説明

神経芽腫の検出方法

【課題】神経芽腫の悪性度および自然退縮経過を判断する手段を提供すること。
【解決手段】検体において、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子の活性化または不活性化、並びにMYCN遺伝子の増幅を検出することにより検体の悪性度および自然退縮経過を判定する、癌の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌、特に神経芽腫の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経芽腫(neuroblastoma; NB)は副腎や交感神経節に発生する腫瘍であり、神経提由来の細胞が神経芽腫の発生細胞と考えられる。神経芽腫の臨床的挙動は特徴的であることが知られている。予後良好な(favorable)腫瘍の場合は、1歳未満の患者において、治療的介入をせずに、プログラムされた細胞死(programmed cell death)(PCD)がおこり腫瘍が自然に消失する(自然退縮)か、または、良性な神経節細胞腫(ganglioneuroma)(GN)へと分化成熟する。しかし、予後不良な(unfavorable)腫瘍の場合には、強い化学療法をおこなっても、進行した腫瘍へ発達し、結果的に死に至ってしまう例が多い(非特許文献1及び2)。一方、1歳以降に発症する神経芽腫では一般に進行していることが多く、手術や化学療法、放射線療法を組み合わせた強力な治療が必要であり、特に病期(Stage)4の場合や癌遺伝子MYCNが増えている場合には、造血幹細胞移植(骨髄移植や末梢血幹細胞移植など)を用いた積極的な治療がおこなわれている。しかし、stage4の神経芽腫の場合、造血幹細胞移植を併用した積極的な治療をおこなっても5年後の生存率は30%程度である。従って、神経芽腫発症に関連する原因遺伝子を見つけ出し、その機能を解明することで有効な検出法・治療法の開発が望まれている。
【0003】
すなわち、神経芽腫における自然退縮の原因遺伝子を見つけ出し、その分子メカニズムを解明することで、その知見に基づいた新たな癌の検出または判定法の開発をおこなうことが望まれている。そして、その原因遺伝子の特徴を検出することにより、無駄な治療をおこなわずに済む、患者に対し適切な治療を選択することが可能になることと考えられる。
【0004】
【非特許文献1】Brodeur., et al., Nat Rev Cancer, 2003,3,203−216
【非特許文献2】Westermann et al,Cancer Lett,2002,184,127−147
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
神経芽腫における自然退縮についての遺伝子レベルでの分子メカニズムが解明されれば、遺伝子検出技術を用いた神経芽腫の自然退縮の判定、悪性度の診断、進行の抑制をおこなうことが可能となり、さらに、メカニズムに基づく薬剤の選別、開発や治療法の確立が可能となるはずである。具体的には、神経芽腫の自然退縮に特徴的な挙動を示す遺伝子を同定して、遺伝子を中心とした技術的検討をおこなうことにより、神経芽腫の自然退縮の判定、悪性度の診断、進行の抑制をおこなうことが可能になる。即ち、本発明は、神経芽腫の自然退縮に特徴的な挙動を示す遺伝子を同定することによって、癌の検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Comparative Genomic Hybridization (CGH)を応用したBacterial Artificial Chromosome array−based Methylated CpG island Amplification(BAMCA)法はゲノム上でメチル化を受けている領域を探索するためには、簡便で迅速であり、有効な方法である(Toyota M.,et al.,Cancer Res,2005,10,2307−2312,Inazawa J., et al.,Cancer Sci,2004,95,559−563,Misawa A.,et al.,Cancer Res,2005,65,10233−10242,Sugino Y.,et al.,Oncogene,2007,26,7401−7413,Tanaka K.,et al,Oncogene,26,6456‐6468)。この手法により、神経芽腫の自然退縮に関連する遺伝子、すなわち、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子が神経芽腫においてメチル化により不活性化していることを同定することに成功した。その後の詳細な解析から、神経芽腫における自然退縮についての遺伝子レベルでの分子メカニズムにおいて、以下のようなことが明らかになった(図5f、図16)。
【0007】
神経芽腫腫瘍において、予後良好および不良のいずれにおいても、LAPTM5はメチル化を介して、発現抑制されている。しかし、プログラムされたある時期が来ると、腫瘍細胞において、LAPTM5の発現が活性化し、細胞分化あるいは細胞死へと向かい、やがて腫瘍全体は、退縮していくと考えられた。この時のLAPTM5の活性化には、ミトコンドリア障害などのストレス、分化誘導の刺激、脱メチルおよびMYCNの発現抑制が関与しているものと考えられた。一方で、腫瘍が退縮しない予後不良の腫瘍では、メチル化に加えて、高頻度にLAPTM5のコピー数の減少とMYCN遺伝子増幅を持つため、上記のLAPTM5活性化に関わるプログラムされたイベントが起きたとしても、LAPTM5の発現の絶対量が低下してしまっているため、細胞分化および細胞死が起こりにくくなっていることが考えられた。
【0008】
さらに、LAPTM5誘導性細胞死において、LAPTM5の発現活性化だけでなく、その蓄積が細胞死誘導に深く関与していることが考えられた。蓄積したLAPTM5はリソソーム不安定性を招き、そのリソソーム不安定性により、LAPTM5が相乗的に蓄積していくと考えられた。その結果、リソソーム不安定性により、カテプシンの細胞質への流出およびオートファジー経路の遮断によるユビキチン化タンパク質の蓄積が起こり、細胞死へと導かれる。このようなLAPTM5を介した分子メカニズムにより、神経芽腫の自然退縮が起こっているものと考えられた。
【0009】
上記のように、LAPTM5に対する特異抗体を作成し、免疫組織染色法による解析から、予後良好腫瘍の自然退縮を示す腫瘍変性部位において、LAPTM5は活性化していることを同定した。また、予後不良神経芽腫由来の細胞株にLAPTM5遺伝子の転写産物または蛋白質を増加させると神経芽腫の増殖を著しく低下させ、細胞死を誘導することを見出すことに成功し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明によれば、検体において、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子の活性化または不活性化、並びにMYCN遺伝子の増幅を検出することにより検体の悪性度および自然退縮経過を判定する、癌の検出方法が提供される。
【0011】
好ましくは、LAPTM5遺伝子の不活性化は、転写開始点近傍におけるCpG部位のメチル化による不活性化、LAPTM5遺伝子の欠失、又はMYCNによる転写抑制のいずれかによるものである。
好ましくは、LAPTM5遺伝子の不活性化を、RT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法、FISH法、アレイCGH法、MsSNuP法、Bsulfite Sequence法、又はCOBRA法を用いて検出する。
【0012】
本発明によればさらに、検体において、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子から翻訳される蛋白質の量、並びにMYCN遺伝子の増幅を検出することにより検体の悪性度および自然退縮経過を判定する、癌の検出方法が提供される。
【0013】
好ましくは、LAPTM5遺伝子から翻訳される蛋白質の量を免疫組織化学的法により検出する。
【0014】
好ましくは、検体は、神経堤由来の組織である。
好ましくは、癌は神経芽腫である。
【0015】
本発明によればさらに、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子、あるいはLAPTM5遺伝子によりコードされる蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法が提供される。
