説明

移動物体検出装置

【課題】簡単な構造で小型化が可能であり、かつ見通し範囲外でも検出可能な移動物体検出装置を提供すること。
【解決手段】移動物体検出装置は、発振回路10、送信アンテナ11、受信アンテナ13、アンプ14、検波回路12、15、16、A/D変換器19、マイクロコンピュータ20を備える。マイクロコンピュータ20は、信号を送信して受信信号値を読み込み、受信信号値が所定のレベル範囲外になった場合に移動物体有りと判定し、表示装置21に表示する。小型化が可能で安価に製作できる。また、マイクロ波や赤外線を使用した装置とは異なり、壁や樹木などの障害物がある見通し範囲外でも移動物体を検出可能であり、検出範囲、検出角度が広い。更に、検出用の信号を使用して情報を伝送するので検出結果を容易に伝送できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動物体検出装置に関するものであり、特に簡単な構造で小型化が可能であり、かつ見通し範囲外でも検出可能な移動物体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人などの移動物体検出装置としてマイクロ波を使用した装置が提案されていた。例えば下記特許文献1には、マイクロ波を使用したドップラーセンサから出力される定在波出力の変動等によって人体を検出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−277558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したような従来の人などの移動物体検出装置においては、マイクロ波を使用するために、アンテナや送信、受信装置が大きくなり、かつ高価であるという問題点があった。また、マイクロ波は指向性が強く、検出範囲が狭い上に、障害物があると検出できないという問題点もあった。
【0004】
本発明の目的は、前記のような従来技術の問題点を解決し、特に簡単な構造で小型化が可能であり、かつ見通し範囲外でも検出可能な移動物体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の移動物体検出装置は、高周波信号生成手段と、高周波信号を放射する送信アンテナ手段と、高周波信号を受信する受信アンテナ手段と、受信信号を増幅するアンプ手段と、前記アンプ手段の出力信号を検波する検波手段と、前記検波手段の出力信号が所定のレベル範囲外になった場合に移動物体有りと判定する判定手段と、判定手段の出力を表示する表示手段とを備えたことを主要な特徴とする。
【0006】
また、前記した移動物体検出装置において、前記検波手段は直交検波回路からなり、前記判定手段は、前記直交検波手段の2つの出力信号をそれぞれA/D変換するA/D変換手段と、前記A/D変換手段の出力データを読み込み、過去に読み込んだデータの平均値と比較することによって移動物体の有無を判定するコンピュータ手段とを備えた点にも特徴がある。
【0007】
また、前記した移動物体検出装置において、更に、検波信号から変調信号を検出し、復調する復調手段を備えた点にも特徴がある。また、前記した移動物体検出装置において、更にハイブリッド回路を備え、前記高周波信号を放射する送信アンテナ手段と高周波信号を受信する受信アンテナ手段とを1つのアンテナで兼用した点にも特徴がある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の移動物体検出装置は、小型化が可能で安価に製作できるという効果がある。また、マイクロ波や赤外線を使用した装置とは異なり、壁や樹木などの障害物がある見通し範囲外でも移動物体を検出可能であり、検出範囲、検出角度が広いという効果もある。更に、検出用の信号を使用して情報を伝送するので、ハードウェアを増加させずに検出結果を容易に伝送可能であるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して本発明の移動物体検出装置について説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の移動物体検出装置の実施例1の構成を示すブロック図である。例えば水晶振動子を使用し、マイクロコンピュータ20によってオン/オフ制御される発振回路10は、例えばHF帯、VHF帯あるいはUHF帯のキャリヤ信号を発生する。
【0011】
発生したキャリヤ信号は送信アンテナ11から放射されると共に、90°移相器12にも入力される。なお、周波数は用途等によって実験に基づき決定すればよいが、他の通信等に影響なく無許可で使用できる周波数および電力を選択してもよい。
【0012】
