胞運命に導くように作用する(Joheら,1996;RajanおよびMcKay,1998)。甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)は、希突起神経膠細胞分化を促進する(Joheら,1996)が、PDGFは、前駆細胞によるニューロン分化を増強する(Joheら,1996;Williamsら,1997)。近年、実際に、成体再生ニューロンが、現存の脳回路に組み込まれ、、そして神経学的欠乏を改善するのに寄与することが示されている(Nakatomiら,2002)。興味深いことに、所見はまた、神経発生が、嗅球および海馬のレベルでだけでなく生じていることを示している。この点に関して、このプロセスがまた、成体マウス黒質においても生じ得、パーキンソン病の処置のために新たな研究分野を開いたことがZhaoらにより示唆されている(Zhaoら,2003)。
【0006】
神経前駆体を拡大し、そしてそれらの細胞運命を操作できることは、特定の細胞型が失われる神経性疾患のための移植療法について、莫大な暗示を有する。例えば、パーキンソン病(PD)は、黒質におけるドパミン作用ニューロンの変性によって特徴付けられる。PD患者のための以前の移植処置は、黒質ドパミン作用ニューロンが最終分化を受けつつある時点で腹側中脳から摘出された胎児組織を使用した(HermanおよびAbrous,1994)。これらの細胞は、線条上に移植された。ここで、それらは、宿主線条体ニューロン(それらの正常なシナプス標的である)とのシナプス接触を形成する。これは、ドパミンのターンオーバーおよび放出を正常レベルに回復し、これは、患者に対して顕著な機能的利点を与える(HermanおよびAbrous,1994)(概説については、BjorklundおよびLindvall,2000を参照のこと)。しかしながら、胎児組織の移植は、倫理的考慮と、ドナー組織の欠如とによって制限される。成体NSCの拡大および操作は、神経変性疾患(例えば、PD)についての移植に基づく戦略のために、十分に特徴付けられた細胞の範囲をおそらく提供し得る。この目標に対して、神経細胞型の増殖および分化を支配する因子および経路の同定が、根本的に重要である。
【0007】
研究は、EGFおよび塩基性FGFの両方の脳室内注入が、成体脳室壁細胞集団における増殖を誘発することを示した。EGFの場合、近隣線条体実質への前駆体の広範囲な移動が観察された(Craigら,1996;Kuhnら,1997)。EGFは、神経膠系統への分化を増大し、そしてニューロンの生成を減少した(Kuhnら,1997)。さらに、成体ラットにおけるBDNFの脳室内注入が、嗅球および吻側移動流において、および実質構造(線条、中隔、視床、および海馬を含む)において、新たに生成されたニューロンの数を増大する(Penceaら,2001)。このように、いくつかの研究は、LVWのSVZ内の前駆体の増殖が刺激され得、そしてそれらの系統がニューロンまたは神経膠運命に誘導され得ることを示した。なお、インビボで神経発生に影響を及ぼすことが知られる因子の数は少なく、そしてそれらの影響は、有害であるか、または制限される。従って、神経幹細胞活性、神経前駆体の増殖を選択的に刺激し得、そして標的表現型への分化を生じさせ得る他の因子を同定することが必要である。このような因子は、神経発生のインビボでの刺激、および移植療法のための細胞の培養のために使用され得る。
【0008】
Ca2+およびcAMPは、重要な細胞内セカンドメッセンジャーの代表である。これらは共に、いくつかの外部刺激に続いて活性化され得、そしていくつかのGタンパク質共役レセプター(GPCR)によって活性化されることが示されている(Nevesら,2002)。cAMPカスケードは、ニューロン生存および可塑性において役割を果たす。神経上皮細胞は、Ca2+動員系を有し、これは、脳発達の間に主としてムスカリン性レセプター系によって活性化され得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の簡単な要旨)
本発明の1つの実施形態は、中枢神経系障害の少なくとも1つの症状を示す患者の神経組織において神経発生を調整するための方法に関する。この障害は、例えば、神経変性障害、虚血性障害、神経性外傷、および学習障害および記憶障害であり得る。この方法において、1つ以上の神経発生調整剤が、患者に投与される。
【0010】
一実施形態では、神経発生調整剤は、患者の神経組織における細胞内cAMPレベルを上昇させ、そしてそれにより、患者において神経発生を調整する。神経発生は、詳細な説明の節で定義する。
【0011】
神経発生調整剤は、cAMPアナログ、cAMP特異的ホスホジエステラーゼのインヒビター、アデニル酸シクラーゼの活性化因子、および刺激性Gタンパク質のADPリボシル化の活性化因子であり得る。これらの神経発生調整剤は、詳細な説明において列挙する。本発明の方法によって処置され得る障害もまた詳細な説明の節において列挙するが、これらには、少なくとも、パーキンソン病およびパーキンソン症候群障害、ハンティングトン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、シャイ−ドレーガー症候群、進行性核上性麻痺、レヴィー小体疾患、脊髄虚血、虚血性脳卒中、脳梗塞、脊髄損傷、および癌関連の脳損傷および脊髄損傷、多発梗塞性痴呆、および老年性痴呆が含まれる。
【0012】
投与レベルは、少なくとも0.001ng/kg/日、少なくとも0.01ng/kg/日、0.1ng/kg/日、少なくとも1ng/kg/日、少なくとも5mg/kg/日、少なくとも10mg/kg/日、または少なくとも50mg/kg/日であり得る。好ましい実施形態では、投与は、cAMPの細胞内レベルを、正常よりも少なくとも20%上回るよう上昇させる。投与は、約0.0001nM〜50nMの薬剤の組織濃度に至らせ得る。
【0013】
投与は、全身性であり得るか、または患者のCNSに直接であり得る。他の投与経路には、経口投与、皮下投与、腹腔内投与、筋内投与、脳室内投与、実質内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、経頬投与、粘膜投与、経鼻投与、および直腸投与、またはリポソーム送達システムによる投与が含まれる。
【0014】
別の実施形態では、神経発生調整剤は、患者の神経組織の細胞における細胞内Ca2+レベルを上昇させる。神経発生調整剤は、アミリンレセプターアンタゴニスト/カルシトニン(8−32)、ANP(ヒト)、CGRP(8−37)、エンドセリン−1(ヒト、ウシ、イヌ、マウス、ブタ、ラット)、g−MSH、成長ホルモン放出因子、MGOP 27、PACAP−38、サラホトキシンS6a、サラホトキシンS6b、サラホトキシンS6c、セプチド(Septide)、ソマトスタチン−28、コレラ菌(Viblio Cholerae)由来コレラ毒素、アンギオテンシンII(ヒト合成)、[D−Pen2−5]−エンケファリン、アドレノメジュリン、エンドセリン−1(ヒト、ブタ、)およびそれらの機能的等価物であり得る。
【0015】
本発明の別の実施形態は、細胞(例えば、NSC)におけるcAMPレベルを増大させる方法に関し、これは、新規cAMP上昇剤(神経発生調整剤)を細胞に投与することによる。本開示では、薬剤を細胞に投与することは、細胞を薬剤と接触させることを包含する。新規cAMP上昇剤は、副腎皮質刺激ホルモン、エンドセリン−1(ヒト、ブタ)、MECA、HE−NECA、[Cys3,6,Tyr8,Pro9]−サブスタンスP、[D−Arg0、Hyp3,Igl5,D−Igl7,Oic8]−ブラジキニン、アドレノメジュリン(ヒト)、[Des−Arg9,Leu8]−ブラジキニン、[Des−Arg9]−ブラジキニン、[D−Pen2−5]−エンケファリン、[D−pGlul,D−Phe2,D−Trp3,6]−LH−RH、アドレノメジュリン(26−52)、アドレノメジュリン(22−52)、a−ネオ−エンドルフィン、b−MSH、a−MSH、サイロカルシトニン(サケ)、カルシトニン(ヒト)、CART(61−102)□、コレシストキニンオクタペプチド[CCK(26−33)]、DTLET、DDAVP、エレドイシン、g−MSH、a−ニューロキニン、PACAP−38、β−ANP、ガラニン(1−13)−スパンタイド−アミド、M40、[Sar9,Met(0)11]−サブスタンスP、サラホトキシンS6a、サラホトキシンS6b、サラホトキシンS6c、[Nle8,18,Tyr34]−副甲状腺ホルモン(1−34)アミド(ヒト)、ACTH(ヒト)、グルカゴン様ペプチド−1(7−37)(ヒト)、エキセンディン−3、エキセンディン−4、ウロテンシンII(Globy)、血管作動性腸管ペプチド(ヒト、ブタ、ラット)、ノル−ビナルトルフィミン、アグーチ関連タンパク質(87−132)−アミド(ヒト)、およびそれらの組み合わせであり得る。細胞は、患者におけるものであり得、この場合、この方法は、患者の細胞における細胞内cAMPを刺激するための方法である。細胞は、神経組織由来の細胞であり得る。例えば、細胞は、神経幹細胞または神経前駆細胞であり得る。投与方法および投与レベルは、本開示において神経発生調整剤について考察した任意の方法またはレベルであり得る。
【0016】
本発明の別の実施形態は、インビトロで神経発生を誘発するための方法に関する。この方法では、神経細胞(神経幹細胞を含む)の集団を培養する。次いで、少なくとも1つの神経発生調整剤を細胞に投与する。この投与を、所望の神経発生レベルが達成されるまで、必要に応じて、繰り返す。神経細胞は、組織(例えば、皮質、嗅結節、網膜、中隔、外側神経節隆起、内側神経節隆起、扁桃、海馬、視床、視床下部、腹側中脳および背側中脳、脳幹、小脳、脊髄)から培養され得る。
【0017】
本開示はまた、インビトロおよびインビボでの幹細胞生物学におけるGタンパク質共役レセプター(GPCR)およびそれらのリガンドについての役割を示す。本発明は、本発明者らの発現データ(PCRおよびcDNAライブラリーデータ)およびインビトロ増殖データに基づき、これは、種々のGPCRによる細胞内cAMPまたはCa2+レベルの調整が、インビトロでならびにインタクトな脳においてインサイチュで、成体神経幹細胞(aNSC)およびそれらの子孫の増殖、移動、分化、または生存に影響するために使用され得ることを示す。このデータはまた、GPCRと転写との間を下流に関連付けるものとしてCREBを示す。
【0018】
全ての場合において、細胞、神経組織、または患者は、任意の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ウマ、ブタ、ヤギ、ウシ、および特にヒト(成人、若年者、または胎児))であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】PACAPおよびコレラ毒素処理に続くCREBリン酸化は、ウェスタンブロッティングによって示されるように、マウス成体神経幹細胞およびヒト成体神経幹細胞の両方において、再現可能な様式で生じる。上のパネルは、PACAP処理後のマウス成体神経幹細胞およびヒト成体神経幹細胞におけるCREBリン酸化のアップレギュレーションを示す。下のパネルは、コレラ毒素処理後のマウス成体神経幹細胞およびヒト成体神経幹細胞の両方におけるCREBリン酸化のアップレギュレーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
神経疾患および損傷の伝統的な処置は、ニューロン死(すなわち、アポトーシスまたは壊死)の防止に集中していた。対照的に、本発明は、神経発生(特に、神経幹細胞または前駆細胞の増殖)の誘発に基づく、神経性疾患および損傷についての新規治療処置に関する。本発明に従って、キーとなる神経発生調整剤は、神経細胞における増殖および/または分化を誘発することが同定された。このような神経発生調整剤は、神経性疾患および損傷の処置のために神経発生を生じさせるのに有用である。本明細書中で示されるように、cAMPおよび/またはCa2+のレベルの増大は、成体神経幹細胞の増殖を惹起させる。いくつかの場合において、この誘発は、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)の活性化の後に続く。本明細書中に開示されたデータは、種々の化合物(例えば、GPCRリガンド)によって細胞内cAMPおよび/またはCa2+レベルを増大させることが、成体神経幹細胞の増殖を増大させるために使用され得ることを示す。さらに、このデータは、分析される化合物の全てによって増殖するように誘発された細胞の子孫もまた、それらの完全な神経発生能を維持していることを示す。これらのリガンドに結合するGPCRについての発現データは、神経発生の促進におけるこれらの2つのセカンドメッセンジャーの重要性を裏付ける。
【0021】
「神経発生」は、インビボまたはインビトロでの神経細胞の増殖、分化、移動、または生存として、本明細書中で定義される。好ましい実施形態では、神経細胞は、成体、胎児、または胚性の神経幹細胞または前駆細胞である。神経発生はまた、細胞数における正味の増大または細胞生存における正味の増大をいう。本明細書中で使用されるように、「NSC」は、少なくとも、全ての脳幹細胞、全ての脳前駆細胞、および全ての脳前駆細胞を包含する。
【0022】
神経発生調整剤は、神経発生を促進し得る薬剤または試薬として定義される。多数の新規神経発生調整剤が、本発明において開示される。
【0023】
本開示において、疾患または障害との用語は、同じ意味を有する。
【0024】
本発明の全ての方法は、哺乳動物および哺乳動物細胞において用いられ得る。好ましい実施形態では、本発明の全ての方法は、ヒトまたはヒト細胞において用いられ得る。
【0025】
神経組織は、少なくとも、脳および中枢神経系の全ての組織を包含する。
【0026】
神経生物学者は、CNSの未分化細胞を記載するために、種々の用語を交換可能に用いている。一般に、「幹細胞」、「前駆細胞」および「前駆細胞」のような用語が、科学文献において使用される。しかし、特徴および運命が異なる、異なるタイプの未分化細胞が存在する。細胞が、制限することなく分裂し、そして最終的にニューロンおよび神経膠に分化する娘細胞を生成する能力は、幹細胞の特徴である。従って、本明細書中で使用される用語「幹細胞」(例えば、神経幹細胞)は、本発明の方法を用いて増殖するように誘発され得る未分化細胞をいう。幹細胞は、自己維持を可能とし、このことは、各細胞分裂が生じるにつれて、1つの娘細胞がまた幹細胞となることを意味する。幹細胞の非幹細胞子孫は、前駆細胞と呼ばれる。1つの多分化能性幹細胞から生じた前駆細胞は、ニューロン、星状細胞(I型およびII型)および希突起神経膠細胞に分化し得る。よって、幹細胞は多分化能性である。なぜなら、その子孫は、多数の分化経路(differentiative pathway)を有するからである。
【0027】
本明細書中で使用される用語「前駆細胞」(例えば、神経前駆細胞)は、幹細胞に由来する未分化細胞をいい、これはそれ自体幹細胞ではない。いくつかの前駆細胞は、1つより多くの細胞型に分化し得る子孫を生成し得る。例えば、O−2A細胞は、希突起神経膠細胞およびII型星状細胞を生じる神経膠前駆細胞であり、従って、二分化能性前駆細胞と呼ばれ得る。前駆細胞の区別となる特徴は、幹細胞とは異なり、これが、制限された増殖能を有し、従って、自己維持を示さないことである。それは、特定の分化経路に方向付けられ、適切な条件下では、膠細胞またはニューロンに最終的に分化する。本明細書中で使用される用語「前駆細胞」は、幹細胞の子孫をいい、従って、前駆細胞および娘幹細胞の両方を包含する。
【0028】
(1.神経発生調整剤)
本発明の一実施形態は、cAMPおよび/またはCa2+の細胞内レベルを調整する新規神経発生調整剤に関する。本明細書中で使用されるように、神経発生調整剤はまた、cAMP(例えば、合成を増大させるか、または分解を減少させることにより)および/またはCa2+(例えば、流入を増大させるか、または流出を減少させることにより)を化学的および生物学的に増大させ得る任意の物質を包含する。これらの神経発生調整剤には、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、化学化合物、低分子量分子などが含まれる。本発明とともに使用するために好ましいのは、cAMPアナログ、PDEインヒビター(例えば、cAMP特異的PDE)、アデニル酸シクラーゼ活性化因子、および刺激性Gタンパク質のADPリボシル化の活性化因子を含む神経発生調整剤である。
【0029】
cAMPの例示的なアナログとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:8−pCPT−2−O−Me−cAMP(例えば、8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン3’,5’−サイクリック一リン酸);8−Br−cAMP(例えば、8−ブロモアデノシン3’,5’−サイクリック一リン酸);Rp−cAMPS(例えば、Rp−アデノシン3’,5’−サイクリックモノホスホロチオエート);8−Cl−cAMP(例えば、8−クロロアデノシン3’,5’−サイクリック一リン酸);ジブチリルcAMP(例えば、N6,2’−O−ジブチリルアデノシン3’,5’−サイクリック一リン酸);pCPT−cAMP(例えば、8−(4−クロロフェニルチオ)アデノシン3’,5’−サイクリック一リン酸);およびN6−モノブチリルアデノシン3’,5’−サイクリック一リン酸。
【0030】
例示的なPDEインヒビターとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:テオフィリン(例えば、3,7−ジヒドロ−1,3−ジメチル−1H−プリン−2,6−ジオン;2,6−ジヒドロキシ−1,3−ジメチルプリン;1,3−ジメチルキサンチン);カフェイン(例えば、1,3,7−トリメチルキサンチン);ケルセチン二水和物(例えば、2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3,5,7−トリヒドロキシ−4H−1−ベンゾピラン−4−オン二水和物;3,3’,4’,5,7−ペンタヒドロキシフラボン二水和物);ロリプラム(例えば、4−[3−(シクロペンチルオキシ)−4−メトキシフェニル]−2−ピロリジノン);4−(3−ブトキシ−4−メトキシベンジル)イミダソリジン−2−オン;プロペントフィリン(例えば、3,7−ジヒドロ−3−メチル−1−(5−オキソヘキシル)−7−プロピル−1H−プリン−2,6−ジオン;3−メチル−1−(5−オキソヘキシル)−7−プロピルキサンチン);3−イソブチル−1−メチルキサンチン(例えば、3,7−ジヒドロ−1−メチル−3−(2−メチルプロピル)−1H−プリン−2,6−ジオン;IBMX;3−イソブチル−1−メチル−2,6(1H,3H)−プリンジオン;1−メチル−3−イソブチルキサンチン);8−メトキシメチル−3−イソブチル−1−メチルキサンチン(例えば、8−メトキシメチル−IBMX);エノキシモン(例えば、1,3−ジヒドロ−4−メチル−5−[4−メチルチオベンゾイル]−2H−イミダゾール−2−オン);塩酸パパベリン(例えば、6,7−ジメトキシ−1−ベラトリルイソキノリンヒドロクロライド)。
【0031】
他の例示的なPDEインヒビターとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:カルミダゾリウム塩化物(calmidazolium chloride)(例えば、1−[ビス(4−クロロフェニル)メチル]−3−[2,4−ジクロロ−b−(2,4−ジクロロベンジルオキシ)フェネチル]イミダゾリウム塩化物;1−[ビス(4−クロロフェニル)メチル]−3−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(2,4−ジクロロベンジルオキシ)エチル]−1H−イミダゾリウム塩化物);SKF 94836(例えば、N−シアノ−N’−メチル−N”−[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]グアニジン;シグアゾダン(Siguazodan));神経ペプチドYフラグメント22−36(例えば、Ser−Ala−Leu−Arg−His−Tyr−Ile−Asn−Leu−lle−Thr−Arg−Gln−Arg−Tyr);アミノフィリン水和物(例えば、3,7−ジヒドロ−1,3−ジメチル−1H−プリン−2,6−ジオン、1,2−エタンジアミンを有する化合物(2:1)(テオフィリン)2;エチレンジアミン;テオフィリンヘミエチレンジアミン複合体);ブテイン(例えば、1−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペン−1−オン;2’,3,4,4’−テトラヒドロキシカルコン);塩酸パパベリン(例えば、6,7−ジメトキシ−1−ベトラリルイソキノリンヒドロクロライド);塩酸エタゾラート(etazolatehydrochloride)(例えば、1−エチル−4−[(1−メチルエチリデン)ヒドラジノ]1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−5−カルボン酸エチルエステルヒドロクロライド);トリフルオペラジンジヒドロクロライド(trifluoperazine dihydrochloride)(例えば、10−[3−(4−メチル−1−ピペラジニル)プロピル]−2−トリフルオロメチル−フェノチアジンジヒドロクロライド;トリフルオロペラジンジヒドロクロライド);およびミルリノン(例えば、1,6−ジヒドロ−2−メチル−6−オキソ−(3,4’−ビピリジン)−5−カルボニトリル)。
