説明

移動テーブル装置、露光装置、及びエアパッド

【課題】静圧気体軸受の軸受案内面の精度が不十分であったとしても、移動テーブルの変形が生じにくく移動テーブルを安定姿勢で移動させることができる移動テーブル装置及び露光装置並びにエアパッドを提供する。
【解決手段】XYテーブル装置は、軸受案内面2aを有するベース2と、ベース2上を直線移動する移動テーブル1と、気体を噴出する噴出口10bが形成された気体軸受面10aを備え軸受案内面2aと気体軸受面10aとの間に静圧気体軸受を構成可能なエアパッド6と、を備える。エアパッド6は、気体軸受面10aを備える軸受部10と、気体軸受面10aの垂直方向に進退可能に軸受部10を保持するハウジング部11と、を備える。さらにエアパッド6は、軸受部10を気体軸受面10aの垂直方向に進退させて、移動テーブル1とベース2との間の垂直方向距離を一定に保つコイルバネ20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動テーブル装置、露光装置、及びエアパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直動テーブル装置としては、例えば図8に示すようなものがある。この直動テーブル装置は、移動テーブル101、テーブルベース102、ボールねじ103、及び4本のリニアガイド104を備えている。ボールねじ103及びリニアガイド104は、移動テーブル101とテーブルベース102との間に設けられているが、ボールねじ103は、テーブル幅方向(直動方向に直交する方向)の中心に配されており、リニアガイド104は、テーブル幅方向の両端及びこれら両端のリニアガイド104とボールねじ103との間に配されている。そして、移動テーブル101の上には、固定体や移動体105(例えば、移動テーブル101とは移動方向が異なる移動テーブル)が載置される。
【0003】
このような直動テーブル装置は、移動テーブル101が4本のリニアガイド104で支持されているので、自重や積載物の荷重によって変形しにくく、また、移動体105の移動に伴う移動テーブル101の重心位置の移動によっても変形しにくい。よって、移動テーブル101の変形によるボールねじ103の芯高さの変化が生じにくいので、移動テーブル101を安定姿勢で移動させることができる。しかしながら、4本のリニアガイド104について高さ及び移動方向の調整を精度良く行う必要があるため、直動テーブル装置の組立時の調整が非常に難しいという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題が生じにくい直動テーブル装置が特許文献1に提案されている(図9を参照)。特許文献1に開示の直動テーブル装置は、図8の直動テーブル装置において、テーブル幅方向両端のリニアガイド104とボールねじ103との間に2本のリニアガイド104を設ける代わりに、移動テーブル101側からテーブルベース102に向けてエアを吹き付けるエアパッド106を移動テーブル101に設けたものである。
【0005】
移動テーブル101の自重及び積載物の質量等に応じてエアパッド106のエア吹き付け圧を調整することにより、移動テーブル101のテーブル幅方向中心部分を上方に浮上させ、移動テーブル101とテーブルベース102との間隔(垂直方向距離)を移動テーブル101の全面にわたって一定とすることができる。これにより、移動テーブル101に積載した移動体105の移動等により重心位置が移動しても、移動テーブル101に変形が生じ難くなる。また、リニアガイド104の数は2本なので、図8の直動テーブル装置のように組立時の調整が非常に難しいという問題はほとんどない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−277351号公報
【特許文献2】特開2006−281426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エアパッド106は移動テーブル101に固定されているので、静圧気体軸受の軸受案内面であるテーブルベース102の平面の精度が悪い場合には、エアパッド106と軸受案内面との間隔(垂直方向距離)が一定とはならず、軸受案内面の場所によって変化することとなる。
