説明

禁煙を目的としたニコチンを頬側吸収するための組成物

禁煙を目的とした又は喫煙に不向きな条件下でのニコチン代用品を目的とした、体循環へのニコチンの頬側吸収及び中枢神経系への分配を意図した本発明の組成物は、0.01〜8.00重量%の濃度の塩基及び/又は有機酸とのその塩の形態のニコチン溶液及び粘液溶解作用を有する物質を含有する。1回の投与量には、0.05〜3.00mgのニコチンが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、禁煙を目的とした又は喫煙に不向きな条件下でのニコチン代用品を目的とした、体循環へのニコチンの頬側吸収及び中枢神経系への分配を意図した組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
喫煙の有害な作用は、数多くの喫煙者及び非喫煙者を対象とした、広範囲にわたる統計的な評価がなされた種々の研究によって論じられている。1日あたりタバコを1パック吸うことによって、喫煙者の体循環には1日あたり20〜30mgのニコチンが取り込まれる(非特許文献1)。ニコチンの吸収は極めて速く、煙の吸入後、10〜20秒で脳に達する(非特許文献2)。ニコチンが脳内のドーパミン作動性受容体に作用した後、脳がニコチンへの耐性及び依存性を確立するとの多くの証拠がある(非特許文献3)。禁煙がニコチン依存に対する脱馴化を伴うことははっきりと証明されていて、これがニコチン中毒治療である。通常、ニコチン中毒治療は長期間にわたり、比較的成功率が低いプロセスである(非特許文献4)。
【0003】
禁煙治療では、様々なやり方で投与される様々なタイプのニコチンの製剤を使用する。投与しやすくし、また十分なニコチンのバイオアベイラビリティを得るために、最も一般的な吸収法は、頬側粘膜を介したものである。喫煙者は、30〜50μg/lの範囲のニコチン血漿濃度を達成しようとする(非特許文献5)。緩慢なニコチン放出は不都合である。瞬時にピークに達するニコチン血漿濃度に対する薬理学的反応が依存の重要な側面だからである(非特許文献6)。
【0004】
2〜4mgのニコチンを含有するチューイングガムのバイオアベイラビリティ(非特許文献7)は約50%である(非特許文献8)。時間の経過に伴ったニコチンの血漿濃度プロファイルは、ニコチンが口腔内に緩慢かつ連続的に放出されることから、喫煙中の血漿濃度プロファイルとはそのレベルの安定性において異なる(非特許文献9)。ニコチンのバイオアベイラビリティは口内のpH値に大きく左右され、チューイングガムの服用前後15分間は過度に酸性の飲料を避けることが推奨されるが(非特許文献10)、これはイオン化形態の塩では経粘膜的な吸収が低下するからである。この投与形態では、口内及び咽頭内での不快な熱感も引き起こされる(非特許文献11)。ニコチン放出率はかなり不規則であることから、製造業者によっては、過剰な服用を回避するために強く噛みすぎないことを推奨している(特許文献1)。
【0005】
ロゼンジ剤は、チューイングガムと同様の投与形態であり、ニコチンは、口内での緩慢な溶解によって放出され(特許文献2)、その放出は喫煙時よりかなり緩慢である(非特許文献12)。ニコチンの溶解がより速い組成物が特許を付与されている(特許文献3)。より高いバイオアベイラビリティを達成するためにpH値7〜9が推奨され(pHは炭酸塩の緩衝剤によって制御される)、組成は十分に安定していた(特許文献3)。pH値を7.4から8.5に上昇させることによって、非イオン化形態の割合が30%から80%に上昇し、バイオアベイラビリティは3.8倍上昇した(特許文献4)。ロゼンジ剤の効率の悪さは、ニコチン用量の少なさに起因した。従って、米国においては、1mgから2mg及び4mgへとより高い用量が認可された(非特許文献13)。ニコチン放出は緩慢であり、バイオアベイラビリティはチューイングガムより25%高いと証明された(非特許文献14)。別の一般性がより低い投与形態は舌下錠である。舌下錠は、舌の裏に置かれる水溶性の極めて小さな錠剤である。1回分のニコチンのバイオアベイラビリティは、チューイングガムと同様である(非特許文献15)。
【0006】
点鼻薬は、ニコチンの別の投与形態である。この種の製剤は米国内においては処方箋がある場合のみ入手可能である(非特許文献11)。溶媒50μlあたり0.5mgのニコチンの用量で各鼻孔に投与する。ニコチンは極めて迅速に吸収され、点鼻薬の利点は、患者の依存レベルに応じてニコチンを個別投与できる点である(非特許文献16)。この製剤では、初回投与時に鼻粘膜への刺激が誘発されることが極めて多い。