【0032】
ADPリボシル化の例示的な刺激剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:百日咳毒素(例えば、百日咳菌(Bordetella pertussis)由来の百日咳原(Pertussigen);ヒスタミン感作因子;IAP;小島活性化タンパク質);およびコレラ毒素(例えば、コレラ菌(Vibrio cholerae)由来のコレラ原(Cholergen)、コレラ腸毒素)。
【0033】
アデニル酸シクラーゼの例示的な活性化因子としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:フォルスコリン。
【0034】
本明細書中で詳述される実験において、cAMPの細胞内レベルを増大させることが示される薬剤は、以下を包含する:
【表A】





細胞内cAMPを増大させ得る他の薬剤には、以下が含まれる:メタンスルホン酸フェノルドパム、塩酸ドパミン、塩酸アポモルフィン、リン酸ヒスタミン、ACTH、コハク酸スマトリプタン、プロスタグランジンF2αトロメタミン、プロスタグランジンE1、プロスタグランジンI2、イロプロストトロメタミン、プロスタグランジンE2、ミソプロストール、サルプロストン、ATP二ナトリウム塩、ピンドロール、セクレチン、シサプリド、メタンスルホン酸フェントールアミン、ネモナプリド、クロザピン、セルチンドール、オランザピン、リスペリドン、スルピリド、レボスルプリド(levosulpride)、クロルプロマジン、塩酸クロルプロマジン、ハロペリドール、ドンペリドン、フルフェナジンジヒドロクロライド/デカノエート/エナンテート、フルフェナジンジヒドロクロライド/デカノエート、フルフェナジンジヒドロクロライド、ATP(アデノシン三リン酸)、ATP(アデノシン三リン酸)二ナトリウム塩、ケタンセリン、酒石酸ケタンセリン(ketanserin tartare)、メテルゴリン、ピンドロール、塩酸プラゾシン、ヨヒンビン、塩酸ヨヒンビン、テオフィリン、カフェイン、テオブロミン、アミノフィリン、アムリノン、ミルリノン、ナルトレキソン、ナロキソン、アルブテロール、レバルブテロール、メタプロテレノール、テルブタリン、ピルブテロール、サルメテロール、ビトルテロール、コルテロール、ドブタミン、8L−アルギニン−バソプレシン、8−リジン−バソプレシン、デスモプレシン、メチルドパ、DOPA、ラウウォルシン(rauwolshine)、プラゾシン、フェントラミン、キニジン、ダピプラゾール(dapiprazole)、ロキシグルミド、絨毛性ゴナドトロピン、ホリトロピン−α、ホリトロピン−β(FSH)、メノトロピン(LH、FSH)、オキシトシン、ソマトスタチンアンタゴニスト、RMP−7、ACEインヒビター(カプトプリルのような)、ミソプロストール、ラタノプロスト、PGE1、アルプロスタジル、ソマトロピン(GH、PRL)分泌促進剤(MK−677)、タビモレリン(tabimorelin)(NN−703、パモレリン(pamorelin)、NNC−26−0323、TRH、コシントロピン、コルチコレリン、グルカゴン、腸グルカゴン、PTH 1−34、コカイン、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、メタンフェタミン(metamphetamien)、フェンメトラジン、メチルフェニデート、ジエチルプロピオン、メチロシン、レセルピン、ミノキシジル、スルファサラジン、レバミゾール、およびサリドマイド、フルオライド。
【0035】
細胞内Ca2+レベルを増大させるための例示的な薬剤としては、以下の表中に要約される薬剤が挙げられるが、これらに限定されない:
【表B】

本開示の神経発生調整剤(薬剤(agents)とも称する)は、本節で列挙したとおりである。本明細書中において、神経発生調整剤または薬剤が明記されているどの箇所においても、これらの神経発生調整剤(薬剤)が使用され得ることが理解される。本発明の好ましい実施形態では、神経発生調整剤は、本節で列挙された任意の薬剤を意味する。別の好ましい実施形態では、神経発生調整剤は、細胞集団または神経組織におけるダブルコルチン(Doublecortin)陽性細胞の量またはダブルコルチン陽性細胞の割合を増大させるか、または維持する。より好ましい実施形態では、神経発生調整剤は、PACAPまたはその誘導体を除いて、本節中の任意の薬剤を意味する。別の好ましい実施形態では、神経発生調整剤は、ロリプラムまたはその誘導体を除いて、本節中の任意の薬剤を意味する。なお別の好ましい実施形態では、神経発生調整剤は、7−OH−DPATまたはその誘導体を含まない。
【0036】
(2.神経発生調整剤の生成)
神経発生調整剤は、ペプチド合成機の使用を含む、公知の化学合成技術を用いて生成され得る。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、神経発生調整剤は、ペプチドまたはタンパク質である。ペプチドおよびタンパク質は、市販のペプチド合成機を用いて化学合成され得る。ペプチドおよびタンパク質の化学合成は、修飾されたまたは非天然のアミノ酸(D−アミノ酸を含む)および他の低分子量有機分子を組み込むために用いられ得る。ペプチドまたはタンパク質中の1つ以上のL−アミノ酸の対応するD−アミノ酸イソ型との置換は、酵素加水分解に対する耐性を増大させる、および1つ以上の生物学的活性特性(すなわち、レセプター結合、機能的効力、または作用持続期間)を増強するために使用され得る。例えば、Dohertyら,1993.J.Med.Chem.36:2585−2594;Kirbyら,1993,J.Med.Chem.36:3802−3808;Moritaら,1994,FEBS Lett.353:84−88;Wangら,1993 Int.J.Pept.Protein Res.42:392−399;FauchereおよびThiunieau,1992.Adv.Drug Res.23:127−159を参照のこと。
【0038】
ペプチドまたはタンパク質配列への共有結合架橋の導入は、ペプチド骨格をコンフォメーションおよびトポグラフィーの面で拘束し得る。このストラテジーは、効力、選択性、および安定性を増大した神経発生調整剤のペプチドまたはタンパク質アナログを開発するために使用され得る。それらの効力、レセプター選択性、および生物半減期を改善するために、アミノ酸配列にコンフォメーション拘束を導入するのに、多数の他の方法が首尾よく使用されている。これらは、(i)Cα−メチルアミノ酸(例えば、Roseら,Adv.Protein Chem.37:1−109(1985);PrasadおよびBalaram,CRC Crit.Rev.Biochem.,16:307−348(1984)を参照のこと);(ii)Nα−メチルアミノ酸(例えば、Aubryら,Int.J.Pept.Protein Res.,18:195−202(1981);ManavalanおよびMomany,Biopolymers,19:1943−1973(1980)を参照のこと);および(iii)α,β−不飽和アミノ酸(例えば、BachおよびGierasch,Biopolymers,25:5175−S192(1986);Singhら,Biopolymers,26:819−829(1987)を参照のこと)の使用を包含する。これらおよび多くの他のアミノ酸アナログは市販により入手可能であるか、または容易に調製され得る。さらに、C末端の酸のアミドとの置換が、ペプチドまたはタンパク質の可溶性およびクリアランスを増強するために使用され得る。
【0039】
あるいは、神経発生調整剤は、組換えペプチドまたはタンパク質の発現および精製に関する分野において周知の方法によって得られ得る。神経発生調整剤をコードするDNA分子が生成され得る。DNA配列は、公知であるか、または公知のコドン用法に基づいてアミノ酸配列から推定され得る。例えば、OldおよびPrimrose,Principles of Gene Manipulation 3rd ed.,Blackwell Scientific Publications,1985;Wadaら,Nucleic Acids Res.20:2111−2118(1992)を参照のこと。好ましくは、DNA分子は、さらなる配列(例えば、適切なクローニングベクター(例えば、プラスミド)へのそのクローニングを容易にする制限酵素についての認識部位)を含む。核酸は、DNA、RNA、またはそれらの組み合わせであり得る。神経発生調整剤をコードする核酸は、当該分野内で公知の任意の方法(例えば、配列の3’末端および5’末端に対してハイブリダイズ可能な合成プライマーを用いるPCR増幅により、および/または所与の遺伝子配列に特異的であるオリゴヌクレオチドを用いるcDNAまたはゲノムライブラリーからのクローニングによる、など)によって得られ得る。核酸はまた、化学合成によって生成され得る。
【0040】
ベクターへの核酸フラグメントの挿入に関する当該分野内で公知の方法のいずれかが、適切な転写/翻訳制御シグナルおよび神経発生調整剤コード配列で構成されるキメラ遺伝子を含む発現ベクターを構築するために、使用され得る。発現ベクター内のプロモーター/エンハンサー配列は、本発明において提供されるように、植物、動物、昆虫、または真菌の調節配列を使用し得る。宿主細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であり得る。例えば、ペプチドは、細菌細胞(例えば、E.coli)、酵母、昆虫細胞、真菌または哺乳動物細胞において発現され得る。他の適切な宿主細胞は、当業者に公知である。1つの実施形態では、神経発生調整剤をコードする核酸は、哺乳動物発現ベクターを用いて、哺乳動物細胞において発現される。
【0041】
例示的な細菌ベクターとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:pUCプラスミド(例えば、pUC7、pUC8、pUC9、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119);pBRプラスミド(例えば、pBR322、pBR325(Biorad Laboratories,Richmond,CA));pSPORT 1;pT7/T3a−18、pT7/T3a−19;pGEMプラスミド(例えば、pGEM3Z、pGEM−4Z、pGEM−3Zf(+/−)、pGEM−5Zf(+/−)、pGEM−7Zf(+/−)、pGEM−9Zf(+/−),pGEM−llZf(+/−)、pGEM−13Zf(+)(Promega,Madison,WI));pSPプラスミド(例えば、pSP70、pSP71、pSP72、pSP73、pSP64、pSP65、pSP64ポリ(A)、pAlter−1);BLUSCRIPTプラスミド(例えば、pBS II SK(+/−)、pBS II KS(+/−)、pCR−Script SK(+/−)、pBS(+/−)pT7−7、pBS−KS(+/−)pT7−7A、pBS−SK(+/−)pTZ18R;pTZ18U;pTZ19R、pT7−1 pTZ19U;pT7−2、およびpQE50(Qiagen,Chatsworth,CA))。例示的な細菌宿主細胞としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:BMH 71−18 mut S、C600、C600 hfl、DH1、DH5α、DH5αF、DM1、HB101、JM83、JM101、JM103、JM105、JM107、JM108、JM109、JM109(DE3)、LE392、KW251、MM294、NM522、NM538、NM539、RR1、Y1088、Y1089、Y1090、AG1、JM110、K802、SCS1、SCS110、XL−1 Blue、XLl−Blue MRF’、およびXLR1−Blue MR。多くの株が市販されている(例えば、ATCC,Rockville,MD ;GIBCO BRL,Gaithersburg,MDを参照のこと)。
【0042】
哺乳動物ベクターの例には、以下が含まれる:pCDM8(Seed(1987)Nature 329:840;Invitrogen)およびpMT2PC(Kaufmanら(1987)EMBO J.6:187−195)、pCMVβ(Invitrogen)、pcDNA3(Invitrogen)、pET−3d(Novagen)、pProEx−1(Life Technologies)、pFastBac 1(Life Technologies)、pSFV(Life Technologies)、pcDNA3、pcDNA4、およびpcDNA6(Invitrogen)、pSL301(Invitrogen)、pSE280(Invitrogen)、pSE380(Invitrogen)、pSE420(Invitrogen)、pTrcHis A,B,C(Invitrogen)、pRSET A,B,C(Invitrogen)、pYES2(Invitrogen)、pAC360(Invitrogen)、pVL1392およびpV11392(Invitrogen)、pZeoSV(Invitrogen)、pRc/CMV(Invitrogen)、pRc/RSV(Invitrogen)、pREP4(Invitrogen)、pREP7(Invitrogen)、pREP8(Invitrogen)、pREP9(Invitrogen)、pREP10(Invitrogen)、pCEP4(Invitrogen)、pEBVHis(Invitrogen)、およびλ−Pop6。本発明の融合タンパク質を発現するために使用され得る真核生物宿主細胞の例には、以下が含まれる:チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、ATCC Accession No.CCL−61)、NIH Swissマウス胚細胞NIH/3T3(例えば、ATCC Accession No.CRL−1658)、およびMadin−Darbyウシ腎臓(MDBK)細胞(ATCC Accession No.CCL−22)。他のベクターおよび宿主細胞は、当業者に明らかである。
【0043】
宿主細胞は、培養においてペプチドを生成(すなわち、過剰発現)するために使用され得る。従って、本発明はさらに、本発明の宿主細胞を用いてペプチドを生成するための方法を提供する。1つの実施形態では、この方法は、本発明の宿主細胞(ペプチドまたはタンパク質をコードする組換え発現ベクターが導入された)を適切な培地中で、ペプチドが生成されるように培養する工程を包含する。この方法はさらに、培地または宿主細胞からペプチドまたはタンパク質を単離する工程を包含する。Ausubelら(編).Current Protocols in Molecular Biology.J.Wiley and Sons,New York,NY.1998。
【0044】
生物学的に発現された神経発生調整剤は、公知の精製技術を用いて精製され得る。「単離された」または「精製された」組換えペプチドもしくはタンパク質、またはそれらの生物学的に活性な部分は、当該ペプチドもしくはタンパク質が、それが由来する細胞または組織供給源からの細胞物質または他の夾雑タンパク質を実質的に含まないことを意味する。用語「細胞物質を実質的に含まない」は、このペプチドもしくはタンパク質が、それが単離または組換え生成される細胞の細胞成分から分離されている調製物を包含する。1つの実施形態では、用語「細胞物質を実質的に含まない」は、所望のペプチドもしくはタンパク質以外の産物(本明細書中で、「夾雑タンパク質」とも称される)を約30%(乾燥重量基準)未満で有するペプチドまたはタンパク質の調製物、より好ましくは、約20%未満の夾雑タンパク質を有する調製物、なおより好ましくは、約10%未満の夾雑タンパク質を有する調製物、および最も好ましくは、約5%未満の夾雑タンパク質を有する調製物を包含する。ペプチドもしくはタンパク質、またはそれらの生物学的に活性な部分が組換え生成される場合、それはまた、好ましくは、培養培地を実質的に含まない。すなわち、培養培地は、このペプチドもしくはタンパク質調製物の体積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、および最も好ましくは約5%未満である。
【0045】
本発明はまた、いずれかのアゴニスト(模倣物)として機能する神経発生調整剤の改変体に関する。神経発生調整剤の改変体は、変異誘発(例えば、不連続の点変異)によって生成され得る。神経発生調整剤のアゴニストは、神経発生調整剤の天然に存在する形態の生物学的活性と実質的に同じ活性を保持し得るか、またはそのサブセットを保持し得る。従って、特定の生物学的効果が、限定された機能を有する改変体での処理によって惹起され得る。1つの実施形態では、神経発生調整剤の天然に存在する形態の生物学的活性のサブセットを有する改変体での被験体の処置は、非改変体神経発生調整剤での処置に比較して、被験体における副作用が少ない。
【0046】
好ましくは、神経発生調整剤のアナログ、改変体、または誘導体は、機能的に活性である。本明細書中で使用される用語「機能的に活性である」とは、神経発生の1つ以上の公知の機能的属性を呈示する種をいう。「改変体」は、天然に存在する神経発生調整剤とは異なるが、それらの本質的な特性を保持する神経発生調整剤をいう。一般に、改変体は、天然に存在する神経発生調整剤に対して、全般的に密に類似しており、そして多くの領域において、同一である。
【0047】
アゴニスト(模倣体)として機能する神経発生調整剤の改変体は、ペプチドまたはタンパク質のアゴニストまたはアンタゴニスト活性について、神経発生調整剤の変異体のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることにより同定され得る。1つの実施形態では、改変体の多様ライブラリーが、核酸レベルでのコンビナトリアル変異誘発によって生成され、そして多様遺伝子ライブラリーによってコードされる。改変体の多様ライブラリーは、例えば、潜在配列の縮重セットが、個々のペプチドとして、あるいは、代替的に、その中に配列のセットを含むより大きな融合タンパク質のセットとして(例えば、ファージディスプレイ用)、発現可能であるように、合成オリゴヌクレオチドの混合物を遺伝子配列に酵素連結させることにより、生成され得る。縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在改変体のライブラリーを生成するために使用され得る種々の方法がある。縮重遺伝子配列の化学合成は、自動DNA合成機で実施され得、そして次いでこの合成遺伝子は、適切な発現ベクターに連結され得る。遺伝子の縮重セットの使用により、1つの混合物中で、潜在配列の所望セットをコードする配列の全てを提供することが可能になる。縮重オリゴヌクレオチドを合成するための方法は、当該分野で公知である(例えば、Narang(1983)Tetrahedron 39:3;Itakuraら(1984)Annu Rev Biochem 53:323;Itakuraら(1984)Science 198:1056;Ikeら(1983)Nucl.Acids Res.11:477を参照のこと)。
【0048】
本発明の神経発生調整剤または個々の部分の誘導体およびアナログは、当該分野で公知の種々の方法によって生成され得る。例えば、アミノ酸配列は、当該分野で公知の任意数の方法によって修飾され得る。例えば、Sambrook,ら,1990.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,(Cold Spring Harbor Laboratory Press;Cold Spring Harbor,NY)を参照のこと。修飾には、以下が含まれる:グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護/遮断基による誘導体化、抗体分子または他の細胞試薬への連結など。当該分野で公知の多数の化学修飾法のいずれもが使用され得、このような方法としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:臭化シアンによる特異的化学切断、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH、アセチル化、ホルミル化、酸化、還元、ツニカマイシンの存在下での代謝性合成など)。