送信されたキャリヤ信号は、受信アンテナ13に直接到達する他、人25その他の移動物体あるいは固定物体で反射あるいは吸収され、反射波が受信アンテナ13に到達する。また、直接波を人25その他の移動物体が遮った場合には、直接波が他の方向へ反射したり、吸収されて減衰する。
【0013】
受信回路はダイレクトコンバージョン(ホモダイン)受信機を構成している。受信アンテナ13によって受信された信号はアンプ14によって増幅され、2個のバランスドデモジュレータ等の復調器15、16に入力される。2個の復調器15、16には90°位相差がある90°移相器12の2つの出力がそれぞれ入力されており、直交検波回路が構成されている。
【0014】
2個の復調器15、16の出力はそれぞれローパスフィルタ(LPF)17、18を介してA/D変換器19に入力され、それぞれA/D変換されてマイクロコンピュータ20に出力される。LPF17、18のカットオフ周波数は子機からの情報を受信する構成の場合には数百Hzから十数kHzとするが、単独で使用する場合など、子機からの情報を受信しない構成の場合には、被検出物体の移動する速度にもよるが、数Hzから数十Hz程度とする。
【0015】
マイクロコンピュータ20は、例えばCPU、ROM、RAM、I/Oポート等を内蔵した公知の1チップコンピュータであり、後述する検出処理を実行する。マイクロコンピュータ20のI/Oポートには、発振回路10、A/D変換器19の他、例えば液晶パネル、LEDや電子ブザーを使用した表示装置21、各種の設定を行うためのDIPスイッチ22も接続されている。電源は図示していないが、商用電源、乾電池、太陽電池と充電池の組み合わせ、燃料電池などを採用可能である。
【0016】
図7は、本発明による検出処理の内容を示すフローチャートである。この処理はマイクロコンピュータ20によって実行される。S10においては、例えばDIPスイッチ22の状態を読み込むことにより、表示のみの親機か否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS11に移行するが、肯定の場合にはS22に移行する。S11においては、発振回路10を起動する。S12においては、A/D変換器19からLPF17、18の出力信号がA/D変換された値をそれぞれ読み込む。
【0017】
S13においては、所定数の読み込みが完了したか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS14に移行するが、肯定の場合にはS15に移行する。S14においては、読み込み周期が経過するまで待ち、S12に移行する。
S15においては、例えば読み込んだデータ群を含む直近の所定数のデータに基づいて2つの信号値のそれぞれについて平均値を算出し、平均値を更新して、保存する。
【0018】
S16においては、今回読み込んだ信号値データ群が異常か否かを判定する。即ち、例えば2つの信号のいずれかについて、今回読み込んだデータ群の中の所定数のデータが[平均値±閾値]の範囲を超えた場合には異常と判定する。S17においては、異常か否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS22に移行するが、肯定の場合にはS18に移行する。S18においては、表示装置が有るか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS20に移行するが、肯定の場合にはS19に移行する。S19においては、表示装置に異常を表示する。なお、表示には音も含む。
【0019】
S20以降の処理は、例えば1台あるいは複数台の子機で検出した異常(移動物体検出)を親機に伝送して表示するようなシステムを構成した場合の処理であり、各移動物体検出装置のDIPスイッチ22には、自機が子機か、親機か、表示のみかなどの情報が設定されているものとする。なお子機であり、かつ親機である場合もある。S20においては、例えばDIPスイッチ22の状態を読み込むことにより、自機が子機か否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS22に移行するが、肯定の場合にはS21に移行する。
【0020】
S21においては、親機へ異常を送信する。送信方法は、例えば発振器10を所定のタイミングでオンオフ制御するASK(振幅シフトキーイング)変調によって調歩同期信号やモールス信号等により、異常信号を送信する。なお送信情報には少なくとも自機のID番号を含める。送信時間は検出周期より短い時間とし、その間に所定の間隔あるいはランダムな間隔で複数回送信する。なお自機が親機でもある場合には送信時間は例えば検出周期の半分以下とする。
【0021】
本発明においては、移動物体検出用に例えばHF帯、VHF帯あるいはUHF帯のキャリヤ信号を使用することにより、このキャリヤ信号を異常信号の伝送にも使用することが可能となり、回路規模の削減が可能となる。
