説明

神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬

【課題】
本発明は、神経芽細胞腫に対する優れた抗腫瘍作用を有する抗腫瘍薬を提供する。
【解決手段】
一般式(1):


(式中、Rはフェニル基を示す。Rは、炭素数1〜5のアルキル基;置換基としてニトロ基で置換されていてもよいフェニル基;又はベンゾイル基で置換されていてもよいアミノ基を示す。Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)。
で表されるピラゾロン化合物又はその塩を有効成分として含む神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬、特に、小児領域の神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経芽細胞腫に対して優れた抗腫瘍作用を有する抗腫瘍薬に関する。
【背景技術】
【0002】
エダラボン(Edaravone;3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)は、フリーラジカルを消去し脂質過酸化を抑制する作用により、脳細胞の酸化障害を抑制する作用を有する。そのため、脳梗塞急性期に作用し、脳浮腫、脳梗塞等の虚血性脳血管障害の発現及び進展(憎悪)を抑制することから、脳保護剤として用いられている。
【0003】
特許文献1には、エダラボンを含むピラゾロン誘導体が抗腫瘍剤として有効であることが報告されている。癌の種類として、上皮細胞、中皮細胞、線維芽細胞に由来する腫瘍が例示されている。しかし、神経芽細胞腫(neuroblastoma)の増殖抑制について有効であることは報告されていない。
【0004】
ところで、神経芽細胞腫(又は神経芽種)は、副腎や傍背随の交感神経節から発生する小児に特徴的な悪性腫瘍であり、通常は成人において認められる上皮性の悪性腫瘍である胃癌、乳癌、肝癌、結腸癌などの他の癌腫と異なることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−277315号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Maris JM. Recent advances in neuroblastoma. N Engl J Med. 2010 Jun 10;362(23):2202-11. Review. PubMed PMID: 20558371.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、神経芽細胞腫に対して優れた抗腫瘍作用を有する抗腫瘍薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、過酸化水素産生で顕著となる神経芽細胞の増殖を、エダラボンの投与により抑制できることを見出した。特に、小児領域でみられる神経芽細胞においてその効果が顕著であることから、神経芽細胞腫の増殖抑制に有効であることを見出した。かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記のピラゾロン化合物を含む神経系の腫瘍に対する抗腫瘍薬を提供する。
【0010】
項1.一般式(1)で表されるピラゾロン化合物又はその塩を有効成分として含む神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬;
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは、置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基を示す。Rは、炭素数1〜5のアルキル基;置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基;或いは置換基として炭素数1〜5のアルキル基、総炭素数2〜5のアルキルカルボニル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基及びベンゾイル基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1又は2個の基で置換されていてもよいアミノ基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)。
【0013】
項2.神経芽細胞腫が小児領域の神経芽細胞腫である項1に記載の抗腫瘍薬。
【0014】
項3.神経芽細胞腫が小児の頭蓋外の固形腫瘍である項1又は2に記載の抗腫瘍薬。
【0015】
項4.一般式(1)で表されるピラゾロン化合物がエダラボン(3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)である項1〜3のいずれかに記載の抗腫瘍薬。
【0016】
項5.神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬を製造するための一般式(1)で表されるピラゾロン化合物又はその塩の使用。
【0017】
項6.神経芽細胞腫の患者に一般式(1)で表されるピラゾロン化合物又はその塩の有効量を投与することを特徴とする神経芽細胞腫の予防及び/又は治療方法。
【0018】
項7.神経芽細胞腫の予防及び/又は治療に使用する一般式(1)で表されるピラゾロン化合物又はその塩。
【発明の効果】
【0019】