【0049】
誘導体およびアナログは、当該誘導体またはアナログが、以下に記載されるように修飾された核酸またはアミノ酸を含有する場合、全長であっても、全長以外であってもよい。神経発生調整剤の誘導体またはアナログとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:以下の場合、実質的に相同である、種々の実施形態では、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または好ましくは95%のアミノ酸同一性の領域を含む分子:(i)同一サイズのアミノ酸配列に比較した場合;(ii)当該分野で公知のコンピューター相同性プログラム(例えば、Wisconsin GCGソフトウェア)によってアラインメントがなされるアラインされた配列に比較した場合;または(iii)コードする核酸が、ストリンジェントな(好ましい)、中程度にストリンジェントな、または非ストリンジェントな条件下で、上記ペプチドをコードする配列に対してハイブリダイズし得る場合。例えば、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York,NY,1993を参照のこと。
【0050】
本発明の神経発生調整剤の誘導体は、機能的に等価な分子を生じる置換、付加、または欠失によってそれらの配列を変化させることにより生成され得る。神経発生調整剤内の1つ以上のアミノ酸残基が、同様の極性および正味の電荷の別のアミノ酸によって置換され得るが、これによってサイレントな変化を生じる。配列内のアミノ酸の保存的置換は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択され得る。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが含まれる。極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが含まれる。正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが含まれる。負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。
【0051】
(3.神経発生調整剤を含む融合タンパク質)
本発明の種々の局面では、本明細書中に開示されたタンパク質およびペプチドの神経発生調整剤は、融合タンパク質として発現され得る。非限定的な例として、融合タンパク質は、1つ以上のポリ−Hisタグ、c−mycタグ、E−タグ、S−タグ、FLAG−タグ、Glu−Gluタグ、HAタグ、HSV−タグ、V5、VSV−g、β−ガラクトシダーゼ、GFP、GST、ルシフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、アルカリホスファターゼセルロース結合ドメイン、Fcドメイン、または他の異種配列を含み得る。当業者は、周知の分子生物学技術を用いて、このような融合タンパク質を調製し得る。例えば、従来の組換えDNA方法は、本発明の実施において有用な融合タンパク質を生成するために使用され得る。
【0052】
このような方法に従って、融合構築物が生成され得、そして得られたDNAは、発現ベクター中に組み込まれ得、そして発現されて、本発明の融合タンパク質を生成し得る。適切な宿主細胞が発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトされ得、そして標的タンパク質の発現および/または分泌のために使用され得る。本発明における使用のために現在好ましい宿主細胞には、不死ハイブリドーマ細胞、NS/Oミエローマ細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HELA細胞、およびCOS細胞が含まれる。また、原核生物宿主細胞が、融合タンパク質を発現するためのベクター(例えば、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith,D.B.およびJohnson,K.S.(1988)Gene 67:31−40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,MA)、およびpRIT5(Pharmacia,Piscataway,NJ))を含むように改変され得る。
【0053】
いくつかの目的のために、本発明の融合タンパク質においてシグナル配列を含むことが所望され得る。本発明の発現構築物と共に使用され得るシグナル配列には、抗体軽鎖シグナル配列(例えば、抗体14.18(Gillieら(1989)J.Immunol.Meth.125:191))、抗体重鎖シグナル配列(例えば、MOPC141抗体重鎖シグナル配列(Sakanoら(1980)Nature 286:5774))および当該分野で公知の任意の他のシグナル配列(例えば、Watson(1984)Nucleic Acids Research 12:5145を参照のこと)が含まれる。シグナルペプチド配列の詳細な考察は、von Heijne(1986)Nucleic Acids Research 14:4683によって提供される。
【0054】
当業者に明らかであるように、分泌に対するベクター中で使用するための特定シグナル配列の適応性は、いくらかの慣用の実験を必要とし得る。このような実験は、シグナル配列が融合タンパク質の分泌を指向させ得るかの決定、および融合タンパク質の効率的な分泌を達成するために使用されるべき配列の至適な構成(ゲノムまたはcDNA)の決定を含む。さらに、当業者は、von Heijne(上記参照)によって提示される規則に従う合成シグナルペプチドを作出し得、そして慣用の実験によりこのような合成シグナル配列の効力について試験し得る。
【0055】
別の実施形態では、本発明の融合タンパク質は、コードされた融合タンパク質のタンパク質分解切断を提供するタンパク質分解切断部位を含み得る。このようにして、異種ドメイン(例えば、GSTタンパク質)が、関心のあるペプチドまたはタンパク質配列から分離され得る。有用なタンパク質分解切断部位は、タンパク質分解酵素(例えば、トリプシン、プラスミン、またはエンテロキナーゼK)により認識されるアミノ酸配列を含む。多くの切断部位/切断剤のペアが公知である(例えば、米国特許番号5,726,044を参照のこと)。
【0056】
化学的方法または生物学的方法による合成後、本発明のペプチドおよびタンパク質は、標準的な精製技術を用いて、化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まないように精製され得る。用語「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」は、ペプチドまたはタンパク質が、合成に関与する化学前駆体または他の化学物質から分離されている調製物を含む。1つの実施形態では、用語「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」は、化学前駆体または他の化学物質を約30%(乾燥重量基準)未満で有する調製物、より好ましくは、約20%未満の化学前駆体または他の化学物質を有する調製物、なおより好ましくは、約10%未満の化学前駆体または他の化学物質を有する調製物、および最も好ましくは、約5%未満の化学前駆体または他の化学物質を有する調製物を包含する。
【0057】
(4.神経発生調整剤(1つまたは複数)を含む組成物)
本発明の別の実施形態は、本発明の神経発生調整剤を含む薬学的組成物に関する。本発明の神経発生調整剤は、神経性疾患(障害)の処置のための治療剤として使用され得る薬学的組成物に処方され得る。これらの組成物を、本節において考察する。本節で考察される任意の薬学的組成物および化学物質は、1つ以上の神経発生調整剤を含む薬学的組成物の成分であり得ることが理解される。
【0058】
神経発生調整剤、誘導体、および共投与される薬剤が、投与に適切な薬学的組成物に取り込まれ得る。このような組成物は、代表的には、薬剤および薬学的に受容可能なキャリアを含む。本明細書中で使用されるように、「薬学的に受容可能なキャリア」は、薬学的投与と適合可能である任意のかつ全ての溶媒、分散媒質、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むことが意図される。薬学的に活性な物質についてのこのような媒質および薬剤の使用は、当該分野で周知である。いかなる従来の媒質または薬剤も活性化合物と不適合である範囲を除いて、組成物中のそれらの使用が企図される。補足活性化合物もまた、組成物中に取り込まれ得る。ペプチドの可溶性またはクリアランスに影響するように、薬剤に対して、改変がなされ得る。酵素分解に対する抵抗性を増大させるために、D−アミノ酸を有するペプチド性分子もまた合成され得る。いくつかの場合では、この組成物は、1つ以上の可溶化剤、保存剤、および透過増強剤と共に共投与され得る。
【0059】
好ましくは、薬学的組成物は、神経発生(すなわち、細胞成長(growth)、増殖(proliferation)、移動、生存および/または分化)を刺激することにより疾患を処置するために使用される。処置のために、本発明の方法は、被験体に、本発明の薬剤を含む薬学的組成物の有効量を投与する工程を包含し、(1)単独で、0.001ng/kg/日〜500ng/kg/日の投薬量範囲で、好ましくは、0.05〜200ng/kg/日の投薬量範囲で、(2)透過性増大因子と組み合わせで、または(3)局所または全身投与で共投与される薬剤と組み合わせで、投与される。
【0060】
本発明の薬学的組成物は、意図された投与経路と適合可能であるように処方される。投与経路の例には、非経口投与(例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与)、経口投与(例えば、吸入)、経皮投与(局部)、経粘膜投与、および直腸投与が含まれる。非経口適用、皮内適用、または皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:滅菌の生理学的に受容可能な希釈液(例えば、注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒);抗細菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);緩衝液(例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、またはリン酸緩衝液);および張度調整剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。pHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)で調整され得る。非経口調製物は、アンプル、使い捨て可能注射器、または複用量バイアル(ガラス製またはプラスチック製)中に封入され得る。
【0061】
経口投与は、摂取を通じて口を経由するか、または胃腸系の任意の他の部を経由する(食道を含む、もしくは坐剤投与を通じて)処方剤の投与をいう。非経口投与は、胃腸管(例えば、経口送達)以外の経路による組成物(例えば、神経発生調整剤を含む組成物)の送達をいう。特に、非経口投与は、静脈内注射、皮下注射、筋内注射、または髄内(すなわち、髄腔内)注射経由であり得る。局部投与は、皮膚または粘膜(鼻、肺、および口の表面膜を含む)の外表面への薬学的薬剤の適用をいい、これにより、この薬剤が、その皮膚または粘膜の外表面を横断し、そしてその下にある組織に侵入する。薬学的薬剤の局部投与は、皮膚および周囲組織への薬剤の限定された分布を生じ得るか、または、薬剤が血流により処置領域から移動される場合には、薬剤の全身分布を生じ得る。
【0062】
局部投与の好ましい形態では、神経発生促進剤は、経皮送達によって送達される。経皮送達は、皮膚の障壁を越えて薬剤を拡散させることをいう。皮膚(角質層および表皮)は、障壁として作用し、そのため、ほとんどの薬学的薬剤は、無傷の皮膚を透過することができない。対照的に、真皮は、多くの溶質に対して透過性であり、従って、薬物の吸収が、真皮を曝露するように剥離されるか、またはそれ以外に表皮から取り除かれる皮膚を通じて、より容易に起こる。無傷の皮膚を通じた吸収は、皮膚への適用前に油性ビヒクル中の活性薬剤を配置する(塗擦として公知の過程)ことによって増強され得る。受動的局部投与は、皮膚軟化薬または透過増強剤と組み合わせて、直接処置部位に活性薬剤を適用することからなり得る。皮膚を通じた送達を増強する別の方法は、薬学的薬剤の投薬量を増大することである。局部投与のための投薬量は、本開示の他の箇所で述べている通常投薬量より10倍、100倍、または1000倍多くまで増大され得る。
【0063】
注射用途に適した薬学的組成物は、滅菌注射可能溶液または分散液の即時調合のために、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液と滅菌粉末とを含む。静脈内投与のために、生理学的に受容可能な適切なキャリアは、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,N.J.)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を包含する。全ての場合において、組成物は、滅菌されなければならず、そして、容易に注射できるようになる程度に流動性であるべきである。それは、製造および貯蔵条件下では安定でなければならず、そして細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保護されなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。固有流動率は、例えば、コーティング(例えば、レシチン)の使用によって、必要な粒子サイズの維持によって(分散の場合)、および界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成され得る。多くの場合では、組成物中に等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マニトール、ソルビトール)、塩化ナトリウム)を含むことが好ましい。注射可能組成物の吸収の延長は、組成物中に、吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を含むことにより、もたらされ得る。
【0064】
生理学的に受容可能なキャリアは、薬学的(すなわち、局部、経口、および非経口)適用に適しているとして当該分野で公知の任意のキャリアであり得る。適切な薬学的キャリアおよび処方物は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第19版)(Genarro編(1995)Mack Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載されている。好ましくは、薬学的キャリアは、神経発生調整剤の意図された投与形態に基づいて選択される。薬学的に受容可能なキャリアは、例えば、皮膚軟化薬、湿潤剤、増粘剤、シリコーン、および水を含み得る。注射経路以外によって血流に神経発生調整剤を導入させるために薬学的に受容可能な賦形剤を含む適切な処方は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第19版)(Genarro編(1995)Mack Publishing Co.,Easton,Pa.)において見い出され得る。
【0065】
キャリアの特定の例には、炭化水素油および蝋(例えば、鉱油、ワセリン、パラフィン、セレシン、オゾケライト、微晶蝋、ポリエチレン、および、ペルヒドロスクアレン);トリグリセリド(例えば、植物油、動物脂肪、ヒマシ油、カカオ脂、ベニバナ油、綿実油、トウモロコシ油、オリーブ油、タラ肝油、扁桃油、アボカド油、パーム油、ゴマ油、スクアレン、およびマレイン酸化ダイズ油(maleated soybean oil));アセトグリセリド(例えば、アセチル化モノグリセリド);エトキシ化グリセリド(例えば、エトキシ化グリセリルモノステアレート);脂肪酸のアルキルエステル(例えば、メチル、イソプロピル、およびブチル、ヘキシルのラウリン酸エステル、ラウリン酸イソヘキシル、パルミチン酸イソヘキシル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、オレイン酸イソデシル、ステアリン酸ヘキサデシル、ステアリン酸デシル、イソステアリン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソヘキシル、アジピン酸ジヘキシルデシル、セバシン酸ジイソプロピル、乳酸ラウリル、乳酸ミリスチル、および乳酸セチル)(脂肪酸のエステル);脂肪酸のアルケニルエステル(例えば、ミリスチン酸オレイル、ステアリン酸オレイル、およびオレイン酸オレイル);脂肪酸(例えば、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、アラキジン酸、ベヘン酸、およびエルカ酸);脂肪アルコール(例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアリコール、ヒドロキシステアリルアルコール、オレイルアルコール、リシノレイルアルコール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール、および2−オクチルドデカニルアルコール);脂肪アルコールエーテル(例えば、1〜50のエチレンオキシド基または1〜50のプロピレンオキシド基を結合した、ラウリル、セチル、ステアリル、イソステアリル、オレイル、およびコレステロールアルコール);エーテルエステル(例えば、エトキシ化脂肪アルコールの脂肪酸エステル)。
【0066】
また、以下が含まれる:ラノリンおよび誘導体(例えば、ラノリン、ラノリン油、ラノリン蝋、ラノリンアルコール、ラノリン脂肪酸、ラノリン酸イソプロピル、エトキシ化ラノリン、エトキシ化ラノリンアルコール、エトキシ化コレステロール、プロポキシ化ラノリンアルコール、アセチル化ラノリンアルコール、リノール酸ラノリンアルコール、リシノール酸ラノリンアルコール、リシノール酸ラノリンアルコールのアセテート、エトキシ化アルコール−エステルのアセテート、ラノリンの水素化分解、エトキシ化水素化ラノリン、エトキシ化ソルビトールラノリン、および液体および半固体ラノリン吸収基剤;多価アルコールエステル(例えば、エチレングリコールモノ脂肪酸エステルおよびジ脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノ脂肪酸エステルおよびジ脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール(200−6000)モノ脂肪酸エステルおよびジ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステルおよびジ脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール2000モノオレエート、ポリプロピレングリコール2000モノステアレート、エトキシ化プロピレングリコールモノステアレート、グリセリルモノ脂肪酸エステルおよびジ脂肪酸エステル、ポリグリセロールポリ脂肪エステル、エトキシ化グリセリルモノステアレート、1,3−ブチレングリコールモノステアレート、1,3−ブチレングリコールジステアレート、ポリオキシエチレンポリオール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)は、満足のいく多価アルコールエステルである。
【0067】
さらに以下が含まれる:蝋(例えば、蜜蝋、鯨蝋、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリルポリオキシエチレンソルビトール蜜蝋、カルナウバ蝋、およびカンデリラ蝋);リン脂質(例えば、レシチン)および誘導体;ステロール(例えば、コレステロールおよびコレステロール脂肪酸エステル)、アミド(例えば、脂肪酸アミド、エトキシ化脂肪酸アミド、および固体脂肪酸アルカノールアミド)。さらに、神経発生調整剤および薬学的に受容可能なキャリアは、硬質または軟質ゼラチンカプセル中に封入され得るか、錠剤に圧縮され得るか、または個体食中に直接入れられ得る。特に、神経発生調整剤は、賦形剤と共に取り込まれ得、そして摂取可能な錠剤、舌下錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤などの形態で使用され得る。神経発生調整剤が経口投与される場合、それは、他の食物形態および薬学的に受容可能な香味増強剤と混合され得る。神経発生調整剤が経腸投与される場合、それらは、固体、半固体、懸濁液、またはエマルジョン形態で導入され得、そして任意数の周知の薬学的に受容可能な添加剤と共に調合され得る。経口投与投薬形態のための徐放性経口送達システムおよび/または腸溶コーティングは、当該分野で公知であり、また企図される。