本発明によればさらに、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子、あるいはLAPTM5遺伝子によりコードされる蛋白質を含む、細胞増殖抑制剤が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、神経堤由来の細胞検体における癌化、悪性度および自然退縮傾向を的確に把握することが可能となった。また、神経芽腫において、LAPTM5遺伝子の転写産物を導入することにより、神経芽腫の増殖を抑制し、細胞死を誘導することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(1)癌の検出方法
本発明の癌の検出方法は、検体において、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子の活性化または不活性化、並びにMYCN遺伝子の増幅を検出することにより検体の悪性度および自然退縮経過を判定することを特徴とする。
【0018】
上述したように、本検出方法は、LAPTM5特異抗体を用いた神経芽腫組織における免疫組織染色法およびLAPTM5特異プライマーを用いた種々のメチル化状態検出法により、神経芽腫におけるLAPTM5遺伝子の不活性化または活性化を検出することを特徴とする方法である。
【0019】
LAPTM5遺伝子の不活性化または活性化を検出する対象となる神経芽腫は、検体提供者の生検組織細胞が好適である。
この検体組織細胞は、検査等の結果、副腎や交感神経節に癌化が疑われる病変部が認められた場合の病変組織、または、神経芽腫であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある神経芽腫の組織、等が主な対象となり得る。
【0020】
本検出方法により、「検査等の結果、副腎や交感神経節に癌化が疑われる病変部が認められた場合の病変組織」におけるLAPTM5遺伝子の不活性化が認められた場合には、病変組織は癌化に向かって進行しているか或るいは既に癌化の状態であり、かつ、悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療(手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)をおこなう必要性が示される。
【0021】
また、「神経芽腫であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある神経芽腫の組織」におけるLAPTM5遺伝子の不活性化が認められた場合にも、癌組織の悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)をおこなう必要性が示される。
【0022】
逆にLAPTM5遺伝子の活性化部位が認められた場合は、その腫瘍は自然退縮に向かっている可能性があり、外科的切除以外の治療法(経過観察等)の選択も考慮に入れる必要性が示される。
【0023】
検体として採取された神経芽腫組織は、必要な処理、例えば、採取された組織からのDNAあるいはRNAの調製をおこない、本検出方法をおこなう対象とすることができる。
【0024】
(i)LAPTM5遺伝子の欠失の検出
LAPTM5遺伝子の欠失の検出を直接的におこなうことができる代表的な方法として、CGH(Comparative Genomic Hybridization)法とFISH(Fluorescence in situ hybridization)法を挙げることができる。この態様の本検出方法は、LAPTM5遺伝子を有するBAC(Bacterial Artificial Chromosome)DNA、YAC(Yeast Artificial Chromosome)DNA、PAC(P1−drived Artificial Chromosome)DNA(以下、BAC DNA等ともいう)を標識し、FISHをおこなうと、LAPTM5遺伝子の有無、すなわち欠失を検出することができる。
【0025】
上記の態様の方法は、ゲノムDNA定着基盤を用いておこなうことが、好適であり、かつ、現実的である。通常に得られるBAC DNA等は、ゲノムDNA定着基盤を多数製造して実用化するには少量であるので、当該DNAを遺伝子増幅産物として得る必要がある(この遺伝子増幅行程を「無尽蔵化」ともいう)。無尽蔵化においては、まずBAC DNA等を、4塩基認識酵素、例えば、RsaI、DpnI、HaeIII等で消化した後、アダプターを加えてライゲーションをおこなう。アダプターは10〜30塩基、好適には15〜25塩基からなるオリゴヌクレオチドで、2本鎖は相補的配列を有し、アニーリング後、平滑末端を形成する側の3‘-末端のオリゴヌクレオチドをリン酸化する必要がある。次に、アダプターの一方のオリゴヌクレオチドと同一配列を有するプライマーを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅し、無尽蔵化することができる。一方、各BAC DNA等に特徴的な50〜70塩基のアミノ化オリゴヌクレオチドを検出用プローブとして用いることもできる。
【0026】
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。固体基盤としては、ガラス板が好ましい。ガラス等の固体基盤は、ポリ−L−リジン、アミノシラン、金・アルミニウム等の凝着により基盤をコートすることがより好ましい。
【0027】
上記の無尽蔵化したDNAを基盤上にスポットする濃度は、好ましくは10pg/μl〜5μg/μl、より好ましくは1ng/μl〜200ng/μlである。スポットする量は好ましくは1nl〜1μl、より好ましくは10nl〜100nlである。また、基盤に定着させる個々のスポットの大きさ及び形状は、特に限定されないが、例えば、大きさは直径0.01〜1mmであり得、上面から見た形状は円形〜楕円形であり得る。乾燥スポットの厚みは、特に制限はないが、1〜100μmである。さらに、スポットの個数は、特に制限はないが、使用する基盤あたり10〜50,000個、より好ましくは100〜5,000個である。それぞれのDNAはSingularからQuadruplicateの範囲でスポットするが、Duplicate或るいはTriplicateにスポットすることが好ましい。
【0028】
乾燥スポットの調整は、例えば、スポッターを用いて無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上にたらして、複数のスポットを形成した後、スポットを乾燥することにより製造することができる。スポッターとしてインクジェット式プリンター、ピンアレイ式プリンター、バブルジェット(登録商標)式プリンターが使用できるが、インクジェット式プリンターを使用することが望ましい。例えば、GENESHOT(日本ガイシ株式会社、名古屋)等を使用できる。
【0029】
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。
【0030】
また、このLAPTM5遺伝子の欠失を直接的に検出する手段の一つとしてサザンブロット法を挙げることができる。サザンブロット法は、検体から得られるゲノムDNAを分離して固定し、これと、LAPTM5遺伝子とのハイブリダイズを検出することにより、検体中の当該遺伝子の存在を検出する方法である。
【0031】
(ii)LAPTM5遺伝子の不活性化の検出
CpGリッチプロモーター並びにエキソン領域を密にメチル化すると転写不活性化が起こることが報告されている(Bird AP., et al., Cell,99,451−454,1999).癌細胞では、CpGアイランドはそれ以外の領域と比較すると高い頻度で密にメチル化されており、プロモーター領域の高度メチル化(Hypermethylation)は、癌での癌抑制遺伝子の不活性化に深く関与している(Ehrlich M., et al,Oncogene,21,6694−6702,2002)。
LAPTM5遺伝子の発現量が減少していることが判明した検体細胞(癌組織に由来するプライマリー癌細胞)に対して、脱メチル化剤(5−アザデオキシシチジンなど)を作用させて、遺伝子発現量の回復を検討することができる。すなわち、検体細胞に脱メチル化剤を作用させて、LAPTM5遺伝子の発現量が回復する場合には、検体細胞における遺伝子の抑制要因は、CpGアイランドのメチル化であり、検体提供者に、脱メチル化作用を有する薬剤を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。
【0032】
(iIII)LAPTM5遺伝子の活性化の検出
特異抗体を用いた腫瘍組織切片での免疫組織染色法を行うことにより、図2aに示すようなLAPTM5遺伝子が陽性の腫瘍細胞が存在し、かつ細胞の脱落を伴った、腫瘍変性部位が検出された場合、その腫瘍は、自然退縮過程の途中であることが考えられる。
【0033】
(2)細胞増殖の抑制方法、及び細胞増殖抑制剤
本発明によればさらに、LAPTM5遺伝子、または、該LAPTM5遺伝子の発現産物である蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法、並びに上記遺伝子又は蛋白質を含む細胞増殖抑制剤が提供される。