そのため、移動テーブル101をテーブルベース102から浮上させる力(すなわち、静圧気体軸受により移動テーブル101に付与される力)が変動してしまうので、移動テーブル101とテーブルベース102との間隔(垂直方向距離)を移動テーブル101の全面にわたって一定とすることができず、移動テーブル101に変形が生じるおそれがあった。その結果、ボールねじ103の芯高さの変化が生じて、移動テーブル101を安定姿勢で移動させることができないおそれがあった。
【0008】
特許文献2に開示の技術のように、静圧軸受の代わりにリニアガイドを用いれば、面精度の影響を排除することができるものの、リニアガイドから生じる微小振動が移動テーブルに伝わる、リニアガイドの摩擦が移動テーブルの位置決めに対して外乱力となるなどの問題が生じるおそれがある。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、静圧気体軸受の軸受案内面の精度が不十分であったとしても、移動テーブルの変形が生じにくく移動テーブルを安定姿勢で移動させることができる移動テーブル装置及び露光装置並びにエアパッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る移動テーブル装置は、静圧気体軸受の軸受案内面を有するベースと、前記ベース上を直線移動又は回転する移動テーブルと、前記ベースと前記移動テーブルとの間に配され前記移動テーブルを前記ベース上に支持しつつ前記移動テーブルの直線移動又は回転を案内する案内機構と、を備える移動テーブル装置であって、気体を噴出する噴出口が形成された気体軸受面を備え、該気体軸受面から軸受隙間を介して対向する前記軸受案内面に向かって気体を噴出することにより前記軸受案内面と前記気体軸受面との間に静圧気体軸受を構成可能なエアパッドが、前記気体軸受面を前記軸受案内面に向けて前記移動テーブルの前記ベースに対向する面に固定され、前記エアパッドは、前記気体軸受面を備える軸受部と、前記移動テーブルに固定され且つ前記軸受部を保持するハウジング部と、を備え、前記ハウジング部は、前記気体軸受面が露出するように前記軸受部を収容する凹部を有し、前記気体軸受面の垂直方向に進退可能に前記軸受部を前記凹部内に保持し、さらに前記エアパッドは、前記軸受部を前記気体軸受面の垂直方向に進退させて、前記移動テーブルと前記ベースとの間の垂直方向距離を一定に保つ進退機構を備えることを特徴とする。
【0010】
このような移動テーブル装置においては、前記進退機構が、前記ハウジング部と前記軸受部との間に配され前記ハウジング部と前記軸受部とに前記気体軸受面の垂直方向の付勢力を付与するバネであることが好ましい。そして、前記バネがコイルバネ及び空気バネの少なくとも一方であることがより好ましい。また、前記進退機構は、前記バネの付勢力を調整する調整機構を備えることが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の態様に係る露光装置は、被露光材を載せて移動し前記被露光材の位置決めをする位置決め装置を備え、位置決めされた前記被露光材に露光用光を照射してパターンを形成する露光装置であって、前記位置決め装置として上記移動テーブル装置を用いたことを特徴とする。
さらに、本発明の他の態様に係るエアパッドは、軸受案内面に向かって気体を噴出する噴出口が形成された気体軸受面を備え、前記軸受案内面と前記気体軸受面との間に静圧気体軸受を構成可能な軸受部と、前記気体軸受面が露出するように前記軸受部を収容する凹部を有し、前記軸受部を前記気体軸受面の垂直方向に進退可能に前記凹部内に保持するハウジング部と、前記ハウジング部と前記軸受部との間に配され前記軸受部を前記気体軸受面の垂直方向に進退させる進退機構と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このようなエアパッドにおいては、前記進退機構が、前記ハウジング部と前記軸受部とに前記気体軸受面の垂直方向の付勢力を付与するバネであることが好ましい。そして、前記バネがコイルバネ及び空気バネの少なくとも一方であることがより好ましい。また、前記進退機構は、前記バネの付勢力を調整する調整機構を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の移動テーブル装置は、移動テーブルとベースとの間の垂直方向距離を一定に保つ進退機構を有するエアパッドを備えているので、静圧気体軸受の軸受案内面の精度が不十分であったとしても、移動テーブルの変形が生じにくく移動テーブルを安定姿勢で移動させることができる。
また、本発明の露光装置は、移動テーブルを安定姿勢で移動させることができるので、被露光材の位置決めが正確である。
