説明

移動状態判別装置、移動状態判別方法およびプログラム

【課題】 利用者の移動状態の判別、特に、レールに沿って走る乗物で移動している状態と、道路上を走る乗物で移動している状態との判別を行うことのできる移動状態判別装置、移動状態判別方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】 加速度センサの出力から進行方向に対して横方向の成分で且つ所定の周波数成分(1〜3Hz)の加速度を抽出し、この成分の大きさが第2閾値より大きくなければレールに沿って走る乗物により移動している状態と判定し、第2閾値より大きければ道路上を走る乗物により移動している状態と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、利用者の移動状態を判別する移動状態判別装置、移動状態判別方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体の現在位置や移動経路の計測を行う装置がある。また、特許文献1には、このような装置において、加速度センサなどの各種センサを利用して移動体の移動状態や移動手段、例えば、歩行、走行、自転車、乗用車、バス、電車を特定するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−048589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
移動経路を計測する装置においては、電車に乗っている場合と、自動車に乗っている場合とを判別できると非常に有用なことがある。例えば、後者では比較的自由な経路で移動が行われるのに対して、前者では予め定められた線路に沿って移動が行われる。それゆえ、前者と後者とを判別できれば、それに応じて移動経路の特定方法を変更して、前者の場合に線路を頼りに移動経路を特定することができるという利点が得られる。また、移動経路とともにその移動に使用した乗物についての記録も行ったり、或いは、移動経路とともに使用した乗物を区別して表示出力したりする場合にも有用である。
【0005】
また、利用者の歩行や走行の状態を、加速度センサ等を使用して検出する装置では、装置がポケットに収容されるなど胴体に装着または保持された状態と、手に持たれている状態とで、状態検出の正確さが大きく異なるという実情がある。胴体に装着または保持されていれば比較的正確に動作状態の検出が可能である一方、手に持たれていると動作状態の正確な検出が難しい。
【0006】
この発明の目的は、利用者の移動状態の判別、特に、レールに沿って走る乗物で移動している状態と、道路上を走る乗物で移動している状態との判別を行うことのできる移動状態判別装置、移動状態判別方法およびプログラムを提供することにある。
【0007】
また、装置が胴体に装着または保持された状態と、手に持たれた状態など異常な状態とを判別できる移動状態判別装置、移動状態判別方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
利用者の移動状態を判別する移動状態判別装置であって、
加速度を検出する加速度センサと、
この加速度センサの出力から進行方向に対して横方向の成分で且つ所定の周波数成分の加速度を抽出する特定加速度抽出手段と、
前記特定加速度抽出手段により抽出された加速度の大きさに基づいてレールに沿って走る乗物により移動している状態か、道路上を走る乗物により移動している状態かを判別する状態判別手段と、
を備えていることを特徴としている。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の移動状態判別装置において、
前記加速度センサの出力のうち常に重力加速度が付加されている方向を垂直方向とし、発進と停止を表わす加速度の検出によりこの加速度方向を進行方向とし、前記垂直方向と前記進行方向とに直交する方向を前記横方向として設定する方向設定手段を備え、
前記特定加速度抽出手段は、
前記方向設定手段の設定に基づいて前記横方向の成分の加速度の抽出を行うことを特徴としている。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の移動状態判別装置において、
前記加速度センサの出力のうち垂直方向成分で低周波成分の加速度の大きさと第1閾値とを比較した結果に基づいて移動中か停止中かを判別する移動判別手段を備え、
前記状態判別手段は、
前記移動判別手段により移動中と判別された際に、前記特定加速度抽出手段により抽出された加速度の大きさと第2閾値とを比較して、この比較結果に基づいて前記状態の判別を行うことを特徴としている。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の移動状態判別装置において、
前記所定の周波数成分は0.5Hz〜10Hzの範囲に含まれる周波数の成分であることを特徴としている。
【0012】
請求項5記載の発明は、利用者の移動状態を判別する移動状態判別装置であって、
加速度を検出する加速度センサと、
この加速度センサの出力のうち垂直方向成分の加速度の変動周期と水平方向成分の加速度の変動周期とを比較する周期比較手段と、
この周期比較手段による比較の結果に基づき、胴体に装着または保持されて前記利用者が歩き又は走りの状態にあるか、手に持たれて前記利用者が歩き又は走りの状態にあるかを判別する状態判別手段と、
を備えていることを特徴としている。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の移動状態判別装置において、
前記周期比較手段は、
前記垂直方向成分の加速度の変動周期と、前記水平方向成分として進行方向成分の加速度の変動周期とを比較する
ことを特徴としている。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項5記載の移動状態判別装置において、
前記加速度センサの出力に基づき垂直方向成分の加速度に重力加速度を所定量超える大きさ以上の加速度が含まれているか判別する加速度判別手段を備え、
前記周期比較手段は、前記加速度判別手段により重力加速度を所定量超える大きさ以上の加速度が含まれていると判別された場合に、前記変動周期の比較を行う