【0034】
LAPTM5遺伝子を取り扱う場合、当業者に公知の技術を用いて培養細胞などから取得したcDNAであってもよいし、PCR法などにより酵素学的に合成したものでもよい。PCR法によりDNAを取得する場合、ヒトの染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、目的とする塩基配列を増幅できるように設計したプライマーを使用してPCRを行う。PCRで増幅したDNA断片は大腸菌などの宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0035】
LAPTM5遺伝子の検出ブローブ又はプライマーの調製、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual、2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY.、1989、Current Protocols in Molecular Biology、Supplement 1〜38、John Wiley & Sons(1987−1997)などに記載された方法に準じて行うことができる。
【0036】
LAPTM5遺伝子は、ベクターに組み込んだ組換えベクターの形態で用いることができる。ベクターとしてはウイルスベクター又は動物細胞発現用ベクター、好ましくはウイルスベクターが用いられる。ウイルスベクターとしてはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。中でも、レトロウイルスベクターは、細胞に感染後、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれ、ベクターに組み込んだ外来遺伝子を安定にかつ長期的に発現させる可能であるからレトロウイルスベクターを使用することが特に望ましい。
【0037】
動物細胞発現用ベクターとしては例えばpCXN2(Gene,108,193−200,1991)、PAGE207(特開平6−46841号公報)又はその改変体などを用いることができる。
【0038】
上記組換えベクターは適当な宿主に導入して形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって生産することができる。組換えベクターがウイルスベクターの場合、これを導入する宿主としてはウイルス生産能を有する動物細胞が用いられ、例えば、COS−7細胞、CHO細胞、BALB/3T3細胞、HeLa細胞などが挙げられる。レトロウイルスベクターの宿主としては、ΨCRE、ΨCRIP、MLVなどが、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターの宿主としては、ヒト胎児腎臓由来の293細胞などが用いられる。ウイルスベクターの動物細胞への導入はリン酸カルシウム法などで行うことができる。また、組換えベクターが動物細胞発現用ベクターの場合、これを導入する宿主としては大腸菌K12株、HB101株、DH5α株などを使用でき、大腸菌の形質転換は当業者に公知である。
【0039】
得られた形質転換体はそれぞれに適した培地、培養条件により培養する。例えば、大腸菌の形質転換体の培養は、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含有するpH5〜8程度の液体培地を用いて行うことができる。培養は通常15〜43℃で約8〜24時間程度行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、培養終了後、通常のDNA単離精製法により得ることができる。
【0040】
また、動物細胞の形質転換体の培養は、例えば約5〜20%のウシ胎児血清を含む199培地、MEM培地、DMEM培地などの培地を用いて行うことができる。培地のpHは約6〜8が好ましい。培養は通常約30〜40℃で約18〜60時間行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、それを含有するウイルス粒子が培養上清中に放出されるので、ウイルス粒子の濃縮、精製を塩化セシウム遠心法、ポリエチレングリコール沈澱法、フィルター濃縮法などにより得ることができる。
【0041】
本発明の細胞増殖抑制剤は、有効成分である上記遺伝子を遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合することにより製造することができる。また、上記遺伝子をウイルスベクターに組み込んだ場合は、組換えベクターを含有するウイルス粒子を調製し、これを遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合する。
【0042】
有効成分である上記遺伝子又は蛋白質を配合するために使用する基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物などの塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコースなどの溶液、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液などが挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、界面活性剤などの助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥などの操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。
【0043】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与でもよいし、局所注射又は経口投与などの局所投与を行ってもよい。さらに、細胞増殖抑制剤の投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、又は外科的手術などと組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0044】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日当たり組み換え遺伝子の重量として1μg/kg体重から1000mg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは10μg/kg体重から100mg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0045】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1:神経芽腫細胞におけるDNAメチル化を介したLAPTM5の発現低下
ヒト1番染色体短腕(1p)上でDNAメチル化を介して発現低下する神経芽腫抑制遺伝子を探索するために、2種の神経芽腫細胞株(IMR32細胞とGOTO細胞)から調製したゲノムDNAを用いて、1p36 contig BAC‐arrayを用いてBAMCA法による解析をおこなった(Toyota M.,et al.,Cancer Res,2005,10,2307−2312,Inazawa J., et al.,Cancer Sci,2004,95,559−563,Misawa A.,et al.,Cancer Res,2005,65,10233−10242,Sugino Y.,et al.,Oncogene,2007,26,7401−7413,Tanaka K.,et al,Oncogene,26,6456‐6468)。なお、対象として、stage-1の神経芽腫検体、または正常末梢血単核球細胞(PBMNCs)から調製したMCA(Methylated CpG island amplification、Toyota M.,et al.,Cancer Res,2005)産物をCy5で標識した。被検サンプルとして、IMR32細胞とGOTO細胞から調製したMCA産物をCy3で標識した。BAMCA法によるハイブリダイゼーションの後、アレイをGenePix 4000Bスキャナー(Axon Instruments、CA、USA)を用いてCy3及びCy5に由来する蛍光をモニタリングした(図6a)。得られた結果をGenePix Pro4.1イメージングソフトウエア(Axon Instruments、CA、USA)を用いて解析した。Cy3に由来する蛍光強度の平均とCy5に由来する蛍光強度の平均を同じ値に調整し、Cy3/Cy5のRatioを求めた。メチル化に差がない場合にはRatio値は1である。Ratio値が1.0より大きい時にメチル化の変化が認められると判定した。
【0047】
その結果、IMR32細胞とGOTO細胞の両方で、メチル化されたDNA配列の特徴を持つ3つのBACクローン(127J4、316C6、418B22)を候補として単離することが出来た(表1)。
