説明

神経細胞の生存および発生

幹細胞または神経細胞におけるNurr1により上方調節される遺伝子またはNurr1により下方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を調節することにより、該細胞の生存、成熟および/または分化を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞、およびドーパミン作動性ニューロンにおける、生存、分化、成熟および/または領域特異的ニューロン細胞運命の獲得を促進するための材料および方法、ならびにそのような方法における使用にとって好適な物質を同定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2番目に最も一般的なヒト神経変性障害であるパーキンソン病(PD)は、主に中脳ドーパミン合成ニューロンの選択的および進行的変性の結果生じる。以前、ヒト胎児中脳組織が、陽性の結果を有するパーキンソン病患者に移植されたが、そのような手法には実用的および倫理的困難性が存在する。特に、埋め込まれた非自己組織は制限された生存能力を有し、免疫系により拒絶される場合がある。さらに、それぞれの胎児は少数の細胞を供給するに過ぎない。
【0003】
機能的ドーパミン作動性(DA)ニューロンを生成するように操作された幹細胞の移植に基づく細胞置換戦略は、最近、PD患者の治療にとって希望を与えた。幹細胞、前駆細胞は、それらを増殖させ、特異的ニューロン表現型を担うように指示することができるため、移植治療のための理想的な材料である。これらの細胞は、移植のためのヒト胎児組織の使用を取り巻く倫理的および実用的問題を回避することができる。これらの細胞の別の用途は、薬剤試験およびヒト疾患において用いられる分子の毒性スクリーニングである。ドーパミン作動性ニューロンに分化するように導かれたヒト幹細胞を、所望の効果および/または有害作用について薬剤を試験するために用いることができる。特に、ドーパミン作動性ニューロンは、ドーパミン作動性ニューロンに対して機能するか、または統合失調症、鬱病、パーキンソン病、および他の運動障害などのドーパミン作動性ニューロンに影響する疾患において用いられる薬剤を試験するための理想的な道具であるであろう。
【0004】
胚性神経幹細胞および多能性幹細胞は、ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトなどの神経細胞系列に分化する能力を有する。さらに、幹細胞を単離し、増殖させ、脳移植片のための資源材料として用いることができる(Snyderら、1992;Rosenthal、1998;Bainら、1995;Gageら、1995;Okabeら、1996;Weissら、1996;Snyderら、1996;Martinez-Serranoら、1997;McKay、1997;Deaconら、1998;Studerら、1998;BjorklundおよびLindvall、2000;Brustleら、1999;Leeら、2000;Shuldinerら、2000および2001;Reubinoffら、2000および2001;Tropepeら、2001;Zhangら、2001;PriceおよびWilliams、2001;Arenas、2002;Bjorklundら、2002;RossiおよびCattaneo、2002;Gottliebら、2002)。
【0005】
核受容体関連-1(Nurr1)を用いるマウス神経幹細胞および胚性幹(ES)細胞の遺伝子操作により、DAニューロンが富化された細胞集団を作製するのに成功した(Wagnerら、1999;Chungら、2002;Kimら、2002)。
【0006】
Nurr1は、発生中および成体の腹側中脳(VM)において高度に発現される甲状腺ホルモン/レチノイン酸核受容体スーパーファミリーの転写因子である(Zetterstromら、1996a)。この脳領域においては、転写因子Nurr1はドーパミン作動性細胞前駆体によりE10.5で、すなわち、in vivoではチロシンヒドロキシラーゼ陽性(TH+)ニューロンの誕生の前に発現され、適切なドーパミン作動性ニューロン分化にとって必要である(Zetterstromら、1997;Saucedo-Cardenasら、1998;Castilloら、1998)。さらに、Nurr1-ヌル(null)マウスにおいては、中脳TH+ニューロンは生まれず、その領域では細胞は胎生期18.5日でアポトーシスにより死ぬ(Zetterstromら、1997;Wallenら、1999)。DAニューロンの喪失の増加が、Nurr1+/-マウスにおいて観察される(Leら、1999)。
【0007】
本発明者らは以前に、Nurr1の過剰発現が、c17.2神経幹細胞系のニューロン分化を誘導し、これらの細胞が胎児/新生児中脳アストロサイトとの同時培養に際してドーパミン作動性運命を採用することを証明した(Wagnerら、1999およびWO00/66713)。これらの約束されたニューロンの大多数は、胎児/新生児中脳アストロサイトとの同時培養の際にドーパミン作動性運命を採用する。この機能に加えて、Nurr1は成体のニューロンにおいても発現され、虚血(Neumann-Haefelinら、1994;Linら、1996;Lawら、1992;Johansonら、2000;Honkaniemiら、1996)および発作(Crispinoら、1998)などの様々な型の脳損傷により調節される。
【0008】
また、本発明者らは以前に、Nurr1を発現する細胞のニューロン表現型の誘導の増強において、Wnt因子が有用であることも示した。特に、本発明者らは、ドーパミン作動性前駆細胞および/または幹細胞の増殖および成熟の促進においてはWnt-1が最も効率的であり、Wnt-3aはドーパミン作動性前駆細胞および/または幹細胞の増殖および/または自己再生を促進し、神経幹細胞、前駆細胞におけるドーパミン作動性表現型の誘導、およびニューロン細胞におけるドーパミン作動的誘導または分化の増強においてはWnt-5aが最も効率的であることを見出した。例えば、WO2004/029229を参照されたい。
【0009】
また、Castelo-Brancoら(2003) PNAS, 100: 12747-52; Wallenら(2003) Genes and Development, 17: 3036-47; Timmerら(2004) Neurobiology of Disease, 17(2): 163-70; Castelo-Brancoら(2004) Journal of Cell Science, 117: 5731-7; Schulteら(2005) Journal of Neurochemistry, 92: 1550-3; Bergmanら(2005) J Neurochem., 93(5): 1132-40; Shariatmadariら(2005) Molecular and Cellular Neuroscience, 30(3): 437-51; Castelo-Branco (2006) Molecular and Cellular Neuroscience, 31: 251-262; Prakashら(2006) Development, 133(1): 89-98; Rawalら(2006) Experimental Cell Research(印刷中)も参照されたい。
【0010】
本発明者らは以前に、VM中のグリア細胞により産生される因子が、領域特異的ニューロン表現型の誘導、分化および維持にとって必要であることを示唆した(Hallら、2003)。
【発明の開示】
【0011】
本発明者らは本明細書において、Nurr1が、約束されたニューロン前駆体への多能性幹細胞の移行およびニューロン生存の促進に、分子レベルで関与することを示す。本発明者らは、Nurr1が、細胞に固有の分泌される生存シグナルを調節することにより細胞生存を促進することを見出し、Nurr1により上方調節され(例えば、表1を参照)、抑制/下方調節される(例えば、表2を参照)いくつかの遺伝子を同定した。Nurr1は、領域的同一性の提供およびニューロン分化の促進に関与する遺伝子を上方調節することが観察された。逆に、Nurr1は、幹細胞状態の増殖、維持および他の細胞型への分化に関与する遺伝子を下方調節する。また、Nurr1は、生存に関与する遺伝子を上方調節し、細胞死に関与する遺伝子を抑制し、酸化ストレスに対するNurr1発現細胞の生存能力および耐性の増加をもたらすことも見出された。Nurr1、および従ってNurr1により上方調節される遺伝子は、少なくとも部分的には、生存および領域特異的分化を促進するグリア細胞からのシグナルに応答する能力を細胞に付与するのを担うかもしれない。
【0012】
Nurr1の下流の遺伝子および/またはタンパク質の調節は、細胞の生存、成熟および/または分化などのNurr1が関与する細胞プロセスに影響し得る。
【0013】
さらに、本発明者らは本明細書において、いくつかのケモカインが神経細胞の増殖、分化および/または生存を増加させることを示す。
【0014】
本発明者らの結果は、in vitroでの中脳DAニューロンの大規模産生ならびにパーキンソン病の治療(BjorklundおよびLindvall 2000; PriceおよびWilliams 2001; Arenas, 2002;RossiおよびCattaneo 2002; Gottliebら、2002)、およびまた神経細胞の増殖、生存、分化および/または成熟を促進し、かくして、in vivoでのDAニューロンの生成を可能にする因子の投与によるパーキンソン病および同様の疾患の治療における幹細胞置換戦略の将来の実施に道を開いた。
【0015】
WO2006/024947において、本発明者らは、Frizzled受容体のリガンド以外により細胞内のGSK-3β阻害を調節することによる、ドーパミンニューロンの産生の増強に関する方法および材料を記載した。
【0016】
PCT/IB2005/003996は、dickkopfおよび神経発生に関連する材料および方法、特に、神経幹細胞、胚性幹細胞、前駆細胞において、該細胞におけるDkkリガンド/受容体ポリペプチドのレベルおよび/または活性を調節することにより、増殖、自己再生、ドーパミン作動性神経伝達、発達、誘導、生存、分化および/または成熟を増強することによって、ドーパミン作動性ニューロン発達を誘導もしくは促進する方法を記載している。
【0017】
本発明は、幹細胞および神経細胞の生存、増殖、分化および/または成熟を促進することを含む、幹細胞および神経細胞を処理する方法を提供する。この方法をex vivoまたはin vitro(例えば、培養物中)で行って、例えば、個体における神経変性疾患またはニューロン喪失の治療のための細胞を作製することができる。次いで、処理された細胞を該個体の脳に埋め込むことができる。幹細胞または神経細胞を処理する方法をin vivoで行って、個体の脳においてin situで細胞を処理することができる。本発明はまた、そのような方法における使用のための材料(物質または組成物)、およびそのような材料をスクリーニングするための方法も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書で用いられる用語「神経細胞」は、神経系の細胞を意味する。通常、神経細胞は、神経幹細胞、神経前駆細胞、またはニューロンである。用語「ニューロン」および「ニューロン細胞」は互換的に用いられる。
【0019】
本発明は特に、ドーパミン作動性ニューロン、および成体幹細胞もしくは胚性幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞、特に、Msx1、lmx1a、lmx1b、Foxa2、Raldh1もしくは2型アルデヒドデヒドロゲナーゼ、Otx2、Pax2、wnt1、wnt-5a、dkk2、sox2、ngn2、RC2、engrailed1、nurr1、pitx3などのVMに特徴的なマーカーの組合せを発現する細胞などのドーパミン作動性ニューロンに発達することができる細胞に関する。
【0020】
本発明の方法は特に、本発明のいくつかの実施形態において使用し、処理することができる神経細胞および幹細胞の処理に関する。幹細胞を、in vitro、ex vivoまたはin vivoで本発明の方法により処理することができる。
【0021】
「幹細胞」は、自己再生することができ、それがES細胞である場合、個体において全ての細胞を生じることができるか、またはそれが多能性幹細胞もしくは神経幹細胞である場合、ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトなどの神経系における全ての細胞型を生じることができる任意の細胞型を意味する。幹細胞は、以下のマーカー:Oct-4;Nanog、Pou5f1 (Chewら、Molecular & Cellular Biology 2005. 25(14): 6031-6046)、Sox1-3;段階特異的胚抗原(SSEA-1、-3、および-4)、記載のような腫瘍拒絶抗原TRA-1-60および-1-81 (Tropepeら、2001;Xuら、2001)のうちの1種以上を発現し得る。神経幹細胞は、以下のマーカー:ネスチン(Nestin); p75ニューロトロフィン受容体;Notch1、SSEA-1 (CapelaおよびTemple、2002)のうちの1種以上を発現し得る。
【0022】
「神経前駆細胞」とは、神経幹細胞と比較して、より分化した表現型および/またはより低下した分化能力を有する、該幹細胞の娘細胞または子孫細胞を意味する。前駆細胞とは、発生の間はニューロンと直接的な系列関係にあるか、またはないが、規定の環境条件下では、ニューロン表現型に分化形質転換するか、または再分化するか、またはそれを獲得するように誘導することができる任意の他の細胞を意味する。好ましい実施形態においては、幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞は、自然発生的に、または分裂促進因子(例えば、bFGF、EGFもしくは血清)の欠乏の際にチロシンヒドロキシラーゼを発現しないか、またはそれを効率的に発現しない。
【0023】
本発明の好ましい実施形態においては、幹細胞または神経細胞は、1型アストロサイト/グリア細胞との同時培養物中にあってもよく、またはin vitroもしくはin vivoでそれらから誘導されたそのような細胞もしくは因子と接触させることができる。その因子を、不死化されたアストロサイト/グリア細胞により供給するか、またはそれから誘導することができる。該因子を、グリア細胞系、例えば、アストロサイトもしくは放射状グリア細胞もしくは未熟なグリア中脳細胞系により供給するか、またはそれらから誘導することができる。細胞系は、均質な細胞集団を提供する。
【0024】
幹細胞、神経幹細胞または神経前駆細胞もしくは前駆細胞を、骨髄、皮膚、眼、鼻上皮、もしくは臍帯、または例えば、小脳、脳室帯、脳室下帯、線条体、中脳、後脳、大脳皮質もしくは海馬に由来する神経系の領域などの任意の胚組織、胎児組織もしくは成体組織から取得するか、またはそれから誘導することができる。それを、例えば、ヒトまたはウサギ、モルモット、ラット、マウスもしくは他のげっ歯類、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、もしくは霊長類などの非ヒトであってよい哺乳動物、またはカエルもしくはサンショウウオなどの両生類、またはニワトリなどの鳥類に由来する脊椎動物から取得するか、またはそれから誘導することができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態においては、成体幹細胞/前駆細胞を、in vitro、ex vivoまたはin vivoで用いる。これには、同意する成人(例えば、該細胞を取得する成人)および適切な倫理委員会による認可が必要である。ヒト胚/胎児を起源として用いる場合、ヒト胚は、使用しなければ破壊されるであろう胚、または無期限に保存される、特に、妊娠が困難なカップルのためのIVF治療の目的のために作製されたヒト胚である。IVFは一般的には、埋込みおよび究極的には妊娠に用いられる数よりも多い数のヒト胚の作製を含む。一般的には、そのような予備の胚を破壊してもよい。関係のある人々、特に、関連する卵のドナーおよび/または精子のドナーからの適切な同意があれば、さもなければ破壊されるであろう胚を、パーキンソン病などの重篤な神経変性障害の患者の利益に対して倫理的に肯定的な方法において用いることができる。本発明自体は、発生の任意の段階にあるヒト胚の使用に関しない。留意されるように、本発明は、恐ろしい疾患のための価値ある治療の開発を可能にしながら、ヒト胚から直接誘導された材料を用いる必要性を最小化する。
【0026】
いくつかの好ましい実施形態においては、本発明の任意の態様に従って処理および/もしくは使用された幹細胞または前駆細胞を、同意する成人もしくは適切な同意が与えられる子供、例えば、内因性DAニューロンの発達もしくは機能を促進するために本発明に従って作製および/もしくは処理されたニューロンの患者への戻し移植により続いて治療される障害を有する患者から取得する。
【0027】
本発明の方法を介して取得することができる、DAニューロンが富化された細胞調製物を、パーキンソン病もしくは他の障害における細胞置換治療のために、ならびにDAニューロンにおけるシグナル伝達事象および例えば、高効率スクリーニングのためのin vitroでのDAニューロンに対する薬剤の効果を研究するために用いることができる。
【0028】
本発明は、様々な態様において、Nurr1により調節される遺伝子および/またはその発現されるタンパク質を調節するために幹細胞または神経細胞を処理する方法を提供する。
【0029】
本発明は、幹細胞または神経細胞の生存、成熟および/または分化を促進する方法であって、
(a)該細胞中でNurr1により上方調節される遺伝子(例えば、表1に列挙されたタンパク質)によりコードされたタンパク質の活性を調節する、例えば、増加させること、および/または
(b)該細胞中でNurr1により下方調節される遺伝子(例えば、表2に列挙されたタンパク質)の活性を調節する、例えば、減少させること、
を含む前記方法を提供する。
【0030】
好ましい実施形態においては、活性が増加したタンパク質を、表3に列挙された1個以上のタンパク質から選択する。好ましくは、前記方法は、RDC1活性を増加させることを含む。別の好ましい実施形態においては、該方法は、Engrailed 1および/またはRunx2の活性を増加させることを含む。
【0031】
表1または3に列挙された1個以上のタンパク質の活性を、必要に応じて、表2に列挙された1個以上のタンパク質の活性を低下させることと組み合わせて増加させることができる。かくして、上記方法においては、工程(a)もしくは(b)のいずれかまたは両方が存在してもよい。工程(a)および(b)を一緒に、または連続的に、(a)に次いで(b)、または(b)に次いで(a)を行ってもよい。
【0032】
タンパク質活性を調節する方法は、当業者には公知であり、本発明においては任意の好適な方法を用いることができる。
【0033】
タンパク質活性を、そのタンパク質をコードする天然のゲノム遺伝子の発現を増加させることにより増加させることができる。タンパク質活性を、基底レベルを超えて、そのタンパク質をコードする天然ゲノム遺伝子を発現させることにより増加させることができる。発現されたmRNAもしくはコードされたタンパク質の分解を阻害もしくは防止することにより、または該遺伝子の転写および/もしくは翻訳を増加させることにより、ならびに/または異種調節配列を、該遺伝子の天然の調節領域中に、もしくはその近くに導入することにより、ならびに/または該遺伝子の天然の調節領域を、例えば、相同組換えにより、そのような異種調節配列と置換することにより、ならびに/または該遺伝子の転写、翻訳もしくは機能を負に調節し、阻害するか、もしくは下方調節する分子を破壊するか、もしくは下方調節することにより、これを行うことができる。
【0034】
転写活性化因子のレベルが増加した細胞を、例えば、該細胞とそのような活性化因子とを接触させることによるか、または該活性化因子をコードする核酸を用いて該細胞を形質転換することにより提供することによって、転写を増加させることができる。あるいは、該細胞を、前記遺伝子の転写阻害因子に対するアンチセンス核酸を用いて形質転換することにより、転写を増加させることができる。
【0035】
また、タンパク質自体を標的化すること、例えば、該タンパク質の分解を減少させること、前記細胞と該タンパク質の活性化因子とを接触させること、もしくは内因性活性化因子の活性を増加させること、および/または該タンパク質の阻害因子の活性を阻害することによって、タンパク質活性を増加させることもできる。
【0036】
また、前記タンパク質をコードする核酸を前記細胞中に導入し、該細胞中での該核酸の発現を引き起こすか、または該細胞中で該核酸を発現させることにより、タンパク質活性を増加させることもできる。導入された核酸は、DNAまたはRNA(例えば、mRNAもしくはcDNA)であってよい。
【0037】
核酸を細胞中に導入する方法は、当業者にはよく知られている。
【0038】
核酸が線状であろうと、分枝状であろうと、環状であろうと、核酸の導入を、一般的には限定されるものではないが、「形質転換」と呼ぶことができる。それには任意の好適な技術を用いることができる。好適な技術としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、PEI、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションなどの機械的技術、直接DNA取込み、受容体を介するDNA導入、レトロウイルスまたは他のウイルスを用いる形質導入およびリポソームまたは脂質を介するトランスフェクションが挙げられる。選択された遺伝子構築物を細胞に導入する場合、当業者にはよく知られた特定の事項を考慮に入れなければならない。
【0039】
核酸をポリリジンを介してタンパク質リガンドに連結し、該リガンドが標的細胞の表面上に存在する受容体にとって特異的である、受容体を介する遺伝子導入は、核酸を特定の細胞に対して特異的に標的化するための技術の一例である。
【0040】
リポソームは、細胞への送達のためにRNA、DNAおよびビリオンを封入することができる。pH、イオン強度および存在する二価陽イオンなどの因子に応じて、リポソームの組成を、特定の細胞または組織の標的化のために調整することができる。リポソームとしては、リン脂質が挙げられ、脂質およびステロイドを含んでもよく、それぞれのそのような成分の組成を変化させることができる。リポソームの標的化を、抗体またはその結合フラグメント、糖または糖脂質などの特定の結合対メンバーを用いて達成することもできる。
【0041】
形質転換を、in vitro、in vivoまたはex vivoで行うことができる。
【0042】
ベクターを用いて、核酸を細胞中に導入することができる。プロモーター配列、ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列などの好適な調節配列を含む好適なベクターを選択または構築することができる。調節配列は、細胞内の遺伝子の発現を駆動することができる。
【0043】
前記遺伝子を、幹細胞、または神経幹細胞、前駆細胞、またはニューロン細胞中で、基底レベルを超えるその発現を駆動するプロモーターに機能し得る形で連結することができる。「機能し得る形で連結された」とは、好適には、プロモーターから開始される転写のために方向を合わせて配置された、同じ核酸分子の一部として連結されていることを意味する。プロモーターに機能し得る形で連結されたDNAは、該プロモーターの「転写開始調節下」にある。
【0044】
導入される核酸を、ゲノム外ベクター上に含有させるか、またはそれを、好ましくは安定的に、ゲノム中に組み入れることができる。コード核酸のゲノム中への組込みを、標準的な技術に従って、ゲノムとの組換えを促進する形質転換される核酸配列中に含有させることにより促進することができる。組み込まれた核酸は、細胞中で遺伝子の発現を駆動することができる調節配列を含んでもよい。
【0045】
様々なベクター、ウイルスベクターおよびプラスミドベクターの両方が当業界で公知であり、例えば、米国特許第5,252,479号およびWO 93/07282を参照されたい。具体的には、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルス、レンチウイルス、SV40などのパポバウイルス、ワクシニアウイルス、HSVおよびEBVなどのヘルペスウイルス、ならびにテナガザル白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ラウス肉腫ウイルス、ベネズエラ馬脳炎ウイルス、モロニーマウス白血病ウイルスおよびマウス乳癌ウイルスなどの、いくつかのウイルスが、遺伝子導入ベクターとして用いられている。従来技術における多くの遺伝子治療プロトコルが、機能しないマウスレトロウイルスを用いてきた。
【0046】
機能しないウイルスベクターを、感染性ウイルス粒子の産生にとって必要な遺伝子が発現されるヘルパー細胞系中で産生させる。ヘルパー細胞系は、一般的には、ウイルスゲノムをパッケージングし、核酸を含まないビリオンを産生する機構により認識される配列を失っている。送達される遺伝子または他の配列と共に、無傷のパッケージングシグナルを含むウイルスベクターを、ヘルパー細胞中で、感染性ビリオン粒子中にパッケージングした後、遺伝子送達に用いることができる。
【0047】
前記ベクターを、処理しようとする特定の細胞に対して標的化することができるか、またはそれは多かれ少なかれ選択的に標的細胞によりスイッチが入れられる調節エレメントを含んでもよい。標的化は、処理しようとする細胞がin vivoにあるか、またはそれを他の非標的細胞型と混合する場合、特に有用である。
【0048】