ことを特徴としている。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項6記載の移動状態判別装置において、
前記加速度センサの出力の変化パターンに基づいて進行方向を設定する進行方向設定手段と、
を備え、
前記周期比較手段は、
前記進行方向設定手段の進行方向の設定に基づき前記進行方向成分の加速度を抽出して前記変動周期の比較を行うことを特徴としている。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項5記載の移動状態判別装置において、
前記状態判別手段により前記利用者が歩き又は走りの状態にあると判別された場合にどちらの状態か判別する歩行走行判別手段を備え、
前記歩行走行判別手段は、
前記加速度の変動周期が、歩行を示す第1範囲にあるか、走行を示す第2範囲にあるか、前記第1範囲と前記第2範囲との中間範囲にあるか判別する周期判別手段と、
前記加速度の変動周期が前記中間範囲にある場合に前記垂直方向成分の加速度のピークが歩行と走行とを識別する閾値を超えているか比較する加速度ピーク比較手段と、
を有し、
前記周期判別手段により前記加速度の変動周期が第1範囲にあれば歩きの状態、第2範囲にあれば走りの状態と判別し、さらに、中間範囲にあれば前記加速度ピーク比較手段の比較結果に基づき歩きの状態または走りの状態を判別する
ことを特徴としている。
【0017】
請求項10記載の発明は、
加速度センサを用いて利用者の移動状態を判別する移動状態判別方法であって、
前記加速度センサの出力から進行方向に対して横方向の成分で且つ所定の周波数成分の加速度を抽出する特定加速度抽出ステップと、
前記特定加速度抽出ステップにより抽出された加速度の大きさに基づいてレールに沿って走る乗物により移動している状態か、道路上を走る乗物により移動している状態かを判別する状態判別ステップと、
を含むことを特徴としている。
【0018】
請求項11記載の発明は、
加速度センサを用いて利用者の移動状態を判別する移動状態判別方法であって、
前記加速度センサの出力のうち垂直方向成分の加速度の変動周期と水平方向成分の加速度の変動周期とを比較する周期比較ステップと、
この周期比較ステップによる比較の結果、両方の変動周期に所定量以上の差がない場合に、前記利用者の胴体に装着または保持されて前記利用者が歩き又は走りの状態にあり、所定量以上の差がある場合に異常な状態にあると判別する状態判別ステップと、
を含むことを特徴としている。
【0019】
請求項12記載の発明は、
加速度センサの出力が供給されるコンピュータに利用者の移動状態を判別させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記加速度センサの出力から進行方向に対して横方向の成分で且つ所定の周波数成分の加速度を抽出する特定加速度抽出機能と、
前記特定加速度抽出機能により抽出された加速度の大きさに基づいてレールに沿って走る乗物により移動している状態か、道路上を走る乗物により移動している状態かを判別する状態判別機能と、
を実現させるプログラムである。
【0020】
請求項13記載の発明は、
加速度センサの出力が供給されるコンピュータに利用者の移動状態を判別させるためのプログラムであって、
前記加速度センサの出力のうち垂直方向成分の加速度の変動周期と水平方向成分の加速度の変動周期とを比較する周期比較機能と、
この周期比較機能による比較の結果、両方の変動周期に所定量以上の差がない場合に、前記利用者の胴体に装着または保持されて前記利用者が歩き又は走りの状態にあり、所定量以上の差がある場合に異常な状態にあると判別する状態判別機能と、
を実現させるプログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明(請求項1〜4,10,11に係る発明)に従うと、利用者の移動状態の判別、特に、レールに沿って走る乗物で移動している状態と、道路上を走る乗物で移動している状態とを正確に判別することができる。
【0022】
また、本発明(請求項5〜9,12,13に係る発明)に従うと、胴体に装着または保持されて利用者が歩行又は走行の状態にあるか、異常な状態(例えば、装置が手に持たれて利用者が歩行又は走行の状態)にあるかを容易に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態のナビゲーション装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】胴体にナビゲーション装置が装着された状態で利用者が歩行した場合の加速度変化の概略を表した波形図である。
【図3】手にナビゲーション装置が持たれた状態で利用者が歩行した場合の加速度の変化の概略を表した波形図である。
【図4】歩行時と走行時における加速度の変動周波数を表したグラフである。
【図5】歩行時と走行時における加速度の変化を表した波形図である。
【図6】自動車での移動中における加速度の低周波成分の大きさの概略を表した波形図である。
【図7】鉄道での移動中における加速度の低周波成分の大きさの概略を表した波形図である。
【図8】自動車での移動中における垂直方向の加速度の低周波成分の大きさの概略を表した波形図である。
【図9】鉄道での移動中における垂直方向の加速度の低周波成分の大きさの概略を表した波形図である。
【図10】CPUにより実行される測位処理の制御手順を示すフローチャートである。
【図11】図10のステップS1のユーザ状態判定処理の詳細な制御手順を示すフローチャートの第1部である。
【図12】同、ユーザ状態判定処理のフローチャートの第2部である。
【図13】移動履歴データ記憶部に記憶される1回の測位分の移動履歴データを示すデータチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態の移動状態判別装置としての機能を有するナビゲーション装置の全体構成を示すブロック図である。
【0026】
この実施形態のナビゲーション装置1は、利用者が身に付けた状態で足での移動ならびに乗物による移動がなされた場合に、GPS(全地球測位システム)による測位や自立航法センサによる測位を行って地図表示上に移動軌跡を表示していく装置である。また、このナビゲーション装置1は、利用者の移動状態(歩行、走行、手に持たれるなど歩行走行の検出不可な状態、鉄道での移動、自動車での移動)の判別を行う移動状態判別装置としても機能するものである。
