説明

移動式クレーン

【課題】クレーンの構造がコンパクトでありながらブームの縦たわみや横たわみを効果的に抑制でき、大きな吊上げ能力を達成できる移動式クレーンを提供する。
【解決手段】走行車体1に搭載した旋回台に起伏自在に取付けた伸縮ブーム5を有する移動式クレーンであって、旋回台に搭載した左ウインチ14Lおよび右ウインチ14Rを備え、左ウインチ14Lから繰り出された左ロープ20Lと、右ウインチ14Rから繰り出された右ロープ20Rとがブーム先端部に止着されている。左右のウインチ14L、14Rによる左右のロープ20L,20Rの張力を制御するための張力制御装置を備えており、張力制御装置は、伸縮ブーム5の縦たわみ量及び/又は横たわみ量を検出するたわみ検出器60と、左右いずれかのウインチ14L、14Rを駆動し、たわみ量を許容値以下に補正するコントローラ50とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式クレーンに関する。さらに詳しくは、ブームの縦たわみと横たわみを抑制して吊上げ能力を向上させた移動式クレーンに関する。
【0002】
本発明の対象となる移動式クレーンは、走行車体にクレーンを搭載したものであって、このような移動式クレーンには、装輪式車体を用いるトラッククレーンやホイールクレーン、クローラ式車体を用いるクローラ式クレーン等がある。
これらのうち大部分は、走行車体に旋回台を搭載し、その旋回台上にブームを起伏自在に取付けブームの旋回と起伏を可能とした構造であるが、旋回台を用いず、ブームを起伏自在に取付けた構造のものも含まれる。
ブームは多段式であり、油圧シリンダで自動伸縮させるものの外に、油圧シリンダを内蔵せずブームの継ぎ足しで長さを可変とするものも含まれる。さらに、ブームの先端に継ぎ足し専用のジブを装着してブーム長さを更に延長するものも含まれる。
【背景技術】
【0003】
移動式クレーンは、ブームを多段化して伸縮長さを長くし、そうすることによって揚程を大きくとって、高い所への荷揚げと高い所からの荷降ろしを可能としている。
このようなクレーンの高揚程化は、建築やその他の産業分野でクレーンの利用可能性を高めるものである。
しかるに、移動式クレーンにおけるブームの多段化と、その結果として得られる伸縮長さの長大化は、ブームの構造的強度の面からの限界が顕在化するに至っている。
【0004】
クレーン作業では、ブームを旋回させることにより、自機を中心とした周囲全方向での作業を可能とし、ブームを起立・倒伏させることにより、高所作業も遠方作業も可能とし、立体空間内での荷役を可能としている。
しかるに、ブームを倒伏すると、ブームを下向きに曲げようとする縦曲げモーメントが大きくなって、ブームが下向きに撓みやすくなる。
一方、ブームを起立させると、ブームにそれ自体を圧縮する力が大きくなって、これに風や偏荷重等の外力が作用すると、ブームを横に曲げようとする横曲げがモーメントが大きくなり、横撓みが発生しやすくなる。
【0005】
上記の縦曲げモーメントや横曲げモーメントを抑制するため、特許文献1〜4の従来技術が提案されている。
特許文献1の従来技術は、ジブ(ブームともいうが技術的意味は同じである)の上面にガントリーを立設し、ジブ先端から吊下したフックと旋回台上のウインチとの間に掛け廻したロープを、ジブ先端からガントリー上端の滑車にも掛け廻している。このガントリーを介在させてジブ先端との間に張設したロープにより、ジブの縦曲げモーメントに対する抵抗を与え、ジブの縦曲げを抑制しようとするものである。
【0006】
特許文献2の従来技術は、ジブの上面に張設台(前記ガントリーに相当)を設けた点は特許文献1と同様の構成であるが、これに加え、ジブ先端に連結したロープを張設台上端の滑車を介して張設台の根元に設けたウインチに導いている。このロープは荷役用のロープとは別物であって、ウインチによって張力を加減することにより、ジブの縦曲げを効果的に抑制できるようになっている。
