説明

移動体監視システム

【課題】一定の地域内において、監視対象である移動体の、侵入の事実を長期間に亘って監視し、人間がその監視対象を容易に捕捉できるシステムを構築する。
【解決手段】監視対象である移動体が有するICタグ11が発信する固有のID情報を含む信号を検知する検知範囲13を有するICタグリーダ12、及び、前記のICタグ11が存在する位置範囲を出力する出力手段を有する移動体監視システムを構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、監視対象である移動体の監視エリア内における移動状況を監視するためのシステムに関する。特に、人里に侵入してくる鳥獣の動きを監視し、その存在位置を契約者に通知して鳥獣を追い払うためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
山間部においては、猿や熊などの野生動物が山から人里に下りてきて、農作物を荒らしたり、人間に危害を加えたりする場合があり、それら野生動物との間で生活圏の住み分けを明確にすることが求められている。
【0003】
人里に下りてきたそれら野生動物をすべて射殺、薬殺するのは、自然と共存する山間部において非合理的であるが、一匹一匹の侵入に対して警戒し続け、侵入した個体を探し出した上で捕らえて山に返すのはあまりにも手間がかかりすぎてしまう。
【0004】
そのため、それら野生動物の侵入を検知し、それに応じて野生動物を追い払うためのシステムが検討されており、例えば、監視すべきエリアの各所に設置して、赤外線や超音波などで鳥獣の侵入を検知し、音や光による威嚇を行ってそれら野生動物を自動的に追い払うシステムが特許文献1に記載されている。
【0005】
また、多数の人間を輸送可能な乗り物に入ってきた人間に、識別信号を送信する携帯機を配り、乗り物内にいる人間を管理するシステムが特許文献2に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−236403号公報
【特許文献2】特開2004−139459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のように単純に自動化したシステムでは野生動物たちは次第に音や光に慣れてしまい、野生動物との間で明確に生活圏を区切るには、最終的に人間が姿を見せて追い払う必要があった。また、飛び抜けて頻繁に人里に下りてくる個体や、特異な行動を行う個体があってもそれらを識別することが出来ず、状況に則した柔軟な対処ができなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載のシステムは乗り物の中という小規模な範囲での出入りを管理するものであり、広範囲で長期間に亘って監視対象の行動を監視するには不向きであった。
【0009】
そこでこの発明は、一定の監視地域内に特定の移動体が入り込むことを長期間に亘って監視可能とし、人間がその監視対象の監視地域内への侵入を容易に捕捉しうるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
監視対象である移動体が有するICタグが発信する固有のID情報を含む信号を、少なくとも特定の方向に300メートル離れた位置で検知しうる検知範囲を有する、複数のICタグリーダ、
及び、前記ICタグリーダにより前記信号を検知した事実を出力する出力手段を有し、
上記移動体が検知範囲に侵入してきたことを検知する移動体監視システムにより、上記の課題を解決したものである。
【0011】
すなわち、移動体にICタグを持たせ、このICタグが発する信号を検知することで、監視のために移動体に持たせるICタグを取り替える頻度を低下させて長期間の監視を可能にするとともに、300メートル離れた箇所から検知可能とすることで、移動体の侵入を検知する監視地域を広く確保し、速やかに移動体の侵入を検知することができる。また、個々の信号がID情報を含んでいるために、特に警戒すべき個体などを区別して監視することができる。なお、実際にはさらに離れた箇所からの検知も可能であり、理論上は1キロメートルを超えても検知可能である。
【0012】
また、ICタグが発する信号に対して指向性のある検知範囲を有するICタグリーダを複数設置することで検知範囲を広げるとともに、指向性を持った検知範囲を構築することができ、ICタグリーダの設置位置情報と検知範囲の範囲情報とを合わせた地図情報と信号の内容とを照らし合わせることで、ICタグの持ち主である移動体が存在する位置範囲を特定して、その移動体の位置情報を監視することができる。
【0013】
監視対象である移動体の標準的速度Vを予め実測から求めておき、ICタグからの信号を受信し始めてからの時間tをカウントしておくと、時間tと標準的速度Vとの積を計算することで、移動体の監視エリアの外縁からの侵入距離Lを求めることができ、その時点で信号を検知しているICタグリーダの検出範囲の位置と合わせることで、移動体が存在する位置範囲を特定することができる。
【0014】
ICタグが一定の時間間隔Tをおいて信号を発信するようにし、監視対象である移動体の標準的速度Vを予め実測しておくと、検知開始からの受信回数Nと時間間隔Tと標準的速度Vとの積を計算することでも、同様に移動体が存在する位置範囲を特定することができる。さらに、常時信号を発信する場合に比べてICタグを動作させる電池寿命を長期化させることができる。
【0015】
また、検知範囲内にあるICタグが送信する信号が、ICタグリーダからの距離によってどれほどの強度で受信されるかを予め測定した電波強度−距離相関表を作成しておき、受信した信号の強度とこの電波強度−距離相関表とを対応させると、ICタグを有する移動体が存在する位置のICタグリーダからの距離を特定することができる。
【0016】
さらに、検知範囲内にあるICタグが送信する信号が、どの地点においてどれほどの強度で受信されるかを予め測定した電波強度等高線マップを作成しておき、受信した信号の強度とこの電波強度等高線マップとを対応させると、ICタグを有する移動体が存在する位置範囲を、その信号の強度を示す等高線の範囲に特定することができる。また、上記の侵入距離Lの算出と併用することでより正確に位置範囲が特定できる。
【0017】
複数のICタグリーダの検知範囲を合わせて円形の円形監視エリアを構成するようにICタグリーダを組み合わせた、円形エリア監視装置を設けると、個々のICタグリーダが受信する信号の強度が増減することで、円形エリア監視装置に対する移動体の半径方向の移動を解析することができる。
【0018】
さらに、上記円形監視エリアに、上記の信号を受信してアンテナ固有IDを付加しつつ中継可能であるアンテナタグを設けることで、複数のアンテナタグにより中継された信号強度を比較することで、上記円形監視エリア中の円周方向の移動を解析することが出来る。
【0019】
また、一つの円形エリア監視装置を構成する複数のICタグリーダのうちの隣接する二つのうち、一方が受信する信号の強度が高まり、他方が受信する信号の強度が低下することで、前記他方の検知範囲から前記一方の検知範囲への円周方向の移動を解析することができる。さらに、円形エリア監視装置を、間隔を空けて設置することで、より広範囲に移動体の動きを追跡することができる。
【0020】