【0027】
このナビゲーション装置1は、図1に示すように、装置の全体的な制御を行うCPU(中央演算処理装置)10と、CPU10に作業用のメモリ空間を提供するRAM(Random Access Memory)11と、制御プログラムや制御データが格納されたROM(Read Only Memory)12と、GPS衛星の送信電波を受信するGPS受信アンテナ13と、GPS衛星の送信信号を捕捉してデコードするGPS受信部14と、3軸方向の地磁気の大きさをそれぞれ検出する3軸地磁気センサ15と、3軸方向の加速度の大きさをそれぞれ検出する3軸加速度センサ16と、画像の表示が可能な表示部18と、各部へ動作電圧を供給する電源19と、3軸地磁気センサ15および3軸加速度センサ16の出力データに基づき自立航法による測位演算を行う自立航法制御処理部20と、GPSによる測位が行われた際にそれ以前の自立航法による測位結果を補正する演算処理を行う自立航法データ補正処理部21と、不揮発性メモリからなりGPSや自立航法による測位の結果を記憶する移動履歴データ記憶部22と、地図を画像表示するためのデータが格納された地図データベース23等を備えている。
【0028】
3軸加速度センサ16は、ナビゲーション装置1の筐体内に固定されている。それゆえ、3軸加速度センサ16の3軸の各方向と、垂直方向、進行方向、横方向との関係は、ナビゲーション装置1の向きに応じて変化する。ただし、平均して重力加速度の大きさが得られる方向を検出することで、3軸加速度センサ16の何れの方向が垂直方向か推定することが可能になっている。ここで、進行方向とは、装置の進行方向のことを言い、路面上を歩き又は走りにより進行しているときにはその歩行又は走行方向が進行方向となり、乗物により進んでいるときには乗物の移動方向が装置の進行方向となる。
【0029】
歩行・走行(足で走る移動)の際には、3軸加速度センサ16の出力に体の上下動を表わす変化パターンが現れ、停止状態や乗物で移動している際には、この体の上下動の変化パターンが現れない。従って、これらの判別によって利用者が歩行・走行の状態か、それ以外の状態かを推定することができる。
【0030】
また、乗物で移動しているときには、乗物の発進と停止の際に現れる一定の時間幅で一定量以上の加速度を検出することで進行方向を推定することができ、また、この進行方向の推定結果と上記の垂直方向の推定結果とから横方向を推定することが可能になっている。
【0031】
3軸地磁気センサ15は、ナビゲーション装置1の筐体内に固定されている。そのため、3軸地磁気センサ15の出力に基づいて、ナビゲーション装置1の何れの方向が磁北の方向であるか特定可能になっている。また、歩行および走行(足で走る移動)の際には、3軸加速度センサ16の出力に、体の前傾と後傾および体の左右のローリング動作を表わす変化パターンが現れる。具体的には、前傾と後傾を表わす縦方向に大きな変化パターンと、ローリング動作を表わす横方向に小さな変化パターンとが重なって現れる。従って、この変化パターンと、上記3軸加速度センサ16の出力に基づく垂直方向の推定結果と3軸地磁気センサ15の磁北方向の推定結果と合わせることで、歩行時および走行時における進行方向と横方向とが推定可能になっている。
【0032】
自立航法制御処理部20は、CPU10の演算処理を補助するための演算回路であり、所定のサンプリング周期で3軸地磁気センサ15および3軸加速度センサ16の計測データをCPU10を介して入力し、利用者が歩行又は走行の状態にあるときに、上記の計測データからナビゲーション装置1の移動方向と移動量とを算出していく。
【0033】
詳細には、3軸加速度センサ16による上下方向の加速度変化の計測結果に基づいて利用者の歩数を計数し、これに予め設定されている歩行時又は歩行時の歩幅データを乗算することで、相対的な移動量を求める。また、3軸加速度センサ16による重力方向の推定結果と3軸地磁気センサ15による磁北方向の測定結果に基づいてナビゲーション装置1の向きを求め、このナビゲーション装置1の向きと3軸加速度センサ16の出力の変化パターンに基づく進行方向の推定結果とから利用者の移動方向(方位)を算出する。
【0034】
さらに、自立航法制御処理部20は、上記のように求められた移動量および移動方向からなるベクトルデータを、CPU10から供給される基準地点の位置データに積算していくことで、移動経路に沿った各地点の位置データを求める。これが自立航法による測位である。
【0035】
自立航法データ補正処理部21は、CPU10の演算処理を補助するための演算回路であり、誤差が累積されていく性質を有する自立航法による位置データに対して、GPSによる測位が行なわれた際に、その誤差補正の演算を行うものである。具体的には、GPSの測位によって正確な位置データが求められたら、先ず、このタイミングで自立航法により求められている位置データを、正確な位置データと合致するようにその値をシフトさせる。次いで、このタイミング以前に自立航法により求められている複数の位置データについて、先にシフトした位置データと不連続にならないように、且つ、先にGPSにより測位された基準地点の位置データについては誤差が無いものとしてずらされることがないように、各々のデータ値を連続的にシフトさせる。このような誤差補正により、GPSの測位地点で誤差がゼロになるようにその途中の位置データも連続的にシフトされるので、全体的に誤差の少ない位置データに補正されることになる。
【0036】
ROM12には、GPSによる測位、或いは自立航法による測位を選択的に且つ継続的に実行させて移動履歴を表わす複数の位置データを蓄積していく測位処理のプログラムや、測位処理の中で利用者の移動状態を判別するユーザ状態判定処理のプログラムが格納されている。これらのプログラムは、ROM12に格納するほか、例えば、データ読取装置を介してCPU10が読み取り可能な、光ディスク等の可搬型記憶媒体、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリに格納しておくことが可能である。また、このようなプログラムがキャリアウェーブ(搬送波)を媒体として通信回線を介してナビゲーション装置1にダウンロードされる形態を適用することもできる。
【0037】
