移動車両用遮音装置
【課題】本発明は、構成が簡単で遮音効果が高く、在来線区間の車両限界範囲内に収まり、遮音板と集電装置との間に絶縁離隔を十分に確保することができる移動車両用遮音装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、遮音手段(1L,1R,2L,2R)を、屋根3上の機器(12)に対向する車体10の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとで構成し、第1の遮音体1Lを第2の遮音体1Rに対して移動車両の進行方向に対して後方に位置させたのである。
【解決手段】本発明は、遮音手段(1L,1R,2L,2R)を、屋根3上の機器(12)に対向する車体10の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとで構成し、第1の遮音体1Lを第2の遮音体1Rに対して移動車両の進行方向に対して後方に位置させたのである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動車両用遮音装置に係り、特に、車体の屋根に設置した機器から走行時に発生する騒音を遮断する移動車両用遮音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動車両、特に、高速で走行する新幹線のさらなる高速化に対するニーズは年々高まっており、時速300kmを越える速度での営業運転が実現しつつある。
【0003】
しかしながら、鉄道の高速化に伴い車体の屋根上に設置した機器、特に、集電装置の周辺から走行時に発生する騒音の増加が懸念されており、その対策が急務となっている。
【0004】
一方、ミニ新幹線のように、在来線区間も走行する新幹線においては、車両限界範囲が狭いので、車体幅や車体高さに関する制限が新幹線区間に比べて厳しく、屋根上に設置された機器から発生する騒音を遮音(遮蔽)するための装置の小型化も望まれている。
【0005】
このように、移動車両の車体の屋根上に設置される集電装置等の機器に基づく騒音の低騒音化や遮音を図るために、例えば特許文献1に記載のような、遮音装置が既に提案されている。
【0006】
即ち、特許文献1に記載の遮音装置は、集電装置の周りを防風カバーで覆い、この防風カバーの外側に遮音用の遮音壁を設けることを提案している。
【0007】
【特許文献1】特開平8−98306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の遮音装置は、防風カバーを設けることで、車体の断面積が増加し、その結果、走行抵抗が増大すると共に、トンネル突入時の圧縮波によるトンネル微気圧波が増大する問題が生じる。
【0009】
また、集電装置との間で絶縁距離を確保するために、防風カバーの集電装置に接近する部分を切欠いている。その結果、この切欠き部において車両走行中に圧力変動が生じて騒音を発生する問題が生じる。
【0010】
上記問題を踏まえると、車体断面積を増加させないために、遮音板(遮音壁)のみを設置して集電装置やその他の屋根上に設置される機器の騒音の遮音効果を得ることが望ましい。さらに、在来線区間での車両限界範囲を考慮すると、遮音板の高さは従来の遮音板に比べて低くしなければならない。また、遮音板と集電装置のホーンや碍子との間での地絡を防止するために、遮音板と集電装置と間にも絶縁離隔を確保することが望ましい。
【0011】
本発明の目的は、構成が簡単で遮音効果が高く、在来線区間の車両限界範囲内に収まり、遮音板と集電装置との間に絶縁離隔を十分に確保することができる移動車両用遮音装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、遮音手段を、屋根上の機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体とで構成し、第1の遮音体を第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置させたのである。
【0013】
走行時に騒音源となる屋根上に設置された機器を有する移動車両においては、車両が移動することによって、機器周辺部の騒音源が、車両進行方向に対して相対的に後方へ移動する現象が確認されている。このため、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合には、車両進行方向に対して左側の遮音体を、右側の遮音体に対して車両進行方向の後方へ変位させることで、より効率良く遮音することができるのである。また、車両進行方向に対して左側や右側に位置する遮音体の設置位置を、車両進行方向に沿う方向へ変位させて互い違いの配置とすることで、両遮音体間での共鳴現象を防止し、屋根上に設置した機器から発生する騒音の遮音効果を高めることができる。
【0014】
さらに、車両進行方向に対して左側や右側の遮音体の設置位置を、車両進行方向に沿う方向へ変位させて互い違いの配置とすることで、絶縁距離を確保する機器に対しては遮音体に切欠きを設けることなく絶縁離隔を確保することができる。
【0015】
尚、両側の遮音板を互い違いにせずに車両進行方向に対して同一の位置に設置した場合には、両遮音板間において流路面積の減少により流速の増加が起きる。流体が屋根上の機器の周囲を通過することにより生じる空力騒音は、流速に比例して増加するため、流速の増加は空力騒音の増加を招くこととなる。しかし上記本発明によれば、遮音体が左右の同一位置に設置されていないことから、左右の遮音体間での流速の増加が起こらず、屋根上の機器からの空力騒音の増加を防ぐことができる。
【0016】
また、本発明は、上記構成の移動車両用遮音装置において、移動車両の進行方向に対して後方に位置する第1の遮音体の高さを、第2の遮音体に対して低くしたのである。
【0017】
このように構成することで、左右の遮音体間での共鳴や反響現象を防ぐことができ、屋根上の機器周辺部からの騒音の増加や遮音装置自身からの騒音の発生を遮音することができる。
【0018】
さらにまた、本発明は、上記構成の移動車両用遮音装置において、第1の遮音体に連なって移動車両の進行方向前方に第1の遮音体よりも高さが低い第1の副遮音体を設け、第2の遮音体に連なって移動車両の進行方向後方に第2の遮音体よりも高さが低い第2の副遮音体を設けたのである。
【0019】