【0007】
バッカルスプレー(有効成分及び香味料のアルコール、水又はマクロゴール溶液。ニコチン及びその塩、クレマスチン、ステロイドホルモンをポンプで噴霧することを対象とする)は、特許の対象である(特許文献5、特許文献6)。口腔内にニコチンを塗布するためのポンプスプレーの使用についても記載がある(特許文献7)。微粒子中にニコチンを取り込んだ口腔スプレーの構成もまた、特許で保護されている(特許文献8)。
【0008】
ニコチンを投与するための新規かつ現在人気の製品タイプはいわゆる電子タバコである(特許文献9)。ニコチンは口腔で吸収され、吸入後は肺で吸収される。世界保健機関は、禁煙するための補助剤としてこの製品を推奨しないとする見解を公式に発表しているが、これは電子タバコの安全性及び有効性についての情報が欠けているからである(非特許文献18)。
【0009】
もっと問題となるのが、輸送車両内の動きのとれない空間内において吐き出される、無視できないニコチン濃度の煙が、非喫煙者、特にはニコチン解毒メカニズムの効率が成人より著しく悪い子供の健康に与える影響である。
【0010】
ニコチンは、アルカロイド群に属する極めて効率的な天然物質である。ニコチンは作用し始めるのが極めて速いことを特徴とし、種々の機能、とりわけ心臓、血管及び脳に影響する。致死量(LD50)は30〜60mgであり(非特許文献18)、特に非喫煙者の場合、4〜8mg摂取しただけで(子供の場合はもっと少量で)、深刻な毒性反応が起こる可能性がある。この物質に有効な解毒剤は知られていない。
【0011】
ニコチンを含む全てのアルカロイドの生物学的障壁を越えての運搬は、その溶液を、非イオン化形態、すなわち可能な限りpKa値を超過した現在の酸性度のレベルで投与した場合に容易となる。pKa値はパラメータであり、ある物質のイオン化形態及び非イオン化形態の濃度が等しくなるpH値を表す。生理活性物質を投与する場合、生理学的条件も考慮に入れる必要がある。生理学的に最適なpH値(isoacid solution:等酸溶液)と障壁透過性に最適なpH値との一定の妥協点がいわゆる真性酸溶液(euacid solution)である。この真性酸(euacid)pH値によって、生物学的環境及び投与物質に適したpH値での十分なバイオアベイラビリティが保証される。生物学的アベイラビリティはパラメータであり、体循環に取り込まれる又はターゲット組織若しくはターゲット構造体に到達する投与物質の総量に対する比を表す。
【0012】
多くの物質において、真性酸pH値は、酸又は塩基の形態の物質をその塩と適切な比で組み合わせることによって達成される。本発明のニコチンの場合、ニコチン塩基と、適切な量の酸の添加によって生成されたその塩との組み合わせが含まれる。
【0013】
物質のバイオアベイラビリティを上昇させる手段として、非イオン化形態の割合を上昇させることに加え、物質を頬側投与する場合に特有の選択肢に、ムチンの障壁機能を低下させることがある。ムチンは高分子糖タンパク質であり、高粘度の水溶液を特徴とする。その粘度は、粘液溶解薬と称される物質によって低下させることが可能である。既に古典的な粘液溶解薬群は、その分子内にスルフヒドリル基を有する化合物であり、ジスルフィド基を還元するメカニズムによってムチン分子の架橋の還元が引き起こされるというのが現在の見方である。反応は、溶液粘度の著しい低下を伴い、様々な重篤度の肺疾患及び呼吸器系疾患の症状を解消するのに利用されている。これはアミノ酸システイン、メチオニン、そのエステル及びエーテルの作用である(非特許文献19)。
【0014】
ほかにも多くの非スルフヒドリル基系粘液溶解薬があり、これらは様々なメカニズムで作用する。様々な酵素がムチンに対する脱重合作用を有する(非特許文献20)。実践で従来から使用されているのは電解質の溶液であり(塩化アンモニウム、塩化ナトリウム等)、ムチンの巨大分子被覆層の部分的な脱水を引き起こすことによって、その溶液の粘度を低下させる。処理済みの海水のエーロゾル形態の粘液溶解薬としての使用は特許で保護されている(特許文献10)。電解質とサッカリドの高張液(蜂蜜、イチジク等)又は多価アルコール(マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ペンタエリスリトール)との組み合わせは、主に小児科の伝統的な代替医療において使用される。