なお、ジブに対して横方向の安定性を得られるとの記述もあり、ジブの横安定性という課題も示されている。
【0007】
上記特許文献1,2は主としてブームの縦曲げを抑制するものであるが、特許文献3,4はブームの横曲げの防止も主たる課題としたものである。
すなわち、特許文献3,4の従来技術は、図8に示すように、主ジブ104の基礎箱形部105の上面に引張補強スタンド109が配置されており、この引張補強スタンド109と先端側のジブ108の頭部との間に引張り補強ロープ111,111´が連結されている。この補強ロープ111,111´は主ジブ104の縦たわみ抑制用である。
また、図9に示すように、主ジブ104の基礎箱形部105から左右両側方に延びる引張補強支持部118,119が配置されており、その引張補強支持部118,119と先端側のジブ108の頭部との間に、引張り補強ロープ121,121´が連結されている。この補強ロープ121,121´は主ジブ104の横たわみ防止用である。
なお、101は走行車体、102は上部旋回体、106〜108はジブの伸縮段である。
【0008】
しかるに、特許文献1〜4の従来技術は、ブームの上面にガントリーや張設台、あるいは引張補強スタンドと引張補強支持部を組合せた引張補強設備を備えている。これらの設備は、ブームの上方や側方に大きく突出するものであるので、ブームの起伏角を大きくした状態で旋回させると、旋回軌跡が大きくなり、狭い場所でのクレーン作業が出来なくなる。また、ブームにのせた設備の重量が重くなるので、クレーンの吊上げ能力が低下してしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭56−43995号公報
【特許文献2】特開昭57−184092号公報
【特許文献3】DE19930537号公報
【特許文献4】DE10022600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、クレーンの構造がコンパクトで狭い場所でのクレーン作業が可能であり、しかもブームの縦たわみや横たわみを効果的に抑制でき、大きな吊上げ能力を達成できる移動式クレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の移動式クレーンは、走行車体と、該走行車体に旋回自在に搭載した旋回台と、該旋回台に起伏自在に取付けた伸縮ブームとを備え、該伸縮ブームが、基端側の主ブームと、該主ブームから先端に伸びた位置に配置される副ブームからなる移動式クレーンであって、前記旋回台に搭載した左ウインチと右ウインチからなる緊張ウインチと、前記緊張ウインチと前記伸縮ブームの先端部との間に張設された緊張ロープとを備えており、前記緊張ロープは、前記左ウインチから繰り出された左ロープと、前記右ウインチから繰り出された右ロープとからなり、前記左右のウインチによる前記左右のロープの張力を制御するための張力制御装置を有することを特徴とする。
第2発明の移動式クレーンは、第1発明において、前記張力制御装置が、前記伸縮ブームの縦たわみ量及び/又は横たわみ量を検出するたわみ検出器と、前記左右のウインチを駆動する左右の駆動部と、前記たわみ検出器が検出したたわみ量を入力し、前記たわみ量を許容値以下に補正するように前記左右のウインチの駆動部に制御信号を送る張力制御手段を有するコントローラとからなることを特徴とする。
第3発明の移動式クレーンは、第1発明において、前記張力制御装置が、前記左ロープに作用する張力を検出する左ロープ張力検出器および前記右ロープに作用する張力を検出する右ロープ張力検出器からなるロープ張力検出器と、前記左ロープの張力と前記右ロープの張力を入力し、前記左ロープ張力と前記右ロープ張力の和を演算して、その演算値が許容値以上のとき前記左右のウインチの駆動部に巻取り方向の制御信号を送る縦張力制御手段を有するコントローラとからなることを特徴とする。