上記の円形エリア監視装置を制御する監視制御装置が上記解析手段と上記エリア情報保存手段とを含むことにより、個々の前記監視制御装置が監視を行って、その場で警報などを発したりする対処を行うことが可能になる。また、それらの監視制御装置を集中監視装置でまとめて制御することにより、監視エリア全体での統合的な監視を行ったり、外部への通知を一括して行ったり、ログを保存したりすることができる。
【0021】
また、上記ICタグの位置情報が、予め定めた滞在時間や、侵入距離などの条件を満たしたか否かを判断し、条件を満たしたら警報を発するようにすると、侵入者を脅すとともに、周囲に侵入者の存在を通知することができる。
【0022】
このように特定した上記移動体の位置範囲を、個人用端末に通知する通知手段を備えると、移動体が侵入者である場合には、人間がすぐに駆けつけることができ、移動体が捜索の対象である場合には、迅速な発見と保護が可能になる。
【0023】
上記ICタグを、群を作る習性のある野生の鳥獣の一部にとりつけると、取り付けた個体が侵入することで群全体の動きを監視することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明にかかる移動体監視システムを用いることにより、監視エリア内への移動体の侵入及び監視エリア内での移動体の行動を長期間に亘って監視することができ、その移動体が存在する位置範囲を特定して、人間がその場に急行して移動体を捕捉することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明について図1乃至12を用いて詳細に説明する。
この発明は、エリア情報保存手段、解析手段、出力手段、及びICタグリーダを有し、ICタグを有する移動体が存在する位置範囲を監視する移動体システムである。
【0026】
上記ICタグとは、固有のID情報を有し、このID情報を含む信号を無線で発信することができるものをいい、一次電池、二次電池、又は太陽電池等の発電機を備えて、自発的に信号を発信するいわゆるアクティブ型のタグである必要がある。この発明にかかる移動体監視システムは、監視対象である上記移動体に、このICタグを携帯させて、そのICタグが発信する信号を上記ICタグリーダが受信することによって、上記移動体の位置を監視するものである。そのため、上記ICタグが発信する信号は、少なくとも特定の方向に300メートル離れた位置で上記ICタグリーダが受信可能な強度でなければならない。この受信可能な距離は長いほど検知範囲が広がるので好ましいが、一方で信号を強めるためにはその分出力を上げるために、電力を余分に消費することになるので、必要な距離まで届く程度の出力に調整することが好ましい。
【0027】
このICタグを上記移動体に携帯させる方法としては、例えば、上記移動体が人間である場合にはストラップや携帯、鞄の付属品として持ち歩く方法が挙げられ、上記移動体が猿などの鳥獣である場合には、捕獲した個体を野山に帰す際に、ベルトなどを用いて身体に装着させる方法が挙げられる。
【0028】
また上記ICタグは、無線で発信する信号を、一定の時間間隔Tを置いて発信するものであると、常時発信し続ける場合よりも、発信に要する電力の消費を抑えることができ、電池寿命を延ばしたり、必要発電量を小さくしたりすることができるので、好ましい。
【0029】
上記ICタグリーダ12とは、図1のようにICタグ11が発信する固有のID情報を含む信号を検知する検知範囲13を有し、この検知範囲内で上記ICタグが発信した信号を受信し、この受信の際に、上記ID情報により、個々のICタグを区別することができるものである。
【0030】
この上記ICタグリーダ12は指向性を有すると、ICタグ11の位置範囲を絞り込みやすくなるためより好ましい。指向性があるとは、具体的には図2のように中心角αの扇形又はそれに近い形状の検知範囲を有し、その指向性が示す向きにあるICタグ11からの信号は受信可能でも、その指向性が示す向き以外の向きからの信号は、同一距離であっても受信できないことをいう。ただし、その検知範囲の限界は、実際には直線ではなく、地形などの条件によって広がったり狭まったりするものである。この中心角αは、最大でも90度であることが好ましく、小さければ小さいほど、ICタグが存在する方向を厳密に特定できるので好ましい。ただし、小さいとその分必要な面積を覆うために多くの上記ICタグリーダ12が必要になるため、好ましくは15度〜45度である。このような指向性のあるICタグリーダ12を用いる場合は、複数のICタグリーダ12を用いてより広角な範囲の信号を受信できるようにすると好ましい。逆に指向性のないICタグリーダ12を用いる場合は、全方向からの信号を受信できるため、ICタグリーダ12が単数でも侵入の事実を検知するには十分に機能するが、方向を絞り込むことができない。
【0031】
この発明で用いるICタグ11とICタグリーダ12の組み合わせは、少なくとも遮蔽物の無い環境で300メートル離れていても信号が含むID情報を検出可能であり、信号強度をデータとして取得できるものである必要がある。検出範囲は広いほど好ましく、1000メートル以上離れていても検出可能であると、ICタグリーダ12の設置個数を大幅に削減できるためより好ましい。このように用いることができるICタグ11とICタグリーダ12の具体的な方式としては、315MHz帯、429MHz帯、2.4GHz帯などの周波数を利用して無線での発信と受信とが可能であり、ICタグ11においては、少なくとも電池交換無しに3ヶ月以上に亘って発信可能な電池寿命を有し、動物や鳥などに装着して移動を阻害しにくい大きさ、具体的には最大長が10cm以下であると好ましく、小さいほどより好ましい。
【0032】
図1のように、ICタグリーダ12により生じる検知範囲13によって、移動体14の監視が可能な円形の監視エリアを構築することができる。この監視範囲の半径はICタグ11とICタグリーダ12との間で、信号を受信可能な限界距離となる。なお、円形とは完全な真円状に限るものではなく、地形などの条件によって受信可能距離が変化することである程度変形しうるものである。
【0033】
また、ICタグリーダ12が指向性を有する場合には、このようなICタグリーダ12を図2のように複数並べることによって、信号を検知可能である検知範囲13を繋げることで、移動体14の監視が可能な監視エリアを広げることができる。また、個々のICタグリーダ12が指向性αを持っているために、どのICタグリーダ12で信号を受信したかによって、ICタグ11が存在する位置範囲を、それぞれのICタグリーダ12が有する検知範囲13ごとに大まかに区分することができる。
【0034】
上記エリア情報保存手段とは、ICタグリーダ12を設置した位置を示す設置位置情報と、個々のICタグリーダ12が有する検知範囲13の範囲情報とを含む地図情報を保存するものである。この地図情報と、信号を受信したICタグリーダ12とを照らし合わせて解析することにより、ICタグ11が監視エリアを設けた特定の場所に侵入したことを検知することができる。さらに、この地図情報と信号の強度とを照らし合わせることにより、ICタグ11が存在する位置範囲を特定することができる。
【0035】
この地図情報は、前記設置位置情報と範囲情報の相対的な位置関係だけではなく、森、川、池、道路、田畑、民家などの細かい地形の情報まで含むものであると、後述する上記解析手段が行う解析をより正確に行うことができるので好ましい。また、検知範囲13も、地形の影響によって減衰したりするため、検出限界となる検知範囲13の外縁を予め実際に測定しておき、上記地図情報と照らし合わすことができるように保存しておくと、ICタグ11が検知範囲13に入ってきた場合の検出開始地点、又はICタグ11が検知範囲13から出て行った場合の最終検出地点を、単純な理論値である検出限界を用いるよりも正確に割り出すことができるので好ましい。