【0014】
さらに、本発明のエアパッドは、静圧気体軸受の軸受案内面に向かって気体を噴出する噴出口が形成された気体軸受面を備える軸受部を、ハウジング部に対して気体軸受面の垂直方向に進退させる進退機構を備えているので、軸受案内面の精度が不十分であったとしても、ハウジング部が取り付けられる部材と軸受案内面との間の垂直方向距離を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る移動テーブル装置の一実施形態であるXYテーブル装置の構造を示す正面図である。
【図2】図1のXYテーブル装置のエアパッドを示す断面図である。
【図3】第一変形例のエアパッドを示す断面図である。
【図4】第二変形例のエアパッドを示す断面図である。
【図5】非給気時の第二変形例のエアパッドを示す断面図である。
【図6】第三変形例のエアパッドを示す断面図である。
【図7】第四変形例のエアパッドを示す断面図である。
【図8】従来のXYテーブル装置の構造を示す正面図である。
【図9】別の従来のXYテーブル装置の構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る移動テーブル装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る移動テーブル装置の一実施形態であるXYテーブル装置の構造を示す正面図である。また、図2は、図1のXYテーブル装置に使用されるエアパッドの断面図である。
平板状のベース2の上面に、2つの直動案内装置4,4が互いに平行をなすように並んで固定されている。この2つの直動案内装置4,4の上には、長方形平板状の移動テーブル1が載置され、固定されている。移動テーブル1の長手方向と直動案内装置4の軸方向(以下「X方向」と記すこともある)とは平行をなしている。
【0017】
詳述すると、ベース2の上面に直動案内装置4,4の案内レール4a,4aが固定され、この案内レール4a,4aに軸方向に移動可能に取り付けられた直動案内装置4,4のスライダ4b,4bが、移動テーブル1の下面の幅方向両端部にそれぞれ取り付けられている。
よって、ベース2と移動テーブル1との間に配された直動案内装置4,4は、移動テーブル1をベース2上に支持しつつ移動テーブル1の直線移動を案内する案内機構として機能する。なお、直動案内装置4の数は2つなので、図8の直動テーブル装置のような組立時の調整が非常に難しいという問題はほとんどない。
【0018】
また、移動テーブル1の下面の幅方向中央部には、ボールねじ3が取り付けられている。このボールねじ3の軸方向は、移動テーブル1の長手方向と平行をなしている。また、このボールねじ3には、ねじ軸を回転駆動するモータ等の駆動装置(図示せず)が連結されている。よって、駆動装置によってねじ軸を回転させると、ボールねじ3のナットがX方向に移動するので、移動テーブル1は直動案内装置4,4に案内されてベース2上をX方向に移動することとなる。
【0019】
さらに、ベース2の上面に対向する移動テーブル1の下面には、複数のエアパッド6が取り付けられている。詳述すると、複数のエアパッド6は、移動テーブル1の幅方向における直動案内装置4とボールねじ3との間の位置に、移動テーブル1の長手方向全体にわたって直線状に並んで取り付けられている。
エアパッド6は、空気等の気体を噴出する噴出口10bが形成された気体軸受面10aを備えており、この気体軸受面10aをベース2の上面に形成された静圧気体軸受の軸受案内面2aに向けて移動テーブル1の下面に取り付けられている。よって、エアパッド6の気体軸受面10aは、ベース2の軸受案内面2aと隙間(軸受隙間)を介して対向しており、気体軸受面10aから軸受案内面2aに向かって気体を噴出すれば、軸受案内面2aと気体軸受面10aとの間に静圧気体軸受(非接触軸受)が構成されるようになっている。
【0020】
ここで、エアパッド6の構造について、図2を参照しながらさらに詳細に説明する。エアパッド6は、略円柱状の軸受部10と、軸受部10の外径形状にほぼ対応する形状の略円柱状の凹部11aを有するハウジング部11と、を備えている。ハウジング部11は、凹部11aを下方の軸受案内面2aに向けて移動テーブル1の下面に固定されており、このハウジング部11の凹部11a内に軸受部10が収容されている。
【0021】