第4発明の移動式クレーンは、第1発明において、前記張力制御装置が、前記左ロープに作用する張力を検出する左ロープ張力検出器および前記右ロープに作用する張力を検出する右ロープ張力検出器からなるロープ張力検出器と、前記左ロープの張力と前記右ロープの張力を入力し、前記左ロープ張力と前記右ロープ張力の差を演算して、その演算値が許容値以上のときロープ張力が高い方のウインチの駆動部に巻取り方向の制御信号を送る横張力制御手段を有するコントローラとからなることを特徴とする。
第5発明の移動式クレーンは、第3または第4発明において、請求項3または4の張力制御装置において、吊荷の荷重を検出する荷重検出器を設けており、前記コントローラは、前記荷重検出器からの吊荷荷重に基づいて吊荷の地切りか否かを判断すると共に、地切り直後において前記左ロープ張力と前記右ロープ張力の差が許容値以下にならなかった場合は張力制御を終了させる制御終了手段を有することを特徴とする。
第6発明の移動式クレーンは、第1発明において、前記旋回台に左右の張出しステーが設けられ、前記各左右の張出しステーの先端部に滑車が取付けられており、前記左右のウインチから繰り出された左右のロープが、前記張出しステーの滑車を経てブーム先端部との間に張設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、張力制御装置により、左右のウインチを巻き取って左右の両ロープの張力を高めると、ブームの縦たわみを抑制することができる。そして、左右いずれか一方のウインチを巻き取ってその一方のロープを張力を高めると、他方へたわもうとしている伸縮ブームの横たわみを防止できる。このため、クレーンの吊上げ能力が高くなる。しかも、左右のウインチは旋回台に搭載されており伸縮ブームには重量物の搭載はなされていない。したがって、ブーム重量が軽くなることからもクレーンの吊上げ能力を大きくできる。
第2発明によれば、たわみ検出器が伸縮ブームの縦たわみを検出すると、左右の両ウインチを巻き取って左右の両ロープの張力を高める。これにより、ブームの縦たわみを抑制することができる。そして、たわみ検出器が伸縮ブームの左右いずれか一方への横たわみを検出すると、他方のウインチを巻き取って反たわみ側のロープを張力を高めることによって、ブームの一方への横たたわみを防止できる。
第3発明によれば、ロープ張力検出器により左右ロープの張力の和を検出すると伸縮ブームに縦たわみが発生したと認識できる。すると、コントローラの縦張力制御手段が左右のウインチを共に駆動する制御信号を駆動信号出力部に送って、左右のウインチにより左右のロープを巻取り方向に巻き取る。これにより、伸縮ブームに発生している縦たわみが抑制される。
第4発明によれば、ロープ張力検出器により左右ロープの張力の差を検出すると伸縮ブームに横たわみが発生したと認識できる。すると、コントローラの横張力制御手段が左右いずれか一方の反たわみ側のウインチを駆動する制御信号を駆動信号出力部に送って、巻取方向にウインチを駆動する。これにより、伸縮ブームに発生している横たわみが防止される。
第5発明によれば、荷重検出器の検出値が急増したときは、吊荷を吊上げた直後の地切り状態と判断できる。この状態で伸縮ブームに横たわみが発生し、左右いずれか一方のロープ張力を増加させて横たわみを防止しようとしてもできなかったときは制御終了手段により張力制御を終了させ、同時に吊荷を下げる等の処置をすれば、ウインチや伸縮ブームの損傷を防止できる。
第6発明によれば、張出しステーによって左右のロープの伸縮ブームの長軸線に対する交差角が大きくなるので、ロープ張力の横たわみを防止分力が大きくなる。このため、クレーンの吊上げ能力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る移動式クレーンQの斜視図である。
【図2】図1の移動式クレーンQの平面図である。
【図3】伸縮ブームの縦たわみ抑制制御の説明図である。
【図4】伸縮ブームの横たわみ防止制御の説明図である。
【図5】本発明における張力制御装置の一例を示すブロック図である。