このように構成することで、絶縁離隔領域に干渉しない程度に車体屋根から略鉛直方向に伸びる第1及び第2の副遮音体を設けることができるので、第1及び第2の遮音体を含めて全遮音体の面積を増加させることができ、遮音効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、構成が簡単で遮音効果が高く、在来線区間の車両限界範囲内に収まり、遮音板と集電装置との間に絶縁離隔を十分に確保することができる移動車両用遮音装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明による移動車両用遮音装置の第1の実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0022】
図2に示すように、軌道11上を走行する移動車両は複数の車両10を連結して編成をなしており、複数の車両10のうち特定の車両の屋根に、屋根上設置機器の一つである集電装置12を設置している。
【0023】
この集電装置12は、大きくは図1に示すように、車両10の屋根3に固定した碍子6と、この碍子6に支持された台枠4と、この台枠4に固定された集電装置ヒンジ部8と、この集電装置ヒンジ部8に軸支された集電装置アーム7と、この集電装置アーム7の先端部に軸支された集電用舟体5とで構成されている。
【0024】
そして、車体10の屋根3の幅方向の一側、具体的には車両進行方向(矢印A)に対して後方となる碍子6に対向する部分に、第1の遮音体1Lを設け、また、車両進行方向(A矢印)に対して前方となる碍子6に対向する部分に、第2の遮音体1Rを設けて謝恩装置を形成している。これら第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとは、車両進行方向に沿って山形に形成された板体であり、その頂上部までの高さ寸法HL及びHRは、ほぼ碍子6の高さ寸法と同等の高さ寸法を有している。そして、これら第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとは、側面から見て、車両進行方向に重複しない、云い代えれば車両進行方向の非重複位置に設置されている。
【0025】
このように第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとを側面から見て屋根3の車両進行方向の非重複位置に設置することで、第1の遮音体1Lは第2の遮音体1Rに対して車両進行方向の後方に位置することになる。
【0026】
上記構成の遮音装置を設置した車両10を矢印A方向に走行させると、矢印Aとは逆向きに走行風が流れる。この走行風により、屋根上機器の一つである集電装置12の舟体5,碍子6,集電装置アーム7などから騒音が発生するが、本構成ではこれら騒音の遮音を狙っている。
【0027】
本実施の形態によれば、上記第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの互い違いの設置により、集電用舟体5,集電装置碍子6,集電装置アーム7からの騒音を効率良く遮音することができる。その理由は、車両10が移動することによって、集電装置12の騒音源が、車両進行方向に対して相対的に後方へ移動するので、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合には、車両進行方向に対して左側に設置した第1の遮音体1Lを、右側に設置した第2の遮音体1Rに対して車両進行方向の後方へ変位させることで、遮音することができるのである。
【0028】
また、ほぼ碍子6の高さ寸法の山形の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rを互い違いに設置したことにより、集電用舟体5に対して第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rは山形の裾近傍が対向することになるので、切欠きを設けることなく十分に絶縁距離を確保することができる。
【0029】
さらに、ほぼ碍子6の高さ寸法の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rを互い違いに設置することで、左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1R間での流速の増加が起こらず、集電装置12からの空力騒音の増加を防ぐことができると共に、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rを在来線の車両限界範囲内に納めることができる。
【0030】
また、左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rは、ほぼ碍子6の高さ寸法のために、走行風に曝される部分が相対的に小さくなり、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rから発生する空力騒音を小さく抑えることができる。
【0031】
以上より本実施の形態によれば、構成が単純な第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの設置により、遮音効果を高めることができると共に、在来線区間の車両限界範囲内における最大高さの遮音板を用いても絶縁距離を確保することができ、かつ遮音効果を得ることができる。
【0032】
尚、山形の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの前縁及び後縁の立ち上がり傾斜角度は空力騒音を抑える意味で10〜45度が望ましい。
【0033】
次に、本発明による移動車両用遮音装置の第2の実施の形態を図3及び図4に基づいて説明する。尚、図1及び図2と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0034】
本実施の形態において、第1の実施の形態と異なる構成は、山形の第1の遮音体1Lの高さ寸法HLを第2の遮音体1Rの高さ寸法HRよりも低くした点と、これら第1の遮音体1L及び第2の遮音体1Rの高さ寸法HL,HRよりも高さ寸法が半分以下と低い第1の副遮音体2Lと第2の副遮音体2Rを設けた点である。これら第1の副遮音体2Lと第2の副遮音体2Rとは、第1の副遮音体2Lにおいては第1の遮音体1Lの車両進行方向の前方側に連ねて第2の遮音体1Rと対向するように形成し、第2の副遮音体2Rにおいては第2の遮音体1Rの車両進行方向の後方側に連ねて第1の遮音体1Lと対向するように形成したものである。
【0035】
このように構成することで、上記実施の形態と同じ効果を奏する外、集電装置からの騒音を広範囲にわたって遮音することができる。
【0036】
図5は、本発明による移動車両用遮音装置の第3の実施の形態を示すもので、図1〜図4と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0037】