略円柱状の軸受部10の平行な2つの平面のうち一方は、ハウジング部11の凹部11aの底面に対向している。また、前記平行な2つの平面のうち他方は、凹部11aの外に露出して軸受案内面2aに対向しており、静圧気体軸受の構成要素である気体軸受面10aをなしている。この気体軸受面10aには、ベース2の上面に形成された静圧気体軸受の軸受案内面2aに向かって気体を噴出する噴出口10bが複数形成されている。
【0022】
この噴出口10bから噴出される気体は、ハウジング部11の外面に開口する給気口13からエアパッド6内に導入され、エアパッド6(ハウジング部11及び軸受部10)内に形成されている通気路14により噴出口10bに供給される。すなわち、ハウジング部11の通気路14が、ハウジング部11の内部を通って凹部11aの底面に至り、ハウジング部11の凹部11aの底面に対向する平面に開口する軸受部10の通気路14に接続する。両通気路14,14の接続部分には、気体の漏洩を防ぐためにOリング15等のシールが装着されている。軸受部10の通気路14は、軸受部10の内部を通って気体軸受面10aに形成されている噴出口10bに接続する。なお、気体は、ハウジング部11を介さず、軸受部10に直接導入してもよい。
【0023】
また、軸受部10の通気路14は、軸受部10の内部で分岐して軸受部10の円柱面にも開口している。すなわち、軸受部10の円柱面にも気体を噴出する噴出口10cが形成されており、軸受部10の円柱面と隙間を介して対向するハウジング部11の凹部11aの円柱面に気体が噴出されて、両円柱面の間に静圧気体軸受(非接触軸受)が構成されるようになっている。なお、両円柱面の間の静圧気体軸受については、軸受部10の進退を妨げず且つ軸受案内面2aの傾き方向の影響を伝えないように、軸受隙間を広く設定し且つ軸受剛性は低くする方が好ましい。ただし、軸受剛性が低すぎると共振現象が生じるおそれがあるので、共振現象が生じない程度の軸受剛性とする必要がある。
【0024】
さらに、ハウジング部11には、凹部11aの内周面と外周面とを連通する貫通孔16(例えば、気体軸受面10aに平行な方向に延びる貫通孔)が設けられていて、軸受部10の円柱面に形成された噴出口10cからハウジング部11の凹部11aの円柱面に向かって噴出された気体が、下方を向いた凹部11aの開口部(軸受部10の円柱面とハウジング部11の凹部11aの円柱面との間の隙間の開口)とともにこの貫通孔16からも、エアパッド6の外部に排出されるようになっている。
【0025】
さらに、ハウジング部11の凹部11aの底面の中心部には有底穴22が形成されており、この有底穴22の中に、軸受部10を気体軸受面10aの垂直方向に進退させる進退機構を構成するバネが配置されている。すなわち、軸受部10は、気体軸受面10aの垂直方向に進退可能にハウジング部11の凹部11a内に保持されている。図2の例では、進退機構としてコイルバネ20が配置されていて、このコイルバネ20が、ハウジング部11と軸受部10とに気体軸受面10aの垂直方向の付勢力を付与するようになっている。詳述すると、コイルバネ20は、ハウジング部11に気体軸受面10aの垂直方向上方に向く付勢力を付与し、軸受部10に気体軸受面10aの垂直方向下方に向く付勢力を付与する。このコイルバネ20のバネ定数は、ハウジング部11に付与したい付勢力(すなわち移動テーブル1に付与したい力)の強さに応じて適宜選択すればよい。
【0026】
また、ハウジング部11の凹部11aの底面の外周部には磁石23が取り付けられており、この磁石23の磁力により、軸受部10がハウジング部11の底面側に引き寄せられている。軸受部10には、コイルバネ20によって気体軸受面10aの垂直方向下方に向く付勢力が付与されているが、この磁石23により引き寄せられているので、静圧気体軸受の非作動時(例えばメンテナンス時)に軸受部10がハウジング部11から脱落することはない。
【0027】
さらに、移動テーブル1の上には、移動方向がこの移動テーブル1の移動方向とは直交する方向(すなわち、移動テーブル1の幅方向であり、以下「Y方向」と記すこともある)である移動テーブル5が設けられている。図示は省略してあるが、移動テーブル1と移動テーブル5との間には直動案内装置とボールねじが配されていて、ベース2と移動テーブル1との間に設けられた前述の機構と全く同様の機構により、移動テーブル5が直動案内装置に案内されて移動テーブル1上をY方向に移動するようになっている。つまり、移動テーブル1は、ベース2上を移動する移動体であると同時に、移動テーブル5のベースの役割を有している。
【0028】