【図6】本発明における張力制御装置の他の例を示すブロック図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る移動式クレーンRの斜視図である。
【図8】特許文献3の従来技術の斜視図である。
【図9】特許文献3の従来技術の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
以下では、本発明をトラッククレーンに適用した第1、第2実施形態の移動式クレーンに基づき説明する。
【0015】
(第1実施形態)
まず、トラッククレーンとしての移動式クレーンQの基本的構造を、図1および図2に基づき説明する。1は公知の走行車体であり、この走行車体1には走行のための原動機や運転室、車輪の外、クレーン作業中の安定を確保するアウトリガ2が設けられている。走行車体1の上面には旋回台3が搭載され、油圧モータ等により水平面内で360°旋回できるようになっている。なお、旋回台3には図示しないカウンタウエイトやクレーン運転室、吊上げ作業用ウインチその他の設備が設けられている。
【0016】
前記旋回台3には伸縮ブーム5が起伏自在に取付けられている。伸縮ブーム5は、基端側の主ブーム5Aと、この主ブーム5Aにテレスコープ式に嵌挿した複数段の副ブーム5B,5C,5Dからなる。図示の例では、副ブーム5B〜5Dは3本であるが、2本以下でもよく4本以上でもよい。各副ブーム5B〜5Dの伸縮動作は油圧シリンダで行われる。
【0017】
前記主ブーム5Aの基端部はピン6で旋回台3に枢支され、主ブーム5Aと旋回台3との間には油圧シリンダで構成した起伏シリンダ7が取付けられている。この起伏シリンダ7を伸長させると伸縮ブーム5が起立し、起伏シリンダ7を収縮させると伸縮ブーム5が倒伏する。
【0018】
前記伸縮ブーム5の先端、つまり副ブーム5Dの先端に形成されているブームヘッド5Eからは、図示しないフックを備えたワイヤロープが吊り下げられ、そのワイヤロープは伸縮ブーム5に沿って旋回台3に導かれて図示しないウインチで巻き取られている。
このウインチによるフックの上げ下げと、伸縮ブーム5の起伏、旋回、そして伸縮を組合せることにより、立体空間内での荷揚げと荷降ろしが可能となっている。
【0019】
つぎに、本実施形態の移動式クレーンQの特徴部分を説明する。
旋回台3には、緊張ウインチ14を構成する左ウインチ14Lと右ウインチ14Rが搭載されている。この左右のウインチ14L,14Rには、油圧モータ駆動型や電動モータ駆動型が用いられる。左右のウインチ14L,14Rの搭載位置は、旋回台3上において、主ブーム5Aの中心軸を境にして左右に振り分けられた位置であり、可能な限り中心から離れた位置であることが、ブームの横たわみを防止するのに好ましい。
【0020】
一方、伸縮ブーム5の先端部、たとえば副ブーム5Dの先端位置かブームヘッド5Eには係止フック15が取付けられている。
そして、左右のウインチ14L,14Rからそれぞれ繰り出された左右のロープ20L,20Rが前記係止フック15に止着されている。
なお、左ウインチ14Lから繰り出されたロープを左ロープ20Lといい、右ウインチ14Rから繰り出されたロープを右ロープ20Rといい、緊張ロープ20は、この2つのロープ20L,20Rで構成されている。
【0021】
図3に示すように、ウインチ14は旋回台3上に設置されるが、その高さは、主ブーム5Aを枢支するピン6よりも高くして、ウインチ14から繰り出された緊張ロープ20が伸縮ブーム5の軸線より高くなるようにしている。また、ウインチ14のピン6を起点とする設置高さは高いほど、ブームの縦たわみを抑止するのに好ましい。
【0022】
つぎに、図5に基づき張力制御装置の構成を説明する。
符号50はコントローラで、コンピュータ等で構成された情報処理装置である。このコントローラ50には、コンピュータソフトで実行される縦張力制御手段51や横張力制御手段52、制御終了手段53が内蔵されており、その実行に必要な各種データや演算ソフトも内蔵されている。
