説明

移動体の横滑り計測装置

【課題】
本発明は、移動体の横滑りを高精度に計測する装置に関するものである。
【解決手段】移動体の横滑り角は、移動体上の前後に取り付けられた測位用衛星受信アンテナで受信した信号から算出する後のアンテナに対する前のアンテナの方向(前方方向)とアンテナの進行方方向から算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の横滑り計測の精度向上を図ることに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の横滑り計測は、たとえばGPS受信機による測位値から得られた進行方位角と、ヨーレートセンサから得られた角速度を積分して求めた移動体の旋回量から算出する。
この時、高精度な測位値を得る為にいわゆるキネマティックGPS測位方法を用いるのが一般的であるが、キネマティックGPS測位は取り扱いが煩雑で高価なシステムである。
また、ヨーレートセンサから得られた旋回量には積分された累積誤差が含まれるので高精度な計測が困難である。
【特許文献1】特開2005−17191号公報
【特許文献2】特開H11−190770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
移動体の横滑り計測を、移動体上に取り付けた2台の衛星測位装置から得た計測データだけを用いて横滑りを精度よく行なうこと。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために本発明の移動体横滑り計測装置は、測位用衛星からの信号とデータに基づく、たとえばグローバルポジショニングシステム(以下、GPSという)のみを移動体上に2個配置して利用する。そのため、異なった種類のセンサからの出力値の場合に生じる計測時刻同期問題や、それぞれに内在する誤差の問題を解決した計測ができる。また、前記2箇所の相互間の距離を拘束条件として同じ種類のセンサからの出力値を用いて横滑り状態を算出するため、高精度な横滑り状態が算出できる。
【0005】
具体的には、移動体上に離して取り付けた2台の衛星測位装置アンテナのそれぞれの計測速度の差から相対速度ベクトルを求め、その相対ベクトル方向に直角な方向と2台の衛星測位装置アンテナ間の距離とから2台の衛星測位装置アンテナ間の相対位置を算出し、その相対位置を拘もとにして前記測位用衛星信号の搬送波位相整数バイアスを算出し、その搬送波位相整数バイアスを用いて改めて2台の衛星測位装置アンテナ間の相対位置を算出し、その相対位置から得られる前方方位角(移動体の向き)と前記計測速度から得られる進行方位角との差から前記移動体の横滑り角を算出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、種々のセンサを取り扱うこと無く容易に移動体の横滑り計測を高精度に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施形態、図2は実施形態の移動体横滑り計測装置のブロック図を示す。
本実施形態の移動体横滑り計測装置2は、例えばテストコースにおいて移動体1の走行中の横滑りを計測するためのものであり、2つの速度ベクトル計測部10a、10bと横滑り算出部20とからなる。
【0008】
速度ベクトル計測部10a、10bでは、GPSの受信アンテナ11a、11bを移動体上に離して配置して測位用衛星の電波を受信する。単独測位方式のGPSでは公知の如く、測位用衛星から送信される電波の位相信号と搬送波に変調されている航法データとを利用して、GPSシステム時刻に同期して周期1秒から0.01秒間隔で受信点の緯度、経度及び高さのメートル精度の位置情報と、緯度、経度及び高さのミリメートル精度の秒速度情報が得られる。
【0009】
本実施形態では速度ベクトル計測部10は、単独測位方式のGPSを用いる。速度ベクトル計測部10で計測された速度ベクトルデータは横滑り算出部20に出力する。
【0010】
横滑り算出部20では、速度ベクトル計測部10a、10bで計測された速度ベクトルデータおよび、GPS受信観測データを用いて、横滑りを算出する。横滑り算出部20には、2つの速度ベクトルデータの差から相対速度ベクトルを算出する手段と、その相対速度ベクトル方向および前記2箇所間の距離を満たした相対位置を算出する手段と、その相対位置から前記測位用衛星信号の搬送波位相整数バイアスを算出する手段と、その搬送波位相整数バイアスを用いて前記相対位置を再算出する手段と、再算出された相対位置から得られる前方方位角と前記速度ベクトルから得られる進行方位角の差から前記移動体の横滑りを算出する手段が備えられている。
【0011】
次に、横滑りの算出について図3をもとに説明する。速度ベクトル計測部10aの受信アンテナ11aは移動体1上の前方に配置して取り付けられ、測位用衛星からの電波を受信して受信アンテナ設置箇所の東西、南北、上下の速度ベクトルデータ(AEv,ANv)を1秒間に1回から100回の頻度で計測し出力する。速度ベクトル計測部10bの受信アンテナ11bは移動体1上の後方に配置して取り付けられ、測位用衛星からの電波を受信して受信アンテナ設置箇所の東西、南北、上下の速度ベクトルデータ(BEv、BNv)を1秒間に1回から100回の頻度で計測し出力する。本実施例の2つの受信アンテナは、受信アンテナ11bから見た受信アンテナ11aの方向を移動体1の前方方向と一致させて配置する。
【0012】