【0068】
経口組成物は、一般に、生理学的に受容可能な不活性な賦形薬または食用キャリアを含む。それらは、ゼラチンカプセル中に封入され得るか、または錠剤に圧縮され得る。経口治療投与の目的のために、本発明の神経発生調整剤は、生理学的賦形剤と共に取り込まれ得、そして錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形態で使用され得る。経口組成物はまた、うがい薬としての使用のための液性キャリアを用いて調製され得る。ここでは、液性キャリア中の化合物が、経口適用されてシュッと吹き付けられて、そして吐き出されるかまたは嚥下される。薬学的に適合性の結合剤、および/またはアジュバント物質が、組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の成分のいずれか、または同様の性質の化合物を含み得る:結合剤(例えば、微結晶性セルロース、トラガカントガム、またはゼラチン);生理学的に受容可能な賦形剤(例えば、デンプンまたはラクトース);崩壊剤(例えば、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはトウモロコシデンプン);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはステロート(Sterotes));流動促進剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素);甘味剤(例えば、スクロースまたはサッカリン);または香味矯正剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香味)。
【0069】
本発明の神経発生調整剤が局部剤として投与される場合、本発明の組成物は、必要に応じて、皮膚に対して美容または有益な効果を有すると知られる他の薬剤を含み得る。このような薬剤は、例えば、抗酸化剤、遮光剤、pH緩衝剤、およびそれらの組み合わせを含む。化学的に適合性である任意の抗酸化剤が用いられ得るが、好ましい抗酸化剤には、以下が含まれる:アミノ酸(例えば、グリシン、ヒスチジン、チロシン、およびトリプトファン);イミダゾール(例えば、ウロカニン酸);ペプチド(例えば、D,L−カルノシン、D−カルノシン、L−カルノシンおよびアンセリン);カロチノイド;カロチン(例えば、α−カロチン、β−カロチン、およびリコペン);リポ酸(例えば、ジヒドロリポ酸);チオール(例えば、金チオグルコース、プロピルチオウラシル、チオレドキシン、グルタチオン、システイン、シスチン、およびシスタミン);ジラウリルチオジプロピオネート;ジステアリルチオジプロピオネート;チオジプロピオン酸;スルフォキシミン化合物(例えば、ブチオニン−スルフォキシミン、ホモシステイン−スルフォキシミン、ブチオニン−スルフォン、ペンタ−、ヘキサ−、およびヘプタチオニン−スルフォキシミン);金属キレート剤(例えば、α−ヒドロキシ−脂肪酸、パルミチン酸、フィチン酸、ラクトフェリンEDTAおよびEGTA);α−ヒドロキシ酸(例えば、クエン酸、乳酸、およびリンゴ酸);不飽和脂肪酸(例えば、γ−リノレン酸、リノール酸、およびオレイン酸);葉酸;ユビキノンおよびユビキノール。
【0070】
滅菌注射可能溶液は、適切な溶媒中に、必要とされる量の本発明の神経発生調整剤(例えば、核酸、ペプチド、融合タンパク質、抗体、アフィボディ(affibody)など)を、必要に応じて、上記で列挙した成分の1つまたは組み合わせと共に、取り込み、続いて濾過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散液は、神経発生調整剤を、基本分散媒および必要な他の成分(上記に列挙したものから)を含有する滅菌ビヒクル中に取り込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、それらの予め滅菌濾過した溶液から活性成分と任意のさらなる所望の成分とからなる粉末を得る。
【0071】
注射可能薬物の送達を変化させる多数のシステムが、治療剤の薬力学的特性および薬物速度論特性を変更するために使用され得る(例えば、K.Reddy,2000,Annal of Pharmacotherapy 34:915−923を参照のこと)。薬物送達は、処方の変更(例えば、連続放出製品、リポソーム)または薬物分子への添加(例えば、PEG化)によって改変され得る。これらの薬物送達機構の潜在的利点には、薬理学活性の増大または持続期間の延長、副作用の減少、および患者コンプライアンスおよび生活の質の増大が含まれる。注射可能連続放出システムは、制御された予め決定された様式で薬物を送達し、そして血漿薬物濃度の大きな変動を回避することが重量である場合、特に適する。リポソーム中の薬物のカプセル化は、半減期の延長、および毛細管透過性が増大した組織(例えば、腫瘍)への分布の増大を生じ得る。PEG化は、これらの神経発生調整剤と関連した起こり得る制限(例えば、安定性、半減期、腫瘍原性)を最小にするために、治療ペプチドまたはタンパク質の修飾のための方法を提供する。
【0072】
本発明に従って、1つ以上の神経発生調整剤が、脂質または脂質ビヒクル(例えば、ミセル、リポソーム、ミクロスフェア、前細胞、原始生物、リポソーム、コアセルベートなど)を用いて処方されて、マルチマーの形成を可能にし得る。同様に、神経発生調整剤は、PEG化、架橋、ジスルフィド結合形成、共有結合架橋の形成、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー形成、または他の確立された方法を用いてマルチマー化され得る。マルチマー化された神経発生調整剤は、薬学的組成物中に処方されて、それらの効果を増大または増強するために使用され得る。
【0073】
全身投与はまた、経粘膜手段または経皮手段によってでもあり得る。経粘膜適用または経皮適用のために、透過されるべき障壁に適した浸透剤が、処方において使用される。このような浸透剤は、一般に、当該分野で公知であり、そしてこれには、例えば、経粘膜投与のために、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、経鼻スプレーまたは坐剤の使用により成し遂げられ得る。吸入による投与のために、本発明の神経発生調整剤は、適切な噴射剤(例えば、ガス(例えば、二酸化炭素)またはネブライザーを含む加圧容器またはディスペンサーからエアロゾルスプレーの形態で送達され得る。経皮投与のために、本発明の神経発生調整剤は、当該分野で一般に知られるように、軟膏(ointments)、軟膏(salves)、ゲル、またはクリームに処方され得る。神経発生調整剤はまた、坐剤(例えば、従来の坐剤基剤(例えば、カカオ脂および他のグリセリド)を有する)または直腸送達のための停留浣腸の形態で調製され得る。
【0074】
1つの実施形態では、本発明の神経発生調整剤は、身体からの急速な排除に対して神経発生調整剤を保護するキャリア(例えば、制御放出性処方)(インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを包含する)を用いて調製される。生分解性の生体適合性ポリマーが使用され得る(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸)。このような処方物の調製のための方法は、当業者に明らかである。これら物質はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.からの市販によって入手され得る。リポソーム懸濁液(ウイルス性抗原に対するモノクローナル抗体によって感染細胞に対して標的化されるリポソームを含む)もまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。これらは、当業者に公知の方法(例えば、米国特許番号4,522,811に記載のように)に従って調製され得る。
【0075】
投与の容易さおよび投薬量の均一性のために投薬単位形態で経口または非経口組成物を処方することが、特に有利である。本明細書中で使用される投薬単位形態は、処置される被験体について単位投薬量として適した物理的に別個の単位をいう;各単位は、必要とされる薬学的キャリアと共に所望の治療効果を生じるように計算された活性化合物の予め決定された量を含有する。本発明の投薬単位形態についての仕様は、活性化合物の独特の特徴および達成されるべき特定治療効果、ならびに個体の処置のための活性化合物のような調合の分野において固有の制限によって、かつ直接依存して規定される。
【0076】
他の実施形態では、神経発生調整剤は、少なくとも90%純粋な神経発生調整剤を含む組成物において投与される。好ましくは、神経発生調整剤は、最大の安定性および最小限の処方物関連副作用を与える媒質中に処方される。神経発生調整剤に加えて、本発明の組成物は、代表的に、1つ以上のタンパク質キャリア、緩衝液、等張塩、および安定剤を含む。
【0077】
本発明の1つ以上の神経発生調整剤を含む組成物が、任意の従来の形態で投与され得、この形態は、血液脳関門を通過するかまたは迂回するかのいずれかであり得る、当該分野で公知の任意の形態を包含する。因子に血液脳関門を通過させるための方法は、当該因子の大きさを最小にすること、より容易に通り抜け得る疎水性因子を提供すること、タンパク質神経発生調整剤または他の薬剤を、血液脳関門を横断する実質透過係数を有するキャリア分子に結合体化することを包含する(例えば、米国特許5,670,477を参照のこと)。
【0078】
いくつかの場合では、神経発生調整剤は、ポンプデバイスに連結されたカテーテルを埋め込む外科的手順によって投与され得る。ポンプデバイスはまた、埋め込まれ得るか、または体外に位置され得る。神経発生調整剤の投与は、間欠パルスでまたは連続注入としてであり得る。脳の不連続領域への注射のためのデバイスは当該分野で公知である(例えば、米国特許番号6,042,579;5,832,932;および4,692,147を参照のこと)。
【0079】
(5.神経発生調整剤(1つまたは複数)の投与による障害の症状を減少させるための方法)
本発明の1つの実施形態は、患者における障害の症状を減少させるための方法であって、本発明の神経発生調整剤を当該患者に投与することによる、方法に関する。その方法において、1つ以上の神経発生調整剤は、動物に直接投与され、これは、当該動物の神経組織のさらなる増殖および/または分化を誘発する。このようなインビボ処置方法により、損傷または疾患に起因して失われた細胞により引き起こされる障害を、内因的に置換させる。これは、患者への外来細胞の移植の必要性を不要にする。
【0080】
本発明の神経発生調整剤は、患者に全身投与され得る。好ましい実施形態では、神経発生調整剤は、CNS障害病理学に関係している任意の位置、すなわち、疾患の原因として神経細胞を欠く任意の位置に、局所投与される。例えば、神経発生調整剤は、脳室、黒質、線条、青斑(locus ceruleous)、マイネルト基底核(nucleus basalis Meynert)、脚橋被蓋核(pedunculopontine nucleus)、大脳皮質、および脊髄に局所投与され得る。好ましくは、中枢神経系障害には、神経変性障害、虚血性障害、神経性外傷、および学習障害および記憶障害が含まれる。
【0081】
増殖因子の投与は、任意の方法によってなされ得、この方法には、カニューレ注入(injection cannula)、成長ホルモン発現ベクターでの細胞のトランスフェクション、注射、所望の部位に物質を投与し得る徐放性装置などが含まれる。薬学的組成物は、任意の方法によって投与され得、この方法には、カニューレ注入、注射、経口投与、徐放性装置などが含まれる。任意の増殖因子(特に、EGF、TGFα、FGF−1、FGF−2、およびNGF)が使用され得る。増殖因子は、当該因子が血液脳関門を通過するかまたは迂回するかのいずれかをし得る、当該分野で公知の任意の様式で投与され得る。因子に血液脳関門を通過させるための方法は、当該因子の大きさを最小にすること、またはより容易に通り抜け得る疎水性因子を提供することを包含する。
【0082】
本発明の方法は、成熟脳の脳室の内壁となる組織に幹細胞が位置するという事実を利用して提供する。神経発生は、本発明の神経発生調整剤をこれらの部位に直接投与し、そしてこのようにして不要な全身投与や起こり得る副作用を回避することにより誘発され得る。この組成物を脳室、および従って神経幹細胞に投与するデバイスを埋め込むことが所望とされ得る。例えば、浸透圧ポンプに装着されたカニューレが、組成物を送達するために使用され得る。あるいは、この組成物は、脳室に直接注射され得る。細胞は、損傷または疾患の結果として損傷を受けた領域に移動し得る。さらに、脳室が多くの脳領域に対してきわめて近接していることにより、細胞(例えば、幹細胞またはそれらの子孫)による、分泌された神経性薬剤の拡散が可能になる。
【0083】
本発明は、インビボまたはインビトロで神経発生を誘発するための方法を提供する。これは、本明細書中に詳述するように、CNSの種々の疾患および障害を処置するために使用され得る。用語「処置する」は、本発明に関して、その種々の文法上の形態において、神経性障害の有害効果、障害進行、障害原因因子(例えば、細菌またはウイルス)、損傷、外傷、または他の異常状態を防止する、治癒する、逆転する、軽減する、緩和する、改善する、最小にする、抑制する、または停止することをいう。神経性障害の症状としては、緊張、異常運動、異常行動、チック、機能亢進、闘争性(combativeness)、敵意、拒絶、記憶欠陥、知覚欠陥、認識欠陥、幻覚、急性妄想、自己管理不足、および時に引きこもりおよび隠遁が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
異常運動症状は、生活の質に非常にわずかにしか干渉しない無意識の運動から、実に重篤なおよび不具となる運動までの範囲であり得る、広範な種々の症状を包含する。神経性障害と関連して見られる症状の例には、不随意な舌の突出、蛇様の舌の運動、反復性足指および手指運動、体肢または全身区分の振せん、チック、筋肉硬直、運動の緩慢、顔面痙攣、種々の筋肉の急性攣縮(特に、頚部および肩、最終的には、有痛の長期の筋肉攣縮に至り得る)、不穏、窮迫、および静止不能が含まれる。異常行動症状(そのうちのいくらかは、本来の運動(motor in nature)である)には、被刺激性、衝動調節不良、転導性、攻撃性、および精神障害と共に一般に見られる常同行動(例えば、揺り動き(rocking)、跳躍、疾走、回転(spinning)、剥皮(flaying)など)が含まれる。
【0085】
本発明の方法のいずれかが、神経性疾患または障害の症状(例えば、パーキンソン病(振せん麻痺)(原発性パーキンソン病、続発性パーキンソン症候群、および脳炎後パーキンソン症候群を包含する);薬物誘発性運動障害(パーキンソン症候群、急性失調、遅発性ジスキネジー、および神経弛緩薬性悪性症候群を包含する);ハンティングトン病(ハンティングトン舞踏病;慢性進行性舞踏病;遺伝性舞踏病);せん妄(急性錯乱状態);痴呆;アルツハイマー病;非アルツハイマー性痴呆(レヴィー小体痴呆、血管性痴呆、ビンスヴァンガー痴呆(皮質下性動脈硬化性脳障害)、ボクサー痴呆、正常圧水頭、全身不全麻痺、前頭側頭骨痴呆、多発梗塞性痴呆、およびAIDS痴呆を包含する);加齢関連記憶欠陥(AAMI);健忘症(例えば、逆行性健忘症、前向性健忘症、完全健忘症、感覚様相特異的(modality specific)健忘症、一過性健忘症、安定健忘症、および進行性健忘症、ならびに外傷後健忘症)、ならびにコルサコフ病)を緩和するために使用され得る。
【0086】
他の疾患および障害には、以下が含まれる:特発性起立性低血圧、シャイ−ドレーガー症候群、進行性核上性麻痺(スティール−リチャードソン−オルスゼフスキー症候群);小脳の構造病変(例えば、梗塞、出血、または腫瘍と関連した病変);脊髄小脳性変性(例えば、フリートライヒ運動失調、無β−リポ蛋白血症(例えば、バッセン−コルンツヴァイク症候群、ビタミンE欠損)、レフサム病(フィタン酸蓄積症)、小脳性運動失調、多系統萎縮(オリーブ橋小脳萎縮)、毛細血管拡張性運動失調、およびミトコンドリア多系統障害と関連した変性);急性播種性脳脊髄炎(感染後脳脊髄炎);副腎脳白質ジストロフィおよび副腎脊髄神経障害;レーバー遺伝性視神経萎縮;HTLV関連脊髄障害;および多発性硬化症;運動ニューロン障害(例えば筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮、原発性側索硬化症および進行性偽性球麻痺、および脊髄性筋萎縮(例えば、I型脊髄性筋萎縮(ヴェルドニッヒ−ホフマン病)、II型(中間型)脊髄性筋萎縮、III型脊髄性筋萎縮(ヴォールファルト−クーゲルベルク−ヴェランデル病)、およびIV型脊髄性筋萎縮。
【0087】
さらなる疾患および障害には、以下が含まれる:叢障害(例えば、神経叢障害および急性腕神経叢炎(神経痛性筋萎縮);末梢神経ニューロパシー(例えば、モノニューロパシー、多発性単神経炎、および多発性ニューロパシー(尺骨神経麻痺、手根管症候群、腓骨神経麻痺、橈骨神経麻痺、ギヤン−バレー症候群(ランドリー上行性麻痺;急性炎症性脱髄性多発根神経障害)、慢性再発性多発性ニューロパシー、遺伝性運動および感覚ニューロパシー(例えば、I型およびII型(シャルコー−マリー−ツース病、腓骨筋萎縮)、およびIII型(肥厚性間質性ニューロパシー、ドゥジュリーヌ−ソッタ病))を含む);神経筋伝達の障害(例えば、重症筋無力症);神経眼科障害(例えば、ホルナー症候群、核間性眼筋麻痺、注視麻痺、およびパリノー症候群);脳神経麻痺、三叉神経痛(疼痛チック);ベル麻痺;および舌咽神経痛;神経系の放射能誘発性損傷;化学療法誘発性ニューロパシー(例えば、脳障害);タキソールニューロパシー;ビンクリスチンニューロパシー;糖尿病性ニューロパシー;自律性ニューロパシー;多発性ニューロパシー;およびモノニューロパシー;および虚血性症候群(例えば、一過性脳虚血発作、鎖骨下動脈盗血症候群、ドロップアタック、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、および脳梗塞)。
【0088】
ハンティングトン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、および主に前脳を罹患する他の神経性障害の処置のために、開示された神経発生調整剤の1つ以上が、増殖因子または他の神経性薬剤と共にまたはそれらを伴うことなく、細胞のインビボでの改変または操作に影響するように、前脳の脳室に送達される。例えば、パーキンソン病は、脳(特に、線条)中のドパミンが低レベルであることの結果である。インビボで分割し始めるように、患者自身の静止幹細胞を誘発することが有利であり、これにより、ドパミンのレベルを局所的に増大させる。本発明の方法および組成物は、パーキンソン病の処置のために、薬物の使用および大量の胚組織の論議の的となる使用の代替を提供する。ドパミン細胞は、側脳室への増殖因子を含む組成物の投与により、線条において生成され得る。特に好ましい組成物は、本明細書中に開示された神経発生調整剤の1つ以上を含む。
【0089】
MSおよび他の脱髄障害またはミエリン形成減少障害の処置のために、および筋萎縮性側索硬化症または他の運動ニューロン疾患の処置のために、開示された神経発生調整剤の1つ以上が、増殖因子または他の神経性薬剤と共にまたはそれらを伴うことなく、中心管に送達される。脳室のすぐ周囲のCNS組織の処置に加えて、ウイルス性ベクター、DNA、増殖因子、または他の神経性薬剤が、CNS中への循環のために腰槽に容易に送達され得る。EGFまたは同様の増殖因子の注入が、インビボで神経幹細胞および前駆細胞の増殖、移動、および分化を増強するために、本発明の神経発生調整剤と共に使用され得る(例えば、米国特許番号5,851,832を参照のこと)。好ましい実施形態では、EGFおよびFGFが、一緒にまたは順次、投与される。
【0090】
血液脳関門は、増殖因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターで細胞を、これら細胞自体が当該因子を生成するように、インビボでトランスフェクトすることにより、迂回され得る。細胞の任意の有用な遺伝子改変は、本発明の範囲内である。例えば、増殖因子を発現するように細胞を遺伝的に改変することに加えて、これら細胞は、神経伝達因子のような他のタイプの神経性薬剤を発現するよう改変され得る。好ましくは、遺伝子改変は、組換えレトロウイルスによる脳室領域の内壁となる細胞の感染、または当該分野で公知の方法を用いるトランスフェクションのいずれかにより実施される(CaPOトランスフェクション、DEAE−デキストラントランスフェクション、ポリブレントランスフェクション、プロトプラスト融合による、エレクトロポレーション、リポフェクションなどを含む)。Maniatisら、前出を参照のこと。遺伝子改変の任意の方法(現在公知であるまたは後に開発される)が使用され得る。直接DNAトランスフェクションを用いて、細胞は、粒子ボンバードメント、レセプター媒介送達、およびカチオンリポソームによって改変され得る。キメラ遺伝子構築物が使用される場合、それらは、一般に、ウイルス性プロモーター(例えば、レトロウイルス長末端反復(LTR)、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV));または哺乳動物細胞特異的プロモーター(例えば、TH、DBH、フェニルエタノールアミンN−メチルトランスフェラーゼ、ChAT、GFAP、NSE、NFタンパク質(NF−L、NF−M、NF−Hなど))(これらは、所望のタンパク質をコードする構造遺伝子の発現を導く)を含有する。
【0091】
本発明の方法は、任意の哺乳動物(ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、およびネコを含む)を処置するために使用され得る。好ましくは、本発明の方法は、ヒトを処置するために使用される。1つの局面では、本発明は、失われてしまったかまたは破壊されてしまった神経細胞を置換するために、細胞(例えば、幹細胞)を、成長(grow)、増殖(proliferate)、移動、生存、および/または分化するように刺激することにより、神経性障害についての再生性処置を提供する。このような細胞(例えば、幹細胞)のインビボでの刺激は、本発明の神経発生調整剤を適切な処方で細胞に局所投与することにより成し遂げられ得る。神経発生を増大させることにより、損傷した細胞または欠けている細胞が置換されて、血液機能を増強し得る。
【0092】
神経発生調整剤の投薬形態を調製するための方法は、当業者に公知であるか、または当業者に明らかになる。投与されるべき神経発生調整剤の有効量の決定は、当業者に明らかであり、そして当業者にとって慣用である。投与されるべき神経発生調整剤の量は、患者の正確なサイズおよび状態に依存するが、0.001〜10mlの容量で、少なくとも0.1ng/kg/日、少なくとも1ng/kg/日、少なくとも5ng/kg/日、少なくとも20ng/kg/日、少なくとも100ng/kg/日、少なくとも0.5ug/kg/日、少なくとも2ug/kg/日、少なくとも5ug/kg/日、少なくとも50ug/kg/日、少なくとも500ug/kg/日、少なくとも1mg/kg/日、少なくとも5mg/kg/日、または少なくとも10mg ng/kg/日である。投薬の別の方法では、モジュレーター(調整剤)は、標的組織が0.0001nM〜50nM、0.001nM〜50nM、0.01nM〜50nM、0.1nM〜50nM、0.1nM〜100nM、または少なくとも1nM、少なくとも50nM、または少なくとも100nMのモジュレーター濃度を達成するように、投与され得る。好ましい投薬量には、皮下投与で少なくとも10mgを1週間に2回または少なくとも25mgを1週間に2回;皮下投与で少なくとも0.04mg/kg/週、少なくとも0.08mg/kg/週、少なくとも0.24mg/kg/週、少なくとも36mg/kg/週、または少なくとも48mg/kg/週;皮下投与で少なくとも22mcgを1週間に2回または44mcgを1週間に2回;または静脈内投与で少なくとも3〜10mg/kgを1月に1回が含まれる。特に好ましい投薬量範囲は、0.04mg/kg〜4mg/kgおよび0.05mg/kg〜5mg/kgである。これらの投薬量は、経皮適用または局部適用では、10倍、100倍、または1000倍増大され得る。
【0093】
本発明の使用に適した薬学的組成物は、活性成分が、その意図された目的を達成するのに有効な量で含有される組成物を包含する。より詳細には、治療有効量は、細胞(例えば、幹細胞または前駆細胞)増殖を最適に刺激または抑制するのに有効な量を意味する。各投薬形態の個々の用量中に含有される活性成分(1つまたは複数)の単位含有量は、本来、有効量を構成する必要のないことが理解される。なぜなら、必要な有効量は、複数の投薬単位(例えば、カプセル剤または錠剤またはそれらの組み合わせ)の投与によって達成され得るからである。さらに、いくらかの投薬量レベルでは、有効量が、使用して1週間後、1ヵ月後、3ヵ月後、または6ヵ月後になるまで、いかなる測定可能な効果も示さないこともあることが理解される。さらに、有効量が、年齢とともに起こる自然悪化の速度を緩めるが、既に生じた悪化を逆転しないことがあることも理解される。有効量の決定は、特に本明細書中の詳細な開示内容を考慮して、十分に当業者の範囲内である。任意の特定使用者に対する具体的な用量レベルは、使用される具体的な神経誘発調整剤の活性、年齢、身体活動レベル、全身健康状態、および障害の重度を含む種々の要因に依存する。
【0094】
治療有効用量はまた、望ましくないまたは耐えられない副作用なしに所望の効果を達成するのに必要な量をいう。本発明の神経発生調整剤の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的手順によって決定され得る。標準的な方法を用いて、試験集団の約50%で有効性を示す投薬量であるED50が決定され得る。有効性は、細胞(例えば、幹細胞)増殖または抑制の任意の徴候であり得る。同様に、集団の50%に対して望ましくない副作用を生じる投薬量であるSD50が決定され得る。望ましくない副作用には、死亡、創傷、発疹、異常発赤などが含まれる。副作用と治療効果との間の用量比が、治療指数として表され得、そしてこれは、SD50/ED50間の比として表され得る。高い治療指数を有する神経発生調整剤、すなわち、低い投薬量で有効であり、かつ非常に高い用量になるまで望ましくない副作用を有さない神経発生調整剤が、好ましい。好ましい治療指数は約3より高く、より好ましくは、治療指数は10より高く、最も好ましくは、治療指数は25より高く、このような治療指数は、例えば、50より高い。さらに、いかなる投薬量レベルでも副作用を有さない神経発生調整剤が、より好ましい。最後に、低い投薬量で有効であり、かついかなる投薬量レベルでも副作用を有さない神経発生調節剤が、最も好ましい。正確な処方、投与経路、および投薬量は、所望の効果に依存して選択され得、当業者によって行われ得る。
【0095】
投薬間隔は、実験的検査によって決定され得る。本発明の1つ以上の神経発生調整剤が、細胞(例えば、幹細胞)増殖を正常より約10%上回って、正常より約20%上回って、正常より約50%上回って(例えば、正常より100%上回って、好ましくは、正常より約200%上回って、より好ましくは、正常より約300%上回って、そして最も好ましくは、正常より約500%上回って)維持する処方計画を用いて、投与されるべきである。好ましい実施形態では、本発明の薬学的組成物は、約0.001%〜約10%の間、好ましくは、約0.01%と約3%との間(例えば、約1重量%のような)の濃度で、本発明の神経発生調整剤を含み得る。
【0096】
別の適切な投与方法は、本発明の神経発生調整剤を、神経発生調整剤(例えば、ペプチド神経発生調整剤)を発現し得るインプラントまたは細胞株を通して、そのインプラントまたは細胞株がCNSの細胞に神経発生調整剤を提供し得るように提供することである。
【0097】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の神経発生調整剤は、脳の側脳室壁領域において神経発生を誘発する。より好ましい実施形態では、神経発生調整剤は、側脳室壁において神経発生を誘発するが、海馬では誘発しない。
【0098】
本発明の方法は、細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞)における内因性因子を検出するために使用され得、これは、RT−PCRまたはインサイチュハイブリダイゼーション技術によって同定され得る。特に、本発明の1つ以上の神経発生調整剤の存在下でこれらの細胞においてアップレギュレートされるか、またはダウンレギュレートされる遺伝子が、同定され得る。このような遺伝子の調節は、それらが、神経発生機能の調節におけるシグナル伝達経路の仲介に関与することを示し得る。さらに、これらの遺伝子の発現のレベルを知ることにより、およびこれらの遺伝子または遺伝子産物における遺伝子配列またはアミノ酸配列の変動を分析することにより、疾患を診断すること、または疾患における細胞(例えば、幹細胞および前駆細胞)の役割を決定することが可能であり得る。このような分析は、疾患の細胞ベースの処置を用いるために重要な情報を提供する。
【0099】
(6.神経発生調整剤(1つまたは複数)で処理された細胞を投与することにより障害の症状を減少させるための方法)
(細胞の採集および神経発生の誘発:)
本発明の別の実施形態は、インビトロで神経発生を受けるように、−−ニューロン、星状細胞、および希突起神経膠細胞に分化し得る多数の神経細胞を生成するように−−、細胞(例えば、幹細胞または前駆細胞)を誘発するための方法に関する。細胞(例えば、幹細胞または前駆細胞)の増殖および分化の誘発は、懸濁液中で、またはそれらが接着し得る基材上のいずれかで細胞を培養することによりなされ得る。誘発された細胞は、治療処置のために使用され得る。例えば、治療は、少なくとも、(1)インビトロでの神経細胞の増殖および分化、次いで移植、(2)インビトロでの神経細胞の増殖、移植、次いでインビボでのさらなる増殖および分化、(3)インビトロでの増殖、移植、およびインビボでの分化、ならびに(4)インビボでの増殖および分化を包含し得る。従って、本発明は、神経変性疾患および神経性外傷を処置するための宿主の神経組織への移植のために、神経変性疾患および神経性外傷を処置する非外科的方法のために、および薬物スクリーニング適用のために、多数の細胞を生成するための手段を提供する。
【0100】
幹細胞子孫は、異種(heterologous)宿主、自己宿主、または異種発生性(xenogeneic)宿主への移植のために使用され得る。多分化能性幹細胞は、胚、生後、幼若体、または成体の神経組織、または他の組織から得られ得る。ヒト異種幹細胞は、人工妊娠中絶後の胎児組織に、または生後、幼若体、もしくは成体の臓器ドナーに由来し得る。自己組織は、生検によって、または例えば、癲癇手術、側頭葉切除、および海馬切除(hippocampalectomies)の間に組織が摘出される手術(例えば、神経外科手術)を受けた患者から、得られ得る。幹細胞は、種々の成体CNS脳室領域から単離され、そして本明細書中に詳述した方法を用いてインビトロで増殖されている。本発明の種々の実施形態では、組織は、任意の動物(昆虫、魚、爬虫類、鳥類、両生類、哺乳動物などを含む)から得られ得る。組織(例えば、神経組織)の好ましい供給源は、哺乳動物、好ましくは、げっ歯類および霊長類、および最も好ましくは、マウスおよびヒト由来である。
【0101】
異種ドナー動物の場合、動物は安楽死され得、そして関心のある神経組織および特定領域が、滅菌手順を用いて取り出され得る。特に関心のある領域には、宿主の神経系(特に宿主のCNS)の変性領域に機能を回復するように働く神経幹細胞が得られ得る任意の領域が含まれる。適切な領域には、大脳皮質、小脳、中脳、脳幹、脊髄、および脳室組織、ならびに頚動脈小体および副腎髄質を含むPNSの領域が含まれる。好ましい領域には、脳幹神経節(好ましくは、線条(尾状核および被殻からなる))中の領域、または種々の細胞群(例えば、淡蒼球、視床下核、基底核(アルツハイマー病患者中で変性されていることが見い出される)、または黒質緻密部(パーキンソン病患者中で変性されていることが見い出される))が含まれる。特に好ましい神経組織が、CNS脳室の内壁となることが見い出され、そして上衣下を含む脳室組織から得られる。用語「脳室」は、脳脊髄液が流れるCNS内の任意の腔または通路をいう。従って、この用語は、側脳室、第3脳室、および第4脳室を包含するだけでなく、中心管、中脳水道、および他のCNS腔もまた包含する。
【0102】
細胞は、ドナー組織(例えば、神経組織)から、その組織の連結細胞外基質からの個々の細胞の解離によって得られ得る。特定神経領域からの組織が、滅菌手順を用いて脳から取り出され、そして細胞が、当該分野で公知の任意の方法(酵素(例えば、トリプシン、コラゲナーゼなど)による処理を含む)を用いて、または物理的解離方法(例えば、鈍器を用いる)を用いることによって、解離される。胎児細胞の解離は、組織培養培地中で実施され得、一方、幼若体および成体細胞の解離のための好ましい培地は、低Ca2+人工脳脊髄液(aCSF)である。レギュラーaCSFは、124mM NaCl、5mM KCl、1.3mM MgCl、2mM CaCl、26mM NaHCO、および10mM D−グルコースを含有する。低Ca2+aCSFは、MgClを3.2mMの濃度で、そしてCaClを0.1mMの濃度で含むことを除いて、同じ成分を含有する。解離された細胞は、低速で、200rpmと2000rpmとの間で、通常400rpmと800rpmとの間で遠心分離され、次いで培養培地中に再懸濁される。細胞は、懸濁液中または固定基材上で培養され得る。しかし、基材は、神経幹細胞子孫の分化を誘発する傾向にある。従って、大量の未分化神経幹細胞子孫が所望される場合、懸濁培養が好ましい。細胞懸濁物は、細胞を維持し得る任意の容器(特に培養フラスコ、培養プレート、またはローラーボトル、およびより特定すると、小培養フラスコ(例えば、25cm培養フラスコ))中に播種される。懸濁液中で培養された細胞は、約5×10〜2×10細胞/ml、好ましくは、1×10細胞/mlで再懸濁される。固定基材上にプレートされた細胞は、約2〜3×10細胞/cm、好ましくは、2.5×10細胞/cmでプレートされる。
【0103】
解離された神経細胞は、細胞増殖を支持し得る任意の公知の培養培地(HEM、DMEM、RPMI、F−12などを含む)中に配され得る。この培養培地は、細胞代謝に必要とされる補充物(例えば、グルタミンおよび他のアミノ酸、ビタミン、無機質および有用なタンパク質(例えば、トランスフェリンなど))を含有する。神経細胞を培養するための方法は、公知である。米国特許5,980,885、5,851,832、5,753,506、5,750,376、5,654,183、5,589,376、5,981,165、および5,411,883(これらは全て、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。幹細胞の増殖のための好ましい実施形態は、所定の無血清培養培地(例えば、完全培地)を使用することである。これは、血清が分化を誘発する傾向にあり、そして未知の成分を含む(すなわち、未規定である)ためである。規定された培養培地はまた、細胞が移植目的で使用される場合に好ましい。特に好ましい培養培地は、DMEM、F12、および規定ホルモンおよび塩混合物の混合物を含む規定培養培地である。培養のための条件は、生理的条件に近接するべきである。培養培地のpHは、生理的pH、好ましくはpH6〜8間、より好ましくは、およそpH7〜7.8の間に近接すべきであり、pH7.4が最も好ましい。生理的温度は、約30℃〜40℃の間の範囲である。細胞は、好ましくは、約32℃と約38℃との間の温度で培養され、そしてより好ましくは、約35℃〜約37℃の間である。
【0104】
培養培地は、本発明の少なくとも1つの神経発生調整剤が補充される。哺乳動物CNSからインビトロで増殖される神経幹細胞子孫の数は、細胞培養物を本発明の神経発生調整因子と接触させることにより、劇的に増大され得るか、または維持され得る。幹細胞の増殖を増強するこの能力は、後に患者に移植し戻すために幹細胞が採集される場合、評価できないものであり、それにより、初期手術を、1)より外傷の少ないものとする(取り出さなければならない組織が少なくなるので);2)より効率的とする(手術当たりで、インビトロで増殖する幹細胞の収量が多くなるので);かつ3)より安全とする(培養時間の減少と共に、変異および新形成性転換の機会を減少させるので)。必要に応じて、患者の幹細胞は、一旦それらがインビトロで増殖した場合、また、以下に記載の技術を用いて、インビトロで遺伝的に改変され得る。インビトロでの遺伝子改変は、特定の環境では、遺伝物質での感染を超える制御が必要とされる場合、インビボでの遺伝子改変技術よりも望ましいものであり得る。
【0105】
増殖後、幹細胞子孫は、それらが必要とされるまで、当該分野で公知の任意の方法によって凍結保存され得る。本発明の好ましい実施形態では、細胞は、脳の側脳室壁領域に由来する。本発明の別の好ましい実施形態では、細胞は、CNSに由来するが、海馬には由来しない。
【0106】
(細胞分化:)
本発明には、インビトロで細胞(例えば、幹細胞または前駆細胞)増殖を増大または維持し、そして多数の分化細胞を得るために、開示された神経発生調整剤を使用する方法が包含される。細胞の分化は、当該分野で公知の任意の方法によって誘発され得る。好ましい方法では、分化は、細胞を、本発明の神経発生調整剤と接触させることにより誘発される。これは、成長および分化に至る生物学的事象のカスケードを活性化する。本発明において開示されるように、これらの事象は、細胞内cAMPおよびCa2+の上昇を包含する。
【0107】
細胞分化は、ニューロン、星状細胞、または希突起神経膠細胞に特異的な抗原に対する抗体を使用することによりモニタリングされ得、これは、当該分野で周知の免疫細胞化学技術によって決定され得る。多くのニューロン特異的マーカーが公知である。特に、ニューロンについての細胞マーカーには、NSE、NF、.beta−tub、MAP−2が含まれ;そして神経膠については、GFAP(星状細胞の同定因子)、ガラクトセレブロシド(GalC)(希突起神経膠細胞のミエリン糖脂質同定因子)などが含まれる。
【0108】
分化はまた、インサイチュハイブリダイゼーション組織化学によってモニタリングされ得、これはまた、ペプチド神経伝達因子または神経伝達因子合成酵素mRNAに特異的なcDNAまたはRNAプローブを用いて実施され得る。これらの技術は、特異的表現型の同定を増強するために、免疫細胞化学方法と組み合わせられ得る。必要であれば、さらなる分析が、ウェスタンまたはノーザンブロット手順によって実施され得る。
【0109】
ニューロンの同定のための好ましい方法は、免疫細胞化学を使用し、NSE、NF、NeuN、およびニューロン特異的タンパク質τ−1に対する免疫反応性を検出する。これらのマーカーは信頼性が高いので、それらは、ニューロンの最初の同定に有用であり続けるが、しかし、ニューロンはまた、前に記載されるように、それらの特異的な神経伝達因子表現型に基づいても同定され得る。I型星状細胞(これは、平坦な原形質/線維芽細胞様の形態を有する分化神経膠細胞である)は、好ましくは、GFAPに対するそれらの免疫反応性によって同定され、A2B5に対しては同定されない。II型星状細胞(これは、星型の突起を有する形状を示す分化神経膠細胞である)は、好ましくは、それらの表現型GFAP(+)、A2B5(+)表現型によって、免疫細胞化学を用いて同定される。
【0110】
(本発明の方法で処理された細胞の投与:)
本発明の方法を用いるインビトロ拡大および神経発生(これらの方法の詳細な説明については実施例の節を参照のこと)後、本発明の細胞は、任意の様式で得られる異常神経性症状または神経変性症状(機械的、化学的、または電解病変の結果として、神経領域の実験的吸引の結果として、または加齢過程の結果として得られるものを含む)を有する任意の動物に投与され得る。非ヒト動物モデルにおける特に好ましい病変は、6−ヒドロキシ−ドパミン(6−OHDA)、1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6テトラヒドロピリジン(MPTP)、イボテン酸などで得られる。
【0111】
本発明は、宿主に対して異種発生性である細胞(例えば、幹細胞または前駆細胞)の使用を可能にする。本発明の方法はこれらの細胞(実施例に示すような)に適用されて、使用前に培養中の神経幹細胞の総数または総パーセントを拡大する。CNSは幾分か免疫特権的な部位(immunoprivileged site)であるので、異種移植片に対する免疫応答は、身体の他の場所よりも有意に少ない。しかし、一般には、異種移植片が首尾よくいくためには、移植された組織に対する免疫応答を減少させるか、または排除するいくつかの方法を用いることが好ましい。従って、レシピエントは、免疫抑制薬(例えば、シクロスポリン)の使用によって、または局所適用される免疫抑制剤を用いる局所免疫抑制ストラテジーによってのいずれかで、しばしば免疫抑制される。局所免疫抑制は、Gruber,Transplantation54:1−11(1992)によって開示される。Rossiniの米国特許番号5,026,365は、局所免疫抑制に適したカプセル化方法を開示する。