前記遺伝子を、外部的に誘導可能な遺伝子プロモーターの制御下に置いて、それを使用者の制御下に置くことができる。プロモーターに対して適用される場合、用語「誘導可能な」とは、当業者によりよく理解される。本質的に、誘導可能なプロモーターの制御下での発現は、印加される刺激に応答して「スイッチが入る」か、または増加する。該刺激の性質は、プロモーター間で変化する。いくつかの誘導可能なプロモーターは、好適な刺激の非存在下で、わずかなレベル、もしくは検出不可能なレベルの発現を引き起こす(または発現を引き起こさない)。刺激の非存在下での発現のレベルがどんなものでも、任意の誘導可能なプロモーターに由来する発現は、正確な刺激の存在下で増加する。誘導可能なプロモーターの一例は、遺伝子発現がテトラサイクリン類似体により調節されるテトラサイクリンON/OFF系(Gossenら、1995)である。
【0049】
さらなる詳細については、例えば、SambrookおよびRussell, 2001を参照されたい。例えば、核酸構築物の調製、突然変異誘発、配列決定、細胞中へのDNAの導入および遺伝子発現における核酸の操作、ならびにタンパク質の分析のための多くの公知の技術およびプロトコルは、Ausubelら、1992またはより後の版に詳細に記載されている。
【0050】
抗生物質耐性または感受性遺伝子などのマーカー遺伝子を、当業界でよく知られるように、目的の核酸を含むクローンの同定において用いることができる。また、クローンを同定するか、または例えば、サザンブロットハイブリダイゼーションにより結合試験によりさらに調査することができる。
【0051】
タンパク質活性を増加させる別の手段は、例えば、マイクロインジェクションまたは他の担体に基づく送達系もしくは例えば、TAT、トランスポータン、アンテナペディアペネトラチンペプチド(Lindsay, 2002)などの細胞透過性ペプチドなどのタンパク質送達系により、該タンパク質の1個以上のさらなるコピーを細胞中に導入することである。
【0052】
コード遺伝子の転写または翻訳を阻害することにより、タンパク質活性を低下させることができる。アンチセンスおよびRNA干渉(RNAi)は、よく知られた技術である。例えば、小分子阻害因子を用いて、該タンパク質自体を阻害することにより、該タンパク質の細胞阻害因子の活性を増加させることにより、および/または該タンパク質の分解を増加させることにより、タンパク質活性を低下させることもできる。
【0053】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、目的の核酸、例えば、プレmRNAもしくは成熟mRNAにハイブリダイズし、かくして、所与のDNA配列によりコードされるポリペプチド(例えば、天然のポリペプチドもしくはその突然変異形態)の産生を妨害し、その発現が低下するか、または完全に阻害されるように設計された相補的核酸配列である。アンチセンス技術を用いて、例えば、5'フランキング配列中の、コード配列、遺伝子の制御配列を標的化し、それによってアンチセンスオリゴヌクレオチドは制御配列を妨害することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドはDNAまたはRNAであってもよく、長さ約14〜23ヌクレオチド、特に、約15〜18ヌクレオチドのものであってよい。アンチセンス配列の構築およびその使用は、PeymanおよびUlman, 1990; およびCrooke, 1992に記載されている。
【0054】
アンチセンス核酸分子を、本明細書に記載の技術を用いて導入し、細胞に対して標的化することができる。特異的核酸配列を切断するように設計されたリボザイムの使用などの、遺伝子の特異的下方調節に関する他の手法がよく知られている。リボザイムは、規定の配列で、mRNAなどの一本鎖RNAを特異的に切断する核酸分子、実際にはRNAであり、その特異性を操作することができる。ハンマーヘッドリボザイムは、長さ約11〜18塩基の塩基配列を認識し、従って、長さ約4塩基の配列を認識するテトラヒメナ型のリボザイムよりも高い特異性を有するため、それらが好ましいが、後者の型のリボザイムは特定の環境下では有用である。リボザイムの使用に関する参考文献としては、Marschallら、1994;Hasselhoff, 1988およびCech, 1988が挙げられる。
【0055】
アンチセンスに対する代替は、センス方向、すなわち、標的遺伝子と同じである方向に挿入された標的遺伝子の全部または一部のコピーを使用して、同時抑制による標的遺伝子の発現の低下を達成することである;Angell & Baulcombe 1997;およびVoinnet & Baulcombe 1997。二本鎖RNA(dsRNA)は、両センス鎖またはアンチセンス鎖のみよりも遺伝子サイレンシングにおいてさらにより有効であることが見出された(Fireら、1998)。dsRNAを介するサイレンシングは、遺伝子特異的であり、RNA干渉(RNAi)と呼ばれることが多い。
【0056】
RNA干渉は、2段階プロセスである。第1に、dsRNAを細胞内で切断して、5'末端リン酸および3'側の短い突出部(約2 nt)を有する約21〜23 ntの長さの短い干渉RNA(siRNA)を得る。siRNAは、破壊のために対応するmRNA配列を特異的に標的化する(Zamore 2001)。
【0057】
3'突出末端を有する同じ構造の化学的に合成されたsiRNA二本鎖を用いて、RNAiを効率的に誘導することもできる(Zamoreら、2000)。合成siRNA二本鎖は、様々な哺乳動物細胞系における内因性および異種性遺伝子の発現を特異的に抑制することが示されている(Elbashirら、2001)。また、Fire、1999; Sharp、2001; Hammondら、2001;およびTuschl、2001も参照されたい。
【0058】
本発明の任意の方法における使用のための核酸およびタンパク質を製造する方法を、以下に記載する。さらなる例については、SambrookおよびRussell、2001も参照されたい。
【0059】
本発明に従う方法における使用のためのポリペプチドを製造する都合の良い方法は、発現系において、それをコードする核酸を用いることにより、該核酸を発現させることである。
【0060】
これを、ポリペプチドの発現を引き起こすか、またはそれを可能にする好適な条件下で、発現ベクターを含む、培養物中の宿主細胞を増殖させることにより都合良く達成することができる。この文脈における発現ベクターは、目的のポリペプチドをコードする核酸および該ポリペプチドの発現のための好適な調節配列などの核酸分子である。また、ポリペプチドを、網状赤血球溶解物などのin vitro系で発現させることもできる。
【0061】
様々な宿主細胞中でのポリペプチドのクローニングおよび発現のための系がよく知られている。好適な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物および酵母などの真核細胞、ならびにバキュロウイルス系が挙げられる。異種ポリペプチドの発現のための当業界で利用可能な哺乳動物細胞系としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、COS細胞および多くの他のものが挙げられる。一般的な、好ましい細菌宿主は、大腸菌である。プロモーター配列、ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および必要に応じて他の配列などの好適な調節配列を含む、好適なベクターを、選択または構築することができる。ベクターは、必要に応じて、プラスミド、ウイルス、例えば、ファージ、またはファージミドであってよい。さらなる詳細については、SambrookおよびRussell、2001ならびにAusubelら、1992を参照されたい。
【0062】
本発明における使用のためのポリペプチドの製造は、例えば、コードされたポリペプチドが産生されるように、遺伝子の発現を可能にする条件下で、宿主細胞(実際に形質転換された細胞を含んでもよいが、それどころか、該細胞は形質転換された細胞の子孫であろう)を培養することにより、コードする核酸からの発現を引き起こすか、またはそれを可能にすることを含む。好適なシグナルリーダーペプチドに結合させたポリペプチドを発現させる場合、それを前記細胞から培養培地中に分泌させることができる。発現による産生後に、ポリペプチドを宿主細胞および/もしくは培養培地から単離および/もしくは精製し、場合によっては、その後、例えば、1種以上の製薬上許容し得る賦形剤、ビヒクルもしくは担体(例えば、以下を参照)を含む医薬組成物などの、1種以上のさらなる成分を含んでもよい組成物の製剤化において、必要に応じて使用することができる。
【0063】
トランスジーンによりコードされたポリペプチドの製造に用いられる代わりに、またはそれと同様に、宿主細胞を、目的の核酸を複製する核酸工場として用いて、大量のそれを生成させることができる。よく知られるような、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)などの増幅可能な遺伝子に結合させた場合、複数コピーの目的の核酸を細胞内で作製することができる。目的の核酸で形質転換されたか、または核酸を導入した宿主細胞から伝わった宿主細胞を、例えば、発酵器中で好適な条件下で培養し、培養物から取得し、および該核酸を精製するためのプロセッシングにかけることができる。精製後、該核酸またはその1種以上の断片を、必要に応じて使用することができる。
【0064】
本発明の方法は、タンパク質活性を増加させるか、または減少させるためのモジュレーターを使用することを含んでもよい。本明細書で用いられる場合、用語「モジュレーター」とは、Nurr1により調節される遺伝子(上方もしくは下方調節される遺伝子)によりコードされるタンパク質の活性を、該タンパク質をコードする遺伝子の発現の調節、またはタンパク質レベルでの調節などの手段により調節する(増加させるか、または減少させる)物質を意味する。好ましくは、本発明におけるモジュレーターは、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を増加させるか、またはNurr1により下方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を減少させる。
【0065】
前記方法は、処理しようとする細胞と、
(a)表1に列挙された1種以上のタンパク質の活性を変化させる、例えば、増加させる、および/または
(b)表2に列挙された1種以上のタンパク質の活性を変化させる、例えば、減少させる、
モジュレーターとを接触させることを含んでもよい。
【0066】
本発明における「モジュレーター」は、Nurr1タンパク質もしくは核酸からならず、細胞中のNurr1の活性を増加させる物質からもならず、WntもしくはDkkポリペプチドまたはWntもしくはDkk核酸からもならない。本発明に従ってタンパク質活性を増加および/または減少させる方法は、調節しようとするNurr1自体を必要としない。本発明は、Nurr1の下流のタンパク質を調節することにより、Nurr1を「バイパス」することができる。本発明の方法は、神経細胞中で基底レベルを超えるNurr1を発現させること、もしくは任意の他の手段により該細胞中のNurr1活性を増加させること、ならびに/または該細胞と、VMの1型アストロサイトから取得可能な1種以上の因子とを接触させること、および/もしくは該細胞と、Wntポリペプチドとを接触させることからならない。しかしながら、モジュレーターに加えて、および/または任意の他の物質もしくは本発明の方法において神経細胞を処理する手段に加えて、Nurr1タンパク質もしくは核酸、または細胞中のNurr1活性を増加させる物質の使用を用いて、神経細胞を処理することができる。タンパク質活性を増加させる方法は、本明細書に記載されており、任意のそのような好適な方法を用いて、Nurr1活性を増加させることができる。Wntリガンドおよび1型アストロサイトに由来する因子を、本発明の方法において用いることもできるが、本発明はそれらを必要とせず、単にその使用からなるわけではない。
【0067】
本発明はまた、Nurr1により調節される遺伝子産物のモジュレーターをスクリーニングし、それを同定する方法も提供する。本発明の方法は、タンパク質自体を標的化することによりタンパク質活性を調節する物質、または該タンパク質をコードする遺伝子を標的化する物質をスクリーニングすることを含む。タンパク質活性をタンパク質または核酸レベルで調節することができる方法は、本明細書の他の場所に記載されており、当業者には公知であり、モジュレーターは任意のそのような方法により機能してもよい。
【0068】
好ましくは、本発明のスクリーニング方法は、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を増加させる物質、またはNurr1により下方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を減少させる物質をスクリーニングする。従って、これは、Nurr1により調節される遺伝子の発現を減少させるか、または増加させる物質をスクリーニングすることを含んでもよい。Nurr1により上方調節される遺伝子およびNurr1により下方調節される遺伝子を、それぞれ表1および表2に示す。好ましくは、例えば、RDC1、Engrailed-1、Runx2などの、Nurr1により調節される遺伝子によりコードされるタンパク質を表3から選択する。最も好ましい実施形態においては、前記方法は、RDC1タンパク質の活性を増加させることができる、例えば、RDC1遺伝子の発現を増加させることができる物質をスクリーニングする。
【0069】
本発明の一態様は、Nurr1により調節される遺伝子の発現を調節することができる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)遺伝子に機能し得る形で連結された、該遺伝子のプロモーターを含むDNAと、試験物質とを接触させること、
(b)該プロモーターからの遺伝子発現のレベルを決定すること、および
(c)該試験物質の存在下での遺伝子発現のレベルを、比較可能な条件で該試験物質の非存在下での遺伝子発現のレベルと比較すること、
を含み、遺伝子発現のレベルにおける差異が、該試験物質が該遺伝子の発現を調節することができることを示す、前記方法を提供する。
【0070】
前記方法はさらに、前記試験物質を、Nurr1により調節される遺伝子の発現のモジュレーターとして、すなわち、モジュレーターとして同定することを含む。
【0071】
異なるプロモーターに連結された別の遺伝子の発現と比較した遺伝子の発現の増加は、該プロモーターの調節のための物質の特異性を示す。
【0072】
前記方法は、遺伝子に機能し得る形で連結された遺伝子プロモーターを含む宿主細胞などの発現系と、試験物質とを接触させること、および該遺伝子の発現を決定することを含んでもよい。この遺伝子は、Nurr1により調節される遺伝子自体であってもよいし、または異種遺伝子、例えば、リポーター遺伝子であってもよい。「リポーター遺伝子」は、コードされた産物を、発現後にアッセイすることができる遺伝子、すなわち、プロモーター活性に関して「リポートする」遺伝子である。
【0073】
「プロモーター」とは、転写を、下流に(すなわち、二本鎖DNAのセンス鎖に対して3'方向に)機能し得る形で連結されたDNAから開始することができるヌクレオチドの配列を意味する。Nurr1により調節される遺伝子のプロモーターは、遺伝子発現を促進するのに十分な、アクセッション番号の下で該配列の1種以上の断片を含んでもよい。遺伝子のプロモーターは、ヒト染色体中の遺伝子に対して5'側のヌクレオチドの配列、またはラットもしくはマウスなどの別の種における等価な配列を含むか、または本質的にそれからなってもよい。
【0074】
プロモーター活性のレベルは、例えば、プロモーターからの転写により産生されるmRNAの量の評価によるか、またはプロモーターからの転写により産生されるmRNAの翻訳により産生されるタンパク質産物の量の評価により定量可能である。発現系に存在する特異的mRNAの量を、例えば、該mRNAとハイブリダイズすることができ、標識される特異的オリゴヌクレオチドを用いて決定するか、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの特異的増幅反応において用いることができる。
【0075】
PCRは、鋳型核酸の変性(二本鎖である場合)、標的へのプライマーのアニーリング、および重合の工程を含む。増幅反応における鋳型としてプローブ化されるか、または用いられる核酸は、ゲノムDNA、cDNAまたはRNAであってよい。他の特異的核酸増幅技術としては、鎖置換活性化、QBレプリカーゼ系、修復連鎖反応、リガーゼ連鎖反応および連結活性化転写が挙げられる。便宜上、および一般的に好ましいため、他の核酸増幅技術を当業者により適用することができる場合、用語「PCR」を本明細書の本文中で用いる。本文が特に必要としない限り、PCRに対する参照は、当業界で利用可能な任意の好適な核酸増幅反応の使用に及ぶと取られるべきである。
【0076】
リポーター遺伝子の使用により、タンパク質産生に対する参照によるプロモーター活性の決定が容易になる。好ましくは、リポーター遺伝子は、検出可能なシグナル、好ましくは、着色産物などの視覚的に検出可能なシグナルを産生する反応を触媒する酵素をコードする。β-ガラクトシダーゼおよびルシフェラーゼなどの多くの例が公知である。β-ガラクトシダーゼ活性を、基質上での青色の産生によりアッセイし、このアッセイを眼によるか、または分光光度計を用いて吸光度を測定することにより行うことができる。例えば、ルシフェラーゼ活性または緑色もしくは赤色蛍光タンパク質の結果として産生した蛍光を、分光光度計または蛍光顕微鏡観察を用いて定量することができる。例えば、非放射活性アッセイにおいて用いることもできるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼを用いて、放射活性アッセイを使用することができる。リポーター遺伝子からの発現から得られる遺伝子産物の存在および/または量を、抗体もしくはそのフラグメントなどの該産物に結合することができる分子を用いて決定することができる。結合分子を、任意の標準的な技術を用いて直接的または間接的に標識することができる。
【0077】
プロモーター構築物を、任意の好適な技術を用いて細胞系に導入して、ゲノム中に組み込まれたリポーター構築物を含む好適な細胞系を作製することができる。この細胞を増殖させ、様々な時間、試験化合物と共にインキュベートすることができる。この細胞を96穴プレート中で増殖させて、多数の化合物の分析を容易にすることができる。次いで、細胞を洗浄し、リポーター遺伝子発現を分析することができる。ルシフェラーゼなどのいくつかのリポーターについては、細胞を溶解させた後、分析することができる。
【0078】
当業者であれば、多数の可能なリポーター遺伝子および遺伝子活性を決定するのに用いることができるアッセイ技術を知っている。さらなる例については、SambrookおよびRussell、2001を参照されたい。
【0079】
本発明の別の態様は、Nurr1により調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を調節することができる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)該タンパク質と、推定結合分子もしくは他の試験物質とを接触させること;および
(b)該タンパク質活性を決定すること、および
(c)試験物質の存在下でのタンパク質活性を、比較可能な反応媒体および条件において試験物質の非存在下でのタンパク質活性と比較すること、
を含み、タンパク質活性における差異が、試験物質がタンパク質活性を調節することができることを示す、前記方法を提供する。
【0080】
前記スクリーニング方法はさらに、前記試験物質を、タンパク質活性のモジュレーターとして、すなわち、モジュレーターとして同定することを含んでもよい。
【0081】
タンパク質活性を決定する方法を、前記スクリーニング方法において用いられるタンパク質に従って選択する。
【0082】
pitx3、c-ret、チロシンヒドロキシラーゼ、ドーパミン輸送因子もしくはGIRKチャンネルなどのマーカー発現の獲得;神経突起(MAP2を発現する)もしくは軸索(ニューロフィラメントを発現する)の伸長により評価されるような、形態学的分化;上記マーカーのいずれかを発現する細胞数の増加により測定される細胞の生存率の増加;HPLCにより測定されるような、神経伝達因子(ドーパミン)放出の増加;成熟ニューロンに特徴的な電気生理学的特性の増加;タンパク質ゲルもしくはMALDI-TOFにおいて測定されるような、チロシン、セリンもしくはトレオニンリン酸化の増加により測定されるシグナリングの増加;Biacoreにより検出されるような細胞における変化;および/またはルシフェラーゼもしくはGFPまたは他のリポーター系、例えば、β-カテニン転写を報告するTOPPFLASHアッセイ、またはルシフェラーゼもしくはGFPまたは前駆細胞中で発現される遺伝子などの他のリポーター系に結合させたドーパミン作動性分化に関与するプロモーターにより測定されるような転写の増加による、sox2、Lmx1a、Lmx1b、msx1、otx2、pax2、fox2a、Raldh1もしくは2型アルデヒドデヒドロゲナーゼ、wnt1、wnt-5a、dkk2、RC2、ネスチン、ニューロゲニン2、ニューロゲニン1、mash1、engrailed 1またはnurr1を発現する幹細胞、前駆細胞または神経前駆細胞の、ドーパミン作動性ニューロンへの分化から、観察を行うことができる。
【0083】
例えば、小分子ライブラリーにより、ケモカインの発現の調節を検出するアッセイを開発することができる。これを、ケモカインプロモーター-リポーター系を用いて行うことができる。
【0084】
本発明に従うスクリーニング方法においては、試験物質または本発明のアッセイに添加することができる化合物の量を、通常は用いる化合物の型に応じた試行錯誤により決定することができる。典型的には、約0.001 nM〜1 mM以上の濃度の推定阻害剤化合物、例えば、0.01 nM〜100μM、例えば、約10μMなどの0.1〜50μMを用いることができる。ペプチドが試験物質である場合、より高い濃度を用いることができる。弱い作用を有する分子でも、さらなる調査および開発のための有用なリード化合物であり得る。ケモカインについては、好ましい濃度は最大で2μg/mlであってよい。
【0085】
スクリーニング方法は、混合物もしくは抽出物から、試験化合物および/または目的の物質を精製および/または単離すること、すなわち、該混合物もしくは抽出物の少なくとも1種の成分、例えば、試験物質が天然に結合する成分の含量を減少させることを含んでもよい。スクリーニング方法またはアッセイ方法は、試験混合物もしくは抽出物の1つ以上の画分が、Nurr1により調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を調節する能力を決定することを含んでもよい。
【0086】
精製および/または単離は、当業者には公知の任意の方法を用いてもよい。
【0087】
本発明のスクリーニングまたはアッセイ方法のいずれかの正確な形式を、日常的な技術および知識を用いて当業者により変化させてもよい。当業者であれば、好適な対照実験を用いる必要性を知っている。
【0088】
スクリーニングすることができる化合物は、薬剤スクリーニングプログラムにおいて用いられる天然または合成化合物であってよい。いくつかの特性評価されたか、または特性評価されていない成分を含む、植物、微生物または他の生物の抽出物を用いてもよい。
【0089】
コンビナトリアルライブラリー技術は、相互作用を調節する能力について潜在的に多数の様々な物質を試験する効率的な方法を提供する。特に、全ての様式の天然の生成物、小分子およびペプチドのための、そのようなライブラリーおよびその使用は、当業界で公知である。特定の環境においては、ペプチドライブラリーの使用が好ましい。
【0090】
アッセイは、例えば、小分子ライブラリーによるケモカインの発現の調節を検出してもよい。これを、幹細胞、前駆細胞中でのケモカインプロモーター-リポーター系発現+小分子への曝露+光放射または蛍光もしくは免疫組織化学による読み取りリポーターを用いて行うことができる。
【0091】
本発明のスクリーニング方法は、試験物質をモジュレーターとして同定することを含んでもよい。モジュレーターとしての試験物質の同定後、該物質をさらに精製および/または調査および/または製造することができる。例えば、当業者にはよく知られ、本明細書で考察された方法により、この物質を開発して、ペプチジルまたは非ペプチジル模倣物質を得ることができる。そのような模倣物質はまた、本発明に従うモジュレーターでもあり、本発明によりこれを提供する。
【0092】
公知の製薬上活性な化合物に対する模倣物質の設計は、「リード」化合物に基づく薬剤の開発に対する公知の手法である。活性化合物が合成するのが難しいか、もしくは高価である場合、またはそれが特定の投与方法にとって好適ではない場合、これが望ましい。
【0093】
所与の標的特性を有する化合物からの模倣物質の設計において一般的に取られるいくつかの工程が存在する。第1に、標的特性の決定において決定的であり、および/または重要である化合物の特定の部分を決定する。ペプチドの場合、該ペプチド中のアミノ酸残基を体系的に変化させることにより、例えば、各残基を順に置換することにより(例えば、アラニンを用いる、すなわち、「アラニン走査」)、これを行うことができる。前記化合物の活性領域を構成するこれらの部分または残基は、その「活性基」として公知である。
【0094】
一度、活性基が見出されたら、様々な起源に由来するデータ、例えば、分光技術、X線回折データおよびNMRを用いて、その物理的特性、例えば、立体化学、結合、サイズおよび/または電荷に従って、その構造を、モデル化する。コンピューター分析、類似性マッピング(原子間の結合よりもむしろ、活性基の電荷および/または体積をモデル化する)ならびに他の技術を、このモデリングプロセスにおいて用いることができる。