【0015】
治療行為において、植物の様々な部位からの抽出によって得られる多くのフィトコンプレックスが広く使用されている。トリテルペンサポニン及びフェノール配糖体を含有する植物Primula veris又はPrimula elatiorの花又は根からの抽出が古くから伝承されている(非特許文献21)。サポニンは、界面活性のメカニズムによって水溶液中で大きな作用を有する。微生物学的分析の一環としてヒトの痰の粘度を低下させるのに植物サポニン及びサポゲニンを使用することは特許で保護されている(特許文献11)。同様の作用は、Hedera helixの葉に含まれるトリテルペンサポニンによって示される(非特許文献22、23)。Eucalyptus globulusの精油は、主に1,8−シネオール(ユーカリプトール)及び様々なメカニズム(とりわけ、粘液溶解メカニズム)で作用する様々な物質(テルペン、セスキテルペン、セスキテルペノール等)を含有する(非特許文献24)。また、Liquiritia glabraの根からは、界面活性物質の複合体が得られ、界面活性物質は、望ましくないグリチルリチンの分離後、粘液溶解作用を示す(非特許文献25)。Lichen islandicus及びAlthea officinalisに含まれる物質と局所麻酔薬との組み合わせは、特許文献12の一部である。Tussilago farfara種及びVerbascum属の種の花は、特にはフラボノイド及びサポニンタイプの物質の複合体を含有し、これらもまたとりわけ粘液溶解作用を有する(非特許文献26)。粘液溶解作用を有することが明らかにされており、実践で使用されるフィトコンプレックスにはほかにも多数ある(Euphrasia、Origanum、Pimpinella、Thymus、Trifolium等)。
【0016】
ニコチンは比較的安定した物質であり、空気に曝されると酸化によって分解し、分解は、光によって促進される。反応は、電子の強力な受容体によって触媒され、ラジカルを捕捉する物質によって阻害される。分解反応中、主にアルキルピロリジンのN−酸化物(非特許文献27)及び少量のピロリジノンが生成される(非特許文献28)。様々なセルロース上に吸着されたニコチン中にはコチニン、メタノン−(1−メチル−3−ピロリジニル)−3−ピリジニル及びその他の分解産物も発見された(非特許文献29)。ニコチンを安定化させる方法の1つが、藻類、細菌又は真菌由来のセルロース上への吸着である(特許文献13)。ニコチンは特には肝臓で代謝され、数十種類の代謝産物が発見された(非特許文献30)。ニコチンを安定化させるためには、水溶性抗酸化剤の添加が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6344222号明細書
【特許文献2】米国特許第4967773号明細書
【特許文献3】米国特許第6280761号明細書
【特許文献4】米国特許第6110495号明細書
【特許文献5】国際公開第1997/038662号パンフレット
【特許文献6】欧州特許第0904055号明細書
【特許文献7】米国特許第5186925号明細書
【特許文献8】米国特許第5939100号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1618803号明細書
【特許文献10】米国特許第7097852号明細書
【特許文献11】米国特許第4053363号明細書
【特許文献12】国際公開第2006/032364号パンフレット
【特許文献13】国際公開第2005/023227号パンフレット
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Benowitz NL et al.,Clin.Pharmacol.Ther.44(1988)23−28
【非特許文献2】Benowitz NL et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.36(1996)597−613
【非特許文献3】Hoffman D et al.,Am.J.Health 73(1983)1050−1053
【非特許文献4】Cummings KM,Hyland A,Ann.Rev.Pub.Health 26(2005)583−599