【0048】
これらの染色体領域には、6つの遺伝子(FLJ10420、KIAA1922、USP48、RAP1GA1、LAPTM5、MATN1)が存在していることをヒトゲノムデータベース(http://genome.ucsc.edu/)から確認した。これらの遺伝子のmRNA発現をIMR32細胞とGOTO細胞で適切なプライマー(表2)を用いてRT-PCRにより確認した(図6b、表3)。
【0049】
この結果、3つの遺伝子(KIAA1922、RAP1GA1、LAPTM5)は、stage-1の神経芽腫検体(S1 NBs)、正常副腎(Adr)、またはPBMNCsと比較して、IMR32細胞とGOTO細胞の両方で発現低下していることを確認した(図6b、表1)。さらに詳細なメチル化の状態を探るため、Methylation specific(MS)-PCRを用いて、IMR32細胞とGOTO細胞におけるRAP1GA1とLAPTM5の転写開始部位周辺に存在するSmaI認識配列内のCG部位のメチル化状態を調べた(図6c、表1)。各細胞のゲノムDNA(1μg)をメチル化感受性制限酵素SmaI(New England BioLabs)により反応液量40μl中で25℃、24時間消化し、適切なプライマー(表2)を用いて増幅反応をおこなった。各SmaI部位のメチル化状態は、PCR産物の存在の有無により決定した。その結果、KIAA1922はメチル化を確認できなかったが、RAP1GA1、LAPTM5において、IMR32細胞とGOTO細胞でメチル化を受けていることを確認した。
【0050】
さらにこの2つの遺伝子(RAP1GA1、LAPTM5)について、Combined bisulfite restriction analysis(COBRA)法により、様々なステージの41種類の神経芽腫検体でのメチル化状態を調べた。COBRA法によるメチル化の検討には、EZ DNAメチレーションキット(Zymo RESEARCH,CA,USA)を使用し、神経芽腫検体に由来するゲノムDNA(2μg)をSodium bisulfite中50℃で1晩処理をおこない、目的とするメチル化DNAを増幅するようにデザインしたプライマー(表2)を用いてPCRをおこなった。得られたPCR産物をTaqI制限酵素(New England BioLabs)または、HhaI制限酵素(New England BioLabs)で消化した。TaqIとHhaIはメチル化されないシトシンがSodium bisulfiteで修飾された配列は消化しないが、シトシンがメチル化された、Sodium bisulfiteで修飾されない配列を消化する性質を利用して、メチル化の頻度を調べた。その結果、LAPTM5においてのみ、神経芽腫検体で高頻度にメチル化を受けていることを確認した(図6d,e)。さらにBAC418B22内に存在するSmaIにおけるメチル化および転写開始点近傍のCG部位におけるメチル化状態をMS-PCR法およびbisulfite シーケンス法により解析した。その結果、LAPTM5遺伝子座は、PBMNCsまたはEBウイルスによりトランスフォームしたリンパ球細胞株(LCL)と比較して、GOTO細胞とIMR32細胞において高い頻度で広範囲にメチル化されていた。(図6f、g)。これらの結果により、神経芽腫細胞における1p35−p36上のメチル化を介した発現抑制される候補遺伝子としてLAPTM5に注目することを決定した。
【0051】
さらに、10種類の神経芽腫細胞株(SK−N−KP、SK−N−AS、SK−N−SH、SH−SY5Y、KP−N−RT、MP−N−MS、CHP134、SJ−N−CG、IMR32、GOTO)において、LAPTM5の遺伝子発現レベル、メチル化頻度、およびコピー数を調べるために、定量的RT-PCR,bisulfite シーケンス法、CGH-アレイ法、およびFISH解析を行った。(図1a、図6h、図7, 表4)。その結果、すべての細胞株において、MYCNの増幅またはLAPTM5のコピー数の低下の有無に関わらず、メチル化およびLAPTM5の発現低下を検出した。
【0052】
次に、神経芽腫腫瘍検体(stage-1、-2、-3、-4S、-4a)において、LAPTM5の発現レベルおよびメチル化頻度を調べるために、定量的RT-PCR法およびMs−SNUPE法(methylation−sensitive single nucleotide primer extension)法(Gonzalgo M.L.& Liang G,Nat Protoc,2007,2,1931−1936)を行った(図1b、図8)。結果として、PBMNCsと比較して、すべての神経芽腫腫瘍で予後の状態に関係なく、mRNAの量とメチル化の状態は逆相関であることが判明した(図1b)。
【0053】
Ms−SNuPE法には、sodium bisulfite処理したDNAを用いて、2つのCG部位を含むゲノム領域を適切なプライマー(図8b、表2)を用いてPCRにより増幅、その増幅産物をアガロースゲル電気泳動により増幅産物を精製した。この精製した増幅産物を用い各部位のためのMs−SNuPEプライマー(表2)を用いてメチル化解析をおこなった。Ms−SNuPE産物は15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認し、得られるシグナルは、PhosphorImager analysis system(Molecular Dynamics)の平均化により定量した(図8b)。メチル化の評価は、[Methylated C/(Methylated C+unmethylated T)]に従い、2つのCG部位の結果に基づいて算出した。
【0054】
またこのときのmRNAの定量は、Real−time quantitative PCR(qRT-PCR)、ABI−7900(Applied Biosystems)を用いて測定をおこなった。コントロールとしてglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を用い、各サンプルはGAPDHの量に基づいて標準化をおこなった。各プライマーの配列は表2に示す。
【0055】
さらに、71の神経芽腫検体において、LAPTM5に対する特異抗体を用いた免疫組織染色法による解析の結果、陽性である血球系細胞および副腎髄質細胞と比較して、Stgaeni関係なく、全ての神経芽腫の癌細胞でLAPTM5のタンパク質発現量が低下していることを確認した(図1c)。興味深いことに、LAPTM5の発現は、予後良好な検体中に含まれる分化傾向を示す細胞や完全に分化成熟したGN中に含まれる分化細胞において、高い発現を認めた(図1c)。また、分化成熟したGNにおいては、神経芽腫と比較して、メチル化頻度が低下していることを同定した(図1d、e)。このことから、LAPTM5はすべての神経芽腫において、メチル化を介して発現低下していることが強く示唆された。
【0056】
実施例2:腫瘍変性部位におけるLAPTM5の活性化およびLAPTM5の強制発現によるカスパーゼ非依存的な細胞死の誘導
特異抗体を用いた免疫組織染色解析の結果、LAPTM5の発現は、腫瘍変性部位(タイプ1;分化傾向を示す細胞群の脱落部位、タイプ2;未分化腫瘍細胞群の脱落部位)に存在する変性細胞において、活性化していることを同定した(図2a)。LAPTM5陽性の変性部位は、臨床的に発見された予後不良な腫瘍に比べて(17例中1例、5.9%)、マススクリーニングで発見された予後良好な腫瘍において(54例中42例、77.8%)、高頻度に出現していた(p<0.00001)(表3)。しかも、臨床的に発見されたLAPTM5陽性の腫瘍変性部位をもつ1例の検体では、病理学的にGNへの分化成熟過程であり、予後良好群に含まれることが考えられた。これらのように、LAPTM5は、神経芽腫の自然退縮における腫瘍変性に密接に関係すること明らかになった。そして、この遺伝子産物は神経芽腫細胞の細胞死に関与することが推測された。なお、神経芽腫の変性部位において、高発現していることが知られているH−ras遺伝子は、LAPTM5陽性の同じ変性部位において、共発現していることを確認した(図9)。
【0057】
次に、LAPTM5の発現は神経芽腫細胞の細胞死に関与するかを調べるため、アデノウイルスを介した発現システムを用いて神経芽腫細胞株に強制発現させたときの影響を調べた。細胞死と生存率のアッセイは、細胞を24ウエルプレート上に撒き、選択したMOIs(Multiplicities of infection;PFU/cell)でインフェクションさせた。インフェクションの2または4日後、死滅した細胞数はトリパンブルー排他法により決定した。また、pan‐カスパーゼ阻害剤、zVAD-fmlは100μMの濃度で使用した。また、各実験において最低200細胞はカウントした。生存細胞数は水溶性テトラゾリウム塩比色分析アッセイ(cell counting kit-8;同仁化学)を用いて評価した。
【0058】