また、図示は省略してあるが、移動テーブル5の下面にも複数のエアパッドが取り付けられている。このエアパッドの構成はエアパッド6と全く同様であるので、移動テーブル1のエアパッド6と全く同様の機構により、移動テーブル1の上面に形成された軸受案内面と移動テーブル5のエアパッドの気体軸受面との間に静圧気体軸受(非接触軸受)が構成されるようになっている。
【0029】
次に、本実施形態のXYテーブル装置の動作について説明する。給気口13からエアパッド6内に気体を導入すると、軸受部10の気体軸受面10aに形成された噴出口10bからベース2の軸受案内面2aに向かって気体が噴出されるとともに、軸受部10の円柱面に形成された噴出口10cからハウジング部11の凹部11aの円柱面に向かって気体が噴出される。その結果、軸受部10の気体軸受面10aとベース2の軸受案内面2aとの間に静圧気体軸受が構成されるとともに、軸受部10の円柱面とハウジング部11の凹部11aの円柱面との間に静圧気体軸受が構成される。
【0030】
両円柱面の間に静圧気体軸受が構成されるため、軸受部10とハウジング部11は両円柱面において非接触状態が維持され、軸受部10が円滑に進退可能となっている。また、軸受部10の気体軸受面10aとベース2の軸受案内面2aとの間に静圧気体軸受が構成されるため、軸受部10には気体軸受面10aの垂直方向上方に向く力が付与され、軸受部10の気体軸受面10aとベース2の軸受案内面2aとの非接触状態が維持される。
【0031】
前述したように、軸受部10にはコイルバネ20により気体軸受面10aの垂直方向下方に向く付勢力が付与されている(すなわち、コイルバネ20により軸受部10に予圧が付与されている)ので、コイルバネ20による付勢力と静圧気体軸受による力とが釣り合った高さ位置で、軸受部10がハウジング部11の凹部11aに保持される。
移動テーブル1は幅方向両端部で直動案内装置4,4により支持されており、幅方向中心部分は支持されていないので、移動テーブル1の自重や積載物の質量による荷重を受けて、下方に撓み変形するおそれがあるが、静圧気体軸受が構成されることによって移動テーブル1の幅方向中心部分に垂直方向上方に向く力が作用するので、移動テーブル1の幅方向中心部分が上方に持ち上げられる。
【0032】
よって、移動テーブル1の自重及び積載物の質量等に応じてエアパッド6の気体軸受面10aからの気体噴出圧を設定し、また、適切な付勢力を付与するコイルバネ20を選定しておけば、移動テーブル1のテーブル幅方向中心部分が上方に持ち上げられ、移動テーブル1の自重や積載物の荷重による撓み変形が抑制される。あるいは、移動テーブル1に積載した移動テーブル5等の積載物の移動による移動テーブル1の撓み変形も抑制できる。
【0033】
したがって、移動テーブル1とベース2との間隔(垂直方向距離)を、移動テーブル1の幅方向全体にわたって一定とすることができる。しかも、エアパッド6は、移動テーブル1の長手方向(移動方向)全体にわたって直線状に並んで取り付けられているので、移動テーブル1とベース2との間隔(垂直方向距離)を、移動テーブル1の全面にわたって一定とすることができる。
【0034】
また、移動テーブル1の幅が大きい場合は、移動テーブル1に撓み変形が生じやすいが、そのような場合でも撓み変形を抑制するために移動テーブル1の厚さを大きくする必要がない。よって、移動テーブル1の幅が大きい場合でも、XYテーブル装置を薄型とすることができる。
前述の進退機構をエアパッドに備えていない従来品では、ベースの軸受案内面の精度が低いと、移動テーブルの移動に伴って気体軸受面と軸受案内面との間の隙間(軸受隙間)の大きさが変動してしまうおそれがある。例えば、軸受隙間が大きくなると、静圧気体軸受によって軸受部に付与される気体軸受面の垂直方向上方に向く力が小さくなるので、移動テーブルに付与される垂直方向上方に向く力も小さくなって、移動テーブルが下方に凸に撓み変形するおそれが生じる。また、軸受隙間が小さくなると、静圧気体軸受によって軸受部に付与される気体軸受面の垂直方向上方に向く力が大きくなるので、移動テーブルに付与される垂直方向上方に向く力も大きくなって、移動テーブルが上方に凸に撓み変形するおそれが生じる。
【0035】
しかしながら、本実施形態のXYテーブル装置は、軸受部10を気体軸受面10aの垂直方向に進退させる進退機構を備えているので、ベース2の軸受案内面2aの精度が低く移動テーブル1の移動に伴って気体軸受面10aと軸受案内面2aとの間の隙間(軸受隙間)の大きさが変動したとしても、移動テーブル1に撓み変形が生じにくく、移動テーブル1とベース2との間隔(垂直方向距離)が一定に保たれる。よって、移動テーブル1の変形によるボールねじ3の芯高さの変化が生じにくいので、移動テーブル1を安定姿勢で移動させることができる。
【0036】
このメカニズムについて、以下に詳細に説明する。例えば、ベース2の軸受案内面2aの精度不十分に起因して軸受隙間が大きくなると、静圧気体軸受によって軸受部10に付与される気体軸受面10aの垂直方向上方に向く力が小さくなるが、そうすると、前述したコイルバネ20による付勢力と静圧気体軸受による力との釣り合いが崩れ、コイルバネ20による気体軸受面10aの垂直方向下方に向く付勢力によって軸受部10が下方に移動する(すなわち、エアパッド6の垂直方向長さが大きくなる)。そして、コイルバネ20による付勢力と静圧気体軸受による力とが釣り合った高さ位置で、軸受部10がハウジング部11の凹部11a内に保持される。
【0037】
逆に、軸受隙間が小さくなると、静圧気体軸受によって軸受部10に付与される気体軸受面10aの垂直方向上方に向く力が大きくなるが、そうすると、前述したコイルバネ20による付勢力と静圧気体軸受による力との釣り合いが崩れ、静圧気体軸受によって軸受部10に付与される気体軸受面10aの垂直方向上方に向く力によって軸受部10が上方に移動する(すなわち、エアパッド6の垂直方向長さが小さくなる)。そして、コイルバネ20による付勢力と静圧気体軸受による力とが釣り合った高さ位置で、軸受部10がハウジング部11の凹部11a内に保持される。
【0038】
このように、軸受隙間が大きくなると、軸受部10が下方に移動することによりエアパッド6の垂直方向長さが大きくなるし、軸受隙間が小さくなると、軸受部10が上方に移動することによりエアパッド6の垂直方向長さが小さくなるので、移動テーブル1の移動に伴って軸受隙間が変動したとしても、移動テーブル1の自重及び積載物の質量等に応じて初期に設定したエアパッド6の気体軸受面10aからの気体噴出圧を軸受隙間の変動に応じて調整することなく、移動テーブル1とベース2との間隔(垂直方向距離)は一定に保たれることとなる。よって、軸受案内面2aの精度の影響を受けずに、移動テーブル1を常に安定姿勢で移動させることができる。
【0039】
なお、進退機構については、下記のような各変形例を採用可能である。例えば、進退機構は、バネの付勢力を調整する調整機構を備えていてもよい。図3には、調整機構として間座21を用いた例(第一変形例)が示されている。すなわち、有底穴22の底部とコイルバネ20との間に例えば環状の間座21を配してコイルバネ20の圧縮量を調整すれば、付勢力の強さを調整することができる。また、間座21の厚さや間座21を設ける垂直方向位置を調整して、付勢力の強さを調整することができる。なお、図3〜7においては、移動テーブル1の図示は省略してある。
【0040】
また、図4に示すように、進退機構としてコイルバネ20と気体供給による空気バネとを併用することもできる(第二変形例)。コイルバネ20を配した有底穴22をOリング17等で密封し、密封された有底穴22の空間に気体を供給し陽圧とすれば、コイルバネ20と空気バネの付勢力によって、ハウジング部11と軸受部10とに気体軸受面10aの垂直方向の付勢力を付与することができる。また、有底穴22の空間の圧力を調整することにより、間座21を用いなくても、ハウジング部11と軸受部10とに付与される気体軸受面の垂直方向の付勢力の強さを調整することができる。
【0041】
また、コイルバネ20の付勢力よりも磁石23の吸引力の方を大とすれば、有底穴22への気体の非供給時に、軸受部10がハウジング部11の凹部11aの底面に接触した状態とすることができる(図5を参照)。そうすれば、軸受部10の気体軸受面10aとベース2の軸受案内面2aとの間に大きな隙間を設けることができるので、静圧気体軸受が機能していない状況でも移動テーブル1を移動させることができる。よって、XYテーブル装置のメンテナンス時等において、移動テーブル1を人手で移動させることが可能である。ただし、コイルバネ20の付勢力を弱めることが困難である場合には、有底穴22の空間を陰圧とすることによって、軸受部10を上方に移動させて、軸受部10がハウジング部11の凹部11aの底面に接触した状態としてもよい。
【0042】