【0022】
S22においては、親機か否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS10に移行するが、肯定の場合にはS23に移行する。S23においては、子機から異常を受信する。S24においては、受信した異常情報を子機のID情報と共に表示する。S25においては、検出周期が経過したか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS23に移行するが、肯定の場合にはS10に移行する。
【0023】
図6は、本発明の移動物体検出装置において使用するアンテナの例を示す説明図である。図6(a)は送信アンテナ11および受信アンテナ13として1/4波長ホイップアンテナを使用した例である。送信アンテナ11と受信アンテナ13とは所定の距離だけ離して設置し、例えば送信アンテナ11と検出装置50の間は同軸ケーブル51等によって接続する。2つのアンテナ間を移動物体が通過するように配置してもよい。なお、アンテナとしてはこの他にダブレットアンテナ、コリニアアンテナ、ループアンテナ、八木アンテナ、携帯電話機において使用されているF型アンテナなど公知の任意のアンテナを使用可能である。
【0024】
図6(b)は送信アンテナ(60、61)および受信アンテナ(62、63)として1/2波長ダブレットアンテナを使用した例である。この例においては、送信アンテナ(60、61)および受信アンテナ(62、63)が同一平面内において90度角度差を持って配置されている。
【0025】
ダブレットアンテナの指向性(利得)はダブレットアンテナのエレメントと直角な方向においては0となるので、送信アンテナから送信された信号が直接受信アンテナに受信されることはなく、物体等に当たって反射してきた信号のみが受信される。但し反射波の偏波面が元の信号から回転している必要がある。
【実施例2】
【0026】
図2は、本発明の移動物体検出装置の実施例2の構成を示すブロック図である。この実施例は第1実施例の回路に加えてハイブリッド回路30を備え、送信アンテナと受信アンテナとを1つのアンテナ31で兼用したものである。
【0027】
図5は、実施例2において使用するハイブリッド回路30の構成例を示す回路図である。このハイブリッド回路は公知のクワッドレチャ・ハイブリッド回路と呼ばれる回路である。発振回路10から出力される高周波信号電力はアンテナ31および抵抗32に分配され、アンテナ31から放射されるが、受信アンプ14には分配されない。また、アンテナ31において受信された信号電力は、発振回路10および受信アンプ14に分配される。従って、受信アンプ14には受信信号のみが入力されることになる。
【0028】
その他の構成および動作は実施例1と同一である。実施例2の構成では、アンテナが1つで済み、検出装置の設置スペースが少なくて済む。また、直接波は受信されずに反射波のみが受信されるので移動物体の検出が容易となる。但し、アンテナ31とのインピーダンスマッチングを正確に取り、アンテナ31からの反射波を極力少なくすることが好ましい。なお、実施例2においては、公知の任意の形式のアンテナを使用可能である。
【実施例3】
【0029】
図3は、本発明の移動物体検出装置の実施例3の構成を示すブロック図である。実施例1においては、発振回路10をオン/オフ制御することによりASK変調する例を開示したが、更に、変調回路35を設けることにより、任意の変調方式で変調を行うことが可能となる。例えば変調回路として振幅変調回路を採用することによってAM変調、位相変調回路を設けることによりPSK変調、双方を備えることによりAPSK変調などを行うことができる。なお、変調方式としては、ダイレクトコンバージョン方式で受信、復調が可能なものを採用する。
【実施例4】
【0030】
図4は、本発明の移動物体検出装置の実施例4の構成を示すブロック図である。実施例4は、移動物体を検出し、検出情報を親機に送信する1つあるいは複数の子機45と、子機からの情報を受信して表示するのみの親機からなるシステムにおける親機の例である。子機45としては図1あるいは図2に開示した移動物体検出装置を使用する。
【0031】
親機は、送信アンテナは不要であり、受信機能および表示機能のみを備えているが、回路構成および動作は図1に示した実施例1とほぼ同様である。但し、マイクロコンピュータ20は例えばDIPスイッチ22の設定状態に基づき、移動物体の検出処理は行わず、受信信号の復調および表示のみを行う。
【0032】