【0095】
上記手法の変形においては、リガンドおよびその結合パートナー(Nurr1により調節されるタンパク質)の三次元構造をモデル化する。リガンドおよび/または結合パートナーが、結合に対するコンフォメーションを変化させ、該モデルがこれを考慮に入れて模倣物質を設計することが可能になる場合、これは特に有用であり得る。
【0096】
さらなる工程として、模倣物質またはモジュレーターを、薬剤に製剤化し、必要に応じて、本明細書に記載の治療方法において用いることができる。
【0097】
本発明は、神経細胞を処理する方法および/または神経変性疾患もしくは障害の治療方法における使用のための、上記スクリーニング方法により同定されたモジュレーターを提供する。モジュレーターを、単離および/または精製された形態、すなわち、実質的に純粋な形態で提供することができる。これとしては、それが少なくとも約90%の活性成分、より好ましくは、少なくとも約95%、より好ましくは、少なくとも約98%である組成物中にあることが挙げられる。そのような組成物は、好ましくは、医薬組成物であり、不活性担体材料または他の製薬上および生理学上許容し得る賦形剤を含んでもよい。活性成分は、例えば、該活性成分を安定化するか、またはその投与を容易にするために含有されたバッファーまたは担体材料とは反対に、製薬上活性な物質を意味する。
【0098】
かくして、本発明は、様々な態様において、本明細書に開示されたことに従ってモジュレーターとして同定された物質だけでなく、医薬組成物、医薬、薬剤もしくはそのような物質を含む他の組成物、例えば、神経変性疾患もしくはニューロン喪失の治療(予防的治療を含んでもよい)における、そのような組成物の患者への投与を含む方法、そのような患者への投与のための組成物の製造におけるそのような物質の使用、ならびにそのような物質と、製薬上許容し得る賦形剤、ビヒクルもしくは担体、および必要に応じて他の成分とを混合することを含む、医薬組成物を作製する方法にも拡張される。医薬組成物および治療方法は、本発明の一部であり、以下により詳細に記載する。
【0099】
本発明のさらなる態様は、幹細胞もしくは神経細胞と、1種以上のケモカインとを接触させて、細胞増殖、分化、成熟および/または生存を促進することに関する。本発明に従う方法において用いることができるケモカインとしては、BLC-1、SDF1、IL-8、α-ケモカイン、必要に応じて、CXCL6、CXCL8、CXCL11、CXCL12およびCXCL13からなる群より選択されるα-ケモカイン、β-ケモカイン、必要に応じて、CCL2およびCCL7からなる群より選択されるβ-ケモカインが挙げられる。好ましいケモカインは、CCR2、RDC1、CXCR2、CXCR3、CXCR4および/またはCXCR5に対するリガンドである。
【0100】
本発明は、幹細胞または神経細胞の群において、細胞増殖を促進し、TH発現細胞数を増加させる方法であって、該細胞と、BLC-1、SDF1、IL-8、α-ケモカイン、例えば、本発明における使用のために本明細書に開示された1種以上のα-ケモカイン、および/またはβ-ケモカイン、例えば、本発明における使用のために本明細書に開示された1種以上のβ-ケモカインからなる群より選択された1種以上のケモカインとを接触させることを含む、前記方法を提供する。
【0101】
好ましくは、神経細胞は、腹側中脳細胞である。この細胞群は、様々なレベルの分化の神経細胞を含む混合された一次培養物、または胚性もしくは成体幹細胞、神経幹細胞もしくは前駆細胞を主に含む培養物であってよい。本発明の方法は、in vitro、ex vivoまたはin vivoであってよい。前記細胞は、個体の脳においてin situであってよい。
【0102】
本明細書に開示されるケモカインは、DAニューロンなどの神経細胞の生存を促進することにより、TH+細胞数を増加させることができる。THは、ドーパミンの合成における律速酵素であり、従って、ドーパミン作動性ニューロンのマーカーである。当業者であれば常に、中脳ドーパミン作動性ニューロンとして細胞を同定するための他のマーカーを使用すべきである。これらのものは、TH、ドーパミン輸送因子、GIRK、pitx3、nurr1、engrailed1、lmx1b、lmx1aであってよい。細胞死の防止は、細胞中で分化プログラムを継続させることができる。
【0103】
さらに、ケモカインは、胚性もしくは成体幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞の分化および成熟を促進することができる。
【0104】
好ましい実施形態においては、本発明は、神経前駆細胞の増殖および分化を促進する方法であって、該細胞と、本明細書に開示されるケモカインまたは他の物質もしくは薬剤とを接触させることを含む、前記方法を提供する。
【0105】
本発明はまた、幹細胞、神経幹細胞またはドーパミン作動性前駆細胞の、ニューロンへの分化または成熟を促進する方法であって、該細胞を、CXCL12または他のα-ケモカインもしくはβ-ケモカイン、必要に応じて、本明細書で同定されたものと接触させることを含む、前記方法を提供する。
【0106】
好ましい実施形態においては、ドーパミン作動性ニューロンへの分化または成熟を促進する。
【0107】
ニューロンを、CXCL12または他のケモカインと接触させることはまた、神経突起生成を促進し、従って、本発明は、該細胞と、CXCL6もしくは他のケモカインとを接触させることを含む、前駆細胞もしくはニューロン細胞における神経突起生成を促進する方法を提供する。好ましくは、この細胞はドーパミン作動性系列のものである。
【0108】
かくして、CXCL12または他のケモカインを用いて、神経突起に富むニューロン、好ましくは、ドーパミン作動性ニューロンを生成させることができる。
【0109】
細胞とケモカインとを接触させることは、該細胞をケモカインタンパク質と接触させることを含んでもよい。タンパク質自体を用いることができるか、または該タンパク質をコードする核酸を、細胞中に導入し、発現させることができる。細胞をタンパク質と接触させる方法は、本明細書の他の場所にさらに記載されている。
【0110】
本発明に従って幹細胞または神経細胞を処理する任意の方法を、任意の別のそのような方法と組み合わせて、一緒に、または連続的に用いることができる。
【0111】
神経細胞を処理することを含む本発明の方法においては、該細胞をWntポリペプチドと接触させることを含む、追加工程または同時的工程を実行することができる。
【0112】
特定のニューロン表現型の誘導は、遺伝子シグナルおよび後成シグナルの両方の組込みを含む。Wnt-5aは、そのようなシグナルの一部であり、Wnt-1、-3aおよび-5aなどのWntファミリーのタンパク質のメンバーは、発生調節され、中脳DAニューロンの発生を示差的に制御する。本発明者らの以前の実験においては、Wnt-3aではなく、部分的に精製されたWnt-1および-5aは、2つの異なる機構によりE14.5の中脳DAニューロンの数を増加させた。Wnt-1はNurr1前駆細胞の増殖を主に増加させたが、Wnt-5aは主にニューロンのドーパミン作動性表現型を獲得したNurr1前駆細胞の割合を増加させた。これに一致して、Wnt5aは、Nurr1を発現する中脳または皮質のE13.5前駆細胞中でのDAニューロンの誘導において、中脳アストロサイト/初期グリア細胞と同じぐらい効率的であった。さらに、Frizzled 8のシステインに富むドメインは、Nurr1を発現する神経前駆細胞培養物におけるドーパミン作動性表現型を有する細胞の増加に対する、基底およびVM TIA-、Wnt-1またはWnt5aを介する効果、および神経幹細胞またはFGF-8により拡張されたNurr1+中脳ニューロスフェアに対する内因性Wntの効果を効率的に阻害した。かくして、本発明者らのデータは以前に、Wnt-1およびWnt-5aが、2つの部分的に異なる機構により、Nurr1を発現する前駆細胞/幹細胞における、ドーパミン作動性表現型を有するニューロンの生成を調節するという指示を提供した。これらの知見により、Wntリガンドは、腹側中脳神経発生の間の増殖および自己再生、分化および運命の決定の重要な調節因子として認識される。
【0113】
細胞を、Wntポリペプチドまたはケモカインと接触させる手段は、神経細胞を含む培養物への、またはin vivoでのそのような細胞への、精製された、および/もしくは組換えWntポリペプチドもしくはケモカインの提供を含む。細胞をWntポリペプチドまたはケモカインと接触させることは、1個以上のコピーのWntまたはケモカイン核酸を、該細胞に導入し、および該タンパク質を発現させるか、または該タンパク質自体を該細胞中に導入することを含んでもよい。核酸を用いて細胞を形質転換し、タンパク質を細胞中に導入する方法は、本明細書に記載されている。Wntポリペプチドまたはケモカインと接触させることは、in vivoで、または神経細胞を含む培養物内で、Wntポリペプチドまたはケモカインを産生する細胞を提供することによるものであってよい。Wntポリペプチドまたはケモカインを産生する細胞は、組換え発現によりWntポリペプチドまたはケモカインを産生する組換え宿主細胞であってよい。同時培養された宿主細胞を、Wntポリペプチドもしくはケモカインをコードする核酸を用いて形質転換することができ、および/または同時培養された細胞は、導入されたWntタンパク質もしくはケモカインを含んでもよい。この核酸またはタンパク質を、当業界で利用可能な技術(その例は本明細書に記載されている)に従って前記細胞中に導入することができる。同時培養された細胞または宿主細胞は、別の神経細胞、例えば、幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞またはニューロン細胞であってよい。Wntタンパク質またはケモカインとの接触はまた、細胞中でのその発現を上方調節することによるか、またはWntタンパク質もしくはケモカインの阻害因子分子を下方調節もしくは阻害することによるものであってもよい。かくして、Wntタンパク質との接触は、SFRP、WIF、dkkもしくはケルベロス(Cerberus)などのWntと相互作用する分子の発現または活性を低下させることによって起こってもよい(Martinez Ariasら、1999; およびhttp://www.stanford.edu/~rnusse/wntwindow.htmlもしくは任意のウェブブラウザを用いて発見可能なWntのホームページ)。
【0114】
本明細書で用いられる、「Wntポリペプチド」、「Wnt糖タンパク質」または「Wntリガンド」とは、細胞間相互作用を調節する、Wingless-intファミリーの分泌タンパク質のメンバーを指す。Wntは、ショウジョウバエおよびシノラブディス・エレガンスから、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュおよび哺乳動物まで高度に保存されている。哺乳動物において現在公知である19種のWntタンパク質が、2種の細胞表面受容体型に結合する:10種の受容体により現在形成される、7種の膜貫通ドメインFrizzled受容体ファミリー、ならびに低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)5および6ならびにkreman 1および2受容体。Wntにより伝えられるシグナルは、3種の公知のシグナリング経路を介して変換される:(1)GSK3βが阻害される、いわゆる標準的なシグナリング経路は、β-カテニンをリン酸化せず、次いで、分解されず、核に移行してTCFとの複合体を形成し、Wnt標的遺伝子の転写を活性化する、(2)Jnkを介する、平面極性および収束-伸長経路、ならびに(3)カルシニューリンが脱リン酸化し、活性化T細胞の核因子(NF-AT)を活性化する、イノシトール1,4,5三リン酸(IP3)/カルシウム経路(Saneyoshiら、2002)。総論については、任意の利用可能なブラウザを用いてウェブ上で発見可能な、Wntのホームページ(現在では、www.stanford.edu/~rnusse/wntwindow.htmlにある)を参照されたい。Wntシグナリングに関与する他の共受容体としては、チロシンキナーゼ受容体Ror1およびRor2 (Oishi Iら、2003)、触媒的に不活性な受容体チロシンキナーゼをコードする、derailed/RYK受容体ファミリー(Yoshikawaら、2003)が挙げられる。
【0115】
本発明の種々の態様のいくつかの好ましい実施形態においては、WntリガンドはWnt1リガンドである。ヒトWnt1アミノ酸配列は、GenBank参照Swiss proteinアクセッション番号P04628の下で、ならびにコード核酸は、DNAについては参照番号X03072.1およびRNAについてはNM_005430.2の下で入手可能である。
【0116】
本発明の種々の態様のいくつかの好ましい実施形態においては、WntリガンドはWnt5aリガンドである。ヒトWnt5aアミノ酸配列は、GenBank参照Swiss proteinアクセッション番号P41221の下で、ならびにコード核酸は、DNAについては参照番号AI634753.1、AK021503、L20861、L20861.1、U39837.1およびRNAについてはNM_003392の下で入手可能である。
【0117】
DAニューロンの生成にとっては好ましくないが、本発明のいくつかの好ましい実施形態は、Wnt3aリガンドを用いることができる。DAニューロンの生成および使用のために本明細書で開示されたものと同様の本発明の種々の態様および実施形態を、Wnt3aリガンドを用いて、幹細胞/前駆細胞の増殖もしくは自己再生を維持し、および/または他の、すなわち、非ドーパミン作動性ニューロン表現型へのそれらの分化を可能にするか、もしくは誘導する本発明により提供する。本明細書に記載された実験により証明されるように、Wnt3aは、DAニューロンを生じるNurr-1を発現する前駆細胞の数を減少させる。しかしながら、ニューロンの総数は減少しないため、他のニューロン表現型、例えば、セロトニン作動性ニューロンなどの背側中脳表現型が産生され得る。セロトニン作動性ニューロンの喪失は、鬱病と関連し、従って、Wnt3aリガンド、および/またはWnt3aリガンド自体の使用を含む方法により生成されたニューロンを、例えば、鬱病の治療において用いることができる。
【0118】
ヒトWnt3aアミノ酸配列は、GenBank参照SwissProtアクセッション番号P56704の下で、コード核酸は、DNAについては参照番号AB060284、AB060284.1、AK056278、AK056278.1およびmRNAについてはNM_033131の下で入手可能である。
【0119】
野生型Wntリガンド、または、例えば、幹細胞、神経幹細胞または神経前駆細胞もしくは前駆細胞におけるドーパミン作動性ニューロンの運命の発生を増強する機能が保持されるという条件で、1種以上のアミノ酸の付加、欠失、置換および/もしくは挿入により、変異体もしくは誘導体を用いることができる。
【0120】
本発明の方法においては、必要に応じて、幹細胞または神経細胞を、1型アストロサイト/グリア細胞により供給されるか、またはそれから誘導された1種以上の因子と接触させることができる。この因子(複数も可)を、幹細胞、前駆細胞もしくはニューロン細胞を、1型アストロサイト/グリア細胞と同時培養するか、もしくは接触させることによるか、またはin vitroもしくはin vivoでそれらから誘導されたそのような細胞もしくは因子と接触させることにより提供することができる。この因子(複数も可)を、グリア細胞系、例えば、アストロサイトもしくは放射状グリアもしくは未熟なグリア中脳細胞系により供給するか、またはそれから誘導することができる。細胞系は、相同な細胞集団を提供する。
【0121】
本発明の方法においては、必要に応じて、幹細胞または神経細胞を処理して、例えば、WO2006/024947内の開示に従って、Frizzled受容体のためのリガンド以外を用いて、該細胞内でのGSK-3β阻害を調節することができる。
【0122】
本発明の方法においては、必要に応じて、幹細胞または神経細胞を処理して、例えば、PCT/IB2005/003996内での開示に従って、該細胞中でのDkkリガンド/受容体ポリペプチドのレベルおよび/または活性を調節することができる。
【0123】
本発明に従って生成された細胞を、それらを試験物質で処理し、細胞の生存能力、生存、増殖、分化もしくは成熟、および/または1種以上の特性もしくは表現型に対する該物質の効果を決定する、毒性試験および/または薬剤探索において用いることができる。
【0124】
特に、in vitroまたはex vivoの場合、幹細胞または神経細胞を処理することを含む本発明の方法は、神経細胞の生存、増殖、分化および/もしくは成熟を測定または検出するさらなる工程を含んでもよい。
【0125】
さらなる工程は、ニューロンの運命のためのマーカーを検出することを含んでもよい。β-チューブリンIII(TuJ1)は、ニューロンの運命の1つのマーカーである(Menezesら、1994)。他のニューロンのマーカーとしては、ニューロフィラメントおよびMAP2が挙げられる。特定のニューロン表現型が誘導される場合、このマーカーは、その表現型にとって特異的であるべきである。ドーパミン作動性運命については、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、ドーパミン輸送因子(DAT)およびドーパミン受容体の発現を、例えば、免疫反応性またはin situハイブリダイゼーションにより検出することができる。ドーパミンおよび代謝物の内容物ならびに/または放出を、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により検出することができる(Cooperら、1996)。ドーパミンβヒドロキシラーゼおよびGABAもしくはGADの非存在(TH/ドーパミン/DATの存在下で)はまた、ドーパミン作動性運命を示唆する。さらなるマーカーとしては、2型アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ADH-2)、Lmx1bおよびPtx3が挙げられる。
【0126】
マーカーの検出を、当業者には公知の任意の方法に従って実行することができる。検出方法は、マーカーをコードする核酸配列に結合することができる特異的結合メンバー、該配列とハイブリダイズし得る核酸プローブを含む特異的結合メンバー、または該核酸配列もしくはそれによりコードされるポリペプチドに対する特異性を有する免疫グロブリン/抗体ドメイン、該配列もしくはポリペプチドへの特異的結合メンバーの結合が検出可能となるように標識される特異的結合メンバーを用いることができる。「特異的結合メンバー」は、該マーカーに対する特定の特異性を有し、通常の条件においては、他の種に優先して該マーカーに結合する。あるいは、マーカーが特異的mRNAである場合、特異的オリゴヌクレオチドプライマーへの結合および例えば、ポリメラーゼ連鎖反応における増幅により、それを検出することができる。
【0127】
核酸プローブおよびプライマーは、ストリンジェントな条件下で前記マーカーにハイブリダイズすることができる。好適な条件は、例えば、約80〜90%同一であるマーカー配列の検出、0.25M Na2HPO4、pH 7.2、6.5% SDS、10%硫酸デキストラン中、42℃で一晩のハイブリダイゼーション、および0.1X SSC、0.1%SDS中、55℃での最後の洗浄を含む。約90%より高い同一性を有するマーカー配列の検出については、好適な条件は、0.25M Na2HPO4、pH 7.2、6.5% SDS、10%硫酸デキストラン中、65℃で一晩のハイブリダイゼーション、および0.1X SSC、0.1%SDS中、60℃での最後の洗浄を含む。
【0128】
種々の核酸およびポリペプチドが、本発明の方法における使用のために上記で言及されてきたが、対応する配列に関するアクセッション番号を本明細書に提供する。
【0129】
一般的には、本発明の方法における使用のための核酸は、単離物として、単離された、および/もしくは精製された形態で提供されるか、または発現のための1種以上の調節配列を除いて、ヒトゲノム中の遺伝子にフランキングする核酸を含まないか、もしくは実質的に含まないものなど、それが天然に結合する材料を含まないか、もしくは実質的に含まない。核酸は全体的または部分的に合成されたものであってよく、ゲノムDNA、cDNA、もしくはRNA、例えば、mRNAを含んでもよい。
【0130】
本発明における使用のための核酸配列は、アクセッション番号の下で与えられたものであってもよく、またはそれは示された配列の突然変異体、変異体、誘導体もしくは対立遺伝子であってもよい。この配列は、示された配列の1個以上のヌクレオチドの1個以上の付加、挿入、欠失および置換である変化により、示されたものと異なってもよい。ヌクレオチド配列に対する変化は、遺伝子コードにより決定されるように、タンパク質レベルでアミノ酸変化をもたらしてもよく、またはもたらさなくてもよい。一方、コードされたポリペプチドは、1個以上のアミノ酸残基により、アクセッション番号の下で示されたアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含んでもよい。そのようなポリペプチドを以下で考察する。そのようなポリペプチドをコードする核酸は、示されたコード配列と、約60%を超えるヌクレオチド配列同一性、約70%を超える同一性、約80%を超える同一性、約90%を超える同一性または約95%を超える同一性を示してもよい。配列同一性を、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bl2.htmlでインターネット上で利用可能な、または任意のウェブブラウザを用いて発見可能なBLASTプログラムを、デフォルトパラメーターと共に用いて算出することができる。
【0131】
本発明は、ストリンジェントな条件下で本明細書に開示される任意の1種以上の特異的配列にハイブリダイズする核酸にまで拡張される。例えば、約80〜90%同一である配列の検出のための好適な条件は、0.25M Na2HPO4、pH 7.2、6.5% SDS、10%硫酸デキストラン中、42℃で一晩のハイブリダイゼーション、および0.1X SSC、0.1%SDS中、55℃での最後の洗浄を含む。約90%を超える同一性を有する配列の検出のためには、好適な条件は、0.25M Na2HPO4、pH 7.2、6.5% SDS、10%硫酸デキストラン中、65℃で一晩のハイブリダイゼーション、および0.1X SSC、0.1%SDS中、60℃での最後の洗浄を含む。
【0132】
一般的には、本明細書に記載の方法における使用のためのタンパク質は、単離された、および/もしくは精製された形態にあり、他のポリペプチドもしくは(例えば、原核細胞中での発現により産生される場合)天然の糖鎖を欠く、例えば、非グリコシル化された、それが天然に結合する材料を含まないか、または実質的に含まない。
【0133】
用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、本文が別途必要とする場合を除いて、本明細書では互換的に用いられる。
【0134】
本明細書に開示されるアクセッション番号を有するタンパク質のアミノ酸配列変異体、対立遺伝子、誘導体または突然変異体であるポリペプチドを、本明細書に記載のいずれかの方法において用いることもできる。前記核酸配列が前記アクセッション番号の下で与えられる場合、所与のポリペプチド配列を翻訳により見出すことができる。変異体、対立遺伝子、誘導体または突然変異体であるポリペプチドは、1個以上のアミノ酸の1個以上の付加、置換、欠失および挿入により、アクセッション番号の下で寄託された配列とは異なるアミノ酸配列を有してもよい。好ましいそのようなポリペプチドは、アクセッション番号の下で与えられる配列の機能を有する、すなわち、1種以上の下記特性:所与のポリペプチドと反応する抗体との免疫学的交叉反応性;所与のポリペプチドとのエピトープの共有(例えば、2種のポリペプチド間の免疫学的交叉反応性により決定される);所与のポリペプチドに対する抗体により阻害される生物活性;所与のポリペプチドの1個以上の機能を有する。配列の変更は、該タンパク質の性質および/または活性のレベルおよび/または安定性を変化させることができる。
【0135】
所与のアミノ酸配列のアミノ酸配列変異体、対立遺伝子、誘導体または突然変異体であるポリペプチドは、示される配列と約35%を超える、約40%を超える、約50%を超える、約60%を超える、約70%を超える、約80%を超える、約90%を超える、または約95%を超える配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。この配列は、該アミノ酸配列と、約60%を超える類似性、約70%を超える類似性、約80%を超える類似性または約90%を超える類似性を有してもよい。一般的には、アミノ酸類似性は、上記のようなアルゴリズムGAP(Genetics Computer Group, Madison, WI)、またはAltschulら、1990のTBLASTNプログラムを参照して定義される。類似性は、「保存的変異」、すなわち、イソロイシン、バリン、ロイシンもしくはメチオニンなどの1個の疎水性残基の、別のものへの置換、またはアルギニンからリジン、グルタミン酸からアスパラギン酸、もしくはグルタミンからアスパラギンなど、1個の極性残基の別のものへの置換を可能にする。特定のアミノ酸配列変異体は、1個のアミノ酸、2、3、4、5〜10、10〜20、20〜30、30〜50、50〜100、100〜150、もしくは150個を超えるアミノ酸の挿入、付加、置換または欠失により示されるアクセッション番号の下で与えられるものとは異なっていてもよい。
【0136】