【非特許文献5】Lawson GM et al.,J.Clin.Pharmacol.38(1998)510−516
【非特許文献6】Henningfield JE,Keenan RM,J.Consult.Clin.Psychol.61(1993)743−750
【非特許文献7】Shiffman S et al.,Addiction 97(2002)505−516
【非特許文献8】Benowitz NL,Jacob P III,Savanapridi C,Clin.Pharmacol.Ther.41(1987)467−473
【非特許文献9】Henningfield JE et al,Drug Alcohol Depend.33(1993)23−29
【非特許文献10】Henningfield JE et al.,JAMA 264(1990)1560−1564
【非特許文献11】Henningfield JE et al.,CA Cancer J.Clin.55(2005)281−299
【非特許文献12】Russel MAH et al.,Lancet 2(1985)1370
【非特許文献13】Shiffman S et al.,Arch.Intern.Med.162(2002)1267−1276
【非特許文献14】Choi JH et al.,Nicotine Tob.Res.5(2003)635−644
【非特許文献15】Molander L,Lunell E,Eur.J.Clin.Pharmacol.56(2001)813−819
【非特許文献16】Schneider NG et al.,Clin.Pharmacokinet.31(1996)65−80
【非特許文献17】Anon.,Marketers of electronic cigatettes should halt unproved therapy claims.World Health Organization,2008−09−19
【非特許文献18】Gosselin RE,Clinical toxicology of commercial products,Vl.Ed.,Williams&Wilkins,Baltimore 1988,pp311−313
【非特許文献19】Takatsuka S et al.,Int.J.Pharm.349(2008)94−100
【非特許文献20】Rubin B K,Respiratory Care,52(2007)859−865
【非特許文献21】Anon.:Assessment report on Primula veris,Primula elatior(L.),radix.EMEA(HPMC/144474/2006
【非特許文献22】Kraft K,Zeitschr.Phytotherap.25(2004)179−181
【非特許文献23】Fazio S et al.,Phytomedicine 16(2009)17−24
【非特許文献24】Tibballs J,Med.J.Aust.163(1995)177−180
【非特許文献25】Guslandi M,Int.J.Clin.Parmacol.Ther.Toxicol.,23(1985)398−402
【非特許文献26】Newall C A,Anderson L A,Phillipson J D,Herbal Medicines,Pharmaceutical Press,London 1996
【非特許文献27】Suffredini HB et al.,Anal.Letters 38(2005)1587−1599
【非特許文献28】Beckwith ALJ et al.,Austral.J.Chem.36(1983)719−739
【非特許文献29】Mihranyan A,Andersson S−B,Ek R,Eur.J.Pharm.Sci.22(2004)279−286
【非特許文献30】Moyer TP et al.,Clin.Chem.48(2002)1460−1471
【発明の概要】
【0019】