本実施の形態においては、第2の実施の形態に対し、第1の遮音体1Lと第1の副遮音体2L及び第2の遮音体1Rと第2の副遮音体2Rとの車両進行方向に対する設置位置を逆にしたもので、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して右側にいる場合を考慮して遮音するようにしたのである。また、碍子6の設置位置が車両進行方向に対して右側の第2の遮音体1Rと第2の副遮音体2R側に寄せて設置しなければならない場合に遮音効果を高めることができる。
【0038】
図6は、本発明による移動車両用遮音装置の第4の実施の形態を示すもので、図1〜図5と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0039】
本実施の形態においては、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して右側にいる場合に、車両進行方向の右側に設けた第2の遮音体1Rを左側に設けた第1の遮音体1LよりもH寸法高くなるように形成したのである。
【0040】
このように構成することで、第1の遮音体1Rで反射した音波が左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの間に留まることを防ぐことができ、その結果、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rによる遮音効果の低下や、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの間での共鳴現象を防ぐことができる。勿論、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合には、第1の遮音体1Rを左側に設けた第2の遮音体1LよりもH寸法低くする必要がある。
【0041】
図7は、本発明による移動車両用遮音装置の第5の実施の形態を示すもので、図1〜図6と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0042】
本実施の形態では、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合に、車両進行方向に対して後方で左側に設置された第1の遮音体1Lの車両進行方向の長さを車両進行方向に対して前方で右側に設置された第2の遮音体1Rに比べて長くし、側面から見て第1の遮音体1Lの車両進行方向端部が第2の遮音体1Rに重複するように設置したのである。
【0043】
本実施の形態によれば、第2の遮音体1Rの後縁位置で流れの剥離により生じる剥離渦による空力騒音を、側面から見て重なった第1の遮音体1Lによって遮音することができ、遮音効果を高めることができるのである。
【0044】
勿論、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して右側にいる場合には、第1の遮音体1Lと第1の遮音体1Rの設置位置を逆にして右側の第2の遮音体1Rの長さを長く形成すれば良い。
【0045】
図8は、本発明による移動車両用遮音装置の第6の実施の形態を示すもので、図1〜図7と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0046】
本実施の形態では、左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの上端部に互いに離反する方向に傾斜する傾斜部1LT,1RTを形成したのである。
【0047】
本実施の形態によれば、上端部に非平行部分を形成することで、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとの間で生じる音響共鳴や反響現象を抑制することができ、結果として集電装置12周辺部からの騒音を低減することが可能となる。尚、2点差線で示すように、傾斜部1LT,1RTを互いに接近する方向に傾斜させてもよい。
【0048】
次に、本発明による移動車両用遮音装置の遮音効果を確認するために、低騒音風洞において縮尺模型を用いた騒音測定試験を実施した。この風洞試験では、集電装置12,第1の遮音体1L,第2の遮音体1R,第1の副遮音体2L,第2の副遮音体2R,屋根3の模型を製作し、それらを風洞吐出口からの気流中に設置して空力騒音の測定を行った。
【0049】
試験対象としたのは、実施例2(図3,図4)の構成(A)と、図9に示す従来技術に見られた遮音板に切欠を設けた構成(B)と集電装置のみの構成(C)の3種類である。
【0050】
図9の上記(B)の構成において、図1〜図8と同符号は同一構成部材を示す。ただ、図9において、第1の遮音体が長手方向に二つの第1の遮音体1L1,1L2と二つの第2の遮音体1R1,1R2を有し、その間に凹部Gを形成して集電装置12の碍子6やホーンとの間の絶縁離隔を確保する構成をしている。
【0051】
図10は上記構成(C)を示すもので、集電装置の周りに遮音手段は一切設けていない。したがって、図10に示す構成(C)が、遮音装置の効果を評価するための基準騒音を得るための構成となる。
【0052】
尚、本風洞試験においては、集電用舟体5が架線に摺動している状態と架線から離して下げた状態のそれぞれについて評価し、風洞の流れの方向に対して上流側や下流側にマイクを移動させて騒音測定を行った。
【0053】
図11は、集電用舟体5が架線に摺動している状態を想定した騒音測定結果を騒音O.A値で示した。ここで、O.A.値のAは、A特性補正を表すものである。測定結果を見ると、構成(C)を基準とした場合、構成(A)は構成(B)に比べてかなりの遮音効果が得られていることが分かる。
【0054】
図12は、騒音測定結果の1/3オクターブバンド解析結果を示す。
【0055】
この図12により、構成(B)は構成(C)に比べ200Hz付近に見られるピーク音を遮音できているものの、幅広い帯域において騒音が増加しており、騒音O.A値としては構成(C)に比べて大きくなってしまっている。一方、構成(A)は構成(B)に見られた騒音の増加が見られず、騒音O.A.値としても構成(C)時に比べて低くなっており、遮音を図ることができていることが分かった。
【0056】
図13は風洞内における騒音測定位置を、風洞の流れの方向に対して上流側から下流側に移動させて測定した場合の騒音測定結果を示す。ここでも図11と同様に、基準構成である構成(C)における騒音O.A.値との差を表記した。この図13より、構成(A)は騒音測定位置を舟体に対して上流側から下流側に移動させて測定を行っても、構成(C)時に比べて騒音O.A.値が低く、遮音効果が得られていることが分かる.