配列比較を、本明細書に示される関連する配列の完全長に渡って行うか、またはより好ましくは、場合によっては、関連するアミノ酸配列もしくはヌクレオチド配列と比較して、約20、25、30、33、40、50、67、133、167、200、233、267、300、333、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600個以上のアミノ酸もしくはヌクレオチドトリプレットの連続的配列に渡って行うことができる。
【0137】
アクセッション番号の下で示されるポリペプチドの活性部分、断片、誘導体および機能的模倣物質を用いることもできる。ポリペプチドの「活性部分」は、前記完全長ポリペプチドよりも小さいが、リガンドへの結合、エンドサイトーシスにおける関与から選択される生物活性などの、生物活性を保持するペプチドを意味する。かくして、ポリペプチドの活性部分は、一実施形態においては、膜貫通ドメインおよびエンドサイトーシスに関与する細胞質尾部の一部を含んでもよい。そのような活性断片を、例えば、異なるリガンドのための結合部分などの融合タンパク質の一部として含有させることができる。異なる実施形態においては、LDLおよびEGFモチーフの組合せを、分子中に含有させて、該分子に異なる結合特異性を付与することができる。
【0138】
用語「機能的模倣物質」は、関連するアミノ酸配列の活性部分を含まず、おそらく、全くペプチドではないが、定性的に天然ポリペプチドの生物活性を保持する物質を意味する。候補模倣物質の設計およびスクリーニングは、本明細書に詳細に記載されている。
【0139】
一般的には、ポリペプチドの「断片」は、少なくとも約5個の連続するアミノ酸、頻繁には、少なくとも約7個の連続するアミノ酸、典型的には、少なくとも約9個の連続するアミノ酸、より好ましくは、少なくとも約20〜30個以上の連続するアミノ酸の一連のアミノ酸残基を意味する。ポリペプチド配列の断片は、該アミノ酸配列の一部に対する抗体を生じさせるのに有用な抗原決定基またはエピトープを含んでもよい。一般的には、アラニン走査を用いて、ポリペプチド内のペプチドモチーフを発見し、精製し、これは、それぞれの残基を順にアミノ酸アラニンと体系的に置換すること、次いで、生物活性を評価することを含む。
【0140】
本発明に従う方法における使用のためのポリペプチドを、例えば、コード核酸からの発現による産生後、単離および/または精製(例えば、抗体を用いる)することができる(以下を参照)。かくして、それが天然に結合する(それが天然のポリペプチドである場合)夾雑物を含まないか、または実質的に含まないポリペプチドを提供することができる。他のポリペプチドを含まないか、または実質的に含まないポリペプチドを提供することができる。
【0141】
本発明に従うポリペプチドを、全体的または部分的に、化学合成により作製することができる。標準的な液体、または好ましくは、固相ペプチド合成法が、例えば、StewartおよびYoung、1984;BodanzskyおよびBodanzsky、1984;ならびにApplied Biosystems 430A Users Manual, ABI Inc., Foster City, Californiaに記載されている。タンパク質またはペプチドを、例えば、第1に対応するペプチド部分を完成させた後、必要に応じて、存在する任意の保護基を除去した後、対応するカルボン酸もしくはスルホン酸またはその反応性誘導体の反応により残基Xを導入することにより、液相方法により、または固相、液相および溶液化学の任意の組合せにより、溶液中で調製することができる。
【0142】
さらなる態様においては、本発明は、本明細書に開示される方法のいずれか1つに従って処理されたか、または好ましくはin vitroもしくはex vivoでそのような方法により作製された神経細胞を提供する。本発明は、本発明に従う方法により作製された神経細胞、例えば、分化のより早い段階で処理された分化した細胞、または本発明に従う方法により処理された細胞の娘細胞を提供する。本発明は、本発明の方法により処理された細胞の子孫である神経細胞を提供する。この神経細胞を、好ましくは個体の身体から、ex vivoもしくはin vitroで、in situではなく脳から単離する。
【0143】
神経細胞は、原始ニューロン表現型を有してもよい。それは、複数の異なるニューロン表現型を生じることができる。神経細胞は、特定のニューロン表現型を有してもよく、この表現型は、本発明の特定の方法により影響され、例えば、いくつかの実施形態においては、神経細胞を接触させた因子(複数も可)に由来するWntリガンドおよび/もしくはアストロサイト/グリア細胞の型が、供給もしくは誘導され、ならびに/または神経細胞を同時培養するか、もしくは接触させたアストロサイト/グリア細胞の型により影響される。好ましい実施形態においては、神経細胞は、ドーパミン作動性表現型を有し、および最も好ましくは、神経細胞はニューロンである。
【0144】
本発明により提供される神経細胞は、本明細書で同定されるケモカイン、Wntポリペプチド、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質、および/またはニューロン中で神経保護特性もしくは神経再生特性を有する別の分子の発現を駆動することができるプロモーターに機能し得る形で連結された該分子をコードする核酸を含んでもよい。このプロモーターは、任意の損傷的過剰発現を防止することができるような、誘導性プロモーター、例えば、TetONキメラプロモーターであってもよい。このプロモーターを、特定のニューロン表現型、例えば、THプロモーターまたはNurr1プロモーターと結合させることができる。
【0145】
コードされた分子は、その発現がニューロンをその環境とは無関係にするような、すなわち、その生存が、例えば、それが埋め込まれる神経環境において、1種以上の因子もしくは条件の存在に依存しないようなものであってよい。例えば、前記ニューロンは、該ニューロン中で以下に記載の1種以上の神経保護分子もしくは神経再生分子の発現を駆動することができるプロモーターに機能し得る形で連結された該分子をコードする核酸を含んでもよい。
【0146】
さらに、またはあるいは、コードされた分子の発現は、そのニューロンを取り囲む細胞環境の神経保護または神経再生において機能し得る。このように、該ニューロンを混合した細胞および遺伝子治療手法において用いて、神経保護特性および神経再生特性を有する分子を送達することができる。
【0147】
神経保護特性および神経再生特性を有する分子の例としては、以下のものが挙げられる。
【0148】
(i)神経変性を相殺し、防止することができる神経栄養因子。一例は、強力な神経生存因子であり、DAニューロンからの出芽を促進し、およびチロシンヒドロキシラーゼ発現を増加させるグリア由来神経栄養増殖因子(GDNF)である(Tomacら、1995;Arenasら、1995)。軸索伸長を増強することにより、GDNFは、ニューロンがその局所環境を刺激する能力を増加させることができる。GDNFファミリーの他の神経栄養分子としては、Neurturin、PersephinおよびArteminが挙げられる。ニューロトロピンファミリーの神経栄養因子としては、神経増殖因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ならびにニューロトロピン-3、-4/5および-6が挙げられる。神経栄養活性を有する他の因子としては、FGFファミリーのメンバー、例えば、FGF2、4、8および20;Wntファミリーのメンバー、例えば、Wnt-1、-2、-5a、-3aおよび-7a;BMPファミリーのメンバー、例えば、BMP2、4、5および7;ならびにTGFα/βファミリーのメンバーが挙げられる。
【0149】
(ii)抗アポトーシス分子。Bc12は、細胞死において中心的な役割を果たす。Bc12の過剰発現は、ニューロンを、自然の細胞死および虚血から保護する(Martinouら、1994)。別の抗アポトーシス分子は、Bclx-Lである。
【0150】
(iii)その環境との接続の刺激および形成においてニューロンを補助する軸索再生および/もしくは伸長および/もしくは誘導分子、例えば、エフリン。エフリンは、チロシンキナーゼ受容体を活性化することができる膜結合リガンドのクラスを定義する。エフリンは、神経発生に関与してきた(Irvingら、1996; Krullら、1997; Frisenら、1998; Gaoら、1996; Torresら、1998; Winslowら、1995; Yueら、1999)。
【0151】
(iv)転写因子、例えば、ホメオボックスドメインタンパク質Ptx3 (Smidtら、1997)、Msx1、Lmx1a、Lmx1b、Pax2、Pax5、Pax8、またはengrailed 1もしくは2 (WurstおよびBally-Cuif, 2001; RhinnおよびBrand, 2001)。
【0152】
本発明に従うか、または本発明における使用のためのニューロンは、1種以上の他の細胞型、例えば、幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞を実質的に含まないものであってよい。ニューロン細胞を、抗体および磁気ビーズもしくは蛍光活性化細胞選別(FACS)による細胞外エピトープの認識に基づくものなどの、当業者には公知の任意の技術を用いて、神経幹細胞または前駆細胞から分離することができる。例えば、ニューロンではなく、幹細胞、神経幹細胞、前駆細胞上に認められる分子の細胞外領域に対する抗体を用いることができる。そのような分子としては、Notch1、CD133、SSEA1、プロミニン1/2およびグリア細胞系由来神経栄養因子受容体GFRαまたはNCAMが挙げられる。抗体に結合した幹細胞を、補体への曝露により溶解させるか、または例えば、磁気選別により分離することができる(Johanssonら、1999)。ニューロンの意図されるレシピエントに対して異種である抗体を用いる場合、そのような細胞選別手順を逃れる任意の細胞、例えば、幹細胞、神経幹細胞または前駆細胞を、異種抗体で標識し、それらはレシピエントの免疫系の主要な標的である。あるいは、所望の表現型を獲得する細胞を、細胞外エピトープに対する抗体によるか、または細胞型特異的プロモーターの制御下での蛍光タンパク質などのトランスジーンの発現により分離することもできる。例えば、DAニューロンを、TH、DAT、Ptx3またはDAニューロンにより特異的に用いられる他のプロモーターの制御下で発現される蛍光タンパク質を用いて単離することができる。
【0153】
本発明は、医学的治療における使用のための、本発明の方法により処理または作製された神経細胞を提供する。処理方法を以下に詳述する。
【0154】
本発明はまた、医学的治療における使用のための物質であって、Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸、CCL2、CCL7、BLC-1/CXCL13、SDF1/CXCL12、I-Tac/CXCL11、IL-8/CXCL8もしくはIL-6/CXCL6ケモカイン、またはそのようなケモカインをコードする核酸からなる群より選択される前記物質も提供する。本発明はまた、本発明の方法において幹細胞または神経細胞を処理するためのそのような物質の使用も提供する。この細胞を、薬剤探索/毒性試験のために、および細胞治療のために用いることができる。
【0155】
Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸、CCL2、CCL7、BLC-1/CXCL13、SDF1/CXCL12、I-Tac/CXCL11、IL-8/CXCL8もしくはIL-6/CXCL6ケモカイン、そのようなケモカインをコードする核酸、および/または本発明に従う神経細胞を、医薬、医薬組成物または薬剤などの組成物の調製、すなわち、製造または製剤化において製造および/または使用することができる。
【0156】
本発明は、神経変性疾患またはニューロン喪失を治療するための医薬の製造における、Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸、CCL2、CCL7、BLC-1/CXCL13、SDF1/CXCL12、I-Tac/CXCL11、IL-8/CXCL8もしくはIL-6/CXCL6ケモカイン、そのようなケモカインをコードする核酸、および/または本発明の方法により処理された神経細胞の使用を提供する。
【0157】
本発明はまた、神経変性疾患またはニューロン喪失を治療するための医薬を製造する方法であって、
(a)請求項21に記載の方法を用いて神経細胞を処理すること;および
(b)製薬上許容し得る賦形剤を含む組成物中で、神経細胞、または該細胞の子孫を製剤化すること、
を含む、前記方法も提供する。
【0158】
神経細胞および/または本発明の治療物質を用いることができる治療方法は、本明細書の他の場所でより完全に記載されている。
【0159】
かくして、様々なさらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の治療方法における使用のための医薬組成物、医薬、薬剤または他の組成物であって、Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸、CCL2、CCL7、BLC-1/CXCL13、SDF1/CXCL12、I-Tac/CXCL11、IL-8/CXCL8もしくはIL-6/CXCL6ケモカイン、そのようなケモカインをコードする核酸、および/または本明細書で同定された神経細胞を含む、前記組成物を提供する。本発明はまた、Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸、CCL2、CCL7、BLC-1/CXCL13、SDF1/CXCL12、I-Tac/CXCL11、IL-8/CXCL8もしくはIL-6/CXCL6ケモカイン、そのようなケモカインをコードする核酸および/または神経細胞を、製薬上許容し得る賦形剤、ビヒクルもしくは担体、および必要に応じて、他の成分と混合することを含む医薬組成物を作製する方法も提供する。
【0160】
前記細胞または物質を、唯一の活性薬剤として、または1種の別の活性物質もしくは任意の他の活性物質と組み合わせて用いることができる。本発明の医学的治療の方法において用いられる物質がどんなものでも、投与は「予防上有効量」にあるか、または「治療上有効量」にあるのが好ましく(場合によっては、予防を治療と考えることもできるが)、これは個体に対する利益を示すのに十分なものである。投与される実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療しようとするものの性質および重篤度に依存するであろう。治療の処方、例えば、用量などに関する決定は、一般的な実務者および他の医師の責任の範囲内にある。
【0161】
物質または組成物を、単独で、または他の治療と組み合わせて、治療しようとする症状に応じて同時的または連続的に投与することができる。
【0162】
本発明に従う医薬組成物、および本発明に従う使用のための医薬組成物は、活性成分に加えて、製薬上許容し得る賦形剤、担体、バッファー、安定化剤または当業者にはよく知られる他の材料を含んでもよい。そのような材料は、非毒性的であるべきであり、活性成分の効力を妨害するべきではない。担体または他の材料の正確な性質は、経口、または例えば、皮膚、皮下もしくは静脈内などの注入によるものであってよい、投与経路に依存するであろう。経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉末または液体形態にあってもよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含んでもよい。一般的には、液体医薬組成物は、水、石油、動物もしくは野菜油、鉱物油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩水溶液、デキストロースまたは他のサッカリド溶液もしくはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含有することができる。
【0163】
静脈内、皮膚もしくは皮下注入、または苦痛の部位での注入のためには、前記活性成分は、発熱源を含まず、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容し得る水性溶液の形態にあるであろう。当業者であれば、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性ビヒクルを用いて、好適な溶液を調製することができる。必要に応じて、保存剤、安定化剤、バッファー、抗酸化剤および/または他の添加物を含有させることができる。リポソーム、特に陽イオンリポソームを、担体製剤中で用いることができる。
【0164】
上記の技術およびプロトコルの例を、Remington's Pharmaceutical Sciencesに見出すことができる。
【0165】
本発明の様々な態様は、医学的治療方法、特に、神経変性疾患またはニューロン喪失の治療方法を提供する。好ましい実施形態においては、神経変性疾患は、パーキンソン病またはパーキンソン症候群である。
【0166】
本発明は、個体における神経変性疾患またはニューロン喪失を治療する方法であって、
(a)本発明に従うin vitroもしくはex vivo方法を用いて神経細胞を処理すること;および
(b)該神経細胞、もしくは該細胞の子孫を、該個体に投与すること、
を含む、前記方法を提供する。
【0167】
本発明は、個体における神経変性疾患またはニューロン喪失を治療する方法であって、本発明により提供される神経細胞を該個体に投与することを含む前記方法を提供する。
【0168】
前記投与は、前記神経細胞を前記個体の脳に埋め込むことを含んでもよい。好適な移植技術が当業界で公知である。埋め込まれた細胞は、失われた神経組織を置換し、それによって神経変性疾患もしくはニューロン喪失を改善するか、または個体における神経組織の喪失もしくは神経変性を防止するか、もしくは遅延させることができる。
【0169】
本発明の方法により処理され、および/または本発明における治療方法において用いられる神経細胞は、治療しようとする個体に対して内因性である、すなわち、その個体から以前に得られたものであるか、またはその個体から以前に得られた組織もしくは細胞の子孫であってもよい。内因性細胞は、治療する個体の細胞と同じ遺伝材料を有し、かくして、免疫系による拒絶の問題を限定する。あるいは、該細胞は、該個体に対して外因性であってもよい。本発明の方法において処理または使用することができる幹細胞および神経細胞の起源は、本明細書の他の場所に記載されている。
【0170】
神経組織の移植は、神経変性障害もしくはニューロン喪失を有する個体において、失われたニューロン組織を置換するための魅力的な技術であるが、代替的な治療は、再生、修復を促進するか、もしくは幹細胞もしくは前駆細胞の発達および/もしくは動員を誘導するのに必要とされる物質の直接的注入、またはこれらの機能を調節する薬剤の投与である。
【0171】
本発明は、個体における神経変性疾患またはニューロン喪失を治療する方法であって、該個体に、Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸、Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA、Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸、CCL2、CCL7、BLC-1/CXCL13、SDF1/CXCL12、I-Tac/CXCL11、IL-8/CXCL8もしくはIL-6/CXCL6ケモカイン、およびそのようなケモカインをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質を投与することを含む、前記方法を提供する。かくして、個体においてin situの神経細胞を、該個体への前記物質の投与により処理することができる。上記のように、前記細胞は、治療する個体にとって内因性もしくは外因性であってよく、埋め込まれた、もしくは移植された細胞であってもなくてもよい。
【0172】
移植の前および/もしくは後の幹細胞もしくは神経幹細胞、前駆細胞、またはニューロンの生存、増殖、分化および/または成熟を促進する能力は、成体の脳に移植された場合、アストログリアの運命に分化する移植された幹細胞の偏りを改善する。
【0173】
従って、本発明の材料および方法を用いて、移植後に、すなわち、治療しようとする個体においてin situで神経細胞を処理することができる。移植後の処理を、移植された細胞を移植する前に本発明の方法により処理するかどうかに関わらず、本発明の方法を用いて実施することができる。
【0174】
あるいは、またはさらに、本発明の材料および方法を、治療しようとする個体の脳においてin situで移植されていない細胞に対して用いることができる。本発明の物質または組成物を、脳もしくは他の望ましい部位に局所化された様式で個体に投与するか、またはそれが脳もしくは他の神経細胞に到達する様式で送達することができる。好ましくは、この物質または組成物を、治療しようとする神経細胞に対して標的化する。
【0175】
標的化治療を用いて、抗体または細胞特異的リガンドなどの標的化系の使用により、特定の型の細胞により特異的な活性物質を送達することができる。例えば、薬剤が許容できないほど毒性的であるか、またはさもなければそれが高すぎる用量を必要とするか、またはさもなければそれが標的細胞に進入することができない場合など、様々な理由から、標的化が望ましい。
【0176】
組合せ治療が可能である。例えば、本発明の1つ以上の方法を実施して、個体に投与するための細胞を調製することができる。投与後、神経細胞を、本発明の1つ以上の方法に従ってin situで処理して、投与される細胞の死を減少させ、さらなる増殖、成熟および/または分化を促進することができる。
【0177】
CXCL6を用いるin situでの処理は、DAニューロンの神経突起生成を促進するのに有用である。これは、移植された細胞の脳への組込みを促進し得る。また、CXCL6を、細胞に対する処理として用いた後、それらを身体に移植することができるが、投与の間に神経突起に対する損傷の危険性が存在し得る。
【0178】
本発明の様々なさらなる態様および実施形態は、本開示の観点で当業者には明らかであろう。本明細書に記載の全ての書類は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0179】
ここで、本発明の特定の態様および実施形態を、実施例により、および以下に記載の図面を参照して例示する。
【0180】
表1
c17.2-Nurr1幹細胞において上方調節された遺伝子の機能的分類
c17.2 Nurr1神経幹細胞(c42およびc48)と、c17.2対照神経幹細胞(pBおよびpD)との間の2つの独立したオリゴヌクレオチドチップ比較において共通に活性化される遺伝子を、その公知の、または推定される機能に従って分類した。比率は、遺伝子発現における増加を表す。
【0181】
表2
c17.2-Nurr1幹細胞において下方調節された遺伝子の機能的分類
c17.2 Nurr1神経幹細胞(c42およびc48)と、c17.2対照神経幹細胞(pBおよびpD)との間の2つの独立したオリゴヌクレオチドチップ比較において共通に抑制される遺伝子を、その公知の、または推定される機能に従って分類した。比率は、遺伝子発現における減少を表す。
【0182】
表3
マイクロアレイデータの検証
Affymetrix遺伝子チップ分析および定量的PCRにより算出された、選択された遺伝子の発現率の比較。定量的PCRについては、特異的プライマーを設計し、PCR値を、18Sハウスキーピング遺伝子の増幅値に対して正規化した。11種の無作為に選択された遺伝子のうち、10種が独立した培養物Nurr1-NSC中で確認された。
【0183】
表4
マウスE10.5中脳のケモカイン遺伝子発現プロフィール。
【実施例】
【0184】
実験および考察
神経幹細胞におけるNurr1により調節される遺伝子
本発明者らは、Affymetrix cDNAマイクロアレイを用いて、2つの独立した対照およびNurr1を発現する神経幹細胞系(NSC)のトランスクリプトームを比較した。これらのデータは、細胞の生存を促進する遺伝子(栄養因子/増殖因子およびストレス応答遺伝子)、および細胞死を防止する(キャスパーゼ-3およびキャスパーゼ-11発現の低下)遺伝子の調節を示す。本発明者らは、Nurr1を発現するNSCに由来する馴らし培地が、一次培養物における中脳ドーパミン作動性ニューロンの生存を増強し、Nurr1を発現するNSC自体が酸化ストレスに対してより抵抗性であることを観察した。これらの結果は、ドーパミン作動性分化の間にNurr1により調節される分泌されるシグナルおよび細胞に固有の生存シグナルの両方の存在を確認するものである。これらの知見は、脳領域特異的同一性(Engrailed-1)およびニューロン分化(チューブリンβIII)の獲得の両方を促進するNurr1と一致する遺伝子調節の力学的パターンに伴う。本発明者らの分析は、Nurr1クローン中でその高い上方調節を与えたDAニューロンの発生における、テナシン-Cの重要な役割を示唆していた。テナシン-Cヌルマウスの分析は、E15ではなく、E11.5でのドーパミン作動性ニューロン(TH+)数の増加を示したが、これはテナシン-Cが通常はNurr1前駆細胞を維持するように作用することを示唆している。
【0185】
材料および方法
細胞培養および処理