次に、上記構成のナビゲーション装置1において実行される利用者の移動状態を判別するユーザ状態判定処理について説明する。
【0038】
図2には、利用者の胴体にナビゲーション装置1が装着または保持された状態で利用者が歩行した場合の加速度変化の概略を表わした波形図を、図3には、手にナビゲーション装置1が持たれた状態で利用者が歩行した場合の加速度の変化の概略を表わした波形図を、それぞれ示す。
【0039】
ユーザ状態判定処理においては、CPU10は、3軸加速度センサ16の計測データを解析することで、ナビゲーション装置1が胴体に装着または保持されて歩行又は走行の動作検出ができる状態か、手に持たれているなど歩行又は走行の動作検出ができない状態かの判別を行う。
【0040】
この判別は、3軸加速度センサ16の計測データのうち、垂直方向成分の変動周期と進行方向成分の変動周期とを比較することで行い、これらがほぼ一致していれば、胴体に正常に装着または保持されていると判別し、大きく異なれば、手に持たれている等の異常状態と判別する。垂直方向と進行方向の求め方は、3軸地磁気センサ15と3軸加速度センサ16の説明の箇所で述べた方法による。変動周期は、例えば、各成分ごとに加速度のピークを検出して隣接するピーク間の時間間隔を算出することで求める。
【0041】
図2に示すように、ナビゲーション装置1が胴体に装着または保持されている場合には、歩行又は走行の上下動に伴う加速度変化が垂直成分と進行方向成分とに同様に現れる。垂直方向成分の加速度変化は大きく、進行方向成分の加速度変化は比較的小さく異なるものの、変動周期はほぼ一致する。一方、図3に示すように、ナビゲーション装置1が手に持たれて歩行又は走行している場合には、片側の手の振りによる加速度変化が重畳するため、特に、進行方向の加速度から足の歩みに連動した加速度変化が消えてしまい、垂直方向成分の加速度の変動周期と進行方向成分の加速度の変動周期が大きく異なることになる。従って、上記の判別方法によって、これらの状態を判別することが可能となる。
【0042】
なお、ナビゲーション装置1が胴体に装着または保持されている場合には、進行方向に対して横方向の加速度にも左右の足が地面を踏む際の変動が現れる。一方、ナビゲーション装置1が手に持たれている場合には、左右の足が地面を踏む際の加速度が緩衝されて、横方向の加速度から歩行や走行の動作を表わす変動が消える。従って、上記の状態判別を、加速度の垂直方向成分の変動周期と、任意な1つの水平方向成分の変動周期とを比較することにより、同様に実現することも可能である。
【0043】
図4には、歩行時と走行時における加速度の変動周波数を表わしたグラフを、図5には、歩行時と走行時における加速度の変化を表わした波形図を、それぞれ示す。
【0044】
ユーザ状態判定処理においては、上記の判別処理でナビゲーション装置1が胴体に装着または保持されていると判定されたら、CPU10は、利用者が歩行状態にあるのか、走行(足で走る移動)状態にあるのか判別を行う。
【0045】
この判別は、3軸加速度センサ16の計測データから得られる垂直成分(水平成分でも良い)の変動周波数と、垂直方向成分の加速度のピーク値の大きさとに基づいて行う。そして、先ず、図4に示すように、上記変動周波数が歩きを表わす第1範囲(例えば2.3Hz以下)であれば歩行と判定し、上記変動周波数が走りを表わす第2範囲(例えば2.6Hz以上)であれば走行と判定する。この第1範囲と第2範囲は、人間の歩行と走行の動作に合わせて予め設定される。しかしながら、早歩き(足が両方とも地面を離れる期間がない)の状態とゆっくり走る(足が両方とも地面を離れる期間がある)状態とでは、上記の変動周波数が重なる範囲が生じる。この重なる範囲が第1範囲の上限値と第2範囲の下限値との間の範囲となる。
【0046】
それゆえ、上記の変動周波数が第1範囲にも第2範囲にも含まれない場合には、図5に示すように、垂直方向成分の加速度のピーク値と、歩行と走行とを区別する閾値(例えば2G:Gは重力加速度)とを比較して、ピーク値が閾値を下回っていれば歩行、超えていれば走行と判定する。
【0047】
なお、垂直方向成分の加速度のピーク値は、地面や靴の硬さ或いは歩き方や走り方によって、大きくなったり小さくなったりする。そのため、加速度のピーク値のみで歩行と走行の状態判別を行うと、比較的不正確な結果となることがある。しかし、この実施形態のように、先ず、加速度の変動周波数で歩行と走行の状態判別を行い、加速度の変動周波数だけで判別できない場合に加速度のピーク値を参照して状態判別を行うことで、比較的に正確な結果を得ることが可能となる。
【0048】
図6には、自動車での移動中における加速度の低周波成分の大きさの概略を表わした波形図を、図7には、鉄道での移動中における加速度の低周波成分の大きさの概略を表わした波形図を、それぞれ示す。
【0049】
ユーザ状態判定処理においては、3軸加速度センサ16の出力に利用者の歩行又は走行を表わす上下変動の加速度変化が現れていない場合に、さらに、乗物で移動している場合の判別を行う。具体的には、道路上を移動する自動車による移動状態と、レールに沿って移動する鉄道による移動状態との判別を行う。
【0050】
自動車と鉄道との判別は、3軸加速度センサ16の出力から進行方向に対して横方向成分で、且つ、低周波成分(例えば1Hz〜3Hz帯の変動成分)の加速度を抽出し、乗物が移動している際にこの成分の大きさが第2閾値(図6、図7を参照)を超えるか否か比較することで行う。そして、超えていれば自動車での移動、超えていなければ鉄道での移動と判別する。
【0051】
ここで、乗物で移動している際の進行方向の求め方は、3軸加速度センサ16の説明の箇所で述べた方法による。また、加速度の低周波成分の大きさは、一定期間の加速度データをフーリエ変換して所定の低周波数帯の信号成分のピークを求めたり、所定の低周波数帯の信号量を積分したりして抽出することができる。
【0052】
図6は、自動車が移動速度(太実線)を上げ下げして移動と停止とを繰り返した例を表わしている。図6に示すように、加速の開始時や加速状態から等速状態へ移行する際には、進行方向の加速度に低周波の変動(太破線)が大きく現れる。また、自動車のように道路上を移動する乗物では、移動時において、横方向の加速度の低周波成分(太一点鎖線)が大きくなる。すなわち、移動時において、ほぼ常時、横方向の振動が生じ、これが横方向の加速度の低周波成分として現れる。