次に、集電用舟体5を下降させて架線から離した状態で騒音を測定した結果について説明する。図14は、騒音測定結果を騒音O.A値で示したもので、車両進行方向を反対向き(以下、反なびき方向と称する)とした場合騒音測定結果の騒音O.A.値を示す。図11と同様に、構成(C)の騒音O.A.値を基準値とし、この基準値に対する構成(A)及び構成(B)の騒音O.A.値の差をグラフに示した。図14により、集電用舟体5を下げて反なびき方向とした場合においても、構成(A)は構成(C)の時に比べて騒音が低減しており、遮音効果が得られていることが分かる。
【0057】
図15に集電用舟体5を下げた状態で反なびき方向とした場合の騒音測定結果の1/3オクターブバンド解析の結果を示す。この図15の解析結果から構成(A)は、構成(C)時に比べ630Hz以上の周波数帯域の騒音が低減できており、さらに、200Hzに見られるピーク音も低減することができているため遮音効果が得られている。一方、構成(B)は、630Hz以上の周波数帯域の騒音を低減できているものの、その他の周波数帯域での騒音の増加が顕著であるためトータルとしては十分な遮音効果が得られていない。
【0058】
図16に集電用舟体5を下げた状態で反なびき方向とした場合に、風洞の流れの方向に対して騒音測定用マイクを上流側から下流側に移動させて測定した場合の騒音測定結果を示す。ここでも図11と同様に、基準となる構成(C)時における騒音O.A.値を基準値とし、この基準値に対する構成(A)及び構成(B)の騒音O.A.値の差をグラフに示した。結果は、構成(A)について騒音測定位置を上流側から下流側に移動させて測定を行っても、構成(C)に比べて騒音O.A.値が低く、遮音効果が得られていることが分かる。また、図13に比べると騒音低減効果及び遮音効果がともに大きいことも分かる。これに対し、構成(B)は、構成(C)に比べて騒音O.A.値が高く、十分な遮音効果が得られていないことが分かる。
【0059】
以上説明したように本発明によれば、特に、車体の屋根に設置した機器から走行時に発生する騒音を遮断する効果が顕著であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による移動車両用遮音装置の第1の実施の形態を示す集電装置近傍の斜視図。
【図2】本発明が適用される移動車両を示す側面図。
【図3】本発明による移動車両用遮音装置の第2の実施の形態を示す図1相当図。
【図4】図3の側面図。
【図5】本発明による移動車両用遮音装置の第3の実施の形態を示す図1相当図。
【図6】本発明による移動車両用遮音装置の第4の実施の形態を示す集電装置近傍の正面図。
【図7】本発明による移動車両用遮音装置の第5の実施の形態を示す図1相当図。
【図8】本発明による移動車両用遮音装置の第6の実施の形態を示す図6相当図。
【図9】集電装置の側部に設置した二つの遮音体の間に凹部を形成した従来技術に相当する図1相当図。
【図10】集電装置の側部に遮音体を設置しない基準構成となる図1相当図。
【図11】集電用舟体が架線に摺動している状態で行った風洞試験結果を騒音O.A値の差異で表したグラフ。
【図12】集電用舟体が架線に摺動している状態で行った風洞試験結果の1/3オクターブバンド解析結果のグラフ。
【図13】集電用舟体が架線に摺動している状態で行った風洞試験で騒音測位置を上流側から下流側に変化させて行なった騒音測定結果を基準値からの変化量で表したグラフ。
【図14】集電用舟体を下降させて架線から離した状態で行った風洞試験結果を騒音O.A値の差異で表したグラフ。
【図15】集電用舟体を下降させて架線から離した状態で行った風洞試験結果の1/3オクターブバンド解析結果のグラフ。
【図16】集電用舟体を下降させて架線から離した状態で行った風洞試験で騒音測位置を上流側から下流側に変化させて行なった騒音測定結果を基準値からの変化量で表したグラフ。
【符号の説明】
【0061】
1L…第1の遮音体、1R…第2の遮音体、1LT,1RT…傾斜部、2L…第1の副遮音体、2R…第2の副遮音体、3…屋根、4…台枠、5…集電用舟体、6…碍子、7…集電装置アーム、8…集電装置ヒンジ部、10…車両、11…軌道、12…集電装置、A…車両進行方向、H…寸法、HL,HR…高さ寸法、G…凹部。
【技術分野】
【0001】
本発明は移動車両用遮音装置に係り、特に、車体の屋根に設置した機器から走行時に発生する騒音を遮断する移動車両用遮音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動車両、特に、高速で走行する新幹線のさらなる高速化に対するニーズは年々高まっており、時速300kmを越える速度での営業運転が実現しつつある。
【0003】
しかしながら、鉄道の高速化に伴い車体の屋根上に設置した機器、特に、集電装置の周辺から走行時に発生する騒音の増加が懸念されており、その対策が急務となっている。
【0004】
一方、ミニ新幹線のように、在来線区間も走行する新幹線においては、車両限界範囲が狭いので、車体幅や車体高さに関する制限が新幹線区間に比べて厳しく、屋根上に設置された機器から発生する騒音を遮音(遮蔽)するための装置の小型化も望まれている。
【0005】
このように、移動車両の車体の屋根上に設置される集電装置等の機器に基づく騒音の低騒音化や遮音を図るために、例えば特許文献1に記載のような、遮音装置が既に提案されている。
【0006】
即ち、特許文献1に記載の遮音装置は、集電装置の周りを防風カバーで覆い、この防風カバーの外側に遮音用の遮音壁を設けることを提案している。
【0007】
【特許文献1】特開平8−98306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の遮音装置は、防風カバーを設けることで、車体の断面積が増加し、その結果、走行抵抗が増大すると共に、トンネル突入時の圧縮波によるトンネル微気圧波が増大する問題が生じる。
【0009】
また、集電装置との間で絶縁距離を確保するために、防風カバーの集電装置に接近する部分を切欠いている。その結果、この切欠き部において車両走行中に圧力変動が生じて騒音を発生する問題が生じる。
【0010】
上記問題を踏まえると、車体断面積を増加させないために、遮音板(遮音壁)のみを設置して集電装置やその他の屋根上に設置される機器の騒音の遮音効果を得ることが望ましい。さらに、在来線区間での車両限界範囲を考慮すると、遮音板の高さは従来の遮音板に比べて低くしなければならない。また、遮音板と集電装置のホーンや碍子との間での地絡を防止するために、遮音板と集電装置と間にも絶縁離隔を確保することが望ましい。
【0011】