禁煙を目的とした又は喫煙に不向きな条件下でのニコチン代用品を目的とした、体循環へのニコチンの頬側吸収及び中枢神経系への分配を意図した本発明の組成物は、塩基及び/又は有機酸とのその塩の形態のニコチン溶液を0.01〜8.00重量%、より好ましくは0.10〜4.00重量%、最も好ましくは0.20〜1.00重量%の濃度で含有し、更に3.0〜30.0重量%のアセチルシステイン及び/又は、Primula veris、Primula elatior、Hedera helix、Eucalyptus globulus、Liquiritia glabraの群から選択される植物からの抽出によって得られる、粘液溶解作用を有する濃度0.50〜15.00重量%のフィトコンプレックスによって構成される群から選択される、粘液溶解作用を有する物質を含有することを特徴とする。
【0020】
本組成物は更に、植物Camellia sinensis、Curcuma longa、Rosmarinus officinalis、Sylibium marianum、Vitis vinifera、Ginkgo biloba、Euterpe oleracea、Vaccinium myrtillus、Morinda citrifolia、Malpighia glabraからの抽出によって得られるフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、ネオフラボノイド、アントシアニジン、プロアントシアニジン、これらのオリゴマー及びポリマーの群から選択される、抗酸化作用を有するフィトコンプレックスを0.05〜1.50重量%含有し得る。
【0021】
本組成物は有利には更に、現在の酸性度をpH値6.0〜9.5、より好ましくは7.0〜9.0の範囲に、最も好ましくは8.5に調節する緩衝剤又は物質を含有する。
【0022】
溶媒として、本組成物は、水を50〜99重量%の濃度で含有する、或いは多価アルコール(グリセロール、プロピレングリコール等)及び/又はマンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、サッカロースの群から選択されるサッカリドと水との混合物を2〜50重量%の濃度で含有する。
【0023】
本組成物は有利には、味覚を調節する物質、嗅覚を調節する物質、抗菌剤、金属イオン封鎖剤、抗酸化剤、可溶化剤、濡れ性を促進する薬剤、投与組成物の物理的パラメータ(粘度、表面張力等)を改善する物質及び口腔表面(すなわち、粘膜、歯)の状態を改善する物質の群の少なくとも1種の成分も含有する。
【0024】
本発明の組成物は、ディスペンサーを備えたスプレー装置によって、50〜2000μl、好ましくは150〜500μlの範囲の1回の投与量でコロイド又は不均一なエーロゾルの形態で口腔内にニコチンを投与することを意図したものである。
【0025】
1回の投与量には、0.05〜3.00mg、より好ましくは0.10〜2.00mg、最も好ましくは0.25〜1.00mgのニコチンが含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
有効成分としてのニコチン及びその塩とは別に、本組成物はニコチンのバイオアベイラビリティ向上薬として、例えばアセチルシステイン及び/又は植物からの抽出によって得られる、粘液溶解作用を有するフィトコンプレックスである粘液溶解薬を含有する。本組成物は更に、酸化しないようにニコチンを安定化させるための物質として天然植物由来の抗酸化物質及び溶媒としての水を含有し得る。本組成物で有利に利用し得るその他の成分は、様々なタイプの安定剤であり(すなわち、抗菌剤、金属イオン封鎖剤、フリーラジカルクエンチング剤)、官能的性質を調節する物質も使用し得る。本発明の組成物は、投与組成物の物理的パラメータ(粘度、表面張力等)を改善する物質及び口腔表面(すなわち、粘膜、歯)の状態を改善する物質も含み得る。
【0027】
ニコチンは、迅速に水に溶けて強いアルカリ性溶液になる極めて効率的なアルカロイドである。頬側粘膜によるその耐性が良好であり、また頬側粘膜を介しての体循環への吸収も十分であることから、ニコチン溶液のpH値が9.0より低く7.0より高いことが適切である。ニコチン水溶液のpH値を、酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、グリコール酸、リン酸等)の塩とニコチン水溶液を混合することで低下させるのが便利である。溶液中のニコチン濃度は、投与量の体積によって左右され、0.01〜8.00%、より好ましくは0.10〜4.00%、最も好ましくは0.20〜1.00%になり得る。ニコチンの1回の投与量は、0.05〜3.00mg、より好ましくは0.10〜2.00mg、最も好ましくは0.25〜1.00mgの範囲になり得る。