なお、有底穴22の空間への気体の供給は安定しない場合があり、有底穴22の空間の圧力が不安定となるおそれがあるので、ハウジング部11と軸受部10とに付与される気体軸受面10aの垂直方向の付勢力の強さを安定させるために、コイルバネ20の方を主体として付勢力を付与することが好ましい。また、XYテーブル装置が陽圧又は陰圧条件下で使用される場合には、有底穴22の空間の圧力が変動するおそれがあるので、ハウジング部11と軸受部10とに付与される気体軸受面10aの垂直方向の付勢力の強さを安定させるために、コイルバネ20の方を主体として付勢力を付与することが好ましい。
【0043】
さらに、図6に示すように、コイルバネ20を用いずに、気体供給による空気バネのみで進退機構を構成することもできる(第三変形例)。ハウジング部11の凹部11aの底面の中心部に有底穴24を設け、Oリング25等で密封された有底穴24の空間に気体を供給し陽圧とすれば、ハウジング部11と軸受部10とに気体軸受面10aの垂直方向の付勢力を付与することができる。
【0044】
また、有底穴24の空間の圧力を調整することにより、ハウジング部11と軸受部10とに付与される気体軸受面10aの垂直方向の付勢力の強さを調整することができる。さらに、有底穴24の空間の圧力を調整することにより、付勢力の強さを動的に調整することができる。この付勢力の強さの動的調整は、第二変形例でも可能である。さらに、コイルバネ20を備えていないので、有底穴22への気体の非供給時には、磁石23の吸引力により、軸受部10がハウジング部11の凹部11aの底面に接触した状態とすることができる。
【0045】
さらに、図7に示すように、第三変形例において磁石23を用いない構成とすることもできる(第四変形例)。この第四変形例のXYテーブル装置を、軸受部10の気体軸受面10aを重力方向下方に向けて使用する場合には、XYテーブル装置のメンテナンス時等においては、軸受部10の脱落を防ぐために、有底穴24の空間を陰圧とすることが好ましい。また、第四変形例のXYテーブル装置は、軸受部10の気体軸受面10aを重力方向上方に向けて使用する場合に好適である。軸受部10の気体軸受面10aを重力方向上方に向けて使用する場合には、軸受部10の脱落防止手段は不要であり、したがって有底穴24の空間を陰圧とする必要はない。
【0046】
このような本実施形態のXYテーブル装置は、露光装置(例えば、半導体ウエハ,液晶パネル等の平板状基板にパターンを形成するための半導体露光装置)、組み立て装置、検査装置、精密工作機械等に用いられる位置決め装置として使用することができる。
例えば、半導体ウエハを露光してパターンを形成する露光装置は、被露光材である半導体ウエハを載せて移動し半導体ウエハの位置決めをする位置決め装置と、位置決めされた半導体ウエハに露光用光を照射する光学系と、これらを制御する制御装置と、を備えている。位置決め装置としては、本実施形態のXYテーブル装置が好適に用いられる。
【0047】
移動テーブル上にウエハを載せたXYテーブル装置を駆動して、ウエハを所定の位置に移動させたら、光学系の光源からウエハに露光用光を照射して露光を行い、ウエハにパターンを形成する。露光が終了したらXYテーブル装置を駆動して、別のウエハを所定の位置に移動させ、上記と同様に露光を行い、そのウエハにパターンを形成する。
このような露光装置において位置決め装置として用いられる本実施形態のXYテーブル装置は、移動テーブルの変形が生じにくく移動テーブルを安定姿勢で移動させることができるので、露光装置は被露光材の位置決めが正確である。
【0048】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、移動テーブル装置の例としてXYテーブル装置をあげて説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は、移動テーブルを一方向に直動させる直動テーブル装置に適用することもできる。また、本発明は、移動テーブルの回転を案内する案内機構によりベースに支持された移動テーブルをベース上で回転させる回転テーブル装置に適用することもできる。
【0049】
また、本実施形態においては、移動テーブル1を移動させる送り機構としてボールねじ3を使用したが、送り機構はボールねじに限定されるものではない。
さらに、バネの種類は、コイルバネや空気バネに限定されるものではなく、板バネ等の他種のバネを用いることができる。また、ゴム等の弾性体の塊状物からなるバネを用いることもできる。さらに、コイルバネ、板バネの材質は金属に限定されるものではなく、樹脂材料、木材、竹材等を用いることも可能である。