その結果、GOTO細胞とIMR32細胞においてLAPTM5蛋白質の強い発現は高濃度でのインフェクション後4日目に検出され(図2b)、その細胞の生存率はアデノウイルス−LAPTM5(Ad−LAPTM5)をインフェクションした両方の細胞株で濃度依存的に減少していることが明らかになった(図2c)。さらに、高濃度インフェクションの4日後に、アデノウイルス−LacZ(Ad−LacZ)インフェクションと比較して、Ad-LAPTM5インフェクションにおいて死滅細胞の著しい増加を確認した(図2d)。また、各細胞株において、細胞死は、カスパーゼ阻害剤であるzVAD−fmkを用いた処理で阻害されることはないことを確認した(図2d)。また、他の神経芽腫細胞株または他の癌種由来細胞株を用いた場合でも同じような結果を得ることができた(図15)。
【0059】
これらの結果は、LAPTM5の過剰発現は、神経芽腫細胞においてカスパーゼ非依存性な細胞死を誘導できることを示唆している。
次に、LAPTM5誘導性細胞死において、オートファジーの特徴を有するかを調べた。まず、LAPTM5誘導細胞死により死滅している神経芽腫細胞の細胞質にLC3蛋白質がどのように局在しているのかを調査するため、神経芽腫細胞(GOTO細胞)へGFP-LC3発現ベクターをトランスフェクションし、3週間、Geneticin存在下で培養し、GFP−LC3安定発現株を樹立した。トランスフェクションにはLipofectamine2000(Invitrogen)を用い推奨プロトコールに従って実験をおこなった。GFP−LC3安定発現するGOTO細胞において、Ad−LAPTM5のインフェクションにより細胞死が誘導されたとき、Ad−LacZをインフェクションした細胞と比較して、細胞質内にGFP-LC3の点状な局在が顕著に増加していることを見出した(p=0.003、図2e)。さらに、ウエスタンブロット解析により、Ad‐LAPTM5をインフェクションしたGFP−LC3安定発現するGOTO細胞でLC3−II型の存在を検出した(図2f)。また、電子顕微鏡解析ではAd−LacZをインフェクションした細胞と比較して、Ad−LAPTM5をインフェクションしたほとんどのGOTO細胞で細胞質においてオートファジー関連小胞の存在を確認した(図2g)。さらに、一部の死細胞において、細胞質の空砲化および核の虎斑状模様といったネクローシスの特徴を示す細胞が認められた(図14)。
【0060】
これらの結果は、LAPTM5の強制発現は、神経芽腫細胞株において、オートファジー小胞の出現を伴ったネクローシス様細胞死を誘導することが出来ることを示唆する。
【0061】
実施例3:LAPTM5誘導性細胞死におけるリソソーム膜透過化(Lysosomal membrane permeabilization)(LMP)の誘導およびオートファジー経路の遮断について
LAPTM5誘導性細胞死における、オートファジー小胞の出現の意義を検討するために、オートファジー小胞形成を抑制する薬剤(ウォルトマニン)またはsiRNA導入によるATG5遺伝子(オートファジー関連遺伝子)発現抑制の効果を検討した(図3a)。その結果、オートファジーを阻害してもLAPTM5誘導性細胞死は抑制されなかった。この結果は、LAPTM5誘導性細胞死におけるオートファジー小胞の出現は、オートファジー自体の活性化ではなく、未成熟なオートファジー小胞の蓄積に起因することが示唆された。さらに、ウエスタンブロット解析および蛍光染色法により、LAPTM5誘導性細胞死の際に、オートファジーによるタンパク分解を受けると考えられているp62/SQSTM1およびユビキチン化タンパク質の蓄積を認めた(図3b,c、図8)。その際、細胞死を起こした一部の細胞において、p62/SQSTM1およびユビキチン化タンパク質が共局在し、封入体を形成していた。また、過去の報告どおり、p62/SQSTM1とGFP−LC3との共局在も確認された(図3b)。さらに、界面活性剤(Triton−X)不溶性分画において、ユビキチン化タンパク質量が増加していることがウエスタンブトッティングにより確認されたので、このユビキチン化タンパク質は封入体を形成して蓄積していることが強く示唆された(図8b)。これらの結果は、LAPTM5誘導性細胞死の際に出現するオートファジー小胞は、オートファジー経路の遮断による未成熟なオートファジー小胞およびユビキチン化タンパク質の蓄積を示唆していることが分かった。
【0062】
一方、LAPTM5は膜タンパク質であり、リソソームに局在することが知られている。実際にアデノウイルス感染1日後、強制発現されたLAPTM5は、lysosomotropic fluorescence probeであるLysoTracker Rhodamine(LTR)と点状に共局在を示した(図3d)。しかしながら、感染4日後において、LAPTM5の蓄積と相関して、LTRの点状な染色パターンはしばしば消失していることを同定した(図3d)。このようなLTR染色パターンの変化は、LMPに起因しており、リソソームの不安定化・崩壊を示している。このLMPの観察は、LAPTM5誘導性細胞死の増加に伴って、認められた(Ad−LacZ細胞と比較して、GOTO細胞において2.7倍、p=0.0007とIMR32細胞において5.4倍、p=0.0108、図11)。さらに、LMPの他のマーカーであるアクリジンオレンジ(AO)染色の減少もLAPTM5誘導性細胞死に伴って、起こっていることを確認した(図3e、図11)。また、一部の死細胞において、リソソームでの加水分解酵素カテプシンD(CTSD)のリソソームから細胞質ゾルへの放出および中間体フォームの増加を確認した(図3c、d、図11)。これらの結果は、LAPTM5の強制発現は、LMPを介したリソソームの不安定化・崩壊を伴うリソソーム性細胞死を誘導することが示唆された。従って、LAPTM5により誘導されるLMPがオートファジー経路の遮断を招いていることが推測された。実際に、GFP−LC3安定発現するGOTO細胞において、LMP誘導剤であるciprofloxacin(CPX)(LKT labratories)処理したとき、LAPTM5誘導リソソーム細胞死と同様の、LC3−II型の検出とp62/SQSTM1蛋白質の蓄積を見出した(図12)。さらに、これらのin vitroでの観察と一致するように、免疫組織染色法においてもまた、p62/SQSTM1、ユビキチン化タンパク質およびカテプシンDの発現増加が観察された(図3f)。また、一部の細胞において、ユビキチン化陽性封入体の形成を認めた。これらの結果は、LAPTM5の発現は、LMPを介したリソソームの不安定化を伴ったリソソーム性細胞死を誘導することを示唆している。同時に、LAPTM5により誘導されたリソソーム不安定性は、未成熟なオートファジー小胞およびユビキチン化タンパク質の蓄積を導いていることが考えられた。
【0063】
実施例4:プロテアソームまたはリソソーム分解経路の遮断によるLAPTM5の蓄積と細胞死誘導
GOTO細胞において、アデノウイルスにより強制発現させたLAPTM5は蓄積しているように観察された。従って、LAPTM5はプロテアソームまたはリソソーム系のタンパク分解を受けるかどうか、またこのLAPTM5の蓄積が細胞死に重要かどうかを調べた。Ad−LAPTM5によるインフェクション1日後、プロテアソーム阻害剤(ALLNまたはMG132)またはリソソーム阻害剤(Bailomycin A1またはNH4Cl)により、さらに1日間処理を行った。その後、細胞を回収し、サンプルを調整しウエスタンブロット解析を行った。その結果、発現されたLAPTM5は、タンパク分解阻害剤処理により、顕著に蓄積していることが明らかになった(図4a)。さらに、この蓄積はLAPTM5抗体を用いた蛍光染色によっても確認された(図4b)。また、LAPTM5の蓄積に伴って、死細胞の頻度が有意に増加していた(図4c)。これらのことは、LAPTM5は、プロテアソームおよびリソソーム系によるタンパク分解を受けていること、そして、LAPTM5の蓄積が細胞死誘導に深く関与することが考えられた。次に、このLAPTM5の蓄積が細胞死誘導に必須かどうかを検討するために、LAPTM5に対するsiRNAのトランスフェクションの影響を検討した。その結果、LAPTM5に対するsiRNAのトランスフェクションした細胞において、Bafilomycin A1またはALLN処理によるLAPTM5の蓄積は、顕著に抑制されることをウエスタンブロッティング解析により確認した(図4d)。また、このとき、LAPTM5の蓄積による細胞死の頻度が、有意に低下することが分かった(図4e)。以上より、LAPTM5の蓄積は細胞死誘導に深く関与しており、LAPTM5発現抑制は、その細胞死を抑制することが出来ることを示唆している。
【0064】
実施例5:ミトコンドリア障害または酸化ストレスによるLAPTM5の活性化とMYCNによる転写抑制