本発明の目的は、構成が簡単で遮音効果が高く、在来線区間の車両限界範囲内に収まり、遮音板と集電装置との間に絶縁離隔を十分に確保することができる移動車両用遮音装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、遮音手段を、屋根上の機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体とで構成し、第1の遮音体を第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置させたのである。
【0013】
走行時に騒音源となる屋根上に設置された機器を有する移動車両においては、車両が移動することによって、機器周辺部の騒音源が、車両進行方向に対して相対的に後方へ移動する現象が確認されている。このため、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合には、車両進行方向に対して左側の遮音体を、右側の遮音体に対して車両進行方向の後方へ変位させることで、より効率良く遮音することができるのである。また、車両進行方向に対して左側や右側に位置する遮音体の設置位置を、車両進行方向に沿う方向へ変位させて互い違いの配置とすることで、両遮音体間での共鳴現象を防止し、屋根上に設置した機器から発生する騒音の遮音効果を高めることができる。
【0014】
さらに、車両進行方向に対して左側や右側の遮音体の設置位置を、車両進行方向に沿う方向へ変位させて互い違いの配置とすることで、絶縁距離を確保する機器に対しては遮音体に切欠きを設けることなく絶縁離隔を確保することができる。
【0015】
尚、両側の遮音板を互い違いにせずに車両進行方向に対して同一の位置に設置した場合には、両遮音板間において流路面積の減少により流速の増加が起きる。流体が屋根上の機器の周囲を通過することにより生じる空力騒音は、流速に比例して増加するため、流速の増加は空力騒音の増加を招くこととなる。しかし上記本発明によれば、遮音体が左右の同一位置に設置されていないことから、左右の遮音体間での流速の増加が起こらず、屋根上の機器からの空力騒音の増加を防ぐことができる。
【0016】
また、本発明は、上記構成の移動車両用遮音装置において、移動車両の進行方向に対して後方に位置する第1の遮音体の高さを、第2の遮音体に対して低くしたのである。
【0017】
このように構成することで、左右の遮音体間での共鳴や反響現象を防ぐことができ、屋根上の機器周辺部からの騒音の増加や遮音装置自身からの騒音の発生を遮音することができる。
【0018】
さらにまた、本発明は、上記構成の移動車両用遮音装置において、第1の遮音体に連なって移動車両の進行方向前方に第1の遮音体よりも高さが低い第1の副遮音体を設け、第2の遮音体に連なって移動車両の進行方向後方に第2の遮音体よりも高さが低い第2の副遮音体を設けたのである。
【0019】
このように構成することで、絶縁離隔領域に干渉しない程度に車体屋根から略鉛直方向に伸びる第1及び第2の副遮音体を設けることができるので、第1及び第2の遮音体を含めて全遮音体の面積を増加させることができ、遮音効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、構成が簡単で遮音効果が高く、在来線区間の車両限界範囲内に収まり、遮音板と集電装置との間に絶縁離隔を十分に確保することができる移動車両用遮音装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明による移動車両用遮音装置の第1の実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0022】
図2に示すように、軌道11上を走行する移動車両は複数の車両10を連結して編成をなしており、複数の車両10のうち特定の車両の屋根に、屋根上設置機器の一つである集電装置12を設置している。
【0023】
この集電装置12は、大きくは図1に示すように、車両10の屋根3に固定した碍子6と、この碍子6に支持された台枠4と、この台枠4に固定された集電装置ヒンジ部8と、この集電装置ヒンジ部8に軸支された集電装置アーム7と、この集電装置アーム7の先端部に軸支された集電用舟体5とで構成されている。
【0024】
そして、車体10の屋根3の幅方向の一側、具体的には車両進行方向(矢印A)に対して後方となる碍子6に対向する部分に、第1の遮音体1Lを設け、また、車両進行方向(A矢印)に対して前方となる碍子6に対向する部分に、第2の遮音体1Rを設けて謝恩装置を形成している。これら第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとは、車両進行方向に沿って山形に形成された板体であり、その頂上部までの高さ寸法HL及びHRは、ほぼ碍子6の高さ寸法と同等の高さ寸法を有している。そして、これら第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとは、側面から見て、車両進行方向に重複しない、云い代えれば車両進行方向の非重複位置に設置されている。
【0025】
このように第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとを側面から見て屋根3の車両進行方向の非重複位置に設置することで、第1の遮音体1Lは第2の遮音体1Rに対して車両進行方向の後方に位置することになる。
【0026】
上記構成の遮音装置を設置した車両10を矢印A方向に走行させると、矢印Aとは逆向きに走行風が流れる。この走行風により、屋根上機器の一つである集電装置12の舟体5,碍子6,集電装置アーム7などから騒音が発生するが、本構成ではこれら騒音の遮音を狙っている。
【0027】
本実施の形態によれば、上記第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの互い違いの設置により、集電用舟体5,集電装置碍子6,集電装置アーム7からの騒音を効率良く遮音することができる。その理由は、車両10が移動することによって、集電装置12の騒音源が、車両進行方向に対して相対的に後方へ移動するので、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合には、車両進行方向に対して左側に設置した第1の遮音体1Lを、右側に設置した第2の遮音体1Rに対して車両進行方向の後方へ変位させることで、遮音することができるのである。
【0028】
また、ほぼ碍子6の高さ寸法の山形の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rを互い違いに設置したことにより、集電用舟体5に対して第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rは山形の裾近傍が対向することになるので、切欠きを設けることなく十分に絶縁距離を確保することができる。