【0028】
粘液溶解薬は強力な親水性物質であり、ムチン(ムコタンパク質タイプの物質等)の粘度を低下させる。ムコタンパク質の粘度の低下は、ニコチン分子の粘膜障壁表面へのより迅速な拡散に関連することから、この物質のより迅速かつより強力な吸収につながる。アセチルシステインは強力な親水性物質である。カルボキシル基が、ニコチンのピロリジン環の塩基性窒素と相互作用し得る。アセチルシステインは抗酸化作用を有し、スルフヒドリル基が電子供与体になり得る。アセチルシステインは重要な粘液溶解薬であり、ジスルフィド結合との相互作用によってムコタンパク質水溶液の粘度を低下させる。
【0029】
組成物におけるニコチンのバイオアベイラビリティを上昇させるのに適した天然植物由来の粘液溶解薬は、特には小児科において痰の排出を促進する去痰物質として従来から使用されているものと同じである。従って、植物薬から抽出によって得られ、例えばトリテルペンサポニン及びフェノール配糖体を含有する植物Primula veris又はPrimula elatiorの花又は根からの水又はアルコール抽出物であるフィトコンプレックスが使用される。Hedera helixの葉に含まれるトリテルペンサポニンは同様の作用を有する。本発明の組成物は適切には、Eucalyptus globulusの葉から得られる精油も含有し得て、この精油は特に1,8−シネオール(ユーカリプトール)及び様々な物質(テルペン、セスキテルペン、セスキテルペノール等)も含有する。また、根からの抽出によって得られるLiquiritia glabraのフィトコンプレックスからは界面活性物質が得られ、これらの界面活性物質は、望ましくないグリチルリチンの分離後、粘液溶解作用を示す。組成物における別の適切な成分は、Lichen islandicus、Althea officinalisに含まれる物質の組み合わせ、またTussilago farfara種及びVerbascum属に含まれる物質である。必要とされる粘液溶解作用を有する使用可能なフィトコンプレックスはほかにも多くあり、例えばEuphrasia、Origanum、Pimpinella、Thymus、Trifolium等である。粘液溶解作用を有するフィトコンプレックスは、組成物の成分として、濃度0.5〜15重量%、より好ましくは濃度0.5〜5重量%、最も好ましくは濃度1〜2重量%で使用され得る。
【0030】
抗酸化剤は、所定の組成において、溶液状態のニコチンの酸化反応に対する安定化にとって重要な物質であり、また頬側粘膜にプラス効果も有する。技術的解決策に沿った組成物の一部として天然植物由来の物質又は水溶性のその混合物が適切であり、例えばアスコルビン酸及びその塩、様々なフラボノイド、例えばフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、ネオフラボノイド、アントシアニジン、プロアントシアニジン、これらのオリゴマー及びポリマーである。所定のカテゴリーの物質を含有する植物材料の抽出によって得られるフィトコンプレックスから、フラバノール群に属するカテキンを含有する植物Camellia sinensisの葉からの抽出物、更には複合体シリマリンを含有するSilybium marianumからの抽出物、複合体クルクミンを含有するCurcuma longaからの抽出物、またローズマリー酸を含有するRosmarinus officinalisからの抽出物、プロアントシアニジン及び様々なタイプのその他のポリフェノール性物質を含有するVitis viniferaからの抽出物、フラボノイドを含有する植物Ginkgo bilobaの葉からの抽出物、Euterpe oleraceaと同様にアントシアニジンを含有するVaccinium myrtillusの果実を挙げることができる。緑茶に含まれるエピカテキンとは別に、フラバノールケルセチン及びポリフェノールレスベラトロールは、食品の成分として一般的な使用において最も重要なものである。フランス沿岸部に生育する松であるPinus pinaster ssp.atlanticaからの抽出物は、抗酸化能を有する多くのバイオフラボノイドタイプのカテキン、オリゴメリックプロシアニジン及びフェノールフルーツ酸の混合物を含有する。アスコルビン酸及びその塩の重要な供給源は、植物Morinda citrifolia及びMalpighia glabraからの抽出物である。様々な抗酸化物質を含有する植物からの抽出によって得られるフィトコンプレックスの組成物における濃度は、0.05〜1.5重量%、より好ましくは0.25〜1.5重量%、最も好ましくは0.50〜1.0重量%の範囲である。組成物中の水は、個々の成分の溶媒としての役割を果たす。本発明の技術的解決策に沿った組成物中の水の割合は、50〜99%、より好ましくは65〜90%、最も好ましくは75〜95%の範囲である。