【0053】
図7は、鉄道が移動速度(太実線)を上げ下げして移動と停止とを繰り返した例を表わしている。図7に示すように、加速の開始時や加速状態から等速状態へ移行する際には、自動車と同様に進行歩行の加速度に低周波の変動(太破線)が大きく現れる。また、鉄道のようにレールに沿って移動する乗物では、移動時において、横方向の加速度の低周波成分(太一点鎖線)が自動車のように大きくならない。すなわち、移動時においても、横方向の振動は大きくならず、横方向の加速度の低周波成分は小さいままとなる。
【0054】
従って、図6と図7に示すように、自動車の移動で現れる横方向の加速度の低周波成分の大きさと、鉄道の移動で現れる横方向の加速度の低周波成分の大きさとの間に、第2閾値を設定し、上述のように、乗物が移動している際に、横方向の加速度の低周波成分の大きさと第2閾値を比較することで、この比較結果により自動車による移動状態と、鉄道による移動状態とを判別することができる。
【0055】
ただし、上記の乗物の判別は、乗物が停止しているときには行えないので、次のようにして、乗物が移動している状態を検出しながら実行する。
【0056】
図8には、自動車での移動中における垂直方向の加速度の低周波成分の大きさの概略を表わした波形図を、図9には、鉄道での移動中における垂直方向の加速度の低周波成分の大きさの概略を表わした波形図を、それぞれ示す。
【0057】
乗物が移動している状態の検出は、3軸加速度センサ16の出力から垂直方向成分で、且つ、低周波成分(例えば1Hz〜3Hz帯の変動成分)を抽出し、この成分の大きさが第1閾値(図8、図9を参照)を超えるか否か比較することで行う。そして、超えていれば移動の状態、超えていなければ停止の状態と判別する。
【0058】
自動車の場合を示した図8と、鉄道の場合を示した図9とに示すように、両者とも、移動中の垂直方向の加速度の低周波成分(太一点鎖線)は大きくなり、停止中には小さくなる。すなわち、移動時においては、ほぼ常時、垂直方向の振動が生じ、これが垂直方向の加速度の低周波成分として現れる一方、停止時においてはこの振動がほぼ無くなる。
【0059】
従って、上記の方法により乗物が移動している状態を検出することができ、その際に上述した乗物種別の判別を行うことで道路上を移動する自動車等の乗物なのか、レールに沿って移動する鉄道等の乗物なのかが判別されるようになっている。
【0060】
次に、この実施形態のナビゲーション装置1の全体的な動作についてフローチャートに基づいて説明する。
【0061】
図10には、CPU10により実行される測位処理のフローチャートを示す。
【0062】
この測位処理は、利用者の操作等に基づき測位処理の開始要求がなされたことに基づき連続的に実行される処理である。この測位処理が開始されると、先ず、CPU10は、利用者の移動状態を判別するユーザ状態判定処理を行う(ステップS1)。ユーザ状態判定処理の説明は後述するが、この処理により、利用者の移動状態が歩行、走行、停止、その他(手に持たれた状態での歩行・走行など)、自動車による移動、電車による移動の何れなのか判定される。
【0063】
移動状態が判定されたら、この判定結果に基づく分岐処理を行い(ステップS2)、歩行・走行の判定結果であればステップS4にジャンプし、停止であればステップS3に、車・電車・その他であればステップS6に、それぞれ移行する。
【0064】
停止の判定でステップS3に移行したら、直前の測位の際に判定された移動状態を移動履歴データ記憶部22のデータから読み出して、再度、この直前の移動状態に基づく分岐処理を行う(ステップS3)。なお、直前の判定結果も停止状態であれば、停止状態以外の判定結果が見つかるまで順次過去に遡って停止以外の移動状態の判定結果を得て、それに基づく分岐処理を行う。そして、直前の移動状態が歩行・走行であればステップS4に移行し、自動車・電車・その他であればステップS6に移行する。
【0065】
歩行・走行の判定結果によりステップS4に移行した場合には、現在のタイミングが前回のGPSによる測位から30分以内か確認して、30分以内であれば自立航法による測位処理(ステップS5)を実行させる。一方、30分を超えていればGPSによる測位処理(ステップS6)を実行する。
【0066】
ステップS5の自立航法による測位処理では、これまでにサンプリングしてきた3軸地磁気センサ15と3軸加速度センサ16の計測データを、CPU10が自立航法制御処理部20へ送り、自立航法制御処理部20が計測データから進行方向(方位)と歩数とを求め、さらに、歩数と予め設定された歩幅データとを掛け合わせることで移動量を求め、続いて、直前の位置データに移動ベクトルを加算することで現在の位置データが算出され、これがCPU10へ返される。歩幅データは、歩行時の値と走行時の値と複数種類用意され、ユーザ状態判定処理で判定された移動状態に応じた歩幅データが使用される。
【0067】
一方、ステップS6のGPSによる測位処理では、GPS受信部14から供給されるGPS衛星の送信データや測位符号の受信タイミングに基づいて、CPU10が所定の測位演算を行うことで絶対位置を表わす位置データを算出する。
【0068】
自立航法またはGPSによる測位処理が行われたら、続いて、CPU10は、これらの位置データに付属データを付加して移動履歴データの1つとして移動履歴データ記憶部22へ書き込む(ステップS7)。
【0069】
図13には、移動履歴データ記憶部に記憶される1回の測位分の移動履歴データを表わしたデータチャートを示す。
【0070】
図13に示すように、測位されて求められた位置データ(緯度・経度)には、年月日データ、時刻データ、高度データ、GPSの測位である場合にその測位精度を表わす精度劣化係数PDOP(Position Dilution of Precision)およびHDOP(Horizontal Dilution of Precision)の値、GPSの測位結果に基づく補正の要否(自立航法による測位データかGPS単独の測位データか)を表わすデータ、ユーザ状態判定処理の判定結果を表わす状態判別データが付加されて、移動履歴データの1つとして移動履歴データ記憶部22へ書き込まれる。
【0071】