【0029】
さらに、ほぼ碍子6の高さ寸法の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rを互い違いに設置することで、左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1R間での流速の増加が起こらず、集電装置12からの空力騒音の増加を防ぐことができると共に、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rを在来線の車両限界範囲内に納めることができる。
【0030】
また、左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rは、ほぼ碍子6の高さ寸法のために、走行風に曝される部分が相対的に小さくなり、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rから発生する空力騒音を小さく抑えることができる。
【0031】
以上より本実施の形態によれば、構成が単純な第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの設置により、遮音効果を高めることができると共に、在来線区間の車両限界範囲内における最大高さの遮音板を用いても絶縁距離を確保することができ、かつ遮音効果を得ることができる。
【0032】
尚、山形の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの前縁及び後縁の立ち上がり傾斜角度は空力騒音を抑える意味で10〜45度が望ましい。
【0033】
次に、本発明による移動車両用遮音装置の第2の実施の形態を図3及び図4に基づいて説明する。尚、図1及び図2と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0034】
本実施の形態において、第1の実施の形態と異なる構成は、山形の第1の遮音体1Lの高さ寸法HLを第2の遮音体1Rの高さ寸法HRよりも低くした点と、これら第1の遮音体1L及び第2の遮音体1Rの高さ寸法HL,HRよりも高さ寸法が半分以下と低い第1の副遮音体2Lと第2の副遮音体2Rを設けた点である。これら第1の副遮音体2Lと第2の副遮音体2Rとは、第1の副遮音体2Lにおいては第1の遮音体1Lの車両進行方向の前方側に連ねて第2の遮音体1Rと対向するように形成し、第2の副遮音体2Rにおいては第2の遮音体1Rの車両進行方向の後方側に連ねて第1の遮音体1Lと対向するように形成したものである。
【0035】
このように構成することで、上記実施の形態と同じ効果を奏する外、集電装置からの騒音を広範囲にわたって遮音することができる。
【0036】
図5は、本発明による移動車両用遮音装置の第3の実施の形態を示すもので、図1〜図4と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0037】
本実施の形態においては、第2の実施の形態に対し、第1の遮音体1Lと第1の副遮音体2L及び第2の遮音体1Rと第2の副遮音体2Rとの車両進行方向に対する設置位置を逆にしたもので、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して右側にいる場合を考慮して遮音するようにしたのである。また、碍子6の設置位置が車両進行方向に対して右側の第2の遮音体1Rと第2の副遮音体2R側に寄せて設置しなければならない場合に遮音効果を高めることができる。
【0038】
図6は、本発明による移動車両用遮音装置の第4の実施の形態を示すもので、図1〜図5と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0039】
本実施の形態においては、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して右側にいる場合に、車両進行方向の右側に設けた第2の遮音体1Rを左側に設けた第1の遮音体1LよりもH寸法高くなるように形成したのである。
【0040】
このように構成することで、第1の遮音体1Rで反射した音波が左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの間に留まることを防ぐことができ、その結果、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rによる遮音効果の低下や、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの間での共鳴現象を防ぐことができる。勿論、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合には、第1の遮音体1Rを左側に設けた第2の遮音体1LよりもH寸法低くする必要がある。
【0041】
図7は、本発明による移動車両用遮音装置の第5の実施の形態を示すもので、図1〜図6と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0042】
本実施の形態では、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して左側にいる場合に、車両進行方向に対して後方で左側に設置された第1の遮音体1Lの車両進行方向の長さを車両進行方向に対して前方で右側に設置された第2の遮音体1Rに比べて長くし、側面から見て第1の遮音体1Lの車両進行方向端部が第2の遮音体1Rに重複するように設置したのである。
【0043】
本実施の形態によれば、第2の遮音体1Rの後縁位置で流れの剥離により生じる剥離渦による空力騒音を、側面から見て重なった第1の遮音体1Lによって遮音することができ、遮音効果を高めることができるのである。
【0044】
勿論、騒音の観測者(あるいは居住地域)が車両進行方向に対して右側にいる場合には、第1の遮音体1Lと第1の遮音体1Rの設置位置を逆にして右側の第2の遮音体1Rの長さを長く形成すれば良い。
【0045】
図8は、本発明による移動車両用遮音装置の第6の実施の形態を示すもので、図1〜図7と同一符号は同一構成部材を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0046】
本実施の形態では、左右の第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rの上端部に互いに離反する方向に傾斜する傾斜部1LT,1RTを形成したのである。
【0047】
本実施の形態によれば、上端部に非平行部分を形成することで、第1の遮音体1Lと第2の遮音体1Rとの間で生じる音響共鳴や反響現象を抑制することができ、結果として集電装置12周辺部からの騒音を低減することが可能となる。尚、2点差線で示すように、傾斜部1LT,1RTを互いに接近する方向に傾斜させてもよい。