c17.2神経幹細胞を、以前に記載のように維持および継代した(Snyderら、1992)。累積細胞増殖曲線を作製するために、生細胞の総数を、トリパンブルー排除により各継代で評価し、500,000個の生細胞を塗布した。次の継代の時点で(in vitroで2日後)、生成された細胞数を決定し、細胞産生の比率に、曲線の以前の点における細胞の総数をかけた。増殖データを、式y = a.2sx(式中、yは細胞の総数であり、xはin vitroでの時間(日)(DIV)であり、sは2倍になる速度であり、およびaは定数である)により表した(Grittiら、1999)。分化のために、c17.2細胞を、規定の無血清培地(N2、F12と15 mM HEPESバッファーを補給したMEMとの1:1混合物、インスリン(5μg/mL)、アポ-トランスフェリン(100μg/mL)、プトレシン(100μM)、プロゲステロン(20 nM)、セレン(30 nM)、グルコース(6 mg/mL)、ウシ血清アルブミン(BSA、1 mg/mL)からなる)中、ポリ-D-リジンをコーティングしたウェル上に塗布し、3DIVの間増殖させた。細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて20分間固定した後、免疫細胞化学分析を行った。一次培養物については、E12.5マウス胚に由来する腹側中脳を切開し、ジスパーゼ/DNaseで処理し、機械的に解離され、20 ng/mL bFGFを補給したN2培地中で2時間、125,000個の細胞/cm2の密度で塗布した。次いで、培地を、c17.2細胞により24時間馴らされ、0.2μm濾過されたN2に変更した。
【0186】
RNA調製、リアルタイムRT-PCR、および遺伝子発現の定量
c17.2細胞に由来するRNAを、RNase Mini Kit (Qiagen)を用いて抽出した。2つの対照(pBおよびpD)ならびに2つのNurr1を過剰発現する細胞系(c42およびc48)から得た5μgの総RNAを、RQ1 RNaseを含まないDNase (Promega, Madison, WI)で処理し、RNA完全性を電気泳動により評価した。1μgのRNAを、SuperScript II Reverse Transcriptase (Invitrogen)およびランダムプライマー(Invitrogen) (RT+反応)を用いて逆転写させ、逆転写酵素を用いない平行反応を対照として行った(RT-反応)。定量的PCRを、以前に記載のように実施した(Castelo-Brancoら、2003)。
【0187】
高密度オリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーション
RNAプローブを、供給業者の説明書(Affymetrix, Santa Clara, CA, USA)に従って標識した。第1鎖合成を、10μgの総RNAサンプルを用いるT7-(dt)24プライマーおよびSuperScript II Reverse Transcriptase (Gibco BRL Life Technologies)により実行した。第2鎖合成を、大腸菌DNA-ポリメラーゼI、大腸菌リガーゼ、およびRNaseHにより、SuperScript Choice System (Gibco BRL Life Technologies)に従って実施した。断片末端研磨を、T4-ポリメラーゼを用いて実施した。in vitro転写反応を用いて、ビオチン-11-CTPおよびビオチン-16-UTPをcRNAプローブ中に組み込んだ(BioArray HighYield RNA Transcript Labeling Kit, Enzo)。断片化されたcRNAを、DNAチップと一晩(45℃)ハイブリダイズさせた。製造業者のプロトコルに従って、GeneChip Fluidics Station (Affymetrix)中で洗浄を行った。RPhycoerythrin Streptavidin (Molecular Probes)を用いて染色を実施した後、ビオチン化抗ストレプトアビジン抗体(Vector laboratories)およびヤギIgG (Sigma)を用いて抗体増幅手順を行った。GeneArray Scanner (Hewlett Packard)を用いて、3μmの解像度、488 nmでの励起および570 nmの放射波長で走査を実行した。2種の対照(pBおよびpD)ならびに2種のNurr1を過剰する細胞系(c42およびc48)を、独立に加工した。データを総強度に基づいて見積もり、データ分析をAffymetrixソフトウェア(MAS 5.0)を用いて実施した。Wilcoxonの符号付き検定を適用することによりp値を算出した後、これを用いて複雑なコールを作製した。完全なマイクロアレイデータを、NCBI Gene Expression Omnibus (GEO)に登録し、ハイブリダイゼーションアレイデータをGSE3571として蓄積した(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/、任意のウェブブラウザを用いて見出すことが可能なウェブサイト)。
【0188】
免疫細胞化学分析
PBST (1x PBS、1% BSA、および0.3%Triton X-100)中、室温で1時間ならびにブロッキングバッファー中に希釈した対応する一次抗体と共に4℃で一晩、培養物をブロックした。以下の抗体:マウス抗β-チューブリンIII型(TuJ1)、1:2000 (Sigma);マウス抗TH、1:10,000 (Diasorin);ウサギ抗GFAP、1:500 (Dako);ウサギ抗テナシン-C(TN-C)、1:250 (Chemicon);マウス抗切断キャスパーゼ-3(Asp175)、1:100 (Cell Signaling Technology);マウスネスチン(Rat-401)、1:500 (DSHB, University of Iowa)を用いた。洗浄後、培養物を1:500に希釈されたビオチン化二次抗体と共に2時間インキュベートし、Vector Laboratory ABCイムノペルオキシダーゼキットおよびSupergrey基質を用いて、免疫染色を可視化した。免疫蛍光のために、Cy2-またはローダミン-結合二次抗体(Jackson ImmunoResearch)の1:100希釈液を用いた。次いで、培養物をPBS中で2回リンスし、分析した。
【0189】
細胞死および酸化ストレスアッセイ
酸化ストレス実験のために、c17.2細胞を60%集密度まで増殖させ、5000個の細胞/cm2の密度で塗布し、一晩増殖させた。次の日、新鮮な培地を添加し、細胞を新鮮に希釈された25μMのH2O2で0または6時間処理した。ペルオキシド処理の後、細胞を4%PFAを用いて20分間固定し、リンスし、PBS/5%ヤギ血清を用いて室温で30分間ブロックした。切断されたキャスパーゼ-3に関する免疫細胞化学分析を、上記のように実施した。次に、Hoechst 33328の1:500希釈液(0.5 mg/ml)を室温で5分間添加した。細胞をPBS中で2回洗浄し、Zeiss HBO100顕微鏡下で可視化し、計数した。細胞生存能力アッセイのために、細胞系を上記のように増殖させ、塗布し、処理した。細胞を、氷冷PBS中、100μg/mlのHoechst 33342および2μg/mlのヨウ化プロピジウムを用いて染色した。10分後、固定されていない染色された細胞をすぐに計数した。
【0190】
テナシン-Cノックアウトマウスおよび免疫組織化学分析
テナシン-C(TN-C)ヌルマウスは、以前に記載されたものである(Fukamauchiら、1997;Fukamauchiら、1996)。胚を氷冷4%PFA中で6時間固定し、20%スクロース中で凍結防止し、-70℃でOCT化合物中で凍結させた。次に、腹側中脳全体の14μMの連続冠状切片を低温保持装置上で切断した。免疫組織化学分析を、4%パラホルムアルデヒドで固定後のスライド上で実施した。PBS、pH 7.3、1%BSA、および0.3%Triton X-100溶液中に希釈された下記抗体:ウサギ抗Nurr1 (1:500希釈液、Santa Cruz Biotech)、ウサギ抗TH (1:1000、Pel-Freeze)、ラット抗BrdU (1:200、Abcam)、マウス抗リン酸化ヒストンH3 (Ser10) (1:100、Upstate)、マウス抗RC2 (1:200、DSHB)、モルモット抗グルタミン酸輸送因子、GLAST (1:2000、Chemicon)と共に、インキュベーションを4℃で一晩行った。洗浄後、切片を希釈バッファー中で30分間ブロックした後、二次抗体[Cy2/3 (シアニン)-結合ロバ抗マウスIgG、Cy2-結合ロバ抗ウサギIgG (1:200希釈液、Jackson ImmunoResearch)]と共に2〜4時間インキュベートした。Zeiss HBO100顕微鏡を用いることにより、免疫染色を可視化した。BrdU分析のために、妊娠したマウスに0.5 mlの1 mg/ml BrdU/塩溶液を、犠牲にする前に6時間注入した。BrdUの検出のためには、予備インキュベーション前に15分間の2 N HClを用いる予備処理が必要であった。Zeiss HBO100顕微鏡を用いて染色を可視化し、HamamatsuカメラC4742-95を用いて画像を収集した。
【0191】
結果
Nurr1神経幹細胞のマイクロアレイ分析
Nurr1の過剰発現は、神経幹細胞(Wagnerら、1999)およびES細胞(Chungら、2002;Kimら、2002)の中脳ドーパミン作動性(DA)ニューロンへの分化を容易にするが、増殖している細胞における下流遺伝子発現に対するNurr1の効果は明らかではなかった。
【0192】
本発明者らは、Nurr1を用いて安定的にトランスフェクトされた増殖しているc17.2神経幹細胞系(Wagnerら、1999)の転写プロフィールを決定した。2種のNurr1を過剰発現するクローン、クローン42およびクローン48、ならびに対照ベクターでトランスフェクトされた2種の対照クローン、pBおよびpDを、この試験のために選択した。クローン42およびクローン48を、未熟な腹側中脳グリアとの同時培養に際してTH+ドーパミン作動性ニューロンになる高い潜在能力に起因して生成された全てのNurr1をトランスフェクトされた細胞系から選択した(Wagnerら、1999)。累積in vitro細胞増殖曲線を作製し(図5A)、前記クローンに関する集団倍加速度(PoD、DIVにおける倍加時間の逆数)を、これらの曲線から見積もった(クローン42についてはPoD = 0.57±0.05、クローン48についてはPoD = 0.84±0.02、クローンpBについてはPoD = 0.53±0.09、クローンpDについてはPoD = 0.75±0.01)。
【0193】
試験に対する増殖の効果を最小化するために、Nurr1および対応する対照クローンを、その倍加速度に従って一致させ(c42とpBおよびc48とpB)、遺伝子発現比較のためにさらに加工した(図5A)。
【0194】
クローン42(c42)対クローンpuroB (pB)と、クローン48(c48)対クローンpuroD (pD)の全体の遺伝子発現パターンを、AffymetrixマウスU74v2 A型マイクロアレイを用いて比較した。c17.2クローンに由来する総RNAを単離し、逆転写し、チップにハイブリダイズさせた。問い合わせた12,000個を超える遺伝子のうち、合計1949個の遺伝子が上方調節されたが(c42/pB減法中1081個、およびc48/pD減法中868個)、2502個の遺伝子が下方調節された(c42/pB中1472個およびc48/pD中1030個)。しかしながら、2つの独立した比較間で協調して調節される遺伝子のみを、さらなる検証および定量分析のために考慮した。これらの遺伝子は、190個の活性化された遺伝子および203個の抑制された遺伝子を含んでいた(図5B)。
【0195】
神経幹細胞中でNurr1により調節される遺伝子の分類および確認
公知の機能もしくは推定される機能を有する同定された遺伝子の分布を図5Cに示し、完全な一覧がオンラインで利用可能である(NCBI/GEO GSE3571)。最も高い数の上方調節および下方調節される遺伝子は、その機能が未知である発現配列タグ(23%)を表した。特性評価された遺伝子の大多数が、コードされた転写因子(11%)および細胞内シグナリングに関与するタンパク質(15%)を調節した。増殖因子を誘導するいくつかの分泌されたリガンド(3%)、および細胞外マトリックス/細胞接着分子(13%)も調節された。さらに、Nurr1過剰発現は、サイクリンB2、D1、およびp21などの多数の細胞周期遺伝子を下方調節したが(4%)、その調節は腹側前駆細胞の分化に関与してきた(Josephら、2003)。また、Nurr1過剰発現は、多数の前アポトーシス遺伝子の下方調節(10%)(キャスパーゼ-3および-11の下方調節)と同時に起こる栄養/生存シグナルの上方調節をももたらした。より詳細な分析のために、本発明者らは、2つの独立した比較の両方において、少なくとも2倍または平均で2.5倍、上方または下方調節される遺伝子に関する本発明者らの研究に焦点を当て、広い生物学的機能によりそれらを分類した(それぞれ、表1および表2を参照)。多くの遺伝子がチップ中に数回出現し、一致した発現を示し、それによってハイブリダイゼーションを検証した。マイクロアレイの結果を確認するために、対応するクローンまたはNurr1で一過的にトランスフェクトされたc17.2神経幹細胞中で、遺伝子を定量的PCRのために無作為に選択した。本発明者らは、分析された実質的に全ての事例(11のうち10)において、選択された遺伝子が確認されることを見出した(表3)。
【0196】
さらに、Nurr1クローン中に認められる遺伝子調節が、Nurr1過剰発現と本当に関連していたかどうかを独立に評価するために、親c17.2神経幹細胞系の一過的トランスフェクション実験も実施した。マイクロアレイ中で調節された9個の選択された遺伝子の発現プロフィールを、いくつかの時点で分析した(図6)。
【0197】
本発明者らのデータに従えば、これらの9個の遺伝子のうちの7個も、Nurr1一過的トランスフェクションに際してより高いレベルの発現を示し、トランスフェクションの96時間後、すなわち、Nurr1 mRNAについて一過的発現のピークが検出された後にも、ほとんど活性化されたままであった。
【0198】
Nurr1はNSC中でニューロンマーカーの発現を誘導する
本発明者らのマイクロアレイなどのいくつかの一連の証拠は、ニューロン分化におけるNurr1の異なる機能を示唆していた(Arenas, 2002; Arenas, 2005)。このプロセスにおけるNurr1の効果を調査するために、本発明者らは、進行的ニューロン分化の段階を規定するいくつかのマーカーを用いて対照およびNurr1 NSCクローンの両方を染色した。対照およびNurr1 NSCは両方とも、神経幹細胞マーカーであるネスチンについて陽性に染色した(図1A)。しかしながら、Nurr1を過剰発現するクローンのみが、ニューロン細胞骨格タンパク質チューブリンβIII (TuJ1)に対して高レベルの免疫反応性を示し(図1A)、遺伝子はマイクロアレイ中で4倍上方調節された。Nurr1を過剰発現するNSCも、いくつかのニューロン型の発生および維持にとって重要な細胞外マトリックスタンパク質である、テナシン-Cに対して免疫反応性であった(Fukamauchiら、1997;Fukamauchiら、1996)(図1A)。これらの観察は、対照細胞ではなく、実質的に全てのNurr1過剰発現細胞が、二極性ニューロン形態を獲得し、分裂促進因子を含まない規定の培地中での分化に際してTuj1およびテナシン-Cに対する抗体を用いて二重標識されるという知見と一致していた(図1B)。c48およびpDについても同様の結果が観察された。これらの結果は、未分化の神経幹細胞におけるNurr1レベルの上昇が、遺伝子チップ分析により同定されたニューロン表現型を定義する、いくつかの遺伝子(チューブリンβIII、ニューロフィラメント、およびTN-C)の発現を活性化することを確認する。
【0199】
Nurr1過剰発現は生存および酸化ストレスに対する抵抗性を促進する
遺伝子チップの結果は、TGFおよびNGFなどの、Nurr1により上方調節されるいくつかの栄養因子および生存シグナルを示した(両クローンにおいて少なくとも2倍上方調節された)。Nurr1を過剰発現する細胞により発現された栄養因子が生物学的に活性であるかどうかを評価するために、対照およびNurr1を過剰発現する細胞系に由来する馴らし培地を回収した。腹側中脳E12.5一次培養物へのc42またはc48に由来する馴らし培地の添加は、両方の対照細胞系に由来する馴らし培地の添加と比較してTH+ドーパミン作動性ニューロンの数を増加させた(図2Aおよび2B)が、これは、Nurr1クローンにより発現される栄養因子がDAニューロンの生存および/または分化を実際に促進することを示唆している。
【0200】
分泌される因子に加えて、いくつかの生存、ストレス応答/DNA修復、および抗アポトーシス因子も、Nurr1クローン中で誘導された(例えば、LRG-21、gadd45β、およびPKC)。
【0201】
注目すべきことに、いくつかの前アポトーシス遺伝子が下方調節された(例えば、ASM様ホスホジエステラーゼ、Mekk1、キャスパーゼ-3、およびキャスパーゼ-11)。酸化ストレスに対する細胞応答の調節に関与するいくつかの遺伝子(例えば、酸化ストレスにより誘導されるタンパク質およびシトクロムb5)の上方調節も観察された(両クローンにおいて約1.5倍上方調節された)。酸化ストレスは、PDなどのいくつかの神経変性疾患の病態生理に関与する(JennerおよびOlanow、1996;KleinおよびAckerman、2003;ShererおよびGreenamyre、2005)。従って、本発明者らは、Nurr1発現が、酸化ストレスにより誘導される死から細胞を保護するかどうかを試験した。Nurr1を過剰発現する神経幹細胞と対照との両セットを、いくつかの濃度のH202で処理し、6時間後に生細胞を計数した。25μMを超えるH2O2での過酸化物処理は、両セットのクローン中での細胞死の誘導において有効であった。対照およびNurr1を過剰発現する細胞の両セットに由来する培養物を、25μM過酸化物で処理した後、ヨード化プロピジウムで染色して、死んだ細胞を同定した。対照と比較して、有意に(40%)低い細胞死が、Nurr1を過剰発現する細胞において観察された(図3Aおよび3B)。過酸化物処理の際のアポトーシスの程度を確認するために、本発明は、免疫細胞化学分析により切断されたキャスパーゼ-3の存在を評価した。対照と比較して、より少ないNurr1を過剰発現する細胞が、切断されたキャスパーゼ-3に対して免疫反応性であった(図3C)。同時に、これらの結果は、Nurr1が細胞の生存を促進し、アポトーシス応答に関与するいくつかのタンパク質を下方調節することにより、NSCに酸化ストレスに対する耐性を付与するのを助けることを示している。
【0202】
テナシン-CヌルマウスにおけるDAニューロンの早期分化
TN-C発現は以前に、E9-E13から腹側中脳を通して検出された。しかしながら、ドーパミン作動性ニューロンの発生におけるTN-Cの役割は、大きくは依然として未知である(Kawanoら、1995)。本発明者らの遺伝子発現プロフィールは、Nurr1クローンにおいてその上方調節を与えたDAニューロンの発生におけるTN-Cの重要な役割を示唆していた(表1)。in vivoでのTN-Cの役割を調査するために、本発明者らは、テナシン-Cノックアウトマウスを分析した。ドーパミン作動性神経発生の開始時(E11)に、TN-Cヌルマウスにおいてチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性細胞数が増加した(図4Aおよび4B)。この増加は、より外側のドーパミン作動性ニューロン集団に限定されていた。しかしながら、過剰のドーパミン作動性ニューロンを、E15およびP1により、神経発生がin vivoで終了した期間について補正した(図4B)。本発明者らは、TN-Cノックアウトにおいて観察された初期表現型は、増殖しているDA前駆細胞の過剰産生またはVMの増殖能力における変化を反映し得ると仮定した。後者を評価するために、本発明者らは、細胞周期のS期にある細胞を標識するマーカーであるBrdUを用いて、遺伝子型間で増殖している細胞数を比較した。BrdU分析により、野生型とTN-Cヌルマウスの間のE11(767.66±59.88および708.00±37.32、それぞれ図4C)またはE12.5の腹側中脳における増殖している細胞数の変化がないことが示された。これらの結果を、増殖している細胞のさらなるマーカーである、リン酸化ヒストンH3を用いてさらに確認した。活性なキャスパーゼ-3免疫反応性細胞の数は、野生型とTN-Cヌルマウスの間で異ならなかった。これらのデータは、TN-Cの欠失が、増殖または細胞の生存を変化させることにより、DAニューロンの数を増加させないことを示唆している。本発明者らは次に、幹細胞として働き、発生中の中脳(Hallら、未公開データ)などの中枢神経系(Haubensakら、2004;ShererおよびGreenamyre、2005)における領域特異的神経分化を指令することができる細胞である、放射状グリアを試験した。しかしながら、E11のTN-Cヌルマウスにおいては、RC2またはGLAST免疫反応性における変化が観察されなかった(図4D)。さらに、TN-Cノックアウトマウスを、Nurr1+ DA前駆細胞における変化について分析した。E11で、野生型とTN-Cノックアウトマウスの間でNurr1+細胞における変化は観察されなかった(図4Dおよび4E)。これらのデータは、TNCは通常、in vivoでTH-状態の初期Nurr1+前駆細胞を維持するように働き、その欠失に際して、DA分化プロセスがE11で加速されるが、神経発生の終わりには、TH+細胞の総数は変化しないことを示している。
【0203】
考察
発生中にNurr1により調節される分子経路におけるより多くの見識を得るために、本発明者らは、Affymetrixマイクロアレイを用いて、増殖している神経幹細胞系においてNurr1により調節される遺伝子の分析を実施した。問い合わせた12,000個を超える遺伝子のうち、本発明者らは、Nurr1による調節を示した約400個の遺伝子を同定した。本発明者らが本明細書で報告する知見は、ニューロン表現型へのその分化を開始させることにより、神経幹細胞/前駆細胞の能力を低下させるNurr1の役割を支持する。
【0204】
興味深いことに、このプロセスは、脳における領域的同一性を提供し、細胞の生存および酸化ストレス耐性を付与する遺伝子の発現における増加により達成された。かくして、Nurr1は、発生中に多様な遺伝子の機能を協調させるようである。
【0205】
幹細胞分化の促進におけるNurr1の役割は、このマイクロアレイに由来するデータにより支持され、当該データは、神経幹細胞マーカー、分裂促進因子、およびその同族受容体、ならびに細胞周期の進行を制御するタンパク質の発現が下方調節されることを示している(NCBI/GEO GSE3571を参照)。これらの遺伝子の下方調節は、Nurr1+細胞における細胞周期出口と分化プログラムの結合に寄与し得る。興味深いことに、Nurr1は、ドーパミンを合成するニューロン細胞系MN9D(Castroら、2001)中でのサイクリン依存的キナーゼ阻害因子p57kip2と協調して、細胞周期の停止および分裂後の成熟を誘導する。従って、本発明者らは、本発明者らの試験において下方調節されるいくつかの細胞周期遺伝子、特に、サイクリンB2、D1、およびp21を見出した(全て、両比較において少なくとも1.5倍下方調節され、定量的PCRにより確認される)。
【0206】
本発明者らの結果は、増殖しているc17.2-Nurr1細胞が、多能性神経幹細胞から前駆/未成熟ニューロンへの移行状態であることを示唆している。従って、中間ニューロフィラメントポリペプチドをコードする細胞骨格タンパク質が、Nurr1クローンにおいて強く誘導された。この結果は、Nurr1クローンにおけるチューブリンβIII(初期ニューロンマーカー)とテナシン-C(神経発生に関与する)との同時局在と共に、増殖しているc17.2-Nurr1細胞が既にニューロン分化プログラムを開始したことを示唆している。B-FABP発現の強い抑制も検出された;発生中の脳における神経上皮細胞および放射状グリア細胞中で高度に発現され、NSC培養物中で富化される脂肪酸輸送因子(Contiら、2005;Kurtzら、1994)。従って、筋肉の細胞骨格タンパク質であるミオシンXなどの非ニューロン発生に関与するいくつかの遺伝子の発現が抑制された(両クローンにおいて2.5倍下方調節された)。同時に、これらの結果は、Nurr1発現が、NSCにおけるニューロン表現型の発生に対する陽性の効果を有することを示している。
【0207】
協調的な様式でNurr1により制御される遺伝子の別の重要なセットは、細胞の生存の促進に関与するものである。いくつかの研究は、中脳ドーパミン作動性ニューロンの誘導および生存にとって重要なタンパク質を同定した(LinおよびRosenthal、2003;Smidtら、2003)。
【0208】
さらに、Nurr1-RXRヘテロダイマーを活性化するRXRリガンドは、ドーパミン作動性ニューロンの生存にとって重要であることが証明された(Wallen-Mackenzieら、2003)。ここで、本発明者らは、Nurr1を発現するNSCにおける、いくつかの神経栄養因子の上方調節および前アポトーシス遺伝子の下方調節を観察した。特に、Nurr1を過剰発現するNSCにおいて上方調節される遺伝子は、ドーパミン作動性ニューロンの誘導(TGF-β)および出産後の発生(GDNF)にとって必要とされる2種の栄養シグナルであった(Farkasら、2003;Granholmら、2000)。実際、TGF-βおよびGDNFは両方とも、PDの動物モデルにおける機能的欠陥を軽減することが示された(Fernandez-Espejoら、2003;Gillら、2003)。c42またはc48細胞に由来する馴らし培地は、対照馴らし培地と比較して、腹側中脳E12.5一次培養物におけるTH+ドーパミン作動性ニューロンの数を増加させるという観察は、栄養因子の上方調節と一致していた。本発明者らの結果は、Nurr1の過剰発現が、ドーパミン作動性ニューロンの生存にとって後に必要とされるいくつかのシグナルの発現を誘導することを示唆している。
【0209】
さらに、Nurr1クローンにおいて、生存およびストレス応答/DNA修復/抗アポトーシス因子の両方が誘導された(例えば、LRG-21およびgadd45βは、それぞれ両方とも2.5倍および1.6倍上方調節された)が、前アポトーシス遺伝子は下方調節された(例えば、キャスパーゼ-3、およびキャスパーゼ-11)。