ステップS7で移動履歴データを書き込んだら、次に、直前の測位がGPSによる測位である場合に、移動履歴データの中に要補正の自立航法の位置データが有るか確認し、有れば自立航法データ補正処理部21に指令を出してこれらの位置データの補正を行わせる(ステップS8)。
【0072】
そして、利用者の操作等に基づき測位処理の終了要求がなされたか確認し(ステップS9)、終了要求がなされていれば測位処理を終了するが、終了要求がなければステップS1に戻って、ステップS1の処理から再び繰り返し実行する。
【0073】
図11と図12には、測位処理のステップS1で実行されるユーザ状態判定処理のフローチャートを示す。
【0074】
ユーザ状態判定処理に移行すると、先ず、CPU10は、3軸加速度センサ16と3軸地磁気センサ15の出力を、所定期間分、例えば40Hzのサンプリング周波数でサンプリングしてデジタルの計測データとして取り込む(ステップS11)。
【0075】
そして、この計測データに基づいてナビゲーション装置1の垂直方向、進行方向、横方向を求め、3軸加速度センサ16の計測データに対して座標変換を行って、加速度の垂直成分、進行方向成分、横方向成分を算出する(ステップS12:方向設定手段、進行方向設定手段)。垂直方向、進行方向、横方向の各方向の求め方は、3軸加速度センサ16と3軸地磁気センサ15の説明の箇所で述べた推定方法に基づいて行う。
【0076】
さらに、これらの計測データに対して高周波のノイズ成分を除去するフィルター処理を行い(ステップS13)、垂直成分の加速度のピーク間の測定により歩数周期(1歩ごとの周期)を算出する(ステップS14)。
【0077】
続いて、CPU10は、垂直成分の加速度のピーク値が1Gより少し大きな値“1G+α”以上であるか判別し(ステップS15:加速度判別手段を)、この値以上であれば歩行又は走行(足で走る移動)であるものとして次に進む一方、この値より小さければ歩行又は走行でないものとしてステップS31へ移行する。
【0078】
その結果、“1G+α”以上で次に進んだら、加速度の垂直成分の変動周期と進行方向の変動周期とを比較してほぼ一致しているか判別する(ステップS16:周期比較手段)。詳細には、ノイズ等による許容誤差を含めた範囲で一致しているか判別する。その結果、図3に示したように、各々の周期が不一致であれば、例えば手に持たれて歩行や走行がなされた状態など異常な状態(その他の状態)と判定する(ステップS17)。そして、このユーザ状態判定処理を終了する。
【0079】
一方、ステップS16の判別処理でほぼ一致と判定されて次に進んだら、先ず、CPU10は、図4を参照して説明したように、ステップS14で算出された歩数周期の周波数換算値が、第1範囲(例えば2.3Hz以下)であるか、第2範囲(例えば2.6Hz以上)であるか、その中間であるか判別する(ステップS18:周期判別手段)。そして、中間である場合には、さらに、図5を参照して説明したように、垂直成分の加速度ピークが所定の閾値(2G)以下か判別する(ステップS19:加速度ピーク比較手段)。
【0080】
そして、歩数周期の周波数換算値が2.3Hz以下であれば、利用者の移動状態が歩行と判定し(ステップS20)、2.6Hz以上であれば走行と判定し(ステップS21)、その中間であれば垂直成分の加速度ピークに基づき2G以下なら歩行と判定し(ステップS20)、2Gを超えていれば走行と判定する(ステップS21)。ステップS16の判別結果に基づくステップS17、S20,S21の判定処理によって状態判別手段が構成され、ステップS18〜S21の処理により歩行走行判別手段が構成される。そして、移動状態が判定されたら、このユーザ状態判定処理を終了する。
【0081】
一方、上述のステップS15の判別処理で、“1G+α”より小さいと判別されたら、停止、自動車での移動、鉄道での移動の何れかの判別を行うために、ステップS31(図12)へジャンプする。
【0082】
ジャンプしたら、先ず、CPU10は、ステップS11で取得した3軸加速度センサ16の所定時間分の計測データから垂直方向で且つ低周波(例えば1〜3Hz)の成分を抽出する(ステップS31)。また、同、計測データから横方向で且つ低周波(例えば1〜3Hz)の成分を抽出する(ステップS32:特定加速度抽出手段)。
【0083】
次に、CPU10は、抽出した垂直方向の低周波成分の加速度が、全期間において第1閾値(図8,図9を参照)以下になっているか判別する(ステップS33)。そして、全期間において第1閾値以下であれば停止状態(歩行や走行の中断、乗物が所定期間の停止中)であると判定する(ステップS37)。
【0084】
一方、第1閾値より大きい期間があれば、次に進んで、ステップS11で取得した所定時間分の計測データの中から進行方向成分の加速度で所定量の変化が生じている部分を検索する(ステップS34)。すなわち、これにより乗物の発進時や停止時のタイミングや加速状態から等速状態への移行タイミングを識別する。
【0085】
また、乗物の上記タイミングを検出したら、続いて、ステップS31で抽出された垂直方向の低周波成分の加速度のうち第1閾値以上となる部分を検索する(ステップS35:移動判別手段)。
【0086】
そして、上記のステップS34,S35の検索結果に基づいて、乗物が一定速度以上で移動している期間(乗物発進後の等速状態へ移行した後、停止加速の開始前までの期間で、垂直方向の低周波成分の加速度が第1閾値以上となる期間)の横方向の低周波成分の加速度と第2閾値(図6,図7)とを比較して、第2閾値以上か判別する(ステップS36)。
【0087】
ステップS36の判別結果、第2閾値以上であれば自動車での移動と判定し(ステップS38)、第2閾値より小さければ鉄道での移動と判定する(ステップS39)。上記のステップS36,S38,S39の処理により状態判別手段が構成される。そして、ステップS37〜S39の判定が行われたら、このユーザ状態判定処理を終了して、測位処理(図10)の次のステップへ移行する。
【0088】
このようなユーザ状態判定処理(図11,図12)により、3軸加速度センサ16の計測データに基づいて利用者が歩行、走行、その他(ナビゲーション装置1が手に持たれているなど)、停止、自動車での移動、鉄道での移動の各状態を比較的正確に判定されるようになっている。
【0089】
また、ユーザ状態判定処理を含んだ上述の測位処理(図10)により、各移動状態に応じて、測位方法の選択および測位パラメータの選択が行われて、適宜な移動履歴データを蓄積していくことが可能になっている。