【0048】
次に、本発明による移動車両用遮音装置の遮音効果を確認するために、低騒音風洞において縮尺模型を用いた騒音測定試験を実施した。この風洞試験では、集電装置12,第1の遮音体1L,第2の遮音体1R,第1の副遮音体2L,第2の副遮音体2R,屋根3の模型を製作し、それらを風洞吐出口からの気流中に設置して空力騒音の測定を行った。
【0049】
試験対象としたのは、実施例2(図3,図4)の構成(A)と、図9に示す従来技術に見られた遮音板に切欠を設けた構成(B)と集電装置のみの構成(C)の3種類である。
【0050】
図9の上記(B)の構成において、図1〜図8と同符号は同一構成部材を示す。ただ、図9において、第1の遮音体が長手方向に二つの第1の遮音体1L1,1L2と二つの第2の遮音体1R1,1R2を有し、その間に凹部Gを形成して集電装置12の碍子6やホーンとの間の絶縁離隔を確保する構成をしている。
【0051】
図10は上記構成(C)を示すもので、集電装置の周りに遮音手段は一切設けていない。したがって、図10に示す構成(C)が、遮音装置の効果を評価するための基準騒音を得るための構成となる。
【0052】
尚、本風洞試験においては、集電用舟体5が架線に摺動している状態と架線から離して下げた状態のそれぞれについて評価し、風洞の流れの方向に対して上流側や下流側にマイクを移動させて騒音測定を行った。
【0053】
図11は、集電用舟体5が架線に摺動している状態を想定した騒音測定結果を騒音O.A値で示した。ここで、O.A.値のAは、A特性補正を表すものである。測定結果を見ると、構成(C)を基準とした場合、構成(A)は構成(B)に比べてかなりの遮音効果が得られていることが分かる。
【0054】
図12は、騒音測定結果の1/3オクターブバンド解析結果を示す。
【0055】
この図12により、構成(B)は構成(C)に比べ200Hz付近に見られるピーク音を遮音できているものの、幅広い帯域において騒音が増加しており、騒音O.A値としては構成(C)に比べて大きくなってしまっている。一方、構成(A)は構成(B)に見られた騒音の増加が見られず、騒音O.A.値としても構成(C)時に比べて低くなっており、遮音を図ることができていることが分かった。
【0056】
図13は風洞内における騒音測定位置を、風洞の流れの方向に対して上流側から下流側に移動させて測定した場合の騒音測定結果を示す。ここでも図11と同様に、基準構成である構成(C)における騒音O.A.値との差を表記した。この図13より、構成(A)は騒音測定位置を舟体に対して上流側から下流側に移動させて測定を行っても、構成(C)時に比べて騒音O.A.値が低く、遮音効果が得られていることが分かる.
次に、集電用舟体5を下降させて架線から離した状態で騒音を測定した結果について説明する。図14は、騒音測定結果を騒音O.A値で示したもので、車両進行方向を反対向き(以下、反なびき方向と称する)とした場合騒音測定結果の騒音O.A.値を示す。図11と同様に、構成(C)の騒音O.A.値を基準値とし、この基準値に対する構成(A)及び構成(B)の騒音O.A.値の差をグラフに示した。図14により、集電用舟体5を下げて反なびき方向とした場合においても、構成(A)は構成(C)の時に比べて騒音が低減しており、遮音効果が得られていることが分かる。
【0057】
図15に集電用舟体5を下げた状態で反なびき方向とした場合の騒音測定結果の1/3オクターブバンド解析の結果を示す。この図15の解析結果から構成(A)は、構成(C)時に比べ630Hz以上の周波数帯域の騒音が低減できており、さらに、200Hzに見られるピーク音も低減することができているため遮音効果が得られている。一方、構成(B)は、630Hz以上の周波数帯域の騒音を低減できているものの、その他の周波数帯域での騒音の増加が顕著であるためトータルとしては十分な遮音効果が得られていない。
【0058】
図16に集電用舟体5を下げた状態で反なびき方向とした場合に、風洞の流れの方向に対して騒音測定用マイクを上流側から下流側に移動させて測定した場合の騒音測定結果を示す。ここでも図11と同様に、基準となる構成(C)時における騒音O.A.値を基準値とし、この基準値に対する構成(A)及び構成(B)の騒音O.A.値の差をグラフに示した。結果は、構成(A)について騒音測定位置を上流側から下流側に移動させて測定を行っても、構成(C)に比べて騒音O.A.値が低く、遮音効果が得られていることが分かる。また、図13に比べると騒音低減効果及び遮音効果がともに大きいことも分かる。これに対し、構成(B)は、構成(C)に比べて騒音O.A.値が高く、十分な遮音効果が得られていないことが分かる。
【0059】
以上説明したように本発明によれば、特に、車体の屋根に設置した機器から走行時に発生する騒音を遮断する効果が顕著であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による移動車両用遮音装置の第1の実施の形態を示す集電装置近傍の斜視図。
【図2】本発明が適用される移動車両を示す側面図。
【図3】本発明による移動車両用遮音装置の第2の実施の形態を示す図1相当図。
【図4】図3の側面図。
【図5】本発明による移動車両用遮音装置の第3の実施の形態を示す図1相当図。
【図6】本発明による移動車両用遮音装置の第4の実施の形態を示す集電装置近傍の正面図。
【図7】本発明による移動車両用遮音装置の第5の実施の形態を示す図1相当図。
【図8】本発明による移動車両用遮音装置の第6の実施の形態を示す図6相当図。
【図9】集電装置の側部に設置した二つの遮音体の間に凹部を形成した従来技術に相当する図1相当図。
【図10】集電装置の側部に遮音体を設置しない基準構成となる図1相当図。
【図11】集電用舟体が架線に摺動している状態で行った風洞試験結果を騒音O.A値の差異で表したグラフ。
【図12】集電用舟体が架線に摺動している状態で行った風洞試験結果の1/3オクターブバンド解析結果のグラフ。
【図13】集電用舟体が架線に摺動している状態で行った風洞試験で騒音測位置を上流側から下流側に変化させて行なった騒音測定結果を基準値からの変化量で表したグラフ。
【図14】集電用舟体を下降させて架線から離した状態で行った風洞試験結果を騒音O.A値の差異で表したグラフ。
【図15】集電用舟体を下降させて架線から離した状態で行った風洞試験結果の1/3オクターブバンド解析結果のグラフ。
【図16】集電用舟体を下降させて架線から離した状態で行った風洞試験で騒音測位置を上流側から下流側に変化させて行なった騒音測定結果を基準値からの変化量で表したグラフ。
【符号の説明】
【0061】