移動体1上の2箇所で計測された速度ベクトルデータは横滑り算出部20に送られ、移動体1の位置、進行方位角Wm、受信アンテナ11aの11bに対する相対位置(REp,RNp)、前方方位角Wh、横滑り角Ws、横滑り角速度Wvを以下の様な公知の算出方法で算出する。
【0013】
移動体1の位置として、受信アンテナ11aの水平位置(AEpt、ANpt)は、受信アンテナ11aにおける速度成分(AEv,ANv)に計測時間間隔を掛けた値を前回算出した水平位置(AEpt−1、ANpt−1)に加算することで算出する。
【0014】
移動体1の位置として、受信アンテナ11bの水平位置(BEpt、BNpt)は、受信アンテナ11bにおける速度成分(BEv,BNv)に計測時間間隔を掛けた値を前回算出した水平位置(BEpt−1、BNpt−1)に加算することで算出する。
【0015】
移動体1の進行方位角として、受信アンテナ11bの進行方位角Wmは、速度成分(BEv,BNv)を使ってBNv/BEvの逆正接を算出する事で算出する。
【0016】
移動体1の進行方位角として、受信アンテナ11aの進行方位角Wmは、速度成分(AEv,ANv)を使ってANv/AEvの逆正接を算出する事で算出する。
【0017】
なお、これで得られる方位角は東を0度、北を90度としたものであるが、北を0度、東を90度とする事も算出式を変えることで容易に行なえる。さらに本例では、受信アンテナ11bから見た受信アンテナ11aの方向を移動体1の前方方向と一致させて配置したが、ずらして配置した場合でもその取り付けずれ角をバイアスとして加減する事で移動体1の前方方位角の算出は容易に行なえる。
【0018】
受信アンテナ11aの受信アンテナ11bに対する相対速度ベクトル方向は、速度成分(AEv,ANv)と速度成分(BEv,BNv)の差(AEv−BEv,ANv−BNv)を使って(AEv−BEv)/(ANv−BNv)の逆正接を算出する事で得る。この方向は受信アンテナ11bを中心として受信アンテナ11a、11bの取り付け間隔Lを半径とする円周上の接線方向である。
【0019】
受信アンテナ11aの11bに対する相対位置(REp、RNp)は概略、受信アンテナ11bを中心として受信アンテナ11a、11bの取り付け間隔Lを半径とする円周上で相対速度ベクトル方向と一致する接線の接点付近に有ると推定できる。もし相対移動量が生じなければ、移動体は旋回運動をせず初期の相対位置関係を保っている事になるが、この場合は進行方位角Wmと取り付け間隔Lから相対位置(REp、RNp)の概略値を推定できる。
【0020】
本実施形態では相対移動が水平面上で行われるとして説明してあるが、相対移動が3次元である場合には、相対位置は概略、半径Lの球面上の3次元相対速度ベクトル方向と一致する接点付近に有ると推定できる。
【0021】
受信アンテナ11aの11bに対する相対位置(REp、RNp)の正確な値は、公知のように、相対位置の推定値を使って測位用衛星からの電波の搬送波位相整数バイアスを決定し、搬送波位相相対測位によってフィックス解を算出する事で得る。公知な技術については、たとえば特開H11−190770の「従来の技術」項に記載されている。
【0022】
搬送波位相整数バイアス決定に際し、相対位置情報は3次元で与える必要があるが、本実施形態では相対移動が水平面上で行われたとして説明しているため、相対高さ成分は零となる。
【0023】
前方方位角Whは、相対位置(REp、RNp)からRNp/REpの逆正接を算出する事で得る。
【0024】
横滑り角Wsは、前方方位角Whと進行方位角Wmとの差を算出する事で得る。
【0025】
横滑り角速度Wvは、横滑り角Wsの時間変化を算出する事で得る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の移動体横滑り計測装置は、例えばテストコースにおいて車両の走行中の横滑り状態を計測するためのものであり、本発明によれば、種々のセンサを取り扱うこと無く、高精度な横滑り状態を得ることができる。さらに本装置のアンテナを移動体の左右に設置すればローリング角をも同時に計測することができ、アンテナを移動体の前後に設置すればピッチング角を計測することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態を示す全体構成図である。
【図2】実施形態の移動体横滑り計測装置のブロック図である
【図3】実施形態の横滑り算出に係る図である
【符号の説明】
【0028】
1−移動体
2−移動体横滑り計測装置
10−速度ベクトル計測部
11−受信アンテナ
20−横滑り算出部
30−横滑り計測結果出力部




















【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用衛星からの信号とデータに基づいて移動体の横滑りを計測する装置であって、
移動体上の定められた距離を隔てた2箇所の速度ベクトルを計測する手段と、
前記2つの速度ベクトルデータの差から相対速度ベクトルを算出する手段と、
前記相対速度ベクトル方向および前記2箇所間の距離を満たした相対位置を
算出する手段と、
前記相対位置から前記測位用衛星信号の搬送波位相整数バイアスを算出する手段と、
前記搬送波位相整数バイアスを用いて前記相対位置を再算出する手段と、
再算出された相対位置から得られる前方方位角と前記速度ベクトルから得られる進行方位角の差から前記移動体の横滑りを算出する手段とを備える事を特徴とする横滑り計測装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate