説明

福祉車両の内燃機関制御装置

【課題】簡易的な手段で福祉機器の動作中にはエコラン機能を動作させないように構成した、福祉車両の内燃機関制御装置を提供する。
【解決手段】福祉車両の内燃機関制御装置1は、エコランECU10、ウエルキャブECU20、および切り替えスイッチ30で構成される。切り替えスイッチ30がON状態である場合、エコランECU10によるエコラン機能の制御が禁止状態に、かつ、ウエルキャブECU20による福祉機器の動作が許可状態に設定される。切り替えスイッチ30がOFF状態である場合、エコランECU10によるエコラン機能の制御が許可状態に、かつ、ウエルキャブECU20による福祉機器の動作が禁止状態に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、福祉車両の内燃機関制御装置に関し、より特定的には、福祉車両に設備される機器の使用に応じて内燃機関の運転状態を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガソリンをはじめとする化石燃料の将来的な枯渇に関する問題や、地球温暖化対策である二酸化炭素排出量の削減といった国際的な流れに沿うべく、ガソリンを燃料とするエンジンを内燃機関に用いた自動車においては、車両の燃料消費量をより少なくすること、つまり低燃費化が強く要望されている。この低燃費化を実現するために車両に搭載される機能の1つとして、エコノミーランニング(以下、エコランと略して記す)機能が知られている。
【0003】
エコラン機能とは、車両の運転状態が所定の停止条件を満足した場合に、内燃機関であるエンジンを停止させて燃料の消費を止め、またこのエンジン停止中に、車両の運転状態が所定の再始動条件を満足した場合に、エンジンを再始動させるという機能である。例えば、特許文献1を参照。このエコラン機能は、アイドリングストップ機能などとも呼ばれる。
このエコラン機能では、所定の停止条件を満足した場合に所定の再始動条件を満足するまでの間だけでも一時的にエンジンを停止させることで、低燃費化の効果を得ることができるのである。
【0004】
エコラン機能の判定に用いられる停止条件としては、例えば以下の事項が挙げられる。
・アクセルペダルが踏み込まれていない
・車両の走行速度が所定の速度以下である
・ブレーキペダルが踏み込まれている
・内燃機関冷却水の温度が所定の温度以上である
・車両バッテリの充電量が所定値以上である
【0005】
また、エコラン機能の判定に用いられる再始動条件としては、例えば以下の事項が挙げられる。
・ブレーキペダルが踏み込まれていない
・アクセルペダルが踏み込まれている
・車両バッテリの充電量が所定値未満である
【0006】
このエコラン機能は、低燃費化を実現するための有効な手段であるため、一般的な自家用車両だけでなく、トラック等の業務用車両や身体障害者などが利用する福祉車両にも幅広く搭載されつつある。
【0007】
身体障害者などが利用する福祉車両には、車椅子を運転席や後部座席といった車両室内の床面まで上昇させるリフト装置など、一般車両にはない特殊な福祉機器が設備されている。例えば、特許文献2を参照。
この福祉機器は、通常は車両のバッテリを電源として動力を発生させる。このため、福祉機器を使用している間は、バッテリの電圧低下を防止するためおよびバッテリの寿命を確保するために、車両が停車している状態であってもエンジン(すなわち、オルタネータ)を動作させてバッテリを充電し続けることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−144730号公報
【特許文献2】特開2006−122567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、エンジンの一時的な停止を目的としたエコラン機能を福祉車両に搭載した場合、次のような問題の発生が考えられる。
第1に、エコラン機能の実行によってエンジンが停止中(オルタネータによる充電停止中)に福祉機器を動作させた場合、動作させる福祉機器(リフト装置など)によっては多くの電力を消費して車両のバッテリ上がりを招いてしまう。
【0010】
第2に、福祉機器を動作させている途中に、エコラン機能が実行されてエンジンが停止(オルタネータによる充電停止)したり、今まで実行されていたエコラン機能が実行解除されてエンジンが再始動(オルタネータによる充電開始)したりすると、車両バッテリの電圧が急激に変動して、福祉機器に動作不良(操作ショック)が発生し使用者に危険が及ぶおそれがある。前者は、福祉機器の動作前には満たされなかった停止条件が、福祉機器の動作中に満たされた場合などが考えられる。後者は、福祉機器の動作によって車両バッテリの電圧が低下してしまい、再始動条件が満たされた場合などが考えられる。
【0011】
これらの問題の発生を回避するためには、福祉機器の動作中にはエコラン機能を動作させない、という制御方法が考えられる。この制御方法は、エコラン機能を制御する電子制御ユニットおよび福祉機器の動作を制御する電子制御ユニットを、それぞれ専用に設計すれば実現可能である。しかし、2つの電子制御ユニットをそれぞれ専用に設計すれば、設計コストが高くなるという課題が残る。
【0012】
それ故に、本発明の目的は、電子制御ユニットを専用設計することなく、簡易的な手段で福祉機器の動作中にはエコラン機能を動作させないように構成した、福祉車両の内燃機関制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車両の運転状態が停止条件を満足した場合に内燃機関の運転を停止させ、車両の運転状態が再始動条件を満足した場合に内燃機関の運転を再始動させるエコラン機能を搭載した、福祉車両における内燃機関を制御する装置に向けられている。