予後良好NB腫瘍の退縮におけるNB細胞の変性には、何が引き金になっているのかは、明らかになっていない。図3に示すように、パーキンソン病などの神経変性疾患で見られるようなユビキチン陽性の封入体が、in vivoでもin vitroにおいても、LAPTM5関連変性細胞で認められた。このことは、NB腫瘍退縮と神経変性疾患での細胞変性において、共通のメカニズムの存在が考えられた。ミトコンドリア障害と酸化ストレスは、神経変性疾患でのニューロンの変性に深く関与していることが知られているので、これらのストレスが、NB細胞株でのLAPTM5の発現活性化に関与するかどうかを検討した。ミトコンドリア障害を誘導するMPP+(1-methyl-4-phenylpridinium)または酸化ストレス1種であるH2O2により、GOTO細胞が処理されたとき、濃度依存的な細胞死の頻度の増加に伴い、LAPTM5の発現が活性化することが分かった(図5a)。また、興味深いことに処理に伴い、MYCNの発現は、低下することが分かった(図5b)。さらに、MYCN遺伝子増幅を持つ予後不良なNB腫瘍検体でのLAPTM5 mRNAレベルは、それを持たない検体に比べて、メチル化頻度に関わらず、低くなっていることが分かった(P=0.0005)(図5c)。MYCNタンパク質は、様々な標的遺伝子の転写を活性するだけでなく、抑制することができることが知られている。したがって、増幅により活性化したMYCNタンパク質は、ストレスにより誘導されるLAPTM5の転写活性化を抑制していると考えた。そこで、ChIP assayにより、LAPTM5遺伝子転写開始点近傍にMYCNが直接結合するかどうかを調べた。その結果、LAPTM5遺伝子のイントロン1内のMYCN結合配列候補を含む領域に結合していることが分かった(図5d)。一方で、IMR32細胞株は、レチノイン酸処理により、神経細胞に分化することが知られている。その際にLAPTM5の発現の活性化とMYCNの発現抑制が認められた(図13)。
【0065】
以上のことから、ミトコンドリア障害または酸化ストレスに限らず、分化誘導の刺激はLAPTM5の発現活性化に深く関与しており、MYCNは直接的にその発現上昇を抑制している可能性が示唆された。従って、予後不良NB検体では、LAPTM5の欠失とMYCN増幅による発現抑制により、恒常的に不活性化されており、細胞増殖能が維持され続けていることが推測された。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】神経芽腫細胞株と腫瘍におけるLAPTM5遺伝子のメチル化と発現の解析(a)神経芽腫細胞株におけるLAPTM5のメチル化頻度およびmRNAレベル。MYCNの増幅またはLAPTM5遺伝子のアレルの消失が有り(+)、無し(-)の神経芽腫細胞株におけるLAPTM5 mRNAレベルは、リアルタイム定量RT-PCR解析により測定し、ドットとして示す。LAPTM5 mRNAのレベルはGAPDH mRNAのレベルを用いて標準化した。転写開始点近傍の17個のCG部位におけるメチル化頻度は、(b)LAPTM5遺伝子の転写開始部位Bisulfite シークエンス法により測定し(補足図1h)、各々の平均値をメチル化頻度(%)として、棒グラフで示す。(b)病期の異なる神経芽腫検体におけるLAPTM5のメチル化頻度およびmRNAレベル。LAPTM5 mRNAのレベルはリアルタイム定量RT-PCRにより測定し、ドットで示す;2つのCG部位(CG-IまたはCG-II)におけるメチル化頻度は、Ms-SNuPEにより測定し、それぞれダークグレイ(CG-I)またはライトグレイ(CG-II)バーで占めす。nは検体数を示す。垂直線は、標準偏差を示す。(c)神経芽腫腫瘍検体の切片を用いた免疫組織染色による、LAPTM5の発現解析。上段:腫瘍切片内に含まれる血球系細胞、副腎部位、および予後良好腫瘍(stage-1)、MYCN増幅を持つ予後不良腫瘍の癌細胞におけるLAPTM5の染色像を示す。矢印は、副腎髄質細胞を示す。下段:予後良好腫瘍検体またはGN検体内に含まれる分化細胞におけるLAPTM5の染色像およびヘマトキシレンーエオジン染色像を示す。スケールバーは、50umを示す。(d)GNにおけるメチル化頻度。上段:2つのCG部位(CG-IまたはCG-II)におけるメチル化頻度は、Ms-SNuPEにより測定し、それぞれダークグレイ(CG-I)またはライトグレイ(CG-II)バーで占めす。下段:神経芽腫とGNにおけるメチル化頻度の比較。各々のCG部位におけるメチル化頻度の平均値をバーで示す。nは検体数を示す。垂直線は、標準偏差を示す。(e)神経芽腫とGNにおけるメチル化頻度の比較。LAPTM5の転写開始部位周辺のCG部位におけるbisulfiteシーケンシングの典型的な結果。メチル化状態はホワイト(非メチル化)またはブラック(メチル化)サークルで示す。矢印は転写開始部位を示す。
【図2】予後良好腫瘍検体内に含まれる変性細胞におけるLAPTM5の活性化と神経芽腫細胞株へのLAPTM5強制発現による細胞死の誘導(a)Stage−1腫瘍検体切片内の変性部位におけるLAPTM5の免疫組織染色像。連続切片は、ヘマトキシレンーエオジン染色(左)またはLAPTM5抗体(右)により染色をした。上段:分化傾向を示す細胞がまとまって脱落している変性部位(タイプー1変性部位)における染色像を示す。下段:未分化細胞がまとまって脱落している変性部位(タイプー2変性部位)における染色像を示す。矢印で囲まれた領域は、典型的なタイプー2変性部位を示す。(b)アデノウイルスをインフェクションしたGOTO細胞とIMR32細胞のウエスタンブロッティング解析。24ウエルプレートに撒いたGOTO細胞(5x104細胞/ウエル)またはIMR32細胞(2x104細胞/ウエル)はLacZ(Ad-LacZ)またはLAPTM5(Ad-LAPTM5)アデノウイルスをGOTO細胞には10MOI、IMR32細胞には4MOIでインフェクションをおこなった;インフェクション後2日目と4日目の全細胞抽出液(30μg)は12%SDS-PAGEで泳動し、LAPTM5またはβ-アクチン(蛋白質量の内部標準)に対する抗体を用いてイムノブロッティングにより解析した。結果は、独立した実験を2回おこなった代表を示す。(c)アデノウイルスをインフェクションしたGOTO細胞とIMR32細胞の生存率。(b)と同条件で撒いた細胞に前記したMOIでAd-LacZまたはAd-LAPTM5でインフェクションをおこなった。インフェクションの4日後、生存している細胞の割合を水溶性テトラゾリウム塩比色分析アッセイにより決定した。垂直線は2回の実験の標準偏差を示す。No inf;インフェクションをおこなっていないコントロール。(d)アデノウイルスをインフェクションしたGOTO細胞とIMR32細胞の死滅細胞の頻度。(b)と同条件で撒いた細胞に前記したMOIでAd-LacZまたはAd-LAPTM5でインフェクションをおこない、また、各細胞株でpan‐カスパーゼ阻害剤zVAD-fmkの処理未処理をおこなった。死滅細胞はインフェクション後2日目と4日目にトリパンブルー排他法を用いて測定し、割合を示した。垂直線は2回の実験で標準偏差を示す。(e)GFP-LC3の細胞内局在。24ウエルプレートに撒いたGOTO細胞(5x104細胞/ウエル)はLacZ(Ad-LacZ)またはLAPTM5(Ad-LAPTM5)アデノウイルスをGOTO細胞には10MOIでインフェクションをおこなった。4日後,細胞を固定し、蛍光顕微鏡にて典型的な画像を取得した。下段;GFP-LC3の局在がドット状になっている細胞の頻度を%で示す。(f)ウエスタンブロッティングによるGFP-LC3II型の検出。GFP-LC3を安定的に発現しているGOTO細胞へ10MOIの条件でAd-LacZまたはAd-LAPTM5をインフェクションさせた。そして、4日後、全細胞抽出液(30μg)は12%SDS-PAGEで泳動し、GFPまたは分離した膜上でβ-アクチン(蛋白質量の内部標準)に対する抗体を用いてイムノブロッティングにより解析した。矢印はGFP-LC3のI型とII型を示す。(g)Ad-LacZ(左)またはAd-LAPTM5(中央および右)をインフェクションしたGOTO細胞における電子顕微鏡観察像。インフェクションから4日後の代表的な電子顕微鏡像を示す。(右)イメージは(中央)における長方形で囲んだ領域の拡大を示し、オートファジー小胞の数の蓄積を示す。アローヘッドはオートファジー小胞を示す。