1L…第1の遮音体、1R…第2の遮音体、1LT,1RT…傾斜部、2L…第1の副遮音体、2R…第2の副遮音体、3…屋根、4…台枠、5…集電用舟体、6…碍子、7…集電装置アーム、8…集電装置ヒンジ部、10…車両、11…軌道、12…集電装置、A…車両進行方向、H…寸法、HL,HR…高さ寸法、G…凹部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体は第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置していることを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項2】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体は移動車の両進行方向の左側に位置すると共に、第2の遮音体は移動車両の進行方向の右側に位置し、第1の遮音体は第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置していることを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項3】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体は移動車の両進行方向の左側に位置し、第2の遮音体は移動車両の進行方向の右側に位置すると共に、第1の遮音体は第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置させ、かつ、第1の遮音体に連なって移動車両の進行方向前方に第1の遮音体よりも高さが低い第1の副遮音体を設け、第2の遮音体に連なって移動車両の進行方向後方に第2の遮音体よりも高さが低い第2の副遮音体を設けたことを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項4】
移動車両の進行方向に対して左側に位置する第1の遮音体は、移動車両の進行方向に対して右側に位置する第2の遮音体の高さよりも低く形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の移動車両用遮音装置。
【請求項5】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体と第2の遮音体とは、移動車両の進行方向に対して相対的に変位していることを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項6】
前記第1の遮音体と第2の遮音体とは、車体の屋根に側面から見て車両進行方向の非重複位置に設置されていることを特徴とする請求項5記載の移動車両用遮音装置。
【請求項7】
前記第1の遮音体と第2の遮音体とは、車両進行方向に対して後方に設置された第1の遮音体の車両進行方向の長さを車両進行方向に対して前方に設置された第2の遮音体に比べて長くし、側面から見て第1の遮音体の車両進行方向端部が第2の遮音体に重複するように設置されていることを特徴とする請求項5記載の移動車両用遮音装置。
【請求項8】
前記第1の遮音体と第2の遮音体とは、夫々傾斜部を形成していることを特徴とする請求項5記載の移動車両用遮音装置。
【請求項1】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体は第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置していることを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項2】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体は移動車の両進行方向の左側に位置すると共に、第2の遮音体は移動車両の進行方向の右側に位置し、第1の遮音体は第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置していることを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項3】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体は移動車の両進行方向の左側に位置し、第2の遮音体は移動車両の進行方向の右側に位置すると共に、第1の遮音体は第2の遮音体に対して移動車両の進行方向に対して後方に位置させ、かつ、第1の遮音体に連なって移動車両の進行方向前方に第1の遮音体よりも高さが低い第1の副遮音体を設け、第2の遮音体に連なって移動車両の進行方向後方に第2の遮音体よりも高さが低い第2の副遮音体を設けたことを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項4】
移動車両の進行方向に対して左側に位置する第1の遮音体は、移動車両の進行方向に対して右側に位置する第2の遮音体の高さよりも低く形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の移動車両用遮音装置。
【請求項5】
車体の屋根に設置された機器の周囲に遮音手段を設けた移動車両用遮音装置において、前記遮音手段は、前記機器に対向する車体の幅方向両側に、車体長手方向に沿って所定の長さで山形に立設された第1の遮音体と第2の遮音体からなり、第1の遮音体と第2の遮音体とは、移動車両の進行方向に対して相対的に変位していることを特徴とする移動車両用遮音装置。
【請求項6】
前記第1の遮音体と第2の遮音体とは、車体の屋根に側面から見て車両進行方向の非重複位置に設置されていることを特徴とする請求項5記載の移動車両用遮音装置。
【請求項7】
前記第1の遮音体と第2の遮音体とは、車両進行方向に対して後方に設置された第1の遮音体の車両進行方向の長さを車両進行方向に対して前方に設置された第2の遮音体に比べて長くし、側面から見て第1の遮音体の車両進行方向端部が第2の遮音体に重複するように設置されていることを特徴とする請求項5記載の移動車両用遮音装置。
【請求項8】
前記第1の遮音体と第2の遮音体とは、夫々傾斜部を形成していることを特徴とする請求項5記載の移動車両用遮音装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−179191(P2009−179191A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20534(P2008−20534)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
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