【0036】
まず、ICタグ11を携帯する移動体14が検知範囲13外から検知範囲13の中に入ってくると、ICタグ11が発信する信号をICタグリーダ12が受信しはじめることで、移動体14が検知範囲13内に侵入してきた事実を感知できる。複数のICタグリーダ12を設けている場合は、どのICタグリーダ12で受信したかによって、侵入してきた場所や方向を限定できる。
【0037】
この発明にかかる移動体監視システムが、検知範囲13内の移動体14の位置範囲を特定するための具体的な解析手段としては、例えば、侵入距離算出機能が挙げられる。この侵入距離算出機能とは、まず、検知範囲13内における移動体14の移動の速度を予め実測しておき、この実測値を元に習性も考慮して算出した初期設定値である標準的速度Vを保存し、呼び出し可能とする初期設定保存手段を有しておく。そして、移動体14が検知範囲13内に入り込んだ際に、検知開始からの経過時間tを測定し、また、初期設定保存手段から標準的速度Vを呼び出して、下記式(1)による標準的速度Vと経過時間tとの積から移動体14の侵入距離Lを算出する機能である。
[式1]
L=V×t……(1)
【0038】
ここで経過時間tの算出方法としては、検出開始からの時間を単純に計測し続ける方法でもよいし、ICタグ11が定められた時間間隔Tを置いて信号を発信するものである場合は、この時間間隔Tと検出開始からの受信回数Nとの下記式(2)による積により求める方法でもよい。
[式2]
t=N×T……(2)
【0039】
この発明にかかる移動体監視システムが、検知範囲13内の移動体14の位置範囲を特定するための別の解析手段として、例えば、信号強度距離対応機能が挙げられる。この信号強度距離対応機能を実現するためには、まず、ICタグリーダ12からの距離によって変化する上記信号が検知される強度を予め実測した電波強度−距離相関表を作成しておき、これを上記地図情報と共に上記エリア情報保存手段に保存しておく。すなわち、等間隔でICタグリーダ12から離れていくに従って、ICタグ11の発する上記信号をどの程度の強度で受信するかを測定し、それを表とする。この電波強度−距離相関表の例を図3に示す。その後、受信した上記信号の強度をこの表と照らし合わせることにより、発信したICタグ11を有する上記移動体14の、受信したICタグリーダ12からの距離を求めることができる。また、この電波強度−距離相関表と対応させるとは、単純に表の数値と比較する方法に加えて、信号強度が距離に反比例する関係を数式化して、上記信号の強度に対応する距離を求める方法でもよい。ただしその場合には、検出限界近くでは急激に減衰することに留意する必要がある。
【0040】
この発明にかかる移動体監視システムが、検知範囲13内の移動体14の位置範囲を特定するためのさらに別の解析手段として、例えば、信号強度位置対応機能が挙げられる。この信号強度位置対応機能を実現するには、まず、検知範囲13内の地形及びICタグリーダ12からの距離によって変化する上記信号が検知される強度を予め実測した電波強度等高線マップを作成しておき、これを上記地図情報と共に上記エリア情報保存手段に保存しておく。この電波強度等高線マップの例を図4に示す。図中mWで表示しているのは、そのラインにおけるICタグリーダの受信強度の例である。ICタグリーダ12が受信するICタグ11からの信号は、一般に信号を発するICタグ11がICタグリーダ12から離れるほど弱くなるが、これ以外にも、遮蔽物があったりすることで、近くても信号強度が低下する場合があり、このような信号強度の強弱の傾向を、上記地図情報と合わせることで、前記電波強度等高線マップを作成することができる。
【0041】
このように予め作成した上記電波強度等高線マップと、検知した上記信号の強度とを比較、対応させることで、検知したICタグ11が、上記電波強度等高線マップ上の、該当する信号の強度を示す範囲内にいることがわかるので、移動体14が存在する上記位置範囲を特定することができる。
【0042】
さらに、この信号強度位置対応機能と、上記の侵入距離算出機能とを併用すると、上記信号強度位置対応機能により特定した位置範囲でかつ、上記侵入距離算出機能で求めた侵入距離Lに該当する位置を求めることで、より正確に移動体14が携帯するICタグ11の位置を絞り込むことができる。
【0043】
この発明にかかる移動体監視システムは、複数のICタグリーダ12が受信した信号の強度の変化から、検知範囲13を合わせた監視エリア内を移動する移動体14の移動方向を導出する移動方向導出機能を有していると、移動体14の現在位置だけではなく、未来の存在位置を予測することができる。この移動方向導出機能とは、まず、個々のICタグリーダ12が受信する強度の変化により、上記電波強度等高線マップにより、ICタグリーダ12を中心とした検知範囲13内の半径方向の移動速度を実測することができる。そして、隣接する検知範囲13を有する複数のICタグリーダ12の間で、一方のICタグリーダ12が受信する信号の強度が低下し、他方のICタグリーダ12が受信する信号の強度が高くなると、一方のICタグリーダ12から、他方のICタグリーダ12へ近づく方向の動きを検知することができる。これらの方向と速度からなるベクトルを上記地図情報上でベクトル合成することで、移動体14が移動している方向を算出することができる。
【0044】
この発明にかかる移動体監視システムを運用するにあたって隣接する検知範囲13を有するICタグリーダ12を並べる際には、それぞれのICタグリーダ12が指向性を有することで扇形又は扇形に似た形状となっている検知範囲を、図5のように円形に並べて1つの円形監視エリア21を構成するようにすると、すき間無く広範囲を監視することができるので好ましい。また、このように構成させると、一方のICタグリーダ12から遠ざかり、他方のICタグリーダ12に近づく動きを、ICタグリーダ12を合わせた円中心に対する円周方向の動きとしてベクトル計算することにより、上記移動方向導出機能を効果的に機能させることができる。ただし、円形に並べる場合には図2のように、その2つの検知範囲13の両端が一部重なるようにしておくと、移動体14が検知範囲13の境界をまたぐときの動きを、2つのICタグリーダ12の一方が受信する強度が低下するとともにもう一方が受信する強度が増加する変化として捉えることができる。
【0045】
さらに、上記の円形監視エリア21を構成するようにICタグリーダ12を組み合わせた円形エリア監視装置22を、間隔を空けて配置し、上記の円形監視エリアを並べることで、図6のようにより広範囲な広域監視エリアを構成するようにすると、ICタグリーダ12の検出限界距離以上に監視エリアを広げることができ、事実上、監視エリアとすることができる面積の限界が無くなる。ここで前記の間隔とは、それぞれの円形監視エリア21がすき間を作らないように一部が重なっている程度であるのが好ましい。間隔が広すぎて、円形監視エリア21に含まれない地点が広域監視エリア23の内部に存在すると、移動体14がどこに行ったのかを見失うおそれがあり、移動体14の動向を把握するのが難しくなってしまう場合があるからである。
【0046】