55は駆動信号出力部であり、コントローラ50からの制御信号を受けて、駆動部14Ld,14Rdに制御信号を出力する。駆動部14Ld,14Rdはウインチ14L,14Rの駆動部であって、左右のウインチ14L,14Rが油圧モータ駆動型の場合は、油圧モータに供給する作動油圧力を制御する電磁比例弁が該当する。また、電動モータ駆動型の場合は、モータのパワー駆動部が該当する。そして、これらの駆動部14Ld,14Rdが駆動信号を送ることで、ウインチ14L,14Rの張力を制御できる。
【0023】
符号60は伸縮ブーム5のたわみを検出するたわみ検出器であり、縦たわみを検出する縦たわみ検出器61と横たわみ検出器62からなる。
縦たわみ検出器61も横たわみ検出器62も、角速度を検出するジャイロや加速度を検出する加速度センサなどで構成できるが、これら以外でもブームの縦たわみや横たわみを検出できるのであれば、どのようなセンサを用いてもよい。
なお、これらの検出器の取付部位は、ブームの変位が現れやすいブーム先端部が好ましいが、それ以外の部位でもよい。
【0024】
前記左右のウインチ14は左右のロープ20L,20Rの長さをブーム伸縮長さに合わせて調整すると共に、必要な張力が得られるように駆動される。すなわち、伸縮ブーム5の伸長動作時には、ウインチ14はロープ20L,20Rを繰り出しながら、ある程度の張力が作用した状態を保つように正転し、伸縮ブーム5の収縮動作時には、ウインチ14はロープ20L,20Rを巻き戻しつつ、ある程度の張力が残るように逆転する。このような制御は、ウインチ駆動用の油圧モータを常時低圧で巻上げ側に駆動しておき、ブーム伸長時には、前記駆動力に抗してロープを引き出し、ブーム収縮時には前記低駆動力でのロープの巻き取りを行わせることにより実現できる、なお、ロープ張力を検出して許容範囲に収めるようなフィードバック制御で実現してもよく、このような制御方式は任意である。
【0025】
つぎに伸縮ブーム5のたわみ補正方法を説明する。
まず、縦たわみ検出器61が伸縮ブーム5の縦たわみを検出したときは、縦張力制御手段51の指令により、左右のウインチ14L,14Rを共に巻き取って左右のロープ20L,20Rの張力を高める。これにより、伸縮ブーム5の縦たわみを抑制することができる。
【0026】
つぎに、横たわみ検出器62が伸縮ブーム5の左右いずれか一方への横たわみを検出したときは、横張力制御手段52の指令により、他方のウインチを巻き取って反たわみ側のロープを張力を高めることによって、伸縮ブーム5の一方への横たたわみを防止できる。たとえば、図4に示すように、伸縮ブーム5が右側方への横たわみを生じた場合は、反たわみ側である左ウインチ14Lによって左ロープ20Lの張力を高める。これにより伸縮ブーム5は右側への横たわみが矯正されるか、横たわみが進行しないように防止されている。
また、図示はしていないが、伸縮ブーム5が左側方への横たわみを生じた場合は、反たわみ側である右ウインチ14Rによって右ロープ20Rの張力を高める。これにより伸縮ブーム5は左側への横たわみが矯正されるか、横たわみが進行しないように防止されている。
【0027】
本実施形態では、上記のようにして、伸縮ブーム5の縦たわみや横たわみが防止されるので、クレーンの吊上げ能力を高くすることができる。
そして、上記の張力制御装置において、たわみ検出器60が、伸縮ブーム5の縦たわみや横たわみの停止を検出したり、あるいは更にたわみが生じていない状態に復帰したことを検出すると、制御終了手段53が働いてたわみ補正制御は終了する。
【0028】
上記本実施形態においては、左右のウインチ14L,14Rは旋回台3に搭載されており伸縮ブーム5には重量物の搭載はなされていない。したがって、ブーム重量が軽くなるので、この点からもクレーン吊上げ能力を大きくできるという利点がある。
【0029】
図6に基づき、張力制御装置の他の例を説明する。
この張力制御装置は、図5に示すたわみ検出器60を用いる代りに、つぎのブーム長検出器65とブーム起伏角検出器66とロープ張力検出器67を用いたものである。