なお、親機として図1〜図3のいずれかの移動物体検出装置を使用し、親機から子機へポーリング指示等の信号を送信するようにしてもよい。この場合には子機側にも信号の受信処理や送信タイミングの制御等の処理が必要になるが、子機における移動物体検出処理や親機への送信タイミング等を全て親機から制御可能となるので、子機から親機への情報の伝達がより確実に実行できる。
【0033】
以上実施例を説明したが、本発明には以下のような変形例も考えられる。実施例においては、受信機の方式としてダイレクトコンバージョン方式を採用した例を開示したが、例えばヘテロダイン方式を採用してもよく、また復調回路も採用する変調方式と対応して任意に変更可能である。
【0034】
実施例2の方式や図6(b)のアンテナを使用する場合など、反射波の変化を検出する場合には移動物体が通過する領域のアンテナと反対側に電磁波の反射あるいは吸収装置を設置してもよい。電磁波の反射装置としては、検出に使用する電波の周波数の1/2波長よりも少し長い金属棒を用いることができる。
【0035】
移動物体が通過する領域が広い場合には、その両端にアンテナを設置することが困難である。そこで、信号を送信するのみの子機を設置して子機から間欠的に信号を送信し、領域の反対側に設置された親機で受信信号の変化を検出するようにしてもよい。
【0036】
信号の周波数が低ければ復調以降の処理を全てデジタル処理することも可能である。この場合にはマイクロコンピュータ20として処理能力の高いものを使用し、アンプ14の出力をD/A変換器に入力し、マイクロコンピュータ20が復調処理を行うようにする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の移動物体検出装置の実施例1の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の移動物体検出装置の実施例2の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の移動物体検出装置の実施例3の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の移動物体検出装置の実施例4の構成を示すブロック図である。
【図5】実施例2において使用するハイブリッド回路30の構成例を示す回路図である。
【図6】本発明の移動物体検出装置において使用するアンテナの例を示す説明図である。
【図7】本発明による検出処理の内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
10 発振回路
11 送信アンテナ
12 90°移相器
13 受信アンテナ
14 アンプ
15、16 復調器
17、18 LPF
19 A/D変換器
20 マイクロコンピュータ
21 表示装置
22 DIPスイッチ
25 人

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号生成手段と、
高周波信号を放射する送信アンテナ手段と、
高周波信号を受信する受信アンテナ手段と、
受信信号を増幅するアンプ手段と、
前記アンプ手段の出力信号を検波する検波手段と、
前記検波手段の出力信号が所定のレベル範囲外になった場合に移動物体有りと判定する判定手段と、
判定手段の出力を表示する表示手段と
を備えたことを特徴とする移動物体検出装置。
【請求項2】
前記検波手段は直交検波回路からなり、
前記判定手段は、前記直交検波手段の2つの出力信号をそれぞれA/D変換するA/D変換手段と、
前記A/D変換手段の出力データを読み込み、過去に読み込んだデータの平均値と比較することによって移動物体の有無を判定するコンピュータ手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の移動物体検出装置。
【請求項3】
移動物体検出結果情報に基づき、前記高周波信号を変調する変調手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の移動物体検出装置。
【請求項4】
更に、検波信号から変調信号を検出し、復調する復調手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の移動物体検出装置。
【請求項5】
更にハイブリッド回路を備え、前記高周波信号を放射する送信アンテナ手段と高周波信号を受信する受信アンテナ手段とを1つのアンテナで兼用したことを特徴とする請求項1に記載の移動物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−275629(P2006−275629A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92367(P2005−92367)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】