【図3】LAPTM5誘導性細胞死におけるLMPの発生とオートファジー経路の遮断(a)LAPTM5誘導性細胞死におけるATG5ノックダウンおよびワートマンニン処理による細胞生存率の影響。96ウエルプレートに撒いたGOTO細胞(1x104細胞/ウエル)は、ATG5siRNA またはControl siRNAをトランスフェクションされた。翌日、LacZ(Ad-LacZ)またはLAPTM5(Ad-LAPTM5)アデノウイルスをGOTO細胞には10MOIでインフェクションをおこなった。また、アデノウイルス感染と同時にワートマンニン処理を行った。生存している細胞の割合を水溶性テトラゾリウム塩比色分析アッセイにより決定した。垂直線は2回の実験の標準偏差を示す。下段;ATG5 siRNAによるATG5発現低下をウエスタンブロットで確認された。(b)LAPTM5をインフェクションしたGOTO細胞におけるp62/SQSTM1蛋白質、ユビキチン化タンパク質およびカテプシンDの発現はウエスタンブロッティングにより解析した。図2bで示されたサンプルについて、SDS-PAGEを行い、各々の交代を用いてウエスタンブロット解析を行った。カテプシンDについて、矢印は、各々のフォームを示す。星印は未知のフォームを示す。結果は2回の結果の代表を示す。この結果は2回の独立した実験の代表を示す。(c)LAPTM5をインフェクションしたGOTO細胞におけるp62/SQSTM1蛋白質とユビキチン化タンパク質またはGFP−LC3蛋白質の蓄積と共局在は免疫蛍光により明らかにした。GOTO細胞(5x104細胞/ウエル)を24ウエルプレートに撒き、10MOIの条件でAd-LAPTM5をインフェクションさせた。インフェクションの4日後、細胞を固定化、p62/SQSTM1抗体を用いて反応し、Texas-Red二次抗体により可視化した。イメージは代表的なものを示す;DAPIは対比染色。(d)GOTO細胞におけるLAPTM5蛋白質の局在とLysoTracker Rhodamine(LTR)染色の代表的なイメージ。GOTO細胞(1x104細胞/ウエル)を24ウエルプレートに撒き、10MOIの条件でアデノウイルス(Ad-LAPTM5)を用いてインフェクションさせた。インフェクションの1日後または4日後、細胞はLTRを用いて染色し、2度洗浄し固定化、LAPTM5抗体で反応した後、FITC複合2次抗体を用いて可視化した。DAPIは対比染色。矢印はLMPの特徴を持つ細胞を示す。(e)インフェクションしたGOTO細胞とIMR細胞のアクリジンオレンジ(AO)染色。インフェクションの4日後、インフェクションした細胞はAOを用いて染色しPBSで2回洗浄した。染色の強度はFL3のチャンネルを用いてフローサイトメトリーにより測定した;AO蛍光ではない細胞とインフェクションした細胞の>98%含んでいる範囲で開閉した。AO蛍光の極端な減少は、LMPがAd-LAPTM5をインフェクションしたGOTO細胞とIMR細胞それぞれで生じている。下のグラフはAO蛍光の減少の割合を示す。垂直線は2つの分離した実験の標準偏差を示す。*P<0.01、**P<0.05。(f)カテプシンD,p62/SQSTM1、ユビキチン化タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織染色。連続切片は、各々の抗体で反応した。上段は、非変性部位における染色像を示し、下段は、変性部位にける代表的な染色像を示す。
【図4】プロテアソームまたはリソソーム分解経路の遮断によるLAPTM5の蓄積と細胞死誘導(a) GOTO細胞(5x104細胞/ウエル)を24ウエルプレートに撒き、Ad-LacZまたはAd-LAPTM5で感染された。1日後、プロテアソーム阻害剤(ALLNまたはMG132)またはリソソーム分解阻害剤(BafilimycinA1またはALLN)により、処理された。そして1日後、細胞を回収し、サンプルを調整し、ウエスタンブロット解析を行った。調整したサンプルについて、SDS-PAGEを行い、各々の抗体を用いてウエスタンブロット解析を行った。(b) 蛍光免疫染色によるLAPTM5の蓄積。(a)のように細胞は処理され、固定し、LAPTM5抗体を用いて免疫反応をおこない、Texas Red複合2次抗体を用いて可視化した。(c) LAPTM5蓄積に伴う細胞死の頻度の増加。(a)のように細胞は処理されたときの死滅した細胞は、トリパンブルー排他法を用いて測定した。垂直線は2度の実験の標準偏差を示す。(d) LAPTM5 siRNA処理によるLAPTM5発現抑制。ControlまたはLAPTM5に対するsiRNAでトランスフェクションしたあと、(a)のように細胞は処理され、サンプルは調整された。LAPTM5抗体を用いてウエスタンブロット解析された。
【図5】MPP+またはH2O2処理によるLAPTM5の発現誘導とMYCNによるその発現抑制(a)GOTO細胞は、MPP+(1または2 mM)で24時間、またはH2O2(100または200 uM)で48時間処理された。処理後、死滅した細胞は、トリパンブルー排他法を用いて測定した。また、LAPTM5の発現レベルは、定量的RT-PCRにより解析された。垂直線は2度の実験の標準偏差を示す。(b)MYCNの発現レベルは、ウエスタンブロットで解析された。調整したサンプルについて、SDS-PAGEを行い、各々の抗体を用いてウエスタンブロット解析を行った。(c)MYCN増幅をもつ腫瘍検体と持たない検体におけるLAPTM5のメチル化頻度と発現量の比較LAPTM5 mRNAのレベルはリアルタイム定量RT-PCRにより測定し、ドットで示す;2つのCG部位(CG-IまたはCG-II)におけるメチル化頻度は、Ms-SNuPEにより測定し、それぞれダークグレイ(CG-I)またはライトグレイ(CG-II)バーで占めす。nは検体数を示す。垂直線は、標準偏差を示す。(d)MYCN抗体を用いたクロマチン免疫沈降法(ChIP assay)。上段は、LAPTM5遺伝子転写開始点近傍のマップと5種のプライマーの位置を示す。下段左は、IMR32細胞におけるChIP−PCRの結果を示す。各々のプライマーおよびMDM2遺伝子のプライマーをもちいて、PCRを行い、その産物はアガロースゲルにて分離された。下段右は、神経芽腫細胞株におけるRegion−4のChIP−PCRの結果を示す。MYCN増幅をもつIMR32,GOTO,SJ−N−CG細胞および増幅を持たないSH−SY5Y細胞におけるChIP−PCRは、定量的PCRにて行った。グラフは、MYCN enrichment = (値 MYCN-ChIPの値 - IgG-ChIPの値) / inputの値で計算し、SH−SY5Y細胞での値を1.0としたときの相対値を示す。(e)予後不良神経芽腫におけるLAPTM5不活性化の生物学的意義についてのモデル
【図6】DNAメチル化による発現抑制される候補遺伝子の探索(a)BAMCAの概略図。DNA断片は、神経芽腫細胞株(緑)とリファレンス(赤)からMCA方法により作製し、それぞれCy3またはCy5で標識をおこない、1p36コンティグアレイ上で共ハイブリダイゼーションをおこなった。(b)RT-PCR解析による候補遺伝子のスクリーニング。GAPDH遺伝子は内部標準として用いた。Adr、正常副腎;S1 NBs、5つのstage‐1神経芽腫腫瘍からのサンプル。(c)3つのBAC(127J4、316C6、418B22)の遺伝的地図と各遺伝子のおける転写開始部位周辺のSmaI部位とメチル化特異的(MS)-PCR解析の結果。ブラックボックスまたはバーは遺伝子またはCpGアイランドを示す。開始部位についての矢印は転写方向を示す。MS-PCRでのブラックとホワイトサークルは、PCR産物の有(メチル化)と無(非メチル化)を示す。グレイボックスにより示した領域は、各リファレンス(LAPTM5についてはPBMNCsまたはRAP1GA1についてはstage‐1神経芽腫腫瘍)と比較したGOTO細胞とIMR細胞におけるメチル化頻度を示す。(d)神経芽腫細胞株とRAP1GA1のための初代腫瘍におけるCOBRAとRT-PCR解析の代表的なイメージ。(c)でのRAP1GA1の領域におけるbisulfite-PCR産物はHhaIを用いて消化した。矢印はメチル化している場合に確認できるバンドを示す。(e)LAPTM5のための神経芽腫検体におけるCOBRAの代表的なイメージ。(c)でのLAPTM5の2つの領域におけるbisulfite-PCR産物はHinfI(region‐1)とTaqI(region‐2)を用いて消化した。矢印はメチル化している場合に確認できるバンドを示す。(f)PBMNCsとGOTO細胞とIMR32細胞を含む2つの神経芽腫細胞株でのLAPTM5を含んでいるBACクローン418B22内のSmaI部位のメチル化状態。16プライマーセットは200−2,000塩基対の距離範囲において、少なくとも2つのSmaI部位を含んでいるゲノミック領域でPCRのために合成した。SmaIで消化したゲノミック断片を鋳型として、PCR反応を行った。ブラックとホワイトサークルはPCR産物のメチル化の有無を示す。そのグレイボックスの領域(プライマー12-16を含んでいる)は、LAPTM5遺伝子座の神経芽腫特異的メチル化領域を示す。(g)LAPTM5遺伝子の転写開始部位周辺のCG部位におけるメチル化状態。開始点の1kb以内の全32CG部位は(c)で示す2つのプライマーセット(region‐Iとregion‐II)を用いて解析した。矢印は開始部位の転写方向を示す。2つのSmaI部位を示すアローヘッドは(c)で示した。GOTO細胞とIMR32細胞は両方で広範囲にメチル化されており、PBMNCsとEBVでトランスフォームしたリンパ球細胞株(LCL)は、ほとんどメチル化されていなかった。(h)神経芽腫細胞株におけるbisulfite sequencingによるメチル化解析。(c)で示す2つのプライマーセット、region‐I、を用いて17個のCG siteにおけるbisulfite sequencingを行った。各々のメチル化頻度を白(0−25%)、薄い灰色(26−50%)、濃い灰色(51−75%)、および黒(76-100%)で示す。