符号65は、ブーム長検出器である。伸縮ブーム5の伸縮長さは、専用のブーム長さ検出器や吊上げ用ワイヤロープの繰出し長さ等で検出できるが、その具体的手段は任意であり、ブーム長さえ検出できれば、どのような検出器を用いてもよい。
符号66は、ブーム起伏角検出器である。伸縮ブーム5の起伏角はポテンショメータ等の専用の角度検出器等で検出できるが、その具体的手段は任意であり、ブーム起伏角さえ検出できれば、どのような検出器を用いてもよい。
【0030】
符号67は、ロープ張力検出器であり、左ロープ20Lの張力を検出する左ロープ張力検出器67Lと右ロープ20Rの張力を検出する右ロープ張力検出器67Rとからなる。このロープ張力検出器67は、左右のウインチ14L,14Rが油圧モータ駆動であれば、モータ供給油路の内部圧力を検出し、電動モータ駆動であれば、モータートルクを検出することにより実現できる。なお、これら以外の公知の検知手段、たとえばロードセル等でロープ張力を検出してもよい。
縦張力制御手段51および横張力制御手段52や制御終了手段53、そして、駆動信号出力部55や駆動部14Ld、14Rdは、図5と実質同一であるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0031】
上記の張力制御装置において、ブーム長検出器65の検出値が大きくブーム起伏角検出器66の検出値が大きいときは伸縮ブーム5が起立して高く伸びているので、伸縮ブーム5に横たわみが発生しやすい状況であると判断できる。
また、ブーム長検出器65の検出値が大きいが起伏角検出値66の検出値が小さいときは、伸縮ブーム5が倒伏し、かつ長く伸びているので、縦たわみが発生しやすい状況と判断できる。
このような伸縮ブーム5の状況検出は後述するロープ張力と合わせて、伸縮ブーム5の縦たわみと横たわみの発生を確認する指標とされる。
【0032】
図6の張力制御装置において、伸縮ブーム5の縦たわみの補正制御は、つぎのように行われる。
コントローラ50が、左ロープ張力検出器67Lで検出した左ロープ20Lの張力と右ロープ張力検出器67Rで検出した右ロープ20Rの張力を入力し、左ロープ張力と右ロープ張力の和を演算する。そして、ブーム長さとブーム起伏角も加えて状況把握したうえで、その演算値が許容値以上と判断されるときは伸縮ブーム5に縦たわみが生じていると判断する。
この場合、縦張力制御手段51から駆動信号出力部55に制御信号を送り、左右のウインチの駆動部14Ld、14Rdに共に巻取り方向の駆動信号を送り、左右のウインチ14L,14Rを同時駆動する。これにより伸縮ブーム5の縦たわみを抑制することができる。
【0033】
また、伸縮ブーム5の横たわみの補正制御は、つぎのように行われる。
コントローラ50が、左ロープ張力検出器67Lで検出したロープ20Lの張力と右ロープ張力検出器67Rで検出した右ロープ20Rの張力を入力し、左ロープ張力と右ロープ張力の差を演算する。そして、ブーム長さとブーム起伏角も加えて状況把握したうえで、その演算値が許容値以上のときは、伸縮ブーム5に左右いずれかの方向への横たわみが生じていると判断する。
この場合、コントローラ50の横張力制御手段52が制御信号を出力し、駆動信号出力部55から左右の駆動部14Ld、14Rdのいずれかに駆動電流を流すので、左右いずれか一方のウインチ14L,14Rが駆動される。そして、左右のロープ張力の差が許容値以下になるまで、あるいは小さい方の張力が所定値まで増加するまで、左右いずれか一方のウインチ14L、14Rが駆動されると、伸縮ブーム5に発生している横たわみが防止される。なお、この場合の伸縮ブーム5の横たわみ補正方法は、図5に示す張力制御装置を用いた場合と同様である。
【0034】
図6の張力制御装置において、更に荷重検出器68を追加したものは、フェイルセーフ機能を果たすことができる。
荷重検出器68は、吊荷の重量を検出するセンサであり、この荷重検出器68は吊上げ用ワイヤロープの張力を検出する外、任意の手段を採用してよい。