【0210】
c17.2細胞中でNurr1により調節される別の遺伝子は、細胞ストレス応答に関与し(HaiおよびHartman、2001)、発作(Chenら、1996)および軸索切断(Tsujinoら、2000)により調節される活性化転写因子/CREBタンパク質ファミリーのメンバーであるLRG-21であった。本発明者らはまた、細胞周期制御およびDNA修復に関連するタンパク質ファミリーに属し(Zhanら、1999)、前アポトーシスc-Jun N-末端キナーゼシグナリングを下方調節する(De Smaeleら、2001)誘導因子である、gadd45βのレベルの増加も検出した。
【0211】
かくして、総合すれば、本発明者らの結果は、Nurr1の主な機能の1つは、ストレス応答遺伝子および抗アポトーシス遺伝子の発現を組織化することにより、生存を促進することであることを示している。Nurr1の前生存効果をさらに調査するために、本発明者らは、Nurr1発現が、酸化ストレスにより誘導される死から細胞を保護するかどうかを試験した。チロシンヒドロキシラーゼ活性は、そのコファクターと共に酸化還元機構において酸素ラジカルを形成するため、酸化的損傷に関する潜在能力は、本来はNurr1+/TH+ドーパミン作動性ニューロンに関連する(Adamsら、1997)。25μMを超えるH2O2を用いる酸化処理の際の細胞生存率は、対照と比較してNurr1クローンについてより高かった。Nurr1を過剰発現する細胞において遊離ラジカルホメオスタシスを維持するのに重要ないくつかの酸化ストレスタンパク質の発現における上方調節を示す(NCBI/GEO GSE3571を参照)、マイクロアレイデータも、これらの知見を支持していた。Nurr1-NSCも、対照と比較して、過酸化物処理後に切断されたキャスパーゼ-3タンパク質のレベルの低下を示した。この結果は、1個のNurr1対立遺伝子の欠失がin vitroでDAニューロンの生存率を低下させ(Eellsら、2002)、低下したNurr1発現が、げっ歯類において酸化ストレスおよびPD様兆候を誘導する神経毒素であるMPTPに対するDAニューロンの脆弱性を増加させることを示す以前の知見と一致している(Imanら、2005;Leら、1999;ShererおよびGreenamyre、2005)。Nurr1クローンはまた、より低レベルのキャスパーゼ-11も発現した。
【0212】
最近の報告は、キャスパーゼ-11をノックアウトしたマウスが、野生型マウスよりもMPTPにより媒介される細胞死に対して抵抗性であることを示した(Furuyaら、2004)。さらに、PD患者におけるNurr1突然変異の最近の同定(Leら、2003)は、Nurr1により調節される生存および/または細胞死遺伝子の発現を、PDにおいて変化させることができることをさらに示唆している。増殖しているc17.2 Nurr1-NSCにおける最も高い誘導率の1つは、細胞外マトリックス糖タンパク質であるテナシン-Cと一致していた。テナシン-Cは、神経系の発生を通して、特定のパターンで示差的に発現される。テナシン-C発現は、オリゴデンドロサイト前駆細胞の移動、分化、および増殖低下、ならびにニューロンにおける軸索成長および誘導と良好に相関した(Garcionら、2001;JoesterおよびFaissner、2001)。興味深いことに、TN-Cを欠く成体マウスも、チロシンヒドロキシラーゼおよびドーパミンのレベルの変化に起因した過剰運動(hyperlocomotive)活性を示した(Fukamauchiら、1997)。しかしながら、TN-CヌルマウスはDA神経発生の終わりではなく、開始時により多い数のDAニューロンを示すため、運動活性において観察された増加を、DA細胞数の増加のせいにすることができない。本発明者らの結果は、E11でのTN-CヌルマウスにおけるNurr1+前駆細胞の早期分化の発生がE15により正常化することを示唆している。これらのデータは、発生においてより後に他の場所で正常な表現型を示す他の知見と一致している(Garcionら、2001;Garwoodら、2004)。本発明者らのデータも、神経発生の開始時に、TN-Cは、増殖性前駆細胞プールのサイズを調節しないが、TH-状態においてNurr1+分裂終了前駆細胞を保存する代わりに寄与することを示している。最近の報告は、Wntシグナリングの調節因子としてTN-Cを説明している(Beiterら、2005)。本発明者らの研究室に由来する研究はまた、Wntシグナルおよびβカテニン過剰発現は、Nurr1+前駆細胞の維持およびそのDAニューロンへの変換を示差的に調節することも示した(Castelo-Brancoら、2004;Castelo-Brancoら、2003)。かくして、本発明者らの結果は、初期Nurr1+分裂終了前駆細胞を未分化の状態で維持するTN-Cの新規機能を強調する。TN-Cのブロックまたは阻害を用いて、細胞置換治療のためにin vitroで多数のDAニューロンの生成を加速することができる。
【0213】
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【0214】
β-ケモカインであるCCL2およびCCL7は、Nurr1+腹側中脳前駆細胞のドーパミン作動性ニューロンへの分化を調節する
ケモカイン(化学走性サイトカイン)は、免疫系の細胞において多様な機能を調節する小タンパク質リガンドのファミリーを構成する(RossiおよびZlotnic、2000)。ケモカインは、C、CC、CXCおよびCX3Cと呼ばれる、4つの主要な群に分類される(システイン残基が位置する場所に基づく)。β-ケモカインファミリーとしても知られる、CCファミリーは、最初の2個の保存されたシステイン間に介在するアミノ酸残基を有さない(Bajettoら、2000)。ケモカインおよびその受容体は、CNS中の全ての主要な細胞型(ニューロン、アストロサイトおよびグリア)により発現され、最初は、生理学的および病態生理学的内容の両方において、白血球の移動およびコミュニケーションにおいて役割を果たすと認識された(Bajettoら、2001)。ケモカイン受容体は、ヘテロトリマーGTP結合タンパク質(Gタンパク質)に結合する7回膜貫通ドメイン受容体の大ファミリーに属する。多くのケモカイン受容体が存在するが、それらの多くはむしろ手当たり次第であり、1個だけでなく、いくつかのリガンドに結合する(GetherおよびKoilka、1998;WilsonおよびBergsma、2001)。β-ケモカインは、アストロサイト、血管周囲のミクログリアおよび浸潤性白血球上の細胞部位での炎症プロセスにおけるその機能について最もよく知られている(Fang、2000;MurdockおよびFinn、2000;Baggiolini、2001)。β-ケモカインは、単球に対する非常に強力な化学誘因物質かつ活性化因子であることにより、他のケモカインとは異なる(Baggioliniら、1997)。さらに、増殖体の証拠は、ケモカインおよびその受容体も、中枢神経系(CNS)において細胞間コミュニケーションを媒介することを示唆している(Bajettoら、2001)。この点と一致して、CCL2およびCCL7の両方に結合するケモカイン受容体であるCCR2は、ラット脳中のニューロンおよびグリアにより発現される(Jun Feng Jiら、2004)。さらに、Banisadrら(2002および2005)は、CCR2が成体の中脳黒質中で発現され、蛍光免疫組織化学を用いて、それらが黒質緻密部のドーパミン作動性(DA)ニューロン中でのCCR2の発現を局在化させることを見出した。これらの知見は、CCL2およびCCL7などのβ-ケモカインは、中脳またはその標的中で発現される場合、ドーパミン作動性ニューロンに対してシグナル伝達することができることを示唆していた。興味深いことに、本発明者らは以前に、マイクロアレイ分析およびQ-PCRにより、CCL7が、DAニューロンに分化することができるNurr1を過剰発現する神経幹細胞系において上方調節される(Sousaら、非公開)ことを示した(Wagnerら、1999)。これらの結果は、CCL7もDAニューロンの発生において役割を果たし得ることを示唆していた。
【0215】
本発明者らは本明細書により、CCL2およびCCL7が両方とも、背側中脳と比較して発生中の腹側中脳(VM)において高レベルで発現されることを報告する。本発明者らはまた、β-ケモカイン受容体CCR1およびCCR2が、VM前駆細胞中で発現されることも見出した。さらに、ラットE14.5 VM一次前駆細胞培養物をCCL2またはCCL7で処理した場合、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)ニューロン数およびTH+/Nurr1+細胞の割合の増加が検出された。CCL2もCCL7もTuj1、Nurr1もしくはBrdU陽性細胞数又は当該細胞の生存に対するいかなる効果も有さないという条件で、本発明者らの結果は、CCL2およびCCL7は、Nurr1+前駆細胞のTH+DAニューロンへの分化を選択的に増強することによりDAニューロンの発生を促進することを示している。
【0216】
材料および方法:
ケモカインアレイ
2.5μgの総RNAを、SuperScript II Reverse Transcriptase (Gibco BRL Life Technologies)および32P dCTPを用いてcDNAに逆転写した。プローブをマウスケモカインGEQArray (Superassay)にハイブリダイズし、製造業者の推奨に従ってデータを分析した。
【0217】
リアルタイムRT-PCRおよび遺伝子発現の定量
総RNAを、マウス胎生日(E)10.5、11.5、13.5、15.5およびP1の腹側中脳から単離した。逆転写反応およびリアルタイムRT-PCRを、記載のように実行した(Castelo-Brancoら、2003)。量子RNA古典的18S内部標準物を、Ambion (Austin、USA)から、PCRプライマーをDNA Technology a/S Aarhus, Denmarkから購入した。ABI PRISM 5700 Detection System (PE Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)上で、SYBR Green検出のために以下のPCRプログラムを用いた:94℃で2分間;94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で15秒間の35〜40サイクル;および80℃で5秒間。結果の統計学的分析を、両側Wilcoxon符号付検定を用いて実施した。全ての検定に関する有意性を、P<0.05 (*P<0.05、**0.01<P<0.001;***P<0.001)のレベルで仮定した。
【0218】
前駆細胞培養物および処理
時期に交尾させたSprague-Dawleyラットから得られた14.5日の胚に由来するVMを、切開し、機械的に解離させ、F12とN2補給物質を含むMEMの1:1混合物、300 mgグルコース、50 mg BSA、750マイクロリットルのHEPESおよび250マイクロリットルのグルタミンからなるN2無血清培地中、ポリ-Dリジンで被覆された6または24穴プレート上に1 x 105細胞/cm2の最終密度で塗布した。全ての因子を、培養の開始時に一度に添加し、BrdUを固定の6時間前に添加した。
【0219】
ニューロスフェア培養物および処理
VMをE11.5の野生型CD-1マウス胚から切開し、プロテアーゼおよびDNaseを用いて解離させ、35 mm皿中100,000細胞/mlの最終密度で塗布した。細胞を、完全培地:3 mlのグルコース(20%)、1.5 mlのNaHCO3 (7.5%)、0.5 mlの1M hepes、1 mlのL-グルタミン、1 mlのゲンタマイシン、50μlのヘパリン、0.4 gのBSAおよび10 mlのホルモンミックスを含む41.5 ml F12及び41.4 ml DMEM(F12とDMEMの1:1混合物、1.2 mlのグルコース(20%)、0.6 mlのNaHCO3 (7.5%)、0.2 mlのhepes (1M)、40 mgのアポ-t-トランスフェリン、10 mgのインスリン、プテセリン、プロゲステロンおよび亜セレン酸ナトリウム)中で培養した。bFGFおよびEGFを、それぞれ、300 ng/mlのCCL2および100 ng/mlのCCL7 (R & D Systems)を含む/含まない20 ng/mlの濃度で添加した。長期間の培養のために、遠心分離により4日後にニューロスフェアを回収し、完全培地中に再懸濁し、200μl自動ピペットを用いて磨砕し、上記のように塗布した。
【0220】
免疫細胞化学分析
細胞を、氷冷4%パラホルムアルデヒド中、15〜20分間、免疫細胞化学分析のために固定し、PBSで洗浄し、以下の抗体のうちの1種:マウス∝TH(1:250希釈;Immunostar)、ウサギ∝TH(1:500;Pelfreeze)、ウサギ∝Nurr1 (1:500;Santa Cruz)、ウサギ∝活性キャスパーゼIII(1:100;Cell Signalling)、マウス∝BrdU(1:200;Dako)、ラット∝BrdU (1:200;Abcam)、Tuj1、またはネスチンを含む希釈バッファー(1 x PBS、1% BSAおよび0.3%Triton-X 100)中で一晩インキュベートした。洗浄後、培養物を、好適な二次抗体(ビオチン化された1:500希釈液、CY2もしくはローダミン結合ウマ抗マウスIgG 1:100、全てVectorから購入)を含む希釈バッファー中で1〜2時間インキュベートした。明視野免疫染色を、NovaRed (赤色)、SGもしくは3-3'ジアミノベンズイジンテトラヒドロクロリド(DAB 0.5 mg/ml)/塩化ニッケル(1.6 mg/ml) (灰色/黒色)、またはVIP(紫色)基質を用いる、Vector Laboratory ABC免疫ペルオキシダーゼキットを用いて可視化した。二重免疫染色を、上記のような連続的単一染色により実行した。全ての染色手順の終わりに、培養物をHoechst 33258試薬と共に10分間インキュベートした。BrdU免疫細胞化学分析は、2M HCLとの30分間のインキュベーションを含んでいた。Zeiss Axioplan 100M顕微鏡(LD Achrostigmat 20X、0.3 PHI∝0.2およびLD Achroplan 40X、0.60 Korr PH2 ∝0.2)を用いて、室温でPBS中の染色された細胞から画像を獲得し、HamamatsuカメラC4742.95 (QED画像化ソフトウェアを用いる)を用いて収集した。
【0221】
免疫ブロッティング
組織を、マウスE11.5腹側中脳から回収し、溶解バッファー中で溶解させた。BCAキットを用いるタンパク質測定のために、タンパク質を清潔なチューブに移し、Laemmliバッファー中で保存した。等量のタンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(12.5%ポリアクリルアミド)により分析した。タンパク質をポリビニリデンジフルオリド膜上に移した。5%ミルクを含むPBS中で1時間ブロッキングした後、膜を以下の一次抗体:ヤギα-MCP-1/JE (1:500; RnD);ヤギα-MCP-3/MARC (1:250; RnD)と共に、4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、膜をアルカリホスファターゼ結合二次α-ヤギ抗体(1:5000; Pharmacia Amersham)と共に室温で1時間インキュベートした後、化学発光の増強について製造業者の説明書に従って現像した。
【0222】
統計学的分析
定量的免疫細胞化学データは、3回の別々の実験に由来する条件あたり3個のウェルにおける、10個の非重複視野に由来する計数の平均±s.e.m.である。RT-PCR実験については、3回の別々の実験を分析した。統計学的分析を、図面の凡例に記載のようにPrism4 (GraphPadソフトウェア、San Diego、USA)において実施し、全ての検定に関する有意性を、P<0.05 (*P<0.05、**0.01<P<0.001; ***P<0.001)のレベルで仮定した。統計学的検定を、サンプル集団の分布に従って選択した。
【0223】
結果
ケモカインアッセイ
本発明者らは、発生段階E10.5およびE12.5におけるマウス胚性腹側中脳(VM)および背側中脳(DM)組織から抽出したmRNAを用いて遺伝子チップ分析を実施した。このmRNAを32P-標識cDNAに逆転写し、67種のケモカインおよびケモカイン受容体遺伝子を含むGearray膜にハイブリダイズさせた。これらの67種の異なる遺伝子のうち、本発明者らは、発生中の中脳において発現される14種の遺伝子を見出した(表を参照)。本発明者らは、β-ケモカインファミリー(CC-ファミリー)に属するリガンドに対して本発明者らの注意を向けた。E10.5中脳においては、1種のβ-ケモカイン(CCL7)が、DMと比較して、VM中でより高いレベルで発現された。同じケモカインは、VM中で、より後期の段階、E12.5でも発現された。
【0224】
腹側中脳におけるCCR受容体の発現
ケモカイン受容体は、ヘテロトリマーGTP結合タンパク質(Gタンパク質)に結合する7回膜貫通ドメイン受容体の大ファミリーに属する。様々な種類のケモカイン受容体が存在するが、それらの多くはいくつかのリガンドに結合することができる(GetherおよびKoilka、1998;WilsonおよびBergsma、2001)。しかしながら、全てのリガンドは、受容体の特定のサブセットに結合する。例えば、CCL7はCCR1、CCR2、CCR3、およびCCR9に結合するが、別のリガンドであるCCL2はCCR2およびCCR11に結合する。本発明者らは次に、定量的リアルタイムPCR分析(Q-PCR)を実施し、CCR1およびCCR2が両方とも、マウスVM中の異なる段階(E10.5、E11.5、E13.5、E15.5、およびP1)で発現され、発生調節されることを見出した(図7A-B)。
【0225】
CCL2およびCCL7の発現パターン
発生中の腹側中脳においては、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)ドーパミン作動性ニューロンは、マウスにおける胎生日E11.5周辺で生じる。この脳領域でのTH+ニューロンの誕生前に、転写因子およびオーファン核受容体Nurr1が、E10.5でドーパミン作動性前駆細胞により発現される。Nurr1は、適切なドーパミン作動性ニューロン発生にとって必要である(Zetterstromら、1997;Saucedo-Cardenasら、1998;Castilloら、1998)。本発明者らは以前に、Nurr1過剰発現がc17.2神経幹細胞系のニューロン分化を誘導し、これらの細胞が胎児/新生児中脳アストロサイトとの同時培養に際してドーパミン作動性運命を採用することを証明した(Wagnerら、1998)。本発明者らは最近、CCL7がNurr1を過剰発現する神経幹細胞系において上方調節されることも見出した(Sousaら、準備中)。従って、本発明者らは、CCL7およびCCL2が、発生中のマウスのVM中で発現されるかどうかを、Q-PCRにより試験することを決定した。本発明者らは、E10.5、E11.5、E13.5、E15.5およびP1段階を試験し、CCL7およびCCL2が発生調節されることを見出した(図8A-B)。さらに、ウェスタンブロットによるタンパク質発現の分析により、検出可能なレベルのCCL7およびCCL2の両方が示された。かくして、本発明者らの結果は、CCL7、CCL2およびその受容体CCR2が、ドーパミン作動性ニューロンの誕生時に発生中の腹側中脳において発現されることを示している。従って、本発明者らは、CCL7もVMのDAニューロンの発生を調節することができるかどうかを試験することを決定した。
【0226】
CCL7およびCCL2は、腹側中脳前駆細胞培養物中でのNurr1+/TH-前駆細胞のNurr1+/TH+ニューロンへの分化を促進する
ドーパミン作動性発生におけるCCL7の機能を解明するために、本発明者らは、ラットE14.5一次前駆細胞培養を実施し、その効果をCCL2のものと比較した。
【0227】
本発明者らは、DA前駆細胞およびDAニューロンの2つのマーカーである、Nurr1またはチロシンヒドロキシラーゼ(TH)を発現する細胞数を試験した。用量応答分析により、CCL7およびCCL2が、用量依存的様式でTH+細胞数を増加させ、0.1μg/mlのCCL7および0.3μg/mlのCCL2で最大効果に到達することが示された(図9A-B)。本発明者らはまた、ラットVM一次培養物中でのTH+/Nurr1+細胞の割合の増加も検出した(図9C)。もし、CCL7もCCL2も、Tuj1、Nurr1(図9Dおよび9E)もしくはBrdU陽性細胞の数または該細胞の生存(図10Aおよび10B)に対する効果を有さないならば、本発明者らの結果は、CCL2およびCCL7がNurr1+前駆細胞のTH+ニューロンへの分化を選択的に促進することを示している。
【0228】
CCL2およびCCL7は、腹側中脳ニューロスフェアの増殖を促進しないが、外植片培養物において神経突起生成を誘導する
次に、本発明者らは、CCL2およびCCL7も、bFGFおよびEGFの存在下で、ニューロスフェア培養物中でのVM前駆細胞の増殖に寄与することができるかどうかを試験した。本発明者らは、2種のβ-ケモカインのいずれも、BrdU組込みにより評価されるように、前駆細胞の増殖を調節しないことを見出した(図11A)。さらに、本発明者らは、この培養条件において、ネスチン+前駆細胞の数が変化せず(図11B)、新生Tuj1+ニューロンの数が対照と異ならない(図11C)ことを見出した。これらの結果は、CCL7および2が分裂促進作用を欠いており、その前分化活性にも関わらず、それらは分裂促進因子の効果を克服することができないことを示している。
【0229】
本発明者らは次に、CCL2およびCCL7はまた、VM外植片培養物中でのニューロンの移動および神経突起生成を促進するように機能することができるかどうかを試験した。本発明者らは、CCL7が移動および神経突起長の有意な増加(2倍)を誘導することを見出した(図12)。かくして、総合すれば、本発明者らの結果は、CCL7がニューロンの形態学的分化を誘導するが、分裂促進因子の存在下でVM前駆細胞の分化を誘導することができないことを示している。
【0230】
参考文献
Baggiolini M.「病理学および医学におけるケモカイン(Chemokines in pathology and medicine.)」、J. Intern. Med. 2001; 250, 91-104。
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Murdochら、Blood. 2000; 95: 3030-3043。
Rossiら、Immunol. 2002; 18: 217-42。
【0231】
α-ケモカインCXCL6およびCXCL8は、腹側中脳前駆細胞およびニューロスフェアの増殖およびドーパミン作動性分化を示差的に調節する
多くの証拠が、α-ケモカインが、神経免疫応答の調節、神経伝達の調節、および神経生存およびCNS発達の促進などの、神経系におけるいくつかの重要な機能を果たすことを示唆している。この研究において、本発明者らは、発生中の中脳における、2種のα-ケモカイン、CXCL6およびCXCL8ならびにそれらの受容体の発現および機能を試験した。本発明者らは、両α-ケモカインおよびそれらの受容体の1つであるCXCR2は、腹側中脳発生の間に発生調節されることを見出した。さらに、CXCL6および8は、in vitroでNurr1+前駆細胞のドーパミン作動性ニューロンへの分化を促進したが、CXCL8のみがその増殖を増強した。CXCL8がVM前駆細胞の増殖および分化の両方を調節したという知見は、本発明者らを、CXCL8を腹側中脳ニューロスフェアを拡張および分化するように適用することができるかどうかを試験するように刺激した。本発明者らの結果は、これがその事例であることを示し、α-ケモカインは、前駆細胞/幹細胞調製物におけるドーパミン作動性ニューロンの数を増強するための道具として、パーキンソン病のための細胞置換治療において有用であり得ることを示唆している。
【0232】
ケモカイン(走化性サイトカイン)は、免疫系の細胞において多様な機能を調節する小タンパク質リガンドのファミリーを構成する(RossiおよびZlotnik、2000)。ケモカインは、C、CC、CXCおよびCX3Cと呼ばれる、4つの主要な群(システイン残基が位置する場所に基づく)に分類される。α-ケモカインサブファミリーとも呼ばれる、CXCのメンバーは、最初の2個の保存されたシステイン残基の間に介在する1個のアミノ酸残基を有する(Bajettoら、2000)。さらに、最初のシステインの直前にあるグルタミン酸-ロイシン-アルギニンモチーフの存在または非存在に基づいて、CXCケモカインを2つのサブクラス、ELR対非ELRにさらに分類する。このトリペプチドの存在は、好中球ケモカイン受容体との相互作用にとって必要である(Herbertら、1991)。
【0233】