【図7】神経芽腫細胞株におけるDNAコピー数変化の解析アレイCGHにより、神経芽腫細胞株における1p消失の頻度を明らかにした。1pに位置する43BACを含む任意のBACをスポットしたMCG Cancerarray-800を用いて、10神経芽腫細胞株を解析した。横向きの赤(MYCNが増幅していない4つの神経芽腫細胞株)または青(MYCNが増幅している神経芽腫細胞株)バーは、各BAC上の消失頻度を示す。LAPTM5遺伝子座を含み1p上の大きい範囲消失は、MYCNが増幅した神経芽腫細胞株において高頻度に検出した。
【図8】Ms-SNuPE解析によるメチル化解析(a)methylation‐sensitive single‐nucleotide primer extension(Ms‐SNuPE)解析に用いたプライマーの位置。Region‐I(補足図1cに示す)のbisulfite‐PCR産物はゲル精製をおこなった。矢印はプライマー伸長実験に用いた各プライマーの位置を示す。CG部位がメチル化または非メチル化されているときは、それぞれ、CまたはTが付加される。(b)CG-IIについてのMs-SNuPE解析の代表的なイメージ。精製したbisulfite‐PCR産物(25ng)、プライマー、そしてラジオアイソトープでラベルしたCまたはTは、プライマー伸長のために反応させた;産物は精製後、PAGEにより泳動した。各CG部位のメチル化値は、メチル化したC/(メチル化したC+非メチル化T)x100、により算出した。腫瘍サンプル番号、T830、T1052、T334は、図2bと2cでのGN1、GN2、GN3を反映する。
【図9】Stage‐4S神経芽腫腫瘍内の腫瘍変性範囲についてLAPTM5またはH-rasで染色した免疫化学染色の代表的なイメージ(左)ヘマトキシリン-エオジン(HE);(中央)LAPTM5抗体;(右)H-ras抗体による代表的な染色像
【図10】Ad−LacZまたはAd−LAPTM5により感染されたGOTO細胞におけるp62/SQSTM1およびユビキチン化タンパク質の蓄積インフェクションの4日後、細胞は固定化し、p62/SQSTM1抗体を用いて免疫反応をおこない、Texas Red複合2次抗体を用いて可視化した。細胞抽出物は、0.1%TritonXnにて調整された。TritonX不溶性画分は、2%SDSにて溶解した。TritonX可溶性または不溶性画分は、6%SDS−PAGEで分離され、各々の抗体でウエスタンブロット解析を行った。
【図11】LAPTM5誘導細胞死におけるリソソームの膜透過化(LMP)(a)LTR染色の点状パターンの消失を持つ細胞の頻度。Ad-LacZまたはAd-LAPTM5インフェクションの1日後または4日後、点状パターンの消失を持つ細胞の頻度を算出した。上段は、代表的な像を示す。全細胞の割合として記録した。図は両細胞株における細胞の割合を示す。垂直線は3回の独立した実験の標準偏差を示す。*P<0.001、**P<0.05.No inf;インフェクションしていないサンプルを示す。(b)インフェクションしたGOTO細胞とIMR細胞のアクリジンオレンジ(AO)染色のFACS解析例。(c)リソソームから細胞質へのカテプシンD(CTSD)の流出。図はCTSD蛋白質の局在を示す。インフェクションの4日後、細胞は固定化し、CTSD抗体を用いて免疫反応をおこない、Texas Red複合2次抗体を用いて可視化した。矢印は細胞質へCTSDが放出した細胞を示す。
【図12】LMPを誘導する薬剤の処理によるGFP-LC3 II型蛋白質の検出とp62/SQSTM1蛋白質の蓄積GFP-LC3を安定して発現しているGOTO細胞(1x106細胞/ウエル)は、6ウエルプレートに撒き、LMP誘導のために、Ciprofloxican(CPX)(100または300μg/ml)またはその溶媒(0.1N塩酸)で処理した。処理した細胞からの全細胞抽出液はSDS-PAGEにより泳動し、各蛋白質に対する抗体を用いてイムノブロッティングにより解析した。
【図13】In vitro分化誘導に伴うLAPTM5の発現活性化(a)IMR32細胞における分化誘導した際の細胞形態変化。細胞はレチノイン酸(RA)10uMで14日間処理された。写真は位相差顕微鏡像を示す。(b)RA処理0、6、14日後のMYCNの発現は、ウエスタンブロットにて解析された。(c)RA処理0、6、14日後のLAPTM5の発現レベルは、定量的RT-PCRにより解析された。
【図14】Ad−LAPTM5で感染されたGOTO細胞におけるネクローシスを示す電子顕微鏡像。細胞質の空砲化および核の虎斑状模様が認められる。
【図15】神経芽腫細胞以外の癌種由来細胞株におけるLAPTM5誘導性細胞死(a)8305C(甲状腺未分化癌;2x104細胞/ウエル)、SaoS2(骨肉腫;2x104細胞/ウエル)は、24ウェルプレートに撒き、LacZ(Ad-LacZ)またはLAPTM5(Ad-LAPTM5)を10MOIの条件でインフェクションさせた。死滅した細胞は、トリパンブルー排他法を用いて、インフェクション2日後と4日後で測定した。垂直線は2度の実験の標準偏差を示す。(b)Ad-LAPTM5をインフェクションした8305C細胞またはSaOS2細胞において、GFP-LC3 II型の検出、p62/SQSTM1の蓄積、CTSD活性型の増加を示す。24ウエルプレートに撒いたGFP-LC3を安定に発現している8305C細胞またはSaOS2細胞(各2x104細胞/ウエル)は10MOIの条件でAd-LacZまたはAd-LAPTM5で感染し、4日後、サンプルは調整され、各々の抗体をもちいてウエスタンブロット解析を行った。
【図16】NB腫瘍の退縮の際のLAPTM5誘導性細胞死における分子メカニズムの仮説図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体において、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子の活性化または不活性化、並びにMYCN遺伝子の増幅を検出することにより検体の悪性度および自然退縮経過を判定する、癌の検出方法。
【請求項2】
LAPTM5遺伝子の不活性化が、転写開始点近傍におけるCpG部位のメチル化による不活性化、LAPTM5遺伝子の欠失、又はMYCNによる転写抑制のいずれかによるものである、請求項1に記載の癌の検出方法。
【請求項3】
LAPTM5遺伝子の不活性化を、RT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法、FISH法、アレイCGH法、MsSNuP法、Bsulfite Sequence法、又はCOBRA法を用いて検出する、請求項1又は2に記載の癌の検出方法。
【請求項4】
検体において、Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子から翻訳される蛋白質の量、並びにMYCN遺伝子の増幅を検出することにより検体の悪性度および自然退縮経過を判定する、癌の検出方法。
【請求項5】
LAPTM5遺伝子から翻訳される蛋白質の量を免疫組織化学的法により検出する、請求項4に記載の癌の検出方法。
【請求項6】
検体が、神経堤由来の組織である、請求項1から5の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項7】
癌が神経芽腫である、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子、あるいはLAPTM5遺伝子によりコードされる蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項9】
Lysosomal associated protein multispanning transmembrane 5(LAPTM5)遺伝子、あるいはLAPTM5遺伝子によりコードされる蛋白質を含む、細胞増殖抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−99039(P2010−99039A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275176(P2008−275176)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月30日 第67回日本癌学会学術総会記事にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「個別化医療の実現のための技術融合バイオ診断技術開発/染色体解析技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】