なお、荷重検出する代りに、伸縮ブーム5に作用するモーメントを検出してもよい。モーメントの検出は、吊荷重量とブーム作業半径から演算してもよく、ブームに作用するモーメントをストレンゲージなどで直接検出してもよい。
【0035】
図6に示す前記コントローラ50には、縦張力制御手段51および横張力制御手段52のほか、制御終了手段53が内蔵されている。この制御終了手段53は、前記各張力制御手段51,52をソフト的処理で終了させる手段である。
たとえば、荷重検出器68の検出値が急増したときは、吊荷を吊上げた直後の地切り状態と判断できる。この状態で伸縮ブーム5に横たわみが発生し、左右いずれか一方のロープ張力を増加させて横たわみを防止しようとしてもそれができなかったときは制御終了手段53により張力制御を終了させる。この場合、同時に吊荷を下げる等の処置をすれば、ウインチ14L、14Rや伸縮ブーム5の損傷を防止するというフェイルセーフ機能を発揮することができる。
【0036】
(第2実施形態)
つぎに、図7に基づき第2実施形態の移動式クレーンRを説明する。
本実施形態は、図1に示す第1実施形態の移動式クレーンQに、張出しステーを追加したものである。左右の張出しステー41L,41Rは、それぞれの先端に滑車42,42を取付けている。
各張出しステー41L,41Rは、その基部が旋回台3に取付けられ、先端部の滑車42,42がウインチ14L,14Rよりも左右方向の遠い位置に存するようになっている。
なお、各滑車42は球面軸受等を用いて張出しステー41L,41Rに取付けて、伸縮ブーム5の起伏動作に伴って左右ロープ20L,20Rの張設角度が変動しても、それに追随するようにしておくことが好ましい。
【0037】
上記以外の構成は、第1実施形態と実質同一であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
また、張力制御装置は、図5あるいは図6に図示のものを用いることができる。
【0038】
本実施形態の移動式クレーンRでは、張出しステー41L,41Rによって左右のロープ20L,20Rがブーム基端部において左右に張り出しているので、左右のロープ20L,20Rの伸縮ブーム5の長軸線に対する交差角が大きくなる。このため各ロープ20L,20Rに作用する張力のうちブームの横たわみを防止する力が強くなるので、クレーン吊上能力を更に大きくすることができる。
【0039】
(他の実施形態)
つぎに、本発明の他の実施形態を説明する。
図5に示す張力制御装置では、たわみ検出器60が、縦たわみ検出器61と横たわみ検出器62とを有しているが、縦たわみ検出器61のみ、あるいは横たわみ検出器62のみで構成したものであってもよい。
【0040】
前記各実施形態では、多段式の伸縮ブーム5のみを図示して説明したが、この伸縮ブーム5のブームヘッド5Eに、継ぎ足し専用のジブを装着したクレーンにも、本発明を適用できる。
この場合でも、係止フック15は伸縮ブーム5の先端部、すなわち副ブーム5Dの先端部やブームヘッド5Eに取付けられる。
【0041】
なお、継ぎ足し専用のジブにも、油圧シリンダを用いた伸縮式のものや、ラチス式ジブを連結して長さを可変とするものが含まれる。
また、伸縮ブーム5自体も、油圧シリンダを用いた自動伸縮式の外、ラチス構造のブームを多段に連結する非自動伸縮式のものであってもよい。特許請求の範囲にいう「主ブームから先端に延びた位置に配置される副ブーム」の意味は、自動伸縮式の外、非自動で連結されるものも含む意味である。
【0042】
前記各実施形態は、走行車体1としてトラックシャーシを用いたトラッククレーンであり、クレーン運転室(図示していないが旋回台に搭載される)と走行用運転室が別々に設けられているが、同一走行車体上にクレーン操縦と走行運転を兼ねて行う一個の運転室を備えたホイルークレーンにも、本発明は適用できる。なお、これらは装輪式の移動クレーンである。