本発明において、一般式(1)で表されるピラゾロン化合物又はその塩(特に、エダラボン)が神経芽細胞腫の増殖を抑制することを見出した。これより、一般式(1)で表されるピラゾロン化合物は、神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬として有効である。また、一般式(1)で表されるピラゾロン化合物は、神経芽細胞に対して優れた増殖抑制作用を有するが、他の細胞(例えば、結腸癌系の細胞等)に対して増殖抑制作用は確認されない。そのため、神経芽細胞腫に対し選択的に作用するという特徴を有している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で評価された、エダラボン濃度0μg/ml(コントロール)、5μg/ml、10μg/ml及び100μg/ml(各々n=6)で培養されたマウス神経芽細胞腫細胞株(N1E115)105の細胞数比率を示す。※:P<0.001、0μg/ml(コントロール)の細胞数比率と比較して、¶及び¶¶:P<0.05および0.005、それぞれ5μg/mlの細胞数比率と比較して、§:P<0.001、10μg/mlの細胞数比率と比較して。エラーバーは±SEMを示す。
【図2】実施例1で評価された、エダラボン濃度0μg/ml(コントロール)、5μg/ml、10μg/ml及び100μg/ml(各n=6)で培養されたマウス結腸癌細胞株(C26)105の細胞数比率を示す。※:P<0.001、0μg/ml(コントロール)の細胞数比率と比較して、¶:P<0.001、5μg/mlの細胞数比率と比較して、§:P<0.001、10μg/mlの細胞数比率と比較して。エラーバーは±SEMを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、一般式(1):
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Rは、置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基を示す。Rは、炭素数1〜5のアルキル基;置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基;或いは置換基として炭素数1〜5のアルキル基、総炭素数2〜5のアルキルカルボニル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基及びベンゾイル基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1又は2個の基で置換されていてもよいアミノ基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で表されるピラゾロン化合物又はその塩を有効成分として含有する神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬を提供する。
【0024】
一般式(1)におけるR、R及びRに示される各置換基の定義は以下の通りである。
【0025】
炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜5のアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0026】
炭素数1〜5のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜5のアルコキシ基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【0027】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0028】
総炭素数2〜5のアルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、イソバレリル基、ピバロイル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数2〜5のアルキルカルボニル基が挙げられ、好ましくは総炭素数2又は3のアルキルカルボニル基である。
【0029】
総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基が挙げられ、好ましくは総炭素数2又は3のアルコキシカルボニル基である。
【0030】
一般式(1)で表される化合物の好ましいものとしては、Rがフェニル基、Rが、炭素数1〜3のアルキル基(特に、メチル基);置換基として炭素数1〜5のアルキル基、ニトロ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1個の基で置換されていてもよいフェニル基;或いはベンゾイル基で置換されたアミノ基、Rが水素原子である化合物が挙げられる。
【0031】
一般式(1)で表される化合物のうちより好ましいものとして、例えば、3−(p−ニトロフェニル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン、3−ベンゾイルアミノ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(一般名称:エダラボン(Edaravone))が挙げられる。
【0032】
一般式(1)で表される化合物のうち特に好ましいものとして、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(一般名称:エダラボン(Edaravone))が挙げられる。
【0033】
本発明の抗腫瘍薬は、一般式(1)で表される化合物、その塩、その溶媒和物、結晶多形、光学異性体等のいずれをも包含する。また、一般式(1)で表される化合物の分子中の1つ又は複数の原子を1つ又は複数の同位体原子(例えば、重水素(H)、三重水素(H)、13C、14N、18O等)で置換したものも包含する。
【0034】
これらは、いずれも公知の方法(例えば、特公平5−31523号公報等)により、又はこれに準じて製造することができる。
【0035】
本発明の抗腫瘍薬は神経芽細胞腫の増殖を顕著に抑制し、神経芽細胞に対する増殖抑制作用は、他の細胞(例えば、結腸癌系の細胞)に対するそれと比較して、顕著に優れている。そのため、本発明の抗腫瘍薬は神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬として特に有効である。
【0036】