ケモカインおよびその受容体は、最初は、生理学的および病態生理学的内容の両方で、白血球の移動およびコミュニケーションにおいて役割を果たすものと認識された。これらの分子は、血管、リンパ、リンパ球組織および器官の間の白血球集団の免疫細胞の輸送および再循環、宿主免疫監視、ならびに急性および慢性炎症性応答(Fang、2000;MurdockおよびFinn、2000;Baggiolini、2001)、例えば、HIV-1感染(Alkhatibら、1996)において重要なプロセスを制御する。しかしながら、驚くべきことに、ケモカインおよびその受容体は、CNSにおける全ての主要な細胞型(ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)により発現され、増殖体の証拠は、ケモカインおよびその受容体も中枢神経系(CNS)における細胞内コミュニケーションを媒介することを示唆している(Bajettoら、2001)。例えば、CXCL1/CXCR2シグナリングは、オリゴデンドロサイト前駆細胞の位置を制御することにより脊髄のパターン化に関与する(Tsaiら、2002)。また、CXCリガンドであるSDF-1およびその同族受容体CXCR4は、海馬歯状回の正常な発達にとって必要であり(Luら、2002;Bagriら、2002)、ソニック・ヘッジホッグと協調して小脳顆粒細胞前駆体の増殖に関与する(Kleinら、2001)。さらに、小脳顆粒細胞層の形成は、SDF-1(Maら、1998)またはCXCR4(Maら、1998;Zouら、1998)のいずれかを欠くマウスにおいては無効になっており、SDF-1はまた、小脳顆粒ニューロンの誘導分子として機能する(Arakawaら、2003)。同様に、SDF1およびCXCR2は最近、軸索成長を誘導すると報告されている(Lieberamら、2005)。従って、CXCケモカインおよびCXCR受容体は、CNS発生の間にいくつかのサブタイプの前駆体の増殖、移動、および成熟などの多様な機構および機能を調節する。
【0234】
現在まで、ケモカインはドーパミン作動性ニューロンの発生には関与していない。しかしながら、インターロイキン1bおよびインターロイキン11などの他のサイトカインは、ドーパミン作動性ニューロンの発生を調節および促進することが報告されている。本発明者らは、2種のα-ケモカイン、CXCL6およびCXCL8、ならびにその受容体、CXCR1および2が、中脳発生を調節するかどうかを調査することを決定した。本発明者らは、CXCR1ではなく、CXCL6、CXCL8およびCXCR2が、腹側中脳において発現され、発生調節されることを初めて見出した。本発明者らは次に、これらのケモカインが、一次およびニューロスフェア培養物中で腹側中脳ドーパミン作動性前駆細胞の増殖、生存および分化を調節するかどうかを試験した。本発明者らの結果は、CXCL6が、Nurr1+前駆細胞のTH+ニューロンへの分化を促進し、CXCL8が、DA前駆細胞の増殖およびドーパミン作動性ニューロンへのそれらの分化の両方を増加させることを示している。
【0235】
材料および方法
リアルタイムRT-PCRおよび遺伝子発現の定量
総RNAを、胎生日(E)14.5のVM前駆細胞培養物(in vitroで組換えヒトIL-6および組換えヒトIL-8で3日間処理した6 cm2皿中の2.5*106個の細胞)から単離した。また、総RNAを、in vitroで6日後、上記のように処理された、E 11.5のVMニューロスフェア培養物からも回収した。逆転写反応およびリアルタイムRT-PCRを、上記のように実施した(Castelo-Brancoら、2003)。量子RNA古典的18S内部標準物を、Ambion (Austin, USA)から購入し、PCRプライマーを、DNA Technology a/S Aarhus, Denmarkから購入した。ABI PRISM 5700 Detection System (PE Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)上でのSYBR Green検出のために以下のPCRプログラムを用いた:94℃で2分間;94℃で30秒間、59℃で30秒間、72℃で15秒間の35〜40サイクル;および80℃で5秒間。結果の統計学的分析を、両側Wilcoxon符号付検定を用いて実施した:全ての検定に関する有意性を、P<0.05 (*P<0.05、**0.01<P<0.001、***P<0.001)のレベルで仮定した。
【0236】
脳切片に対する免疫組織化学分析
雄および雌の野生型CD-1マウス(25〜35 g;Charles River Breeding Laboratories)を、European Communities Council (指令86/609/EEC)およびSociety for Neuroscience (www.sfr.org/handbookで入手可能、または任意のウェブブラウザを用いて発見可能)のガイドラインに従って収容し、飼育し、および処理し、ならびに全ての実験は地方の倫理委員会により認可された。胎生日(E)10.5およびE11.5に由来するマウスを取り出し、パラホルムアルデヒドで4時間、後固定した。次いで、胚を20%スクロース中に一晩埋込んだ後、-70℃のOCT(最適切断温度)で急速凍結した。いくつかの冠状切片(14μm厚)を顕微鏡スライド(StarFrost, Friedrichsdorf, Germany)上で収集した。希釈バッファー(PBS、pH 7.3/1%BSA/0.3%Triton X-100)中、マウス∝CXCR2 (1:100希釈;R & D Systems)およびウサギ抗Nurr1 (1:200希釈;Santa Cruz Biotechnology)を用いて、インキュベーションを4℃で一晩実行した。0.2%Tween 20/PBSを用いる洗浄後、切片を希釈バッファー中で30分間ブロックした後、二次抗体[Cy2 (シアニン)]-結合ウマ抗マウスIgG、Cy2-結合ウマ抗ウサギIgG、またはローダミン結合ウマ抗マウスIgG(1:200希釈液;Jackson ImmunoReserch)と共に2時間インキュベートした。免疫染色を、Zeiss HBO100顕微鏡を用いることにより可視化した。
【0237】
前駆細胞培養物および処理
時期に交尾させたSprague-Dawleyラットから得られた14.5日の胚に由来するVMを、切開し、機械的に解離させ、10 ng/mlのインスリン、100μg/mlトランスフェリン、100μMのプトレシン、20 nMのプロゲステロン、30 nMのセレン、6 mg/mlのグルコース、および1 mg/mlのBSAを含むF12とDMEMの1:1混合物からなるN2無血清培地中、ポリ-Dリジンで被覆された6または24穴プレート上に1 x 105細胞/cm2の最終密度で塗布した。全ての因子を、培養の開始時に一度に添加し、BrdUを固定の6時間前に添加した。
【0238】
ニューロスフェア培養物および処理
野生型CD-1マウスから得られた11.5日の胚に由来するVMを、切開し、プロテアーゼおよびDNaseを用いて解離させ、完全培地(3 mlのグルコース(20%)、1.5 mlのNaHCO3 (7.5%)、0.5 mlの1M hepes、1 mlのL-グルタミン、1 mlのゲンタマイシン、50μlのヘパリン、0.4 gのBSAおよび10 mlのホルモンミックスを含む41.5 ml F12及び41.4 ml DMEM(F12とDMEMの1:1混合物、1.2 mlのグルコース(20%)、0.6 mlのNaHCO3 (7.5%)、0.2 mlのhepes (1M)、40 mgのアポ-t-トランスフェリン、10 mgのインスリン、プテセリン、プロゲステロンおよび亜セレン酸ナトリウム))中、35 mm皿中で50,000細胞/mlの最終密度で塗布した。bFGFおよびEGFを、それぞれ500 ng/mlのIL-6および2000 ng/mlのIL-8(R & D Systems)を含む/含まない20 ng/mlの濃度で添加した。長期間の培養のため、ニューロスフェアを遠心分離により6〜7日後に回収し、完全培地中に再懸濁し、200μl自動ピペットを用いて磨砕し、上記のように塗布した。
【0239】
免疫細胞化学分析
細胞を、氷冷4%パラホルムアルデヒド中で15〜20分間、免疫細胞化学のために固定し、PBSで洗浄し、以下の抗体:マウス∝TH (1:1000希釈;Immunostar);ウサギ∝TH (1:250; Pelfreeze);ウサギ∝Nurr1 (1:100; Santa Cruz);ウサギ∝活性キャスパーゼIII (1:100; Cell Signaling);マウス∝BrdU (1:100; Dako);ラット∝BrdU (1:100; Abcam)のうちの1種を含む希釈バッファー(1xPBS、1%BSA、および0.3%Triton-X 100)中で一晩、または室温で1時間インキュベートし、洗浄後、培養物を、好適な二次抗体(ビオチン化された1:500希釈液、CY2、ローダミン結合ウマ抗マウスIgG 1:100、全てVectorから購入)を含む希釈バッファー中で1〜2時間インキュベートした。明視野免疫染色を、NovaRed (赤色)、SGもしくは3-3'ジアミノベンズイジンテトラヒドロクロリド(DAB 0.5 mg/ml)/塩化ニッケル(1.6 mg/ml) (灰色/黒色)、またはVIP(紫色)基質を用いる、Vector Laboratory ABC免疫ペルオキシダーゼキットを用いて可視化した。二重免疫染色を、上記のような連続的単一染色により実行した。全ての染色手順の終わりに、培養物をHoechst 33258試薬と共に10分間インキュベートした。BrdU免疫細胞化学分析は、2M HCLとの30分間のインキュベーションを含んでいた。Zeiss Axioplan 100M顕微鏡(LD Achrostigmat 20X、0.3 PHI∝0.2およびLD Achroplan 40X、0.60 Korr PH2 ∝0.2)を用いて、室温でPBS中の染色された細胞から画像を獲得し、HamamatsuカメラC4742.95 (QED画像化ソフトウェアを用いる)を用いて収集した。
【0240】
統計学的分析
定量的免疫細胞化学データは、3回の別々の実験に由来する条件あたり3個のウェルにおける、10個の非重複視野に由来する計数の平均±s.e.m.である。RT-PCR実験については、3回の別々の実験を分析した。統計学的分析を、図面の凡例に記載のようにStatViewにおいて実施し、全ての検定に関する有意性を、P<0.05 (*P<0.05、**0.01<P<0.001; ***P<0.001)のレベルで仮定した。統計学的検定を、サンプル集団の分布に従って選択した。
【0241】
結果
腹側中脳におけるCXCR受容体の発現
インターロイキン6および8は両方とも、2個の受容体;CXCR1およびCXCR2を共有する。マウスにおいては、CXCR1は、機能的相同体を有さない。しかしながら、CXCR2は、発生中のマウス脳において発現される(図13)。
【0242】
CXCL6および8は、腹側中脳前駆細胞培養物中でNurr1+/TH-前駆細胞のNurr1+/TH+ニューロンへの分化を促進する
腹側中脳ドーパミン作動性ニューロン発生におけるCXCL6および8の機能を試験するために、本発明者らは、ラットE14.5一次前駆細胞培養を実施し、ドーパミン作動性前駆細胞およびDAニューロンの2つのマーカーであるNurr1またはTHを発現する細胞数を試験した。用量応答分析により、CXCL6およびCXCL8が、用量依存的様式でNurr1+細胞数を増加させ、0.5μg/mlのCXCL8および2μg/mlのCXCL6で最大効果に到達することが示された(図14A)。同様の用量応答が、TH+ DAニューロンについても観察され、それぞれ、CXCL8およびCXCL6での処理後に3.5および4.5倍の増加を示した(図14B)。THニューロン数が培養物中で増加した機構を試験するために、本発明者らは最初に、CXCL6および8が、Nurr1+/TH-細胞のNurr1+/TH+細胞への変換により評価されるように、ドーパミン作動性前駆細胞の分化を増強させるかどうかを試験した。興味深いことに、本発明者らは、CXCL6およびCXCL8が両方とも、用量依存的様式でドーパミン作動性前駆細胞のドーパミン作動性ニューロンへの分化を促進し、2μg/mlで最大効果に到達することを見出した(図C)。かくして、本発明者らの結果は、α-ケモカインが、VM前駆細胞培養物中でのドーパミン作動性分化を促進することを示している。
【0243】
CXCL8は、腹側中脳前駆細胞培養物中での増殖を促進する
本発明者らは次に、CXCL6およびCXCL8が、DA前駆細胞の分化の調節に加えて、前記培養物の増殖および生存を調節することもできるかどうかを試験した。TUNEL染色により、CXCL6またはCXCL8処理後に該培養物中の陽性細胞数が減少しないことが示されたが(図15A)、これは2種のケモカインはいずれも生存促進効果を示さないことを示している。しかしながら、BrdU取込みを分析した場合、本発明者らは、CXCL6ではなく、CXCL8が、増殖する細胞数を3倍増加させることを見出した(図15B)。かくして、本発明者らの結果は、CXCL8が、培養物中の前駆細胞の増殖を促進し、CXCL6およびCXCL8が両方とも、ドーパミン作動性ニューロンへの前駆細胞の分化を促進することを示している。
【0244】
CXCL8は、腹側中脳ニューロスフェアの増殖および分化を促進する
本発明者らは次に、CXCL6およびCXCL8を用いて、VMニューロスフェアの増殖および分化を促進することができるかどうかを試験した。マウスE10.5腹側中脳ニューロスフェアを、bFGF、ShhおよびFGF8中で増殖させた。一次前駆細胞培養物中で示されるように、BrdUの取込みは、CXCL6ではなく、CXCL8により2倍増加した(図16A)が、これはCXCL8が実際にVMニューロスフェア培養物に対して明らかな分裂促進作用を示すことを示している。重要なことに、ニューロスフェア中のネスチン陽性細胞数(図16B)およびスフェア数は変化しなかったが、これはその作用が自己再生に対するものではなく、VM前駆細胞の増殖に対するものであったことを示している。この培養条件においては、CXCL8はNurr1+細胞数(図16C)およびTuj1+細胞数(図16D)も増加させた。さらに、本発明者らはまた、CXCL8が、これらの培養物中でQ-PCRにより評価されるように、βIIIチューブリンおよびNurr1 mRNA(図17)の発現を増加させることも見出した。これらの結果は、ニューロン分化がこれらの培養物中で起こることを示している。
【0245】
CXCL6は腹側中脳ニューロスフェアのドーパミン作動性分化を促進する
本発明者らは次に、CXCL6がニューロスフェアおよび外植片培養物の分化にも寄与することができるかどうかを試験した。本発明者らは、CXCL6が、ニューロスフェアと同様、bFGFの存在下で増殖させたクローン42のNurr1神経幹細胞の分化を促進し、ラットE14.5のVM外植片のDAニューロンに対する顕著な神経突起生成作用を有することを見出した。かくして、本発明者らの結果は、CXCL6が神経幹細胞および前駆細胞の形態学的分化を促進することを示している。これらの知見は、CXCL6を用いて、ドーパミン作動性ニューロンを含む調製物中でのニューロン分化を増強することができることを示唆している。
【0246】
参考文献
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【0247】
α-ケモカインCXCL11、12および13は腹側中脳前駆細胞の増殖およびドーパミン作動性ニューロンへのそれらの分化を調節する
Nurr1で安定にトランスフェクトされたc17.2神経幹細胞は、ケモカインオーファン受容体Cmkor1 (RDC1)の発現の増加を示した。この受容体は、CXCRファミリーのGタンパク質結合7回膜貫通受容体に属し、最初はHIV-1に対する共受容体として同定された(Shimizuら、2000)。2個の特性評価されたケモカイン受容体、CXCR2およびCXCR4の遺伝子間でのCmkor1/RDC1に関するマウス遺伝子座の染色体マッピング、ならびにその最も近い類似性が、Gタンパク質結合7回膜貫通受容体の全てのうちCXCR2に対するものであるという事実は、ケモカインがRDC1に対する潜在的なリガンドであることを示唆している(Heesenら、1998)。CXCR2は、発生中の脊髄におけるオリゴデンドロサイト前駆体の発生および位置を制御することが報告されている(Tsaiら、2002)。より最近では、CXCL12/SDF1およびCXCR4が、それぞれ、RDC1のリガンドおよび共受容体として同定されている(Balabanianら、2005)。最近の報告により、CXCL12/SDF1およびCXCR4受容体が、運動ニューロン軸索の最初の誘導において重要な役割を果たすことが示された(Lieberamら、2005)。しかしながら、CXCL12およびその受容体CXCR4およびRDC1が任意の他の態様のニューロン発生を調節するかどうかは知られていない。
【0248】
この研究において、本発明者らは、CXCL12の発現を特性評価し、発生中の腹側中脳においても発現される、2種の他のα-ケモカイン、CXCL11およびCXCL13、ならびにその受容体、RDC1、CXCR3、4および5を同定する。さらに、本発明者らは、CXCL11、12または13の腹側中脳前駆細胞培養物への投与が、VM前駆細胞の増殖およびチロシンヒドロキシラーゼ(TH)+Nurr1+ニューロンへのそれらの分化を促進することを見出した。本発明者らはまた、RDC1 RNAiがNurr1+細胞における神経発生を非常に有意に低下させるため、重要なシグナリング成分として、CXCL12に対する受容体の1つであるRDC1を同定した。総合すれば、本発明者らの研究は、VM発生の重要な調節因子としていくつかのα-ケモカインを同定する。さらに本発明者らの機能的データは、CXCL12、ならびにその受容体CXCR4およびRDC1の高レベルの発現と共に、このリガンドおよび受容体がドーパミン作動性神経発生の重要な調節因子であることを示唆している。
【0249】
材料および方法
リアルタイムRT-PCRおよび遺伝子発現の定量
総RNAを、マウス胎生日(E)10.5、11.5、13.5、15.5およびP1の腹側中脳から単離した。逆転写反応およびリアルタイムRT-PCRを、記載のように実行した(Castelo-Brancoら、2003)。量子RNA古典的18S内部標準物を、Ambion (Austin、USA)から、PCRプライマーをDNA Technology a/S Aarhus, Denmarkから購入した。ABI PRISM 5700 Detection System (PE Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)上で、SYBR Green検出のために以下のPCRプログラムを用いた:94℃で2分間;94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で15秒間の35〜40サイクル;および80℃で5秒間。結果の統計学的分析を、両側Wilcoxon符号付検定を用いて実施した。全ての検定に関する有意性を、P<0.05 (*P<0.05、**0.01<P<0.001;***P<0.001)のレベルで仮定した。
【0250】
前駆細胞培養物および処理
時期に交尾させたSprague-Dawleyラットから得られた14.5日の胚に由来するVMを、切開し、機械的に解離させ、N2補給物質を含むF12とMEMの1:1混合物、300 mgグルコース、50 mg BSA、750マイクロリットルのHEPESおよび250マイクロリットルのグルタミンからなるN2無血清培地中、ポリ-Dリジンで被覆された6または24穴プレート上に1 x 105細胞/cm2の最終密度で塗布した。全ての因子を、培養の開始時に一度に添加し、BrdUを固定の6時間前に添加した。
【0251】
免疫細胞化学分析
細胞を、氷冷4%パラホルムアルデヒド中、15〜20分間、免疫細胞化学分析のために固定し、PBSで洗浄し、以下の抗体のうちの1種:ラット∝BrdU (1:200;Abcam)、Tuj1(1:500;Abcam)を含む希釈バッファー(1 x PBS、1% BSAおよび0.3%Triton-X 100)中で一晩インキュベートした。洗浄後、培養物を、好適な二次抗体(ビオチン化された1:500希釈液、CY2もしくはローダミン結合ウマ抗マウスIgG 1:100、全てVectorから購入)を含む希釈バッファー中で1〜2時間インキュベートした。明視野免疫染色を、NovaRed (赤色)、SGもしくは3-3'ジアミノベンズイジンテトラヒドロクロリド(DAB 0.5 mg/ml)/塩化ニッケル(1.6 mg/ml) (灰色/黒色)、またはVIP(紫色)基質を用いる、Vector Laboratory ABC免疫ペルオキシダーゼキットを用いて可視化した。二重免疫染色を、上記のような連続的単一染色により実行した。全ての染色手順の終わりに、培養物をHoechst 33258試薬と共に10分間インキュベートした。BrdU免疫細胞化学分析は、2M HCLとの30分間のインキュベーションを含んでいた。Zeiss Axioplan 100M顕微鏡(LD Achrostigmat 20X、0.3 PHI∝0.2およびLD Achroplan 40X、0.60 Korr PH2 ∝0.2)を用いて、室温でPBS中の染色された細胞から画像を獲得し、HamamatsuカメラC4742.95 (QED画像化ソフトウェアを用いる)を用いて収集した。
【0252】
結果:
α-ケモカインは、DA神経発生の時点で発生中の腹側中脳において発現される
本発明者らは以前に、Cmkor1/RDC1受容体が、Nurr1を過剰発現する神経幹細胞中で高レベルで発現されることを見出した(Sousaら、準備中)。その結果を確認するために、本発明者らは、リアルタイムRT-PCR分析により同じ細胞系の独立した培養物を比較し、本発明者らは、Cmkor1/RDC1がNurr1をトランスフェクトされたクローンにおいて約9倍誘導されることを見出した(図21A)。RDC1発現の調節におけるNurr1の役割と一致して、本発明者らは、RDC1がVMにおいて高レベルで発現され、その発現レベルがE10.5でピークに達し(図21B)、Nurr1発現の開始と同時に起こる(図21C)ことを見出した。
【0253】
中脳形態形成の間のケモカインの役割をより詳細に調査するために、本発明者らは、2つの発生段階、E10.5およびE12.5でのマウス胚性腹側中脳(VM)および背側中脳(DM)組織から抽出された総mRNAを用いて遺伝子チップ分析を実施した。mRNAを、32P-標識cDNAに逆転写し、67種のケモカインおよびケモカイン受容体遺伝子を含むGEArray膜にハイブリダイズさせた。本発明者らが発生中の中脳において発現されることを見出した遺伝子(表4)のうち、本発明者らは、CXCサブファミリーに属するリガンドおよび受容体に本発明者らの注意を向けた。E10.5の中脳において、3種のα-ケモカイン受容体(CXCR5/Blr1、CXCR4/Cmkar4およびRDC1/Cmkor1)ならびに3種のCXCリガンド(CXCL11/I-TAC、CXCL15/Scyb15およびSDF-1)が、DMと比較して、VM中でより高レベルで発現される。これらの同じ遺伝子は、VM中で、より後の段階、E12.5でも発現された。
【0254】
α-ケモカインは、腹側中脳前駆細胞の増殖およびDAニューロンへのそれらの分化を促進する
ドーパミン作動性発生におけるこれらの遺伝子の役割を解明するために、本発明者らは、いくつかのCXCLリガンドでラットE14.5 VM一次前駆細胞培養物を処理した。高用量のCXCL13/BLC-1(CXCR5に結合するリガンド)、ならびにCXCL12/SDF-1(CXCR4およびRDC1に特異的に結合するリガンド)は、増殖を促進させ(図22A)、培養物中でのTH+ニューロンの数を増加させた(図22B)。CXCL11/I-TAC(CXCR3に対するリガンド)は同様の効果を有していた(図22Aおよび21B)。
【0255】
考察
本発明者らの結果は、神経幹細胞におけるNurr1の過剰発現が、1)幹細胞状態の維持、増殖、および他の細胞型への分化に関与する遺伝子の下方調節;2)領域的同一性の提供ならびにニューロンの分化および生存に関与する遺伝子の上方調節による、領域特異的ニューロン細胞運命の獲得を促進することを示している。さらに、Nurr1は、Cmkor1/RDC1の発現を調節し、Cmkor1/RDC1およびその共受容体CDCR4ならびにリガンドCXCL12/SDF1はVM中で高レベルで発現される唯一の受容体-リガンド対であった。VM中で高レベルで発現される他の受容体としては、CXCR5/Blr1受容体、Ltb4r2およびTapbpが挙げられる。また、高レベルで発現される他のリガンドとしては、CXCL11/I-TAC、CXCL15およびSDF-2が挙げられる。興味深いことに、SDF1/CXCL12(RDC1のリガンド)およびCXCR4受容体は、VM一次前駆細胞培養物中でのTH+ニューロンの増殖およびその数を調節した。本発明者らは本明細書で、CXCL13/BLC-1(CXCR5/Blr1に結合する)、およびCXCL11/I-TAC(CXCR3に結合する)などの他のα-ケモカインも、同様の様式で前駆細胞の増殖およびドーパミン作動性分化を調節したことを報告する。また、本発明者らは以前に、CXCL8は類似する機能を示し、CXCL6がドーパミン作動性前駆細胞の、神経突起豊富なドーパミン作動性ニューロンへの成熟を促進することを示した(Edmanら、未公開)。これらの結果は全て、複数のα-ケモカインが存在するだけでなく、多様な態様のドーパミン作動性発生を調節することもできることを示している。本発明者らの結果は、Nurr1が本発明者らの遺伝子チップ実験において調節されるため、Nurr1により調節される主要な標的遺伝子の1つとしてSDF1/CXCL12ならびにRDC1およびCXCR4受容体を指摘している。さらに、RDC1発現はVM発生の間にNurr1の発現後すぐにピークに達するが、これはNurr1がin vivoでRDC1発現を調節することもできることを示唆している。本発明者らは以前に、Nurr1の主な機能の1つが、Nurr1を発現する細胞にグリア細胞から誘導されたシグナルに応答する能力を付与する受容体またはシグナリング成分の発現を誘導することであることを提唱した(Hallら、2003)。Nurr1+細胞はRDC1を発現し、グリア細胞はケモカインを発現することが知られているため、本発明の結果はこの可能性と一致している(Lazariniら、2003;Bajettoら、2002)。さらに、本発明者らは、SDF1/CXCL12が、前駆細胞の中脳DAニューロンへの増殖および分化を促進することを見出した。さらに、RDC1 RNA干渉実験により、用量依存的阻害がNurr1を発現する神経幹細胞における神経発生のほぼ完全な喪失に達することが示された。かくして、本発明者らの結果は、SDF1/CXCL12ならびにRDC1およびCXCR4受容体が、ドーパミン作動性ニューロン発生において必須の役割を果たすことを示している。本発明者らのデータはまた、ドーパミン作動性ニューロンへの幹細胞/前駆細胞の分化を促進することによる潜在的な治療用途におけるα-ケモカインの見通しを提供する。これらの細胞を、ドーパミン作動性ニューロンにおける薬剤探索/毒性アッセイまたはパーキンソン病患者における細胞置換治療に用いることができる。別の治療手段は、パーキンソン病の患者における内因性成体ドーパミン作動性神経発生を促進するか、またはそれに寄与するケモカイン受容体を活性化する小分子の適用である。