そして、上記目的を達成するために、本発明の福祉車両の内燃機関制御装置は、福祉車両に設備される福祉機器の動作を制御する福祉機器電子制御ユニットと、エコラン機能を制御するエコラン電子制御ユニットと、福祉機器電子制御ユニットによる福祉機器の動作を許可状態に、かつ、エコラン電子制御ユニットによるエコラン機能の制御を禁止状態に設定する第1のモードと、福祉機器電子制御ユニットによる福祉機器の動作を禁止状態に、かつ、エコラン電子制御ユニットによるエコラン機能の制御を許可状態に設定する第2のモードとを、選択的に切り替えるスイッチとを備えている。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明によれば、福祉機器の動作を許可した場合にエコラン機能を強制的に禁止することができる。これにより、エンジン停止中における福祉機器の動作による車両バッテリの上がりを回避することができる。また、福祉機器を動作させているときに、エンジンの停止や始動が生じないため、福祉機器の使用者に危険が及ぶおそれがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置1の構成を示す概略図
【図2】切り替えスイッチ30によるエコラン機能および福祉機器動作の切り替え状態を説明する図
【図3】本発明の他の実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置2の構成を示す概略図
【図4】図3に示す他の実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置2で行われる処理を説明するシーケンス図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置1の構成を示す概略図である。この本実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置1は、エコラン機能を備えた福祉車両に搭載され、エコラン機能制御用電子制御ユニット(以下、エコランECUと記す)10と、福祉機器動作用電子制御ユニット(以下、ウエルキャブECUと記す)20と、切り替えスイッチ30とで構成される。
【0017】
エコランECU10は、車両に搭載されるエコラン機能を制御する電子制御ユニット(ECU:electrical control unit)である。
ウエルキャブECU20は、車両に設備される福祉機器の動作を制御する電子制御ユニットである。
【0018】
切り替えスイッチ30は、エコラン機能の許可/禁止の設定と、福祉機器動作の許可/禁止の設定とを、同時に切り替えるためのスイッチである。本来、この切り替えスイッチ30は、本発明が適用されないエコラン機能を搭載する車両では、エコランECU10の制御端子CONTに接続され、エコラン機能だけを許可/禁止するために設けられるものである。本発明では、この切り替えスイッチ30が、エコランECU10の制御端子CONTに接続されると共に、ウエルキャブECU20の制御端子CONTにも接続されている。
【0019】
本発明では、エコランECU10の制御端子CONTおよびウエルキャブECU20の制御端子CONTの両方に接続された切り替えスイッチ30によって、以下の状態を切り替えることを行う。
図2は、切り替えスイッチ30によるエコラン機能および福祉機器動作の切り替え状態を説明する図である。
【0020】
図2において、切り替えスイッチ30がON状態である場合、すなわち図1に示す回路においてスイッチが電気的に導通して、エコランECU10の制御端子CONTおよびウエルキャブECU20の制御端子CONTの両方が接地される場合である。この制御端子CONTの接地により、エコランECU10の制御IC(集積回路)13には、電源電圧V1を抵抗R11と抵抗R12とで分圧した電圧が印加され、ウエルキャブECU20の制御IC23には、電源電圧V2を抵抗R21と抵抗R22とで分圧した電圧が印加される。
この切り替えスイッチ30がON状態である場合、エコランECU10によるエコラン機能の制御が禁止状態に、かつ、ウエルキャブECU20による福祉機器の動作が許可状態になる、第1のモードに設定される。
【0021】
一方、切り替えスイッチ30がOFF状態である場合、すなわち図1に示す回路においてスイッチが電気的に非導通となり、エコランECU10の制御端子CONTおよびウエルキャブECU20の制御端子CONTの両方が開放となる場合である。この制御端子CONTの開放により、エコランECU10の制御IC13には電源電圧V1が印加され、ウエルキャブECU20の制御IC23には電源電圧V2が印加される。
この切り替えスイッチ30がOFF状態である場合、エコランECU10によるエコラン機能の制御が許可状態に、かつ、ウエルキャブECU20による福祉機器の動作が禁止状態になる、第2のモードに設定される。
【0022】
このように、切り替えスイッチ30によって、エコラン機能の制御と福祉機器の動作とは、相対する状態に設定される。このため、エコランECU10とウエルキャブECU20とは、制御ICの動作論理を異ならせておく必要がある。この図1および図2に示した例では、エコランECU10の制御IC13が「ハイアクティブ」で動作し、ウエルキャブECU20の制御IC23が「ローアクティブ」で動作している。
なお、エコランECU10の制御IC13を「ローアクティブ」で動作させ、ウエルキャブECU20の制御IC23を「ハイアクティブ」で動作させる場合には、エコラン機能の制御および福祉機器の動作は、切り替えスイッチ30がON状態である場合に第2のモードによる設定となり、切り替えスイッチ30がOFF状態である場合に第1のモードによる設定となる。
【0023】