本発明の抗腫瘍薬の投与量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されないが、通常は、有効成分である一般式(1)で表される化合物の重量として、一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜1000mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5〜50mg/kg体重、であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01〜100mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0037】
本発明の抗腫瘍薬は、薬学的に許容される添加物を含む製剤として調製することができる。
【0038】
薬学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0039】
経口投与に適する製剤には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0040】
注射あるいは点滴用に適する製剤には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0041】
本発明の抗腫瘍薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、一般式(1)で表される化合物のうちエダラボンについては、エダラボンを有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(商品名「ラジカット」:田辺三菱製薬株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0042】
本発明の抗腫瘍薬の投与経路は特に限定されず、経口的又は非経口的に投与することができる。非経口投与の投与経路も特に限定されず、静脈内、筋肉内、皮内、皮下に注射投与することができる。
【0043】
また、本発明の抗腫瘍薬は、腫瘍の発症に先立って予防的に投与しておくこともできる。また、腫瘍を発症した患者に対しては、症状の悪化の防止ないしは症状の軽減などを目的として、本発明の抗腫瘍剤を該患者に投与することができる。
【0044】
本発明の抗腫瘍薬は神経芽細胞腫の増殖抑制のために広く使用することができる。腫瘍の抑制とはより具体的には、腫瘍発生の防止、腫瘍増大の抑制、及び腫瘍の退縮などが含まれ、臨床的には癌及び/又は腫瘍の予防及び/又は治療の全てを包含することを意味する。
【0045】
本発明の抗腫瘍薬を用いることができる腫瘍の種類は、神経芽細胞に由来する腫瘍(神経芽細胞腫)であれば特には限定されない。腫瘍としては、良性腫瘍及び悪性腫瘍の全てを包含するが、特に悪性腫瘍である。神経芽細胞腫(交感神経系の腫瘍)は、小児に最も一般的な頭蓋外の固形腫瘍であり、特に、小児領域でみられる悪性腫瘍であり、副腎、頚部、胸部、腹部、傍背随の交感神経節から発生する神経芽細胞腫である。そのため、本発明の抗腫瘍薬は、小児領域の神経芽細胞腫の予防及び/又は治療薬として有用である。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
実施例1(エダラボンによるマウス神経芽細胞株の抑制作用)
エダラボンによるマウス神経芽細胞株の抑制の評価を次のようにして実施した。
【0048】
【化3】

【0049】
細胞株と培養:
105個の細胞数マウス神経芽細胞腫(N1E115)細胞株及び結腸癌(C26)細胞株のそれぞれを、エダラボン0μg/ml、5μg/ml、10μg/ml及び100μg/ml(それぞれn=6)の連続する濃度で、5%CO2の湿潤環境中、37°Cで48時間、低グルコースDMEM培地1.5mlで培養した。低グルコースDMEM培地は、加熱不活性化したウシ胎仔血清および結合したペニシリン-ストレプトマイシンを添加したものである。細胞株は実験にすぐに用いた。
【0050】
エダラボンの調整及び使用:
エダラボンは市販の製剤(Radicut、30mg/20ml)(三菱田辺製薬株式会社製)を用いた。エダラボンの連続する濃度は、低いグルコースDMEMを用いて0μg/ml、5μg/ml、10μg/mlおよび100μg/mlの濃度に調製した。
【0051】
プロトコル:
N1E115とC26の細胞株は、エダラボン濃度0μg/ml、5μg/ml、10μg/mlおよび100μg/ml(それぞれn=6)で、低グルコースDMEM培地で48時間培養した。
【0052】
細胞計数および生死判別試験:
細胞計数キット-8(Dojindo、メリーランド、アメリカ)を使用して、高水溶性のテトラゾリウム塩(WST-8)[2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、モノナトリウム塩]を一定体積の培地に加え濃度10%にした。
【0053】
WST-8は、非放射性の電子キャリアーの存在下で還元されて水溶性のformazan染料を生産し、細胞増殖と細胞毒性アッセイにおける生存細胞の数を決定するための敏感な比色定量分析に用いられる。WST-8は細胞の脱水素酵素によって還元され、黄色の生成物(formazan)を与え、それは組織培養培地で可溶である。細胞の脱水素酵素の活動によって生成したformazan染料の量は、生存細胞の数に正比例する。
【0054】
プレートは、5%のCO2の湿潤環境中の37°Cでインキュベーターの中で、WST-8とともに再度4時間培養した。
【0055】
吸光度はマイクロプレート・リーダを使用して、450nmで測定した。エダラボン濃度0μg/mlの低グルコースDMEMの中で培養された細胞株N1E115及びC26は、対応する細胞株の培養に対する標準(コントロール)として使用した。各ウェル中の生存細胞の数は、その対応するコントロールに対する比率として計算した。
【0056】
統計分析:
細胞数比率の手段は、分散分析(ANOVA)、続いてボンフェローニ・ポスト・ホックテスト(Bonferroni post hoc test)を使用して比較した。関係係数はピアソンの2-tailed相関係数を使用して調べた。データは平均±SEMとして示される。0.05未満の確率値(Probability value)は重要であるとみなされる。データ分析はすべて、市販の統計分析パッケージ・ソフトSPSS(Statistic Package for Social Sciences、シカゴ、イリノイ、アメリカ)を用いて実施した。
【0057】
結果:
エダラボン濃度5μg/ml、10μg/ml及び100μg/mlで処理されたN1E115細胞株培養の細胞数比率は、コントロール(0μg/ml)と比較して、著しい低い細胞数比率を示した;5μg/mlのときコントロールの25.3±8.3%、P<0.001;10μg/mlのときコントロールの17.8±3.9%、P<0.001;100μg/mlのときコントロールの0.0±0.0%、P<0.00。
【0058】
エダラボン濃度10μg/ml及び100μg/mlで処理されたN1E115細胞株培養の細胞数比率は、エダラボン濃度5μg/mlで処理されたものより低かった;それぞれP<0.05および0.001。
【0059】
エダラボン濃度100μg/mlで処理されたN1E115細胞株培養のものは、エダラボン濃度10μg/mlで処理されたものより低かった;P<0.001(図1を参照)。
【0060】
エダラボン濃度5μg/ml及び10μg/mlで処理されたC26細胞株培養の細胞数比率は、コントロール(0μg/ml)の細胞数比率と同等であった。
【0061】
エダラボン濃度100μg/mlで処理されたC26細胞株培養の細胞数比率は、エダラボン濃度0μg/ml(コントロール)、5μg/ml及び10μg/mlで処理されたものより低かった;それぞれ16.15±7.2%、P<0.001)(図2を参照)。
【0062】
エダラボンで処理されたN1E115細胞株培養の細胞数比率は、エダラボン濃度と負の相関を有していた(r=-0.6、P<0.05)。
【0063】
上記結果より、エダラボン濃度5μ/mlにおいて神経芽細胞株(N1E115)の増殖を抑制できた。交感神経系腫瘍に対するこの効果は、エダラボンの抗腫瘍効果は癌(cancer)に制限されていないことを示している。更に、エダラボンの神経芽細胞における抗腫瘍効果は、濃度依存的であることが確認された。なお、エダラボン濃度5μ/ml及び10μ/mlのとき毒性は示さなかった。これらの結果より、エダラボンは、小児における最も一般的な頭蓋外の固形腫瘍である神経芽細胞腫に対し優れた抗腫瘍効果を示すことが確認された。そのため、エダラボンは神経芽細胞腫に対する抗腫瘍剤として臨床上極めて有用である。
【0064】
また、エダラボンは、神経芽細胞腫(N1E115)に対して優れた腫瘍増殖抑制作用を有する。一方、結腸癌(C26)細胞株に対して腫瘍増殖抑制作用は確認されなかった。そのため、エダラボンは神経芽細胞腫に対し選択的に作用することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Rは、置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基を示す。Rは、炭素数1〜5のアルキル基;置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基;或いは置換基として炭素数1〜5のアルキル基、総炭素数2〜5のアルキルカルボニル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基及びベンゾイル基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1又は2個の基で置換されていてもよいアミノ基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で表されるピラゾロン化合物又はその塩を有効成分として含む神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬。
【請求項2】
神経芽細胞腫が小児領域の神経芽細胞腫である請求項1に記載の抗腫瘍薬。
【請求項3】
神経芽細胞腫が小児の頭蓋外の固形腫瘍である請求項1又は2に記載の抗腫瘍薬。
【請求項4】
一般式(1)で表されるピラゾロン化合物がエダラボンである請求項1〜3のいずれかに記載の抗腫瘍薬。
【請求項5】
神経芽細胞腫に対する抗腫瘍薬を製造するための一般式(1):
【化2】

(式中、Rは、置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基を示す。Rは、炭素数1〜5のアルキル基;置換基として炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の基で置換されていてもよいフェニル基;或いは置換基として炭素数1〜5のアルキル基、総炭素数2〜5のアルキルカルボニル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基及びベンゾイル基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1又は2個の基で置換されていてもよいアミノ基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で表されるピラゾロン化合物又はその塩の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224592(P2012−224592A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94740(P2011−94740)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000125381)学校法人藤田学園 (19)
【Fターム(参考)】