【表1】

【0256】
【表2】

【0257】
【表3】

【0258】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0259】
【図1】図1は、Nurr1が幹細胞/前駆細胞マーカーの発現を調節し、分化を促進することを示している。図1A:血清の存在下での対照(pB)およびNurr1-(c42)NSCの両方の増殖における、ネスチン、チューブリンβIII (Tuj1)、テナシン-C (TN-C)の免疫細胞化学検出。図1B:血清の非存在下で3日間分化させたクローンc42におけるTuj1およびTN-Cの免疫細胞化学検出。
【図2】図2は、Nurr1 NSCが、マウス一次培養物中のドーパミン作動性ニューロンの数を増加させる栄養シグナルおよび生存シグナルを分泌することを示している。図2A:E12.5マウス腹側中脳(VM)に由来する解離させた細胞を、Nurr1により馴らされ、濾過されたN2培地または対照クローンで24時間処理した。細胞を3 DIV後に固定し、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)のために免疫染色した。図2B:馴らし培地で処理されたVM E12.5一次培養物におけるTH+ニューロンの総数。値は、3回行った3つの独立した実験のTH+細胞/cm2の総数の平均 + SEMを表す。統計学的分析を、Fisherの事後検定と共に一方向ANOVAにより実施した(**, P<0.001; *, P<0.05)。
【図3】図3は、Nurr1発現が、酸化ストレスにより誘導される死から細胞を保護することを示している。図3Aおよび3B:Nurr1クローンは、酸化ストレスにより誘導される死に対して抵抗性である。対照およびNurr1クローンを、25μMのH2O2で6時間処理し、ヨウ化プロピジウム(PI)およびHoechst 33342で染色し、計数した(n = 4)。データは、過酸化物処理(Hoechst/PI)の6時間後の細胞死の平均増加率(%)を表す。図3C:より少ないNurr1-NSCが、酸化ストレスへの曝露後に切断されたキャスパーゼ-3に対して免疫反応性である(n = 4)。統計学的分析を、Fisherの事後検定と共に一方向ANOVAにより実施した(***, P<0.0001; **, P<0.001; *, P<0.05)。
【図4】図4は、テナシン-Cヌルマウスが、in vivoで早期のドーパミン作動性分化を示すことを示している。図4A:E11 VMを介する冠状切片は、DAニューロンの数(チロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫反応性により評価される)が、対照と比較した場合、TN-Cヌルマウスにおいて増加することを示していた。図4B:E11、E15、ならびにP1対照およびTN-Cヌルマウスの連続冠状切片を介するTH+細胞の定量。TH+細胞数の補正が、TN-Cヌルマウスにおいて、E15により、かつP1で観察される。図4C:増殖している前駆細胞が、VM中のE11で、in vivoでのBrdU取込みにより同定された。E11 DA前駆細胞の増殖能力は、BrdUに対する免疫組織化学により評価されるように、対照動物と比較した場合、TN-Cヌルマウスにおいて影響されなかった。図4Dおよび4E:Nurr1+細胞および放射状グリア(GLAST)の総数は、野生型対照と比較した場合、TN-CヌルマウスにおけるE11で変化しなかった。各実験について(n = 5)、対応のあるt検定を用いて統計学的分析を実施した(*P<0.05)。
【図5】図5Aは、Nurr1クローン(クローン42(c42)、クローン48(c48))および対照クローン(puroB (pB)、puroD (pD))のin vitroでの増殖動力学を示す。データを、同じ細胞系の2つの独立した培養物の平均蓄積生細胞数±SDとして示す。図5B:c42/pBおよびc48/pD Affymetrixチップ比較に関する上方調節および下方調節された標的遺伝子の分布を示すベン図である。図5C:各比較間で共通な上方および下方調節された遺伝子の機能分布である。
【図6】図6は、Nurr1応答遺伝子の一時的発現を示す。いくつかのNurr1により調節される遺伝子の一時的発現プロフィールを、Nurr1で一過的にトランスフェクトされたc17.2幹細胞上でのリアルタイムRT-PCRにより評価した(A-C)。次いで、mRNAレベルを、それぞれ0、6、12、24、48、および96時間で分析した。プロットは、対照トランスフェクト細胞に対して正規化された各遺伝子のmRNA転写物レベルを表す。HPRTハウスキーピング標準物を、全ての実験の内部対照として用いた。WISPおよびCOUP-TFを除いて、Sca1、En1、Nedd4、およびRunx2のmRNAレベルにおける適度な増加が、より早い時点で、および96時間で観察された。LRG21、Sphk1、およびIGFBP5転写物レベルは、これより後の時点で増加した。
【図7】図7は、ケモカイン受容体CCR1(図7A)、およびCCR2(図7B)が、発生中の中脳において発現されることを示す。
【図8】図8は、CCL2(図8A)、およびCCL7(図8B)は共に、発生中の中脳において発現されることを示す。
【図9A−C】CCL2およびCCL7は両方とも、TH陽性ニューロン数を増加させ(図9A、図9B)、ラット腹側中脳一次前駆細胞培養物中でのTHの発現を獲得したNurr1前駆細胞の割合を増加させる(図9C)。
【図9D−E】興味深いことに、ニューロン(図9E)またはNurr1+前駆細胞(図9D)の総数は増加しなかったが、これは、CCL2および7が、Nurr1+前駆細胞における中脳ドーパミン作動性表現型の獲得を選択的に増加させることを示している。
【図10】CCL2もCCL7も、BrdU取込みおよび活性なキャスパーゼ-3染色により評価されるように、増殖を促進せず、または細胞死を減少させなかった。
【図11】CCL2(MCP1)もCCL7(MCP3)も、ネスチン+前駆細胞もしくはNurr1+細胞もしくはTuj1+ニューロンの数を調節せず、またはbFGFおよび/もしくはEGFの存在下でニューロスフェア培養物中での増殖を増強しなかった。
【図12】CCL7は、腹側中脳外植片における神経突起生成を促進するが、これは、このケモカインがニューロンの形態学的分化に寄与することを示している。
【図13】図13は、Q-PCRにより評価された、発生中の腹側中脳におけるCXCR2の発現を示す。
【図14】CXCL6およびCXCL8は両方とも、TH陽性ニューロンの数を増加させるが、それらは異なる機構によって増加させる。CXCL8は主に、Nurr1+前駆細胞数を増加させるが(図14A)、TH+へのそれらの分化も増加させる(図14B)。代わりに、CXCL6はTH+(DAニューロン)になるNurr1前駆細胞の割合を増加させることにより、TH+細胞数を増加させるが、ラット腹側中脳一次前駆細胞培養物中のNurr1+細胞の総数に影響することはない。
【図15】TUNEL染色はCXCL6またはCXCL8処理後に培養物中の陽性細胞数の減少を示さなかった(図15A)。しかしながら、CXCL6ではなく、CXCL8は、BrdU取込みを3倍増加させた(図15B)。
【図16A】BrdUの取込みは、CXCL6ではなく、CXCL8により2倍増加した。
【図16B】ニューロスフェア中でのネスチン陽性細胞数は変化しなかった。
【図16C】CXCL8はNurr1+細胞数を増加させた。
【図16D】CXCL8はTuj1+細胞数を増加させた。
【図17】CXCL8は、分裂促進因子の存在下で培養したニューロスフェアにおけるNurr1 mRNAのレベルを増加させる。
【図18】図18は、RDC1 RNAi後のNurr1を過剰発現するc17.2神経幹細胞系(c42)の増殖の低下を示す。この図面は、様々な干渉度を有する様々な安定な系を示す。クローン番号5iを、その後の実験に用いた。
【図19】Nurr1を過剰発現するc17.2神経幹細胞系におけるRDC1のRNA干渉は、新しいTuj1+ニューロンの生成を低下させたが、分化したMAP2+ニューロンのプールに影響しなかった。この図面は、c42(対照、緑色)およびクローン5i(RDC1i、青色)の間の比較を示す。
【図20】RDC1は、Q-PCRにより評価されたように、E10.5の発生中の腹側中脳において高レベルで発現される。
【図21】図21は、Nurr1発現が、リアルタイムRT-PCRにより評価されるように、RDC1誘導と相関することを示す。図21Aは、Nurr1クローン中のRDC1 mRNAレベルが対照クローンよりも高いことを示す。図21Bは、中脳におけるRDC1発現がE10.5で腹側にピークに達することを示す。図21Cは、Nurr1発現がE10.5の腹側中脳において誘導されることを示す。
【図22】図22は、ケモカイン処理が、ラットE14.5腹側中脳一次培養物におけるDAニューロンの増殖に影響し、その数を増加させることを示す。図22Aは、CXCL6ではなく、ケモカインSDF-1、BLC-1、I-TACおよびIL-8が、VM培養物中での増殖している細胞の数を増加させることを示す。値は、それぞれ2〜3回繰り返した2つの独立した実験におけるBrdU+細胞の平均割合±SDを表す。図22Bは、SDF-1、BLC-1およびI-TACを用いる処理は、VM培養物中でのDAニューロン細胞数を増加させることを示す。値は、それぞれ2〜3回繰り返した2つの独立した実験におけるTH+細胞の平均割合±SDを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経幹細胞、前駆細胞、またはニューロン細胞の生存、分化および/または成熟を促進する方法であって、
(a)該細胞中での表1に列挙されたタンパク質の活性を調節すること、必要に応じて、増加させること;および/または
(b)該細胞中での表2に列挙されたタンパク質の活性を調節すること、必要に応じて、減少させること;
(c)テナシン-C;α-ケモカイン、必要に応じて、CXCL6、CXCL8、CXCL11、CXCL12およびCXCL13からなる群より選択されるα-ケモカイン;α-ケモカインの受容体、必要に応じて、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5からなる群より選択されるα-ケモカインの受容体;RDC1;β-ケモカイン、必要に応じて、CCL2およびCCL7からなる群より選択されるβ-ケモカイン;ならびにβ-ケモカインの受容体、必要に応じて、CCR2のうちの1つ以上の活性を調節すること;
を含み、該細胞中でのNurr1活性を増加させること、該細胞と、腹側中脳の1型アストロサイトから取得可能な1種以上の因子とを接触させること、および/または該細胞と、Wntポリペプチドとを接触させることを含まない、前記方法。
【請求項2】
工程(a)が、表3に列挙された1種以上のタンパク質の活性を増加させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RDC1活性を増加させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質をコードする核酸を前記細胞中に導入し、該細胞中での該核酸の発現を引き起こすか、またはそれを可能にすることにより、タンパク質活性を増加させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質を前記細胞中に導入することにより、タンパク質活性を増加させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質活性を、RNA干渉またはアンチセンスを用いて低下させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、前記細胞とモジュレーターとを接触させることを含み、該モジュレーターが、
(a)表1に列挙された1種以上のタンパク質の活性を調節する、必要に応じて、増加させる;
(b)表2に列挙された1種以上のタンパク質の活性を調節する、必要に応じて、減少させる;および/または
(c)テナシン-C;α-ケモカイン、必要に応じて、CXCL6、CXCL8、CXCL11、CXCL12およびCXCL13からなる群より選択されるα-ケモカイン;α-ケモカインの受容体、必要に応じて、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5からなる群より選択されるα-ケモカインの受容体;RDC1;β-ケモカイン、必要に応じて、CCL2およびCCL7からなる群より選択されるβ-ケモカイン;ならびにβ-ケモカインの受容体、必要に応じて、CCR2のうちの1つ以上の活性を調節する、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
Nurr1により調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を調節することができる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)遺伝子に機能し得る形で連結された、前記遺伝子のプロモーターを含むDNAを発現する細胞と、試験物質とを接触させること、
(b)該プロモーターからの遺伝子発現のレベルを決定すること、および
(c)該試験物質の存在下での遺伝子発現のレベルを、比較可能な条件で該試験物質の非存在下での遺伝子発現のレベルと比較すること、
を含み、遺伝子発現のレベルにおける差異が、該試験物質が該遺伝子の発現を調節することができることを示す、前記方法。
【請求項9】
前記プロモーターを異種遺伝子に機能し得る形で連結する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記異種遺伝子がリポーター遺伝子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Nurr1により調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を調節することができる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)該タンパク質と試験物質とを接触させること;
(b)該タンパク質活性を決定すること、および
(c)該試験物質の存在下での該タンパク質活性を、比較可能な反応媒体および条件で、該試験物質の非存在下での該タンパク質活性と比較すること、
を含み、タンパク質活性における差異が、該試験物質が該タンパク質活性を調節することができることを示す、前記方法。
【請求項12】
Nurr1により調節される遺伝子によりコードされるタンパク質の活性のモジュレーターとして前記試験物質を同定することをさらに含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記試験物質を精製または単離することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
模倣物質を取得するために試験物質を開発することをさらに含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
神経細胞群におけるチロシンヒドロキシラーゼ発現細胞の細胞増殖を促進し、その数を増加させる方法であって、該細胞と、α-ケモカイン、必要に応じて、CXCL6、CXCL8、CXCL11、CXCL12およびCXCL13からなる群より選択されるα-ケモカイン;β-ケモカイン、必要に応じて、CCL2およびCCL7、CCR2BLC-1、SDF1ならびにIL-8からなる群より選択されるβ-ケモカイン、からなる群より選択される1種以上のケモカインとを接触させることを含む、前記方法。
【請求項16】
前記細胞が混合された一次培養物である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が腹側中脳細胞である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が幹細胞または神経前駆細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
幹細胞、神経幹細胞または前駆細胞のニューロンへの分化および/または成熟を促進する方法であって、該細胞と、CXCL12とを接触させることを含む、前記方法。
【請求項20】
前駆細胞またはニューロン細胞における神経突起生成を促進する方法であって、該細胞とCXCL12とを接触させることを含む、前記方法。
【請求項21】
前記細胞を、1種以上のWntポリペプチドと接触させることをさらに含む、請求項1〜7または15〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞を、Wnt1と接触させることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞を、Wnt5aと接触させることを含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞を、Wnt3aと接触させることを含む、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記方法をin vitroまたはex vivoで実施する、請求項1〜7または15〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記方法をin vivoで実施する、請求項1〜7または15〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記方法を、個体の脳においてin situで実施する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法に従って処理された単離された神経細胞、またはそのように処理された細胞の子孫。
【請求項29】
外因性核酸を含む、請求項28に記載の単離された神経細胞。
【請求項30】
ニューロンである、請求項28または29に記載の単離された神経細胞。
【請求項31】
医学的治療方法における使用のための、請求項28〜30のいずれか1項に記載の単離された神経細胞。
【請求項32】
神経変性疾患またはニューロン喪失の治療における使用のための、請求項31に記載の単離された神経細胞。
【請求項33】
前記疾患がパーキンソン病またはパーキンソン症候群である、請求項32に記載の単離された神経細胞。
【請求項34】
医学的治療方法における使用のための、Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸;Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質;Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA;Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸;BLC-1、SDF1、IL-8、α-ケモカイン、必要に応じて、CXCL6、CXCL8、CXCL11、CXCL12およびCXCL13からなる群より選択されるα-ケモカイン、β-ケモカイン、必要に応じて、CCL2およびCCL7からなる群より選択されるβ-ケモカイン、またはそのようなケモカインをコードする核酸、からなる群より選択される物質。
【請求項35】
神経変性疾患またはニューロン喪失の治療における使用のための、請求項34に記載の物質。
【請求項36】
前記疾患がパーキンソン病またはパーキンソン症候群である、請求項35に記載の物質。
【請求項37】
神経変性疾患もしくはニューロン喪失を治療するための医薬の製造における、請求項28〜30のいずれか1項に記載の単離された神経細胞、ならびに/またはNurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸;Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質;Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA;Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸;BLC-1、SDF1、IL-8、α-ケモカイン、必要に応じて、CXCL6、CXCL8、CXCL11、CXCL12およびCXCL13からなる群より選択されるα-ケモカイン、β-ケモカイン、必要に応じて、CCL2およびCCL7からなる群より選択されるβ-ケモカイン、ならびにそのようなケモカインをコードする核酸からなる群より選択される物質の使用。
【請求項38】
前記医薬が個体の脳への投与のためのものである、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
前記疾患がパーキンソン病またはパーキンソン症候群である、請求項37または38に記載の使用。
【請求項40】
神経変性疾患またはニューロン喪失を治療するための医薬を製造する方法であって、
(a)請求項25に記載の方法を用いて神経細胞を処理すること;および
(b)該神経細胞、もしくは該細胞の子孫を、薬理学上許容し得る賦形剤を含む組成物中に製剤化すること、
を含む、前記方法。
【請求項41】
前記医薬が、個体の脳への埋込みのためのものである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
個体における神経変性疾患またはニューロン喪失を治療する方法であって、
(a)請求項25に記載の方法を用いて神経細胞を処理すること;および
(b)該神経細胞、もしくは該細胞の子孫を、該個体に投与すること、
を含む、前記方法。
【請求項43】
個体における神経変性疾患またはニューロン喪失を治療する方法であって、請求項28〜30のいずれか1項に記載の神経細胞を該個体に投与することを含む、前記方法。
【請求項44】
前記細胞が前記個体にとって内因性である、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
前記細胞が前記個体にとって外因性である、請求項42または43に記載の方法。
【請求項46】
投与が、前記細胞を前記個体の脳に埋め込むことを含む、請求項42〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
個体における神経変性疾患またはニューロン喪失を治療する方法であって、Nurr1により上方調節される遺伝子をコードする核酸;Nurr1により上方調節される遺伝子によりコードされるタンパク質;Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする二本鎖RNA;Nurr1により下方調節される遺伝子をコードする配列と相補的な核酸;BLC-1、SDF1、IL-8、α-ケモカイン、必要に応じて、CXCL6、CXCL8、CXCL11、CXCL12およびCXCL13からなる群より選択されるα-ケモカイン、β-ケモカイン、必要に応じて、CCL2およびCCL7ケモカインからなる群より選択されるβ-ケモカインならびにそのようなケモカインをコードする核酸からなる群より選択される物質を該個体に投与することを含む、前記方法。
【請求項48】
個体における神経変性疾患を治療する方法であって、請求項1〜7または15〜24のいずれか1項に記載の方法を用いて神経細胞を処理することを含み、該神経細胞が該個体の脳においてin situである、前記方法。
【請求項49】
前記細胞が前記個体にとって内因性である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記細胞が前記個体にとって外因性である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記神経変性疾患がパーキンソン病またはパーキンソン症候群である、請求項42〜50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
毒性スクリーニングおよび/または薬剤探索における本発明の細胞の使用。
【請求項53】
物質の毒性を決定するか、または薬剤候補として物質を同定する方法であって、本発明の細胞を試験物質で処理し、該細胞、あるいは該細胞の生存能力、生存、増殖、分化もしくは成熟および/または1種以上の特性もしくは表現型に対する該試験物質の効果を決定することを含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A−C】
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【図9D−E】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2009−532057(P2009−532057A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503688(P2009−503688)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002345
【国際公開番号】WO2007/119180
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(505107077)ニューロ セラピューティクス エービー (4)
【Fターム(参考)】