【0090】
以上のように、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、加速度センサの出力のうち進行方向に対して横方向の加速度の低周波成分の大きさに基づいて乗物の判別を行うので、自動車のように道路上を自由に走る乗物と、鉄道のようにレールに沿って走る乗物とを正確に判別することが可能となる。
【0091】
また、上記の低周波成分として1Hz〜3Hzの周波数成分を抽出して乗物の判別に使用しているので、自動車と鉄道との判別を明確に行うことが可能である。なお、0.5Hz〜10Hz内の何れかの範囲の周波数成分を抽出して乗物の判別に使用した場合でも、自動車と鉄道との差異が現れることから、自動車と鉄道との判別を行うことが可能である。
【0092】
さらに、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、加速度センサの出力のうち垂直方向の加速度で低周波成分の大きさにより、乗物が移動中か停止中かを判別し、移動中のときに上記の乗物種別の判別を行っているので、停止中に誤った乗物種別の判別を行ってしまうことが回避されるようになっている。
【0093】
また、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、重力加速度の検出により垂直方向が設定され、加速度に歩行の変化が現れていない場合に、乗物の発進停止の加速度変化から進行方向と横方向とが設定されて、上述の各方向の成分が抽出されるようになっている。従って、携帯型で装置の向きが定まっていないナビゲーション装置1においても3軸加速度センサ16の出力から各方向成分を正確に抽出して、上述の乗物の判別に使用することができる。
【0094】
また、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、歩行・走行の際に、加速度の垂直方向成分の変動周期と水平方向成分の変動周期とを比較することで、胴体に装着または保持されて歩行又は走行が行われているのか、或いは、手に持たれて歩行又は走行が行われているのか判別できるようになっている。それにより、胴体に装着または保持された状態であれば歩行または走行による自立航法の測位を行い、手に持たれた状態であれば自立航法の測位をやめてGPSによる測位を行うなど、適宜な切り替えが可能になっている。
【0095】
また、この実施形態では、上記の水平方向成分の変動周期として、進行方向成分の変動周期を使用しているので、胴体に装着または保持された状態と手に持たれた状態との判別を明確に行えるようになっている。
【0096】
さらに、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、垂直方向の加速度ピークが歩行や走行を表わす“1G+α”以上であることを確認してから、上記の装着状態の判別を行っているので、例えば乗物での移動中に上記の装着状態の判別を行って誤った状態判定が行われてしまうことが回避されるようになっている。
【0097】
また、この実施形態では、3軸加速度センサ16による垂直方向の推定と、3軸加速度センサ16の出力の変化パターンに基づく進行方向および横方向の推定とに基づき、上記の加速度の進行方向成分の変動周期を求めているので、携帯型で装置の向きが定まっていないナビゲーション装置1においても3軸加速度センサ16の出力から各方向成分を正確に抽出して、上述の装着状態の判別に使用することができる。
【0098】
また、この実施形態では、ナビゲーション装置1が胴体に装着または保持されていると判別された場合に、加速度の変動周波数に基づき歩行か走行かの判別を行い、加速度の変動周波数が中間範囲にあるときだけ垂直方向の加速度のピークに基づき歩行か走行かの判別を行うようになっているので、比較的に正確な歩行と走行の判別が可能になっている。
【0099】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、利用者の状態判別の結果を、測位方法の選択のために利用する例を示したが、状態判別の結果は種々の目的に利用可能である。例えば、自動車での移動と鉄道での移動との判別結果に基づいて、その後に、何れの移動経路を何れの移動手段で移動したか確認できるようにしたり、移動経路の表示で自動車の移動と鉄道の移動とを区別して表示するのに利用したりもできる。また、手に持たれた状態でも、別の方式により自立航法の測位を行うことが可能であれば、胴体に装着または保持されていると判別された場合と、手に持たれていると判別された場合とで、各々に対応した方式で自立航法の測位を行わせるように構成することもできる。また、歩行、走行、乗物での移動の各判定結果を、利用者の消費エネルギーを求めるために利用することも出来る。
【0100】
また、上記実施形態では、3軸加速度センサ16および3軸地磁気センサ15の出力に基づいて垂直方向、進行方向、横方向を求める例を示したが、例えば、装置が所定の向きで利用者に装着されることが既知となっている場合などは、この向きの情報を利用して垂直方向、進行方向、横方向を求めるようにしても良い。
【0101】
また、上記実施形態では、歩行又は走行が行われているかを判別する垂直方向の加速度ピークの閾値“1G+α"、歩行と走行を判別する加速度変動周期の第1範囲(2.3Hz以下)と第2範囲(2.6Hz以上)、加速度変動周期が中間にある場合に歩行と走行を判別する加速度ピークの閾値“2G”の各値は一例を示したものであり、これらの値に限られるものではない。
【0102】
その他、実施形態に示した細部構成および細部方法は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 ナビゲーション装置
10 CPU
11 RAM
12 ROM
13 GPS受信アンテナ
14 GPS受信部
15 3軸地磁気センサ
16 3軸加速度センサ
18 表示部
19 電源
20 自立航法制御処理部
21 自立航法データ補正処理部
22 移動履歴データ記憶部
23 地図データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の移動状態を判別する移動状態判別装置であって、
加速度を検出する加速度センサと、