上記のように構築した広域監視エリア23内の、各々の円形監視エリア21の境界を移動体14が移動していると、どのICタグリーダ12の検知範囲13から出て、どのICタグリーダ12の検知範囲13に入ったかを確認することで、移動体14の移動している方向を求めることができ、どの検知範囲13にどの方向から入ったのかを特定することができる。さらに、上記のように構成した広域監視エリア23全域について、上記の電波強度等高線マップを作成しておくと、移動体14の正確な存在範囲を絞り込むことができる。
【0047】
この発明にかかる移動体監視システムの具体的な構成としては、例えば図7のような構成が挙げられる。この構成は、まず、広域監視エリア23の一部である円形監視エリア21を有する1つの円形エリア監視装置22を構成する複数のICタグリーダ12が、1つの監視制御装置31によって制御されている。監視制御装置31とICタグリーダ12とは電磁的に接続されており、ICタグリーダ12が受信したICタグ11の発する信号の強度と上記ID情報とが、監視制御装置31に送られるようになっている。ここで電磁的に接続とは、有線でも無線でもよいが、信号を確実に伝達できる状態であることをいう。
【0048】
上記の監視制御装置31は、上記の解析手段51とエリア情報保存手段56と初期設定保存手段53とを有している。ここでエリア情報保存手段56は、その監視制御装置31と電磁的に接続された円形エリア監視装置22が有する円形監視エリアの地図情報と、円形エリア監視装置22の存在位置の情報とを有しており、上記電波強度等高線マップを有しているとより好ましい。解析手段51は、初期設定保存手段53が有している標準的速度Vと、受信した信号とから移動体14の侵入距離Lを算出する侵入距離算出機能を有し、また、上記電波強度等高線マップと、ICタグリーダ12から受信した信号とを比較対照させる信号強度位置対応機能を有して、これらの機能によりその円形監視エリア21内に入ってきたICタグ11を有する移動体14の存在範囲を絞り込んで、移動体14の居場所を特定する。
【0049】
なお、監視制御装置31のエリア情報保存手段56と初期設定保存手段53とは、一個の記憶装置であってもよいし、別個の記憶装置であってもよい。
【0050】
監視制御装置31の解析手段51は、移動体14の行動について、円形監視エリア21内の侵入距離Lなどの位置情報や、滞在時間に条件を設けておき、移動体14がそれらの条件を満たす行動を行ったかどうかを判断する侵入判断手段を有していると、その結果を警告手段54に送信して、その場で警告を発することができる。この警告とは、移動体14が侵入者である場合ではその場にいる移動体14に対して威嚇の効果を発揮するものであり、移動体14が行方不明になりやすい人間などである場合ではその地点の近くに行方不明者がいることを周知させることができるものである。この警告手段54は、具体的には、音、光及び臭いの少なくとも一つを利用したものであり、例えば一般的な警報機を用いることができる。
【0051】
監視制御装置31は、特定した移動体14の居場所を、その移動体14が有するICタグ11のID情報とともに、集中監視装置33に送信する。この集中監視装置33は、1つの広域監視エリア23を構成する複数の円形エリア監視装置22の全てと電磁的に接続されており、ICタグ11が発する信号の情報を、監視制御装置31を通じて受信し、また、監視制御装置31が特定した移動体14の居場所を受信して、それらの情報をまとめ、あるいは連携させるものである。例えば、ICタグ11を有する移動体14が、円形監視エリア21の境界付近を移動しているときには、複数の円形エリア監視装置22がその移動体14の動きを受信しているので、それら複数の円形エリア監視装置22のうちのどれから遠ざかってどれに近づいているかを把握することで、広域監視エリア23の全体として移動体14の動きを追うことができる。
【0052】
この集中監視装置33は、上記のICタグ11が発してICタグリーダ12が受信した信号の強度の変化を、各々のICタグ11が有する上記ID情報ごとに分類して蓄積する蓄積手段55を有していると好ましい。この蓄積手段55があることで、上記の監視制御装置31が自分の制御する円形監視エリア21内にICタグ11が入ってきたことを検知した際に、そのICタグ11が発信している上記ID情報から、集中監視装置33にアクセスしてそのID情報を有するICタグ11の行動記録を得て、そのICタグ11を有する個体の癖や行動履歴を参照することで、上記の標準的速度Vを最適化したり、その個体の癖に合わせて絞り込む位置範囲を変更したりすることができる。
【0053】
なお、集中監視装置33が蓄積手段55を有していると、監視エリア内へ群れをなして侵入してくる移動体14に対してこの発明にかかるシステムを用いる場合、この広域監視エリア23で捕捉した移動体14の履歴を蓄積することで、移動体14が含まれる群の全体的な傾向を解析したりすることができる。また、1つの移動体監視システムで蓄積した記録を参考にして、新たに設置する移動体監視システムにおいて用いる標準的速度Vなどの値や、個体の傾向などの初期設定値をより実態に合わせた値に最適化することもできる。
【0054】
また、集中監視装置33もエリア情報保存手段56を有している必要がある。この集中監視装置33が有する情報は、この集中監視装置33に繋がっているICタグリーダ12全ての設置範囲の情報と検知範囲13の範囲の情報を含んでいる必要がある。広域監視エリア23全体を総合的に監視するためである。
【0055】
なお、集中監視装置33内にあるエリア情報保存手段56と蓄積手段55とは一個の記憶装置であってもよいし、別個の記憶装置であってもよい。
【0056】
この発明に係る移動体監視システムの集中監視装置33は、出力手段34を有している必要がある。この出力手段34は、集中監視装置33と電磁的に繋がっており、集中監視装置33から上記移動体監視システムの状況を表示する他に、広域監視エリア23全体の中で、検知したICタグ11からの信号を元に、どの地点に移動体14が存在しているかを地図上に示したりすることができると、目視での監視がやりやすく好ましい。また、システムの管理者が、上記の標準的速度Vの設定を変更したりする場合など、管理者が直にデータや指示を入力する際にその内容を表示し、確認することができる。具体的には、リアルタイムの出力手段34としては、ブラウン管や液晶などのディスプレイが挙げられ、ログの外部保存などを行うその他の出力手段34としてはプリンタが挙げられる。
【0057】
出力手段34によって移動体14が存在する位置を地図上に示す場合には、システムの管理者が目視によって移動体14の状況を確認した上で、移動体14の状況を監視することを契約した契約者に、電話、無線、インターネットメールなどで連絡するようにしてもよい。
【0058】
また、集中監視装置33は、入力装置36を備えているとよい。上記の出力手段34によって参照しつつ、入力装置36を用いて、エリア情報保存手段56に記録されている地図情報の修正を行ったり、初期設定保存手段53に登録している標準的速度Vを訂正したり、天候による移動速度の補正を行ったり、警告手段54に警告を発するように指示する条件値を変更したりできるようにしておくと、この発明に係る移動体監視システム全体をまとめて制御することができるので好ましい。また、入力装置36からICタグリーダ12を起動したり、設定値を書き換えたりすることができると、より細かい制御が可能となるのでより好ましい。この入力装置36としては、一般的な入力装置を用いることができ、具体的には、キーボード、タッチパネル、マウスなどが挙げられる。
【0059】
この発明にかかる移動体監視システムはさらに、通知手段35を有しているとよい。この通知手段35とは、専用無線や電話回線、インターネットなどにより、予め契約した個人用端末45に、移動体14が侵入した事実や、移動体14が現在存在する位置範囲を通知するものである。集中監視装置33と電磁的に接続し、自動的に通知するものであると、管理者が手作業で行うよりも効率的で好ましい。また、wwwサーバ機能を有し、契約者を認証した上で外部からのアクセスに応じて、特定のID情報を有する移動体の現在位置をwebページ形式で送信するものでもよい。
【0060】
例えば農家が自分の管理する田畑や果樹園などを監視エリアに含めた移動体監視システムの管理者と契約し、その田畑や果樹園に猿や狸などの害獣が侵入した場合にその通知を受けて、直接その害獣がいる位置範囲に出向いて追い払うことができる。また、子供を持つ親が学区内を監視エリアに含めた移動体監視システムの管理者と契約しておき、子供にICタグ11を持たせておくと、子供が危険な区域に入った際にインターネットメールによる通知を受けて、その場に急行することができる。また別の例として、痴呆などにより徘徊する人にICタグ11を持たせておき、行方を捜索する必要がある際に、インターネット経由で通知手段35にアクセスして、その人の居場所を調べることで、その人の居場所に急行することができる。
【0061】
なお、上記の移動体14が、上記のような害獣のうち、猿やカラスなどの群を作る鳥獣である場合には、これらの動きを監視するために、その群の一部の個体にICタグ11を取り付けることで、群の大部分の行動を監視することができる。これは、監視すべき場所である人里に降りてくる際にも、それらの鳥獣が群れで行動しやすいため、群の一部の個体にICタグ11を付けるだけで、そのICタグ11を取り付けた個体が数体同時に行動するのを検知することで、群の大半がどう動いているか算出することができる。ただし、鳥類に取り付ける場合は鳥類の飛行を妨げない程度にサイズの小さいICタグ11を用いると好ましい。
【0062】
また、この発明にかかる移動体監視システムの別の構成例として、図8のような構成が挙げられる。広域監視エリア23を構築せず、一つの円形監視エリア21のみを監視する場合には、図8のように監視制御装置31と集中監視装置33との機能を一つにまとめて単一制御装置37として、これに解析手段51、エリア情報保存手段56、初期設定保存手段53、蓄積手段55を含め、信号の解析、保存などを一手にまとめると、システムを簡略化することができ、導入が容易である。また、エリア情報保存手段56、初期設定保存手段53、及び蓄積手段55を一つの記憶装置にすることで、さらにシステムを簡略化することができる。
【0063】
さらにまた別の構成例として、上記の単一制御装置37に、公域監視エリア23を構成する複数の円形エリア監視装置22を接続して、複数の円形監視エリア21をまとめて監視する構成が挙げられる。警告手段54を各円形エリア監視装置22の近くに設けないのであれば、解析手段51での解析を広域監視エリア23全体で一つにまとめることで、エリア情報保存手段56や初期設定保存手段53も一つにまとめることができ、必要な設備投資を抑えることができる。さらに、蓄積手段55と初期設定保存手段53とを一つの装置にまとめておくと、蓄積手段55に蓄積されたデータに応じて、初期設定保存手段に保存された初期設定を随時変更していくことが容易になる。
【0064】
さらに別の構成例として、移動体に持たせるICタグ11とは別に、マルチホップ機能を有するアンテナタグ16を用いた構成例が挙げられる。ここでマルチホップ機能とは、タグ間での信号の送受信が可能であることにより信号の中継を行い、アドホックネットワークを構築できる機能をいい、この発明においては、信号を中継したタグを識別可能であることが必要である。このアンテナタグ16を検知範囲13内の特定位置に固定設置しておくことで、実質的な信号の検知範囲を拡大することができるとともに、指向性のないICタグリーダ12を用いた場合であっても、ICタグリーダ12が信号を受信するまでにどのアンテナタグ16を中継したかを判別することにより、ICタグ11を有する上記移動体14の侵入方向を判別することができる。
【0065】
また、ICタグリーダ12に中継する際には、アンテナタグ16は、ICタグ11のID情報と上記アンテナ固有IDとともに、受信した信号の強度の値も送信する。ICタグリーダ12が受信する信号の強度は、アンテナタグ16により発信された信号の強度であって、ICタグ11が発してアンテナタグ16からの距離に応じて減衰した信号の強度ではないため、ICタグ11のアンテナタグ16からの距離を測るために用いることができないためである。
【0066】
このようなマルチホップ機能を利用した構成例を図9に示す。指向性のないICタグリーダ12の検知範囲13に、アンテナタグ16を等間隔で設置する。アンテナタグ16は円形の受信範囲17を有し、受信範囲17で発信されたICタグ11の信号を、どのアンテナタグ16で受信したのかを判別可能なアンテナ固有IDを付加した上で中継して、ICタグリーダ12に受信させることができる。これにより、ICタグリーダ12は、受信した信号がどのアンテナタグ16によって中継されたものであるか判別することができ、すなわち、どのアンテナタグ16の受信範囲17にICタグ11が存在するかを特定することができる。
【0067】
また、アンテナタグ16が受信した信号の強度により、そのアンテナタグ16からの距離を特定することができる。さらに、複数のアンテナタグ16が上記信号を中継可能な位置にICタグ11があると、複数のアンテナタグ16が中継した信号の強度を解析することにより、ICタグ11を有する移動体14が侵入してきた方向や現在存在している場所をさらに特定できる。これらの場合、上記の電波強度−距離相関表や上記電波強度等高線マップを、それぞれのアンテナタグ16ごとに作成しておくと、位置の特定が容易となる。
【0068】
さらにまた、それぞれの受信範囲17の外縁からの侵入距離Lを、上記の標準的速度Vを用いた方法により算出することでも、位置を特定することができる。
【0069】
さらに別の構成例として、指向性のあるICタグリーダ12を用いた場合に、図5に記載のような円形監視エリアを構成するそれぞれの検知範囲13の外周近傍に、それぞれアンテナタグ16を設置する、図10のような構成が挙げられる。このような構成にすることにより、上記円形監視エリア21として信号を受信可能な範囲を拡張することが出来、移動体14の監視可能範囲を広げることができる。
【0070】
また、これらとは別のマルチホップ機能を用いた測定方法として、時間差を利用する方法が挙げられる。例えば、図11のようにアンテナタグ16A〜16Cを配置した状況で、これらの3つのアンテナタグ16の全てが検知できる範囲にICタグ11がある場合、各アンテナタグ16からICタグ11までの距離(c>a>b)に応じて、ICタグ11から発信される信号を各アンテナタグ16が受信する際には、わずかな時間差が生じる。その時間差から各アンテナタグ16からICタグ11までの距離を知ることができ、ICタグ11の位置を測定することが出来る。
【0071】
このような測定は、アンテナタグ16による検出範囲やICタグリーダ12による検出範囲が、少なくとも2つ重なれば可能であるので、図12のようにICタグリーダ12とアンテナタグ16を配置することによって、これらの検出範囲内におけるICタグ11の大体の位置を特定することができる。
【0072】
このように用いるアンテナタグ16としては、例えば、クロスボー(株)製:MICAノード、MPR420等が挙げられる。アンテナタグ16として使用可能なタグは、ICタグ11としても使用できる。
【実施例】
【0073】
この発明にかかる移動体監視システムのうち、図7に記載のシステムを用いた際の具体的な運用例を示す。複数のICタグリーダ12からなる円形エリア監視装置22に、それぞれを制御する監視制御装置31を接続し、複数の監視制御装置31を1つの集中監視装置33に接続したものである。この移動体監視システムを、円形監視エリア21を並べた広域監視エリア23の面積が1600ヘクタールである環境において、周辺に生息するニホンザルの侵入を監視するように用いる。
【0074】
ICタグ11として、クロスボー(株)製:MICAノードの改良品を、ICタグリーダ12として、クロスボー(株)製:基地局MICA1を用い、最大距離が1600メートル、指向性を示す角度αが30度である検知範囲13が円形になるように、ICタグリーダ12を円形に12個配置して、一つの円形エリア監視装置22を組み立て、この円形エリア監視装置22を約1200メートルの間隔を置いて10個配置して、図6のような総面積1600ヘクタールとなる広域監視エリア23を構成させる。
【0075】
ICタグ11には、電源として単一乾電池1個を搭載させ、30秒に一度の時間間隔でID情報を発信させるようにし、平均電池寿命が24ヶ月となるように運用する。この電源と合わせたICタグ11を、捕獲したニホンザルの背中にベルトで固定した上で山野に戻し、合計3体の個体にICタグ11を装着させる。
【0076】
また、広域監視エリア23内におけるニホンザルの移動速度を測定し、その平均値から標準的速度Vを20km/hと設定して、各々の監視制御装置31が内蔵する初期設定保存手段53に入力する。さらに、使用するICタグ11とICタグリーダ12との距離による信号の受信強度を測定して電波強度−距離相関表を作成し、強度距離保存手段52に入力する。
【0077】
また、上記ICタグリーダ12の設置位置情報と、個々の検知範囲の範囲情報とを含む地図情報をエリア情報保存手段56に保存する。さらに、各々の円形監視エリア21中に条件づけされた警戒範囲を、監視制御装置31のエリア情報保存手段56に登録しておき、この警戒範囲内に対して有効な警報である警告手段54を設ける。
【0078】
さらにまた、運用開始前に円形エリア監視装置22を設置した上で、広域監視エリア23内におけるICタグ11の信号の受信強度を測定して電波強度等高線マップを作成し、各々の監視制御装置31が有するエリア情報保存手段56に保存する。
【0079】
さらにまた、広域監視エリア内に畑を有する事業者と契約し、ニホンザルに侵入されると事業者が特に困る範囲を条件値として、各々の監視制御装置31が有するエリア情報保存手段56に入力するとともに、集中監視装置が有する通知手段35に、契約した事業者のメールアドレスを登録させる。この通知手段35はインターネット端末として、インターネットメールの送信ができるものである。
【0080】
以下、図13に記載のフロー図に基づいて、この移動体監視システムの運用について説明する(101)。まず、ICタグ11を有した移動体14であるニホンザルが移動しつつ(102)、ICタグ11がID情報を含む信号を間欠発信する(103)。このとき、発信した箇所がいずれかのICタグリーダ12の検知範囲13であると(104)、ICタグリーダ12からなる円形エリア監視装置22が、信号に含まれるID情報を検知するとともに、その信号の受信強度を測定する(105)。円形エリア監視装置22は、測定したID情報と受信した信号の強度を監視制御装置31へ送信する(106)。
【0081】
監視制御装置31の解析手段51では、まず受信されたID情報が、引き続いて受信されているものか否かを判断する(107)。ここで、引き続いて受信とは、間欠発信される前の信号が受信されているということを意味し、従来受信されたことがあるID情報でも、その前に間欠発信された信号が受信されていなければ、引き続いて受信したものではない。引き続いて受信されたもので無ければ、そのID情報を有する移動体14であるニホンザルが、新たにその円形エリア監視装置22が有する検知範囲13の中に初めて入ってきたことになる。その場合は、どのICタグリーダ12の方向から入ってきたのかを、解析手段51内の一時記憶に記憶し(108)、次の信号の受信を待つとともに、監視制御装置31から集中監視装置33へ、ID情報と侵入してきたICタグリーダ12の示す方向を送信する(109)。また、信号の強度も共に送信することで位置を適確に把握可能となる。
【0082】
集中監視装置33の解析手段51では、監視制御装置31から送られてきた上記ID情報が、直前に他の監視制御装置31で検知されたものであるか否かを判断する(110)。他の監視制御装置31で直前に検知されたものでなければ、そのID情報を有する移動体14であるニホンザルは、広域監視エリア23に、新たに侵入してきたものであると認識される(111)。そこで、新たな侵入のたびに付与する侵入IDを付与し、上記ID情報とともに、侵入方向である最初に検知したICタグリーダ12の方向を蓄積手段55に記録する(112)。
【0083】
もし、監視制御装置31から送られてきた信号のID情報が、他の監視制御装置31で直前に検知されたものであれば、他の円形監視エリア21から円形監視エリア21の境界をまたいで侵入してきたものと判断される(116)。その場合は、新たな侵入IDを付与せず、同じID情報を有する移動体14の侵入が続いているものとして、他の監視制御装置31で検知した時に付与された侵入IDをそのまま使用し、円形監視エリア21を移動したことを蓄積手段55に記録して(117)、信号の受信を続ける(102〜104)。
【0084】
移動体14は検知された後も移動して(102)、信号を間欠発信する(103)。上記と同様に監視制御装置31に送られた信号は、連続して受信されたID情報であると判断されると(107)、解析手段51で位置特定のための解析を行う(121)。
【0085】
まず、解析手段51では、間欠発信された信号の受信回数Nをカウントする(122)。この受信回数Nと間欠発信の間隔との積を求めることで、侵入からの時間tを計測することができる。次に、初期設定保存手段53が保存している標準的速度Vを参照する(123)。この時間tと標準的速度Vとの積により、侵入距離Lを算出する(124)。
【0086】
また、解析手段51内の一時記憶に保存された、そのID情報を有する移動体14が侵入してきたICタグリーダ12の方向を呼び出すとともに(125)、エリア情報保存手段56に保存されている地図情報を参照して(126)、この方向の検出限界位置から侵入距離Lだけ侵入した位置に、当該ID情報を有する移動体14であるニホンザルが存在する位置範囲を特定する(127)。
【0087】
さらに、強度距離保存手段52に保存されている電波強度−距離相関表を参照して(128)、受信した信号の強度に該当するICタグリーダからの距離を確認する。上記(127)で侵入距離Lから特定した位置範囲と、電波強度−距離相関表(128)で確認した位置範囲とを比較し(129)、侵入距離Lから特定した位置範囲よりも電波強度から確認した位置範囲が遠ければ、ICタグリーダ12に対して円周方向の移動があることが認識でき、電波強度から確認した位置範囲に補正する(130)。
【0088】
なお、ここで電波強度−距離相関表の代わりに、エリア情報保存手段56に保存されている電波強度等高線マップを用いて、侵入距離Lから特定した位置範囲を特定し(129に相当する。)、補正(130に相当する。)してもよい。
【0089】
監視制御装置31の解析手段51は、このようにして得られた位置範囲が、予め登録しておいた、警戒範囲の条件を満たすか否かを判断する(131)。条件を満たす場合は、監視制御装置31に設けた警告手段54に、警告を発するように命令を出す(132)。警告手段54は、音声による警報を作動させて、移動体14を追い払うように威嚇する(133)。条件を満たさない場合はそのまま次の処理へ進む。
【0090】
監視制御装置31は、受信した信号のID情報と、上記の手順で求めた位置範囲との情報を、集中監視装置33に送信する(134)。次に(135)、集中監視装置33では、エリア情報保存手段56に保存されている地図情報を参照して、位置範囲を確認する(141)。また、一つの監視制御装置31から送られてきたID情報が、他の監視制御装置31でも受信したものであるか否かを判断する(142)。もし他の監視制御装置31でも受信したものであるなら、地図情報上での位置範囲を確認し(143)、その位置範囲がずれているようであれば、その中間である円形監視エリア21の境界域に位置範囲を補正する(144)。
【0091】
確認した位置範囲の情報を、先に侵入ごとに付与された侵入IDとともに、蓄積手段55に記録する(145)。これにより移動していく位置の変化が侵入のたびごとに一の侵入IDを付されて記録されていき、受信するICタグリーダ12が隣接するものに移っても、一連の侵入として記録される。
【0092】
また、特定された位置範囲を、出力手段34に出力し(146)、管理者が画面上で異常が無いかを確認する。
【0093】
さらに、特定された位置範囲が、予め事業者と契約した「ニホンザルに侵入されると事業者が特に困る範囲」であるか否かを判断する(147)。該当する場合は、契約した事業者に移動体14であるニホンザルの位置を送信するよう通知手段35に情報を送る(148)。契約した事業者は、個人用端末45で位置範囲を受信して確認し、その位置範囲に急行して移動体を追い払う(149)。
【0094】
以後、検知範囲13で受信される限り(104)、同様に位置範囲を特定して、蓄積手段55に登録するとともに(145)、地図情報と共に出力手段34に出力し(146)、通知を行う(148)。以上のような工程を繰り返す(150)。
【0095】
移動体14が検知範囲13外で信号を発信した場合(104)、その直前の信号が受信されていた場合は(151)、監視制御装置31と集中監視装置33が、信号を受信しなくなったことを確認する(152)。この場合、監視制御装置31は一時記憶に保存しておいた侵入方向を削除し(153)、蓄積手段55に記録した当該侵入IDでの記録を終える(154)。以後は、同一のID情報による信号が受信されても、新たな侵入と見なして(111)、新たな侵入IDを付与する(112)こととなる。
【0096】
なお、単に侵入と関係なく(151)検知範囲外での発信がされても、検出されないので、システムが処理することなく終わる(160)。
【0097】
さらに、図8中の円形エリア監視装置が、図9に示すように、指向性のない1つのICタグリーダ12の検知範囲13の外周部近傍に複数のアンテナタグ16を設置したものである移動体監視システムの運用について、図14のフロー図により説明する(201)。移動体14であるニホンザルの移動とともに(202)、ICタグ11が信号を間欠発信する(203)。ICタグ11が発信した場所が、アンテナタグ16の受信範囲17であれば(204)、アンテナタグ16が一旦信号を受信して強度を測定する(205)。アンテナタグ16は、受信して送信する信号、すなわち中継する信号に、個々のアンテナタグ16に固有のアンテナ固有IDを付加し、どのアンテナタグ16が中継して受信された信号であるのかを判別可能にして、ID情報、及び受信した信号の強度とともにICタグリーダ12に送信する(207)。ICタグリーダ12はそれらの信号を、単一制御装置37内の解析手段51に伝達する(208)。
【0098】
単一制御装置37の解析手段51では、まず、受信された信号のID情報を確認し、引き続いて受信されているものか否かを判断する(209)。引き続いて受信されたものではない、すなわち、そのID情報を有する移動体14であるニホンザルが、新たにその円形エリア監視装置22が有する検知範囲13を拡張した受信範囲17の中に初めて入ってきたことになる。その場合は、新たな侵入と認識し(210)、どのアンテナタグ16のある方向から侵入してきたのかを、解析手段51内の一時記憶に記憶し(211)、侵入IDを付与して蓄積手段55に記録を開始する(212)。
【0099】
ID情報が連続して受信されたものであれば(209,221)、先に付与した侵入IDとともに蓄積手段55に記録を続けることになる。解析手段51は、受信回数をカウントし(222)、標準的速度Vを参照して(223)侵入距離Lを算出する(224)。次に一時記憶から侵入してきた方向を呼び出し(225)、エリア情報保存手段56から地図情報を呼び出して(226)、侵入方向からLだけ侵入した範囲に位置を特定する(227)。
【0100】
そのID情報である信号を受信しているアンテナタグ16が一つであった場合、解析手段51は、強度距離保存手段52から電波強度−距離相関表を呼び出して(228)、アンテナタグ16が受信した信号の強度と、上記の侵入距離Lから特定した位置のアンテナタグ16からの距離とを比較する(229)。一致しない場合は、特定した位置をアンテナタグ16が受信した信号の強度に合わせて補正する(230)。
【0101】
複数のアンテナタグ16で同一のID情報を受信している場合(231)、そのID情報を有するICタグ11を持った移動体14であるニホンザルは、複数の受信範囲17が重なる範囲に存在することになる。そこで、さらに別のアンテナタグ16が受信した信号の強度と距離とについて、同様の比較を行う(232)。解析手段51は、これらのアンテナタグ16が受信した信号の強度を、強度距離保存手段52から呼び出した電波強度−距離相関表(228)と比較し、それぞれのアンテナタグ16からの距離を特定する(229)。複数のアンテナタグ16からの距離を求め、エリア情報保存手段56から地図情報を呼び出して対応させることで、ICタグ11の存在する位置をさらに正確に特定する。
【0102】
以下、上記の構成と同様に、警告手段54へ警報を出したり(241〜243)、契約者に特定した位置範囲を送信したりする(246〜248)。また、同様に、当該侵入IDとして蓄積手段55に記録し(244)、結果を出力する(245)。以上のような工程を繰り返す(249)。
【0103】
移動体14がいずれのアンテナタグ16の受信範囲17からも外れた場合(204)、引き続いていた受信が途絶えたことで(252)、侵入が終了したとみなして、一時記憶から侵入してきたアンテナタグの情報を抹消する(253)。また、その移動体の今回の侵入について付されていた侵入IDを終了し(254)、その侵入IDでの蓄積手段への記録を終了する(255)。
【0104】
なお、受信範囲17外でかつ検知範囲13内であるエリアがある場合には、アンテナタグ16を介さず、直接にICタグリーダ12により受信してもよいが、その場合は距離のみがわかり、方向が判別できなくなる。なお、初めから受信範囲17の外で発信されただけのデータは(204,251)、特に処理されることなく終了する(260)。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】ICタグリーダとその検知範囲に入ってきた移動体との関係を示す概念図