以上のように、本発明の一実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置1によれば、本来ならエコラン機能の許可/禁止を設定するためだけに設けられる切り替えスイッチ30を、福祉機器動作の許可/禁止を設定することに連動させて使用する。従って、福祉機器の動作を許可した場合にエコラン機能を強制的に禁止することができる。
これにより、エンジン停止中における福祉機器の動作による車両バッテリの上がりを回避することができる。また、福祉機器を動作させているときに、エンジンの停止や始動が生じないため、福祉機器の使用者に危険が及ぶおそれがなくなる。
さらには、エコラン機能用として設けられた切り替えスイッチ30を福祉機器の動作にも共用するため、既存のECUの組み合わせのままで上述した福祉車両の内燃機関制御装置1を実現することが可能となる。
【0024】
なお、本来エコラン機能の許可/禁止を設定するためだけに設けられる切り替えスイッチ30を、エコラン機能と福祉機器動作とで共用しない場合であっても、次に示す制御を行うことによって福祉機器の動作を許可した場合にエコラン機能を強制的に禁止することができる。
図3は、本発明の他の実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置2の構成を示す概略図である。図4は、図3に示す他の実施形態に係る福祉車両の内燃機関制御装置2で行われる処理を説明するシーケンス図である。
【0025】
福祉車両の内燃機関制御装置2は、エコランECU10と、ウエルキャブECU20と、切り替えスイッチ30および40とを備える。エコランECU10とウエルキャブECU20とは、バス等の通信線50で相互に接続されている。切り替えスイッチ30は、エコラン機能の許可/禁止の設定を切り替えるためのスイッチ(エコランキャンセルスイッチとも呼ばれる)であり、エコランECU10の制御端子CONTに接続されている。切り替えスイッチ40は、福祉機器動作の許可/禁止の設定を切り替えるためのスイッチ(ウエルキャブメインスイッチとも呼ばれる)であり、ウエルキャブECU20の制御端子CONTに接続されている。
【0026】
上記構成において、エコランECU10とウエルキャブECU20とは、例えば通信線50を介したCAN(Controller Area Network)通信によって、図4に示す信号のやり取りを行う。
【0027】
切り替えスイッチ40がON状態となると(S101)、ウエルキャブECU20は、エコランECU10に対してエコラン機能禁止信号を送信する(S102)。エコランECU10は、ウエルキャブECU20から送信されてくるエコラン機能禁止信号を受信すると(S103)、エコラン機能の禁止を設定する処理を行う(S104)。このとき、エコラン機能によってエンジンが停止中であればエンジンの再始動が実行される。なお、このエコラン機能禁止の設定は、切り替えスイッチ30のON/OFF状態にかかわらず優先的に設定される。
【0028】
エコラン機能の禁止を設定したエコランECU10は、ウエルキャブECU20に対してウエルキャブ許可信号を送信する(S105)。ウエルキャブECU20は、エコランECU10から送信されてくるウエルキャブ許可信号を受信すると(S106)、福祉機器動作の許可を設定する処理を行う(S107)。
【0029】
このように制御することで、エコラン機能用の切り替えスイッチ30と、福祉機器動作用の切り替えスイッチ40とを、それぞれ個別に用いた構成であっても、福祉機器の動作を許可した場合にエコラン機能を強制的に禁止することができる。
なお、切り替えスイッチ40がOFF状態となったときのシーケンス処理も、基本的な流れは図4と同じであり、各処理における「禁止」と「許可」とが入れ替わった内容が実行される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の内燃機関制御装置は、エコラン機能が搭載された福祉車両に利用可能であり、特に車両に設備された福祉機器の動作を許可したときにエコラン機能を強制的に禁止したい場合などに適している。
【符号の説明】
【0031】
1、2 内燃機関制御装置
10 エコラン機能制御用電子制御ユニット(エコランECU)
20 福祉機器動作用電子制御ユニット(ウエルキャブECU)
30、40 切り替えスイッチ
50 信号線
V1、V2 電圧
R11、R12、R21、R22 抵抗
13、23 制御集積回路(制御IC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転状態が停止条件を満足した場合に内燃機関の運転を停止させ、車両の運転状態が再始動条件を満足した場合に内燃機関の運転を再始動させるエコラン機能を搭載した、福祉車両における内燃機関を制御する装置であって、
前記福祉車両に設備される福祉機器の動作を制御する福祉機器電子制御ユニットと、
前記エコラン機能を制御するエコラン電子制御ユニットと、
前記福祉機器電子制御ユニットによる福祉機器の動作を許可状態に、かつ、前記エコラン電子制御ユニットによるエコラン機能の制御を禁止状態に設定する第1のモードと、前記福祉機器電子制御ユニットによる福祉機器の動作を禁止状態に、かつ、前記エコラン電子制御ユニットによるエコラン機能の制御を許可状態に設定する第2のモードとを、選択的に切り替えるスイッチとを備える、福祉車両の内燃機関制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83163(P2013−83163A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221932(P2011−221932)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】