この加速度センサの出力から進行方向に対して横方向の成分で且つ所定の周波数成分の加速度を抽出する特定加速度抽出手段と、
前記特定加速度抽出手段により抽出された加速度の大きさに基づいてレールに沿って走る乗物により移動している状態か、道路上を走る乗物により移動している状態かを判別する状態判別手段と、
を備えていることを特徴とする移動状態判別装置。
【請求項2】
前記加速度センサの出力のうち常に重力加速度が付加されている方向を垂直方向とし、発進と停止を表わす加速度の検出によりこの加速度方向を進行方向とし、前記垂直方向と前記進行方向とに直交する方向を前記横方向として設定する方向設定手段を備え、
前記特定加速度抽出手段は、
前記方向設定手段の設定に基づいて前記横方向の成分の加速度の抽出を行うことを特徴とする請求項1記載の移動状態判別装置。
【請求項3】
前記加速度センサの出力のうち垂直方向成分で低周波成分の加速度の大きさと第1閾値とを比較した結果に基づいて移動中か停止中かを判別する移動判別手段を備え、
前記状態判別手段は、
前記移動判別手段により移動中と判別された際に、前記特定加速度抽出手段により抽出された加速度の大きさと第2閾値とを比較して、この比較結果に基づいて前記状態の判別を行うことを特徴とする請求項1記載の移動状態判別装置。
【請求項4】
前記所定の周波数成分は0.5Hz〜10Hzの範囲に含まれる周波数の成分であることを特徴とする請求項1記載の移動状態判別装置。
【請求項5】
加速度を検出する加速度センサと、
この加速度センサの出力のうち垂直方向成分の加速度の変動周期と水平方向成分の加速度の変動周期とを比較する周期比較手段と、
この周期比較手段による比較の結果に基づき、胴体に装着または保持されて前記利用者が歩き又は走りの状態にあるか、手に持たれて前記利用者が歩き又は走りの状態にあるかを判別する状態判別手段と、
を備えていることを特徴とする移動状態判別装置。
【請求項6】
前記周期比較手段は、
前記垂直方向成分の加速度の変動周期と、前記水平方向成分として進行方向成分の加速度の変動周期とを比較する
ことを特徴とする請求項5記載の移動状態判別装置。
【請求項7】
前記加速度センサの出力に基づき垂直方向成分の加速度に重力加速度を所定量超える大きさ以上の加速度が含まれているか判別する加速度判別手段を備え、
前記周期比較手段は、前記加速度判別手段により重力加速度を所定量超える大きさ以上の加速度が含まれていると判別された場合に、前記変動周期の比較を行う
ことを特徴とする請求項5記載の移動状態判別装置。
【請求項8】
前記加速度センサの出力の変化パターンに基づいて進行方向を設定する進行方向設定手段と、
を備え、
前記周期比較手段は、
前記進行方向設定手段の進行方向の設定に基づき前記進行方向成分の加速度を抽出して前記変動周期の比較を行うことを特徴とする請求項6記載の移動状態判別装置。
【請求項9】
前記状態判別手段により前記利用者が歩き又は走りの状態にあると判別された場合にどちらの状態か判別する歩行走行判別手段を備え、
前記歩行走行判別手段は、
前記加速度の変動周期が、歩行を示す第1範囲にあるか、走行を示す第2範囲にあるか、前記第1範囲と前記第2範囲との中間範囲にあるか判別する周期判別手段と、
前記加速度の変動周期が前記中間範囲にある場合に前記垂直方向成分の加速度のピークが歩行と走行とを識別する閾値を超えているか比較する加速度ピーク比較手段と、
を有し、
前記周期判別手段により前記加速度の変動周期が第1範囲にあれば歩きの状態、第2範囲にあれば走りの状態と判別し、さらに、中間範囲にあれば前記加速度ピーク比較手段の比較結果に基づき歩きの状態または走りの状態を判別する
ことを特徴とする請求項5記載の移動状態判別装置。
【請求項10】
加速度センサを用いて利用者の移動状態を判別する移動状態判別方法であって、
前記加速度センサの出力から進行方向に対して横方向の成分で且つ所定の周波数成分の加速度を抽出する特定加速度抽出ステップと、
前記特定加速度抽出ステップにより抽出された加速度の大きさに基づいてレールに沿って走る乗物により移動している状態か、道路上を走る乗物により移動している状態かを判別する状態判別ステップと、
を含むことを特徴とする移動状態判別方法。
【請求項11】
加速度センサを用いて利用者の移動状態を判別する移動状態判別方法であって、
前記加速度センサの出力のうち垂直方向成分の加速度の変動周期と水平方向成分の加速度の変動周期とを比較する周期比較ステップと、
この周期比較ステップによる比較の結果、両方の変動周期に所定量以上の差がない場合に、前記利用者の胴体に装着または保持されて前記利用者が歩き又は走りの状態にあり、所定量以上の差がある場合に異常な状態にあると判別する状態判別ステップと、
を含むことを特徴とする移動状態判別方法。
【請求項12】
加速度センサの出力が供給されるコンピュータに利用者の移動状態を判別させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記加速度センサの出力から進行方向に対して横方向の成分で且つ所定の周波数成分の加速度を抽出する特定加速度抽出機能と、
前記特定加速度抽出機能により抽出された加速度の大きさに基づいてレールに沿って走る乗物により移動している状態か、道路上を走る乗物により移動している状態かを判別する状態判別機能と、
を実現させるプログラム。
【請求項13】
加速度センサの出力が供給されるコンピュータに利用者の移動状態を判別させるためのプログラムであって、
前記加速度センサの出力のうち垂直方向成分の加速度の変動周期と水平方向成分の加速度の変動周期とを比較する周期比較機能と、
この周期比較機能による比較の結果、両方の変動周期に所定量以上の差がない場合に、前記利用者の胴体に装着または保持されて前記利用者が歩き又は走りの状態にあり、所定量以上の差がある場合に異常な状態にあると判別する状態判別機能と、
を実現させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−257374(P2011−257374A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249322(P2010−249322)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】