【0050】
さらに、静圧気体軸受の絞りには、図2〜7に示した自成絞り以外にオリフィス絞り、表面絞り、多孔質絞り等の形式があるが、本発明にはいずれの形式も使用可能である。ただし、これらの中でも自成絞りは、キリ穴を絞りとして使用するため、製造が容易で好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 移動テーブル
2 ベース
2a 軸受案内面
3 ボールねじ
4 直動案内装置
4a 案内レール
4b スライダ
5 移動テーブル
6 エアパッド
10 軸受部
10a 気体軸受面
10b 噴出口
11 ハウジング部
11a 凹部
20 コイルバネ
21 間座
22 有底穴
24 有底穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静圧気体軸受の軸受案内面を有するベースと、前記ベース上を直線移動又は回転する移動テーブルと、前記ベースと前記移動テーブルとの間に配され前記移動テーブルを前記ベース上に支持しつつ前記移動テーブルの直線移動又は回転を案内する案内機構と、を備える移動テーブル装置であって、
気体を噴出する噴出口が形成された気体軸受面を備え、該気体軸受面から軸受隙間を介して対向する前記軸受案内面に向かって気体を噴出することにより前記軸受案内面と前記気体軸受面との間に静圧気体軸受を構成可能なエアパッドが、前記気体軸受面を前記軸受案内面に向けて前記移動テーブルの前記ベースに対向する面に固定され、
前記エアパッドは、前記気体軸受面を備える軸受部と、前記移動テーブルに固定され且つ前記軸受部を保持するハウジング部と、を備え、前記ハウジング部は、前記気体軸受面が露出するように前記軸受部を収容する凹部を有し、前記気体軸受面の垂直方向に進退可能に前記軸受部を前記凹部内に保持し、
さらに前記エアパッドは、前記軸受部を前記気体軸受面の垂直方向に進退させて、前記移動テーブルと前記ベースとの間の垂直方向距離を一定に保つ進退機構を備えることを特徴とする移動テーブル装置。
【請求項2】
前記進退機構が、前記ハウジング部と前記軸受部との間に配され前記ハウジング部と前記軸受部とに前記気体軸受面の垂直方向の付勢力を付与するバネであることを特徴とする請求項1に記載の移動テーブル装置。
【請求項3】
前記バネがコイルバネ及び空気バネの少なくとも一方であることを特徴とする請求項2に記載の移動テーブル装置。
【請求項4】
前記進退機構が、前記バネの付勢力を調整する調整機構を備えることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の移動テーブル装置。
【請求項5】
被露光材を載せて移動し前記被露光材の位置決めをする位置決め装置を備え、位置決めされた前記被露光材に露光用光を照射してパターンを形成する露光装置であって、前記位置決め装置として請求項1〜4のいずれか一項に記載の移動テーブル装置を用いたことを特徴とする露光装置。
【請求項6】
軸受案内面に向かって気体を噴出する噴出口が形成された気体軸受面を備え、前記軸受案内面と前記気体軸受面との間に静圧気体軸受を構成可能な軸受部と、
前記気体軸受面が露出するように前記軸受部を収容する凹部を有し、前記軸受部を前記気体軸受面の垂直方向に進退可能に前記凹部内に保持するハウジング部と、
前記ハウジング部と前記軸受部との間に配され前記軸受部を前記気体軸受面の垂直方向に進退させる進退機構と、
を備えることを特徴とするエアパッド。
【請求項7】
前記進退機構が、前記ハウジング部と前記軸受部とに前記気体軸受面の垂直方向の付勢力を付与するバネであることを特徴とする請求項6に記載のエアパッド。
【請求項8】
前記バネがコイルバネ及び空気バネの少なくとも一方であることを特徴とする請求項7に記載のエアパッド。
【請求項9】
前記進退機構が、前記バネの付勢力を調整する調整機構を備えることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のエアパッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−96516(P2013−96516A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240498(P2011−240498)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】