装輪式とは異なる型式のクローラ式走行車体を用いたクレーンは、クローラクレーンと云われるが、このクローラクレーンの伸縮ブームにも、本発明の張力制御装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 走行車体
5 伸縮ブーム
14L 左ウインチ
14R 右ウインチ
20 緊張ロープ
20L 左ロープ
20R 右ロープ
50 コントローラ
60 たわみ検出器
65 ブーム長検出器
66 起伏角検出値
67 ロープ張力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体と、該走行車体に旋回自在に搭載した旋回台と、該旋回台に起伏自在に取付けた伸縮ブームとを備え、
該伸縮ブームが、基端側の主ブームと、該主ブームから先端に伸びた位置に配置される副ブームからなる移動式クレーンであって、
前記旋回台に搭載した左ウインチと右ウインチからなる緊張ウインチと、
前記緊張ウインチと前記伸縮ブームの先端部との間に張設された緊張ロープとを備えており、
前記緊張ロープは、前記左ウインチから繰り出された左ロープと、前記右ウインチから繰り出された右ロープとからなり、
前記左右のウインチによる前記左右のロープの張力を制御するための張力制御装置を有する
ことを特徴とする移動式クレーン。
【請求項2】
前記張力制御装置が、
前記伸縮ブームの縦たわみ量及び/又は横たわみ量を検出するたわみ検出器と、
前記左右のウインチを駆動する左右の駆動部と、
前記たわみ検出器が検出したたわみ量を入力し、前記たわみ量を許容値以下に補正するように前記左右のウインチの駆動部に制御信号を送る張力制御手段を有するコントローラとからなる
ことを特徴とする請求項1記載の移動式クレーン。
【請求項3】
前記張力制御装置が、
前記左ロープに作用する張力を検出する左ロープ張力検出器および前記右ロープに作用する張力を検出する右ロープ張力検出器からなるロープ張力検出器と、
前記左ロープの張力と前記右ロープの張力を入力し、前記左ロープ張力と前記右ロープ張力の和を演算して、その演算値が許容値以上のとき前記左右のウインチの駆動部に巻取り方向の制御信号を送る縦張力制御手段を有するコントローラとからなる
ことを特徴とする請求項1記載の移動式クレーン。
【請求項4】
前記張力制御装置が、
前記左ロープに作用する張力を検出する左ロープ張力検出器および前記右ロープに作用する張力を検出する右ロープ張力検出器からなるロープ張力検出器と、
前記左ロープの張力と前記右ロープの張力を入力し、前記左ロープ張力と前記右ロープ張力の差を演算して、その演算値が許容値以上のときロープ張力が高い方のウインチの駆動部に巻取り方向の制御信号を送る横張力制御手段を有するコントローラとからなる
ことを特徴とする請求項1記載の移動式クレーン。
【請求項5】
請求項3または4の張力制御装置において、吊荷の荷重を検出する荷重検出器を設けており、
前記コントローラは、前記荷重検出器からの吊荷荷重に基づいて吊荷の地切りか否かを判断すると共に、地切り直後において前記左ロープ張力と前記右ロープ張力の差が許容値以下にならなかった場合は張力制御を終了させる制御終了手段を有する
ことを特徴とする請求項3または4記載の移動式クレーン。
【請求項6】
前記旋回台に左右の張出しステーが設けられ、
前記各左右の張出しステーの先端部に滑車が取付けられており、
前記左右のウインチから繰り出された左右のロープが、前記張出しステーの滑車を経てブーム先端部との間に張設されている
ことを特徴とする請求項1記載の移動式クレーン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−41119(P2012−41119A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182814(P2010−182814)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】