【0112】
免疫抑制技術を用いる代替として、胚性幹細胞における相同組換えを用いる遺伝子置換またはノックアウトの方法(Smithiesら(Nature 317:230−234(1985)により教示され、そして細胞株における遺伝子置換またはノックアウトにまで拡張される(H.Zheng 35 al.,PNAS,88:8067−8071(1991)))が、主要組織適合複合体(MHC)遺伝子の切除のために前駆細胞に適用され得る。MHC発現を欠く細胞は、レシピエントを免疫抑制する必要なく、同種異系のおよびおそらく異種発生性のでも組織適合性障壁を越えて、富化された神経細胞集団を移植することを可能にする。ドナー細胞の抗原性を減少させる組換え方法の使用についての一般的な概説および引用もまた、Gruber(前出)によって開示される。表面修飾による移植物の免疫原性の減少に対する例示的なアプローチは、Faustman WO 92/04033(1992)によって開示される。あるいは、移植片の免疫原性は、MHC抗原が変化または欠失したトランスジェニック動物から前駆細胞を調製することにより、減少され得る。
【0113】
レシピエントに対して同種異系である組織から調製された細胞の移植は、レシピエントの組織適合性タイプに最も密に適合させようとして、組織タイピングを最も頻繁に用いる。ドナー細胞齢ならびにレシピエントの齢が、ニューロン移植片生存の確率を改善することにおいて重要な要因であることが実証されている。移植の効率は、ドナー細胞の齢の増大と共に減少される。さらに、移植片は、齢が高いレシピエントに比較して若いレシピエントによって、より容易に受容される。これら2つの要因は、ニューロン移植片生存にとってと同様に、神経膠移植片生存にとっても重要であると考えられる。いくつかの場合、レシピエント自身の神経系から細胞を調製することが可能であり得る(例えば、腫瘍除去生検の場合など)。このような場合、細胞は、解離した組織から生成され得、そして上記の方法を用いてインビトロで増殖され得る。細胞数の適切な拡大に際して、細胞は採集され得、必要であれば遺伝的に改変され得、そしてレシピエントのCNSへの直接注射のために準備され得る。
【0114】
移植は、両側で、またはパーキンソン病罹患患者の場合、最も罹患した部位に対して反対側で、なされ得る。手術は、特定脳領域が、特に定位誘導装置を用いて、例えば、頭蓋縫合に関して、置かれるようにして実施される。細胞は、任意の罹患神経領域中に、特に、脳幹神経節に対して、および好ましくは、尾状核および被殻、基底核、または黒質に対して、送達される。細胞は、脳の周囲領域の完全性を維持する任意の方法を用いて、好ましくは、カニューレ注入によって、特定領域に投与される。DuncanらJ.Neurocytology,17:351−361(1988)によって使用された方法によって例示され、そしてヒトにおける使用のためにスケールアップされ改変された注射方法が、好ましい。CNSへの細胞懸濁液(例えば、線維芽細胞)の注射についてGageら(前出)によって教示された方法はまた、神経前駆細胞の注射のために用いられ得る。さらなるアプローチおよび方法が、Neural Grafting in the Mammalian CNS(1985)BjorklundおよびStenevi編において見い出され得る。
【0115】
神経組織の固体組織フラグメントおよび細胞懸濁液は全体として免疫原性であるが、移植片内の個々の細胞型それ自体は、より弱い程度で免疫原性である可能性がある。例えば、Bartlettら(Prog.Brain Res.82:153−160(1990))は、MHC発現に基づいて免疫ビーズ分離の使用により、胚性神経上皮細胞の亜集団を移植について事前選択することによって、神経同種異系移植片拒絶を廃止した。このように、免疫抑制技術を使用することなく、レシピエントによる同種異系移植片および異種移植片の拒絶の機会を減少させる別のアプローチが、提供される。
【0116】
細胞は、特定ニューロン領域に投与される場合、好ましくは、神経移植片を形成し、ここでは、ニューロン細胞が、近隣ニューロンと正常なニューロンまたはシナプス連結を形成し、そして移植されたまたは現存の神経膠細胞との接触を維持し、これは、ニューロンの軸索の周囲のミエリン鞘を形成し得、そしてニューロンに対して栄養影響を提供し得る。これらの移植細胞が連結を形成するので、それらは、疾患および加齢に起因して損傷されたニューロン網を再樹立する。
【0117】
生存している宿主における移植片の生存は、種々の非侵襲性走査(例えば、コンピューター体軸断層撮影(CAT走査またはCT走査)、核磁気共鳴または磁気共鳴画像法(NMRまたはMRI)、またはより好ましくは陽電子断層撮影法(PET)走査)を用いて調べられ得る。移植片生存の死後検査は、神経組織を取り出し、そして肉眼でまたはより好ましくは顕微鏡を用いて罹患領域を調べることにより、なされ得る。細胞は、光学顕微鏡または電子顕微鏡条件下で可視の任意の染料を用いて、より特定すると、ニューロンおよび神経膠に対して特異的である染料を用いて、染色され得る。特に有用なのは、ニューロン細胞表面マーカーを同定するモノクローナル抗体(例えば、マウスニューロンを同定するM6抗体)である。最も好ましいのは、任意の神経伝達因子を同定する抗体(特に、GABA、TH、ChAT、およびサブスタンスPに対して指向される抗体および神経伝達因子の合成に関与する酵素(特に、GAD)に対して指向される抗体)である。移植細胞はまた、トレーサー染料(例えば、ローダミンまたはフルオレセイン標識マイクロスフェア、ファーストブルー(fast blue)、ビスベンズアミド)またはレトロウイルス導入組織化学マーカー(例えば、βガラクトシダーゼを生成するlacZ遺伝子)を事前に取り込むことにより同定され得る。
【0118】
宿主の神経組織への移植片の機能的組み込みは、種々の機能の回復に対する移植片の有効性を調べることにより評価され得、このような検査には、内分泌物、運動、認識および感覚機能についての検査が含まれるが、これらに限定されない。使用され得る運動検査には、脳の変質した側から消失した回転運動を定量する検査、および運動の緩慢、平衡、協調、運動不能または運動欠乏、硬直および振せんを定量する検査が含まれる。認識検査には、日常作業を実施する能力の種々の検査、ならびに種々の記憶検査(迷路動作検査を含む)が含まれる。
【0119】
本明細書中で詳細に記載するように、脱髄疾患を処置するために、上記手順を用いて、細胞(例えば、幹細胞または前駆細胞)が生成および移植され得る。本発明の細胞が処置を提供し得るヒト脱髄疾患には、以下が含まれる:播種性静脈周囲脳脊髄炎、MS(シャルコー型およびマルブルグ型)、視神経脊髄炎、同心性硬化症、急性播種性脳脊髄炎(acute,disseminated encephalomyelitides)、後脳脊髄炎(post encephalomyelitis)、ワクチン後脳脊髄炎、急性出血性白質脳症、進行性多病巣性白質脳症、特発性多発性神経炎、ジフテリア性ニューロパシー、ペリツェーウス‐メルツバッヒャー病、視神経脊髄炎、広汎性脳硬化症、橋中央ミエリン溶解(central pontine myelinosis)、海綿状白質萎縮、および白質萎縮(アレクサンダー型)。
【0120】
ヒトにおける脱髄の領域は、一般に、プラーク様構造と関連している。プラークは、磁気共鳴画像法によって可視化され得る。接近可能なプラークは、本発明の神経幹細胞子孫の注射のための標的領域であるか、または本発明の方法によって調製される。標準的な定位神経手術法が、脳および脊髄の両方に細胞懸濁液を注射するために使用される。一般に、細胞は、上記で論じた供給源のいずれからも得られ得る。しかし、ミエリン形成細胞が軸索を髄鞘形成する能力に直接作用する遺伝的基盤を有する脱髄疾患の場合、同種異系組織が、細胞の好ましい供給源である。なぜなら、自己組織(すなわち、レシピエントの細胞)は、病変が続かないように何らかの方法で細胞が改変されている(例えば、脱髄病変を治癒するように細胞を遺伝的に改変する)のでない限り、一般に有用ではないからである。
【0121】
インビトロで増殖および分化した細胞に由来した希突起神経膠細胞が、レシピエントの脱髄標的領域に注射され得る。適切量のI型星状細胞もまた、注射され得る。I型星状細胞は、PDGFを分泌することが公知であり、このPDGFは、希突起神経膠細胞の移動および細胞分裂の両方を促進する(例えば、Nobelら,Nature 333:560−652(1988);Richardsonら,Cell,53:309−319(1988)を参照のこと)。
【0122】
脱髄疾患の好ましい処置は、未分化細胞(例えば、幹細胞または前駆細胞)を使用する。本発明の方法を用いて増殖したニューロスフィアが、個々の細胞を得るように解離され得、次いで注射媒質中に配され、そして脱髄標的領域に直接注射される。細胞は、インビボで分化する。星状細胞は、種々のパラダイムで再髄鞘形成を促進し得る。従って、希突起神経膠細胞増殖が重要である場合、前駆細胞がI型星状細胞を生じる能力が有用であり得る。他の状況では、PDGFが、移植の間に、ならびにその後の重要部位への反復投与と共に、局部的に適用され得る。
【0123】
脱髄標的に対して近傍の細胞の移植に関する任意の適切な方法が、細胞が脱髄軸策と結合されるようになるように用いられ得る。神経膠細胞は、運動性であり、そしてそれらのニューロン標的に、標的に沿って、および標的を横切って移動し、それにより、注射の間隔を空けることを可能にすることが公知である。細胞の注射による再髄鞘形成は、広範な脱髄状態において有用な治療因子である。また、いくつかの状況では、細胞による再髄鞘形成は、永久再髄鞘形成を生じず、反復した注射または手術が必要とされることを心に留め置かれるべきである。このような治療アプローチは、この状態を未処置のままにしておく以上の利点を与え、そしてレシピエントの命を助け得る。
【0124】
本発明の神経発生調整剤の投与を包含する本開示の方法の全て。投与は、公知の経路(本明細書中に記載の経路を含む)を使用し得る。非限定的な例として、1つ以上の神経発生調整剤が、経口で、または注射によって投与され得る。用語「注射」は、本願を通して、当該分野で公知の全ての注射の形態を包含し、少なくとも、より一般的に記載される注射の方法(例えば、皮下注射、腹腔内注射、筋内注射、脳室内注射、実質内注射、髄腔内注射、および頭蓋内注射)を包含する。投与が注射以外の手段による場合、全ての公知の手段が企図され、このような手段には、頬粘膜、鼻粘膜、または直腸粘膜を介することによる投与が含まれる。一般に知られる送達システムには、取り込みを増強するペプチド融合による、またはミセルまたはリポソーム送達システムを介することによる投与が含まれる。
【0125】
本発明の方法は、神経性疾患の動物モデルにおいて試験され得る。多くのこのようなモデルが存在する。例えば、それらは、Alan A Boulton,Glen B Baker,Roger F Butterworth「Animal Models of Neurological Disease」Humana Press(1992)およびAlan A Boulton,Glen B Baker,Roger F Butterworth「Animal Models of Neurological Disease II」Blackwell Publishing(2000)中に列挙される。また、以下の疾患についてのマウスモデルは、市販供給業者(例えば、Jackson Laboratory)から購入され得る:アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アンゲルマン症候群、星状細胞欠陥、運動失調(運動)欠陥、行動欠陥および学習欠陥、小脳欠陥、チャネル欠陥および伝達因子欠陥、概日リズム、皮質欠陥、癲癇、脆弱X精神遅滞症候群、ハンティングトン病、代謝欠陥、髄鞘形成欠陥、神経管欠陥、神経変性、神経発達欠陥、神経筋欠陥、神経科学変異誘発機関系統(Neuroscience Mutagenesis Facility Strain)、神経伝達因子レセプター欠陥およびシナプス小胞欠陥、神経栄養因子欠陥、パーキンソン病、レセプター欠陥、カテコールアミンに対する応答、振せん、振せん欠陥、および前庭欠陥および聴力欠陥。(例えば、http://jaxmice.jax.org/jaxmicedb/html/sbmodel 13.shtmlを参照のこと;100系統を超える神経性疾患マウスモデルが、http://jaxmice.jax.org/jaxmicedb/html/mode1_13.shtml中に列挙される)。神経性疾患のラットモデルは、多数であり、例えば、近年の概説中に見い出され得る(例えば、Cenci,WhishawおよびSchallert,Nat Rev Neurosci.2002 Jul ;3(7):574−9を参照のこと)。本開示を読んだ当業者は、インビボで効力を決定するための動物試験モデルを設計するために、本開示の結果を使用し得る。また、実施例13を参照のこと。
【0126】
神経性疾患の動物モデルには、少なくとも以下のマウス系統が含まれる:

【表C】


他の動物モデルは、異なる遺伝的バックグラウンドであることを除いて、上記系統と同じ変異を含む系統を含む。
【0127】
別の例として、本開示の神経発生調整剤は、回復を実証するために、CNS疾患/障害/外傷の以下の動物モデルにおいて試験され得る。癲癇のモデルには、少なくとも、電気ショック誘発痙攣(Billington Aら,Neuroreport 2000 Nov 27;11(17):3817−22)、ペンチレンテトラゾール(Gamaniel Kら,Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 1989 Feb;35(2):63−8)またはカイニン酸(Riban Vら,Neuroscience 2002;112(1):101−11)誘発痙攣が含まれる。精神病/精神分裂病のモデルには、少なくとも、アンフェタミン誘発常同症/歩行運動(Borison RLおよびDiamond BI,Biol Psychiatry 1978 Apr;13(2):217−25)、MK−801誘発常同症(Tiedtkeら,J Neural Transm Gen Sect 1990;81(3):173−82)、MAM(メチルアゾキシメタノール誘発(Fiore Mら,Neuropharmacology 1999 Jun;38(6):857−69;Talamini LMら,Brain Res 1999 Nov 13;847(1):105−20)またはリーラーモデル(Ballmaier Mら,Eur J Neurosci 2002 Apr;15(17):1197−205)が含まれる。パーキンソン病のモデルには、少なくとも、MPTP(SchmidtおよびFerger,J Neural Transm 2001;108(11):1263−82)、6−OHドパミン(O’DellおよびMarshall,Neuroreport 1996 Nov 4;7(15−17):2457−61)誘発変性が含まれる。アルツハイマー病のモデルには、少なくとも、脳弓(fimbria fornix)病変モデル(Krugelら,Int J Dev Neurosci 2001 Jun;19(3):263−77)、基底前脳病変モデル(Moyse Eら,Brain Res 1993Apr 2 ;607(1−2):154−60)が含まれる。脳卒中のモデルには、少なくとも、局所虚血(Focal ischemia)(Schwartz DAら,Brain Res Mol Brain Res 2002 May 30;101(1−2):12−22);全脳虚血(2血管または4血管閉塞)(Roof RLら,Stroke 2001 Nov;32(11):2648−57;Yagita Yら,Stroke 2001 Aug;32(8):1890−6)が含まれる。多発性硬化症のモデルには、少なくとも、ミエリン希突起神経膠細胞糖タンパク質誘発実験的自己免疫性脳脊髄炎(Slavin Aら,Autoimmunity 1998;28(2):109−20)が含まれる。筋萎縮性側索硬化症のモデルには、少なくとも、pmnマウスモデル(Kennel Pら,J Neurol Sci 2000 Nov 1;180(1−2):55−61)が含まれる。不安のモデルには、少なくとも、高架式迷路試験(Holmes Aら,Behav Neurosci 2001 Oct;115(5):1129−44)、大理石埋め試験(marble burying test)(Broekkampら,Eur J Pharmacol 1986 Jul 31;126(3):223−9)、オープンフィールド試験(Pelleymounterら,J Pharmacol Exp Ther 2002 Ju1 ;302(1):145−52)が含まれる。抑うつのモデルには、少なくとも、学習性無力試験、強制水泳試験(Shirayama Yら,J Neurosci 2002 Apr 15;22(8):3251−61)、嗅球切除(bulbectomy)(O’Connor ら,Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 1988;12(1):41−51)が含まれる。学習/記憶についてのモデルには、少なくとも、モリス水迷路試験(Schenk FおよびMorris RG,Exp Brain Res 1985;58(1):11−28)が含まれる。ハンティングトン病についてのモデルには、少なくとも、キノリン酸注射(Marco Sら,J Neurobiol 2002 Mar;50(4):323−32)、トランスジェニック/ノックイン(Menalled LBおよびChesselet MF,Trends Pharmacol Sci.2002 Jan;23(1):32−9中に概説)が含まれる。加齢動物のモデルには少なくとも、高年齢動物(例えば、高年齢マウスおよび高年齢ラット)の使用が含まれる。
【0128】
本願中に列挙されるか、または言及されるGPCRは、成体幹細胞/前駆体(特にaNSC/前駆体)の特定の集団についてのマーカーとして有用であるか、または診断剤として働き得る。これらのGPCRまたはそれらの対応するmRNAと相互作用する薬理学的に活性な化合物(mRNAノックダウンのための薬剤を含む)は、成体幹細胞/前駆体の増殖、分化、生存、または移動を調整し得、そして変性性または精神医学/神経学の疾患、外傷、または損傷のための治療剤として働き得る。インビトロで、それらは、移植について所望の細胞型を選択するマーカーとして使用され得る。本願で言及された化合物またはレセプターは、幹細胞増殖、分化、生存、および移動に関する新規な薬物および療法の発見において有用なツールである。
【0129】
本発明の他の特徴は、本発明の例証のために示されるのであって、それらの制限であることが意図されない、例示的な実施形態の以下の説明のうちに明らかになる。引用される全ての参考文献、特許、および特許出願は、本明細書によって、それらの全体が参考として援用される。
【実施例】
【0130】
(実施例)
特に示さない限り、全ての実験は、標準的な分子生物学技術を用いて実施した。そして、これはまた、同時係属中の米国出願10/429,062(2003年5月2日出願)中にも記載される。
【0131】
(実施例1:試薬)
組織の解離のための化学物質は、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、およびDNase(全てSIGMAから購入)を含んだ。培地(DMEM 4.5mg/mlグルコース、およびDMEM/F12)、B27補充物、およびトリプシン/EDTAをGIBCOから購入した。全てのプラスチック製品をCorningCostarから購入した。細胞培養のためのEGFをBD Biosciencesから購入し、そしてATP−SLキットを BioThemaから購入した。
【0132】
試験物質について、ライブラリーを、Phoenix pharmaceuticals Inc,USA,variety Pack Peptide Library(#L−001)から購入した。Sigma−Aldrichから購入した化合物は、フォルスコリン(#F6886)、ロリプラム(#R6520)、n−6,2−o−ジブチリルアデノシン(#D0260)、コレラ毒素(#C8052)、MECA(#A024)、HE−NECA(#H8034)、ノル−ビナルトルフィミン(#N1771)、および副腎皮質刺激ホルモン(#A0298)を含んだ。
【0133】
(実施例2:マウスニューロスフィア培養)