【0031】
現在の酸性度を調節するために使用される成分は酸又は水酸化物になり得て、ニコチンとの部分塩を形成するアミン又はアミノ酸の場合もあり、より有利には緩衝系酢酸塩、クエン酸、トロラミン、トロメタモール、炭酸塩等である。ジカルボキシアミノ酸単体又は組み合わせ、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン)も適切である。ニコチンの安定性及びバイオアベイラビリティに関して、溶液のpH値を6.0〜9.5、より好ましくは7.0〜9.0の範囲、最も好ましくは8.5に調節するのが有利である。
【0032】
本発明で論じる組成物において有利に利用可能なその他の成分は保存料である。適切な保存料は、酸及びソルビン酸又は安息香酸の塩である。所定の目的に適したその他の抗菌性物質には、パラヒドロキシ安息香酸のエステル、パラベン、特にはメチルパラベンが含まれ得る。様々な精油、例えばクローブ油、タイム油、ワイルドタイム油、ユーカリ油、又はこれらの植物からの半極性溶媒中抽出物も適している。抗菌作用は、プロピレングリコール又はエタノールによっても得ることができ、これらは植物材料の抽出剤としても使用可能である。保存料としては、植物、例えばセントジョンズワート、アイスランド苔、ニーム、セージ、柳の樹皮等からのアルコール又はプロピレングリコール液体抽出物が適切である。
【0033】
味覚を調節する物質には主に甘味料が含まれる。最も一般的に使用されるものは様々なサッカリド及びイノシトールであり、例えばグリセロール、プロピレングリコール、サッカロース、グルコース、フルクトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、蜂蜜等である。所定の目的に使用可能な重要な群は、栄養素の入っていない人工甘味料であり、例えばサッカリン塩、アセスルファム塩、アスパルテーム、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、スクラロース、甘草からの抽出物、ステビアからの抽出物等である。嗅覚は精油、例えばペパーミント油、スペアミント油、アニス油、フェンネル油、ユーカリ油、コリアンダー油、クミン油、シナモン油、クローブ油、タイム油、ワイルドタイム油、ドロップワート油、ジュニパー油、マジョラム油、ジンジャー油等によって変化させ得る。
【0034】
本発明の組成物は更に、その物理的パラメータを良い方向に調節するためのその他の成分も含み得る。物質の水溶液の粘度及び表面張力は、エタノール又はプロピレングリコールの添加によって低下させ得、又、界面活性剤を使用してもよい。口腔表面(すなわち、粘膜、歯)の状態に良い影響を与える物質には多岐にわたるビタミン及びミネラルが含まれ得て、例えばビタミンB複合体及びその塩、ビタミンC及びその塩、エステル、配糖体、ビタミンH、コエンザイムQ10、亜鉛、銅、セレン、マグネシウム、カルシウム、マンガンの塩等である。抗炎症薬として、α−ビサボロール、アラントイン、セントジョンズワート、マリゴールド、カモミールからの抽出物等を使用し得る。
【0035】
本発明の組成物は、口腔、頬側粘膜、歯肉粘膜、硬口蓋及び舌の表面にスプレーによって(すなわち、気体中での組成物の不均一な又はコロイド分散によって)塗布することを意図したものである。空気中のエーロゾルの発生装置はポンプであってもよく、或いは噴霧を、圧力容器からの推進ガス流によっても行い得る。推進ガスは有利には窒素又はその他の化学的に比較的不活性なガス又はアルカン(ブタン、イソブタン、プロパン等)の混合物になり得る。ミスト又はエーロゾルの分散粒子のサイズは、20nm〜100μm、好ましくは500nm〜5μmの範囲であり得る。エーロゾル発生装置がディスペンサー装置を備えているほうが、組成物の塗布には適している。1回で塗布される液体の体積は50〜2000μl、好ましくは150〜500μlの範囲であり得る。記載のパラメータは例に過ぎず、技術的解決策の主題ではない。