【図2】指向性のあるICタグリーダとその検知範囲に入ってきた移動体との関係を示す概念図
【図3】電波強度−距離相関表の例図
【図4】電波強度等高線マップの概念図
【図5】円形監視エリアの概念図
【図6】広域監視エリアの概念図
【図7】この発明にかかる移動体監視システムの構成例を示す図
【図8】この発明にかかる移動体監視システムの別の構成例を示す図
【図9】指向性のないICタグリーダとアンテナタグからなる監視エリアの概念図
【図10】指向性のあるICタグリーダとアンテナタグからなる監視エリアの概念図
【図11】マルチホップを用いた時間差による位置の特定方法を示す概念図
【図12】図11の方法を行うための検知範囲の設置例を示す概念図
【図13(a)】実施例におけるシステムの運用例を示すフロー図
【図13(b)】実施例におけるシステムの運用例を示すフロー図
【図14(a)】実施例における、アンテナタグを用いたシステムの運用例を示すフロー図
【図14(b)】実施例における、アンテナタグを用いたシステムの運用例を示すフロー図
【符号の説明】
【0106】
11 ICタグ
12 ICタグリーダ
13 検知範囲
14 移動体
16 アンテナタグ
17 受信範囲
21 円形監視エリア
22 円形エリア監視装置
23 広域監視エリア
31 監視制御装置
33 集中監視装置
34 出力手段
35 通知手段
36 入力装置
37 単一制御装置
45 個人用端末
51 解析手段
52 強度距離保存手段
53 初期設定保存手段
54 警告手段
55 蓄積手段
56 エリア情報保存手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象である移動体が有するICタグが発信する固有のID情報を含む信号を、少なくとも特定の方向に300メートル離れた位置で検知しうる検知範囲を有する、ICタグリーダ、
及び、前記ICタグリーダにより前記信号を検知した事実を出力する出力手段を有し、
上記移動体が検知範囲に侵入してきたことを検知する移動体監視システム。
【請求項2】
上記ICタグリーダの設置位置情報と、上記ICタグリーダが有する個々の上記検知範囲の範囲情報とを含む地図情報を保存するエリア情報保存手段、
及び、上記ICタグリーダにより検知した信号の内容と、前記地図情報とから上記ICタグが存在する位置範囲を特定する解析手段を有し、
かつ、上記検知範囲は指向性を有するものであり、上記出力手段は上記ICタグが存在する位置範囲を出力する機能を有するものである、
前記ICタグを有する移動体の、前記検知範囲を合わせた監視エリア内での位置情報を監視可能である、請求項1に記載の移動体監視システム。
【請求項3】
上記検知範囲内における上記移動体の移動の速度を予め実測した値を元にした初期設定値である標準的速度Vを保存する初期設定保存手段を有し、
上記解析手段が、上記監視エリア外から上記監視エリア内に侵入した移動体の検知開始からの時間tから、上記移動体の上記監視エリアの外縁からの侵入距離Lを式(1)により算出する侵入距離算出機能を有する、請求項2に記載の移動体監視システム。
[式1]
L=V×t……(1)
【請求項4】
上記ICタグが発信する信号が、定められた時間間隔Tをおいて発信されるものであり、上記信号の内容が、上記信号の検知開始からの受信回数Nを含み、
上記侵入距離算出機能が、上記時間tを式(2)により求めて侵入距離Lを算出する、請求項3に記載の移動体監視システム。
[式2]
t=N×T……(2)
【請求項5】
上記のICタグリーダからの距離によって変化する上記信号の検知される強度を予め実測した電波強度−距離相関表を保存する強度距離保存手段を有し、
上記解析手段が、検知した上記信号の強度と前記電波強度−距離相関表とを対応させることで、上記位置範囲の上記ICタグリーダからの距離を特定する信号強度距離対応機能を有する、請求項2乃至4のいずれかに記載の移動体監視システム。
【請求項6】
上記検知範囲内の地形と上記ICタグリーダからの距離とによって変化する上記信号の検知される強度を予め実測した電波強度等高線マップを保存するエリア情報保存手段を有し、
上記解析手段が、検知した上記信号の強度と前記電波強度等高線マップとを対応させることで、上記位置範囲を特定する信号強度位置対応機能を有する、請求項2乃至4に記載の移動体監視システム。
【請求項7】
複数の上記ICタグリーダのそれぞれの検知範囲を円形に並べて1つの円形監視エリアを構成するように上記複数のICタグリーダを組み合わせた円形エリア監視装置を有する、請求項2乃至6のいずれかに記載の移動体監視システム。
【請求項8】
複数の上記円形エリア監視装置を、間隔を空けて配置し、各々の上記円形エリア監視装置による上記円形監視エリアを合わせた広域監視エリアを構成する、請求項7に記載の移動体監視システム。
【請求項9】
上記ICタグリーダの検知範囲に、円形の受信範囲から発信された上記信号を受信してアンテナ固有IDを付加した上で中継可能であるアンテナタグを複数設置し、前記検知範囲の外周が少なくともいずれかの前記アンテナタグの受信範囲に含まれる、請求項1乃至6に記載の移動体監視システム。
【請求項10】
上記円形エリア監視装置を構成する上記の複数のICタグリーダが1つの監視制御装置によって制御されるように電磁的に接続され、かつ、上記広域監視エリアを構成する複数の円形エリア監視装置に接続されたそれぞれの監視制御装置が、1つの集中監視装置によって制御されるように電磁的に接続され、
前記監視制御装置が、上記解析手段と上記エリア情報保存手段とを含み、前記集中監視装置が出力手段を備えた、請求項7乃至9のいずれかに記載の移動体監視システム。
【請求項11】
上記監視制御装置が有する上記解析手段が、上記検知範囲内に侵入した上記移動体の上記位置情報又は滞在時間が、予め設定した条件を満たしたか否かを判断して判断結果を送信する侵入判断手段を有し、
上記監視制御装置が、上記侵入判断手段の判断結果に応じた信号を受信して、音、光及び臭いのうち少なくとも一つを利用した警報を発する警告手段を備える、請求項10に記載の移動体監視システム。
【請求項12】
特定した上記の位置範囲を、個人用端末へ命令する通知手段を有する、請求項1乃至11のいずれかに記載の移動体監視システム。
【請求項13】
上記移動体が群を作る習性のある野生の鳥獣であり、上記ICタグを上記群の一部の個体に装着させて、上記群の行動を監視する、請求項1乃至12のいずれかに記載の移動体監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図14(a)】
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【図14(b)】
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【公開番号】特開2007−192736(P2007−192736A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12710(P2006−12710)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(399041158)西日本電信電話株式会社 (215)
【Fターム(参考)】