5〜6週齢のマウスの側脳室の前外側壁を、4.5mg/mlグルコースおよび80ユニット/ml DNaseを含有するDMEM中0.8mg/mlヒアルロニダーゼおよび0.5mg/mlトリプシンで、37℃で20分間、酵素解離した。細胞を穏やかに粉砕し、そしてニューロスフィア培地(DMEM/F12、B27補充物、12.5mM HEPES pH7.4)、100ユニット/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンと混合した。70μmストレーナーに通した後、細胞を200×gで4分間、ペレット化した。続いて上清を除去し、そして細胞を、3nM EGFを補充したニューロスフィア培地中で再懸濁した。細胞を培養皿中に広げ、そして37℃でインキュベートした。ニューロスフィアは、プレーティングしてからおよそ7日後に、分割できる準備ができた。
【0134】
ニューロスフィア培養物を分割するために、ニューロスフィアを、200×gで4分間の遠心分離によって採集した。ニューロスフィアをHBSS(1×)中の0.5mlトリプシン/EDTA中で再懸濁し、37℃で2分間インキュベートし、そして解離を助けるために穏やかに粉砕した。さらに3分の37℃でのインキュベーションおよび粉砕後、細胞を220×gで4分間ペレット化した。細胞を、3nM EGFおよび1nM bFGFを補充した、新たに調製したニューロスフィア培地中で再懸濁した。細胞を広げ、37℃でインキュベートした。
【0135】
(実施例3:ATPアッセイ)
増殖を決定するために、ニューロスフィアを分割し、そして96ウェルプレート中で単一細胞としてニューロスフィア培地に10,000細胞/ウェルで播種した。細胞が異なるアッセイに対して使用され得るように、以下の実験を4つの平行実験のセットで実施した(すなわち、4連で実施した)。試験されるべき物質を添加し、そして細胞を37℃で4日間インキュベートした。細胞をTris−EDTA緩衝液中0.1% Triton−X100で溶解した。細胞内ATPを、製造者の指示書(BioThema,Sweden)に従ってATP−SLキットを用いて測定した。細胞内ATPは、細胞数と相関することが示された。各実験について、ウェルを、神経発生の徴候について視覚検査し、そして計数して、アッセイの結果を確認した。結果は反復性であり、そして統計学的に有意であった。
【0136】
(実施例4:cAMP検出法)
cAMPレベルにおける評価を試験するために、HitHunter EFC Cyclic AMP Chemiluminescence Assay Kitを使用した(DiscoveRx,USA)(これは、Applied Biosystemsから購入した)。細胞を、先に記載したようにして解離した。次いで、cAMPレベルの再現可能な測定を可能にするように、細胞を、30,000細胞/ウェルで、非接着ニューロスフィア培養物として播種した。これら細胞を、試験物質の添加前2時間の間、静置した。静置期間後、1mM IBMX(3イソブチル−1−メチル−キサンチン,Sigma)を各ウェルに添加し、37℃で10分間インキュベートした(製造者の指示書に従って)。試験物質を37℃で20分間インキュベートし、その後細胞を溶解し、そしてcAMPを測定した。各物質を3つの用量(100、10、または1nM)で試験し、各用量を4連で試験した。cAMPをキットの指示書に従って測定し、そして結果は、pmol/ウェルとして表した。スチューデントのt検定を使用して、有意性について算定した。
【0137】
(実施例5:NFAT応答エレメントレポーターシステムを用いるCa2+測定)
Ca2+レベルにおける評価を、ルシフェラーゼレポーターと共役した活性化T細胞核因子(NFAT)応答エレメントをコードするベクター構築物を用いて決定した。NFATは、Ca2+依存性様式で調節されることが、以前に報告された(Raoら,1997)。ルシフェラーゼシグナルを、Staedy−Gloキット(Promega)で検出した。細胞を解離した後(上記のように)、4〜6×10細胞を250×gで4分間遠心分離した。上清を捨て、そして細胞を100μl NucleofectorTM Solution(Amaxa GmbH)および10μg NFAT−LucベクターDNA(10細胞当たり)中に再懸濁した。懸濁液をキュベットに移し、そしてエレクトロポレートした。トランスフェクトした細胞を、50,000細胞/ウェルで非接着ニューロスフィア培養物として播種した。細胞を一晩静置した。その後、試験物質と接触させる。各物質を3〜4用量(100、15、または1.5、0.15nM)で試験し、各用量を4連で試験した。ルシフェラーゼを、誘発後18〜24時間で、製造者の指示書に従って測定した。結果を、未処理コントロールに比較した誘発倍数として表した。スチューデントのt検定を使用して、未処理コントロールに比較した有意性を算定した。
【0138】
(実施例6:cDNAライブラリーおよび発現分析)
LVW cDNAライブラリーのために、RNAを、成体マウス(C57 black)の前外側脳室から単離した。オリゴdT−プライムしたcDNAライブラリーを、標準的な手順(Superscript One−Step RT−PCR with platimum Taq,Invitrogen)を用いて生成し、次いで配列分析に供した(9000配列)。ニューロスフィアcDNAライブラリーのために、RNAを、成体マウス(C57 black)の前外側脳室壁由来の第二世代ニューロスフィアから単離し、そして増殖因子EGFおよびFGF2を用いて拡大した。オリゴdT−プライムした標準化したcDNAライブラリーを、標準的な手順(Superscript One−Step RT−PCR with platimum Taq,Invitrogen)を用いて生成し、次いで配列分析に供した(12500配列)。
【0139】
(成体ヒト神経幹細胞(aHNSC)培養物)
側脳室の前外側壁からの生検を、成人患者から採取し、そして4.5mg/mlグルコースを含有するDMEM中でPDD(パパイン2.5U/ml;ジスパーゼ(Dispase)1U/ml ;Dnase I 250U/ml)中で、37℃で20分間、酵素解離した。細胞を穏やかに粉砕し、そしてDMEM/F12;10%ウシ胎児血清(FBS)の3容量と混合した。細胞を250×gで5分間ペレット化した。続いて上清を除去し、そして細胞を、DMEM F12(10% FBSを有する)中で再懸濁し、フィブロネクチンコーティングした培養皿中に広げ、そして5% CO中で37℃でインキュベートした。翌日、培養物の拡大を、aHNSC培養培地(DMEM/F12;BIT 9500;EGF 20ng/ml;FGF2 20ng/ml)に培地を変更して開始させた。aHNSCを、標準条件下でトリプシンおよびEDTAを用いて分割した。続いてFBSを添加して、反応を阻害し、そして細胞を250×gで5分間の遠心分離によって採集した。aHNSCをaHNSC培養培地中に再プレーティングした。
【0140】
(RT−PCR)
培養物aHNSCを採取し、そして総RNAを、RNeasy mini kit(Qiagen)を手引きに従って用いて抽出した。
【0141】
以下の遺伝子についてのプライマー対(以下の表を参照のこと)を、aHNSC中のそれらの存在を同定するために、設計および合成した。
【表D】

関心のある遺伝子のmRNAを検出するプライマーを用いて、ワンステップRT−PCR(Life Technologies)を実施した。
【0142】
陽性コントロールとして、遺伝子Flt−1についてのプライマーを使用した。遺伝子Flt−1は、aHNSCにおいて発現されることが公知である。
【0143】
陰性コントロールとして、Flt−1遺伝子についてのプライマーを使用し、そしてTaq酵素単独を添加して、その材料にゲノム混入がないことを確実にした。
【0144】
PCR産物を、臭化エチジウムを含有する1.5%アガロースゲル上で泳動した。正確なサイズのバンドを切り出し、Qiagenのゲル抽出キットでクリーンにした。配列決定用の材料の量を増大させるために、バンドを、それらの対応するプライマーを用いて再度増幅し、その後配列決定して、それらの同一性を確認した。
【0145】
(実施例7:CREBリン酸化アッセイ)
簡潔には、NSCを、上記のようにして、単一細胞懸濁液に分割した。懸濁液を、10細胞/ウェルの密度でポリD−リジンでコーティングした6ウェルプレート中にプレーティングした。細胞を、1%のウシ胎児血清(FBS)を補充した培地中でインキュベートし、そして一晩接着させた。翌朝、培地を、新鮮なDMEM/F12と注意深く取替え、そして100nM PACAPまたは100nMコレラ毒素をこの培地に添加した。CREBリン酸化を、PACAP処理後15分および4時間の時点で、およびコレラ毒素処理後15分、4時間、6時間、および8時間の時点で決定した。細胞溶解物を採集し、そしてウェスタンブロット分析を標準的な手順(Patroneら,1999)に従って実施した。特異的抗ホスホ−CREB抗体(1:1000希釈;Upstate Biotechnology)を使用した。
【0146】
(実施例8:フローサイトメトリー分析)
細胞を、上記のようにして単一細胞懸濁液に分割した。細胞を、10細胞/ウェルの密度でポリD−リジンでコーティングした6ウェルプレート中にプレーティングした。この後、1%FBSを培地に添加し、そして細胞を一晩接着させた。翌朝、培地を、新鮮なDMEM/F12と注意深く取替え、そして試験物質を、予め決定した最終濃度に添加した。細胞を、これら物質の存在下で、4日間増殖させた。インキュベーション期間の中間点で、全培地の変更を実施した。細胞を、37℃で5分間のトリプシン/EDTAとのインキュベーションおよび1000μlピペットでの穏やかなフラッシュによって採取した。細胞をフラッシュし、そして250×gで4分間、500μl培地と共に遠心分離した。
【0147】
この後、2×10細胞をミニ遠心分離管に移し、ペレット化した。このペレットを50μl固定緩衝液(Caltag)中で注意深く再懸濁し、そして室温(RT)で15分間インキュベートした。次に、450μlのPBSを管に添加した。細胞を200×gで5分間遠心分離し、そして上清を除去した。細胞を100μl透過緩衝液(Caltag)中に再懸濁し、そして室温で20分間、一次抗体を添加した(ダブルコルチン1:200、Santa Cruz)。細胞を、上記のようにして洗浄し、そして100μl PBS(FITC抗ヤギIgG,1:500,Vector Laboratories)中に希釈した二次抗体中に再懸濁した。細胞を、室温で20分間、暗所にてインキュベートした。その後、細胞を上記のようにして洗浄し、100μl PBS中に再懸濁し、そしてFACS分析に適した管に移した。
【0148】
FACS分析のために、細胞をFACSCalibur(Becton Dickinson)で分析した。488nmでのアルゴンイオンレーザーによって、個々の細胞からの蛍光シグナルを励起させ、そして各細胞から得られた蛍光放出を、530±30で設定した帯域フィルタを用いて収集した。Cell Quest Pro捕捉分析ソフトウェアを用いて、蛍光シグナル強度、ならびに細胞の前方および側方散乱特性を収集した。また、このソフトウェアを用いて、生存細胞と死細胞との間、ならびに陽性細胞と陰性細胞との間を区別するように設計された論理的電子ゲーティングパラメーターを設定した。サンプル当たり全部で10,000の細胞を分析した。
【0149】
(実施例9:cAMPレベルがニューロン幹細胞増殖に相関する)
この調査の目標は、cAMPおよびCa2+が、成体ニューロン幹細胞における増殖の重要な調節因子であるかどうかを決定することであった。この実験は、多数の試験物質を分析し、そのほとんどがGPCRを介してcAMPおよび/またはCa2+を調節した。これらの実験の結果は、以下を示した:1)cAMPレベルが、マウス神経幹細胞増殖と相関した;2)細胞内Ca2+刺激は、マウス神経幹細胞増殖と相関した;および3)成体マウス幹細胞は、任意のニューロン細胞(表現型)に対して分化するそれらの能力を保持する;4)成体マウスおよびヒト神経幹細胞はcAMP刺激に対して類似の再現性のある応答を示した。
【0150】
cAMP経路が増殖を引き起こすかどうかを決定するために、成体神経幹細胞を、cAMP細胞活性化因子の多様なセットとのインキュベーションによって、インビトロで刺激した(表1、第1欄)。これらの研究の結果は、神経幹細胞におけるcAMPの誘発が、細胞増殖を生じることを明確に示している(表1、第2欄〜第6欄)。インビトロで増殖した成体マウス幹細胞は、GPCRリガンドの化学ライブラリーに属するいくつかの化合物での処理後、増殖することが誘発された(実施例1;表2、第1欄)。種々の処理の15分後に、cAMPレベルを測定した(表2、第5欄〜第6欄)。ATPレベル(細胞数の尺度)を、処理の4日後に測定した(表2、第3欄〜第4欄)。結果は、分析した全ての物質において、増殖(ATPレベル)とcAMP誘発との間の明確な相関を示す。表1および表2に列挙したリガンドに対するGPCRを、表3、第1欄〜第3欄中に示す。GPCRの発現データは、マウスニューロスフィアおよび側脳室cDNAライブラリーから得た(表3、第4欄〜第5欄)。
【0151】
【表1】

表1は、cAMP化学活性化因子での成体神経幹細胞処理後のATPレベル(細胞数を反映する)およびcAMPレベルを示す。試験物質を、成体マウス幹細胞培養物に、示した用量で添加し、そして15分後、cAMPレベルを測定した。ATPレベルを、培養の4日後に測定した。誘発倍数を、ビヒクル処理細胞に比較することにより決定した。データは、定型実験における4連試験の平均±SD値として表した。代表値を、2つの別個の実験に基づいて算定した。,P<0.05;**,P<0.005;***,P<0.001(スチューデントのt検定)。n.s.=有意でない。
【0152】
【表2】





表2は、ATPレベル(細胞数を反映する)およびcAMPレベルを示す。試験物質を、成体マウス幹細胞培養物に、示した用量で添加した。4日後、ATPおよびcAMPの値をアッセイした。誘発倍数を、ビヒクル処理細胞に比較することにより決定した。データは、定型実験における4連試験の平均±SD値として表した。代表値は、2つの別個の実験に基づいた。,P<0.05;**,P<0.005;***,P<0.001(スチューデントのt検定)。n.s.=有意でない。より低い濃度で有意である。
【0153】
【表3】



表3は、GPCRが、成体マウスおよび/またはヒト幹細胞培養物において発現されることが見い出されたことを示す。マウス細胞または組織における遺伝子発現は、cDNAライブラリー分析によって決定し、そしてヒト発現は、RT−PCRを用いて決定した。
【0154】
細胞内cAMPのエンハンサーとして以前には同定されなかった多数の化合物を、神経発生の刺激について試験した。この試験は以下を決定するために使用した:1)任意の機構によって神経発生を刺激し得るさらなる化合物が存在するか;および2)細胞内cAMPを増大させることにより神経発生を刺激し得るさらなる化合物が存在するか。驚くべきことに、これらの化合物のいくつかが、それらが以前には細胞内cAMPレベルを増大させることが知られていなかったとしても、神経発生を刺激することが見いだされた。スクリーニングされた化合物は、以下を含んだ:(Des−Arg9Leu8)−ブラジキニン、(Des−Arg9)−ブラジキニン、α−ネオエンドルフィン、CART(61−102)、DTLET、エレドイシン、ウロテンシンII、[Nle8,18,Tyr34]−副甲状腺ホルモン(1−34)アミド、および[Cys3,6,Tyr8,Pro9]−サブスタンスP(表2を参照のこと)。本発明者らが文献を検討したところ、これらの特性(細胞内cAMPの上昇および神経発生の誘発)は、以前には知られていなかったことが明らかになった。
【0155】
神経発生の徴候についてウェルの視覚検査を行う実験を繰り返し、以前のアッセイの結果を確認した。結果は反復性であった。この視覚分析は、本発明者らの以前の所見を確認し、そして以前の所見に反駁するものは何も示さなかった。
【0156】
(実施例10:Ca2+レベルがニューロン幹細胞増殖に相関する)
GPCRリガンドに応答した細胞内Ca2+増大の際の増殖が、インビトロで増殖した成体マウス幹細胞においてアップレギュレートされることを示すために、細胞を、多数の試験物質で処理した(表4、第1欄)。Ca2+を、活性化T細胞遺伝子核因子(NFAT;実施例5)の調節を介して測定した。結果は、ATPレベル(表4、第3欄〜第4欄)とNFATアップレギュレーション(表4、第5欄〜第6欄)との間の明確な相関を示した。このことは、Ca2+レベルが、神経幹細胞増殖と強く相関することを示す。分析したリガンドに対してCa2+を引き起こすGPCR(表5、第1欄〜第3欄)は、分析した2つのcDNAライブラリー中に存在することが見いだされた(実施例6;表5、第4欄〜第5欄)。表3および表5(第6欄)は、RT−PCR分析を用いてヒト幹細胞材料において同定されたGPCRを示す。これは、成体マウス幹細胞における本発明者らの知見を裏づけ、Ca2+の活性化もまた、ヒト幹細胞においてGPCR媒介増殖を引き起こすのに重要であることを示唆する。
【0157】
【表4】


表4:成体マウスニューロン幹細胞を、NFAT−ルシフェラーゼ構築物で一過的にトランスフェクトし、そして示した用量の試験物質で誘発した。細胞を誘発の24時間後に分析した。NFAT−ルシフェラーゼ活性およびATPを分析した。誘発倍数を、ビヒクル処理細胞に比較することにより決定した。データは、定型実験における4連試験の平均±SD値として表した。代表値は、2つの別個の実験に基づいた。,<0.05;**,P<0.005;***,P<0.001(スチューデントのt検定)。n.s.=有意でない。より低い濃度で有意である。
【0158】
【表5】


(実施例11:cAMP刺激に対するヒトおよびマウス幹細胞応答)
上記の実験は、cAMPの細胞内誘発が増殖性マウス成体神経幹細胞で生じることを示唆する。これらの所見の関連性をさらに調べるため、ヒトおよびマウス系において、cAMP経路を研究した。CREBリン酸化がcAMP活性化経路における周知の下流エフェクターであるため(LonzeおよびGinty,2002)、この転写因子のリン酸化状態を、時間経過実験で調べた。2つのcAMP活性化因子のPACAPおよびコレラ毒素を用いた(実施例7)。PACAPおよびコレラ毒素を成体ヒトニューロン幹細胞および成体マウスニューロン幹細胞に添加した。ウェスタンブロット分析は、ヒトニューロン幹細胞におけるように、マウスにおいて同様のアップレギュレーションを示した(図1)。この結果は、両系におけるCREBリン酸化のパターンが、再現可能な様式でPACAPおよびコレラ毒素に対して応答していることを明確に実証している(図1)。これは、マウス幹細胞とヒト幹細胞とが、cAMP細胞誘発後、同様に応答することを示唆する。リガンドがマウスaNSC中で増殖性であることが示されたGPCRはまた、ヒトaNSCにも存在した(表3、第6欄)。
【0159】
(実施例12:成体神経幹細胞はGPCR増殖刺激後にそれらのニューロン潜在能を保持する)
増殖する成体神経幹細胞がGPCRリガンド処理後にそれらのニューロン潜在能を保持したかどうかを理解するために、初期ニューロンマーカーダブルコルチンの発現を決定する分析を実施した。神経幹細胞をいくつかのGPCRリガンドで4日間処理した。フローサイトメトリー分析を、初期ニューロンマーカーダブルコルチンに対する抗体を用いて細胞に対して実施した。表6中に示すように、分析した全てのGPCRリガンド処理細胞が、培養の4日後、ダブルコルチンを発現し続けた(実施例8もまた参照のこと)。これは、リガンド処理成体NSCがなお、ニューロン表現型に分化し得ることを示した。
【0160】
【表6】


表6:GPCRリガンドにより増殖された細胞は、ニューロン表現型に成熟するそれらの潜在能を維持するか、または増大した。
【0161】
これらの結果とPACAPに対する以前の研究(例えば、米国特許出願番号60/377,734(2002年5月3日出願);米国特許出願番号06/393,264(2002年7月2日出願);米国特許出願番号10/429,062(2003年5月2日出願);Mercerら,J.Neurosci.Res.,(印刷中)を参照のこと)とはまとめて、cAMPまたはCa2+のレベルを増大させる化合物(例えば、天然リガンド、低分子量化学実体、アフィニティタンパク質など)が、インビトロおよびインビボで成体神経幹細胞の増殖を刺激し得ることを示す。いくつかの場合、この刺激は、GPCRによって媒介され得る。さらに、cAMP上昇単独(すなわち、GPCR独立様式で)が、神経幹細胞の増殖における増大を惹起し得る。この増大は、以下を含む種々のcAMP活性化因子で観察された:1)cAMP−誘導体(例えば、N−6,2−O−ジブチリルアデノシン);2)cAMPホスホジエステラーゼのインヒビター(例えば、3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)およびロリプラム);3)アデニル酸シクラーゼ活性化因子(例えば、フォルスコリン);および4)刺激性Gタンパク質(Gs)のαサブユニットのADP−リボシル化を上昇させる化合物(例えば、コレラ毒素)。コレラ毒素および関連化合物は、GTPase活性を減少し、そしてαサブユニットを活性化することにより作用すると考えられる。これは、アデニル酸シクラーゼの活性の増大に至り、cAMPのレベル増大を生じる。さらに、本明細書中に示されるように、GPCRによって作用し、そして細胞内Ca2+含有量を増大させるいくつかのリガンドはまた、神経発生(細胞増殖を含む)を促進するにも有効である。
【0162】
これらの実験は、cAMPまたはCa2+活性化が、異なる生理学的または病理学的状態において成体神経幹細胞/前駆細胞の増殖、分化、生存、または移動を調整する、治療アプローチにおいて使用され得ることを示す。本明細書中に記載の種々の化合物(例えば、GPCRリガンド)は、異なる細胞特異性および運命プロフィールを呈示し得、このことは、それらを、異なる生理学的状態および病理学的状態に適するようにする。重要なことに、成体神経幹細胞は、GPCRリガンド処理後にそれらのニューロン潜在能を保持した。これらの所見はまとめて、cAMPおよび/またはCa2+の細胞内上昇によって神経発生を刺激するための広範な治療化合物を示している。
【0163】
(実施例13 前駆細胞増殖)
神経発生調整剤を、0.01〜100mg/kgの種々の濃度で、成体試験動物(n=12)に腹腔内投与する。生理食塩水を陰性コントロールとして与える。神経発生調整剤投与後2時間から始めて、ブロモデオキシウリジン(BrdU;各50mg/kg)を3時間間隔で4回、腹腔内注射によって動物に注射する。動物を、神経発生調整剤投与後1、2、または3日後、あるいは1、2、3、または4週後に灌流させる。1日より多くの間研究する動物については、BrdUをミニポンプによって投与する。
【0164】
灌流中、動物に50mlの氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)および次いで、100mlの4%パラホルムアルデヒド(PBS中)を経噴門(transcardially)で灌流させる。脳を4%パラホルムアルデヒド(PBS中)中で4℃で24時間除去した後、切片化前少なくとも3日間固定する。切片を、凍結ミクロトームを用いて調製し、そしてBrdUについて免疫染色する前、−20℃で凍結防止剤中で貯蔵する。
【0165】
切片は、ビオチン化ヤギ抗マウスIgGと一対でマウス抗BrdUでBrdUについて免疫染色する。アビジン−ビオチン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体を切片に適用し、そしてこのHRPとジアミノベンジジンを反応させることにより.免疫反応性を可視化する。標準的な技術を使用して、各切片中および脳の各領域中のBrdU陽性細胞の総数を概算する。
【0166】
増殖性脳領域、移動流、および臨床関連領域(これらの領域のいくつか(しかし全部ではない)を以下に例示する)について、分析および定量を実施する。これらの分析は、DAB(ジアミンベンジジン)、または以下の抗体の1つまたはいくつかを用いる蛍光可視化によって実施する:ニューロンマーカーとして、NeuN、Tuj1、抗チロシンヒドロキシラーゼ、抗MAP−2など;神経膠マーカーとして、抗GFAP、抗S100など;希突起神経膠細胞マーカーとして、抗GalC、抗PLPなど。BrdU可視化のために:抗BrdU。定量は、立体解析定量を用いて脳の全領域において実施する。特に、以下の領域は、特に関心が高い:背側海馬歯状回、背側海馬CA1/白板、嗅球(OB)、脳室下帯(SVZ)、および線条。共焦点顕微鏡での二重染色の定量は、あらゆる構造(例えば、OB、DG、CA1/白板、SVZ、壁−線条)について実施し、系統マーカーでの二重染色についてBrdU+をチェックする。
【0167】
ここに列挙していない他の実験詳細は、当業者に公知であり、そして例えば、Pencea Vら,J.Neurosci Sept 1 (2001),21(17):6706−17において見い出され得る。
【0168】
実験は、野生型動物ならびに神経性疾患の動物モデルを用いて実施する。このようなモデルは、詳細な説明の節で列挙している。1つの好ましい動物はマウスである。
【0169】
本発明の他の特徴は、本発明の例証のために示されるのであって、それらの制限であることが意図されない、例示的な実施形態の以下の説明のうちに明らかになる。本明細書を通して、種々の特許、公開特許、GenBank DNAおよびタンパク質配列、および科学参考文献を、当該分野の状態および内容を記載するために引用する。これらの開示内容は、それらの全体が、本明細書によって、参考として本明細書中に援用される。
【0170】
参考文献
【0171】
【表7】



【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下の方法などが提供される:
(項目1)
中枢神経系障害の少なくとも1つの症状を示す患者の神経組織において神経発生を調整するための方法であって、該中枢神経系障害は、神経変性障害、虚血性障害、神経性外傷、ならびに学習障害および記憶障害からなる群から選択され、該方法は、該組織における細胞内cAMPレベルを上昇させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程であって、ここで該薬剤は、該患者において神経発生を調整する、工程を包含し、それにより該患者の該神経組織における神経発生を調整する、方法。
(項目2)
前記薬剤が、以下からなる群から選択される、項目1に記載の方法:cAMPアナログ、cAMP特異的ホスホジエステラーゼのインヒビター、アデニル酸シクラーゼ活性化因子、および刺激性Gタンパク質のADPリボシル化の活性化因子。
(項目3)
前記cAMPアナログが、以下からなる群から選択される、項目2に記載の方法:8−pCPT−2−O−Me−cAMP、8−Br−cAMP、Rp−cAMPS、8−Cl−cAMP、ジブチリルcAMP、pCPT−cAMP、およびN6−モノブチリルアデノシン3’,5’−サイクリック一リン酸。
(項目4)
cAMP特異的ホスホジエステラーゼの前記インヒビターが、以下からなる群から選択される、項目2に記載の方法:テオフィリン、2,6−ジヒドロキシ−1,3−ジメチルプリン;1,3−ジメチルキサンチン)、カフェイン、ケルセチン二水和物、4−(3−ブトキシ−4−メトキシベンジル)イミダゾリジン−2−オン、プロペントフィリン、3−メチル−1−(5−オキソヘキシル)−7−プロピルキサンチン)、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、IBMX、;3−イソブチル−1−メチル−2,6(1H,3H)−プリンジオン、1−メチル−3−イソブチルキサンチン、8−メトキシメチル−3−イソブチル−1−メチルキサンチン、エノキシモン、塩酸パパベリン、カルミダゾリウム塩化物、イミダゾリウム塩化物、1−[ビス(4−クロロフェニル)メチル]−3−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(2,4−ジクロロベンジルオキシ)エチル]−1H−イミダゾリウム塩化物、SKF 94836、神経ペプチドYフラグメント22−36、アミノフィリン水和物、ブテイン、塩酸パパベリン、塩酸エタゾラート、トリフルオペラジンジヒドロクロライド、およびミルリノン。
(項目5)
前記アデニル酸シクラーゼ活性化因子が、フォルスコリンである、項目2に記載の方法。
(項目6)
刺激性Gタンパク質のADPリボシル化の前記活性化因子が、百日咳毒素およびコレラ毒素からなる群から選択される、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記薬剤が、以下からなる群から選択される、項目1に記載の方法:副腎皮質刺激ホルモン、エンドセリン−1、MECA、HE−NECA、[Cys3,6,Tyr8,Pro9]−サブスタンスP、[D−Arg0、Hyp3,Igl5,D−Igl7,Oic8]−ブラジキニン、アドレノメジュリン、[Des−Arg9,Leu8]−ブラジキニン、[Des−Arg9]−ブラジキニン、[D−Pen2−5]−エンケファリン、[D−pGlul,D−Phe2,D−Trp3,6]−LH−RH、アドレノメジュリン(26−52)、アドレノメジュリン(22−52)、a−ネオ−エンドルフィン、b−MSH、a−MSH、サイロカルシトニン、カルシトニン、CART(61−102)□、コレシストキニンオクタペプチド[CCK(26−33)]、DTLET、DDAVP、エレドイシン、g−MSH、a−ニューロキニン、PACAP−38、β−ANP、ガラニン(1−13)−スパンタイド−アミド,M40、[Sar9,Met(0)11]−サブスタンスP、サラホトキシンS6a、サラホトキシンS6b、サラホトキシンS6c、[Nle8,18,Tyr34]−副甲状腺ホルモン(1−34)アミド、ACTH、グルカゴン様ペプチド−1(7−37)、エキセンディン−3、エキセンディン−4、ウロテンシンII、血管作動性腸管ペプチド、ノル−ビナルトルフィミン、およびアグーチ関連タンパク質(87−132)−アミド。
(項目8)
前記薬剤が、以下からなる群から選択される、項目1に記載の方法:メタンスルホン酸フェノルドパム、塩酸ドパミン、塩酸アポモルフィン、リン酸ヒスタミン、ACTH、コハク酸スマトリプタン、プロスタグランジンF2αトロメタミン、プロスタグランジンE1、プロスタグランジンI2、イロプロストトロメタミン、プロスタグランジンE2、ミソプロストール、サルプロストン、ATP二ナトリウム塩、ピンドロール、セクレチン、シサプリド、メタンスルホン酸フェントールアミン、ネモナプリド、クロザピン、セルチンドール、オランザピン、リスペリドン、スルピリド、レボスルプリド、クロルプロマジン、塩酸クロルプロマジン、ハロペリドール、ドンペリドン、フルフェナジンジヒドロクロライド/デカノエート/エナンテート、フルフェナジンジヒドロクロライド/デカノエート、フルフェナジンジヒドロクロライド、ATP(アデノシン三リン酸)、ATP(アデノシン三リン酸)二ナトリウム塩、ケタンセリン、酒石酸ケタンセリン(ketanserin tartare)、メテルゴリン、ピンドロール、塩酸プラゾシン、ヨヒンビン、塩酸ヨヒンビン、テオフィリン、カフェイン、テオブロミン、アミノフィリン、アムリノン、ミルリノン、ナルトレキソン、ナロキソン、アルブテロール、レバルブテロール、メタプロテレノール、テルブタリン、ピルブテロール、サルメテロール、ビトルテロール、コルテロール、ドブタミン、8L−アルギニン−バソプレシン、8−リジン−バソプレシン、デスモプレシン、メチルドパ、DOPA、ラウウォルシン、プラゾシン、フェントラミン、キニジン、ダピプラゾール、ロキシグルミド、絨毛性ゴナドトロピン、ホリトロピン−α、ホリトロピン−β(FSH)、メノトロピン(LH、FSH)、オキシトシン、ソマトスタチンアンタゴニスト、RMP−7、ACEインヒビター(カプトプリルのような)、ミソプロストール、ラタノスプロスト、PGE1、アルプロスタジル、ソマトロピン(GH、PRL)分泌促進剤(MK−677)、タビモレリン(NN−703、パモレリン、NNC−26−0323、TRH、コシントロピン、コルチコレリン、グルカゴン、腸グルカゴン、PTH 1−34、コカイン、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、メタンフェタミン、フェンメトラジン、メチルフェニデート、ジエチルプロピオン、メチロシン、レセルピン、ミノキシジル、スルファサラジン、レバミゾール、およびサリドマイドおよびフルオライド。
(項目9)
前記神経系障害が、以下からなる群から選択される、項目1に記載の方法:パーキンソン病およびパーキンソン症候群障害、ハンティングトン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、シャイ−ドレーガー症候群、進行性核上性麻痺、レヴィー小体疾患、脊髄虚血、虚血性脳卒中、脳梗塞、脊髄損傷、および癌関連の脳損傷および脊髄損傷、多発梗塞性痴呆、および老年性痴呆。
(項目10)
神経発生を調整する工程が、前記神経組織における神経幹細胞または神経前駆細胞の増殖、分化、移動、または生存を調整する、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記薬剤が、前記組織の細胞内cAMPレベルを、該薬剤の投与されない組織に比較して20%上回るように上昇させる、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記薬剤が、前記患者の中枢神経系に投与される、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記薬剤が、以下からなる群から選択される経路によって投与される、項目1に記載の方法:経口投与、皮下投与、腹腔内投与、筋内投与、脳室内投与、実質内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、経頬投与、粘膜投与、経鼻投与、および直腸投与。
(項目14)
前記薬剤が、リポソーム送達システムによって投与される、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記神経発生が、前記神経組織中のダブルコルチン陽性細胞の量または割合を、前記薬剤が投与されない患者に対して維持するか、または増大させることを包含する、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記神経発生を調整する工程が、前記神経組織中のGPCRレセプターの活性化によって実施される、項目1に記載の方法。
(項目17)
中枢神経系障害の少なくとも1つの症状を示す患者の神経組織において神経発生を調整するための方法であって、該中枢神経系障害は、神経変性障害、虚血性障害、神経性外傷、ならびに学習障害および記憶障害からなる群から選択され、該方法は、該組織における細胞内Ca2+レベルを上昇させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程であって、ここで該薬剤は、該患者において神経発生を誘発する、工程を包含し、それにより該患者の該神経組織における細胞の神経発生を調整する、方法。
(項目18)
前記薬剤が、以下からなる群から選択される、項目17に記載の方法:アミリンレセプターアンタゴニスト/カルシトニン(8−32)、ANP、CGRP(8−37)、エンドセリン−1、g−MSH、成長ホルモン放出因子、MGOP 27、PACAP−38、サラホトキシンS6a、サラホトキシンS6b、サラホトキシンS6c、セプチド、ソマトスタチン−28、コレラ菌(Viblio Cholerae)由来コレラ毒素、アンギオテンシンII、[D−Pen2−5]−エンケファリン、アドレノメジュリン、エンドセリン−1。
(項目19)
前記神経系障害が、以下からなる群から選択される、項目17に記載の方法:パーキンソン病およびパーキンソン症候群障害、ハンティングトン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、シャイ−ドレーガー症候群、進行性核上性麻痺、レヴィー小体疾患、脊髄虚血、虚血性脳卒中、脳梗塞、脊髄損傷、および癌関連の脳損傷および脊髄損傷、多発梗塞性痴呆、および老年性痴呆。
(項目20)
神経発生を調整する工程が、前記神経組織における神経幹細胞または神経前駆細胞の増殖、分化、移動、または生存を調整する、項目17に記載の方法。
(項目21)
前記薬剤が、前記患者の中枢神経系に投与される、項目17に記載の方法。
(項目22)
前記薬剤が、0.0001nM〜50nMの組織濃度を達成するように投与される、項目17に記載の方法。
(項目23)
前記薬剤が、以下からなる群から選択される経路によって投与される、項目17に記載の方法:経口投与、皮下投与、腹腔内投与、筋内投与、脳室内投与、実質内投与、髄腔内投与、頭蓋内投与、経頬投与、粘膜投与、経鼻投与、および直腸投与。
(項目24)
前記薬剤が、リポソーム送達システムによって投与される、項目17に記載の方法。
(項目25)
前記神経発生が、前記患者の神経組織中のダブルコルチン陽性細胞の量または割合を、前記薬剤が投与されない患者に対して増大させるか、または維持することを包含する、項目17に記載の方法。
(項目26)
細胞におけるcAMPの細胞内レベルを増大させるための方法であって、該細胞を、有効量の薬剤と接触させる工程を包含し、ここで該薬剤が、(Des−Arg9,Leu8)−ブラジキニン、(Des−Arg9)−ブラジキニン、α−ネオエンドルフィン、CART(61−102)、DTLET、エレドイシン、ウロテンシンII、[Nle8,18, Tyr34]−副甲状腺ホルモン(1−34)アミド、[Cys3,6,Tyr8,Pro9]−サブスタンスP、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、それにより、該細胞におけるcAMPの細胞内レベルが増大される、方法。
(項目27)
患者の細胞における細胞内cAMPを刺激するための方法であって、該患者に、有効量の薬剤を投与する工程を包含し、ここで該薬剤が、(Des−Arg9,Leu8)−ブラジキニン、(Des−Arg9)−ブラジキニン、α−ネオエンドルフィン、CART(61−102)、DTLET、エレドイシン、ウロテンシンII、[Nle8,18,Tyr34]−副甲状腺ホルモン(1−34)アミド、[Cys3,6,Tyr8,Pro9]−サブスタンスP、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、それにより、該細胞におけるcAMPの細胞内レベルが増大される、方法。
(項目28)
前記細胞が、神経組織由来の細胞である、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記細胞が、神経幹細胞または神経前駆細胞である、項目27に記載の方法。
(項目30)
前記有効量の薬剤が、前記神経組織における神経発生を調整する、項目27に記載の方法。
(項目31)
前記神経組織におけるダブルコルチン陽性細胞の量または割合を増大させる、項目27に記載の方法。
(項目32)
インビトロで神経発生を調整するための方法であって、以下の工程:
a)神経幹細胞を含む神経細胞の集団を培養する工程;
b)該培養された細胞に、少なくとも1つの神経発生調整剤を添加する工程;
c)所望レベルの神経発生が達成されるまで、工程bを繰り返す工程
を包含する、方法。
(項目33)
工程(b)が、前記神経幹細胞の細胞内cAMPレベルを、少なくとも20%上昇させる、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記幹細胞が、以下からなる群から選択される組織から単離される、項目32に記載の方法:皮質、嗅結節、網膜、中隔、外側神経節隆起、内側神経節隆起、扁桃、海馬、視床、視床下部、腹側中脳および背側中脳、脳幹、小脳、脊髄。
(項目35)
前記幹細胞が、哺乳動物から単離される、項目32に記載の方法。
(項目36)
前記神経発生が、前記神経細胞集団中のダブルコルチン陽性細胞の量または割合を増大させるか、または維持することを包含する、項目32に記載の方法。
(項目37)
前記哺乳動物が、ヒトである、項目35に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
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【公開番号】特開2010−195841(P2010−195841A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139986(P2010−139986)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【分割の表示】特願2004−553032(P2004−553032)の分割
【原出願日】平成15年11月20日(2003.11.20)
【出願人】(505077792)ニューロノバ エービー (5)
【出願人】(505185167)
【出願人】(505185178)
【出願人】(505185189)
【出願人】(505185190)
【出願人】(505185204)
【出願人】(505185215)
【出願人】(505185226)
【出願人】(505185237)
【出願人】(505185248)
【出願人】(505185259)
【出願人】(505185260)
【出願人】(505185271)
【出願人】(505185282)
【出願人】(505185293)
【出願人】(505185307)
【出願人】(505185318)
【出願人】(505185329)
【出願人】(505185330)
【出願人】(505185341)
【Fターム(参考)】