【実施例】
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
調製手順
段階的に添加した個々の成分を水に溶解させる。必要なら溶液を濾過し、ディスペンサーバルブを備えた圧力容器又は手動ポンプ式のディスペンサーバルブを備えた閉鎖容器に充填する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の組成物は、製薬業界によって製造され得る。製剤は、禁煙を目的としたニコチンの経粘膜吸収に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
禁煙を目的としたまたは喫煙に不向きな条件下でのニコチン代用品を目的とした、体循環へのニコチンの頬側吸収及び中枢神経系への分配を意図した組成物であって、
塩基及び/または有機酸とのその塩の形態のニコチン溶液を0.01〜8.00重量%、より好ましくは0.10〜4.00重量%、最も好ましくは0.20〜1.00重量%の濃度で含有し、更に3.0〜30.0重量%のアセチルシステイン及び/またはPrimula veris、Primula elatior、Hedera helix、Eucalyptus globulus又はLiquiritia glabraの群から選択される植物からの抽出によって得られる粘液溶解作用を有する濃度0.50〜15.00重量%のフィトコンプレックスによって構成される群から選択される、粘液溶解作用を有する物質、植物Camellia sinensis、Curcuma longa、Rosmarinus officinalis、Sylibium marianum、Vitis vinifera、Ginkgo biloba、Euterpe oleracea、Vaccinium myrtillus、Morinda citrifolia、Malpighia glabraからの抽出によって得られるフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、ネオフラボノイド、アントシアニジン、プロアントシアニジン、これらのオリゴマー及びポリマーの群から選択される、抗酸化作用を有するフィトコンプレックスを0.05〜1.50重量%を含有し、更に現在の酸性度をpH値7.0〜9.0の範囲に、最も好ましくは8.5に調節する緩衝剤または物質を含有する
ことを特徴とする組成物。
【請求項2】
溶媒として、水を50〜99重量%の濃度で含有する、或いはグリセロール、プロピレングリコール等の多価アルコール及び/またはマンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、サッカロースの群から選択されるサッカリドと水との混合物を2〜50重量%の濃度で含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
味覚を調節する物質、嗅覚を調節する物質、抗菌剤、金属イオン封鎖剤、抗酸化剤、可溶化剤、濡れ性を促進する薬剤、投与組成物の粘度、表面張力等の物理的パラメータを改善する物質及び口腔表面、すなわち粘膜または歯の状態を改善する物質の群の少なくとも1種の成分を含有する
ことを特徴とする請求項1〜2に記載の組成物。
【請求項4】
1回の投与量に、0.05〜3.00mg、より好ましくは0.10〜2.00mg、最も好ましくは0.25〜1.00mgのニコチンが含まれる
ことを特徴とする請求項1〜3に記載の組成物。

【公表番号】特表2012−517402(P2012−517402A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548524(P2011−548524)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国際出願番号】PCT/CZ2010/000011
【国際公開番号】WO2010/091649
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511151422)
【氏名又は名称原語表記】HEGLUND,A.S.
【住所又は居所原語表記】Dusni 16/112,110 00 Praha 1 Czech Republic
【Fターム(参考)】